説明

心臓における線維症の非侵襲性の定量的検出のための方法および装置

実施形態は、心臓における線維症の程度および/または種類を検出するための非侵襲性の定量的方法を提供する。実施形態では、線維症の程度および/または種類に関する情報は、特定の心疾患ならびに心不全の診断の補助となり得、および/または好適な治療選択肢を判定する役に立ち得る。実施形態は、心疾患および心不全に相関し得る、生存および非生存心筋における線維症の程度を判定するための方法および装置を提供する。したがって、ある実施形態では、心疾患または心不全防止の目的のために、個人をスクリーニングする方法が、本明細書に記載の検出方法論を使用して提供され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第60/911,110号(2007年4月11日出願)に基づく優先権を主張する。該仮出願の開示全体が、その全てにおいて本明細書に参照により援用される。
【0002】
実施形態は、医療診断およびモニタリングの分野に関し、より具体的には、心臓におけるびまん性および局所性線維症の非侵襲性の定量的検出のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
心筋線維症は、複数の心疾患状態に対し一般的な形態変化である。置換性(瘢痕)線維症に加え、罹患心臓の構造的リモデリング、ならびに突然心臓死につながる致命的不整脈の発生において重要な役割を果たす、間質性(反応性)線維症に関する認識が高まりつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、線維症は、外科生検により取得される組織資料の組織化学的分析よって定量化される。コラーゲン容量分率(CVF)と相関し得る、置換性および間質性線維症を定量化するための非侵襲性試験の可用性は、大幅な進歩となるであろう。
【0005】
実施形態は、付随の図面と併せて、以下の発明を実施するための形態によって、容易に理解されるであろう。実施形態は、一例として例証されるものであって、付随の図面の図における制限として示されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の発明を実施するための形態では、本明細書の一部を形成する付随の図面を参照して、例証として、種々の実施形態が示される。他の実施形態が利用され得、また、意図される範囲から逸脱することなく、構造的または論理的変更が成され得ることを理解されたい。したがって、以下の発明を実施するための形態は、制限として捉えられるべきではなく、実施形態の範囲は、添付の請求項およびその同等物によって定義される。
【0007】
種々の操作は、実施形態の理解を助けるように、複数の個別操作として、順に説明され得る。しかしながら、説明の順序は、これらの操作が順序依存性であることを含意するものと解釈されるべきではない。
【0008】
説明は、上/下、後/前、左/右、および上面/裏面等、視点を基準とした説明を使用する場合がある。そのような説明は、議論を促進するために単に使用され、実施形態の用途を制限することを意図するものではない。
【0009】
説明の目的のため、「A/B」あるいは「Aおよび/またはB」の形態の語句は、「(A)、(B)、もしくは(AおよびB)」を意味する。説明の目的のため、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」の形態の語句は、「(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)、あるいは(A、B、およびC)」を意味する。説明の目的のため、「(A)B」の形態の語句は、「(B)または(AB)」を意味する、すなわち、Aは、任意の要素である。
【0010】
説明は、語句「ある実施形態では」または「実施形態では」を使用し得るが、それぞれ、同一または異なる実施形態のうちの1つ以上を指す場合がある。さらに、種々の実施形態に関して使用される用語「備える」、「含む」、「有する」等は、同義的である。
【0011】
種々の実施形態では、心筋組織における線維症の有無および程度を判定するための方法、装置、およびシステムが提供される。例示的実施形態では、計算システムは、開示される装置および/またはシステムのうちの1つ以上の構成要素を備え得、本明細書に開示される1つ以上の方法を実行するために採用され得る。
【0012】
