説明

心室伝導障害または心室細動の遺伝的素因を検査する方法、およびそのための試薬

【課題】 本発明は、心室伝導障害、心室細動の遺伝的素因または抗不整脈薬に対する感受性を検査する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明によると、被験者の、心室伝導障害、心室細動またはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因等を検査する方法であって、前記被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップと、決定された遺伝子型に基づいて、前記素因を予測するステップとを含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心室伝導障害、心室細動もしくはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因または抗不整脈薬もしくはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査する方法、ならびに当該検査方法に供することのできるオリゴヌクレオチド、試薬およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
心拍動の興奮および伝導は、心臓のナトリウムチャネルの適切な機能に決定的に依存している。このため、薬剤やブルガダ症候群などの先天的な疾病によるナトリウム電流の減少により、伝導が遅くなり、深刻な不整脈が引き起こされる可能性がある(非特許文献1、Vreede-Swagemakers et al., 1997)。不整脈は、心臓突然死(SCD:sudden cardiac death)の主要な病因であり、成人における全死亡数の約20%の原因となる心室細動(VF:ventricular fibrillation)を含む。
【0003】
心臓突然死は日本国内で年間約4万人の生命を一瞬にして奪う重要な社会問題であり、その多くは、致死性心室性不整脈である心室細動が原因と考えられる。明らかな器質的心疾患を有さない患者で、心室細動による突然死を発症する代表的疾患として、ブルガダ症候群(特発性心室細動)がある。ブルガダ症候群(BS:Brugada Syndrome)は、12誘導心電図のV1からV3誘導の特徴的なST上昇と心室細動を主徴とし、中高年男性の夜間突然死の原因となることから、日本で従来から報告されているポックリ病との関連が示唆されている。ブルガダ症候群は日本を含めたアジア地域でその頻度が高く、ブルガダ症候群に特徴的なST上昇の心電図異常は、日本人の1000人中1〜2人に認められることが疫学的調査で報告されている。ブルガダ症候群では、1998年に心室筋興奮伝導に関係するナトリウムチャネル遺伝子であるSCN5Aの変異が初めて報告された(非特許文献2、Chen et al., 1998)。現在までにSCN5Aの翻訳領域に80以上の変異が報告されているが、いずれの変異でもナトリウムチャネルの機能低下が心室筋興奮伝導異常(心室伝導障害)を引き起こし、心室細動の発症につながるものと考えられている。興味深いことに、このSCN5Aは、心臓伝導欠損、3型先天性QT延長症候群、一部の家族性洞機能不全症候群などの、他の致死性遺伝性不整脈疾患の共通の原因遺伝子でもある。
【0004】
このように、心臓のナトリウムチャネルをコードするSCN5A遺伝子における変異(非特許文献3、Gellens et al., 1992)により、様々な初期不整脈症候群が引き起こされる。チャネル機能の増強をもたらす変異により、QT延長症候群が引き起こされ、チャネル機能の喪失をもたらす変異により、ブルガダ症候群、心臓伝導欠損(Lenegre病)、家族性洞機能不全症候群、心房静止、家族性房室ブロックおよびこれらの様々な組み合わせが引き起こされる(非特許文献4、Tan et al., 2003)。さらに、ナトリウムチャネルの変異により心筋組織における繊維形成が増強され得ることが予備的に報告されている(非特許文献5、Bezzina et al., 2003)。
【0005】
ここで、SCN5Aのプロモーターに近接する領域(コアプロモーターを含む)が、クローン化、機能解析され、当該遺伝子の発現を制御する複数のシス作用エレメントが同定されている(非特許文献6、Yang et al, 2004)。しかしながら、これまでにSCN5Aの転写調節領域における多型は報告がなされていなかった。
【0006】
一方で、多くの抗不整脈薬はナトリウムチャネルを標的としており、これを抑制することによって抗不整脈作用を発揮する。この場合、例えばSCN5Aの軽度の機能異常により潜在的なナトリウムチャネルの機能異常、すなわち心室筋興奮伝導の異常が存在すると、ナトリウムチャネル抑制作用を有する抗不整脈薬の投与により、予期せぬ重篤な心室筋興奮伝導異常を惹起し、催不整脈作用として心室細動を発症する可能性がある。また、急性心筋梗塞や狭心症などの急性心筋虚血時には、心室筋興奮伝導異常の増強により、心室細動を発症することが知られているが、SCN5Aの軽度の機能異常による潜在的なナトリウムチャネル機能異常が存在する場合には、心室細動を発症する危険性が高くなることが予測される。
【0007】
【非特許文献1】Vreede-Swagemakers JJM, Gorgels AP, Duboisarbouw WI, Vanree JW, Daemen MJAP, Houben LGE, Wellens HJJ. Out-Of-Hospital Cardiac Arrest In The 1990s - A Population-Based Study In The Maastricht Area On Incidence, Characteristics And Survival. J Am Coll Cardiol 1997;30:1500-1505.
【非特許文献2】Chen Q, Kirsch GE, Zhang D, Brugada R, Brugada J, Brugada P, Potenza D, Moya A, Borggrefe M, Breithardt G, Ortiz-Lopez R, Wang Z, Antzelevitch C, O'Brien RE, Schulze-Bahr E, Keating MT, Towbin JA, Wang Q: Genetic basis and molecular mechanisms for idiopathic ventricular fibrillation. Nature 392:293-296, 1998.
【非特許文献3】Gellens, M E.; George, A. L., Jr.; Chen, L.; Chahine, M.; Horn, R.; Barchi, R. L.; Kallen, R. G. : Primary structure and functional expression of the human cardiac tetrodotoxin-insensitive voltage-dependent sodium channel. Proc. Nat. Acad. Sci. 89: 554-558, 1992.
【非特許文献4】Tan HL, Bezzina CR, Smits JPP, Verkerk AO, Wilde AAM. Genetic control of sodium channel function. Cardiovasc Res 57, 961-973, 2003.
【非特許文献5】Bezzina CR, Rook MB, Groenewegen WA, Herfst LJ, van der Wal AC, Lam J, Jongsma HJ, Wilde AA, Mannens MM. Compound heterozygosity for mutations (W156X and R225W) in SCN5A associated with severe cardiac conduction disturbances and degenerative changes in the conduction system. Circ Res. 2003 Feb 7;92(2):159-68.
【非特許文献6】Yang P, Kupershmidt S, Roden DM. Cloning and initial characterization of the human cardiac sodium channel (SCN5A) promoter. Cardiovasc Res. 2004;61:56-65.
【非特許文献7】Wilde AA, Antzelevitch C, Borggrefe M, Brugada J, Brugada R, Brugada P, et al. Proposed diagnostic criteria for the Brugada syndrome: consensus report. Circulation 2002;106:2514-2519
【非特許文献8】Bezzina CR, Verkerk AO, Busjahn A, Jeron A, Erdmann J, Hense H-W, Koopmann TT, Bhuiyan ZA, Wilders R, Mannens MMAM, Tan HL, Luft FC, Schunkert H, Wilde AAM. A common polymorphism in KCNH2 (HERG) hastens cardiac repolarization. Cardiovasc Res. 2003b;59:27-36.
【非特許文献9】Kupershmidt S, Yang T, Chanthaphaychith S, Wang Z, Towbin JA, Roden DM: Defective human Ether-a-go-go-related gene trafficking linked to an endoplasmic reticulum retention signal in the C terminus. J Biol Chem. 2002;277:27442-27448
【非特許文献10】Smits JP, Eckardt L, Probst V, Bezzina CR, Schott JJ, Remme CA, Haverkamp W, Breithardt G, Escande D, Schulze-Bahr E, LeMarec H, Wilde AA. Genotype-phenotype relationship in Brugada syndrome: electrocardiographic features differentiate SCN5A-related patients from non-SCN5A-related patients. J Am Coll Cardiol. 2002;40:350-6.
【非特許文献11】Excoffier and Slatkin, 1995
【非特許文献12】Roden DM. Acquired long QT syndrome and complex ion channel genetic disorders. J Clin Invest. In press.
