説明

感圧接着テープ用の剥離材の製造

本発明は、少なくとも1種のアルケニル置換有機ポリシロキサンを含む配合物をベースとする、剥離ライナーの分離層の製造方法であって、配合物が溶液中に存在しており、この溶液にメタセシス触媒が添加され、触媒を含む溶液が支持材料上にコーティングされ、そして支持材料上で、配合物を架橋するためアルケニル置換有機ポリシロキサンのメタセシス反応が行われる方法、ならびにこのような方法に基づき入手可能な分離層に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロシランおよび/またはヒドロシロキサンを含まない、熱による交差メタセシスを用いた、時間的に安定した剥離力を有する、感圧接着テープ用の均質でシリコーンベースの剥離材の製造方法、ならびにヒドロシランおよび/またはヒドロポリシロキサンを含まない剥離材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
片面または両面が接着材料でコーティングされた接着テープは、製造プロセスの最後に、たいていはアルキメデス螺旋の形でロール状に巻き付けられる。両面粘着性の接着テープの場合には感圧接着剤が相互に接触することを阻止するため、または片面粘着性の接着テープの場合には感圧接着剤が支持体に貼り付くのを阻止するため、接着テープは、巻き付ける前に保護材(剥離材とも言う)上に施され、この保護材を接着テープと一緒に巻き付ける。当業者には、このような保護材は剥離ライナーまたはライナーという名で知られている。ライナーは、片面または両面粘着性の接着テープを保護するだけでなく、ラベルの被覆にも用いられる。
【0003】
ライナー(剥離紙、剥離フィルム)は、接着テープまたはラベルの構成要素ではなく、接着テープまたはラベルの製造、貯蔵のための、または型抜きによるさらなる加工のための補助材でしかない。さらにライナーは、接着テープの支持体とは違い接着層と固定的には結合していない。
【0004】
非付着性コート剤は、付着性製品のその表面に対する付着傾向を低下させるべく、特に紙またはフィルムのような平面材料をコーティングすることでライナーを製造するために広範囲で使用されている(剥離効果機能)。
【0005】
両面粘着性でライナーを備えた接着テープを繰り出す場合、普通は接着テープの剥き出しの、つまりライナーを備えていない感圧接着面を下地に粘着させる。その間、もう一方の感圧接着面は、接着テープの取扱いを可能にするため、ライナーのコーティングされた表面にまだ十分な程度で付着している。
【0006】
ただしライナーは接着テープから剥離可能でなければならない。ライナー自体によって、またはライナーの剥離によって、感圧接着剤の粘着力が、その後の使用にとって著しく損なわれてはならない。
【0007】
同時に、ライナー上の抗付着性コート(剥離剤コートとも言う)の長期にわたる安定性、つまり非付着性が、このコートの機能およびライナーで覆われた感圧接着剤の特性を保証するために重要である。
【0008】
剥離剤コートとしては架橋可能なシリコーン系がしばしば用いられる。これに属するのは、架橋触媒およびいわゆる熱硬化可能な縮合反応架橋型もしくは付加反応架橋型のポリシロキサンから成る混合物である。縮合反応架橋型シリコーン系に関しては、シリコーン系中に架橋触媒としてしばしばスズ化合物、例えばジブチルスズジアセテートが添加されている。
【0009】
付加反応架橋に基づくシリコーンベースの剥離剤コートは、ヒドロシリル化によって硬化させることができる。この剥離系は一般的に下記の成分、すなわちアルケニル化ポリジオルガノシロキサン(特に、末端にアルケニル基を有する直鎖ポリマー)、ポリオルガノ水素シロキサン架橋剤、およびヒドロシリル化触媒を含んでいる。
【0010】
付加反応架橋型シリコーン系のための触媒(ヒドロシリル化触媒)としては、例えば、白金、または例えばカールシュテット触媒[Pt(0)錯体化合物]のような白金化合物が定着している。
【0011】
さらに光活性触媒、いわゆる光開始剤も、エポキシドベースおよび/またはビニルエーテルベースのUV硬化可能な陽イオン架橋型シロキサン、および/またはUV硬化可能なラジカル架橋型シロキサン、例えばアクリレート改変されたシロキサンと組み合わせて使用することができる。同様に、電子線硬化可能なシリコーンアクリレートの使用が可能である。これに対応する系は、使用目的に応じてさらなる添加剤、例えば安定剤または流動助剤を含むこともできる。
【0012】
さらに、加熱または照射によって架橋する有機ポリシロキサン剤の様々な種類が知られている。挙げるとすれば、例えば独国特許公報第60001779T2号(特許文献1)に記載されているような、付加反応によって架橋する、それも、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有する有機ポリシロキサンおよびケイ素原子に直接結合したビニル基を有する有機ポリシロキサンから成る混合物をヒドロシリル化触媒の存在下で温度処理することによって架橋する有機ポリシロキサン剤である。