実施形態は、心臓における線維症の程度および/または種類を検出するための非侵襲性の定量的方法を提供する。実施形態では、線維症の程度および/または種類に関する情報は、特定の心疾患ならびに心不全の診断の補助となり得、および/または好適な治療選択肢を判定する役に立ち得る。実施形態は、その結果、心疾患および心不全に相関し得る、生存および非生存心筋における線維症の程度を判定するための方法および装置を提供する。したがって、ある実施形態では、心疾患または心不全防止の目的のために、個人をスクリーニングする方法が、本明細書に記載の検出方法論を使用して提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、反転回復信号強度曲線を示す。造影剤分配係数の判定のために、心臓における着目ユーザ定義領域に対し、T1を定量化した。ソフトウェアプログラムを使用し、一連の12から17の反転時間に対し、DICOM形式MRI画像をロードし、図1における2つの領域に対し示されるように、適正反転回復信号強度曲線を生成し、T1を判定した。本分析は、1回目は、造影強化前、次いで、24時間のガドリニウム造影剤溶液中における試料の培養後のT1の測定と、2回行なった。グラフは、造影剤溶液中に試料を留置後の局部T1における差異を示し、より短いT1(後側領域)を有する区域は、マークされた線維症を伴う領域に対応する。
【図2A】図2Aは、心臓スライス画像を示す。図2Aは、造影剤(ガドジアミド)溶液中での24時間培養後の心臓スライス(心肥大および広汎性アテローム性動脈硬化症患者)の死後T1強化MRI画像を示す。反転時間300msによって、より高いガドジアミド分布量を伴う組織がより明るく見えるような造影がもたらされた。図2Bは、染色され、後側区域における広汎性線維症を示す、同一心筋スライスの組織画像であって、MRI画像上の増加した信号強度を伴うものと一致する。
【図2B】図2Bは、心臓スライス画像を示す。図2Aは、造影剤(ガドジアミド)溶液中での24時間培養後の心臓スライス(心肥大および広汎性アテローム性動脈硬化症患者)の死後T1強化MRI画像を示す。反転時間300msによって、より高いガドジアミド分布量を伴う組織がより明るく見えるような造影がもたらされた。図2Bは、染色され、後側区域における広汎性線維症を示す、同一心筋スライスの組織画像であって、MRI画像上の増加した信号強度を伴うものと一致する。
【図3A】図3Aは、染色され、偏光下で観察された組織試料であって、正常あるいはそれぞれ間質性または置換性線維症を示すとして分類される。測定されたガドジアミド分布量、およびこれら3つの分類に対するCVFが示される(ボックスは、25%および75%パーセンタイル限界を示す)。点は、測定値およびガドジアミド分布量を表す。白丸は、60時間未融解のままであった試料を表す。黒丸は、32時間未融解のままであった試料を表す。
【図3B】図3Bは、染色され、偏光下で観察された組織試料であって、正常あるいはそれぞれ間質性または置換性線維症を示すとして分類される。測定されたガドジアミド分布量、およびこれら3つの分類に対するCVFが示される(ボックスは、25%および75%パーセンタイル限界を示す)。点は、測定値およびガドジアミド分布量を表す。白丸は、60時間未融解のままであった試料を表す。黒丸は、32時間未融解のままであった試料を表す。
【図4】図4は、心筋組織内のガドジアミド分布量(心臓試料の融解後32時間時点で測定)がCVF(r=0.727;p=0.017)と密接に相関していることを示すグラフを提供する。右側のグラフは、ガドジアミド分布量とCVF(r=0.987;p=0.012)との間の相関を表す。2つのグラフは、試料の融解と造影後MRI測定との間の時間のずれに基づいて、異なる勾配を示す。遅延時間が長い程、細胞膜破壊が増加し、したがって、ガドジアミド分布量は、試料培養時間が長い一連の測定に対しより大きくなる。グラフ内の点線は、95%信頼限界を示す。
【図5】図5は、実施形態に従って、細胞外容量分率を測定する方法を概説する工程図である。
【図6A】図6Aは、実施形態に従って、造影剤との接触前、間、および後に高速撮像を実行し、試料と、心室腔または1つ以上の大血管内に存在する血液とにおける造影強化を測定する方法の出力グラフを提供する。
【図6B】図6Bは、実施形態に従って、造影剤との接触前、間、および後に高速撮像を実行し、試料と、心室腔または1つ以上の大血管内に存在する血液とにおける造影強化を測定する方法の出力グラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ある実施形態では、方法は、組織学的評価の代替として、造影強化磁気共鳴映像法(MRI)(または、コンピュータ断層撮影法等の別の撮像方法)を使用して、心臓線維症の検出および定量化を可能にする。ある実施形態では、方法は、細胞外造影剤に対する心筋分配係数の測定を提供し、造影剤の相対的分布量を示し、現在の方法によって不適切に検出され得る病態である、びまん性、反応性、間質性、または置換性線維症を定量化するために使用され得る。あらゆる形態の線維症は、細胞外基質の拡張につながり、次第に、MRIの場合、ガドジアミド等の細胞外造影剤に到達可能な容量を増加させる。実施形態は、インビトロおよびインビボ評価に適用され得る。
