説明

感光性組成物及び感光性組成物の硬化方法

【課題】有機・無機フィラー、カーボン・金属粒子、短繊維・長繊維、ポリマー・オリゴマー、各種改質添加剤等の紫外線透過を抑制する物質の存在の有無に関わらず深部まで硬化させることが可能な感光性組成物及び硬化方法を提供する。
【解決手段】紫外線硬化材料と紫外線の透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在下で前記紫外線硬化材料を連鎖硬化可能な連鎖移動剤とを含む感光性組成物を用い、前記紫外線硬化性組成物に紫外線を照射した際に発生する硬化活性種を前記連鎖移動剤により紫外線の到達しない箇所まで伝播させ、前記紫外線硬化性組成物内の紫外線透過を抑制する物質の存在の有無に関わらず、前記紫外線硬化性組成物を連鎖硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線透過抑制物を含有する感光性組成物、及び該感光性組成物の硬化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射によってラジカルを発生する化合物を(メタ)アクリレート誘導体等の二重結合を持つモノマーやオリゴマーに加えて重合反応を開始、進行させることによって液状の材料を硬化させる紫外線硬化材料は、硬化速度が速く、長時間加熱の必要も無いため、成形、接着、封止、コーティング材料として様々な分野で用いられている。
【0003】
一方、用途が広がるにつれて、硬化性のみならず硬化物の物性改良や機能化も大きな課題となりつつあり、紫外線硬化材料に様々な物質を充填又は混合させた材料が報告されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【0004】
特許文献1は、熱膨張性や平滑性改良のため、粉末無機化合物、繊維状無機化合物を充填したものである。
【0005】
特許文献2は、帯電を防止するため、導電性金属酸化物、金属粉末、導電性カーボンブラック、リチウム化合物アルカリ金属塩、第四級アンモニウム塩を充填したものである。
【0006】
特許文献3は、耐光性を上げるためにポリマーを混合したものである。
【0007】
特許文献4は、形状の精度を上げるため、光遮蔽性フィラー、光減衰性フィラーを充填させる方法である。
【0008】
特許文献5は、強度を上げるため、カーボン、炭素繊維、カーボンクロスを充填する方法である。
【0009】
このように、特許文献1、2、4、5では、各種フィラーを充填させる方法が、特許文献3にはポリマーを混合する方法が示されている。特に後者のポリマー混合が制限なく可能となれば、硬化材料の物性を容易に変更できるため、硬化前の性状も液体に限らず、ワックス状、シート状、テープ状のものが構築できるため、新規な材料として広い用途を付与することができる。
【0010】
しかしながら、紫外線硬化材料に固形物や高分子を充填・混合しようとすると、それらは照射された紫外線を遮蔽、吸収、又は散乱し、透過を抑制するもの(紫外線透過抑制物)がほとんどであるため、紫外線の到達が不十分な深部においては、十分な硬化が起こらない。
【0011】
これは、紫外線硬化材料の硬化反応原理である、紫外線照射により発生させる硬化反応種のラジカルの特性に起因するものであり、発生ラジカルの寿命は非常に短く、酸素などで容易に失活してしまい、ラジカルを発生させた領域以外での重合反応は起こらないという特性を持つためである。
【0012】
よって前述の文献では、物質等を充填・混合するために様々な工夫がなされている。例えば下記の方法(1)〜方法(5)がある。
【0013】
方法(1):特許文献1では充填させる粉末無機化合物については、平均粒径を紫外線波長以下まで小さくする方法、繊維状無機化合物については紫外線を透過するガラス繊維にする方法によって、紫外線透過を妨げない方法が報告されている。
【0014】
方法(2):特許文献2では、樹脂の物性を工夫する事で、充填物の効率を高め、使用量を5%以下に抑えることで紫外線透過を妨げない方法が報告されている。
【0015】
方法(3):特許文献3では、混合ポリマーと紫外線硬化材料を二層にした上、混合ポリマーの光吸収波長を紫外線硬化を妨げない波長に限定して紫外線透過を妨げない方法が報告されている。
【0016】
方法(4):特許文献4、特許文献5では、紫外線照射により比較的寿命の長いカチオンを発生させ、遮蔽性、減衰性フィラーの裏側まで分散させマトリクスのエポキシ樹脂を硬化させる方法が報告されている。
【0017】
方法(5):その他、紫外線透過抑制物含有材料硬化性の記載は無いが、紫外線が到達しない箇所でも硬化させる方法も報告されている(特許文献6、7参照)。特許文献6は、シリコン硬化と併用して、紫外線が到達しない箇所を湿気硬化させる方法が記載されている。特許文献7は、2−シアノアクリレートと併用して、紫外線が到達しない箇所を水分によってアニオン重合させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005−68241号公報
【特許文献2】特開2010−94927号公報
【特許文献3】特開2010−188686号公報
【特許文献4】特開平11−296106号公報
【特許文献5】特開2001−2760号公報
【特許文献6】特開平7−224133号公報
【特許文献7】国際公開第2005/71792号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、前記方法(1)〜方法(5)は下記の問題があった。方法(1)では、材料を超微細化するのに多大なコストを必要とし、微細化すると物性が損なわれるものに関しては、紫外線を透過する物質に限られるため、使用できる物質が限定されてしまう。
【0020】
方法(2)では、充填量に制限があるため、特殊な物質を除いては、十分な効率を得る事が困難である。
【0021】
方法(3)では、ほとんどのポリマーが、紫外線硬化樹脂と混合すると屈折率の差や分散性から白濁を生じて紫外線透過が抑制されてしまうため、混合ができず加工法が限定される上、ポリマーの吸収波長や照射装置が限定されてしまうため、汎用的に用いることはできない。
【0022】
方法(4)では、使用するカチオン発生剤は一般に高価である上、カチオン硬化速度が遅いため、量を要する。またカチオンは酸であるが故に接触した物体や充填物質が金属や金属化合物であると、これを汚染する恐れがある。
【0023】
