説明

急性骨髄性白血病患者を評価するための方法

【課題】急性骨髄性白血病(AML)を有する患者の予後を予測すること。
【解決手段】癌、好ましくは、造血系悪性腫瘍患者を治療する方法は、患者の遺伝子発現プロフィールおよび/または分子マーカーを分析して患者の状態および/または予後を決定することを含む。本発明はまた、非再発性または非難治性患者がファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)、および、場合によっては他の治療薬による治療に応答する可能性があるかどうか分析する方法も提供する。これらの方法はまた、患者の治療をモニタリングするため、かつ、治療過程を選択するためにも有用である。FTI処置に応答して変調される遺伝子が提供され、プロフィールの作成に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
付録の「配列表(Sequence Listing)」は、参照して本明細書に組み入れる。
〔発明の背景〕
本発明は、分子マーカーの検出、および/または、遺伝子発現分析に基づく、急性骨髄性白血病(AML)の診断、予後、および、治療に関する。
【0002】
現在は、核型分析(karyotyping)が、予後値を得るのに有効であり、一方で、生物学的に異なるAMLのサブタイプを同定するのにも有用である。加えて、FLT3、c−KIT、AML1、GATA1、CEBPA、および、N−RASなどの遺伝子の突然変異が、この疾患の病因に関与している。FLT3およびCEBPAの突然変異のスクリーニングにより、再発のリスクが異なる群に階層分類できることが明らかである。有効なリスクの階層分類により、同種幹細胞移植や他のアジュバント療法の適切な使用が可能となる。近年発表された2つの研究論文に、新たに診断された成人AML患者の遺伝子発現プロファイリング、および、臨床転帰を予測する上でのこのプロファイリングの使用が記載されている(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)、およびバルクら(Valk et al.)(2004))。これらの研究には、遺伝子発現プロファイリングにより、いかにして臨床転帰予測をさらに改善できるかが示されている。
【0003】
バルクら(Valk et al.)(2004)は、アフィメトリクス(Affymetrix)U133Aチップで285人の患者(骨髄または末梢血)を評価した。これらの患者のサンプルには、多様な細胞遺伝学的異常や分子異常が含まれていた。わずか16のクラスターが同定され、AMLが以前に考えらていたほどヘテロでないことが示された。複数のクラスターが、細胞遺伝学的および分子的に定義されたAMLのサブタイプによく一致するため、これらのクラスターをWHO分類システムに用いることができる。これらのクラスターはまた、Bullingerら(2004)および他のすでに発表されている、より小規模な研究でも見出されている(ショッホら(Schoch at al.)(2002);デベルナルディ(Debernardi et al.)(2003)、および、コールマンら(Kohlmann et al.)(2003))。驚くことではないが、これらのクラスターは、周知の予後の核型に関連していることから、予後に相関している。
【0004】
ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)は、cDNAアレイを用いて116人の成人患者(65の抹消血と54の骨髄)の発現プロフィールを調べた。バルクら(Valk et al.)(2004)による研究に加えて、ブリンガーら(Bullinger et al.)は、全ての細胞遺伝学的リスク群の臨床転帰を予測するための133の遺伝子分類子も開発した。59サンプルのトレーニングセット(training set)および57サンプルの検査セットを用いて、ブリンガーら(Bullinger et al.)は、133の遺伝子で患者を不良な転帰の群と良好な転帰の群に分類されることを示した(p=0.006ログランク(log rank)、オッズ比:10(odds ratio, 10)、95%CI、2.6‐29.3)。
【0005】
これら両方の研究で同定された遺伝子は、小児白血病ですでに同定されている予測因子遺伝子と一部だけが重複することに留意されたい(ヤギら(Yagi et al.)(2003))。また、ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)によって同定された予後遺伝子セットと、ティピファニブ(tipifarnib)に対する応答を予測する近年同定された3つの遺伝子は重複していない(米国特許出願第10/883,436号)。
【0006】
ファルネシルトランスフェラーゼ(FTase)酵素は、カーボンファルネシル部分のC末端CAAX(C:システイン、A:脂肪族残基、X:任意のアミノ酸)認識モチーフへの共有結合を媒介する(ライスら(Reiss et al.)(1990))。このようなファルネシル化は、さらに3個の末端アミノ酸(AAX)の切断およびC末端イソプレニル−システインのメチル化によってさらに処理される。タンパク質のファルネシル化を阻害すると、タンパク質機能に必要な正確な細胞内局在化が抑制される。当初は、発癌性Rasタンパク質が、癌生物学におけるFTIの増殖抑制作用の標的と考えられていた(ロイターら(Reuter et al.)(2000))。しかしながら、Rasファルネシル化の阻害ではティピファニブの全ての作用を説明できないことが示された。例えば、FTIは、抗腫瘍作用を生ずるために常に突然変異Rasタンパク質を必要とするわけではない(カープら(Karp et al.)(2001))。実際に、初期の臨床試験は、進行した結腸直腸癌および膵臓癌などの高頻度のras突然変異の集団に対してデザインされていたが、プラセボと比較した場合に応答率に有意差は見られなかった(ヴァン・カトセムら(Van Cutsem et al.)(2004)、ラオら(Rao et al.)(2004))。
【0007】
他の数種のファルネシル化タンパク質が、低分子量GTP加水分解酵素タンパク質Rho B、セントロメアタンパク質CENP−EおよびCENP−F、タンパク質チロシンホスファターゼPTP−CAAX、および、核膜構造ラミンAおよびBを含むFTIの腫瘍抑制作用を媒介できる候補標的として意味付けられている。これらのタンパク質のファルネシル化を阻害すると、FTIの抗増殖作用が生じ、また、TGFβRII、MAPK/ERK、PI3K/AKT2、Fas(CD95)、NF−κB、および、VEGFを含む数種の重要なシグナル伝達分子も関節的に調節する(アドナンら(Adnane et al.)(2000)、モーガンら(Morgan et al.)(2001)、チャンら(Jiang et al.)(2000)、ナら(Na et al.)(2004)、タカダら(Takada et al.)(2004)、および、チャンら(Zhang et al.)(2002))。これらのシグナル伝達経路の調節により、細胞の成長、増殖、および、アポトーシスが調節される。従って、FTIは、数種の細胞事象、および、細胞経路に対して複雑な抑制作用を有すると思われる。
【0008】
現在のところ、これらの患者の状態を決定する、または、全生存率を予測するための方法は存在しない。
【0009】
〔発明の概要〕
本発明は、急性骨髄性白血病(AML)を伴う患者の予後を予測するために1以上の遺伝子シグネチャ(gene signatures)を使用する方法である。これらのシグネチャは、単独でか、または、薬剤治療の種類に応じた組合せで投与することができる。
【0010】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが、AML状態の指標となる方法を提供する。
【0011】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の病期分類を行う方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが、AML生存の指標となる方法を提供する。
【0012】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の治療プロトコールを決定する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが、医師が適切な治療法を提供するために推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、治療法に対する応答の十分な指標となる方法を提供する。
【0013】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップであって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが、治療法に対する応答の指標となる、ステップと、患者が応答者プロフィール(responder profile)を有する場合に、患者にアジュバント療法を施すステップとによる、急性骨髄性白血病(AML)患者を治療する方法を提供する。
【0014】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の死亡リスクが高いか低いかを決定する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、死亡リスクの十分な指標となる、方法を提供する。
【0015】
本発明は、前述の方法のいずれか1つの結果を判定するステップと、結果および結果により作成されたレポートを表示したレポートを準備するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)予後患者レポートを作成する方法を提供する。
【0016】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物(complements)、または、それらの一部を検出するための材料を含む生体サンプルで、急性骨髄性白血病(AML)予後を決定するアッセイを実施するためのキットを提供する。
【0017】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料を含む、急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価するための製品を提供する。
【0018】
本発明は、前述の方法を実施するためのマイクロアレイ、または、遺伝子チップを提供する。
【0019】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を含む、診断/予後ポートフォリオを提供する。
【0020】
〔図面の簡潔な説明〕
図1は、再発性および難治性AML患者のアンスーパーバイズドクラスタリング(Unsupervised clustering)を示す図である。このデンドグラムは、58人の再発性または難治性AML患者のアンスーパーバイズドk−平均クラスタリングを示しており、各列は患者を表し、各行は遺伝子を表している。各遺伝子の発現率は、患者のその遺伝子の発現レベルを、他の全患者の平均で除して算出したものである。カラーバーは、変化倍率(log2)を示している。赤色はアップレギュレーションを示し、青色はダウンレギュレーションを示している。白色は変化がないことを示している。6つの主なクラスターの存在が示されている。
【0021】
図2は、2つの遺伝子のリアルタイムRT−PCRを示す図である。AHRおよびAKAP13をリアルタイムRT−PCRで測定した。HPRTまたはPBGD対照遺伝子を用いて、遺伝子発現値を正規化した。エラーバーは、標準偏差である。得られた値を、対応するマイクロアレイデータに対してプロットし、線形回帰分析を行った。
【0022】
図3は、AKAP13遺伝子の予測値を示す図である。パネルAは、応答者(R)および非応答者(NR)に対する分類子としてAKAP13発現を用いて行ったLOOCVから作成した2×2表を示している。パネルBは、同じ58人の患者のAKAP13の発現値を示している。P値は、各応答群の平均値間の遺伝子発現の有意差を示している。パネルCは、AKAP13遺伝子によって応答者および非応答者に分類された患者から作成したカプラン−マイヤー曲線を示している。
【0023】
図4は、予測マーカーの最小セットを示す図である。パネルAでは、100%の感度を用いてLOOCVを行った。1〜19の遺伝子を含む個々の分類子を試験した。得られた誤り率をプロットした。パネルBは、応答者(R)および非応答者(NR)に対する分類子として3遺伝子シグネチャを用いて行ったLOOCVから作成した2×2表を示している。パネルCは、3遺伝子分類子から作成したスコアを示している。P値は、応答群間の遺伝子発現の有意差を示している。パネルDは、3遺伝子シグネチャによって応答者および非応答者に分類された患者から作成したカプラン−マイヤー曲線である。平均生存期間も示している。
【0024】
図5は、3遺伝子シグネチャによって応答者および非応答者に予測された患者に対して行ったカプラン−マイヤー分析を示す図である。臨床では非応答者であると決定されたが3遺伝子シグネチャを用いた場合では応答者であると分類された患者の生存曲線を示している。平均生存期間も示している。
【0025】
図6は、AML細胞系でのAKAP13の過剰発現を示す図である。細胞数は、対照の百分率を得るために薬剤を含まない培養物(−12 log単位として示している)に対して正規化した。エラーバーは、平均の標準誤差を示している。白抜きのデータ点は、高濃度の薬剤を探す第2の実験の結果を示している。
【0026】
図7は、再発性または難治性AMLにおけるFTI作用のモデルを示す図である。A.応答者では、IL3RA遺伝子およびAKAP13遺伝子の発現が低く、ras、RhoA、および、ラミンBの経路のそれぞれのダウンレギュレーションが可能である。RhoHのアップレギュレーションにより、細胞内形質転換経路の阻害が大きくなる。これにより、FTI抗腫瘍形成の効果が増大する。B.非応答者では、反対の遺伝子発現プロフィールが見られ、代償経路の発現が可能である。
【0027】
図8は、ザルネストラ(Zarnestra)予測遺伝子シグネチャが、単独の予後遺伝子シグネチャよりも有用であることを示す図である。パネルAでは、列が再発性または難治性患者からのAMLサンプルを表し、行は、階層クラスタリングによって順番が決められたブリンガーら(Bullinger et al.)によって同定された133の予後遺伝子の内の103に相当する167のプローブセットを表している。パネルBは、クラスターにより定義された患者群のカプラン−マイヤー生存推定を示している。パネルCでは、3遺伝子分類子を用いて、ティピファニブの応答者をブリンガーシグネチャ(Bullinger signature)によって定義された良好な予後群と不良な予後群に区別した。カプラン−マイヤー生存曲線は、良好な予後群(Zn+.クラスター1)および不良な予後群(Zn+.クラスター2)のティピファニブに対する応答者として特定された患者を示している。各群の平均生存期間も示している。
【0028】
図9は、ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)の遺伝子をアフィメトリクス(Affymetrix) U133Aチップ上の167のプローブセット(103個のユニークな遺伝子)にどのように一致させるかを示すフローチャートである。
【0029】
図10は、再発性または難治性AML患者における167のプローブセットシグネチャの有用性を示す図である。パネルAでは、列が再発性または難治性患者からのAMLサンプルを表し、行は、階層クラスタリングによって順番が決められたブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)によって定義された133の予後遺伝子の内の103に相当する167のプローブセットを表している。パネルBは、クラスターにより定義された患者群のカプラン−マイヤー生存推定を示している。
【0030】
図11は、予後遺伝子シグネチャとザルネストラ(Zarnestra)予測遺伝子シグネチャとの比較を示す図である。パネルAは、ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)の103の遺伝子のサブセットによって定義された良好な予後クラスターおよび不良な予後クラスターのカプラン−マイヤー生存曲線を示している。パネルBは、ザルネストラ(Zarnestra)に対する応答を予測する3遺伝子シグネチャによって定義された良好な予後クラスターと不良な予後クラスターのカプラン−マイヤー生存曲線を示している。パネルCは、3遺伝子ザルネストラ(Zarnestra)シグネチャによってさらに階層分類されたパネルAの良好な予後クラスターと不良な予後クラスターのカプラン−マイヤー生存曲線を示している。パネルDは、残りの患者に対する、予後が不良でザルネストラ(Zarnestra)に応答しないと予測される患者のカプラン−マイヤー生存曲線を示している。
【0031】
図12は、予測マーカーの最小セットの特定を示す図である。a)感度100%、特異性40%、変化倍率が2倍を超える遺伝子を選択するLOOCVを実施した。AUCによって順位が付けられた1〜8の遺伝子を含む個々の分類子を試験した。得られた誤り率をプロットした。b)分類子としてAKAP13を用いて、応答者(R)および非応答者(NR)に対して行ったLOOCVから作成した2×2表を示している。c)AKAP13の遺伝子発現値を示している。P値は、応答群間の遺伝子発現における有意差を示している。d)AKAP13によって応答者および非応答者として分類された患者から作成したカプラン−マイヤー曲線を示している。平均生存期間も示している。
【0032】
図13は、遺伝子発現分析の概要を示す図である。
図14は、ティピファニブ処置の終了後、AMLサンプルは、FTIにより媒介される全遺伝子発現を維持することを示す図である。
図15は、予測発現プロフィールおよび新たに診断されたAMLでの予測分類子の試験を示す図である。
図16は、6遺伝子分類子は、新たに診断されたAMLを階層分類することを示す図である。
【0033】
〔発明の詳細な説明〕
以下、新たに診断されたAMLで予後値を有すると前述されている遺伝子のサブセットが、分子標的療法(ザルネストラ(Zarnestra))で治療される再発性および難治性のAML患者に有用であることを示す。現在、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(ザルネストラ(Zarnestra)など)に対する応答を予測する方法はない。また、AML患者の予後を理解するための現在の方法は組織学的サブタイプおよび核型分析に限られ、どちらも臨床転帰(clinical outcome)を決定するには理想的なマーカーとは言えない。現在のシグネチャは、予後リスクの高い患者と低い患者とに的確に階層分類できるため、これらの従来の技術にまで及んでいる。
【0034】
米国特許出願第10/883,436号では、3遺伝子分類子(AHR、AKAP13、および、MINA53を含む)が、低い誤り率でティピファニブ(ザルネストラ(Zarnestra)(登録商標)、R115777)に対する再発性および難治性AML患者の応答を予測することが実証されている。これは、リーブ・ファイブ・アウトクロス確認(leave-five-out cross validation)を行った際にも認められた。追加の遺伝子が加えられると誤り率が上昇するが、このことから追加の遺伝子が分類子にノイズを導入したと考えられる。3遺伝子分類子の場合、LOOCVにより、感度が86%、特異性が70%、全体の診断精度が74%であることが示された。カプラン−マイヤー分析でも、予測された応答者群と非応答者群との間で生存に有意差が示された。さらに、誤って分類された非応答者と正確に分類された非応答者を比較すると、誤って分類された非応答者の方が全体的に良好な生存が示された。
【0035】
ザルネストラ(Zarnestra)(登録商標)は、生体外(in vitro)および生体内(in vivo)の両方で、様々なヒト腫瘍細胞系統の増殖を阻害することが示されている経口投与可能な非ペプチドミメティック競合的ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)である(エンドら(End et al.) (2001)、コックスら(Cox et al.)(2002))。ティピファニブの第1相臨床試験で、再発性または難治性急性骨髄性白血病患者で32%の応答率が実証された(カープら(Karp et al.)(2001))。骨髄異形成症候群(MDS)(クルズロックら(Kurzrock et al.)(2004))、多発性骨髄腫(MM)(アルシーナら(Alsina et al.)(2003))、および、慢性骨髄性白血病(CML)(コルテスら(Cortes)(2003))の初期の臨床試験でも活性が確認されている。完全な緩解は、骨髄芽細胞が5%未満で、好中球数が1000/μL以上、血小板数が100,000/μL未満、そして髄外疾患(extramedullary disease)が存在しないものと定義された。タンパク質ファルネシル化の阻害によりFTIが機能することは明らかであるが、造血系悪性疾患におけるティピファニブの抗腫瘍作用にどの遺伝子が関与しているのかはまだ分かっていない。マイクロアレイ技術は、数千の遺伝子の定常状態のmRNAレベルの同時測定を可能とするため、FTI作用に相関する遺伝子および遺伝子経路の同定の強力なツールである。従って、再発性および難治性AMLにおけるティピファニブの第2相臨床試験で全遺伝子発現のモニタリングを行い、造血系悪性疾患におけるこのFTIに対する応答を予測する遺伝子を同定した。
【0036】
