説明

性機能不全治療剤

【課題】性機能不全治療剤の提供。
【解決手段】α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸(「AMPA」)受容体の刺激作用を増強する化合物を含み、前記化合物が7−クロロ−3−メチル−3−4−ジヒドロ−2H−1,2,4−ベンゾチアジアジンS,S,ジオキシドおよび下記式を有する化合物から成る群より選択される化合物である性機能不全治療剤。


上記、1,2,4−ベンゾチアジアジン骨格を有する化合物群からなる性機能不全治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類特にヒトの男性における性機能不全を治療するための性機能不全治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DSM−IIIRは、性的反応に4つの相(欲求、興奮、オルガスム、消散)を定義している。これら相のいずれかの抑制が集合的に「性機能不全」として知られている。男性における性機能不全は具体的には、陰茎の勃起維持の不能(男性勃起異常症またはインポテンツ)、射精不能および/またはオルガスム経験不能を含んでいる。
【0003】
DSM−III−R(292ページ)によると、若年成人男性の8%が男性勃起異常症を有している。総人口の20%が性欲低下異常症を有すると推定されている。
【0004】
男性の性機能不全は1つまたは複数の原因による可能性がある。
【0005】
男性勃起異常症の患者の約40%から約60%は陰茎に血液を供給する動脈の動脈硬化を伴っている(「動脈性」または「動脈硬化性」機能不全)。陰茎の静脈からの漏出により、勃起に十分な圧力を得ることも維持することもできない患者もいる。
【0006】
神経障害(例えば、手術または骨盤損傷などに起因する陰茎に影響する神経系の神経損傷)に伴う「神経原性」性機能不全はインポテンツ患者の約10%から15%を占める。
【0007】
例えば、明らかな身体的障害および器質的障害を伴うことのない、例えば不安や抑鬱から生じる心理学的または「心因性」機能不全はインポテンツ患者の約15%から20%を占める。これらの症例には、明らかな病状を全く伴わずに生じる年齢に関係する性的減退が含まれる。
【0008】
勃起不全は、血圧を低下させるために高血圧患者に投与するベータ・遮断薬および抑鬱や不安の治療のために投与する薬物などのある種の薬物の副作用の場合がある。過剰なアルコール摂取は勃起不全の原因となる。これらの形の性機能不全は神経原性または心因性の機能不全のサブセットとみなすことができる。
【0009】
大部分の患者では、臨床的にはホルモンおよび一次構造(解剖学的)の欠陥は認められない。この一般的な形のインポテンツの発現率は通常、加齢と共に上昇する。45歳以下の成人男性の約12%、60歳の男性の約20%、75歳の男性の約55%が性交困難を経験している。
【0010】
性機能不全には多くの治療法が利用できる。これらの治療法には、外科的治療法(例えば、陰茎インプラント)、薬理学的治療法、心因性機能不全の場合には心理カウンセリングが含まれる。例えば、3月21日付けのLaraghの米国特許第5,399,581号、1995年8月8日付けのFischerの米国特許第5,439,007号、1995年9月5日付けのGerstenberg他の米国特許第5,447,912号、1995年9月19日付のBellamyの米国特許第5,451,609号およびこれらの特許に引用されている参考文献を参照のこと。
【0011】
これらの公表されている薬理学的治療方法は主として末梢神経系の反応を標的としたものである。これらの方法の成功は限られており、重篤な副作用の可能性がある。
【0012】
テストステロンはラットおよびヒトを含む種々の哺乳類で性行動を調節するのに有効であることが示されている。例えば、Smlth他(1992)、Hormones and Behaviour 26:110−135(ラット)およびCarani他(1990)、Arch.Sex.Behav.19:223−234(ヒト)を参照のこと。しかし、ステロイド療法は攻撃性などの望ましくない行動を引き起こす可能性がある。
【0013】
モキシシリト(ICAVEX)(1995年9月19日付のBellamyの米国特許第5,451,609号)、平滑筋弛緩性パパベリン、または非特異的遮断薬およびフェノキシベンザミン降圧剤を陰茎海綿体に注射すると、膣に挿入するのに十分な勃起が生じることが報告されている。機能不全が心因性または神経原性であり、重篤な動脈硬化を持たない患者には、パパベリンが有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
重篤な動脈硬化が機能不全の原因ではない場合、α−アドレナリン・遮断薬であるフェントラミンを海綿体内に注射すると膣に挿入するのに十分な勃起が生じる。その結果生じた勃起の持続時間は、パパベリンまたはフェノキシベンザミンの海綿体内注射により誘導された勃起に比べ有意に短かい。この持続時間は、満足な性的関係が困難であるまたは不可能であるほど短いことが多い。
【0015】
神経ペプチドである血管作動性腸管ペプチド(VIP)は正常な男性(すなわち、勃起不全に罹患していない男性)で勃起に関係すると考えられている。VIPを正常男性の海綿体内に注射すると、性的刺激を与えることなしに、陰茎は軽度に腫脹する(軽度の腫脹状態)が、勃起は起こらない。視覚的な性的刺激または振動による性的刺激またはその両者を与え、さらに少量のVIPを正常男性の海綿体に注射すると、完全な勃起が促進される(Wagner他(1987)World J.Urol.5:171−172)参照)。VIPは単独でも、性的刺激と併用しても、重篤な動脈硬化症に起因するインポテンツを有する男性では勃起を誘発しない。
【0016】
このような侵襲的治療法では、患者は大きな目的意識を持つことやこの治療法に専心することを求められ、実際には性的活動性が促進されるよりも、妨害される可能性があることは容易に理解されよう。海綿体内注射は注射後に熱感を伴うことが多い。さらに、パパベリンまたはフェノキシベンザミンは、2時間から3時間、ときには24時間以上にわたる持続的な勃起であるプリアピスムを生じさせる可能性がある。プリアピスムはこれらの薬物による勃起不全治療の重大な副作用である。一部の男性が経験する可能性のある困惑以上に、プリアピスムは疼痛を有することが多く、勃起組織を非可逆的に損傷する可能性があり、緩和させるためには、出血またはアドレナリンなどの交感神経作用性薬物の注射などの薬理学的介入を必要とする。パパベリンの反復使用により広範な海綿体内繊維症が生じることが示されている。
【0017】
要約すると、性機能不全は広く浸透している問題ではあるが、この障害を治療するために利用できる満足な方法はほとんどない。従って、本発明の目的は、性機能不全を治療するための方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、男性の性機能不全はグルタミン酸作動性の神経伝達を増強する化合物で治療できるという発見に基づくものである。本発明は、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)受容体の天然リガンドの刺激作用を増強(up−modulate)することにより、治療を必要とする対象における性機能不全を治療するための方法、組成物およびキットを含む。
【0019】
本発明では、多くのグルタミン酸作動性増強剤、例えば、7−クロロ−3−メチル−3−4−ジヒドロ−2H−1,2,4−ベンゾチアジアジンS,S,ジオキシドおよび下記式(II)に示される化合物からなる群から選択された化合物を有効量、対象に投与することを含む。
【化1】

式(II)中、R21はH、ハロおよびCF3からなる群より選択される構成要素であり、R22とR23はいずれもHであるか、または両者が結合して環の頂点3と4を橋かけする二重結合を形成し、R24はH、C1−C6アルキル、C5−C7シクロアルキル、C5−C7シクロアルケニル、Ph、CH2Ph、CH2SCH2Ph、CH2X、CHX2、CH2SCH2CF3、CH2SCH2CH=CH2および
【化2】

