説明

心臓存在領域抽出装置およびプログラム

【課題】医用画像データにより構築される空間内において、右心耳および左心耳を含まない心臓の存在領域を自動抽出可能な心臓存在領域抽出装置およびプログラムを得る。
【解決手段】医用画像データに基づき冠状動脈の芯線Lを求め、その位置情報に基づき、芯線Lに包絡される閉曲面を、複数の放射基底関数の線形和により任意の関数を近似するRBS手法により最適化し、それをマスク用閉曲面Wとして設定する。このマスク用閉曲面Wの内部領域を心臓存在領域として抽出し、抽出された心臓存在領域に対してボリュームレンダリング法を適用し、マスク用閉曲面の内部領域に対応した心臓全体のVR画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像診断を支援する技術に関するものであり、特に、X線CT(Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等の画像診断装置により得られた医用画像データに基づき構築される空間内において、心臓が存在する領域を抽出する心臓存在領域抽出装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線CTやMRI等の画像診断装置によって、高精度な3次元画像データ(ボリュームデータ)を短時間に得ることが可能となったことに伴い、得られた3次元画像データに基づき構築される空間内において臓器や腫瘍等の生体部位の領域を抽出し、これらを見やすく可視化して対患者や学術用としての説明に使用したり、手術計画を立てたりするなど、様々な目的で使用するという需要が高まっている。
【0003】
従来、輪郭や病変部が比較的に抽出しやすい肺野、脳といった領域では、コンピュータ等の計算機を用いて生体領域を自動抽出するための研究が盛んに行われていたが、近年では、これまで自動抽出が困難とされていた心臓領域においても、心臓全体や冠動脈といった所定領域を自動抽出するための研究が進んでいる。
【0004】
冠動脈の自動抽出に関しては、3次元画像データの各ボクセルに対応した画像信号値(ボクセル値)に基づき、冠動脈の芯線(中心線)の位置を特定した後、この芯線に対し垂直な平面内において冠動脈の輪郭を識別するという手法(例えば、下記特許文献1、下記非特許文献1等を参照)が開発されており、CT装置により得られた医用画像(以下「CT画像」と称する)のみならず、MRI装置により得られた医用画像(以下「MRI画像」と称する)においても、高精度な抽出結果が得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−25005号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stephen R. Aylward, Member, IEEE and Elizabeth Bullitt, “Initialization, Noise, Singularities, and Scale in Height Ridge Traversal for Tubular Object Centerline Extraction” IEEE TRANSACTIONS ON MEDICAL IMAGING, VOL. 21, NO.2, FEBRUARY 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、心臓全体を自動抽出する手法としては、造影剤を注入して撮影された胸部のCT画像データを利用するものが知られている。この手法では、CT画像データにより構築された空間内において心臓の存在領域を大まかに指定し、その存在領域外に位置する骨や肺野といった不要な組織を削除するとともに、CT画像データの各データ値(CT値)等に基づき、造影剤が注入された冠動脈部分とそれに隣接する軟組織部分(心筋や右心系)を選択し、これを心臓として抽出するようにしている。
【0008】
この手法によれば、冠動脈の一部に覆い被さるように存在する右心耳や左心耳も心臓の一部として抽出される(後述の図9(B)参照)。右心耳および左心耳を心臓の一部とすることは解剖学的には正しいことであるが、冠動脈の走行状態を観察したい場合においては、右心耳や左心耳の存在が冠動脈の走行確認の妨げとなるため、これらを画像中から削除したいという要望がある。
【0009】
