説明

心脈管および腎臓の適応症のための制御放出CGRP送達組成物

本発明は、治療有効量のCGRPを制御放出処方物として投与する改善された方法を提供することによって、心不全を治療する方法、および腎機能を改善する方法、および/または、心不全の進行した段階への進行を防止する方法、ならびに、心筋梗塞に起因する虚血を減殺する方法を提供する。この治療は、外来患者または入院患者をベースに実施され得、そして、さらに、維持療法としても使用され得る。本発明は、一般にCGRPに関連する有害な影響(例えば、吐き気、下痢、深刻な顔面紅潮および間欠性頻脈)を最小限もしくは緩和しながら、HFの根底にある状態を処置する様式で、1種以上の用量のCGRP処方物を投与することによって、心不全(「HF」)を処置または予防するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年1月13日に出願された、米国仮出願第60/560,745号(この開示は、その全体が、本明細書中に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、治療有効量のCGRPを制御放出処方物として投与する改善された方法を提供することによって、心不全を処置するための方法、腎機能を改善するための方法、心不全の進行した段階への進行を防止もしくは遅延するための方法、および心筋梗塞に起因する虚血と減殺するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
(2.背景技術の説明)
心不全は、血液を補充するか、もしくは血液を拍出する心室の能力を損ね、そして、心臓が、本来あるべきよりも非効率的に機能する、あらゆる構造的もしくは機能的な心臓障害から生じ得る、複雑な臨床的な症候群である。心不全は、運動負荷および徴候(例えば、体液のうっ滞(retention))を制限し得る、特定の症状(例えば、呼吸困難および疲労)により特徴付けられ、肺のうっ血および末梢の浮腫につながり得る。両方の異常が、罹患した個体の機能的な能力およびクオリティオブライフを損ね得るが、これらは、必ずしも、同時に臨床像を支配し得るものではない。全ての患者が最初の評価またはその後の評価の時点で、容量過負荷(volume overload)を有するわけではないので、用語「心不全(heart failure)」は、好ましくは、より古い用語「うっ血性心不全(congestive heart failure)」よりも好ましい。
【0004】
心不全の臨床的な症候群は、心外膜、心筋層、心内膜、または大血管(great vessel)の障害から生じ得る。例えば、心不全の一般的な原因としては、以下が挙げられる:心筋に血液を供給する動脈の狭小化(冠状動脈性心疾患);心臓の正常な機能を妨害するのに十分大きな瘢痕組織を生じる、事前心臓発作(prior heart attack)(心筋梗塞);高血圧;過去のリウマチ熱または出生時に存在する異常に起因する心臓弁疾患;心筋自体の原発性疾患(心筋症);出生時に存在する心臓の欠陥(先天的な心臓病)、ならびに心臓弁および/または心筋自体の感染(心内膜炎および/または心筋炎または心外膜炎)。心不全を有する患者の大半は、左心室機能の障害に起因する症状を有する。これらの疾患プロセスの各々は、心筋収縮の強度および効率を低下させること、機械的な問題もしくは損なわれた拡張期弛緩に起因して、血液を補充する心臓のポンピングチャンバの能力を制限すること、または、過剰の血液をチャンバに補充することによって、心不全をもたらし得る。
【0005】
腎血流もまた、心不全の臨床的な症候群の発症における重要な要因である。これは、いくつかの重要な神経ホルモン応答、ならびに、塩および水のうっ滞の決定要因である。腎血流は、HFを有する患者において低減され、そして、HFを有する多くの患者はまた、最終的に腎不全を発症する。
【0006】
American College of Cardiology Guidelinse for the Evaluation and Management of Chronic Heart Failure in the Adultにより、心不全の4つの段階が認識されている。段階Aは、心不全を発症する危険性は高いが、心臓の構造的もしくは機能的な異常は同定されておらず、かつこれまでに心不全の徴候もしくは症状を示したことのない患者を指す。必要とされる場合、段階Aの患者は、血圧を低下させ、そして、心臓の仕事量を減らすために、ACEインヒビターが処方される。段階Bは、心不全の発症に強く関連する発達した構造的な心疾患を発症しているが、これまでに心不全の徴候もしくは症状を示したことのない患者を指す。段階Bの患者は、代表的に、心筋の酸素要求を減らし、それによって、虚血を減らし、かつ、心拍数および心臓の仕事量を減らす、ACEインヒビターおよびβ−遮断薬が処方される。段階Cは、根底にある構造的な疾患に関連する心不全の現在また過去の症状を指す。段階CにおけるHFの管理は、ACEインヒビター、β−遮断薬、利尿薬およびジギタリスを含む、三重または四重の薬物治療を含み得る。段階Dは、進行した構造的な心疾患を有し、かつ最大限の内科療法にもかかわらず、安静時に心不全の顕著な症状を有する患者を指し、特別なインターベンションを必要とする。HFは末期的な状態なので、中期段階および末期段階のHF(それぞれ、段階Cおよび段階D)の処置は、患者が、比較的活動的なライフスタイルを継続し得るように、症状を緩和すること、および、患者のクオリティオブライフを上昇させることに焦点を当てている。心不全の進行の首尾よい管理、および、心不全の症状を軽減するための有効な処置は、心臓の駆出率の増加、呼吸困難の低下、ならびに心拍数(frequency)の変化、および/または心不全の症状の重篤度をモニターすることによって決定される。しかし、現在の末期薬物療法(例えば、ドブタミンまたはミルリノン)は、患者のクオリティオブライフを上昇させる一方で、また、死亡率も増加させることが示されている。
【0007】
米国において約400万人が、種々の程度の心不全に罹患していると見積もられている。心不全は、慢性の状態であるので、この疾患は、しばしば、病院での緊急医療を必要とする。患者は、一般に、深刻もしくは重篤な息切れを伴う、急性肺うっ血で入院する。HFのための緊急医療は、他のあらゆる心臓の診断よりも長い在院日数を使用する原因となり、そして、米国において、毎年75億ドル以上を消費する。
【0008】
慢性心不全の処置に関する現在の研究は、梗塞のサイズを最小化もしくは低減し、そして、再灌流傷害を防止することによる、心保護、心筋組織の救出を提供することに焦点を当てている。心不全を処置するための現在の薬物療法の多くは、心筋梗塞に関連する特定の臨床的局面(例えば、抗血小板/フィブリン溶解性活性、抗炎症性活性および抗酸化物質活性)に対処する。このような薬物としては、血管狭窄を防止するため、ならびに身体への血流を増加させるためのACEインヒビター、過剰の体液を除去するための利尿薬、心臓の仕事量を減らすためのβ−遮断薬、心臓を通る血流を増加させて、そして脈管狭窄を防止するためのカルシウムチャネル遮断薬、血液凝固を防止するための血液希釈剤、および心臓の血液を駆出する能力を強化するための強心薬が挙げられる。今日までに、2〜3の会社だけが、組織の救出に対処する新規薬物を開発しているが、これらの薬物の有効性は、依然として診療所において確立されるべき状態のままである。全ての薬物と同様、これらの薬剤は、その有効性を保証するために十分な用量で摂取されなければならない。しかし、問題として、過剰な処置は、低血圧、腎障害(renal impairment)、低ナトリウム血症、低カリウム血症、心不全の悪化、精神機能の低下(impaired mental functioning)、および他の有害な状態をもたらし得る。外科的な処置としては、血管形成術、冠状動脈バイパス移植、弁置換、ペースメーカー、体内除細動器(internal defibrillator)、左心室補助デバイスおよび心臓移植が挙げられる。
【0009】
心不全は、65歳以上の患者における入院に関して、第一の診断である。1991年から、毎年、入院患者について381億ドルを超える額が消費され、そして、HFを処置するための薬物について5億ドルを超えるが消費されている。この障害は、毎年、1200〜1500万人の外来(office visit)および170〜260万人の入院についての根底にある理由である。心不全患者を処置するために必要とされる入院費用に起因して、HF患者を、できるだけすぐに(しばしば、入院の48時間以内に)外来診療にすることが現在の傾向となっている。専門化された外来診療所が、現在、心不全患者に利用可能である。これらの患者は、代表的に、血流力学的な症状が改善するまで、1週間あたり1回〜4回の間、この診療所に通院して、所定の心不全治療の静脈内注入を受ける。
【0010】
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(「CGRP」)は、ヒトの体内で天然に存在する最も強力な血管拡張性ペプチドである、37アミノ酸の神経ペプチドである。CGRPは、中枢神経系および末梢神経系の全体に分布し、そして、心脈管機能に関与することが知られている領域において見出される(非特許文献1)。CGRPは、心臓、特に、洞房結節および房室結節と関連して見出される。さらに、CGRPは、末梢脈管系(大脳動脈、冠状動脈および腎動脈を含む)全体に密な外膜周囲網を形成する神経線維において見出される。CGRPは、正常な心脈管機能において重要な役割を果たし得る、突出した心脈管効果(血管拡張ならびに陽性の変時性および変力性の作用を含む)を有する(非特許文献2)。
【0011】
投与される場合、CGRPは、はっきりした心脈管上の利益を有し、これらの利益としては、血管拡張、虚血時の心保護、心臓発作に起因する梗塞サイズの減少、血小板凝集および平滑筋細胞増殖の阻害(これらは、潜在的に再狭窄の発生率を低下させ得る)、腎機能の増加、ならびに心脈管機能の能率の全体的な増加が挙げられる。心保護を提供し、再灌流傷害を最小限にし、そして、梗塞サイズを減少させた結果として、心筋組織の救出を促進する。CGPRはまた、収縮性、変時性、微小管透過性、血管緊張および新脈管形成の調節において役割を果たす。CGRPはまた、従来の薬物処置を上回る有意な利点を有する。第一に、CGRPは、従来の心脈管薬物(例えば、ニトログリセリン、ドブタミンおよびナトレコア(Natrecor))に伴う、潜在的に危険な副作用、毒性および耐性を生じない。実際、CGRPは、サイトカイン放出の抑制により免疫応答をダウンレギュレートすることが報告されており、感受性を誘導することなく、免疫抑制された被験体に対して安全に投与される。第二に、CGRPは、複数の血流力学的な利益を有するので、特定の血流力学機能を維持するための薬物カクテルに対する必要性を潜在的に減少または排除し得る。第三に、CGRPの生化学活性は、心臓、腎臓および生殖器に集中する、特定のレセプター結合部位を介して媒介され、そして、それぞれ、上皮細胞および平滑筋細胞の表面に位置する2つの特異的なCGRPレセプターサブタイプに作用することが公知である。従って、CGRPは、全身投与された場合、事実上、副作用も耐性も示さない。
【0012】
研究は、CGRPの急性期投与が、多数の臨床上のシナリオにおいて、心臓の性能の向上、および全身性の抵抗性の減少をもたらし得ることを実証している。例えば、Anandら(非特許文献3)は、0.8ng/kg/分、3.2ng/kg/分または16ng/kg/分(すなわち、70kgの被験体に基づくと、56ng/分、224ng/分または1120ng/分)の速度で、CGRPを短期間にIV注入(10分間または20分間)することにより、頻脈が観察されずに、有益な血流力学的効果(例えば、全身性の脈管抵抗性の減少、および心拍出量の増加)を生じたことを報告した。この研究は、低用量のCGRPは、純粋な細動脈の血管拡張薬として挙動し、一方で、高用量のCGRPは、混合型の血管拡張薬として機能すると結論付けた。Stephensonら(非特許文献4)は、48時間の連続IV注入、または2日間連続で2〜8時間の注入のいずれかによって、600ng/分の速度でのCGRPの投与を報告した。連続注入療法において、注入は、6人の患者のうち3人において、吐き気、下痢および/または深刻な顔面紅潮に起因して、28時間後に中断した。一方で、律動的な治療は、十分に耐え得るものであり、そして、血流力学機能(例えば、左心室機能)を改善することが観察された。しかし、頻脈および神経液性応答の望ましくない副作用は、律動的な治療においてもまた観察された。Sekhar(非特許文献5)は、8時間にわたるIV注入による、8ng/kg/分(すなわち、70kgの被験体に基づくと、560ng/分)の速度でのCGRPの投与を報告した。この治療は、有益な血流力学的効果(例えば、肺および全身の動脈圧の低下、血管抵抗性の減少および心拍出量の増加)を有することが観察された。処置の間に腎血流および糸球体濾過が増加したこともまた観察された。しかし、血流力学的効果は、CGRP注入を停止してから30分以内に消失した。
【0013】
慢性HFは、進行性の疾患である。それゆえ、患者のクオリティオブライフを上昇し、かつ症状を軽減しながら、状態を悪化させる疾患の進行を減らすことを最初に追求する治療が望ましい。慢性心不全が、急性の症状の発症の際の病院での処置によってではなく、適切な薬物療法の日常的な投与もしくは制御放出投与によって管理および制御され得る場合、後者の方が、費用対効果がかなり高く、なおかつ、患者の健康にとってもより良い。
【非特許文献1】Wimalawansa,S.,Critical Reviews in Neurobiology,(1997)第11号:p.167−239
【非特許文献2】Wimalawansa,S.,Endocrine Reviews.(1996)第17号:p.208−217
【非特許文献3】Anandら、J.Am.Coll.Cardio,(1991)第17号:p.208−217
【非特許文献4】Stephensonら、Int.J.Cardiol.,(1992)第37号:p.407−414
【非特許文献5】Sekharら、Am.J.Cardiol.(1991)第67号:p.732−736
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、一般にCGRPに関連する有害な影響(例えば、吐き気、下痢、深刻な顔面紅潮および間欠性頻脈)を最小限もしくは緩和しながら、HFの根底にある状態を処置する様式で、1種以上の用量のCGRP処方物を投与することによって、心不全(「HF」)を処置または予防するための方法を提供する。より具体的には、本発明は、HFを罹患するか、またはHFの危険がある患者に対する改善されたCGRP投薬レジメン、および、CGRPの低用量かつ長期間の投与を提供することによって、HFを処置する方法、またはHFのより進行した段階への進行を遅らせる方法を提供する。
【0015】
従って、本発明の一局面は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、CGRPの循環血漿レベルが、血流力学的な安定性を維持するのに十分であるように、患者にCGRPを投与して、それにより、HFの症状が悪化することを予防または遅延する工程を包含する。段階Cおよび段階DのHF患者を用いた以前の臨床研究において、CGRPの効果的な循環血漿レベルが、157±26pg/mLと186±127pg/mLとの間の範囲の静脈内注入により投与された(Anandら、1991およびShekharら、1991、前出)。しかし、これらの用量は、望ましくない副作用が起こる前に、約12〜24時間で静脈内に投与され得るのみであり、そしてIV投与は中断されなければならない。対照的に、本発明の方法は、制御放出系または制御放出組成物によってCGRPを投与し、この方法は、特定の制御放出送達系または制御放出送達組成物の能力の範囲内である期間にわたって、約11±5pg/mLと186±127pg/mLとの間のCGRPの循環血漿レベルを維持する。
【0016】
一実施形態において、制御放出組成物は、CGRPを含有する生分解性ポリマーマトリクスを含み、この組成物において、CGRPは、ポリマーマトリクス内からの拡散もしくはポリマーマトリクス内への溶解によって、および/またはポリマーマトリクスの分解によって、インサイチュでポリマーマトリクスから放出される。制御放出処方物はまた、フィルムの形態であり得る。別の実施形態において、制御放出処方物は、生分解性の合成ポリマー(例えば、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)およびこれらのCGRP負荷とのコポリマー)の組み合わせから形成された固形の微粒子を含み、経口投与、経粘膜投与、局所投与または注射により投与された場合、ある時間にわたっての徐放を達成する。さらなる実施形態において、この制御放出処方物は、リポソーム内にカプセル化されたCGRP、またはポリマーに結合されたCGRPを含む。
【0017】
上記の方法および制御放出組成物は、さらに、最初の処置が完了した後に、好ましくは、より低いCGRP用量またはより低いCGRP投薬速度を用いて、維持処置のために使用され得る。
【0018】