から成る群より選択される構成要素であって、ここでPhはフェニル、Xはハロであり、ならびに、R25はHとC1−C6アルキルから成る群より選択される構成要素である。
【0020】
全身投与の一般的な用量は、1回の投与で対象の体重1kg当たり数ミリグラムから数デシグラムの範囲でありうる。好ましくは、使用するグルタミン酸作動性薬物は迅速に作用を開始し、半減期が短い(90分以下)。
【0021】
ある種の実施態様では、実質的に心因性の原因を有する性機能不全の治療方法が提供される。好ましくは、ヒトの患者は、その他の病理解剖学的な徴候を随伴しない、性的快感、覚醒、欲望の低下、加齢による性欲減退を有する患者または勃起および/またはオルガスムに到達することが困難な患者である。本発明の方法は、主として心因性の性機能不全を有するオスの哺乳類で、挿入潜時および射精潜時を短縮し、膣への挿入に十分な勃起を促進する。しかし、これらの方法は、性機能不全が一部神経原性であるまたは末梢疾患に起因するヒトの心因性症状の治療にも有効である。これらの方法は、有効量のグルタミン酸作動性化合物を含有する生理学的に許容される組成物を男性に投与し、男性を性的に刺激することを含む。
【0022】
調節した用量で投与するために処方した錠剤またはアンプルまたは他の好適な包装手段の形で組成物を含有するキットも提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
性的行動は一般に、覚醒(興奮)、求愛ディスプレー、性愛手技、性交、オルガスムおよび消散を含んでいる。これらの全ては神経回路およびホルモン回路の影響を受けている。神経回路には中枢神経系成分および末梢神経系成分が含まれる。
【0024】
男性の性的活動のレパートリーの2つの主要な要素は勃起と射精である。第一の要素である勃起は副交感神経系により媒介されると考えられている。脊髄からのコリン作動性のインパルスにより陰茎の動脈が拡張し、静脈が収縮する。陰茎の勃起組織中の動脈血は、陰茎からの血液の流出を阻止する静脈の収縮により生じる高い圧力下で増加する。第二の要素である射精は交感神経系で媒介されると考えられている。陰茎の知覚神経は知覚インパルスを脊髄に送ることにより性的刺激に反応する。脊髄はこれらのインパルスを処理した後、交感神経インパルスを男性の生殖器官に送り、生殖器官を収縮させる。この収縮の結果、尿道内部に精子と前立腺液が充填される。これに対応する尿道内の圧力の上昇により圧力受容体が刺激され、圧力受容休は脊髄にインパルスを送る。次いで、コリン作動性インパルスが脊髄から陰茎に送られ、勃起組織周囲の骨格筋が刺激されて収縮し、尿道内部からの精子の射精を起こす。
【0025】
男性の性機能不全を治療するための既存の方法は一般にホルモンを含み、脳の機能を低下させる。性的療法の非常に最近の活動は末梢神経系(PNS)を標的としているが、主として、末梢神経系がよく理解されていることに起因する。これらの方法では臨床的に限られた成功しか達成されていない。
【0026】
性的パフォーマンスが低下する多くの場合に中枢神経系(CNS)が非常に関与していることが示されている。例えば、性行動への線条体複合体(中隔側坐核)および前部皮質の関与が報告されている(Robertson他、1991)。
【0027】
これらなどの前頭部構造における大部分の興奮性神経伝達はグルタミン酸を介して起こる。CNSのグルタミン酸作動性受容体の大部分はAMPA受容体である。残部はNMDA受容体である。Jonas,P、1993、Exs、66:61−76、Zorumsky他、1993、Pharmacology and Therapeutics、59:145−162、およびOrrego他、1993、Neuroscience、56:539−555参照のこと。
【0028】
「AMPA型」グルタミン酸受容休の増強を介した中枢(脳)のグルタミン酸作動性の伝達の促進は、簡単な回路よりも複雑な多シナプス性回路に対して大きな影響を与え(Sirvio他、1995)、従って、脳の下部のネットワーク機能よりも新皮質で見られるネットワーク機能をより促進すると予想されている。この観点から、AMPA受容体に対する中枢神経作用性増強剤は、下部の脳の内臓に対する活性を余り変化させることなく、性的相互作用を含む同化行動の皮質成分を強化すべきである。
【0029】
本発明のグルタミン酸作動性増強剤は性的興味(リビドー、欲求)と性的機能(覚醒、性交、オルガスム)の両者の基礎となるCNS経路をその標的の1つとしている。簡単に述べると、刺激を受けたシナプス前ニューロンがグルタミン酸などの神経伝達物質をシナプス間隙に放出する。この神経伝達物質はシナプス後ニューロン上の受容体と結合する。リガンドー受容体複合体が形成されると、イオン・チャンネルが開き、イオンはシナプス後ニューロンの神経形質膜を横切ることができる。イオンの正味流出がある閾値レベルを超えると、シナプス後ニューロンが刺激される。
【0030】
本発明の化合物は主として、神経の活性化を直接刺激することによるのではなく、グルタミン酸作動性受容体を含むニューロンにおける神経の活性化および伝達を増強(「アロステリックなモジュレーション」)することにより作用する。
【0031】
これらの化合物はグルタミン酸結合部位以外の部位でグルタミン酸受容体と結合するが、このような結合はそれ自体で、イオンの流出を生じることはない。しかし、本発明のグルタミン酸作動性化合物と既に結合しているグルタミン酸受容体にグルタミン酸分子が結合すると、その後のイオンの流出がより長時間続く。従って、本発明で使用する化合物の存在下では、結合した化合物を含まないシナプス後ニューロンに比べて、シナプス後ニューロンは非常に低濃度のグルタミン酸で活性化される。
【0032】
A.定義
特記しない限り、本明細書で使用するすべての専門用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料と同様または同等の方法および材料を使用して本発明を実施または検査することが出来るが、好ましい方法および材料を示す。本発明では、下記の用語は次のように定義する。
【0033】
「シアノ」はCN基を意味する。
【0034】
「ハロゲン」または「ハロ」はフッ素、臭素、塩素およびヨウ素原子を意味する。
【0035】
「ヒドロキシ」はOH基を意味する。
【0036】
「チオール」または「メルカプト」はSH基を意味する。
【0037】
「スルファモイル」はSO2NH2を意味する。
【0038】
「アルキル」は環状、枝状または直鎖状の炭素原子数1個から8個のアルキルを意味する。「アルキル」という用語は置換アルキル基および未置換アルキル基の両者を含む。この用語の例には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、i−ブチル(または2−メチルプロピル)、シクロプロピルメチル、シクロヘキシル、i−アミル、n−アミルおよびヘキシルも含まれる。置換アルキルとは、アリール、アシル、ハロゲン、ヒドロキシ、アミド、アミノ、アシルアミノ、アシルオキシ、アルコキシ、シアノ、ニトロ、チオアルキル、メルカプトなどの1つ以上の官能基を含む上記のアルキルを意味する。これらの官能基は低級アルキル部分のどの炭素原子に結合してもよい。「低級アルキル」とは、C1−C6アルキルであり、C1−C4アルキルがより好ましい。
【0039】
「環状アルキル」とは、シクロヘキシルなどの単環式アルキルおよび[3.3.0]ビシクロオクタンおよび[2.2.1]ビシクロヘプタンなどの二環式アルキルの両者を含む。
【0040】
「フルオロアルキル」とは、全てのまたは一部の水素がフッ素で置換されている上記のアルキルである(例えば、−CF3または−CF2CF3)。
【0041】
「アリール」または「アル」とは、単環または融合、共有結合、またはエチレン部分またはメチレン部分などの一般的な基に結合した複数の環であってよい芳香族置換基を意味する。芳香環は、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルメチル、2,2−ジフェニル−1−エチル、チエニル、ピリジルおよびキノキサリルなどのヘテロ原子を含むことができる。「アリール」または「アル」は置換アリール基および未置換アリール基を含む。置換される場合には、アリール基はハロゲン原子またはヒドロキシ、シアノ、ニトロ、カルボキシル、アルコキシ、フェノキシ、フルオロアルキルなどで置換されてよい。さらに、アリール基は、水素原子が占有するアリール基の任意の位置で他の部分に結合することができる(例えば、2−ピリジル、3−ピリジルおよび4−ピリジル)。
【0042】
「アルコキシ」という用語はOR基を意味し、式中、Rは下記に定義の低級アルキル、置換低級アルキル、アリール、置換アリール、アラルキルまたは置換アラルキルである。
【0043】
「アシル」という用語はC(O)R基を意味し、式中、Rはアルキル、置換アルキル、アルコキシ、アリール、置換アリール、アミノおよびアルキルチオである。
【0044】
「炭素環部分」は、全ての環の頂点が炭素原子である環構造を示している。この用語は、単環式構造および融合した環構造の両者を含んでいる。芳香族炭素環部分の例はフェニルおよびナフチルである。
【0045】
「複素環部分」は、1つ以上の環の頂点が炭素原子以外の原子であり、その他が炭素原子である環構造を意味する。非炭素原子の例にはN、OおよびSがある。この用語は単環構造および融合した環構造の両者を含む。芳香族複素環部分の例はピリジル、ピラジニル、ピリミジル、キナゾリル、イソキナゾリル、ベンゾフリル、イソベンゾフリル、ベンゾチオフリル、インドリルおよびインドリジニルである。
【0046】