方法(5)では、紫外線が到達しない箇所、又は到達が不十分な箇所では、未反応の不飽和二重結合が残存し、硬化物の酸化着色や収縮を引き起こす恐れがある。また特許文献6では湿気硬化に長時間を要し、特許文献7では2−シアノアクリレートが空気中の水分と容易に反応してしまうため、保存が困難であるという問題がある。
【0024】
前記の紫外線透過抑制物とは、例えば以下に挙げられるようなものである。紫外線透過抑制物は、括弧内に示される影響によって紫外線の透過が抑制される。
a)有機・無機フィラー;タルク、シリカ、粘度鉱物、炭酸カルシウム、メラミン等(光路遮蔽、光散乱)
b)カーボン・金属粒子;活性炭、カーボンナノフィラー、銅粉末等(光路遮蔽)
c)短繊維・長繊維;チタン酸カリ、カーボンファイバー、ガラス繊維等(光路遮蔽、光散乱)
d)ポリマー・オリゴマー;ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、エラストマー、ゴム等(光散乱、光路屈折、紫外線吸収)
e)その他改質添加剤;ハイドロタルサイト、リン酸塩、ホウ酸塩、臭素化芳香族等(光路遮蔽、光散乱、紫外線吸収)
【0025】
前記それぞれが添加された感光性組成物に対しては、紫外線透過抑制物の形態、紫外線照射方法の改良、又は硬化方法の組み合わせなどの特殊な方法を用いているのが現状であり、広く用いることは難しい。
【0026】
そこで本発明は、材料組成物内に、有機・無機フィラー、カーボン・金属粒子、短繊維・長繊維、ポリマー・オリゴマー、各種改質添加剤等の紫外線透過を抑制する物質の存在の有無に関わらず深部まで硬化させることが可能な感光性組成物及び感光性組成物の硬化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本願発明者は、前記課題を解決するために検討した結果、紫外線硬化材料に、発生したラジカルを安定化した上で分子間又は分子内伝達できる機能を持つ連鎖移動剤を導入することで、紫外線透過を抑制する物質の存在の有無に関わらず深部まで硬化させることが可能な感光性組成物を得る事ができる事を見出した。
【0028】
これは紫外線照射によりラジカル重合を引き起こして硬化する紫外線硬化材料に前記連鎖移動剤を混在させた状態で紫外線を照射すると、連鎖移動剤が発生したラジカルを、ラジカル発生の無い箇所まで瞬時に伝達し、重合反応を開始、進行させる事ができるというものである。
【0029】
すなわち本発明の感光性組成物は、紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含有し、前記連鎖移動剤として紫外線の透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在下で前記紫外線硬化材料を連鎖硬化可能なものを用いたことを要旨とするものである。
【0030】
前記感光性組成物は、前記連鎖移動剤が、(a)成分としてウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基から選択される少なくとも1種を1個以上含む化合物と、(b)成分として含金属化合物とを有することが好ましい。
【0031】
前記感光性組成物は、前記連鎖移動剤の(b)成分が、スズ、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1種の金属を含む金属化合物であることが好ましい。
【0032】
前記感光性組成物は、前記連鎖移動剤の(a)成分と(b)成分の配合比が、質量比で(a)成分:(b)成分=100:0.001〜100:10の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の感光性組成物
【0033】
本発明の硬化物は、前記の感光性組成物を硬化させてなることを要旨とするものである。
【0034】
本発明の硬化物は、前記の感光性組成物と紫外線透過抑制物を含有する組成物を、紫外線硬化反応を利用して硬化させてなることを要旨とするものである。
【0035】
本発明の感光性組成物の硬化方法は、紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含む紫外線硬化性組成物を用い、前記紫外線硬化性組成物に紫外線を照射した際に発生する硬化活性種を前記連鎖移動剤により紫外線の到達しない箇所まで伝播させ、前記紫外線硬化性組成物内の紫外線透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在の有無に関わらず、前記紫外線硬化性組成物を連鎖硬化させることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の感光性組成物は、紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含有し、前記連鎖移動剤として紫外線の透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在下で前記紫外線硬化材料を連鎖硬化可能なものを用いたものであるから、照射された紫外線が各種充填物や混合物等の紫外線透過抑制物により、遮蔽、吸収又は散乱され、透過を抑制された状態でも連鎖移動剤の連鎖移動効果により、ラジカル硬化種が紫外線照射を受けた箇所から遮蔽物の裏側や深部まで瞬時に到達するため、均一に硬化反応を完了させる事ができる。
【0037】
すなわち、本発明の感光性組成物は、材料組成物内に、有機・無機フィラー、カーボン・金属粒子、短繊維・長繊維、ポリマー・オリゴマー、各種改質添加剤等の紫外線透過抑制物の存在の有無に関わらず深部まで硬化させることが可能である。
【0038】
また、ポリマーとの混合物形成も可能となるため、硬化前の性状をワックス状、シート状又はテープ状とする事が可能となり、対象物にディスペンサーなどを用いた塗布を行っていた従来法に変え、対象物を直接包み込んだり、貼付したりするなど、更に取り扱い易い感光性組成物を得る事が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】アクリレートの二重結合のFT−IRの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の感光性組成物は、(A)従来公知の各種の紫外線硬化性樹脂等の紫外線硬化材料と(B)連鎖移動剤とを含有するものである。(B)連鎖移動剤としては、紫外線の透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在下で前記紫外線硬化材料を連鎖可能なものが用いられる。この紫外線透過抑制物とは、具体的には、発明を解決しようとする課題の欄で説明した紫外線透過抑制物である。
【0041】
