説明

情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム

【課題】複数機器全体の消費電力から、各人の各機器に対する消費電力を算出することができるようにする。
【解決手段】機器消費電力推定部は、複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定する。機器存在確率推定部は、機器が領域に存在する確率である機器存在確率を推定する。責任分担率決定部は、領域における消費電力を大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定する。消費電力割当部は、複数の機器それぞれの消費電力、機器存在確率、及び責任分担率に基づいて、各人の消費電力の割当量を計算する。本技術は、例えば、家庭において、家族の各人の消費電力を推定する情報処理装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関し、特に、複数機器全体の消費電力から、各人の各機器に対する消費電力を算出することができるようにする情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
各家庭において、電源供給の大元となる配電盤の一箇所の電流波形をクランプ電流計などで計測することにより、それより下流側に接続されている複数の電気機器の使用状態(ON/OFF状態)をモニタリングするシステムが提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
このような家庭内の各電気機器の使用状態を可視化する目的は、ユーザの電力使用状況の把握を通じた電力使用量削減またはピーク電力値の抑制である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−039492号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“電気機器の非侵入型可動状態モニタリングシステム−稼働の離散状態に着目した整数計画法による解法−”、第42回計測自動制御学会離散事象システム研究会、pp.33-38,Dec 20,2008,大阪大学
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、より具体的に、「誰が」、「どの機器を」、「どのくらい」使ったのかまで具体的に示されなければ、個人が電気機器の使用行動を改善する手掛かりが少なく、節電へのモチベーションも乏しくなってしまう。
【0007】
本技術は、このような状況に鑑みてなされたものであり、複数機器全体の消費電力から、各人の各機器に対する消費電力を算出することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の一側面の情報処理装置は、複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定する機器消費電力推定部と、前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定する機器存在確率推定部と、前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定する責任分担率決定部と、前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する消費電力割当部とを備える。
【0009】
本技術の一側面の情報処理方法は、複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算するステップを含む。
【0010】
本技術の一側面のプログラムは、コンピュータに、複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する処理を実行させるためのものである。
【0011】
本技術の一側面においては、複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力が推定され、前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率が推定され、前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率が決定され、前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量が計算される。
【0012】
なお、プログラムは、伝送媒体を介して伝送することにより、又は、記録媒体に記録して、提供することができる。
【0013】
情報処理装置は、独立した装置であっても良いし、1つの装置を構成している内部ブロックであっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本技術の一側面によれば、複数機器全体の消費電力から、各人の各機器に対する消費電力を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本技術が適用された情報処理装置の一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【図2】個人の消費電力量を求める第1の計算方法を説明する概念図である。
【図3】第1の消費電力量計算処理を説明するフローチャートである。
【図4】個人の消費電力量を求める第2の計算方法を説明する概念図である。
【図5】第2の消費電力量計算処理を説明するフローチャートである。
【図6】消費電力の算出方法の例を説明する図である。
【図7】消費電力の算出方法の例を説明する図である。
【図8】消費電力の算出方法の例を説明する図である。
【図9】個人存在確率の算出方法の例を説明する図である。
【図10】個人存在確率の算出方法の例を説明する図である。
【図11】個人存在確率の算出方法の例を説明する図である。
【図12】Factorial HMMを用いた消費電力推定技術を説明する図である。
【図13】Factorial HMMを用いた消費電力推定技術を説明する図である。
【図14】Factorial HMMを用いた消費電力推定技術を説明する図である。
【図15】Factorial HMMを用いた消費電力推定技術を説明する図である。
【図16】本技術が適用されたコンピュータの一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.情報処理装置の構成例