ゲノム内に、タンパク質またはペプチドを発現する能力を有する核酸配列(「遺伝子(genes)」)が単に存在するだけでは、ある細胞内であるタンパク質またはペプチドが発現するかどうかの決定因子にはならない。ある遺伝子がタンパク質もしくはペプチドを発現するか、または、RNAを転写することができるかどうか、また、そのような発現または転写がいったいどのような程度で起こるかは、様々な複雑な因子によって決定される。しかしながらやはり、遺伝子発現をアッセイすることで、薬剤または他の治療因子の導入などのある刺激に対する細胞応答についての有用な情報が得られる。遺伝子がどの程度活性化または不活性化するかという相対的な示唆は、このような遺伝子発現プロフィールで見出すことができる。ある場合には、分子マーカーに存在はそれ自体で、または遺伝子発現情報の使用を伴えば、治療の有効性についての有用な情報も得られる。本発明の遺伝子発現プロフィールおよび分子マーカーは、AML患者の同定および治療に使用される。
【0037】
造血系悪性疾患を含む癌は典型的には、様々な遺伝子の突然変異から起こる。同じ種類の癌は、同じ種類の癌を持つ別の患者の突然変異とは異なる1以上の突然変異の結果として起こるか、その1以上の突然変異に伴って起こり得る。同じ癌の基礎をなすものでも複数の分子機構が存在する場合が多いということは、ある治療がある患者には効くが、同じ種類の癌を持つ別の患者には必ずしも同じようには効かないことに一致している。さらに、診断の観点から、転座、欠失、または、SNPなどの特定の突然変異の存在は強力な関連性を有し得る。場合によっては、このような分子マーカーはそれ自体、診断、予後、または、治療応答の決定に有用な指標となる。分子の突然変異が特定の治療に対する応答に関連し得る場合には、まさにその通りである。
【0038】
バイオマーカーは、示されたマーカー遺伝子の発現レベルの任意の指標である。この指標は直接的なものでも間接的なものでもよく、生理学的パラメーターを与える遺伝子の過剰発現または過少発現を内部対照(internal control)、正常組織、または、別の癌腫と比較して数値化することができる。バイオマーカーは、限定されるものではないが、核酸(過剰発現および過少発現、また、直接的および間接的なものの双方)を含む。核酸をバイオマーカーとして用いる場合、限定されるものではないが、DNA増幅、RNA、マイクロRNA、異型接合性の消失(LOH)、一塩基多型(SNPs,ブルックス(Brookes)(1999))、マイクロサテライトDNA、DNA低メチル化、または、高メチル化の測定をはじめとする当分野で公知の任意の方法が挙げられる。タンパク質をバイオマーカーとして用いる場合、限定されるものではないが、量、活性、グリコシル化、リン酸化、ADP−リボシル化、ユビキチン化などの修飾の測定、免疫組織化学(imunohistochemistry)(IHC)をはじめとする当分野で公知の任意の方法が挙げられる。他のバイオマーカーとしては、イメージング、細胞数、および、アポトーシスマーカーが挙げられる。
【0039】
本明細書で提供される、標識された遺伝子(indicated genes)は、特定の腫瘍、または、組織種に関連するものである。マーカー遺伝子は多くの癌種に関連していてもよく、その遺伝子の発現が、肺癌細胞に特異的であることが本明細書に記載されているアルゴリズムを用いて同定される、ある腫瘍または組織種と十分関連がある限り、その遺伝子を癌の状態および予後を判定するために、特許請求される本発明に使用することができる。1種類以上の癌に関連する多くの遺伝子は、当業者に知られている。本発明は、好ましいマーカー遺伝子、、さらには、より好ましいマーカー遺伝子の組合せを提供する。これらの組合せは、本明細書に詳細に記載されている。
【0040】
マーカー遺伝子は、このマーカー遺伝子がその配列を含む場合には、配列番号によって示される配列に相当する。遺伝子セグメントまたは断片は、このセグメントまたは断片をその遺伝子の配列であると識別するのに十分な、参照配列またはその相補物の一部を含む場合に、そのような遺伝子の配列に相当する。遺伝子発現産物は、そのRNA、mRNA、または、cDNAがこのような配列を有する組成物(例えば、プローブ)とハイブリダイズする場合か、または、ペプチドもしくはタンパク質の場合であって、このペプチドもしくはタンパク質がこのようなmRNAによってコードされている場合には、そのような配列に相当する。遺伝子発現産物のセグメントまたは断片は、このセグメントまたは断片を遺伝子または遺伝子発現産物の配列であると識別するのに十分な、参照遺伝子発現産物またはその相補物の一部を含む場合に、そのような遺伝子または遺伝子発現産物の配列に相当する。
【0041】
本明細書に記載および請求される本発明の方法、組成物、製品およびキットは1以上のマーカー遺伝子を含む。「マーカー」または「マーカー遺伝子」は、本明細書全体を通して、その過剰発現または過少発現がある腫瘍または組織種に関連しているいずれかの遺伝子に相当する遺伝子および遺伝子発現産物を表すために用いられる。好ましいマーカー遺伝子は、表8にさらに詳細に記載されている。
【0042】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルがAML状態の指標となる、方法を提供する。
【0043】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の病期分類を行う方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルがAML生存の指標となる、方法を提供する。
【0044】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の治療プロトコールを決定する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが、医師が適切な治療法を提供するために推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、治療法に対する応答の十分な指標となる、方法を提供する。
【0045】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップであって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低いマーカー遺伝子の発現レベルが治療に対する応答の指標となる、ステップと、患者が応答者プロフィールを有する場合に患者にアジュバント療法を施すステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者を治療する方法を提供する。
【0046】
本発明は、AML患者から生体サンプルを採取するステップと、表3から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップとにより、急性骨髄性白血病(AML)患者の死亡リスクが高いか低いかを決定する方法であって、所定のカットオフレベルよりも高いまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が奨励される治療法の程度および種類を決定することができるように、死亡リスクの十分な指標となる、方法を提供する。
【0047】
本発明は、サンプルに構成的に発現される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定することをさらに含むか、包含するか、または利用してもよい。好ましくは、本明細書で提供される方法で少なくとも約40%の特異性が得られる。好ましくは、本明細書で提供される方法で少なくとも約80%の感受性が得られる。好ましくは、本明細書で提供される方法で0.05未満のp値が得られる。
【0048】
本明細書で提供される方法は、マイクロアレイまたは遺伝子チップ上での遺伝子発現を測定することにより、実施することができる。このマイクロアレイは、cDNAアレイであってもオリゴヌクレオチドアレイであってもよく、1種類以上の内部対照試薬(internal control reagent)をさらに含んでもよい。
【0049】
本明細書で提供される方法は、サンプルから抽出されたRNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により実施される核酸増幅により遺伝子発現を判定することによって行うことができる。PCRは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)であってもよく、1種類以上の内部対照試薬をさらに含んでもよい。
【0050】
本明細書で提供される方法は、遺伝子によりコードされているタンパク質を測定または検出することにより実施することができる。このタンパク質は、そのタンパク質に特異的な抗体により検出することができる。
【0051】
本明細書で提供される方法は、遺伝子の特徴を測定することにより実施することができる。特徴としては、限定されるものではないが、DNA増幅、メチル化、突然変異、および、対立遺伝子変異(allelic variation)が挙げられる。
【0052】
本発明は、前述の方法のいずれか1つの結果を判定し、結果および結果により作成されたレポートを表示したレポートを作成することにより、急性骨髄性白血病(AML)予後患者レポートを作成する方法を提供する。このレポートは、患者の転帰の評価、および/または、患者集団に対するリスクの見込み、および/または、化学療法に対する可能性もしくは応答を含み得る。
【0053】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料を含む生体サンプルで、急性骨髄性白血病(AML)予後を決定するアッセイを実施するためのキットを提供する。このキットは、マイクロアレイ分析を実施するための試薬、および/または、媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる媒体をさらに含んでもよい。
【0054】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料を含む急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価するための製品を提供する。これらの製品は、マイクロアレイ分析を実施するための試薬、および/または、媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる媒体をさらに含んでもよい。
【0055】
本発明は、前述の方法を実施するためのマイクロアレイ、または、遺伝子チップを提供する。このマイクロアレイは、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、またはそれらの一部を含み得る。好ましくは、このマイクロアレイは、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現(1.5-fold under-expression)という測定値または特性決定を提供する。好ましくは、このマイクロアレイは統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を伴う測定値を提供する。より好ましくは、p値は0.05未満である。このマイクロアレイは、限定されるものではないが、cDNAアレイまたはオリゴヌクレオチドアレイをはじめ当分野で公知のものであってよく、内部対照試薬をさらに含んでもよい。
【0056】
本発明は、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を含む、診断/予後ポートフォリオを提供する。好ましくは、測定または特性決定が、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現である。好ましくは、この測定は統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を提供する。より好ましくは、p値は、0.05未満である。
【0057】
遺伝子発現プロフィールを作成するための好ましい方法は、タンパク質またはペプチドをコードし得る遺伝子により生成されるRNAの量を決定することを含む。これは、逆転写PCR(RT‐PCR)、競合的RT−PCR、リアルタイムRT−PCR、ディファレンシャル・ディスプレイRT−PCR(differential display RT-PCR)、ノーザンブロット解析、および、他の関連する試験により行われる。このような技術は個々のPCR反応を用いて行うことが可能であるが、mRNAから生成された相補的DNA(cDNA)または相補的RNA(cRNA)を増幅させ、これをマイクロアレイで分析するのが最良である。いくつかの異なるアレイ構造および製造方法は当業者に周知であり、米国特許第5,445,934号、同第5,532,128号、同第5,556,752号、同第5,242,974号、同第5,384,261号、同第5,405,783号、同第5,412,087号、同第5,424,186号、同第5,429,807号、同第5,436,327号、同第5,472,672号、同第5,527,681号、同第5,529,756号、同第5,545,531号、同第5,554,501号、同第5,561,071号、同第5,571,639号、同第5,593,839号、同第5,599,695号、同第5,624,711号、同第5,658,734号、および、同第5,700,637号などの米国特許に記載されている。
【0058】
マイクロアレイ法は、同時に数千の遺伝子の定常状態のmRNAレベルを測定できるため、制御を欠いた細胞増殖の開始、停止、または、変調などの作用を確認するための強力なツールとなる。現在、2つのマイクロアレイ法が広く用いられている。1つはcDNAアレイであり、もう1つはオリゴヌクレオチドアレイである。これらのチップの構成には違いがあるが、実質的に全ての下流データ解析、および、アウトプットは同じである。このような分析結果は、典型的には、マイクロアレイの既知の位置にある核酸配列にハイブリダイズするサンプルのcDNA配列の検出に用いる標識プローブから受け取るシグナルの強度の測定値である。典型的には、シグナルの強度は、cDNAの量、従ってサンプルの細胞で発現したmRNAの量に比例する。このような多数の方法が利用可能性であり、かつ、有用である。遺伝子発現を決定するための好ましい方法は、米国特許第6,271,002号、同第6,218,122号、同第6,218,114号、および、同第6,004,755号に見出すことができる。
【0059】
発現レベルの分析は、このようなシグナル強度を比較することで行われる。これは、対照サンプルにおける遺伝子の発現強度に対する試験サンプルの遺伝子の発現強度の比率マトリックスを作成することにより行うのが最良である。例えば、罹患組織の遺伝子発現強度を、同じ種類の良性または正常組織から生じた発現強度と比較することができる。このような発現強度の比率は、試験サンプルと対照サンプルとの間の遺伝子発現の変化倍率を示す。
【0060】
遺伝子発現プロフィールはまた、様々な方式で表示することができる。最も一般的な方法では、列が試験サンプルを示し、行が遺伝子を示すグラフィカルデンドグラム(graphical dendogram)に、統計処理を加えていない蛍光強度(raw fluolecence intensities)、または、比率マトリックスの行を配置する。データは、類似の発現プロフィールを有する遺伝子が互いに近接するように配置する。各遺伝子の発現比率をカラーで示すことができる。例えば、1未満の比率(ダウンレギュレーション)は、スペクトルの青い部分で現れ、一方で、1を超える比率(アップレギュレーションを示す)は、スペクトルの赤い部分のカラーで現れるようにすることができる。このようなデータを表示するには、シリコン・ジェネティクス社(Silicon Genetics, Inc.)からの「GENSPRINT」およびパルテック社(Partek, Inc.)からの「DISCOVERY」およびパルテック社(Partek, Inc.)からの「INFER」を含む、市販のコンピュータソフトウェアプログラムが利用できる。
【0061】
遺伝子発現を測定するためにタンパク質レベルを測定する場合には、十分な特異性および感受性が得られる限り、当技術分野で公知のいずれの方法も適している。例えば、タンパク質レベルは、そのタンパク質に特異的な抗体または抗体フラグメントと結合させ、抗体結合タンパク質の量を測定することにより、測定することができる。検出を容易にするため、抗体を放射性試薬、蛍光試薬、または、他の検出可能な試薬で標識することができる。検出方法としては、限定されるものではないが、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、および、免疫ブロット法が挙げられる。
【0062】
本発明の方法に用いられる変調されるマーカーは、実施例に記載されている。示差的に発現する遺伝子は、様々な肺癌予後を有する患者において、アップレギュレーションされていたりダウンレギュレーションされていたりする。アップレギュレーション(up regulation)およびダウンレギュレーション(down regulation)は、何らかのベースラインに対して遺伝子の発現量に検出可能な差(それを測定するために用いた系のノイズの関与を超える)が見出されるということを意味する、相対的な用語である。このような場合、このベースラインはアルゴリズムに基づいて測定される。そして、罹患細胞で着目する遺伝子は、同じ測定法を用いた場合、ベースラインレベルに対してアップレギュレーションされているかダウンレギュレーションされている。
【0063】
細胞の遺伝子発現の状態に関するアッセイでも、免疫組織化学分析(IHC)などの技術を用いて、診断のために正常/異常組織の分布を測定することができる。当分野で公知の任意の方法を用いることができ、例えば、LBCオンコジーンの場合、LBCタンパク質に対する抗体を、IHCによる試験のために調製した新鮮凍結した(fresh-frozen)、また、ホルマリン固定した、パラフィン包埋組織ブロックの両方とともに用いることができる。各組織ブロックは、50mgの残留「微粉(pulverized)」腫瘍から構成することができる。
【0064】
要するに、凍結切片は、室温で小さなプラスチックカプセル内のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で凍結粉砕腫瘍50ngを再水和し、粒子を遠心分離によりペレットとし、これらを粘稠な包埋剤(OCT)に再懸濁させ、カプセルを反転させて、再び遠心分離によりペレットとし、−70℃のイソペンタン中で急速凍結し、プラスチックカプセルを切断して、凍結した組織柱(cylinder of tissue)を取り出し、低温ミクロトームのチャック(cryostat microtome chuck)上にこの組織柱を固定し、無傷の腫瘍組織を含む25〜50の連続切片にすることによって、調製することができる。
【0065】
永久切片も、サンプル50mgをプラスチック微量遠心管内で再水和させ、ペレットとし、10%ホルマリンに再懸濁させて4時間固定し、洗浄/ペレットとし、2.5%の温かい寒天に再懸濁させ、ペレットとし、氷水中で冷却して寒天を固化させ、組織/寒天ブロックを微量遠心管から取り出し、そのブロックをパラフィン中で浸潤および包埋し、最大50の連続永久切片にすることを含む、同様の方法で、調製することができる。
【0066】
IHCアッセイでは、これらの切片を、PBSまたは他の遮断試薬中3%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有する遮断液で覆う。これらの遮断試薬は、非特異的血清または粉乳を含む。遮断は、室温で1時間進行させる。抗LBCタンパク質抗体を、3%BSA、0.1%TritonX(商標)−100、および、t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(t-octylphenoxypolyethoxyethanol)を含有するPBS緩衝液で、1:100の比率で希釈する。通常、これらのサンプル切片を、4℃にて16時間、抗体溶液で覆う。このような時間および温度条件は、選択した抗体および供試材料によって異なる。最適な条件は、経験的に決定される。次いで、抗体で処理した切片に対してPBS中で各15分間の洗浄を3回行って、結合しなかった抗体を除去し、3%BSAおよび1:2000の希釈の二次抗体を含有するPBSで覆う。この二次抗体は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、アルカリホスファターゼ、フルオレセインイソチオシアネート、または、他の好適な酵素などの発色酵素に結合させることができる。別法として、二次抗体をビオチンに結合させて、これを発色団で標識したアビジンとともに使用してもよい。
【0067】
遺伝子の存在を検出する他の方法例として、インサイツハイブリダイゼーション(in situ hybridization)による方法がある。通常、インサイツハイブリダイゼーションは、次のような主要ステップを含む:(1)分析する組織または生体構造の固定、(2)標的DNAに接近しやすくし、かつ、非特異的結合を軽減するための生体構造のプレハイブリダイゼーション処理、(3)核酸混合物と生体構造または組織中の核酸とのハイブリダイゼーション、(4)ハイブリダイゼーションで結合しなかった核酸断片を除去するためのハイブリダイゼーション後の洗浄、(5)ハイブリダイズした核酸断片の検出。これらの各ステップで用いる試薬、および、用いる条件は、特定の適用に応じて異なる。
【0068】
この場合、遺伝子に(その染色体座で)ハイブリダイズ可能な少なくとも1種類の検出可能な核酸プローブを含むハイブリダイゼーション溶液を、ハイブリダイゼーション条件下で細胞に接触させる。次いで、任意のハイブリダイゼーションを検出し、正常細胞または対照細胞の所定のハイブリダイゼーションパターンと比較する。プローブは、α動原体プローブ(alpha-centromeric probes)であるのが好ましい。このようなプローブは、いくつかの供給源(例えば、イリノイ州、ダウナーズ・グローブ所在のバイシス社(Visys Inc.、Downers Grove, IL))から市販されている。好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーション溶液は、キメラを構成する配列の転座に相当する染色体上のある領域(例えば、15q24−25)に特異的な複数のプローブを含む。
