説明

感染症およびアレルギー治療用医薬品製造におけるキノコAgaricusBlazeiMurillの使用

【解決手段】本発明は、哺乳類のアレルギー治療用あるいは予防用医薬品、並びに、哺乳類の細菌性感染症および(寄生生物あるいはウィルス等の)非細菌性感染症の治療用あるいは予防用医薬品の製造におけるキノコAgaricus Blazei Murillの使用に関する。感染症は、例えば、肺炎球菌により引き起こされるものであり、哺乳類の例としてはヒトが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類のアレルギー治療用あるいは予防用医薬品、並びに、哺乳類の細菌性感染症および(寄生生物あるいはウィルス等の)非細菌性感染症の治療用あるいは予防用医薬品の製造におけるキノコAgaricus Blazei Murillの使用に関する。感染症は、例えば、肺炎球菌により引き起こされるものであり、哺乳類の例としてはヒトが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
緒言
3000年以上前からアジア文化圏では伝統的に薬用キノコが用いられてきた。
キノコ由来の多くの物質が、免疫系に影響を与え、多くの疾患治療に有効であることが知られている(Wasserら:1999年)。日本では、キノコの健康効果に関して盛んに研究が行われてきた(Ikekawa:2001年)。Basidomycetes属のAgaricus Blazei Murill(AbM)は、薬用キノコとして日本で特に好まれ、健康食品市場用に人工的に栽培されている(Chen:2000年)。このキノコは、日々の気候変化が激しい、ブラジルサンパウロ郊外の小村ピエタデ村周辺に自生する。この地域では、AbMが食料として用いられ、地域住民の癌罹患率やその他健康障害発生率が低いと考えられている(Huang:1997年)。1965年、Takatoshi Furumoto博士は、AbM胞子を日本に送り、日本薬理学会の研究支援を受けた国立がんセンター研究所の研究者らにより、AbMに抗がん作用があるという研究結果が発表された。AbMには、 (1,3)並びに (1,6)グルカン等、免疫賦活活性や抗がん作用を持つ糖分子(多糖類)が豊富に含まれる(Kawagishiら:1989年、Iwade&Mizuno:1997年、Huang:1997年、Stamets:2000年、Ohnoら:2001年、Sorimachuら:2001年)。
【0003】
日本では、この10ないし20年、食用キノコAgaricus Blazei Murill(AbM)の抽出物が、癌、糖尿病、動脈硬化、慢性肝炎等、多くの疾患に効果がある健康食品として用いられてきた。
【0004】
これらの疾患は、すべて、患者の細胞自体の衰弱や異常に起因するものであり、細菌等の外来微生物の攻撃に起因するものではない。
【0005】
AbM成分の抗がん作用に関しては、マウスやがん細胞を用いた科学的研究結果が報告されている(Ithoら:1994年、Fujimiyaら:1998年、Ebina&Fujimiya:1998年、Takakuら:2001年、Menoliら:2001年、Belliniら:2003年)。また、AbM菌糸体が、培養細胞に対するWEE(西部ウマ脳炎)ウィルスの破壊作用(細胞変性作用)を阻害したという報告もなされている(Sorimachiら:2001年)。ただし、この研究は、ウィルス感染症に対するAbM菌糸体の効果自体を研究したものではなかった。また、AbMの他の健康効果や感染症に対する効果を英語の論文や報告書の形で公開したものもなかった。
【発明の開示】
【0006】
ブラジルサンパウロ郊外に自生する食用キノコAgaricus Blazei Murill(AbM)は、この10年、人工的に栽培され、日本では、癌を初めとする前記多くの疾患に有効な健康食品として用いられてきた。このキノコは健康食品として用いられているが、これにより細菌性感染症に有効であることが自明なわけではない。健康食品は、疾患の治療や予防に効果があると考えられているが、これも実証されていない場合が多い。ある物質が免疫系を活性化することが周知であったとしても、それにより、ただちに細菌性感染症に有効であるという結論にはならない。また、 -グルカンの一般的効果に基づき、キノコAgaricus Blazei Murill抽出物が細菌性感染症に有効であることが自明であるとも、他の天然成分系薬剤よりもAbMのほうが有効であることが自明であるともいえない。
