説明

情報記録再生装置及び近接場光強度検出方法

【課題】近接場光を利用することで高密度な記録情報の記録や再生を可能とする情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】近接場光を発生するアンテナ1として、半導体基板4上に設けられた層構造(第1の層2及び第2の層3)のアンテナ1を用いる。光又は熱により変化する材料とアンテナ1から発生される近接場光との相互作用の程度を、半導体基板4内部での近接場光の強度変化に対応する信号により検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光による分極の局所集中によって近接場光を発生するアンテナを利用する情報記録再生装置及び近接場光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの高記録密度化は、集光レンズの高NA化、短波長化による集光スポット径低減により実現されていたが、光の回折限界によりスポット径の低減には限界がある。ソリッドイマージョンレンズ(SIL)等のいわゆる近接場光用レンズを用いても、スポット径は100nm程度までしか低減されないと考えられている。
【0003】
2012年頃には、ハードディスクにおいて面記録密度1Tbit/inchが実現されると予想されているが、これと同等の記録密度を光ディスクで実現するには、スポット径を20nm以下にする必要がある。さらなるスポット径の低減を図るため、プラズモン共鳴現象による局所的な光スポット形成を利用した研究・開発が活発になされている(例えば特許文献1参照)。この局所光スポットを例えば相変化型媒体に適応することで、相変化型光記録方式の高密度化が期待される。
【0004】
【特許文献1】特開2006−323989号公報
【非特許文献1】F. Zenhausern, et al. "Apertureless near-field optical microscope", Appl. Phys. Lett., 65(13), 1994
【非特許文献2】Y. Martin, et al. "Optical data storage read out at 256 Gbits/inch2", Appl. Phys. Lett., 71(1), 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1ではアンテナ式のプローバが記載されており、他にプローバとしては開口式等の構造が提案されている。しかしながら、その光利用効率は開口式の場合、1×10−4と極端に小さい。アンテナ式等においても、散乱光検出手段がプローバを支持する基板に設けられる場合、媒体の相変化を検知する近接場が遠方場に埋もれてしまうことから、S/N比が十分得られないという問題が生じる。
【0006】
また、例えば試料に照射された観測光を、試料外の部分に照射された参照光と比較しその位相差により近接場光を検出する手段等が提案されている(上記非特許文献1及び2参照)。しかしながらこの方法においては、光学系が複雑になってしまうという問題がある。また、検出信号がわずかな位相差で与えられるために例えばロックインアンプ等にて検波する必要があり、検出速度(転送速度)の観点から、実用的な情報記録再生方式に採用することは難しい。これらのことからわかるように、近接場光を直接的かつ高効率に利用して記録を行う方式や、また高効率で検出する再生方式は確立されておらず、その実現が望まれている。
【0007】
以上の問題に鑑みて、本発明は、近接場光を利用することで高密度な記録情報の記録や再生を可能とする情報記録再生装置、また試料表面のより微細な状態を検出することが可能となる新規な近接場光検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、近接場光を発生するアンテナとして、半導体基板上に設けられた層構造のアンテナを用いるものとする。そして、光又は熱により変化する材料とアンテナから発生される近接場光との相互作用の程度を、半導体基板内部での近接場光の強度変化に対応する信号により検出する。
【0009】
近接場発生機構となるアンテナを半導体基板に設ける構成とすることで、近接場光による光電流を発生し、これにより近接場光の強度の変化を検出することができる。これは共鳴によってアンテナと半導体基板との界面に発生する強力な近接場光によって、半導体基板の内部でエレクトロン・ホールペアを形成し、それによる電極間の電流誘起を促して、この電流を検知するものである。しかしながらアンテナの支持基板として半導体基板を用いる場合、その材料によっては可視光域における屈折率が比較的大きいこと、また分極が高いことから、プラズモン共鳴時に発生する近接場光の多くがアンテナと半導体基板との界面付近に集中してしまう。
【0010】
これに対し、上述したように半導体基板上に形成するアンテナを層構造とすることによって、媒体や試料側、すなわちアンテナ表面側における近接場光強度と、半導体基板側内部における近接場光強度を調整することが可能となる。例えば媒体等と対向する表面側の層に使用波長に対してプラズモン共鳴を起こすような金属を用いて、且つ、半導体基板側の層として異なる金属を選択してアンテナを構成する場合、表面側の層では例えば記録に十分な強度の近接場光を発生することが可能となる。更に半導体基板とアンテナの基板側の層との界面にも十分な強度の近接場光を発生することができる。これによって、媒体等に記録を行なう機構と、近接場光を直接的に検出する再生機構とを同時に備えることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、近接場光を利用することで高密度な記録情報の記録や再生が可能となる。またこれを利用して、試料表面のより微細な状態を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を実施するための最良の形態(実施の形態とする)の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。次の順序で説明する。