【0069】
本発明の方法に適したハイブリダイゼーションプロトコールは、例えば、あるバートン(Albertson)(1984);ピンケル(Pinkel)(1988);欧州特許第430,402号;および、チュー編「インサイツ・ハイブリダイゼーション・プロトコールズ」、メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、第33巻、ヒューマナ・プレス、トトワ、ニュージャージー州、1994年(Methods in Molecular Biology, Vol. 33: In Situ Hybridization Protocols, Choo, ed., Humana Press, Totowa, NJ (1994))などに記載されている。特に好ましい一実施形態では、ピンケルら(Pinkel et al.)(1988)またはカリオニエミ(Kallioniemi)(1992)のハイブリダイゼーションプロトコールが用いられる。ハイブリダイゼーション条件を最適化する方法は周知である(例えば、チジェッセン著、「ハイブリダイゼーション・ウィズ・ヌクレイック・アシッド・プローブズ」、ラボラトリー・テクニックス・イン・バイオケミストリー・アンド・モレキュラー・バイオロジー、第24巻、エルゼビア、ニューヨーク、1993年(Tijssen(1993) Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Vol. 24: Hybridization With Nucleic Acid Probes, Elsevier, NY)を参照されたい)。
【0070】
好適な実施形態では、バックグラウンドシグナルが、ハイブリダイゼーション中に界面活性剤(例えば、C−TAB)または遮断試薬(例えば、精子DNA、cot−1 DNAなど)を使用して特異的結合を減少させることで軽減される。ハイブリダイゼーションは、約0.1〜約0.5mg/mLのDNA(例えば、cot−1 DNA)の存在下で実施するのが好ましい。
【0071】
プローブは、合成または生物宿主での増殖を含む、当分野で公知のいずれの方法で調製してもよい。合成方法としては、限定されるものではないが、オリゴヌクレオチド合成、リボプローブ、および、PCRが挙げられる。
【0072】
プローブは、当分野で公知のいずれかの方法により、検出可能なマーカーで標識することができる。プローブを標識する方法としては、ランダムプライミング、エンドラベリング、PCR、および、ニックトランスレーションが挙げられる。酵素標識は、核酸ポリメラーゼ、3種類の非標識ヌクレオチド、および、第4のヌクレオチドの存在下で行い、この第4のヌクレオチドは直接標識がされるか、標識を付着させるためのリンカーアームを含むか、あるいは、標識された結合分子が結合できるハプテンまたは他の分子に結合されている。好適な直接標識としては、32P、3H、および、35Sなどの放射線標識、ならびに、フルオレセイン、テキサスレッド、AMCAブルー、ルシファーイエロー、および、ローダミンなどの蛍光マーカー;可視光で検出可能なシアニン色素、酵素などの非放射線標識が挙げられる。標識はまた、重亜硫酸塩媒介アミド基転移によってDNAプローブ内に化学的に組み込むか、あるいは、オリゴヌクレオチドの合成中に直接組み込むことができる。
【0073】
蛍光マーカーは、プローブ内に組み込まれた活性型のリンカーアームでヌクレオチドに容易に結合させることができる。プローブは、前述の開示されている方法により、ハプテン、または、ビオチンもしくはジゴキシゲニンなどの他の分子に対する標識抗体と、あるいはビオチンの場合には検出可能な標識とコンジュゲートしたアビジンと、サンドイッチハイブリダイゼーションを行うことにより、間接的に標識することができる。抗体およびアビジンは、蛍光マーカー、または、アルカリホスファターゼもしくはセイヨウワサビペルオキシダーゼなどの酵素マーカーとコンジュゲートさせて検出可能とすることもできる。コンジュゲートしたアビジンおよび抗体は、カリフォルニア州バーリンゲーム所在のベクター・ラボラトリーズ社(Vector Laboratories(Burlingame, CA))、および、インディアナ州インディアナポリス所在のベーリンガー・マンハイム社(Boehringer Mannheim(Indianapolis, IN))などの会社から市販されている。
【0074】
酵素は、酵素の基質を提供することにより、比色反応で検出することができる。様々な基質が存在する場合、反応により種々の色が生じ、これらの色を可視化して複数のプローブを別々に検出することができる。当分野で公知の任意の基質が使用可能である。アルカリ性ホスファターゼの好ましい基質としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、および、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)が挙げられる。セイヨウワサビペルオキシダーゼの好ましい基質はジアミノ安息香酸(diaminobenzoate)(DAB)である。
【0075】
本発明のインサイツハイブリダイゼーション法に使用するのに好適な蛍光標識プローブは、150〜500ヌクレオチド長の範囲であるのが好ましい。プローブは、DNAであってもRNAであってもよいが、DNAが好ましい。
【0076】
検出可能なプローブと細胞のハイブリダイゼーションは、0.1〜500ng/μL、好ましくは5〜250ng/μLのプローブ濃度で実施する。ハイブリダイゼーション混合物は、ホルムアミドなどの変性剤を含むのが好ましい。一般に、ハイブリダイゼーションは、25℃〜45℃、より好ましくは32℃〜40℃、最も好ましくは37℃〜38℃で実施する。ハイブリダイゼーションに必要な時間は、約0.25〜96時間、より好ましくは1〜72時間、最も好ましくは4〜24時間である。ハイブリダイゼーション時間は、プローブ濃度、ならびに、hnRNP結合タンパク質、トリアルキルアンモニウム塩、および、ラクタムなどの促進剤を含み得るハイブリダイゼーション溶液内容物に基づいて異なる。次いで、スライドガラスを、ホルムアミドなどの変性剤を含有し、塩化ナトリウム濃度を引き下げる溶液か、または、結合していないプローブおよび誤対合プローブ(mismatched probes)を除去する任意の溶液で洗浄する。
【0077】
温度および塩濃度は、所望のハイブリダイゼーションのストリンジェンシー(stringency)に応じて異なる。例えば、高ストリンジェンシー洗浄は、42℃〜68℃で実施し、中ストリンジェンシーの洗浄は、37℃〜55℃の範囲で実施することができ、低ストリンジェンシー洗浄は、30℃〜37℃の範囲で実施することができる。高ストリンジェンシー洗浄の塩濃度は、0.5〜1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)、中ストリンジェンシー洗浄の塩濃度は、1〜4×SSC、低ストリンジェンシー洗浄の塩濃度は、2〜6×SSCとすることができる。
【0078】
必要であれば、検出インキュベーションステップは、23℃〜42℃、より好ましくは25℃〜38℃、最も好ましくは37℃〜38℃の湿室で行うのが好ましい。標識した試薬は、BSAなどの遮断試薬または脱脂粉乳などを含有する溶液で希釈するのが好ましい。希釈率は、1:10〜1:10,000、より好ましくは1:50〜1:5,000、最も好ましくは1:100〜1:1,000の範囲であり得る。スライドガラスまたは他の固相支持体は、各インキュベーションステップの間に洗浄して過剰な試薬を除去しなければならない。
【0079】
次いで、可視検出マーカーの場合は、スライドガラスを固定し(mounted)、顕微鏡で分析し、あるいは、放射性マーカーの場合は、スライドガラスをオートラジオグラフフィルムに露光して分析する。蛍光マーカーの場合は、スライドガラスを、退色防止試薬を含む溶液中で固定し(mounted)、蛍光顕微鏡で分析するのが好ましい。検出精度を上げるためには、複数の核を検査すればよい。
【0080】
加えて、LBCオンコジーンの発現産物のアッセイを用いて、LBCオンコジーンの突然変異が起こったかどうかを決定することができる。このようなアッセイは、最も好ましくはイムノアッセイである。最も単純で直接的な意味合いのイムノアッセイは、結合アッセイである。特定の好ましいイムノアッセイは、当分野で公知の様々なタイプの酵素結合免疫吸着法(ELISA)、および、ラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を用いるIHC検出も、インサイツハイブリダイゼーション、および、酵素イムノアッセイに特に有用である。
【0081】
一例示としてのELISAでは、タンパク質特異的抗体を、ポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルなどのタンパク質親和性を示す選択された表面に固定する。次いで、臨床サンプルなどの所望の抗原を含有する試験組成物を、ウェルに添加する。結合させ、かつ、洗浄して、非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原を検出することができる。検出は通常、検出可能な標識に結合された、所望の抗原に特異的な別の抗体を添加することにより行う。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA("sandwich ELISA")」である。検出はまた、所望の抗原に特異的な第2の抗体を添加し、次いで、第2の抗体に対して結合親和性を有する、検出可能な標識に結合された第3の抗体を添加することにより行うことができる。
【0082】
ELISA法のバリエーションは周知である。このようなバリエーションの1つでは、所望の抗原を含有するサンプルをウェルの表面に固定した後、本発明の抗体に接触させる。結合させ、適宜洗浄した後、結合した免疫複合体を検出する。初めの抗原特異的抗体を検出可能な標識に結合させた場合には、免疫複合体を直接検出することができる。ここでも、免疫複合体は、第1の抗原に特異的な抗体に結合親和性を有する、検出可能な標識に結合された第2の抗体を用いて検出することができる。
【0083】
AMLの予後または状態を決定するために遺伝子発現を検出する本発明の実施形態では、遺伝子発現のポートフォリオを使用するのが最も好ましい。遺伝子のポートフォリオは、グループ分けされた遺伝子のセットであって、これらについて得た発現情報が、診断、予後、または、治療の選択などの臨床的に適切な判断を下す基礎となる。このような場合、遺伝子発現ポートフォリオは、AML患者に関する治療の判断に役立つように作成することができる。
【0084】
本明細書において、罹患(diseased)とは、制御を欠いた細胞増殖を伴って起こるような、身体機能の適切な性能を妨害もしくは障害するか、または、障害する可能性を有する身体状態の変異を指す。ある人の遺伝子型または表現型のいくつかの様相が疾病の存在と一致する場合、その人は疾病を有すると診断される。しかしながら、診断または予後を行うという行為は、再発の見込みの決定、治療法の種類の決定、および、治療のモニタリングなどの疾病/病状の問題の決定を含み得る。治療のモニタリングでは、経時的に遺伝子の発現を比較して、その遺伝子発現プロフィールが変化したかどうか、または、正常な組織とより一致するパターンに変化しているかどうかを決定することにより、所与の治療経過の効果に関して臨床的判断を下す。
【0085】
遺伝子は、そのグループの遺伝子セットについて得られる情報が、診断、予後、または、治療選択などの臨床的に関連のある判断を下すための信頼できる基礎を提供するように、グループ分けすることができる。これらの遺伝子セットは、本発明のポートフォリオを構成する。ほとんどの診断マーカーの場合と同様に、正確な医学的判断を下すに十分な最少のマーカーを用いるのが望ましい場合が多い。これにより、さらなる分析を保留する処置の遅れ、その上、時間および資源の非生産的使用を防げる。
【0086】
遺伝子発現ポートフォリオを確立する1つの方法は、株式ポートフォリオの確立に広く使用されている平均分散アルゴリズム(mean variance algorithm)などの最適化アルゴリズムの使用によるものである。この方法は米国特許公開第20030194734号に詳細に記載されている。本質的に、この方法は、リターン(例えば、生成されるシグナル)を最適化するインプットセット(財務への応用(financial application)における株式、すなわち、本明細書では強度により測定される発現)の確立を要求し、あるものはリターンの変動性を最小化しつつ、使用のためのリターンを受け取る。このような操作を行うために、多くの市販のソフトウェアプログラムが利用できる。「ワグナー・アソシエイツ平均分散最適化アプリケーション(Wagner Associates Mean- Variance Optimization Application)」(本明細書では「ワグナー・ソフトウェア(Wagner Software)」と呼ばれる)が好ましい。このソフトウェアは、有効フロンティア(efficient frontier)を決定するために「ワグナー・アソシエイツ平均分散最適化ライブラリ(Wagner Associates Mean- Variance Optimization Library)」の機能を用い、マーコウィッツ(Markowitz)的意味における最適なポートフォリオが1つの選択肢となる。この種のソフトウェアの使用には、マイクロアレイデータが、そのソフトウェアが意図される財務分析の目的で用いられる場合に、株式収益(stock return)、および、リスク評価が用いられる方式で、インプットとして処理可能なように変換されることが必要である。
【0087】
ポートフォリオを選択するプロセスはまた、ヒューリスティック・ルール(heuristic rules)の適用を含み得る。好ましくは、このようなルールは、生物学、、および、臨床結果を得るために用いる技術についての理解に基づいて構成される。より好ましくは、このようなルールは最適化法からのアウトプットに適用される。例えば、このポートフォリオ選択の平均分散法は、癌患者に示差的に発現するいくつかの遺伝子のマイクロアレイデータに適用することができる。この方法からのアウトプットは、罹患組織だけでなく末梢血でも発現されるいくつかの遺伝子を含み得る、最適化された遺伝子セットである。この試験方法で用いるサンプルが末梢血から得られ、かつ、癌の場合に示差的に発現する特定の遺伝子が末梢血でもまた示差的に発現し得る場合、末梢血で示差的に発現するものを除外する有効フロンティアからポートフォリオが選択される、ヒューリスティック・ルールを適用することができる。もちろん、このルールは有効フロンティアの形成前に適用することができ、例えば、データの予備選択の際にこのルールを適用する。
【0088】
対象とする生物学に必ずしも関連のない他のヒューリスティック・ルールを適用することもできる。例えば、指定された%のポートフォリオだけが特定の遺伝子または遺伝子群により表され得るルールを適用することができる。ワグナー・ソフトウェアなどの市販のソフトウェアは、これらのタイプのヒューリスティックに容易に適応する。これは、例えば、精度および正確性以外の因子(例えば、予想されるライセンス料)が1以上の遺伝子を含むという望ましさに影響を及ぼす場合に有用であり得る。
【0089】
本発明の遺伝子発現プロフィールはまた、癌の診断、予後、または、治療のモニタリングに有用な他の非遺伝的診断法と併用することもできる。例えば、場合によっては、遺伝子発現に基づく前述の方法の診断力と、血清タンパク質マーカー(例えば、癌抗原27.29(「CA 27.29」))などの従来のマーカーからのデータとを組み合わせるのが有益である。CA 27.29などの分析対象(analyte)を含む、所与の範囲のこのようなマーカーが存在する。このような方法では、治療患者から定期的に採血し、その後、前述の血清マーカーの1つに関して酵素イムノアッセイを行う。マーカーの濃度が腫瘍の応答(return)または治療の失敗を示唆する場合には、遺伝子発現分析に従うサンプル源が採取される。疑わしい組織塊が存在する場合には、微細針吸引(FNA)を行い、次に、その組織塊から採取した細胞の遺伝子発現プロフィールを前述のように分析する。あるいは、組織サンプルは、事前に腫瘍が摘出された組織近傍の領域から採取してもよい。このアプローチは、他の試験の結果が不明瞭な場合に特に有用であり得る。
【0090】
本発明に従って作成されたキットは、遺伝子発現プロフィールを決定するために形式化されたアッセイを含む。これらは、試薬および使用説明書、ならびに、バイオマーカーがアッセイされる媒体など、アッセイの実施に必要な材料の全てまたは一部を含み得る。
【0091】
遺伝子発現プロフィール(関連の生体経路の解明に到達するために用いられるものを含む)を作成するための好ましい方法は、タンパク質またはペプチドまたは転写RNAをコードし得る遺伝子により生成されるRNAの量を決定することを含む。これは、逆転写PCR(RT‐PCR)、競合的RT−PCR、リアルタイムRT−PCR、ディファレンシャル・ディスプレイRT−PCR、ノーザンブロット解析、および他の関連試験により最良に行われる。このような技術は、個々のPCR反応を用いて行うことが可能であるが、mRNAから生成されたコピーDNA(cDNA)またはコピーRNA(cRNA)を増幅させ、これをマイクロアレイで分析するのが望ましい場合が多い。いくつかの異なるアレイ構造およびそれらの製造方法は当業者に周知であり、米国特許第5,445,934号、同第5,532,128号、同第5,556,752号、同第5,242,974号、同第5,384,261号、同第5,405,783号、同第5,412,087号、同第5,424,186号、同第5,429,807号、同第5,436,327号、同第5,472,672号、同第5,527,681号、同第5,529,756号、同第5,545,531号、同第5,554,501号、同第5,561,071号、同第5,571,639号、同第5,593,839号、同第5,599,695号、同第5,624,711号、同第5,658,734号、および、同第5,700,637号などの米国特許に記載されている。
【0092】
マイクロアレイ法は、同時に数千の遺伝子の定常状態のmRNAレベルを測定できるため、AML患者の遺伝子発現プロフィールを確認するための強力なツールとなる。現在、2つのマイクロアレイ法が広く用いられている。1つはcDNAアレイであり、もう1つはオリゴヌクレオチドアレイである。これらのチップの構成には違いがあるが、実質的に全ての下流データ解析、および、アウトプットは同じである。このような分析結果は典型的には、マイクロアレイの既知の位置にある核酸配列にハイブリダイズするサンプルからのcDNA配列の検出に用いる標識プローブから受け取るシグナルの強度の測定値である。典型的には、シグナル強度は、cDNA量、従って、サンプルの細胞で発現したmRNA量に比例する。このような多数の方法が利用可能性であり、かつ、有用である。好ましい方法は、米国特許第6,271,002号、同第6,218,122号、同第6,218,114号、および、同第6,004,755号に見出すことができる。
【0093】
発現レベルの分析は、このようなシグナル強度を比較することで行われる。これは、対照サンプルでの遺伝子の発現強度に対する試験サンプルの遺伝子の発現強度の比率マトリックスを作成することにより最良に行われる。例えば、薬剤で処理した組織の遺伝子発現強度を、薬剤で処理していない同じ組織から生じた発現強度と比較することができる。このような発現強度の比率は、試験サンプルと対照サンプルとの間の遺伝子発現の変化倍率を示す。
【0094】
遺伝子発現プロフィールは、様々な方式で表示することができる。一般的な方法では、列が試験サンプルを示し、行が遺伝子を示すグラフィカルデンドグラム(graphical dendogram)に、比率マトリックスを配置する。データは、類似の発現プロフィールを有する遺伝子が互いに近接するように配置する。各遺伝子の発現比率をカラーで示すことができる。例えば、1未満の比率(ダウンレギュレーション)は、スペクトルの青い部分で現れ、一方で、1を超える比率(アップレギュレーションを示す)は、スペクトルの赤い部分のカラーで現れるようにすることができる。このようなデータを表示するには、シリコン・ジェネティクス社(Silicon Genetics, Inc.)からの「GENSPRINT」およびパルテック社(Partek, Inc.)からの「DISCOVERY」およびパルテック社(Partek, Inc.)らの「INFER」を含む、市販のコンピュータソフトウェアプログラムが利用できる。
【0095】
示差的に発現する遺伝子は、前述のような遺伝子発現の評価により推定した場合、罹患細胞では、アップレギュレーションされていたりダウンレギュレーションされていたりする。アップレギュレーションおよびダウンレギュレーションは、何らかのベースラインに対して遺伝子の発現量に検出可能な差(それを測定するために用いた系のノイズの関与を超える)が見出されるということを意味する、相対的な用語である。このような場合、このベースラインは、正常細胞で測定された遺伝子発現である。そして、罹患細胞で着目する遺伝子は、同じ測定法を用いた場合、ベースラインレベルに対してアップレギュレーションされているかダウンレギュレーションされている。アップレギュレーションおよびダウンレギュレーションのレベルは、ハイブリダイズしたマイクロアレイプローブの強度測定値の変化倍率に基づいて区別されるのが好ましい。このような区別を行うには1.5倍の差が好ましい。すなわち、処理細胞が、未処理細胞よりも少なくとも1.5倍を超える強度、または、1.5分の1未満の強度を生じることが確認されてはじめて、ある遺伝子が、未処理の罹患細胞よりも処理した罹患細胞で示差的に発現すると言える。遺伝子発現の測定値における差は、より好ましくは1.7倍であり、最も好ましくは2.0倍以上である。
【0096】