【0007】
本発明では、致死量の肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae(肺炎連鎖球菌)血清型6B)に感染させたマウスをモデルとして用いて、細菌性感染症に対するAbM抽出物の効果を研究した。マウスの腹腔内への肺炎球菌注入24時間前ないし注入直前にAbM抽出物でマウスを強制飼養した。マウスの大腿静脈から毎日血液を採取し、細菌培養を行うとともに、マウスの生存率を記録した。細菌感染24時間前、2時間前、あるいは、0時間前(直前)にAbM抽出物で強制飼養することにより、生理的食塩水で強制飼養したマウスに比べて、血液中の細菌数が減少し、生存率が上昇した。細菌感染24時間前にAbM抽出物で強制飼養されたマウスは50%が菌注入後10日目も生存していたが、これに対して、対照群のマウス生存率は7日目で13%であった。このことから、AbM抽出物の肺炎球菌感染に対する予防効果や治療効果が期待できる。
【0008】
抗生物質耐性菌の増加に伴い、有害な副作用が少なく、抗癌物質として副次的効果も期待できるAbMは、抗生物質並びにその他抗感染物質の代替あるいは補助天然物質として有望である。
【0009】
肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeは、血液中毒(敗血症)や脳膜感染(髄膜炎)等の致死性疾患や、肺、中耳、鼻腔の炎症等の非致死性疾患を引き起こすグラム陽性双球菌である。肺炎球菌には90の亜群(血清型)があり、特に、血清型6B(Henrichsen:1979年)は、比較的穏やかに(病原性)感染し、マウスに持続的かつ致死性の疾患を引き起こす(Aabergeら:1995年)。多剤耐性Streptococcus pneumoniae(肺炎連鎖球菌)等の抗生物質耐性菌の増加は、公衆衛生に脅威であり、抗生物質の効果がここ10ないし20年に低減あるいは無力化する危険性もあるため、予防治療効果がある代替物質を見つけることが急務である。
【0010】
-グルカンは周知の免疫調節物質であり(Riggi&DiLuzio:1961年、Boegwaldら:1984年)、酵母菌やその他真菌類の細胞壁の主要成分である。動物実験の結果に基づいて、 -グルカンの抗感染作用(Reynmoldsら:1980年、Franekら:1992年)や抗がん作用(Taguchoら:1983年、Ohnoら:1987年)が報告されている。また、AbM子実体内の1,3- -グルカンがキノコ類の抗がん物質本体であるという報告もある(Ohnoら:2001年)。
【0011】
-グルカン(特に、Sclerotinia sclerotorium菌や酵母菌由来のSSG)やプランテンPlantago major L.由来の糖分子がBCGおよび肺炎球菌の感染に効果があることが、マウスを用いた動物実験に基づき、報告されている(Hetlandら:1998年、Hetlandら:2000年a,b、Heland:2003年)。これらの実験は、マウスの腹腔内に注入(腹腔内投与)後に効果を測定したものであり、強制飼養後の効果を見たものではない。また、マクロファージが中心免疫細胞である遺伝免疫系への刺激により、この予防効果が得られるという実験結果も報告されている。さらに、酵母菌由来のSSGやMacroGardR がマイクロファージ培養細胞中で結核菌Mycobacterium tuberculosisの増殖を阻害することも報告されている(Hetland&Sanven:2002年)。
【0012】
本発明は、細菌性感染症、例えば、致死性肺炎球菌血清型6Bに感染させたマウスに対する薬剤の製造にAbM抽出物を使用するものである。AbM抽出物でマウスを強制飼養し、静脈血内の細菌数ならびにマウスの生存率に基づきAbM抽出物の効果を評価した。
【0013】
また、本発明は、ヒトをはじめとする哺乳類のアレルギーを治療・緩和する薬剤の製造にキノコAgaricus Blazei Murillの抽出物を使用するものである。
【0014】
アレルギーはノルウェー等の西欧諸国でますます大きな問題となりつつある。上述したように、キノコAgaricus Blazei Murill(AbM)の抽出物は、日本では、癌を初めとする様々な疾患に対する治療薬として伝統的に用いられており、ある種類の癌に対するAbMの効果に関する報告もなされている。AbMには -グルカン等の免疫刺激多糖類が含まれ、既に報告されているように、これらの多糖類は免疫調整作用を持ち、上述の疾患に対する予防効果がある。