(B)連鎖移動剤は、例えば、ウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基から選択される少なくとも1種を分子中に1個以上含む化合物(a)と、含金属化合物(b)を含有しているものを用いることが好ましい。前記(a)成分としてウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基から選択される少なくとも1種を分子中に1個以上含む、窒素原子と酸素原子を有する化合物(以下、1個以上のウレタン結合、尿素結合又はイソシアネート基を含む化合物ということもある)と、(b)成分として含金属化合物とを有する。
【0042】
(a)成分の1個以上のウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基を含む化合物は、下記(式1)で示されるウレタン結合部、下記(式2)で示される尿素結合部、下記(式3)で示されるイソシアネート基から選択される少なくとも1種を1分子中に1個以上含有すれば、特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。
【0043】
(式1)
−NH−COO−
(式2)
−NH−CO−NH−
(式3)
−N=C=O
【0044】
前記(a)成分の1個以上のウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基を含む化合物の具体例としては、各種ポリウレタン、各種ポリ尿素、含イソシアネート化合物等が挙げられる。前記各種ポリウレタン、各種ポリ尿素は、それぞれ下記の含イソシアネート化合物と、水酸基(−OH)含有化合物、アミン(−NH)含有化合物等を反応させることで得られるものである。
【0045】
含イソシアネート化合物は、そのまま前記(式3)のイソシアネート基を含む化合物として用いることができるし、下記に示す水酸基含有化合物、アミン含有化合物等と反応させることで各種ポリウレタン、各種ポリ尿素として用いる事ができる。
【0046】
含イソシアネート化合物としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート(LDI)、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート。水素添加−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水素添加−キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、水素添加−2,4−トリレンジイソシアネート(水添TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)等の脂環族イソシアネート。キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香脂肪族イソシアネート。1,4−ジフェニルジイソシアネート、2,4又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4又は4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、O−トリジンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート(粗製MDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート等の芳香族イソシアネート等のポリイソシアネート。含イソシアネート化合物としては、更にこれらポリイソシアネートを水と反応させて得られるビウレット型ポリイソシアネート、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと反応させて得られるアダクト型ポリイソシアネート、多価イソシアネートを一部ポリエステルやポリエーテル誘導体と重合させた液状プレポリマー、イソシアヌレート化して得られる多量体等が挙げられ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
各種ポリウレタンを得るために含イソシアネートと反応させる水酸基含有化合物としては、末端に水酸基を持つ炭素鎖1〜30のアルコール類、末端ジオールの(ポリ)エチレングリコール、末端ジオールの(ポリ)プロピレングリコール、末端ジオールの(ポリ)ヘキサメチレングリコール、末端ジオールの(ポリ)カプロラクトン、末端ジオールの(ポリ)エステル(ポリ)オール、末端ジオールの(ポリ)アミド、末端ジオールの(ポリ)エステル等が挙げられる。
【0048】
各種ポリウレタンは、最終的に硬化材料中に混合された場合に溶解もしくは懸濁状態になればよいので、必ずしも液状である必要は無いが、混合のし易さから、液状であることが好ましく、この際に用いられる水酸基含有化合物としては、分子量10万以下の液状化合物である事が好ましい。
【0049】
各種ポリ尿素を得るために含イソシアネート化合物と反応させるアミン含有化合物としては、末端に1級又は2級のアミノ基を持つ炭素鎖1〜30のアミン類、末端ジアミンの(ポリ)エチレングリコール、末端ジアミンの(ポリ)プロピレングリコール、末端ジアミンの(ポリ)ヘキサメチレングリコール、末端ジアミンの(ポリ)カプロラクトン、末端ジアミンの(ポリ)エステル(ポリ)オール、末端ジアミンの(ポリ)アミド、末端ジアミンの(ポリ)エステル等が挙げられる。
【0050】
各種ポリ尿素は、最終的に硬化材料に混合された場合に溶解もしくは懸濁状態になればよいので、必ずしも液状である必要は無いが、混合のし易さから、液状であることが好ましく、この際に用いられるアミン含有化合物としては、分子量10万以下の液状化合物である事が好ましい。
【0051】
また、ポリウレタン、ポリ尿素化合物は、必要に応じて重合後に末端基を(チオ)エーテル、(チオ)エステル、アミド、(チオ)ウレタン、(チオ)尿素、N−アルキル結合等によって、アルキル基や(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキサゾリル基、カルボニル基、チオール基、チオエーテル基、チオエステル基、リン酸(エステル)基、ホスホン酸(エステル)基、カルボン酸(エステル)基等で封止されていても良い。
【0052】
前記、ウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基は、複数の種類が結合されていても、或いは末端基が組み合わせられること等により分子中に含有されていても良い。
