説明

心不全処置のためのGM−CSFの中和方法

本発明は、GM-CSFアンタゴニストを用いて、心不全に罹患している患者、または心不全のリスクがある患者を処置する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2008年4月7日出願の仮特許出願第61/043,026号の恩典を主張する。
【0002】
発明の背景
急性心筋梗塞などの虚血エピソードまたは心筋に対する他の障害後に生じる左室リモデリングは心不全をもたらす場合があり、これは世界の多くの地域で罹患率および死亡率の主要な原因である。
【0003】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は炎症促進性のサイトカインであって、冠動脈疾患を有する患者における血管形成の過程で役割を果たしている可能性がある(Seiler et al., Circulation 104:2012-2017, 2001(非特許文献1))。GM-CSFは、心臓で血管新生を誘導することが示唆されている(例えば、米国特許出願公開第20050233992号(特許文献1)を参照のこと)。しかし、心臓リモデリングにおけるGM-CSFの役割は明確ではない。うっ血性心不全を有している患者における身体的トレーニングは、運動耐容能を増大しながらGM-CSFの血清レベルを低下することができる(Adamopoulos, et al., Eur. Heart J. 22:791-797, 2001(非特許文献2))。さらに、左室リモデリングのラットモデルでは、GM-CSFを誘導するロムルチドを用いる処置は、障害領域の拡大を生じた(Maekawa et al., J. Amer. Coll. Cardiol. 44:1510-1520, 2004(非特許文献3))。また、GM-CSFレセプターが末期の心不全患者由来の心筋細胞上で検出されている(Postiglione et al., Eur. J. Heart Failure 8:564-570, 2006(非特許文献4))。
【0004】
本発明は、GM-CSFの中和が、虚血から生じる心臓の障害、例えば急性心筋梗塞を低減し、かつ心室機能を改善するという発見に部分的に基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第20050233992号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Seiler et al., Circulation 104:2012-2017, 2001
【非特許文献2】Adamopoulos, et al., Eur. Heart J. 22:791-797, 2001
【非特許文献3】Maekawa et al., J. Amer. Coll. Cardiol. 44:1510-1520, 2004
【非特許文献4】Postiglione et al., Eur. J. Heart Failure 8:564-570, 2006
【発明の概要】
【0007】
発明の要旨
本発明は、GM-CSFアンタゴニストを用いて、心不全を処置または予防し得るという発見に基づく。従って、本発明は、心不全を有するか、虚血エピソードに続く心不全のリスクがあるか、または心筋症を有する患者を処置する方法を提供し、この方法はこの患者に対して治療有効量のGM-CSFアンタゴニストを投与する工程を含む。いくつかの態様では、本発明は、急性心筋梗塞を有したことがあるために心不全を有する患者を処置するための方法を提供する。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、急性心筋梗塞の発症から24時間内に投与される。いくつかの態様では、この患者は、ニューヨーク・ハート・アソシエーション(New York Heart Association)の機能分類を参照して決定した場合、クラスII、クラスIII、またはクラスIVの心不全を有する。いくつかの態様では、この患者は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤で処置されている。
【0008】
いくつかの態様では、本発明の処置方法で用いられるGM-CSFアンタゴニストは抗GM-CSF抗体である。抗体は、例えば、モノクローナル抗体、ナノボディ(nanobody)またはラクダ(camellid)抗体であってもよい。態様では、抗体は、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABである抗体フラグメントであり、いくつかの態様は、ポリエチレングリコールにコンジュゲートされた抗体フラグメントを有している。いくつかの態様では、抗体は、約100pM〜約10nMという親和性を有する。いくつかの態様では、抗体は、約0.5pM〜約100pMという親和性を有する。いくつかの態様では、抗体は中和抗体である。いくつかの態様では、抗体は組み換え抗体またはキメラ抗体である。抗体はヒト可変領域を含んでもよい。いくつかの態様では、抗体はヒト軽鎖定常領域を含む。いくつかの態様では、抗体は、ヒト重鎖定常領域、例えばγ鎖を含む。いくつかの態様では、抗体は、キメラ19/2と同じエピトープに結合する。いくつかの態様では、抗体はキメラ19/2のVH領域およびVL領域を含む。いくつかの態様では、抗体は、ヒト重鎖定常領域、例えばγ領域を含む。いくつかの態様では、抗体は、キメラ19/2のVH領域およびVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。いくつかの態様では、抗体はキメラ19/2のVH領域CDR3およびVL領域CDR3を含む。
【0009】
いくつかの態様では、本発明での使用のための抗GM-CSF抗体は、CDR3結合特異性決定基RQRFPYまたはRDRFPYを含むVH領域、Jセグメント、およびVセグメント(このJセグメントはヒトJH4

に対して少なくとも95%の同一性を含み、このVセグメントは、ヒト生殖細胞系VH1 1-02もしくはVH1 1-03の配列に対して少なくとも90%の同一性を含む);またはCDR3結合特異性決定基RQRFPYを含むVH領域を含む。いくつかの態様では、Jセグメントは