【0015】
キノコAgaricus Blazei Murillの抽出物に関する驚くべき発見の背景として、簡単に言えば、以下のような状況が挙げられる。免疫系は、(どんな理論を適用するかにかかわらず、AbMが明らかに影響を与える)遺伝免疫系と適応免疫系とに分けられる。遺伝免疫系には、ヘルパーT細胞1、ヘルパーT細胞2、ヘルパーT細胞3(Th1、Th2、Th3)が含まれる。特に、Th1は抗感染および抗腫瘍作用があり、Th2は抗寄生生物および拒絶反応抑制作用がある一方で、アレルギーを促進し、Th3は抗炎症(炎症抑制)作用があり、新しい組織の形成を促す。さらに、現在では、調節ヘルパーT細胞も重視されている。ヘルパーT細胞のTh1/Th2パラダイムに従えば、Th1はTh2を阻害し、逆にTh2はTh1を阻害するため、Th1反応とTh2反応とは反比例する。このため、Th1反応が促進されると、Th2反応が抑制される。
【0016】
上述したように、マウスの肺炎球菌感染の例に見られるように、AbM抽出物は感染症に対して有効であることが見出された。ただし、抗感染作用に関係するのはグルカンのみではなく、AbMに含まれる別の物質も同様に抗感染作用に関係することが示唆されている。抗感染作用はTh1反応の促進によるものであるため、上述したような免疫系の機序に基づき、Th2反応が同時に阻害されることが予測される。アレルギーはTh2反応促進の結果であるが、AbM抽出物は、驚くべきことにTh2反応を促進する因子も持つ。これは、感染症に対して予防効果があることから予想されるTh2反応抑制効果とは逆の作用である。
【0017】
AbMが持つアレルギーの発生阻害効果を調べるため、アレルゲン(アレルギー原因物質)としてオボアルブミン(OVA)に免疫を持つマウスを用いて実験を行った。実験の終了時に、マウス血清中のIgEおよびIgG1抗体(Th2アレルギー反応)濃度とIgG2a抗体(抗感染・抗がん反応)濃度と、抗OVA抗体濃度とを測定した。さらに、刺激を与えた免疫細胞から血液中に分泌された信号物質(サイトカイン)濃度も測定した。サイトカイン濃度は、Th1(IFN 、IL-12)、Th2(IL-5、IL-10、IL-13)、Th1(TGF )反応に関係すると考えられる。また、AbM刺激を与えられたマクロファージ(遺伝免疫防御反応に重要な役割を果たす白血球)から炎症増加サイトカイン(TNF- およびIL-8)並びにNO-(有毒な窒素化合物)が生成されるという報告もある(Sorimachi:2001年)。
【0018】
以下、「原材料と方法I」でAbM抽出物が抗感染作用を持つことを示すための実験を、また、「原材料と方法II」でAbM抽出物が抗アレルギー作用を持つことを示すための実験を説明する。
【0019】
AbM抽出物の抗感染作用を示す実験
原材料と方法I
マウス
すべての動物実験は、動物実験のための米国倫理委員会の現地代理人から承認を得て、米国農務省の国家規格に従って実施した。イギリスのHarlan Olac社から入手した、微生物未感染のNIH/OlaHsd種メスの近交系マウスを用いた。マウスは到着時に生後6週間であり、1週間の安静期間を経た後実験を行った。
【0020】
試薬
AbM菌糸体抽出物A、B、C、D、Eを複数の日本の健康食品製造者から入手した。抽出物A(金ラベル型)は、最も純度の高い製品であり、抽出物B(活型)は、それよりも純度の低い製品であり、いずれも、岐阜県のACE株式会社から入手した。AbM抽出物C、D、Eの製造者には今回の実験に関して報告していないため、本明細書中で名前を挙げない。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を実験対照として用いた。
【0021】
細菌
オランダのRIVMから入手した肺炎連鎖球菌血清型6B株を用いた。肺炎連鎖球菌株は冷凍保存し、周知の方法で接触感染試験を行った(Aabergeら:1995年)。
【0022】
血液検体
マウスの後肢外側大腿静脈(大伏在静脈)から血液検体を採取し、周知の方法で培養を行った(Aabergeら:1995年)。
【0023】
血液中のコロニー形成単位(CFU)の定量
静脈血(25 l)をTodd-Hesitt寒天で10倍に希釈し、希釈血液の25 lを血液寒天培地におき、5%CO2雰囲気下37 Cで培養した。18時間後コロニーを数えた。
【0024】
実験操作