本発明は、さらに、HFの危険がある患者においてHFを防止する予防的方法、または、HFを罹患する患者においてHFの進行もしくは症状を遅延する予防的方法を提供する。例えば、本発明の別の局面は、患者において心筋梗塞を防止するかまたは心筋梗塞の発生の危険性を減らす方法を提供し、この方法は、心筋梗塞を有する危険のあるヒトに、心筋梗塞を防止するかまたは心筋梗塞の危険性を減らすのに有効な量の制御放出CGRP処方物を投与する工程を包含する。
【0019】
上記の全ての方法において、患者に送達されるCGRPの量は、症状、HFの段階、重篤度の程度および/または患者に投与される他の医薬(例えば、利尿薬)に依存する。
【0020】
本発明はさらに、現行のHF治療を増強する方法を提供し、この方法は、本発明の投薬レジメンに従って、HFのための1種以上の追加の薬物と一緒に、CGRPを投与する工程を包含し、そして、この方法において、CGRPおよび追加の薬物は、一緒に、別々に、および同時に、または、別々に任意の順序で投与され得る。
【0021】
本発明はさらに、患者において心筋梗塞に起因する虚血を減殺する方法を提供し、この方法は、心保護、梗塞サイズの減少、再灌流傷害の減少、症状の軽減を提供するのに有効な量のCGRPか、および/または、症状の悪化を防止するのに有効な量のCGRPを上記患者に送達する工程を包含し、この方法において、上記CGRPは、制御放出組成物として上記患者に送達される。
【0022】
本発明の別の局面は、腎機能低下に罹患する患者において、腎血流および糸球体濾過を改善する方法を包含し、この方法は、腎血流および/または糸球体濾過を改善する必要のある患者に、腎血流および/または糸球体濾過を改善するのに有効な様式でCGRPを投与する工程を包含する。
【0023】
本発明の方法に従ってCGRPを投与することにより、HFのための現行の処置と比較して、より安全かつより効果的な、急性心虚血および心不全の処置が提供される。心保護、心筋組織の救出、心臓の血流力学的な改善、およびCGRPにより提供される腎機能における利点を考慮すると、本発明の方法は、保健システム内に入ってきたときに、心筋梗塞(MI)に罹患する患者を最初に処置する、救急処置室の医師、および/または、血管形成術もしくはステント術手順(stenting procedure)を用いて虚血性の心臓に血流を回復することに取り組む介在性の心臓病専門医(interventional cardiologist)、および/または、末期患者に対して上昇したクオリティオブライフを提供するために、中期〜末期の心不全患者を処置している心臓病専門医の造兵廠(arsenal)における強力な現場の武器となる可能性を有する。
【0024】
本発明のさらなる利点および新規な特徴は、以下の明細書に部分的に示され、そして、以下の明細書の精査、または本発明の実施により学び得ることによって、部分的に当業者に明らかとなるであろう。本発明の利点は、特に添付の特許請求の範囲に示される手段、組み合わせ、組成物および方法によって、実現化および達成され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(発明の詳細な説明)
本発明の一局面は、HFを処置または防止するのに有効な様式で、HFを有する患者にCGRPを投与するための改善された方法を提供する。「患者」は、ヒトのような温血動物を含む、あらゆる生きている生物であり得る。本発明の方法のいずれかに従う処置は、入院患者に対して行なわれ得るか(例えば、病院または救急処置室)、または、外来患者の設定に対して行なわれ得るか(例えば、ホスピスもしくは在宅看護の設定)、または、心筋梗塞を有する患者への救急看護の人員により行なわれ得る。本発明はさらに、入院患者または外来患者のいずれかの設定において、患者にCGRPを投与する改善された方法を提供することによって、HFを有する患者における血流力学的機能を改善する方法を提供する。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「HFを処置すること」CGRPの長期投与と関連し得る有害な影響(例えば、吐き気、下痢、深刻な顔面紅潮および間欠性頻脈)を最小限にするかもしくは減弱しながら、HFの根底にある1種以上の状態のいずれかを処置することをいい、これらの状態としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:心筋収縮能の低下、拡張期コンプライアンスの異常、心拍血液量の減少、肺うっ血、心拍出量の減少、および他の消失した血流力学的機能。「HFを処置すること」はまた、HFに関連する症状を軽減または減弱することも包含する。
【0027】
本発明はまた、HFを有する患者のクオリティオブライフを改善する方法を提供する。「クオリティオブライフ」とは、歩く、登る、階段の上り下り(stair)、使いをする(do errand)、家事をする、レクリエーション活動に参加するといった、患者の1種以上の能力、および/または活動の間に、断続的に、頻繁な休憩を必要としないこと、および/または、不眠症(sleeping problem)も息切れもないことを指す。
【0028】
本発明の目的のために、「HFを有する患者」とは、American College of Cardiology Guidelines for the Evaluation and Management of Chronic Heart Failure in the Adultにおいて分類されたような、段階B、段階Cまたは段階Dの心不全を有する人を指す。American College of Cardiology Guidelinesは、小児におけるHFを除外しているが、本発明の目的のために、この方法は、年齢に関係なく、あらゆる患者に適用可能であると考えられるべきである。
【0029】
より具体的に、本発明は、患者において、HFを処置もしくは防止するため、および/または腎機能を改善するために有効な量のCGRPを提供するための改善された方法を提供する。本発明に従うHFの処置において、CGRPを単独もしくは他の薬物と組み合わせて含むか、または、他の治療と組み合わされる組成物は、適正な医療行為と一致した様式で、処方、投薬および実施される。実際の用量は、各場合の特定の要因に依存することが理解されるべきである。一般に、有効量のCGRPまたはその薬学的に受容可能な塩を提供するために必要とされる投薬量は、本明細書中に開示される範囲内であり、当業者により調節され得る。投薬量は、個々の患者の臨床症状(特に、CGRPを単独、または他の治療剤との組合せで用いる処置の副作用)、患者の年齢、健康、身体の状態、性別、食事および病状、心不全の重篤度(すなわち、段階)、投与経路、CGRPの送達部位、使用される薬物送達系の型)、薬物の組み合わせの一部として投与されるかどうか、投与計画、および当業者に公知の他の要因に依存して変動する。従って、個々の必要性が変動し得る一方で、本明細書中に開示される範囲(ranged)内に含まれるCGRP(単独でか、または他の薬物との組み合わせ)の有効量についての最適範囲の決定は、当業者の知識の範囲内である。従って、本明細書における目的のための各成分の「有効量」は、このようなことを考慮して決定され、そして、有効量は、1種以上の血流力学的な機能を改善する量、および/または、HF患者における1種以上の有害な状態を緩和する量、および/または、HF患者のクオリティオブライフを改善する量、および/または腎機能を改善する量である。
【0030】
用語「血流力学的機能」としては、心拍数、右心房圧、肺動脈圧、肺動脈楔入圧、全身の動脈圧、心拍出量(すなわち、心係数)、心拍血液量係数、肺血管抵抗性および全身の血管の抵抗性が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
用語「改善された血流力学的機能」としては、心拍出量の増加、肺動脈楔入圧の減少、肺血管抵抗性の減少、および全身の血管抵抗性の減少、心筋収縮能の増加、正常な拡張期コンプライアンス、心拍血液量の増加、ならびに、肺うっ血の減少が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
用語「後負荷」とは、大動脈に血液を送る拍動毎の間、心臓が耐えなければならない抵抗を指す。この抵抗力は、血管作用力および血液の粘度を含む。
【0033】
用語「心係数」(CI)とは、身体の表面積1mあたり1分あたりに心臓により駆出される血液の量を指す。
【0034】
用語「心拍出量」(CO)とは、1分間に心臓により駆出される血液の量を指す。心拍出量の増加は、高い循環容積を示し得る。心拍出量の減少は、循環容積の減少、または心室収縮強度の減少を示す。
【0035】
用語「中心静脈圧」(CVP)とは、右心室拡張末期圧(RVEDP)を概算するために使用される読出しを指す。RVEDPは、右心室の機能および全体的な流体の状態を評価する。低いCVP値は、代表的に、血液量減少または静脈還流量の減少を反映し、そして、高いCVP値は、水分過剰、静脈還流の増加、または右側の心不全を反映する。
【0036】
用語「心拍数の変化」とは、頻脈または仕事量の増加を示す状態を指す。
【0037】
用語「呼吸困難」は、呼吸が不足していることを意味する。呼吸困難は、心不全の処置における有効性に対処するための主要な臨床上のエンドポイントである。
【0038】
用語「左心室拍動指数(stroke index)」(LVSI)は、静止位置から最大収縮点までの左心室の収縮位置の差を指す。
【0039】
用語「平均動脈圧」(MAP)とは、心拍出量(CO)と全身の脈管抵抗(SVR)との間の関係の変化を指し、そして、器官を灌流する脈管内の動脈圧を反映する。低いMAPは、器官を通る血流の減少を示し、高いMAPは、心臓の仕事量の増加を示す。
【0040】
用語「神経ホルモン放出」とは、血管収縮性の神経ホルモンであるノルエピネフリン、エピネフリンおよびレニンを放出することによって、腎血流を増加するための腎臓による応答を指す。これらのホルモンは、末梢脈管系を収縮するように機能して、PVRに有害な影響を与える。
【0041】
用語「前負荷」とは、心房を満たす肺の血液と、心筋線維の伸縮との組み合わせを指す。前負荷は、静脈内容積の可変性により調節される。容積の減少は、前負荷を減少させ、一方で、容積の増加は、前負荷、平均動脈圧(MAP)および拍動指数(SI)を増加させる。前負荷は、拡張期の間に生じる。
【0042】
用語「肺動脈圧」(PA圧)は、肺動脈内の血圧を指す。肺動脈圧の増加は、左から右への心分流(left−to−right cardiac shunt)、肺動脈高血圧、COPD、肺気腫、肺動脈塞栓、肺浮腫または左心室不全を示し得る。
【0043】
用語「肺毛細血管楔入圧」(PCWPまたはPAWP)は、LVEDP(左心室拡張末期圧)を概算するために使用される圧力を指す。高いPCWPは、左心室不全、僧帽弁の病理学、心不全(cardiac insufficiency)および/または出血後の心臓圧迫を示し得る。PCWPは、心不全処置における有効性に対処するための第一の臨床上のエンドポイントである。
【0044】
用語「肺血管抵抗」(PVR)とは、血流に対する肺血管床の抵抗または妨害の測定(measurement)を指す。PVRの増加は、肺血管疾患、肺塞栓症、肺血管炎または低酸素症により引き起こされるPVRの減少は、医薬(例えば、カルシウムチャネル遮断薬、アミノフィリンまたはイソプロテレノール)によって、またはOの送達によって引き起こされる。
【0045】
用語「腎血流」(RBF)とは、腎臓への血流の測定を指す。心拍出量の20%は、腎臓(これは、体重の1%未満で形成(compromise)される)を通って通過する。腎血流の増加は、腎機能の増加および尿排出の増加に比例する。
【0046】
用語「腎糸球体濾過」(RBF)は、タンパク質を含まない限外濾過血漿が糸球体の毛細血管壁を通過する際の、尿形成における第一段階を指す。腎血流の増加は、糸球体を通過する血漿の流れを増加させ、尿の排出を増加させる。
【0047】
用語「右心室圧」(RV圧)は、右心室機能および全体的な体液の状態を示す直接的な測定を指す。高いRV圧は、肺高血圧、右心室不全、またはうっ血性心不全を示し得る。
【0048】
用語「拍動指数」または「心拍血液量指数」(SIまたはSVI)は、交換可能に使用され、そして、体表面積(BSA)に対する1回の心循環において、心臓から拍出される血液の量を指す。SVIは、1回の拍動あたり1mあたりで測定される。SVIの増加は、早期の敗血症性ショック、高体温もしくは血液量過多を示し得るか、または、医薬(例えば、ドパミン、ドブタミンまたはジギタリス)により引き起こされ得る。SVIの減少は、CHF、後期敗血性ショック、β−遮断薬またはMIによって引き起こされ得る。
【0049】
用語「心拍血液量」(SV)は、1回の心循環あたり心臓により駆出される血液の量を指し、1回の拍動あたりのミリリットルで測定される。SVの減少は、心筋収縮能障害または弁の機能不全を示し得、そして、心不全につながり得る。SVの増加は、循環容積の増加または収縮性(inotropy)の増加により引き起こされ得る。
【0050】
用語「全身性の脈管抵抗」(SVR)は、血流に対する全身の血管床の抵抗または妨害の測定を指す。SVRの増加は、血管収縮薬、血液量減少または後期敗血症性ショックにより引き起こされ得る。PVRの減少は、早期敗血症性ショック、血管拡張薬、モルヒネ、硝酸塩または高炭酸ガス症によって引き起こされ得る。
【0051】
「マイクログラム」(μg)は、1グラムの100万分の1(すなわち、10−6グラム)である。
【0052】
「ナノグラム」(ng)は、1グラムの10億分の1(すなわち、10−9グラム)である。
【0053】
「ピコグラム」(pg)は、1グラムの1兆分の1(すなわち、10−12グラム)である。
【0054】
表1は、上記の血流力学的パラメータについての正常値を提供する。
【0055】
(表1)
【0056】
【表1】

CGRPの種々の供給源が、本発明の方法において使用され得る。例えば、合成CGRPが、周知の方法に従って自動化ペプチド合成装置を使用して得られ得る。CGRPを合成するための1つの方法は、周知のMerrifield法である(Merrifield,R.B.,J.Am.Chem.Soc.85:2149(1963)およびMerrifield,R.B.,Science,232:341(1986)(これらは、具体的に本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)。ヒトCGRPはまた、Peninsula Laboratory(Belmont,CA)、Bachem Biosciences,Inc.(King of Prussia,PA)およびSigma Chemicals(St.Louis,MO)のような商業的な供給源から入手され得る。市販等級のヒトCGRPは、ヒトへの使用のために市販されていない(この等級は、GMP/GLP等級ではないため);それゆえ、市販のヒトCGRPは、精製および滅菌され、その結果、ヒトへの使用に適合するようになった場合にのみ、本発明において使用され得る。遺伝子操作されたヒトCGRPもまた、本発明において使用され得る。また、CGRPアナログまたはCGRPの「レセプター構造」に基づいたアナログを用いて、類似の結果が達成され得る。これらは、ペプチドベースのアナログ、ならびにペプチド模倣物アナログを含む。従って、CGRPと同様に機能するアナログは、本発明の目的のためのCGRPの等価物として考えられる。動物由来のCGRPは、生物学的に活性であり、従って、本発明において使用され得る;しかし、実際の問題として、動物由来のCGRPは、アレルギーおよび自己免疫の問題を示し、それゆえ、好ましくは避けられる。
【0057】
本発明の方法において使用するために適切なCGRPの他の形態は、CGRPの薬学的に受容可能なプロドラッグである。「薬学的に受容可能なプロドラッグ」とは、生理学的条件下で、または、可溶媒分解によって、特定の化合物またはこのような化合物の薬学的に受容可能な塩に変換され得る化合物である。CGRPのプロドラッグは、当該分野で公知の慣用的な技術を用いて同定され得る。プロドラッグとしては、1つのアミノ酸残基、または、2つ以上(例えば、2つ、3つまたは4つ)のアミノ酸残基のポリペプチド鎖が、アミド結合もしくはエステル結合を介して、本発明の化合物の遊離アミノ基、ヒドロキシ基もしくはカルボン酸基に共有結合している化合物が挙げられる。プロドラッグのさらなる型がまた包含される。例えば、遊離カルボキシル基は、アミドもしくはアルキルエステルとして誘導体化され得る。遊離ヒドロキシ基は、Advanced Drug Delivery Reviews 1996,19,115に概説されるようにして、ヘミコハク酸塩、リン酸エステル、ジメチルアミノアセテートおよびホスホリルオキシメチルオキシカルボニルが挙げられるがこれらに限定されない基を使用して、誘導体化され得る。ヒドロキシ基およびアミノ基のカルバメートプロドラッグもまた、ヒドロキシ基のカルボン酸プロドラッグ、スルホン酸エステルおよび硫酸エステルとして包含される。(アシルオキシ)メチルおよび(アシルオキシ)エチルエーテルとしてのヒドロキシ基の誘導体化もまた、包含され、これらの誘導体においては、アシル基は、エーテル、アミンおよびカルボン酸官能基が挙げられるがこれらに限定されない基で必要に応じて置換された、アルキルエステルであり得るか、または、アシル基は、上述のようにアミノ酸エステルである。この型のプロドラッグは、J.Med.Chem.1996,39,10に記載される。遊離アミンもまた、アミド、スルホンアミドまたはホスホンアミドとして誘導体化され得る。これらの部分の全ては、エーテル、アミンおよびカルボン酸が挙げられるがこれらに限定されない基を組み込み得る。このようなプロドラッグ誘導体の他の例は、以下に記載される:a)Design of Prodrugs、H.Bundgaard編(Elsevier,1985)およびMethods in Enzymology,Vol.42,p.309−396、K.Widderら編、(Academic Press,1985);b)A Textbook of Drug Design and Development、Krogsgaard−LarsenおよびH.Bundgaard編,Chapter 5「Design and Application of Prodrugs」、H.Bundgaard p.113−191(1991);c)H.Bundgaard,Advanced Drug Delivery Reviews,8:1−38(1992);d)H.Bundgaardら、J.Pharmaceutical Sciences,77:285(1988)ならびに;e)N.Kakeyaら、Chem.Pharm.Bull.,32:692(1984)(これらの各々は、具体的に、本明細書中に参考として援用される)。