を含む。いくつかの態様では、CDR3は

を含む。いくつかの態様では、VH領域CDR1はヒト生殖細胞系VH1 CDR1であり;VH領域CDR2はヒト生殖細胞系VH1 CDR2であり;またはCDR1およびCDR2の両方ともヒト生殖細胞系VH1配列由来である。いくつかの態様では、VHはVH CDR1もしくはVH CDR2、またはVH CDR1およびVH CDR2の両方を、図9に示されるVH領域に示されるように含む。いくつかの態様では、Vセグメント配列は図9に示されるVH Vセグメント配列を有する。追加の態様では、抗GM-CSF抗体のVHは、図9に示されるVH#1、VH#2、VH#3、VH#4、またはVH#5の配列を有する。
【0010】
いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSF抗体は、アミノ酸配列FNKまたはFNRを含んでいるCDR3を含むVL領域を含む。いくつかの態様では、VL領域はヒト生殖細胞系JK4領域を含む。いくつかの態様では、VL領域CDR3はQQFN(K/R)SPLTを含む。いくつかの態様では、VL領域は、図9に示される配列VL領域のCDR1もしくはCDR2、またはCDR1およびCDR2の両方を含む。いくつかの態様では、VL領域は、図9に示されるVKIIIA27 Vセグメント配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVセグメントを含む。いくつかの態様では、VL領域は、図9に示されるVK#1、VK#2、VK#3、またはVK#4の配列を有する。
【0011】
いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSF抗体は、QQFNKSPLTを含むCDR3を含むVL領域を含む。
【0012】
いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSFは、VH領域(VH CDR3がCDR3結合特異性決定基RQRFPYまたはRDRFPYを含む);ならびにVL領域(VL CDR3がQQFNKSPLTを含む)を含む。
【0013】
いくつかの態様では、抗GM-CSFのVH領域もしくはVL領域、またはVHおよびVL領域の両方のアミノ酸配列は、N末端でメチオニンを含む。
【0014】
いくつかの態様では、抗体はヒト抗体である。いくつかの態様では、抗体は約7〜約25日の半減期を有する。いくつかの態様では、抗体は体重1kgあたり約1mg〜体重1kgあたり約10mgの用量で投与される。
【0015】
本発明の方法において用いられるGM-CSFアンタゴニストは、注射によるものを含む、種々の方法を用いて投与され得る。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは静脈内に投与される。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは皮下に投与される。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは筋肉内に投与される。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは複数回投与される。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは抗GM-CSFレセプター抗体、可溶性GM-CSFレセプター、シトクロムb562抗体模倣物、アドネクチン(adnectin)、リポカリン骨格抗体模倣物、カリックスアレーン抗体模倣物、または抗体様結合性ペプチド模倣物である。
【0016】
本発明によるGM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体で処置され得る患者としては、本明細書において下にさらに記載される任意の患者が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】梗塞ラットにおける、左室駆出率(left ventricular ejection fraction, LVEF)によって評価した左室全体の機能に対する抗GM-CSF抗体の効果を示すデータを提供する。このグラフは、処置群間の平均LVEF(%)±標準誤差(SE)を示す。シャム(Sham)(N=5)、MI(N=10)、MI+抗GM-CSF(N=12)。P<0.05(全群に対して)**P<0.05(MIおよびシャムに対して)。
【図2】未処置のMI動物と比較して、GM-CSF抗体で処置された心筋梗塞(MI)に供される動物における左室(LV)収縮期圧を示しているデータを提供する。
【図3】梗塞ラットにおける左室(LV)全体の収縮末期径に対する抗GM-CSF抗体の効果を示しているデータを提供する。このグラフは、シャム、MI、およびMI+抗GMCSFについての左室収縮末期径(cm)を示す。データは平均±SEである。シャム(N=6)、MI(N=10)、MI+抗GM-CSF(N=10)P<0.05(MI+抗GM-CSFに対して);**P<0.05(MIに対して)。
【図4】梗塞ラットにおける左室(LV)拡張末期径に対する抗GM-CSF抗体の影響を示しているデータを提供する。このグラフは、シャム、MI、およびMI+抗GMCSFで処置した動物におけるLV拡張末期径(cm)を示す。データは平均±SEである。P<0.05(MIおよびmI+抗GM-CSFに対する);シャム(N=4)、MI(N=12)、MI+抗GMCSF(N=10)
【図5】梗塞ラットにおける左室拡張末期圧(LVEDP)に対する抗GM-CSF抗体の影響を示しているデータを提供する。このグラフは、MIおよびMI+抗GM-CSFで処置した動物におけるLVEDP(mmHg)を示す。MIについてはN=3;MI+抗GM-CSFについてはN=4。
【図6】梗塞ラットにおけるτに対する抗GM-CSF抗体の影響を示すデータを提供する。このグラフは、MIおよびMI+抗GM-CSF処置群における動物についてのτ(左室弛緩時定数)を示す。
【図7】冠動脈結紮の3週後の対照およびGM-CSF抗体処置した心臓の左室断面積のミリガントリクロム染色の結果を示しているデータを提供する。心臓の梗塞領域は、心筋壁が薄くなるため明瞭に視認できる。
【図8】抗GM-CSF抗体(黒色バー)またはビヒクル処置動物(白色バー)を用いて処置したラットの梗塞心臓組織におけるCD68陽性のマクロファージの数を示す。高倍率顕微鏡写真あたりのCD68陽性細胞の平均数および標準誤差を示す(n=ラット5匹)平均の相違は統計学的に有意である(両側t検定によって決定してP=0.0002)。
【図9】抗GM-CSF抗体の例示的なVH配列およびVL配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において用いる場合、「うっ血性心不全」または「心不全」とは、心臓が、十分な組織還流を支持するために循環系を通じて十分な量の血液をポンピングできない状態を指す。心不全は多くの場合、急性心筋梗塞などの虚血の1回または複数のエピソードから生じ、患者は心臓組織に対する損傷を被るか、または心筋症のいくつかの他の原因を被る。
【0019】
「心筋症」とは本明細書において用いる場合、心筋の損傷および/または弱体化を指す。心筋症は、感染、ならびに化学療法剤などの毒性化合物に対する曝露、電解質平衡異常、高血圧、および種々の遺伝的障害を含む他の障害から生じ得る。心不全は、心機能および血液をポンピングする能力における低減がある場合に生じる。「拡張型心筋症」では、もとは正常であった心筋が損傷され、心室の壁の全体的な弱体化がもたらされる。
【0020】
「心不全」を有する患者は、血液をポンピングする能力を喪失している患者である。診断は、当技術分野において用いられる診断システム、例えば、フラミンガム基準(Framingham criteria)、ボストン基準(Boston criteria)、またはデューク基準(Duke criteria)などの少なくとも一つに基づく。
【0021】
本発明の文脈で「心不全のリスクがある」患者とは、心不全とは診断されていないが、一つまたは複数の虚血イベントに罹患しているか、または心不全をもたらし得る心筋症に罹患している患者を指す。虚血イベントとは、急性虚血エピソード、例えば、心筋梗塞、または一過性の虚血エピソードであってもよい。
【0022】
「虚血エピソード」または「虚血」とは本明細書において用いる場合、局所領域に対する血管の遮断に起因したその領域への不十分な血液供給(循環)を指す。この領域への循環の喪失は、完全であっても部分的であってもよい。「虚血エピソード」とは、急性心筋梗塞、ならびに慢性の虚血、例えば、冠動脈疾患の結果としての動脈の部分的遮断、または一過性の虚血エピソード、例えば、狭心症発作(典型的には1〜15分持続する)などの状況を含む。
【0023】
本明細書において用いる場合、「心不全の処置または予防のための治療剤」とは、心不全に罹患している患者、または、例えば、急性心筋梗塞に起因して心不全のリスクのある患者に対して投与した場合、心不全の症状および心不全に関連する合併症を少なくとも部分的に軽減もしくは遅らせるか;または心不全の症状の発現を遅延もしくは予防する、薬剤、例えば、GM-CSFアンタゴニスト、例えば、抗GM-CSF抗体を指す。このような薬剤は、心不全をもたらし得る心臓に対する構造的変化、例えば左室リモデリングを低減または予防する。
【0024】
本明細書において用いる場合、「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子」(GM-CSF)とは、約23kDaの分子量を有している内部ジスルフィド結合を有する小型の天然に存在する糖タンパク質を指す。ヒトでは、この糖タンパク質は、ヒト第5染色体上のサイトカインクラスター内に位置する遺伝子によってコードされる。ヒトの遺伝子およびタンパク質の配列は公知である。このタンパク質は、N末端シグナル配列、およびC末端レセプター結合ドメインを有する(Rasko and Gough In: The Cytokine Handbook, A. Thomson, et al., Academic Press, New York (1994) pp. 349-369)。その3つの三次元構造は、インターロイキンの構造と類似しているが、アミノ酸配列は類似していない。GM-CSFは、造血環境および炎症の末梢部位において存在する多数の炎症性メディエーターに応答して産生される。GM-CSFは、好中性顆粒球、マクロファージ、および混合顆粒球-マクロファージコロニーの骨髄細胞からの産生を刺激可能で、かつ胎児肝臓前駆細胞から好酸球コロニーの形成を刺激できる。GM-CSFはまた、成熟した顆粒球およびマクロファージでいくつかの機能的な活性を刺激し、かつ顆粒球およびマクロファージのアポトーシスを阻害する。
【0025】
「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子レセプター」(GM-CSFR)」という用語は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に結合するとシグナルを伝達する、細胞上で発現される膜結合レセプターを指す。GM-CSFRは、リガンド特異的低親和性結合鎖(GM-CSFRα)および第二の鎖(高親和性結合およびシグナル伝達に必要である)からなる。この第二の鎖はインターロイキン3(IL-3)およびIL-5レセプターのリガンド特異的α鎖によって共有され、従ってβコモン(β-cまたはβc)と呼ばれる。GM-CSFRαの細胞質領域は、α1およびα2アイソフォームによって共有される膜近位保存領域、ならびにα1とα2との間で異なるC末端可変領域からなる。β-cの細胞質領域は、膜近位セリンおよび酸性ドメイン(GM-CSFによって誘導される増殖反応に重要である)を含有する。
【0026】
「可溶性顆粒球マクロファージコロニー刺激因子レセプター」(sGM-CSFR)という用語は、GM-CSFに結合するが、このリガンドに結合したときにシグナルを伝達しない非膜結合レセプターを指す。
【0027】
本明細書において用いる場合、「GM-CSFアンタゴニスト」とは、GM-CSFまたはそのレセプターと相互作用して、細胞上で発現されるその同族レセプターに対するGM-CSFの結合から生じるシグナル伝達を低減または遮断(部分的または完全にのいずれか)する分子または化合物を指す。GM-CSFアンタゴニストは、レセプターに結合できるGM-CSFリガンドの量を減らすことによって作用する場合もあるし(例えば、一旦GM-CSFに結合すればGM-CSFのクリアランス速度を増大する抗体)、またはGM-CSFもしくはレセプターに対する結合によってリガンドがそのレセプターに結合することを妨げる場合もある(例えば、中和抗体)。GM-CSFアンタゴニストはまたインヒビターを含んでもよく、インヒビターとしては、GM-CSFまたはそのレセプターに結合して、シグナリングを部分的にまたは完全に阻害する化合物を含むことができる。GM-CSFアンタゴニストは、抗体、その天然または合成のリガンドまたはフラグメント、ポリペプチド、低分子などを含み得る。
【0028】
「精製された」GM-CSFアンタゴニストとは本明細書において用いる場合、GM-CSFアンタゴニストであって、その天然の状況で見出される通常伴っている成分を実質的にまたは本質的に含まないアンタゴニストを指す。例えば、血液または血漿から精製されている抗GM-CSF抗体などのGM-CSFアンタゴニストは、他の免疫グロブリン分子などの他の血液または血漿の成分を実質的に含まない。純度および均一性は典型的には、分析的化学技術、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを用いて決定される。調製物に存在する優勢な種であるタンパク質は実質的に精製されている。通常は、「精製」とはタンパク質が、そのタンパク質が天然には共に存在する成分に関して少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも95%の純度、そして最も好ましくは少なくとも99%の純度であることを意味する。
【0029】
本明細書において用いる場合、「抗体」とは、機能的には結合性のタンパク質として規定され、構造的には抗体を産生する動物の免疫グロブリンコード遺伝子のフレームワーク領域由来であることが当業者によって認識されるアミノ酸配列を含むものと規定される、タンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされる一つまたは複数のポリペプチドからなり得る。この認識された免疫グロブリン遺伝子としては、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ、またはεに分類され、これが次にそれぞれ免疫グロブリンのクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。
【0030】
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造単位はテトラマーを含むことが公知である。各々のテトラマーは2つの同一の対のポリペプチド鎖から構成され、各々の対は、一つの「軽」鎖(約25kD)および一つの「重」鎖(約50〜70kD)を有している。各々の鎖のN末端とは、抗原認識を主に担う約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を規定する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)とは、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0031】
「抗体」という用語は本明細書において用いる場合、結合特異性を保持する抗体フラグメントも含む。例えば、十分特徴付けられた抗体フラグメントが多数存在する。従って、例えば、ペプシンはヒンジ領域内のジスルフィド結合に対する抗体C末端を消化して、それ自体がジスルフィド結合によってVH-CH1に結合された軽鎖であるFabの二量体であるF(ab')2を産生する。F(ab')2は、温和な条件下で還元してヒンジ領域内のジスルフィド結合を破壊し、これによって(Fab')2二量体をFab'単量体へ変換することができる。Fab'単量体は本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである(他の抗体フラグメントのさらなる詳細な説明については、Fundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993)を参照のこと)。種々の抗体フラグメントがインタクトな抗体の消化に関して規定されているが、当業者は、組み換えDNA手法を利用するかまたは化学的に、フラグメントを新しく合成できることを理解する。従って、「抗体」という用語は、本明細書において用いる場合、抗体全ての改変によって産生されるか、または組み換えDNA手法を用いて合成された抗体フラグメントを含む。
【0032】
抗体とは本明細書において用いる場合また、種々のVH-VL対の形式を含み、これには、単鎖抗体(単一ポリペプチド鎖として存在する抗体)、例えば、単鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)を含み、これは可変重鎖および可変軽鎖領域が一緒に結合されて(直接、またはペプチドリンカーを通じて)連続的なポリペプチドを形成する。単鎖Fv抗体は、共有結合されたVH-VLであって、これは直接連結されるか、またはペプチドをコードするリンカーによって連結されるVHコード配列およびVLコード配列を含んでいる核酸から発現され得る(例えば、Huston, et al. Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 85:5879-5883, 1988)。VHおよびVLは単一ポリペプチド鎖として各々に接続されるが、VHおよびVLドメインは非共有結合する。抗体はまた、別のフラグメントの形態、例えば、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)であってもよい。他のフラグメントもまた、例えばディスプレイ方法から得られる可溶性のタンパク質として、またはフラグメントとして、組み換え技術を用いて生成されてもよい。抗体としてはまた、二重特異性抗体およびミニ抗体を含むことができる。
【0033】
本発明の抗体はまた、ラクダ(camelid)由来の抗体などの重鎖二量体を含む。ラクダにおける重鎖二量体IgGのVH領域は軽鎖との疎水性相互作用を形成する必要はないので、通常は軽鎖に接触する重鎖の領域はラクダにおいては親水性アミノ酸残基に変換されている。重鎖二量体IgGのVHドメインはVHHドメインと呼ばれる。本発明における使用のための抗体はさらに、単一ドメイン抗体(dAb)およびナノボディを含む(例えば、Cortez-Retamozo, et al., Cancer Res. 64:2853-2857, 2004を参照のこと)。
【0034】
本明細書において用いる場合、「V領域」とは、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、およびフレームワーク3(CDR3およびフレームワーク4を含む)のセグメント(このセグメントはB細胞分化の間に重鎖および軽鎖のV領域遺伝子の再配列の結果としてVセグメントに追加される)を含んでいる抗体可変領域ドメインを指す。
【0035】
本明細書において用いる場合、「相補性決定領域(CDR)」とは、軽鎖および重鎖可変領域によって確立される4つの「フレームワーク」領域を遮断する各々の鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは主に抗原のエピトープに対する結合を担う。各々の鎖のCDRは典型的には、CDR1、CDR2、およびCDR3と、N末端から出発して連続して番号付けられて呼ばれており、また典型的には、特定のCDRが位置する鎖によって特定される。従って、例えば、VH CDR3は、これが見いだされる抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、VL CDR1は、これが見いだされる抗体の軽鎖の可変ドメイン由来のCDR1である。
【0036】
異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の中で比較的保存されている。構成要素である軽鎖および重鎖の組み合わせフレームワーク領域である、抗体のフレームワーク領域は、3次元空間内でCDRを位置および整列させるために働く。
【0037】
CDRのアミノ酸配列およびフレームワーク領域は、当技術分野において種々の周知の定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTics database(IMGT)、およびAbM(例えば、Johnson et al.,上記; Chothia&Lesk, 1987, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J. Mol. Biol. 196,901-917; Chothia et al., 1989, Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature 342, 877-883; Chothia et al., 1992, structural repertoire of the human VH segments J. Mol. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J. Mol. Biol 1997, 273(4)を参照のこと)を用いて決定され得る。抗原結合部位の定義はまた、以下に記載される: Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000);およびLefranc,M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan 1;29(1):207-9 (2001); MacCallum et al., Antibody-antigen interactions: Contact analysis and binding site topography, J. Mol. Biol., 262(5), 732-745 (1996);ならびにMartin et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin, et al., Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al., Immunomethods, 1, 126, (1992);ならびにRees et al., In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0038】
「エピトープ」または「抗原性決定基」とは、抗体が結合する抗原上の部位を指す。エピトープは、連続するアミノ酸またはタンパク質の三次結合によって並置された非連続性のアミノ酸の両方から形成され得る。連続するアミノ酸から形成されるエピトープは典型的には変性溶媒に対する曝露に対して保持されるが、三次折り畳みによって形成されるエピトープは典型的には変性溶媒での処理に対して失われる。エピトープは典型的には、少なくとも3、さらに通常は少なくとも5または8〜10アミノ酸を固有の空間的高次構造に含む。エピトープの空間的高次構造を決定する方法としては、例えば、X線結晶学および2次元核磁気共鳴が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照のこと。
【0039】
本明細書において用いる場合、「中和抗体」とは、GM-CSFに結合して、GM-CSFレセプターによるシグナリングを妨ぐか、またはGM-CSFがそのレセプターに対して結合することを阻害する抗体を指す。
【0040】
本明細書において用いる場合、「キメラ抗体」とは、免疫グロブリン分子であって、(a)定常領域またはその一部が、変更、置換、または交換されており、その結果、その抗原結合部位(可変領域)が、異なるもしくは変更されたクラス、エフェクター機能および/または種の定常領域に連結しているか、またはキメラ抗体に対して新規な特性を付与する本質的に異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物など)に連結しているか;あるいは(b)可変領域またはその一部が、異なるまたは変更された抗原特異性を有している可変領域またはその一部;あるいは別の種由来もしくは別の抗体クラスもしくはサブクラス由来の対応する配列を用いて、変更、置換、または交換されている、免疫グロブリン分子を指す。
【0041】
