説明

意匠性賦与方法及び意匠用塗料

【課題】壁面、垂直面に、意匠感を付与するもので、簡単な塗装方法で、短時間に、大面積を、容易に、不自然さなく、壁の凹凸形状、深さに依存することなく、凹部着色し、「古ぼけた、落ち着いた、深みのある、色調コントラスト賦与等」の壁の意匠価値をあげる方法およびその上塗り塗料の提供にある。
【解決手段】凹凸が賦与された壁面に、意匠用塗料を塗布する工程とゴム鏝で掻き落とす工程を含む意匠性賦与方法において 意匠用塗料の0.125mm膜厚の隠蔽率が、0.3〜0.4であり、塗料粘度が2〜25Pa・s、TI値が2.2〜2.7である意匠用塗料及びその方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗材で凹凸が形成された壁上に塗布し、意匠感を創作するための上塗り塗料及び意匠性賦与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木目導管部を着色し、木目意匠を向上させる手法として、ワイピングがある。これをエンボス加工を施した化粧板に適応したものは多く、意匠性の高い化粧材として使用されている。これらは板材のため、水平加工ができ、塗布、拭き上げも、機械で行うことができるが、エンボス形状がシャープなものに限られる。一方 壁材においても塗材を厚付けし、凸版ローラーで型押しし、乾燥後この凹部に着色して、古ぼけた落ち着いた意匠や、凹凸の立体感を得る意匠目的に前記ワイピング手法が試みられているが、塗材の凹凸、固さで拭き取る布生地が直ぐに摩耗してしまう事や、塗布してから拭き上げの時間が一定とすることができず、不自然な濃淡が生じてしまい、大面積の壁には適応できないものであった。
【0003】
また、「エージング」という古色調仕上げが、店補に採用されるが、職人の描画技能によるもので、一般的な塗装方法となるものでなかった。
【特許文献1】特開2000−327949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、壁面すなわち垂直面に、意匠感を付与するもので、簡単な塗装方法で、短時間に、大面積を、容易に、不自然さなく、壁の凹凸形状、深さに依存することなく、凹部着色し、「古ぼけた、落ち着いた、深みのある、色調コントラスト賦与等」の壁の意匠価値をあげる方法およびその上塗り塗料の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、凹凸が賦与された壁面に、少なくとも意匠用塗料を塗布する工程とゴム鏝で掻き落とす工程を有する意匠性賦与方法であり、ゴム鏝で掻き落とすことで、容易に、大面積を均一に仕上げることができる。
請求項2の発明は、意匠用塗料の0.125mm膜厚の隠蔽率が、0.3〜0.4であり、塗料粘度が2〜25Pa・s、TI値が2.2〜2.7である意匠用塗料であることで、この隠蔽性、粘度、粘度構造指数で、欠点のない仕上げができる。前記意匠用塗料を用いることにより、壁面の凹凸に応じた意匠性を賦与でき、作業者の技能が未熟でも、不自然なラインが生ずることなく、液だれに濃淡がなく、また、下地の色との調和が自然なものとなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果は、垂直である壁面の凹部、或いは段差部に意匠的変化を賦与することができ、ゴム鏝の抵抗も少なく、凹凸に追従して、凹部塗り残しもなく、処理後は塗料のたれもなく、塗料の多少による不自然なライン、溜まりが目立たない塗料及び方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
凹凸の賦与された壁面は新設或いは既存の凹凸が賦与された壁面で、JIS A6909に規定する外装薄塗材E、可とう形外装薄塗材E、内装薄塗材E、外装厚塗材E、内装厚塗材E等の塗材コテ仕上げ面塗布後、または塗材塗布後乾燥前に凹凸に関連した凸版ローラーで、凹凸を賦与し、乾燥した壁面である。
該当する凹凸についてはアイカ工業(株)ジョリパットの仕様にある「エンシェントブリック」、「エンシェントブリックS」、「割肌」、「珪藻土風フラット」、「クォータームーン」、「エンシェントブリックKS」、「アートクリフ」、「かき落とし」の様に、添加した骨材(寒水石)が転がった後が残るようなフラット感の残る意匠や、「乱流」、「乱流R」、「マイルドプラスター」、「マイルドプラスターランダム」の様に骨材を添加せずにコテの動かした後が残りフラット感のある意匠が挙げられる。但し これらは一例であり、凹凸、段差がある壁に適応できる。