【0053】
前記1個以上のウレタン結合、尿素結合又はイソシアネート基を含む化合物と複合されて連鎖移動触媒を構成する(b)成分の含金属化合物の金属としては、スズ、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルの中から選択される1種類、あるいは複数種類の金属が好ましく用いられる。(b)成分の含金属化合物は、1種類又は複数種類の前記金属が、金属塩又は錯体の形で構成分子中に含有されていれば、特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。
【0054】
前記金属塩としては、前記金属種のカルボン酸塩、りん酸塩、スルホン酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、(過)(亜)塩素酸塩等の金属塩の形態が挙げられる。
【0055】
前記金属錯体としては、前記金属種と配位結合形成し得る有機配位子と1:1〜1:4(金属:配位子)で配位し安定化されたものであれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。
【0056】
前記(b)成分の含金属化合物の具体例として、ビス(2,4-ペンタンジオナト)スズ、ジブチルスズビス(トリフルオロメタンスルホナート)、ジブチルスズジアセタート、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズマレアート、フタロシアニンスズ(IV)ジクロリド、テトラブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルスズ、フタロシアニンスズ(II)、トリブチル(2-ピリジル)スズ、トリブチル(2-チエニル)スズ、酢酸トリブチルスズ、トリブチル(トリメチルシリルエチニル)スズ、トリメチル(2-ピリジル)スズ、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)銅(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)銅(II)、ビス(1,3-プロパンジアミン)銅(II)ジクロリド、ビス(8-キノリノラト)銅(II)、ビス(トリフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)銅(II)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジチオカルバミン酸銅(II)、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)、エチレンジアミン四酢酸銅(II)二ナトリウム、フタロシアニン銅(II)、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)銅(II)、フタロシアニン銅、テトラ-4-tert-ブチルフタロシアニン銅、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)ヘキサフルオロホスファート、ナフテン酸銅、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジチオカルバミン酸亜鉛(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛(II)、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)、ビス(テトラブチルアンモニウム)ビス(1,3-ジチオール-2-チオン-4,5-ジチオラト)亜鉛コンプレックス、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(II)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(II)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、フタロシアニン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(III)ヘキサフルオロホスファート、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]コバルト(II)ジクロリド、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)コバルト(II)、(1R,2R)-N,N'-ビス[3-オキソ-2-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ブチリデン]-1,2-ジフェニルエチレンジアミナトコバルト(II)、(1S,2S)-N,N'-ビス[3-オキソ-2-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ブチリデン]-1,2-ジフェニルエチレンジアミナトコバルト(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(II)、ビス(トリフルオロ-2,4-ペンタンジオナト)コバルト(II)、フタロシアニンコバルト(II)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムコバルト、ヘキサアンミンコバルト(III)クロリド、N,N'-ジサリチラルエチレンジアミンコバルト(II)、[5,10,15,20-テトラキス(4-メトキシフェニル)ポルフィリナト]コバルト(II)、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)、ナフテン酸コバルト、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリド、ビス(ジチオベンジル)ニッケル(II)、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ニッケル(II)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)、ビス(テトラブチルアンモニウム)ビス(マレオニトリルジチオラト)ニッケル(II)コンプレックス、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ブロモ[(2,6-ピリジンジイル)ビス(3-メチル-1-イミダゾリル-2-イリデン)]ニッケルブロミド、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムニッケル(II)、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(II)、ジエチルジチオカルバミン酸ニッケル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記(b)成分の含金属化合物の形態としては、ラジカル重合性材料において最終的に均一状態になればよいので、必ずしも有機物への溶解性が高い必要は無いが、混合のし易さや保存時の沈殿を防ぐことから、有機酸塩又は金属錯体状であることが好ましい。