2.個人iの消費電力量Wiの計算方法(第1および第2の計算方法)
3.消費電力wk(t)の算出方法
4.個人存在確率Sji(t)の算出方法
5.機器存在確率Ejk(t)の算出方法
6.責任分担率Rij(t)の算出方法
7.消費電力推定技術の例
【0017】
[情報処理装置の構成例]
図1は、本技術が適用された情報処理装置の一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【0018】
図1に示される情報処理装置1は、複数の小領域に分割される大領域内で活動する複数の個人(ユーザ)それぞれについて、大領域内に配置されている複数の機器(電気機器)および領域ごとの消費電力を割り出し、出力(提示)する処理を行う。
【0019】
換言すれば、情報処理装置1は、複数の小領域に分割される大領域内で活動する複数の個人(ユーザ)それぞれについて、「誰が」、「どの機器を」、「どのくらい」使用したか(消費電力がいくらか)を算出し、出力する。
【0020】
ここで、大領域と小領域の関係は、家庭で言えば、家(住宅)全体と、居室、キッチン、書斎等の各部屋の関係に相当し、オフィスで言えば、会社全体のスペースと、部署単位等に区切った小スペースの関係に相当する。以下では、理解を容易にするため、家庭の例で説明することとして、ある一軒の家庭(住宅)において、家族の構成員i(i=1乃至I)が、どの機器k(k=1乃至K)を、どのくらい使用したかを算出するものとして説明する。家族の構成員iは、父親、母親、子供などであり、以下では、単に、人i、個人iなどともいう。また、家にはJ個(J>2)の部屋があることとし、家族の構成員iは、外出しない限り、部屋1乃至Jのいずれかに居るものとする。
【0021】
ある時刻tでは誰々が所定の機器kを使用している、という人と機器との関係を示す情報が取得できれば、「誰が」、「どの機器を」、「どのくらい」使用したかを算出することは容易である。しかし、家庭内の全ての機器において、その使用者を認識できるようにするのは現実的ではない。そこで、情報処理装置1では、人と機器との関係を示す情報を得ることができない場合においても、各人の消費電力を算出することができるような構成が採用されている。以下、情報処理装置1の具体的構成について説明する。
【0022】
情報処理装置1は、機器消費電力推定部11、個人存在確率推定部12、機器存在確率推定部13、責任分担率決定部14、及び消費電力割当部15により構成される。
【0023】
機器消費電力推定部11は、家庭内の機器kの時刻tにおける消費電力wk(t)を推定する。推定結果は、少なくとも消費電力割当部15に供給され、機器存在確率推定部13と責任分担率決定部14には必要に応じて供給される。なお、K個の機器のうちの一つは、消費電力が極めて低いなどの理由により機器単体での消費電力の計測が困難な複数の機器全体の消費電力をまとめた背景残差である。即ち、機器消費電力推定部11は、背景残差も1個の機器としてみなして消費電力を計算する。
【0024】
個人存在確率推定部12は、時刻tに、人i(i=1乃至I)が部屋j(j=1乃至J)に存在する確率である個人存在確率Sji(t)を算出し、その結果を機器存在確率推定部13および責任分担率決定部14の両方または一方に供給する。
【0025】
機器存在確率推定部13は、時刻tに、機器k(k=1乃至K)が部屋jに存在する確率である機器存在確率Ejk(t)を推定し、その結果を消費電力割当部15に供給する。なお、時刻tにおける全ての部屋1乃至Jについての機器存在確率Ejk(t)の合計は1となる。
【数1】

【0026】
責任分担率決定部14は、時刻tにおいて、部屋jで消費された電力を、家庭内の各人の責任として人iが分担する割合である責任分担率Rij(t)を決定し、その結果を消費電力割当部15に供給する。時刻tにおける家族全員の責任分担率Rij(t)の合計も1となる。
【数2】

【0027】
消費電力割当部15は、所定の期間T(t=1乃至T)における家庭内の全消費電力Σwk(t)を、家庭内の個人iごとに割り当てた量である個人iの消費電力量Wiを式(1)により計算する。
【数3】

【0028】
すなわち、個人iの消費電力量Wiは、その個人iについて、所定の期間Tの、機器kの消費電力wk(t)および機器存在確率Ejk(t)と、その機器存在確率Ejk(t)の部屋jにおける責任分担率Rij(t)を、全ての機器および部屋について積算することにより求められる。また、所定の機器kについての個人iの消費電力量Wiは、式(1)の全ての機器1乃至Kについてのサメーション(Σ)を、所定の機器kについてのみとすることで求めることができる。従って、個人iの機器kについての消費電力量Wiも算出することができる。
【0029】
式(1)から分かるように、個人iの消費電力量Wiを求めるにあたっては、人iと部屋(場所)jとの関係を示す、部屋jにおける人iの責任分担率Rij(t)と、機器kと部屋(場所)jとの関係を示す、部屋jでの機器kの機器存在確率Ejk(t)が利用される。換言すれば、消費電力割当部15は、人と機器との関係を示す情報を用いずに、個人iの消費電力量Wiを求めている。このように、情報処理装置1では、人と機器との関係を示す情報を得ることができない場合であっても、場所という媒介変数を導入することで、個人iの消費電力量Wiを求めることができる。
【0030】
所定の期間Tは、1日あるいは1カ月のように、始期と終期が明確に定められた範囲としてもよいし、直近の(現在時刻から遡って)24時間や30日のように、現在時刻に応じて移動される期間としてもよい。
【0031】
以上のように構成される情報処理装置1の消費電力割当部15で計算された個人iの消費電力量Wiが、例えば、外部の表示装置に出力されて、表示される。情報処理装置1自身が表示部を備え、表示してもよい。
【0032】
[個人iの消費電力量Wiの計算方法]
上述したように、個人iの消費電力量Wiは式(1)により得られるが、式(1)の実際の計算方法としては、以下の2通りの考え方に基づく第1および第2の計算方法が少なくとも考えられる。
【0033】
(第1の計算方法)
図2は、個人iの消費電力量Wiを求める第1の計算方法の概念図を示している。
【0034】
第1の計算方法は、全機器の消費電力Σwk(t)を部屋j単位に分解し、部屋j単位の消費電力W'jを各人iに割り振ることで計算する方法である。
【0035】
