説明

患者の水和及び/又は栄養状態を判断する方法及び装置

【課題】患者の水和及び/又は栄養状態をモニタする分野の技術を提供する。
【解決手段】本発明は、患者の水和及び/又は栄養状態をモニタする分野に関する。本発明によれば、患者の化学的又は物理的特性を判断する段階と、判断した患者の化学的又は物理的特性、及び除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値に基づいて少なくとも1つの部分を導出する段階とを含む、患者の水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分の少なくとも1つを判断する方法が提供される。本発明はまた、本発明による方法を実施するための装置及びこのような装置上に用いられるコンピュータプログラム製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の水和及び/又は栄養状態をモニタする分野に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、人体の健康を維持するためのいくつかの機能を行っている。第1に、あらゆる過剰な流体を患者の血液容積から分離することによって流体均衡を制御する。第2に、尿素又はクレアチニンのようなあらゆる廃棄物質から血液を精製する働きをする。最後であるが重要なことには、腎臓はまた、電解質のような血液中のある一定の物質のレベルを制御して健康で必要な濃度レベルを保証する。
【0003】
腎不全の場合には、摂取した流体が身体組織及び血管系に貯留し、循環系にかかるストレスが増大する。この余剰な流体は、血液の限外濾過により透析治療の間に除去すべきである。不十分な流体しか除去されない場合には、長い間に起こる結果は深刻であり、高血圧及び心不全を引き起こす可能性がある。心不全自体は、透析患者には数倍起こる可能性があり、これは、過負荷の流体の状態が主要な寄与因子の1つであると考えられている。また、流体を除去しすぎると、透析患者が脱水になり、これが常に低血圧を引き起こすために、これも危険である。
【0004】
乾燥重量(簡単にするために、「重量」及び「質量」という語は、この特許出願文書を通して同意語として用いるものとするが、これは、医学分野では慣例でもある)は、腎臓が正常に働いている場合に達成されると考えられる患者の重量を定めるものである。言い換えると、これは、心血管性の危険性を最小にするために達成する必要がある最適な目標重量(又は流体状態)を表すものである。乾燥重量は、それを評価する定量的方法がないために、通常の臨床行為では常に捕らえどころのない問題になる。現在、乾燥重量の問題は、例えば、血圧、心エコー検査、及びX線のような主観的情報のような間接的な指標を用いて対処されている。更に、乾燥重量標準として普遍的に受け入れられる条件の組を定義することが特に困難である。患者の流体状態を導出する有望な方法は、バイオインピーダンス測定の利用を伴っている。患者に取り付けた2つ又はそれよりも多くの電極に小さな交流を印加し、対応する電位差を測定する。人体の様々な流体区画は、その測定信号に対する寄与を異なるものにする。複数の周波数を用いることにより、細胞内容積(ICV)及び細胞外容積(ECV)における水の判断を可能にする。このような装置の例は、国際特許出願WO92/19153に説明されている。しかし、この特許は、特定の患者の乾燥重量をどのように導出することができるかに関する方法は開示していない。
【0005】
米国特許第5,449,000号は、同じく複数の周波数を用いてECV及びICVにおける水質量を判断するバイオインピーダンスシステムを説明している。更に、いわゆる母集団予測公式の使用及び選択のために、ある一定の母集団依存データが取られる。次に、これらの公式を用いて、分割バイオインピーダンス信号の助けを借りて身体組成を分析する。
国際特許出願WO02/36004A1は、細胞外容積における過剰な水容積を腎不全がない場合の状態に対して外挿することにより、バイオインピーダンス装置を用いる腎不全患者の乾燥重量を導出する方法及び装置を説明している。同様の手順により、健常者における偏差を説明し、かつある一定の組織に寄与する質量補正項を導出することができる。
【0006】
国際特許出願WO03/053239A1は、特にバイオインピーダンス測定の助けを借りて、水和不良容積及び他の組織部分を良好に分離するために健常者のある一定の身体区画における変動に対処する区画モデルを開示している。このような装置では、患者の栄養状態に関する情報も得ることができる。
米国特許第6,615,077号は、信号を治療の進行と相関させるために、バイオインピーダンス装置によって透析治療をモニタするための手法を説明している。
従来技術に鑑みて、非常に僅かな基本パラメータのみを必要とし、それにも関わらず同時に患者に関する水和、栄養、及び訓練状態に関して信頼性のある結果を与える簡単な方法に対する必要性が存在する。本発明の目的は、このような方法を提供することである。
【0007】
【特許文献1】国際特許出願WO92/19153
【特許文献2】米国特許第5,449,000号
【特許文献3】国際特許出願WO02/36004A1
【特許文献4】国際特許出願WO03/053239A1
【特許文献5】米国特許第6,615,077号
【特許文献6】国際特許出願PCT/EP2004/007023
【非特許文献1】K.J.Ellis著「人体組成:インビボ方法」、Physiological Reviews、第80巻、649ページ(2000年)
【発明の開示】
【0008】