しかしながら、右心耳および左心耳は、冠動脈と密着するように存在しており、また、心筋等の他の心臓組織とCT値が類似しているため、右心耳および左心耳を含まない状態の心臓領域を自動的に抽出することは困難であった。このため、従来は、解剖学的な専門知識を有する医師等が、目視に基づく手動操作により、右心耳および左心耳を画像中から削除することも行われているが、このような人為的操作が必要とされることにより、画像生成に多大な時間を要するとともに、得られる冠動脈の走行情報等に悪影響を及ぼす虞が生じる。
【0010】
また、上述した心臓の自動抽出手法は、撮影機器や撮影条件に影響を受けることなく所定の画像信号値(CT値)が得られるCT画像データに適用し得るように開発されたものであるため、撮影機器や撮影条件によって画像信号値に大きな変動が生じるMRI画像データに適用した場合には、安定した抽出結果を得ることは困難であった(後述の図10(B)参照)。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、CT装置またはMRI装置により得られた医用画像データに基づき構築される空間内において、右心耳および左心耳を含まない心臓の存在領域を自動的に抽出することが可能な心臓存在領域抽出装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る心臓存在領域抽出装置およびプログラムは、以下のように構成されている。
【0013】
すなわち、本発明に係る心臓存在領域抽出装置は、
医用画像データ(例えば、CT画像データやMRI画像データ)に基づき構築される空間内において、心臓が存在する領域を抽出する心臓存在領域抽出装置であって、
前記医用画像データに基づき求められた、冠状血管の走行ラインの位置情報に基づき、前記走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定するマスク用閉曲面設定手段と、
前記マスク用閉曲面の内部領域を前記心臓が存在する領域として抽出する領域抽出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る心臓存在領域抽出装置において、
前記閉曲面設定手段は、前記走行ラインに沿って複数の制御点を設定する制御点設定手段と、複数の放射基底関数の線形和により任意の関数を近似する手法を用いて、前記複数の制御点を通るという条件を満足する閉曲面を最適化する閉曲面最適化手段とを有してなり、前記閉曲面最適化手段により最適化された閉曲面を前記マスク用閉曲面として設定するように構成されている、とすることができる。
【0015】
また、ボリュームレンダリング法を用いて前記マスク用閉曲面の内部領域に対応したボリュームレンダリング画像を形成する画像形成手段を備えるようにしてもよい。
【0016】
また、本発明に係る心臓存在領域抽出プログラムは、
医用画像データに基づき構築される空間内において、心臓が存在する領域を抽出する処理を、コンピュータにおいて実行せしめる心臓存在領域抽出プログラムであって、
前記医用画像データに基づき求められた、冠状血管の走行ラインの位置情報に基づき、前記走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定するマスク用閉曲面設定ステップと、
前記マスク用閉曲面の内部領域を前記心臓が存在する領域として抽出する領域抽出ステップと、を前記コンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする。
【0017】
上記「冠状血管」とは、心臓の外表面に沿って走行する血管を意味しており、冠動脈の他に、冠静脈をも含む概念である。
【0018】
上記「冠状血管の走行ライン」とは、冠動脈等の冠状血管の3次元的な走行状態を示す各ラインを意味しており、冠状血管の芯線(中心線)の他に、冠状血管の表面に沿ったライン等をも含む概念である。
【0019】
上記「走行ラインに包絡される閉曲面」とは、各走行ラインの一部と接しながら、各走行ラインの全体により内包される閉曲面を意味しているが、閉曲面の内部に走行ラインの一部が含まれる場合を排除するものではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る心臓存在領域抽出装置およびプログラムは、医用画像データに基づき求められた、冠状血管の走行ラインの位置情報に基づき、走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定し、このマスク用閉曲面の内部領域を心臓が存在する領域として抽出するものであり、これにより、以下のような作用効果を奏する。
【0021】