【0013】
光重合可能な有機ポリシロキサン剤を使用することもできる。挙げるとすれば、例えばアクリレートおよび/またはメタアクリレート基で置換され、ケイ素原子に直接結合した炭化水素残基を有する有機ポリシロキサンの間の、光増感剤の存在下での反応によって架橋する有機ポリシロキサン剤である(欧州特許第0168713B1号(特許文献2)または独国特許公報第3820294C1号(特許文献3)を参照)。同様に、ケイ素原子に直接結合され、メルカプト基で置換された炭化水素を有する有機ポリシロキサンと、ケイ素原子に直接結合したビニル基を有する有機ポリシロキサンの間で、光増感剤の存在下で架橋反応が引き起こされる有機ポリシロキサン剤も使用可能である。このような有機ポリシロキサン剤は、例えば米国特許第4,725,630A1号(特許文献4)に記載されている。
【0014】
エポキシ基で置換され、ケイ素原子に直接結合した炭化水素残基を有する、例えば独国特許公報第3316166C1号(特許文献5)に記載の有機ポリシロキサン剤を使用する場合、架橋反応は、添加したオニウム塩触媒の光分解によって得られる酸の触媒量が遊離することで誘導される。陽イオンに関連するメカニズムによって硬化可能な別の有機ポリシロキサン剤は、例えばプロペニルオキシシロキサン末端基を有する材料である。
【0015】
前述のシリコーンのうち付加反応架橋型(ヒドロシリル化硬化)シリコーンが最も経済的である。ただしこの系の望ましくない特性は、この系が、触媒毒、例えば重金属化合物、硫黄化合物、および窒素化合物の影響を受けやすいことである。包括的に当てはまるのは、電子供与体を白金触媒毒と見なし得るということである。触媒毒が存在すると、シリコーン剥離塗料の様々な成分間の架橋反応が起こらなくなる、または少ない部分でしか起こらなくなる。
【0016】
このため抗付着性シリコーンコートを製造する際は、接触毒、特に白金触媒毒の存在が厳密に回避される。さらに、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有するヒドロシランおよび有機ポリシロキサンは、一部で非常に反応性が高く、とりわけ水分の影響を受けやすく、これにより、まだ硬化していないシリコーン剤の配合物の可使時間および/または化学物質の貯蔵で問題が生じる可能性がある。
【0017】
しかし、前述の抗付着性シリコーンコートの実際の適用には一連の欠点がある。
【0018】
通常、シリコーン剥離ライナーからの感圧接着剤の剥離力のレベルは、シリコーンMQ樹脂(通常シリコーンメチルシリコーンゴム樹脂)によって調整される。製品への要求に応じ、様々なレベルの剥離力が求められる。これは、MQ樹脂の含有率が異なる複数の剥離ライナーの使用を必要とし、したがって保管も必要とする。
【0019】
さらに剥離ライナーは、しばしば生産後すぐには使用できない。なぜならライナーの特性がまだ恒常的なレベルに達していないからである。これは特に剥離力の測定によって明らかになる。剥離力は一般的に、生産後の初めの数日から数週間の内に恒常的なレベルにまで低下する。この効果を「ポストキュアリング」または後架橋と言う。これに対応して、剥離ライナーの生産と感圧接着剤によるコーティングの間の期間を、ポストキュアリング期間、後架橋期間と言い、または熟成期間とも言う。剥離ライナーおよび剥離ライナー上で使用される感圧接着剤への要求に応じ、熟成期間は数週間になる可能性がある。熟成期間が必要なため、生産した剥離ライナーを貯蔵しなければならず、これにより貯蔵費用が発生する。
【0020】
さらなる問題点は、剥離ライナーと感圧接着剤をラミネートした場合に時おり、貯蔵時の剥離力上昇が観察されることから明らかになる。この効果は、当業者には「粘着剤ロックアップ」として、またはアクリレートベースの感圧接着剤に関しては特に「アクリルロックアップ」として知られている。この効果は、事情によっては感圧接着剤からの剥離ライナーの剥離を困難にし、または全く不可能にし、その結果この製品は使い物にならなくなるが、その一部は、ヒドロシリル基のポリアクリレートとの化学反応によって、または天然ゴムおよび合成ゴムにおける二重結合との化学反応によっても、説明することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】独国特許公報第60001779T2号
【特許文献2】欧州特許第0168713B1号
【特許文献3】独国特許公報第3820294C1号
【特許文献4】米国特許4,725,630A1号
【特許文献5】独国特許公報第3316166C1号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Grubbs、Sandford、Love、J. Am. Chem. Soc. 2001、123、6543