本発明のある方法では、様々な遺伝子の遺伝子発現プロフィールを比較して、患者が治療薬の使用に応答する可能性があるかどうかを決定することを含む。応答者と非応答者とを区別する遺伝子発現プロフィールを確立したら、この各遺伝子発現プロフィールを後述するコンピューター可読媒体などの媒体に保存する。次いで、罹患細胞(AMLの場合は造血芽細胞(hematopoietic blast cell)など)を含む患者サンプルを採取する。最も好ましくは、サンプルは骨髄であって、常法に従って患者の胸骨または腸骨稜から採取する。好ましくは、常法を用いて骨髄突刺液を処理して白血病芽細胞を富化する。その後、サンプルのRNAを患者の罹患細胞から採取して増幅させ、好ましくはマイクロアレイを用いて(大きな遺伝子ポートフォリオの場合)、好適なポートフォリオの遺伝子に関する遺伝子発現プロフィールを得る。次に、このサンプルの発現プロフィールを、予後転帰に関してすでに分析したものと比較する。3遺伝子プロフィールを用いる場合など、ポートフォリオに少数の遺伝子を用いる場合には、遺伝子調節を測定する最も好ましい方法は、単純な核酸増幅および検出法である。このような場合、PCR、NASBA、ローリングサークル、LCR、および、当業者に公知の他の増幅法を使用することができるが、PCRが最も好ましい。ポートフォリオが多数の遺伝子を含む場合、または、他の多数の遺伝子の発現を測定するのが望ましい場合は、前述したようにマイクロアレイの強度測定に基づいて発現パターンを評価するのが好ましい。
【0097】
同様の要領で、遺伝子発現プロフィール分析を行って治療応答をモニタリングすることができる。この方法の一態様では、治療過程の様々な期間に任意の好適な治療を受けた患者に対して前述したような遺伝子発現分析を行う。遺伝子発現パターンが肯定的な転帰と一致した場合は、その患者の治療を継続する。そうでない場合は、患者の治療法を別の治療法に変更するか、用量を変更するか、または、現行の治療を中止する。このような分析により、検出可能な臨床徴候の前、または、不明瞭な臨床徴候に直面した際に、介入および治療の調整が可能となる。
【0098】
本発明の分子マーカーに関しては、診断用に他のいくつかの形式およびアプローチを利用することができる。ゲノム領域のメチル化は、遺伝子発現レベルに影響を与え得る。例えば、遺伝子のプロモーター領域の高メチル化は、遺伝子発現を構成的にダウンレギュレーションし、一方、低メチル化は、定常状態のmRNAレベルに増大をもたらし得る。従って、薬剤応答、予後、または、状態を予測する遺伝子に関連したメチル化領域の検出を、遺伝子発現レベルを診断する別法として使用することができる。このような方法は、当業者に公知である。あるいは、プロモーター領域に存在する一塩基多型(SNP)も、遺伝子の転写活性に影響を及ぼし得る。従って、当業者に公知の方法によるこのようなSNPの検出を、異なる予後転帰で示差的に発現する遺伝子を検出するための診断として使用することもできる。
【0099】
本発明の製品は、治療、診断、予後、病期分類、および、その他の疾患の評価に有用な遺伝子発現プロフィールの表現である。好ましくは、このような表現は、コンピューター可読媒体(磁気式および光学式など)などの自動的に読み取ることができる媒体に圧縮することができる。本製品は、このような媒体に記録された遺伝子発現プロフィールを評価するための使用説明書も含み得る。例えば、本製品は、前述の遺伝子のポートフォリオの遺伝子発現プロフィールを比較するためのコンピューター命令を有するCD−ROMを含み得る。本製品はまた、患者のサンプルから得た遺伝子発現データと比較できるように内部にデジタル形式で記録された遺伝子発現プロフィールも含み得る。あるいは、このようなプロフィールは、異なった表現形式で記録することができる。前述のパルテック社(Partek, Inc.)の「DISCOVERY」および「INFER」ソフトウェアに組み込まれているもののようなクラスタリングアルゴリズムは、このようなデータの可視化に最も役立つであろう。
【0100】
本発明に従ったさらなる製品は、前述したアッセイを実施するためのキットである。このようなキットはそれぞれ、人間または機械が読み取ることができる形式の使用説明書、ならびに、前述したタイプのアッセイに典型的な試薬を含むのが好ましい。これらのキットは、例えば、本発明の遺伝子発現プロフィールを識別できるように構成された前述のような核酸アレイ(例えば、cDNAアレイ、または、オリゴヌクレオチドアレイ)を含むことができる。このようなキットはまた、核酸の増幅および検出を行うために用いる試薬を含むことができ、例えば、逆転写酵素、逆転写酵素プライマー、対応するPCRプライマーセット、Taqポリメラーゼなどの熱安定性DNAポリメラーゼ、および、限定されるものではないが、スコーピオンプローブ、蛍光プローブアッセイ用プローブ、モレキュラービーコンプローブ、エチジウムブロマイドなどの二本鎖DNAに特異的な単一色素プライマーまたは蛍光色素などの好適な検出試薬が挙げられる。表面抗原を検出するためのキットは、染色物質を含むか、あるいは、バッファー、抗抗原性抗体(anti-antigenic antibody)、検出酵素、および、セイヨウワサビペルオキシダーゼもしくはビオチン−アビジン系試薬などの基質のような成分を含む抗体である。芽細胞を検出するためのキット成分は、通常、フローサイトメトリー、芽細胞接着アッセイ、および、他の一般的な芽細胞アッセイを行うための試薬を含む。
【0101】
従来の抗癌剤としては、限定されるものではないが、チロシンキナーゼ阻害剤、MEKキナーゼ阻害剤、PI3Kキナーゼ阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤、アポトーシス調節剤、および、これらの組合せが含まれる。これらの抗癌剤の中で最も好ましい例示的な薬剤としては、ノバルティス社(Novartis)の「GLEEVEC」チロシンキナーゼ阻害剤、U−0126MAPキナーゼ阻害剤、PD−098059MAPキナーゼ阻害剤、SB−203580MAPキナーゼ阻害剤、アンチセンス、リボザイム、DNAzyme、Bcl−XL、および、抗アポトーシス剤が挙げられる。他の有用な薬剤の例としては、限定されるものではないが、米国特許第6,306,897号のカラノライド(calanolides);米国特許第6,284,764号の置換二重環;米国特許第6,133,305号のインドリン;米国特許第6,271,210号のアンチセンスオリゴヌクレオチド;例えばシスプラチンまたはカルボプラチンなどの白金錯体;例えばパクリタキセルまたはドセタキセルなどのタキサン化合物;例えばイリノテカンまたはトポテカンなどのカンプトセシン化合物;例えばビンブラスチン、ビンクリスチンまたはビノレルビンなどの抗腫瘍ビンカアルカロイド;例えば5−フルオロウラシル、ゲムシタビンまたはカペシタビンなどの抗腫瘍ヌクレオシド誘導体;例えばシクロフォスファミド、クロラムブシル、カルムスチンまたはロムスチンなどのニトロジェンマスタードまたはニトロソウレアアルキル化剤(nitrosourea alkylating agents);例えばダウノルビシン、ドキソルビシンまたはイダルビシンなどの抗腫瘍アントラサイクリン誘導体;例えばトラスツマブ(trastzumab)などのHER2抗体;例えばエトポシドやテニポシドなどの抗腫瘍ポドフィロトキシン誘導体;ならびにエストロゲン受容体拮抗薬または選択的エストロゲン受容体調節剤、好ましくは、タモキシフェン(tamoxifen)、あるいはまたトレミフェン、ドロロキシフェン(droloxifene)、ファスロデックス(faslodex)、および、ラロキシフェン(raloxifene)を含む抗エストロゲン薬、または、エキセメスタン(exemestane)、アナストロゾール(anastrozole)、レトラゾール(letrazole)、および、ボロゾール(vorozole)などのアロマターゼ阻害剤が挙げられる。
【0102】
抗癌剤には、遺伝子療法、アンチセンス療法、または、RNA干渉向けの治療薬も含まれ得る。このような治療薬としては、限定されるものではないが、細胞内に導入してmRNAの転写を阻害し、そのmRNAをコードする遺伝子の機能を遮断することができる、mRNA配列に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドも含まれる。オリゴヌクレオチドを使用した遺伝子発現の遮断は、例えば、ストラチャン、リード著、「ヒトの分子遺伝子学」、1996年(Strachan and Read, Human Molecular Genetics, 1996)に記載されている。このようなアンチセンス分子は、DNA、ホスホロチオエートまたはメチルホスホン酸などのDNAの安定誘導体、RNA、2'−O−アルキルRNAなどのRNAの安定誘導体、または、他のアンチセンスオリゴヌクレオチドミメティクスであり得る。アンチセンス分子は、マイクロインジェクション、リポソーム封入(liposome encapsulation)、または、アンチセンス配列を収容するベクターからの発現によって細胞内に導入することができる。
【0103】
遺伝子療法では、目的の遺伝子を、レシピエント宿主細胞の感染によって治療用DNAの導入を媒介するウイルスベクターに連結することができる。好適なウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、および、ポリオウイルスなどが挙げられる。あるいは、治療用DNAを、リガンド−DNAコンジュゲートまたはアデノウイルス−リガンド−DNAコンジュゲートを用いた受容体媒介標的化DNA導入(receptor-mediated targeted DNA transfer)、リポフェクション膜融合(lipofection membrane fusion)、または、直接的マイクロインジェクションを含む、非ウイルス法により、遺伝子療法用の細胞に導入することができる。このような方法およびそのバリエーションは、生体外(ex vivo)ならびに生体内(in vivo)遺伝子療法に適している。遺伝子との併用に適した遺伝子療法の分子方法論のプロトコールが、ポール・D・ロビンス編、「遺伝子療法プロトコール」、ヒューマナ・プレス、トトワ、ニュージャージー州、1996年(Gene Therapy Protocols, edited by Paul D. Robbins, Human Press, Totowa NJ, 1996)に記載されている。
【0104】
本明細書に開示された方法に従って同定された化合物は、潜在的な毒性を最小にするとともに最適な阻害または活性を得るために、通常の試験で決定された適当な用量で単独使用することができる。さらに、他の薬剤との同時投与または逐次投与が望ましい場合もある。
【0105】
以下、本発明を非限定的な実施例によりさらに説明する。本明細書に引用されている参照文献は全て、参照することにより本明細書の一部とする。
【0106】
〔実施例〕
実施例1
臨床評価および応答の定義
本試験は、再発性または難治性AML患者を各28日サイクルの最初の21日間の開始経口用量600mg(1日2回)のティピファニブで処置する、非盲検多施設非比較第2相臨床試験(open label, multicenter, non-comparative phase 2 clinical study)(ハローソーら(Harousseau et al.)(2003))の一部である。患者は、再発性AML患者群と難治性AML患者群の2群に分けた。合計252人の患者(再発性135人、難治性117人)を処置した。80人の患者を選択して、個々にインフォームド・コンセントが必要な骨髄サンプルをRNAマイクロアレイ分析のために採取した。本試験では全体的な応答率が比較的低かった。
【0107】
従って、遺伝子発現プロファイリングのために、ティピファニブに対する応答を、中央判定(central review)によるか、または臨床状態によるかのいずれかで定義される、客観的応答(完全緩解(CR)、血小板の回復が不完全な完全緩解(CRp)、または、部分的緩解(PR))のある患者、血液学的応答(骨髄の白血病芽細胞の50%を超える減少)のある患者、または、中央判定および臨床状態の両方によって定義される安定疾患(血液学的応答はないが疾患が進行していない)の患者に分けた。血小板の回復が不完全な完全緩解は、輸血を必要としないことを確実にするために100,000/μL未満の血小板数で十分であることを除いて、同様に定義した。部分的緩解は、骨髄芽細胞が少なくとも50%減少し、好中球(>500/μL)および血小板数(>50,000/μL)が部分的に回復した状態と定義した。応答は、初めの記録から少なくとも4週間後に確認しなければならなかった。
【0108】
サンプルの採取およびマイクロアレイ処理
骨髄サンプルを、ティピファニブ処置の前に患者から採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、フィコール‐ジアトリゾエート(Ficoll-diatrizoate)(1.077g/mL)を用いて遠心分離した。白血球をPBSで2回洗浄し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むウシ胎児血清(FBS)に再懸濁し、すぐに−80℃で保存した。細胞を解凍し、RNeasyキット(カリフォルニア州バレンシア所在、キアゲン社(Qiagen, Valencia, CA))を用い、細胞サンプルから全RNAを抽出した。RNAの質を、アジレント・バイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)を用いて確認した。アフィメトリクス社の(Affymetrix)(カリフォルニア州サンタクララ所在(Santa Clara, CA))プロトコールに従ってcDNAおよびcRNAの合成を行った。
【0109】
マイクロアレイ処理
1回の増幅では複数のサンプルのRNA収量がチップハイブリダイゼーションに用いる十分な標識cRNAを得るのに不十分であるため、2回の線形増幅を行った。ハイブリダイゼーションのために、11μgのcRNAを、40mM Tris酢酸、pH8.1、100mM酢酸カリウム、および、30mM酢酸マグネシウム中で35分間、94℃でインキュベートすることによりランダムに断片化した。断片化したcRNAを、60rpmに設定したローティッセリー・オーブン(rotisserie oven)で16時間、45℃でU133Aアレイにハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを洗浄し(TritonX−100(0.005%)を含む6xSSPEおよび0.5xSSPE)、ストレプトアビジン−フィコエリトリン(SAPE:オレゴン州ユージーン所在、モレキュラー・プローブ社(Molecular Probes, Eugene, OR))で染色した。アジレント(Agilent) G2500A GeneArrayスキャナー(カリフォルニア州パロアルト所在、アジレント・テクノロジー社(Agilent Technologies, Palo Alto, CA))を用いて結合した標識プローブの定量を行った。
【0110】
各アレイの合計蛍光強度を一定値600に対して尺度化した。チップの性能を、シグナル/ノイズ比(平均シグナルの生値/ノイズ)を算出することにより定量化した。シグナル/ノイズ比が5未満の場合、それらのチップはさらなる解析から除外した。チップの少なくとも10%に「存在している」と言える遺伝子だけをさらなる解析に含めた。このカットオフの後に11,723のアフィメトリクス(Affymetrix)プローブセットが残った。遺伝子発現データの質は、主成分分析に基づいたアウトライアーの特定、および、遺伝子強度の正規分布の解析(パルテック・プロ(Partek Pro)V5.1)により、さらに制御した。
【0111】
統計分析
高い感度の応答を予測する遺伝子を同定するために、パーセンタイル解析を利用した。非応答者の少なくとも40%に比べて応答者の100%でアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされていた遺伝子が同定された。カイ二乗検定およびスチューデントのt検定を用いて、ras突然変異の状態および遺伝子発現を含む患者の応答と患者の共変量との相関の有意性を調べた。アンスーパーバイズドk平均法および階層クラスタリングをOmnivizで行った。次いで、選択された遺伝子の予測値を、リーブ・ワン・アウト(leave-one-out)およびリーブ・ファイブ・アウトクロス確認法(leave-five-out cross validation)により解析した。ここで、データセットから1つ(または5つ)のサンプルを取り出し、マーカーを11,723の遺伝子から再選択した。その後、この遺伝子の予測値を、線形判別分析を用いて残りのサンプルに対して調べた。感度は、この試験により検出された真陽性の数を真陽性と偽陰性の合計数で除して算出した。特異性は、この試験により検出された真陰性の数を真陰性と偽陽性との合計数で除して算出した。陽性予測値は、真陽性の数を真陽性と偽陽性との合計数で除して算出した。陰性予測値は、真陰性の数を真陰性と偽陰性の合計数で除して算出した。治療に応答する患者の陽性尤度比は、感度を(1−特異性)で除したものである。受信者動作者曲線(receiver operator curve)(ROC)を用いて、100%の感度を必要とする各分類子について適切な閾値を選択した。このROC診断により、各パラメーターの感度および特異性が算出される。
【0112】
リアルタイムPT−PCRバリデーション
TaqMan(登録商標)リアルタイムRT−PCRを用いてAHR遺伝子およびAKAP13遺伝子のマイクロアレイの結果を検証した。各1μgのサンプルの増幅RNAから、製造者使用説明書(インビトロゲン社(Invitrogen))に従って、T7オリゴ(dT)プライマーおよびSuperscript II逆転写酵素を用いて、cDNAを作製した。AKAP13遺伝子および対照遺伝子PBGDのプライマーおよびMGBプローブを、プライマー・エクスプレス(Primer Express)(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))を用いて設計し、一方、AHR遺伝子および対照遺伝子HPRTのプライマーおよびプローブは、ABIからアッセイズ‐オン‐デマンド(Assays‐on−Demand)として市販されている。AKAP13のプライマー/プローブの配列は、AKAP13フォワード:5'ggtcagatgtttgccaaggaa3'(配列番号1)、AKAP13リバース:5'tcttcagaaacacactcccatc−3'(配列番号2)、AKAP13プローブ:6FAM−tgaaacggaagaagcttgtA−3'(配列番号3)であった。
【0113】
全てのプライマーおよびプローブは、90%を超える最適な増幅効率であるかどうか調べた。相対標準曲線は、HeLa cDNA(大抵の場合は、25ng〜2.5pgの範囲)の5つの希釈液(各10倍)から構成されている。RT−PCR増幅混合物(25μL)は、100ngの鋳型cDNA、2xTaqMan(登録商標)ユニバーサルPCRマスターミックス(12.5μL:アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))、500nMフォワードプライマーおよびリバースプライマー、ならびに、250nMプローブを含有していた。ABI PRISM 7900HT シークエンス・ディテクター(Sequence Detector)(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems))上で反応させた。サイクル条件は、50℃で2分間のAmpErase UNGの活性化、95℃で10分間のポリメラーゼの活性化、および、95℃で15秒間とアニーリング温度(59℃または60℃)で60秒間のサイクルを50回であった。各アッセイでは、目的の遺伝子および対照遺伝子に対して標準曲線および非鋳型対照が鋳型cDNAとともに3反復で含まれていた。各遺伝子の相対量を標準曲線に基づいて算出し、対照遺伝子の量で正規化した。3反復のサンプルの平均変動率(算出した量に基づく)は8%であった。ストックから個々に希釈した鋳型を用いた反復実験間の相関は0.95を超えていた。2回のTaqMan(登録商標)実験が再現性のある結果を示した場合は、サンプルをマイクロアレイデータと比較するだけにした。
【0114】
細胞系の培養およびAKAP13の過剰発現アッセイ
AKAP13ベクター、オンコLBC、プロトLBC、および、ベクター対照(pSRalpha−neo)を、デニス・トクソス博士(Dr. Deniz Toksoz)から入手した(チェンら(Zheng et al.)(1995))。HL60細胞系をAmerican Tissue Culture Collectionから入手し、10%FBSを含むRPMI 1640中で増殖させた。細胞は、製造者の使用説明書に従い、Effectene試薬(キアゲン社(Qiagen))を用い、各ベクターで一時的にトランスフェクトし、G418(600μg/mL)で7日間維持した。次いで、ティピファニブを様々な濃度(0、1.5、3.1、6.3、13、25、50、100、200、1000、および、10,000nM)2反復培養物(1.5×105細胞/mL)に添加した。細胞数を6日目に計数した。細胞数を、薬剤を含まない培養物に対して正規化し、対照生細胞のパーセントを得た。
【0115】
結果
再発性および難治性AMLの発現プロファイリング
FTIsはもともと、FTase活性を特異的に阻害し、それにより、オンコジーンras経路を遮断するように設計されている。従って、ras突然変異の活性化について、再発性または難治性AML患者80人の骨髄からのDNAをまず分析し、ras突然変異とティピファニブ応答との間の可能性のある相関を調べた。AMLサンプルの26%がN−ras突然変異を含み、突然変異状態は客観的応答または全生存率とは相関していなかった(ハローソーら(Harousseau et al.(2003)))。従って、FTIティピファニブに対する応答の予測に用いることができる新規のシグネチャを特定するために遺伝子発現プロファイリングを行った。ティピファニブ処置の前に80人の患者から遺伝子発現分析のために骨髄サンプルを採取した。表1に、患者の情報が示されている。
【0116】
【表1】