本発明に関わる問題は、請求項1による方法により、すなわち、患者の化学的又は物理的特性を判断する段階と、判断した患者の化学的又は物理的特性、及び除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値に基づいて少なくとも1つの部分を導出する段階とを含む、患者の水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分の少なくとも1つを判断する方法によって解決される。
【0009】
本発明は、患者の身体を除脂肪組織区画、脂肪組織区画、及び水和不良区画に分けるモデルが、必要なパラメータの数を最小にし、かつ依然として信頼性のある結果を与えるのに既に適切であるという観察に基づいている。本発明者は、これは、一方では除脂肪組織、他方では脂肪組織に対して水容積又は質量比の値を確立するのに十分であることを更に認識した。モデルを適用するために、これらの比は、この方法を適用する患者と無関係な固定値として取ることができる。本発明の概念によれば、水和不良の水区画は別にして、患者内の差異のある水分布に寄与するのは、主にこれらの2つの種類の組織の個別の混合物であり、そのためにこの態様に対しては、これらの2つの種類の組織を明示的に考慮することで十分である。
【0010】
本発明の枠組みでは、脂肪組織は、細胞外液に懸濁したファットセル又は脂肪細胞から成ると考えられている。脂肪細胞自体は、主に脂質又は脂肪、及び少量の細胞内液から成る。脂肪組織と脂肪は、従って、それらが関連するとしても混同しないようにすべきである。脂肪は、単に純粋な脂質であるが、脂肪組織は、脂肪及び水の混合物である。脂肪細胞は、細胞外液のある一定の割合を結合し、それが、総脂肪組織質量を作り上げる。従って、この細胞外液は、自由流体ではなく、患者の過剰な流体を計算する時に考慮に入れる必要がある。
【0011】
従来技術では、人体を無脂肪質量及び脂肪質量区画に分割する2区画モデルが公知である(例えば、K.J.Ellis著「人体組成:インビボ方法」、Physiological Reviews、第80巻、649ページ(2000年))。このようなモデルでは、脂肪質量区画は、脂肪又は脂質のみから成るが、水を含む身体の残りの部分は、無脂肪質量区画にひとまとめにされる。これは、一方の非減少の水部分を含む脂肪組織と他方の除脂肪組織との間を区別する本発明とは異なるものである。除脂肪組織区画は、水和不良区画は別にして、ここでもまた、身体質量の「残り」として定義されるが、2つの組織は、その異なる水比率により更に区別される。
【0012】
本発明の目的はまた、非侵襲性で正確かつ容易に用いられる身体区画評価のための装置を提供することである。従って、本発明はまた、本発明による方法を実施するための請求項9による装置、すなわち、判断される患者の化学的又は物理的特性に対する値を提供するように構成された測定及び/又は入力ユニットと、判断した患者の化学的又は物理的特性、及び除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値に基づいて、水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分のうちの少なくとも1つの部分を導出するように構成された評価ユニットと、測定及び/又は入力ユニットと評価ユニットの間の通信リンクとを含む装置に関する。
【0013】
好ましい実施形態では、評価ユニットはまた、患者の化学的又は物理的特性の少なくとも1つを判断するための測定及び/又は入力ユニットを制御するように構成される。
更に別の好ましい実施形態では、評価ユニットは、マイクロプロセッサユニットであり、これは、それ自体、マイクロプロセッサプログラム記憶ユニットを含み、マイクロプロセッサプログラム記憶ユニットには、判断した患者の化学的又は物理的特性、及び除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値に基づいて少なくとも1つの部分を導出するためのプログラムが記憶される。
【0014】
評価ユニットがマイクロプロセッサ記憶ユニットを含む本発明による方法を実施するために本発明による装置に記憶されるコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体を含む、請求項18によるコンピュータプログラム製品も本発明の一部を構成する。
本発明の様々な更に別の実施形態も、独立請求項の従属請求項の対象である。
本発明の理解を助けるために、添付図面を参照して非制限的な例を以下に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1aに示すように、患者の身体は、3つの部分に分けることができ、すなわち、質量MEXの過剰流体又は水和不良部分、質量MLTの除脂肪組織部分、及び質量MATの脂肪組織部分である。図1aには、3つ全ての部分に対して、細胞外水(ECW)及び細胞内水(ICW)も、他の寄与因子(ミネラル、タンパク質、脂質等)と共に示されている。主にECV空間に貯留する過剰な流体MEXは、患者の水和不良状態の指標である。健常人のMEXは、消滅すると考えられる。MEXはまた、患者が過剰に水和されている水和状態を表す負の値を有することもある。
除脂肪及び脂肪組織は、本出願の枠組みでは、その水含量により区別される。除脂肪組織質量MLTは、骨、臓器(血液を含む)、及び筋肉を含むが、脂質は含まない。更に精巧なモデルは、骨又は他の組織の影響を含むと考えることができるが、本明細書の目的ではこのような改良点は無視する。一方、脂肪組織質量MATは、ファットセル又は脂肪細胞の形で、主に脂質及び水から成ると仮定する。
【0016】
本発明の概念によれば、第1の組織としての除脂肪組織内の水の質量比ΛLTと、第2の組織としての脂肪組織内の水の対応する質量比ΛATとの間を区別することが必要である:
【数1】