「アミノ」という用語は、基NRR’を意味し、上記式中、RおよびR’は独立して、水素、下記に定義の低級アルキル、低級置換アルキル、アリール、置換アリールまたはアシルであってよい。
【0047】
「アミド」という用語は、C(O)NRR’を意味し、式中、RおよびR’は独立して水素、下記に定義の低級アルキル、低級置換アルキル、アリール、置換アリールまたはアシルであってよい。
【0048】
「独立して選択される」という表現は、本明細書では、2つのR基、R1およびR2が同じでも、異なっていてもよいことを意味する(例えば、R1とR2の両者がハロゲンであってよく、R1がハロゲンでR2が水素であってよい、など)。
【0049】
「性機能不全」とは、一般に、DSM−IIIRに記載された性的反応の相(性欲、興奮、オルガスム、消散)のいずれか1つ以上の抑制を意味する。「性機能不全」は具体的には、性欲の減退(性欲減少異常症、DSM−III−R#302.71)、陰茎勃起維持不能(男性勃起異常症、DSM−III−R#302.72、)射精不能および/またはオルガスム経験不能(男性オルガスム障害、DSM−III−R#302.74)を含む。心因のみまたは心因と生体的原因のあるもの、生涯続くものまたは後天性のもの、総合的なもの、状況依存性のもの全てが含まれる。DSM−IIIRの定義および性的機能不全に関するテキストは参考として本明細書に含むものとする。
【0050】
「インポテンツ」または「男性勃起障害」は性交するのに十分な固さの陰茎の勃起の維持が常にできないことである。
【0051】
「性的行動」にはパートナーが関与してもしていなくてもよい。パートナーが関与する場合には、性的行動には覚醒、性愛ディスプレーおよび性交を含む、覚醒(または興奮)は性的快楽の自覚的な知覚とそれに伴う生理学的変化からなる。男性における主要な変化には、陰茎が腫脹して、勃起することを含む。性愛ディスプレーは、性的パートナーを覚醒させ、行動者の覚醒を増強する意図または効果のある行動である。性交には、陰茎の性的パートナーの性的器官への挿入(異性間の性交の場合)、オルガスム、射精を含むことができる。パートナーが関与しない場合、性的行動には、男性の器官の性欲刺激性部分または体の他の性欲刺激性部分に触れるまたはエロチックに操作することのいずれかの組み合わせ(例えば、マスターベーション)、エロチックな行動または物品の画面などの視覚的刺激に反応することを含むことができる。
【0052】
「性機能不全の症状」という句には、DSM−IIIRに記載の性的反応の4つの相(性欲、興奮、オルガスム、消散)のいずれかを抑制することが含まれる。これらは具体的には、性欲の欠如(性欲低下異常症、DSM−III−R#302.71)、インポテンツまたは陰茎の勃起維持不能(男性勃起異常症、DSM−III−R#30272)、射精不能および/またはオルガスム経験不能(男性オルガスム阻害、DSM−III−R#302.74)を含んでいる。
【0053】
「性機能不全の症状を減少させる」という句は、DSM−IIIRに記載の性的反応の4つの相(性欲、興奮、オルガスム、消散)のいずれか1つ以上の抑制を減少させることを意味する。この句は具体的には、性欲の上昇、陰茎勃起維持能の増強、射精能および/またはオルガスム経験能の増強を含んでいる。性機能不全の症状を減少させることの特定な例には、性的行動または自覚的な性的覚醒の回数、頻度および持続時間の増加である。
【0054】
「対象」という用語は、雄の哺乳類、特に人間を意味する。この用語は、具体的には、ヒト以外の霊長類、畜牛、馬、豚、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラットおよびマウスなどの家庭用および一般実験用の哺乳類を含んでいる。
【0055】
「年齢に関係する性機能不全」とは、高齢の患者で現れ、加齢と共に悪くなることが多い性機能不全である。これはヒトおよび動物の両方に共通している(Davidson他、1983a)1983b、SmithおよびDavidson、1990)。
【0056】
「α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸」または「AMPA」または「グルタミン酸作動性」受容体は細胞内特にニューロン内の、通常は表面膜に存在し、グルタミン酸またはAMPAを認識し、これに結合する分子または分子の複合休である。AMPAまたはグルタミン酸のAMPA受容体への結合は通常、一連の分子的事象または反応を引き起こし、生物学的応答を引き起こす。生物学的応答は神経インパルスの活性化または増強、細胞性分泌または代謝の変化、または細胞に分化または運動を起こさせることでありうる。
【0057】
「中枢神経系」または「CNS」という用語は脳および脊髄を含む。「末梢神経系」または「PNS」という用語は、脳神経および脊髄神経および自律神経系を含む、CNSの部分ではない神経系のすべての部分を含む。
【0058】
「有効量」という句は、所望の結果を生じるのに十分な用量を意味する。一般に、所望の結果とは、下記の手法で測定した性機能不全の症状の自覚的または他覚的な減少である。
【0059】
B.性機能不全の治療に使用する化合物
本発明の実行に有用な化合物は、特に興奮性シナプス反応を増幅することにより、AMPA受容体の天然の促進物質の活性を増幅(増強)する化合物である。本明細書中に、本発明に好適な多様な化合物を広範に示す。その他の化合物を同定する方法は一般に実施されているものである。これらの方法には、所与の候補化合物がAMPA受容体の増強剤であるかを調べるために受け入れられた種々の方法を含む。主要なアッセイは、ラットの脳の海馬切片などのin vitroの脳切片における興奮性シナプス後部の電位(EPSP)の増大を測定することである。
【0060】
この種の実験では、従来の方法を使用して、ラットなどの哺乳類からの海馬切片を作製し、インターフェース・チャンバ内で維持する。領域EPSPはCA1bの領域の放射状層で記録し、シェファー交連突起に置いた双極電極に20秒に1回単一の刺激パルスを与えて誘導する(Granger,R.他、1993、Synapse、15:326−329;Staubli,U.他、1994a、Proc.Nat.Acad.Sci.、91:777−781;Staubli,V.他、1994b、Proc.Nat.Acad.Sci.、91:11158−11162;Arai,A.他、1994、Brain.Res.、638:343−346;Arai,A.他、「Effects of a centrally active drug on AMPA receptor kinetics」)。
【0061】
正常なEPSPの波形は、分極方向に比較的早い上昇時間を有し(5−10ミリ秒以内)、20ミリ秒以内で減衰するAMPA成分と、NMDA成分(30−40ミリ秒以内の遅い上昇時間と40−70ミリ秒以内の遅い減衰速度を有する)(NMDA受容体チャンネル活性化の電圧要件から、通常のCSF媒質中ではこのNMDA部分は現れないが、マグネシウム濃度の低い媒質中ではNMDA成分が現れることがある)と、グルタミン酸作動性(AMPAおよびNMDA)成分とは反対(過分極)の方向で、上昇時間10−20ミリ秒以内で、減衰が非常に遅い(50−100ミリ秒以内またはそれ以上)のGABA成分で構成される。
【0062】
種々の成分を別々に測定して、推定のAMPA受容体増強剤の作用をアッセイすることができる。この方法は、望ましくない成分をブロックする薬物を加えて実施し、検出可能な反応が本質的にAMPA反応のみとする。例えば、AMPA反応を測定するために、NMDA受容体遮断薬(例えば、AP−5または当業界で公知のその他のNMDA遮断薬)および/またはGABA遮断薬(例えば、ピクロトキシンまたは当業界で公知のその他のGABA遮断薬)を切片に加える。
【0063】
GABAをブロックした切片におけるてんかん様活性を防止するために、テトロドトキシンなどの公知の薬物を使用することができる。
【0064】
本発明で使用できるAMPAの増強剤は、グルタミン酸作動性の刺激に反応して、AMPA受容体複合体チャンネルを通るイオンの流出量を増加させる物質である。イオン流出の増加は一般に、下記の非限定的なパラメータの1つ以上として測定される。例えば、NMDAおよびGABA成分を阻止する処理を行った調製物では、10%以上の減衰時間の増加、波形の増強および/または波形曲線下面積および/または波形の上昇時間の10%以上の減少として測定される。この増減は好ましくは少なくとも25%〜50%、最も好ましくは少なくとも100%である。イオン流出がどのように増加したか(例えば、振幅の上昇または減衰時間の増加)が二番目に重要である。増強はAMPAチャネルを通るイオン流出の増加を反映するが、達成される。
【0065】
別のより詳細なアッセイは、パッチ、例えば培養した海馬切片から切除した膜のパッチを使用する方法であり、その方法はArai他、1994が記載している。外側の外パッチを錐休海馬ニューロンから得て、記録チャンバに移す。グルタミン酸パルスを与え、データをパッチ・クランプ増幅器で収集し、デジタル表示させる(Arai他、1994)。
これらの膜パッチはグルタミン酸作動性受容体のみを含んでいるべきであるので、GABA作動性の電流は認められない。NMDA電流も(例えば、AP−5を使用して)上記と同様にブロックできる。
【0066】
薬物の中心的作用は、行動する動物の領域EPSPを測定することによって検証することができ(Staubli他、1994a参照)、また、生物学的分布の経時変化は、放射線同位元素標識薬物の注射およびそのPET測定によって確かめることができる(Staubli他、1994b参照)。
【0067】
好ましい実施の形態におけるこの種の化合物の1つは式(II)によって定義される。
【化3】

