説明

情報再生装置

【課題】垂直記録時の再生信号における上下の非対称性の影響を抑え,ビットエラーレートの改善を図ることの可能な情報再生装置を提供する。
【解決手段】ハードディスクドライブ100は,媒体108から読み出した信号の非対称性を補正する非対称補正回路128と,非対称補正回路の前段に設けられ,第1のカットオフ周波数でノイズを除去する第1のハイパスフィルタ124と,非対称補正回路の後段に設けられ,第1のカットオフ周波数よりも高い第2のカットオフ周波数でノイズを除去する第2のハイパスフィルタ130と,を備えたことを特徴とする。ハイパスフィルタを非対称補正回路の前段と後段とに分割して配置し,前段はカットオフ周波数を低く,後段はカットオフ周波数を高くして設定することにより,再生信号の非対称性の影響を抑え,ビットエラーレートの改善を図ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置にかかり,特に,垂直磁気記録媒体を用いた情報再生装置に関する。なお本発明は,再生信号が垂直磁気記録と同様に矩形状で上下の非対称性を持つような,他の情報再生装置への適用も可能である。また本発明は,少なくとも再生機能を有する装置に適用可能であるが,再生専用装置には限定されず,記録および再生が可能な装置,例えば,ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)等にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどにおける情報記録再生装置として,ハードディスクドライブが広く用いられている。ハードディスクドライブの記録方式として,従来の水平記録方式に替わり垂直記録方式が実用化されつつある。媒体上の磁化情報は磁界の垂直成分がリードヘッドによって読み出され,電圧信号として検出される。その際,リードヘッドのρH特性に非対称性がある場合には,再生信号が上下非対称となり,ビットエラーレート(Bit Error Rate:BER)の劣化が起こる。従来の水平記録方式においては一般的に,二乗回路と加算器からなる非対称補正回路によって,ビットエラーレートの補償を行っていた(例えば,特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−320206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,垂直記録方式では再生信号の波形が水平記録方式と異なるため,微分特性に近いフィルタリングを施して水平記録時の信号に近似させ,復調を行うのが一般的となっている。しかし,このフィルタリングを非対称補正回路の前段階で行うと,非対称が補正できないという問題が明らかになった。すなわち,水平記録方式の場合には非対称補正回路による補正が可能であったが,垂直記録方式の場合,ハイパスフィルタ(High Pass Filter:HPF)のカットオフ周波数の高域化(低周波成分の除去)により,非対称補正ができなくなるという問題が明らかになった。
【0005】
本発明は,従来の情報再生装置が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり,本発明の目的は,垂直記録時の再生信号における上下の非対称性の影響を抑えるとともに,ビットエラーレートの改善を図ることの可能な,新規かつ改良された情報再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため,本発明の第1の観点によれば,媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置であって,媒体から読み出した信号の非対称性を補正する非対称補正回路と,前記非対称補正回路の前段に設けられ,第1のカットオフ周波数でノイズを除去する第1のハイパスフィルタと,前記非対称補正回路の後段に設けられ,前記第1のカットオフ周波数よりも高い第2のカットオフ周波数でノイズを除去する第2のハイパスフィルタと,を備えたことを特徴とする,情報再生装置が提供される。
【0007】
上述のように,垂直記録方式の場合,ハイパスフィルタのカットオフ周波数の高域化(低周波成分の除去)により,非対称補正ができなくなるという問題があった。この点本発明では,第1のハイパスフィルタのカットオフ周波数の高い第2のカットオフ周波数でノイズを除去する第2のハイパスフィルタを,非対称補正回路の後段に配置している。第1のハイパスフィルタは主に,DC成分の除去(AC Coupling)等に用いられ,第2のハイパスフィルタの第一の目的は垂直記録方式の信号ノイズに適合した処理(一般には微分特性に近い処理)を行うことであり,第二の目的はサーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)の除去などである。このようにして,垂直記録時の再生信号における上下の非対称性の影響を抑え,ビットエラーレートの改善を図ることが可能である。