各処理群(表1および図の説明参照)7ないし9匹のマウスを用いて2つの実験を行った。強制飼養には、各200 l の量のPBSおよびAbM抽出物を用いた。図に示した時間にマウスから血液を採取し、寒天培地上に採取した血液を広げておいた。毎日マウスの検査を行い、重篤なマウスは首をひねって殺した。
【0025】
測定
肺炎連鎖球菌のCFU計数によって求めた末梢血中の細菌量とマウスの生存率を測定した。
【0026】
統計
正規分布データをパラメトリック検定法並びにノンパラメトリック検定法で処理した。多重比較のために反復測定一元配置分散分析(ANOVA)/Turkey試験を行い、一回比較のためにpaired t-testを行った。0.05未満のP値を統計的に有意であるとした。
【0027】
結果
肺炎連鎖球菌血清型6B感染2時間前にAbM抽出物を与えた効果
肺炎連鎖球菌血清型6Bの腹腔内投与2時間前に、マウスをPBSあるいは複数の製造者から入手したAbM抽出物のいずれか(AないしE)で強制飼養した。大腿静脈から毎日、細菌培養用の血液検体を採取し、マウスの重篤度を調べた。PBS対照群と比較して、AbM抽出物A群のみで、CFU量の有意の減少(p<0.05)が見られた(図1参照)。また、AbM抽出物A群のマウスの生存率はPBS対照群マウスの生存率よりも有意に高かった(p<0.05)(図2参照)。感染後5日目に生存していたマウスは対照群では0であったが、AbM抽出物A群マウスの38%は6日後も生存していた。25%は7日目も生存していたが、神経系の合併症が起こったため、殺さざるをえなかった。また、AbM抽出物D群では、血液中の細菌数の減少と生存率増加の傾向が見られたが、PBS対照群との差は、統計学的に有意な値ではなかった(図1、図2参照)。
【0028】
肺炎連鎖球菌血清型6B感染24時間前あるいは感染と同時にAbM抽出物を与えた効果
次の実験では、感染24時間前、感染2時間前、感染直前にAbM抽出物あるいはPBSをマウスに与えた。感染2時間前にAbM抽出物Aを与えた群の結果は統計学的に有意でなかったが、実験2も同様の傾向を示した(図3、図4参照)。感染24時間前にAbM抽出物Aを与えたAbM抽出物A群の予防効果は、血液中の細菌数(p<0.05)(図3参照)と生存率(p<0.05)(図4参照)との両方に関して、統計学的に確認された。また、感染直前にAbM抽出物Aを与えたAbM抽出物A群でも同様の統計学的に有意な結果が得られた。感染2時間前あるいは感染直前にAbM抽出物Aを与えられたAbM抽出物A群のマウスは、その38%が10日目に生存していた。これに対して、対照群のマウス生存率は7日目で10ないし20%であった。感染24時間前にAbM抽出物Aを与えられたAbM抽出物A群のマウスが最もよい結果を示した。PBS対照群マウスの7日目の生存率が13%であるのに対して、AbM抽出物A群マウスの生存率は10日目で50%であった(図4参照)。
【0029】
議論
-グルカンや外傷治癒効果のある植物Plantago major L.(最も一般的なプランテン)の糖抽出物を肺炎球菌感染マウスの腹腔内に投与した実験と比較して、AbM抽出物強制飼養は同様の効果を示した。腹腔内投与後の効果が最も高かった -グルカンは、肺炎球菌感染マウスに強制飼養で与えた場合には何の効果もなかった。AbM抽出物強制飼養では、静脈注射剤製品用に殺菌をする必要がなく、GMP(医薬品製造管理および品質管理基準)の厳しい基準を満たす必要もなく、さらに、病院外でも摂取可能なため、 -グルカンよりもAbM抽出物のほうが有用であるといえる。また、先に報告したように、 -グルカンSSGおよびMacroGardRには、マウスのアレルギー発生を高める働きがある(Ormstadら:2000年、Hetlandら:2000年)。AbM抽出物Aで強制飼養したマウスでは、このような副作用は見られない。逆に、アレルギーマウスを使った実験結果は、AbM抽出物にはアレルギー発生を予防する働きがあることを示している。
【0030】
血液中の細菌量変化のグラフは、実験2に比べて実験1で急激な増加を示している。この差は、実験1で投与した肺炎連鎖球菌のCFU値(1.92 106CFU)が実験2のCFU値(0.97 106CFU)の2倍量のためである。すなわち100 LD50量(マウスの50%が死に到る50%致死量)(= 100 1.2 104 CFU(Aabergeら:1995年))の肺炎連鎖球菌6B型をマウスに感染させた。ただし、培養後に冷凍保存した細菌のCFU値から投与したCFU値を計算しているため、投与された生細菌の正確な数であるCFU値は、並行して行った細菌検体培養数が確定するまではわからない。実験1での対照群マウスの生存率(3日目で0%)に比べて、実験2では投与した細菌数が少なかったことから、対照群マウスの生存率が高かった(7日目で10ないし20%)。これが、感染2時間前にAbM抽出物Aを与えたAbM抽出物A群とPBS対照群との間で統計学的に有意の差が認められなかった原因であると考えられる。
