説明

心持ち角材の熱処理乾燥方法

【課題】簡素化された工程で、心持ち角材の表面割れを抑制することができる乾燥方法を提供する。
【解決手段】心持ち角材Wの一面を、温度100〜140℃に加熱した熱板1を有する熱板プレスで45〜90分間、0.8〜1.2MPa(8〜12kg/cm2)の圧力で加熱加圧し、その後、心持ち角材Wの一面を熱板プレスから解放し、自然冷却および天然乾燥または人工乾燥させる。こうして得られた乾燥角材は、表面割れや内部割れが少なく変色も少ない、天然乾燥木材に近い色調を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心持ち角材のように表面割れが発生しやすい木材を、表面割れを抑制しながら乾燥する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原木から切り出した木材を放置していると、ひび割れや変形が生じる。これは、乾燥時における木材の外部と内部の収縮率の差による。
木材の収縮・変形は、含水率が30%前後になると徐々に始まる。そして、乾燥が進行するとともにひび割れが大きくなり、特に心持ち角材ではひび割れが顕著である。含水率18〜15%で安定的に乾燥した状態の乾燥木材は、ほとんど変形しなくなる。
木材の乾燥方法には天然乾燥と機械による人工乾燥があり、人工乾燥にも方法が幾つかあるが、代表的なのが蒸気式乾燥法である。この乾燥方法は、蒸気加熱式乾燥機を用い、温度と湿度を制御しながら行う方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような「蒸気加熱式乾燥方法」において、乾燥温度100℃以下で湿度を時間とともに低下させる「中温乾燥」では細かな表面割れが発生し、乾燥時間も2週間以上必要である。また、乾燥温度が100℃以上で湿度が極端に低い「高温低湿乾燥法」では、表面割れは抑制されるが、内部割れが発生する可能性がある。
【0003】
この「高温低湿乾燥法」の特徴は、100℃以上の高温で湿度が極端に低い雰囲気に保ち、木材表面の含水率を急速に低下させることである。このとき、木材表面は収縮しようとするが内層は乾燥していないので、表層は引張の力を受ける。しかし、木材の温度が高いために、破断することなく乾燥が進行する。さらに内部まで乾燥が進行すると、内部にも同様に引張の力が働くが、表面にはこの力を相殺するために逆の圧縮の力が働くようになる。乾燥がより進行すると、表面の圧縮応力と内部の引張応力は大きくなり、ついには内部割れが発生する。
【0004】
内部割れを防止するには、表面割れの抑制に必要な時間のみ「高温低湿」処理を行い、それ以降は乾燥温度を低くし、ゆっくり乾燥する方法が考えられる。しかし、この場合、木材ごとに高温低湿処理時間が異なるために、完全に防止することは不可能である。
【0005】
特許文献2には、製材された木材の乾燥工程前に木材の表面層を加熱する加熱工程と、加熱して軟化した木材の表面層を加圧して圧縮変形させる加圧工程と、木材の圧縮変形した表面層を冷却して圧縮部分を固定化する冷却工程とを施す、割れ発生防止方法が記載されている。この方法では、乾燥工程時において木材の表面層は予め収縮しているので、熱が加わると表面層は組織が膨潤し、乾燥時に表面層の変形の回復による伸びで引っ張り応力を吸収し、これによって木材の乾燥工程における割れの発生を防止できるとされている。
【0006】
【特許文献1】特許第3397310号公報([従来の技術]の欄参照)
【特許文献2】特開2007−261041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の蒸気加熱式乾燥方法では、表面の引張セットは木材への熱伝達の遅れによって表面から内部にわたる温度分布、含水率分布が急勾配になり、表面付近は収縮が自由で外部からの応力による拘束がないため、不均一、不十分で表面割れを完全に抑制することができない。
また、特許文献2に記載された方法では、角材の場合、表面層の4面を60〜140℃に加熱し、4面を14〜15kg/cm2の圧力で加圧して、表面から5〜10mm程度を圧縮する。さらに冷却ロールで表層を冷却して、表層の変形した部分を一時的に固定化するという工程であり、4面を加熱・加圧するため少なくとも2対の加熱・加圧手段が必要である。また冷却工程が必須であるため、冷却手段も必要であり、工程と装置が複雑化するという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、簡素化された工程で、心持ち角材の表面割れを抑制することのできる乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の心持ち角材の熱処理乾燥方法は、心持ち角材の一面を100℃以上の熱板プレスで所定時間、1.2MPa以下の圧力で加熱加圧し、前記加熱加圧後、前記心持ち角材の一面を熱板プレスから解放し、自然冷却および天然乾燥または人工乾燥させることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、温度100℃以上に加熱した熱板プレスで、収縮を抑える程度の圧力である1.2MPa以下の圧力で圧縮し、木材への熱伝達を早める。そうすることで、水分離脱に伴う収縮を熱板側と木材内部からの応力によって、木材表面に引っ張りセットを迅速に形成する。ここで「引っ張りセット」とは、乾燥によって木材が収縮しようとするのを熱板が接触していることによって摩擦力で抑制し、その状態をある時間保持した後に、木材の表面が引っ張られたまま固定されることをいう。さらに、引っ張りセットの状態で時間が経過すると、表面より少し内側が乾燥してくるので、表面に圧縮の力が働くようになる。この状態を、「表面セット」された状態という。