【0008】
上記本発明の情報再生装置において,前記非対称補正回路は,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けてもよい。例えば,プリアンプ回路とリードチャネルを別個の集積回路(IC)として構成する場合,非対称補正回路を,プリアンプ回路と同一の集積回路(同一のICチップ内)に設けてもよい。
【0009】
また,前記非対称補正回路だけでなく,前記第2のハイパスフィルタにつても,プリアンプ回路内に設けるようにしてもよい。例えば,プリアンプ回路とリードチャネルを別個の集積回路(IC)として構成する場合,非対称補正回路および第2のハイパスフィルタを,プリアンプ回路と同一の集積回路(同一のICチップ内)に設けてもよい。
【0010】
また,第1のハイパスフィルタにおける第1のカットオフ周波数は例えばクロック周波数(ビット周期の逆数)の1.1%とすることができる。また,第2のハイパスフィルタにおける第2のカットオフ周波数は例えばクロック周波数(ビット周期の逆数)の11%とすることができる。かかる場合に非対称補正の効果が最も改善され,さらに第2のハイパスフィルタによる波形等化の改善も得られるため,最も良好なビットエラーレート(Bit Error Rate:BER)が期待できる。
【0011】
上記課題を解決するため,本発明の第2の観点によれば,媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置であって,媒体から読み出した信号の非対称性を補正する非対称補正回路と,前記非対称補正回路の後段に設けられ,所定のカットオフ周波数でノイズを除去するハイパスフィルタと,を備えたことを特徴とする,情報再生装置が提供される。
【0012】
上記本発明の第1の観点にかかる情報再生装置において,非対称補正回路の前段に設けられる第1のハイパスフィルタは,主に,DC成分の除去(AC Coupling)等に用いられる。従って,回路的なDC成分の除去(AC Coupling)等の問題がなければ,非対称補正回路後の第2のハイパスフィルタのみを設ければよい。そこで,本発明の第2の観点にかかる情報再生装置では,少なくとも非対称補正回路の後段にハイパスフィルタを設ける構成を採用する。かかる構成によれば,回路的なDC成分の除去(AC Coupling)等の問題がないことを前提として,垂直記録時の再生信号における上下の非対称性の影響を抑え,ビットエラーレートの改善を図ることが可能である。
【0013】
上記本発明の情報再生装置において,前記非対称補正回路は,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けてもよい。例えば,プリアンプ回路とリードチャネルを別個の集積回路(IC)として構成する場合,非対称補正回路を,プリアンプ回路と同一の集積回路(同一のICチップ内)に設けてもよい。
【0014】
また,前記非対称補正回路だけでなく,前記ハイパスフィルタについても,プリアンプ回路内に設けるようにしてもよい。例えば,プリアンプ回路とリードチャネルを別個の集積回路(IC)として構成する場合,非対称補正回路および第2のハイパスフィルタを,プリアンプ回路と同一の集積回路(同一のICチップ内)に設けてもよい。
【0015】
また,ハイパスフィルタのカットオフ周波数は,例えばクロック周波数(ビット周期の逆数)の11%とすることができる。かかる場合に非対称補正の効果が最も改善され,さらにハイパスフィルタによる波形等化の改善も得られるため,最も良好なビットエラーレート(Bit Error Rate:BER)が期待できる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように,本発明によれば,ハイパスフィルタを非対称補正回路の後段に配置し,あるいは,非対称補正回路の前段と後段とに分割して配置し,前段はカットオフ周波数を低く,後段はカットオフ周波数を高くして設定することにより,再生信号の非対称性の影響を抑え,ビットエラーレート(Bit Error Rate:BER)の改善を図ることが可能である。その他の本発明の効果については,以下の発明を実施するための最良の形態で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら,本発明にかかる情報再生装置の好適な実施形態について詳細に説明する。以下では,本発明にかかる情報再生装置の一例として,垂直磁気記録媒体を用いたハードディスクドライブについて説明するが,本発明がこれに限定されるものではない。なお,本明細書および図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
まず,図1を参照しながら,ハードディスクドライブにおける記録および再生の流れを説明する。図1は,ハードディスクドライブ100の一構成例を示すブロック図であり,図中の矢印は情報の流れを示す。以下,情報の流れを中心に説明する。