【数2】

式中Dは、水の密度であり(D=O.99823キログラム/リットル(36℃);本発明においては、単一の密度値で十分であると考えられるが、異なる水区画の溶液により小さな変動が導入されることもある)、ECWLT及びICWLTは、除脂肪組織内の細胞外及び細胞内の水の容積であり、後者は、総質量MLTを有し、ECWAT及びICWATは、脂肪組織内の細胞外及び細胞内の水の容積であり、後者は、総質量MATを有する。式(1)及び式(2)は、勿論、本発明の概念から離れることなく、容積/質量として、又は質量/容積として、組織容積あたりの比率の形で書くことができる。水が一方では除脂肪組織に対して寄与し、他方では脂肪組織に対して寄与することを別々に考慮するということが重要なだけである。
【0017】
比ΛLT及びΛATの各々は、細胞外水からの寄与ΛECW、及び細胞内水からの寄与ΛICWを有する。
【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

本発明の概念によれば、少なくとも質量比ΛLT及びΛATに対する値を事前に判断することで十分である。本発明の更に精巧な実施形態では、式(3)から式(6)の一部又は全てによって形成される質量比を用いる。このような値を判断するために、様々な実験的方法を用いることができる。これらの値が確立した状態で、以下に示すように、通常の用途にはかなり簡単な式の組を用いることができ、これは、あまり精巧でない実験的方法と共に用いても、3つの身体部分MEX、MLT、及びMATの質量に対して正確で信頼性のある結果を得ることができる。
【0018】
基準データとして二重X線吸光光度分析法(DXA)又は希釈実験を用いると、除脂肪組織及び脂肪組織の質量部分に関係なく細胞外及び細胞内の水の質量比を導出することができる。このような方法及び他の方法の良いレビューは、K.J.Ellisの上述の論文に与えられている。
DXAでは、異なる光子エネルギを有する2つのX線光子の減衰が比較される。その結果、患者の脂肪質量MLIPIDと、DXAによる除脂肪組織質量MLT,DXAと、総骨塩量質量MTBMCとの間を区別することができる。これらの質量部分の本発明により用いられる部分に対する関係が図1bに示されている。脂肪質量MLPIDは、脂肪組織の脂肪脂質のみを表しており、脂肪水を表していないことに注意することが重要である。更に、除脂肪組織質量MLTは、DXAによる除脂肪組織質量MLT,DXAの一部及び総骨塩量質量MTBMCの一部を含む。一方、DXAによる除脂肪組織質量MLT,DXAは、水和不良質量MEX及び脂肪水質量も含む。
【0019】
更に別の基準方法として希釈実験の助けを借りると、ちょうど選択した区画で希釈される適切なトレーサ物質を選択することによって身体のある一定の区画を判断することができる。典型的な例は、ECW、ICW、又は総体内水分(TBW)容積である。
このような実験から基準データを取ると、式(1)から式(6)の質量比は、最適化により導出することができ、できるだけ多くの個体に対して観察したデータをできるだけ綿密に写像するように努める解析的方法によっても導出することができる。このような手順の結果の例は、図2に集められている。