【0015】
ガドジアミドDTPA等の細胞外造影剤による遅延性造影強化(DCE)のMRIは、高空間分解能による非生存心筋を描写する望ましい方法となっている。DCE MRIは、同一心臓内の他の遠隔区域に対する造影強化の検出に依存する。びまん性線維症の組織学からの証拠を伴う非虚血性拡張型心筋症等の心疾患では、心臓MRIに基づくものを含む、現在の非侵襲性試験は、このようなびまん性全身性線維症を検出できない場合がある。遅延性造影強化の局所性区域は存在しないか、または線維症の程度および負荷の部分的測定のみを提供し得る。本明細書に開示される実施形態は、新規アプローチを提供し、それによって、造影剤の相対的分布量および/または造影剤に対する心筋分配係数が判定され、生存または非生存心筋における線維症のマーカーとして、細胞外容量分率の定量的測定値を求める。生存心筋では、心筋分配係数は、細胞外容量分率に比例する。ある実施形態では、細胞外容量分率は、造影剤の投与前後に、それぞれ組織および血液におけるR1緩和率定数の変化を判定することによって、MRIにより定量化され得る。代替として、ある実施形態では、動的撮像方法を採用し、造影前と造影後状態との間の強くT1強調パルスシーケンスによって観測される信号変化を測定し得る。
【0016】
ある実施形態では、Gd−DTPA等のある造影剤に対する心筋分配係数の測定は、正常心筋から、生存心筋におけるびまん性、間質性、および置換性線維症、非生存線維性瘢痕組織までの範囲に及ぶ、連続的尺度に基づいて、心筋線維症の程度を分化するために好適である。
【0017】
組織分配係数の定量化では、造影剤に対する心筋分配係数は、平衡状態での組織および血液における造影剤濃度の比率として定義される。平衡状態では、間質空間内の細胞外造影剤の濃度は、血漿濃度に等しいはずである。間質(visf)および血漿空間(v)の比容量(組織重量によって正規化され、ml/gの組織として表される容量)の点から見ると、細胞外造影剤に対する分配係数は、以下のように表され得る。
【0018】
【数1】

式中、Hctは、血液ヘマトクリット値である。MRI造影剤は、典型的には、H MR信号に及ぼすその効果を通して検出される。血液成分、血漿、および赤血球からの信号は、血漿と赤血球との間の水の高速交換(赤血球内の水の細胞内寿命は、生理学的状態下では10ms以下である)による単一緩和率によって特徴付けられる。
【0019】
MRIによって、細胞外造影剤に対する心筋分配係数を測定するための種々の戦略が考案されているが、健常志願者または虚血性心疾患および心筋壊死患者に、ほぼ排他的に焦点が当てられていた。心筋分配係数は、血液プール中のR1の変化によって除される、組織中のR1(R1=1/T1)の変化から計算され得る。代替として、高度T1強調を生成するパルスシーケンスを伴う信号変化を測定し得る。
【0020】
ある実施形態では、ある造影剤の分布量は、軽度間質性線維症を伴う心筋においてさえ上昇し得る。加えて、ある実施形態では、分布量は、心筋線維症の確立された組織学的定量化であるCVFに線形的に関連し得る。
【0021】
ある実施形態では、好適な造影剤は、細胞外造影剤またはコラーゲン結合剤であり得る。ある実施形態では、好適な造影剤は、ガドリニウム、またはガドジアミド等のガドリニウムをベースとする化合物であり得る。
【0022】
ある実施形態では、インビトロMRI技術が、心筋線維症の定量化の現在の標準である、組織学的に判定される心筋CVFによって、置換性および間質性心筋線維症の両方の測定値として、造影剤分布量の比較のために提供される。ある実施形態では、線維症のMRI測定は、新しい方法論の好適性を指示するCVFと有意に相関し得る。エキソビボ心筋組織試料を使用することによって、ガドジアミドMRIが、正常心筋と間質性(反応性)線維症と、および正常心筋と置換性(瘢痕)線維症とを分化することが観測され得る。また、ある実施形態によると、造影剤分布量およびCVFは、線維症の分類、すなわち、正常、間質性、および置換性線維症間で有意に変動し、同様に、線維症の種類を区別可能とする。実施形態は、MRIを使用して、心筋組織内のCVFと相関する、線維症の定量的測定値を導出する。
【0023】