【非特許文献2】S. Beligny、S. Blechert、”N-Heterocyclic Carbene-Ruthenium Complexes in Olefin Metathesis Reactions”、「N-Heterocyclic Carbenes in Synthesis」(S. P. Nolan編)、Wiley-VCH、Weinheim 2006、1-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、従来技術の欠点を回避または少なくとも減らすことである。特に望ましいのは、
− シリコーンコートを製造する際の十分な可使時間を保証するため、非常に反応性の高い化合物、例えばケイ素原子に結合した水素原子を有するヒドロシランまたは有機ポリシロキサンの割合を減らすこと、またはこのような化合物の使用を完全に回避すること、
− 感圧接着剤の粘着力に影響を及ぼすことなく、シリコーンコートを備えたライナー上に存在するアクリレートベースの感圧接着剤とこのライナーの間の剥離力を様々に調整できること、
− 剥離ライナーの使用前に必要な熟成期間を短縮すること、および/または
− アクリルロックアップを阻止することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この課題は、少なくとも1種のアルケニル置換有機ポリシロキサンを含む配合物のメタセシス架橋により入手可能な、剥離作用のある特性をもつ、つまり未処理の表面に対する付着性製品(感圧接着剤)の付着傾向を低下させる能力をもつシリコーンコート(「剥離層」)によって解決される。
【0025】
この方法は、特に架橋剤としてのヒドロシランおよび/またはヒドロシロキサンの使用を省略できることを特色とする。したがってこの方法は、有利なやり方ではこれらの化合物なしで実施される。
【0026】
本発明による方法で得られた剥離層は、ヒドロシランおよび/またはヒドロシロキサンを用いて架橋された同等のシリコーン組成の剥離層と比較して、粘着剤ロックアップおよび特にアクリルロックアップの明らかに低い傾向を示すことができる。
【0027】
これに対応して請求項1は、少なくとも1種のアルケニル置換有機ポリシロキサンを含む配合物をベースとする、剥離ライナー(保護材;剥離紙、剥離フィルムとしても)の分離層の製造方法に関し、その際、配合物は溶液中に存在しており、この溶液にメタセシス触媒が添加され、触媒を含む溶液が支持材料上にコーティングされ、そして支持材料上で、配合物を架橋するためアルケニル置換有機ポリシロキサンのメタセシス反応が行われる。
【0028】
架橋は、特に有機ポリシロキサン分子のそれぞれ2つのアルケニル置換基の間で、交差メタセシス反応により行われる。
【0029】
【化1】

【0030】
つまり架橋反応は、配合物の有機ポリシロキサン成分のアルケニル置換基の間で起こる。本発明の一変形形態では、配合物がこの成分に限られる。
【0031】
反応メカニズムから、両方のアルケニル置換基が結合する際の原動力がガス状のエテンの発生および遊離であることが明白であり、この反応に基づく方法がシリコーンコートの製造に適しているのは驚きであり、当業者にとって自明ではない。なぜならガスの発生が泡の発生を導き、したがって不均質なコーティングをもたらすと推察できるからである。
【0032】
上で使用した「アルケニル」という名称は、2〜20個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、または環状の、少なくとも1つの二重結合を有する炭化水素基に適用され、例えばエテニル、n−プロペニル、イソプロペニル、n−ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、エイコセニル、テトラコセニルである。好ましいアルケニルは2〜12個の炭素原子を有している。「置換アルケニル」という名称は、1つまたは複数の置換基を有するアルケニルを表す。さらなる説明がなされない場合、アルケニルという名称は、直鎖状、分枝状、環状の未置換および/または置換アルケニルを含んでいる。
【0033】
本発明の非常に有利な一実施形態では、塗布した配合物の乾燥中に、つまり塗布した配合物の層からの溶剤の除去中にメタセシス反応が行われる。この場合、メタセシスに必要な熱エネルギーは、配合物を特に熱により乾燥させる際に供給され、この熱エネルギーが乾燥自体のためにも使用されることが有利である。
【0034】
好ましいやり方では、配合物がさらに少なくとも1種のシリコーンMQ樹脂を含んでいる。シリコーンMQ樹脂は、RSiO1/2単位(「M単位」)およびSiO4/2単位(「Q単位」)から構成されており、M単位の置換基Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、および/またはアルキルシリル基、特にメチル基である。
