説明

感光体ベルト用ポリエステルフィルム

【課題】 画像を形成する際に発生する干渉縞を防止することができ、いわゆる黒ポチ、白ポチ等の不具合の発生がなく、良好な画像品質を得ることができる電子写真用の感光体ベルト用の基材として好適なポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 平均粒子径が異なる2種類以上の無定形シリカ粒子を含有するポリエステルフィルムであり、空気漏れ指数が1000〜2000秒の範囲であることを特徴とする感光体ベルト用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式の複写機、プリンターあるいはファクシミリ装置等に用いられる電子写真用感光体ベルト(感光層塗布フィルム)として使用されるもポリエステルフィルムに関するものであり、画像形成性能に優れたポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザービームをライン走査する方式である電子写真用感光体ベルトには、レーザー光を用いて形成する画像に干渉縞模様が現れるという特有の問題がある。この種の干渉縞の発生は、感光層内で吸収されなかった透過光が、ベルト基材に塗布された感光層内でレーザービームの多重反射を生じ、感光層表面の入射光との間で干渉を生じることに起因するとされている。
【0003】
このような干渉縞の防止対策として、ベルト基材表面を粗面化することが提案されている。例えば、基材表面にサンドブラスト加工を施す方法(特許文献1)、または基材表面にエッチング加工を施す方法(特許文献2)等による方法が開示されている。これらの方法によりベルト基材表面に凹凸を設けることで、入射光と反射光との干渉を抑制し、干渉縞の発生を防止することができる。しかしながら、上記従来の電子写真用感光体の製造方法では、干渉縞を防止するための上述の採用に際して、以下に述べるような問題点を有している。
【0004】
すなわち、基材表面を粗面化する際に、ブラスト材等の粒子を小さくするためには限界があるために、削り跡の凹凸の大きさが現像用トナーと同じ大きさか、またはそれ以上となり、解像度が低下し、画像形成時に、いわゆる黒ポチ、白ポチの原因となる。また、サンドブラストを施す際に、主としてアルミナ系材料の砥粒からなるサンドブラスト材を基材にエアー等で吹き付けるので、基材表面にブラスト材が食い込む。したがって、洗浄を行っても、基材に食い込んだブラスト材を除去するのが困難であることから、残存するブラスト材がコピー画像の欠陥の原因となり好ましくない。一方、エッチング加工の場合、加工工程によりコスト高の要因となる。また、いずれの方法においても、ベルト基材表面を均一に粗面化することが困難であり、干渉縞とは異なった、画像の黒ポチ、白ポチが発生し、解像度が低下する問題がある。さらに、表面処理後にベルト基材表面の洗浄が、別工程で必要となるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−87154号公報
【特許文献2】特開平6−10268号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、画像形成時に干渉縞を防止し、黒ポチ、白ポチの発生がなく良好な画像品質を得ることができる電子写真用感光体ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有すポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、平均粒子径が異なる2種類以上の無定形シリカ粒子を含有するポリエステルフィルムであり、空気漏れ指数が1000〜2000秒の範囲であることを特徴とする感光体ベルト用ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子径の異なる2種以上の不定形シリカ粒子を配合することで、空気洩れ指数がある一定の範囲であるような表面凹凸を形成させたフィルムを提供し、これを感光体ベルトに用いることで、導電性支持体の晶出物をなくし、残留電位の上昇がなく、さらに画像形成時に現出する干渉縞や黒ポチ、白ポチをなくした感光体を得ることができ、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステルフィルムは、具体的には、その表面にアルミニウム、チタン等の金属もしくはそれらの合金を真空蒸着法によって被覆形成させた上で、感光体ベルト用基材として使用される。本発明の感光体ドラム用ポリエステルフィルムは、画像上の干渉縞や表面の粗大突起による画像の黒ポチ、白ポチを防止するために、フィルムのおおよそ全表面において、JIS P 8119:1998による平滑度測定において、空気漏れ指数が1000〜2000秒であることが必要である。空気漏れ指数が1000秒未満の場合はフィルム表面の粗大突起による画像の黒ポチ、白ポチが発生してしまう。空気漏れ指数が2000秒を越える場合、干渉縞を防止することができない。
【0012】
上記のように空気漏れ指数が1000〜2000秒であることを満たすように、均一粗面化されたフィルム表面には、通常アルミニウムの真空蒸着加工(アルミ膜厚=50〜100nm)を経た後、感光層が形成される。
【0013】
フィルムの蒸着層表面には、所望により下引き層が形成される。下引き層は公知の樹脂を用いて形成されるが、膜厚は通常4〜10μmの範囲、特に、4〜6μmの範囲に設定することが好ましい。積層感光体の場合は、電荷発生剤と結着樹脂を含む電荷輸送層とが、この順序または逆の順序で下引き層の上に設けられる。電荷発生層の膜厚は、通常0.3〜1μmの範囲、特に0.3〜0.7μmの範囲に設定することが好ましい。また、電荷輸送層の膜厚は20〜40μmの膜厚で形成すればよい。このように表面処理された感光体ベルト基材表面に、電荷輸送剤、電荷発生剤、結着樹脂、有機溶媒を混合した塗工液をディッピング法にて塗布し、厚さ30μmの感光層を形成して、電子写真感光体ベルトを作成することができる。