【0058】
前記(b)成分の含金属化合物は、前記(a)成分のウレタン結合、尿素結合又はイソシアネート基を含む化合物と複合化することで連鎖移動剤を構成することができる。
【0059】
前記(a)成分と前記(b)成分を複合化する方法は、両成分を常温、又は加温条件で混合すれば良く、特に限定されないが、前記各成分を、減圧下又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で、適当な温度にて、混合ミキサー等のかくはん装置を用いて十分に攪拌又は混練し、溶解させるか、均一に分散させる方法を用いることが好ましい。
【0060】
前記(a)成分と前記(b)成分の配合比としては、質量比で、(a):(b)=100:0.001〜100:10の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは、(a):(b)=100:0.005〜100:5の範囲内である。(b)成分の含金属化合物の配合量が多過ぎると、含金属化合物が不溶物となり、構成された連鎖移動剤保存中に沈殿を生じ、またラジカル重合性材料の反応物(重合物)中に残存すると重合物の物性を損なう虞がある。また(b)成分が多すぎると、紫外線硬化材料に添加された時に紫外光の透過を阻害するため、硬化反応を阻害してしまう結果となる虞がある。一方(b)成分の配合量が少な過ぎると、複合体として作用しきれずに連鎖移動剤としての機能が低下してしまう虞がある。
【0061】
(B)成分の連鎖移動剤は、(a)成分及び(b)成分に、メルカプト基、ジスルフィド基などの硫黄原子を有する基を含有しないことが好ましい。連鎖移動剤が、硫黄原子を含有しない化合物から構成されている場合、ラジカル硬化性材料に添加した際に臭気が問題になることがない。
【0062】
前記方法にて作成した(B)連鎖移動剤は、(A)紫外線硬化材料(後述する)に添加混合されて使用されるが、その混合方法としては特に限定されず、減圧下又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で、適当な温度にて、混合ミキサー等のかくはん装置を用いて十分に攪拌又は混練し、溶解させるか均一に分散させる方法が好ましい。
【0063】
感光性組成物の(A)成分と(B)成分の配合量は、質量比で、(A):(B)=90:10〜10:90の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは(A):(B)=80:20〜20:80の範囲内である。(B)連鎖移動剤の配合量が多すぎると、紫外線硬化に関わる材料比が相対的に少なくなり、十分な硬化物が得られない虞がある。また(B)連鎖移動剤の配合量が少なすぎると、連鎖移動能が不足して、紫外線硬化材料の暗部硬化機能が不十分となってしまう虞がある。
【0064】
前記(A)成分の紫外線硬化材料としては、既存の紫外線硬化材料を用いることができる。具体的には、(メタ)アクリレート等の硬化性モノマー、オリゴマー等と光重合開始剤の混合物を基本組成物とし、紫外線が照射されることで硬化物が得られるものであれば使用することができる。尚、本発明において「(メタ)アクリレート」との記載はアクリレート及び/又はメタクリレートの意味である。
【0065】
紫外線硬化材料の硬化原理としては、紫外線(紫外光)を光重合開始剤が吸収して、ラジカル種等の活性種を発生させ、その活性種が(メタ)アクリレート等の炭素−炭素の2重結合をラジカル重合させ、硬化させるものである。しかし紫外線硬化材料は、通常の紫外線硬化では、紫外線が遮蔽される部分が未硬化になる。これに対し、連鎖移動剤を添加することにより、紫外線の照射により発生したラジカルを、連鎖移動剤が紫外線が遮蔽されてラジカル発生のない部分まで伝達し重合反応を開始させて、紫外線が遮蔽される部分を硬化させることができる。
【0066】
前記(メタ)アクリレート化合物としては、分子中に1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。前記(メタ)アクリレート化合物の具体例として、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、等のモノ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールオリゴ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンオリゴ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールオリゴ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)ブタジエン(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0067】
紫外線硬化材料に添加される光重合開始剤としては、紫外線を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。
【0068】
前記光重合開始剤は、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、エチルアントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
また光重合開始剤は、市販品として、例えば、IRGACURE184、369、651、500、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61;Darocure1116、1173,LucirinTPO(以上、BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等を用いることができる。
【0070】