すなわち、冠動脈等の冠状血管は心臓の外面に沿うように走行しているため、冠状血管の走行ラインに包絡される閉曲面は、心臓の外形に近似した形状を有するものとなり、その内部領域には、心臓の主要部(心筋部分)が含まれることとなる。一方、右心耳および左心耳は解剖学的に冠動脈の一部を覆う位置、すなわち冠動脈の走行ラインの外側に位置するため、閉曲面の内部領域には含まれないこととなる。
【0022】
また、CT画像データであってもMRI画像データであっても、冠状血管の走行ラインの位置情報を自動的に計算することは可能とされており、さらに、走行ラインに包絡される閉曲面を求めることについても、画像処理技術において従来用いられてきた3次元曲面の生成手法を適用することにより、自動的に計算することが可能である。しかも、この閉曲面を求めるための演算を実行するには、走行ラインの位置情報が必要とされるだけで、医用画像データの画像信号値(ボクセル値)の分布情報等は必要とされない。このため、CT画像データであってもMRI画像データであっても、閉曲面を自動的に求めることが可能である。
【0023】
したがって、冠状血管の走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定し、このマスク用閉曲面の内部領域を心臓が存在する領域として抽出するという特徴構成を有する本発明によれば、CT画像データまたはMRI画像データに基づき構築される空間内において、右心耳および左心耳を含まない心臓の存在領域を自動的に抽出することが可能となる。
【0024】
また、本発明によれば、右心耳および左心耳を画像中から削除するために従来行われていた人為的操作が不要となるので、効率的かつ安定的に、適正な情報(冠動脈の走行情報等)を担持した心臓抽出画像を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る心臓存在領域抽出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す演算処理装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す演算処理装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】マスク用閉曲面設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】求められた冠動脈の走行ラインを示す図である。
【図6】冠動脈の走行ライン上に設定される複数の制御点の設定態様を示す図である。
【図7】冠動脈の走行ラインに包絡される閉曲面を示す図である。
【図8】冠動脈抽出画像を示す図である。
【図9】CT画像データに基づく心臓抽出画像の一例を示す図((A)は本発明手法によるものであり、(B)は従来手法によるもの)である。
【図10】MRI画像データに基づく心臓抽出画像の一例を示す図((A)は本発明手法によるものであり、(B)は従来手法によるもの)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について上述の図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図1および図2を参照しながら本発明の一実施形態に係る心臓存在領域抽出装置について説明する。
【0027】
図1に示す心臓存在領域抽出装置1は、医用画像データに基づき構築される空間(以下「画像データ空間」と称する)内において心臓が存在する領域を抽出し、この領域内に位置する心臓の全体画像を形成するものであり、コンピュータ等からなる演算処理装置10と、マウスやキーボード等からなる入力装置20と、画像表示装置等からなる出力装置30とを備えてなる。
【0028】
上記演算処理装置10は、図2に示すように、医用画像データ記憶手段11、走行ライン特定手段12、閉曲面設定手段13、領域抽出手段14および画像形成手段15を備えており、閉曲面設定手段13は制御点設定手段131および閉曲面最適化手段132を有している。これらの手段は、各種の演算処理を行うCPU、ハードディスクやROM等の記憶装置、該記憶装置に格納された制御プログラム(本発明の一実施形態に係る心臓存在領域抽出プログラムを含む)およびRAM等の一時記憶装置等により構成されるものを、概念的に示したものである。
【0029】
上記医用画像データ記憶手段11は、X線CT装置またはMRI装置により得られた、被検体胸部の3次元医用画像データ(CT画像データまたはMRI画像データ)と、上述の走行ライン特定手段12、閉曲面設定手段13、領域抽出手段14および画像形成手段15により得られた各種データと、を記憶するものである。
【0030】