式(II)中、R21はH、ハロおよびCF3からなる群より選択される構成要素であり、R22とR23はいずれもHであるか、または両者が結合して環の頂点3と4を橋かけする二重結合を形成し、R24はH、C1−C6アルキル、C5−C7シクロアルキル、C5−C7シクロアルケニル、Ph、CH2Ph、CH2SCH2Ph、CH2X、CHX2、CH2SCH2CF3、CH2SCH2CH=CH2および
【化4】

から成る群より選択される構成要素であって、ここでPhはフェニル、Xはハロであり、ならびに、R25はHとC1−C6アルキルから成る群より選択される構成要素である。
【0068】
式(II)の範囲内では、ある種のサブクラスが好ましい。その1つは、R21がClまたはCF3のいずれかであるサブクラスであり、Clであれば好ましい。もう1つは、XがすべてClであるサブクラスである。また別には、R22とR23がいずれもHのサブクラスである。R24の好ましいサブクラスは、CH2Ph、CH2SCH2Phおよび
【化5】

を含むサブクラスである。
【0069】
式(II)の範囲内の好ましい化合物は、R24がC5−C7シクロアルキル、C5−C7シクロアルキニルまたはPh(「Ph」はフェニル基を表す)の化合物である。この群のその他の好ましい化合物はR21がハロ、R22がH、R23がH、およびR25がHの化合物である。R24の好ましい置換基はシクロヘキシル、シクロヘキシニルおよびフェニルである。
【0070】
下記の化合物26ないし40は、式(II)の範囲内にある化合物の例である。
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【0071】
特に好ましい化合物は化合物CX516、1−(キノキサリン−6−イルカルボニル)ピペリジンであり、下記の構造を有する。
【化15】

【0072】
有用な化合物のまた別のクラスは式(I)によって定義される。
【化16】

【0073】
式中、R1はNまたはCHであり、
mは0または1であり、
2は(CR82)n-mまたはCn-mR82(n-m)-2のいずれかであり、ここで、
nは4,5,6または7であり、
任意の単一の化合物中でR8は同じでもまた異なっていてもよく、
各R8はHもしくはC1−C6アルキルのいずれかであるか、または1つのR8がR3もしくはR7のいずれかと結合して、3’位の環の頂点が2位もしくは6位の環の頂点と結合するような一重結合を形成するかまたは3’位の環の頂点が2位もしくは6位の環の頂点と結合するような単一の二価結合部分を形成し、この単一の二価結合部分の例としてはCH2、CH2−CH2、CH=CH、O、NH、N(C1−C6アルキル)、N=CH、N=C(C1−C6アルキル)、C(O)、O−C(O)、C(O)−O、CH(OH)、NH−C(O)およびN(C1−C6アルキル)−C(O)が挙げられ、
3は、いずれのR8とも結合していない場合は、H、C1−C6アルキルまたはC1−C6アルコキシのいずれかであり、
4はH、OHもしくはC1−C6アルコキシのいずれかであるか、またはR5結合しており、
5はR4結合しているか、またはH、OHおよびC1−C6アルコキシ、アミノ、モノ(C1−C6アルキル)アミノ、ジ(C1−C6アルキル)アミノもしくはCH2OR9のいずれかであって、ここで、
9はH、C1−C6アルキル、芳香族炭素環部分、芳香族複素環部分、芳香族炭素環アルキル部分、芳香族複素環アルキル部分、またはC1−C3アルキル、C1−C3アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノおよびメチレンジオキシのうちの1つまたは複数で置換した前記任意の部分、
6はHまたはCH2OR9であり、
4とR5は、結合しているときには、
【化17】

から成る群より選択される構成要素を形成し、ここで、
10はO、NHまたはN(C1−C6アルキル)であり、
11はO、NHまたはN(C1−C6アルキル)であり、
12はHまたはC1−C6アルキルであって、単一の化合物中に2つまたはそれ以上のR12が存在するとき、このようなR12は同じ場合または異なっている場合があり、
pは1、2、または3であり、
qは1または2であり、
7は、いずれのR8とも結合していない場合は、H、C1−C6アルキルまたはC1−C6アルコキシのいずれかである。
【0074】
式(I)の範囲内では、ある種のサブクラスが好ましい。その1つは、R2が(CHR8)n-mまたはCn-mHR82(n-m)-3のいずれかであり、R3がH、C1−C6アルキルまたはC1−C6アルコキシのいずれかであるサブクラスである。また別の好ましいサブクラスは、R2が(CHR8)n-mまたはCn-mHR82(n-m)-3のいずれかであり、R8がR3もしくはR7のいずれかと結合して、2’位の環の頂点と3位の環の頂点とが橋かけするような一重結合を形成するかまたは2位の環の頂点と3’位の環の頂点と結合するような単一の二価結合部分を形成し、この単一の二価結合部分としてCH2、CH2−CH2、CH=CH、O、NH、N(C1−C6アルキル)、N=CH、N=C(C1−C6アルキル)、C(O)、O−C(O)、C(O)−O、CH(OH)、NH−C(O)またはN(C1−C6アルキル)−C(O)を有するサブクラスである。R2の好ましいサブクラスはCHR8−CH2−CH2−CH2およびCHR8−CH2−CH2−CH2−CH2である。結合部分の好ましいサブクラスはCH2、CH2−CH2、CH=CH、O、NH、C(O)およびCH(OH)である。さらに好ましいサブクラスはCH2、O、NH、C(O)およびCH(OH)である。
【0075】
4とR5結合している場合、R12の好ましいサブクラスはHおよびCH3であり、R4とR5結合を表す好ましい基は、
【化18】