【0117】
80サンプルの内の58サンプルが、RNAの質およびチップの性能を含む品質管理基準をパスした。年齢、性別、AMLの種類(再発性または難治性)、細胞遺伝学的リスク因子、基準芽細胞数、応答、および、これらの58人の患者と臨床試験集団の残りの患者(表2ではN=194)との間の全生存率には有意差がなかった。
【0118】
【表2】

【0119】
高い感度で応答者と非応答者とを区別できる遺伝子を同定するために、遺伝子発現データを臨床情報と統合してレトロスペクティブ分析を行った。示差的に発現する遺伝子を同定する前に、これらのデータを複数回フィルタリングした。まず、少なくとも10%のサンプルで発現していない遺伝子を排除した。これにより、遺伝子の数が約22,000から11,723遺伝子に減少した。アンスーパーバイズド分析の場合、データセット全体で発現の変動をほとんど示さない遺伝子(変動率がサンプル全体で45%未満)も排除し、残りの5,728の遺伝子についてクォンタイル・ノーマライゼーション(quantile normalization)を行った。この段階で、アンスーパーバイズドk−平均クラスタリング分析を実施して、全遺伝子発現プロフィールに基づいて患者間の任意の差を確認した。この方法で、患者の6つの主なクラスターを同定した。応答者と非応答者との間には差は見られなかった(図1)。ほんの一部の遺伝子がFTIの抗腫瘍効果に関連していると考えられ、例えば、FTI生物学に関与する1つの遺伝子の示差的な発現が臨床応答に影響を与えるが、他の11,722の遺伝子から導入されるノイズによってこの影響が隠されてしまう可能性がある。
【0120】
実施例2
応答者と非応答者との間で示差的に発現する遺伝子の同定
次に、全ての応答者と少なくとも40%の非応答者との間で示差的に発現する遺伝子を同定するために、遺伝子発現データを用いてスーパーバイズド解析を行った。このような基準は、可能な最高レベルの感度でティピファニブに対する応答を予測できる遺伝子を同定するために選択した。11,723の遺伝子から、応答者と非応答者とを階層分類でき(詳細は表3および表10)、t検定で有意なP値(P<0.05)が得られる、合計19の遺伝子を同定した。これらの遺伝子には、シグナル伝達、アポトーシス、細胞増殖、発癌、および、場合によっては、FTI生物学に関与するものも含まれている(ARHH、AKAP13、IL3RA)。
【0121】
【表3】

