説明

意匠性塗膜の形成方法、建材用ボード及び水性塗料組成物

【課題】建築用材料に適した多色感のある意匠性の高い塗膜を形成することができるような意匠性塗膜の形成方法、このような意匠性塗膜を有する建材用ボード及びこのような意匠性塗膜の形成方法において使用することができる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】基材上に熱可塑性塗料組成物を塗布する工程からなる意匠性塗膜の形成方法であって、上記基材は、被塗装面の表面に凹凸形状を有するものであり、上記熱可塑性塗料組成物は、顔料質量濃度として40%以下の光干渉性薄片顔料及び水性樹脂エマルションを含有するものである意匠性塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠性塗膜の形成方法、建材用ボード及び水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業製品、建築材料、大型構造物等の多くの物品の表面には、表面保護、意匠性の付与を目的として塗膜を形成することが行われている。このような塗膜によって物品の表面に意匠性を付与するに際しては、近年、光輝性を有する光干渉性薄片顔料を使用することが検討されている。光干渉性薄片顔料を含有する塗膜は、光の干渉によって見る角度によって異なった色調を呈するものであるから、意匠性を高めるために使用されている。
【0003】
特許文献1,2には、自動車用塗料において光輝性を有する光干渉性薄片顔料を使用することが記載されている。しかし、これらの技術においては、表面に凹凸を有さない滑らかな曲面又は表面を有した自動車用外板のような基材への塗装を前提として検討がなされている。従って、建築用材料等のように、石材調、レンガ調等の材質感も含めた特殊な意匠性が求められる材料における意匠性の検討は行われていない。
【0004】
特許文献3には、サイディングボードの表面にマイカを20質量%以上55質量%以下含有する塗膜が形成されたことを特徴とする塗装サイディングボードが開示されている。しかし、この塗膜は、光沢感はあるものの、多色感といった特殊な意匠性は有していない。
【特許文献1】特開2002−224617号公報
【特許文献2】特開2002−224618号公報
【特許文献3】特開2005−16233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、建築用材料に適した多色感のある意匠性の高い塗膜を形成することができるような意匠性塗膜の形成方法、このような意匠性塗膜を有する建材用ボード及びこのような意匠性塗膜の形成方法において使用することができる水性塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材上に熱可塑性塗料組成物を塗布する工程からなる意匠性塗膜の形成方法であって、上記基材は、被塗装面の表面に凹凸形状を有するものであり、上記熱可塑性塗料組成物は、顔料質量濃度として40%以下の光干渉性薄片顔料及び水性樹脂エマルションを含有することを特徴とする意匠性塗膜の形成方法である。
【0007】
上記凹凸形状は、凹凸深さが1mm以上であることが好ましい。
上記水性樹脂エマルションは、アクリル樹脂エマルションであることが好ましい。
上記熱可塑性塗料組成物は、更にチキソトロピック性増粘剤を含有し、かつ、上記塗布は霧化塗装によって行うものであるものであってもよい。
上記熱可塑性塗料組成物は、更にニュートニアン性増粘剤を含有し、かつ、上記塗布はロール塗装によって行うものであってもよい。
【0008】
本発明は、上記意匠性塗膜の形成方法によって形成された塗膜を有することを特徴とする建材用ボードでもある。
上記基材は、窯業系材料からなるものであることが好ましい。
本発明は、光干渉性薄片顔料及び水性樹脂エマルションを含有し、上述した多色感を有する意匠性塗膜を形成するために使用されることを特徴とする水性塗料組成物でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、表面に凹凸を有する基材上に多色感を有する新規な美観を呈するような意匠性塗膜を形成するための方法である。光干渉性薄片顔料を有する塗料組成物によって形成された塗膜は、顔料による光の干渉を生じるため、見る角度によって色調が変化するという性質を有するものである。このような塗膜を表面に凹凸を有する基材上に形成させると、その表面の凹凸形状に応じて色が変化して見える極めて特殊な外観(すなわち、多色感)を有する塗膜を形成することができる。