感光性組成物には、前記(A)成分、(B)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を含有することができる。前記添加剤としては、例えば、安定化剤、可塑剤、軟化剤、接着性付与剤、増感剤、分散剤、溶剤、抗菌抗カビ剤等が挙げられる。
【0071】
前記安定化剤としては、老化防止剤、酸化防止剤、脱水剤等が挙げられる。例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物(老化防止剤)、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トリフェニルフォスフェート等(酸化防止剤)、無水マレイン酸、無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二水物、生石灰、カルボジイミド誘導体、ステアリルクロライド等の酸クロライド(脱水剤)が挙げられる。また少量のメタキノン等の重合禁止剤等も安定化剤として使用することができる。
【0072】
前記可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジエチルヘキシル、コハク酸イソデシル、ジエチレングリコールジペンゾエート、ペンタエリスリトールエステル、オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル、フェノール、ラウリル酸、ステアリン酸、ドコサン酸、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイル等が挙げられる。
【0073】
前記軟化剤としては、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニル基含有ラクタム、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0074】
前記接着性付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリチオール化合物が挙げられる。
【0075】
前記増感剤としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、市販品としてユベクリルP102、103、104、105(以上、UCB社製)等が挙げられる。
【0076】
前記分散剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル等の界面活性剤が挙げられる。
【0077】
前記溶剤としては、連鎖移動剤を溶解させ、粘度を下げるもの、相溶性を高めるものであれば良く、具体的にはテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの極性溶剤、ジクロロエタン、トリクロロベンゼンなどの塩素系溶剤が挙げられる。
【0078】
前記の各添加剤は適宜、組み合わせて用いることができる。
【0079】
硬化物の機能付加の目的で、前記感光性組成物に充填もしくは混合され得る物質は特に限定されないが、用途を考慮した上でも、それ自体の安定性が高いものであることが好ましい。
【0080】
また前記感光性組成物に充填もしくは混合され得る物質の量も特に限定されないが、充填もしくは混合されることで、取り扱いに支障をきたさない量であることが好ましい。
【0081】
本発明の感光性組成物を製造する方法は、特に限定されないが、前記各成分を、減圧下又は窒素等の不活性ガス雰囲気下で、混合ミキサー等のかくはん装置を用いて十分に攪拌又は混練し、溶解させるか均一に分散させる方法が好ましい。
【0082】
また混合物がポリマーで前記混合法では分散が困難な場合、そのポリマーを一旦溶剤に溶解してから感光性組成物と混合し、減圧下又は風乾にて溶剤を揮発させて、感光性組成物を得ることもできる。
【0083】
本発明の硬化物は、前記感光性組成物に紫外線等を照射して硬化させてなるものである。また本発明の硬化物は、前記感光性組成物と紫外線透過抑制物を含有する組成物を、紫外線硬化反応を利用して硬化させてなるものである。
【0084】
本発明の感光性組成物の硬化方法は、紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含む感光性組成物を用い、前記感光性組成物に紫外線を照射した際に発生する硬化活性種を前記連鎖移動剤により紫外線の到達しない箇所まで伝播させ、前記感光性組成物内の紫外線透過を抑制する物質の存在の有無に関わらず、前記感光性組成物を連鎖硬化させる方法である。
【0085】
硬化に用いる照射光は、紫外線以外に可視光であってもよい。紫外線の照射に用いられる紫外線照射装置は、従来公知の各種照射装置を用いることができる。また紫外線の照射条件も、各感光性組成物に応じて、適宜設定することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例、比較例を示し、本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
〔紫外線硬化材料の調製例〕
表1に実施例、比較例で用いた紫外線硬化材料(A−1,A−2)の調製例を示す。紫外線硬化材料は、表1に示す各成分を、それぞれの表に示す組成(質量部)で、攪拌機を用いて混合し溶解又は分散させ、表1に示す各紫外線硬化材料を得た。
【0088】
表2に実施例で用いた連鎖移動剤(B−1〜B−11)の調製例を示す。連鎖移動剤は、表2に示す各成分を、それぞれの表に示す組成(質量部)で、攪拌機を用いて混合し溶解又は分散させ、表に示す各連鎖移動剤を得た。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1、表2中の略称は以下の通りで、特にメーカーの表示がないものは、東京化成社製の試薬グレードのものを用いた。
〔(メタ)アクリレート〕
・IBA:イソボルニルアクリレート
・DPGA:ジプロピレングリコールジアクリレート
【0092】
〔紫外線重合開始剤〕
・HCHPK:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
【0093】
(a)成分:含ウレタン結合化合物
・UP−1:合成品(合成例1を後述する。)
【0094】
(a)成分:含尿素結合化合物
・UP−2:合成品(合成例2を後述する。)
【0095】
(a)成分:含イソシアネート基化合物
・N3600:住化バイエルウレタン社製、商品名「デスモジュールN3600」(イソシアネート基を有する化合物として市販品を用いた。)
【0096】
