説明

感染症の治療および防止に使用するためのイオン交換材料の銅塩

本発明は、概して、抗感染剤としての使用に適したレベルの銅イオンを提供するイオン交換材料の銅塩に関する。本発明の特定の態様において、セルロース誘導体の銅塩が提供される。イオン交換材料の銅塩は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースなどの、セルロースのエーテルおよびエステル誘導体を用いて形成してもよい。本発明は、また、組み込まれたイオン交換材料の銅塩を有する創傷ドレッシングに関する。イオン交換材料の銅塩は、傷において、感染症を防止するために治療上有効なレベルで銅イオンの平衡を発生させることが可能である。イオン交換材料の銅塩を含む創傷ドレッシングは、裂傷、擦過傷、および熱傷などの傷における感染症の発生を減少させる方法と関連して使用してもよい。創傷ドレッシングは、また、傷ドレーン、カテーテル、およびオストミー部位に形成されるものなどの、長期の傷における感染症を防止するための方法と関連して使用してもよい。本発明のさらなる態様において、イオン交換材料の銅塩を用いて、微生物を殺す方法を実行してもよく、任意で、追加の抗感染剤と共に使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年11月6日に出願された米国仮特許出願第61/258,789号の利益を主張する。先の出願の開示は、その全体を参考として本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、概して、抗感染剤としての使用に適したレベルの銅イオンを提供するイオン交換材料の銅塩に関する。本発明の特定の態様において、セルロース誘導体の銅塩が提供される。イオン交換材料の銅塩は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースなどの、セルロースのエーテルおよびエステル誘導体を用いて形成してもよい。本発明は、また、組み込まれたイオン交換材料の銅塩を有する創傷ドレッシングに関する。イオン交換材料の銅塩は、傷において、感染症を防止するために治療上有効なレベルで銅イオンの平衡を発生させることが可能である。イオン交換材料の銅塩を含む創傷ドレッシングは、裂傷、擦過傷、および熱傷などの傷における感染症の発生を減少させる方法と関連して使用してもよい。創傷ドレッシングは、また、傷ドレーン、カテーテル、およびオストミー部位に形成されるものなどの、長期の傷における感染症を防止するための方法と関連して使用してもよい。本発明のさらなる態様において、イオン交換材料の銅塩を用いて、微生物を殺す方法を実行してもよく、任意で、追加の抗感染剤と共に使用してもよい。
【背景技術】
【0003】
手術部位感染は、毎年、約50万件の院内感染の原因となっており、感染ごとに3,000ドルを超える追加の費用がかかり、ヘルスケアシステムに対する影響は、1年ごとに合計で15億ドルを超えている。外科手術における術後の感染率は、全ての手術に関して平均で2%〜4%の間にあり、選択された手術が著しく高い率を有する。最も高い感染率および疾病率と関連する外科手術は、冠動脈バイパス移植(CABG:coronary artery bypass graft)、心臓手術、結腸手術、股関節形成、膝関節形成、子宮摘出、血栓内膜摘除術、および静脈バイパスを含む。
【0004】
加えて、血液透析を受ける患者の約30%が、固定の中心線カテーテル(CLS)を有しており、これらの患者は、高い比率で挿入部位および血流感染(BSI)を経験する。他の留置カテーテルも、高い感染率と関連がある。
【0005】
外科手術、裂傷、擦過傷、熱傷により形成される傷、ならびに傷ドレーン部位、カテーテル入口部位、およびオストミー出口部位で形成されるものなどの、長期および慢性的な傷における感染の問題に対処するために、多くの手法が開発されてきた。抗菌剤、抗生剤、抗真菌剤、および抗ウイルス剤を含む抗感染剤が、創傷ドレッシング、包帯、クリーム、および軟膏などの様々な創傷ケア製品に組み込まれてきた。
【0006】
銀、銅、鉛、カドミウム、パラジウム、および亜鉛を含むいくつかの金属が、抗菌特性を有することが知られている。これらのうち、銅は、人体内に見られる自然発生イオンであるという利点を有する。銅は、約0.85ug/ml+/−0.19の濃度で、ヒト血漿に見出され、体内におけるその存在は、銅被覆されたIUDなどの医療器具の使用からも明らかなように、長時間にわたって許容されることが知られている。
【0007】
特許文献1では、吸収性パッドと、金属銅または銅化合物により被覆された非吸収性液体浸透シートとを含む、殺菌性の創傷または熱傷ドレッシングを述べている。銅含有シートは、傷または火傷に接触して置かれ、バクテリアに耐性を生じさせることなく、バクテリアから保護する。
【0008】
特許文献2では、セルロース無水グルコース単位でアニオン部分と置換され、かつ、銅カチオンにより上部が覆われたセルロース繊維を含み、繊維の重量に基づく約0.1重量%〜約3.0重量%の銅を繊維が結合している、変性繊維材料を述べている。また、銅により変質されたカルボキシアルキルセルロース繊維を作製する方法が述べられており、この方法は、水溶性第二銅塩溶液で繊維を処理し、繊維を洗浄して塩を除去し、その後に乾燥させることを含む。繊維は、好ましくは、0.01〜0.3の銅置換度を有する。繊維を用いて作製される材料は、外科用ドレッシング、吸収性コットン、および様々な衛生用具を含んでもよい。
【0009】
特許文献3では、傷からの浸出液を吸収するための吸収性ドレッシングを述べており、ここで、ドレッシングは、多孔質容器に封入された複数の吸収性ハイドロゲル粒子を含む。多孔質容器は、傷に付着せず、ハイドロゲル粒子は、浸出液を吸収後、容器に封入されたままとなる。粒子は、乾燥されたポリアクリロニトリルハイドロゲル粒子であってもよく、粒子は、創傷治療薬、あるいは銅および亜鉛含有化合物または錯体などの、治癒過程を助ける栄養物を含有または放出してもよい。
【0010】
特許文献4では、傷を覆うかまたは治療するハイドロゲルドレッシング、およびこのようなドレッシングを作製する方法を述べている。ドレッシングは、架橋混合物を含むマトリックス構造と、マトリックス構造に埋め込まれる元素金属またはイオン金属で被覆された弾性シートとを含む。架橋混合物は、親水性ポリマー、光触媒、および水を含む。金属は、好ましくは、銀イオンと組み合わされたTiO2であるが、銀の代わりに亜鉛および銅を用いてもよい。
【0011】
