説明

心筋の収縮を抑制するグラモストラ・スパチュラタ由来のポリペプチドおよびその遺伝子。

【課題】心筋の収縮を抑制する新規ポリペプチドの提供。
【解決手段】グラモストラ・スパチュラタの毒液由来の心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド及びその改変体であって、下記のアミノ酸配列を有するポリペプチド。(a) 特定のアミノ酸配列からなるポリペプチド;(b) 特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ポリペプチドであって、特定のアミノ酸配列を含むポリペプチド;及び(c) 上記(a)若しくは(b)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋の収縮を抑制するポリペプチド及び遺伝子、該ポリペプチド及び遺伝子を用いる、医薬として有用な新規ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症や心筋梗塞などの心不全に対して、β遮断薬を投与することにより、生命予後が改善するという報告がなされている(非特許文献1及び2を参照)。
南米産クモ、グラモストラ・スパチュラタの毒液(GsV)にはカリウムチャネルや機械受容チャネルを遮断するペプチド性毒が含まれていることが知られている(非特許文献3を参照)。
【非特許文献1】Circulation,112:2426-2435 (2005)
【非特許文献2】J. Clinicaland Basic Cardiology 4(1):11-14 (2001)
【非特許文献3】Toxicon, 43(5):555-574 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の知見から明らかなように、心筋の収縮を抑制する薬剤は心不全の生命予後の改善において重要な役割を持っている。本発明の課題は、心筋の収縮を抑制するペプチドを新たに提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は鋭意研究の結果、南米産クモ、グラモストラ・スパチュラタの毒液中に心筋の収縮を抑制するポリペプチドを発見するとともにその遺伝子配列を決定し、本ペプチド及び遺伝子が心筋の収縮を抑制し心不全後の生命予後の改善において有効であると確信し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[11]に関するものである。
[1] 以下の(a)から(c)のいずれかポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ポリペプチドであって、少なくとも配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第51番目〜第71番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド;及び
(c) 上記(a) 若しくは(b)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド。
[2] 以下の(d)から(f)のいずれかのポリヌクレオチド:
(d) 配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(e) 配列番号3で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドであって、少なくとも配列番号3で表わされる塩基配列の第151番目〜第213番目の塩基からなる塩基配列を含むポリヌクレオチド;及び
(f) 上記(d)若しくは(e)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[3] 以下の(a)から(c)のいずれかポリペプチド:
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ポリペプチドであって、少なくとも配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第51番目〜第71番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド;及び
(c) 上記(a) 若しくは(b)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド。
[4] [1]又は[2]のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
[5] [4]の組換えベクターを含む形質転換体。
[6] [5]に記載の形質転換体を培養し、発現産物として取得することを特徴とする心筋の収縮を抑制する活性を有する組換えポリペプチドの製造方法。
[7] [6]に記載の組換えポリペプチドの製造方法により得られた心筋の収縮を抑制する活性を有する組換えポリペプチド。
[8] [1]又は[2]に記載のヌクレオチドを有効成分として含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物。
[9] [3]又は[7]に記載のポリペプチドを有効成分として含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物。
[10] [3]又は[7]に記載の心筋の収縮を抑制するポリペプチドに対する抗体。
[11] 抗体がモノクローナル抗体である[10]に記載の抗体。

【発明の効果】
【0005】
グラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)クモの毒液から単離したポリペプチドは、心筋の収縮を抑制し、拡張型心筋症や心筋梗塞など、心不全の生命予後の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明はグラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)の毒液から単離したポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNA、そのDNAを挿入したベクター、そのDNAを発現可能に保持する形質転換体、その形質転換体を培養する工程を含む該ペプチドを製造する方法、および該ペプチドを有効成分とする医薬を提供するものである。