【0058】
制御された用量で投与される場合、CGRPは、はっきりした心脈管上の利益を有し、これらの利益としては、血管拡張、虚血時の心保護、心臓発作に起因する梗塞サイズの減少、血小板凝集および平滑筋細胞増殖の阻害(これらは、潜在的に再狭窄の発生率を低下させ得る)、腎機能の増加、ならびに心脈管機能の能率の全体的な増加が挙げられる。CGRPはまた、収縮性、変時作用、微小血管透過性、血管の張り、および脈管形成の調節において役割を果たす。
【0059】
記載したように、CGRPは、従来の薬物処置を上回る有意な利点を有する。第一に、CGRPは、従来の心脈管薬物(例えば、ニトログリセリン、ドブタミンおよびナトレコア)に伴う、潜在的に危険な副作用、毒性および耐性を生じない。実際、CGRPは、サイトカイン放出の抑制により免疫応答をダウンレギュレートすることが報告されており、感受性を誘導することなく、免疫抑制された被験体に対して安全に投与される。第二に、CGRPは、複数の血流力学的な利益を有するので、特定の血流力学機能を維持するための薬物カクテルに対する必要性を潜在的に減少または排除し得る。第三に、動物およびヒトにおけるこの薬物の効能、安全性および効力に関する20年を越える研究は、CGRPの心脈管上の利益を実証し、CGRPは、全身投与された場合、事実上、副作用も耐性も示さないことを示している。
【0060】
一般に、HF患者を処置する際には4つの目的がある:(1)症状の処置、(2)心機能不全の進行の遅延、(3)入院期間の減少、および(4)入院と入院の間の時間の増加(全て、保健医療費を最小にしながら)。本発明に従ってHFを処置または予防するための方法は、これらの目的の1つ以上を達成すると考えられる。
【0061】
本発明の方法に従って、ヒトを含む哺乳動物の治療的処置(予防的処置を含む)のためにCGRPを使用するために、通常は、標準的な製薬実務に従って薬学的組成物として処方される。本発明のこの局面によれば、薬学的に受容可能な希釈剤、もしくは薬学的に受容可能なキャリアを伴って、CGRPを含有する薬学的組成物が提供され、この組成物において、CGRPは、HFを処置もしくは予防するために有効な量、および/または、腎機能を改善するために有効な量で存在する。
【0062】
CGRPは、所望される場合、従来の無毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントおよびビヒクルを含有する、投薬単位処方物(例えば、デポー(depot)または制御放出処方物)において、任意の利用可能かつ有効な送達系(非経口、経皮、鼻腔内、舌下、経粘膜、動脈内もしくは皮内の投与様式が挙げられるがこれらに限定されない)により、患者に投与され得る。
【0063】
例えば、CGRPまたはその薬学的に受容可能な処方物は、例えば、静脈内注射、皮下注射、または筋肉内注射のための非経口投与用に処方され得る。注射可能な処方物について、一定量のCGRPは、好ましくは患者の血液と等張な滅菌水溶液と合わされ得る。このような処方物は、水溶液を生じるように、固体活性成分を、塩化ナトリウム、グリシンなどのような物質を含有し、かつ生理学的条件と適合性である緩衝化pHを有する水中に溶解して、次いで、この溶液を当該分野で公知の方法による滅菌に供することによって調製され得る。この処方物は、密閉されたアンプルまたはバイアルのような、単位用量または複数用量の容器内に存在し得る。この処方物は、任意の注射様式(筋膜上、皮内、筋肉内、血管内、静脈内、実質内、皮下、経口または鼻腔内の調製物が挙げられるがこれらに限定されない)により送達され得る(例えば、米国特許第5,958,877号(これは、具体的に本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)。
【0064】
薬学的組成物はまた、滅菌の注射可能な水性もしくは油性の懸濁物の形態でもあり得、これは、1種以上の適切な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤を用いて、公知の手順に従って処方され得る。滅菌の注射可能な調製物はまた、無毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶剤中の、滅菌の注射可能な溶液もしくは懸濁剤(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液)であり得る。
【0065】
本発明の実施形態のいずれにおいても、CGRPは、必要に応じて、生体適合性のポリマー、生分解性のポリマーと結合されて、結合体を形成する。本明細書中で使用される場合、用語「結合体」とは、1種以上のポリマーに共有結合もしくは非共有結合されたCGRP分子を指す。ポリマーの例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:生体ポリマー(例えば、ポリサッカリド、ポリアミド、薬理学的に不活性なヌクレオチド成分など)、生体ポリマーの誘導体および非生体ポリマーの誘導体。特定の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ポリ(アルキレングリコール)(例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG))、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ(β−ヒドロキシバレレート)、ポリジオキサノン、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリ無水物、ポリシアノアクリル酸塩、ポリ(ホスホエステル)、ポリホスファゼン、ヒアルロニデート、ポリサルホン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、キメラ型組換えエラスチン−シルクタンパク質(Protein Polymers,Inc.)およびコラーゲン(Matrix Pharmaceuticals,Inc)(上述のポリマーの詳細な議論については、Park,K.ら(1993)Biodegradable Hydrogels for Drug Delivery.Technomic Publishing Co.,Inc.,Lancaster,PAを参照のこと)。上記のポリマーは、必要に応じて、架橋されて、その有用性を改変し得る(例えば、その化合物をより水溶性にするか、水溶性を低くする)。多数の架橋剤が有用であり、これらとしては、ジオールおよび高級ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0066】
CGRPは、当業者に公知の従来の方法を使用して、上記のポリマーのいずれかと結合体化され得る。この方法において、結合体化は、CGRPの薬理学的活性を実質的に減少させない条件下で実施される。例えば、CGRPは、CGRP上の反応性基の、ポリマーの反応性基との反応によって直接ポリマーに共有結合され得る。用語「反応性基」は、CGRPまたはポリマーに結合したか、または、関与する成分(すなわち、CGRPおよびポリマー)間の化学反応に参加する化学部分を指す。反応性基の例としては、ヒドロキシル、カルボキシル、アミン、アミド、炭素−炭素二重結合および三重結合、エポキシ基、ハロゲンまたは他の脱離基などが挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、CGRPは、連結基を介してポリマーに結合され得る。用語「連結基」は、分子自体に限定されず、ポリマー、モノマーおよびCGRPと反応して、ポリマーにCGRPを結合させ得る化合物、分子および分子フラグメントを指す。したがって、連結基は、1つより多くの反応性基、好ましくは、2または3の反応性基を有する化合物などを含む。
【0067】
(非経口投与)
一実施形態によれば、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または、上記患者における心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するために必要とされる日数だけ、1日あたり30分と8時間との間の時間にわたって、CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物を、約50ng/分と500ng/分との間の速度で患者に投与する工程を包含する。例えば、CGRPは、約24時間と48時間との間の時間にわたって、または、大量投薬として、連続的もしくは断続的に投与され得る。CGRPが、毎日断続的に2回以上投与される場合、低用量(例えば、0.8ng/分〜10ng/分)が投与され得る。
【0068】
処置は、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/またはその患者における心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するために必要とされるだけ、または、もはや患者により耐えられなくなるまで、または、医師が処置を終了するまで、継続される。例えば、医師は、本発明に従ってCGRPで処置される患者における、HFの1種以上の症状、腎血流、糸球体濾過速度、ならびに/または、尿素およびクレアチニンの血清レベルをモニターし得、そして、一定時間にわたってHFの1種以上の症状の軽減を観察すると、患者は、一定時間にわたってさらにCGRPを投与することなく、上記の処置の正の効果を維持し得ると結論付け得る。必要な場合、患者は、次いで、後の時点で、必要に応じてさらなる処置に戻り得る。
【0069】
別の実施形態によれば、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または患者における心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するために必要とされるだけ、1週間あたり、少なくとも3連続した日または数回、1日あたり約8時間の間の時間、約500ng/分と600ng/分との間の速度で患者にCGRPを投与する工程を包含する。この処置は、心不全の悪化を防止し、そして、患者のクオリティオブライフを高めるために、外来患者治療として提供され得る。
【0070】
本明細書中で使用される場合、「日」は24時間を意味する。従って、例えば、「少なくとも3連続した日」とは、少なくとも72時間の期間を意味する。処置の間または処置の後に、医師は、患者における、HFの1種以上の症状、腎血流、糸球体濾過速度、ならびに/または、尿素もしくはクレアチニンの血清レベルをモニターし得、そして、一定時間にわたって1種以上のパラメータの改善を観察すると、患者は、一定時間にわたってさらにCGRPを投与することなく、上記の処置の正の効果を維持し得ると結論付け得る。
【0071】
別の実施形態によれば、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、入院患者の毎日について、1日あたり8時間までの時間にわたって、または、必要に応じて、約50ng/分と400ng/分の間の速度でこの患者にCGRPを投与する工程を包含する。特定の場合において、患者は、より高い用量(例えば、同じ時間にわたって2μg/mlまで)を必要とし得る。
【0072】
一旦、本発明の方法のいずれかに従ったCGRPを用いる処置が所望の結果(例えば、症状の軽減、症状の悪化の防止、ならびに/または、心不全の疾患状態の進行の防止および/もしくは遅延)を達成すると、患者は、所望される場合、次いで、維持療法を受け得る。例えば、低用量のCGRP(例えば、10ng/分未満)が、任意の適切な経路(注射、静脈内投与などが挙げられるがこれらに限定されない)により維持療法のために患者に投与され得る。一実施形態において、送達レジメンは、約0.8ng/分〜10ng/分の間の速度で、所望の期間にわたって(例えば、3ヶ月、6ヶ月または9ヶ月の期間にわたって)、CGRPを送達するように設計され得る。
【0073】
本発明の方法のいずれかに従うCGRP療法は、虚血性の傷害からのさらなる損傷を防止し、そして、治癒プロセスを促進するので、これはまた、HFのようなより深刻かつ進行性の疾患への、心臓の状態のさらなる悪化を遅延または防止するために使用され得る。従って、上記の方法の各々はまた、早期段階のHFのより進行した段階への進行を防止または遅延するための、予防処置として使用され得る。すなわち、一旦本発明の方法のいずれかに従うCGRPを用いた処置が、所望の結果を達成すると、患者は、その後、必要に応じて維持療法を受け得る。例えば、心臓の異常を有する患者に維持療法を提供するための本発明の一実施形態は、任意の適切な経路(注射、静脈内投与、制御放出投与などが挙げられるがこれらに限定されない)によって、維持療法のために、患者に低用量のCGRP(例えば、10ng/分未満)を提供する工程を包含する。一実施形態において、送達系は、約0.8ng/分〜10ng/分の間の速度で、所望の期間にわたって(例えば、3ヶ月、6ヶ月または9ヶ月の期間にわたって)、CGRPを送達するように設計され得る。代替的な実施形態において、患者は、制御放出処方物に由来するCGRPの長期、低用量の、維持投与を受け得る。
【0074】
さらに、心筋梗塞MIに苦しむ患者は、将来、別のMIに苦しむ傾向があることが知られている。従って、MIを有する患者は、HFの1種以上の症状が消失するまで、本発明の方法のいずれかに従って、初期用量のCGRPで処置され得、その後、CGRP維持投薬レジメンを受け得る。この維持レジメンはまた、最初にCGRP以外の手段によりMIを処置されたMI後患者に対して与えられ得、そしてまた、MIをまだ罹患していないHF患者に対しても、HFのより進行した段階への進行を遅延するため、または、進行したHFを有する患者におけるMIの危険性を防止もしくは減少させるための手段として、使用され得る。
【0075】
本発明はさらに、腎機能の消失に苦しむ患者において、腎機能を改善するための方法を提供し、この方法は、HFを処置するための上記の投薬レジメンのいずれかに従ってCGRPを投与する工程を包含する。本明細書中で使用される場合、用語「改善された腎機能」としては、糸球体濾過の増加、腎血流の増加、ならびに、尿素およびクレアチニンの血清レベルの減少が挙げられる。
【0076】
必要な場合、CGRPは、単独、または、少なくとも1種の他の因子(抗増殖性剤、抗凝固剤、血管拡張薬、利尿薬、B遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症剤、抗酸化物質、および/または遺伝子治療が挙げられるがこれらに限定されない)と組合せてのいずれかで、本発明の方法に従って投与され得る。他の因子と組み合わせて使用される場合、CGRPおよびその因子は、別個に(同時にまたは任意の順序で別々に、のいずれか)、または混合して投与され得る。一実施形態において、CGRPおよび少なくとも1種の他の因子が、別個の成分として投与される場合、これらは、患者に、ほぼ同時に投与される。「ほぼ同時」とは、一方の化合物(例えば、CGRP)が患者に投与されてから約30分以内に、もう一方の化合物(例えば、抗増殖性剤または抗凝固剤)がこの患者に投与されることを意味する。「ほぼ同時」はまた、化合物の併用または同時投与を包含する。
【0077】
(制御放出投与)