すなわち、各機器kの消費電力wk(t)に、各部屋jにおける各機器kの機器存在確率Ejk(t)を乗じた値を、全ての機器1乃至Kについて合計することにより、部屋jごとの消費電力W'jが計算される。また、各部屋jに対する各人の責任分担率Rij(t)が決定される。そして、部屋jごとの消費電力W'jのうち、その人iの責任分担率Rij(t)に相当する分の消費電力量を求め、それを全ての部屋について積算することで、個人iの消費電力量Wiが求められる。
【0036】
第1の計算方法に即して式(1)を変形すると、以下の式(2)のように表すことができる。
【数4】

【0037】
図3のフローチャートを参照して、第1の計算方法により個人iの消費電力量Wiを求める第1の消費電力量計算処理について説明する。
【0038】
初めに、ステップS1において、機器消費電力推定部11は、各機器kの消費電力wk(t)を推定する。
【0039】
ステップS2において、機器存在確率推定部13は、各機器kが各部屋jに存在する確率である機器存在確率Ejk(t)を推定する。
【0040】
ステップS3において、消費電力割当部15は、各機器kの消費電力wk(t)と、各部屋jにおける各機器kの機器存在確率Ejk(t)の積和演算により、部屋jごとの消費電力W'jを推定する。
【0041】
ステップS4において、責任分担率決定部14は、各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)を決定する。ステップS3とステップS4の処理は逆の順序で実行してもよいし、同時に実行することもできる。
【0042】
ステップS5において、消費電力割当部15は、各人iに対する消費電力の割当量Wiを計算する。具体的には、消費電力割当部15は、部屋jごとの消費電力W'jのうち、その人iの責任分担率Rij(t)に相当する分の消費電力量を求め、それを全ての部屋1乃至Jについて積算することで、各人iに対する消費電力の割当量Wiを計算する。
【0043】
ステップS5で計算される各人iに対する消費電力の割当量Wiが、個人iの消費電力量Wiとして出力され、処理が終了する。
【0044】
(第2の計算方法)
次に、個人iの消費電力量Wiを求める第2の計算方法について説明する。図4は、第2の計算方法の概念図を示している。
【0045】
第2の計算方法は、機器k単位の消費電力wk(t)を各人iに割り振ることで計算する方法である。機器k単位の消費電力wk(t)は、機器消費電力推定部11で求めることができる。
【0046】
まず、情報処理装置1は、各機器kに対する各人iの責任分担率W'ikを決定する。各機器kに対する各人iの責任分担率W'ikは、各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)に、各部屋jにおける各機器kの機器存在確率Ejk(t)を乗じた結果を、全ての部屋1乃至Jについて合計することで求められる。そして、機器kの消費電力wk(t)の、各人iの責任分担率W'ikに相当する分を、全ての機器について積算することで、個人iの消費電力量Wiが求められる。
【0047】
第2の計算方法に即して式(1)を変形すると、以下の式(3)のように表すことができる。
【数5】

【0048】
図5のフローチャートを参照して、第2の計算方法により個人iの消費電力量Wiを求める第2の消費電力量計算処理について説明する。
【0049】
初めに、ステップS11において、機器消費電力推定部11は、各機器kの消費電力wk(t)を推定する。
【0050】
ステップS12において、機器存在確率推定部13は、各機器kが各部屋jに存在する確率である機器存在確率Ejk(t)を推定する。
【0051】
ステップS13において、責任分担率決定部14は、各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)を決定する。
【0052】
ステップS14において、消費電力割当部15は、各機器kに対する各人iの責任分担率W'ikを推定する。
【0053】
ステップS15において、消費電力割当部15は、各人iに対する消費電力の割当量Wiを計算する。消費電力割当部15は、各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)に、各部屋jにおける各機器kの機器存在確率Ejk(t)を乗じた結果を、全ての部屋1乃至Jについて積算することで、各人iに対する消費電力の割当量Wiを計算する。
【0054】
ステップS15で計算される各人iに対する消費電力の割当量Wiが、個人iの消費電力量Wiとして出力され、処理が終了する。
【0055】
[1.消費電力wk(t)の算出方法]
次に、消費電力wk(t)、個人存在確率Sji(t)、機器存在確率Ejk(t)、及び、責任分担率Rij(t)それぞれの具体的な算出方法について説明する。
【0056】
初めに、機器消費電力推定部11による、機器kの時刻tにおける消費電力wk(t)の算出方法について説明する。
【0057】
機器kの時刻tにおける消費電力wk(t)は、次の(1.1)乃至(1.5)のうちのいずれかを用いて算出することができる。
【0058】
(1.1) 機器kに内蔵されているモニタリング装置による計測
図6に示されるように、各機器kに、時刻tの消費電力をリアルタイムに計測し、計測結果を、無線または有線で情報処理装置1に送信するモニタリング装置が内蔵されており、機器kの消費電力wk(t)は、このモニタリング装置を用いて計測することができる。計測結果は、リアルタイムに情報処理装置1に送信するものでもよいし、時刻情報を付加して、所定のまとまった単位で送信するものでもよい。機器kと情報処理装置1との通信には、家電向けの短距離無線通信規格の一つであるZigBee(登録商標)などを採用することができる。
【0059】
なお、モニタリング装置31が取り付けられていない機器kについては、家庭内の総消費電力から、モニタリング装置31が取り付けられている機器kの既知電力分を差し引いた背景残差の一部として取り扱うことができる。背景残差分の消費電力に関しては、固定的に家族全員で等分負担してもよいし、動的に負担割合を決定してもよい。
【0060】
(1.2) 外付けモニタリング装置による計測
図7に示されるような、消費電力の計測機能を備える電源タップであるスマートタップや、図8に示されるような、機器kの電源コードにクランプして、消費電力を計測するスマートクランプ(クランプメータ)を用いて計測することができる。スマートタップやスマートクランプも、上述したZigBee(登録商標)等の通信機能により、計測結果を、無線または有線で情報処理装置1に送信することができる。スマートタップを取り付けできない機器kについては、上記(1.1)と同様、背景残差として取り扱うことができる。