意匠用上塗り塗料は、合成樹脂エマルジョンに、顔料、増粘剤、表面外観、濡れ性、ピンホール解消等目的の界面活性剤等の添加剤で構成され、上記壁面への密着性、耐光性、耐侯性、耐汚染性、防塵性等で配合が決定する。必要な粘性としてはスプレー、ロール等の塗布適性で、せん断が加わった時に、粘度、すなわちせん断応力が小さくなり、軽作業、スムーズなスプレー性が得られること、また 塗布されたあとは速やかに粘度上昇し、垂れが少ないこと。また 本発明ではゴム鏝で掻き落とすため、その際再度、粘度が低下して、コテ裁きが容易なことが必要である。本発明では20rpmでの粘度2〜25Pa・s、チクソトロピー性に関係するTI値が2.2〜2.7であることが望ましい。粘度2Pa・s未満かつTI値2.2未満であるとゴム鏝で掻き落とした後に、凹部、段差に塗られていた意匠用塗料が垂れて、明瞭な意匠性が得られず、粘度25Pa・sを超え、かつTI値が2.7を超えると塗布時の抵抗が大きく、また意匠用塗料が凹部に入らず、また密着性も不十分ものとなる。
この他、着色は壁面の色調に応じて、決定するが、隠蔽性は高すぎるとゴム鏝でのラインが鮮明になり、また 塗料の溜まりが目立つ、逆に 隠蔽性が低いと目的の意匠を得るために塗布厚が多く必要となり、前記と同じく、ゴム鏝のあと、塗料溜まりが目立つこととなる。0.125mmの隠蔽率が0.3〜0.4が好ましい。固形分については、5〜40重量%が好ましい。固形分が5重量%未満であると、凹部の着色が不十分であり、塗料を塗布する効果が得られない。固形分が40重量%を超えると材料が凹部以外にも残るようになり、目的とする意匠が得られない。また凹部に材料が溜まってしまい、材料を施工する前の意匠と凹凸感が著しく変化してしまう。塗料の固形分としては10〜20重量%が最も好ましい。
【0008】
塗料をかきとる作業はゴム鏝を使用することが望ましい。これは、表面の小さな凹凸に対応して塗料をかきとる事ができ、作業者による技能の差を生じない意匠が得られるためである。ゴム鏝は支持体やゴム部分の剛性、弾性により、一様なかきとりができ、ゴム鏝を鏝としての柔軟性等を変えることにより、意匠性の変化を富ませることができる。塗料をかきとる道具はゴム鏝に限らず、ゴムベラなどのゴム製品が適している。使用されているゴムの材質は天然ゴムやスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが適しており、その硬さは20〜100IRHD(JIS K6253 加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法 による)であることが望ましい。形状については左官用鏝状、ヘラ状であることが望ましい。詳しく記すと鏝の場合、左官鏝の略五角形支持体の長辺とほぼ平行にゴム或いは弾性体の端がなる様に支持体に貼られ、または成形されたもので、支持体より、ゴム或いは弾性体の端がでているのが好ましい。またヘラについても同じく 支持体の直線部分で支持体より、ゴム或いは弾性体の端がでているのが好ましい。支持体より出ている長さとしてはゴム或いは弾性体の厚み以上で5倍以下であるとより好ましい。出ていることで壁面の平坦部に沿って掻き落とすことができる。厚み未満であると鏝の壁との角度に幅がなく、5倍を超えると作業性を損ない、人為的な欠点を多く発生する。なお 弾性体は発泡体、スポンジ体も含む。
金属製の左官コテを使用すると施工面に塗料をかきとることができず、個人技による意匠となり、本発明とする意匠を得る事ができない。
合成樹脂エマルジョンとしては アクリル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、アクリルシリコン樹脂型エマルジョン、シリコン樹脂系エマルジョン等が使用でき、耐侯性が高いアクリル樹脂エマルジョンが最も好ましい。
【実施例】
【0009】
合成樹脂エマルジョンとして YJ−1701D(BASF社製、固形分55%)25重量部、添加剤として SNデフォーマー318(消泡剤:サンノプコ株式会社製)を1.0部、スラオフ72N(防腐剤:ガンツ化製株式会社製)を0.6重量部、増粘剤として hiSEW−04T(信越化学工業株式会社製)を表1の配合に従い調製した。
表1、実施例1〜5、比較例1、2における粘性と作業性を表2に粘性と隠蔽率による外観評価結果を示す。
【0010】
【表1】