本発明の別の局面は、CGRPを制御放出処方物として患者に送達することによって、HFおよび/または腎不全を処置する方法を提供する。本明細書中で使用される場合、用語CGRPの「制御」放出または「持続」放出は、CGRPの、連続的または断続的な、線形または非線形の放出を含む。CGRPの制御放出処方物には多くの利点がある。これらの中でもとりわけ、患者に対する単回の注射の簡便さ、反復注射に関連し得る全身のCGRP濃度のピークおよび谷の回避、CGRPの全体的投薬量を減少させる可能性、HFの進行の遅延、心保護、ならびに、CGRPの薬理学的効果を高める可能性が利点である。低い持続性の用量はまた、ときおり注入療法で観察される有害な影響を防止し得る。医療費を有意に減らすことに加え、制御放出薬物療法は、度重なる処置または入院から患者を解放し得るので、患者に、より良い自由度を提供し、そして、患者のコンプライアンスを改善する。CGRPの制御放出処方物はまた、以前には利用も考慮もされていなかった様式(例えば、MIに罹患している患者、または、MIに罹患する危険性の高い患者(例えば、段階B、CおよびDの心不全患者)のための維持療法)でCGRPを使用するための機会を提供する。
【0078】
(1.制御放出移植物)
本発明の制御放出組成物の一実施形態は、HFを処置または防止する際に使用するために適した、流動性を有する組成物を含み、この組成物は、インサイチュでCGRPを含む生分解性インプラントを形成する。本発明はさらに、流動性を有する組成物を含むキットを含む。この流動性を有する組成物は、適切な極性溶媒およびCGRPと組合せて、生分解性、生体適合性の熱可塑性ポリマーまたは熱可塑性コポリマーを含む。熱可塑性ポリマーまたは熱可塑性コポリマーは、実質的に水および体液に不溶性であり、そして、動物の身体内で、生分解性および/または生体腐食性である。流動性を有する組成物は、例えば、液体またはゲルとして、組織または体液に投与され、ここで、インプラント(すなわち、ポリマーマトリクス)がインサイチュで形成され、そして、その後、ポリマーマトリクス内からの拡散もしくはポリマーマトリクス内への溶解によって、および/または、ポリマーマトリクスの分解によって、CGRPがこのマトリクスから放出される。組成物は、生体適合性であり、そして、ポリマーマトリクスは、移植部位において実質的な組織の刺激または壊死を引き起こさない。本発明の目的に適した生体適合性、生分解性の制御放出ポリマー処方物の例は、再発行米国特許第37,950 E号、米国特許第6,143,314号および同第6,582,080 B2号(これらは、具体的に、本明細書中に参考として援用される)に提供される。
【0079】
より具体的には、本発明の流動性を有する熱可塑性ポリマー組成物は、ポリマー溶液を提供するために水性媒体に混和性〜分散性である、薬学的に受容可能な有機溶媒中に溶解された熱可塑性ポリマーまたは熱可塑性コポリマー、および、そのポリマー溶液内でCGRPの均質な溶液を形成するために溶解されたか、または、CGRPの懸濁物または分散物を形成するために分散されたかのいずれかである、CGRPまたはCGRP結合体を含む。ポリマー溶液が、水性環境下(例えば、生物において代表的に組織または器官を取り囲む、身体組織または体液)に置かれる場合、有機溶媒は、水性流体または体液に散逸または分散する。同時に、固体マトリクスまたはインプラントを形成するポリマー沈殿物またはポリマー凝集物、およびCGRPが、インプラントが凝固するとともにポリマーマトリクス内に捕捉またはカプセル化される。一旦固体インプラントが形成されると、CGRPは、ポリマーマトリクス内からの拡散もしくはポリマーマトリクス内への溶解によってか、および/または、ポリマーマトリクスの分解によって、固体マトリクスから放出される。
【0080】
好ましくは、流動性を有する組成物は、患者における注射に適切な、液体、ゲル、ペーストまたはパテである。本明細書中で使用される場合、「流動性を有する(flowable)」とは、患者の身体へ、任意の適切な手段によって投与される組成物の能力を指す。例えば、組成物は、シリンジおよび穿刺針を使用して患者内の特定の部位に注射され得るか、または、カニューレを介してアクセス可能な組織部位に置かれ得る。患者に注射される組成物の能力は、代表的に、組成物の粘性に依存する。それゆえ、組成物は、この組成物が、媒体(例えば、シリンジ)によって、患者の身体内へと入れられ得るように、適切な粘性を有する。本明細書中で使用される場合、「液体」は、せん断応力下で連続的な変形をうける物質である(Concise Chemical and Technical Dictionary,4th Enlarged Ed.,Chemical Publishing Co.,Inc.,p.707,N.Y.,NY(1986))。用語「ゲル」は、ゼラチン状、ゼリー様、またはコロイド状の特性を有する物質を指す(Concise Chemical and Technical Dictionary,4th Enlarged Ed.,Chemical Publishing Co.,Inc.,p.567,N.Y.,NY(1986))。
【0081】
用語「生分解性」とは、ポリマーマトリクスが、例えば、酵素の作用により、加水分解作用により、そして/または、他の類似の機構により、患者の体内で経時的に分解することを意味する。「生体腐食性」により、ポリマーマトリクスが、少なくとも部分的に、周囲の組織流体に見られる物質との接触または細胞の作用によって経時的に腐食または分解することを意味する。「生体吸収性」により、ポリマーマトリクスが、例えば、細胞または組織によって、分解され、そしてヒトの身体内に吸収されることを意味する。「生体適合性」とは、ポリマー、溶媒および結果として得られたポリマーマトリクスが、患者において有害な生物学的応答を誘発しないことを意味する。
【0082】
流動性を有する組成物を形成するように生体適合性の溶媒中に生分解性ポリマーおよびCGRPが溶解される熱可塑性組成物が提供され、これは、次いで、例えばシリンジおよび穿刺針、またはカテーテルを介して投与され得る。生分解性熱可塑性ポリマーが少なくとも実質的に、水性媒体または体液中で不溶性である限り、任意の適切な生分解性熱可塑性ポリマー、生体吸収性熱可塑性ポリマー、および/または生体侵食性(bioerodible)熱可塑性ポリマーが用いられ得る。適切な生分解性熱可塑性ポリマーが、例えば、米国特許第5,324,519号;同第4,938,763号;同第5,702,716号;同第5,744,153号;および同第5,990,194号(本明細書中において、それぞれが具体的に参考として援用される)において開示される。この熱可塑性ポリマーは、直鎖状のポリマー鎖または分枝したポリマー鎖を形成する種々の単量体、あるいは連結基(例えば、エステル、アミド、ウレタンなど)によって互いに結合される単量体単位から作製され得る。一実施形態に従って、これらの開始単量体の1つの、いくつかの断片は、少なくとも三官能性であり、そして、少なくとも(at lest)、生じるポリマー鎖のいくつかの分枝を提供する。適切な生分解性ポリマーの例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリアミド、ポリオルトエステル、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン(polyphosphazene)、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアクリレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(アミノ酸)およびコポリマー、ターポリマー、セルロースジアセテート、およびエチレンビニルアルコールコポリマー、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
この組成物に存在する生分解性熱可塑性ポリマーの型、分子量、および量は、代表的には、徐放性インプラントの所望の性質に依存する。例えば、生分解性熱可塑性ポリマーの型、分子量、および量は、この徐放性インプラントからCGRPが放出される時間の長さに影響し得る。具体的には、本発明の一実施形態において、この組成物はCGRPの1ヶ月送達システムを処方するために用いられ得る。このような実施形態において、この生分解性熱可塑性ポリマーは、好ましくは50/50ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)であり得、組成物の約40重量%〜約40重量%において存在し得、そして約12,000〜約45,000の平均分子量を有し得る。あるいは、別の実施形態において、この組成物は、CGRPの3ヶ月送達システムを処方するために用いられ得る。このような実施形態において、この生分解性熱可塑性ポリエステルは、好ましくは75/25ポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)であり得、組成物の約40重量%〜約50重量%において存在し得、そして約15,000〜約24,000の平均分子量を有し得る。
【0084】
本発明で用いられるポリマーの分子量は、インサイチュにおけるインプラントからのCGRPの放出速度に影響し得る。ポリマーの分子量が増加するほど、システムからのCGRPの放出速度は減少する。この現象は、CGRPの徐放のためのシステムの処方において有利に使用され得る。比較的速いCGRPの放出のためには、低分子量のポリマーが、所望の放出速度を提供するために選ばれ得る。比較的長期間にわたるCGRPの放出のためには、ポリマーのより高い分子量が選ばれ得る。従って、選択された時間の長さにわたるCGRPの放出のために適したポリマー分子量の範囲を有するポリマーシステムが提供され得る。ポリマーの分子量は、当業者に公知である、任意の種々の方法によって変化され得る。
【0085】
用いられる特定の生体適合性ポリマーは、危険ではなく、そして生じるポリマー溶液の粘性、その生体適合性の溶媒における生体適合性ポリマーの溶解度、所望の放出速度などに関連して選択される。このような因子は当業者にとって周知である。生分解性熱可塑性ポリエステルは、好ましくは、流動性を有する組成物の約30重量%〜約50重量%において存在する。好ましくは、この生分解性熱可塑性ポリエステルは、約12,000〜約45,000の平均分子量を有し、より好ましくは約15,000〜約30,000である。
【0086】
種々の溶媒に溶解されるポリマーの濃度は、ポリマーの型およびその分子量に依存して異なり、そしてこれらの因子は最適な注入効率を得るために変化され得る。均一な溶液を形成するために溶解されるか、あるいは、懸濁液、またはポリマー溶液中の薬物の分散を形成するために分散されるかのいずれかであるポリマー溶液に、CGRPが添加される。
【0087】
熱可塑性ポリマー組成物を調製するために適切な有機溶媒は、生体適合性で、薬学的に受容可能であり、そして、この流動可能な組成物が凝固するか、または固化するために、水または体液中に拡散され得る有機溶媒である。この有機溶媒は、その組成物からインプラント部位の水性組織または体液中に、インサイチュで拡散、分散、または浸出され得る。適切な溶媒の例としては、置換された複素環化合物(例えば、N−メチル−2−ピロリドン、および2ピロリドン);カルボン酸およびアルキルアルコールのエステル(例えば、プロピレンカルボネート、エチレンカルボネート、およびジメチルカルボネート);モノカルボン酸、ジカルボン酸、およびトリカルボン酸のアルキルエステル(例えば、2−エチオキシエチルアセテート、エチルアセテート、メチルアセテート、エチルラクテート、エチルブチレート、ジエチルマロネート、ジエチルグルトネート、トリブチルシトレート、ジエチルスクシネート、トリブチリン、イソプロピルミリステート、ジメチルアジペート、ジメチルスクシネート、ジメチルオキサレート、ジメチルシトレート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、グリセリルトリアセテート);アルキルケトン(例えば、アセトンおよびメチルエチルケトン);アルコール(例えば、ソルケタール、ホルマルグリセロール(glycerol formal)、およびグリコフロール);ジアルキルアミド(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルラクタミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびジメチルスルホン);テトラヒドロフラン;ラクトン(例えば、ε−カプロラクトン、およびブチロラクトン);環状アルキルアミド(例えばカプロラクタム);芳香族アミド(例えば、N,N−ジメチル−m−トルアミド、および1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン);ならびにこれらの混合物および組み合わせが挙げられる。好ましい溶媒としては、極性非プロトン性溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、カプロラクタム、トリアセチン、エチルラクテート、プロピレンカルボネート、ソルケタール、ホルマルグリセロール、グリコフロール)またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0088】
この溶媒は、水性媒体または体液中に分散し得るように混和性である限り、任意の適切な量で存在し得る。この組成物中に存在する生体適合性溶媒の型および量は、代表的には、徐放性のインプラントの所望の性質に依存する。例えば、生体適合性溶媒の型および量は、徐放性ポリマーマトリクスからCGRPが放出される時間の長さに影響し得る。具体的には、本発明の一実施形態において、この組成物は、CGRPの1ヶ月送達システムを処方するために用いられ得る。このような実施形態において、好ましくは、この生体適合性溶媒はN−メチル−2−ピロリドンであり得、好ましくは組成物の約60重量%〜約70重量%において存在し得る。あるいは、本発明の別の実施形態において、この組成物は、CGRPの3ヶ月送達システムを処方するために用いられ得る。このような実施形態において、好ましくは、生体適合性溶媒はN−メチル−2−ピロリドンであり得、好ましくは組成物の約50重量%〜約60重量%において存在し得る。
【0089】
種々の溶媒中の、この生分解性熱可塑性ポリマーの溶解度は、その結晶性、その親水性、水素結合、および分子量に依存して異なる。従って、同じ溶媒において全ての生分解性熱可塑性ポリマーが溶解し得るのではなく、そしてそれぞれの生分解性熱可塑性ポリマーまたはコポリマーは、その適切な溶媒を有する。
【0090】
流動性を有するポリマー性組成物を形成するための方法は、生分解性熱可塑性ポリエステル、生体適合性溶媒、およびCGRPを任意の順番で混合する工程を包含する。これらの成分、これらの性質、および好ましい量は、上記に記載されるとおりである。この混合する工程は、徐放性インプラントとして使用するための流動性を有する組成物を形成するために効果的な、十分な期間の間行われる。好ましくは、生体適合性熱可塑性ポリエステル、および生体適合性溶媒が互いに混合されて混合物を形成し、次いでこの混合物がCGRPと合わせられて、流動性を有する組成物を形成する。必要に応じて、穏やかな加熱工程および攪拌工程が、生体適合性溶媒中への生体適合性ポリマーの効果的な溶解に用いられ得る。
【0091】
このポリマー性組成物へ取り込まれるCGRPの量は種々の因子に依存し、これらの因子としては、生物学的効果に必要なCGRPの濃度、および効果的な処置のためにCGRPが放出されるべき時間の長さが挙げられるが、これらに限定されない。受容可能な溶液の限界、またはシリンジ針を通す注入のための分散の粘度を除いて、このポリマー溶液に取り込まれるCGRPの量に、決定的な限界は存在しない。この送達システムに取り込まれるCGRPのより低い限界は、CGRPの活性、および処置に必要な時間の長さに単純に依存する。
【0092】
固体のポリマーマトリクス(インプラント)からのCGRPの放出は、モノリシックなポリマー性デバイスからの薬物の放出のための、同じ一般的な規則に従う。CGRPの放出は、インプラントの大きさ(すなわち、患者に投与されるポリマー組成物の量)、インプラント中へのCGRPの充填、CGRPおよび特定のポリマーに関与する透過性因子、ならびにこのポリマーの分解に影響され得る。送達に選択されるCGRPの量に依存して、上記のパラメータが、所望の放出速度および持続期間を与えるために、薬物送達の当業者によって調節され得る。したがって、流動性を有する組成物は、数日〜数ヶ月の目標の期間にわたってCGPを放出するインプラントを作製するように設計され得る。
【0093】
投与される、流動性を有する組成物の量は、代表的には、徐放性インプラントの所望の性質に依存する。例えば、流動性を有する組成物の量は、徐放性インプラントからCGRPが放出される時間の長さに影響し得る。
【0094】
本明細書中で記載される任意の徐放性システムまたは徐放性組成物が、症候の軽減を提供する(例えば、HFの1つ以上の症状を減弱させることによって)のに必要な血漿レベルを達成する速度および量において、患者に送達されることが望ましい。以下は、血行力学的に損なわれる患者において、重大な副作用なしにCGRPが誘導する血行力学的な利益を最大の範囲にわたって生み出すために要求される、最小のIV注入速度および最大のIV注入速度、累積的な1日あたりの用量、ならびに血漿レベルの例である。最小かつ一過性の顔面紅潮が観察され得るが、IV注入において用量は極めて良く許容的である。
【0095】
1.体重が70kgの患者のための、HFの1つ以上の症状を減弱させるために送達される、最小の注入速度および一日あたりの用量:0.0008μg/kg/分×70kg×1440分=80.64μg/日。