特許文献5では、ただれ、ヘルペス、皮膚開口、潰瘍、損傷、擦過傷、熱傷、および皮膚疾患を、埋め込まれた不水溶性の酸化銅を有するポリアミド、ポリエステル、アクリル、またはポリアルキル材料を塗布することにより処置および治療する方法を述べている。これらの材料は、流体と接触すると、銅(I)イオン、銅(II)イオン、またはその組み合わせを放出する。
【0012】
現在市販されている抗感染ドレッシングは、抗感染剤として銀が組み込まれている。これらのドレッシングは、高価(従来のドレッシングよりも、約5〜10倍高価)であり、よって、重度の熱傷、慢性の治癒しない傷、およびハイリスクの患者にのみ用いられる。典型的なドレッシングとして、アルゲントゥムメディカル(Argentum Medical)のシルバーロン(Silverlon(R))ドレッシング、ジョンソン&ジョンソン(Johnson & Johnson)のアクティコート(Acticote(R))ドレッシング、メッドライン(Medline)のアルガラーゼ(Argalase(R))ドレッシング、スミス&ネフュー(Smith & Nephew)のアクティソーブ(Actisorb(R))ドレッシング、およびコノプラスト(Conoplast)のコントリード(Contreed(R))ドレッシングが挙げられる。様々な銀ベースの製品が市販されているが、これらドレッシングに関連する高い価格が、これらドレッシングが感染を防ぐために有用となり得る多くの状況で使用されることを阻んでいる。さらに、銀ならびに鉛、パラジウム、カドミウム、および亜鉛などの他の金属が、抗菌剤として有用となり得るが、これらの金属は体内に蓄積することがあり、容易には除去されず、治癒プロセスにおいて有害となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】英国特許第GB2092006号明細書
【特許文献2】米国特許第4637820号明細書
【特許文献3】米国特許第5977428号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/101417号
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0311165号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当該技術分野で、費用対効果の高い抗感染製品の必要性がある。また、水、汗、および傷の浸出液などの流体と接触した際に、制御された一定のやり方で銅イオンを放出することにより、抗感染性を提供する製品の必要性がある。このような製品は、イオン交換樹脂の銅塩を組み込んでもよく、ここで製品が、例えば、傷ドレッシング、ガーゼ、包帯の形態、および/またはクリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏の形態の局所用調製品となり得る。銅イオンを放出する製品は、傷において、感染症を防止するために治療上有効なレベルの銅イオンの平衡を発生させてもよい。さらに、本発明に係る抗感染製品は、現在市販されている銀ベースの抗感染ドレッシングの、費用効果の高い代替物を提供し、これにより、本発明の抗感染ドレッシングを使用可能な用途の数を広げる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、流体と接触した際に、一定の制御された銅イオンの放出を提供する抗感染銅供給システムを提供することにより、当該技術およびその他の満たされていない必要性を満たす。銅イオンは、好ましくは、感染症を防止するために治療上有効だが毒性レベルを超えないレベルで、流体内の銅イオンの平衡を確立することによって、生体系での使用に適したレベルで放出される。
【0016】
銅供給システムは、セルロースのエーテルおよびエステル誘導体を含む、セルロース誘導体などのイオン交換樹脂の銅塩の形態で、有益に提供することができる。現在好ましいセルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、およびその塩を含む。一態様によると、CMC、ナトリウムCMC、およびカルシウムCMCを、イオン交換樹脂として用いてもよい。さらなる態様によると、イオン交換樹脂の銅塩を用いて、流体を吸収することが可能な親水コロイドを調製してもよい。
【0017】
本発明は、また、傷ドレッシング、ガーゼ、包帯、および/またはクリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏の形態の局所用調製品などの物品を提供し、物品は、銅イオンの平衡を確立するのに適切な形態の銅塩を組み込んでいる。本発明は、また、長期、治癒しない、および慢性の傷を含む傷において感染症を防止するための方法を提供する。例えば、銅塩を含む物品は、手術創傷、裂傷、擦過傷、および熱傷などの傷や、潰瘍などの治癒しない傷、ならびに傷ドレーン、カテーテル、およびオストミー部位などに形成される傷における感染症の発生を減少させる方法において、使用してもよい。本発明は、銅塩を組み込んだ傷ドレッシング、ガーゼ、包帯、および/またはクリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏の形態の局所用調製品などの物品を作る方法に、さらに向けられている。
【0018】
本発明の一態様によると、本発明は、イオン交換樹脂の銅塩に関する。イオン交換樹脂は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースからなる群から選択されたセルロース誘導体であってもよい。銅塩は、銅(I)および/または銅(II)イオンで形成されてもよい。水、汗、および傷の浸出液などの液体と接触すると、銅塩は、感染を防止するために治療上有効なレベルで、液体において銅イオンの平衡を有益に生成することができる。
【0019】
本発明の一態様によると、イオン交換樹脂の銅塩を組み込んだ物品が提供される。イオン交換樹脂は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースからなる群から選択されたセルロース誘導体で形成してもよい。物品は、傷ドレッシング、ガーゼ、包帯、クリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏の形態で提供されてもよい。
【0020】