本発明のグラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)の毒液から単離したポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2に表わされるアミノ酸配列はcDNA配列解析から推定したアミノ酸配列である。
本発明のグラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)の毒液から単離したポリペプチドをコードするDNAの塩基配列を配列番号1に示す。また、配列番号3にシグナル配列及びプレプロ配列をコードする部分を含む塩基配列を、配列番号4にシグナル配列及びプレプロ配列を含むアミノ酸配列を示す。シグナル配列及びプレプロ配列の位置は図1に示す。シグナル配列の予測にはウェブサイト(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を利用した。本発明は、プロプロ配列又はシグナル配列及びプレプロ配列を含むポリペプチド並びに該ポリペプチドをコードするDNAをも包含する。さらに、本発明は配列番号4に表わされるアミノ酸配列の一部配列であって、少なくとも第51番目〜第71番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号3に表わされる塩基配列の一部配列であって、少なくとも第151番目〜第213番目の塩基からなる塩基配列を含むDNAをも包含する。
【0007】
ペプチドは、その活性に不可欠な部位以外に他のアミノ酸あるいは修飾型アミノ酸を欠失・付加あるいは置換を行っても活性を保っていることが多く、これを利用して医薬品として必要な他の性質(代謝プロファイル等)を改善することは、しばしば行われることである。従って、本配列をもとにして部分的にアミノ酸の欠失・付加・置換などを行って作成した変換型ペプチド、あるいは修飾型ペプチドのうち心筋の収縮を抑制する活性を持っているペプチドは本発明の請求範囲に含まれるものである。
例えば、上記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドも本発明に包含される。
ここで、1又は数個とは、1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個をいう。
【0008】
このような上記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列として、前記アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているものが挙げられる。
このような上記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは上記アミノ酸配列を有するポリペプチドと実質的に同一である。
【0009】
また、上記塩基配列からなるDNAと相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドをコードするDNAも本発明に包含される。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。
さらに、上記DNAに対するRNA、又は該RNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるRNAであって心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドに対応するRNAも本発明に包含される。
なお、DNAに変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて行うことができる。
【0010】
本発明は、本発明のDNAを含む組換えベクター及び該組換えベクターを含む形質転換体を包含する。さらに、本発明は、当該形質転換体を培養し、心筋の収縮を抑制する活性を有する組換えポリペプチドを発現産物として製造する方法、及び当該方法で得られた組換えポリペプチドも包含する。
また、本発明は本発明の心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドに対するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を包含する。該抗体は公知の抗体作製方法により得ることができる。その際の免疫源として、グラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)クモの毒液由来の天然ポリペプチドもしくは組換えポリペプチドの全長、又はそれらの部分断片を用いることができる。
【0011】
本発明にかかるペプチドは、後述実施例に示したC18 ACR等と同様、既知の方法でGsVから分離精製することができる。例えば、スルホン酸基あるいは四級アンモニウム基を有するイオン交換担体を使用したイオン交換クロマトグラフィーにより、溶出緩衝液のpHあるいは塩濃度を変化させ目的活性物質を単離精製することができる。この場合の溶出液としては、通常この分野で使用し得るあらゆるものが用いられるが、例としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ギ酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどを挙げることができる。また、疎水性基修飾したシリカゲル担体を用いた逆相クリマトグラフィー法により、エタノール、プロピルアルコール、アセトニトリルなどの様な親水性有機溶媒による濃度勾配溶出を行い、目的物質を得ることもできる。さらに、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィーなどを用いて純化することも可能である。このように本発明のペプチドは、GsVを原料として、分離、精製することによって製造することが可能である。また本発明にかかるペプチドは、従来用いられているペプチドの化学合成技術を用いて得ることができる。この場合、代謝的な安定化を図ることを目的として、修飾型のアミノ酸を挿入することも許される。