〔1〕第1の実施の形態
(1)アンテナを含む近接場光発生部の構成
(2)アンテナ及び電極の材料
(3)アンテナ及び電極の平面形状
(4)光源
(5)半導体基板材料
(6)情報記録材料
〔2〕第2の実施の形態(光入射方向の変形例)
〔3〕第3の実施の形態(アンテナ平面形状の変形例)
〔4〕第4の実施の形態(アンテナ及び電極構造の変形例)
〔5〕第5の実施の形態(アンテナ及び電極構造の変形例)
〔6〕第6の実施の形態(情報記録材料の変形例)
〔7〕第7の実施の形態(遮光部を設ける変形例)
〔8〕第8の実施の形態(下地層を設ける変形例)
〔9〕第9の実施の形態(パッドを設ける変形例)
〔10〕第10の実施の形態(電極に保護層を設ける変形例)
〔11〕第11の実施の形態(情報記録媒体の構成)
〔12〕第12の実施の形態(情報記録再生装置の構成)
〔13〕解析例
【0013】
1.第1の実施の形態
(1)アンテナを含む近接場光発生部の構成
図1は、本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部である近接場光発生部10の概略断面構成図である。図1に示すように、この近接場光発生部10は、アンテナ1、半導体基板4及び電極5を備える。アンテナ1は、半導体基板4上に、上側の第1の層2と下側(半導体基板4側)の第2の層3とが積層されて構成される。また、半導体基板4上の、アンテナ1の近傍に電極5が設けられる。そしてアンテナ1及び電極5に、信号検出部として電流検出部6が接続される。なお、アンテナ1及び電極5間には図示しないが電圧印加機構が接続される。図1においては、光ディスク等の媒体200がアンテナ1の第1の層2と対向して配置される状態を示す。
【0014】
(2)アンテナ及び電極の材料
ここでアンテナ1を構成する各層2及び3の材料としては、使用する光源(図示せず)の波長に対して十分な共鳴が得られる金属を用いる。このような材料としては、Pt,Mg,Au,Al,Agのうちいずれか一種から成る材料を用いることが望ましい。これらの材料を用いて、また後述するように半導体基板4の材料、入射光Liの偏光方向、特に電場振動方向を適切に選定することで、入射光Liの照射時に、第1の層2の電極5側の表面端部の近接場光発生位置1a近傍で近接場光が発生する。更に、第2の層3の電極5側の半導体基板4側界面端部の近接場光発生位置1b近傍でも近接場光が発生する。
【0015】
また電極5の材料としては、金属等の導電性を有する材料であればよく、アンテナ1と同じ材料でも異なる材料でもよい。なお、半導体基板4の材料については後述する。
【0016】
(3)アンテナ及び電極の平面形状
図2は、アンテナ1及び電極5の平面形状の一例を示す平面図である。この例においては、アンテナ1を平面ほぼ三角形状とする場合で、各頂点が丸みを帯びた形状とされ、一つの頂点が電極5側に対向する配置とされる。この場合、電極5と対向する側の頂点を近接場光発生位置(1a,1b)とし、その対辺に向かう方向を、入射光Liの電場振動方向pに沿う方向(長手方向)とする。そしてこの方向に沿うアンテナ1の長さを、表面プラズモンが発生する共鳴条件に合わせて選定して構成する。電極5は一例として棒状とし、両端部が丸みを帯びた形状とする場合を示す。アンテナ1及び電極5の平面形状は図2に示す例に限定されるものではなく、それぞれがアンテナ1に発生する近接場光の強度が抑制されない形状であればよく、近接場光強度が増強される形状であればより望ましい。図2に示すように近接場光スポットを形成しようとする位置1a(1b)に向かって先鋭化する形状とする場合は、近接場光強度が増強されるので望ましい。その他例えば、電極5をアンテナ1の先端の位置1aに対向して配置するのみでなく、アンテナ1の長手方向に沿う辺に対向して、すなわちアンテナ1の長手方向と平行に電極5を配置してもよい。また、電極5がアンテナ1を取り巻く形状であってもよい。このように、アンテナ1の形状は、近接場光強度がより増強される形状を適宜選択すればよい。更に、アンテナ1は半導体基板4に設けられた段差に跨って形成されていてもよい。この場合は、近接場光スポットを形成しようとする位置1a(1b)が媒体200に近接するように配置し、逆にアンテナ1の近接場光発生位置でない端部が媒体200から離間するように配置することが望ましい。このように、近接場光スポットを発生する位置1aを他の部分よりも媒体200に近接させることで、媒体200の目的とするトラック位置のみに効率よく近接場光を照射することが可能となる。
【0017】
(4)光源
半導体基板4を介してアンテナ1に光Liを照射する光源(図示せず)としては、偏光を有する光を出射するものとし、その波長は、アンテナ1の上層部である第1の層2が単体でプラズモン共鳴を起こすようにその形状及び材質に合わせて選択される。適切に波長を選択し、またその電場振動方向を、アンテナ1に対して上述した方向となるように、光源からアンテナ1に至る光学系を構成する。そしてこの光源から、半導体基板4を介してアンテナ1に光を照射することで、アンテナ1の第1の層2の表面における電極5側端部の位置1aに、記録等に十分な強度の近接場光を発生させることができる。またこのとき、アンテナ1の第2の層3における電極5側端部の位置1bにおいても、近接場光が発生する。この近接場光の強度は、アンテナ1の各層2及び3の材料と、光源から出射される光の波長との関係で調整することができる。すなわち各層2及び3の材料を異なる材料より構成することによって、使用波長の選択で所望の近接場光強度となるアンテナ1を構成することが可能となる。なお、アンテナ1の各層2及び3の材料と波長との具体的な組み合わせの例については、後段の〔12〕解析例の項目において詳細に説明する。
【0018】
(5)半導体基板材料
次に、半導体基板4の材料について説明する。半導体基板4は、使用する光源の波長に対して十分透過性を有する材料を用いる。そして更に、アンテナ1に照射される入射光Liの光子エネルギーに対して略2倍のバンドギャップを有する材料より構成することが望ましい。つまり、半導体基板4の材料のバンドギャップ・エネルギーに対して、アンテナ1に照射される入射光Liの光子エネルギーが略2分の1以上となるように選定する。