【0035】
シリコーンMQ樹脂は、メタセシス反応の影響を受けないままでいることができる。ただしシリコーンMQ樹脂の適切な置換基Rにより、シリコーンMQ樹脂をメタセシス反応に関与させることもでき、したがってネットワーク内に一緒に組み込むこともできる。これに対応して、複数のシリコーンMQ樹脂が存在する場合は、メタセシス反応の際に、樹脂のどれも反応しないか、樹脂の1つまたはすべてがアルケニル置換有機ポリシロキサンと、および/または互いと反応することができる。
【0036】
架橋反応に適切な触媒には、例えば金属カルベン錯体、特にモリブデン、チタン、タングステン、レニウム、オスミウム、または特にルテニウムをベースとする金属カルベン錯体が含まれており、これらは金属カルベンとして投入されるか、あるいはその場で、共触媒、例えばトリメチルアルミニウム、テトラメチルスズ、またはその他の金属オルガニルの添加により生成される。さらに、複数の触媒の組合せを用いることもできる。
【0037】
特に好ましくはオレフィンメタセシス触媒が選択され、このオレフィンメタセシス触媒は、アルケニル化合物の間の非常に多くの交差メタセシスのために、好ましくは末端アルケニル化合物のために、および特に好ましくは一置換末端アルケニル化合物のために有効である(これに関しては:Grubbs、Sandford、Love、J. Am. Chem. Soc. 2001、123、6543(非特許文献1);S. Beligny、S. Blechert、”N-Heterocyclic Carbene-Ruthenium Complexes in Olefin Metathesis Reactions”、「N-Heterocyclic Carbenes in Synthesis」(S. P. Nolan編)、Wiley-VCH、Weinheim 2006、1-25(非特許文献2)を参照)。オレフィンメタセシス触媒の例として、ただし制限する意図なく、本発明の意味において有利なものとして下記の金属カルベン錯体を挙げておく。第1世代グラブス触媒(ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ジクロロルテニウム(II)ベンジリデン、[(PCyCl]Ru=CHPh)、第2世代グラブス触媒([1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)ベンジリデン)、第1世代ホベイダ・グラブス触媒(ジクロロ(o−イソプロポキシフェニルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II))、第2世代ホベイダ・グラブス触媒(1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)−ジクロロ(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(II)、[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(3−メチル−2−ブテニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)、[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ−ビス(3−ブロモピリジン)−ルテニウム(II)ベンジリデン、[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ[3−(2−ピリジニル)プロピリデン]ルテニウム(II)、[1,3−ビス(2−メチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ−(2−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(II)、[1,3−ビス(2−メチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(フェニルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)、ジクロロ(3−メチル−2−ブテニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)、ジクロロ(3−メチル−2−ブテニリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウム(II)、および2,6−ジイソプロピルフェニルイミドネオフィリデン[rac−BIPHEN]モリブデン(VI)。
【0038】
本発明によれば、剥離ライナーはシリコーンコートを備えている。好ましくは、ライナー上に施されたシリコーンコートは、付加反応架橋型シリコーン配合物と同等のものであり、この場合、反応性架橋剤(H−Si化合物)はなくなる。