【非特許文献13】Tomaselli GF, Zipes DP. What Causes Sudden Death in Heart Failure? Circ Res 2004;95:754-763.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、心室伝導障害、心室細動もしくはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因または抗不整脈薬もしくはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査する方法を提供することを目的とし、特に、心臓突然死の原因となる心室伝導障害および心室細動を発症しやすい患者、抗不整脈薬に対する副作用が起こりやすい患者、急性虚血時に心室細動を発生しやすい患者を予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の側面によると、被験者の、心室伝導障害、心室細動またはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因を検査する方法であって、
前記被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップと、
決定された遺伝子型に基づいて、前記素因を予測するステップと
を含む方法が提供される。
【0010】
本発明の他の側面によると、被験者の、抗不整脈薬またはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査する方法であって、
前記被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップと、
決定された遺伝子型に基づいて、前記感受性を予測するステップと
を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における多型部位を含む領域、またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドであって、前記多型部位が、−1062位、−847位および287位の多型部位、ならびに−835位および−836位間の多型部位からなる群から選ばれる少なくとも1つであるオリゴヌクレオチドが提供される。
【0012】
本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1062位、−847位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するための試薬が提供される。また、本発明の他の側面によると、上記試薬を含む、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を決定するためのキットが提供される。
【0013】
本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写量を調整する薬をスクリーニングする方法であって、
被検物質を供するステップと、
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域を有するポリヌクレオチドを有する細胞または動物の複数の群を供するステップであって、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、転写量および/または発現量が測定可能な遺伝子と作動可能に結合しており、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、−1418位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−1062位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−847位の多型部位の塩基がGである遺伝子型、−354位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、287位の多型部位の塩基がTである遺伝子型、および−835位および−836位間の多型部位へのGCの挿入がある遺伝子型からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する、ステップと、
前記被検物質を前記細胞または動物の少なくとも1つの群に接触させるステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群とにおいて、前記遺伝子の転写量および/または発現量を測定するステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群の前記転写量および/または発現量を比較するステップと
を含む方法が提供される。
【0014】
本発明の他の側面によると、上記スクリーニング方法により得られた、SCN5Aの転写量を調整する薬が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以下に詳細に説明するように、本発明者らによって、SCN5Aの転写調節領域および転写領域において、心室伝導速度に関与するハプロタイプが見出された。当該領域における多型部位の遺伝子型を決定することによって、心室伝導障害、心室細動もしくはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因または抗不整脈薬もしくはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記したように、本発明の一の側面によると、被験者の、心室伝導障害、心室細動またはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因を検査する方法が提供される。
【0017】
心室伝導障害とは、正常である場合と比べて、心室伝導速度が速い状態および遅い状態をいい、特に心室伝導速度が遅い場合をいう。心室伝導速度を非侵襲的に推定する方法としては、12誘導心電図のQRS時間とPQ時間の測定がある。QRS時間は心室内の伝導時間、PQ時間は心房内/房室結節内伝導時間とヒスプルキンエ系伝導時間(HV時間に相当)をあわせた伝導時間を示す指標である。侵襲的な方法としては、電気生理学的検査時のヒス−心室(HV:His-ventricle)時間がある。一般的に、QRS時間の正常範囲は70〜100msec、PQ時間の正常範囲は120〜200msec、HV時間の正常範囲は30〜50msecであり、この範囲を越える状態を、心室伝導障害とすることができる。
【0018】
心室細動とは、心室筋が無秩序に興奮していて、血液を送り出すような収縮が生じない状態をいう。心室細動の例として、急性心筋虚血時に発生する心室細動、ブルガダ症候群に伴う心室細動が挙げられる。特に好適には、本発明にかかる方法により、急性心筋虚血時に発生する心室細動の遺伝的素因を検査することができる。また、本発明にかかる方法により、被験者の、ブルガダ症候群に伴う心室細動の遺伝的素因を検査することができる。
【0019】
ブルガダ症候群とは、心室細動による突然死を発症するおそれのある代表的疾患であり、(1)器質的心疾患が見出されないこと、(2)右側胸部誘導V1−V3において、タイプ1のcoved型のST上昇が観察されること、および(3)心拍数補正されたQT時間が440msecより小さいことを特徴とする(非特許文献7、Wilde et al., 2002)。
【0020】
さらに、本発明によると、ナトリウムチャネル異常に関連する疾患、特に、心臓におけるナトリウムチャネル異常に関連する疾患の素因を検査することもできる。ナトリウムチャネル異常とは、ナトリウムチャネルの量的異常および質的(機能的)異常を含む。具体的には、ナトリウムチャネル異常に関連する疾患の例として、上記ブルガダ症候群の他、3型先天性QT延長症候群、心臓伝導欠損(Lenegre病)、家族性洞機能不全症候群、心房静止、家族性房室ブロック、3型QT短縮症候群が挙げられる。
【0021】
また、本発明の他の側面によると、被験者の、抗不整脈薬またはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査する方法が提供される。抗不整脈薬の例として、Vaughan-Williams分類Ic群のピルシカイニド(pilsicainide)、フレカイニド(flecainide)、プロパフェノン(propafenone)、Ia群のジソピラミド(disopyramide)、プロカインアミド(procainamide)、シベンゾリン(cibenzoline)、ピルメノール(pimenol)、キニジン(quinidine)、アジマリン(ajmaline)、Ib群のアプリンジン(apringine)、IV群のベプリジル(bepridil)が挙げられる。ナトリウムチャネル遮断作用を有する抗不整脈薬以外のその他の薬剤の例として、三環系、四環系抗うつ薬、フェノチアジン誘導体、選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの向精神薬などが挙げられる。ここで、感受性が大きいとは、所定の量の薬を投与した際の生体量の変化が大きい場合と、所定の量の薬を投与した際の生体量の変化は通常と変わらないが、投与前の当該生体量が通常と異なる(すなわち、大きいまたは小さい)ために、より少量の薬の投与で十分な生体量の変化が得られる場合とを含む。
【0022】
本発明にかかる上記素因または感受性を検査する方法は、被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップをさらに含む。本発明者等は、SCN5Aの転写調節領域および転写領域に、複数の多型部位を見出し、さらに、当該多型部位の遺伝子型と、心室伝導障害、心室細動もしくはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因または抗不整脈薬もしくはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性との関係を見出した。
【0023】
配列番号1に、日本人に最も広く見出されるSCN5Aの転写調節領域および転写領域の塩基配列を示す。配列番号2および3に、多型を有するSCN5Aの転写調節領域および転写領域の塩基配列を示す。本明細書中、SCN5Aの転写調節領域および転写領域の塩基の位置を、配列番号1の塩基配列中、2190番目の塩基の位置を+1位とし、+1位より5’側(上流)の塩基を順に−1位、−2位、−3位・・・とし、+1位より3’側(下流)の塩基を順に2位、3位、4位・・・として記す(非特許文献6、Yang et al., 2004)。なお、+1位は、RNaseプロテクションアッセイにより同定された主要転写開始点(major transcription initiation site)である。多型は、図1に示すように、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位、ならびに−835位および−836位間の多型部位に見出される。本明細書において、−1418位の多型部位とは、配列番号1の塩基配列の−1418位に相当する位置をいうものとする。他の多型部位についても同様である。
【0024】
配列番号1および図1,2に示すように、日本人に最も広く見出される遺伝子型は、以下の通りである(ハプロタイプAまたはTTT---GCとも記す。)。
−1418位の多型部位の塩基がTであり、
−1062位の多型部位の塩基がTであり、
−847位の多型部位の塩基がTであり、
−354位の多型部位の塩基がGであり、
287位の多型部位の塩基がCであり、および
−835位および−836位間の多型部位への挿入がない。
【0025】
また、配列番号2および図1,2に示すように、本発明者等により、配列番号1に示す塩基配列中、以下の多型を有する遺伝子型が見出された(ハプロタイプBまたはCCGinsCTとも記す。)。
−1418位の多型部位の塩基がCであり(T-1418Cとも記す)、
−1062位の多型部位の塩基がCであり(T-1062Cとも記す)、
−847位の多型部位の塩基がGであり(T-847Gとも記す)、
−354位の多型部位の塩基がCであり(G-354Cとも記す)、