更に、入射光Liの光子エネルギーが、半導体基板4の材料のバンドギャップ・エネルギー以下となるように選定する。このような材料の半導体基板4を用いることで、2光子吸収現象を利用することができる。
【0019】
具体的には、半導体基板4の材料としては、SiC,AlP,ZnO,ZnS,ZnSe,GaN,TiOのいずれか一種から選択することが望ましい。これらの材料のバンドギャップは下記の通りである。
【0020】
SiC:3.0eV
AlP:2.5eV
ZnO:3.2eV
ZnS:3.6eV
ZnSe:2.6eV
GaN:3.4eV
TiO:3.0eV
【0021】
このバンドギャップの範囲に対応した略2分の1以上の光子エネルギーで、且つバンドギャップ以下となる波長帯域は344nm〜992nmとなり、この範囲の波長であれば上述した波長の条件を満足する。
例えば中心波長400nmの光源を用いる場合、その光子エネルギーは3.1eV程度に換算される。したがって、上記材料のうちバンドギャップが最大のZnSを用いる場合、光子エネルギーはバンドギャップ・エネルギーの2分の1以上であり、またバンドギャップ・エネルギー以下となる。半導体基板4としてGaNを用いる場合はバンドギャップ・エネルギーが3.4eVであり、同様にバンドギャップ・エネルギーの2分の1以下で、且つバンドギャップ・エネルギー以下となる条件を満たすこととなる。
したがって、上記の半導体基板4の材料を用いる場合に適用できる光源としては、344nm以上992nm以下の波長帯域のうち、いずれかの波長、又は所定範囲の波長の光を出射光に含む光源であればよい。例えば、出射光の中心波長が340nmである光源において、344nm以上の波長の光が出射光にある程度含まれていれば、例えば半導体基板4の材料としてZnS(バンドギャップ3.6eV)を用いる場合に利用可能である。同様に、出射光の中心波長が1000nmである光源において、992nm以下の波長の光が出射光にある程度含まれていれば、半導体基板4の材料としてAlP(バンドギャップ2.5eV)を用いる場合に利用可能となる。したがって、光源としては出射光の中心波長が340nm以上1000nm以下の光源を用いることが望ましい。
【0022】
このような材料の半導体基板4を用い、またアンテナ1の材料及び形状と適合する光源を用いることで、共鳴によりアンテナ1と半導体基板4との界面近傍の位置1bにおいて強い近接場光を発生し、光密度(エネルギー密度)が十分高い状態を作ることができる。このとき、強いエネルギー密度の領域において2光子吸収現象が起こり、上述したようにエレクトロン・ホールペアの発生に伴い光電流が発生する。電流検出部6においてこのとき発生する光電流を検出することにより、この場合の近接場光強度に対応する信号を検出することが可能となる。
【0023】
なお、上述したように、半導体基板4の材料として例えばSiC、GaN、ZnOを用いる場合、可視光域においてこれらの屈折率は概ね2以上であり、更にその分極の高さゆえ、プラズモン共鳴時の近接場光の多くが界面付近の位置1bに集中してしまう。アンテナ1が単一の層構成である場合、表面側で発生する近接場光と基板界面側で発生する近接場光の強度比に差が生まれ、界面側が強くなってしまう。このため、例えば記録時に、基板界面側での近接場光強度上昇による不必要なアンテナ昇温や、記録の非効率化など、記録特性の不安定性が生じることが考えられる。
【0024】
これに対し、本実施の形態においては、第1の層2及び第2の層3から成るアンテナ1を用いる。したがって、第1の層2の材料及び形状、そして光源の波長を適切に選定することによって、情報記録媒体と対向する側である第1の層2の近接場光発生位置1a近傍における近接場光強度を十分に高くすることが可能となる。
【0025】
また、光源として異なる波長の光を出射する第2の光源を用いる場合は、再生特性の低下も抑制ないしは回避できる。すなわち、第2の層3の材料及び形状、この第2の光源の波長を適切に選定することによって、第2の層3の半導体基板4側界面の近接場光発生位置1b近傍における近接場光強度を、表面側の位置1aよりも十分に高くすることが可能である。この場合、再生時に記録マークに影響を与えることも回避できる。これによって、記録媒体に記録を行なう機構と、近接場光の直接的な検出の再生機構を同時に備えることが可能とり、良好な記録再生特性を実現することが可能となる。
【0026】
(6)情報記録材料
上述した構成の情報記録再生装置により記録や再生がなされる媒体200の情報記録材料としては、誘電率の変化による記録がなされる材料であればよく、無機物の例えばGeSbTe等の相変化材料を用いることができる。情報記録材料は図示しないが媒体200の表面上又は内部に設けられる。媒体200の平面形状はディスク状とされる他、カード状等の各種構成が可能であり、その形状は問わない。
【0027】
上述の構成のアンテナ1を、相変化材料等の情報記録材料が形成される媒体200に対向させて相対的に移動させる。すると、相変化材料の記録マークが変化すると誘電率が変化し、アンテナ1と相互作用することで、アンテナ1の半導体基板4側の位置1bにおける近接場光強度が変化する。この変化により、上述した2光子吸収により励起される光電流も変化する。したがって、この半導体基板4に発生する光電流の変化を検出することによって、媒体200に相変化等の状態変化として記録された記録情報に対応する信号を検出することが可能となる。
【0028】
〔2〕第2の実施の形態(光入射方向の変形例)
図3に示すように、光の入射方向はアンテナ1に対し、半導体基板4の裏面側から矢印Li1で示すように入射してもよく、その他媒体側の表面側からも、矢印Li2で示すように両方から入射することも可能である。更には、矢印Li3で示すように、アンテナ1と半導体基板4との界面に沿う方向から入射してもよい。また、半導体基板4の裏面側から矢印Li4で示すように角度を持たせて入射してもよい。図示しないが、媒体と対向する表面側からアンテナ1の上面に対し角度を持たせて入射させてもよい。なお、半導体基板4の裏面側から矢印Li1で示すように光を照射することで、アンテナ1の基板4との界面に照射する光の利用効率を高めることができる。したがって、再生検出特性に影響する近接場光強度、すなわちアンテナ1と半導体基板4との界面での近接場光強度を十分に確保するために、この向きの入射光を用いると共に、他の向きからの入射光を加える構成とすることが望ましい。