急性心筋梗塞後、ガドジアミド造影剤による遅延性造影剤高強化のMRIは、細胞膜の破壊を反映し、該破壊は、生存心筋に対するガドジアミド造影剤の分布量を増加させる。心筋梗塞の区域では、密コラーゲン基質は、生存心筋を伴う区域と比べ、局所性高強化をもたらす。梗塞ゾーン内に密コラーゲン基質を伴う慢性心筋梗塞のイヌモデルでは、造影剤高強化が、急性梗塞において認められた高強化に類似することが示されている。また、心筋線維症増加の他の原因も、正常組織と比較して増加したガドジアミド造影剤取り込み量につながることが示されている。
【0024】
現在、総CVFは、線維症負荷の最も広範に使用されている測定値である。本質的に、総CVFを判定するための2つの方法が存在する(コラーゲンを結合し、他の組織成分から分離するヒドロキシプロリンを使用する絶対測定値と、組織染色および測光を使用するCVFの測定)。本明細書の実施形態は、従来のCVFおよび組織学的分析を超えて拡大する、CVFを測定する半定量的方法として、造影強化MRIを提供する。本明細書に記載のCVFとMRIとの間の相関は、2つの方法間で観測されたデータの比較を可能にする。加えて、MRIの非侵襲的性質のため、種々の開示される実施形態は、心内膜生検の必要性を低減し得る。
【0025】
MRIからの造影剤分布量推定値と、測光アッセイからのCVFとは十分に相関するが、その根底にある方法は、注目に値するある程度の有意差を有する。CVFの測光ベースの判定は、画素数のために、顕微鏡下、小(約40mm)区域の選択を必要とし、結果として生じるCVF推定値は、ある壁区分を代表するものではない場合がある。MRIでは、ずっと低い倍率で、着目領域がユーザ定義され、任意のサイズ領域の信号平均は、各画像に対し容易に計算される。CVF測定とMRI方法との間のこのような差異は、撮像ベースの測定と比較した生検ベースの測定に類似する。前者は、心臓内の組織の時として恣意的かつ制限された選択を表す一方、後者は、観測者によって、自由に指定され得、良好な画質および空間分解能をとる。
【0026】
上述の方法論の実施例として、ヒト心筋の8つの試料を死後に取得し、ガドジアミド分配係数の判定のために、ガドジアミド生理食塩水中への浸漬前後、非スライス選択反転パルスを伴う高速スピンエコーシーケンス(3テスラ)を行なった。T1値は、反転回復信号曲線から計算した。同一試料をホルマリン中に固定し、半自動偏光デジタル顕微鏡システムを使用して、ピクロシリウス赤染色法によって、コラーゲン容量分率を判定した。結果は、ガドジアミド分布量ならびにCVF値の両方が、正常心筋対間質性線維症(p=.001)、および正常対置換性線維症(p=.015)において有意に異なっていたことを示唆した。さらに、心筋線維症の全3つの組織学的分類にわたって、2つの方法間に有意な正相関が認められた(r=0.73;p=0.017)。したがって、これらの所見は、間質および置換性心筋線維症の両方の定量化のための組織学的評価に対する新規の非侵襲的代替として、造影強化MRIの潜在性の拡張を示す。
【0027】
上記に概略されたように、例示的実施形態に従って、心筋の8つの試料が、死亡患者から取得された。心室筋の各試料は、厚さ1〜2cmであって、左右心室自由壁を含むように、心室中隔の中位を切断した。全試料は、分析時まで−80°Cで保存した。
【0028】
造影前MRIは、各試料融解後約10〜12時間で実行した。試料は、各MRI測定前に、室温に戻した。非スライス選択反転パルスを伴うスピンエコーMRIパルスシーケンスによって、12〜15の反転遅延(T1=50〜2000msの範囲の反転時間)に対し、心筋組織および生理食塩水の縦緩和時間T1を測定した。他のシーケンスパラメータは、繰り返し時間(TR)=2500ms、エコー時間(TE)=9.5ms、スライス厚2.5mm、受信機帯域幅=190Hz/画素、および画像行列=256×256とした。各試料に対し、生理食塩水中に浸漬した組織試料を伴うビーカーを手首撮像用に設計された小型無線周波数コイル内に留置し、全画像を3テスラで取得した(Siemens Trio,Siemens Medical Solutions,Malvern,PA)。
【0029】
最初のMRIスキャン後、24時間、3〜4°Cで、ガドジアミド生理食塩水中で試料を培養した(組織スライスの浸漬前の生理食塩水中の初期ガドジアミド濃度は、3mM以下;24時間培養後の3テスラにおける生理食塩水R1は、3.9±0.3s−1)。ガドジアミド造影剤(Omniscan;GE−Healthcare,Princeton,NJ)は、37°Cでオスモル濃度789(mOsmol/kg水)を有する。次いで、最初の測定と同一シーケンスパラメータによって、第2の造影後MRIを行なった。また、融解期間の作用も評価した。第2のMRI実行前の60時間、2つの組織試料を融解したままとした。他の全組織試料は、ガドジアミド培養の間、3〜4°Cの温度範囲に、第2のMRI前の32時間、室温に維持した。組織が凍結されていない時間の間、細胞膜の完全性は劣化するため、融解時間は、潜在的に重要である。故に、異なる融解期間を伴うこれらの2セットの試料を別々に分析した。