287位の多型部位の塩基がTであり(C287Tとも記す)、および
−835位および−836位間の多型部位へGCの挿入がある(-835insGCとも記す)。
【0026】
さらに、配列番号3および図1,2に示すように、本発明者等により、配列番号1に示す塩基配列中、以下の多型を有する遺伝子型が見出された(ハプロタイプCまたはCTT-−−CCとも記す。)。
−1418位の多型部位の塩基がCであり、
−1062位の多型部位の塩基がTであり、
−847位の多型部位の塩基がTであり、
−354位の多型部位の塩基がCであり、
287位の多型部位の塩基がCであり、および
−835位および−836位間の多型部位への挿入がない。
【0027】
ハプロタイプBを有する遺伝子型(AB遺伝子型+BB遺伝子型)は、2つの独立の日本人群(n=182)において、21〜24%の頻度で見出された。これらの6つの多型は、ほぼ完全な連鎖不均衡にあった。また、希少な遺伝子型として、ハプロタイプCが見出された(364例中2例、0.5%)。また、ハプロタイプBが、ナトリウムチャネルの発現の低下、興奮伝導時間(すなわち、PQ時間およびQRS時間)の延長、ならびにナトリウムチャネル遮断薬投与後のQRS時間の延長の増大と有意な相関を有することが見出された。
【0028】
なお、上記したように、SCN5Aの転写調節領域および転写領域中に見出された6箇所の多型はほぼ完全に連鎖不均衡にあった。このため、上記素因または感受性を検査する際に、6箇所の多型部位の全てについて遺伝子型を決定しなくともよい。すなわち、6箇所の多型のうち少なくとも1つについて遺伝子型を決定することで、上記素因または感受性を検査することができる。なお、−1418位に相当する多型部位の塩基がCである場合、または−354位に相当する多型部位の塩基がCである場合については、厳密には、ハプロタイプBとハプロタイプCとの区別ができない。しかしながら、ハプロタイプBの頻度が21〜24%、ハプロタイプCの頻度が0.5%であることを考慮すると、これらの場合であっても、ハプロタイプBを有するものと推定することができる。しかしながら、より正確を期すために、遺伝子型を、−1062位、−847位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定することが好ましい。また、さらに正確を期すためには、より多くの多型部位について、特に6箇所の多型部位の全てについて遺伝子型を決定することができる。
【0029】
また、本発明にかかる上記素因または感受性を検査する方法は、決定された遺伝子型に基づいて、素因または前記感受性を予測するステップを含む。具体的には、被験者が、ハプロタイプBのアレルのホモ接合体またはヘテロ接合体である場合、被験者が上記素因を有するまたは感受性が高いと予測することができる。被験者が、ハプロタイプBのアレルを1つ有する場合(ヘテロ接合体)と比べて、ハプロタイプBのアレルを2つ有する場合(ホモ接合体)には、上記素因がより大きいまたは感受性がより高いと予測することができる。
【0030】
本発明にかかる遺伝子型の決定は、当業者により種々の方法を用いて行うことができる(特開2005-130764号公報、特開2004-313168号公報、特開2004-222503号公報等参照)。具体的には、当該多型部位における塩基配列を決定する方法(直接シーケンス法)の他、TaqMan PCR法、AcycloPrime法、SNaPshotTM法、Pyrosequencing法、MALDI-TOF/MS法、IIs型制限酵素を利用したSNP特異的な標識方法、磁気蛍光ビーズを使った多型部位における遺伝子型の決定法、Invader法、RCA法、RFLP、PCR-RFLP、PCR-SSCP、変性剤濃度勾配ゲル法、DNAアレイ法、ASOハイブリダイゼーション法などが知られている。以下、これらの技術について簡単に述べる。なお、遺伝子型を決定する際、多型部位における塩基の種類(すなわち、塩基がA、G、T、Cがいずれであるか)、あるいは挿入された塩基の種類を決定する必要は必ずしもない。例えば、ある多型部位における塩基の種類がTまたはCである場合には、その部位の塩基の種類が「Tでない」または「Cでない」ことを決定すれば充分である。
【0031】
遺伝子型を決定するための試料として、被験者から得られた任意の生体試料を用いることができ、生体試料の例として、被検者から得られた、血液、その他の体液、皮膚、口腔粘膜、その他の組織もしくは細胞等、またはこれらから単離もしくは精製されたゲノムDNAが挙げられる。
【0032】
[直接シーケンス法]
遺伝子型の決定は、本発明にかかる多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検者から得られた生体試料から染色体DNAを単離、クローニングし、クローニングされたDNAの塩基配列を決定する。塩基配列の決定は、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0033】
[TaqMan PCR法]
遺伝子型の決定は、TaqMan PCR法により行うことができる(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p94-105、Genet Anal. (1999)14:143-149)。TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、多型部位を含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、目的の多型部位を含む領域にハイブリダイズするように設計され、3’末端および5’末端にレポーター色素およびクエンチャーで標識されている。
【0034】
TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5’エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5’末端から分解される。レポーター色素とクエンチャーで標識されたTaqManプローブの分解は、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。TaqManプローブのTmに近い条件で、標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違であってもTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0035】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に遺伝子型の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、ある多型部位の遺伝子型Aに対応するTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、遺伝子型Bに対応するプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応する多型部位にハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、多型部位Aまたは多型部位Bのホモであることが判明する。他方、多型部位をヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと遺伝子型の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての遺伝子型を決定できる方法として有用である。このように、本発明においては、多型部位の遺伝子型の決定に、TaqMan PCR法を好適に用いることができる。その際使用されるプライマーおよびプローブは、特に制限されない。
【0036】
[AcycloPrime法]
PCR法を利用した遺伝子型を決定する方法として、AcycloPrime法も実用化されている(Genome Research (1999)9:492-498)。AcycloPrime法では、多型検出用として、多型部位の塩基の1塩基3’側の塩基から3’側の塩基配列に相補的な配列を有するプライマーを1つ用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、ゲノム検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。ゲノム検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールする。このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3’−OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析で、多型がホモかヘテロかを判定することもできる。
【0037】
[SNaPshotTM法]
また、遺伝子型を決定するためのプライマーエクステンション法として、SNaPshotTM法が知られている。SNaPshotTM法においては、一塩基多型の部位に隣接するプライマーであって、伸長反応によりその3’末端に付加するヌクレオチドが前記一塩基多型の部位に相補的なものとなるプライマーが用いられる。このようなプライマーを使用し、被験者からの核酸試料を鋳型としてプライマーの伸長反応が行なわれるが、その際にddNTP(ジデオキシNTP)を用いることにより、伸長反応は、上記の多型部位に対応する一個のヌクレオチドを取り込んだ時点で終了する。取り込まれたヌクレオチドは、蛍光標識等で予め標識しておくことにより容易に同定され、従って、多型部位のヌクレオチドが同定される。このような方法は当業者に公知であり、その操作手順および使用するプライマーの具体的ヌクレオチド配列は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0038】
[Pyrosequencing法]
また、遺伝子型を決定するためのプライマーエクステンション法として、Pyrosequencing法が知られている(Anal. Biochem. (2000)10:103-110)。Pyrosequencing法においては、被験者からの核酸試料を鋳型とするプライマーの伸長反応の際に、4種のdNTPを1種ずつ反応させる。dNTPのいずれかが取り込まれると、等量のピロリン酸塩(PPi)が遊離し、遊離したPPiはスルフリラーゼと反応してATPを生成させ、このATPによりルシフェラーゼの反応が起こり、発光が起こる。従って、ある特定のdNTPを加えたときに発光が起こった場合には、そのdNTPに対応するヌクレオチドが取り込まれたことが明らかとなり、これにより核酸試料中の対象部位のヌクレオチドが同定される。この方法においては、dNTPが用いられるため、SNaPshotTM法で用いられるような多型部位に隣接するプライマーを用いる必要はなく、数塩基はなれたプライマーを用いてもよい。このような方法は当業者に公知であり、その操作手順および使用するプライマーの具体的ヌクレオチド配列は、当業者であれば容易に決定することができる。
【0039】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって遺伝子型の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる遺伝子型の決定のためには、まず解析対象である多型部位を含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。多型部位を含む塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。MALDI-TOF/MSを利用した遺伝子型の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な遺伝子型の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
【0040】