すなわち、凹凸形状に沿って平面部とは異なる色の反射を呈するため、凹凸形状が単なる立体感だけではなく、凹凸による色調の変化を伴って視覚的に認識されるという、新規な外観が得られる。基材表面が凹凸形状を有することにより、例えば、その凸部の部分では、平面が屈曲しているので、この屈曲部分に上記の顔料があると、その角度によって色彩が異なるような多色感を呈することになる。このような新規な外観は、金属板やプレス成形した自動車ボディー等のような平滑な被塗装面では得られない新規な外観である。特に建材ボードは、石材調、レンガ調等の材質感も含めた特殊な意匠性が要求される分野であり、このような分野においては表面に種々の凹凸形状を形成させることが行われている。よって、このような分野の素材に対して上述したような塗膜を形成させた場合には、自動車ボディー等とは全く異なる新たな意匠感が得られる。よって、このような本発明によって、これまで当業者に全く知られていなかった新規な多色性を有する外観を得ることができるのである。
【0010】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、被塗装面の表面に凹凸形状を有する基材上に塗膜を形成することによって行われるものである。これによって、凹凸形状を有した基材の屈曲部に塗膜が形成され、光干渉による色調の変化をより多彩な変化をもって形成できるものである。
【0011】
上記凹凸形状としては、斑状、ストライプ状、レンガ状、モザイク状等が分布していてもよい様々な形状が挙げられる。上記で述べたように、少なくとも屈曲部があり、その部分での面の角度に応じて多色感を呈するものであればよい。
【0012】
上記凹凸形状は、凹凸深さが1mm以上であることが好ましい。上記凹凸深さが1mm未満であると、視覚的に認識できるような多色感が充分に得られないおそれがある。また、ロール塗装によって凸部を安定的に塗り分けることが困難である。上記凹凸深さは、被塗装面における凹凸形状の凸部の上端と凹部の下端との幅をいうものである。上記凹凸深さは、3mm以上であることがより好ましく、3〜10mmであることが更に好ましい。
【0013】
上記凹凸形状は、被塗装面全体において平滑面がほとんどなく凹部及び凸部によって全体が構成されているもの、基準面となる平滑面があり、平滑面に対して部分的に凹部及び/又は凸部が存在するもののいずれであってもよい。また、凹部及び/又は凸部によって線図が描かれたものであってもよい。更に、石材調、レンガ調等の材質感を付与するための凹凸形状であってもよい。
【0014】
上記基材としては特に限定されず、例えば、無機材料、有機材料、及び、これらの複合体からなるものを挙げることができる。具体的には、例えば、スレート、セメント、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板等の窯業系基材、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石材、コンクリート、繊維、布帛、紙、これらのうちの複数の基材からなるもの、これらの積層体、弾性防水膜、シーリング等を塗装した塗装体等を挙げることができる。なかでも、耐久性、施工性のため、ケイ酸カルシウム板、木片セメント板等の窯業系基材からなる建材ボードであることが好ましい。上記基材は、通常の製造方法によって製造されたものであり、凹凸形状の形成、制御等も通常の方法に従って行うことができる。
【0015】
上記被塗装面は、任意の色調のものを使用することができるが、淡色系の被塗装面上に塗装を行った場合のほうが、より明確に本発明の意匠性による効果が現れる。従って、本発明の意匠性塗膜の形成方法を適用する被塗装面は、塗装前のカラー測定によってL値が40以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。目的とする色調を得るためには、特定の色調を有する基材を使用するものであっても、基材上に下塗り塗料として目的とする色調を有する塗料を塗装し、その後本発明の塗装方法を適用するものであってもよい。
なお、上記L値とは、L表色系におけるLに対応する数値であり、明度を表す。L値が大きい程白くなり、小さい程黒くなる。
【0016】