(b)成分:含金属化合物
・BPDZ:ビス(2,4−ペンタンジオナト)亜鉛(II)
・CDEDTC:ジエチルジチオカルバミン酸銅(II)
・DBTDL:ジラウリン酸ジブチルスズ
・BPDC:ビス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(II)
・BTCN:ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル(II)
【0097】
(合成例1)UP−1の合成
攪拌機を備えた反応容器に、数平均分子量が400のポリプロピレングリコール80g(200mmol)、ヘキサメチレンジイソシアネート40g(238mmol)とジブチルスズジラウレート0.05gを仕込み、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT−IRを測定して2300cm−1付近のイソシアネート基の吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT−IRの吸収面積から残留イソシアネート基の含有量を計算し、反応前と比較してて約15%まで減少して変化が無くなった時を中間反応終了点とし、無色透明粘調性液体を得た。更に2−ヒドロキシエチルアクリレート9.84g(84.7mmol)、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]0.02gを加え、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT−IRを測定して2300cm−1付近のイソシアネートの吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT−IRの吸収面積から残留イソシアネート基の含有量見積り、その吸収が消失した時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。これをUP−1とする。UP−1は数平均分子量約3200、末端がアクリレート基の含ウレタン結合化合物である。
【0098】
(合成例2)UP―2の合成
攪拌機を備えた反応容器に、1,11−ジアミノ−3,6,9−トリオキサウンデカン40g(208mmol)、ヘキサメチレンジイソシアネート42g(250mmol)を仕込み、攪拌しながら液温度を室温から50℃まで1時間かけて上げた。その後少量をサンプリングしFT−IRを測定して2300cm−1付近のイソシアネート基の吸収を確認しながら、50℃にて攪拌を続けた。FT−IRの吸収面積から残留イソシアネート基の含有量を計算し、反応前と比較して約15%まで減少して変化が無くなった時を反応終了とし、無色透明粘調性液体を得た。これをUP−2とする。UP−2は数平均分子量約2000、末端がイソシアネート基の含尿素結合化合物である。
【0099】
〔実施例1〜16、比較例1、2〕
表3、表4に、紫外線硬化材料(表1)と連鎖移動剤(表2)の混合物を用いた実施例、比較例を示す。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
表中の略称は以下の通りで、特にメーカー表示していないものは東京化成社製の試薬グレードのものを用いた。
【0103】
・Talc:タルク(粒径13μm)(日本タルク社製、MS−P)
・VGCF:カーボンナノチューブ(150nm径)(昭和電工社製、VGCF−H)
・PVC:ポリ塩化ビニル(n=1100)(和光純薬社製)
【0104】
(混合前組成物調製)
表3又は表4の上部に記載した紫外線硬化材料と連鎖移動剤を表に記載の配合割合(質量部)となるように攪拌機を用いて混合し、溶解又は分散させた。この混合前組成物に対し表の深部硬化率の欄に示したTalc、VGCF、PVCを充填・混合物(紫外線透過抑制)として加え、深部硬化性を確認する事とした。
【0105】
(充填・混合系感光性組成物調製)
前記混合前組成物100質量部に対しTalc又はVGCFを30重量部加え、攪拌機を用いて混合し均一に分散充填させた。Talc充填感光性組成物は白色の粘性液体、VGCF充填感光性組成物は黒色の粘性液体となった。
【0106】
PVC混合物は、そのまま攪拌しただけでは分散しないため、以下の方法を用いて混合した。
1)PVCレジンを40℃でTHFに溶解させ、30%溶液を作成した。
2)ビーカー中、混合前組成物100質量部に対し、PVCの質量として30質量部又は300質量部に相当する1)の溶液を加え、攪拌機を用いて混合し均一に溶解した。
3)そのまま遮光下で40℃、36時間乾燥してTHFを揮発させ、厚み3cmのPVC混合感光性組成物の塊を得た。
PVC混合感光性組成物は白色のゴム状固体となり、300重量部の方がより白色度合が強かった。
【0107】
(紫外線硬化)
Talc、VGCF充填感光性組成物は流動性を持つため内径10mmの硬質テフロンチューブ(テフロンは登録商標)中に液面の高さが30mmになるように入れ、上面からUVランプ(SEN特殊光源社製100mW/cm)で10秒間紫外線照射を行い硬化させた。硬化物はチューブに入れたまま、暗室にて常温保管した。
【0108】
PVC混合感光性組成物は流動性を持たないため、調整した組成物の塊を、断面が1mm×1mm、高さが30mmになるよう切断し、上面からUVランプ(SEN特殊光源社製100mW/cm)で10秒間紫外線照射を行い硬化させた。硬化物は暗室にて常温保管した。
【0109】
(深部硬化率)
硬化率は、紫外線硬化材料中の硬化重合に関わるアクリレート二重結合の残量をFT−IRにより定量することにより測定した。測定方法は下記の通りである。図1はアクリレートの二重結合のFT−IRの測定結果を示すチャートである。図1に示すようにアクリレートの不飽和二重結合は811cm−1に特有の赤外吸収を持つ(図1のAa吸収)。アクリレートが完全に硬化すると、アクリレートの二重結合が消費されるため、このピークが消失する。また、アクリレートの重合反応に無関係のアミドN−H結合は775cm−1付近に吸収を持つ(図1のAb吸収)。スペクトル面積Aaとスペクトル面積Abの比率Aa/Abを算出し、予め測定しておいた0%硬化、100%硬化のAa/Ab比と対比することによって硬化反応率を算出できる。表5に図1のグラフのピークの相対面積を示す。表5に示すように、際下部0%硬化の場合のAa/Ab比が5.585であり、最上部の100%硬化の場合のAa/Ab比が0であり、中間のピークのAa/Ab比が5.585であるから、下記の計算式より、硬化反応率が82%と算出できる。