【0029】
〔3〕第3の実施の形態(アンテナ平面形状の変形例)
次に、図4を参照して、アンテナ及び電極形状が異なる他の実施の形態について説明する。この場合、図4に示すように、半導体基板(図示せず)上に、異なる平面形状の第1の層22及び第2の層23より成るアンテナ21が形成されて構成される。この例では、第1の層22が棒状で両端部が丸みを帯びた形状であり、第2の層23が、上述の第1の実施の形態におけるアンテナ1と同様に、平面ほぼ三角形状とされ、各頂部が丸みを帯びた形状とされる。このように、各層は同一形状である必要はなく、媒体側の第1の層22が基板側の第2の層23に支持されていればよい。基板側から入射光が照射されることを考慮して、第2の層23によって遮光される影響を低減するため、特に近接場光が発生する部位である近接場光発生位置21a及び21b付近の平面形状は、図4に示すように実質的に一致させることが望ましい。また、このように各層の形状を個別に選定することによって、第1の層22の近接場光発生位置21aと、第2の層23の近接場光発生位置21bとのそれぞれの近傍に、それぞれ所望の強度の近接場光を発生することが可能となる。
【0030】
〔4〕第4の実施の形態(アンテナ及び電極構造の変形例)
次に、電極の構造をアンテナと同一とする実施の形態について説明する。図5Aはこの近接場光発生部30の断面図、図5Bは平面図である。図5Aに示すように、アンテナ31は、半導体基板34上に、上側の第1の層32及び第2の層33が積層されて成る構成とする。更に、電極35においても、上側の第1の層36及び下側の第2の層37より成る構成とする。電流検出部38は例えば上側の第1の層36に接続する。これらアンテナ31及び電極35の平面形状は、図5Bに示すように、それぞれ平面ほぼ三角形の同一形状で、頂部同士が相対向して配置される構成とする。このようにアンテナ31と電極35とを配置する場合、両者の相互作用のため、位置31a(31b)、35a(35b)の近傍で発生する近接場光の強度を高めることができる。相互作用を増大させて近接場光強度を高めるため、又は微細な近接場光スポットを形成するためには、両者の間隔が小さくなるよう配置することが望ましい。なお、電極35の構造としては、アンテナ31と異なる材料より成る層構成でもよく、単一層或いは3層以上の構成でもよい。また、平面形状も同一でなくてもよく、アンテナ31の近接場光発生位置31a及び31bにおける近接場光強度が増大する形状であればよい。
【0031】
なお、このように、電極35の一端との相互作用によって、アンテナ31の近接場光発生位置31a及び31b近傍での近接場光強度を高める構成とする場合、図1に示す例のように、電極の高さをアンテナの高さより小さく設定することが望ましい。このように、電極をアンテナよりも媒体から離間する構成とすることによって、電極の媒体側の面に発生する近接場光の媒体へ到達する程度を小さくすることができる。したがって、記録スポットの微細化、記録再生時のノイズの低減を図ることが可能である。すなわち、相互作用によって、アンテナ31側に発生する近接場光強度を増強すると同時に、電極35側で発生する近接場光の媒体側への影響はできるだけ抑制する構造とすることが望ましい。
【0032】
〔5〕第5の実施の形態(アンテナ及び電極構造の変形例)
次に、アンテナ及び電極が半導体基板に埋め込まれる実施の形態について説明する。この例においては、図6に示すように、近接場光発生部40を構成するアンテナ41及び電極45の両方が半導体基板44に埋め込まれる例を示す。電極45には電流検出部46が接続される。なお、半導体基板44内に埋め込まれるのはどちらか一方でもよい。媒体に至る近接場光の強度を確保するためには、アンテナ41を半導体基板44上に形成し、電極45を半導体基板44内に埋め込む構成とすることが望ましい。また、図示の例においては、アンテナ41を構成する第1の層42及び第2の層43が共に半導体基板44内に埋め込まれる場合であるが、第2の層43のみが半導体基板44内に埋め込まれていてもよい。更に、電極45全体が半導体基板44内に埋め込まれる構成とし、例えば第2の層43の近接場光発生位置により近い位置に配置することも可能である。このように、各層42及び43、電極45の配置位置を半導体基板44の内部を含め適切に選定することで、媒体に至る近接場光強度を確保しつつ、再生時における信号検出精度の向上を図ることが可能である。
【0033】
〔6〕第6の実施の形態(遮光部を設ける変形例)
次に、図7を参照して、半導体基板の裏面側に遮光部を設ける実施の形態について説明する。この例では、図7Aに示すように、半導体基板54上に第1の層52及び第2の層53より成るアンテナ51を設け、アンテナ51の近傍に電極55を設け、電極55に電流検出部56を接続して近接場光発生部50が構成される。そして半導体基板54の裏面側には、開口57Aを有する遮光部57が配置される。この遮光部57は、半導体基板54の裏面上に間隔をおいて配置されていても直接形成されていてもよい。下地層を介して形成することも可能である。そして開口57Aの平面形状は、図7Bに示すように、例えば平面ほぼ三角形状とされるアンテナ51の全面に入射光が照射され、かつその他の部分を遮光する平面形成とし得る。なお、開口57Aの平面形状をアンテナ51の平面形状と同一としてもよい。このように、不要な部分に光が照射されることを回避し、アンテナ51のみに光を照射する構成とすることによって、光の利用効率を高めることができる。なお、開口57Aの形状は照射される光のビームスポット形状と合致するものではなく、近接場光が発生する位置が光の強度ピーク位置となるようにすることが望ましい。
【0034】