【0011】
熱板プレスが温度100℃未満では水分が蒸発しにくいため、100℃以上とする。加圧圧力は、1.2MPa以下で角材を「つぶさない程度」とする。
熱板プレスの温度は100℃以上であるが、140℃以下に抑えることが望ましい。この温度が140℃を超えると、木材の変色の可能性が高くなる。
【0012】
前記熱板プレスの加熱加圧時間は、熱板プレスの温度が約120℃のとき、約60分とすることが好適である。熱板を約120℃で角材を加熱すると表面に近い層の温度が次第に上昇するが、60分程度で温度上昇は緩やかになるので、その程度の時間で加熱加圧を停止することが経済的である。
【0013】
本発明では、圧縮して木材の細胞を潰すことが狙いではなく、熱板を木材に接触させて熱板プレス下面と木材との摩擦を利用し、木材が収縮するのを拘束して引っ張りセットを形成させることを主眼としている。また、熱板プレスを軽く加圧して、静止状態で60分程度抑えることが重要である。
【0014】
熱板プレスによって表面セットされた木材は、取り出した後、桟積みして自然冷却するとともに、通常の天然乾燥または温度・湿度調整された人工乾燥を行う。含水率が15%程度になれば、割れや変形が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面割れや内部割れが少なく変色も少ない、天然乾燥木材に近い色調を得ることができる。また、熱板プレスによって表面セットされた木材は、取り出した後、桟積みして従来の天然乾燥または人工乾燥により、表面割れを抑制することができる。熱板プレスによって表面セットされた木材は、そり、曲がりの低減効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態における熱板プレスの概要を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。熱板プレスは、ヒータ2の下面に設けられた熱板1と、図示しない昇降装置に取り付けられる筐体3と、心持ち角材Wの下面を載せる基板4とを備えている。
【0017】
本発明の実施の形態では、スギ心持ち角材Wを4本、熱板温度120℃の熱板プレスに投入する。すなわち、基板4の上に載せ、上面に熱板1が接触するように筐体3を載せ、筐体3の自重または昇降装置(図示せず)からの加圧により0.8〜1.2MPa(8〜12kg/cm2)を心持ち角材Wの上面に加え、60分間圧締したのちに開放し、桟積み状態で天然乾燥する。
【0018】
スギ心持ち角材の人工乾燥では高温乾燥、表面セットが一般化してきている。本実施の形態では、60分の熱板プレスの後の天然乾燥による方法で、セットの形成と割れなど乾燥に係わる挙動を捉えたものである。特に熱板プレスによる短時間の表面セットの形成とその効果に焦点をあてるとともに、管理に係わる計測方法や評価を試みた。天然乾燥に比較して、セットされた熱板面の表面割れの程度は大きさ、頻度とも著しく少ない傾向にあった。
【実施例】
【0019】
供試体としてスギ心持ち角材(13cm×13cm、長さ300cm生材)30本を用いた。生材時の重量、寸法、木口を打撃したときの縦振動固有周波数を計測した。重量、ヤング係数によって区分して、以下の3実験条件に4本ずつ振り分け、残り18本を天然乾燥に供した。
【0020】
(実験条件1)熱板温度120℃投入→60min.開放終了→桟積み冷却
(実験条件2)熱板温度120℃投入→15min.開放、再圧→30min.開放、再圧→45min.開放、再圧→60min.開放終了→桟積み冷却
(実験条件3)熱板温度120℃投入→60min.終了→圧保持冷却→桟積み
【0021】
各条件とも4本上下面を熱板面に並べ、側面は開放状態にある。圧縮圧は触れる程度である。
すなわち、上下の熱板に接している面は短時間で引っ張りセットが与えられることになり、側面は乾燥に伴ってわずかながら圧縮圧を受けつつ、セットを受けることになる。この上下面と両側面との違いは、セットの効果を明確にするためのものと考えてよい。熱圧時間は60分とした。後述するように、熱板表層に近い部位でのセットと考えられる。
【0022】
(実験条件2)は打撃音による周波数をとることで温度による変化(ヤング係数、含水率の変化)を経時的にとらえることと、(実験条件1)と異なり開放することによって引っ張りセットが生じにくい状態を作るためでもある。(実験条件3)は(実験条件1)と異なり圧縮を保持したまま熱源を切るもので、冷却に伴うセットの効果や水分の移動をみるためのものである。
