説明

応力拡大係数範囲の履歴測定方法、および亀裂進展性の評価方法

【課題】 測定対象を変化させることなく、応力拡大係数範囲の履歴を簡便に測定する。また、亀裂の進展性の評価を正確に行えるようにして、亀裂に対する保守管理についての適切な方針の立案等に資する。
【解決手段】 金属であるSUS304鋼に発生した亀裂について、その周辺の磁場分布をホール素子顕微鏡により非破壊的に直接測定し、亀裂に沿って磁束密度を抽出するとともに、SUS304鋼における磁束密度と応力拡大係数範囲ΔKの対応関係に基づいて、各磁束密度から応力拡大係数範囲ΔKを導出する。また、この測定方法により、亀裂に係る応力拡大係数範囲ΔKの履歴を得、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものと評価し、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性があるものと評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属に発生した亀裂における応力拡大係数範囲(ΔK)の履歴を、非破壊的に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
応力拡大係数範囲の測定方法として、下記特許文献1に記載のものが知られている。この方法では、非磁性体における亀裂の現状での損傷程度を把握するため、着磁処理のうえで漏洩磁束密度を測定し、現時点での亀裂先端付近の応力拡大係数範囲を推定するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2002−277442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法では、着磁処理を前提とするため、手間がかかるし、測定対象の磁性が変化してしまう。また、上記方法では、亀裂の現状での応力拡大係数範囲しか判別しないため、亀裂が今後どのように進展していくかという観点からの亀裂の進展のし易さ(進展性)を評価することができない。
【0005】
そこで、請求項1に記載の発明は、測定対象を変化させることなく、応力拡大係数範囲の履歴を簡便に測定することを目的としたものである。
【0006】
また、請求項2、請求項3に記載の発明は、亀裂の進展性の評価を正確に行えるようにして、亀裂に対する保守管理についての適切な方針の立案等に資することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、応力拡大係数範囲の履歴測定方法に係り、金属に発生した亀裂について、その周辺の磁場分布を非破壊的に直接測定し、亀裂に沿って磁束密度を抽出するとともに、金属毎に定まる磁束密度と応力拡大係数範囲の対応関係に基づいて各磁束密度から応力拡大係数範囲を導出することで、亀裂基端から先端にかけての応力拡大係数範囲の履歴を得ることを特徴とするものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、亀裂進展性の評価方法に係り、上記応力拡大係数範囲の履歴測定方法により、亀裂に係る応力拡大係数範囲の履歴を得、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものと評価し、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性があるものと評価することを特徴とするものである。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、上記亀裂進展性の評価方法に係る発明において、当該履歴が、亀裂全体にわたり変化しない場合には、当該亀裂の進展性が一定であるものと評価することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、亀裂における現在の応力拡大係数範囲だけでなく、亀裂がどのように進展してきたかに直接関わる応力拡大係数範囲の履歴を求めることができる、という効果を奏する。
【0011】
請求項2、請求項3に記載の発明によれば、亀裂の進展性を把握することができ、当該亀裂をすぐにでも補修すべきか、あるいは亀裂はできているが殆ど進展しないので補修の時期を遅らせるか等といった判断を簡単かつ適切に行うことができ、保守管理のコストを低減し、保守管理を適正なものとすることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の実施形態に係る応力拡大係数範囲の履歴測定方法(測定方法)の原理について説明する。なお、本測定方法では、応力により自発磁化が発生する金属を対象とする。
【0013】