本明細書において用いる場合、「ヒト化抗体」とは、免疫グロブリン分子であって、ドナー抗体由来のCDRがヒトフレームワーク配列上に移植されている免疫グロブリン分子を指す。ヒト化抗体はまた、フレームワーク配列にドナー由来の残基を含んでもよい。このヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体にも、インポートされたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含みうる。ヒト化は、当技術分野において公知の方法(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525; 1986; Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988; Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536, 1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992; 米国特許第4,816,567号)を用いて達成され得、「スーパーヒト化(superhumanizing)」抗体(Tan et al., J. Immunol. 169:1119, 2002)および「再表面化(resurfacing)」(例えば、Staelens et al., Mol. Immunol. 43:1243, 2006;およびRoguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 91:969, 1994)などの技術を含む。
【0042】
本発明の文脈の「ヒューマニア化(humaneered)」抗体とは、参照抗体の結合特異性を有している操作されたヒト抗体を指す。本発明において使用される「ヒューマニア化」抗体は、ドナー免疫グロブリンに由来する配列が最小限に抑えられている免疫グロブリン分子を有する。典型的には、抗体は、ヒトVHセグメント配列に対する参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)およびヒトVLセグメント配列に対する参照抗体由来の軽鎖のCDR3 BSDをコードするDNA配列を結合することによって「ヒューマニア化」される。「BSD」とは、CDR3-FR4領域、または結合特異性を媒介するこの領域の一部を指す。従って、結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最小必須結合特異性決定基(これは抗体のV領域に存在する場合に結合特異性を付与するCDR3よりも小さい任意の領域を指す)、Dセグメント(重鎖領域に関する)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域であってもよい。ヒューマニアリング(humaneering)の方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号に提供されている。
【0043】
「ヒト」抗体は、本明細書において用いる場合、ヒト化抗体およびヒューマニア化抗体、ならびに公知の技術を用いて得られるヒトモノクローナル抗体を包含する。
【0044】
核酸の一部に対して用いる場合、「異種」という用語は、その核酸が、天然にはお互いに対して同じ関係で正常には見出されない2つ以上のサブ配列を含むことを示す。例えば、この核酸は典型的には、例えば新しい機能的な核酸を形成するように配置された無関係の遺伝子から、2つ以上の配列を有して、組み換え産生される。同様に、異種タンパク質とは多くの場合、天然にはお互いに対して同じ関係で見出されない2つ以上のサブ配列を指す。
【0045】
「組み換え」という用語は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターに対して用いる場合、その細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種の核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸もしくはタンパク質の変更によって改変されているか、あるいは細胞がそのようにして改変された細胞由来であるということを示す。従って、例えば、組み換え細胞は、天然(非組み換え)型の細胞内では見出されない遺伝子を発現するか、あるいはそうでなければ異常に発現するか、過少発現するか、または全く発現しない天然の遺伝子を発現する。本明細書において「組み換え核酸」という用語は、天然には正常には見出されない形態で、例えば、ポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いて、一般に核酸の操作によって、インビトロでもともと形成された核酸を意味する。この様式では、異なる配列を必要に応じて連結することが達成される。従って、単離された核酸(直線の形式)、または正常には連結されないDNA分子を連結することによってインビトロで形成される発現ベクターは両方とも、本発明の目的について組み換えと考えられる。一旦組み換え核酸が作製され、宿主細胞または生物体に再導入されれば、非組み換え的に、すなわち、インビトロの操作ではなく宿主細胞のインビボの細胞機構を用いて、複製することが理解される;しかしこのような核酸は一旦組み換え産生されれば、引き続き非組み換え的に複製されるが、本発明の目的についてはやはり組み換えと考えられる。同様に、「組み換えタンパク質」とは、組み換え技術を用いて、すなわち、上記されるような組み換え核酸の発現を通じて作製されるタンパク質である。
【0046】
抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」または「特異的に(または選択的に)免疫反応性である」という句は、タンパク質またはペプチドに対して言及する場合、その抗体が関心対象のタンパク質に対して結合する結合反応を指す。本発明の文脈では、抗体は、関心対象の抗原、例えばGM-CSFに対して、他の抗原についての親和性よりも少なくとも100倍高い親和性で結合する。
【0047】
「平衡解離定数(KD)」という用語は、会合速度定数(ka、時間-1、M-1)で割った解離速度定数(kd、時間-1)を指す。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定され得る。本発明の抗体は高親和性抗体である。このような抗体は500nMより高い、多くの場合50nMまたは10nMより大きい親和性を有する。従って、いくつかの態様では、本発明の抗体は、500nM〜100pMの範囲、または50もしくは25nM〜100pMの範囲、または50もしくは25nM〜50pMの範囲、または50nMもしくは25nM〜1pMの範囲の親和性を有する。
【0048】
「同一の」または「同一性」パーセントという用語は、2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、下記のデフォルトパラメーターでBLASTまたはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを用いて、またはマニュアルアラインメントおよび視覚検査(例えば、NCBIのウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/などを参照のこと)によって測定した場合、同じであるか、または同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの特定の割合を有する(すなわち、比較ウインドウまたは指定の領域にわたる最大対応について比較および整列させた場合、特定の領域にわたって約60%同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性)、2つ以上の配列またはサブ配列(subsequence)を指す。そのため、このような配列は「実質的に同一である」と言われる。この定義はまた、試験配列のコンプリメントを指すか、またはコンプリメントに適用されてもよい。この定義はまた、欠失および/または添加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する、例えば、多形性または対立遺伝子変種、および人工の変種も含む。下に記載される通り、好ましいアルゴリズムは、ギャップなどを計上し得る。好ましくは、同一性は、少なくとも約25アミノ酸もしくはヌクレオチド長である領域にまたがって、またはより好ましくは50〜100アミノ酸もしくはヌクレオチド長である領域にまたがって存在する。
【0049】
配列比較のために、通常は一つの配列が参照配列として機能し、これに対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを用いる場合、試験および参照配列がコンピューターに入力され、必要であればサブ配列の座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。好ましくはデフォルトプログラムパラメーターが用いられてもよいし、または別のパラメーターが指定されてもよい。次いで、この配列比較アルゴリズムが、プログラムのパラメーターに基づいて、参照配列に対して試験配列について配列同一性パーセントを計算する。
【0050】
「比較ウインドウ(comparison window)」とは、本明細書において用いる場合、典型的には、20〜600、通常は約50〜約200、さらに通常は約100〜約150からなる群より選択される連続位置の数の一つのセグメントに対する言及を含み、ここでは、配列は、2つの配列が最適に整列された後に、連続位置の同じ数の参照配列に対して比較され得る。比較のための配列のアラインメントの方法は当技術分野において周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith&Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman&Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson&Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似性検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピューター化された実行によって(GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)、またはマニュアルアラインメントおよび視覚検査によって(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 supplement))行うことができる。
【0051】
配列同一性および配列類似性パーセントを決定するために適切なアルゴリズムの好ましい例としては、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムが含まれ、これはAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。本発明の核酸およびタンパク質の配列同一性パーセントを決定するため、本明細書において記載されたパラメーターとともに、BLASTおよびBLAST 2.0が用いられる。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列における同じ長さのワードと整列されたとき、何らかの正に評価された閾値スコアTに適合するかまたはそれを満たす、クエリー配列中で長さWの短いワードを特定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を最初に特定する工程を含む。Tは隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(Altschul et al.,上記)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを含有しているより長いHSPを見出すように検索を開始するためのシードとして機能する。ワードヒットは、累積的アラインメントスコアが増大され得る限り、各々の配列に沿って両方向に伸展される。累積スコアは、例えば、ヌクレオチド配列については、パラメーターM(1対のマッチング残基の報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチの残基のペナルティースコア;常に<0)を用いて算出される。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算する。ワードヒットの伸長が各々の方向で停止されるのは以下のときである:累積アラインメントスコアがその最大到達値からX量下落したとき;累積スコアが、一つまたは複数の負のスコアリング残基アラインメントの蓄積に起因してゼロ以下になるとき;またはいずれかの配列の末端に達したとき。BLASTアルゴリズムのパラメーターW、T、およびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を用いる。アミノ酸配列については、BLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長3、および期待値(E)10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff&Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915(1989))アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を用いる。
【0052】
BLASTアルゴリズムはまた、2つの配列の間の類似性の統計学的分析も行う(例えば、Karlin&Altschul, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 90:5873-5787(1993)を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の一つの指標は、最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であって、これによって、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間のマッチが偶然に生じる確率の指標が得られる。例えば、参照核酸に対する試験核酸の比較で最小合計確率が約0.2未満、さらに好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は参照配列に類似と見なされる。対数値は、大きい負の数、例えば、5、10、20、30、40、40、70、90、110、150、170などであってもよい。
【0053】
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であるという指標は、以下に説明するように、第一の核酸によってコードされるポリペプチドが、第二の核酸によってコードされるポリペプチドに対して惹起される抗体と免疫学的に交差反応性であることである。従って、例えば、2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なる場合、ポリペプチドは典型的には第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であるということの別の指標は、以下に説明するように、ストリンジェントな条件下でその2つの分子またはそれらの相補体がお互いに対してハイブリダイズするということである。2つの核酸配列が実質的に同一であるというさらに別の指標は、同じプライマーを用いて配列を増幅できるということである。
【0054】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、その天然状態において見出される通常それに付随する成分を実質的にまたは本質的に含まない物質を指す。純度および均一性は典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技術を用いて決定する。調製物中に存在する優勢な種であるタンパク質は、実質的に精製されている。「精製された」という用語は、いくつかの態様においてはタンパク質が電気泳動ゲルで本質的に1本のバンドを生じることを表す。好ましくは、これは、タンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、最も好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0055】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、一つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸ポリマーに、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマー、修飾残基を含有するもの、および非天然で存在するアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0056】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成のアミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣物を指す。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸アナログとは、例えば、α炭素に水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基が結合している、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このようなアナログは、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有してもよいが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持しうる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0057】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC-IUB生化学命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されている一般に知られている三文字記号または一文字記号により参照され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に是認されている1文字コードにより参照され得る。
【0058】
「保存的修飾変種」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的修飾変種とは、同一または本質的に同一であるアミノ酸配列をコードする核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一のもしくは関連する配列、例えば天然の連続した配列を指す。遺伝暗号の縮重によって、多数の機能的に同一である核酸がほとんどのタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。従って、コドンによりアラニンが指定される全ての位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、コドンを記載される対応するコドンの別のものに変更することができる。このような核酸の多様性は「サイレント多様性」であり、これは保存的修飾変化(variation)の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書におけるあらゆる核酸配列は、核酸のサイレント多様性も説明する。当業者は、特定の状況において、核酸内の各々のコドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUGおよび通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を修飾して、機能的に同一である分子を得ることができることを認識する。従って、多くの場合、発現産物に関して記載された配列では、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント多様性が暗示されるが、実際のプローブ配列に関してはそのようなことはない。
【0059】
アミノ酸配列に関して、コードされる配列内の単一アミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変化、付加、または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失、または付加が、その変化によって化学的に類似したアミノ酸によるアミノ酸の置換を生じる場合に「保存的修飾変種」であることを、当業者は認識する。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野において周知である。このような保存的修飾変種は、本発明の多型変種、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加されるものであり、これらを排除するものではない。典型的な相互の保存的置換は以下のとおり: 1)アラニン(A)、グリシン(G); 2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); 3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q); 4)アルギニン(R)、リジン(K); 5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); 6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W); 7)セリン(S)、スレオニン(T); および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins(1984)を参照のこと)。
【0060】
I. 序論
本発明は、心不全を有するか、または虚血イベント、例えば、急性心筋梗塞などの心臓の損傷に起因する心不全のリスクがある患者の処置のためにGM-CSFアンタゴニストを投与する方法に関する。GM-CSFアンタゴニストとしては、抗GM-CSF抗体、抗GM-CSFレセプター抗体、または、GM-CSFがその同族レセプターに結合することから通常生じるシグナリングを予防または低減する他のインヒビターを含み得る。多くのタイプのGM-CSFアンタゴニストが公知である(例えば、William, in New Drugs for Asthma, Allergy and COPD, Prog. Repir. Res.; Hansel&Barnes, eds, Basel, Karger, 2001 vol 31:251-255; ならびに本明細書で引用される引用文献を参照のこと)。
【0061】
本発明での使用に適切な抗体、例えば抗GM-CSFまたは抗GM-CSFレセプター抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であっても、キメラ抗体であっても、ヒト化抗体であっても、ヒューマニア化抗体であっても、またはヒト抗体であってもよい。本発明での使用に適切な他のGM-CSFアンタゴニストは、レセプターに対する結合についてGM-CSFと競合するが、レセプターに対して結合するときシグナリングを生じない、天然に存在するかまたは合成のリガンド(またはそのフラグメント)を含んでもよい。追加の非限定的なGM-CSFアンタゴニストとしては、GM-CSFアンタゴニストの非存在下においてGM-CSFがそのレセプターに対して結合することから天然に生じるシグナリングを部分的にまたは完全にブロックする、ポリペプチド、核酸、低分子などを含むことができる。
【0062】
II. 心不全を有する患者または心不全のリスクのある患者
本発明に従って処置され得る患者は、心不全を有するかまたは心不全のリスクがある。心不全は、多数のエンドポイントによって測定され得る。例えば、左室駆出率(LVEF)は診断のエンドポイントとして通常用いられる心機能の指標である。本特許の目的に関しては、「LVEF」、「左室駆出率」、および「駆出率」という用語は互換的に用いられる。
【0063】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなGM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体で処置され得る患者は、収縮期心不全を有する。正常な個体は典型的には、約50%またはそれ以上の駆出率を有する。約40パーセント未満の駆出率が収縮期心不全の指標である。従って、いくつかの態様では、抗GM-CSFアンタゴニストで処置される患者は約40%以下の駆出率を有し得る。他の態様では、患者は拡張期心不全を有し、駆出率は正常な範囲内でありうるが、右室は弛緩することも正しく満たされることもなく、そのため心臓に入る血液は少ない。本発明に従って処置される患者は、心臓のいずれかの側に損傷を有しうる。
【0064】