【0011】
評価方法
作業性
アイカ工業(株)ジョリパット100シリーズ「エンシェントブリック仕上げ施工の手引き」記載に準じ、コテ仕上げを行った垂直面の基材に実施例1〜5、比較例1、2の塗料をローラー(アイカ工業(株) JR−61)を使用してに塗布し、ゴム鏝((有)大西鏝製作所製)を使用して基材表面をなでる様にして余分な材料をかきとった。評価方法としては、ローラーを使用して全面に均一に塗布できること、またゴム鏝を使用して余分な材料を掻き取ったあとに凹部から流れ出さないことを基準として、○は基準を満たすものとし、×は基準を満たさないものとした。

粘度測定
粘度はBH型回転粘度計(TOKIMEC社製)を使用して測定した。30℃になるように調整し、表1に記載するローターを使用して測定した。粘度測定はローターの回転数が2rpm、及び20rpmの2種類の回転速度で測定を行った。また、その粘度値の比をTI値として表記した。
TI値:[2rpm]/[20rpm]
*1:凹部からだれる
*2:塗布抵抗が大き過ぎて、ローラー塗布できない
*3:溝に入っていかない箇所がある
【0012】
表2に実施例6〜9、比較例3〜6に実施例1および実施例5にMF−5050(顔料 大日精化工業(株)製)を0.1〜0.5重量部、を添加して 隠蔽率を調整し、施工実験を行い外観評価を行った。これらの不揮発分は16±1%であった。
【0013】
【表2】

【0014】
隠蔽率:JIS K5600−4−1に規定される隠ぺい率測定方法に準拠して測定を行った。隠ぺい率測定試験紙をガラス板の上に固定し、その上に125μmのフィルムアプリケーターを使用して塗料を均一に塗布した。この試験体を水平に保ったまま温度23℃、湿度50%の条件で48時間以上養生させ、乾燥した塗膜の三刺激値を分光光度計を使用して測定した。測定結果のY値の比を隠ぺい率として記載した。
不揮発分:JIS K 6833 6.4項(接着剤の一般試験方法)に記載されている方法に準拠し、配合物の不揮発分を測定した。(固形分と同義)
外観評価実験:アイカ工業(株)ジョリパット100シリーズ「エンシェントブリック仕上げ施工の手引き」記載に準じ、コテ仕上げを行った垂直面(白地)の基材に実施例、比較例に示す塗料をローラー(アイカ工業(株) JR−61)を使用して塗布し、ゴム鏝((有)大西鏝製作所製)を使用して基材表面をなでる様にして余分な塗料をかきとった。評価方法としては、凹部(深さ約0.5〜2.0mm)に塗料の生地着色が認められ、また 平坦部で掻き取りむらの生じないものを○とし、いずれかの不都合を生じたものを×とした。
*1:深さ1mmより浅い凹部で着色感を認められず。
*2:*1より良好であるが、深さ1mmより浅い凹部で着色感を認められず。
*3:凹部付近での垂れによる濃淡が目立つ。
*4:平坦部での鏝の掻き取りムラ、鏝のとめムラが目立つ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アイカ工業(株)ジョリパットの仕上げ施工の手引きにより、「エンシェントブリックKS」仕上げに実施例8の条件による処理したサンプルの実体写真(1)と2値化処理したもの(2)である。2値化はほぼ処理面が反映したもので参考である。
【図2】「クォータームーン」仕上げとした以外図1と同じ。
【図3】「かき落とし」仕上げとした以外図1と同じ。
【図4】「乱流」仕上げとした以外図1と同じ。
【符号の説明】
【0016】
1 実体写真
2 2値化処理画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸が賦与された壁面に、意匠用塗料を塗布する工程とゴム鏝で掻き落とす工程を含む意匠性賦与方法。
【請求項2】
前記 方法において 意匠用塗料の0.125mm膜厚の隠蔽率が、0.3〜0.4であり、塗料粘度が2〜25Pa・s、TI値が2.2〜2.7である意匠用塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−175580(P2007−175580A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374802(P2005−374802)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】