【0122】
遺伝子マーカーのリアルタイムRT−PCRバリデーション
マイクロアレイ遺伝子発現データを検証するために、マイクロアレイハイブリダイゼーションに用いる標識標的cRNAの作製に用いたcDNAに対してTaqMan(登録商標)リアルタイムRT−PCRを実施した。遺伝子発現データを検証するために2つの遺伝子を選択した。AHR遺伝子およびAKAP13遺伝子が、応答者に対して最高レベルの特異性が得られたため選択した。相関率は、AHRが0.74、AKAP13が0.94であり、マイクロアレイ遺伝子発現データがPCRによって認証されたことを示す(図2)。
【0123】
耐性マーカーとしてのAKAP13遺伝子の同定
AKAP13が、ティピファニブに対して耐性のある患者で過剰発現した。この遺伝子の予測値を、リーブ・ワン・アウト・クロス確認法(LOOCV、図3A)を用い、58のサンプルについて算出した。AKAP13遺伝子の発現は、陰性予測値(NPV)96%で非応答、陽性予測値(PPV)43%で低発現レベル媒介応答を予測した(χ2=13.7、P=0.0022)。全体的な診断精度は69%であり、応答の陽性尤度比は2.4であった。従って、AKAP13遺伝子発現に基づいたこの患者集団の階層分類により、応答率が全群の24%(14/58)から遺伝子発現率の低い患者群の43%(13/30)に上昇した。各患者におけるAKAP13遺伝子の発現値は図3Bに示されている。生存をカプラン−マイヤー分析で分析すると、この遺伝子の発現が低い患者の平均生存期間は、発現レベルが高い患者よりも90日長かった(P=0.008、図3C)。
【0124】
3つの遺伝子マーカーの最小セットの同定
AKAP13単独よりも優れた精度でティピファニブに対する応答を予測できる遺伝子マーカーの候補セットを同定するためにLOOCVを用いた。分類子を、t検定のP値に基づき遺伝子数を増加させて作成し、このような分類子の誤り率を、予測応答感度を100%に維持しつつ、LOOCVを用いて算出した(図4A)。
【0125】
3遺伝子分類子は、低い誤り率で応答を予測できる(図4A)。これは、リーブ・ファイブ・アウト・クロス確認法を実施した際に確認された。遺伝子を追加すると誤り率が上昇する場合は、追加の遺伝子が分類子にノイズを導入することを示している。3遺伝子分類子の場合、LOOCVにより、NPVが94%、PPVが48%、全体的な診断精度が74%、かつ、陽性尤度比が2.9であることが示された(図4B)。各患者における3遺伝子の発現値の組合せが、図4Cに示されている。従って、この遺伝子シグネチャを有する患者群の場合、ティピファニブに対する応答率は、この患者集団での24%(14/58)に比較して48%(12/25)であった。
【0126】
3遺伝子シグネチャ(AHR、AKAP13、および、MINA53)を用いることにより、カプラン−マイヤー分析で、再度、予測された応答者群と非応答者群との間で生存に有意差が示された(図4D)。応答者として誤って分類された13人の患者は、非応答者として正しく分類された31人の患者よりも全体的な生存が良好であった(図5)。興味深いことに、非応答者として誤って分類された2人の患者は血液学的改善のみを示し、全生存期間が比較的短かった(71日と87日)。
【0127】
AKAP13の過剰発現はAMLのティピファニブに対する耐性を高める
AKAP13遺伝子は、ティピファニブに対する耐性の最も強力なマーカーである。従って、HL60細胞系でこの遺伝子のオンコLBC変異体およびプロトLBC変異体を過剰発現させることにより、FTI生物学におけるその関与を調べた。次いで、一時的トランスフェクト体のティピファニブ感受性を調べた。このAML細胞系モデルにおける両方のAKAP13変異体の過剰発現により、対照細胞に比べティピファニブに対する耐性が約20倍増大した(図3)。LBCオンコジーンとプロトオンコジーン(proto-oncogene)の両方が、ティピファニブに対する耐性を同程度に増大させたのが、対照に比べて2以上のlog単位、死滅曲線の右方向へ平行移動していることで分かる。
【0128】
考察
近年、2つのグループが、臨床転帰の予測に有用な、新たに診断された成人AML患者の遺伝子発現プロフィールを確認した(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004), バルクら(Valk et al.)(2004))。これらのプロフィールは、核型分析などの現在用いられている診断マーカーよりも強力であると思われる。さらに、発現プロフィールで、標準的な化学療法薬(チャンら(Chang et al.)(2003); オクツら(Okutsu et al.)(2002);およびチェオクら(Cheok et al.)(2003))、および、新規の選択性抗癌剤を含む抗癌化合物に対する応答を予測できることが分かった(ホフマンら(Hofmann et al.)(2004);および、マクリーンら(McLean et al.)(2004))。同様に、薬理遺伝学的プロフィールが、チロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブ(gefitinib)に対する患者の応答に相関することも分かった(パエスら(Paez et al.)(2004)およびリンチら(Lynch et al.)(2004))。この研究で、非小細胞肺癌患者の亜群が、標的治療に対する臨床応答に相関する標的上皮細胞成長因子受容体内で活性化型の突然変異を起こしていることが分かった。
【0129】
再発性および難治性AML患者の第2相試験で、新規のファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤であるティピファニブに対する応答を予測する遺伝子発現プロフィールを確認した。この種の化合物は、造血系悪性疾患(カープら(Karp et al.)(2001); クルズロックら(Kurzrock et al.)ら(2004);アルシーナら(Alsina et al.)(2003); コルテスら(Cortes et al.)(2003):およびトーマスら(Thomas et al.)(2001))、および、乳癌(ジョンストンら(Johnston et al.)(2003))、または、再発性神経膠腫(ブルナーら(Brunner et al.)(2003))などの充実性腫瘍(solid tumors)の治療に有望であることを示されている。しかしながら、臨床応答は実証されているが、薬剤に対して最も応答する可能性の高い患者、従って、治療の最適な候補者となる患者を特定することにより、患者に合った治療の要望が大きくなっている。さらに、rasがこの種の薬剤の主な標的と見なされているが、複数の臨床試験により、このような薬剤が、ras突然変異の頻度が高い集団に必ずしも有効ではないことが示された(ヴァン・カトセムら(Van Cutsem et al.)(2004)およびラオら(Rao et al.)(2004))。
【0130】
複数の遺伝子マーカーがティピファニブに対する応答を予測する可能性があることが確認された。これらのマーカーのサブセットは、薬剤応答を予測でき、かつ、FTI生物学に関与する可能性もあると考えられる。マイクロアレイの試験により見出された上位候補の1つがリンパ芽細胞発症オンコジーン(lymphoid blast crisis oncogene)(オンコLBCまたはAKAP13)である。この遺伝子は、Rhoタンパク質のグアニンヌクレオチド交換因子として機能し(チェンら(Zheng et al.)(1995))、かつ、タンパク質キナーゼAアンカータンパク質としても機能する(カーら(Carr et al.)(1991))。AKAP13は、ラミンBと相互作用することが知られているαらせんドメインに相同な領域を含む(Foisnerら(1991))。これに関連して、ラミンBがタンパク質キナーゼAによって活性化され、これにより分裂活性が増大する。RhoBおよびラミンBはともにファルネシル化され、FTIの候補標的である。AKAP13はまた、その3'末端(3-prime end)の喪失により細胞の形質転換を引き起こすためプロトオンコジーンでもある(スターペッティら(Sterpetti et al.)(1999))。これは、慢性骨髄性白血病患者で初めに確認されたが、その発現はAMLでは実証されていない。
【0131】
FTI生物学に関与している可能性がある複数の遺伝子(ARHH、AKAP13、IL3RA)の同定により、複数の経路の相互作用がこのAML患者集団でFTIがどのよう機能するかに影響を与え得るという考えが支持される(図7)。これらの遺伝子は、ras、rho、および、場合によってはラミンBを含む複数のファルネシル化タンパク質と相互作用する。Rhoタンパク質は、FTIの重要な抗腫瘍形成標的の可能性がある(サハイら(Sahai et al.)(2002)およびランセットら(Lancet et al.)(2003))。RhoB、RhoA、および、RhoCは、複数の種類の癌で過剰発現することが分かっている(サハイら(Sahai et al.)(2002))。加えて、RhoH(ARHH)は骨髄起源の腫瘍で頻繁に再編成され、これにより過剰発現することがある(パスカルッチら(Pasqualucci et al.)(2001))。これらRhoタンパク質のほとんどが、ゲラニルゲラニル化(geranygeranylated)されるが、互いに密接に相互作用し、ファルネシル化したras、RhoE、および、RhoB低分子量GTPaseとも相互作用する(サハイら(Sahai et al.)(2002)およびリーら(Li et al.)(2002))。さらに、RhoH、RhoB、および、RhoEが、RhoAおよびRhoGの形質転換能力に対して拮抗するように作用し得る(リーら(Li et al.)(2002))。RhoA、および、場合によっては他の関連する低分子量GTPaseの活性が、グアニンヌクレオチド交換因子リンパ性急性転化オンコジーン(guanine nucleotide exchange factor lymphoid blast crisis oncogene)(AKAP13)によって増大する(スターペッティら(Sterpetti et al.)(1999)およびトクソスら(Toksoz et al.)(1994))。加えて、AKAP13は、タンパク質キナーゼAによるラミンBの活性化によって分裂活性が増大し得る(フォイスナーFoisnerら(1991))。IL3受容体がras経路を活性化させることもよく知られている(テスタら(Testa et al.)(2004))。従って、図7に示されているように、IL3RAおよびAKAP13の活性の増大、および、RhoHの発現の減少により、形質転換の細胞プロフィールが増大し得る。これにより、白血病芽細胞が、代償経路(compensatory pathway)によってFTIの抗腫瘍形成効果に打ち勝つことができる。これに対して、IL3RAおよびAKAP13の発現が過少になると、RhoH活性が増大し、FTIがより効率的にこのような経路を遮断できる。
【0132】
最後に、AKAP13(オンコLBC変異体およびプロトLBC変異体の両方)の過剰発現により、HL60 AML細胞系のIC50が約20倍増大することを実証した。これは、AKAP13の過剰発現が耐性の適切なマーカーであり、ティピファニブに耐性のある患者の有用な代替薬物標的(alternative drug target)となり得ることを示唆している。
【0133】
全体的にみて、本発明者らの発見により、ティピファニブに応答する可能性のある患者を特定する遺伝子発現に基づく診断アッセイを開発することが可能である。この情報を用いて、適切な患者集団をより良好に直接的に治療することができる。生存を判断基準(gold standard)として用い、遺伝子シグネチャにより、従来の臨床応答基準の使用では予測できなかった治療に対する応答のレベルを予測することができる。あるいは、これにより、FTI治療に対する応答を予測するための遺伝子シグネチャがFTI療法に関係のない予後値を有するかどうかの問題が持ち上がる。従って、従来の化学療法で治療した、新たに診断されたAML患者ですでに同定された予後シグネチャを評価した(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004))。このシグネチャは、現在の患者集団に有用性を示したが、発明者らの3遺伝子シグネチャでは不良な予後群と良好な予後群にさらに階層分類することができ、この3遺伝子シグネチャがFTIに対する応答の予測因子であることを示している。
【0134】
実施例3
AML予後遺伝子シグネチャの分析
この3遺伝子シグネチャは、薬剤治療の種類に関係なく予後を予測することができる。これを確認するために、まず従来の化学療法で治療した、新たに診断されたAML患者で最近同定された遺伝子発現シグネチャを評価した(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004))。このシグネチャは、cDNAアレイを用いて定義し、従って、まずこれらの遺伝子をアフィメトリクス(Affymetrix)遺伝子チップ上にあるプローブに一致させた。ブリンガーら(Bullinger et al.)によって同定された133の予測遺伝子のうち、167のプローブセット(103個のユニークな遺伝子に対応する)が、アフィメトリクス(Affymetrix) U133Aチップに一致した。発明者らの本分析で同定されたこの3つの遺伝子は、ブリンガーら(Bullinger et al.)の133遺伝子リスト(配列番号は表4に示されている)に含まれていない。これらの167のプローブセットを用いて、階層クラスタリングにより2つの主要な患者群を定義した(図8A)。カプラン−マイヤー分析により、これらのクラスターを良好な予後の患者と不良な予後の患者とに明確に階層分類されることが示された(図8B、p=0.000003)。従って、本発明者らのデータが、ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)によって同定された133遺伝子の予後シグネチャのサブセットを、患者の再発性および難治性の集団に使用できることも示している。従って、このことは、予後遺伝子プロフィールが、様々なマイクロアレイプラットフォーム、および、様々な種類のAMLに対して、驚くほど強力であることを示している。
【0135】
予後遺伝子シグネチャによって定義されたクラスターはいずれも、それほど多くの応答者を有していない。しかしながら、ティピファニブの3遺伝子シグネチャを良好な予後群と不良な予後群に適用する場合、ティピファニブに応答した患者を両方の予後群からさらに階層分類された(図8C)。従って、3遺伝子シグネチャは、予後シグネチャとは別の有用性を有し、この3遺伝子シグネチャは、この患者集団のFTI治療に特異的である。
【0136】
実施例4
臨床評価および応答の定義
現行の試験は、AMLにおける各28日サイクルの最初の21日間の開始経口投与量600mg(1日2回)で単一薬剤としてティピファニブが投与されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の有効性および安全性について調べる非盲検多施設非比較第2相試験(open label, multicenter, non-comparative phase 2 study)であった。患者は、再発性AMLと難治性AMLの2つの集団に分けた。合計で252人の患者(再発性135人、難治性117人)を処置した。遺伝子発現プロファイリングのために、ティピファニブに対する応答を、事後の任意の時点で中央判定または臨床状態によって、客観的応答(CR、CRp、または、PR)(前述の通り)のある患者、安定疾患であると確認された患者、または、血液学的応答(白血病芽細胞の50%を超える減少)のある患者として定義した。
【0137】
サンプルの採取およびマイクロアレイ処理
全てのサンプルを、前述の処理および分析に同意した患者から採取した。骨髄サンプルを、ティピファニブ処置の前に患者から採取し、PBSで希釈し、フィコール‐ジアトリゾエート(Ficoll-diatrizoate)(1.077g/mL)を用いて遠心分離した。白血球をPBSで2回洗浄し、10%DMSOを含むFBSに再懸濁し、すぐに−80℃で保存した。細胞を解凍し、RNeasyキット(カリフォルニア州バレンシア所在、キアゲン社(Qiagen, Valencia, CA)))を用いて、細胞サンプルから全RNAを抽出した。RNAの質を、アジレント・バイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)を用いて確認した。アフィメトリクス社の(Affymetrix)(カリフォルニア州サンタクララ所在(Santa Clara, CA))プロトコールに従ってcDNAおよびcRNAの合成を行った。1回の増幅では複数のサンプルのRNA収量がチップハイブリダイゼーションに用いる十分な標識cRNAを得るのに不十分であるため2回の線形増幅を行った。
【0138】
ハイブリダイゼーションのために、11μgのcRNAを、40mM Tris酢酸、pH8.1、100mM酢酸カリウム、および、30mM酢酸マグネシウム中で35分間、94℃でインキュベートすることによりランダムに断片化した。断片化したcRNAを、60rpmに設定したローティッセリー・オーブン(rotisserie oven)で16時間、45℃でU133Aアレイにハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイを洗浄し(TritonX−100(0.005%)を含む6xSSPEおよび0.5xSSPE)、ストレプトアビジン−フィコエリトリン(SAPE:オレゴン州ユージーン所在、モレキュラー・プローブ社(Molecular Probes, Eugene, OR))で染色した。アジレント(Agilent) G2500A GeneArrayスキャナー(カリフォルニア州パロアルト所在、アジレント・テクノロジー社(Agilent Technologies, Palo Alto, CA))を用いて結合した標識プローブの定量を行った。
【0139】
各アレイの合計蛍光強度を一定値600に対して尺度化した。チップの性能を、シグナル/ノイズ比(平均シグナルの生値/ノイズ)を算出することにより定量化した。シグナル/ノイズ比が5未満の場合、それらのチップはさらなる解析から除外した。チップの少なくとも10%に「存在している」と言える遺伝子だけをさらなる解析に含めた。このカットオフの後に約12,000のアフィメトリクス(Affymetrix)プローブセットが残った。遺伝子発現データの質は、主成分分析に基づいたアウトライアーの特定、および、遺伝子強度の正規分布の解析(パルテック・プロ(Partek Pro)V5.1)により、さらに制御した。
【0140】
統計分析
アンスーパーバイズド階層クラスタリング、および、クラスタリングをOmnivizにて実施した。S−Plusを用いて、カプラン−マイヤー分析を実施した。
【0141】
実施例5
新たなAMLで同定された予後シグネチャは再発性および難治性の患者に有用である
近年発表された2つの論文に、新たに診断された成人AML患者の遺伝子発現のプロファイリング、および、このプロファイリングの臨床転帰の予測への使用が記載されている(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)およびバルクら(Valk et al.)(2004))。アフィメトリクス(Affymetrix)U133A遺伝子チップを用いて再発性および難治性のAML患者58人のプロファイリングを行った。ブリンガーら(Bullinger et al.)によって同定された133の予測遺伝子のうち、167のプローブセット(103個のユニークな遺伝子に対応する)がU133Aチップで同定された(図9)(ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004))。この167のプローブセットは、配列表に示され、表4に示される配列番号で呼ばれる。
【0142】
これらの167のプローブセットを用いて、階層クラスタリングにより患者を2つの主要な群に分類した(図10A)。カプラン−マイヤー分析により、これらのクラスターを良好な予後の患者と不良な予後の患者に明確に階層分類されることが示された(図10B、p=0.0000219)。従って、本発明者らのデータが、ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)によって同定された133遺伝子の予後シグネチャの103の遺伝子サブセットを、患者の再発性および難治性の集団に使用できることを示している(表4)。従って、このことが、予後遺伝子プロフィールが、様々なマイクロアレイプラットフォーム、様々な種類のAML、および、様々な処理アルゴリズムに対して驚くほど強力であることを示している。
【0143】
【表4−1】