【0019】
ハードディスクドライブ100は,リードチャネル102とプリアンプ部104とヘッド部106に大別される。リードチャネル部102とプリアンプ部104には,以下に説明する様々な機能を有する回路が集積されている。また,ヘッド部106は,媒体108に対する記録および再生を行う。
【0020】
(記録)
リードチャネル102にライトデータ110が入力されると,ランレングス符号化回路(Run Length Limited Code:RLL符号化)112でライトデータ110の符号化が行われ,記録補償回路(Write Pre-Compensation)114で記録パルスのタイミング補正が行われる。これはNLTS(Non-Linear Transition Shift)と呼ばれる,記録時の磁化反転のずれをあらかじめ補正するためのものである。この記録パルスはプリアンプ部104に送られる。そして,ライトドライバ116の制御により,記録パルスが記録電流に変換されてライトヘッド118に送られる。そして,ライトヘッド118のコイルに電流が流れ,そこで発生される磁界で媒体108への記録が行われる。
【0021】
(再生)
リードヘッド(MRヘッドとも称される)120によって再生された信号はプリアンプ(Pre-Amplifier)122で増幅され,リードチャネル102内のハイパスフィルタ(High Pass Filter:HPF)124に入力される。ハイパスフィルタ124の主な機能は電気回路的に問題となるDC成分の除去(AC Coupling)であるが,カットオフ周波数を高くして,サーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)などの除去にも用いられる。
【0022】
さらに,可変利得増幅器(Variable Gain Amplifier:VGA)126で振幅のばらつきが吸収され,非対称補正回路(MR Asymmetry Correction:MRAC)128によって上下振幅の非対称性が補正される(図2を参照しながら後述する)。非対称補正回路126により上下振幅の非対称性が補正された信号は,ローパスフィルタ130によりノイズが除去された後,アナログデジタル変換器132によりデジタル信号に変換される。このデジタル信号は,デジタルフィルタ134により所望の形に変形された後,ビタビ復号器238にて最尤復号される。さらに,ランレングス復号化回路138にてランレングス復号化処理されて,リードデータ140として出力される。
【0023】
図2はリードヘッド120の入出力特性(ρH特性)を示す説明図である。
【0024】
線形な場合,すなわち非対称性が無く0%の場合(図中の破線)と,非対称性が−30%の場合(図中の実線)を示す。非対称性が−30%の場合,図中の実線のグラフは2次の関数で近似でき,非対称性はこの2次成分からなる。非補正対称回路128では入力信号を二乗し,これを元の入力信号に加算(あるいは減算)することで2次成分の除去を行い,非対称性の補正を行う。
【0025】
図3〜図6は,水平記録方式(Longitudinal Magnetic Recording:LMR)と垂直記録方式(Perpendicular Magnetic Recording:PMR)の信号波形を比較するための説明図である。
【0026】
図3は,水平記録方式の場合のリードヘッド120の出力であり,非対称性が無い場合(図中の破線)と−30%の場合(図中の実線)の例を示す。この両者の差は前述した二乗操作と加算器で埋めることが可能である。
【0027】
図4は,水平記録方式の場合のハイパスフィルタ124の出力であり,カットオフ周波数をクロック周波数(ビット周期の逆数)の0.6%に設定した場合を示している。図3のリードヘッド120の出力とほぼ同じ形をしており,非対称補正回路128で十分補正され得る。この例ではハイパスフィルタ124のカットオフ周波数はクロック周波数(ビット周期の逆数)の0.6%に設定しているが,通常のサーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)の除去(TA補正とも称される。)を行わない場合には,0.5〜1%程度に設定されるのが一般的である。
【0028】
一方,図5は,垂直記録方式の場合のリードヘッド120の出力であり,非対称性が無い場合(図中の破線)と−30%の場合(図中の実線)の例を示す。このように,垂直記録方式では,水平記録方式の場合と波形が異なる。そこで水平記録方式と同様の復調方法を行うためには,微分処理を行う必要がある。
【0029】
図6は,カットオフ周波数を上げた場合のハイパスフィルタ124の出力であり,非対称性が無い場合(図中の破線)と−30%の場合(図中の実線)の例を示す。このように,垂直記録方式においても,ハイパスフィルタ124のカットオフ周波数を上げることで,容易に近似的な微分波形を得ることができる。しかしながら,振幅の非対称性は上下のタイミングのずれ(正側ピークは前方に負側ピークは後方にシフト)に代わり,従来の非対称補正回路では補正が不可能となる。