[IIs型制限酵素を利用したSNP特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な遺伝子型の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の遺伝子型の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPの塩基を含む付着末端が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0041】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマーを組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、遺伝子型を決定することができる。
【0042】
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における遺伝子型の決定法]
複数の多型部位を単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数の多型部位を並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0043】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各多型部位にそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0044】
多型部位を含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な遺伝子型であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0045】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、遺伝子型が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0046】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法として、例えば、Invader法が実用化されている(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p94-105、Genome Research (2000)10:330-343)。Invader法では、アレルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、クリバーゼ(cleavase)と呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、遺伝子型の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0047】
アレルプローブは、検出すべき多型部位に隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アレルプローブの5’側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アレルプローブは多型部位の3’側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。一方インベーダープローブは、多型部位の5’側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3’末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアレルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0048】
多型部位がアレルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアレルプローブの両者が多型部位にハイブリダイズすると、アレルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアレルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアレルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアレルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0049】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5’末端側に自己相補配列を有し、3’末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3’末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5’末端部分にフラップの3’末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0050】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアレルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出するができる。Invader法に基づいて遺伝子型を決定するためには、多型部位Aと多型部位Bのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアレルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、遺伝子型を決定することができる。
【0051】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アレルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0052】
[RCA法]
PCR法に依存しない遺伝子型の決定方法として、RCA法を挙げることができる(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、RCA(Rolling Circle Amplification)法である。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0053】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5’側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。このため、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0054】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の遺伝子型に応じて生成されれば、RCA法を利用して遺伝子型の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5’末端と3’末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、多型部位にハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応が開始される。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の遺伝子型の決定が可能である。
【0055】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、多型毎に反応を行わなければ、通常、遺伝子型を決定することができない。これらの点を遺伝子型の決定のために改良した方法が知られている。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで遺伝子型の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5’末端と3’末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0056】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。多型毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合せれば、1チューブで遺伝子型の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0057】
[RFLP、PCR-RFLP]
標識プローブを用いない遺伝子型決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(RFLP:Restriction Fragment Length Polymorphism)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0058】
[PCR-SSCP]
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0059】
[変性剤濃度勾配ゲル法]
さらに、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0060】
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
【0061】
[DNAアレイ法]
さらに、DNAアレイを使って遺伝子型を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0062】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
【0063】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロで合成される。例えば、フォトリソグラフィー技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られている。
【0064】
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
【0065】
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の血液、末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
【0066】
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
【0067】
[ASOハイブリダイゼーション法]
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO:Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アレル特異的オリゴヌクレオチドは、検出すべき多型部位を含む領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0068】
また、本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における多型部位を含む領域、またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドであって、前記多型部位が、−1062位、−847位および287位の多型部位、ならびに−835位および−836位間の多型部位からなる群から選ばれる少なくとも1つであるオリゴヌクレオチドが提供される。
【0069】
本発明にかかるオリゴヌクレオチドは、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における上記多型部位の少なくとも1つを含む領域、またはこれに相補的な領域に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、目的の領域とは異なる塩基配列とクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0070】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、具体的には、通常「1xSSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5xSSC、0.1%SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を例示することができる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0071】