【0030】
画像分析のため、カスタムソフトウェアプログラムを書き、DICOM形式で異なる反転時間値に対する画像をロードし、非線形最小二乗法アルゴリズム(Matlab version 6.5,The Mathworks,Natick,MA)を使用して、ガドジアミド造影剤の有無の両方において、心筋組織および生理食塩水の反転回復信号曲線からT1を判定した。緩和率R1(R1=1/T1)の変化は、組織中のガドジアミドの局所濃度に比例する。ガドジアミド造影剤分配係数を以下のように求めた。
【0031】
【数2】

生理食塩水中の組織のエキソビボ測定のため、ガドジアミド溶液中において組織スライスの24時間培養後、ガドジアミド造影剤濃度が平衡状態に達したと仮定して、測定された分配係数を相対的分布量と同等であると見なした。図1は、試料のMRI画像の実施例である。
【0032】
MRI分析後、試料をホルマリン中に保存した。次いで、ホルマリン固定組織を処理し、パラフィン中に埋め込み、隔膜、左心室自由壁、および右心室自由壁を含む、試料の全表面積に対し、区画を調製した。厚さ5ミクロンの区画をピクロシリウス赤染色法で染色し、40倍の倍率で、偏光下において観察した。
【0033】
2人の調査者が、別々に、低(10倍)倍率下、全8つ試料を分析した。試料は、全体的に正常であるもの、または異常分布およびコラーゲンの含有量を伴う含有区域のいずれかに分類した。異常試料は、間質性(反応性)線維症を有するもの、または置換性線維症を有するものにさらに下位分割した。また、線維症の区域を伴う試料では、線維症または異常コラーゲン分布を伴わない遠隔領域も識別した。15の着目領域が、8つの試料内に識別され、1つの完全に正常な試料は、1つの領域のみ含んでいた。識別された区域を40倍の倍率下で観察し、CVFを判定した。図2は、染色された試料と、対応するMRI画像とを示し、一致する区域は、矢印によって識別される。
【0034】
着目区域は、上述のように、パラフィン埋入スライス上で組織学的に識別した。一致位置は、左心室内への右心室の付着点、または乳頭筋等の解剖学的ランドマークを使用して、MRI画像上で識別した。新鮮組織とパラフィン埋入組織との間の組織サイズおよび形状の差異を考慮すると、ある実施形態では、位置は、周方向に約±1cm、および半径方向に約±0.5cmの正確性を伴って一致すると推定される。
【0035】
CVFは、心筋コラーゲン含有量の分析のために広範に使用される、組織学的区分における心筋線維症のコンピュータ支援定量化である。ある実施形態では、トリクロム染色の代わりに、ピクロシリウス赤染色法を使用して、本研究において、修正版の測光アッセイを採用した。ピクロシリウス赤染色法は、コラーゲンを排他的に分極し、コラーゲンのより客観的識別を可能にする。本利点は、計算された観測者内および観測者間の一致に反映される(それぞれr=.99および.99)。
【0036】
保存された心筋スライスが染色されると、着目区分が識別された。各着目区域を四半部に下位分割した。各四半部内において、40倍の倍率下、16枚のデジタル写真を撮影した。各写真は、2.5mmに相当した。したがって、各区分から40mmを分析した。これは、CVFの典型的なサンプリングを可能とする。
【0037】
光を偏光することによって容易に識別されたコラーゲンを、マウスパッドにより手動で追跡した。本ステップは、染色された筋肉に繰り返し、その区域を同様に判定した。次いで、以下の式によって、各区分のCVFを求めた。
CVF=16領域中の結合組織画素数/16領域中の総画素数 (3)
組織試料分類間のCVFと心筋分配係数との比較のため、分散分析を使用した。複数の比較のためのTukey's Honest Significant Differenceを使用して、個々のデータ点間の差異の有意性を評価した。線形回帰分析を使用して、心筋分配係数とCVFとの間の関連性を判定した。全統計分析は、R(R Foundation for Statistical Computing,Vienna,Austria.ISBN 3−900051−07−0,URL http://www.R−project.org)によって行なった。カットオフ値としてp値0.05を使用して、統計的有意性を判定した。
【0038】
CVFの平均値は、組織学的分類、すなわち、正常心筋と、間質性線維症と、置換性線維症(p=0.015)とに基づいて、有意に異なっていた。複数の比較のための調整を伴う分散分析は、正常試料と置換性線維症の試料との間のCVFにおいて有意差を示した(p=0.012)が、正常対間質性(p=0.45)、また、間質性対置換性(p=0.19、図3B)に対しては示さなかった。具体的には、置換性線維症、間質性線維症、および正常心筋の対応する95%信頼区間を伴う平均値は、それぞれ4.1%+/−.23、2.3%+/−.23、および1.3%+/−.26であった。