本測定方法では、まず、亀裂周辺の自発磁場の分布を測定する(図1のステップS1、図2〜図4参照)。なお、上記の金属における自発磁化は一般に微弱であるから、ここでは微弱磁場を測定可能なホール素子顕微鏡(特開平11−311617号に記載のものと同様のもの)を用いて測定する。
【0014】
次に、亀裂周辺の磁束密度の値を亀裂に沿って次々に抽出し、これらに対応する、亀裂に沿った複数の応力拡大係数範囲ΔKを求める(図1のステップS2)。ここで、応力拡大係数範囲ΔKは、亀裂先端近傍の応力場を一義的に定義する量Kの疲労による繰り返し範囲であり、次に示す[数1]により表される。一方、応力拡大係数範囲ΔKは、磁束密度と、比例関係(一次式で表現可能)にあることも判明している(図5〜図6参照)。これは、金属(応力により自発磁化の発生するもの)が応力を強く受けるほど線形的に自発磁化が発生することによる。そして、当該比例関係の比例係数ないし定数は金属の種類に依るから、予め測定対象の材質における比例係数ないし定数を実験により得ておけば、後は亀裂に沿った磁束密度の値を当該材料毎の比例関係に次々当てはめることで、応力拡大係数範囲ΔKの履歴が求まるのである。
【0015】
【数1】

【0016】
続いて、上記測定方法を利用した亀裂進展性の評価方法の原理について説明する。測定方法により得られた応力拡大係数範囲ΔKの亀裂に沿う履歴につき、その増減をみることで、進展性を評価する(図1のステップS3)。すなわち、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものと評価し、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性があるものと評価し、当該履歴が、亀裂全体にわたり変化しない場合には、当該亀裂の進展性が一定であるものと評価する。
【0017】
なお、得られた応力拡大係数範囲ΔKから、これらに対応する亀裂進展速度da/dNを求めることで、亀裂進展速度da/dNの履歴も把握することができる。応力拡大係数範囲ΔKと亀裂進展速度da/dNとは、縦軸をda/dN、横軸をΔKとする両対数軸グラフ上において、中央が右上がりの直線状で両端側がより急な右上がりの直線状となった逆S字状のカーブとなるような、金属毎に固有の関係にあることが判明している(中央直線状部分につき図7参照)。よって、予め実験により、測定対象の材料に係る上記カーブを得ておけば、これに当てはめることで応力拡大係数範囲ΔKから亀裂進展速度da/dNが求まるのである。そして、得られた複数の亀裂進展速度da/dNは、亀裂が形成された際のものであるから、どのような速度で亀裂が進行してきたかという履歴が測定されることになる。
【0018】
続いて、上記原理の具体化例を示す。図8に示される、疲労試験により亀裂を発生させるための試験片10は、金属(常磁性体)であるSUS304鋼製であり、表面研磨および熱処理を施してある。疲労試験は、試験片10に2個設けられた丸孔12を介して、Y軸方向に繰り返し対称に引っ張ることで行われ、溝14の先端から亀裂を発生させる。なお、SUS304鋼は、標準オーステナイト系ステンレス鋼であり、ここでの組成を[表1]に示す。また、ここでの試験片10の全体寸法は、Y軸方向において61mm、X軸方向で63mmであり、溝14先端から−X方向への寸法は、35mmであり、溝14の基端側の幅は3mmである。
【0019】
【表1】

【0020】
上記試験片10を3個用意し、それぞれ試験片1〜3として下記[表2]の条件で疲労試験を行い、亀裂を進展させる。ここで、応力比とは、引っ張りにより発生する最大応力と最小応力の比である。また、応力拡大係数範囲ΔKの範囲は、前の数字から後の数字へ収束するように調整する意であり、より詳しくは、最初は亀裂長さaが小さいので[数1]から応力拡大係数範囲ΔKが示された値となるように応力範囲Δσを大きくし、以降亀裂長さaをみながら応力拡大係数範囲ΔKが示された値となるように応力範囲Δσを調整し、後の方では亀裂長さaが比較的に大きいので比較的に応力範囲Δσを小さくする。ここでは、引張応力σは、およそ1.0〜200MPaの範囲で調整される。なお、試験片1においては、応力拡大係数範囲ΔKの範囲における前の数字が後の数字より大きいので、応力拡大係数範囲ΔKがだんだん小さくなるように応力を加え、試験片2,3においては、応力拡大係数範囲ΔKの範囲における前の数字が後の数字より小さいので、応力拡大係数範囲ΔKがだんだん大きくなるように応力を加える。更に、単位時間あたりの回数(Hz)は、1秒間あたりの引っ張り回数である。
【0021】
【表2】

【0022】