このように、特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。換言すると、本発明にかかるオリゴヌクレオチドは、(a)配列番号1に記載の塩基配列(ハプロタイプA)、(b)配列番号1に記載の塩基配列において、T-1418C、T-1062C、T-847G、-835insGC、G-354CおよびC287Tの変異を有するもの(ハプロタイプB)、もしくは(c)配列番号1に記載の塩基配列において、T-1418CおよびG-354Cの変異を有するもの(ハプロタイプC)のうち、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位ならびに−835位および−836位間の多型部位の少なくとも1つを含む領域、またはこれに相補的な塩基配列を有するものとすることができる。また、本発明にかかるオリゴヌクレオチドは、当該塩基配列において、1個または数個のヌクレオチドが欠失、置換または挿入された塩基配列を有するものとすることができる。
【0072】
本発明にかかるオリゴヌクレオチドは、上記検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における上記多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0073】
また、本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1062位、−847位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するための試薬が提供される。当該試薬により、被験者の、心室伝導障害、心室細動もしくはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因または抗不整脈薬もしくはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査することができる。
【0074】
試薬は、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における、前記多型部位の少なくとも1つを含む領域を増幅するためのプライマーを含むことができる。試薬は、前記多型部位の少なくとも1つを含む領域を増幅させるための、別個の容器または単一の容器に収容されたプライマーセットであってもよい。また、試薬は、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における、前記多型部位の少なくとも1つを含む領域またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるプローブを含むことができる。
【0075】
すなわち、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を決定するための試薬として、プライマーを用いる場合、当該プライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3’側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列(配列番号1)を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。プライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0076】
プライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、II型またはIIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、II型またはIIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、プライマーに含まれる。更に、プライマーを修飾することもできる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーを、各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0077】
一方、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を決定するための試薬として、プローブを用いる場合、当該プローブとして、上記オリゴヌクレオチド、すなわちSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における多型部位を含む領域、またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドであって、前記多型部位が、−1062位、−847位および287位の多型部位、ならびに−835位および−836位間の多型部位からなる群から選ばれる少なくとも1つであるオリゴヌクレオチドを用いることができる。あるいは、遺伝子型の決定方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブ試薬として示すことができる。
【0078】
換言すると、ゲノムDNA上の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明にかかるプローブ試薬として好ましい。プローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明にかかるプローブに含まれる。プローブを構成する塩基配列は、多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0079】
本発明にかかるオリゴヌクレオチド、プライマー、またはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。上記プライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0080】
また、本発明の他の側面によると、上記試薬を含む、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における少なくとも1つの多型部位の遺伝子型を決定するためのキットが提供される。
【0081】
本発明にかかるキットには、遺伝子型の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の遺伝子型決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0082】
さらに本発明にかかるキットには、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の遺伝子型が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、多型部位における遺伝子型が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
【0083】
さらに、本発明の他の側面によると、SCN5Aの転写量を調整する薬、特に、SCN5Aの転写量を増加させる薬をスクリーニングする方法が提供される。また、本発明の他の側面によると、当該スクリーニング方法により得られた、SCN5Aの転写量を調整する薬が提供される。本発明にかかるスクリーニング方法において陽性とされた物質は、SCN5Aの転写量を調整する薬の候補物質となる。特に、本発明にかかるスクリーニング方法によると、ハプロタイプBを有する患者におけるSCN5Aの転写量を調整する薬だけでなく、任意の患者におけるSCN5Aの転写量を調整する薬として普遍的に有効である候補物質が得られる。
【0084】
具体的には、本発明にかかるスクリーニング方法は、
被検物質を供するステップと、
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域を有するポリヌクレオチドを有する細胞または動物の複数の群を供するステップであって、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、転写量および/または発現量が測定可能な遺伝子と作動可能に結合しており、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、−1418位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−1062位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−847位の多型部位の塩基がGである遺伝子型、−354位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、287位の多型部位の塩基がTである遺伝子型、および−835位および−836位間の多型部位へのGCの挿入がある遺伝子型からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する、ステップと、
前記被検物質を前記細胞または動物の少なくとも1つの群に接触させるステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群とにおいて、前記遺伝子の転写量および/または発現量を測定するステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群の前記転写量および/または発現量を比較するステップと
を含む。
【0085】
被検物質として、単一の化合物または組成物、天然または合成化合物、有機または無機化合物、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、細胞抽出物、細胞培養上清、その他の任意の物質を供することができる。
【0086】
スクリーニングは、インビトロおよびインビボのいずれでも行うことができる。インビトロで行う場合、細胞の例として、ヒト、サル、マウス、ラット、ウシ、ブタ、イヌ等に由来する細胞を挙げることができる。特に、新生仔マウスの心筋細胞や、チャイニーズハムスター卵巣細胞等の非心臓細胞を用いることができる。インビボで行う場合、動物の例として、サル、マウス、ラット、ウシ、ブタ、イヌ等を挙げることができる。
【0087】
スクリーニングに用いる細胞または動物は、ポリヌクレオチドを有する。ポリヌクレオチドは、内因性であっても、または外因性であってもよい。外因性である場合、ポリヌクレオチドは、任意の手段により細胞または動物に導入されてもよい。ポリヌクレオチドは、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域と、これと作動可能に結合した、転写量および/または発現量が測定可能な遺伝子とを有する。
【0088】
上記測定可能な遺伝子は、その転写量および/または発現量を測定できるものであれば、任意の遺伝子でよい。当業者に明らかなように、上記測定可能な遺伝子は、その転写量および/または発現量の測定方法に応じて、適宜選択することができる。上記測定可能な遺伝子の例として、SCN5A、ルシフェラーゼ等の所定の活性を有するタンパク質、公知の抗体が結合できるタンパク質、GST等の公知の物質が特異的に結合できるタンパク質等の遺伝子を挙げることができる。
【0089】