【0039】
同様に、ガドジアミド分布量の平均値は、組織学的分類、すなわち、正常心筋と、間質性線維症と、置換性線維症とに基づいて、有意に異なっていた(p=0.001、図3A)。具体的には、置換性線維症、間質性線維症、および正常心筋の対応する95%信頼区間を伴う分布量の平均値は、それぞれ0.46+/−.05、0.43+/−.22、および0.17+/−.05であった。複数の比較のための調整を伴う分散分析は、正常試料と置換性線維症の試料との間(p=0.003)、正常と間質性線維症(p=0.007)との間のガドジアミド分布量に有意差を示したが、間質性線維症対置換性線維症(p=0.90)に対しては有意差を示さなかった。
【0040】
CVFおよびガドジアミド分布量の測定値は、密接に相関していることが認められた(図4)。図4の2つのグラフは、2つのバッチの試料のそれぞれの結果を表す。各バッチは、異なる融解時間を有していた。32時間で融解した試料に対する図4の左側のパネルは、ガドジアミド分布量とCVFとの間の相関を示す(Pearson相関r=0.73;p=0.017)。同様に、60時間で融解した試料に対する右側のグラフは、相関r=0.99を示す(p=0.012)。興味深いことに、2つの勾配は、試料の融解と造影後MRI測定との間の時間のずれに基づいて異なる。
【0041】
図4は、CVFとガドジアミドMRIとの間の強い正相関を示す。所見は、いずれの融解時間とも一致するが、細胞膜破壊の増加のために、時間が長い程、ガドジアミド分布量は増進する可能性があり、したがって、回帰線の勾配が増大する。60時間後の組織試料中のガドジアミドのより均一な分布は、32時間ガドジアミド生理食塩水中で培養した試料と比較して、CVFとの見掛けガドジアミド分布量のさらなる相関を部分的に説明し得る。
【0042】
図5は、実施形態に従って、細胞外容量分率を測定する種々の方法を概説する工程図である。実施形態では、MR造影剤を有する組織試料中の細胞外容量分率の測定値を求め得る。ある実施形態では、複数の造影剤注入前後のT1測定値を求め得る。そのような操作は、約15〜20分の例示的期間にかけて行なわれ得る。さらに、分配係数は、組織および血液中のR1=1/T1の変化から計算し得る。次いで、ある実施形態では、患者のヘマトクリット値(Hct)を使用して、分配係数Vec=λ(1−Hct)から細胞外容量分率(Vec)を計算し得る。したがって、ある実施形態では、細胞外造影剤の組織試料分配係数を判定するために、1つ以上の造影剤との接触前後に、血液および試料中において、複数のT1緩和時間測定を行ない得る。緩和時間(T1)は、R1=1/T1によって、緩和率に変換し得、試料に対し判定される各R1率は、血液中で判定されるR1率に対し、直線的に回帰し得る。ある実施形態では、血液ヘマトクリット値が求められ得、試料分配係数および血液ヘマトクリット値を使用して、組織試料中の細胞外容量を計算し得る。
【0043】
代替実施形態では、血液および組織中の信号強化の経時変化は、初回通過の際に判定され得る。そのような操作は、約4〜5分の例示的期間にかけて行なわれ得る。組織造影強化のモデルベースの分析を行ない、次いで、細胞外容量を最良適合モデルパラメータから計算し得る。したがって、ある実施形態では、造影剤接触前、間、および後の高速撮像を行ない、試料と、心室腔または1つ以上の大血管内に存在する血液とにおける造影強化を測定し得る。ある実施形態では、造影強化の動態は、2空間モデルによって分析され、試料中の細胞外容量を判定し得る。
【0044】
図6Aおよび6Bは、ある実施形態に従って、造影剤接触前、間、および後の高速撮像を行い、試料と、心室腔または1つ以上の大血管内に存在する血液とにおける造影強化を測定する方法の出力グラフを提供する。そのような方法では、心臓の画像は、注入された細胞外造影剤の初期通過の際に高速で取得され得、図6Aに示されるように、左心室腔の血液プール(「動脈流入量」)および心筋組織内の信号強度変化をもたらす。動脈流入量の初期ピークは、造影剤の初期通過の際に認められ得、再循環および準平衡状態への近似が続く。このような準平衡状態の後期の間、心筋組織の信号強度と動脈流入量の比率を求め、分配係数を判定し得る。本計算を図6Aのデータに適用すると、図6Bの第1の(より大きく変化する)曲線の結果となる。分配係数の計算では、また、移動平均(図6Bの第2の(平滑)曲線)を求め、血液プール中の濃度が準平衡状態にある時の分配係数を推定し得る。好適な準平衡状態を表す窓は、図6Bの小さいボックスによって輪郭が描かれている。ある実施形態では、また、トレーサー動態モデルを使用して、動脈流入量の任意の変動に対し、分配係数の推定値を補正し得る。