なお、[表2]から明らかであるが、試験片1に係る疲労試験は、漸減する応力拡大係数範囲ΔKのもとで亀裂を進展させるものであり、今後進展しにくい亀裂のモデルといえ、試験片2に係る疲労試験は、全体として小幅(14.56)に漸増する応力拡大係数範囲ΔKのもとで亀裂を進展させるものであり、安定成長する亀裂のモデルといえ、試験片3に係る疲労試験は、全体として比較的に大幅(27.50)に漸増し、大きさも比較的に大きい(31.18〜58.68)応力拡大係数範囲ΔKのもとで亀裂を進展させるものであり、今後すぐにでも大きく進展するような亀裂のモデルといえる。
【0023】
また、試験片1における疲労試験時には、応力負荷時(亀裂発生時)の応力拡大係数範囲ΔKと、その際亀裂先端であった箇所における磁束密度との関係を都度得ておき、最終的にSUS304鋼における磁束密度と応力拡大係数範囲ΔKとの比例関係を把握しておく(図5)。また同様に、試験片3の疲労試験においても、SUS304鋼における磁束密度と応力拡大係数範囲ΔKとの比例関係を導出しておく(図6)。
【0024】
なお、試験片1〜3に対する疲労試験時に、亀裂進展速度da/dNと応力拡大係数範囲ΔKとの対応も多数把握しておき、これらを両対数軸上にプロットすることで、SUS304鋼における亀裂進展速度da/dNと応力拡大係数範囲ΔKとの関係を把握しておく(図7)。
【0025】
そして、疲労試験完了後、試験片1〜3の磁場分布を、図8における二点鎖線の範囲で、ホール素子顕微鏡により測定する。ここで、ホール素子顕微鏡は、1辺25μmの正方形状の感磁面を持つ操作ホール素子マグネトメトリを有し、これをリフトオフ0.6mmにて各試験片表面に走査させる。
【0026】
図2ないし図4に磁場分布の測定結果を示す。図2が試験片1の結果であり、図3が試験片2の結果であり、図4が試験片3の結果である。試験片1では、亀裂先端へ向かって細い涙滴形の自発磁場(磁束密度40〜140μT程度)が亀裂の周囲にみられ、溝14先端から−X方向へ亀裂に沿ってみると、磁束密度はすぐに最大値となる一方、徐々に減少している。試験片2では、亀裂各部からほぼ等距離の外形を持つ帯形状の自発磁場(磁束密度20〜70μT程度)が亀裂の周辺にみられ、亀裂に沿った磁束密度はほぼ一定となっている。試験片3では、亀裂基端へ向かって細い涙滴形の自発磁場(磁束密度20〜450μT程度)が亀裂の周囲にみられ、溝14先端から−X方向へ亀裂に沿ってみると、磁束密度は徐々に増加して亀裂先端付近で最大値となり、その後僅かな部位において比較的急激に減少する。
【0027】
なお、亀裂周囲のみに自発磁化がみられるのは、SUS304鋼がオーステナイト相を有する常磁性体である一方、応力が集中した部位においては、オーステナイト相が強磁性体であるマルテンサイト相へ変態したことによるものと考えられる。
【0028】
以上から次のことがいえる。例えばSUS304鋼製の発電所の装置において発見された亀裂につき、その進展性を把握するために、その周辺の磁場分布を測定する方法がとれる。磁場分布の測定時ないしは測定完了時に、亀裂に沿って次々に磁束密度の値を抽出し、それぞれに対応する応力拡大係数範囲ΔKを既知の関係(図5、図6)から求めて、亀裂に沿う応力拡大係数範囲ΔKの変化を導出する。
【0029】
そして、応力拡大係数範囲ΔKの変化が亀裂基端から亀裂先端にかけて減少するものであれば、試験片1に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、今後拡大する可能性が極めて少なく進展性に乏しい(進展性のない)亀裂と評価することができる。ただし、応力拡大係数範囲ΔKの最低値が大きい場合には、漸減する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものであっても、注意を要する。
【0030】
また、応力拡大係数範囲ΔKの変化が亀裂基端から亀裂先端にかけて増加するものであれば、試験片3に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、すぐにでも大きく進展する可能性が高い進展性に富んだ(進展性のある)亀裂と評価することができる。
【0031】
一方、応力拡大係数範囲ΔKの変化が亀裂基端から亀裂先端にわたり殆どない(例えば最高値の9割未満にならない)ものであれば、試験片2に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、これからも同様の速度で進展する安定成長型の(進展性が一定の)亀裂と評価することができる。
【0032】
加えて、次のこともいえる。亀裂に沿った自発磁化領域が亀裂先端側の細い涙滴状(弾丸状、図2)であれば、試験片1に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、進展性の小さい亀裂と評価することができ、亀裂に沿った自発磁化領域が亀裂先端側の太い涙滴状(弾丸状、図4)であれば、試験片3に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、進展性の大きい亀裂と評価することができ、亀裂に沿った自発磁化領域が幅のほぼ一定な帯状(図3)であれば、試験片2に相当する応力拡大係数範囲ΔKの履歴を有するものとして、進展性が従前と変わらない亀裂と評価することができる。