また、スクリーニングに用いるSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域は、−1418位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−1062位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−847位の多型部位の塩基がGである遺伝子型、−354位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、287位の多型部位の塩基がTである遺伝子型、および−835位および−836位間の多型部位へのGCの挿入がある遺伝子型からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する。すなわち、スクリーニングに用いるSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域は、ハプロタイプBであることが好ましい。
【0090】
本発明にあっては、上記細胞または動物の複数の群を供し、その一部の群のみに被検物質を接触させる。被検物質を細胞または動物に接触させることは、当業者に明らかなように、任意の方法により行うことができる。例えば、細胞が培養細胞である場合、被検物質を培地中に添加することで、接触させることができる。また、動物に対しては、任意の手段による投与により、接触させることができる。具体的には、任意の経路からの注射等により、接触させることができる。
【0091】
被検物質を接触させた群と接触させなかった群とにおいて、上記遺伝子の転写量および/または発現量を測定し、これらの転写量および/または発現量を比較することで、当該被検物質を、SCN5Aの転写量を調整する薬の候補物質とすることができるか否か判断することができる。具体的には、ある被検物質を接触させた群で、接触させなかった群と比べて、上記遺伝子の転写量および/または発現量が変化した場合、特に増加した場合、当該被検物質を候補物質とすることができる。
【0092】
被検物質を接触させた群と接触させなかった群とにおいて、上記遺伝子の転写量および/または発現量を測定するステップと、被検物質を接触させた群と接触させなかった群の転写量および/または発現量を比較するステップは、当業者に明らかなように、任意の方法により行うことができる。具体的には、ノーザンブロッティング法、DNAアレイ法等により、上記遺伝子の転写量を測定することができる。また、ルシフェラーゼアッセイ法やCAT法等により、上記遺伝子の発現量を測定することができる。さらに、上記所定の遺伝子に対する抗体が入手可能な場合は、ELISA法、免疫沈降法、ウエスタンブロッティング法により、当該遺伝子の発現量を測定することができる。また、上記所定の遺伝子として、GST等の所定の物質に特異的に結合するタンパク質の遺伝子を用いる場合は、当該タンパク質を沈降させ、沈降したタンパク質の量を測定することで、上記遺伝子の発現量を測定することができる。
【0093】
[ノーザンブロッティング法]
ノーザンブロッティング法は、変性したRNAを変性条件下のアガロース電気泳動で分離し、ニトロセルロースフィルターに移して、標識した特異的なプローブで検出するものである。RNAを変性させるのは、RNAは分子内に二次構造を持つため、そのままではサイズに従った正確な分離ができず、さらに、フィルターは一本鎖の核酸しか結合できないためである。
【0094】
[ルシフェラーゼアッセイ法、CAT法]
ルシフェラーゼアッセイ法およびCAT法は、目的とする遺伝子の転写調節領域の下流にレポーターとしてLUC(ルシフェラーゼ)またはCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子を組み込んだプラスミドを作成し、そのプラスミドを導入した細胞の酵素活性を測定するものである。具体的には、LUC法は、マグネシウム存在下、ルシフェラーゼがルシフェリンとATPから酸化ルシフェリンとAMPを作る反応を触媒する際に発する波長560nmの光を、ルミノメーターを使って検出するものである。CAT法の場合、基質の[14C]クロラムフェニコールが、CATによりアセチル化されて、[14C]アセチルクロラムフェニコールが産生される。このサンプルを酢酸エチルで抽出し、薄層のシリカゲルプレート上に展開後、移動度の異なるスポットの放射活性を測定する。
【実施例】
【0095】
〔対象〕
正常対照群は、国立循環器病センターにおいて原因となる遺伝子の変異が同定された先天性QT延長症候群(LQTS:long QT syndrome)の家系における、原因となる遺伝子の変異を有さない家族構成員から選択された102例(男性67例および女性35例、9〜69歳、平均年齢40±14歳)からなる。各LQTSの家系からは、1例のみを選択した。
【0096】
患者群は、国立循環器病センターにおいてブルガダ症候群(BS)であると診断された患者80例(男性76例および女性4例、1〜76歳、平均年齢47±16歳)からなる。30例において、心停止からの回復(aborted cardiac arrest)または心室細動が報告され、20例においては、失神の経験が報告されたのみであった。30例においては、無症候であった。全ての患者に対して、身体検査、胸部X線写真、臨床検査値(laboratory values)ならびに壁運動の分析およびドップラースクリーニングを伴う心エコー検査を行ったが、器質的心疾患は見出されなかった。患者はさらに以下の基準、1)右側胸部誘導V1−V3において、典型的な、タイプ1のcoved型のST上昇、および2)心拍数補正されたQT時間<440msecを満たした。CovedタイプのST上昇が、70例において自然発生的に、10例においてナトリウムチャネル遮断薬により報告された。80例中49例において、ナトリウムチャネル遮断薬(ピルシカイニド、フレカイニドまたはジソピラミド)の静脈内投与に対する応答が観察された。80例中9例において、SCN5Aをコードする領域に変異が同定された。
【0097】
〔ハプロタイプの同定〕
SCN5Aプロモーター領域のエクソン1の上流2.2kb、エクソン1(173bp、非翻訳領域)およびイントロン1の5’側の439bpを含む合計2.8kbpの断片(主要転写開始点を基準に−2190から+613の断片)のDNA配列をPCRにより決定した。これにより、アジア人において、完全に連鎖した6つの多型を有するハプロタイプが同定された。PCRには、LA PCRキット(TaKaRa)および以下のプライマーを用いた。
配列番号4:5'-TAG GAA GTG CCT GTC TCC AGA CAC CTG TTG-3' (F)
配列番号5:5'-CGC TCT CTG GAA CCA CAT TCA TGG CG-3' (R)
【0098】
〔ジェノタイピング〕
臨床的にブルガダ症候群と診断された日本人患者、および日本人正常対照患者の血液の白血球からゲノムDNAを調製した。国立循環器病センターの遺伝子検査室において、SCN5A遺伝子の転写調節領域および転写領域について、ジェノタイピングを行った。遺伝子型の決定には、直接シークエンス法またはPCR−RFLP法を用いた。分子スクリーニングを含む全てのプロトコルは、国立循環器病センターの倫理審査委員会により審査、承認され、全ての被験者からインフォームドコンセントを得た。
【0099】
T-1418CおよびT-1062Cの一塩基多型(SNP)のジェノタイピングは、先に記載されているように(非特許文献8、Bezzina et al., 2003b)、それぞれ、Ear IおよびHae IIIを用いて、プライマー導入型(primer-induced)の制限酵素消化により行った。
【0100】
T-1418CのSNPを含む161bpの断片を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた。
配列番号6:5'-CCCTGATGGCCTGTTTTGTTTA-3' (センス)
配列番号7:5'-ACTCAGAGACATGGTCACAGGCA-3' (アンチセンス)
【0101】
また、T-1062CのSNPを含む123bpの断片を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた。
配列番号8:5'-ACCTAAGGCGTCCAACGAAGC-3' (センス)
配列番号9:5'-CCAGGGTCTCAGAGGGCACAG-3' (アンチセンス)
【0102】
他の4つの多型(T-847G,-835insGC,G-354CおよびC287T)のジェノタイピングは、PCRによる両鎖のDNA配列決定により行った。
【0103】
T-847G,-835insGCおよびG-354Cの多型を含む638bpの断片を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた。
配列番号10:5'-AGGCTCTGCATGTGTCAAG-3' (センス)
配列番号11:5'-GACGCGGACAGGCTCACA-3' (アンチセンス)
【0104】
また、C287T多型を含む599bpの断片を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた。
配列番号12:5'-GTAGGATGCAGGGATCGCT-3' (センス)
配列番号13:5'-CGCTCTCTGGAACCACATTC-3' (アンチセンス)
【0105】
表1に、対照およびブルガダ症候群患者において観察された遺伝子型の数およびマイナーアレルの頻度を示す。表1および図1に示すように、アジア人被験者のSCN5Aのプロモーター領域をスクリーニングすることで、この領域における6箇所のヌクレオチドの変異(T-1418C,T-1062C,T-847G,-835insGC,G-354CおよびC287T)が明らかになった。2つの日本人群(n=182)において、ハプロタイプBを有する遺伝型(AB遺伝子型+BB遺伝子型)の頻度は21〜24%(対照群102例中24%,BS患者80例中21%)であった。また、これらの多型は、オランダの白人やアフリカ系アメリカ人には見出されず(それぞれn≧100)、日本人を含めたアジア人に特有の多型であることが判明した。試験された日本人(BS患者および対照)において、全ての6箇所の多型の遺伝子型の数は、ハーディ・ワインベルグ平衡(P>0.05)にあった。BS患者群と対照群の間で、遺伝子型の数に関して、有意な差は見出されなかった。これらの6つの多型は、ほぼ完全な連鎖不均衡にあった。対照群およびBS患者群の両方において、これらに調和しないアレル(ハプロタイプC)を有する患者が、それぞれ1例見つかった(364例、<1%)。ハプロタイプA、ハプロタイプBおよびハプロタイプCの推定頻度は、それぞれ、対照において、0.755,0.240および0.005であり、SCN5Aに変異を有さないBS患者において、0.782,0.211および0.007であった。これらの頻度から、ヘテロ接合体である対照およびBS患者は、全てのメジャーアレルを有するハプロタイプAおよび全てのマイナーアレルを有するハプロタイプBの保持者である。
【0106】
【表1】

【0107】
〔インビトロ機能解析〕
遺伝子の発現に対するこのハプロタイプの影響を調査するために、CHO細胞および心筋細胞を用いたインビトロの機能解析を行った。
【0108】
(プラスミド)
6つの多型部位の全てについてハプロタイプAのホモ接合体である被験者からのヒトゲノムDNA、および6つの多型部位の全てについてハプロタイプBのホモ接合体である被験者からのヒトゲノムDNAを鋳型として用いて、上記した2.8kbの断片を増幅した。これらの断片は、pGEM-T Easyベクターにクローン化した。
【0109】
これらのプラスミドは、Nco IおよびSac Iにより消化し、そのインサートを、pGL3-Basicベクター(Promega)にサブクローン化した。当該ベクターは、ホタルルシフェラーゼをコードする配列を有し、このため、SCN5Aプロモーター−ルシフェラーゼ融合コンストラクトが得られる。これらの一方をpGL-ハプロタイプAと、他方をpGL-ハプロタイプBと記す。
【0110】
(一過性トランスフェクションアッセイ)