上記走行ライン特定手段12は、上記画像データ空間内において、心臓の冠状血管(本実施形態では冠動脈)の全体的な走行ラインを特定し、その3次元的な位置情報を求めるものである。
【0031】
上記閉曲面設定手段13は、上記走行ライン特定手段12により求められた、冠動脈の走行ラインの位置情報に基づき、この走行ラインに包絡される閉曲面を求め、これをマスク用閉曲面として設定するものである。具体的には、上記制御点設定手段131により、上記走行ラインに沿った複数の制御点を設定し、この複数の制御点を通るという条件を満足する閉曲面を、上記閉曲面最適化手段132により最適化し、この最適化された閉曲面を上記マスク用閉曲面として設定するように構成されている。
【0032】
上記領域抽出手段14は、上記閉曲面設定手段13により設定された上記マスク用閉曲面の内部領域を、心臓が存在する領域として抽出するものである。
【0033】
上記画像形成手段15は、ボリュームレンダリング法を用いて、上記マスク用閉曲面の内部領域に対応した心臓全体のボリュームレンダリング画像(以下「VR画像」と称する)を形成するものである。
【0034】
次に、本実施形態の心臓存在領域抽出装置1による心臓存在領域の抽出手順および心臓全体のVR画像の形成手順について、主に図3〜図10を参照しながら説明する。なお、次述する心臓存在領域の抽出手順は、本発明の一実施形態に係る心臓存在領域抽出プログラムに従って実行されるものである。
【0035】
〈1〉被検体胸部の医用画像データ(CT画像データまたはMRI画像データ)を取得する(医用画像データ取得ステップ;図3のステップS1参照)。本実施形態では、必要な医用画像データが、予め上記医用画像データ記憶手段11(図2参照)に記憶されていることを想定しているが、CDやDVD等の情報記憶媒体に記録された医用画像データを必要に応じて読み出すようにしてもよい。
【0036】
〈2〉取得された医用画像データに基づき、該医用画像データにより構築される画像データ空間内において、心臓冠動脈の全体的な走行ラインを特定し、その3次元的な位置情報を求める(走行ライン特定ステップ;図3のステップS2、図5参照)。本実施形態では、前掲の非特許文献1に開示された手法により、冠動脈の芯線(中心線)を走行ラインとして特定する。
【0037】
具体的には、まず、医用画像データの各データ値(ボクセル値)に基づき、画像データ空間内の局所領域において冠動脈の芯線上に位置すると推定される点(以下「経由点」と称する)を設定する。次に、経由点を含む局所領域におけるヘッセ(Hesse)行列の固有値を算出し、算出された固有値に基づき冠動脈の芯線の主軸方向(芯線の延びる方向)を求め、その主軸方向に新たな経由点を設定する。この手順を繰り返すことにより多数の経由点を順次設定し、設定された経由点同士を滑らかに連結することにより、冠動脈の全体的な芯線L(図5参照)を特定する。
【0038】
なお、解剖学的に冠動脈は、大動脈起始部の膨大部から分岐する右冠動脈(RCA)と左冠動脈(LCA)とに大別される。右冠動脈は、右房室間溝を通り心臓の右辺縁を下って後室間溝で後下行枝と房室枝とに枝分かれし、それぞれの枝がさらに細かく枝分かれしている。左冠動脈はその根元近傍部から心臓の前側に下る左前下行枝(LAD)と背中側に回り込む左回旋枝(LCX)とに枝分かれし、それぞれの枝がさらに細かく枝分かれしている。上記芯線Lの特定は、冠動脈の各枝の先端部に至るまで詳細に行うことが好ましいが、主要な枝のみについて行うなど、後述の閉曲面の特定に支障がない範囲で適宜省略してもよい。
【0039】
〈3〉求められた冠動脈の芯線Lの位置情報に基づき、この芯線Lに包絡される閉曲面を求め、これをマスク用閉曲面として設定するマスク用閉曲面設定処理を実行する(マスク用閉曲面設定ステップ;図3のステップS3参照)。
【0040】
具体的には、まず、芯線L上に複数の制御点Pを設定する(制御点設定ステップ;図4のステップS31、図6参照)。制御点Pの設定は、芯線Lに沿って任意の間隔で適宜行うことが可能であるが、本実施形態では、芯線Lの各部の曲率に応じて、曲率が大きい部位では間隔を狭く曲率が小さい部位では間隔を広げ、平均的には実寸換算で数ミリメートル置きに制御点Pを自動設定する。なお、図6では、概略的に制御点Pを「・」(一部のみに記号「P」を添付)で示しているが、実際には、図示した状態よりも高密度に制御点Pが設定される。
【0041】