【0096】
2.体重が70kgの患者のための、HFの1つ以上の症状を減弱させるために送達される、最大の注入速度および一日あたりの用量:0.016μg/kg/分×70kg×1440分=1.6mg/日。
【0097】
HFの1つ以上の症状の軽減を提供するか、または本発明の方法による1つ以上の血行力学的性質を改善するために、本明細書中に記載されるように、所望の定常状態のCGRPの血漿レベルを提供する特定の薬物送達システムに充填されるべきCGRPの量を決定することは、十分に当業者の技術の範囲内である。
【0098】
以下は、定常状態の血漿レベルを157±26pg/mLに維持するために適切な速度で、皮膚を通してCGRPを送達する経皮的送達システムに含む、CGRPの量の例であり、上記のレベルは、心拍出(cardiac output)の増加、心室充満圧の減少、肺の動脈圧および全身の動脈圧、血管の耐性、糸状体濾過液の増加、および腎血の流量を含む、大いに有益な血行力学的応答を提供するように見出されている。経皮的送達システムが、充填されたCGRPの25%を皮膚を通して送達する場合、8時間〜24時間にわたって1分あたり560ng(1分あたり0.008μg/kg)のIVの用量によって送達されるのと同様に(すなわち、288〜806μgのCGRPの送達)、総薬物充填を送達するために、経費的送達システムに必要な総薬物充填は、約1.152〜3.456mgである。類似した定常状態血漿レベルを維持するのに適切な速度で、薬物の100%を送達し得るポリマーマトリクスシステムは、経皮的システムより4倍低い総薬物充填、すなわち0.288〜0.806mgを必要とする。157±26pg/mlにおけるCGRPの最大血漿レベルを、最初の60分間で得る。好ましい実施形態において、この最大レベルは8時間〜24時間の間維持される。
【0099】
表2および表3は、7日間、30日間、60日間、90日間、120日間、または180日間にわたって示された送達速度を提供し、そして157±26pg/mLまでのCGRPの定常状態血漿レベルを維持するインプラントを作製するために、流動性を有する組成物および対応する注入体積に添加されるべきCGRPの量の例を示す。表2および表3において、送達速度およびCGRPの充填は、それぞれ、5重量%のCGRPおよび15重量%のCGRPをインサイチュで含むインプラントを作製する組成物について提供される。
【0100】
(表2)
(5%のCGRPを含む、熱可塑性ポリマー組成物)
【0101】
【表2】

(表3)
(15%のCGRPを含む、熱可塑性ポリマー)
【0102】
【表3】

例えば、本発明の一実施形態において、157±26pg/mLまでのCGRPの循環血漿レベルでCGRPを送達する、または、約0.11mLのこの組成物が患者に投与される場合に、7日間にわたって1分あたり0.008μg/kgの速度でCGRPを送達するポリマーマトリクスをインサイチュで作製するために、5重量%のCGRP(すなわち、5.64mgのCGRP)を含むポリマー性組成物が処方され得る(表2)。あるいは、157±26pg/mLのCGRPの循環血漿レベルでCGRPが送達されること、または180日間にわたって1分あたり0.008μg/kgの速度でCGRPが送達されることが所望される場合、15重量%のCGRP(すなわち、145.08mgのCGRP)を含む組成物が調製され得、そして約0.97mLのこの組成物が患者に投与される(表3)。類似した様式で、他の組成物が、表2および表3に示される例に従って調製されて、所望のCGRPの循環血漿レベルおよび目標の期間にわたる送達速度を提供する。表2および表3における処方物が実施例のように提供されて本発明を例示することが理解されるべきであり、そして異なる期間にわたって異なる送達速度を得るほかの処方物を設計することは、当業者の範囲内である。
【0103】
本発明の組成物は、目標の部位に直接送達され得、そして薬物投与の頻度を減らすために、目標の期間にわたってCGRPの連続的な放出を提供するように設計され得る。一般に、水性の媒体に囲まれる組織に、または組織の表面のいずれかに、流動性を有するポリマー性組成物を分配する際に、固体のインプラントまたはマトリックスが形成される。この組成物は、任意の簡便な技術によって、患者の組織または体液に送達され得る。例えば、この熱可塑性ポリマー溶液はシリンジ中に配置されて、そして針を通して患者の体中(すなわち、所望の組織部位または体液)に注入され得る。この組成物の針から組織または流体への放出に際して、この溶媒がポリマーから周囲の流体中に散逸または拡散して、生体適合性ポリマーの沈殿を生じ、その沈殿が凝集性の塊またはポリマーマトリクスを形成する。このポリマーマトリクスは、その周囲の組織または骨に、機械的な力によって付着され得、そしてその周囲の空洞の形をとり得、そしてその組織の不規則な表面に従い得る。このインプラントは、時間が経つと生分解性(biograde)であり、そしてCGRPが枯渇する場合除去を必要としない。
【0104】
特定の例において、流動性を有する送達システムからの固体マトリックスの処方は即座に起きない。例えば、このプロセスは、数分〜数時間の期間にわたって起き得る。この期間の間、凝固するポリマー性組成物からのCGRPの拡散速度は、続いて形成される固体マトリックスから生じる放出速度よりはるかに速くあり得る。「最初の突発的な放出(burst)」は、ポリマー性組成物が水性流体と接触された後の最初の24時間の間の、ポリマー性組成物からのCGRPの放出をいう。ポリマーマトリクス処方の間に放出される、このCGRPの最初の「突発的な放出」は、大量の活性因子の損失または放出を生じ得る。従って、ある実施形態において、この熱可塑性のポリマー組成物はさらに、移植後の最初の24時間の間にポリマー性組成物から放出されるCGRPの「最初の突発的な放出」を実質的に減少させる、ポリマー性徐放性添加物を含み得る。このような添加物の使用は米国特許第6,143,314号に記載され、本明細書中で具体的に参考として援用される。本明細書中で用いられる場合、用語「実質的に減少させる」とは、添加物を含まない組成物と比較して、ポリマー性組成物から放出されるCGRPの少なくとも15%の減少を意味し、好ましくは約15%〜約70%の減少である。適切な徐放性添加物の例としては、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLG)部分およびポリエチレングリコール(PEG)部分を有する熱可塑性ポリマーが挙げられる。一つの実施形態において、この徐放性添加物は、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)/ポリエチレングリコール(PLG/PEG)ブロックコポリマーである。このポリマー性徐放性添加物は、移植後最初の24時間の間にポリマー性組成物から放出される生物学的に活性な因子の最初の突発的な放出を減少させるのに効果的な量、このポリマー性組成物中に存在する。好ましくは、このポリマー性組成物は、約1重量%〜約50重量%、より好ましくは約2重量%〜約20重量%の、ポリマー性徐放性添加物を含む。
【0105】
その固体マトリクスは、患者または動物のインプラント部位内で生分解、生体侵食および/または生体吸収が可能であり、身体内でゆっくりと生分解し、除去されるまで、制御された速度でそのマトリクス内に含まれるCGRPを放出する。一般に、そのポリマーマトリクスは、約1週間〜約12ヶ月の期間にわたって分解する。CGRPの放出は、そのポリマーマトリクスのサイズおよび形状、そのポリマーマトリクス内の薬物の充填量、CGRPおよび特定のポリマーに関する透過率、ならびにそのポリマーの分解によって影響が及ぼされ得る。上記のパラメータは、放出の望ましい速度および期間を与えるように、薬物送達の当業者によって調節され得る(例えば、表2および表3を参照のこと)。
【0106】
そのポリマー性CGRP溶液は、組織部位を含む身体内の何れの場所(例えば、軟組織(例えば、筋肉または脂肪)、硬組織(例えば、骨)、または腔(例えば、歯周腔、口腔、膣腔、直腸腔、または鼻腔))にも配置され得る。本明細書で使用される場合、用語「組織部位」とは、生物における任意の組織を包含する。組織部位は、代表的には、水性の流体または体液(例えば、皮下組織、間質液、血液、血清、脳脊髄液または腹水)によって囲まれている。
【0107】
この実施形態において使用するための適切なポリマー性ゲルとしては、ABA型ブロックコポリマーまたはBAB型ブロックコポリマーが挙げられ、ここでこのAブロックは、生分解性ポリエステルを含む比較的疎水性のAポリマーブロックであり、Bブロックは、ポリエチレングリコール(PEG)を含む比較的親水性のBポリマーブロックである。このAブロックは、好ましくは、生分解性ポリエステルであって、この生分解性ポリエステルは、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ε−ヒドロキシヘキサンλヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、マレイン酸、およびこれらのコポリマーからなる群より選択されるモノマーから合成され、Bブロックは、PEGである。このポリマー性ゲルは、好ましくは生分解性であり、低温で水溶性を示し、哺乳動物の生理学的体温で可逆的な熱によるゲル化を受ける。さらに、これらのポリマー性ゲルは、生体適合性であり、時間を経るにつれてそのマトリクス内に浮かんだような状態のCGRPを放出し得る。このポリマー性ゲルは、米国特許第6,201,072号(これは、本明細書に参考として援用される)に開示されるように調製され得る。
【0108】
他の適切なポリマーとしては、熱硬化性ブロックコポリマーから調製されるその場で(インサイチュで)形成されるヒドロゲルが挙げられる。このようなブロックコポリマーは、特定の条件下でゲルとゾルとの間で逆戻りを受ける。このゲル−ゾル転移温度は、一般に、室温より高く、ゲルの組成、ならびにPEGまたはPEGコポリマーの化学構造および分子量に依存する。このポリマーは、ポリ(エチレングリコール)、その誘導体、またはこのポリ(エチレングリコール)セグメントと反応するコポリマーである。このポリマーはまた、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)または他のポリ(アルキレングリコール)であり得る。高分子量のポリ(エチレングリコール)はまた、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)とよばれる。ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)とのポリ(エチレングリコール)ブロックコポリマー(プルロニックポリマー(Poloxamers))もまた、使用され得る。異なる分子量の各セグメント、およびそのブロックの重量比、ならびに異なる順序が、使用され得る(例えば、PEO−PPO−PEO(Pluronic)、PPO−PEO−PPO(Pluronic−R)、PEO−PPOなど)。
【0109】
本発明において有用な適切なポリマーとしては、ポリ(エチレンオキシド)−ポリプロピレンオキシド)ポリ(エチレンオキシド)トリブロックコポリマーの群(ポロキサマーとしても知られる)の群であるPLURONIC(BASF Corp.)界面活性剤が挙げられる。この両末端におけるPEGブロックは、ちょうどPEG分子のように、α−シクロデキストリンと複合体を形成することが可能である。PLURONICポリマーは、独特の界面活性能力ならびに極めて低い毒性および極めて低い免疫原性応答を有する。これらの製品は、急性の経口毒性および皮膚毒性が低く、刺激もしくは感作を引き起こす能力が低く、かつ一般的な慢性かつ亜慢性毒性が低い。実際に、PLURONICポリマーは、医療適用および食品添加物において直接使用するための、FDAによって認可された少数の界面活性剤のうちの1つである(BASF (1990)Pluronic & Tetronic Surfactants,BASF Co.,Mount Olive, N.J.)。最近になって、いくつかのPLURONICポリマーが、薬物の治療効果を高めることが見出された。(March,K.L.ら,Hum.Gene Therapy 6(1):41−53,1995)。
【0110】
ヒドロゲルベースの注射用組成物は、任意の適切な様式で調製され得る。一般に、水溶液中のCGRPは、ポリ(エチレングリコール)成分と合わされる。その混合物は、一般には0℃〜25℃の温度へと冷却される。得られた生成物は、白色の粘性のあるヒドロゲルである。
【0111】
(2.フィルム)
本発明は、HFおよび/または腎不全を予防または処置する方法をさらに提供する。この方法は、CGRPを含む、生分解性の生体適合性ポリマーフィルムを患者に投与する工程を包含する。このポリマーフィルムは、それらの長さおよび幅と比較すると、薄い。そのフィルムは、代表的には、約60μm〜約5mmの間の選択された均一な厚みを有する。約600μm〜1mmの間で約1mm〜約5mm厚のフィルム、および約60μm〜約1000μmの間のフィルム;および約60〜約300μmのフィルムが、患者の身体へ挿入するための治療用インプラントの製造において有用である。そのフィルムは、癒着手術において使用される方法に類似の様式で、患者に投与され得る。例えば、CGRPフィルム処方物は、手術の間に組織部位の上に噴霧され得るかまたはしたたらせられ得るか、あるいは形成されたフィルムは、選択された組織部位にわたって配置され得る。代替的実施形態において、そのフィルムは、医療用デバイス(例えば、ステント)上の徐放性コーティングとして使用され得る。
【0112】
生分解性ポリマーまたは非生分解性ポリマーのいずれでも使用され得る。CGRPがポリマーマトリクス全体を通して均一に分布しているインプラントを製造するために使用され得る。本発明の生分解性フィルムを作製する際に使用するための多くの適切な生分解性ポリマーが、当該分野で公知であり、これらのポリマーとしては、ポリ無水物および脂肪族ポリエステル、好ましくは、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)ならびにこれらの混合物およびこれらのコポリマー、より好ましくは、PLA:PGAの50:50コポリマーおよび最も好ましくはPLA:PGAの75:25コポリマーが挙げられる。PLAの単一のエナンチオマー、好ましくは、L−PLAもまた、単独でまたはPGAと組み合わせてかのいずれかで使用され得る。ポリカーボネート、ポリフマレートおよびカプロラクトンはまた、本発明のインプラントを作製するために使用され得る。
【0113】
可塑剤が、起伏のある(contoured)表面との直接接触が望まれる適用のために、生分解性フィルムをより軟らかくかつより柔軟にするために、この生分解性フィルムに組み込まれ得る。
【0114】
本発明のポリマーフィルムは、平坦なシートとして形成および使用され得るか、またはそのフィルムが挿入される組織部位の起伏にフィットするようにかたどられた、三次元形態または「シェル」へと形成され得る。
【0115】
本発明のポリマーフィルムを作製するために、フィルムにとって望ましい分解時間に依存して、適切な「ポリマー」材料が選択される。このようなポリマー材料の選択は、当該分野で公知である。より短い分解時間が望ましい場合、より低分子量の、例えば、約20,000ダルトンの、50:50または55:45のPLA:PGAコポリマーが使用される。選択される分解時間を確実にするために、分子量および組成は、当該分野で公知のように変動し得る。
【0116】
本発明のポリマーフィルムは、当該分野で公知の溶媒(例えば、アセトン、クロロホルムまたは塩化メチレン)中に、ポリマー1gあたり約20mLの溶媒を用いて、選択されたポリマー材料を溶解することによって作製され得る。この溶液は、次いで脱気され、好ましくは、軽度の真空下で溶存空気を除去し、表面(好ましくは、平らな非粘着性表面(例えば、BYTAC(Trademark of Norton Performance Plastics,Akron,OH)、非粘着性コーティングの接着剤を裏に塗ったアルミホイル、ガラスまたはテフロン(登録商標)(非粘着性ポリマー)の上に注がれる。次いで、この溶液は、もはや粘着性および液体がなくなってしまったように見えるまで、乾燥され、好ましくは風乾される。ポリマーの既知の密度が、望ましい厚みのフィルムを生成するために必要とされる溶液の用量を逆算するために使用され得る。
【0117】
フィルムはまた、当該分野で公知の方法で熱圧縮および融解形成/延伸することによって作製され得る。例えば、より厚みのあるフィルムは、より薄いフィルムを形成するために圧縮され得、そして加熱した後に延伸され得るか、望ましい形の形状の上に引っ張られるか、または真空圧によって型に対して引っ張られ得る。
【0118】
本発明のポリマーフィルムに組み込まれるべきCGRPの量は、HFおよび/または腎不全を処置または予防する際に測定可能な効果を示すに有効な量である。CGRPは、種々の技術によって(例えば、溶液法、懸濁法、または溶融圧縮によって)フィルムに組み込まれ得る。
【0119】