である。
【0076】
これらの基において、R10とR11はいずれもOであれば好ましく、pは1または2である。さらに好ましいサブクラスはmがゼロのサブクラスである。
【0077】
下記の化合物1ないし25は、式(I)の範囲内にある化合物の例である。
【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【0078】
1.式(I)の化合物の生成
前記化合物は、有機合成化学業界の当業者には既知である従来の方法によって生成することができる。例えば式(I)のある種の化合物は、適切に置換させた安息香酸から、それを、カルボキシル基を活性化してアミドを生成するのに好適な条件下に接触させることによって生成することができる。これは例えば、前記酸をカルボニルジイミダゾールまたは塩化チオニールもしくは塩化オキサリルなどの塩素化剤とともに活性化し、相当する塩化ベンゾイルを得ることによって達成される。次いで活性化した酸を、所望のイミドまたはアミドを生成するのに好適な条件下で、窒素含有複素環式化合物と接触させる。別法として、置換安息香酸を、塩化メチレンまたは非アルコール性クロロホルムなどの不活性溶媒中トリエチルアミンなどの塩基少なくとも2当量と接触させてイオン化し、次いで、イオン化した安息香酸を、塩化ピバロイルまたはトリフルオロ酢酸無水物もしくはトリクロロ酢酸無水物などの反応性カルボン酸無水物と反応させ、無水物の混合物を生成することもできる。次いで無水物の混合物を窒素含有複素環式化合物と接触させ、所望のイミドまたはアミドを生成する。
【0079】
さらに別法として、式(I)の一部の化合物に好適な方法であるが、適切に選択された3,4−(アルキレンジヘテロ)−ベンズアルデヒドをアンモニアと接触させてイミンを生成し、次いでそのイミンを塩化ベンゾイルオキシカルボニルと接触させてベンゾイルオキシカルボニルイミンを生成する方法である。好適な3,4−(アルキレンジヘテロ)−ベンズアルデヒドには、3,4−(メチレンジオキシ)−ベンズアルデヒド、3,4−(エチレンジオキシ)−ベンズアルデヒド、3,4−(プロピレンジオキシ)−ベンズアルデヒド、3,4−(エチリデンジオキシ)−ベンズアルデヒド、3,4−(プロピレンジチオ)−ベンズアルデヒド、3,4−(エチリデンジチオ)−ベンズアルデヒド、5−ベンズイミダゾールカルボキシアルデヒド、および6−キノキサリンカルボキシアルデヒドが含まれる。次いで、付加環化反応条件下で、ベンゾイルオキシカルボニルイミンをブタジエンなどの簡単な共役ジエンと接触させ、さらにフリーデル−クラフツアシル化に好適な条件下でルイス酸と接触させる。好適な共役ジエンの例には、ブタジエン、1.3−ペンタジエンおよびイソプレンが含まれ、また、好適なルイス酸の例にはAlCl3およびZnCl2が含まれる。
【0080】
式(I)の化合物のうちまた別の化合物は、2,3−ジヒドロキシナフタレンから生成される。この出発物質は、塩基の存在下で1,2−ジブロモエタンと反応してナフタレンのエチレンジオキシ誘導体を生成し、次いでその誘導体は過マンガン酸カリウムなどの酸化剤と反応して4,5−エチレンジオキシフタルアルデヒド酸を生成する。後者は無水アンモニアと接触してイミンを生成し、そのイミンを環化条件下でジシクロヘキシルカルボジイミドなどの好適なカルボニル活性剤で処理すると、アシルイミンが生成される。次いで、アシルイミンは簡単な共役ジエンと反応して付加環化を達成する。
【0081】
式(I)の化合物でまた別の化合物は、ウィリアムソンのエーテル合成に従って、α−ハロトルイル酸を少なくとも2当量の低級アルコールのアルカリ塩と接触させ、エーテル結合を生成することによって生成される。結果として得られるアルコキシメチル安息香酸を、カルボニルジイミダゾール、塩化チオニル、ジシクロヘキシルカルボジイミドまたはその他任意の好適な活性剤で活性化し、好適なアミンと反応させてカルボキサミド結合を達成する。
【0082】
前段の方法の別法として、適切な出発酸を、第三級アミン(例えば、トリエチルアミン)および酸塩化物(例えば、塩化ピバロイル)で活性化して、好適なアミンにカップリングするための混合無水物を生成することによってホルミル置換芳香族カルボキサミドを生成する。次いで、ホルミル基を、ホウ水素化ナトリウムなどの好適な還元剤によってアルコールに還元する。またそのアルコールは、アルコールのアルカリ塩によって置換可能な脱離基に転化する。脱離基は、塩化チオニル、臭化チオニル、塩酸、臭化水素酸もしくはヨウ化水素酸などの鉱酸などの試薬、または第三級アミンと好適なスルホン酸無水物もしくはスルホン酸ハロゲン化物との組合せ作用によって生じる。別法として、陽子を取り除くことによってアルコールを活性化することも可能である。これは、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性溶媒中で水素化ナトリウムなどの強塩基を作用させることによって達成される。結果として得られるアルコキシドを、好適なハロゲン化アルキルまたは好適な脱離基を有するその他のアルキル化合物と反応させて、所望のエーテル結合を生成する。
【0083】
式(I)のR3とR8の1つとが結合し、2位と3’位の炭素原子を橋かけする結合基1つを形成するような縮合環構造は、以下の方法で合成することができる。
【0084】
適切に置換したサリチル酸のカルボキシル基を、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフランまたはその他の無水溶媒中でカルボニルジイミダゾールで活性化させる。次いで、H2N(CH23CH(OCH2CH32などのアミノアルキルアセタールを添加する。その結果得られたアミドを、クロロホルムまたはジクロロメタンなどの低塩基性の溶媒中で、アリールもしくはアルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸またはその他の強酸で処理し、アセタールを開裂させ中間体のアルデヒドをアミドの窒素とフェノールの酸素で環化する。
【0085】
これら反応の性質上、個々の反応についての方法および反応条件は、合成化学者が日常的に用いる技術の範囲内のものであり、それらについて合成化学者ならば容易に理解できよう。
【0086】
2.式(II)の化合物の生成
式(II)の化合物およびそれらの生成方法については、文献に記述されている。
その方法は、合成化学者が日常的に用いる技術の範囲内のものである。例えばベンドロフルメチアジドなどの化合物の生成法については、Goldberg(Squibb)の米国特許第3,265,573号(1966)に記載されている。ベンズチアジド、エピチアジド、メタルチアジドおよびポリチアジドなどの化合物の生成については、McManus(Pfizer)の米国特許第3,009,911号(1961)に記載されている。ブチアジドの生成については、英国特許第861,367号および同第885,078号(Ciba)1961)に記載されている。クロロチアジドの生成については、Hinkley(Merck&Co.)の米国特許第2,809,194号(1957)および同第2,937,169号(1960)に記載されている。ヒドロクロロチアジドの生成については、Novello(Merck&Co.)の米国特許第3,025,292号(1962)、de StevensとWerner(Ciba)の米国特許第3,163,645号(1964)、およびIrons他(Merck&Co.)の米国特許第3,164,588号(1965)に記載されている。ヒドロフルメチアジドの生成については、Lund他(Lovens)の米国特許第3,254,076号(1966)に記載されている。メチルクロチアジドの生成については、Close他のJ.Am.Chem.Soc.,82:1132、1960年に記載されている。トリクロロメチアジドの生成については、de Stevens他のExperientia,16:113、1960年に記載されている。これらの特許および論文のすべては、参照によって本明細書に組み込む。
【0087】
3.化合物のふるい分け
リガンド−AMPA受容体複合体により活性化されるイオンゲートを増強することによってグルタミン酸作動性伝達を増強するような、前記種類に属する化合物については多数が明らかにされている。Staubli,U他、1994a,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,91:777−781、Staubli,U他、1994b,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,91:11158−11162、Arai,A.他、1994,Brain Res.,638:343−346、Granger,R.他、1993、Synapse,15:326−329はすべて参照によって本明細書に組み込む。これらの化合物は迅速に血液脳関門を通過し(Staubli,U他の1994b)、自由に動き回るラットのEPSPを増大させる(Staubli,U他の1994a)。これら中枢神経に作用する調節物質によってラット(Granger,R.他、1993、Staubli,U他、l994a)およびヒト(Lynch他、1996,Internat.Clinical Psychopharmacology11:13,Ingvar他、提出先Science、これら両論文とも参照によって本明細書に組み込む)両モデルの記憶が改善されることは、種々の動物実験によって指摘されている。
【0088】
本発明の化合物は、生成後、AMPA受容体の天然刺激物質の活性増幅(増強)能によって、詳細には興奮性シナプス反応増幅能によってふるい分けすることができる。所与の化合物がAMPA受容体の増強物質であるかどうかを決定するために、一般に容認されたテストを使用することが可能である。主要な検査は、ラットの脳の海馬スライス標本などのin vitroの脳のスライス標本において興奮性シナプス後部の電位(EPSP)の増大を測定することである。