【表4−2】

【表4−3】

【表4−4】

予後シグネチャは、ティピファニブに対する応答を予測する3遺伝子シグネチャとは無関係である。
【0144】
本発明者らは、再発性および難治性のAML患者でのティピファニブに対する応答を予測する3遺伝子シグネチャ(AHR、AKAP13、MINA53)を同定した。これらの遺伝子は、良好な予後転帰群と不良な予後転帰群とに患者を階層分類できる(図11B、p=0.002)。この遺伝子シグネチャがFTI治療に対する応答を予測するのか、あるいは、単に概ね良好な予後の患者を特定するに過ぎないのかという問題が持ち上がっている。この3遺伝子シグネチャを良好な予後群および不良な予後群に適用した場合、応答者は、この予後群からさらに階層分類された(図11C、p=0.000003)。両方の遺伝子シグネチャを適用した後、ティピファニブに応答せず、かつ、治療の種類に関係なく予後が不良な患者群の明確な階層分類が生じた(図11D、p=0.0000005)。従って、3遺伝子シグネチャは、この患者集団でのFTI治療に特異的で、すでに同定された予後シグネチャに無関係であるものと思われる。結果として、患者の治療のより良い管理のために、予後シグネチャを薬剤特異的シグネチャ(ティピファニブ予測プロフィールなど)と併用可能であることが示唆される。
【0145】
実施例6
応答者と非応答者(安定疾患の患者は含まない)との間で示差的に発現する遺伝子の同定
4人の患者が安定疾患であると分類されたが、これらの患者は応答者または非応答者に明確に区別できないため、分析から除外した。安定疾患の患者を分析に含めると、薬剤治療に無関係の予後に関連した遺伝子選択の分析が偏る場合がある。従って、10人の応答者を44人の非応答者と比較することにした。選択される遺伝子は、40%の特異性を有し、最小平均変化倍率が2.0倍である必要があった。このような基準は、可能な最高レベルの感度でティピファニブに対する応答を予測できる遺伝子を同定するために選択した。11,723の遺伝子から、応答者と非応答者とを階層分類でき(表5)、かつt検定で有意なP値(P<0.05)が得られた、合計8個の遺伝子を同定した。これらの遺伝子の中には、シグナル伝達、アポトーシス、細胞増殖、発癌、および、場合によってはFTI生物学に関与するものが含まれた。AKAP13は最も強力なマーカーである。
【0146】
次に、8つの選択された遺伝子から最適な診断精度が得られる最小の遺伝子のセットを同定することを目的とした。分類子は、ROC解析(receiver operator characteristic analysis)で得たAUC値に基づき、遺伝子の数を増加させて作成し、予測応答感度を100%に維持したまま、これらの分類子の誤り率をLOOCVを用いて算出した(図12a)。AKAP13遺伝子は、40%未満の最低の誤り率で応答を予測することができる(図12a)。3つ以上の遺伝子を分類子に用いた場合、誤り率は50%超に増大した。AKAP13の場合、LOOCVにより、NPVが93%、PPVが31%、全診断精度が63%、かつ、陽性尤度比が2.0であることが示された(図12b)。各患者におけるAKAP13の発現値は、図12cに示されている。従って、AKAP13の発現率が低い患者群の場合、ティピファニブに対する応答率は、現在の患者集団の18%(10/54)に対して31%(8/26)であった。AKAP13遺伝子を用い、カプラン−マイヤー分析により、予測された応答者群と非応答者群との間で生存に有意差が示された(図12D)。
【0147】
【表5】

【0148】
実施例7
新たに診断された急性骨髄性白血病患者でのティピファニブ(ザルネストラ(ZARNESTRA)(登録商標)、R115777)応答を予測する遺伝子発現プロフィール
ティピファニブ(ザルネストラ(ZARNESTRA)(登録商標)、R115777)は、造血系疾患を有する患者での臨床応答が実証されている。タンパク質のファルネシル化の阻害は、主要な作用機序(MOA)であるが、ファルネシル阻害のレベルは、信頼性のある薬物動態マーカーではなく、どの遺伝子マーカーが応答を予測するのに使用可能かも明らかでない。この予測により設計された試験を行い、急性骨髄性白血病(AML)患者でのティピファニブに対する応答の予測因子の代わりとなり得る可能性のある遺伝子マーカーおよび発現シグネチャを同定した。新たに診断された低リスクのAML患者で、骨髄サンプルを採取し、ティピファニブに関するシングルアーム第2相臨床試験からの遺伝子発現プロフィールを解析した(ランセットら(Lancet et al.)(2004))。ティピファニブ処置前(n=25)、処置中(n=30)、および処置後(n=24)の、合計79サンプルのプロファイリングを行った。
【0149】
骨髄サンプルは、アフィメトリクス(Affymetrix) U133A GeneChip(登録商標)アレイを用いて分析した。全遺伝子発現シグネチャにより、ティピファニブ処置の結果としての遺伝子発現変化が、処置の終了後120日までの間維持されていたことが明らかになった。処置前サンプル対処置後サンプルにより、ファルネシル化に関連するいくつかの遺伝子(例えば、K−ras、FNTA)を含む、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害後の遺伝子発現に有意な変化を有する(False Discovery Rate(FDR)<0.005)およそ500の遺伝子が同定された。これら変調された遺伝子の多くは、タンパク質の生合成、DNA複製、細胞内シグナル伝達、および、細胞周期経路に有意に関与するもの、従って、細胞増殖の阻害を反映するものであることが確認された。また、27遺伝子のサブセット(シグナル伝達および細胞周期に関連する遺伝子を含む)は、応答者と非応答者との間で示差的に変調されることも確認された(P<0.01)。再発性および難治性AMLでの第2層臨床試験からこれまでに同定されている遺伝子発現シグネチャも、それらの応答予測能を調べるために処置前サンプルで試験した(ラポーニら(Raponi et al.)(2004))。6つの遺伝子の組合せは、この独立したサンプルセットにおいて有意な予測精度を有していることが分かった(P=0.05)。これらの試験から同定された遺伝子は、ティピファニブ活性のバイオマーカーの代わりとして使用することができる。
【0150】
患者サンプル
第2相試験では、新たにAMLと診断された患者にザルネストラ(ZARNESTRA)(登録商標)600mg(bid21dQ4wks)を投与した。ザルネストラ(ZARNESTRA)(登録商標)処置前、処置中、および、処置後に骨髄サンプルを採取した。単核細胞をフィコール−ハイパック密度勾配遠心分離(Ficoll-Hypaque density centrifugation)により単離し、生きた状態で冷凍した。
【0151】
マイクロアレイ分析
メッセージRNAを患者の芽細胞から増幅し、約22,000遺伝子をプロービングできるアフィメトリクス(Affymetrix) U133Aチップとハイブリダイズさせた(図13)。チップデータにプレフィルタリングを行って質の悪いデータおよび患者サンプルの少なくとも10%でしか発現しなかった遺伝子を排除した。さらに、このデータセットで変化しなかった遺伝子も排除した(CV<40%)。約8000の遺伝子がさらなる分析のために残った。合計79のチップが品質対照尺度をパスし、関連の臨床応答データも有していた。
【0152】
統計分析
分散分析(ANOVA)およびt検定を用い、薬剤処置の効果と時間および各遺伝子の相互作用を調べた。false discovery rate(FDR)アルゴリズムを適用することにより、多重仮説検定を制御した。統計分析は全て、S−Plus 6.1(インサイトフル社(Insightful Corporation))にて実施した。主成分分析は、パルテック・プロ(Partek Pro)にて実施した。階層クラスタリングは、相関メトリックと完全連関(オムニビズ・プロ(OmniViz Pro)(商標), マサチューセッツ州メイナード所在、オムニビズ社(OmniViz, Maynard, MA))を用いて実施した。経路分析は、ジーン・オントロジー(Gene Ontology)機能分類を用いて行った。表6は、この分析の結果を示している。
【0153】
【表6】

【0154】
約8000の遺伝子を、グローバル・アンスーパーバイズド・クラスタリング(global unsupervised clustering)に用いた。処置前サンプルは、処置中および処置後サンプルから離れてクラスタリングされた。処置後サンプルは、処置の終了後120日までの患者からのサンプルを含んだ。図14は、AMLサンプルがティピファニブ処置の終了後、FTIにより媒介される全遺伝子発現変化を維持することを示している。
【0155】
502の遺伝子が、ティピファニブ処置後に示差的に発現することがわかった(p<0.005)。これらの遺伝子は表7A〜7Cに挙げられ、表9に詳細に示されている。
【0156】
【表7−1】

【表7−2】

【表7−3】

【0157】
AKT1、CENPF、KRAS、RAF1、STAT、および、ファルネシルトランスフェラーゼをはじめとするFTI生物学に関与する多くの遺伝子がこのリストに含まれていた。複数の遺伝子機能カテゴリーが、この遺伝子リストに有意に多いことが分かった(表8)。
【0158】
【表8】

【0159】
本発明者らはこれまでに、再発性および難治性AMLでティピファニブ耐性の予測となった8つの遺伝子を確認している。このデータセットのうち最も予測性の高かった遺伝子は、AKAP−13(AUC=0.83)であった。
【0160】
これらの遺伝子の予測値を、新たに診断されたAMLサンプル(CTEP20)の現行セットで試験した。完全応答または進行性疾患の患者由来のサンプルを用いた。結果を図15に示す。
【0161】
予測分類子を、トレーニングセットで誤り率50%未満であったことから上位6遺伝子で構成した。この6遺伝子の分類子を表9に示し、新たに診断されたAMLの階層分類能を図16に示している。
【0162】
【表9】