先に記載のように(非特許文献6、Yang P., 2004)、新生仔マウスの心筋細胞および非心臓細胞(チャイニーズハムスター卵巣(CHO:Chinese Hamster Ovary)細胞)において、ルシフェラーゼ活性を用いて転写活性を測定した。1日齢のB6D2マウスを、エタノールへの浸漬(dousing in ethanol)および断頭により屠殺した。新生児の心臓を摘出し、1xPBS溶液中に収容した。心室部分をリプシン−ヴェルセン(Biofluids, Inc.)により消化し、細胞を、加湿した5%のCO2を含む空気中において、15%(v/v)のNuSerum(Beckton Dickinson)、2.5mMのチミジンおよびペニシリン−ストレプトマイシン(それぞれ10units/mlおよび10mg/ml)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃で培養した。細胞は、用いる前に48時間付着させた。アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas, VA)からCHO−K1細胞を入手し、先に記載されたように(非特許文献9、Kupershmidt et al., 2002)培養した。
【0111】
SCN5Aプロモーター−ルシフェラーゼ融合コンストラクト(1μgのDNA)を、Fugene 6(Roche)により新生仔マウスの心臓細胞にトランスフェクトし、ポフェクタミン(Invitrogen)によりCHO細胞にトランスフェクトした。各実験において、ウミシイタケルシフェラーゼをコードするpRL-TKプラスミド(0.05μg)(Promega)も同時にトランスフェクトし、細胞の生存性(viability)の差やトランスフェクション効率の差から生じる実験誤差を標準化した。トランスフェクション後48時間で、デュアル・ルシフェラーゼ・レポーター・アッセイ・システム(Promega)により、発光を測定した。各実験において、pGL3-Basic(プロモーターなし)プラスミドについてもテストし、その活性レベルを基準とした。
【0112】
図3に示すように、ルシフェラーゼ活性を用いて測定したSCN5A遺伝子の転写活性(対照に対する活性比)は、心筋細胞では、ハプロタイプA:14.5±2.8(平均±SE)対ハプロタイプB:5.5±0.4(各n=9,P=0.006)であり、非心筋細胞では、ハプロタイプA:3.6±0.3対ハプロタイプB:2.7±0.3(各n=13,P=0.04)であった。すなわち、ハプロタイプBの転写活性は、ハプロタイプAに比べ、心筋細胞では62%、非心筋細胞では25%低下していた。このように、転写調節活性は、心筋細胞と非心筋細胞のいずれにおいても、ハプロタイプAに比べ、ハプロタイプBのプロモーター配列で有意に低下しており、ハプロタイプBの多型により、ナトリウムチャネルの遺伝子発現が低下することが示された。
【0113】
〔BS患者および対照群の表現型:心電図、電気生理学的パラメータおよびナトリウムチャネル遮断薬〕
ジェノタイピングのための血液をサンプリングする際に、対照被験者102例およびBS患者80例の全てについて、基準となる12誘導心電図(ECG:electrocardiogram)を記録した。年齢、性別、遺伝学的情報および臨床的情報について盲検化した本発明者の1人により、RR時間、誘導IIにおけるPQ時間(PQ(II))、誘導V1およびV6におけるQRS時間(QRS(V1)およびQRS(V6))(それぞれ心拍数、心房内/房室結節内/ヒスプルキンエ系伝導時間、および心室内伝導の指標である。)、ならびにJ点およびQRSの終了後80msにおけるST振幅(ST amplitude)(ST(J)およびST(80))を測定した。
【0114】
BS患者47例について、基準となる電気生理学的調査(EPS:Electrophysiologic study)を行った。心房−ヒス(AH:atrio-His)時間およびヒス−心室(HV:His-ventricle)時間を測定した。右室心尖部(RV apex:right ventricular apex)およびRV流出路から、3連発までの期外刺激を用いて(using up to triple extrastimuli)心室細動の誘発を評価した。
【0115】
BS患者49例について、ナトリウムチャネル遮断薬の静注が、心電図のパラメータにもたらす影響を試験した。BS患者37例については、ピルシカイニド(最大1mg/kg、速度0.1mg/kg/min)を用いた。BS患者9例については、フレカイニド(最大2mg/kg、速度0.2mg/kg/min)を用いた。BS患者3例については、ジソピラミド(最大2mg/kg、速度0.2mg/kg/min)を用いた。
【0116】
表2に、対照およびブルガダ症候群(SCN5Aに変異を有さない、および変異を有する)患者における臨床的な特徴を示す。対照患者は、SCN5Aに変異を有さないBS患者よりも有意に若かった。SCN5Aに変異を有さない患者と比べて、対照は、女性の比率が有意に高かった。対照と比べて、ブルガダ症候群患者は、有意に長い伝導時間(QRS(V1),QRS(V6),PQ(II))および高いST部分(ST segment)(ST(J),ST(80))を有した。RR時間(心拍数)は、2群間(925.29±129.98 msec、913.66±134.27 msec)で有意な差はなかった。
【0117】
さらに、先の報告(非特許文献10、Smits et al., 2002)と同様に、SCN5Aに変異を有するBS患者は、SCN5Aに変異を有さない患者よりも、有意に長い基準PQ時間およびHV時間を有し、また、クラスI薬投与後に、有意に長いQRS時間を有した。本実施例においては、基準QRS時間およびRR時間はまた、SCN5Aに変異を有さない患者と比較して、SCN5Aに変異を有する患者において有意に長かった。
【0118】
【表2】

【0119】
〔ハプロタイプペアの影響〕
上記したように、ハプロタイプAと比較して、ハプロタイプBが遺伝子発現に対して大きな負の影響を有することが観察されたため、ハプロタイプBを有する被験者が、心電図により検出可能な伝導の遅延を示すであろうことが示唆された。伝導の心電図パラメータ(すなわち、それぞれ心房内/房室結節内/ヒスプルキンエ系伝導および心室内伝導の指標であるPQ時間およびQRS時間、ならびにRR時間およびST部分)へのハプロタイプの影響を調査することで、ハプロタイプが心室伝導に影響するか否か検討した。
【0120】
具体的には、ハプロタイプCを除いたブルガダ症候群患者79例と正常対照患者101例において、興奮伝導時間の指標であると考えられる12誘導心電図のQRS時間とPQ時間等を検討した。QRS時間はV1およびV6誘導で、PQ時間はII誘導でそれぞれ測定した。ブルガダ症候群患者では、SCN5A翻訳領域に変異を有した9例、BB遺伝子型5例、AB遺伝子型20例、AA遺伝子型45例の4群間で、正常対照患者では、BB遺伝子型8例、AB遺伝子型33例、AA遺伝子型60例の3群間で、各指標を比較検討した。またブルガダ症候群患者49例では、ナトリウムチャネル遮断薬の静注前後での各指標の変化を検討した。
【0121】
表3〜5に、対照、SCN5Aに変異を有さないBS患者およびSCN5Aに変異を有するBS患者における、心電図およびEPS表現型に対するハプロタイプペアの影響を示す。
【0122】
表3,4および図4に示すように、BS群および対照群の両方において、ハプロタイプペアは、基準QRSおよびPQ時間と有意な相関を有した。すなわち、ナトリウムチャネル依存的な心室伝導の指標であるQRS時間とPQ時間のいずれの指標も、ブルガダ症候群患者では、SCN5A変異例、BB遺伝子型例、AB遺伝子型例、AA遺伝子型例の順に、正常対照患者でも、BB遺伝子型例、AB遺伝子型例、AA遺伝子型例の順に有意に延長しており、いずれの群においても、ハプロタイプBを有する患者で興奮伝導時間が有意に延長していることが示された(マイナーホモ>ヘテロ>メジャーホモ)。
【0123】
さらに、表4、5、6および図4に示すように、パラメータが得られたブルガダ症候群のサブセットにおいて、ハプロタイプペアはまた、Na+チャネル遮断後の伝導時間と高い相関を有した。すなわち、ブルガダ症候群患者では、ナトリウムチャネル遮断薬静注によるQRS時間の延長はBB遺伝子型例、AB遺伝子型例、AA遺伝子型例の順に大きく(P<0.03)、ハプロタイプBを有する患者では、ナトリウムチャネル遮断薬に対する過剰な興奮伝導時間の延長を示すことが示された。調査された全ての心電図パラメータ(RR,QRS(V1,V6),PQ(II),ST(J,80))について、Na+チャネル遮断薬投与前後の測定値は、高度に有意な相関(p<0.0001)を有したことからも、これは期待されたことであった。ピアソン相関係数rは、RR,QRS(V1,V6),PQ(II),ST(J,80)について、それぞれ0.94,0.92,0.92,0.95,0.84および0.63であった。
【0124】
どちらの群(対照とBS患者群)においても、ハプロタイプペアと基準RR、ST(J)およびST(80)との間に有意な相関は見出されなかった。また、調査されたBS患者のサブセットにおいて、ハプロタイプペアとAA、AH、HV、誘発およびLPとの間に有意な相関は見出されなかった(表3、4)。
【0125】
表3および4に、年齢および性別により調整した後の、ハプロタイプペアにより説明し得る分散(R2)を示す。R2(%)が大きいほど、ハプロタイプによる影響を受けていることが分かる。表3および4に示すように、ハプロタイプペアにより、投与前後のQRSおよびPQの重要な変化が説明し得る。すなわち、QRSおよびPQ時間の分散の有意な割合が、このハプロタイプに起因し得た(QRSに関しては、対照においてR2=48%,BS群において25%;PQに関しては、対照においてR2=12%,BS群において28%)。
【0126】
表6に、薬剤投与後のQRSおよびPQの延長量(ΔQRS、ΔPQ)に対するハプロタイプペアの影響を示す。表6に示すとおり、ナトリウムチャネル遮断薬の静注を行った49例において、薬剤投与後のQRSの延長量(ΔQRS)が、遺伝子型依存的であり、ハプロタイプBを有する患者において大きいことが見出された(ΔQRS:AA=17.8±7.2ms[平均±SD],AB=24.2±7.9ms,BB=30ms;AA対ABおよびAA対BBに関してP≦0.03)。なお、ハプロタイプとRR時間との間に、有意な相関は見出されなかった。
【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
〔統計解析〕
なお、統計解析は以下のように行った。遺伝子型を計数することで、ハプロタイプ頻度を計算した。各多型について、対照およびBS患者におけるハーディ・ワインベルグ平衡からの偏差を、自由度1でχ2検定によりそれぞれテストした。対照とBS患者における6つの多型の遺伝子型頻度を比較するために、必要に応じて、χ2検定またはフィッシャーの正確確率検定を用いた。ハプロタイプ頻度は、E−Mアルゴリズム(非特許文献11、Excoffier and Slatkin, 1995)により評価した。得られたハプロタイプの頻度を用いて、ベイズの定理により、複数のヘテロ接合体の患者の遺伝子型の組み合わせと適合するハプロタイプペアの可能性を計算した。全ての定量的な表現型は、通常の分散を示した。これらのデータは、平均±標準偏差(SD)で示す。t検定により、SCN5Aに変異を有さないBS患者と、SCN5Aに変異を有するBS患者または対照との定量的な表現型の比較を行った。定性的な表現型については、必要に応じてχ2検定またはフィッシャーの正確確率検定を用いて比較した。個々の群におけるハプロタイプペア(または遺伝子型の組み合わせ)の定量的な表現型に与える影響は、年齢および性別により調整して、分散分析(ANOVA:analysis of variance)によりテストした。SCN5Aに変異を有する患者9例と、SCN5Aに変異を有さない両方の群における、調和しない(ハプロタイプCを有する)患者1例は分析から除外した。全ての分析において、年齢および性別の可能性のある影響を調整し、ハプロタイプペアに起因し得る分散の割合(R2)を計算した。Na+チャネル遮断前後の定量的な表現型の相関関係は、ピアソン相関係数(r)で示した(BS患者のみ)。ハプロタイプペア群間の定性的な表現型の差異は、必要に応じてχ2検定またはフィッシャーの正確確率検定によりテストした。全体を通じて、P値<0.05である場合に有意であると解した。全ての統計解析は、SASソフトウェア(バージョン9,SAS Institute, Cary, NC)により行った。
【0132】
〔考察〕