【0033】
なお、亀裂に沿った各応力拡大係数範囲ΔKに対応する亀裂進展速度da/dNを既知の関係(図7)から求めることで、亀裂進展速度da/dNの履歴をも導出することができる。亀裂進展速度da/dNのこれまでの傾向によって、今後の亀裂進展速度da/dNを把握することができ、例えば減少傾向であったならば今後も同様に減少し、増加傾向であったならば今後も同様に増加し、安定傾向であったならば今後も同様の亀裂進展速度da/dNを保つものと判断することができる。
【0034】
以上の通り、上記測定方法にあっては、金属であるSUS304鋼に発生した亀裂について、その周辺の磁場分布をホール素子顕微鏡により非破壊的に直接測定し、亀裂に沿って磁束密度を抽出するとともに、SUS304鋼における磁束密度と応力拡大係数範囲ΔKの対応関係に基づいて、各磁束密度から応力拡大係数範囲ΔKを導出することで、亀裂基端から先端にかけての応力拡大係数範囲ΔKの履歴を得るため、亀裂がどのような応力を受けてどのような進展速度で形成されたのか等という亀裂の形成過程を事後に知ることができ、亀裂の状態を簡便かつ適切に把握することができて、履歴評価方法も実現可能となる。
【0035】
また、上記履歴評価方法にあっては、上記測定方法により、亀裂に係る応力拡大係数範囲ΔKの履歴を得、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものと評価し、当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性があるものと評価するので、外見からは分からない今後の亀裂の進展の態様を適切に把握することができ、例えばSUS304鋼製の装置や構造物に生じた亀裂につき、進展性に乏しいから補修の優先度や水準等を比較的に低くするとか、進展性に富むから早期に対策をとるとかいったように、亀裂に対する方針を適正なコスト配分でリスクに応じ適切に立案することができる。
【0036】
更に、上記履歴評価方法にあっては、当該履歴が、亀裂全体にわたり変化しない場合には、当該亀裂の進展性が一定であるものと評価するため、より一層きめ細かく亀裂に対する方針を立てることができる。
【0037】
なお、主に上記実施形態を変更してなる本発明の実施形態を例示する。測定対象を、SUS316鋼(応力により自発磁化の発生する常磁性体、元素比の一例[%]、C:0.08、Si:1.00、Mn:2.00、P:0.045、S:0.030、Ni:12.00、Cr:17.00、Mo:2.50、Fe:残部)としたり、1.25Cr−1Mo−V鋼(応力により自発磁化の発生する強磁性体、元素比の一例[%]、C:0.14、Si:0.05、Mn:0.52、P:0.008、S:0.001、Cr:1.25、Mo:0.96、V:0.006、Fe:残部)としたりする。すなわち、本発明の対象となる金属としては、応力により自発磁化が発生するものであれば良いが、常磁性体、あるいは常磁性体および強磁性体が好ましい。
【0038】
また、亀裂の進展性を一定と評価する場合を、応力拡大係数範囲ΔKの最大値から8割(あるいは9割5分等その他の割合)より少なくならないときとする。磁場分布の測定を、磁気抵抗効果素子(MRE素子)に係るセンサにより行う。磁束密度と応力拡大係数範囲ΔKとの関係を、比例関係以外の一対一の関係とみて、磁束密度から応力拡大係数範囲ΔKを導出する。
【0039】
あるいは、応力拡大係数範囲ΔKの磁束密度からの導出や、亀裂の進展性の評価等、上記各処理の一部または全部を、コンピュータにより行う。
【0040】
すなわち、コンピュータに、金属に発生した亀裂について、その周辺の磁場分布(測定部位の座標値と磁束密度の対応関係)を非破壊的に直接測定するホール素子顕微鏡(磁場分布測定手段)を接続する。ホール素子顕微鏡は、磁場分布(少なくとも亀裂に沿った部位での磁束密度)を、コンピュータに送信可能である。コンピュータ(のCPU)は、当該磁場分布を受信すると、記憶手段(ハードディスクあるいはメモリ等)の磁束密度データベースに記憶する。磁束密度データベースは、座標値と磁束密度と対応づけて記憶するものである。また、コンピュータの記憶手段には、各種金属(少なくとも測定対象となったもの)における磁束密度と応力拡大係数範囲との関係を示す磁束密度−応力拡大係数範囲データベースが、予め記憶されている。そして、コンピュータ(のCPU)は、磁束密度データベースに基づいて、亀裂に沿って磁束密度を抽出するとともに、磁束密度−応力拡大係数範囲データベースに基づいて(抽出に係る)各磁束密度から応力拡大係数範囲を導出し、亀裂基端からの位置と応力拡大係数範囲との対応関係を表す履歴データベースを記憶手段に生成する。履歴データベースは、亀裂基端から先端にかけての応力拡大係数範囲の履歴を表す。コンピュータと磁場分布測定手段とで、応力拡大係数範囲の履歴測定システムが構成される。なお、コンピュータには、履歴データベースに内容について(グラフ表示等により)表示したり印刷したりする履歴出力手段が接続されても良い。