上記光干渉性薄片顔料は、塗膜中に存在すると、入射光の角度又は見る角度の変化に応じて、次第に移り変わって多色感を呈するように観察される薄片顔料をいう。従って、上記光干渉性薄片顔料を含有する塗膜においては、光干渉性薄片顔料による光の干渉が起こるため、凹凸形状に応じた多色感を有するものとなる。従って、ハイライト位置から見た場合には、コーティング膜の膜厚によって、シルバー、イエロー、レッド、ブルー、グリーン等の干渉色が見られるが、シェード位置からの見た場合には、これらの干渉色の補色や、透過色が下地色に応じて反射、吸収された色が見られることになる。上記光干渉性薄片顔料は、上記性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、干渉マイカ顔料等のように無機化合物からなる薄片顔料の表面に金属酸化物による被覆を形成したものを挙げることができる。
【0017】
上記干渉マイカ顔料は、マイカ顔料の表面に、金属酸化物をコーティングしたもので、コーティング層の厚みによって、様々な干渉色を呈するものである。
上記干渉マイカ顔料としては、通常光輝感を呈する塗料に用いられるものを挙げることができる。形状は特に限定されないが、例えば、鱗片状のものが好ましく、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ、厚さが0.1〜3μmであるものが適している。
【0018】
上記干渉マイカ顔料は、マイカ顔料の表面に、TiO、SnO、ZrO、Fe、ZnO、Cr、V等及びそれらの含水物等の金属酸化物をコーティングしたマイカ顔料で、真珠箔状、金属様かつ玉虫色効果を有する上に、金属酸化物種とそのコーティング層の厚みが奏する色感をもたらすものである。なかでも、二酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物を均一に被覆したものが、好適に用いられる。
【0019】
例えば、グリーンの干渉色を有する干渉マイカ顔料として、メルクジャパン社製「イリオジン ウルトラ 7235 W2」(商品名)、ブルーの干渉色を有する干渉マイカとして、メルクジャパン社製「イリオジン ウルトラ 7225 W2」(商品名)、イエローの干渉色を有する干渉マイカとして、メルクジャパン社製「イリオジン ウルトラ 7205 W2」(商品名)等が挙げられる。その他にも上記干渉マイカ顔料として、エンケルハード社製「EXTERIOR LUMINA GREEN」(商品名)、エンケルハード社製「EXTERIOR LUMINA GOLD」(商品名)、エンケルハード社製「EXTERIOR LUMINA RED BLUE」(商品名)、メルクジャパン社製「イリオジン 201」(商品名)等を挙げることができる。また、上記光干渉性薄片顔料としては、上記干渉マイカ顔料の他に干渉光を有するアルミナフレークを用いることもできる。
【0020】
上記光干渉性薄片顔料は、上記干渉マイカ顔料以外のマイカ顔料を含有してもよい。上記干渉マイカ顔料以外のマイカ顔料としては、例えば、ホワイトマイカ顔料として、メルクジャパン社製「イリオジン 103 W2」(商品名)、日本光研社製「パールグレイスSME 90−9」(商品名)等を挙げることができる。
【0021】
上記光干渉性薄片顔料の配合量は、塗料組成物における全固形分量に対する顔料質量濃度(PWC)として、40質量%以下である。40質量%を超えると、PWCが高くなりすぎて、塗料の流動性や作業性が低下したり、塗膜の密着性が劣る場合がある。好ましくは、5〜40質量%、より好ましくは、15〜30質量%である。PWCが比較的高い場合には、一般的に、得られる塗膜は濃色となり、多色性がより明確に現れる傾向にあり、PWCが比較的低い場合には、下地が透けて見えるほどベース塗膜が淡色となることがあり、多色性が淡色化して現れる傾向にあるが、ニーズに合わせてこれら意匠性を選択することができる。
【0022】
本発明において使用する塗料組成物は、熱可塑性塗料組成物である。上記熱可塑性塗料組成物は、上述した光干渉性薄片顔料と、水性樹脂エマルションを含有するものである。上記水性樹脂エマルションは、エマルション粒子間で融着して、造膜するような性質を有するものであることが好ましい。
上記造膜する方法としては、常温でもよく、更に好ましくは、常温では造膜助剤を添加して行ったり、加熱乾燥により造膜させてもよい。上記造膜助剤としては、テキサノール(商品名、イーストマンケミカルジャパン社製)、ブチルセロソルブ(協和発酵社製)、C5−12(商品名、協和発酵社製)等の公知のものを使用することができる。