本実施の形態を上述の第4の実施の形態と併用して実施する場合は、相互作用で近接場光強度を高める電極にも光が照射されるように開口57Aの形状を適切に選定し、アンテナ及び電極の必要な部分に光が照射される形状であればよい。
【0035】
〔7〕第7の実施の形態(下地層を設ける変形例)
上述の各実施の形態においては、アンテナを構成する各層を直接積層形成する例であるが、各層の密着性を高めるため、下地層を介して形成することが可能である。この実施の形態に係る近接場光発生装置60の断面構成を図8に示す。この例においては、図8に示すように、半導体基板64上に、例えば平面ほぼ三角形状のアンテナ61と、例えば平面棒状の電極65が近接して形成される。なお、アンテナ61及び電極65の平面形状はこれに限定されるものではない。電極65には電流検出部66が接続される。そしてアンテナ61は、上側の第1の層62と半導体基板64側の第2の層63とが積層される構成であるが、各層62及び63の間に例えば密着性を高める下地層68が形成されていてもよい。また、第2の層63と半導体基板64との間に下地層69を介在させてもよい。このように密着性を高め、かつアンテナ61の共鳴に与える影響が小さい材料としては、例えばCr等より成る薄膜を利用することができる。このように、アンテナ61において発生する近接場光の強度に影響を与えない材料及び厚さであれば、各層62及び63の密着性を高めるために、下地層68及び69を介在させることが可能である。なお、下地層68、69はどちらか一方を形成することももちろん可能である。
【0036】
〔8〕第8の実施の形態(パッドを設ける変形例)
次に、アンテナ及び電極を保護するために周囲にパッド部を設ける実施の形態について説明する。図9はこの実施の形態に係る近接場光発生装置70の断面構成図であり、半導体基板74上に第1の層72及び第2の層73より成るアンテナ71を設け、その近傍に電極75が形成されて、電流検出部76が接続される。そして、アンテナ71及び電極75の近傍、例えば周囲を取り囲む形状として、パッド部79が形成される。パッド部79の材料としては、例えば弾力性を有する材料とし、例えば情報記録媒体と接触した場合に、その表面や情報記録材料を損傷しない程度の硬度を有する材料であればよい。このようにパッド部79を設けることによって、情報記録媒体と接触した場合、また情報記録再生装置が衝撃を受けた場合等において、アンテナ71及び電極75の損傷を抑制することができる。また、このような損傷を抑制できるので、十分に媒体にアンテナ71を近接することができるので、十分な強度の近接場光を媒体の所望の位置に照射し、記録特性の低下を回避することが可能となる。また、再生時においても記録材料との相互作用を十分に得られる間隔を保持できるので、再生特性の低下を回避することができる。
【0037】
〔9〕第9の実施の形態(電極に保護層を設ける変形例)
この実施の形態においては、電極の保護を目的として電極に保護層を設ける例である。図10はこの実施の形態に係る近接場光発生装置80の断面構成図である。半導体基板84上に、第1の層81及び第2の層82より成るアンテナ81が形成され、その近傍に電極85が形成され、更に電流検出部86が接続される。そして電極85に非導電性材料より成る保護層89が形成される。図示の例においては保護層89が電極85の全部を覆うように設ける場合を示すが、電極85の一部、例えば上面のみを覆う形状でもよい。このように、電極85上に保護層89を設けることによって、第8の実施の形態で示す例と同様に、再生信号検出を阻害することなく、電極85の損傷を抑制することができる。この場合においても、電極の損傷を抑制できるため、十分に媒体にアンテナ81を近接することができるので、十分な強度の近接場光を所望の位置に照射し、記録特性の低下を抑制することが可能となる。また、再生時においても記録材料との相互作用を十分に得られる間隔を保持できるので、再生特性の低下を回避することができる。
【0038】
〔10〕情報記録媒体の構成
次に、図11を参照して、本実施の形態に係る情報記録再生装置に用いて好適な情報記録媒体の構成の例について説明する。
上述したように、本実施の形態に係る情報記録再生装置において、好適に記録及び再生が可能な情報記録媒体の情報記録材料としては、誘電率の変化する材料、特に相変化材料が挙げられる。
本実施の形態に係る情報記録再生装置は、1Tbit/inch程度の超高密度の記録マークが記録可能な媒体の利用が好ましい。このような高記録密度化に対応するために、情報記録媒体として、図11に示すように、連続膜の代わりに規則配列された相変化材料より成る微粒子206が設けられた媒体205を用いることが望ましい。微粒子206の配列態様としては、例えば媒体205の表面に凹部(図示せず)が規則的に配列されて、その内部に組み込まれる構造が考えられる。このように、情報記録媒体として相変化材料より成る微粒子206が規則的に配列される構成とすることによって、所望の微小な領域に局所的な記録を行うことが可能となる。したがって、分解能の向上、記録密度の増大が期待できる。
【0039】
〔11〕第10の実施の形態(情報記録再生装置の構成)
次に、本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置全体の概略構成について説明する。図12においては、一例としてディスク状の媒体200を情報記録再生装置150に装着する場合を示す。媒体200は、基板202上に上述した誘電率の変化により信号が記録される相変化材料等の情報記録材料より成る記録部201を含む構成とされる。そしてこの媒体200は、装置150に設けられるスピンドルモータ等の駆動部140により回転される回転軸141上の載置台に固定支持される。駆動部140の回転駆動により、媒体200が一点鎖線Cを中心軸として回転するようになされる。
【0040】