本発明の追加の態様は、抗感染創傷ケア用物品を作製する方法に関する。方法は、イオン交換材料を準備するステップと、1つまたは複数の銅塩の溶液を準備するステップと、前記イオン交換材料を、1つまたは複数の銅塩の前記溶液に浸すステップと、溶剤を取り除いて、前記イオン交換材料の銅塩を形成するステップと、を含む。セルロース誘導体の銅塩は、傷ドレッシング、ガーゼ、包帯、クリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏などの物品に有益に組み込むことができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、傷口において抗感染剤を提供する方法に関し、方法は、イオン交換材料の銅塩を組み込んだ物品を形成するステップと、物品を傷口に当てるステップと、傷口からの液体を物品と接触させるステップとを含み、傷口からの流体中の銅イオンと、物品中のイオン交換材料の銅塩と結合した銅イオンとの間に、平衡が得られる。
【0022】
本発明のさらなる態様は、イオン交換材料の銅塩を組み込んだ物品を、感染した傷に当てるステップを含む、感染症の治療方法に関する。感染した傷は、長期、治癒しない、および/または慢性の傷であってもよい。感染の治療方法は、また、イオン交換材料の銅塩を組み込んだ物品を、傷に当てること、および前記傷での感染率を、イオン交換材料の銅塩を含む物品を使用して治療していない傷の感染率と比較することにより、傷の感染の発生を減少させるために使用しても良い。傷は、手術創傷、裂傷、擦過傷、熱傷、皮膚潰瘍、傷ドレーン、カテーテル部位、およびオストミー部位からなる群から選択することができる。
【0023】
以下の説明を考察すること、または本発明を実践により学習することによって、本発明の他の新規な特徴および利点が、当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の態様は、単に説明および例として与えられる、以下に与えられる詳細な説明および添付の図面から、完全に理解されるであろう。
【0025】
【図1】図1は、Na+ CMC個体Cu++含有量の、溶解したCu++含有量への影響を示すグラフである。
【図2】図2は、Ca+ CMC個体Cu++含有量の、溶解したCu++含有量への影響を示すグラフである。
【図3】図3は、Na+ CMC個体Ag+含有量の、溶解したAg+含有量への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明で用いるための銅供給システムは、抗菌効果を呈するために十分な無毒性レベルで体液に銅イオンが放出される、イオン交換平衡を確立するために用いることができる。いくつかの態様によると、銅供給システムは、正電荷を持つ銅(I)および/または銅(II)カチオン、および流体と接触した際に、制御された一定のやり方で銅カチオンを放出可能な、負電荷を持つ任意の物質のアニオンの塩であってもよい。
【0027】
いくつかの態様によると、アニオンは、イオン交換樹脂から形成される。さらなる態様によると、イオン交換樹脂は、セルロース誘導体であってもよい。アニオン物質は、限定はしないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースを含む、セルロースのエーテルおよびエステル誘導体を含んでもよい。現在好ましい実施形態によると、イオン交換樹脂は、CMC、好ましくはナトリウムCMCおよび/またはカルシウムCMCである。使用される特定のアニオンに関わらず、本発明の銅供給システムは、抗菌効果を提供する量の銅カチオンを放出する。
【0028】
銅供給システムは、水溶性銅塩(例えば、硫酸銅、塩化銅)の濃縮溶液を、CMCなどのイオン交換樹脂の水溶液に加えることによって作製されていてもよく、CMCは、ナトリウムCMCおよび/またはカルシウムCMCの形態で提供してもよい。本発明のいくつかの態様によると、CMCは、0.95未満、好ましくは0.70未満の置換度を有する。CMCの銅塩は、次いで、濾過および浄化されて非結合銅を除去し、次いで乾燥されて、最終製品を形成することができる。
【0029】
いくつかの態様によると、イオン交換樹脂がCMCである場合、樹脂は、好ましくは約0.001〜約0.5、より好ましくは0.01〜約0.3の銅置換度を有する。銅供給システムにおいて供給される銅の合計量は、好ましくは約0.0001重量%〜約0.0005重量%、より好ましくは約0.0002重量%〜約0.0004重量%、最も好ましくは約0.0003重量%である。異なるイオン交換樹脂の銅塩に含まれる銅の適切な量は、銅CMC塩に関して上に示されたレベルに基づき、当業者によって計算することができる。銅イオンは、ナトリウムおよび/またはカルシウムなどの他のイオンと置換するが、銅がそれらのイオンと置換する度数は、典型的には、CMCまたは他のセルロース誘導体の置換度に基づき、約50%以下であり、好ましくは35%以下であり、より好ましくは20%以下であり、最も好ましくは10%以下である。
【0030】
使用される特定のイオン交換樹脂およびその置換の度数によらず、銅供給システムに含まれる銅の量は、炎症を起こすレベルまで銅イオンの濃度を上昇させることなく、銅カチオンを有効な量で提供しつつ、流体に存在するナトリウム、カルシウム、または他のカチオンと交換するための十分な銅があるように選択される。好ましくは、銅の量は、動物内に全身性の毒性を生じさせるレベルまで銅イオンの濃度を上昇させることなく、抗菌的に有効な量の銅カチオンを提供するために、動物の血清に存在するナトリウム、カルシウム、または他のカチオンと交換するのに十分である。制御されたイオン交換を提供することにより、動物の血清内で、銅イオンの治療的レベルが得られ、これにより、銅供給システムは、バクテリア、ウイルス、および菌類などの感染体によって生じる感染を、有益に治療および/または防止する。
【0031】
セルロース誘導体などの、イオン交換樹脂の銅塩を、様々な医療物品に組み込んで、物品に抗感染性の特性を持たせることが可能である。
【0032】
本発明のイオン交換樹脂の銅塩を有益に組み込むことが可能な創傷ケア製品は、任意の創傷ドレッシング、包帯、ガーゼ、軟膏、パウダー、クリーム、ゲル、および/またはハイドロゲルを含み、これらは、手術創傷、裂傷、擦過傷、熱傷、慢性または治癒しない傷(すなわち潰瘍)、傷ドレーン挿入部位、カテーテル、およびオストミー部位の治療と共に用いることができる。
【0033】
創傷ケアおよび創傷感染防止物品は、創傷治療および/または感染防止における使用に適した任意の材料で形成することができ、イオン交換樹脂の銅塩と適合可能である。本発明の物品は、イオン交換樹脂の銅塩との結合を維持することが可能であり、かつ銅イオンの放出を可能にする、基本的に任意の材料で形成することができる。いくつかの態様によると、創傷ケアおよび創傷感染防止物品を、手術部位または傷への抗生剤の使用を減少させるおよび/または無くすための方法と共に用いてもよく、これにより、コストを減少させる一方で、同時に抗生物質耐性の可能性を減少させる、完全な範囲の抗菌有効性を提供する。