上記水性樹脂エマルションとしては、上述の性質を有するものであれば、特に限定されず、例えば、アクリルエマルション、シリコン変性アクリルエマルション、フッ素エマルション、ウレタンエマルション、エポキシエマルション等を挙げることができ、特にアクリルエマルションであることが好ましい。
【0023】
上記アクリルエマルションは、原料となるアクリル系モノマーを主成分とする不飽和モノマー組成物を乳化剤を用いて乳化重合させたものである。上述のアクリルエマルションを製造するための原料として用いられる好ましい不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、水酸基含有不飽和モノマー、酸基含有不飽和モノマー、アクリルエステル系モノマー、その他の不飽和モノマー等を例示することができる。
【0024】
上記水酸基含有不飽和モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、プラクセルFM−1(ダイセル化学工業株式会社製のε−カプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリエチレングリコールモノアクリレート又はモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート又はモノメタクリレート等のアルコール類を挙げることができる。
【0025】
上記酸性基含有不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボン酸類等を挙げることができる。
【0026】
上記アクリルエステル系モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ラウリル等を挙げることができる。
【0027】
上記その他の不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレン等の不飽和炭化水素;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート又はメタクリレート等のポリオキシアルキレン誘導体等を挙げることができる。
【0028】
上述の不飽和モノマーを乳化重合させる際に用いられる乳化剤、開始剤は、一般的なものを使用することができる。上記アクリルエマルションは、硬化剤と併用して使用するものであっても、硬化剤を使用せずに使用する非硬化タイプのものであってもよいが、非硬化タイプであることがより好ましい。
【0029】
上記水性樹脂エマルションとしては、市販のものを使用することもできる。市販の水性樹脂エマルションとしては特に限定されず、例えば、アクリルエマルションである、大日本インキ社製「ボンコート」(商品名)、日本エヌエスシー社製「ヨドゾール」(商品名)、サイデン化学社製「サイビノール」(商品名)、日本触媒社製「アクリセット」(商品名)等を挙げることができる。このような水性樹脂エマルションのエマルション粒子は、通常は非架橋粒子である。
【0030】
上記水性樹脂エマルションはまた、コア・シェル型エマルションであってもよい。上記コア・シェル型エマルションは、上述した不飽和モノマー組成物及び乳化剤等を用いて、二段乳化重合等の周知の方法により製造することができる。上記コア部は、架橋していても、非架橋であってもよいが、上記シェル部は、非架橋であることが好ましい。
【0031】
上記塗料組成物は、その他、水性塗料組成物に通常添加される材料である消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調製剤、造膜助剤、増粘剤、界面活性剤等を使用することができる。また、上記意匠性塗膜の形成に使用される上記塗料組成物も本発明の一部である。
【0032】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、上述した塗料組成物を基材上に塗布する工程からなるものである。上記塗布の方法は特に限定されず、霧化塗装やロール塗装等の任意の方法を挙げることができる。上記霧化塗装としては、例えば、スプレー塗装、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装、回転霧化塗装等を挙げることができる。