【0045】
心筋線維症の定性的および定量的測定値が診断および/またはリスク査定に有益となるであろういくつかの重要な心疾患/病態が存在し、(1)家族性疾患から心筋梗塞の範囲に及ぶ種々の病態から生じる広義の心不全、(2)同様に、一連の心臓の病気から生じ得る、将来的突然心停止に苦しむであろう患者、および(3)最終的に心筋線維症の成分を有するいくつかの独特な疾患を備える、先天性心疾患が含まれる。虚血性および非虚血性心疾患の両方において、線維症は、重要な役割を果たす場合が多い。健康的な老化の場合でも、びまん性線維症は、拡張機能障害の重要な誘因であり得る心室の硬化の根底原因である可能性がある。
【0046】
従来の方法は、生検を利用して、線維症の指標を得ているが、生検は、単に局所化された試料であって、全体的(大域的)線維症負荷の信頼性のある指標を提供しない。したがって、本明細書の実施形態は、撮像ベースの試験を提供し、びまん性線維症を分析し、大域的線維症負荷を判定する。そのような分析は、好適な治療を計画する際に役に立つ、重要な情報を提供する。
【0047】
ある実施形態によると、本明細書に提示される方法論と、間質性ならびに置換性線維症の両方の心筋線維症の量との間の正相関が示されている。別の実施形態では、本方法は、突然心臓死ならびに上述の病態の疾患重症度のリスクの階層化の役に立ち得る。
【0048】
したがって、実施形態を使用して、組織試料もしくは心臓全体における線維症の有無、位置、または程度の判定と、心臓の病気、疾患、あるいは特定の心疾患または心不全の関連リスクとを相関させ得る。ある実施形態では、心筋線維症の判定量および/または位置は、心疾患または心不全のリスクに相関し得る。ある実施形態では、数的またはテキスト形式のリスク要因等のリスク要因は、心筋線維症の程度および/または位置を反映するように割り当てられ得る(すなわち、尺度数値、パーセンテージ、高、中、低等のテキスト形式の指標)。例えば、ある実施形態では、線維症のより高い量(線維性組織対健康組織のパーセンテージとして表されるような)は、より高いリスク要因をもたらし得る。実施形態では、患者の年齢、他の健康状態等の他の要因が分析に含められ得る。
【0049】
上述のような種々の実施形態のうちのいずれか1つ以上は、部分的または全体的に、装置あるいはシステムに組み込まれ得る。種々の実施形態では、装置またはシステムは、サーバまたは他の計算デバイス、記憶媒体、および記憶媒体に格納される複数のプログラミング命令を備え得る。これらの実施形態の種々のものにおいて、プログラミング命令は、装置に上述の方法のうちの1つ以上を実行させるように、装置をプログラムするように適合され得る。例えば、プログラミング命令は、装置に画像取得および/または分析を実行させるように、装置をプログラムするように適合され得る。
【0050】
好ましい実施形態の説明の目的のために、ある実施形態が、本明細書に例証および説明されたが、当業者は、同一目的を達成するために計算される、広範な種々の代替および/または同等の実施形態、あるいは実装は、意図される範囲から逸脱することなく、図示および説明された実施形態と置換され得ることを理解するであろう。当業者は、実施形態が、非常に広範な種々の方法において実装され得ることを容易に理解するであろう。本願は、本明細書で論じられた実施形態のあらゆる適合例および変形例を網羅することを意図する。したがって、実施形態は、請求項およびその同等物によってのみ制限されることが、明白に意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓組織における線維症を検出する方法であって、
生存または非生存心臓組織の試料を選択するステップと、
該試料を細胞外造影剤と接触させるステップと、
撮像装置によって、該試料の造影剤取り込み量の1つ以上の測定値を求め、びまん性間質性および/または置換性線維症の指標として、該試料内の細胞外容量の拡張程度を判定するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記試料を細胞外造影剤と接触させるステップは、前記試料をガドリニウム含有造影剤と接触させるステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料を細胞外造影剤と接触させるステップは、前記試料をガドジアミドと接触させるステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料を細胞外造影剤と接触させるステップは、前記試