【0023】
材内の温度変化をみるために熱板表面と、表面から10mmおよび65mm(すなわち、中央部)に熱電対を設置して経時変化を記録した。なお、圧縮時に打撃音を計測することはできなかった。
【0024】
桟積み後は室内において天然乾燥状態とした。実験開始が12月で、乾燥速度の遅い冬季の外気条件である。比較対照として天然乾燥をあわせて実施した。計測した項目は重量、寸法、打撃音による縦振動固有振動数、乾燥割れの状況などである。
【0025】
(結果および考察)
(1)プレス60分における試験材内の温度の変化は図2であり、材内の中央部(65mmポイント)の温度上昇は極めて少なく、表面付近(10mmポイント)のみが温度上昇、水分離脱によるセットが生じていると推測される。
既存のデータなどから、縦振動固有振動数は材全体のほぼ平均値を表すので、(実験条件2)による打撃音の固有振動数の変化を図3でみると、温度上昇に伴うヤング係数の低下(すなわち固有振動数の低下)が支配的であり、乾燥に伴うヤング係数の上昇を上回っていると推測される。
【0026】
(2)プレス解放後は温度低下に伴う周波数の上昇、それに続いて乾燥に伴う上昇が図3に示すように観察される。図4の重量変化と図5の周波数の上昇を見れば、明確な関連が観測できる。
すなわち、桟積み乾燥状態の重量変化(含水率の変化)に打撃音の固有振動数による管理が、比較的容易にできることを示している。ここに示した振動数は3次であり、桟積み状態と単独状態の比較ではほぼ一致しており、1次や2次に比較すると桟積み状態で適切な評価が可能である。
【0027】
(3)熱板プレスによるセットは、以後の天然乾燥による表面割れの程度を単純な天然乾燥に比較すると、割れの大きさ、頻度ともかなり低減する。特に、セットの大きい上下面で顕著である。
また、(実験条件1)が最も効果がみられ、次いで(実験条件3)、(実験条件2)の順となる。すなわち、強い引っ張りセットを短時間でかけることが重要であり、熱板プレスはそれを容易に可能にしていると推測される。なお、内部割れはほとんど認められず、材の変色はほとんど認められない。また、プレス後、圧力保持冷却した(実験条件3)は離脱した蒸気の再凝縮が熱板付近で生じやすく、材にシミが生じることが多い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、簡素化された工程で、心持ち角材の表面割れを抑制することができる乾燥方法として、木工の分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態における熱板プレスの概要を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の実施例におけるプレス時温度変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例における熱圧時と桟積み後の周波数変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例における重量変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例における乾燥に伴う周波数の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 熱板
2 ヒータ
3 筐体
4 基板
W 心持ち角材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心持ち角材の一面を、100℃以上の熱板プレスで所定時間、1.2MPa以下の圧力で加熱加圧し、前記加熱加圧後、前記心持ち角材の一面を熱板プレスから解放し、自然冷却および天然乾燥または人工乾燥させることを特徴とする心持ち角材の熱処理乾燥方法。
【請求項2】
前記熱板プレスの温度は、140℃以下である請求項1記載の心持ち角材の熱処理乾燥方法。
【請求項3】
前記熱板プレスの加熱加圧時間は、熱板プレスの温度が約120℃のとき、約60分である請求項1または2に記載の心持ち角材の熱処理乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−166383(P2009−166383A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7870(P2008−7870)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月20日 日本木材学会発行の「第57回日本木材学会大会研究発表要旨集」(証明書1)において文書をもって掲載され、また、平成19年8月9日 日本木材学会主催の「第57回日本木材学会大会」において関連資料(証明書2)が文書をもって配布および発表された。
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】