【0033】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、上記光干渉性薄片顔料を含有する熱可塑性塗料組成物を使用するものであるが、これによって所望の意匠性を得るためには、上記光干渉性薄片顔料が塗膜中で配向するよう、塗装を行うことが好ましい。すなわち、薄片状の形状をした顔料が塗膜中で平行に配向すると、塗膜全体で均一な光の反射、干渉が生じ、良好な意匠性が得られる。従って、塗装条件や被塗物に応じて、塗料組成を調整し、好適な塗装を行うことができるものとすることが好ましい。
【0034】
例えば、上記霧化塗装によって塗膜形成を行う場合、効率的な霧化を行い、かつ塗装後にタレやムラを生じないようにするため、チキソトロピック性の塗料組成物を使用することが好ましい。上記チキソトロピック性の塗料組成物は、霧化に際して高い剪断力を受けた際は比較的低粘度となることにより容易に霧化がなされ、被塗装面に付着した後は粘性を有することによって、タレやムラによる光干渉性薄片顔料の配列の乱れを生じることがなく、好ましい。
【0035】
上記ロール塗装は、基材の凸部上のみに意匠性塗膜を形成する場合に汎用される塗装方法である。上記ロール塗装による塗装を行う場合は、上記霧化において要求されるチキソトロピック性は不要であるが、そのかわりにロール表面に存在する凹凸によって塗膜表面の厚みムラが発生しやすい。すなわち、ロール塗装に使用するロールは、基材特性に基づく凹凸が表面に存在する。このため、このロールの凹凸を反映して塗膜に凹凸が生じることがあり、これによって光干渉性薄片顔料の配向の乱れが生じるおそれがある。従って、塗布から塗膜の乾燥までの間に塗膜がある程度塗料が流動することによって平滑化することが好ましい。このような作用を求める場合には、ニュートニアン性の塗料組成物を使用することが好ましい。
【0036】
ここで、チキソトロピック性及びニュートニアン性は、低剪断力におけるトルク及び高剪断力におけるトルクの比であるチクソインデックスによって評価することができる。上記剪断力とトルクの関係は、BROOKFIELD社製、B型粘度計DV−I+VISCOMETERによって測定する。上記低剪断力におけるトルクは、スピンドル回転数6rpmにおいて上記装置を用いて測定したときのトルクであり、上記高剪断力におけるトルクは、スピンドル回転数60rpmにおいて上記装置を用いて測定したときのトルクである。
【0037】
上記チクソインデックス[(低剪断力のトルク)/(高剪断力のトルク)]が、3〜6である場合、上記チキソトロピック性の塗料として使用することができ、1〜3である場合、ニュートニアン性の塗料として使用することができる。
【0038】
上記チクソインデックスは、塗料に添加する増粘剤の種類を選択することによって調整することができる。チキソトロピック性の増粘剤としては特に限定されず例えば、ポリカルボン酸化合物の塩を挙げることができる。ニュートニアン性の増粘剤としては特に限定されず、ウレタン変性ポリエーテル等を挙げることができる。上記増粘剤は、塗料に対して0.1〜5質量%の割合で添加することが好ましい。
【0039】
本発明の意匠性塗膜の形成方法においては、上記性質を調整した塗料組成物を通常の方法に従って塗布することによって行うことができる。本発明の意匠性塗膜の形成方法によって形成された塗膜の膜厚は、10〜40μmであることが好ましい。
【0040】
上記塗料組成物を塗布した後の乾燥方法としては、被塗物を予熱し塗装を施した後加熱乾燥する方法、予熱せず加熱乾燥する方法、雰囲気温度で乾燥する方法が用いられる。例えば、被塗物を予熱する場合は、基材温度30〜80℃程度、加熱乾燥温度40〜150℃、雰囲気温度5〜40℃で行うことが好ましいが、塗料中の水分や有機溶媒が塗膜より揮発し、エマルション同士が融着し、塗膜が形成できれば良く、特に上記条件を満足させなくてもよい。
【0041】
本発明の意匠性塗膜の形成方法を窯業系材料への塗装に適用する場合、基材上にシーリング塗料を塗装した後、本発明の意匠性塗膜の形成を行うものであってもよい。更に、着色塗料を塗装して基材を所望の色調に着色した後、着色塗膜上に本発明の意匠性塗膜を形成してもよい。上記シーリング塗料及び上記着色塗料としては特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0042】
更に、本発明の意匠性塗膜の形成方法によって形成した塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗装してもよい。これによって塗膜による表面保護機能が優れたものとなる点で好ましい。上記クリヤー塗料組成物としては特に限定されず、通常のものを使用することができる。上記クリヤー塗料組成物の塗装膜厚も特に限定されず、例えば、10〜30μmとすることができる。