心不全は多くの場合、心臓組織を損傷する一つまたは複数の虚血イベントの結果として生じる。心臓の構造に対する変化、すなわち左室リモデリングが生じ、これが心機能の損失をもたらす。左室リモデリングとは、損傷後の心臓のサイズ、形状、および機能における変化を指す。上記の通り、その損傷は多くの場合、急性心筋梗塞に起因するが、心筋症の他の原因、例としては、細菌またはウイルス感染、毒物に対する曝露、または高血圧もしくは内分泌異常のせいで生じ得る電解質不均衡の結果に起因する場合もある。損傷後、細胞外基質、コラーゲン、線維症、細胞の損傷および死亡を含む一連の組織病理学的および構造的な変化が生じ、これが左室の能力に進行性の低下をもたらす。最終的には、左室リモデリングは収縮機能の減少および心拍出量の低減を生じ得る。理論で拘束されるものではないが、GM-CSFアンタゴニストは、梗塞した組織における組織マクロファージの浸潤および活性を低減することによってリモデリングを阻害する。
【0065】
心不全のために通常用いられる診断システムとしては、「フラミンガム基準」(McKee et al., N. Engl. J. Med. 285(26):1441-6, 1971)(フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)より)、「ボストン基準」(Carlson et al., J. Chronic Diseases 38:733-9, 1985)、「デューク基準」(Harlan et al., Ann. Intern. Med. 86:133-8, 1977)および(急性心筋梗塞の設定において)「Killip class」(Killip & Kimball, Am. J. Cardiol. 20:457-64, 1967)が含まれる。機能的分類は一般には、ニューヨーク・ハート・アソシエーション(NYHA)の機能的分類によって行われる。(Criteria Committee, New York Heart Association. Diseases of the heart and blood vessels. Nomenclature and criteria for diagnosis, 6th ed. Boston: Little, Brown and co, 1964;114)。このスコアは症状の重篤度を示し、処置の応答を評価するために用いることができる。クラス(I-IV)は以下のとおり:
クラスI: いかなる活動にも制限は経験せず;日常活動では症状がない。
クラスII: 活動のわずかな軽度の制限;患者は安静時には快適であるか、または軽度の労作を伴う。
クラスIII: いかなる活動も顕著な制限;患者は安静時にのみ快適である。
クラスIV: いかなる身体活動でも不快感が生じ、症状は安静時も生じる。
その2001年のガイドラインでは、米国心臓病学会/米国心臓協会(American College of Cardiology/American Heart Association)作業部会は、4段階の心不全を紹介した。
ステージA: 将来的にはHFが高リスクだが、構造的な心臓障害はない;
ステージB: 構造的な心臓障害があるが、いかなる段階の症状もない;
ステージC: 背景にある構造的な心臓の問題の状況下における心不全の過去または現行の症状があるが、医療行為で管理されている;
ステージD: 病院による支援、心臓移植または苦痛緩和医療を必要とする進行した疾患
【0066】
GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体は、心不全のこれらの任意の分類またはステージで患者に投与され得る。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体は、NYHAのクラスII、クラスIII、またはクラスIVの心不全を有する患者に投与される。
【0067】
GM-CSFアンタゴニスト処置に対する患者の応答は、上記のような症状をモニタリングすることによって評価できる。例えば、心エコー図は、駆出率を測定するために使用され得る。他の態様では、血液中の炎症性サイトカインのレベルが測定され得る。さらなる態様では、炎症または他の損傷の指標であるC反応性タンパク質(CRP)などの物質のレベルを決定し、GM-CSFアンタゴニストでの処置に応答してレベルが低下するか否かを評価し得る。いくつかの態様では、マクロファージのマーカー、例えばネオプテリンのレベルを評価してもよい。処置に対する治療応答を示す患者は、心不全の症状の低減を示す。
【0068】
本発明に従うGM-CSFアンタゴニストで処置され得る患者としては、例えば心筋梗塞などの一つまたは複数の虚血イベントを経験することに起因する、心不全のリスクのある患者が含まれる。例えば、心臓発作に罹患したことがある、および/または一過性の虚血エピソードを経験したことがある患者は、GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体で処置されうる。処置は、虚血エピソード後であるが心不全の診断の前に開始されてもよいし、または心不全の診断後に開始されてもよい。
【0069】
他の態様では、GM-CSFアンタゴニストで処置される患者は、心筋症、例えば、拡張型心筋症を有してもよい。いくつかの態様では、このような患者は心不全の診断を有し得る。他の態様では、患者は、心不全に進行していなくてもよい。心筋症は、例えば、ウイルス、細菌、リケッチア、または寄生生物の感染を含む多数の原因から生じ得る。他の態様では、GM-CSFアンタゴニストは、栄養性疾患もしくは全身の代謝性疾患、または高血圧から生じる心筋症を有する患者に投与されてもよい。他の態様では、心筋症は遺伝子障害に起因する肥大型心筋症であっても、または催不整脈性の右室心筋症であってもよい。GM-CSFアンタゴニストは、瘢痕、線維症、または心機能を損なうことをもたらし得る他の構造的な再構成を減少させる十分な量で投与される。GM-CSFアンタゴニストでの処置の効果は、炎症性サイトカインのレベル、CRPレベルなどのようなマーカーを用いて評価され得る。いくつかの態様では、心エコー図を使用して、心臓構造の変化を検査してもよい。
【0070】
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、そうでなければ抗GM-CSF処置の候補ではない患者に投与される。いくつかの態様では、心不全患者、および/または心筋症を有する患者であって、本発明に従ってGM-CSFアンタゴニストを投与される患者は、急性または慢性の炎症性状態を有さない。いくつかの態様では、心不全の患者、および/または心筋症を有する患者であって、本発明に従ってGM-CSFアンタゴニストを投与される患者は、関節リウマチ、アルツハイマー病; 骨減少症; 炎症性腸疾患; クローン病; I型糖尿病; 特発性血小板減少性紫斑病; 多発性硬化症; 乾癬; 側頭動脈炎、結節性多発性動脈炎、または慢性炎症性肺疾患、例えば、喘息、慢性気管支炎、肺気腫または慢性閉塞性気道疾患; 癌; 例としては、白血病およびリンパ系腫瘍; 全身性エリテマトーデス; リウマチ性多発性筋痛; または腎炎を有さない。いくつかの態様では、この患者は、アテローム性動脈硬化症を有さない。
【0071】
上記のように、本発明は、患者に対してGM-CSFアンタゴニストを投与することによって、心不全を処置するための方法を提供する。本発明における使用に適切なGM-CSFアンタゴニストは、例えば、レセプターに対するGM-CSFの結合の低下を生じることによって、GM-CSFレセプターによるシグナリングの誘導を選択的に妨害する。このようなアンタゴニストとしては、GM-CSFレセプターに結合する抗体、GM-CSFに結合する抗体、およびGM-CSFがそのレセプターに結合することに競合するか、またはレセプターに対するリガンドの結合から正常に生じるシグナリングを阻害し、それによってGM-CSF活性を中和する他のタンパク質または低分子を含むことができる。
【0072】
いくつかの態様では、このGM-CSFアンタゴニスト、例えばヒト血漿から精製された抗GM-CSFは、天然の供給源から精製される。多くの態様では、本発明で用いられるGM-CSFアンタゴニストは、組み換えタンパク質、例えば抗GM-CSF抗体; 抗GM-CSFレセプター抗体; 可溶性GM-CSFレセプター; またはレセプターに対してGM-CSFと結合について競合するが不活性である改変GM-CSFポリペプチドである。組み換え発現技術は当技術分野において広く公知である。発現方法を含む一般的な分子生物学の方法は、例えば、解説書、例えばSambrook and Russel (2001) Molecular Cloning: A laboratory manual 3rd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press; Current Protocols in Molecular Biology (2006) John Wiley and Sons ISBN: 0-471-50338-Xに見ることができる。
【0073】
種々の原核生物および/または真核生物ベースのタンパク質発現系を使用して、GM-CSFアンタゴニストタンパク質を産生しうる。このような系の多くは商業的な供給業者から広く入手可能である。これらとしては、原核生物および真核生物の両方の発現系が含まれる。
【0074】
GM-CSF抗体
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、GM-CSFに結合する抗体、またはGM-CSFレセプターαもしくはβサブユニットに結合する抗体である。本発明の文脈では、「抗GM-CSF抗体」および「GM-CSF抗体」という用語は交換可能に用いられ、GM-CSFに特異的に結合する抗体を指す。同様に、GM-CSFレセプターαまたはβサブユニットに結合する抗体は、「抗GM-CSFレセプター抗体」または「GM-CSFレセプター抗体」と呼ばれることがある。この抗体は、GM-CSF(またはGM-CSFレセプター)タンパク質、もしくはフラグメントに対して作成されてもよいし、または組み換え産生されてもよい。本発明における使用のためのGM-CSFに対する抗体は、中和抗体であってもよいし、またはGM-CSFに結合してGM-CSFのインビボクリアランスの速度を増大し、その結果循環中のGM-CSFのレベルを低減する非中和抗体であってもよい。多くの場合、抗GM-CSF抗体は中和抗体である。
【0075】
ポリクローナル抗体を調製する方法は当業者に公知である(例えば、Harlow&Lane, Antibodies, A Laboratory manual (1988); Methods in Immunology)。ポリクローナル抗体は、免疫剤(および必要に応じてアジュバント)の1回または複数の注射によって哺乳類で作成され得る。この免疫剤としては、GM-CSFもしくはGM-CSFレセプタータンパク質、またはそのフラグメントが含まれる。
【0076】
いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSF抗体は、ヒト血漿から精製される。このような態様では、抗GM-CSF抗体は典型的には、ヒト血漿中に存在する他の抗体から単離されるポリクローナル抗体である。このような単離手順は、例えばアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の技術を用いて行いうる。
【0077】
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストはモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ方法、例えば、Kohler&Milstein, Nature 256:495(1975)に記載される方法などを用いて調製され得る。ハイブリドーマ方法では典型的には、マウス、ハムスター、または他の適切な宿主動物をヒトGM-CSFなどの免疫剤を用いて免疫して、免疫剤に特異的に結合する抗体を産生するかまたは産生できるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫され得る。免疫剤としては好ましくは、ヒトGM-CSFタンパク質、そのフラグメント、またはその融合タンパク質が含まれる。
【0078】
ヒトモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の種々の技術を用いて産生されてよく、この技術としては、ファージディスプレイライブラリー(Hoogenboom&Winter, J. Mol. Biol. 227:381(1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222:581 (1991))が含まれる。Coleら、およびBoernerらの技術も、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, p. 77 (1985)およびBoerner et al., J. Immunol. 147(1): 86-95 (1991))。同様に、ヒト抗体は、トランスジェニック動物、例えばマウス(内因性の免疫グロブリン遺伝子は部分的にまたは完全に不活性化されている)へヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによって作製されうる。実施(challenge)後、ヒト抗体の産生が観察され、これは、遺伝子再配列、アセンブリ、および抗体レパートリーを含むあらゆる点でヒトにおいて見られるものと酷似している。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号に、そして以下の科学公開文献に記載されている: Marks et al., Bio/Technology 10:779-783 (1992); Lonberg et al., Nature 368:856-859 (1994); Morrison, Nature 368:812-13 (1994); Fishwild et al., Nature Biotechnology 14:845-51 (1996); Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996); Lonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93(1995)。
【0079】
いくつかの態様では、抗GM-CSF抗体はキメラ抗体またはヒト化モノクローナル抗体である。上述の通り、抗体のヒト化型はキメラ免疫グロブリンであって、ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有しているマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種のCDR由来の残基で置き換えられている。
【0080】
本発明で使用される抗体は任意の形式であってよい。例えば、いくつかの態様では、抗体は、定常領域、例えばヒト定常領域を含んでいる完全抗体であってもよいし、または完全抗体のフラグメントもしくは誘導体、例えばFd、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fvフラグメント、または単一ドメイン抗体、例えばナノボディまたはラクダ抗体であってよい。このような抗体はさらに、当業者に周知の方法によって組み換え操作されてもよい。上記の通り、このような抗体は公知の技術を用いて産生され得る。
【0081】
本発明のいくつかの態様では、抗体はさらに、例えば反復投与に適切とするために、免疫原性を低下するように操作される。免疫原性の低下した抗体を生成するための方法としては、T細胞エピトープを除去するために、例えば一つまたは複数のフレームワーク領域内で、抗体がさらに操作されている、ヒト化/ヒューマニア化手順および修飾技術、例えば脱免疫などが含まれる。
【0082】
いくつかの態様では、この抗体はヒューマニア化抗体である。ヒューマニア化抗体は、ヒトVHセグメント配列に対する参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)、およびヒトVLセグメント配列に対する参照抗体由来の軽鎖CDR3 BSDをコードするDNA配列を連結することによって得られる、参照抗体の結合特異性を有している操作されたヒト抗体である。ヒューマニアリングのための方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号に提供されている。
【0083】
抗体は、抗体のV領域由来の一つまたは複数の予想されるT細胞エピトープを除去するためにさらに脱免疫されてもよい。このような手順は例えば、国際公開公報第00/34317号に記載されている。
【0084】
いくつかの態様では、可変領域はヒトV遺伝子配列から構成される。例えば、可変領域配列は、ヒト生殖細胞系V遺伝子配列と、少なくとも80%の同一性、もしくは少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、もしくは少なくとも99%の同一性、またはそれ以上の同一性を有してもよい。
【0085】
本発明で用いられる抗体は、ヒト定常領域を含んでもよい。軽鎖の定常領域は、ヒトκ定常領域であっても、またはヒトλ定常領域であってもよい。重鎖定常領域は多くの場合、γ鎖定常領域、例えば、γ1、γ2、γ3、またはγ4定常領域である。
【0086】
いくつかの態様では、例えば抗体がフラグメントである場合、抗体は別の分子に結合体化されて、例えばポリエチレングリコール(ペグ化)または血清アルブミンなどのインビボの半減期延長を得てもよい。抗体フラグメントのペグ化の例は、Knight et al (2004) Platelets 15:409(アブシキシマブについて); Pedley et al (1994) Br. J. Cancer 70:1126 (抗CEA抗体について) Chapman et al (1999) Nature Biotech. 17:780に示される。
【0087】
当業者によって理解される通り、いくつかの態様では、例えば、特にGM-CSFアンタゴニストがGM-CSFレセプターに結合する抗体である場合、この抗体は、この抗体が抗原を発現する細胞、例えばGM-CSFレセプターを発現する心筋細胞を殺傷しないような形式で提供される。従って、このような抗体は、補体結合および抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)の誘導を回避するために活性なFc領域を欠く抗体フラグメントでありうる。
【0088】
抗体特異性
本発明における使用のための抗体はGM-CSFまたはGM-CSFレセプターに結合する。多数の技術を用いて、抗体結合特異性を決定することができる。例えば、抗体の特異的な免疫反応性を決定するために用いられ得るイムノアッセイの形式および条件の説明については、Harlow&Lane, Antibodies, A Laboratory Manual(1988)を参照のこと。
【0089】
本発明での使用に適切な例示的な抗体は、c19/2またはc19/2の結合特異性を有する抗体である。いくつかの態様では、c19/2と同じエピトープに対する結合について競合するか、またはc19/2と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体を用いる。特定の抗体が別の抗体と同じエピトープを認識する能力は典型的には、第一の抗体が抗原に対する第二の抗体の結合を競合的に阻害する能力によって決定される。同じ抗原に対する2つの抗体の間の競合を測定するためには任意の多数の競合結合アッセイが用いられ得る。例えば、サンドイッチELISAアッセイをこの目的に用いてもよい。これは、捕獲抗体を用いてウェルの表面をコーティングすることによって行われる。次いで標的化抗原の飽和未満の濃度を捕獲表面に加える。このタンパク質は、特異的な抗体:エピトープの相互作用を通じて抗体に結合される。洗浄後、検出可能部分(例えば検出抗体として規定されている標識抗体を有するHRP)に共有結合されている第二の抗体をELISAに添加する。この抗体が捕獲抗体と同じエピトープを認識する場合、その特定のエピトープはもはや結合に利用されないので、標的タンパク質に結合できない。しかし、この第二の抗体が標的タンパク質上の異なるエピトープを認識する場合、結合することが可能であって、この結合は関連基質を用いて活性(従って、結合した抗体)のレベルを定量することによって検出できる。バックグラウンドは捕獲抗体および検出抗体の両方として単一の抗体を用いることによって規定されるが、最大シグナルは、抗原特異的抗体で捕獲することおよび抗原上のタグに対する抗体を用いて検出することによって達成され得る。バックグラウンドおよび最大シグナルを参照として用いることによって、抗体をペアワイズ様式で評価してエピトープの特異性を決定しうる。
【0090】
第一の抗体は、上記の任意のアッセイを用いて第一の抗体の存在下で抗原に対する第二の抗体の結合が少なくとも30%まで、通常は少なくとも約40%、50%、60%または75%、そして多くの場合少なくとも約90%まで減少される場合、第二の抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。
【0091】
エピトープマッピング
本発明のいくつかの態様では、公知の抗体、例えばc19/2と同じエピトープに結合する抗体を使用する。エピトープをマッピングする方法は当技術分野において周知である。例えば、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGM-CSF)の機能的に活性な領域の局在化に対する一つのアプローチは、抗hGM-CSFモノクローナル抗体を中和することによって認識されたエピトープをマッピングすることである。例えば、c19/2(これは、中和抗体LMM102と同じ可変領域を有する)が結合するエピトープは、細菌で合成されたhGM-CSFの酵素消化によって得られたタンパク質分解性フラグメントを用いて規定されている(Dempsey, et al., Hybridoma 9:545-558, 1990)。トリプシン消化のRP-HPLC分画によって、66個のアミノ酸(タンパク質の52%)を含有する免疫反応性の「トリプシンコア」ペプチドが特定された。この「トリプシンコア」をS. aureusのV8プロテアーゼでさらに消化すると、残基88と121との間で結合されたジスルフィドによって連結される2つのペプチドである、残基86〜93および112〜127を含んでいる固有の免疫反応性hGM-CSF産物が生じた。この個々のペプチドは、抗体によって認識されなかった。
【0092】
結合親和性の決定
いくつかの態様では、本発明での使用に適切な抗体は、ヒトGM-CSFまたはGM-CSFレセプターについて高い親和性結合を有する。抗体の解離定数(KD)が<1nM、および好ましくは<100pMである場合、抗体と抗原との間には高い親和性が存在する。抗体の標的抗原に対する結合親和性を決定するためには、当業者に周知である通り、表面プラズモン共鳴アッセイ、飽和アッセイ、またはイムノアッセイ、例えばELISAまたはRIAなどの種々の方法が用いられうる。結合親和性を決定するための例示的な方法は、Krinner et al., (2007) Mol. Immunol. Feb;44(5):916-25.(Epub 2006年5月11日)に記載されるように、CM5センサーチップを用いてBIAcore(商標)2000装置(Biacore AB, Freiburg, Germany)での表面プラズモン共鳴分析によるものである。
【0093】
中和抗体を特定するための細胞増殖アッセイ
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストはGM-CSFまたはそのレセプターに対する中和抗体であって、この抗体はGM-CSFの結合を妨害する様式で結合する。中和抗体は、GM-CSF機能を評価する任意の多数のアッセイを用いて特定され得る。例えば、GM-CSFレセプターシグナリングに関する細胞ベースのアッセイ、例えば限定量のGM-CSFに応答するGM-CSF依存性の細胞株の増殖の速度を決定するアッセイが都合よく用いられる。ヒトTF-1細胞株は、このようなアッセイでの使用に適切である。Krinner et al., (2007) Mol. Immunol.を参照のこと。いくつかの態様では、本発明の中和抗体は、90%の最大TF-1細胞増殖を刺激するGM-CSF濃度が用いられる場合、GM-CSF-刺激性TF-1細胞増殖を少なくとも50%まで阻害する。他の態様では、この中和抗体は、GM-CSF刺激された増殖を少なくとも90%まで阻害する。本発明での使用に適切な中和抗体の特定における使用のために適切な追加のアッセイは当業者に周知である。
【0094】
例示的な抗体
本発明における使用のための抗体は、当技術分野において公知であり、かつ慣用的な技術を用いて産生され得る。例示的な抗体が記載される。例示的な抗体は、当技術分野において公知の手順に従って操作されてもよく、いずれかの化学的技術または組み換え技術によって抗体フラグメント、キメラなどを産生することが本明細書においてまとめられている。
【0095】
GM-CSFアンタゴニストとしての使用のために適切な例示的なキメラ抗体はc19/2である。c/19/2抗体は、表面プラズモン共鳴分析によって決定して約10pMという単価結合親和性でGM-CSFに結合する。SEQ ID NO 1および2は、c19/2の重鎖および軽鎖の可変領域配列を示す(例えば、国際公開公報第03/068920号)。CDRは、Kabatに従って規定されており、以下である:

【0096】
CDRはまた、当技術分野において他の周知の定義、例えばChothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを用いて決定され得る。
【0097】
c19/2によって認識されるGM-CSFエピトープは、残基88と121との間で結合されたジスルフィドによって連結される2つのペプチドである、残基86〜93および112〜127を有する産物として特定されている。c19/2抗体は、細胞が0.5ng/mlのGM-CSFで刺激されたとき、30pMというEC50でヒトTF-1白血病細胞株のGM-CSF依存性の増殖を阻害する。いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSF抗体は、少なくとも約50%、または少なくとも約75%、80%、90%、95%、もしくは100%というキメラc19/2のアンタゴニスト活性を保持する。
【0098】
投与のための抗体、例えばc19/2は、さらにヒューマニア化されてもよい。例えば、c19/2抗体は、ヒトV遺伝子セグメントを含有するようにさらに操作されてもよい。
【0099】
いくつかの態様では、本発明の方法での使用のためのヒューマニア化抗GM-CSF抗体の重鎖は、重鎖V領域を含み、この領域は以下のエレメントを含む:
1)FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3を含んでいるヒト重鎖Vセグメント配列
2)アミノ酸配列R(Q/D)RFPYを含んでいるCDRH3領域
3)ヒト生殖細胞系J遺伝子セグメントが寄与するFR4。
【0100】
相補性VL領域と一緒に上記のCDR3-FR4セグメントを組み合わせてGM-CSFに対する結合を支持するVセグメント配列の例を図9に示す。Vセグメントは、例えばヒトVH1サブクラス由来であってもよい。いくつかの態様では、Vセグメントは、生殖細胞系セグメントVH1 1-02またはVH1 1-03に対して高い程度のアミノ酸配列同一性、例えば少なくとも80%、85%、もしくは90%またはそれ以上の同一性を有するヒトVH1サブクラスセグメントである。いくつかの態様では、Vセグメントは、VH1 1-02またはVH1 1-03とは、15残基を超えず、好ましくは7残基を超えない残基で、異なる。
【0101】
本発明の抗体の本明細書に記載されるような重鎖のFR4配列は、ヒトJH1、JH3、JH4、JH5もしくはJH6遺伝子生殖細胞系セグメント、またはヒト生殖細胞系JHセグメントに対してアミノ酸配列同一性が高い配列によって提供され得る。いくつかの態様では、Jセグメントはヒト生殖細胞系JH4配列である。
【0102】
上記で示される配列を含むCDRH3はまた、ヒトJセグメント由来の配列を含んでもよい。典型的には、CDRH3-FR4配列はBSDを除いて、ヒト生殖細胞系Jセグメントとは2つまでのアミノ酸が異なる。典型的な態様では、CDRH3におけるJセグメント配列は、FR4配列に用いられる同じJセグメント由来である。従って、いくつかの態様では、CDRH3-FR4領域は、BSDおよび完全ヒトJH4生殖細胞系遺伝子セグメントを含む。CDRH3およびFR4配列の例示的な組み合わせは下に示しており、BSDは太字で、ヒト生殖細胞系JセグメントJH4残基は下線を付している:

【0103】
いくつかの態様では、本発明における使用のための抗体は、生殖細胞系セグメントVH1-02もしくはVH1-03に対して、またはVH#1、VH#2、VH#3、VH#4、もしくはVH#5のVセグメント部分などの、図9に示されるVH領域のVセグメントの一つに対して、少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有するVセグメントを含むVHを有する。いくつかの態様では、VH領域のVセグメントは図9に示されるようなCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、配列

を有するCDR1を有しても;または配列

を有するCDR2を有してもよい。さらなる態様では、抗GM-CSF抗体は、図9に示されるVH領域のVセグメントの一つ由来のCDR1およびCDR2の両方、ならびにR(Q/D)RFPY、例えば、

を含むCDR3を有してもよい。従って、いくつかの態様では、本発明における使用のための抗GM-CSF抗体は、図9に示されるように、例えば、配列

を有するCDR3-FR4、ならびにCDR1および/またはCDR2を有してもよい。
【0104】
いくつかの態様では、本発明における使用のためのヒューマニア化抗体のVH領域は、結合特異性決定基R(Q/D)RFPYを有するCDR3、ヒト生殖細胞系VH1セグメント由来のCDR2、またはヒト生殖細胞系VH1由来のCDR1を有する。いくつかの態様では、CDR1およびCDR2の両方がヒト生殖細胞系VH1セグメント由来である。
【0105】
いくつかの態様では、本発明における使用のためのヒューマニア化抗GM-CSF抗体の軽鎖は、以下のエレメントを含む軽鎖V領域を含む:
1)

を含んでいるヒト軽鎖Vセグメント配列
2)配列FNKまたはFNR、例えば

を含んでいるCDRL3領域
3)ヒト生殖細胞系J遺伝子セグメントが寄与するFR4。
【0106】
このVL領域はVλまたはVκのいずれかのVセグメントを含む。相補的なVH領域と組み合わせて結合を支持するVκ配列の例を図9に示す。
【0107】
上記のVL領域CDR3配列は、Jセグメント由来の配列を含み得る。典型的な態様では、このCDRL3中のJセグメント配列はFR4について用いられる同じJセグメント由来である。従って、この配列はいくつかの態様では、ヒトκ生殖細胞系VセグメントおよびJセグメント配列とは2アミノ酸まで異なる場合がある。いくつかの態様では、CDRL3-FR4領域は、BSDおよび完全ヒトJK4生殖細胞系遺伝子セグメントを含む。κ鎖についての例示的なCDRL3-FR4の組み合わせを下に示しており、ここで、最小必須結合特異性決定基は太字で示し、JK4配列は下線を付している:

VκセグメントはVKIIIサブクラスのものが典型的である。いくつかの態様では、このセグメントはヒト生殖細胞系VKIIIサブクラスに対して少なくとも80%の配列同一性、例えば、ヒト生殖細胞系VKIIIA27配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。いくつかの態様では、Vκセグメントは、VKIIIA27とは18残基まで異なってもよい。他の態様では、本発明の抗体のVセグメントのVL領域は、図9に示されるVL領域のヒトκVセグメント配列、例えば、VK#1、VK#2、VK#3、またはVK#4のVセグメント配列に対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。いくつかの態様では、VL領域のVセグメントは図9に示されるようなCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、

のCDR1配列;またはSTSSRATのCDR2配列を有し得る。特定の態様では、本発明の抗GM-CSF抗体は、図9に示されるVL領域のVセグメントの一つに示されるような組み合わせでCDR1およびCDR2、ならびにFNKまたはFNRを含むCDR3配列を有してもよく、例えば、CDR3は