次に、複数の放射基底関数(Radial Basis Functions)の線形和により任意の関数を近似する手法(以下「RBF手法」と称する)を用いて、上述の複数の制御点Pを通るという条件を満足する閉曲面を最適化し、この最適化された閉曲面をマスク用閉曲面Wとして設定する(閉曲面最適化ステップ;図4のステップS32、図7参照)。なお、図7では、マスク用閉曲面Wの外形線を一点鎖線により簡略化して示している。
【0042】
RBF手法は、3次元空間内の任意の点x(xはベクトル(3次元点))の関数s(x)を用いて、s(x)=0の陰関数表現により、任意の曲面を近似表現する手法であり、自由度の高い様々な曲面表現が可能であることや、曲面の局所平滑性を容易に調整することができるといった利点を有している。
【0043】
RBF手法に用いられる関数s(x)は、下式(1)によって表される。
【0044】
【数1】

【0045】
放射基底関数φ(r)としては、thin-plate関数、ガウス関数、multi-quadratic関数、bi-harmonic関数、tri-harmonic関数等を用いることが可能であるが、本実施形態では、放射基底関数φ(r)としてbi-harmonic関数を用いている。この場合、放射基底関数φ(r)は、下式(2)で表され、上記多項式関数p(x)は下式(3)で表される。
【0046】
【数2】

【0047】
本実施形態において、上述の複数の制御点Pを通るという条件を満足するマスク用閉曲面W(図7参照)を求めるには、上式(1)における各点xの座標値(x,y,z)として各制御点Pの座標値を代入し、下式(4)および(5)により定義されるベクトルΛおよびeを求める演算処理を行えばよい。
【0048】
【数3】

【0049】
この演算処理は、下式(6)の追加条件の下で、下式(7)の線形方程式を解くことに等しいことが知られている(下記参考文献1参照)。
【0050】
【数4】

【0051】
参考文献1:Yoshitaka Masutani Image Computing and Analysis Laboratory, Department of Radiology, University of Tokyo(UT-RAD/ICAL) “RBF-based Representation of Volumetric Data: Application in Visualization and Segmentation”, MICCAI 2002, LNCS 2489, pp.300-307
【0052】
〈4〉上述のRBF手法による演算処理により求められたマスク用閉曲面Wの内部領域を心臓が存在する領域(以下「心臓存在領域」と称する)として抽出する(領域抽出ステップ;図3のステップS4参照)。
【0053】
〈5〉抽出された心臓存在領域に対してボリュームレンダリング法を適用し、上記マスク用閉曲面Wの内部領域に対応した心臓全体のVR画像を形成する(VR画像形成ステップ;図3のステップS5参照)。なお、ボリュームレンダリング法とは、3次元医用画像データのボクセル毎に、画像信号値に対応させて色や不透明度を付与して画像化する手法である。
【0054】
本実施形態では、冠動脈の芯線Lを走行ラインとして用いているため、上記マスク用閉曲面Wは、冠動脈を径方向に2分する位置を通過するものとなる。このため、上述のVR画像形成ステップにおいて形成されるVR画像(以下「心臓全体画像」と称する)では、芯線Lに沿って切断された状態の冠動脈が描出されることとなる。冠動脈の表面部分が描出された画像を形成したい場合には、上述の走行ライン特定ステップにおいて芯線Lを抽出する際に、前掲の非特許文献1に開示された手法に基づき、冠動脈のみが抽出されたVR画像(以下「冠動脈抽出画像」と称する)を形成しておき、この冠動脈抽出画像(図8参照)を、上記心臓全体画像と合成すればよい。あるいは、芯線Lに沿って上記マスク用閉曲面Wの一部を拡張し、上記心臓存在領域内に冠動脈の全体が含まれるように設定することにより、冠動脈の表面部分が描出された画像を形成するようにしてもよい。
【0055】
以上説明した本発明手法によれば、CT画像データまたはMRI画像データに基づき構築される画像データ空間内において、右心耳および左心耳を含まない心臓の存在領域を自動的に抽出することができ、冠動脈の走行状態を観察するのに適した心臓全体の抽出画像を形成することが可能である。
【0056】
具体的には、CT画像データを用いた場合、従来手法では、図9(B)に示すように、右心耳32や左心耳33、肺動脈34といった、冠動脈の走行状態を観察する際には邪魔となる組織(以下「観察時不要組織」と称する)が描出されているのに対し、本発明手法によれば、図9(A)に示すように、これらの観察時不要組織が描出されていない心臓全体の抽出画像を形成することができる。