固体のCGRPインプラントはまた、射出成形技術または押し出し技術によって、フィルム以外の種々の形状へと作製され得る。例えば、このインプラントは、CGRPのためのマトリクスとして機能する、CGRPの制御放出に十分な量のコア材料(例えば、エチレン/ビニルアセテートコポリマーであり、20重量%以上のビニルアセテート含有量)、およびコア材料を包む膜を含み得、そしてまた、EVA材料および20重量%未満のアセテート含有量からなる。このインプラントは、例えば、同軸押し出しプロセス(2種のEVAポリマーが、同軸押し出しヘッドの補助により同軸で押し出される方法)によって得られ得る。この同軸押し出しプロセスは、それ自体当該分野で認知されており、よってこの説明の範囲内で検討しない。
【0120】
(3.被包性のCGRP)
本発明に従うなお別のCGRP制御放出処方物は、例えば注射によって身体組織または体液に投与され得る非常に小さなカプセルを含む。よって、本発明は、CGRPを含むカプセルを投与することによってHFを処置する方法、およびこのカプセルを含むキットをさらに提供する。このカプセルは、CGRPを取り囲む周囲層(encapsulating layer)を含むか、またはこの周囲層全体に分散したCGRPを含む。注射後、周囲層は分解または溶解し、CGRPが心臓内に放出される。CGRPはまた、周囲層を通じて拡散し得る。この周囲層は、種々の材料(マイクロカプセルの形態にある生分解性ポリマーが挙げられる)から作製され得るか、またはリポソームおよびミセルを形成する標準的な小胞形成脂質から作製され得る。このような徐放性CGRPカプセルは、HEおよび/または腎不全の処置または予防のために有用である。生分解性ポリマーおよび非生分解性ポリマーの両方が、処方物(これの中で、CGRPがポリマーマトリクス内に包まれ、かつ速度制御膜によって取り囲まれる)を調製するために使用され得る。
【0121】
(a.ミクロスフェア)
CGRP含有カプセルの一実施形態は、経口投与、筋肉内投与、局所投与または注射により投与される場合、1日〜少なくとも1週間の期間にわたって徐放を生じる、生分解性ポリマーとCGRP充填物との組み合わせで形成される固体の微粒子を含む。この微粒子は、10ミクロン〜100ミクロンの大きさの範囲の、針を通じて通過するに十分小さな直径を有する。経口投与された微粒子は、好ましくは、小腸による取り込みを容易にするために、直径10ミクロン未満である。このミクロスフェアは、0.01重量%未満から約50重量%までのCGRPを含み得る。
【0122】
本明細書で使用される場合、「マイクロ」とは、nmからμmの直径を有する粒子をいう。ミクロスフェアは、固体の球状粒子である;微粒子は、不規則な、または非球状の形状の粒子である。ミクロスフェアは、ミクロスフェアを形成するために本来使用される材料とは異なる組成の外側コーティングを有する。従って、用語「ミクロスフェア」とは、本明細書で使用される場合、微粒子、ミクロスフェアおよびマイクロカプセルを包含する。
【0123】
ミクロスフェアを形成するために使用され得るポリマーとしては、生分解性ポリマー(例えば、ポリ(ラクチド−co−グリコール酸)(PLG)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレートと分解性ポリウレタン、ならびにそのコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。適切な溶媒および非溶媒が見出され、望ましい融点を有するのであれば、ほとんど任意の型のポリマーが使用され得る。
【0124】
生分解性ミクロスフェアは、例えば、MathiowitzおよびLanger(J.Controlled Release 5:13−22(1987));Mathiowitzら,(Reactive Polymers,6:275−283(1987));ならびにMathiowitzら,(J.Appl.Polymer Sci.,35:755−774(1988))(これらの教示は、本明細書に参考として援用される)によって記載される、薬物送達のためのミクロスフェアを作製するために開発された任意の方法を用いて調製され得る。例えば、Mathiowitzら,(Scanning Microscopy,4:329−340(1990));Mathiowitzら,(J.Appl.Polumer Sci., 45:125−134(1992));ならびにBenitaら,(J.Pharm.Sci.73:1721−1724(1984))(これらの教示は、本明細書に参考として援用される)によって記載されるように、その方法の選択は、ポリマー選択、サイズ、表面的な形状、および望ましい結晶性に依存する。方法は、溶媒蒸発、相分離、噴霧乾燥、およびホットメルトカプセル化が挙げられる。米国特許第3,773,919号;同第3,737,337号;同第3,523,906号;同第4,272,398号;同第5,019,400号;同第5,271,961号および同第6,403,114号(この各々は、本明細書に参考として援用される)は、ミクロスフェアを作製するための方法の代表である。米国特許第5,019,400号(本明細書に参考として援用される)は、Prolease(登録商標)プロセス(このプロセスにおいて、ミクロスフェアが26ゲージ針(直径50μm未満)を介した注射に適切なサイズで形成され得る)を記載する。米国特許第5,019,400号に記載されるプロセスは、水が存在しない場合に、非常に低温で薬物カプセル化を達成するという利点を有する。これらの条件は、安定性の維持が懸念される、タンパク質のような壊れやすい高分子に特に適している。微粒子は、連続した凍結抽出プロセスまたはバッチプロセス(ここで凍結した微小滴のバッチが、第1の工程で形成され、次いで、別個の第2の工程で、そのバッチ中の凍結された微小滴が、微粒子を形成するために抽出される)のいずれかによって形成され得る。米国特許第6,403,114号は、市販のバッチサイズでミクロスフェアを調製する方法を記載し、米国特許第5,271,961号は、ミクロスフェアを調製する連続法を記載する。これらの特許の各々は、本明細書に参考として援用される。
【0125】
一般に、ミクロスフェアは、CGRPと、ポリマーと溶媒とを合わせて小滴を形成し、次いで、その溶媒を除去して、ミクロスフェアを得ることによって調製され得る。そのミクロスフェアは硬くされ、乾燥され、そして自由に流動する粉末として回収される。患者に投与する前に、その粉末は、希釈剤中に懸濁され、次いで、患者に注射される。ミクロスフェアからのCGRPの放出は、このポリマーマトリクスを介してかつそのポリマーの生分解によるCGRPの拡散によって支配される。この放出動態は、多くの処方の変数および製造の変数(ポリマー特性および賦形剤の添加ならびに放出改変因子が挙げられる)を介して調節され得る。米国特許第4,272,398号(本明細書に参考として援用される)に記載される溶媒蒸発において、このポリマーは、揮発性有機溶媒中に溶解される。このCGRPは、溶解形態でも、微細な粒子として分散されていても、ポリマー溶液に添加され、その混合物は、界面活性剤(例えば、ポリ(ビニルアルコール))を含む水相に懸濁される。得られたエマルジョンを、有機溶媒の大部分が蒸発して、固体のミクロスフェアが残るまで攪拌する。溶液にCGRPを充填した後、この溶液を、1%(w/v) ポリ(ビニルアルコール)を含む蒸留水に懸濁し、その後、その溶媒を蒸発し、得られたミクロスフェアを凍結乾燥器中で一晩乾燥させる。種々のサイズ(1〜1000ミクロン)および形態を有するミクロスフェアは、比較的適切なポリマー(例えば、ポリエステルおよびポリスチレン)に有用な方法により得られ得る。
【0126】
ポリマー加水分解は、酸性または塩基性のpHで促進され、よって酸性の賦形剤または塩基性の賦形剤を含めることが、ポリマーの浸食速度または分解速度を調節するために使用され得る。これらの賦形剤は、粒子として添加され得るか、組み込まれるCGRPと混合され得るか、またはポリマー内に溶解され得る。
【0127】
分解調節因子がまた、微粒子処方物に添加され得、添加される量は、ポリマー重量に対する重量に基づく。分解調節因子は、別個の相として(すなわち、粒子として)その処方物に添加され得るか、またはその化合物に依存して、ポリマー相中に同時に溶解され得る。全ての場合において、添加される増強因子の量は、好ましくは、0.1〜30%(w/w,ポリマー)の間である。分解調節因子の型としては、無機酸(例えば、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウム)、有機酸(例えば、クエン酸、安息香酸、ヘパリンおよびアスコルビン酸)、無機塩基(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、および水酸化亜鉛)、および有機塩基(例えば、硫酸プロタミン、スペルミン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン)、ならびに界面活性剤(例えば、TweenおよびPluronic)が挙げられる。
【0128】
安定化因子がまた、放出期間に依存して、CGRPの効力を維持するために処方物に添加され得る。安定化因子としては、炭水化物、アミノ酸、脂肪酸および界面活性剤が挙げられ、これらは、当業者に公知である。さらに、CGRP(例えば、塩、複合剤(complexing agent)(アルブミン、プロタミン)の可溶性を改変する賦形剤が、その微粒子からのタンパク質の放出速度を制御するために使用され得る。
【0129】
HFおよび/または腎不全の処置または予防のための一実施形態において、その患者は、1ヶ月または2ヶ月の期間にわたって分解する微粒子に組み込まれたCGRPを投与される。この微粒子は、好ましくは、10〜60ミクロンのサイズの範囲であり、懸濁媒体の補助により、穿刺針を用いて注射され得る。懸濁媒体の一例は、3% メチルセルロース、4% マンニトール、および0.1% Tween 80を含む。
【0130】
さらなる実施形態において、CGRPを含む微粒子は、米国特許第6,589,549号(これは、本明細書に参考として援用される)に記載されるように、ゲルマトリクス中に埋め込まれ得る。この実施形態において、CGRP(単独または1種以上のさらなる薬剤と組み合わせて)は、微粒子の中に単独で配置されてもよいし、微粒子とゲルマトリクスの両方の中に配置されてもよい。この微粒子−ゲル送達系は、比較的一定速度で、CGRPを長期間にわたって放出し得る。この系の放出プロフィールは、その微粒子および/またはゲルの組成を変更することにより改変され得る。注射後、そのゲルは硬化し、微粒子をその中に懸濁された状態にする。微粒子中に包まれたCGRPは、ゲルマトリクスを介して移動し、生物学的系の中に入る前に、微粒子から放出されなければならない。従って、微粒子送達系と関連した、即時の放出、すなわち突発的な放出(burst)は、減少され得るかまたは調節され得る。これら2つの系からのCGRPの放出速度は極めて異なり得るので、ゲル相に微粒子を埋め込むことにより、CGRPのさらなる調節および経済的用途が提供される。その利益としては、単独で使用されるどちらかのシステムよりも、高いバイオアベイラビリティーおよび長い作用時間が挙げられる。さらに、併用した系は、微粒子投薬形態あの安全性を改善し得る。この実施形態において使用するために適切なポリマー性ゲルは、ABA型ブロックコポリマーまたはBAB型ブロックコポリマーを含み、ここでそのAブロックは、生分解性ポリエステルを含む比較的疎水性のAポリマーブロックであり、そのBブロックは、ポリエチレングリコール(PEG)を含む比較的親水性のBポリマーブロックである。そのAブロックは、好ましくは、生分解性ポリエステルであって、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸、ε−カプロラクトン、εヒドロキシヘキサン酸、λヒドロキシ酪酸、δ−バレロラクトン、δ−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、マレイン酸、およびこれらのコポリマーからなる群より選択されるモノマーから合成されるものであり、そのBブロックは、PEGである。そのポリマー性ゲルは、好ましくは、生分解性であり、かつ低温で水溶性を示し、哺乳動物の生理学的体温で熱による可逆的なゼラチン化を受ける得。さらに、これらのポリマー性ゲルは生体適合性であり、かつ経時的に制御された様式で、そのマトリクス内で浮かんだ状態にあるCGRPを放出し得る。そのポリマー性ゲルは、米国特許第6,201,072号(これは、本明細書に参考として援用される)に開示されるように調製され得る。
【0131】
(b.固体のインプラント)
NorplantTM(Leiras Co.,の製品ブランドおよび登録商標)を製造するために使用されるものに類似の射出成形または押し出し法により作製される固体のインプラントは、非分解性ポリマー材料に基づく。この実施形態において、シリコンゴムから構築される規定の形に作られたデバイスは、手術によって身体の中に移植され、その場所から、規定の時間の後に、活性成分が放出されかつ身体に拡散された場合に同様にして取り出される。移植可能なデバイスの構築に利用される任意のポリマー材料は、本発明の実施において使用され得る。広い分類のシリコーンエラストマーが、シリコーンエラストマー薬物マトリクスを形成するために使用され得る。本発明に従う適切なシリコーンエラストマーとしては、Nusil Silicone Technology(Carpinteria,CA)から市販されているSILASTICTMおよびR−2602 RTVシリコーンエラストマーが挙げられる。このシリコーンエラストマーは、コアの重合および形成が、室温で達成されるように触媒され得る。このコアはまた、熱硬化性コア材料から形成され得る。一般に、このシリコーンの移植可能なデポーは、ポリジメチルシリコーン(PDMS)から構築される。例えば、米国特許第4,957,119号および同第5,088,505号(これらは、本明細書に参考として援用される)を参照のこと。代表的な材料は、ジメチルポリシロキサン(SilgelTM 601,Wacker Chemie GmbH)であり、さらには、成分Aが9部および成分Bが1部の架橋二成分組成物である。ジメチルジフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサノールまたはシリコーンコポリマーも、使用され得る。他の適切なポリマー材料は、多孔性のエチレン/ビニルアセテートコポリマーであり、これは、その孔を介した親水性の生物学的に活性な物質(例えば、タンパク質)の放出のための移植可能なデポーを構築するために利用されてきた。生分解性ポリマーはまた、押し出しプロセスまたは射出成形プロセスを用いて固体のインプラントを形成するために使用され得る。
【0132】
(c.リポソーム)
患者にCGRPを送達する別の方法は、リポソームによるカプセル化で達成され、ここで、CGRPは、リポソーム膜で隔離され得るか、または水性のベシクル内部にカプセル化され得る。用語「リポソーム」は、脂肪酸鎖、およびしばしばCGRPの物理的リザーバーとして作用し得るコレステロールおよびタンパク質のようなその他の膜成分からなる2つの疎水性テイルを含む天然もしくは合成のホスホリピド膜(単数または複数)からなる、ほぼ球形形状の二重層構造、またはベシクルをいう。水に曝されるとき、これらホスホリピド分子は、自然に整列されて球形の二重層の膜を形成し、各層においてこれら分子の親油性末端が膜の中心で会合し、そして対向する極性末端が二重層膜(単数または複数)の個々の内面および外面を形成する。従って、この膜の各々の側面は疎水性表面を提示し、その一方、この膜の内部は、親油性媒体を含む。これらの膜は、内部水性スペースの周り水の薄層によって分離された、一連の同心の球形膜で配列され得る。これらの多層状ベシクル(MLV)は、せん断力の付与によって小または単層ベシクル(UV)に変換され得る。リポソームは、膜二重層のサイズおよび数に従って特徴付けられる。ベシクル直径は大きい(>200nm)か、または小さく(<50nm)、そしてこの二重層は、単層、複数層、または多層膜を有し得る。
【0133】
脂質の選択は、一般に、リポソームサイズ、およびリポソームサイズ分けの容易さならびにリポソーム送達の部位からの脂質およびCGRP放出速度を考慮することによって案内される。代表的には、リポソーム中の主要な-ホスホリピド成分は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)または卵黄レシチン(EYL)である。種々のアシル基または変化する鎖長さを有するPC、PG、PS、およびPIは、市販され入手可能であるか、または公知の技法によって単離され得るか、または合成され得る。
【0134】