硬化反応率=(5.585−1.006)/5.585×100=82%
【0110】
【表5】

【0111】
紫外線照射によって硬化された充填・混合感光性組成物の硬化率は、照射表面付近の硬化率として照射表面から1mm深さ、深部硬化率として照射表面から20mm深さの断面に対し行った。それぞれの断面のFT−IRを測定してAa/Abを算出し、そこから硬化率(%)を算出して表3、表4に記載した。硬化しておらずサンプリングが不可能だったものは×を記載した。この場合、硬化率は1%未満である。
【0112】
〔評価結果、実施例1〜16、比較例1、2〕
比較例1、2は連鎖移動剤を含んでいないため、Talc、VGCF、PVCが充填・混合されると、表面から1mmの深さにおいても、硬化率の減衰が見られ、20mmの深さにおいては、紫外線照射による硬化が確認されなかった。紫外線透過抑制物を含んだ感光性組成物の深部硬化については、照射表面近くから、硬化に必要な紫外線量が欠乏し、20mm深部においては硬化物が得られないことがわかる。
【0113】
これに対し、実施例1〜16の連鎖移動剤を含む感光性組成物は、照射表面で発生した活性硬化種(ラジカル)が深部まで拡散するために、紫外線照射のみで、20mm深部においても、85%以上の硬化率を得る事ができる事が確認された。
【0114】
〔実施例17、比較例3〕
(PVC混合感光性シート評価)
通常、紫外線硬化材料とポリマーは溶解パラメータ(SP値)や屈折率を異にするため、混合すると白濁した材料になり、紫外線透過が抑制され、硬化が不十分となってしまう。そこで、柔軟性ポリマーとなるPVCを混合した本発明の感光性組成物を用いることによって、十分な硬化性を持つシートが作成できることを検証する試験を行った。
【0115】
(PVC混合感光性組成物を用いたシート作成)
1)PVCレジンを40℃でTHFに溶解させ、30%溶液を作成した。
2)ビーカー中、実施例2(表3)の混合前組成物100質量部に対し、PVC300重量部に相当する1)の溶液を加え、攪拌機を用いて混合し、均一に溶解した。(実施例17、乾燥前組成)
3)比較例として2)の混合前組成物を比較例2(表4)に変えた溶液を作成した(比較例3、乾燥前組成)
4)200mm×300mmのステンレス製バットに前記2)(実施例17、乾燥前組成)又は前記3)(比較例3、乾燥前組成)の溶液を165g(感光性組成物として60g含有)を入れ、均一に伸ばした後、遮光下で2日間常温乾燥させ、1mm厚の白色シートを得た(実施例17、比較例3)。実施例17、比較例3の両シート共、ゴム状の伸びを示す柔軟なシートとなった。
【0116】
(PVC混合感光性組成物を用いたシート硬化)
実施例17、比較例3の両シートをそれぞれ直径2cmのワイヤー束に巻きつけた後、側面二方向からUVランプ(SEN特殊光源社製100mW/cm)で10秒間ずつ紫外線照射を行い硬化させ、暗室にて10分間放冷した。
【0117】
〔評価結果、実施例17、比較例3〕
紫外線照射後、実施例17のシートは均一に硬化して曲げる事が出来なくなったが、比較例3のシートは紫外線照射後も容易に曲げる事が可能であった。比較例3では、感光性組成物中に含まれるPVCによる光散乱の影響で、紫外線透過が抑制され、均一に硬化反応が進んでいないことがわかる。
【0118】
これに対し実施例17から、本組成物によれば、連鎖移動剤を含む感光性組成物は、光散乱の影響で紫外線透過が抑制されるPVC混合物でも紫外線照射のみで均一な硬化物が得られ、従来成しえなかった紫外線透過抑制物を含有させた硬化性シート状、又はテープ状の材料が構築可能であることが確認された。
【0119】
これはすなわち対象物を直接包み込んだり、貼付するなど、更に取り扱い易い感光性組成物を容易に差作成することが可能であることを意味するものである。
【0120】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は前記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含有し、前記連鎖移動剤として紫外線の透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在下で前記紫外線硬化材料を連鎖硬化可能なものを用いたことを特徴とする感光性組成物。
【請求項2】
前記連鎖移動剤が、(a)成分としてウレタン結合、尿素結合、イソシアネート基から選択される少なくとも1種を1個以上含む化合物と、(b)成分として含金属化合物とを有することを特徴とする請求項1記載の感光性組成物。
【請求項3】
前記連鎖移動剤の(b)成分が、スズ、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1種の金属を含む金属化合物であることを特徴とする請求項2記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記連鎖移動剤の(a)成分と(b)成分の配合比が、質量比で(a)成分:(b)成分=100:0.001〜100:10の範囲内であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の感光性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された感光性組成物を硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された感光性組成物と紫外線透過抑制物を含有する組成物を、紫外線硬化反応を利用して硬化させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項7】
紫外線硬化材料と連鎖移動剤を含む感光性組成物を用い、前記感光性組成物に紫外線を照射した際に発生する硬化活性種を前記連鎖移動剤により紫外線の到達しない箇所まで伝播させ、前記感光性組成物内の紫外線透過を抑制する紫外線透過抑制物の存在の有無に関わらず、前記感光性組成物を連鎖硬化させることを特徴とする感光性組成物の硬化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60523(P2013−60523A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199571(P2011−199571)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【復代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
【Fターム(参考)】