【0031】
感染と同時にAbM抽出物Aを与えた群でも、抽出物の治療効果が推測される。この対照群の感染マウスは早期に高い致死率を示したため、それ以後の実験ができなかった。この群に関しては、もっと低い致死率の感染マウスを用いて実験を行う必要がある。免疫系はがん細胞に対してもウィルス感染細胞に対しても同様の機序で作用し(すなわち、ナチュラルキラー(NK)細胞および細胞障害性Tリンパ球)、AbMは癌に対して有効であることから、AbMはウィルス感染にも効果があると考えられる。
【0032】
AbMは、脾臓を摘出したため、肺炎球菌性肺炎や血液毒にかかりやすい高危険因子群に投与するワクチンに加える栄養補給剤として有用であると考えられる。また、衛生状態が悪い国に旅行する旅行者や、手術前に抗生物質の予防的投与を受ける外科患者にも有用であろう。AbM等の「免疫刺激」物質のもっと一般的な用途は、抗生物質の使用や「過剰な予防接種」を減らし、免疫系が、微生物との戦いによりよく「適応」でき、さらに、アレルギーの発生を減らす効果を持つようにすることであろう。衛生仮説(hygiene hypothesis)によると、病原性微生物に対する予防率の増加が西欧諸国でのアレルギーの蔓延につながっている。AbMにはマウスの癌を予防する効果があったことと、日本での何百万人にも上るAbM抽出物が含有された健康食品愛好者で副作用が見つかっていないことから、AbMの予防/治療物質としての使用価値が高まっている。
【0033】
結論
AbM抽出物で強制飼養したマウスを致死性の肺炎球菌に感染させた実験の結果から、AbM抽出物に予防効果があることがわかる。高純度抽出物(金ラベル)のみが有意な結果を示した。細菌感染の24時間前に抽出物を与えた群から、細菌感染の直前に与えた群まで予防効果がみられた。すなわち、生理食塩水を与えられた対照群マウスと比較して、AbM抽出物を与えられたAbM抽出物群マウスは血液中の細菌数が低く、生存率が高かった。AbM抽出物は、消化器系を通した摂取後も活性があることから、抗菌性薬剤としての用途が注目される。AbM抽出物は、特に細菌性の感染、さらに、それ以外の病原性微生物の感染に対して予防的並びに治療的効果があると考えられる。抗生物質に対する細菌の抵抗性が高まる中、副作用がほとんどなく、癌抑制効果があるAbMは、天然の栄養補助食品、また、抗生物質や他の抗感染物質の代替物として注目される。
【0034】
添付の表および図は、上述した実験の結果を示す。
肺炎球菌(肺炎連鎖球菌)血清型6Bに感染させたNIH/OlaHsdマウスのAbM強制飼養処理群の実験プロトコル
A)実験1:感染2時間前に各AbM抽出物で処理
【0035】
【表1】

【0036】
B)実験2:感染前の各時間にAbM抽出物Aで処理

【0037】
【表2】

【0038】
略語:AbM:Agaricus Blazei Murill
Pn:肺炎球菌
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
少なくとも一つの別の薬剤を組み合わせて、抗菌効果があるAbM抽出物を提供することが望ましい。組み合わせる別の薬剤としては、例えば、抗菌薬剤が望ましい。
【0040】
また、経口剤としてAbM抽出物を製造することが望ましい。AbM抽出物は他に添加物を含まない形態で製造することも可能であるが、一般的な担体や賦形剤を加えてエリキシル剤、混合剤、チンキ剤等の液体薬剤として製造してもよい。あるいは、AbM抽出物を、丸薬、錠剤、カプセル、トローチ剤のような固体薬剤として製造することもできる。(糖や甘味料等の)矯味剤や着色料等、一般的な添加量を加えた薬剤としてもよい。
【0041】
AbM抽出物の抗感染効果の例として、AbM抽出物には、糞便希釈液を腹腔内感染させたBalb/cマウスの腸膜炎症(腹膜炎)に対する予防効果が認められた。腹腔内植菌24時間前に強制飼養によりAbM抽出物を経口投与し、(マウスの首の皮膚に埋め込んだ温度チップをスキャンすることにより測定される)体温、末梢血中の細菌数、生存率を調べた。AbM抽出物の代わりに生理的食塩水を経口投与した対照群マウスと比較して、これらすべてのパラメータで有意な差が認められた。図7は、糞便感染マウスの生存率に及ぼすAbM抽出物の効果を示す。