【0061】
(1.3) 消費電力推定技術による計測
家庭への電源供給の大元となる配電盤の一箇所をスマートクランプでクランプして総消費電流を計測し、計測結果から、家庭内に接続されている各機器kの電源のオン・オフおよび消費電力を推定する技術がある。この消費電力推定技術を用いて、各機器kの消費電力wk(t)を計測することができる。消費電力推定技術としては、例えば、上述の非特許文献1にも記載されている、整数二次計画問題として解く方法や、Factorial HMM(Hidden Markov Model)によりモデル化して解く方法がある。Factorial HMMによりモデル化して解く方法については後述する。
【0062】
(1.4) 上述の手法の組み合わせ
上述した内蔵モニタリング装置による計測、外付けモニタリング装置による計測、および、消費電力推定の2つ以上を組み合わせて、各機器kの消費電力wk(t)を計測してもよい。
【0063】
(1.5) インフラの利用
近年の環境意識の高まり、節電技術の進展に伴い、将来的には、家庭やオフィスで機器ごとの消費電力情報を容易に得ることができるようになることが考えられる。そのような場合には、情報処理装置1は、そこから提供される消費電力情報を取得して利用することができる。
【0064】
[2.個人存在確率Sji(t)の算出方法]
次に、個人存在確率推定部12による、時刻tに人iが部屋jに存在する確率である個人存在確率Sji(t)の算出方法について説明する。
【0065】
個人存在確率推定部12は、次の(2.1)乃至(2. 6)のうちのいずれかを用いて人iの存在場所を推定し、その推定結果に基づいて、(2.7)で説明する方法で個人存在確率Sji(t)を算出する。
【0066】
(2.1) 静的に求める方法
個人存在確率推定部12は、各部屋jに対して人の存在確率を予め決定し、データベースとして保有しておき、そのデータベースから人の存在確率を算出する。
【0067】
具体的には、データベースには、時刻や曜日、季節等の条件に応じた人の存在確率が格納される。例えば、平日の8時から15時の間は子供は外出しているので、平日の8時から15時の時間では、子供が子供部屋に存在する確率1%、子供部屋に存在しない確率99%などとされる。また例えば、日曜日の午前中、父親が書斎に存在する確率80%、居間に存在する確率20%などとされる。
【0068】
(2.2) 無線通信デバイスの検出結果から算出する方法
個人存在確率推定部12は、無線通信デバイスの検出結果から、人の存在確率を算出することができる。すなわち、図9に示されるように、時計や携帯電話機、オフィスであれば社員証など、人が普段身につけて持ち歩く装置に、ポーリングコマンドに対して自分のID等を応答するRFタグなどが組み込まれる。家庭内の各所には、所定の通信範囲内に存在するRFタグを検出するリーダライタが設置される。そして、個人存在確率推定部12は、各リーダライタで検出されたRFタグを示すIDの記録、応答時の電場強度などの付随情報から、RFタグを身に付けた人の位置を確率的に同定し、人の存在確率を算出する。リーダライタを設置する位置および個数やリーダライタの通信範囲は、位置を識別する粒度に応じて適切に設定することができる。
【0069】
また、RFタグデバイスの代わりに、Wi-Fi等の無線通信デバイスを用いてもよい。例えば、一般にスマートフォンと呼ばれる携帯電話機ではWi-Fi通信機能を備えるものが多い。Wi-Fi通信機能を備える携帯電話機が、無線LANアクセスポイント(ステーション)の発する電波(ビーコン)を受信し、受信した電波強度から自分の位置を計算し、情報処理装置1に送信する。個人存在確率推定部12は、携帯電話機から送信された位置から、その携帯電話機を保有する人の位置を確率的に同定し、人の存在確率を算出する。無線LANアクセスポイントの配置についても、位置を識別する粒度に応じて適切に設定することができる。
【0070】
(2.3) 人感センサの検出結果から算出する方法
個人存在確率推定部12は、人感センサの検出結果から、人の存在確率を算出することができる。すなわち、各部屋に人感センサが配置され、人感センサが、人の有無を検出し、検出結果を情報処理装置1に有線または無線により送信する。個人存在確率推定部12は、人が検知された部屋に応じて、予め定めた確率で、特定の個人が存在するものとする。例えば、書斎で人が検知された場合には、90%の確率で父の存在を検出したとし、10%の確率で母の存在を検出したとする。以上のような検出結果に基づいて、人の存在確率を算出することができる。
【0071】
(2.4) カメラの検出結果から算出する方法
図10に示されるように、人が、普段身につけて持ち歩くウェアラブルセンサとして、周囲の映像を撮像するカメラを身につけ、個人存在確率推定部12は、カメラが撮像した映像から、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)等の技術を用いて人の位置を確率的に推定する。ウェアラブルセンサとして、人が普段身につけている携帯電話機の撮像機能を用いてもよい。
【0072】
(2.5) カメラおよびマイクロホンの検出結果から算出する方法
家庭内の各所にカメラおよびマイクロホンが配置され、個人存在確率推定部12は、その配置されたカメラおよびマイクロホンで取得された画像信号および音声信号に基づいて、例えば、顔認識や音声認識等を行うことで、誰がどの部屋にいるかを認識し、人の存在確率を算出する。カメラおよびマイクロホンで取得された画像信号および音声信号に基づいて、ユーザとその位置を識別する技術としては、例えば、本出願人による特開2009−31951号公報に記載の技術が利用できる。
【0073】
なお、カメラやマイクロホンは、家庭内の各所に固定的に配置されていてもよいし、例えば、図11に示されるような、カメラやマイクロホンを備える自律型ロボットが家庭内を定期的または不定期に移動して画像信号および音声信号を取得するものでもよい。外部から与えられる情報や内部の状態に応じて自律的に行動し、カメラで捉えた入力画像から顔を検出してユーザを識別するロボット装置については、例えば、本出願人による特開2002−157596号公報に記載の技術が利用できる。画像情報と音声情報のいずれか一方だけを用いてユーザを識別するものでもよい。
【0074】
(2.6) インフラの利用