更に本発明にかかるペプチドは、遺伝子組換え技術を用いて製造することも可能である。例えば、該ペプチドをコードするように設計したDNAを、該ペプチドを製造しようとする宿主細胞に適合した発現ベクターに挿入する。本発明のベクターが導入される宿主細胞としては、本発明のベクターに適合する細胞であれば特に制限はなく、種々の動物細胞、細菌、酵母、昆虫細胞などが挙げられる。この際、該ペプチドの製造を容易にするために融合タンパクとして発現する、或いは分泌のためのシグナルを付加する等、該ペプチドをコードする以外の配列を付け加えることも許される。また、発現ベクターには形質転換体の選択を容易にするため、或いは該ペプチドの産生を向上するために薬剤耐性等の遺伝子を挿入しても良い。その発現ベクターを微生物あるいは細胞に導入し、形質転換体を得る。当該形質転換体を培養し、その培養上清などから発現産物として組換えポリペプチドを得ることができる。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、文献(Sambruck,J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.(1989)Molecular Cloning: A Laboratory,Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY)記載の方法に従って行うことが可能である。そして形質転換体を培養し、形質転換体から、或いはその培養上清から上記の方法に準じて該ペプチドを精製することができる。また、本発明のタンパク質をGSTやHisbとの融合タンパク質として発現させた場合には、それぞれグルタチオンセファロースカラム、ニッケルセファロースカラムを用いて精製することも可能である。
【0012】
分離・精製における目的画分の追跡は、例えば、マグヌス法などによりモルモットなどの心房標本を使用し、心筋の収縮力を指標にして行えばよい。すなわち、後述実施例に示される様に、精製画分を添加した際の心筋の収縮力の抑制作用を記録し観察すればよい。本発明のペプチドの構造解析は、通常の方法で行うことができるが、例えば、アミノ酸配列自動分析装置(プロテインシークエンサー)を使用し、エドマン分解法によるN末端からの逐次分解、酵素消化ペプチドのアミノ酸配列分析並びにカルボキシペプチダーゼを用いたC末端アミノ酸分析などを組み合わせることにより行うことができる。
また、さらに本発明のグラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)クモの毒液由来の心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド又はヌクレオチドをin vitro又はin vivoで細胞に投与することで心筋の収縮を抑制することができる。該方法に用いる細胞の種類は限定されず、入手可能な培養細胞、生体から単離した細胞が含まれる。該方法は、細胞を細胞培養用培地、生理食塩水、緩衝液等に入れ、その中に本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドを添加すればよい。用いる細胞の密度及びポリペプチド又はポリヌクレオチドの添加量は適宜決定することができる。
【0013】
本発明の心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド又は該ポリペプチドをコードするヌクレオチドは、心筋の収縮を抑制する医薬用組成物として用いることができ、本発明は本発明の心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド又は該ポリペプチドをコードするヌクレオチドを有効成分として含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物を含む。具体的には、心筋の収縮抑制用医薬組成物、拡張型心筋症や心筋梗塞など、心不全の治療用もしくは予防用医薬組成物として用いることができる。
ポリペプチドを含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物は、そのまま細胞に適用してもよいし、ポリペプチドにHIV-1・TATペプチド等の公知の細胞膜通過ペプチドを連結させることにより細胞内に適用することができる。また、ヌクレオチドを含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物は、ヌクレオチドを細胞に導入すればよい、このような、ヌクレオチドの細胞への導入は公知の方法により行うことができる。例えば、ウイルスベクターを用いる方法および非ウイルスベクターを用いる方法があり、種々の方法が知られている(別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
本発明の心筋の収縮を抑制する医薬組成物は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
【0014】
その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、ポリペプチドの場合、経口投与では、1日約0.001mg〜100mgであり、1回または数回に分けて投与すればよい。また、非経口投与では、1回あたり、0.001mg〜100mgを皮下注射、筋肉注射、または静脈注射によって投与すればよい。また、発現ベクター等に挿入されたヌクレオチドは、数日または数週間または数ヶ月おきに1回あたり、0.001mg〜100mgを皮下注射、筋肉注射、または静脈注射等によって投与すればよい。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこの実施例に特に限定されるものではない。また、特に記載の無い限りにおいて、遺伝子工学的手法の詳細は、"Molecular Cloning 2nd ed."(Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T. 著 Cold Spring Harvor Laboratory Press 1989年発刊)に記載の方法に従った。
【0016】