であってもよい。いくつかの態様では、このようなGM-CSF抗体は、

であるFR4領域を含んでもよい。従って、本発明の抗GM-CSF抗体は、例えば、図9に示されるVL領域の一つ由来のCDR1およびCDR2の両方、ならびに

であるCDR3-FR4領域を含んでもよい。
【0108】
従って、本発明における使用のための抗体は、図9に示されるように、VH領域VH#1、VH#2、VH#3、VH#4、またはVH#5のいずれかを含みうる。いくつかの態様では、本発明の抗体は、図9に示されるVL領域VK#1、VK#2、VK#3、またはVK#4のいずれかを含みうる。いくつかの態様では、抗体は、図9に示されるようなVH領域VH#1、VH#2、VH#3、VH#4、またはVH#5;ならびに図9に示されるようなVL領域VK#1、VK#2、VK#3、またはVK#4を有する。
【0109】
別の例示的な中和性の抗GM-CSF抗体は、Li et al.,(2006)PNAS 103(10):3557-3562に記載されるE10抗体である。E10はGM-CSFに870pMの結合親和性を有するIgGクラスの抗体である。この抗体は、ELISAアッセイで示されるようにヒトGM-CSFに対する結合に特異的であり、TF1細胞増殖アッセイで評価した場合に強力な中和活性を示す。
【0110】
さらなる例示的な中和性の抗GM-CSF抗体は、Krinnerら(Mol Immunol. 44:916-25, 2007; Epub 2006 May 112006)によって記載されるMT203抗体である。MT203はピコモルの親和性でGM-CSFに結合するIgG1クラスの抗体である。この抗体は、TF-1細胞増殖アッセイ、およびそれがU937細胞においてIL-8産生をブロックする能力によって評価した場合、強力な阻害活性を示す。追加のGM-CSF抗体は例えば、Steidlらの国際公開公報第2006122797号によって記載される。MOR04357(Steidl et al., Molec. Immunol., 2008 Nov;46(1):135-44. Epub 2008 Aug 21.)も本発明の方法で用いてもよい。
【0111】
本発明での使用に適切なさらなる抗体は、当業者に公知である。
【0112】
抗GM-CSFレセプター抗体であるGM-CSFアンタゴニストも本発明で使用され得る。このようなGM-CSFアンタゴニストとしては、GM-CSFレセプターα鎖またはβ鎖に対する抗体が含まれる。いくつかの態様では、本発明における使用のためのGM-CSFレセプター抗体はα鎖に対する。本発明で使用される抗GM-CSFレセプター抗体は、上記で例示されるような任意の抗体の形式、例えば、インタクトな抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、ヒト化抗体、ヒューマニア化抗体などであってもよい。本発明における使用に適切な抗GM-CSFレセプター抗体の例、例えば中和抗体、高親和性抗体が公知である(例えば、米国特許第5,747,032号、およびNicola et al., Blood 82:1724, 1993を参照のこと)。
【0113】
非抗体GM-CSFアンタゴニスト
GM-CSFとそのレセプターとの生産的な相互作用を妨害し得る他のタンパク質としては、変異体GM-CSFタンパク質および分泌型タンパク質が含まれ、このタンパク質は、GM-CSFに結合して細胞表面レセプターに対する結合と競合するGM-CSFレセプター鎖の一方または両方の細胞外部分の少なくとも一部を含んでいる。例えば、可溶性GM-CSFRアンタゴニストは、sGM-CSFRαのコード領域とマウスIgG2aのCH2-CH3領域とを融合することによって調製され得る。例示的な可溶性GM-CSFレセプターは、Raines et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci USA 88:8203に記載されている。GM-CSFRα-Fc融合タンパク質の例は、例えば、Brown et al., Blood 85:1488, 1995; Monfardini et al., J. Biol. Chem 273:7657-7667, 1998;およびSayani et al., Blood 95:461-469, 2000に提供される。いくつかの態様では、このような融合物のFc成分は、Fcレセプターに対する結合を調節するために、例えば結合を増大するために、操作され得る。
【0114】
他のGM-CSFアンタゴニストとしては、GM-CSF変異体が含まれる。例えば、Hercus et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 91:5838, 1994によって記載される、GM-CSFのアミノ酸残基21のアルギニンまたはリジンへの変異(E21RまたはE221K)を有するGM-CSFは、マウス異種移植モデルにおいて、GM-CSF依存性白血病細胞の播種を妨げるインビボ活性を有することが示されている(Iversen et al. Blood 90:4910, 1997)。当業者によって理解されるように、そのようなアンタゴニストとしては、アミノ酸残基21について示される置換などの置換を有するGM-CSFの保存的改変変種、または例えば半減期を延長するためのアミノ酸アナログを有するGM-CSF変種も含まれうる。
【0115】
他のGM-CSFペプチドインヒビター、例えば環状ペプチド、例えばMonfardini, et al., J. Biol. Chem. 271:1966-1971、1996も公知である。
【0116】
他の態様において、GM-CSFアンタゴニストは、抗体と類似の様式で抗原を標的化して結合する「抗体模倣物」である。一部のこれらの「抗体模倣物」は、抗体の可変領域のための代替タンパク質フレームワークとして非免疫グロブリンタンパク質骨格を使用する。例えば、Kuら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(14):6552-6556(1995))は、シトクロムb562のループの2つを無作為化して、ウシ血清アルブミンに対する結合について選択された、シトクロムb562に基づく抗体の代替物を開示している。個々の変異体は、抗BSA抗体と同様にBSAと選択的に結合することが見出された。
【0117】
米国特許第6,818,418号および第7,115,396号は、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン様タンパク質骨格および少なくとも一つの可変ループを特色とする抗体模倣物を開示している。アドネクチンとして公知のこれらのフィブロネクチンベースの抗体模倣物は、任意の標的化リガンドに対する高い親和性および特異性を含めて、天然抗体または改変抗体と同じ特徴の多くを示す。これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣物の構造は、IgG重鎖の可変領域の構造と類似している。従って、これらの模倣物は、天然抗体と性質および親和性が類似している抗原結合特性を示す。さらに、これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣物は、抗体および抗体フラグメントを上回るある種の利点を示す。例えば、これらの抗体模倣物は、天然折りたたみの安定性について、ジスルフィド結合に依存せず、従って通常では抗体を分解する条件下で安定である。加えて、これらのフィブロネクチンベースの抗体模倣物の構造はIgG重鎖の構造と類似しているため、インビボでの抗体の親和性成熟の過程に類似しているループの無作為化およびシャフリングの過程をインビトロで使用しうる。
【0118】
Besteら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96(5):1898-1903(1999))は、リポカリン骨格に基づく抗体模倣物(Anticalin(登録商標))を開示している。リポカリンは、βバレルとタンパク質の末端における4つの超可変ループから構成される。ループはランダム突然変異誘発に供され、例えばフルオレセインとの結合について選択された。3つの変種がフルオレセインとの特異的結合を示し、一つの変種が抗フルオレセイン抗体と類似の結合を示した。さらなる解析から、無作為化の位置は全て異なることが明らかになり、これによってAnticalin(登録商標)が抗体の代替物としての使用に適していることが示された。従って、Anticalin(登録商標)は典型的に160〜180残基の小さな一本鎖ペプチドであり、生成コストの削減、貯蔵安定性の増大および免疫学的反応の低下を含めた、抗体を上回るいくつかの利点をもたらす。
【0119】
米国特許第5,770,380号は、カリックスアレーンの強固な非ペプチド有機骨格を、結合部位として用いる複数の可変ペプチドループと付着させて用いる合成抗体模倣物を開示している。ペプチドループは全て、お互いに、カリックスアレーンの幾何学的に同じ側から突出している。この幾何学的確認(confirmation)のために、全てのループが結合に利用でき、リガンドに対する結合親和性が増加する。しかし、他の抗体模倣物と比較して、カリックスアレーンベースの抗体模倣物はペプチドだけからなるわけではなく、従ってプロテアーゼ酵素による攻撃に安定である。この骨格は純粋にペプチドからなるわけでも、DNAからなるわけでも、またはRNAからなるわけでもなく、このことは、この抗体模倣物が極端な環境条件において比較的安定であり、寿命が長いことを意味している。さらに、カリックスアレーンベースの抗体模倣物は比較的小さいため、免疫原性反応を生じる可能性が低い。
【0120】
Muraliら(Cell Mol Biol 49(2):209-216(2003))は、抗体を縮小してより小さなペプチド模倣物にする方法論を記載し、彼らは、この模倣物を「抗体様結合ペプチド模倣物」(ABiP)と命名しており、これもまた抗体の代替物として有用であり得る。
【0121】
国際公開公報第00/60070号は、CTL4A様βサンドイッチ構造を有するポリペプチド鎖を開示している。このペプチド骨格は、6〜9個のβ鎖を有し、2つ以上のポリペプチドβループが他の分子のための結合ドメイン、例えば抗原結合フラグメントを構成する。この骨格の基本的な設計はヒト由来であるため、免疫応答を誘発するリスクを軽減する。βサンドイッチ骨格は、標準的な抗体に比較した場合、インビボで改善された安定性および薬物動態学的特性を有し得る。なぜならこの分子は第二の非免疫グロブリンジスルフィド架橋を含有するからである。抗原結合ドメインは、単一ペプチド鎖の反対末端に位置し得るので、βサンドイッチはまた、二重特異性の単量体分子の設計を容易にする。
【0122】
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークに加えて、RNA分子および非天然オリゴマーを含む化合物においても抗体特性が模倣されている(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体およびβターン模倣物)。従って、非抗体GM-CSFアンタゴニストにはそのような化合物も含まれ得る。
【0123】
III. 治療的投与
本発明の方法は、心不全を有するか、もしくは心臓発作などの虚血エピソードに起因する心不全を発症するリスクのある患者、または心筋症、例えば拡張型心筋症を有する患者に対して薬学的組成物としてGM-CSFアンタゴニスト(例えば、抗GM-CSF抗体)を、疾患の処置に適切な投与計画を用いて治療有効量で投与することを含む。この組成物は、種々の薬物送達系での使用のために処方され得る。一つまたは複数の生理学的に許容される賦形剤または担体も適切な処方のために組成物中に含んでもよい。本発明における使用に適切な処方物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, Philadelphia, PA. Lippincott Williams&Wilkins, 2005に見出される。薬物送達の方法の簡潔な総説については、Langer, Science 249:1527-1533(1990)を参照のこと。
【0124】
本発明の方法において使用するためのGM-CSFアンタゴニストは、注射用滅菌等張水溶液など、患者への注射に適切な溶液中で提供される。許容される担体中に、GM-CSFアンタゴニストを適切な濃度で溶解または懸濁する。いくつかの態様において、担体は水性であり、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などである。組成物は、pH調製および緩衝剤、浸透圧調整剤などのような、生理的状態に近づけるために必要とされる補助的な薬学的物質を含有しうる。
【0125】
本発明のGM-CSFアンタゴニスト薬学的組成物は、心不全を有する患者および/または虚血エピソードを経験しているかもしくは心筋症を有する患者に対して、心不全およびその合併症の症状を少なくとも部分的に停止するか、または心不全の症状の発現を少なくとも部分的に遅らせるかもしくは停止するのに十分な量で投与される。これを達成するのに適切な量を「治療有効用量」と定義する。治療有効用量は、治療に対する患者の反応をモニターすることにより決定される。典型的な基準は、左室駆出率である。この用途のための有効な量は、年齢、体重、性別、投与経路などの他の要因を含め、疾患の重症度および患者の健康の全般的状態に依存する。患者により必要とされかつ耐容される投与量および頻度に応じて、アンタゴニストの単回投与または複数回投与を行うことができる。いずれにしても、本方法は、患者を効果的に治療するための十分量のGM-CSFアンタゴニストを提供する。
【0126】
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、患者が虚血エピソード、例えば急性心筋梗塞に罹患した後に投与される。例えば、GM-CSFアンタゴニスト、すなわち抗GM-CSF抗体は、心臓発作の2週間内、多くの場合1週間内、およびいくつかの態様では、約48時間内または約24時間以内に投与され得る。患者は、GM-CSFアンタゴニストを用いて引き続く追加の処置を受けてもよい。
【0127】
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、例えば、本明細書において記載のガイドラインのような、従来の診断ガイドラインを用いて心不全と診断された患者に投与される。このような患者は心臓発作を有していた場合が多い。
【0128】
本発明のいくつかの態様では、心不全を有するかまたは虚血エピソードに起因して心不全のリスクがある患者を処置するために用いられるGM-CSFアンタゴニストを、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、β遮断剤、利尿薬、陽性変力薬、または血管拡張薬などの別の治療剤と組み合わせて提供する。従って、いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体は、スルフヒドリル含有ACE阻害薬などのACE阻害薬、例えば、カプトプリルまたはゾフェノプリル;ジカルボキシレート含有ACE阻害薬、例えば、エナラプリル、ラミプリル、キナプリル、ペリンドプリル、リシノプリル、またはベナゼプリル;ならびにリン酸含有ACE阻害薬、例えばホシノプリルで処置されている患者に投与される。他の態様では、GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体は、アンジオテンシン受容体遮断薬、例えば、カンデサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、もしくはエプロサルタン;またはβ遮断薬、例えば、ビソプロロール、カルヴェジロール、およびメトプロロールで処置されている患者に投与される。いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニスト、例えば抗GM-CSF抗体は、利尿薬、例えばループ利尿薬(例えば、フロセミド、ブメタニド);チアジド利尿薬(例えば、ヒドロクロロチアジド、クロロサリドン、クロロチアジド);カリウム保持性利尿薬(例えば、アミロリド);および/またはスピロノラクトンもしくはエプレレノンで処置されている患者に投与される。当技術分野において理解される通り、患者はGM-CSFアンタゴニストを投与されることに加えてこのような剤の種々の組み合わせで処置されてもよい。
【0129】
患者はGM-CSFアンタゴニストおよび一つまたは複数の追加の別の治療剤を同時にまたは連続のいずれで用いて処置を受けてもよい。いくつかの態様では、患者は、ある薬剤で最初に処置され、次いで、例えば、他の治療剤の有害な副作用に起因して、その治療剤での処置が停止された後にGM-CSFアンタゴニストでの処置を受けてもよい。いくつかの態様では、患者がGM-CSFアンタゴニスト、例えばGM-CSF抗体での処置も受ける場合、患者に典型的に投与される治療剤の量に比較して、より低用量および/または低頻度の投薬量の追加の治療剤を用いてもよい。当技術分野において理解される通り、GM-CSFアンタゴニストの投与の用量および頻度は、心不全の処置のための別の治療剤と組み合わせて用いる場合、調節され得る。
【0130】
A. 投与
いくつかの態様では、GM-CSFアンタゴニストは、限定するものではないが、静脈内、皮下、筋肉内または腹腔内の経路を含む任意の適切な経路を通じて注射または注入によって投与される抗体である。
【0131】
例示的な態様では、抗体は、4℃で注射用の無菌の等張性生理食塩水溶液中で10mg/mlで保管され、患者への投与の前に100mlまたは200mlのいずれかの0.9%の注射用塩化ナトリウム中で希釈される。抗体は、0.2〜10mg/kgの用量で1時間の経過にわたって静脈内注入によって投与される。他の態様では、抗体は、15分〜2時間の期間にわたって静脈内注入によって投与される。さらに他の態様では、投与手順は皮下のボーラス注射による。
【0132】
B. 投薬
患者に効果的な治療を提供するためにアンタゴニストの用量を選択し、用量は、体重1kgあたり0.1mg未満〜体重1kgあたり25mgの範囲、または患者あたり1mg〜2gの範囲である。好ましくはこの用量は、1〜10mg/kgまたは約50mg〜1000mg/患者の範囲である。用量は、アンタゴニストの薬物動態(例えば、循環中の抗体の半減期)および薬力学的反応(例えば、抗体の治療効果の持続)に応じて、1日に1回〜3ヵ月ごとに1回の範囲であり得る適切な頻度で繰り返すことができる。アンタゴニストが抗体または改変抗体フラグメントであるいくつかの態様では、約7〜約25日というインビボ半減期および抗体の投薬を1週間に1度〜3ヵ月に1度繰り返す。他の態様では、抗体を1ヵ月に約1度投与する。
【実施例】
【0133】
実施例1: GM-CSF抗体は、心臓リモデリングを低減し、かつ左室機能を改善する
本研究は、GM-CSFの効果を遮断することが急性心筋梗塞(MI)を有するラットで左室(LV)リモデリングおよび血行動態を変化させるか否かを決定するように設計した。
【0134】
急性MIをラットの左冠動脈を結紮することによって創出した;抗ラットGM-CSF抗体(Mab518 R&D Systems Inc; 5mg/kg)を用いた処置を冠動脈結紮の24時間前に開始した。抗体のMab518はGM-CSF中和抗体である。0.8μg/mlのMab 518は、マウスDA-3細胞増殖アッセイにおいて0.5ng/mlのラットGM-CSFの活性を50%より多く阻害する。抗体を、3週間、週に3回腹腔内(i.p.)投与によって投与した。閉鎖型胸部心エコー図および固体状態マイクロナノメーターを用いて、結紮3週後に結果因子を測定した。各々の群でN=6〜10である。図1は、処置群の間の全体的な左室機能を示す。図2および3はそれぞれ、処置群の左室収縮期圧および左室収縮期径を示す。
【0135】
これらの実験では、GM-CSF抗体は左室駆出率を有意に増大し(37±3対47±5%)(P<0.05)(図1)、かつ左室収縮末期径を有意に低下し(0.75±0.12対0.59+0.05cm)(P<0.05)(図3)、ここで左室収縮期圧(109+4対104+5mmHg)(図2)、左室拡張末期径(0.96+0.04対0.92+0.05cm)(図4)、左室拡張期末圧(22+4対21+2mmHg)(図5)、またはτ(25.4+2.4対22.7±1.4msec)(図6)には変化はなかった。
【0136】
これらの研究によってGM-CSFに対する抗体での処置は左室駆出率を改善し、かつ左室リモデリングを部分的に逆転する(例えば、LV収縮末期径を低下する)ことが示される。
【0137】
研究の終わりに、心臓を切除して、左室を免疫組織化学分析のために処理した。免疫組織化学分析は、製造業者の説明に従って、ラットCD68(ED1; Serotec)およびGs-1レクチンに対する抗体を用いて行った。ミリガンの三重染色を用いて梗塞の領域を特定した。
【0138】
ミリガンの三重染色で染色した左室の切片を図7に示す。有意な梗塞は、冠動脈の結紮の3週後、ビヒクル処理した動物で薄くなった心筋の領域によって示される。抗GM-CSF抗体処置の効果は、梗塞領域での心筋壁の厚みを決定することによって、ならびにコラーゲンおよび筋線維について染色することによって検出された。複数の動物由来の心臓における心筋壁の厚みの測定では対照群と処置群との間で有意な相違は特定されなかった。
【0139】
CD68陽性の活性化マクロファージを、大きな梗塞を示す選択された5匹の動物由来の心臓の梗塞領域で定量した(薄くなった心筋の有意な領域)。梗塞域の3つの別個の領域を各々の心臓における形態学的分析のために選択して、CD68陽性細胞の平均数をスコア付けした。血管は、Gs-1レクチンを用いて同様の様式で分析した。微小血管の密度を3つの代表的な心臓の梗塞領域についてスコア付けした。
【0140】
心臓の梗塞領域へ浸潤するCD68陽性マクロファージの数に対する抗GM-CSF抗体処置の効果を図8に示す。ラットの冠動脈結紮モデルで以前に記載された通り(Naito et al., Immunol 181:5691-5701, 2008)、冠動脈の結紮の3週後に対照動物の心臓の切片で、多数のCD68陽性マクロファージの浸潤が観察された。Mab518での処置は、ビヒクル処理した動物由来の心臓に比較して浸潤するマクロファージの数の顕著な減少を、対照心臓での細胞195個/0.105mm2視野という平均から抗GM-CSF処置した動物由来の心臓での細胞81個/0.105mm2という平均までもたらした。処置動物または対照動物由来の梗塞した心筋で微小血管密度における有意な相違は観察されなかった。
【0141】
理論的に拘束されることはないが、これらのデータは心筋梗塞後のGM-CSFの中和が浸潤ならびに梗塞組織における組織マクロファージの活性化を減少することによってリモデリングを阻害するように機能するモデルと一致する。
【0142】
実施例2: GM-CSFに対する例示的なヒューマニア化抗体
c19/2の特異性を有するヒューマニア化Fab'分子のパネルを、米国特許出願第20060134098号に記載のようなエピトープ集束ヒトVセグメントライブラリーから作製した。
【0143】
Fab'フラグメントを大腸菌(E. coli)から発現した。細胞を2×YT培地中でOD600 0.6まで増殖した。IPTGを用いて33℃で3時間発現を誘導した。アセンブルされたFab'をペリプラズム画分から得て、標準的な方法に従ってレンサ球菌プロテインG(HiTrap Protein G HPカラム; GE Healthcare)を用いてアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。Fab'をpH2.0の緩衝液中で溶出して、直ちにpH7.0に調節し、PBS pH7.4に対して透析した。
【0144】
結合の反応速度論はBiacore 3000表面プラズモン共鳴(SPR)によって分析した。組み換えヒトGM-CSF抗原をビオチン化して、ストレプトアビジンCM5センサーチップ上に固定した。Fabサンプルを希釈して3nMの開始濃度まで希釈して、3倍階段希釈を行った。アッセイは10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.1mg/mLのBSAおよび0.005%のp20中でpH7.4でかつ37℃で行った。各々の濃度を2回試験した。Fab'結合アッセイは、2つの抗原密度表面で行って二連のデータセットを得た。6つのヒューマニア化抗GM-CSF Fabクローンの各々についての平均親和性(KD)を、1:1 Langmuir結合モデルを用いて算出し、表1に示す。
【0145】
FabはTF-1細胞増殖アッセイを用いてGM-CSF中和について試験した。ヒトTF-1細胞のGM-CSF依存性増殖は、MTSアッセイ(Cell titer 96, Promega)を用いて0.5ng/mlのGM-CSFとともに4日間インキュベーションした後に測定して、生きた細胞を決定した。全てのFabがこのアッセイで細胞増殖を阻害し、これらが中和抗体であることを示していた。細胞ベースのアッセイにおいて抗GM-CSF Fabの相対的な親和性とEC50との間には良好な相関がある。18pM〜104pMの範囲の単価親和性を有する抗GM-CSF抗体は、細胞ベースのアッセイにおいてGM-CSFの有効な中和を示す。
【0146】
(表1)GM-CSF依存性TF-1細胞増殖アッセイにおける活性(EC50)と比較した表面プラズモン共鳴分析によって決定した抗GM-CSF Fabの親和性