近年の個人化/ライフログ解析技術の進展に伴い、将来的には、家庭やオフィスで人の常時トラッキングや動線分析・行動予測などを行う装置が容易に利用可能となることが考えられる。そのような場合には、情報処理装置1は、その装置から提供される人の存在を示す情報を取得して利用することができる。
【0075】
(2.7) 個人存在確率Sji(t)の算出
個人存在確率推定部12は、上述した(2.1)乃至(2. 6)のうちのいずれかを用いて推定された人iの存在確率を用いて、個人存在確率Sji(t)を算出する。なお、(2.1)乃至(2.6)のうちのいずれを採用するかは、例えば、スマートフォンを絶えず所持している父親は、(2.2)の推定方法を使うなど、各人に対して好適な推定方法を選択することができる。また、算出可能な全ての推定方法で存在確率を算出し、それらの算出結果を、重み付き平均などの処理で統合して、最終的に得られた結果を、その人の存在確率として用いてもよい。
【0076】
上述した(2.1)乃至(2.6)の少なくとも一つを用いて、ある人iの存在確率がPt(rj|pi)で求められたとする。ここで、piは家庭のなかのある人iを表し、rjは部屋jを表す。従って、存在確率Pt(rj|pi)は、ある人piについて、その人が時刻tに部屋rjにいる確率を表す。この場合、個人存在確率推定部12は、求められた存在確率Pt(rj|pi)を、そのまま、個人存在確率Sji(t)として出力することができる。
【0077】
一方、ある人iの存在確率がPt(pi|rj)で求められる場合もある。即ち、ある部屋rjについて、時刻tに、その部屋に特定の人piが存在する確率Pt(pi|rj)として、ある人piの存在確率が求められる場合もある。ある人piの存在確率がPt(pi|rj)で求められている場合には、個人存在確率推定部12は、次の式(4)または式(5)により、存在確率Pt(rj|pi)を算出し、個人存在確率Sji(t)として出力する。
【0078】
【数6】

ここで、Pt(pi|rout)は、人piが、時刻tに、外出中である(家の外に居る)確率を表す。外出中である確率Pt(pi|rout)の信頼性が非常に高い場合には、式(5)により存在確率Pt(rj|pi)を算出し、外出中である確率Pt(pi|rout)の信頼性が、その他の存在確率Pt(pi|rj)と同程度である場合には、式(4)により存在確率Pt(rj|pi)を算出することが望ましい。
【0079】
外出中である確率Pt(pi|rout)は、家の玄関に、上述のリーダライタや無線LANアクセスポイントを設置したり、カメラやマイクロホンを設置することにより、高い信頼性で算出することができる。
【0080】
[3.機器存在確率Ejk(t)の算出方法]
次に、機器存在確率推定部13による、時刻tに、機器kが部屋jに存在する確率である機器存在確率Ejk(t)の算出方法について説明する。
【0081】
機器存在確率推定部13は、以下の(3.1)乃至(3.4)のうちのいずれかの方法により、機器存在確率Ejk(t)を算出することができる。
【0082】
(3.1) 静的に求める方法
部屋jに対する機器kの機器存在確率Ejk(t)が、予め決定されて、データベースに保存される。例えば、テレビジョン受像機が居間に存在する確率100%、冷蔵庫が台所に存在する確率100%、背景残差は各部屋に等確率で存在する、などのようにデータベースに保存される。機器存在確率推定部13は、そのデータベースから取得して、機器kの機器存在確率Ejk(t)を算出する。なお、時刻や曜日、季節等に応じた人の行動パターンに応じて、機器kの機器存在確率Ejk(t)が変更されるようにデータベースに設定されていてもよい。
【0083】
(3.2) 無線通信デバイスの検出結果から算出する方法
(2.2)で上述した無線通信デバイスが、人ではなく、各機器kに内蔵されていたり、外側に貼り付けられるなどされている場合、機器存在確率推定部13は、無線通信デバイスを検出することで、機器kの機器存在確率Ejk(t)を算出することができる。
【0084】
(3.3) 人の存在情報を利用して算出する方法
機器消費電力推定部11が出力する機器kの消費電力wk(t)から、機器kのON状態およびOFF状態を知ることができる。機器kのON状態は、そのとき家庭にいる人によって引き起こされると仮定し、機器存在確率推定部13は、機器kの機器存在確率Ejk(t)を、人の存在確率を用いて算出することができる。なお、機器存在確率Ejk(t)は、時刻に依存しないものとみなす。
【0085】
具体的には、機器kがOFF状態からON状態になった時刻の集合をΤkとし、ある部屋rjについて、時刻tに、その部屋に特定の人piが存在する確率Pt(pi|rj)が得られる場合、機器存在確率推定部13は、次式(6)により、機器存在確率Ejk(t)を算出する。
【数7】

【0086】
あるいは、ある人piについて、その人が時刻tに部屋rjにいる確率Pt(rj|pi)が得られる場合、機器存在確率推定部13は、次式(7)により、機器存在確率Ejk(t)を算出する。
【数8】

【0087】
式(6)および式(7)のように、機器存在確率Ejk(t)は、機器kがON状態になったときの個人存在確率Sji(t)(=Pt(pi|rj)=Pt(rj|pi))の累積により求めることができる。なお、式(6)および式(7)におけるρjkは、機器kがある部屋jに存在する可能性を与える初期値である。ρjkは、各部屋に同一の値(微小値)でもよいし、事前の知識に基づいて部屋ごとに異なる値を設定してもよい。
【0088】
また、時刻集合Τkには、機器kがOFF状態からON状態になった時刻だけでなく、ON状態からOFF状態になった時刻、あるいは、機器kの動作状態(動作モード)が変化した時刻(消費電力が大きく変化した時刻)などを加えることもできる。さらに、状態の変化時点の時刻だけでなく、その前後の一定期間も時刻集合Τkに加えることによって、計算結果を安定させることができる。
【0089】
なお、機器存在確率Ejk(t)は、時刻に依存しないという仮定を緩和するために、緩やかに時間追従するような式としてもよい。例えば、式(6)および式(7)の確率Pt(pi|rj)または確率Pt(rj|pi)に、現在時刻と計測時刻tの間の時間差に応じて減衰させる関数γ(t)(0<γ(t)<1)を付加することができる。
【0090】
(3.4) 上述の手法の組み合わせ
機器存在確率推定部13は、機器kごとに、上述した(3.1)乃至(3.3)のうちのいずれかを選択して機器存在確率Ejk(t)を算出することができる。また、算出可能な全ての方法で機器存在確率Ejk(t)を算出し、それらの算出結果を、重み付き平均などの処理で統合して、最終的に得られた結果を、機器kの機器存在確率Ejk(t)として用いてもよい。