記録時又は再生時には、媒体200の記録部201に対向して、情報記録再生装置150のアンテナ1が近接して配置される。アンテナ1及び電極5が形成された半導体基板4は、図示しないスライダ上に設けられるか、或いは2軸又は3軸アクチュエータ等に支持されて、媒体200の記録部201との距離を制御しつつ相対的に移動する構成とされる。媒体200の回転走行時には、記録部201上の所望の記録トラック位置に対向配置される。アンテナ1と電極5との間に所定の電圧が図示しない印加手段により印加されると共に、電流計等の電流検出部6が接続され、検出部7に検出信号が出力される。本例においては、第1の実施の形態に係る近接場光発生装置を用いる場合を示すが、その他第2〜第9の実施の形態に係る例を含む種々の構成を採用することができる。
【0041】
また、この例においては、異なる波長の光を出射する第1の光源121及び第2の光源131を設ける例を示す。光源121及び131と半導体基板4との間には、アンテナ1に対して所定の向きに偏光方向(電場振動方向)が一致するように光学系100が配置される。第1の光源121から出射される光Liaの出射光路上には、例えばコリメートレンズ122、プリズム等の光路合成素子123、偏光子124、集光レンズ125が配置される。また、第2の光源131から出射される光Libの出射光路上には、例えばコリメートレンズ132及び光路合成素子123が配置される。そして光路合成素子123において第2の光源131から出射された光Libが進行方向を90度変換され、半導体基板4に向かうようになされる。このような構成とすることで、異なる波長の光Lia及びLibがそれぞれ半導体基板4を介してアンテナ1に入射されるようになされる。なお、光源121及び131に接続されるコントローラ(図示せず)により入射光Lia及びLibの切り替えがなされる構成とする。このように切り替え可能とすることで、記録時と再生時とにおいて、第1の光源121及び第2の光源131から、それぞれ半導体基板4を介して裏面側からアンテナ1に向けて異なる波長の光Lia、Libが照射される。
【0042】
この構成において、一例として例えばGeSbTe等の相変化材料より成る記録部201に信号を記録する動作について説明する。この場合、先ず駆動部140を駆動して媒体200を回転走行させ、一方情報記録再生装置150の半導体基板4上に形成されたアンテナ4を、媒体200上の記録部201の所望の記録トラック上に、所定の間隔をもって対向配置させる。この間隔は例えば数nmとする。そして例えば第1の光源121から、アンテナ1の第1の層2の材料及び形状に適合し、この第1の層2に共鳴する波長の光Liaを出射する。光Liaは、コリメートレンズ122、光路合成素子123、偏光子124及び集光レンズ125を介して半導体基板4の裏面に照射され、更に半導体基板4を透過してアンテナ1に照射される。
【0043】
アンテナ1の第1の層2の端部において共鳴により強い近接場光が発生し、情報記録媒体200の記録部201の所望の位置に、相変化を促す強度の光が照射される。これにより、記録部201への情報の記録がなされる。このとき、第2の層3の材料及び形状を適切に選定することにより、第2の層3の半導体基板4側の界面に発生する近接場光強度を抑えることができる。したがって、光の利用効率を高めることが可能である。
【0044】
次に、記録部201に記録された信号を検出する動作について説明する。再生時には、アンテナ1と電極5との間に一定の電圧をかけておく。そして例えばGeSbTe等の相変化材料より成る記録部201を有する媒体200に面して、アンテナ1を対向させ、例えば数nmの距離で配置させる。相変化材料より成る記録部201には、上述した記録方法によって予め記録領域と未記録領域とを形成しておく。この状態で、第2の光源131から、アンテナ1の第2の層3の材料及び形状に適合し、第2の層3が共鳴する波長の光Libを出射する。光Libはコリメートレンズ132を介して光路合成素子123に入射され、光路を変換されて偏光子124、集光レンズ125を介して半導体基板4の裏面に照射される。そして半導体基板4を透過して、アンテナ1の第2の層3に照射される。このとき、半導体基板4とアンテナ1の第2の層3との界面で近接場光が発生する。なお、アンテナ1の第1の層2の表面側、すなわち媒体200の記録部201と対向する側の端部においても近接場光が発生するが、第1の層2の材料及び形状を適切に選定することで、このときの近接場光強度を適切に抑えることが可能である。
【0045】
そして、光源131として、半導体基板4の材料のバンドギャップ・エネルギーのほぼ半分の光子エネルギーとなる波長の光を出力する光源を用いる。例えば、GaNより半導体基板4を用いる場合、バンドギャップ・エネルギーが3.4eV程度であり、対応する光子エネルギーは波長365nmであるので、光源としては、波長λ≒730nmの光を出力する光源を選定する。このように構成することによって、半導体基板4の内部の強いエネルギー密度の領域において2光子吸収現象が起こり、エレクトロン・ホールペアの発生に伴い光電流が発生する。この電流は、近接場光強度の変化に同調して変動し、記録部201における誘電率の変化とアンテナ1との相互作用によって、信号の変化に同調して変化する。
【0046】
これについて説明すると、記録部201の記録領域と未記録領域とでは誘電率が異なるので、情報記録媒体200と情報記録再生装置150との相対的移動によって、記録部201の表面において誘電率が経時的に変化する。この誘電率変化に伴い、アンテナ1における近接場光が発生する状態が変化するので、第2の層3において発生する近接場光強度も変化する。つまり、誘電率が変化する記録部201の表面とアンテナ1との相互作用により、近接場光の強度が変化する。したがって、近接場光に対応して発生する光電流の値も変化し、電流検出部6において媒体200の記録部201に記録された情報に対応する電流値を情報信号として検出することができることとなる。
【0047】
〔12〕解析例
以下、上述した情報記録再生装置に搭載するアンテナの記録媒体側及び半導体基板側の両方の近接場光発生位置において、記録と再生に関わる近接場光が十分な強度をもって発生することを解析する具体例について説明する。以下の解析結果はFDTD(Finite Difference Time Domain method)法によって計算されたものである。