【0147】
実施例3: 抗GM-CSF抗体の送達のための臨床プロトコール
抗GM-CSF抗体は、注射用無菌等張性生理食塩水溶液中で10mg/mlで4℃で保管され、急性心筋梗塞に罹患している患者への投与の前に100mlまたは200mlのいずれかの0.9%注射用塩化ナトリウム中で希釈される。追加の標準的な薬学的に許容される賦形剤(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(上記)を参照のこと)も含まれてもよい。抗体は0.2〜10mg/kgの間の用量で1時間の経過にわたって静脈内注入によって患者に投与される。
【0148】
上記の実施例は例示によって示されるに過ぎず、限定されるものではない。当業者は本質的に同様の結果を得るように変化または改変され得る種々の重要でないパラメーターを容易に認識する。
【0149】
本明細書中に引用される全ての刊行物、特許出願、アクセッション番号、および他の引用文献は、あたかも各々の個々の刊行物または特許出願が具体的にかつ個々に示されて参照により組み入れられるかのように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0150】
抗GM-CSF可変領域配列の例
SEQ ID NO 1:マウス19/2の重鎖可変領域のアミノ酸配列

SEQ ID NO 2:マウス19/2の軽鎖可変領域のアミノ酸配列


【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全を有しているか、虚血エピソードに続く心不全のリスクがあるか、または心筋症を有している患者を処置するための方法であって、該患者に対して治療有効量のGM-CSFアンタゴニストを投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
患者が虚血エピソードを有したことがある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が急性心筋梗塞を有したことがある、請求項2記載の方法。
【請求項4】
GM-CSFアンタゴニストが、急性心筋梗塞の発症から24時間以内に投与される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
患者が、ニューヨーク・ハート・アソシエーション分類を参照して決定した場合、クラスII、クラスIII、またはクラスIVの心不全を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者がアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤で処置されている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
GM-CSFアンタゴニストが抗GM-CSF抗体である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗体がナノボディまたはラクダ抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABである抗体フラグメントである、請求項7記載の方法。
【請求項11】
抗体フラグメントがポリエチレングリコールにコンジュゲートされる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
抗体が約100pM〜約10nMの親和性を有する、請求項7記載の方法。
【請求項13】
抗体が約0.5pM〜約100pMの親和性を有する、請求項7記載の方法。
【請求項14】
抗体が中和抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項15】
抗体が組み換え抗体またはキメラ抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項16】
抗体がヒト可変領域を含む、請求項7記載の方法。
【請求項17】
抗体がヒト軽鎖定常領域を含む、請求項7記載の方法。
【請求項18】
抗体がヒト重鎖定常領域を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
ヒト重鎖定常領域がγ鎖である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
抗体がキメラ19/2と同じエピトープに結合する、請求項7記載の方法。
【請求項21】
抗体がキメラ19/2のVHおよびVL領域を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
抗体がヒト重鎖定常領域を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ヒト重鎖定常領域がγ領域である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
抗体が、キメラ19/2のVH領域およびVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3を含む、請求項20記載の方法。
【請求項25】
抗体が、キメラ19/2のVH領域CDR3およびVL領域CDR3を含む、請求項20記載の方法。
【請求項26】
抗体がヒト抗体である、請求項7記載の方法。
【請求項27】
抗体が約7〜約25日の半減期を有する、請求項7記載の方法。
【請求項28】
抗体が、約1mg/kg体重〜約10mg/kg体重の用量で投与される、請求項7記載の方法。
【請求項29】
GM-CSFアンタゴニストが静脈内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
GM-CSFアンタゴニストが皮下投与される、請求項1記載の方法。
【請求項31】
GM-CSFアンタゴニストが筋肉内投与される、請求項1記載の方法。
【請求項32】
GM-CSFアンタゴニストが複数回投与される、請求項1記載の方法。
【請求項33】
GM-CSFアンタゴニストが抗GM-CSFレセプター抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項34】
GM-CSFアンタゴニストが可溶性GM-CSFレセプターである、請求項1記載の方法。
【請求項35】
GM-CSFアンタゴニストが、シトクロムb562抗体模倣物、アドネクチン、リポカリン骨格抗体模倣物、カリックスアレーン抗体模倣物、および抗体様結合性ペプチド模倣物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−516562(P2011−516562A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504135(P2011−504135)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/039819
【国際公開番号】WO2009/126659
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(506249211)カロバイオス ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (12)
【Fターム(参考)】