【0030】
そこで本実施形態では,図7に示した構成を採用することにより,上記問題点を解決する。以下に,本実施形態にかかるハードディスクドライブ200について説明する。
【0031】
ハードディスクドライブ200は,図7に示したように,リードチャネル部202とプリアンプ部204とヘッド部206に大別される。リードチャネル部202とプリアンプ部204には,以下に説明する様々な機能を有する回路が集積されている。リードチャネル部202とプリアンプ部204は,別個のICチップ上に形成してもよく,同一のICチップ上に形成してもよい。また,ヘッド部206は,媒体208に対する記録および再生を行う。以下,リードチャネル部202とプリアンプ部204の回路を中心に各構成要素を説明する。
【0032】
ランレングス符号化回路(Run Length Limited Code:RLL符号化)212は,リードデータ210の符号化を行う回路である。このランレングス符号化回路212は,ライトデータ210の情報“0”の長さを制限して符号化を行うことから,ゼロ連続制限符号化回路とも称される。このランレングス符号化回路212で符号化されたライトデータはパルス信号(以下,記録パルスという。)として後段に送られる。
【0033】
記録補償回路(Write Pre-Compensation)214は,記録パルスのタイミング補正を行う回路であり,記録時に発生するライトヘッドと媒体と相互作用による磁化反転のずれをタイミング補正する回路である。この磁化反転のずれは,NLTS(Non-Linear Transition Shift)と呼ばれる。
【0034】
記録補償回路214で補正された記録パルスは,プリアンプ部204のライトドライバ216に送られる。ライトドライバ216は,デジタル信号である記録パルスを,電気信号である記録電流に変換する。このような機能から,ライトドライバ216は,電流駆動回路とも称される。
【0035】
記録補償回路214で変換された記録電流は,ライトヘッド218に送られる。ライトヘッド218は,コイルで構成されている。このコイルに記録電流が流れ,コイルで発生される磁界で媒体208への磁気記録が行われる。
【0036】
リードヘッド220は,媒体208から読み出した磁界を抵抗変換することで,媒体208に記録された情報を電気信号として読み出すヘッドである。かかるリードヘッド220としては,ジャイアントMR効果を利用したGMRと称されるヘッドや,トンネル効果を利用したTMRと称されるヘッドなどを利用することができる。これらはMRヘッドと総称される。
【0037】
リードヘッド220によって再生された信号はプリアンプ(Pre-Amplifier)222で増幅される。プリアンプ222で増幅された信号は,リードチャネル部202の初段に設けられた第1のハイパスフィルタ(High Pass Filter:HPF)224に入力される。第1のハイパスフィルタ224の主な機能は電気回路的に問題となるDC成分の除去(AC Coupling)である。以下では説明の便宜上,第1のハイパスフィルタ224のカットオフ周波数を,第1のカットオフ周波数という。第1のカットオフ周波数の詳細についてはさらに後述する。
【0038】
可変利得増幅器(Variable Gain Amplifier:VGA)226は,第1のハイパスフィルタ224を介した信号の振幅のばらつきを吸収する機能を有する。
【0039】
非対称補正回路(MR Asymmetry Correction:MRAC)228は,可変利得増幅器226を介した信号の上下振幅の非対称性を補正するための回路である。
【0040】
第2のハイパスフィルタ(High Pass Filter:HPF)230は,垂直記録方式の信号・ノイズに適合した処理を行うフィルタである。一般には微分特性に近い処理を行う。このために第2のハイパスフィルタ230は,第1のハイパスフィルタ224のカットオフ周波数(第1のカットオフ周波数)よりも高いカットオフ周波数特性を有する。以下では説明の便宜上,第2のハイパスフィルタ230のカットオフ周波数を,第2のカットオフ周波数という。第2のカットオフ周波数の詳細についてはさらに後述する。
【0041】
第2のハイパスフィルタ230の主な機能は,サーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)の除去と,垂直記録方式の信号・ノイズに適合した処理(一般には微分特性に近い処理)である。サーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)とは,MRヘッドが使われることに起因するリードエラーである。媒体上に何らかの異物(突起やごみなど)があった場合に,MRヘッドがその異物に衝突し,その衝突のエネルギーで素子の温度が上がる。すると,MRヘッドの抵抗値が変わり,媒体から得られた磁界の信号変化と区別が付かなくなってしまう。そこで,第2のハイパスフィルタ230は,カットオフ(Cutoff)周波数を高くして,サーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)の除去を行う。