(実施例1)新規ペプチド性毒の遺伝子解析
グラモストラ・スパチュラタの毒腺から総RNAを抽出、mRNAを精製し、定法に従いpSD64TFベクターに組み込みcDNAライブラリーを構築した。インサートの塩基配列の解析を進めたところ、今回発見した新規ペプチド性毒をコードしている遺伝子を発見した。配列番号3に遺伝子解析から明らかになった本発明のポリペプチドをコードするDNAの塩基配列を示す。また、配列番号4に該DNA配列からの推定アミノ酸配列を示す。図1に示すように、シグナル配列及びプレプロ配列が存在する。
【0017】
(実施例2)cDNAライブラリーから得られたペプチドと毒液の比較
cDNAライブラリーから得られた新規のペプチドGTx7-1を化学合成したものを得られた画分をC18 ACR(1.0×150mm, 資生堂社製)を用い、流速1ml/minで0.05%TFA-70%アセトニトリル液を用いた40分間でアセトニトリルの直線濃度勾配にて220nmの紫外吸収をモニターしながら溶出を行った。
毒液からのペプチドの調製はグラモストラ・スパチュラタ(Grammostola spatulata)の毒液を抽出し、これを1M酢酸で溶解した。さらにSep-pakC18カートリッジにより0.05%TFAを含有する70%アセトニトリルで溶出してくる画分を得た。これをHPLC用サンプルとして化学合成したペプチドと同様の条件で溶出を行った。
これら得られた2つのクロマトグラムを比較した結果、図2に示すように、化学合成ペプチドと溶出時間が一致するピークが毒液中にも見られた。
【0018】
(実施例3)モルモット摘出心房標本の収縮力への作用の検討
ハートレー系モルモットから右心房を摘出し37℃のクレブス-ヘンゼライト溶液を満たしたマグヌス管に懸垂した。摘出した右心房の自動収縮を等張性トランスデューサーにより検出、アナログ-デジタル変換装置(PowerLab)によりデジタル化しコンピュータにデータを格納した。化学合成したGTx7-1をDMSOに溶解し、図3に示す濃度になるように添加し、摘出右心房の収縮への効果を検討した。GTx7-1は図3に示ように、150μg/5ml(13.2μM)で摘出右心房の収縮を約10%程度抑制した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のポリペプチドのモルモット摘出心房の収縮を抑制する活性を示す図である。
【図2】本発明のポリペプチドのODSカラムを用いた単離を示す図である。
【図3】遺伝子解析から明らかになった塩基配列及び推定アミノ酸配列を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)から(c)のいずれかポリペプチドをコードするポリヌクレオチド:
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ポリペプチドであって、少なくとも配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第51番目〜第71番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド;及び
(c) 上記(a) 若しくは(b)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下の(d)から(f)のいずれかのポリヌクレオチド:
(d) 配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(e) 配列番号3で表わされる塩基配列からなるポリヌクレオチドの部分ポリヌクレオチドであって、少なくとも配列番号3で表わされる塩基配列の第151番目〜第213番目の塩基からなる塩基配列を含むポリヌクレオチド;及び
(f) 上記(d)若しくは(e)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
以下の(a)から(c)のいずれかポリペプチド:
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ポリペプチドであって、少なくとも配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第51番目〜第71番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド;及び
(c) 上記(a) 若しくは(b)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ心筋の収縮を抑制する活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、発現産物として取得することを特徴とする心筋の収縮を抑制する活性を有する組換えポリペプチドの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の組換えポリペプチドの製造方法により得られた心筋の収縮を抑制する活性を有する組換えポリペプチド。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のヌクレオチドを有効成分として含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物。
【請求項9】
請求項3又は7に記載のポリペプチドを有効成分として含む心筋の収縮を抑制する医薬用組成物。
【請求項10】
請求項3又は7に記載の心筋の収縮を抑制するポリペプチドに対する抗体。
【請求項11】
抗体がモノクローナル抗体である請求項10に記載の抗体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−271800(P2008−271800A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116626(P2007−116626)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月5日〜8日 日本ペプチド学会主催の「第43回ペプチド討論会・第4回ペプチド工学国際会議」に文書をもって発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】