【0048】
図13は、Au単層より成るアンテナを用いる場合の近接場光強度の波長依存性を示す。アンテナとしてAuを用いる場合は、共鳴条件付近となる波長700nm付近の光が好適であることがわかる。
【0049】
この例においては、図1に示す第1の実施の形態の構成とする近接場光発生部を用いて解析を行った。図14Aは本発明の実施の形態に係る近接場光発生部の断面構成図、図14Bは比較例による近接場光発生部の断面構成図である。図14Aに示すように、本実施の形態においては、アンテナ1をGaNより成る半導体基板4と接するように2層構成として形成した。第1の層2及び第2の層共に厚さを30nmとし、上側の第1の層2をAu、半導体基板4側の第2の層3をAlより構成した。平面形状は各層共に、ほぼ正三角形状とした。第1の層2の表面側の近接場光発生位置1aと、第2の層3の近接場光発生位置1b付近における曲率は10nmとした。また対辺までの最短距離は100nmであり、その方向と平行に偏光(電場振動方向)をもつ入射光を、そのスポット中心位置が頂点位置とほぼ一致するように、基板4側より入射する。使用波長は上述したようにAuの共鳴条件に好適な700nmとした。
【0050】
一方、比較例の構成は、図14Bに示すように、GaNより成る半導体基板92上に、単層構成のAuより成るアンテナ91が形成される。アンテナ91の平面形状は図14Aに示すアンテナ1の平面形状と同様とした。この場合、近接場光発生位置91a及び91bはそれぞれアンテナ91の表面側の端部と半導体基板92側の端部となる。
【0051】
各例において、半導体基板4、92の表面をZ軸上の0点とし、Z方向の近接場光強度分布を解析した。この結果を図15に示す。図15において、Z=0nmがアンテナと基板の界面位置であり、図14Aに示すAu/Al/GaN基板構成、図14Bに示すAu/GaN基板構成のそれぞれにおいて、Z=60nm、30nmがアンテナ上面位置である。図15中実線a1は本実施の形態に係るAu/Al/GaN基板構成、実線a2が比較例によるAu/GaN基板構成における近接場光強度分布である。
【0052】
図15の結果から、Au/GaN基板構成のようにアンテナを直接的に支持する基板の屈折率が高い時、アンテナ上部に発生する近接場光強度よりも、基板界面側の近接場光強度が格段に高くなることがわかる。これは、高い屈折率を持つことと基板の分極率の高さにより、アンテナ内部の近接場光発生に係わる分極の多くが基板側へ偏ってしまうことが原因と思われる。このため、比較例による場合は記録が不安定、かつ非効率となり、更には記録に寄与していないアンテナ・基板界面での近接場光によって、アンテナ自身が不必要に昇温してしまうなどの弊害が生じる。
【0053】
一方でAl/Au/GaN基板構成のように、アンテナを2層化とし、かつ記録媒体側のアンテナ層の共鳴条件付近の波長を用いることで、概ね記録に必要なアンテナ上部での近接場光を十分な強度で発生させることができる。また同時に、再生信号検出に係わるアンテナ・基板界面での近接場強度をある程度維持することが可能となる。このように、屈折率の高い基板であっても、記録と再生信号検出に必要な強度の近接場光を、アンテナを層構造とすることで、アンテナ上部と、アンテナ・基板界面との両位置において発生する構成とすることが可能となる。
【0054】
更に、各層の厚さ、形状の構成を調整することで、アンテナ上部、アンテナ・基板界面それぞれの近接場光強度を記録、再生信号検出に適した比率に調整することも可能となる。
【0055】
次に、アンテナの2層構造に対して、2つの波長を用いることで現れる効果を示す。
図16に、図14Aに示す構造の近接場光発生部におけるアンテナ・基板界面、アンテナ上部で発生する近接場光強度の波長依存性を示す。図16から、AlとAuの2つの層で共鳴波長が異なること分かる。この性質を利用し、アンテナ上部、あるいはアンテナ、半導体基板界面に発生する近接場光強度を調整することが可能となる。このため、前述したように2つの波長の光源を用意し、記録時はアンテナの記録媒体側の層が共鳴を起こす波長を用い、また再生信号検出時には基板側の層が共鳴を起こす波長を用いる。このような2波長の光源を備える構成とすることで、記録再生に適した近接場光を発生させる情報記録再生装置を提供することが可能となる。また、この場合、再生信号検出時の波長においては記録媒体側に発生する近接場光強度を記録時より抑制できるため、昇温による記録相の書き換えを防ぐこともでき、記録再生特性の低下を抑制することが期待できる。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、下記の効果を得ることが可能となる。
1.近接場の局所的な光スポットを利用した記録の高密度化、および再生信号検出の安定化を図ることができる。
2.記録、再生信号検出に係わる近接場光強度を調整することが可能となるため、光の利用効率の向上に有利となる。
3.記録、再生信号検出に係わる近接場光強度を調整することができるので、半導体基板への熱ダメージの低減が可能となる。
4.2つの波長を用いることにより、光記録再生に適した、近接場光強度を使用することが可能となる。
【0057】
これらの効果から更に、従来の相変化光記録方式では実現困難であった、1Tbit/inchを超える高記録密度を実現する光記録再生方式を提供することが可能となる。すなわち本発明によれば、情報記録媒体に対して記録に十分なエネルギーを照射する機構と、再生下における近接場光の直接的な検出を高効率で行なう機構とを備える情報記録再生方式を提供することが可能となる。
また、この記録再生方式を利用することで、試料表面の微細な状態の変化を高解像度をもって検出することが可能となる。
【0058】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図2】図1に示す情報記録再生装置のアンテナ及び電極の一例の平面構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略構成図である。