【0089】
この種の実験では、従来の方法を使用して、ラットなどの哺乳類からの海馬スライス標本を作製し、インターフェース・チャンバ内で維持する。領域EPSPを、CAlb野の放射状層(stratum radiatum)に記録し、シェファー交連突起に置いた双極電極に20秒に1回単一の刺激パルスを与えて誘発する(Granger,R.他、Synapse,15:326−329,1993、Staubli,U他、1994a,Proc.Nat.Acad.Sci.,91:777−781、Staubli,V他、1994b,Proc.Nat.Acad.Scl.,91:11158−11162、Arai,A.他、1994,Brain Res.,638:343−346、Arai,A.他、「Effects of a centrally active drug on AMPA receptor kinetics」)。正常なEPSPの波形は、脱分極方向の上昇時間が比較的迅速(5−10ミリ秒以内)で20ミリ秒以内に減衰するAMPA成分と、NMDA成分(上昇時間が30〜40ミリ秒以内と遅く、減衰も40〜70ミリ秒以内と遅い)(NMDA受容体チャンネル活性化の電圧条件のせいで、正常なまたは人工のCSF(脳脊髄液)媒質中にはNMDA部分は発現しないが、マグネシウム濃度の低い媒質中ではNMDA成分が発現することがある)と、グルタミン酸作動性(AMPAおよびNMDA)成分と反対(過分極)方向に発現し、上昇時間が10〜20ミリ秒以内で減衰が非常に遅い(50〜100ミリ秒以内またはそれ以上)GABA(γ−アミノブチル酸)成分で構成される。
【0090】
異なる成分を各々別個に測定し、推定のAMPA受容休増強物質の効果をアッセイすることができる。これは、不必要な成分を遮断する薬物を添加し、検出可能な反応を本質的にAMPA反応のみとすることによって達成される。例えば、AMPA反応を測定するために、NMDA受容体遮断薬(例えば、AP−5または当業界で公知のその他のNMDA遮断薬)および/またはGABA遮断薬(例えば、ピクロトキシンまたは当業界で公知のその他のGABA遮断薬)をスライス標本に添加する。GABAを遮断したスライス標本においててんかん様活性が生じるのを防ぐために、テトロドトキシンなどの既知の薬物を使用することも可能である。
【0091】
本発明に有益なAMPA増強物質は、グルタミン酸作動性刺激に反応して、AMPA受容体複合休チャンネルを通過するイオン流を増加させるような物質である。イオン流の増加は一般に、下記の非限定的パラメータのうち1つまたは複数のパラメータとして測定される。例えば、NMDAおよびGABA成分を遮断するよう処理した生成物の場合、減衰時間、波形の増幅および/もしくは波形曲線下の面積は少なくとも10%増加し、ならびに/または波形の上昇時間は少なくとも10%減少する。その増減は好ましくは少なくとも25〜50%、最も好ましくは少なくとも100%である。イオン流の増加がいかにして達成されるか(例えば、振幅の増加または減衰時間の増加)は第二次的に重要な問題であって、いかにして達成されようと、増強はAMPAチャンネルを通過するイオン流の増加を反映している。
【0092】
別のより詳細なアッセイは、切除パッチ、すなわち培養した海馬のスライス標本から切除した膜のパッチをアッセイする方法である。これについてはいくつかの方法が、Arai他の1994年の論文に記載されている。外側を外に向けたパッチを錐体海馬ニューロンから得て、記録チャンバに移す。グルタミン酸パルスを与えて、パッチ・クランプ増幅器でデータを収集し、それをデジタル化する(Arai他、1994)。GABAはパッチに与えないため、GABA作動性電流は発現しない。前記のように(例えば、AP−5を使用して)NMDA電流もすべて遮断することが可能である。
【0093】
薬物の中心的作用は、行動する動物における領域EPSPを測定することによって検証することができ(Staubli,U他、1994a参照)、また、生物学的分布(biodistribution)の経時変化は注射およびその後の組織標本における薬物濃度の定量によって確かめることが可能である。定量は当業者に公知の方法で実施することができ、その方法は薬物の化学的性質によって異なる。
【0094】
C.その他の化合物
前記の種類の化合物は、性機能不全の治療に使用される本発明によるグルタミン酸作動性化合物の一例を表しているにすぎない。本発明が提供する治療薬は前述の化合物に限定されるものではない。本発明には、対象におけるα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸(「AMPA」)受容体の刺激を増強するその他の化合物の投与も含まれ、その増強物質は性機能不全の症状を十分軽減できる。このようなAMPA選択性化合物の例には、Zivkovic他、1995,J.Pharmacol.Exp.Therap.,272:300−309、Thompson他、1995,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,92:7667−7671に記載されているように、7−クロロ−3−メチル−3−4−ジヒドロ−2H−1,2,4ベンゾチアジアジンS,S,ジオキシドが含まれる。
【0095】
D.対象の選択
本発明の治療が意図する対象には、ヒト、実験動物、家畜が含まれる。薬理学的治療(例えば、テストテロンの投与)がこれら動物の性行動に影響を及ぼすことは一般に知られている。
【0096】
一般に前記の化合物および組成物は、その障害の原因が明らかに器質性のものでない対象の性機能不全の治療に非常に有用である。グルタミン酸作動性治療に反応する状態としては、その他の生理学的徴候を伴わないもしくはオルガスム到達困難を伴わない、性的快感、性的覚醒もしくは性欲の低下、または加齢による性欲減退などの症例が含まれる。
【0097】
ある種の状態(例えば、前立腺の病気治療のための外科的治療から生じた状態)および血管性インポテンツ(例えば、心理的欲求はそこなわれていないが、解剖学的構造上勃起不能)では反応はあまり期待できないとはいえ、本発明の化合物および方法は、身休的障害に苦しみ、しばしばその身体的障害を悪化させることになる心因性の抑制をも伴う人達の治療に有用である。本発明の方法で心因性部分の治療を行うことによって、性的快感の低下、性的覚醒または性欲の低下、加齢による性欲減退が改善され、結果として身体的部分の治療も容易になる。したがって、身体的性機能不全の場合にも、ホルモン治療と身体的治療を組合せた治療は適応があるといえよう。
【0098】
E.化合物の投与
本発明の化合物は治療上投与される種々の製剤に組み入れることが可能である。例えば、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、坐剤および種々の形態の注射剤等である。化合物は種々の方法で投与することができ、経口投与、頬粘膜(bucal)投与、肛門投与、注射投与、腹腔内投与、皮内投与、経皮投与などである。
【0099】
本発明の化合物の好ましい製剤は経口製剤であり、特に1カプセルまたは1錠剤ごとに有効成分を約1ミリグラムないし約100ミリグラム含有するカプセルまたは錠剤が好ましい。
【0100】
F.用量
前記化合物および/または組成物は、性機能不全に罹患している対象の性機能不全の諸症状を軽減するとともに、いかなる副作用をも最小限に抑えるような量で投与される。この組成物は医師の指導のもとに求めまた使用することになっている。
【0101】
全身投与の用量は典型的な場合で、対象の体重1kgに対し一投与当り0.1ないし1000ミリグラムの範囲である。典型的な用量は、1日1回10ないし50mgの錠剤1錠、または、1日1回有効成分の含有量が比較的高い限時解錠(time−release)型カプセル剤または錠剤を1カプセルまたは1錠である。限時解錠の効果は、それぞれ異なるpH値で溶解するカプセル材料、浸透圧によって徐々に放出するカプセル、またはその他の既知の放出技術によって得ることができよう。
【0102】
投与量レベルは、特異的化合物、症状の重篤度、および副作用に対する対象の感受性の関数として変化する。グルタミン酸作動性受容体を刺激する特異的化合物には一部他のものより強力なものがある。所定の化合物の好ましい用量は、当業者ならば、種々の方法によって容易に決定できるであろう。好ましい方法は、投与候補である所定の化合物の生理学的効力を、Behavioral Neuroscienceに提出されたDavis他(1996)の方法で測定する方法である。簡単に言えば、切除したパッチと興奮性シナプス反応を濃度の異なるテスト化合物の存在下で測定し、用量反応効力を記録し比較する方法である。Davis他は、BDP−20と呼ばれる1つの特異的化合物がBDP−12と呼ばれる別の特異的化合物に比べ、種々の行動テスト(探求活動、パフォーマンス速度)および物理的テスト(切除パッチおよび興奮性シナプス反応)において、約10倍もの効力を有することを見いだした。相対的な生理学的効力は、それらの挙動上の効果を表す正確な尺度となった。したがって、切除したパッチと興奮性シナプス反応を、既知の基準に対する所定の化合物の相対的生理学的(および挙動上の)効果の測定に使用することもできよう。
【0103】
性機能不全を治療するために好ましいグルタミン酸作動性化合物の測定半減期は、10分未満ないし2時間以上である。幾つかの実施形態では、この化合物は迅速に作用を開始し、排泄半減期が短い(90分以下)ことが好ましい。
【実施例】
【0104】