【0039】
特に有利なシリコーンを以下にさらに詳しく説明する。
【0040】
本発明に従い用いられるシリコーンベースの剥離剤コートは、交差メタセシスによって(特に熱により)硬化させる剥離剤コートである。この剥離系は本発明によれば、下記の成分、すなわちアルケニル化ポリジオルガノシロキサン(特に、末端にアルケニル基を有する直鎖ポリマー)、および特に上述の種類のオルフィンメタセシス触媒を含んでいる。
【0041】
本発明に従い有利な、交差メタセシス架橋型シリコーンをベースとする熱硬化性の剥離剤コートは多成分系であり、典型的には下記の成分から成る。
【0042】
a)ジメチルシロキサン単位約80〜200個から成り、鎖末端がビニルジメチルシロキシ単位で終端している直鎖状もしくは分枝状のポリジメチルシロキサン、またはジメチルシロキサン単位約80〜200個およびメチルビニルシロキサン単位約1〜10個から成り、鎖末端がビニルジメチルシロキシ単位で終端している直鎖ポリジメチルシロキサン。典型的な代表物は、例えば溶剤を含まない、通常は付加反応架橋系として使用されるシリコーンオイルであり、これは例えば、すべてWacker−Chemie GmbHで購入可能なDEHESIVE(登録商標)920、912、もしくは610、Dow Corning GmbHで購入可能なSYL−OFF(登録商標)SL9104、またはHanse Chemie AGで購入可能なPOLYMER VS 100、1000、10000、100000である。
【0043】
b)シリコーンMQ樹脂、この場合はM単位として、一般的に使用されるトリメチルシロキシ単位だけでなくビニルジメチルシロキシ単位も有している。この群の典型的な代表物は、例えば剥離力調節剤であり、Wacker−Chemie GmbHで購入可能なCRA(登録商標)17もしくはCRA(登録商標)42、またはDow Corning GmbHで購入可能なSYL−OFF(登録商標)SL9154である。
【0044】
c)オレフィンメタセシス触媒、例えば第2世代のグラブス触媒またはホベイダ・グラブス触媒であり、Sigma−Aldrichで購入可能である。
【0045】
さらに、例えば既に上で言及した独国特許公報第60001779T2号(特許文献1)の特に請求項12および段落[0036]〜[0050]に記載されているような有機ポリシロキサン剤が適しており、本発明の意図にそっている。この剥離系は、付加反応によって架橋し、それも、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有する有機ポリシロキサンおよびケイ素原子に直接結合したビニル基を有する有機ポリシロキサンから成る混合物をヒドロシリル化触媒の存在下で温度処理することによって架橋する有機ポリシロキサン剤である。ヒドロシリル化触媒と本発明によるオレフィンメタセシス触媒を組み合わせることで、触媒の反応性の差が適切であれば、デュアルキュア・システム(二重硬化系)が入手可能であり、これは、最初に低い温度で架橋反応を開始し、その後、より高い温度でさらに第2の架橋ステップ(望ましいポストキュアリング)を続け得ることを意味する。
【0046】
感圧接着剤の例として、ただし制限する意図なく、本発明の意味において有利なものとして、溶液、水性分散液の状態で、融体の状態で、または反応系としてコーティング可能な下記の感圧接着剤を挙げておく。アクリレート感圧接着剤、合成ゴム剤、不飽和のまたは水素化されたポリジエンブロックから成るエラストマーブロック(ポリブタジエン、ポリイソプレン、両方から成るコポリマー、および当業者に周知のさらなるエラストマーブロック)を有するスチレンブロックコポリマー剤、ならびにシリコーン含有の剥離剤コートを使用可能な当業者に周知のさらなる感圧接着剤。本明細書中でアクリレートベースの感圧接着剤について述べる場合、はっきりと違う表現が記載されていなければ、これにより、明確に言及しなくても、メタクリレートをベースとする、およびアクリレートおよびメタクリレートをベースとする感圧接着剤が含まれる。本発明の意味においても、複数のベースポリマーの組合せおよびブレンドが存在し、ならびに接着樹脂、充填物質、老朽化防止剤、および架橋剤が添加された接着剤が存在し、この添加剤の列挙は、例示的にのみ、かつ非制限的に理解されるべきである。
【0047】
本発明の対象はさらに、感圧接着剤に直接接触させて使用する、剥離ライナーの形の対応する剥離剤層の使用である。本発明による分離層または本発明に従い製造された分離層を使用することにより、ライナーを感圧接着剤から剥離させる剥離力を調節することができる。
【0048】
ここで「剥離力の調節」という表現は、特定レベルへの剥離力の調整、熟成期間、つまり剥離ライナーの製造から、感圧接着層と接触するまでの時間(つまり適用に適した値への剥離力の時間的な調整)の減少、および感圧接着剤とシリコーンの反応の阻止(つまり系のこの反応に関連する老化の阻止、したがって剥離力の時間的な変化)も含んでいる。これに対応し、提示する使用は、前述の効果の少なくとも1つ、より良くはすべてをもたらす工程をすべて内包している。