【0014】
本発明の電子写真用ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、代表的には、例えば、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート、構成単位の80モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレートであるポリエチレン−2,6−ナフタレート、構成単位の80モル%以上が1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートであるポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。その他にも、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0015】
上記の優位構成成分以外の共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール成分、イソフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびオキシモノカルボン酸などのエステル形成性誘導体を使用することができる。また、ポリエステルとしては、単独重合体または共重合体のほかに、他の樹脂との小割合のブレンドも使用することができる。
【0016】
本発明の感光体ベルト用ポリエステルフィルムは、走行性を良くするために、フィルム中に汎用の微粒子を含有させることができる。含有させる微粒子としては、シリカ(酸化ケイ素)、フッ化リチウム、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、テレフタル酸カルシウム、酸化アンモニウム、リン酸カルシウム、酸化チタン等の同素周期律表の第I族、第II族、第III族、第IV族、その他から選ばれる元素を含む塩または酸化物からなる不活性粒子、架橋ポリマー等の不活性粒子、あるいは、ポリエステル合成時に使用する金属化合物触媒、例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等によってポリエステル製造時にポリマー内部に形成される粒子等を挙げることができる。
【0017】
本発明においては、特に感光体ベルトとしての画像形成性能を付与するために、不活性添加粒子として、平均粒子径の異なる2種以上の無定形シリカ粒子を含有することが必要である。ここで添加する無定形シリカ粒子の平均粒子径は、通常1〜10μmの範囲であり、好ましくは2〜7μmの範囲である。
【0018】
なお、本発明において無定形シリカ粒子が使用されるのは、ポリエチレンテレフタレートと屈折率が同程度であり、しかもフィルム延伸時にボイドを生じにくいためである。無定形シリカ粒子を用いる場合、最も好ましい形態としては、大粒子と中粒子の、いわゆるバイモータル系、具体的には平均粒径4〜7μmの大粒子と平均粒径1〜3μmの中粒子とのバイモータル系で、両者共に無定形シリカであることが好ましい。この場合、フィルム中の大粒子の含有量は、通常2000〜4000ppm、中粒子の含有量は、通常2000〜8000ppmの範囲である。添加される大粒子の平均粒径が4μm未満では、フィルムの凹凸形成への寄与が小さくなる傾向があり、逆に7μmを超えるとフィルム表面に粗大突起が生じ、画像の黒ポチ、白ポチの原因となることがある。一方、大粒子の含有量が2000ppm未満では、得られるフィルムの凹凸形成が少なくなる傾向があり、一方、4000ppmを超えると、フィルム表面に粗大突起が生じ、画像の黒ポチ、白ポチの原因となることがある。また、粒径の小さい中粒子の添加のみでは、得られるフィルムの表面凹凸形成が不十分となる傾向がある。
【0019】
また、本発明のポリエステルフィルムの光沢度は、通常50〜80%、好ましくは60〜70%であり、ヘーズは、通常45〜70%、好ましくは55〜65%である。光沢度が80%を超えるか、ヘーズが45%未満の場合、干渉縞の発生を抑制できないことがある。また、光沢度が50%未満であるか、ヘーズが70%を超える場合、感光体ベルト表面の凹凸による画像の黒ポチ、白ポチが発生する傾向がある。
【0020】
次に、二軸延伸を用いた場合の一例を詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0021】
まず、ポリエステルフィルムを構成する原料を押出機へ供給し、溶融混練後、押し出す。積層フィルムの場合は、異なる押出機から供給された原料の溶融ポリマーをTダイ内でスリット状に積層してから押し出す。次に、ダイから押し出された溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面均一性、冷却効果を向上させるためには、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法が好ましく採用される。次いで、得られたシートを二軸方向に延伸してフィルム化する。まず、通常70〜150℃、好ましくは75〜130℃の延伸温度、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、前記未延伸シートを一方向(縦方向)に延伸する。かかる延伸にはロールおよびテンター方式の延伸機を使用することができる。次いで、通常75〜150℃、好ましくは80〜140℃の延伸温度で、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、一段目と直交する方向(横方向)に延伸を行い、二軸配向フィルムを得る。かかる延伸には、テンター方式の延伸機を使用することができる。
【0022】