【0042】
このように本実施形態では,近似的な微分操作を行う第2のハイパスフィルタ230を非対称補正回路228の後段に配置する。第1のハイパスフィルタ224では従来と同様にDC成分の除去(AC Coupling)を行い,第2のハイパスフィルタ230ではカットオフ周波数を第1のハイパスフィルタよりも上げて,サーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)を除去するとともに,垂直記録方式の信号・ノイズに適合した処理(一般には微分特性に近い処理)を行う。
【0043】
ローパスフィルタ(Low Pass Filter)232は,アナログ的なフィルタであり,ノイズを除去するフィルタである。ローパスフィルタ230は,例えばローパスフィルタとすることができる。さらに,ローパスフィルタ230は,強調したい周波数の信号を強調する機能(ブースト機能)を併せ持つことも可能である。
【0044】
アナログデジタル変換器(Analog/Digital Converter:ADC)234は,アナログ信号である電気信号を,デジタル信号であるパルス信号に離散化する機能を有する。
【0045】
デジタルフィルタ(Finite Impulse Response Filter:FIRフィルタ)236は,離散化されたデジタル信号を所望の形にするフィルタである。
【0046】
ビタビ復号器(Viterbi Detector)238は,デジタル信号を最尤復号する。すなわち,デジタル信号を最も適切な信号に復号する。
【0047】
ランレングス復号化回路(Run Length Limited Decode:RLL復号化)240は,ビタビ復号器238により復号された信号をランレングス復号化処理して,リードデータ242とする。
【0048】
図7に示した構成はハードディスクドライブの一構成例に過ぎず,必ずしもすべての構成要素(機能ブロック)が必須のものではない。また,別の構成要素が追加されていてもよい。
【0049】
以上,本実施形態にかかるハードディスクドライブ200の構成について説明した。本実施形態では,近似的な微分操作を行う第2のハイパスフィルタ230を非対称補正回路228の後段に配置し,第1のハイパスフィルタ224では従来と同様にDC成分の除去(AC Coupling)を行う。そして,第2のハイパスフィルタ230では,カットオフ周波数を第1のハイパスフィルタよりも上げて垂直記録方式の信号・ノイズに適合した処理(一般には微分特性に近い処理)を行う点を特徴とする。
【0050】
(シミュレーション結果)
図8に実際の垂直記録方式の再生波形を用いてハイパスフィルタの影響をシミュレーションした結果を示す。図8において縦軸は,ビットエラーレート(Bit Error Rate:BER)の指標となるパラメータ(Viterbi信頼度情報)である。図1に示した構成においてハイパスフィルタ124のカットオフ周波数=1.1%の場合には,従来の非対称補正によりビットエラーレートは改善されて行く。一方,ハイパスフィルタ124のカットオフ周波数=11%の場合には従来の非対称補正の効果は弱まる。
【0051】
そこで,図7に示した構成のように,非対称補正回路228の前段に第1のハイパスフィルタ224を設け,後段に第2のハイパスフィルタ230を設ける。そして,前段の第1のカットオフ周波数=1.1%,後段の第2のカットオフ周波数=11%とした場合には,非対称補正の効果は改善され,さらに,第2のハイパスフィルタ230による波形等化の改善も得られるため,最も良好なビットエラーレートが期待できる。
【0052】
(本実施形態の効果)
以上説明したように,本実施形態によれば,非対称補正回路の前段と後段にハイパスフィルタを置き,前段のカットオフ周波数=1.1%,後段のカットオフ周波数=11%とした場合には,非対称補正の効果は改善され,しかも第2のハイパスフィルタによる波形等化の改善も得られるため,最も良好なビットエラーレートが期待できる。
【0053】
以上,添付図面を参照しながら本発明にかかる情報再生装置の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば,上記実施形態では2つのハイパスフィルタを用いた場合について説明したが(図7),本発明はこれに限定されない。回路的なDC成分の除去(AC Coupling)等の問題がなければ,非対称補正回路後の第2のハイパスフィルタのみでよい。
【0055】
また,図7に示した構成では,第2のハイパスフィルタは非対称補正回路の直後に設けているが,本発明はこれに限定されず,非対称補正回路の後段(特に,非対称補正回路とアナログデジタル変換器の間)であれば,どこに挿入してもよい。