【0049】
メタセシス反応のための金属カルベンとしては、アルケニルの、特に末端アルケニルの、および特に好ましくは一置換アルケニルの交差メタセシスに対して高められた反応性を有するオレフィンメタセシス触媒を使用することが好ましい。特に好ましいのは、ルテニウムベースのオレフィンメタセシス触媒(グラブス触媒およびホベイダ・グラブス触媒)およびモリブデンベースのオレフィンメタセシス触媒(シュロック触媒)の使用である。なぜならこのオレフィンメタセシス触媒は、高いターンオーバー数を有し(反応性および触媒反応サイクルの数)、ならびにグラブス系およびホベイダ・グラブス系の場合にはポリマー中の水および酸素ならびにヘテロ原子の痕跡に対する高められた許容量を有するからである。シリコーンベースの剥離剤層を架橋するための触媒は、最高10重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%、とりわけ好ましくは0.01〜2重量%の量で使用される。
【0050】
剥離ライナーの粘着層の剥離力は、添加する触媒の量により直接的に架橋度により調整することができる。驚くべきことに、熟成期間ならびに剥離力の時間的持続性も、触媒濃度には関係せず、シリコーン剤のコーティングおよび架橋の直後には、ほとんど時間的に一定の剥離力が達成され、粘着剤ロックアップは生じないことが分かった。
【0051】
低〜中程度の剥離力の範囲内で調整するには、シリコーン剤中の触媒の量を例えば0.1〜5重量%、特に0.1〜2重量%の範囲に増やすことが有利である。
【0052】
シリコーンは、特に溶液の状態で支持体上に施され、その際、当業者に周知のすべてのコーティング方法を使用することができ、そこで必要な場合には乾燥させ(溶剤を除去し)、続いて封じられたシリコーンコートを形成する。
【0053】
ライナーの支持材料としては特に紙またはフィルムを用いることができる。その際、フィルムとしては、好ましくはポリオレフィンフィルム(ポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルム)またはポリエステルフィルムが用いられる。
【0054】
最後に、本発明は接着テープでの本発明によるシリコーンベースの剥離剤コートの使用に関する。
【0055】
以下に本発明を例に基づきより詳しく説明するが、これらの例は如何なる形においても制限的に作用することはない。
【発明を実施するための形態】
【0056】

剥離ライナーの製造
比較例
Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9104 70部、Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9154 30部 、Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL7689 8.9部、および Dow Corning SYL−OFF(登録商標)4000 1.6部から成る架橋可能なシリコーン剤を、30%のベンジン溶液から成る、ドクターブレードNo.1によりPETフィルム(Lumirror60.01、75μm、Toray)上に塗布した。このシリコーンを、150℃で30秒間架橋させた。シリコーン塗布量は1.3g/mに調整した。
【0057】
例RL1
Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9104 70部、Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9154 30部、およびSigma−Aldrichの第2世代ホベイダ・グラブス触媒((1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)ジクロロ−(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(II)、CAS No.:301224−40−8)1.6部から成る架橋可能なシリコーン剤を、トルエン中の30%溶液から成る状態で、ドクターブレードNo.1によりPETフィルム(Lumirror60.01、75μm、Toray)上に塗布した。このシリコーンを、150℃で30秒間架橋させた。シリコーン塗布量は1.3g/mに調整した。
【0058】
例RL2
Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9104 70部、Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9154 30部、およびSigma−Aldrichの第2世代ホベイダ・グラブス触媒((1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)ジクロロ−(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(II)、CAS No.:301224−40−8)0.6部から成る架橋可能なシリコーン剤を、トルエン中の30%溶液から成る状態で、ドクターブレードNo.1によりPETフィルム(Lumirror60.01、75μm、Toray)上に塗布した。このシリコーンを、150℃で30秒間架橋させた。シリコーン塗布量は1.3g/mに調整した。
【0059】
例RL3
Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9104 70部、Dow Corning SYL−OFF(登録商標)SL9154 30部、およびSigma−Aldrichの第2世代ホベイダ・グラブス触媒((1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)ジクロロ−(o−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム(II)、CAS No.:301224−40−8)0.1部から成る架橋可能なシリコーン剤を、トルエン中の30%溶液から成る状態で、ドクターブレードNo.1によりPETフィルム(Lumirror60.01、75μm、Toray)上に塗布した。このシリコーンを、150℃で30秒間架橋させた。シリコーン塗布量は1.3g/mに調整した。
【0060】
アクリレート接着剤の製造
従来の200L反応器内でのラジカル重合では、アクリル酸0.7kg、2−エチルヘキシルアクリレート33.95kg、ブチルアクリレート33.95kg、グリシジルメタクリレート1.4kg、および沸点範囲60/95のベンジン23.35kg、ならびにアセトン23.35kgが準備された。反応溶液に撹拌下で窒素ガスを45分間通した後、反応器を58℃に加熱し、それからアセトン0.35kg中に溶解させたVazo67(商標)(DuPont社)0.07kgを添加した。続いて外側の加熱槽を75℃に加熱し、この外側温度で一定させて、反応を実施した。1時間の反応時間後、アセトン0.35kg中に溶解させたVazo67(商標)(DuPont社)0.07kgを添加した。2.5時間の反応時間後、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート(Perkadox16(登録商標)、Akzo Nobel社)0.091kgを添加した。3.5時間の反応時間後、沸点範囲60/95のベンジン10.50kgを希釈剤として添加した。さらなる希釈は、7.5時間後に沸点範囲60/95のベンジン10.5kgを添加することで行われた。24時間の反応時間後に重合を中断し、反応容器を室温へと冷却した。
【0061】
続いてこのポリマーを、Sylvares TP95(軟化温度95℃のテルペンフェノール樹脂)37.5重量%およびZnCl0.3重量%と混合させた(重量%は、それぞれポリマーに対してである)。
【0062】
ドクターブレードコーティングによる例RL1〜3および比較例の検査細長片の作製1(例B1〜4)
感圧接着剤を各々の剥離ライナー上に、他に記載がない限りすぐに、塗布バーを用いて塗布した。感圧接着剤は、溶剤の大部分が蒸発した後、対流式加熱炉内で120℃で15分間乾燥させた。50g/mの接着剤塗布量が選択された。試料を冷却した後、23μm厚のPETフィルム[Polibond D23H、Polifibra Folien GmbH]を感圧接着剤上にラミネートした。剥離ライナー、感圧接着剤、および23μmのPETフィルムから成るそれぞれの複合体を2cm幅の細長片に切断した。
【0063】
ラミネートによる例RL1〜3および比較例の検査細長片の作製2(例B5〜8)
感圧接着剤を、23μm厚のPETフィルム[Polibond D23H、Polifibra Folien GmbH]上に塗布バーを用いて塗布した。感圧接着剤は、溶剤の大部分が蒸発した後、対流式加熱炉内で120℃で15分間乾燥させた。50g/mの接着剤塗布量が選択された。試料が23±1℃および相対湿度50±5%に順応した後、それぞれの剥離ライナーを感圧接着剤上にラミネートした。剥離ライナー、感圧接着剤、および23μmのPETフィルムから成るそれぞれの複合体を、できるだけ迅速に2cm幅の細長片に切断した。
【0064】
試料B1〜B4の測定の説明
剥離ライナーからのPETフィルムおよび感圧接着剤の剥離力は、180°の角度で、0.3m/minの剥離速度で測定し、この測定は23±1℃および相対湿度50±5%で実施した。剥離力の測定は、剥離紙を感圧接着剤でコーティングしてから約24時間後に測定した。
【0065】