上記の一方向の延伸を2段階以上で行う方法も採用することができるが、その場合も最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが好ましい。次いで、テンター内熱処理を、通常180〜245℃、好ましくは200〜240℃で、1秒〜5分間行う。この熱処理工程では、熱処理の最高温度のゾーンおよび/または熱処理出口直前の冷却ゾーンにおいて、横方向および/または縦方向に0.1〜20%の弛緩を行うことが、熱寸法安定性付与の点で好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の構成および効果を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。
【0024】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0025】
(2)ポリエステルフィルムに用いるフィラー(微粒子)の平均粒子径(d50:μm)
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(体積基準)50%の値を平均粒径とした。
【0026】
(3)空気洩れ指数(G)
東洋精機製、デジベック平滑度試験機を用いて、JIS8119:1998に従って測定した。まず、フィルムを試料台の中心にくるようにセットし、フィルムの上にゴム製押え板および加圧板を置き、加圧装置によって100kPaの圧力をかけた。容積380mlの大真空容器を選択し、容器内の圧力を50.7kPaより低くした後、10mlの空気が流れる時間、すなわち、容器内の圧力が50.7kPaから48.0kPaに変化するまでの時間を秒単位で測定した。
【0027】
(4) フィルム光沢度(G60°)
日本電色工業製VG‐2000型光沢度計を用いて、60度鏡面光沢度(60°)をJISZ8741に準じて測定した。すなわち、入射角、反射角60度における黒色標準板の反射率を基準に試料の反射率を求め光沢度とした。
【0028】
(5) フィルムヘーズ
日本電色工業製NDH‐2000型濁度計を用いて、JISK6714に準じ、日本電色工業社製によりフィルムの濁度を測定した。
【0029】
(6)画像形成性能評価
フィルムに、真空蒸着工程で厚さ70nmのアルミ蒸着層を設け、さらに蒸着層表面に、電荷輸送剤、電荷発生剤、結着樹脂、有機溶媒を混合した塗工液をディッピング法にて塗布し、厚さ30μmの感光層を形成した。作成された電子写真感光体ベルトを京セラミタ社製複写機AF1000に取り付け、グレー原稿にて転写紙上に画像を出し、画像上の干渉縞および白ポチ・黒ポチを評価した。
◎:最も優れた画像を形成した
○:優れた画像を形成した
△:画像にやや難があるが使用可能なレベル
×:画像欠陥が多く、使用できない
【0030】
実施例1:
ベント付き二軸押出機を使用し、平均粒子径4.1μmの無定形シリカ粒子(A)を3000ppmと、平均粒子径3.2μmの無定形シリカ粒子(B)を4000ppm含有するポリエチレンテレフタレートを280℃〜300℃の温度で溶融押し出しし、静電密着法を併用しながら冷却ドラム上にキャストして、無定形フィルムを得た。このフィルムを82℃で縦方向に3.3倍延伸し、さらに120℃で横方向に3.9倍延伸し、230℃で熱処理して、厚さ75μmのポリエステルフィルムを得た。
【0031】
実施例2:
実施例1において、シリカ粒子(A)を3000ppmと、シリカ粒子(B)を5000ppm含有するポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0032】
実施例3:
実施例1において、シリカ粒子(A)を3000ppmと、シリカ粒子(B)を3000ppm含有するポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0033】
実施例4:
実施例1において、シリカ粒子(A)を3000ppmと、シリカ粒子(B)を1000ppm含有するポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0034】
比較例1:
実施例1において、シリカ粒子(A)を3000ppmを含有し、シリカ粒子(B)を含有しないポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0035】
比較例2:
実施例1において、シリカ粒子(B)を4000ppmを含有し、シリカ粒子(A)を含有しないポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0036】
比較例3:
実施例1において、シリカ粒子(A)を10000ppm含有し、シリカ粒子(B)を含有しないポリエチレンテレフタレートを使用する以外は同様にして、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。
以上、得られたフィルムの特性評価をまとめて下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、優電子写真用の感光体ベルト用の基材として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が異なる2種類以上の無定形シリカ粒子を含有するポリエステルフィルムであり、空気漏れ指数が1000〜2000秒の範囲であることを特徴とする感光体ベルト用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−170126(P2011−170126A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34294(P2010−34294)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】