【0056】
また,プリアンプ部にもハイパスフィルタが設けられることがあるが,これも非対称補正回路の前段であるため,第1のハイパスフィルタと同じ扱いになる。変形例として,プリアンプ部に非対称補正回路を設けた場合も,その非対称補正回路よりも前段のハイパスフィルタに比べて,後段のハイパスフィルタのカットオフ周波数を高くすれば,同様の効果が期待できる。この場合の後段のハイパスフィルタは,プリアンプ部またはリードチャネル部のいずれに設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は,記録媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置に利用可能であり,特に,垂直磁気記録媒体を用いた情報再生装置に利用可能である。なお本発明は,再生信号が垂直磁気記録と同様に矩形状で上下の非対称性を持つような,他の情報再生装置への適用も可能である。また本発明は,少なくとも再生機能を有する装置に適用可能であるが,再生専用装置には限定されず,記録および再生が可能な装置,例えば,ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ハードディスクドライブの記録/再生の流れを示す説明図である。
【図2】リードヘッドの入出力特性(ρH特性)を示す説明図である。
【図3】水平記録方式の場合のリードヘッドの出力を示す説明図である。
【図4】水平記録方式の場合のハイパスフィルタの出力を示す説明図である。
【図5】垂直記録方式の場合のリードヘッドの出力を示す説明図である。
【図6】垂直記録方式の場合のハイパスフィルタの出力を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかるハードディスクドライブを示す説明図である。
【図8】ハイパスフィルタのカットオフ周波数がビットエラーレートに与える影響を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
200 ハードディスクドライブ
202 リードチャネル部
204 プリアンプ部
206 ヘッド
208 媒体
210 ライトデータ
212 ランレングス復号化回路
214 記録補償回路
216 ライトドライバ
218 ライトヘッド
220 リードヘッド
222 プリアンプ
224 第1のハイパスフィルタ
226 可変利得増幅器
228 非対称補正回路
230 第2のハイパスフィルタ
232 ローパスフィルタ
234 アナログデジタル変換器
236 デジタルフィルタ
238 ビタビ検波器
240 ランレングス符号化回路
242 リードデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置であって,
媒体から読み出した信号の非対称性を補正する非対称補正回路と,
前記非対称補正回路の前段に設けられ,第1のカットオフ周波数でノイズを除去する第1のハイパスフィルタと,
前記非対称補正回路の後段に設けられ,前記第1のカットオフ周波数よりも高い第2のカットオフ周波数でノイズを除去する第2のハイパスフィルタと,
を備えたことを特徴とする,情報再生装置。
【請求項2】
前記非対称補正回路は,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けられることを特徴とする,請求項1に記載の情報再生装置。
【請求項3】
前記非対称補正回路および前記第2のハイパスフィルタは,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けられることを特徴とする,請求項1に記載の情報再生装置。
【請求項4】
媒体に記録された情報の再生を行う情報再生装置であって,
媒体から読み出した信号の非対称性を補正する非対称補正回路と,
前記非対称補正回路の後段に設けられ,所定のカットオフ周波数でノイズを除去するハイパスフィルタと,
を備えたことを特徴とする,情報再生装置。
【請求項5】
前記非対称補正回路は,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けられることを特徴とする,請求項4に記載の情報再生装置。
【請求項6】
前記非対称補正回路および前記ハイパスフィルタは,前記媒体から読み出した信号を増幅するプリアンプ回路内に設けられることを特徴とする,請求項4に記載の情報再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−157185(P2007−157185A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346721(P2005−346721)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】