【0034】
セルロース誘導体などのイオン交換樹脂の銅塩の、本発明の物品への組み込みは、(1)イオン交換樹脂の銅塩を含む層を物品に設ける、(2)イオン交換樹脂の銅塩を物品に組み込む、の2つの手法のうちの1つに従うことができる。本発明のいくつかの態様によると、イオン交換樹脂の銅塩は、イオン交換樹脂の銅塩に見出される銅イオンと、傷の周りの流体の銅イオンとの間で平衡を確立することにより、持続した銅イオンの放出を提供することができる。このような平衡の確立は、長期の抗感染効能を、有益に提供することができる。本発明の他の態様によると、イオン交換樹脂の銅塩は、平衡が確立されるまで、銅イオンの急速な初期放出を提供することができ、傷の内部または周りでのバクテリア、ウイルス、および/または菌類の迅速な殺傷を提供する。
【0035】
1つの態様によると、創傷ケア用物品は、親水コロイド接着システムであり、ここで、親水コロイドは、イオン交換樹脂の銅塩、例えば、CMC−銅塩を、親水コロイドの0.5重量%〜5重量%、好ましくは0.75重量%〜4重量%、より好ましくは1重量%〜3重量%の量で組み込んでいる。親水コロイド接着システムは、銅塩を含む親水コロイドを供給することにより作製され、これは次いで、混合され押出成形される。銅塩を含む混合された親水コロイド接着剤は、次いで、当業者に知られている製造技術を用いて、完成した親水コロイド創傷ドレッシング内に供給される。このような創傷ドレッシングは、異なる人体表面で起こり得る様々な創傷の治療に使用するために、様々な大きさおよび形で作製することができる。
【0036】
本発明の追加の態様に従って、銅塩を、感圧接着剤などの医療用接着剤に組み込んでもよく、あるいは、医療用切開ドレープ形成において設けてもよい。本発明のこれらの態様と併せて使用する場合に、銅塩は、手術が行われる間、制御されたやり方で手術創傷部位に銅イオンを放出することが可能であり、外科手術と典型的に関連する感染の発生を減少させる。
【0037】
上述のガイダンスを用いて、抗炎症の量の銅イオンを提供するパウダー、クリーム、および包帯などの、代替の創傷ケア用物品を作製することは、当業者の能力の範囲内であるとみなされる。
【0038】
イオン交換樹脂の銅塩は、好ましくは、傷の内部または周りの細菌の量を減少させるのに有効な量で、物品の内部または周りに含まれる。さらなる態様によると、イオン交換樹脂の銅塩は、傷の内部または周りの全ての細菌を除去するのに有効な量で供給される。特に、イオン交換樹脂の銅塩は、患者に対して有毒でない一方で、殺菌的または細菌成長抑制的に有効な量の銅イオンを放出する量で供給される。
【0039】
所望の効果を達成するために必要なイオン交換樹脂の銅塩の濃度は、物品が使用される状況(すなわち傷の種類、および傷環境と関連する水分の量)、イオン交換樹脂の銅塩が物品に組み込まれるやり方(すなわち被覆として、または物品に埋め込まれて)、および傷環境と関連する細菌の種類を含むがこれらに限定されない要因に基づき変化する。
【0040】
物品内のイオン交換樹脂の銅塩と傷環境に存在する流体との間に確立される平衡による、傷環境に放出される銅イオンの濃度は、物品内または物品上に供給されるイオン交換樹脂の銅塩の量、および傷と関連する流体に存在するカチオンの量に基づき変化する。不十分なレベルの流体および/またはカチオンが傷環境に存在する場合、減菌液によって物品を濡らすこと(物品が、手術ドレッシング、ガーゼ、または包帯の形態である場合)、あるいは水分および/またはカチオン源を含む物品(セルロース誘導体の銅塩を含むゲル、ハイドロゲル、またはクリームなど)と共にイオン交換樹脂の銅塩を使用することにより、それらを補足することができる。
【0041】
好ましくは、セルロース誘導体などのイオン交換樹脂の銅塩は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、腸球菌、菌類、鵞口瘡カンジダ、黄色ブドウ球菌、エンテロバクター属、大便連鎖球菌、表皮ブドウ球菌、ビリダンス型連鎖球菌、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、バークホルデリア・セパシア、水痘、クロストリジウム・ディフィシル、クロストリジウム・ソルデリー、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、HIV/AIDS、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、おたふくかぜ、ノロウイルス、パルボウイルス、ポリオウイルス、風疹、SARS、肺炎球菌(薬物抵抗性の形態を含む)、バンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、およびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の微生物の1つまたは複数を殺傷または成長を制限する濃度の銅イオンを放出するために十分な量で、本発明の物品の内部または表面に含まれる。そのような量の決定は、当業者の能力の範囲内であると考えられる。
【0042】
本発明は、また、感染を防止、感染の発生を減少、および/または傷内に存在する感染を治療する方法に従って用いてもよい。このような方法は、物品を提供すること、および物品の周りの領域に見出される微生物を殺傷または成長を抑制するのに十分な銅イオンの濃度を供給するのに十分な量で、イオン交換樹脂の銅塩をその内部または表面に組み込むことを含む。傷内に適切な濃度の銅イオンを確立するために必要な銅塩の濃度は、傷の大きさ、傷が既に感染しているかどうか、および傷の近傍に存在する微生物に基づき変化する。
【実施例】
【0043】
本発明のこれらおよび他の態様を、以下に示される非限定の実施例においてさらに説明する。
【0044】
[実施例1−CMCの銅塩の調製]
手法:カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムの水溶液に、銅塩の濃縮溶液を、ピペット操作で滴下することにより、カルボキシメチルセルロース(CMC)の、混合された銅/ナトリウムおよび銅/カルシウム塩が調製される。銅塩は、USP硫酸銅または試薬グレードの塩化銅のいずれかから調製される。塩は、濾過により分離され、続いて水メタノールによる置換洗浄で精製され、次いで真空内で乾燥される。
【0045】
必要とされる試薬:USPカルボキシメチルセルロースナトリウム。カルボキシメチルセルロースカルシウム。CMCは、0.95、好ましくは約0.70以下の置換度数とし、中間粘度型、蒸留水、無水メタノール、塩化ナトリウム、USPグレードおよび塩化銅試薬グレードのCuSO4・5H2O(銅塩向け)とすべきである。