【0057】
なお、図9(A)は、マスク用閉曲面Wの内部領域に対応した心臓全体画像と、前掲の非特許文献1に開示された手法に基づき形成された冠動脈抽出画像とを合成することにより形成されたものである。図9(A)では、大動脈31の一部が描出されているが、これは、冠動脈抽出画像を形成する際に、大動脈の一部が抽出されていることによる。このことは、次述する図10(A)についても同様である。
【0058】
また、MRI画像データを用いた場合、従来手法では、図10(B)に示すように、心臓の周囲に存在する観察時不要組織が多数描出されてしまう可能性が高いのに対し、本発明手法によれば、図10(A)に示すように、これらの観察時不要組織(右心耳、左心耳および肺動脈を含む)が描出されていない心臓全体の抽出画像を形成することができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0060】
例えば上記実施形態では、冠動脈の芯線(走行ライン)に包絡されるマスク用閉曲面を求める手法として、上述のRBF手法を用いているが、スプライン関数を用いて曲面を近似する手法など、他の3次元曲面生成手法を用いてマスク用閉曲面を求めるようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、冠動脈の走行ラインとしての芯線を求めるために、前掲の非特許文献1に開示された手法を用いているが、他の手法を用いて、冠動脈の走行ラインを求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 心臓存在領域抽出装置
10 演算処理装置
20 入力装置
30 出力装置
11 医用画像データ記憶手段
12 走行ライン特定手段
13 閉曲面設定手段
14 領域抽出手段
15 画像形成手段
31 大動脈
32 右心耳
33 左心耳
34 肺動脈
131 制御点設定手段
132 閉曲面最適化手段
L 芯線(走行ライン)
P 制御点
W マスク用閉曲面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像データに基づき構築される空間内において、心臓が存在する領域を抽出する心臓存在領域抽出装置であって、
前記医用画像データに基づき求められた、冠状血管の走行ラインの位置情報に基づき、前記走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定するマスク用閉曲面設定手段と、
前記マスク用閉曲面の内部領域を前記心臓が存在する領域として抽出する領域抽出手段と、を備えたことを特徴とする心臓存在領域抽出装置。
【請求項2】
前記閉曲面設定手段は、前記走行ラインに沿って複数の制御点を設定する制御点設定手段と、複数の放射基底関数の線形和により任意の関数を近似する手法を用いて、前記複数の制御点を通るという条件を満足する閉曲面を最適化する閉曲面最適化手段とを有してなり、前記閉曲面最適化手段により最適化された閉曲面を前記マスク用閉曲面として設定するように構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の心臓存在領域抽出装置。
【請求項3】
ボリュームレンダリング法を用いて前記マスク用閉曲面の内部領域に対応したボリュームレンダリング画像を形成する画像形成手段を備えている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の心臓存在領域抽出装置。
【請求項4】
医用画像データに基づき構築される空間内において、心臓が存在する領域を抽出する処理を、コンピュータにおいて実行せしめる心臓存在領域抽出プログラムであって、
前記医用画像データに基づき求められた、冠状血管の走行ラインの位置情報に基づき、前記走行ラインに包絡される閉曲面をマスク用閉曲面として設定するマスク用閉曲面設定ステップと、
前記マスク用閉曲面の内部領域を前記心臓が存在する領域として抽出する領域抽出ステップと、を前記コンピュータにおいて実行せしめることを特徴とする心臓存在領域抽出プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245106(P2012−245106A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118097(P2011−118097)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(503313373)株式会社AZE (10)
【Fターム(参考)】