リポソームによる薬物送達の現在の方法は、リポソームキャリアが、最終的には透過性になり、そしてカプセル化された薬物を放出することを必要とする。これは、リポソーム膜が身体中の因子の作用によって経時的に分解する受動的様式で達成され得る。すべてのリポソーム組成物は、身体中の循環またはその-他の部位で特徴的な半減期を有する。能動的な薬物放出とは対照的に、活性薬物放出は、リポソームベシクルにおける透過性変化を誘導する薬剤を用いることを含む。さらに、リポソーム膜は、環境がリポソーム膜近傍で不安定になるとき不安定になるようにされ得る(Proc.Nat.Acad.Sci、84:7851(1987);Biochemistry、28:9508(1989))。例えば、リポソームが標的細胞によって形質膜陥入されると、それらは、これらリポソームを不安定化し、そして薬物放出を生じる酸性エンドソームに経路をとり得る。あるいは、リポソーム膜は、酵素が、これらリポソームをゆっくりと不安定にする膜上の被覆として配置され得るように化学的に改変され得る(The FASEB Journal、4:2544(1990))。リポソームの脂質成分が、これらリポソームの進行性の分解を引き起こす過酸化およびフリーラジカル反応を促進することがまた周知であり、そして米国特許第4,797,285号に記載されている。フリーラジカル損傷の程度は、親油性フリーラジカルクエンチャーがこれらリポソームを調製する際に脂質成分に添加されるように、保護剤の添加によって減少され得る。このようなリポソームの保護剤はまた、米国特許第5,190,761号に記載され、これはまた、標準的なリポソーム調製のための方法および参考文献、ならびに多くの技法によるサイズ分けを記載する。リポソーム一体性の保護剤は、送達の時間経過を増加し、そして標的組織内の増加した通過時間を提供する。
【0135】
本発明における使用のためのリポソームは、当該技術分野で現在公知である種々の技法のいずれかによって調製され得る。代表的には、それらは、ホスホリピド、例えば、ジステアロイルホスファシチジルコリンから調製され、そして中性脂質、例えば、コレステロールのようなその他の成分を含み得、そしてまた、正に荷電した(例えば、コレステロールのステリルアミンまたはアミノマンノースまたはアミノマンニトール誘導体)化合物あるいは負に荷電した(例えば、ジアセチルホスフェート、ホスファチジルグリセロール)化合物のような表面改変剤のようなその他の材料を含み得る。多重膜リポソームは、従来の技法、すなわち、適切なコンテナまたはベッセルの内壁上に選択された脂質を適切な溶媒中にこの脂質を溶解することによって置くこと、そして次に、この溶媒を蒸発し、このベッセルの内側に薄膜を残すこと、またはスプレードライすることにより形成され得る。次いで、水相がベッセルに、旋回またはボルテックス運動とともに添加され、これはMLVの形成を生じる。次いで、UVは、MLVのホモゲナイズ、音波処理または(フィルターを通じる)押し出しによって形成され得る。さらに、UVは、界面活性剤除去技法によって形成され得る。
【0136】
CGRPを含むリポソームは、より大きくより安定なリポソームのような生体分解性ミクロ薬物送達システム内、または生体分解性不透過性ポリマー被覆のようなその他の完全にカプセル化した制御放出システム内で送達され得る。放出の時間経過は、次いで、CGRPを宿主から分離する障壁のさらなる時間遅延、ならびに合わせた輸送経路によって支配される。マイクロスフェア送達システムもまた用いられ得る。
【0137】
(4.CGRP複合体)
本発明のさらなる局面は、ポリマーに複合体化されるCGRP、およびCGRP複合体を患者に投与することによるHFおよび/または腎不全を処置する方法を含む。多くの治療能力のあるタンパク質は、血清中で短い半減期を有することが知られている。大体は、タンパク質は、腎臓を通じて血清からクリアされる。腎臓から通常は排出され得る小分子は、それらのサイズがPEG誘導体のような生体適合性ポリマーを付着することにより増加される場合、血流中で維持される。免疫応答を生成するタンパク質およびその他の物質は、このタンパク質へのポリマーの結合により、注射されるとき、免疫システムからある程度隠され得る。従って、本発明の別の実施形態は、生体適合性の非免疫原性ポリマーに結合されたCGRPを含む複合体を投与することによってHFを処置する方法を包含する。本明細書で用いられるとき、用語「複合体」は、1つ以上のポリマーに共有結合または非共有結合されるCGRP分子をいう。これらの複合体は、実質的に非免疫原性であり、そして非改変CGRPの活性の、少なくとも75%、好ましくは85%、そしてより好ましくは95%以上を保持する。
【0138】
CGRPに結合され得るポリマーの例は、制限されないで、生物学的ポリマー(たとえは、多糖、ポリアミド、薬学的に不活性なヌクレオチド成分など)、および生物学的ポリマーの誘導体、または非生物学的ポリマーを含む。特定の例は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)のようなポリ(アルキレングリコール)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(βヒドロキシブチレート)、ポリ(β−ヒドロキシバレレート)、ポリジオキサノン、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(酒石酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリ無水物、ポリシアノアクリレート、ポリ(ホスホノエステル)、ポリホスファゼン、ヒアルロン酸、ポリスルホン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、キメラ組換えエラスチン−シルクプロテイン(Protein Polymers、Inc.)およびコラーゲン(Matrix Pharmaceuticals,Inc.)を含む。好ましい実施形態では、CGRPは、PEGまたは多糖に結合される。
【0139】
本明細書で用いられるとき、用語「PEG」は、直鎖または分岐鎖ポリエチレングリコールオリゴマーおよびモノマー(PEGサブユニット)を含み、そしてまた、このようなオリゴマーの両親媒性性質をなくさない基、例えば、制限されないで、アルキル、低級アルキル、アリール、アミノアリルおよびアミノアリールを含むように改変されているポリエチレングリコールオリゴマーを含む。用語「PEGサブユニット」は、単一のポリエチレングリコール単位、すなわち、−−(CHCHO)−−をいう。
【0140】
CGRPへのポリマーの付着のための位置を形成する反応性部位は、タンパク質の構造によって指示される。多くのポリマーは、遊離の一級アミノ基またはポリペプチドのチオール基と反応する。ポリマーのCGRPへの共有結合は、既知の化学的合成技法によって達成され得る。本発明の一実施形態では、CGRPは、1つ以上のPEGへの生物学的に安定な非毒性の共有結合を経由して結合され得る。このような結合は、ウレタン(カルバメート)結合、二級アミン結合、およびアミド結合を含み得る。このような結合のために適切な種々の活性化されたPEGが、Shearwater Polymers、Huntsville、ALから市販され、入手可能である。
【0141】
(5.経皮送達)
CGRPはまた、経皮送達デバイス、パッチ、電気泳動デバイス、バンデージなどを経由して患者に投与され得る。このような経皮パッチを用いて、制御された量でCGRPの連続的または非連続的注入を提供し得る。薬学的薬剤の送達のための経皮パッチの構築および使用は、当該分野で周知である。例えば、その開示が本明細書中に参考として援用される米国特許第5,023,252号を参照のこと。このようなパッチは、CGRPの連続的、パルス的、またはオンデマンド送達のために構築され得る。例えば、CGRPまたその薬学的に受容可能な組成物の用量は、皮膚浸透増強剤と組み合わされ得、これには、制限されないで、オレイン酸、オレイルアルコール、長鎖脂肪酸、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、エトキシジグリコール、キシレンスルホン酸ナトリウム、エタノール、N−メチルピロリドン、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、N−メチル−2−ピロリドンなどが含まれ、これは、CGRPの用量に対して皮膚の透過性を増加し、そしてこのCGRPの用量が、皮膚を通り、そして血流中に浸透することを可能にする。CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物は、1制限されないで、アルコール、保湿剤、湿潤剤、オイル、乳化剤、濃厚剤、希釈剤、界面活性剤、芳香剤、保存剤、抗酸化剤、ビタミン、またはミネラルを含む1つ以上の薬剤と合わせられ得る。CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物はまた、制限されないで、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/ビニルアセテート、ポリビニルピロリドンなどを含むポリマー物質と組み合わせられ得、ゲル形態にある組成物を提供し、これは、塩化メチレンのような溶媒中に溶解され得、所望の粘度まで蒸発され、そして次に裏打ち材料に付与され、パッチを提供する。この裏打ちは、ポリエチレン、エチル−ビニルアセテートコポリマー、ポリウレタンなどのような従来の材料のいずれかであり得る。
【0142】
(6.経皮送達)
CGRPはまた、例えば、狭心症の処置のために、経粘膜により、すなわち、粘膜表面に、そしてそれを横切って投与され得る。CGRPまたは薬学的に受容可能なその組成物の供給源の経皮投与は、一般に、インタクトな粘膜を、CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物の供給源と接触すること、およびこの供給源を、所望の治療効果を誘導するに十分な時間の間この粘膜と接触して維持することによって達成され得る。好ましくは、CGRPまたは薬学的に受容可能なその組成物は、頬粘膜、舌下粘膜、洞粘膜、歯ぐき、または小陰唇のような口腔または鼻腔粘膜に投与される。特に、CGRPの供給源は、当該技術分野で周知の従来技法を用いて処方され得る、口腔、鼻腔、洞、直腸または膣の腔で使用され得る任意の調製物である。例えば、この調製物は、患者の口中に薬物を送達して、溶解するか、または崩壊する、頬錠剤、舌下錠剤などであり得る。スプレーまたはドロップがまた、CGRPまたは薬学的に受容可能なその組成物を鼻腔または洞腔に送達するために用いられ得る。この調製物は、上記薬物を持続様式で送達しても良いし、しなくても良い。このような調製物を製造する例は、例えば、米国特許第4,764,378号に開示され、これは、詳細に、本明細書中に参考として援用される。この調製物はまた、粘膜に接着するシロップであり得る。適切な粘膜接着剤は、好ましくは、約450,000〜約4,000,000の間の分子量を有するポリアクリル酸のような当該技術分野で周知の粘膜接着剤、例えば、Carbopol(登録商標)934P;カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、例えば、Methocel(登録商標)K100、およびヒドロキシプロピルセルロースを含む。
【0143】
経粘膜調製物もまた、薬物および粘膜表面への接着剤を含むバンデージ、パッチなどの形態であり得る。粘膜接着調製物は、インタクトの粘膜との接触に際し、粘膜と、所望の治療効果を誘導するために十分な時間の間この粘膜に接着する。適切な経粘膜パッチは、例えば、PCT公開WO93/23011中に記載され、これは、特に参考として本明細書中に援用される。適切なパッチは、バルク流体流れを防ぎ、そして薬物のパッチからの損失に対するための障壁を提供する任意の可撓性膜であり得る裏打ちを備え得る。この裏打ちは、ポリエチレン、エチル−ビニルアセテートコポリマー、ポリウレタンなどのような任意の従来材料であり得る。それ自身が粘膜接着性でないマトリックスを含むパッチにおいては、パッチが粘膜表面上に保持され得るために、薬物含有マトリックスが、粘膜接着性成分(上記のような粘膜接着剤)と組み合わされ得る。適切な形態は、パッチまたはデバイスを含み、ここで、マトリックスは、裏打ち層より小さい周縁を、この裏打ち層の一部がこのマトリックスの周縁から外方に延びるように有する。粘膜接着剤層は、この裏打ち層の外方に延びる部分を、この裏打ち層の下側が、その周縁の周りに粘膜接着剤の層を保持するように被覆する。この裏打ちおよび粘膜接着層の周縁リングは一緒になって、薬物含有マトリックスを含むリザーバー(例えば、錠剤、ゲルまたは粉末)を形成する。この粘膜接着剤をマトリックスから隔離するために、マトリックスと粘膜接着剤との間に障壁要素を取り込むことが所望され得る。この障壁要素は、好ましくは、接着剤の意図された部位に存在する水および粘膜流体に実質的に不透過性である。このような障壁要素を有するパッチまたはデバイスは、粘膜と接触している表面を通じてのみ水和され得、そしてリザーバーを経由して水和されない。このようなパッチは、当業者に周知の一般的方法によって調製され得る。この調製物はまた、例えば、PCT公開WO96/30013に記載されるような粘膜接着剤を含むゲルまたは膜であり得、これは、特に、本明細書中に参考として援用される。
【0144】
(7.移植可能ポンプ)
別の実施形態では、CGRPは、移植可能なポンプを用いて適切に投与され得、これは、特に外来患者の処置のために適用可能である。例えば、一定速度のポンプが、経時的に一定の変化しないCGRPの送達を提供するために用いられ得る。あるいは、注入速度変化が所望される場合、プログラム可能な可変速度ポンプが用いられ得る。一定速度およびプログラム可能なポンプは、当該技術分野で周知であり、そしてさらに説明することは必要とされない。
【0145】
CGRPはまた、米国特許第5,728,396号、同第5,985,305号、同第6,358,247号、および同第6,544,252号に記載されるような、移植可能な浸透圧ミニポンプから放出または送達され得、これらの開示は、それらの全体が詳細に本明細書中に参考として援用される。浸透圧ミニポンプからの放出速度は、CGRPの制御放出または標的化送達のために放出オリフィス中に配置された微多孔性の迅速応答ゲルで調整され得る。浸透圧ポンプは、それらが、一定速度およびプログラム可能なポンプよりかなりより小さい点で好ましい。
【0146】
一実施形態では、この浸透圧ポンプは、ミニチュアシリンジのように作動し、そして微小量の濃縮CGRP処方物を、数ヶ月または数年に亘り連続する一定流れで放出するミニチュア薬物分与システムを備える。このシステムは、皮膚の下に移植され、そして4mmOD×長さ44mmほどに小さい。このようなシステムは、ALZA Corporationによって、商標名DUROS(登録商標)の下で販売されている。要するに、このような浸透圧送達システムは、CGRPおよび浸透圧薬剤、液体が本体を通ってこの浸透圧薬剤まで浸透することを許容する半透過性の本体、ならびに浸透圧剤をCGRPから分離した内部にある移動可能なシールを形成するカプセルの内部に位置するピストンを含む内部を有するカプセルを備える。
【0147】
(現在のHF治療の増強)
本発明のさらなる局面は、現在のHF治療を増強するために、本明細書に開示される方法のいずれかによってCGRPを投与することにより、HFを処置する方法を提供する。CGRPは、1つ以上のHFのためのさらなる薬物とともに、本発明の投薬養生法のいずれかに従って投与され得、ここで、CGRPおよびこのさらなる薬物は、一緒に、別個かつ同時に、または任意の順序で別個に投与され得る。
【0148】
(急性心筋梗塞)
急性MIの処置では、医師は、永久虚血損傷を最小にするために、心臓の血液流れを回復するための積極的作用を行う。これらの処置は、冠状動脈を拡張し、そして血栓を溶解し、ならびに血小板凝集を阻害するための試みでは、血管拡張剤(ニトログリセリン)および抗血栓剤(ストレプトキナーゼ、tPA)、および血小板凝集阻害剤(gpIIb/IIIa)の形態をとる。血液流れを回復することで処置が成功する場合、患者は、回復するためにCCUに送られ得るか、任意の残存する閉塞を開放するために、血管形成術またはステント使用手順のためのカテーテル使用実験室に行き得る。しかし、虚血事象それ自身が、フリーラジカルの生成を生じ、そしてこのプロセスは、血管が再開放され、そして血流が回復されるとき増強され、これは、さらなる組織損傷を生じる。この設定では、本発明の任意の方法、特に注入法によって、単独またはその他の治療介入と組み合わされて投与されるCGRP治療は、抗血栓剤のような現在の治療法を、これら薬物の治療利益を上昇することによって増強し得る。評価および処置の初期ステージで注入されるとき、CGRPの心臓保護利益は、介入治療が開示されるとき再灌流損傷を最小にするために適切なCGRPのレベルを提供し得、そしてそれ故、プラスの迅速かつ長期間の回復結果を最大にする。
【0149】
従って、本発明は、患者における心筋梗塞に起因する虚血を妨げる方法をさらに提供し、この患者に、心臓保護、梗塞サイズの減少、再灌流損傷の減少、症状軽減を提供し、そして/または症状の悪化を防ぐために有効な量のCGRPを送達する工程を包含し、ここで、このCGRPは、制御放出組成物として上記患者中に送達される。
【0150】
(経皮経腔的血管形成術(PTCA)およびステント使用)