下記の実施例は例示のために提出したものにすぎず、いかなる点においても本発明を限定するものと解釈してはならない。本発明の知識および従来技術の知識を有する当業者ならば、下記の実施例において容易に代用される他の対象、他の機能不全および他のグルタミン酸作動性物質を考えつくことができよう。また、本発明の開示において引用した特許および出版物は本発明が関係する技術レベルを表しており、それら1つ1つについては、それらが補足し、説明し、背景を提供する範囲において、または本明細書で採用した方法、技術および/または組成物を教示する範囲において参照によって本明細書に組込むものとする。
【0105】
A. 化合物D1(7−クロロ−5−エチル−3−メチル−3,4−ジヒドロ− 2H−1,2,4ベンゾチアジアジンS,S−ジオキシド)の生成
1. 5−クロロ−3−エチル−2アミノベンゼンスルホンアミド(D)の生成
3−エチル−2アミノベンゼンスルホンアミド(0.5043g、2.52mモル)の10mlアセトニトリル溶液に、N−クロロスクシンイミド(0.3163g、2.37mモル)を添加した。この混合物を還流で12.5時間撹拌し、次いで冷却、漉過した後、in vacuoで濃縮した。1H NMRによれば反応は不完全であった。紫色の固体をアセトニトリルに再度溶解し、さらにNCS(0.1019g、0.76mモル)を添加した。この混合物を15分間還流し、前と同様な操作を行った。スクシンイミドとD(40%酢酸エチル:ヘキサン)の混合物をカラムクロマトグラフィーにかけて純D(0.5224g、94%)、融点134−135℃を得た。1H NMR(300MHz、DMSO):δ7.45(3H、s)、7.19(1H、d、J=2.1Hz)、5.76(2H、s)、2.53(2H、q、J=7.3Hz)、1.14(3H、i、J=7.3Hz)。
13C NMR(300MHz、DMSO):δ141.9、131.8、131.2、125.4、124.8、118.1、23.4、12.7。FT−IR(KBr):3457.8、3427.9、3358.4、3268.9、3080.1、2970.8、2364.5、2334.7、1630.6、1556.1、1541.2、1451.7、1312.6、1188.3、1148.6、905.1、875.3、762.2、611.3cm-1。HRMS:M+計算値=234.0230、実測値=234.0227。
【0106】
2. 7−クロロ−5−エチル−3−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−1, 2,4ベンゾチアジアジンS,S−ジオキシド(D1)の生成
25ml容RBフラスコに5−クロロ−3−エチル−2アミノベンゼンスルホンアミド D(0.4074g、1.74mモル)、アセトニトリル8.5mlおよび3Å分子ふるいを添加する。この溶液を撹拌しながら0℃まで冷却し、アセトアルデヒド(0.15ml)2.68mモル)および(±)10−ショウノ4ウスルホン酸(触媒)を添加した。0℃で1時間経た後、反応物をセライトで漉過し、溶媒を除去して粗D1を得た。淡褐色の固体をEtOAcに溶解し、シリカを通過させた後濃縮して純D1(0.4426g、98%)、融点181−183℃を得た。1H NMR(300MHz、DMSO):δ7.70(1H、d、J=11.8Hz)、7.35(1H、d、J=2.2Hz)、7.21(1H、d、J=2.2Hz)、6.24(1H、s)、4.80(1H、m)、2.52(2H、m)、1.48(3H、d、J=7.1Hz)、1.13(3H、t、J=7.4Hz)。13C NMR(500MHz、DMSO):δ140.2、132.4、131.1、122.2、120.5、120.0、62.2、23.2、20.1、12.7。FT−IR(KBr):3405.9、3232.5、3001.5、2942.7、2884.0、1490.5、1438.5、1309.6、1282.4、1160.2、1140.1、864.5、743.8、718.0、567.5cm-1
HRMS:M+計算値=260.0386、実測値=260.0386。
【0107】
前記化合物のプロトコールに僅かばかりの変更を加えることで、本発明のその他の化合物の生成にも利用できることは、当業者ならば容易に理解できよう。
【0108】
B.AMPA−作動薬のラットへの投与
伝統的に、ラットおよびマウスは、疾病治療のための動物モデル開発に使われてきた典型的なテスト動物である。齧歯動物の性的行動を調節するホルモンおよび治療がヒトを含めた他の哺乳動物においてもまた同様の調節をすることは、大多数の研究が指摘するところである。
【0109】
ラットのオスの場合、「加齢による性機能不全」または性的覚醒/動機づけの欠損は加齢1年ですでに発現する。この形の性的欠損は、外来のテストステロンを投与しても可逆的でないことは明らかである(Gray他、1981)。
【0110】
初期の研究では、交尾している成熟オスと交尾していない成熟オスとの間にテストステロンの血漿濃度に差がある可能性が指摘されたが、その後の一群の実験ではこのような初期の所見は実証されず、テストステロンの減少は加齢による性機能不全の主たる原因とは考えられないことが指摘されている(Smith他、1992)。加齢によって性的行動に変化が生じる原因となる主要な変化はCNSにあるらしいと考えられ、これらの変化は非ホルモン依存性てある。
【0111】
中枢神経のグルタミン酸作動性の増強には、加齢による学習の衰えに正の効果があることが明らかになっている(Granger他、1996)。本発明者等は、中枢神経のグルタミン酸作動性の増強が、加齢による性的パフォーマンスの衰えにも作用するかどうかを検査するために実験に着手した。
【0112】
成熟ラットにおける性的欠損の主たる特徴のうち2つは、遅延に関わる特徴である。挿入潜時および射精潜時のいずれも、加齢とともに有意に長くなる(SmithおよびDavidson、1990、Smith他、1992)。
【0113】
本発明の実験では、成熟した(16−18カ月)オスのLong−Evansラット(n=9)を、1週間に1回30分間の割合で2カ月にわたって生理的食塩水または中枢神経に作用するグルタミン酸作動性増強剤のいずれか一方を注射して30後に、交尾可能なメスとつがわせた。グルタミン酸作動性増強薬物を注射した日のラットの挿入(IL)および射精(EL)はいずれも、対照の日のラットのパフォーマンスに比べて有意に短縮されていた。第1図は、9匹のラットの集合について、対照の日(白抜き)および薬物注射の日(ストライプ)それぞれのIL(p<0.05Wilcoxonテストによる)とEL(p<0.03Wilcoxonテストによる)の平均値および標準誤差を示している。
【0114】
このように、グルタミン酸作動性増強剤によるILおよびELの変化を観察した結果は、加齢による性的障害が改善されていることと一致しており、また、中枢神経のグルタミン酸作動性を増強することがこのような病気の新治療法として使えることを示唆している。
【0115】
C.ヒトへの投与
前述したように、あらゆる性機能不全を、本明細書で使用の化合物を用いて治療するというわけではない。したがって、一般にヒトを治療する場合の第一段階は、どの個人が反応可能な機能不全(例えば、神経原性、心因性または加齢による性機能不全)に罹患しており、どの個人がそうでないかを確定することになる。
【0116】
対象が罹患している性機能不全の原因は実質的に神経原性または心因性であるのかどうかについて、当業者は容易に入手可能な多数の診断方法を使って確定する。一般に、ヒトがDSMIIIの典型的な性機能不全に罹患していることは、アンケートまたは問診によって確かめることができる。性的に機能したい、また、性的快感を経験したいという欲求もしくはそれらをする能力が低下していること、または多少とも減少していることを各個人が自発的に自己同定することも、治療すべき個人を選択する基準となる。よくありがちな性的不満に対し決まりきったアッセイを下すのに、実験室での検査はほとんど不要である(Kligman、1991)。β−遮断薬などの薬物またはアルコールの副作用としてのインポテンツは、本明細書では神経原性インポテンツとみなす。
【0117】
対象の性心理的病歴こそ治療の候補者を選択する唯一の基準であるが、本発明の化合物で治療不可能な純粋に身体的な状態を除外していく方法もまた望ましいと言えよう。
【0118】
1. 原因が実質的に神経原性または心因性に限られる場合の機能不全の診断
インポテンツに罹患している対象には、陰茎および陰のうの何等かの病理によって膣に挿入できるだけの勃起ができなくなっている可能性に特別注意して、身体検査を行うことができる。このような検査には、陰茎血圧指数(PBPI)、陰茎の動脈のドップラー診断およびパパベリン検査が含まれる。対象には、陰茎の静脈漏出またはアテローム性動脈硬化症の徴候を検査することもある。
【0119】
PBPIは、陰茎の収縮期血圧を片腕で測定した収縮期血圧で割ったものである。これらの血圧は、多数ある標準的な手法の中から任意の手法を選んで測定することができる。したがって、陰茎の収縮期血圧は、膨張式加圧帯を弛緩した状態の陰茎の随意の部分でその基部に巻き付けて測定できる。ここで膨張式加圧帯は、加圧帯が巻き付けられた対象に対し計器から読みとり可能な種々の圧力を加えるために使用し、ドップラー超音波プローブ(例えば、Huntleigh Technology,Luton,United Kingdomから市販のMini Doplex D500 TMなどの8MHzプローブ)で陰茎の動脈の場所を突き止め、次いで、その加圧帯をふくらませたりへこませたりしてドップラー音が再出現する圧力を突き止めることが可能である。ドップラー音が再出現する圧力が陰茎の収縮期血圧である。男性の陰茎の収縮期血圧は、そのPBPIが0.80を上回っていれば正常とみなされる。
【0120】