【0046】
必要とされる器具:オーバーヘッド攪拌機、500mlのビーカー、1リットルの三つ口丸底フラスコ、500mlの三つ口丸底フラスコ、75℃に設定された真空オーブン、小型の結晶皿、真空源(ポンプおよび吸引器)、適合された2〜3インチのブフナー漏斗および粗い濾紙または焼結ガラスフリット付きの漏斗を有する1リットルのフィルタフラスコ、0.1gに適した化学天秤、プラスチックの秤量皿、茶色のガラス瓶、100ml、250mlおよび500mlのメスシリンダー、磁気攪拌機および攪拌棒、250mlの一口丸底フラスコ、ロータリーエバポレータ、必要に応じてビューレット、へら、クランプ。
【0047】
(混合されたCMCの銅/ナトリウム塩の合成手順)
1.飽和硫酸銅五水和物溶液を400ml調製する。あるいは、塩化銅の飽和溶液を用いてもよい。
【0048】
2.約3mlのCMC(0.1gに計量)溶液を小型のビーカーに入れ、ビューレットで硫酸銅五水和物溶液を滴状に加える。何らかの沈殿物が形成されないか観察する。沈殿がある場合、沈殿物を沈殿させ、硫酸銅五水和物溶液を1滴以上加えて、沈殿が完全となることを確実にする。加えられた銅溶液の量を記録し、ステップ3に進む。
【0049】
3.200gのカルボキシメチルセルロースナトリウムまたはカルシウムの溶液を、1リットルの丸底フラスコに入れる。オーバーヘッド攪拌機により、ゆっくりかき混ぜる。ステップ2で計算された硫酸銅五水和物溶液の量を、ビューレットでゆっくり加え、生成物の沈殿を生じさせる。加えた後、15分間攪拌し、完全な沈殿を確実にする。
【0050】
4.水溶液を沈殿物から慎重に濾過する。分析のために、計量および保持する。沈殿物を500mlのビーカーに入れる。
【0051】
5.360mlのメタノール及び240mlの脱イオン水の溶液を調製する。
【0052】
6.ビーカー内の100mlの水メタノールに沈殿物を浮遊させ、10分間攪拌する。計量されたフラスコに、液体をできるだけ静かに移し、100mlのメタノールに再び浮遊させる。再度、10分間攪拌する。メタノール水溶液を個別に蒸発させ、残存物があればその重さを計る。可視の残存物がある場合、分析のために取り出す。
【0053】
7.再度、漏斗の沈殿物を分離し、少量の水メタノールで洗浄する。再び、計量された丸底フラスコ内で蒸発させ、計量後、残存物を分析するために保持する。
【0054】
8.100mlの水メタノールに、再び沈殿物を浮遊させる。10分間攪拌し、再度濾過し、濾過液を保存する。1mlの蒸留水に0.1gの炭酸ナトリウムを溶解し、濾過液に3滴加える。濾過液が透明の場合、ステップ9に進む。そうでない場合、透明になるまでステップ8を繰り返す。透明な溶液は、残る銅のすべてがCMC塩として存在することを示す。
【0055】
9.濾過液に、結合していない銅イオンが無い場合、沈殿物を慎重にプラスチックの秤量皿に移す。皿を真空オーブンに設置し、105℃で乾燥させる。乾燥した粉を計量し、乾燥したCu/Na CMCを、使用するまで蓋付きの茶色のガラス瓶で保存する。
【0056】
10.プロセスにおける物質収支を行い、プロセスにおけるNaおよび銅塩を評価する。分析から、生成物内の置換のCu度数を計算する。
【0057】
[実施例2(比較)−CMCの銀塩の調製]
手法:カルボキシメチルセルロースナトリウムの水溶液に、可溶性銀塩の濃縮溶液をピペット操作で滴下することにより、カルボキシメチルセルロース(CMC)の銀/ナトリウム塩が調製される。銀塩は、USP硝酸銀から調製される。塩は、濾過により分離され、続いて水メタノールによる置換洗浄で精製され、次いで真空内で乾燥される。
【0058】
必要とされる試薬:USPカルボキシメチルセルロースナトリウム。CMCは、0.95、好ましくは約0.70以下の置換度数とし、中間粘度型、USPグレードの硝酸銀、蒸留水、無水メタノール、塩化ナトリウムとすべきである。
【0059】
必要とされる器具:オーバーヘッド攪拌機、500mlのビーカー、1リットルの三つ口丸底フラスコ、500mlの三つ口丸底フラスコ、75℃に設定された真空オーブン、小型の結晶皿、真空源(ポンプおよび吸引器)、適合された2〜3インチのブフナー漏斗および粗い濾紙または焼結ガラスフリット付きの漏斗を有する1リットルのフィルタフラスコ、0.1gに適した化学天秤、プラスチックの秤量皿、茶色のガラス瓶、100ml、250mlおよび500mlのメスシリンダー、磁気攪拌機および攪拌棒、250mlの一口丸底フラスコ、ロータリーエバポレータ、必要に応じてビューレット、へら、クランプ。
【0060】
(混合されたCMCの銀/ナトリウム塩の合成手順)
1.脱イオン水中で400gの50%w/w含水硝酸銀を調製する。1度で使わない場合は、茶色のガラス瓶に保管する。
【0061】
2.約3mlのCMC(0.1gに計量)溶液を小型のビーカーに入れ、ビューレットで硝酸銀溶液を滴状に加える。何らかの沈殿物が形成されないか観察する。沈殿がある場合、沈殿物を沈殿させ、硝酸銀溶液を1滴以上加えて、沈殿が完全となることを確実にする。加えられた銀溶液の量を記録し、ステップ3に進む。
【0062】
3.200gのカルボキシメチルセルロースナトリウムの溶液を、1リットルの丸底フラスコに入れる。オーバーヘッド攪拌機により、ゆっくりかき混ぜる。ステップ2で計算された硝酸銀の量を、ビューレットでゆっくり加え、生成物の沈殿を生じさせる。加えた後、15分間攪拌し、完全な沈殿を確実にする。
【0063】
4.水溶液を沈殿物から慎重に濾過する。分析のために、計量および保持する。沈殿物を500mlのビーカーに入れる。
【0064】
5.360mlのメタノール及び240mlの脱イオン水の溶液を調製する。
【0065】
6.ビーカー内の100mlの水メタノールに沈殿物を浮遊させ、10分間攪拌する。計量されたフラスコに、液体をできるだけ静かに移し、100mlのメタノールに再び浮遊させる。再度、10分間攪拌する。メタノール水溶液を個別に蒸発させ、残存物があればその重さを計る。可視の残存物がある場合、分析のために取り出す。
【0066】
7.再度、漏斗の沈殿物を分離し、少量の水メタノールで洗浄する。再び、計量された丸底フラスコ内で蒸発させ、計量後、残存物を分析するために保持する。
【0067】
8.100mlの水メタノールに、再び沈殿物を浮遊させる。10分間攪拌し、再度濾過し、濾過液を保存する。1mlの蒸留水に0.1gの炭酸ナトリウムを溶解し、濾過液に3滴加える。濾過液が透明の場合、ステップ9に進む。そうでない場合、透明になるまでステップ8を繰り返す。透明な溶液は、残る銀のすべてがCMC塩として存在することを示す。