抗血栓剤治療が、緊急治療室で効果がないか、または血液流れを回復するために選択的PTCA介入が必要であると決定される場合、既に緊急治療室で進行中であるか、またはカテーテル使用実験室で開始されたCGRP注入治療は、血液流れが虚血組織に回復されるとき、上記に記載のものと同じ再灌流利益を提供し得る。カテーテル使用実験室におけるさらなる利点は、CGRP注入治療が局所的に冠状動脈血管を拡張するとき実現され得、PTCA後の急速な時点で(24時間以内)、これら手順の間の血管痙攣の発生および還流のないことを減少し、腎臓血流を増加し、そして血小板凝集を防ぐこと、および平滑筋細胞増殖を支援する。現在、Reopro(登録商標)またはIntegrillin(登録商標)が、PTCA手順に先立って、またはその間に投与され、血小板凝集を停止し、そして長期間(48時間以上)における再狭窄の発生を減少する。CGRP注入治療は、これら現在の再狭窄治療を、急速な期間(24時間以内)に、再灌流損傷を防ぎ、そして血小板凝集を防ぎ、および平滑筋細胞増殖の治療利点を上昇することにより増強し得る。
【0151】
(冠状動脈バイパス手術(CABG))
CABGが、緊急手順として実施されるか、または選択的手術として実施されるか否かにかかわらず、CGRP注入治療は、緊急MI処置およびPTCA手順に関して上記で述べたすべての利点を提供し得る。結果として、CABG手順は、なお大きなプラスの結果、およびより少ない急速な期間の合併症を経験する可能性がある。
【0152】
(冠状疾患集中治療室(CCU)回復)
CCU患者におけるCGRP注入治療は、CGRPの能力を最大にし得、梗塞サイズを減少し、そして心臓組織救済を促進する。この治療が、緊急治療室、カテーテル使用実験室、またはCCUで開始されると、回復および治癒プロセスがCCUで開始し、ここで、CGRPが数日の経過に亘って投与され得、そしてCGRP注入治療の長期間利益が実現され得る。
【0153】
(キット)
本発明はまた、本発明の1つ以上のCGRP組成物を含む1つ以上のコンテナを含む、HFを処置するため、および/または腎機能を改善するための薬学的キットを提供する。このようなキットはまた、HFの処置または予防のため、および/または腎不全を改善するためにCGRPとの同時使用のためのさらなる薬物または治療薬(例えば、抗増殖剤または抗凝固剤、または心臓血管疾患などを処置するために用いられるその他の化合物)を含み得る。この実施形態では、このCGRPおよび上記薬物は、1つのコンテナ中の混合物中に処方され得るか、または同時もしくは別の投与のために別のコンテナに含まれ得る。このキットは、上記化合物および/または組成物を投与するためのデバイス(単数または複数)、ならびに医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する行政機関によって規定された形態の書面の指示書さらに含み得、この指示書はまた、ヒト投与のための製造、使用または販売の機関よる認可を反映し得る。
【0154】
前述の説明は、本発明の原理の例示のみとして考慮される。さらに、多くの改変および変更が当業者に容易に明らかであり、上記に記載のように示された正確な解釈およびプロセスに制限することは所望されない。従って、すべての適切な改変および等価物は、添付の請求項によって規定されるような本発明の範囲内に入ることが訴えられ得る。
【0155】
用語「含む(comprise)」、「包含する(comprising)」、「含む(include)」、「含有する(including)」および「含む(includes)」は、本明細書および添付の請求項で用いられるとき、陳述された特徴、整数、成分、または工程の存在を特定することを意図するが、それらは、1以上のその他の特徴、整数、成分、工程、またはその群の存在または付加を排除するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において心不全および/または腎不全を処置する方法であって、該方法は、該患者において、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または、心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するのに有効な量のCGRPを該患者に送達する工程を包含し、該CGRPは、制御放出組成物として、該患者に送達される、方法。
【請求項2】
前記制御放出組成物が、生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒およびCGRPを含有する、流動性のある熱可塑性ポリマー組成物を含み、そして、該組成物が、前記患者の身体組織または体液に送達される、請求項1に記載の方法であって、該ポリマーおよび該溶媒の量は、該組成物が該身体組織または体液と接触するときに、CGRPを含有する生分解性ポリマーマトリクスをインサイチュで形成するのに有効である、方法。
【請求項3】
前記CGRPが、ポリマーに結合されたCGRPを含む結合体の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーが、ポリ(アルキレングリコール)またはポリサッカリドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、さらに、制御放出添加物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記CGRPが、7〜180日の期間にわたって、11±5pg/mlと186±127pg/mlとの間のCGRPの循環血漿レベルを維持する速度で、前記ポリマーマトリクスから放出される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、約0.56mgと290mgとの間のCGRPを含み、そして、約0.01mLと5.8mLとの間の該組成物が、前記患者に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、約0.56mgと290mgとの間のCGRPを含み、そして、約0.004mLと1.93mLとの間の該組成物が、前記患者に投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記生体適合性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキシレート、ポリアクリレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(アミノ酸)およびコポリマー、ターポリマー、セルロースジアセテート、エチレンビニルアルコール、ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーマトリクスが前記患者内で生物分解する際に、該ポリマーマトリクスが、拡散、浸食、または拡散もしくは浸食の組み合わせにより、CGRPを放出する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記CGRPが、穿刺針またはカテーテルを介して送達される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
抗増殖性因子、抗凝固因子、血管拡張薬、利尿薬、β−遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症薬および抗酸化物質からなる群より選択される、1種以上の薬物を投与する工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記薬物が、前記固体ポリマーマトリクスがさらに該薬物を含むように、投与前に、前記ポリマー組成物に添加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬物が、前記ポリマー組成物の投与の前、投与と同時、または投与の後に、別個の処方物として投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記処置が、前記心不全および/または前記腎不全のさらなる進行を、防止または遅延するための予防法として提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記処置の期間が、心不全の1つ以上の症状を軽減または緩和するのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記処置が、前記患者における、腎血流、糸球体濾過速度、ならびに/または、尿素およびクレアチニンの血清レベルを向上するのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記処置が、前記患者のクオリティオブライフを向上するのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、小児患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記制御放出組成物が、CGRPを組み込んだ生分解性ミクロスフェアを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ミクロスフェアが、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート分解性ポリウレタン、ポリアクリレート、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、アシル置換酢酸セルロース、ならびにこれらの誘導体およびコポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記CGRPが、ポリマーに結合されたCGRPを含む結合体の形態である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ミクロスフェアが、ゲルマトリクス内に埋め込まれている、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記制御放出組成物が、リポソーム内にカプセル化されたCGRPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記CGRPが、ポリマーに結合されたCGRPを含む結合体の形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリマーが、ポリ(アルキレングリコール)またはポリサッカリドである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記制御放出組成物は、ポリマーに結合体化されたCGRPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記制御放出組成物は、フィルムの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記フィルムは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ならびにこれらの混合物およびコポリマーを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
患者において心不全および/または腎不全を処置する方法であって、該方法は、生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒およびCGRPを含有する、流動性のある組成物を、該患者の身体組織または体液に投与する工程を包含し、該ポリマーおよび該溶媒の量は、該組成物が該身体組織または体液と接触するときに、CGRPを含有する生分解性ポリマーマトリクスをインサイチュで形成するのに有効であり、ここで、ポリマーマトリクスは、約5重量%と約15重量%との間のCGRPを含み、該CGRPは、7〜180日の期間にわたって、0.0008μg/分/kgと0.016μg/分/kgとの間の速度で、該ポリマーマトリクスから放出される、方法。
【請求項31】
患者において心不全および/または腎不全を処置する方法であって:
(a)該患者において、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または、心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するのに有効な時間および用量で、非経口送達、経口送達、舌下送達、鼻腔内送達、結腸内送達、動脈内送達、静脈内送達、経粘膜送達、または経皮送達から選択される方法により、該患者にCGRPを投与する工程;ならびに
(b)該患者において、症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または、心不全の疾患状態の進行を防止および/もしくは遅延するのに有効な量の制御放出処方物として、該患者にCGRPを送達する工程
を包含する、方法。
【請求項32】
前記制御放出組成物が、生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒およびCGRPを含有する、流動性のある熱可塑性ポリマー組成物を含み、そして、該組成物が、前記患者の身体組織または体液に送達される、請求項31に記載の方法であって、該ポリマーおよび該溶媒の量は、該組成物が該身体組織または体液と接触するときに、CGRPを含有する生分解性ポリマーマトリクスをインサイチュで形成するのに有効な量である、方法。
【請求項33】
前記制御放出処方物が、CGRPを組み込んだ生分解性ミクロスフェアを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記制御放出処方物が、リポソーム内にカプセル化されたCGRPを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記制御放出処方物が、ポリマーに結合されたCGRPを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記制御放出処方物が、フィルムの形態である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
心筋梗塞の発生を防止するか、または発生の危険性を減少させる方法であって、該方法は、心筋梗塞の発生を防止するか、または発生の危険性を減少させるのに有効な量のCGRPを含有するCGRPの制御放出処方物を、心筋梗塞を有する危険性のあるヒトに送達する工程を包含する、方法。
【請求項38】
前記制御放出処方物が、生体適合性ポリマー、生体適合性溶媒およびCGRPを含有する、流動性のある処方物を含む、請求項37に記載の方法であって、該処方物は、前記患者の身体組織または体液に送達され、そして、該CGRPを含有する固体ポリマーマトリクスが、該組織または流体においてインサイチュで形成される、方法。
【請求項39】
前記制御放出処方物が、CGRPを組み込んだ生分解性ミクロスフェアを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記制御放出処方物が、リポソーム内にカプセル化されたCGRPを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記制御放出処方物が、ポリマーに結合されたCGRPを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記制御放出処方物が、フィルムの形態である、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
CGRPの制御放出処方物を含有する第1の容器を備えるキットであって、該処方物は、心不全および/または腎不全を処置または防止するのに有効な量のCGRPを含有する、キット。
【請求項44】
抗増殖性因子、抗凝固因子、血管拡張薬、利尿薬、β−遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症薬および抗酸化物質からなる群より選択される、1種以上の薬物をさらに含有する、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
抗増殖性因子、抗凝固因子、血管拡張薬、利尿薬、β−遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症薬および抗酸化物質からなる群より選択される、1種以上の薬物を含有する第2の容器をさらに備える、請求項29に記載のキット。
【請求項46】
穿刺針またはカテーテルをさらに備える、請求項29に記載のキット。
【請求項47】
患者において心筋梗塞に起因する虚血を減殺する方法であって、該方法は、心保護、梗塞サイズの減少、再灌流傷害の減少、症状の軽減を提供するのに有効な量のCGRP、および/または、症状の悪化を防止するのに有効な量のCGRPを、該患者に送達する工程を包含し、該CGRPは、制御放出組成物として該患者に送達される、方法。

【公表番号】特表2007−517912(P2007−517912A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549624(P2006−549624)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/001225
【国際公開番号】WO2005/067890
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(506232718)バソジェニックス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】