【0091】
[4.責任分担率Rij(t)の算出方法]
次に、責任分担率決定部14による、部屋jで消費された電力を人iが分担する割合である責任分担率Rij(t)の算出方法について説明する。
【0092】
責任分担率決定部14は、以下の(4.1)または(4.2)のいずれかの方法により、責任分担率Rij(t)を算出することができる。
【0093】
(4.1) 静的に求める方法
責任分担率決定部14は、各部屋jに対して各人iの責任割合を予め決定し、データベースとして保有しておき、データベースから取得することにより、各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)を算出する。データベースには、例えば、書斎での消費電力は、父親の責任分担率100%、日曜日の午前中の居間での消費電力の責任分担率は、父親50%、子供40%、母親10%などと設定することができる。時刻や曜日、季節等に応じた人の行動パターンに基づいて各部屋jに対する各人iの責任分担率Rij(t)が変更されるように設定されていてもよい。
【0094】
(4.2) 人の存在情報を利用して算出する方法
責任分担率決定部14は、ある部屋rjについて、時刻tに、その部屋に特定の人piが存在する確率Pt(pi|rj)が得られる場合、その人piの責任分担率Rij(t)を、その人piの存在確率確率Pt(pi|rj)に応じて、次式(8)により算出する。
【数9】

式(8)のεは、分母がゼロとなることを防止する微小定数である。なお、分母がゼロとなることを防止する方法として、分母のΣPt(pi|rj)が所定の閾値Pth以下である場合には、式(8)による計算結果を用いずに、その直前の時刻のRij(t)をそのまま保持するようにしてもよい。この場合、εは省略することができる。
【0095】
なお、人piの存在確率が、確率Pt(pi|rj)ではなく、確率Pt(rj|pi)でのみ算出可能である場合には、次式(9)により確率Pt(rj|pi)から確率Pt(pi|rj)を求めた後、式(8)を計算することができる。式(9)においても、ε’は分母がゼロとなることを防止する微小定数を表す。
【数10】

【0096】
以上説明した方法により、消費電力wk(t)、個人存在確率Sji(t)、機器存在確率Ejk(t)、及び、責任分担率Rij(t)それぞれを算出することができ、その算出結果を用いて、図3または図5を参照して説明した個人iの消費電力量Wiの計算処理が実行される。
【0097】
以上のように、情報処理装置1によれば、各人の各機器に対する消費電力を算出することができ、「誰が」、「どの機器を」、「どのくらい」使ったのかを提示することができる。その結果、各人が電力使用状況を改善する手助けとすることができ、節電へのモチベーションを向上させることができる。
【0098】
また、消費電力だけでなく、使用時間などの使用パターンも把握することができるので、個人化、嗜好把握、行動予測などに利用することもできる。電源が入れっぱなしとなり、受益者のいない機器を特定することもでき、待機電力を削減するなど、効率的なエネルギー使用を促進させることもできる。さらに、機器ごとに平均ユーザ数なども分かるので、使用電力的に贅沢な機器の把握にも役立つ。
【0099】
[消費電力推定技術の例]
配電盤などの電源供給の大元の一箇所で消費電流を計測した結果から、そこに接続されている機器の状態(ON状態およびOFF状態)を推定する技術の例として、Factorial HMMによりモデル化して解く方法について簡単に説明する。
【0100】
以下では、図12に示されるように、機器消費電力推定部11としての電気機器推定装置50が、Factorial HMMを用いて各電気機器70の稼働状態を推定する処理を実行するものとして説明する。
【0101】
即ち、電気機器推定装置50は、分電盤60の大元の2次側において、家庭内の各場所に設置された複数の電気機器70の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値を測定することで、複数の電気機器70の稼働状態を推定する。図12では、電気機器70として、照明装置(電球)70−1、エアコンディショナ70−2、洗濯機70−3、冷蔵庫70−4、及びテレビジョン受像機70−5の例が示されている。
【0102】
[Factorial HMMについて]
初めに、Factorial HMMについて簡単に説明する。図13は、通常のHMMとFactorial HMMをグラフィカルモデルで表現した図である。
【0103】
図13Aが、通常のHMMを表現したグラフィカルモデルであり、図13BがFactorial HMMを表現したグラフィカルモデルである。
【0104】
通常のHMMでは、時刻tの観測データYtに対して、1つの状態変数Stが対応する。この通常のHMMとFactorial HMMが異なる点は、状態変数StがSt (1),St (2),St (3),・・・St (m),・・・St (M)と、複数(図13ではM個)存在し、それらの複数の状態変数St (1)乃至St (M)から、1つの観測データYtが生成されることである。
【0105】
図14は、図13BのFactorial HMMを、図12に示した各電気機器70と対応させて示した図である。
【0106】
Factorial HMMのM個の状態変数S(1) 乃至S(M)のそれぞれが各電気機器70に対応する。また、状態変数S (m)の状態値は、電気機器70の状態(例えば、オン、オフの2状態)に対応する。
【0107】
より具体的には、M個の状態変数S(1) 乃至S(M)のうち、1番目の状態変数S(1)の時間経過に応じた状態値S1 (1)乃至St (1)が、所定の電気機器70(例えば、冷蔵庫70−4)の状態に対応する。また、2番目の状態変数S(2)の時間経過に応じた状態値S1 (2)乃至St (2)が所定の電気機器70(例えば、テレビジョン受像機70−5)の状態に対応する。同様に、m番目の状態変数S(m)の時間経過に応じた状態値S1 (m)乃至St (m)が所定の電気機器70(例えば、洗濯機70−3)の状態に対応する。
【0108】
また、家庭内の各場所に設置された複数の電気機器70の使用状態の組み合わせでなる消費電流の合計値が、観測データY1乃至Ytとして得られる。
【0109】
なお、以下では、M個の状態変数S(1) 乃至S(M)のうちの、m番目の状態変数S(m)を、m番目のファクタ、または、ファクタmとも記述する。