【0042】
血液中の単球や組織内の単球由来のマクロファージは、Agaricusの活性成分が影響を与える遺伝免疫系の中心的な免疫細胞である。10%無菌ろ過AbM抽出物の存在下あるいは非存在下で24時間培養したヒト前単球細胞株THP-1を用いて、このような細胞に対するAgaricusの刺激効果を調べた。また、細胞から細胞培養上清への信号物質(サイトカイン)の分泌とサイトカインをコードする遺伝子の上方制御あるいは下方制御とを調べた。ELISA法を利用して、分泌されたサイトカインを定量した。これらの実験結果が示すように、細胞をAgaricusで刺激することにより、中心的な炎症促進(炎症性)サイトカインであるインターロイキン(IL)-6やIL-8(Tリンパ球や好中性顆粒球の走化性因子)の分泌が促進され、その一方、TGF 等の中心的な炎症抑制(T細胞調節)サイトカインの排出が抑制された。末梢血からの一次単球においてIL6に対する同様の効果がみられた(図示しない)。一方で、(アレルギーを促進する)IL-4サイトカインや(炎症をゆっくり抑制する)IL-10サイトカインは細胞から分泌されなかった。
【0043】
最も重要なのはマイクロアレイ技術を利用して得られた結果である。すなわち、所定の物質で処理した、あるいは、未処理の細胞から単離されるmRNA(単一遺伝子の遺伝信号物質)は、調査対象遺伝子に対するmRNAの相補ヌクレオチド塩基が転写されているチップのプローブに結合するために競争する。所定の物質が細胞を刺激して、ある遺伝子の発現を促進する場合には、生成されるmRNA分子の量が増加し、刺激を与えられていない細胞を打ち負かして、この遺伝子のmRNAのプローブに結合する。処理細胞群由来のmRNAと対照細胞群由来のmRNAを赤と緑の蛍光色で標識して、機器を用いて、赤色光と緑色光の波長を持つ光信号を定量することにより、結合の割合を調べる。AbM抽出物で24時間刺激を与えたTHP-1細胞のマイクロアレイ試験の結果から、IL-1、IL-8、TNF 等の炎症性サイトカインの遺伝子の上方制御が大きく増大したことがわかった。また、抗感染効果や抗腫瘍作用を促進する、新しく発見された遺伝子(Th1サイトカイン)、すなわち、IL-12群(Th1サイトカイン系)に含まれるIL-23 サブユニットp19の上方制御も大きく増大した。一方で、IL-4やIL-10の遺伝子の上方制御は見られなかった。図9は、対照群細胞由来の遺伝子生成物とAbM抽出物処理細胞群由来の遺伝子生成物との間の結合競争後のマイクロアレイを示す。
【0044】
これらの細胞試験の結果から、AbM抽出物は、抗感染作用を促進する(Th1反応を増大させる)一方で、(Th2反応を与える)IL-4等の中心的なアレルギー誘導サイトカインを増加させないことがわかる。文献によれば、Th1反応とTh2反応とはバランスしており、一方が増加すると他方が減少する。すなわち、Th1反応が増大すれば、Th2反応は減少する。これは、上述したアレルギーマウス実験の結果と一致する。AbM抽出物が抗感染作用を促進するということは、細菌、ウィルス、寄生生物等の感染症に対する体内防御力が高まることにつながる。(細菌性および非細菌性)感染症やアレルギーに対するAbM抽出物の効果と、免疫学的原理に関する知識とを組み合わせることにより、AbM抽出物が本発明の特許請求の範囲に記載するような一般的な効果を持っていることが立証できる。
【0045】
AbM抽出物の抗アレルギー作用を示す実験
Agaricus Blazei Murill抽出物のアレルギー予防効果に関して以下のような実験を行った。
【0046】
原材料と方法II
マウス
到着時に生後6週間のメスのBalb/cマウスを用いて、1週間の安静期間を経た後実験を行った。
【0047】
試薬
日本のACE株式会社から入手したAbM菌糸体の酵素発酵抽出物A(金ラベル)と、PBSと、OVAとを用いた。
【0048】
血液検体
実験終了時にCO2麻酔下でマウスから血液を抜き、血清は-20 Cで凍結保存した。
【0049】
実験操作