以上のように、本発明者等は、心臓のナトリウムチャネルをコードするSCN5Aのプロモーターにおけるハプロタイプ変異、および、当該変異により、インビトロにおいてプロモーター活性を心筋細胞では62%減少させることを見出した。さらに、このSCN5Aハプロタイプは、SCN5A変異を有さない日本人ブルガダ症候群被験者71例のコホートおよび日本人対照群102例の両方において、それぞれ、最大28%および48%のPQおよびQRS時間(心房内/房室結節内/ヒスプルキンエ系伝導速度および心室伝導速度の心電図マーカーである。)の変化をもたらした。
【0133】
以上のことから、ほぼ完全に互いに連鎖不均衡にある、SCN5Aプロモーター内の6箇所の多型のセットが、ナトリウムチャネルの発現レベルに対して有意な影響を有し、心電図伝導パラメータの変動に関して大きな影響を有することが分かる。
【0134】
心筋を通る伝導の変化は、リエントリー性不整脈の主要な役割を果たしており、様々な動物モデルやヒトにおいて突然死と関係がある。心室伝導、すなわち生体測定特性である心電図パラメータは、一般的な遺伝子変化(多型)により影響されると考えられる。心室伝導の遺伝的決定因子を分析することは、虚血や心不全など、伝導障害が知られている一般の病状における心室性不整脈の病因の手がかりを得るため重要である。
【0135】
遺伝的な電気的障害であるブルガダ症候群、心臓伝導欠損(Lenegre病)、家族性洞機能不全症候群、心房静止、家族性房室ブロックにおいて、SCN5A遺伝子における機能欠損型変異が発生していることから、心室伝導におけるNa+チャネルの重要な役割が示される。これらの障害は、顕著に多様な表現型を有し、共通の多型が基礎的な多様性を変化させているものと考えられる。
【0136】
例えば、心電図パラメータとアミノ酸変化をもたらすイオンチャネル遺伝子をコードする領域における一塩基多型との関係(非特許文献12、Roden DM)や、Na+チャネルに関して、S1102Y多型(アフリカ出身の者に一般的な変異)が、一般的な集団において、QT時間の延長および不整脈のリスクと関係があることが報告されている(Splawski et al., 2002)。また、心電図パラメータに影響する他の変異として、安静時の心拍に対する、β1アドレナリン受容体の変異(Ranade et al., 2002)や、QT時間に対する、遅延整流性K+電流(KCNH2)の急速に活性化する要素をコードする遺伝子の変異(Bezzina et al., 2003)が報告されている。しかしながら、転写調節領域における共通の機能変化により基本的な心電図特性が変化し得るという概念は、未だ知られていなかった。
【0137】
上記したように、ハプロタイプBにより、正常被験者において伝導が遅延していた。また、BS群(基準における伝導の遅延が明らかである。)における、この遺伝子型のさらなる影響も明らかである。心室筋における伝導の主な決定因子はNa+電流であり、また、重度の伝導の遅延が、VFへの最終的な共通の経路であることが示されている(非特許文献13、Tomaselli, 2004)。また、日本人群においてハプロタイプBの頻度が比較的高いことや、ハプロタイプBが伝導に対して大きな負の影響を有すること、さらには、SCN5Aの変異が、ハプロタイプBと同様の定性的表現型を示すことなど、様々な要因が、このハプロタイプと日本におけるBSの高い有病率との関係を示唆している。このように、心室伝導に大きな影響を有するハプロタイプBは、不整脈への罹りやすさ、すなわち心臓突然死リスク、および薬剤応答を変化させる重要な因子であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
SCN5Aの転写調節領域の変異はこれまで報告がなされておらず、本発明は新規の発明である。また、機能試験によりハプロタイプBによりナトリウムチャネルの発現が低下し、臨床的にハプロタイプBを有する患者群で興奮伝導時間が延長していることが証明された。心臓におけるナトリウム電流の減少により、伝導が遅延し、これにより心室細動(VF)に懸かりやすくなる。これらの変異をスクリーニングすることにより、ブルガダ症候群を発症しやすい患者、ナトリウムチャネル抑制作用を有する抗不整脈薬投与時や、急性心筋虚血時に、心臓突然死の原因となる心室伝導障害および心室細動を発症しやすい患者等を事前に予測できる。したがって本発明にかかるハプロタイプは、心臓突然死の原因となる心室伝導障害および心室細動の予測、抗不整脈薬に対する副作用の予測、急性虚血時に発生する心室細動の予測等をするための薬理遺伝学的なマーカーとなり、オーダーメード医療を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】心臓のナトリウムチャネル遺伝子(SCN5A)プロモーター中に見出されたハプロタイプを示す。ヌクレオチドの変化は、主要転写開始点(+1)に対する位置、ならびに、位置の前に最も頻度の高い塩基、および位置の後ろに多型にかかる塩基で示す。*頻度は、日本人対照におけるものである。
【図2A】SCN5Aの転写調節領域および転写領域におけるハプロタイプA〜Cを模式的に示す(1〜1440)。
【図2B】SCN5Aの転写調節領域および転写領域におけるハプロタイプA〜Cを模式的に示す(1441〜2801)。下線部はエクソン1を示す。二重下線を付したGが、主要転写開始点(+1位)である。
【図3】2つのより一般的なハプロタイプのレポーター活性を示す。データは、平均±1SE(空ベクターに対する)ものを示す。
【図4】基準時およびナトリウムチャネル遮断薬投与後のブルガダ症候群(BS)患者ならびに非BS対照における、QRS(V6)およびPQ(II)時間に対するSCN5Aプロモーター遺伝子型の影響を示す。カッコ内に患者数を示す。QRS(V1)およびQRS(V6)間は高い相関を有し(ピアソン相関係数r=0.9)、QRS(V1)に対する遺伝子型の影響は、QRS(V6)に対する影響と同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の、心室伝導障害、心室細動またはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因を検査する方法であって、
前記被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップと、
決定された遺伝子型に基づいて、前記素因を予測するステップと
を含む方法。
【請求項2】
被験者の、抗不整脈薬またはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査する方法であって、
前記被験者の有するSCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1418位、−1062位、−847位、−354位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するステップと、
決定された遺伝子型に基づいて、前記感受性を予測するステップと
を含む方法。
【請求項3】
前記決定するステップにおいて、前記遺伝子型を、−1062位、−847位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記予測するステップにおいて、前記被験者が、以下の遺伝子型:
−1418位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、
−1062位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、
−847位の多型部位の塩基がGである遺伝子型、
−354位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、
287位の多型部位の塩基がTである遺伝子型、および
−835位および−836位間の多型部位へのGCの挿入がある遺伝子型
の少なくとも1つを有するアレルのホモ接合体またはヘテロ接合体である場合、前記被験者が前記素因を有するまたは前記感受性が高いことが予測される請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における多型部位を含む領域、またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドであって、前記多型部位が、−1062位、−847位および287位の多型部位、ならびに−835位および−836位間の多型部位からなる群から選ばれる少なくとも1つであるオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を、−1062位、−847位および287位の多型部位の塩基の種類、ならびに−835位および−836位間の多型部位への塩基の挿入の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つについて決定するための試薬。
【請求項7】
被験者の、心室伝導障害、心室細動またはナトリウムチャネル異常に関連する疾患の遺伝的素因を検査するための、請求項6に記載の試薬。
【請求項8】
被験者の、抗不整脈薬またはナトリウムチャネル遮断薬に対する感受性を検査するための、請求項6に記載の試薬。
【請求項9】
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における、前記多型部位の少なくとも1つを含む領域を増幅するためのプライマーを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の試薬。
【請求項10】
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域における、前記多型部位の少なくとも1つを含む領域、またはこれに相補的な領域にハイブリダイズできるプローブを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の試薬。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の試薬を含む、SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域の遺伝子型を決定するためのキット。
【請求項12】
SCN5Aの転写量を調整する薬をスクリーニングする方法であって、
被検物質を供するステップと、
SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域を有するポリヌクレオチドを有する細胞または動物の複数の群を供するステップであって、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、転写量および/または発現量が測定可能な遺伝子と作動可能に結合しており、前記SCN5Aの転写調節領域および/または転写領域が、−1418位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−1062位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、−847位の多型部位の塩基がGである遺伝子型、−354位の多型部位の塩基がCである遺伝子型、287位の多型部位の塩基がTである遺伝子型、および−835位および−836位間の多型部位へのGCの挿入がある遺伝子型からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する、ステップと、
前記被検物質を前記細胞または動物の少なくとも1つの群に接触させるステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群とにおいて、前記遺伝子の転写量および/または発現量を測定するステップと、
前記被検物質を接触させた群と接触させなかった群の前記転写量および/または発現量を比較するステップと
を含む方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により得られた、SCN5Aの転写量を調整する薬。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−14244(P2007−14244A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197489(P2005−197489)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】