【0068】
9.濾過液に、結合していない銀イオンが無い場合、沈殿物を慎重にプラスチックの秤量皿に移す。皿を真空オーブンに設置し、105°Fで1時間乾燥させる。乾燥した粉を計量し、乾燥したAg/Na CMCを、使用するまで蓋付きの茶色のガラス瓶で保存する。
【0069】
10.プロセスにおける物質収支を行い、プロセスで使用されたNa CMCおよび銀塩を評価する。分析から、反応生成物内の置換のNaおよびAg塩度数を計算する。
【0070】
[実施例3−銅および銀カチオンの平衡レベルの評価]
(製品特性評価−サンプル消化)
20〜30mgの銀または10〜15mgの銅を含む正確に軽量されたサンプルを、ホウケイ酸消化フラスコに移す。5mlのACS試薬グレードの硫酸をサンプルに加え、回転させてサンプルを濡らす。次いで、1.0mlのACS試薬グレードの硝酸を、回転させながら加えて混合させる。換気フード内でフラスコを加熱し、消化を開始させる。次いで、フラスコを加熱して硫酸のガスを放出させる。溶液が透明であれば、加熱を継続して硫酸の量を2ml未満まで減少させる。最初の加熱の終わりに黒い残存物がある場合、フラスコを冷まし、1.0mlの硝酸を慎重に加え、加熱を繰り返してガスを放出させる。必要に応じて繰り返し、炭素の残存物の酸化を完了する。フラスコを室温まで冷まし、次いで、水が酸と混合するように回転させながら、25mlの脱イオン水をフラスコに加える。必要であれば、加熱して塩を溶解する。次いで、滴定容器に移し、滴定の用意をする。
【0071】
金属を決定するためにISE技術が使われる場合、サンプルサイズは、約10分の1に減少してもよく、これにより、2〜3mgの銀または1〜2mgの銅となる。正確に計量されたサンプルを、消化のために30mm×120mmのホウケイ酸試験管に移してもよい。加えられる硫酸は、1.0mlに減少されるべきであり、硝酸は、0.5mlに減少されるべきである。加熱して強い硫酸を放出させる。何らかの黒い残存物が残った場合、さらに0.5mlの硝酸を加え、加熱して透明な消化物を提供する。消化物の最終的な体積は、0.5ml未満となるべきである。消化物は、脱イオン水で慎重に希釈され、最終的な決定をするために、分析容器に移される。
【0072】
(製品特性評価−滴定による決定)
銀:メチルオレンジインジケーターを1滴、サンプル溶液に加え、1N NaOHを、メチルオレンジの中間色に加える。脱イオン水により、60〜75mlまで希釈する。滴定スタンドに設置し、0.050M KCl溶液で滴定する。滴定器は、10mlまたは20mlのビューレットが備えられ、標準の2重接合基準電極と組み合わせた銀感知電極を使用する。基準電極は、ベンダーで指定されているように、1Mの硝酸カリウムを含む。標準のベンダーにより供給される滴定器プロトコルが用いられ、記録のために結果および滴定曲線が印刷される。正確に測定された体積の、標準の硝酸銀溶液が、QC標準として用いられる。
【0073】
銅:銀感知電極が、銅ISE電極と置き換えられ、使用される滴定剤が0.050N EDTA溶液であることを除いて、標準は基本的に同じである。ACS試薬グレードの水酸化アンモニウムにより、溶液のpHを7〜8に調整する。脱イオン水により、60〜75mlに希釈する。カルシウム、マグネシウム、または亜鉛が疑われる場合、水酸化アンモニウムではなく2Mの酢酸ナトリウム溶液によって、pHを3.8〜4.2に調整すべきである。EDTA溶液は、標準の銅溶液によって、あるいは標準の亜鉛溶液によって標準化される。これらの標準物は、購入するか、または純粋な金属から調製してもよい。
【0074】
(イオン選択電極による代わりの決定)
銀電極調整:0.1Mの酢酸ナトリウム/0.1Mの酢酸を含む緩衝溶液内において、1リットルごとに0.1〜20mgの銀の範囲で、電極反応を決定する。ACS試薬グレードの硝酸銀と脱イオン水から調製された硝酸銀の標準溶液を使用する。log[Ag]対測定されたmVのプロットの傾斜を計算する。傾斜は、銀濃度の10倍の変化ごとに、56および61mVの間とすべきである。これは、酸消化物の銀含有量の計算に用いられる。
【0075】
銀サンプル分析:2滴のメチルレッドインジケーター溶液を、サンプルに加え、50mlの脱イオン水を加える。次いで、2Mの酢酸ナトリウム溶液を、溶液が赤からオレンジに変わるまで、サンプル溶液に加える。脱イオン水を加えて、サンプルを200mlまで希釈する。溶液に電極のセットを沈め、ゆっくりとかき混ぜる。安定化した時のmVの読み取り値を記録する。電極調整プロットを参照して、溶液内の銀の濃度を推定する。測定された量の硝酸銀溶液をサンプル溶液に加え、12〜24mvの変化を生じさせる。妥当な推定値は、溶液内の銀濃度を元の濃度の60%〜150%に増加させるのに必要な量である。加えられた量と、mVの読み取り値とを記録する。同じ量のもう1つの硝酸銀の増分を溶液に加え、加えられた量とmVの読み取り値とを記録する。ベンダーの電極マニュアルを参照して、計算を行う。
【0076】
銅電極調整:0.1Mの酢酸ナトリウム/0.1Mの酢酸を含む緩衝溶液内において、1リットルごとに0.1〜20mgの銅の範囲で、電極反応を決定する。ACS試薬グレードの塩化銅五水和物と脱イオン水から調製された塩化銅の標準溶液を使用する。log[Cu]対測定されたmVのプロットの傾斜を計算する。傾斜は、銅濃度の10倍の変化ごとに、28および31mVの間とすべきである。これは、酸消化物の銅含有量の計算に用いられる。
【0077】
銅サンプル分析:2滴のメチルレッドインジケーター溶液を、サンプルに加え、50mlの脱イオン水を加える。次いで、2Mの酢酸ナトリウム溶液を、溶液が赤からオレンジに変わるまで、サンプル溶液に加える。脱イオン水を加えて、サンプルを200mlまで希釈する。溶液に電極のセットを沈め、ゆっくりとかき混ぜる。安定化した時のmVの読み取り値を記録する。電極調整プロットを参照して、溶液内の銅の濃度を推定する。測定された量の塩化銅溶液をサンプル溶液に加え、10〜18mvの変化を生じさせる。妥当な推定値は、溶液内の銅濃度を元の濃度の2.3〜4.0倍に増加させるのに必要な量である。加えられた量と、mVの読み取り値とを記録する。同じ量のもう1つの塩化銅溶液の増分を溶液に加え、加えられた量とmVの読み取り値とを記録する。ベンダーの電極マニュアルを参照して、計算を行う。
【0078】
(イオン交換/可溶性調査)