【0110】
Factorial HMMの詳細は、Zoubin Ghahramani, and Michael I. Jordan, Factorial Hidden Markov Models’, Machine Learning Volume 29, Issue 2-3 ,Nov./Dec. 1997に、記載されている。
【0111】
次に、Factorial HMMにおけるモデルパラメータの推定について説明する。
【0112】
観測データ{Y1,Y2,Y3,・・・,Yt,・・・,YT}に対する隠れ状態を{S1,S2,S3,・・・,St,・・・ST}とすると、隠れ状態Stと観測データYtの同時確率は、次式(10)で与えられる。
【数11】

【0113】
式(10)中の、P(S1)は初期確率、P(St|St-1)は状態遷移確率、P(Yt|St)は観測確率を表し、それぞれ、式(11)、式(12)、式(13)で計算される。
【数12】

【0114】
複数のファクタが1つの電気機器70に対応する場合もあるが、最もシンプルな例として1つのファクタが1つの電気機器70に対応するものとして、Factorial HMMにおけるモデルパラメータの推定について説明する。1つのファクタが1つの電気機器70に対応するとした場合の、ファクタmに対応する電気機器70を、m番目の電気機器70とも称する。
【0115】
式(11)乃至式(13)中のSt(m)は、時刻tにおけるm番目の電気機器70の状態(オン、オフ、強運転、弱運転など)を表し、m番目の電気機器70の状態数がKであるとすると、St(m)は、K次元の縦ベクトル(K行1列のベクトル)で構成される。
【0116】
式(11)の初期確率P(S1)は、M個のπ(m)の掛け算で計算される。π(m)は、m番目の電気機器70の初期状態確率を表し、K次元の縦ベクトルである。
【0117】
式(12)の状態遷移確率P(St|St-1)は、M個のA(m)の掛け算で計算される。A(m)は、例えば、オンからオフへの切り替わりやすさなどに対応する、m番目の電気機器70の状態遷移確率を表し、K行K列(K×K)の正方行列で構成される。
【0118】
式(13)の観測確率P(Yt|St)は、観測平均μt,共分散行列Cの多変量正規分布で計算される。式(13)において、ダッシュ(’)は転置を表し、右上の”−1”は逆数を表す。また、|C|はCの絶対値を表す。
【0119】
式(13)のW(m)は、m番目の電気機器70が消費する電流波形のパターンに対応する観測確率P(Yt|St)のパラメータである。電気機器70の状態ごとに電流波形のパターンは異なるため、W(m)は、観測データの次元数Dを行数、状態数Kを列数としたD行K列(D×K)の行列となる。
【0120】
μtは、時刻tにおける観測平均を表し、行列W(m)の状態St(m)に対応する列要素をM個足し合わせたものとなる。換言すれば、μtは、全ての電気機器70の状態に応じた電流値を足し合わせたものに相当する。従って、観測平均μtが時刻tにおける観測データYtに近ければ、モデルパラメータが尤もらしいということになる。共分散行列Cは、電流パターンに乗るノイズの強度に対応し、全時刻、全ての電気機器70で共通とされる。
【0121】
Factorial HMMのモデルパラメータとは、m番目の電気機器70の初期状態確率π(m)、状態遷移確率A(m)、観測確率のパラメータW(m)、及び共分散行列Cであり、電気機器推定装置50は、Factorial HMMのモデルパラメータφ={π(m),A(m),W(m),C}を推定する。これにより、時刻tにおけるm番目の電気機器70の状態(オン、オフ、強運転、弱運転など)を推定することができるので、各電気機器70の消費電力を推定することができる。図15に、Factorial HMMのモデルパラメータφ={π(m),A(m),W(m),C}と電気機器70の状態との対応関係を示す。
【0122】
機器消費電力推定部11は、以上のような消費電力推定技術を用いて、各機器の消費電力を推定することができる。
【0123】
[コンピュータの構成例]
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行することもできるし、ソフトウエアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウエアにより実行する場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、コンピュータにインストールされる。ここで、コンピュータには、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータや、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどが含まれる。
【0124】
図16は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウエアの構成例を示すブロック図である。
【0125】
コンピュータにおいて、CPU(Central Processing Unit)101,ROM(Read Only Memory)102,RAM(Random Access Memory)103は、バス104により相互に接続されている。
【0126】
バス104には、さらに、入出力インタフェース105が接続されている。入出力インタフェース105には、入力部106、出力部107、記憶部108、通信部109、及びドライブ110が接続されている。
【0127】
入力部106は、キーボード、マウス、マイクロホンなどよりなる。出力部107は、ディスプレイ、スピーカなどよりなる。記憶部108は、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる。通信部109は、ネットワークインタフェースなどよりなる。ドライブ110は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブル記録媒体111を駆動する。
【0128】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU101が、例えば、記憶部108に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース105及びバス104を介して、RAM103にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
【0129】