料を細胞外コラーゲン結合造影剤と接触させるステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料を細胞外造影剤と接触させるステップは、前記試料をインビボで細胞外造影剤と接触させるステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を細胞外造影剤と接触させるステップは、前記試料をインビトロで細胞外造影剤と接触させるステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料の1つ以上の画像を取得するステップは、磁気共鳴映像法を使用して、1つ以上の画像を取得するステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
磁気共鳴映像法を使用して、1つ以上の画像を取得するステップは、1つ以上の造影剤との接触前後に、血液および前記試料において、複数のT1緩和時間測定を実行し、前記細胞外造影剤の組織試料分配係数を判定するステップを包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記緩和時間(T1)は、R1=1/T1によって、緩和率に変換され、前記試料に対し判定される各R1率は、前記血液において判定されたR1率に対し、直線的に回帰する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
血液ヘマトクリット値を求めるステップをさらに包含し、前記試料分配係数および該血液ヘマトクリット値は、前記組織試料における前記細胞外容量を計算するために使用される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
磁気共鳴映像法を使用して、1つ以上の画像を取得するステップは、造影剤との接触前、間、および後において、高速撮像を実行し、試料と、心室腔または1つ以上の大血管内に存在する血液とにおける造影強化を測定するステップを包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
造影強化の動態は、2空間モデルによって分析され、前記試料における前記細胞外容量を判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
線維症のマーカーとして、前記細胞外容量のパラメータマップを生成するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試料における大域的びまん性線維症負荷を判定するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者におけるびまん性線維症の程度を分類するステップをさらに包含し、前記試料は、心不全または心疾患のリスクを判定するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記試料における間質性と置換性線維症の程度を判定および区別するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記試料の1つ以上の画像を取得するステップは、X線コンピュータ断層撮影法を使用して、1つ以上の画像を取得するステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
組織試料または心臓全体における間質性と置換性線維症の有無、位置、および/または程度を判定し、該判定を心臓の病気、疾患、または特定の心疾患または心不全の関連リスクと相関させるステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記判定を心臓の病気、疾患、または特定の心疾患または心不全の関連リスクと相関させるステップは、数的またはテキスト形式のリスク要因として表される、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2010−523287(P2010−523287A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503230(P2010−503230)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/060020
【国際公開番号】WO2008/128033
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(506124239)オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】