銅および銀イオン選択電極を用いて、リンゲル乳酸液などの含水金属錯溶液内で、合計の溶解した種を監視することができる。電極は、自由イオンにのみ反応するが、合計の溶解イオンに対するその濃度の比率は、錯化剤の濃度がほぼ一定である限り、基本的に一定のままである。リンゲル乳酸液内の銀イオンで起こるように、金属イオンが沈殿する場合、電極は、塩化銀として存在する銀に関する情報を提供しない。しかし、サンプルの調製に、アンモニアなどの錯化剤を用いて、酸消化を回避し、ISE技術で分析するためのサンプルを調製することができる。サンプル調製にこの種の手法が用いられる場合、標準添加技術が必要である。
【0079】
ISE直接読み取り技術を用いて、このプログラムで調製された銀および銅の化合物の溶解度の比率を監視することが意図されている。これは、自由金属イオンの濃度およびいつ溶液が飽和に達したかに関する情報を提供する。銀CMC塩が個体により攪拌される際に、リンゲル乳酸液における高い塩化物濃度が、塩化銀を沈殿させることが予期される。これが、銀CMC塩の有意な最終結果であると考えられる場合、平衡溶液から分離された個体の銀含有量を決定することが適切な場合がある。
【0080】
銀および銅の、それぞれの溶液における合計の可溶性が、サンプル調製の後にISEで測定される。サンプル調製は、生成物の分析で述べたように、浮遊する個体および酸消化物を除去する濾過を含む。ISE標準添加技術が後に続く、ACS試薬グレードの水酸化アンモニウムによる濾過溶液の処理による分析が、酸消化方法の代わりとしてテストされる。結果が同等である場合、水酸化アンモニウムサンプル調製が用いられる。銅および銀の滴定方法は、通常利用可能であるものよりも大きなサンプルを必要とする。滴定に必要とされるよりも大きなサンプルは、ISE分析方法に必要とされるサンプルサイズよりもはるかに長い時間を、調製に要する。
【0081】
(分析方法)
Cu++イオン特定電極により監視される、EDTA滴定が後に続く硫酸消化を用いて、調製されたサンプルの分析が行われた。
【0082】
Ca++CMCから調製されたサンプルは、カルシウム干渉を除去するために、少なくともpH5以下で滴定する必要があった。全体で、ISE方法論は、優れた裏付けを示した。
【0083】
実験分析の各日に、正確な測定値を保証するために、イオン特定電極が標準添加法によって調整された。加えて、正確な電極性能を保証するために、様々なイオン溶液(塩の背景、消化酸溶液、乳酸加リンゲル等)に対して、添加法の試験が行われた。また、分析プログラムに用いられた全ての分注ピペットも調整された。
【0084】
リンゲル乳酸液をイオン溶液として用いた平衡調査の間、リンゲル乳酸液が電極読み取り値の切片に著しい遷移を起こしたことが見出された。これは、自由なCu++イオンの乳酸錯体の形成によって引き起こされた可能性が高い。これは、将来の開発が、無機塩のみを含むイオン溶液を用いるべきであることを示唆する。このことは、実験データの解釈を容易にする。
【0085】
(平衡時間の調査)
Cu++CMC材料のサンプルが、150mlの乳酸加リンゲル液内でかき混ぜられた。塩からのCu++イオンの圧搾が、Cu++イオン特定電極を用いて測定された。これら試験の目的は、Cu++がどの程度の速さでイオン交換されて、Cu++ CMC塩から離れることができるかを理解するためである。これらの試験からのデータは、これらの塩が、乳酸加リンゲル液内で非常に早く平衡化することを示しており、通常は、Na+CMC系材料で5分以内、Ca++CMC系材料で7分以内である。
【0086】
このデータは、これらCu CMC材料が、それらに付いたCu++イオンを、傷の流体などの競合するイオン交換媒体へと迅速かつ自在に開放することを示すため、かなり期待が持てるものである。さらに、実験の反復は、合成材料のうちの2つで達成された最終的な平衡が、非常に一貫していたことを示す。
【0087】
(Cu++ CMC平衡調査)
Ca++ CMCとNa+ CMCの両者を用いて、イオン交換平衡の調査が行われた。
【0088】
手順は、少量のCMC試薬(1.5グラム未満のCa++ CMCまたは0.5グラム未満のNa+ CMC)を、リンゲル乳酸液(100ml〜300ml)に加えることからなる。リンゲル乳酸液は、Cu++イオン交換のカチオン源として用いられた。この混合物が、攪拌子を用いてビーカー内で撹拌された。攪拌された混合物に、CuCl2の標準添加が加えられ、Cu++イオン特定電極を用いて、溶解した銅が監視された。
【0089】
溶解したCu++含有量対Na+CMC個体Cu++含有量を示すデータが、表1〜5に含まれており、図1にプロットされている。溶解したCu++含有量対Ca++CMC個体Cu++含有量を示すデータが、表6〜9に含まれており、図2にプロットされている。基本的に直線のプロットは、これらの材料が典型的なイオン交換剤の挙動を呈することを示す一方、異なる傾斜の線は、試験中に一定に保たれなかった何らかの競合する要因があった可能性を示す。将来は、乳酸加リンゲル液をイオン交換媒体として使用しないことが提案され、それは、乳酸成分がCu++イオンと錯体化して、特定イオン電極で読めなくなることが示されたからである。また、提案される製品仕様環境をより良く表すために、高い比率の個体/液体を用いることが推奨される。
【0090】
最後に、将来の実験室での試験において、CMC試薬の粒径の、得られた実験データの一貫性との関係が、調査されるであろう。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
(Ag+ Na+ CMC平衡調査)
上述したCu++のNa+ CMCとの平衡挙動の調査に用いたものと基本的に同じ手順を用いて、Na+ CMCの存在下での銀(Ag+)の平衡挙動が評価された。
【0101】
これら試験の結果は、表10〜12として含まれており、これらは、図3にプロットされている。
【0102】
【表10】

【0103】
【表11】

【0104】
【表12】

【0105】
(結論)
平衡調査のデータは、Na+ CMCとCa++ CMCの両者が、Cu+のイオン交換樹脂として機能することを示している。また、Na+ CMCがAg+のイオン交換樹脂として機能することも実証された。
【0106】
解離定数(図1〜3の線傾斜として示されている)の変化性を、その後の検査で調査する必要があり、CMC塩の粒径が、要因である可能性がある。
【0107】
[実施例4−CMCの銅塩を含む親水コロイド創傷ドレッシングの検査]
実施例1および2で得られたCMCの銅および銀塩を、親水コロイド創傷ドレッシングに組み込んでもよい。銅または銀で置換されていないCMCを有して作製された親水コロイド創傷ドレッシングが、制御として作製される。
【0108】
感染防止におけるCMCの銅塩を含む創傷ドレッシングの効能を、銀塩を含む創傷ドレッシングおよび抗感染剤を含まない標準的な創傷ドレッシングの抗感染効能と比較する。