1日前にマウス(各群8匹n=8)を200 lのAbM抽出物あるいはPBSで強制飼養した。次に0日目に尻尾の付け根にOVA+Al2(OH)3(アジュバント)を皮下注射することにより免疫を与え、さらに、20日目にも同じ操作を繰り返して、アレルギー反応を促進させるための追加抗原投与を行った。1回目のOVA免疫付与後26日目にIgE濃度と抗OVA反応がピークに達し、ここで実験を終了し、CO2麻酔下でマウスの心臓を穿刺して、血液(血清)を抜いた。マウス血清中のIgE、IgG1、IgG2aの抗OVA濃度とサイトカイン濃度とを分析した。
【0050】
測定
OVAに対する血清中のIgE、IgG1、IgG2a抗体濃度をELISA法で測定した。さらに、血清中、ならびに、培養腹部マクロファージおよびマウス脾臓細胞上清中のTh1反応、Th2反応、Th3反応に関係するサイトカイン(IFN 、IL-5、IL-10、IL-12、IL-13、TGF )濃度を測定した。サイトカインの測定は行わなかった。
【0051】
前記した方法で測定結果の統計処理・評価を行った。
実験結果が示すように、PBSを経口投与されたマウスに比べて、AbMを経口投与されたマウスでは、血清中の抗OVAIgE濃度が減少した(p=0.17)(図5参照)。すなわち、AbMは、Th2反応を阻害することにより、OVAに対するアレルギーの発生を抑制する。さらに、PBS経口投与対照群と比較して、AbM経口投与群では、抗OVAIgG2a濃度が高かった(図6参照)。すなわち、AbMはTh1反応を促進する。この結果は、IgE分析結果が示すTh2反応抑制とも適合する。IgG1の測定結果は逆の増大傾向を示し、これは抗OVAIgG1濃度測定結果と合わないが、実験方法は未だ開発途上にあり、100%の信頼性は得られていないので、この実験結果は無視してさしつかえないであろう。一方、先に報告されているように、硬グリカン等の -グルカンをマウスの腹腔内に投与することにより、アレルギー発生が促進される(Ormestadら)。このことから、AbM抽出物中には -グルカン以外の作用因子が存在することが示唆される。これは、ある免疫反応を促進する物質は反対の免疫反応では非活性であるとする当業者の推測を覆すものであり、これが本発明の基礎となっている(上記のTh1、Th2、Th3反応に対する作用を参照のこと)。
【0052】
AbMの抗アレルギー治療作用
NIH/Olaマウスに、オボアルブミン(OVA)を皮下注射して免疫を付与し、その20日後、追加OVA抗原投与の前日に、消化管カテーテルを用いてAbM抽出物あるいはPBSを(各200 l)投与した。各処理群8匹のマウスをその5日後に殺して、血液を採取し、ELISA法で血清中の抗OVAIgE(Th2反応)抗体濃度と抗OVAIgG2a(Th1反応)抗体濃度とを測定した。この実験を2回繰り返した。PBS処理群マウスと比較して、AbM処理群マウスでは、有意に抗OVAIgE抗原濃度が低かった(p=0.04)(図10参照)。一方、抗OVAIgG2a抗原濃度に関しては、2群の間に有意な相違がみられなかった(図示しない)。このことから、キノコAgaricusには、上述したようなアレルギー発生を予防する効果に加えて、アレルゲンに既に感作している場合でも抗アレルギー治療の効果があることがわかる。
【0053】
すなわち、本発明の別の態様は、哺乳類、特にヒトのアレルギー予防あるいは治療に適した医薬品製造にAbM抽出物を使用するものである。本発明のAbM抽出物を含む組成物により予防・治療可能なアレルギー反応としては、(花粉アレルギー、花粉症、ハウスダストアレルギー等の)ダストアレルギー、(魚アレルギー、牛乳アレルギー、貝アレルギーを初めとするタンパク質アレルギー等の)食物アレルギー、(犬猫その他動物に対するアレルギー等の)接触アレルギーが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】1.92 106CFU値の肺炎球菌血清型6Bを腹腔内(i.p.)に注入する2時間前に200 l量のAbM抽出物AないしEの各々あるいはPBSで強制飼養したNIH/OlaHsd種メスのマウスの末梢血中の肺炎球菌血清型6BのCFU値(表1参照)。所定の時間にマウスから血液を採取し、培地に広げてCFU値を数えた。血液中のCFU値が1 109に達したマウスを死亡したマウスとして処理した。データの各点は8匹のマウスの中央値を示す。この実験データから、AbM抽出物A処理群マウスのCFU値が低いことがわかる。
【図2】肺炎球菌血清型6B腹腔内(i.p.)感染2時間前に各AbM抽出物あるいはPBSで強制飼養した図1のマウスの生存率(中央値)。データの各点は8匹のマウスの中央値を示す。この実験データから、AbM抽出物A処理群マウスの生存率が高いことがわかる。