【0043】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、特に、建築用材料の塗装に適したものである。特に、窯業系材料からなる建材用ボードの塗装に適している。このような方法によって形成された意匠性塗膜を有する建材用ボードも本発明の一部である。
【発明の効果】
【0044】
上記構成を有する意匠性塗膜の形成方法によって、建築用材料に適した多色感のある意匠性の高い塗膜を形成することができ、優れた意匠性塗膜を有する建材用ボードを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0046】
製造例1 水性塗料組成物1の製造
ヨドゾールAD57(アクリルエマルション樹脂、NV50%、日本エヌエスシー社製)100.0部に、テキサノール(造膜助剤、イーストマンケミカルジャパン社製)8部をディスパーで攪拌しながら滴下し、続いてSNデフォーマー154(消泡剤、サンノプコ社製)0.4部を滴下した後、5分間攪拌した。
その後攪拌を続けながら、イリオジン201(干渉マイカ、メルク社製)2.7部を添加し、続いて水道水64.5部添加して10分間攪拌した。
その後、更に、SNシックナー615(ポリカルボン酸系、チキソトロピック性増粘剤、サンノプコ社製)を添加して粘度がイワタNK#2カップで40±3秒となるように調整して、水性塗料組成物1を得た。
【0047】
製造例2〜5 水性塗料組成物2〜5の製造
各成分の配合を表1に示すように変えた以外は、製造例1と同様にして、水性塗料組成物2〜5を得た。
【0048】
製造例6〜10 水性塗料組成物6〜10の製造
増粘剤としてSNシックナー615をSNシックナー601(会合型増粘剤、ニュートニアン性、サンノプコ社製)に変えて、各成分の配合を表1に示すようにした以外は、製造例1と同様にして、水性塗料組成物6〜10を得た。
上記で得られた水性塗料組成物1〜10の配合成分、粘度、加熱残分、PWC、チクソインデックス(TI)について表1に示す。
【0049】
製造例11〜13 水性塗料組成物11〜13の製造
上記で得られた水性塗料組成物3及び8を表2に示すように配合して、チクソインデックス(TI)を調整した水性塗料組成物11〜13を製造した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
実施例1〜8及び比較例1、2
(基材)
以下の塗装における被塗装物として、「UBボード12」タイル調(ウベボード社製)を使用した。この表面には、深さ2mmの凹凸が1mあたり約100個の割合で存在する。上記被塗装物に日本ペイント社製「ウルトラシーラーIIIホワイト」(商品名)を塗装し、更に、ベース塗料「オーデタイト339」(商品名、日本ペイント社製)を塗装して、塗装板を得た。ベース塗膜が形成された上記塗装板の表面のカラー値を「CR−300」(商品名、コニカミノルタセンシング社製)により測定すると、L=80.29、a=0.26、b=1.92であった。
【0053】
(スプレー塗装)
上記で得られた水性塗料組成物1〜5を用いて、基材表面温度が60±5℃の状態でエアスプレーガン「W−100」(商品名、アネストイワタ社製)により、上記ベース塗膜が形成された塗装板を塗装した。上記塗装は、スプレー塗装によって被塗物全面に対して20μmの膜厚となるように行った。100℃で10分乾燥後、更にクリヤー塗料組成物「オーデタイト200クリヤー」(日本ペイント社製)を20μmの膜厚となるように塗装し、100℃で10分乾燥し、試験用塗装板を得た。
【0054】
(ロール塗装)
上記で得られた水性塗料組成物6〜10を用いて、基材表面温度が60±5℃の状態で「ロールコーター」(商品名、三和精機社製)により、上記ベース塗膜が形成された塗装板を塗装した。上記塗装は、ロール塗装によって凸部塗装面に対して10μmの膜厚となるように行った。100℃で10分乾燥後、更にクリヤー塗料組成物「オーデタイト200クリヤー」(日本ペイント社製)を20μmの膜厚となるように塗装し100℃で10分乾燥し、試験用塗装板を得た。
【0055】
(評価)
上記で得られた試験用塗装板の多色感と2次密着性について、下記の方法で評価した。結果を表3に示す。
(多色感)
得られた試験用塗装板の外観について、目視により下記の基準にて評価した。
○;基材の凹凸、塗り分けに応じ、はっきりと色が変化して見える。