【0109】
作製された親水コロイド創傷ドレッシングは、銅および銀イオンを模擬創傷流体に放出するその能力を評価され、イオンの供給における接着マトリックスの効能を確認し、商品向けの対象イオン濃度を決定する。
【0110】
抑制域検査を行い、いくつかの微生物菌株の成長における、変化する銅イオンの濃度の有効性を決定する。
【0111】
CMC−銅塩およびそれと調合された親水コロイドの皮膚感作性、皮膚刺激性、急性経口毒性、急性皮内反応性、および繊維芽細胞毒性を含む、動物検査を行う。これらの試験は、CMC銅塩およびそれと調合された親水コロイドが、良く許容されることを示すことが予期される。
【0112】
豚ベースの皮膚傷治癒調査を行い、親水コロイド創傷ドレッシングの効能を比較する。検査は、CMCの銅塩を含む創傷ドレッシングの強い抗感染活動を示す場合があり、これは、銀塩を含む抗感染創傷ドレッシングと同様またはわずかにより有効であること、および制御創傷ドレッシングの抗感染効能よりも優れていることが予期される。
【0113】
勿論、上記説明は単なる例として示され、本発明の範囲内で詳細な変更を行なってもよいことが理解される。
【0114】
本出願を通して、様々な特許および広報を引用した。これら特許および広報の開示は、本発明が属する最新の技術分野をより完全に説明するために、その全体を参考として本出願に組み込む。
【0115】
本発明は、本開示の利益を有する関連技術分野の当業者が容易に考えつくように、形態および機能における大幅な修正、変更、および均等物が可能である。
【0116】
本発明を、好適な実施形態であると現在考えられるものに関して説明した一方、本発明はそのように限定されない。反対に、本発明は、上述の詳細な説明の精神および範囲内に含まれる様々な修正および均等な構成を包含することを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換材料の銅塩を含む抗感染剤。
【請求項2】
前記イオン交換材料は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース(EC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、酢酸セルロース、および三酢酸セルロースからなる群から選択されたセルロース誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の抗感染剤。
【請求項3】
前記銅塩は、銅(I)および/または銅(II)イオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の抗感染剤。
【請求項4】
イオン交換材料の銅塩を含んだ抗感染剤を含むことを特徴とする創傷治療用物品。
【請求項5】
前記創傷治療用物品が、液体およびイオン源に接触すると、前記イオン交換材料と結合された銅イオンが、前記液体およびイオン源内のイオンと交換されることを特徴とする請求項4に記載の創傷治療用物品。
【請求項6】
前記液体源において、銅イオンの平衡が確立されることを特徴とする請求項5に記載の創傷治療用物品。
【請求項7】
細菌を殺すために有効なレベルで、前記銅イオンの平衡が確立されることを特徴とする請求項6に記載の創傷治療用物品。
【請求項8】
前記物品は、創傷ドレッシング、ガーゼ、包帯、クリーム、ゲル、ハイドロゲル、および軟膏からなる群から選択された形態で提供されることを特徴とする請求項4に記載の創傷治療用物品。
【請求項9】
抗感染創傷ケア用物品を作製する方法であって、
セルロース誘導体イオン交換材料を準備するステップと、
1つまたは複数の銅塩の溶液を準備するステップと、
前記セルロース誘導体イオン交換材料を、結合された銅イオンを有するセルロース誘導体イオン交換材料を形成するのに十分な時間にわたって、1つまたは複数の銅塩の前記溶液に浸すステップと、
前記セルロース誘導体イオン交換材料と結合されなかった銅塩を取り除くステップと、
結合された銅イオンを有する前記セルロース誘導体イオン交換材料を、創傷ケア用物品に組み込むステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
傷口において抗感染剤を提供する方法であって、
実施形態9の方法を用いて、抗感染創傷ケア用物品を形成するステップと、
前記抗感染創傷ケア用物品を、傷口に当てるステップと、
前記傷口からの液体を、前記抗感染創傷ケア用物品と接触させて、セルロース誘導体と結合された銅イオンを、前記傷口からの液体に含まれるイオンと交換させるステップと、を含み、
前記傷口からの流体中の銅イオンと、セルロース誘導体イオン交換材料と結合した銅イオンとの間に、平衡が得られることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項4の創傷治療用物品を、感染した傷に当てるステップを含むことを特徴とする感染症の治療方法。
【請求項12】
前記感染した傷は、手術創傷、裂傷、擦過傷、熱傷、皮膚潰瘍、傷ドレーン、カテーテル部位、およびオストミー部位からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
傷における感染症の発生の減少における創傷治療用物品の効能を評価する方法であって、
結合された銅イオンを有するセルロース誘導体イオン交換材料を含む創傷治療用物品を、傷に当てるステップと、
結合された銅イオンを有していないセルロース誘導体イオン交換材料を含む創傷治療用物品を、傷に当てるステップと、
結合された銅イオンを有するセルロース誘導体イオン交換材料を有する前記創傷治療用物品を当てた前記傷における感染率を、結合された銅イオンを有するセルロース誘導体イオン交換材料を含まない前記創傷治療用物品を当てた前記傷における感染率と比較するステップと、を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518809(P2013−518809A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538026(P2012−538026)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/055599
【国際公開番号】WO2011/057060
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510003324)ケアフュージョン2200、インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】