【0041】
また、応力拡大係数範囲の履歴測定システムを含む亀裂進展性の評価システムも構成可能である。すなわち、履歴測定システムと同一のコンピュータあるいは履歴測定システムのコンピュータに接続された別のコンピュータに、進展性判定手段(CPUあるいはこれを実行するプログラム)を設ける。進展性判定手段は、亀裂の基端から先端にかけての各応力拡大係数範囲を履歴データベースから次々に読み出し、各応力拡大係数範囲が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものとして進展性記憶手段(ハードディスクあるいはメモリ等)にその旨記憶する(例えば進展性変数を1として記憶する)。また、進展性判定手段は、各応力拡大係数範囲が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性がないものとして、進展性記憶手段にその旨記憶する(例えば進展性変数を2として記憶する)。
【0042】
更に、上記に加えて、進展性判定手段は、各応力拡大係数範囲が、亀裂全体にわたり変化しない場合には、当該亀裂の進展性がないものとして、進展性記憶手段にその旨記憶(例えば進展性変数を3として記憶)しても良い。なお、亀裂進展性の評価システムに、進展性記憶手段における記憶に基づいて評価の内容を(文字やアイコン等で)出力する評価出力手段を含めても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、金属(応力により自発磁化の発生するもの)を用いた装置や構造物等において進展した亀裂に対し、当該装置や構造物の稼働を中断させず、あるいは当該装置や構造物の現状を変えることなく、応力拡大係数範囲の履歴、ないしは亀裂の進展性を把握して、補修の対象とするか否かや補修の時期ないし順位を決定する等の目的で適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る応力拡大係数範囲の履歴測定方法およびこれを用いた亀裂進展性の評価方法の説明図である。
【図2】試験片1の磁場分布の測定結果を示す図である。
【図3】試験片2の磁場分布の測定結果を示す図である。
【図4】試験片3の磁場分布の測定結果を示す図である。
【図5】試験片1から得た磁束密度とΔKとの関係を示す図である。
【図6】試験片3から得た磁束密度とΔKとの関係を示す図である。
【図7】試験片1〜3から得たΔKとdA/dNとの関係を示す図である。
【図8】試験片1〜3の(a)正面図、(b)右側面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 試験片
12 丸孔
14 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属に発生した亀裂について、その周辺の磁場分布を非破壊的に直接測定し、
亀裂に沿って磁束密度を抽出するとともに、金属毎に定まる磁束密度と応力拡大係数範囲の対応関係に基づいて各磁束密度から応力拡大係数範囲を導出することで、
亀裂基端から先端にかけての応力拡大係数範囲の履歴を得る
ことを特徴とする応力拡大係数範囲の履歴測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の応力拡大係数範囲の履歴測定方法により、亀裂に係る応力拡大係数範囲の履歴を得、
当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて減少する場合には、当該亀裂の進展性がないものと評価し、
当該履歴が、亀裂基端から先端にかけて増加する場合には、当該亀裂の進展性があるものと評価する
ことを特徴とする亀裂進展性の評価方法。
【請求項3】
当該履歴が、亀裂全体にわたり変化しない場合には、当該亀裂の進展性が一定であるものと評価する
ことを特徴とする請求項2に記載の亀裂進展性の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−71657(P2007−71657A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258201(P2005−258201)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】