試料B5〜B8の測定の説明
切断した細長片を、2N/cmの圧力で1分間貯蔵した。剥離ライナーからのPETフィルムおよび感圧接着剤の剥離力は、180°の角度で、0.3m/minの剥離速度で測定し、この測定は23±1℃および相対湿度50±5%で実施した。ライナーをラミネートしてから剥離力を測定するまでの時間は常に5分未満であった。
【0066】
さらに、剥離ライナー、感圧接着剤、およびPETフィルムから成る複合体を70℃で30日間貯蔵した後、再び剥離力の測定を実施した。
【0067】
下の表1からは、オレフィンメタセシス触媒の添加が、剥離ライナーからのPETフィルムおよび感圧接着剤の剥離力を低下させることが読み取れる。この効果は、触媒濃度が高いほど強くなる。比較例の剥離力が最も高い。非常に低い触媒濃度、したがって低い架橋度では、剥離力は既に比較例B1の値に非常に近づいている。
【0068】
一連の比較例1〜5からは、感圧接着剤からの剥離ライナーの剥離力が、成熟期間が増えると共にどのように低下していくかが認識できる。
【0069】
【表1】

【0070】
下の表2からは、付加反応架橋した剥離ライナー上での感圧接着剤の剥離力が、貯蔵すると明らかに上昇することが読み取れる。メタセシスにより架橋したシリコーン剤の方はほとんどポストキュアリング効果を示しておらず、剥離力はほぼ一定のままである。
【0071】
【表2】

【0072】
試験した架橋ならびに交差メタセシスを用いたシリコーンベースでヒドロシランおよび/またはヒドロポリシロキサンを含まない剥離剤コートの製造方法は、感圧接着剤のそれぞれの使用目的に対する感圧接着剤の適性に本質的な影響を及ぼすことなく本発明の課題を格別良好に果たすことに適していた。オレフィンメタセシス触媒、特にグラブス触媒系およびホベイダ・グラブス触媒系が、特に秀でて適していることが分かった。この方法および新規の架橋法を用いて製造した剥離剤コートは、老化ならびにポストキュアリングをほとんど示さず、アクリルロックアップも示さず、したがってこのような剥離剤コートの使用は、従来技術に対して明らかに有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアルケニル置換有機ポリシロキサンを含む配合物をベースとする、剥離ライナーの分離層の製造方法において、
配合物が溶液中に存在しており、溶液にメタセシス触媒が添加され、触媒を含む溶液が支持材料上にコーティングされ、そして支持材料上で、配合物を架橋するためアルケニル置換有機ポリシロキサンのメタセシス反応が行われることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
メタセシス反応に必要な熱エネルギーが、配合物を乾燥させる際に供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配合物がさらに、RSiO1/2単位(「M単位」)およびSiO4/2単位(「Q単位」)から構成されたシリコーンMQ樹脂を含んでおり、M単位の置換基Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、および/またはアルキルシリル基、特にメチル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ヒドロシランおよびヒドロシロキサンの不在を特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
メタセシス触媒が金属カルベン錯体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
触媒がルテニウムベースの触媒であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
触媒が、配合物に対して0.01〜10重量%の量で存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
触媒が、配合物に対して0.1〜5重量%、特に0.1〜2重量%の量で存在することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに基づき入手可能な、剥離ライナーの分離層。

【公表番号】特表2012−519229(P2012−519229A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552388(P2011−552388)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052107
【国際公開番号】WO2010/100041
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(509120403)テーザ・ソシエタス・ヨーロピア (118)
【Fターム(参考)】