【図3】0.97 106CFU値の肺炎球菌血清型6Bを腹腔内(i.p.)に注入する24時間前、2時間前、あるいは直前に200 l量のAbM抽出物AあるいはPBSで強制飼養したNIH/OlaHsd種メスのマウスの末梢血中の肺炎球菌血清型6BのCFU値(表1参照)。所定の時間にマウスから血液を採取し、培地に広げてCFU値を数えた。血液中のCFU値が1 109に達したマウスを死亡したマウスとして処理した。データの各点は8匹のマウスの中央値を示す。この実験データから、AbM抽出物A処理群マウスのCFU値が低いことがわかる。注:Y軸は対数目盛
【図4】肺炎球菌血清型6B腹腔内(i.p.)感染24時間前、2時間前、あるいは直前にAbM抽出物AあるいはPBSで強制飼養した図3のマウスの生存率(中央値)。データの各点は8匹のマウスの中央値を示す。この実験データから、AbM抽出物Aを感染24時間前に与えた処理群マウスの生存率が特に高いことがわかる。
【図5】OVA免疫マウスのIgE抗OVA濃度に及ぼす経口AbMの効果。
【図6】OVA免疫マウスのIgG2a抗OVA濃度に及ぼす経口AbMの効果。
【図7】1日前にAbMを経口投与され、0日目に糞便1/8希釈液を腹腔内投与されたBalb/cマウスの糞便腸膜炎症(腹膜炎)に及ぼすAbMの効果。数値は生存率を示す(Kaplan-Meierプロット)。
【図8】AbMおよび内毒素(エンドトキシン)で処理したTHP-1細胞。
【図9】Agaricus Blazei Murill(抽出物の影響下で下方制御された遺伝子に対して上方制御された遺伝子のF365平均値‐B635対F532平均値‐B532マイクロアレイ散布図。
【図10】オボアルブミン(OVA)で感作され、OVA増幅前にAgaricus Blazei Murill((AbM)あるいはPBSを経口投与されたNIH/OlaマウスのIgE比濃度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の細菌性並びに非細菌性感染症および/あるいはアレルギー治療用あるいは予防用医薬品の製造におけるキノコAgaricus Blazei Murill(AbM)の使用。
【請求項2】
請求項1記載のキノコの使用において、前記非細菌性感染症は、寄生生物性感染症あるいはウィルス性感染症である、キノコの使用。
【請求項3】
請求項1記載のキノコの使用において、前記細菌性感染症の原因は肺炎球菌である、キノコの使用。
【請求項4】
請求項3記載のキノコの使用において、前記肺炎球菌が肺炎連鎖球菌である、キノコの使用。
【請求項5】
請求項1記載のキノコの使用において、前記アレルギーが、(花粉アレルギー、花粉症、ハウスダストアレルギー等の)ダストアレルギー、(魚アレルギー、牛乳アレルギー、貝アレルギーを初めとするタンパク質アレルギー等の)食物アレルギー、(犬猫その他動物に対するアレルギー等の)接触アレルギーを含む群から選択される、キノコの使用。
【請求項6】
請求項1ないし5記載のキノコの使用において、前記医薬品が経口医薬品である、キノコの使用。
【請求項7】
請求項1ないし5記載のキノコの使用において、前記医薬品が静脈内投与製剤である、キノコの使用。
【請求項8】
請求項1ないし7記載のキノコの使用において、前記医薬品が少なくとも一つの別の薬物を含む、キノコの使用。
【請求項9】
請求項8記載のキノコの使用において、前記別の薬物が抗菌物質である、キノコの使用。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のキノコの使用において、前記哺乳類がヒトである、キノコの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−517867(P2007−517867A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549171(P2006−549171)
【出願日】平成17年1月10日(2005.1.10)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000012
【国際公開番号】WO2005/065063
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(506417049)
【氏名又は名称原語表記】CONSORCIO AS
【Fターム(参考)】