コンピュータでは、プログラムは、リムーバブル記録媒体111をドライブ110に装着することにより、入出力インタフェース105を介して、記憶部108にインストールすることができる。また、プログラムは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部109で受信し、記憶部108にインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM102や記憶部108に、あらかじめインストールしておくことができる。
【0130】
本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる場合はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで実行されてもよい。
【0131】
本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0132】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定する機器消費電力推定部と、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定する機器存在確率推定部と、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定する責任分担率決定部と、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する消費電力割当部と
を備える情報処理装置。
(2)
前記消費電力割当部は、前記大領域内に存在し得る各人について、所定の期間の、前記機器の消費電力および前記機器存在確率と、その機器存在確率の前記領域における前記責任分担率を、全ての前記機器及び前記領域について積算することにより、前記各人の消費電力の割当量を計算する
前記(1)に記載の情報処理装置。
(3)
所定の時刻に、前記大領域内に存在し得る各人が前記領域に存在する確率である個人存在確率を推定する個人存在確率推定部をさらに備える
前記(1)または(2)に記載の情報処理装置。
(4)
前記機器存在確率推定部は、前記機器存在確率を、前記機器がON状態となったときの前記個人存在確率の累積により推定する
前記(3)に記載の情報処理装置。
(5)
前記責任分担率決定部は、各人の前記責任分担率を、その人の前記個人存在確率に応じて決定する
前記(3)または(4)のいずれかに記載の情報処理装置。
(6)
前記機器消費電力推定部は、背景残差を一つの前記機器とみなして消費電力を推定する
前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の情報処理装置。
(7)
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する
ステップを含む情報処理方法。
(8)
コンピュータに、
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する
処理を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0133】
1 情報処理装置, 11 機器消費電力推定部, 12 個人存在確率推定部, 13 機器存在確率推定部, 14 責任分担率決定部, 15 消費電力割当部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定する機器消費電力推定部と、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定する機器存在確率推定部と、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定する責任分担率決定部と、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する消費電力割当部と
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記消費電力割当部は、前記大領域内に存在し得る各人について、所定の期間の、前記機器の消費電力および前記機器存在確率と、その機器存在確率の前記領域における前記責任分担率を、全ての前記機器及び前記領域について積算することにより、前記各人の消費電力の割当量を計算する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
所定の時刻に、前記大領域内に存在し得る各人が前記領域に存在する確率である個人存在確率を推定する個人存在確率推定部をさらに備える
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記機器存在確率推定部は、前記機器存在確率を、前記機器がON状態となったときの前記個人存在確率の累積により推定する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記責任分担率決定部は、各人の前記責任分担率を、その人の前記個人存在確率に応じて決定する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記機器消費電力推定部は、背景残差を一つの前記機器とみなして消費電力を推定する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する
ステップを含む情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
複数の領域に分割される大領域内に配置されている複数の機器それぞれの消費電力を推定し、
前記機器が前記領域に存在する確率である機器存在確率を推定し、
前記領域における消費電力を前記大領域内に存在し得る各人で分担するときの各人の割合である責任分担率を決定し、
前記複数の機器それぞれの消費電力、前記機器存在確率、及び前記責任分担率に基づいて、前記各人の消費電力の割当量を計算する
処理を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−45197(P2013−45197A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181169(P2011−181169)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】