△;基材の凹凸、塗り分けに応じ、やや色が変化して見える。
×;基材の凹凸、塗り分けに応じた色変化が認められない、又は、基材の凹凸感が損なわれている。
(二次密着性)
試験用塗装板の表面、木口面にウレタン塗料(「ルソール190シーラー」、商品名、日本ペイント社製)にて防水シールを施し、常温で24時間放置後、60℃の温水に3日間浸漬した。その後、試験用塗装板を取り出し、24時間常温で乾燥し、カッターナイフにより碁盤目(2mm角、25マス)を作成した。
碁盤目上に粘着テープ(「ニチバンTM」、商品名、ニチバン社製)を貼り付け、これを剥がした際に剥離したマスの数について、下記の基準にて評価した。
○;剥離マス数 2/25以下
△;剥離マス数 3/25〜10/25
×;剥離マス数 11/25以上
【0056】
【表3】

【0057】
実施例9〜13
表4に示す塗装板、水性塗料組成物、塗装方法を用いた以外は、実施例1と同様にして試験用塗装板を得て、それらの外観及び多色感について評価した。多色感の評価は、上記と同様の方法で行った。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
実施例14及び比較例3
上記で得られた水性塗料組成物3を、「UBボード12」タイル調(前出)及び表面に凹凸のない「UBボード12 フラット溝なし(よこばり)」(フラット調、ウベボード社製)のベース色L値が同じ塗装板にスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして試験用塗装板を作成し、これらの外観及び多色感について評価した。多色感の評価方法は、上記と同様の方法で行った。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
実施例15〜19
上記で得られた水性塗料組成物3を、「UBボード12」タイル調(前出)のそれぞれベース色L値が異なる塗装板にスプレー塗装した以外は、実施例1と同様にして試験用塗装板を作成し、これらの多色感について評価した。評価方法は、上記と同様の方法で行った。結果を表6に示す。
【0062】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の意匠性塗膜の形成方法は、建築用材料に意匠性を付与するために使用することができ、本発明の建材用ボードは、優れた意匠性を有する建築用材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に熱可塑性塗料組成物を塗布する工程からなる意匠性塗膜の形成方法であって、
前記基材は、被塗装面の表面に凹凸形状を有するものであり、
前記熱可塑性塗料組成物は、顔料質量濃度として40%以下の光干渉性薄片顔料及び水性樹脂エマルションを含有する
ことを特徴とする意匠性塗膜の形成方法。
【請求項2】
凹凸形状は、凹凸深さが1mm以上である請求項1記載の意匠性塗膜の形成方法。
【請求項3】
水性樹脂エマルションは、アクリル樹脂エマルションである請求項1又は2記載の意匠性塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記熱可塑性塗料組成物は、更にチキソトロピック性増粘剤を含有し、前記塗布は霧化塗装によって行うものである請求項1、2又は3記載の意匠性塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記熱可塑性塗料組成物は、更にニュートニアン性増粘剤を含有し、前記塗布はロール塗装によって行うものである請求項1、2又は3記載の意匠性塗膜の形成方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の意匠性塗膜の形成方法によって形成された塗膜を有することを特徴とする建材用ボード。
【請求項7】
基材は、窯業系材料からなるものである請求項6記載の建材用ボード。
【請求項8】
光干渉性薄片顔料及び水性樹脂エマルションを含有し、請求項1の意匠性塗膜の形成方法に使用されることを特徴とする水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−185606(P2007−185606A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5866(P2006−5866)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】