【図5】A及びBは本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図及び平面構成図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図7】Aは本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。Bはその要部の平面構成図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図9】本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置に用いて好適な情報記録媒体の説明図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置の概略構成図である。
【図13】Au単層のアンテナに対する近接場光強度の波長依存性を示す図である。
【図14】Aは本発明の実施の形態に係る情報記録再生装置の要部の概略断面構成図である。Bは比較例によるアンテナの概略断面構成図である。
【図15】図14A及びBに示す例における近接場光強度分布を示す図である。
【図16】アンテナ各位置における近接場光強度の波長依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1,21,31,41,51,61,71,81.アンテナ、2,22,32,42,52,62,72,82.第1の層、3,23,33,43,53,63,73,83.第2の層、4,34,44,54,64,74,84.半導体基板、5,35,45,55,65,75,85.電極、6,38,46,56,66,76,86.電流検出部、10,30,40,50,60,70,80.近接場光発生部、100.光学系、121.第1の光源、122.コリメートレンズ、123.光路合成素子、124.偏光子、125.集光レンズ、131.第2の光源、132.コリメートレンズ、140.駆動部、141.回転軸、150.情報記録再生装置、200,205.媒体、206.情報記録材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射される光に対し透過性を有する半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、前記光源から出射される光が照射されて近接場光を発生する層構造のアンテナと、
光又は熱により変化する情報記録材料と前記アンテナから発生される近接場光との相互作用の程度を前記半導体基板内部での近接場光の強度変化によって検出する信号検出部と、を備える
情報記録再生装置。
【請求項2】
前記アンテナが、2種以上の金属より成る層構造とされる請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項3】
前記アンテナが、前記光源から出射される光の波長に対し共鳴を起こす金属から成る層を含む請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項4】
前記アンテナの各層が、異なる波長に対応して、それぞれの共鳴状態を起こす2種の金属から構成される請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項5】
前記アンテナが、Pt,Mg,Au,Al,Agのうちいずれか一種から成る層を含む請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項6】
前記アンテナが、AuとAlの層構造により構成される請求項5記載の情報記録再生装置。
【請求項7】
前記光源から出射される光の波長が、前記半導体基板の材料のバンドギャップ・エネルギーに対し、略2分の1以上の光子エネルギーに対応する波長とされる請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項8】
前記信号検出部が、前記近接場光が発生する際に前記半導体基板に生ずる光電流を検出する電流検出部である請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項9】
前記半導体基板が、SiC,AlP,ZnO,ZnS,ZnSe,GaN,TiOのいずれか一種から成る請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項10】
前記光源が、344nm以上992nm以下の波長帯域のいずれかの波長の光を出射光に含む光源とされる請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項11】
前記電流検出部の高さが、前記アンテナの高さより小さく形成される請求項8記載の情報記録再生装置。
【請求項12】
前記半導体基板の前記光源からの光を照射する面に、前記アンテナの形状に対応する開口を有する遮光部が設けられる請求項1記載の情報記録再生装置。
【請求項13】
半導体基板上に形成された層構造を成すアンテナに対し、光源からの光を照射して分極の局所集中を生じさせ、前記アンテナの表面側と、前記半導体基板側内部とに近接場光を発生し、
前記アンテナに対向して、光又は熱により変化する材料を有する媒体を配置して、
前記材料と前記アンテナから発生する近接場光との相互作用の程度を、前記半導体基板側内部での近接場光の強度変化に対応する信号により検出する
近接場光検出方法。
【請求項14】
前記媒体の材料が、無機物の微粒子から成る請求項13に記載の近接場光検出方法。
【請求項15】
前記無機物の微粒子が、相変化材料から成る請求項14に記載の近接場光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−129166(P2010−129166A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306865(P2008−306865)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】