【0020】
除脂肪組織質量部分の水質量比ΛLT、ΛECW,LT、又はΛICW,LTの少なくとも1つ及び脂肪組織質量部分の水質量比ΛAT、ΛECW,AT、又はΛICW,ATの少なくとも1つを事前に判断した状態で、逆に、基準データを得るのに用いた実験的方法の全てを用いることを必要とせずに、患者の化学的又は物理的特性の通常の実験的測定データから水和不良質量MEX、除脂肪組織質量MLT、及び脂肪組織質量MATの質量の少なくとも1つを導出することができる。通常の測定により判断される化学的又は物理的特性の種類に応じて、本発明の様々な方式が可能である。本発明による例示的な装置を詳細に説明する前に、本発明によるこのような方法に対する5つの実施例を説明する。
【実施例1】
【0021】
判断される患者の化学的又は物理的特性:
ECW:患者の総細胞外水の容積
ICW:患者の総細胞内水の容積
M:患者の全身質量
これらの特性の各々は、3つの部分からの寄与に分けることができる:
【数7】

【数8】

【数9】

式(3)から式(6)、式(7)から式(9)は、3つ全ての部分の質量に対して解くことができる:
【数10】

ここで、
【数11】

【数12】

及び、
【数13】

【実施例2】
【0022】
判断される患者の化学的又は物理的特性:
TBW:患者の総体内水分の容積
TBMC:患者の総骨塩量の質量
M:患者の全身質量
総体内水分TBWは、3つの部分からの3つのパートに分けることができる:
【数14】

除脂肪組織質量MLTは、この実施例では、水比及び主にミネラル及びタンパク質に起因する残りの比MMin+Proに分けられる:
【数15】

TBMCを個体が有するMMin+Proの総骨塩量質量MTBMCの占有率とすれば、以下が得られる:
【数16】

ここで、kTBMCの典型的な値は、0.2074である。質量均衡式(9)と共に、3つの部分質量に対して式(14)から式(16)の組を解くことができる:
【数17】

【数18】

及び、MATは、式(13)を用いて得られる。
【実施例3】
【0023】
判断される患者の化学的又は物理的特性:
TBW:患者の総体内水分の容積
LIPID:患者の脂質質量
M:患者の全身質量
水和不良水の質量は、以下のように表すことができる:
【数19】

ここで、TWLTは、除脂肪組織内の細胞外及び細胞内水容積の合計であり、TWATは、脂肪組織内の細胞外及び細胞内水容積の合計である。脂質質量MLIPIDは、患者の脂質が脂肪組織内の水質量を含まない脂肪組織の質量MATである:
【数20】

式(1)及び式(2)を利用することによって式(13)及び式(20)を式(19)に代入し、個体が得る水和不良水質量MEXについて解くと以下が得られる:
【数21】

ATは、式(20)を解くことによって計算することができ、MLTは、式(9)を解くことによって計算することができる:
【数22】

及び、
【数23】

【実施例4】
【0024】
判断される患者の化学的又は物理的特性:
ECW:患者の総細胞外水の容積
LIPID:患者の脂質質量
M:患者の全身質量
水和不良水の質量は、以下のように表される。
【数24】