ドップラー診断に関しては、前述した加圧帯の末端にある陰茎海綿体の2本の動脈の各々が、ドップラー超音波を使って調べられる。2本の動脈各々の機能は、0、1、2または3といった任意の尺度を用いてドップラー超音波で評価されるが、この場合、0は機能欠損が甚だしく動脈の位置を突きとめるができない状態、3は動脈が十分機能してドップラー音の最大音が認められる状態を意味する。
【0121】
パパベリン検査では、止血帯を陰茎の随意の部分でその基部に巻き付けて締め、次いで患者を座らせた状態で、生理的食塩水またはリン酸緩衝生理的食塩水などの生理学的に許容できる液体1mlに溶かしたパパベリン30mgを陰茎の海綿体に注射する。(上仙骨部位神経損傷または心因性によるインポテンツが疑われる者の場合、このような症例ではパパベリン誘発性プリアピスム(priapism)の発生率が高くなるため、パパベリンを15mgだけ投与する)。注射後5分経過したら止血帯をはずし、陰茎海綿休の動脈に対して前述のように超音波ドップラー試験を実施する。動脈の機能は、その2本ともが任意の尺度の3を得点した場合には正常とみなされる。ドップラー診断の後、約4Hz、約1.2mmの振幅で(例えば、Gentofte,DenmarkのMulticept社製VibrectorTMを使用して実行する)陰茎の振動を5分ないし10分間実施し、次いで勃起反応を評価する。勃起反応は、直立位で陰茎と脚部との角度が90°を上回る場合には、陰茎硬度(rigidity)十分と分類され、その角度が45°ないしそれを下回る場合には腫脹(tumescence)または無反応と分類される。前述の「パパベリン検査」で使用されるパパベリンはVIP(約50g)で代替することも可能であろう。
【0122】
膣に挿入できるだけの勃起を不可能にするような解剖学的構造上の欠陥を伴わず、PBPIが0.80を上回り、前述したようなパパベリン注射後の陰茎海綿体の動脈が2本ともドップラー超音波診断で2または3を得点し、前述したようなパパベリン注射および振動の後に陰茎硬度が十分な勃起を伴うインポテンツの男性は、神経原性または心因性機能不全に罹患していることになる。
【0123】
一般に、PBPIが約0.60未満、陰茎の海綿体の動脈が2本ともドップラー診断で0を得点し(前述のようにパパベリン注射後)、パパベリン注射および振動の後に陰茎硬度が十分な勃起を伴わない男性は、「治療不能」のアテローム性動脈硬化症に起因するインポテンツに罹患していると言えよう。
【0124】
対象が静脈漏出による治療不能のインポテンツに罹患しているかどうかは、多くの方法で確定することができる。1つの方法は海綿体内圧測定(cavernosometry)であり、これに随意、海綿体造影(cavernosography)が追加される。例えば、Delcour他(1986)、Radiology 161:799、Porst他(1987)J.Urol.137:1163、Lue他(1987)J.Urol.37:829を参照されたい。
【0125】
海綿体内圧測定は、パパベリン60mgを海綿体内に注射する前および後に、生理的食塩水を19ゲージの針を通して一方の海綿体内に、21ゲージの針を通してもう一方の海綿体内に静脈内注入し、休内圧(これはプロッタに記録される)を測定して実施される。勃起を誘起する、また、維持するのに必要な注入量を測定する。勃起を維持するための注入量が、パパベリン投与前で50ml/分を上回り、パパベリン投与後で15ml/分を上回る場合は、治療不能の静脈漏出があることになる。パパベリン注射前で約100ml/分未満、パパベリン注射後で約50ml/分未満の流量で勃起の達成が可能である限りは、海綿体内造影を用いて漏出を伴う静脈病変の位置を突きとめ、それによって海綿体内圧測定に基づく診断を確認し、漏出を外科的に矯正する可能な方法について情報を提供することが可能であると言えよう。海綿体内造影では、1mlの生理的食塩水中のパパベリン60mgを海綿体内に注射する前および後に、陰茎のX線写真を撮る。
【0126】
同時に、X線撮影の間勃起が維持されるような流量で、海綿体内に(例えば、19ゲージの針を通して)造影剤が注入される。この方法に好適な造影剤は、当業界では多種入手可能であるが、約180mg/mlないし約360mg/mlのヨウ素を供給するヨウ素化化合物の水溶液が一般的である。例としては、New York,N.Y.,USAのWinthrop Pharmaceuticalsから市販の240mg/mlのヨウ素を供給するイオヘキソールであるOmnipaque 240TM、およびGoteborg,SwedenのAstra Meditecから市販の300mg/mlのヨウ素を供給するイオパミドールであるIopamiro(登録商標登録済み)が挙げられる。典型的な場合では、各X線撮影ごとに(すなわち、パパベリンを注射する前および後に)50〜100mlの造影剤が使用されることになろう。海綿体内圧測定および海綿体内造影においては、パパベリン60mg(生理的食塩水1ml中)の代りに、振動による刺激を加えながらパパベリン30mg(生理的食塩水1ml中)だけを使用することも可能である。
【0127】
2.治療による進歩の評価
治療の成否は、性的刺激および行動の事例の性質、総数、頻度および持続時間をモニタし、また、記録することによって測定される。モニタすべき性的行動には、患者とその別人との間の性的関係を含めることができ、また別人を巻き込まない性的行動をも含めることもできる。性的反応性は、生殖器という性欲刺激性域またはその他の身体の性欲刺激性部分に触れるまたは性欲をかきたてるように操作すること、性を露骨に表現した映画またはその他の性を刺激するショーもしくは展示物などで視覚的に刺激すること、陰茎に振動の刺激を加える(例えば、Vibrector装置(Multicept,Genofte,Denmark)などの振動装置の台に陰茎を載せ、約30Hzないし約100Hz、振幅約1ないし約5mmにて)ことなどを単独で、または組み合せることによって誘起しまた測定することができよう。性的刺激の好ましい方法には、性を露骨に表現した映画などで視覚的な刺激を与え、同時に、周波数約30Hzないし約60Hz(通常は約50Hz)、振幅約1mmないし約2.5mm(通常は約2.2mm)にセットしたVibrector装置を使って陰茎に振動の刺激を加えることが含まれる。
【0128】
治療による進歩は、患者に性的行動または主観的な性的覚醒の事例および頻度を、例えば日記をつけるなどして記録させることによってモニタする。さらに、担当医は治療および観察記録を日誌にしておく。患者の日記と医師の日誌を組合わせることによって、性的行動または主観的な性的覚醒の事例および頻度を、治療前と治療後とで比較することが可能となる。
【0129】
D.キット
さらに本発明は、経口または注射のいずれかで投与されるAMPA増強剤を単位用量づつ入れたキットを提供する。単位用量が入った容器の他に、記憶や学習にはそれほど著しい影響を及ぼさない神経変性性の病態の治療におけるこの薬物の有用性および付随する利点が記載された説明のための添付文書が入れられる。好ましい化合物および単位用量は、本明細書で前述したとおりである。
【0130】
本発明は、特定の実施例によってより詳細に説明されよう。実施例は例示のために示したものにすぎず、いかなる点においても本発明を限定するものではない。変更または修正を加えても本質的には同様の結果をもたらすことになるあまり重要でない種々のパラメータに、当業者なら容易に気が付くであろう。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】グルタミン酸作動性増強剤を投与した加齢ラットにおける挿入および射精潜時を対照ラットと比較している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオン酸(「AMPA」)受容体の刺激作用を増強する化合物を含み、前記化合物が7−クロロ−3−メチル−3−4−ジヒドロ−2H−1,2,4−ベンゾチアジアジンS,S,ジオキシドおよび下記式を有する化合物から成る群より選択される化合物である性機能不全治療剤。
【化1】

式中、R21はH、ハロおよびCF3からなる群より選択される構成要素であり、R22とR23はいずれもHであるか、または両者が化合して環の頂点3と4を橋かけする二重結合を形成し、R24はH、C1−C6アルキル、C5−C7シクロアルキル、C5−C7シクロアルケニル、Ph、CH2Ph、CH2SCH2Ph、CH2X、CHX2、CH2SCH2CF3、CH2SCH2CH=CH2および
【化2】

から成る群より選択される構成要素であって、ここでPhはフェニル、Xはハロであり、ならびに、R25はHとC1−C6アルキルから成る群より選択される構成要素である。

【図1】
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【公開番号】特開2008−214352(P2008−214352A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81476(P2008−81476)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【分割の表示】特願平9−527075の分割
【原出願日】平成9年1月28日(1997.1.28)
【出願人】(591052398)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (1)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】300 Lakeside Drive, 22nd Floor, Oakland, California 94612, United States of America
【Fターム(参考)】