【0163】
結果
・使用可能であったのは臨床骨髄サンプルの27%であり、サンプル採取の最適化が必要であることが示された。
・AML細胞の全遺伝子発現シグネチャは、FTI処置の結果、処置の終了後に安定な遺伝子発現変化がもたらされることを示した。
・約500の遺伝子(p<0.005)がティピファニブにより影響を受けたが、このことはFTIが標的とする複数の経路を示差している。これらにはこれまでにFTI生物学と関連づけられている多くの経路が含まれた。
・ティピファニブ処置後に応答者と非応答者との間で27の遺伝子の示差的発現が見られた(表8)。これらはPDマーカーの候補となる。
・再発性および難治性AMLで同定された6遺伝子の分類子は、新たに診断されたAMLで予測価値を有することが分かった。
【0164】
実施例8
抗体(予言的)
ポリクローナル抗体の作製のために、LBCオンコジーン由来ペプチドを合成し、キーホールリンペットヘモシニアン(keyhole limpet hemocyanin)に結合し、これを用いてウサギを免疫化した。この血清が対応するペプチドに対して反応するかどうかをELISAで試験し、陽性のバッチをアフィニティー精製した。精製した抗体は、組織切片中にエピトープを有するペプチドを特異的に検出する。これは、対応するペプチドが抗体と同時に添加された場合にシグナルが完全に消滅することで確認できる。IHCで十分機能するこのポリクローナル抗体の他、本来の折りたたみ状態(in its natural fold)のタンパク質が生産されたことを検出できるモノクローナル抗体も作製する。モノクローナル抗体を作製するために、本来の折りたたみおよび翻訳後修飾を確保されるように哺乳動物細胞で産生された抗原を精製したものを得た。この抗原、すなわちLBCオンコタンパク質−IgG定常部分融合タンパク質(LBC onco protein-IgG constant part fusion protein)をマウス骨髄腫細胞で発現させ、Fc部分をおとり(bait)として用い、このタンパク質を精製した。精製された抗原はウエスタンブロットにて、C末端ポリクローナル抗体により認識される。この抗原を用いて、IgG定常部分の代わりにLBCペプチドに対して反応する抗体を産生する陽性クローンから選択することにより、LBCペプチドに対するマウスモノクローナル抗体を得た。LBCオンコジーンの臨床同定のためのキットを、これらの抗体または類似の抗体を用いて容易に作製することができる。このようなキットは、LBCペプチド(従ってLBCオンコジーン)同定用の抗体、適切な標識試薬(例えば、酵素およびラベルなど)、ならびに、このようなキットの臨床適用に有用な、希釈用バッファー、安定剤、および、このようなアッセイに典型的に用いられる他の材料などの他の試薬(任意選択による)を含むことができる。
【0165】
実施例9
免疫組織化学(予言的)
LBCオンコジーンのC末端ペプチドに対する、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体を、IHCの検出およびLBCオンコジーンの局在化に用いた。ホルマリン固定してパラフィン包埋した正常組織および腫瘍組織から得た4μmの切片を、3−アミノプロピル−トリエトキシ−シラン(3-aminopropyl-triethoxy-silane)(APES、ミズーリ州セントルイス所在、シグマ社(Sigma, St. Louis, MO))がコーティングされたスライドガラスに載せた。これらの切片を、段階的濃度のエタノールで脱パラフィンおよび再水和し、室温で30分間、メタノールペルオキシド(methanolic peroxide)(無水メタノール中0.5%過酸化水素)で処理して、内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断した。抗原の回収は、電子レンジで5分間(650W)、2回行った。Elite ABCキット(Vectastain、カリフォルニア州バーリンゲーム所在、ベクター・ラボラトリーズ社(Vector Laboratories, Burlingame, CA))を用いて、免疫ペルオキシダーゼ染色を行った。LBCペプチド抗体は、1:2000の最適希釈で使用する。ビオチン標識二次抗体およびペルオキシダーゼ標識アビジン−ビオチン複合体の両方を、これらの切片上で30分間インキュベートする。PBS(pH7.2)で希釈液を作製し、全てのインキュベーションを室温の湿室で行う。各染色ステップ間には、スライドガラスをPBSで3回洗浄する。ペルオキシダーゼ染色は、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(3-amino-ethylcalbazole)(シグマ社(Sigma))溶液(0.03%過酸化水素を含有する0.05M酢酸バッファー中0.2mg/mL、pH5.0)を用いて室温で15分間、可視化する。最後に、これらの切片を、マイヤーヘマトキシリン(Mayer's hematoxylin)で軽く対比染色し、水溶性封入剤(アクアマウント(Aquamount)、BDH社)で封入する。対照実験では、一次抗体を正常なウサギの血清のIgG断片に置き換えるか、または、一次抗体にLBCペプチドを予め吸着させる。このような染色は、細胞のサブセットにLBCオンコジーンが存在することを示す。
【0166】
以上、本発明を明瞭に理解できるように例証および実施例を示して用いて詳細に説明したが、このような説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0167】
【表10−1】

【表10−2】

【表10−3】

【表10−4】

【表10−5】

【表10−6】

【表10−7】

【表10−8】

【表10−9】

【表10−10】

【表10−11】

【表10−12】

【表10−13】

【0168】
〔参照文献〕



【0169】
〔実施の態様〕
本発明の実施態様は以下の通りである。
(1)急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、AML状態の指標となる、
方法。
(2)急性骨髄性白血病(AML)患者の病期分類を行う方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、AML生存の指標となる、
方法。
(3)急性骨髄性白血病(AML)患者の治療プロトコールを決定する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が適切な治療法を提供するために推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、治療法に対する応答の十分な指標となる、
方法。
(4)急性骨髄性白血病(AML)患者を治療する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップであって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが治療法に対する応答の指標となる、ステップと、
c.前記患者が応答者プロフィール(responder profile)を有する場合に、患者にアジュバント療法を施すステップと、
を含む、方法。
(5)急性骨髄性白血病(AML)患者の死亡リスクが高いか低いかを決定する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、死亡リスクの十分な指標となる、
方法。
【0170】
(6)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
前記サンプル中で構成的に発現される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定すること、
をさらに含む、方法。
(7)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
前記特異性は、少なくとも約40%である、方法。
(8)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
前記感受性は、少なくとも約80%である、方法。
(9)実施態様1〜実施態様5のいずれかに記載の方法において、
前記p値は、0.05未満である、方法。
(10)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
遺伝子発現は、マイクロアレイまたは遺伝子チップで測定される、方法。
【0171】
(11)実施態様10に記載の方法において、
前記マイクロアレイは、cDNAアレイ、または、オリゴヌクレオチドアレイである、方法。
(12)実施態様10に記載の方法において、
前記マイクロアレイまたは遺伝子チップは、1種類以上の内部対照試薬(internal control reagent)をさらに含む、方法。
(13)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記サンプルから抽出されたRNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行われる核酸増幅により決定される、方法。
(14)実施態様13に記載の方法において、
前記PCRは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)である、方法。
(15)実施態様14に記載の方法において、
前記RT−PCRは、1種類以上の内部対照試薬をさらに含む、方法。
【0172】
(16)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記遺伝子によりコードされているタンパク質を測定または検出することによって検出される、方法。
(17)実施態様16に記載の方法において、
前記タンパク質は、前記タンパク質に特異的な抗体によって検出される、方法。
(18)実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記遺伝子の特徴を測定することによって検出される、方法。
(19)実施態様18に記載の方法において、
前記測定される特徴は、DNA増幅、メチル化、突然変異、および、対立遺伝子変異からなる群から選択される、方法。
(20)急性骨髄性白血病(AML)予後患者レポートを作成する方法において、
実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の結果を判定するステップと、
前記結果を表示したレポートを作成するステップと、
を含む、方法。
【0173】
(21)実施態様20に記載の方法において、
前記レポートは、患者の転帰の評価、および/または、患者集団に対するリスクの見込み、および/または、化学療法に対する可能性もしくは応答を含む、方法。
(22)患者レポートにおいて、
実施態様21に記載の方法によって作成された、患者レポート。
(23)生体サンプルで急性骨髄性白血病(AML)予後を決定するアッセイを実施するためのキットにおいて、
前記生体サンプルは、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料、を含む、キット。
(24)実施態様23に記載のキットにおいて、
マイクロアレイ分析を実施するための試薬、
をさらに含む、キット。
(25)実施態様24に記載のキットにおいて、
媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる、媒体、
をさらに含む、キット。
【0174】
(26)急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価するための製品において、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料、
を含む、製品。
(27)実施態様26に記載の製品において、
マイクロアレイ分析を実施するための試薬、
をさらに含む、製品。
(28)実施態様27に記載の製品において、
媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる媒体、
をさらに含む、製品。
(29)マイクロアレイまたは遺伝子チップにおいて、
実施態様1〜実施態様5のいずれか一に記載の方法を実施するための、マイクロアレイまたは遺伝子チップ。
(30)実施態様29に記載のマイクロアレイにおいて、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部、
を含む、マイクロアレイ。
【0175】
(31)実施態様30に記載のマイクロアレイにおいて、
前記測定または同定が、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現である、マイクロアレイ。
(32)実施態様30に記載のマイクロアレイにおいて、
前記測定は、統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を提供する、マイクロアレイ。
(33)実施態様32に記載のマイクロアレイにおいて、
前記p値が、0.05未満である、マイクロアレイ。
(34)実施態様30に記載のマイクロアレイにおいて、
cDNAアレイ、または、オリゴヌクレオチドアレイを含む、マイクロアレイ。
(35)実施態様30に記載のマイクロアレイにおいて、
1種類以上の内部対照試薬、
をさらに含む、マイクロアレイ。
【0176】
(36)診断/予後ポートフォリオにおいて、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部、
を含む、診断/予後ポートフォリオ。
(37)実施態様36に記載のポートフォリオにおいて、
前記測定または同定が、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現である、ポートフォリオ。
(38)実施態様37に記載のポートフォリオにおいて、
前記測定は、統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を提供する、ポートフォリオ。
(39)実施態様37に記載のポートフォリオにおいて、
前記p値が、0.05未満である、ポートフォリオ。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】再発性および難治性AML患者のアンスーパーバイズドクラスタリング(Unsupervised clustering)を示す図である。
【図2】2つの遺伝子のリアルタイムRT−PCRを示す図である。
【図3】AKAP13遺伝子の予測値を示す図である。
【図4】予測マーカーの最小セットを示す図である。
【図5】3遺伝子シグネチャによって応答者および非応答者に予測された患者に対して行ったカプラン−マイヤー分析を示す図である。
【図6】AML細胞系でのAKAP13の過剰発現を示す図である。
【図7】再発性または難治性AMLにおけるFTI作用のモデルを示す図である。
【図8】ザルネストラ(Zarnestra)予測遺伝子シグネチャが、単独の予後遺伝子シグネチャよりも有用であることを示す図である。
【図9】ブリンガーら(Bullinger et al.)(2004)の遺伝子をアフィメトリクス(Affymetrix) U133Aチップ上の167のプローブセット(103個のユニークな遺伝子)にどのように一致させるかを示すフローチャートである。
【図10】再発性または難治性AML患者における167のプローブセットシグネチャの有用性を示す図である。
【図11】予後遺伝子シグネチャとザルネストラ(Zarnestra)予測遺伝子シグネチャとの比較を示す図である。
【図12】予測マーカーの最小セットの特定を示す図である。
【図13】遺伝子発現分析の概要を示す図である。
【図14】ティピファニブ処置の終了後、AMLサンプルは、FTIにより媒介される全遺伝子発現を維持することを示す図である。
【図15】予測発現プロフィールおよび新たに診断されたAMLでの予測分類子の試験を示す図である。
【図16】6遺伝子分類子は、新たに診断されたAMLを階層分類することを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、AML状態の指標となる、
方法。
【請求項2】
急性骨髄性白血病(AML)患者の病期分類を行う方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、AML生存の指標となる、
方法。
【請求項3】
急性骨髄性白血病(AML)患者の治療プロトコールを決定する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が適切な治療法を提供するために推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、治療法に対する応答の十分な指標となる、
方法。
【請求項4】
急性骨髄性白血病(AML)患者を治療する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップであって、所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが治療法に対する応答の指標となる、ステップと、
c.前記患者が応答者プロフィールを有する場合に、患者にアジュバント療法を施すステップと、
を含む、方法。
【請求項5】
急性骨髄性白血病(AML)患者の死亡リスクが高いか低いかを決定する方法において、
a.AML患者から生体サンプルを採取するステップと、
b.表3から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子に関連するバイオマーカーを測定するステップと、
を含み、
所定のカットオフレベルよりも高いかまたは低い前記マーカー遺伝子の発現レベルが、医師が推奨される治療法の程度および種類を決定することができるように、死亡リスクの十分な指標となる、
方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
前記サンプル中で構成的に発現される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを測定すること、
をさらに含む、方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
前記特異性は、少なくとも約40%である、方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
前記感受性は、少なくとも約80%である、方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
前記p値は、0.05未満である、方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
遺伝子発現は、マイクロアレイまたは遺伝子チップで測定される、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記マイクロアレイは、cDNAアレイ、または、オリゴヌクレオチドアレイである、方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
前記マイクロアレイまたは遺伝子チップは、1種類以上の内部対照試薬をさらに含む、方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記サンプルから抽出されたRNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行われる核酸増幅により決定される、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、
前記PCRは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)である、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記RT−PCRは、1種類以上の内部対照試薬をさらに含む、方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記遺伝子によりコードされているタンパク質を測定または検出することによって検出される、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記タンパク質は、前記タンパク質に特異的な抗体によって検出される、方法。
【請求項18】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法において、
遺伝子発現は、前記遺伝子の特徴を測定することによって検出される、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記測定される特徴は、DNA増幅、メチル化、突然変異、および、対立遺伝子変異からなる群から選択される、方法。
【請求項20】
急性骨髄性白血病(AML)予後患者レポートを作成する方法において、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の結果を判定するステップと、
前記結果を表示したレポートを作成するステップと、
を含む、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、
前記レポートは、患者の転帰の評価、および/または、患者集団に対するリスクの見込み、および/または、化学療法に対する可能性もしくは応答を含む、方法。
【請求項22】
患者レポートにおいて、
請求項21に記載の方法によって作成された、患者レポート。
【請求項23】
生体サンプルで急性骨髄性白血病(AML)予後を決定するアッセイを実施するためのキットにおいて、
前記生体サンプルは、表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料、を含む、キット。
【請求項24】
請求項23に記載のキットにおいて、
マイクロアレイ分析を実施するための試薬、
をさらに含む、キット。
【請求項25】
請求項24に記載のキットにおいて、
媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる、媒体、
をさらに含む、キット。
【請求項26】
急性骨髄性白血病(AML)の状態を評価するための製品において、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部を検出するための材料、
を含む、製品。
【請求項27】
請求項26に記載の製品において、
マイクロアレイ分析を実施するための試薬、
をさらに含む、製品。
【請求項28】
請求項27に記載の製品において、
媒体であって、この中で、前記核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部がアッセイされる、媒体、
をさらに含む、製品。
【請求項29】
マイクロアレイまたは遺伝子チップにおいて、
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法を実施するための、マイクロアレイまたは遺伝子チップ。
【請求項30】
請求項29に記載のマイクロアレイにおいて、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部、
を含む、マイクロアレイ。
【請求項31】
請求項30に記載のマイクロアレイにおいて、
前記測定または同定が、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現である、マイクロアレイ。
【請求項32】
請求項30に記載のマイクロアレイにおいて、
前記測定は、統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を提供する、マイクロアレイ。
【請求項33】
請求項32に記載のマイクロアレイにおいて、
前記p値が、0.05未満である、マイクロアレイ。
【請求項34】
請求項30に記載のマイクロアレイにおいて、
cDNAアレイ、または、オリゴヌクレオチドアレイ、
を含む、マイクロアレイ。
【請求項35】
請求項30に記載のマイクロアレイにおいて、
1種類以上の内部対照試薬、
をさらに含む、マイクロアレイ。
【請求項36】
診断/予後ポートフォリオにおいて、
表3、表4、表5、表7、表8、または、表9から選択される遺伝子に相当するマーカー遺伝子からなる群から選択される遺伝子の組合せの単離された核酸配列、それらの相補物、または、それらの一部、
を含む、診断/予後ポートフォリオ。
【請求項37】
請求項36に記載のポートフォリオにおいて、
前記測定または同定が、少なくとも1.5倍の過剰発現、または、1.5分の1の過少発現である、ポートフォリオ。
【請求項38】
請求項37に記載のポートフォリオにおいて、
前記測定は、統計学的に有意なp値の過剰発現または過少発現を提供する、ポートフォリオ。
【請求項39】
請求項37に記載のポートフォリオにおいて、
前記p値が、0.05未満である、ポートフォリオ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2008−523822(P2008−523822A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547020(P2007−547020)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/046100
【国際公開番号】WO2006/066240
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(505060347)ベリデックス・エルエルシー (43)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【住所又は居所原語表記】33 Technology Drive,Warren,NJ 07059,U.S.A.
【Fターム(参考)】