ここで、パラメータは、実施例1に定めた通りである。式(2)、式(3)、及び式(5)を利用することによって式(13)及び式(22)を式(24)に代入し、個体が得る水和不良水質量MEXについて解くと以下が得られる:
【数25】

AT及びMLTは、実施例3と同様に、すなわち、式(22)及び式(23)により導出することができる。
【実施例5】
【0025】
判断される患者の化学的又は物理的特性:
ECW:患者の総細胞外水の容積
ICV:患者の総細胞内細胞の容積
M:患者の全身質量
この実施例は、実施例1と類似している。しかし、ICWの代わりに、水でない物質の容積を含む全体としての細胞内容積ICVを判断する。この場合、式(3)から式(6)に定義されるような水質量比に関する別の定数を導入することが有用である。
【0026】
ICWと同様に、総ICVは、脂肪組織のためのICVAT部分と、除脂肪組織のためのICVLT部分とに分けることができる。これらは、比例定数ζLT及びζAT(国際特許出願PCT/EP2004/007023から取った例示的な値は、ζLT=0.620リットル/キログラム、ζAT=0.987リットル/キログラム)により除脂肪組織部分の質量MLTと脂肪組織部分のMATとに関連する:
【数26】

式(9)を用いてMATを式(26)に代入し、得られる式をMLTに対して解くと式(27)を得る:
【数27】

【0027】
除脂肪組織質量MLTを導出することを可能にするためには、水和不良質量MEXを計算する必要がある。開始点は、ここでもまた、この部分がECV空間に全体が現れる、すなわち、水和不良水容積を式(7)を解くことによってECWEXとして導出することができることを観察することである。
除脂肪組織の単位質量あたりの細胞外水の容積λECW,LTに対する以下の定義:
【数28】

を用い、脂肪組織の単位質量あたりの細胞外水の容積λECW,ATに対する定義:
【数29】

を用い、更に、以下の定義:
【数30】

を導入し、式(9)及び式(27)を利用して式(7)を解くことができる:
【数31】

ここで、DECWは、細胞外水の密度(=0.99823キログラム/リットル)である。水和不良容積ECWEX(従って、水和不良質量MEX)を判断した状態で、除脂肪組織質量MLTは式(27)から、脂肪組織質量MATは式(13)から計算することができる。
【0028】
5つの全ての実施例に見られるように、判断する必要がある患者の化学的又は物理的特性は、実施例によって変動する場合がある。しかし、全ての実施例において、判断した化学的又は物理的特性、及び除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値に基づいて、患者の水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分の少なくとも1つを判断することができる。従って、本発明の一般的な概念は、患者の特定の特性を判断する必要がある特定の方法には限定されない。少なくとも1つの身体部分を導出するための本発明の重要な要素は、事前に判断した除脂肪組織の水の質量又は容積比、及び脂肪組織の水の質量又は容積比の値を適切に利用することである。方法だけではなく、本発明によるあらゆる装置にも同じことが当て嵌まる。
【0029】
ここで、実施例1による方法を用いて、本発明による装置の実施形態を詳細に説明する(図3)。装置10は、マイクロプロセッサユニット1から成る評価ユニットを含み、マイクロプロセッサユニット1は、それ自体、マイクロプロセッサプログラム記憶ユニット1aを含む。通信リンク4により、マイクロプロセッサユニット1は、インタフェースユニット2及びコンピュータ記憶ユニット3に接続される。マイクロプロセッサプログラム記憶ユニット1aには、患者の質量MEX、MLT、及び/又はMATを判断するためのプログラムが記憶されている。このプログラムは、プログラムを記憶したフロッピーディスク、CD−ROM、DVD、メモリスティック、サーバ、又はあらゆる他の適切な記憶媒体のようなコンピュータプログラム製品からマイクロプロセッサプログラム記憶ユニット1aに予め転送することができる。この場合、装置10は、コンピュータプログラム製品の種類によって当業者にはそのデザインが明らかである必要なインタフェース回路(図示せず)を含む。
【0030】
マイクロプロセッサプログラムは、2つ又はそれよりも多くの周波数に対する患者のインピーダンス値を判断するように装置を制御する。対応する測定では、装置10は、通信リンク6によりインタフェースユニット2に接続されたバイオインピーダンス測定手段5を含む。バイオインピーダンス測定手段5は、接触抵抗のようなインピーダンスデータに関する影響を自動的に補正することができる。このようなバイオインピーダンス測定手段5の例は、「Xitron Technologies」から商標「Hydra(登録商標)」で販売されており、WO92/19153にも説明されている装置である。
【0031】
バイオインピーダンス測定に対しては、様々な電極配列が可能である。図3では、2つの電極要素5a及び5bのみがバイオインピーダンス測定装置5に取り付けられている。各電極ユニット5a及び5bは、電流注入電極及び電位吸収電極(図示せず)から成る。図4の左側部分に概略を示すように、2つの電極ユニット5a及び5bを患者の手首及び足首にそれぞれ付けることにより、全身インピーダンスを判断することができる。この電極構成では、身体は、胴体、脚、及び腕を表すいくつかの均一な円筒形の組合せと見なすことができる。これらの部分の主に円筒形の断面が異なることによってもたらされる総インピーダンスに及ぼす平均的な寄与も図4に示されている。
【0032】
肩及び腰に付加的な電極を用いることにより、これらの円筒形セグメントは、別々に測定することができ、それによって容積測定の精度が上がる可能性がある。このような構成は、図4の右手側に表示している。付加的な電極ユニット5a’及び5b’が患者の肩及び腰の近くに取り付けられることにより、身体要素である脚、腕、及び胴体に対するセグメント化した手法を可能にする。
マイクロプロセッサ記憶ユニット1aに記憶されたプログラムは、少なくとも2つの所定の周波数でインピーダンス測定を開始し、対応する電流及び電圧信号を記録するが、装置が患者に何ら影響を及ぼすことなく非侵襲的に患者のインピーダンスを探るように、両方とも臨界閾値よりも低い。装置は、必ずしも医療従事者を必要とすることなく患者自体に容易に付加することができる。
【0033】
図3に示す実施形態に戻ると、患者の重量又は全身質量Mは、インタフェースユニット2(例えば、キーボード、タッチスクリーン等)に接続されるか又はその一部である何らかの入力ユニット(明確には示していない)を通じて装置10に入力することができる。これは、通信リンク8によりインタフェースユニット2に連結された重量測定手段7で補助することができる。
図3に示す実施形態では、インタフェースユニット2は、コンピュータ記憶ユニット3、マイクロプロセッサプログラム記憶ユニット1aに記憶されたプログラム、インタフェース2、及びバイオインピーダンス測定手段5の間の通信リンク4を通じて、全身質量Mの値及びあらゆる測定したインピーダンス又は印加した電流及び電圧値が直接交換されるインタフェースとして働く。図示のように、重量測定手段7に出入りするあらゆるデータは、通信リンクを通じて接続した部分間で直接転送することができる。
マイクロプロセッサ記憶ユニット1aに記憶されたプログラムは、この時点で、記憶されている予め確立したデータの助けを借りて、記憶されたデータを処理して様々な身体組織部分が全身質量Mに及ぼす寄与を判断する。
【0034】
上記に概要を示すように、ECWは、電極を通じて異なる周波数の交流が患者に印加されると身体組織の電気インピーダンスが変化するという事実を利用することによって判断される。低周波数では、細胞膜は、絶縁体として働き、印加された電流は、ECV空間、すなわち、ECW容積のみを通過する。高周波数では、細胞膜は、導電性が増し、従って、電流は、ICV及びECV空間の両方を通過する。少なくとも2つの周波数にわたり、より好ましくは周波数のある一定の範囲にわたってインピーダンスを測定することにより、ECW及びICWの両方を判断することが可能になる。上述の従来技術には、このような方法が開示されている。近年、特許出願PCT/EP2004/007023において、本発明と同じ発明者により更に精巧なモデルが開発されており、この開示内容は、本出願において引用によりここに明示的に含めるものとする。
【0035】
ECW、ICW、及び全身質量Mに対するいずれかの値が患者の化学的又は物理的特性として判断された状態で、マイクロプロセッサプログラムは、式(10)から式(13)を用いて、予め判断した除脂肪組織内の水の質量又は容積比及び脂肪組織内の水の質量又は容積比の値に基づいて、水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分、ここでは3つ全ての部分の質量MEX、MLT、及びMATの少なくとも1つに対する値を受け取る。
【0036】
結果は、最終的には、一般的にユーザに結果を表示する表示装置である出力ユニット9に完全に又は部分的に伝えられる。更に別の結果は、中間的結果であるか又は付加的な結果であるかに関係なく、ディスプレイの情報文字に加えることができるであろう。
区画の結果は装置に記憶され、以前に導出した結果を含むトレンド分析を可能にする。また、最新のデータ及び先のデータから加重平均値を導出することによってデータを円滑にすることが有用であることも示されている。この目的で、データの統計的変動を低減するために、当業技術では様々なアルゴリズムが利用可能である。表示される現在の結果に対する平均化手順における有用な改善は、最新の測定値に最高の重みを与え、測定を行ってから経過した時間が増大すると共に他の先に測定した値の重みを低減することによって得られた。
【0037】
本発明により開示した装置及び方法は、従って、患者の水和状態を管理するための強力で正確さに優れた技術を提供することができる。本発明で判断される脂肪組織部分の重量MAT及び/又は除脂肪組織部分の重量MLTにより、患者の栄養及び/又は訓練の状態に関する結論を出すことができる有用な別の結果がもたらされる。これは、患者が実際に水和不良状態であるか否かには関係ない。
【0038】
本発明の概念は、一方ではバイオインピーダンス測定手段の利用、他方では実施例1の適用にも限定されないことに注意することが重要である。実施例1の概念の適用では、患者の特性の値をどのように判断したかは関係がない。より詳細には、実施例2、実施例3、及び実施例4は、本発明の概念のこのような変化の例を示している。バイオインピーダンスの代わりに、一方では除脂肪組織、他方では脂肪組織の別々の特性を明らかにするのに適する他の技術を用いることができる。脂質質量MLPID又は総骨塩量質量MTBMCを判断するための技術の例として、DXA測定を想起するであろう。また、総体内水分、ICW、又はECWも希釈法により導出することができる。
【0039】
本発明による装置の最も簡単な実施形態では、このような装置は、そのような化学的又は物理的特性値を装置に入力することができる入力ユニットを含む。上述のように、このような装置は、少なくとも部分的には、患者の化学的又は物理的特性を判断するための測定手段を含むこともできる。このような場合、評価ユニットは、自動化された方法で患者の化学的又は物理的特性の測定を行うために測定ユニットも制御することができる。
【0040】
従って、いかなる治療様式とも関係なく、あらゆる個体を管理することができる。本発明は、血液透析、血液濾過、血液透析濾過、又はあらゆる形態の腹膜透析(これらの治療様式の全ては、本特許出願を通して専門用語「透析治療」でまとめられている)のような末期腎不全治療を受ける患者に特に適用可能である。水和状態の特徴付けはまた、このような患者では非常に異常な電解質状態及び流体状態になることが多いために、集中治療施設では非常に望ましい場合があるであろう。更に、測定は、家庭、薬局、医療所、透析ユニット、病棟、フィットネスセンターなどを含む栄養又は健康パラメータが要求される実質的にあらゆる施設で実用的と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1a】水和不良質量MEX、除脂肪組織質量MLT、及び脂肪組織質量MATを表す患者の身体の3つの部分を示す概略図である。
【図1b】二重X線吸光光度分析法(DXA)(左手側)から導かれた質量部分に関連して、図1a(右手側)による患者の身体の3つの部分を示す概略図である。
【図2】身体質量部分を計算するために本発明の例示的実施形態に必要な様々なパラメータに対する例示的な値の編集を示す図である。
【図3】本発明により患者の身体組成を評価するための装置の実施形態の概略図である。
【図4】全身バイオインピーダンス測定に対するバイオインピーダンス電極配列(左手側)及び分解身体バイオインピーダンス測定に対するバイオインピーダンス電極配列(右手側)を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
ECW 細胞外水
ICW 細胞内水
EX 水和不良部分質量
AT 脂肪組織部分質量
LT 除脂肪組織部分質量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の水和不良部分、脂肪組織部分、及び除脂肪組織部分のうちの少なくとも1つを判断する方法であって、
患者の化学的又は物理的特性を判断する段階と、
前記判断した化学的又は物理的特性と、除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値とに基づいて、前記少なくとも1つの部分を導出する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの部分は、前記患者のその部分の質量であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの部分は、前記患者のその部分の容積であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の前記化学的又は物理的特性は、該患者の全身質量、脂質質量、及び総骨塩量質量のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記患者の前記化学的又は物理的特性は、該患者の総水、細胞外水、及び細胞内水のうちの少なくとも1つの容積又は質量を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記事前に判断した値は、除脂肪組織の総水の質量又は容積比と脂肪組織の総水の質量又は容積比とを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記事前に判断した値は、除脂肪組織の細胞外水の質量又は容積比と脂肪組織の細胞外水の質量又は容積比とを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記事前に判断した値は、除脂肪組織の細胞内水の質量又は容積比と脂肪組織の細胞内水の質量又は容積比とを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置(10)であって、
判断される患者の化学的又は物理的特性に対する値を提供するように構成された測定及び/又は入力ユニット(5)と、
前記患者の前記判断した特徴と、除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値とに基づいて、少なくとも1つの部分を導出するように構成された評価ユニット(1)と、
前記測定及び/又は入力ユニット(5)と前記評価ユニット(1)の間の通信リンク(4、6)と、
を含むことを特徴とする装置。
【請求項10】
前記評価ユニット(1)はまた、前記患者の前記化学的又は物理的特性の少なくとも一方を判断するために前記測定及び/又は入力ユニットを制御するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記評価ユニットは、マイクロプロセッサユニット(1)であり、これは、それ自体、マイクロプロセッサプログラム記憶ユニット(1a)を含み、
前記マイクロプロセッサプログラム記憶ユニット(1a)には、前記患者の前記判断した化学的又は物理的特性と除脂肪組織の水の質量又は容積比及び脂肪組織の水の質量又は容積比の事前に判断した値とに基づいて前記少なくとも1つの部分を導出するためのプログラムが記憶されている、
ことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記マイクロプロセッサ記憶ユニット(1a)に記憶された前記プログラムはまた、前記患者の前記化学的又は物理的特性の少なくとも一方を判断するために前記測定及び/又は入力ユニット(5)を制御することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記測定ユニットは、前記患者の前記化学的又は物理的特性の少なくとも一方を判断するバイオインピーダンス測定手段を含むことを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記患者の前記化学的又は物理的特性の前記少なくとも一方は、該患者の細胞外水容積、細胞内水容積、又は総体内水分容積のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記測定ユニットは、前記患者の前記化学的又は物理的特性の少なくとも一方を判断する目盛りを含むことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記化学的又は物理的特性の前記少なくとも一方は、前記患者の全身質量であることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記評価ユニットによって導出されたあらゆるデータを出力し、好ましくは表示するために該評価ユニット(1)に連結された出力ユニット(9)を更に含むことを特徴とする請求項9から請求項16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
請求項11に記載の装置(10)のマイクロプロセッサプログラム記憶ユニット(1a)に記憶されるマイクロプロセッサプログラムが記憶されている記憶媒体、
を含むことを特徴とするコンピュータプログラム製品。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−504083(P2008−504083A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518463(P2007−518463)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014544
【国際公開番号】WO2006/002685
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(597075904)フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【Fターム(参考)】