説明

感染症媒介蚊防除用蚊取線香

【課題】メトフルトリンを含有する蚊取線香であって、ネッタイシマカやネッタイイエカ等の感染症媒介蚊に卓効を示し、かつ安価に製造でき、しかも人畜に対する安全性に優れた感染症媒介蚊防除用蚊取線香を提供。
【解決手段】有効成分として、メトフルトリン[4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)−シクロプロパンカルボキシレート]を0.005〜0.03質量%含有し、しかも、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを0.08〜0.5質量%含有し、かつ効力増強剤の含有量が有効成分の含有量に比し、8倍量以上とすることによって、前記課題を達成し得る感染症媒介蚊防除用蚊取線香。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症媒介蚊防除用蚊取線香に関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界には多種の蚊が生息し、人を刺咬・吸血するだけでなく、感染症を媒介して重大な被害をもたらす。例えば、いくつかの感染症とこれを媒介する蚊の種類について、下記の関連性が知られている。
・マラリア:ハマダラカ類(Anopheles dirus, A. minimus, A. gambiae, A. sinensis)、
・デング熱:ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、
・黄熱病:ネッタイシマカ、
・フィラリア症:ネッタイイエカ、アカイエカ、チカイエカ、
・日本脳炎:コガタアカイエカ、
・ウエストナイル熱:イエカ、ヤブカなど30〜40種、
・チクングンヤ:ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ。
これらの感染症から身を守る方法は、適当なワクチンがない今日、蚊に刺されないことが第一で、特に開放的な住居では蚊取線香の使用が最適である。蚊帳にピレスロイドを含浸させたものも使用されているが、就寝中しか使えないこと、蚊帳の中は暑苦しいことなど、使用性に問題が多い。
かかる現状において、ネッタイシマカやネッタイイエカ等に卓効を示し、かつ製造コストが安価な蚊取線香を供給することは、特に東南アジアやアフリカ等の熱帯地域住民を感染症の被害から守っていくうえで極めて効果的な対策手段である。
【0003】
これまで蚊取線香の有効成分としては、ピレスロイド系殺虫成分のアレスリン類が世界的に使用されてきたが、最近、東南アジア地域において一部ではあるが、主要種のネッタイイエカ類に対するアレスリン類の効き目が落ちているという報告があり、その対応に関心が寄せられている。
近年、新しい殺虫成分の開発も進められ、例えば、文献[Biosci. Biotechnol. Biochem., 68(1) 170, 2004](非特許文献1)によれば、新規ピレスロイド系殺虫成分のメトフルトリン[4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシラート]を含有する蚊取線香がネッタイイエカやアカイエカに対して、d−アレスリンの1/40〜1/20の濃度で、d−アレスリン蚊取線香とほぼ同等のノックダウン効果を示したことが報告されている。しかしながら、メトフルトリンは、合成が複雑で製造コストも高く、d−アレスリン蚊取線香よりも数倍殺虫効力の高い蚊取線香を得ようとすると、安価に供給できないという難点を有している。
【0004】
本発明者らは、先に、蚊取線香の有効成分として、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレートに着目し、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド[以降、効力増強剤Aと称す]を、その有効成分量に対して0.1倍量以上、好ましくは2.0〜5.0倍量配合することによって、ネッタイシマカやネッタイイエカ等に卓効を示し、感染症媒介蚊防除用蚊取線香極めて有用であることを開示した(特許文献1)。
更に、本発明者らは、有効成分として(S)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル (1R)−トランス−クリサンテマートを用い、その有効成分量に対して効力増強剤Aを1.0〜5.0倍量配合した蚊取線香が、同様にネッタイシマカやネッタイイエカ等に極めて有効であることを知見し、特許を取得した(特許文献2)。
【0005】
本発明者らは、特許文献1や特許文献2で得られた知見を、前述の新規ピレスロイド系殺虫成分メトフルトリンに適用することを試み、メトフルトリンの実用濃度に対して効力増強剤Aを1.0〜5.0倍量配合した蚊取線香を調製し、ネッタイシマカやネッタイイエカに対する殺虫効力を調べたが、予想に反して満足のいく殺虫効力が得られなかった。
このような状況は、ピレスロイドによる有効成分の化学構造が類似関係にあるとしても、決して効力増強剤Aの配合によって得られる殺虫効果を相互に類推することは不可能であって、特許文献1及び同2に基づく知見は、決してメトフルトリンに妥当する訳ではないことを示している。
のみならず、一般的に効力増強剤Aを特許文献1及び同2の有効成分と類推する化学構造を有する他のピレスロイドに適用しても、決して定性的又は定量的に同じような作用効果が得られる訳ではないことは、各実施例に対応する比較実験例において後述するとおりである。
【特許文献1】特許第3926836号公報
【特許文献2】特許第4127721号公報
【非特許文献1】Biosci. Biotechnol. Biochem., 68(1) 170, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、メトフルトリンを含有する蚊取線香であって、ネッタイシマカやネッタイイエカ等の感染症媒介蚊に卓効を示し、かつ安価に製造でき、しかも人畜に対する安全性に優れた感染症媒介蚊防除用蚊取線香を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、次のような構成を採用する。
(1)有効成分として、メトフルトリン[4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)−シクロプロパンカルボキシレート]を0.005〜0.03質量%含有し、しかも、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを0.08〜0.5質量%含有し、かつ効力増強剤の含有量が有効成分の含有量に比し、8倍量以上であることを特徴とする感染症媒介蚊防除用蚊取線香。
(2)メトフルトリンの含有量が、0.01〜0.02質量%である(1)記載の感染症媒介蚊防除用蚊取線香。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香は、メトフルトリンと前記効力増強剤Aとの相乗効果に基づき、ネッタイシマカやネッタイイエカ等の感染症媒介蚊に卓効を示し、かつ安価に製造でき、しかも人畜に対する安全性に優れているので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香で使用される有効成分は、メトフルトリン[4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)−シクロプロパンカルボキシレート]である。
この化合物は既に公知であり、当該シクロプロパンカルボン酸、又はその反応性誘導体と、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール、又はその反応性誘導体とを反応させることによって調製しえる。
カルボン酸の反応性誘導体としては、例えば酸ハライド、酸無水物、カルボン酸低級アルキルエステル、アルカリ金属塩、あるいは有機第3級塩基との塩があげられる。一方、アルコールの反応性誘導体としては、例えばクロライド、ブロマイド、p−トルエンスルホン酸エステル等があげられる。反応は適当な溶媒中で必要により脱酸剤又は触媒としての有機又は無機塩基又は酸の存在下に必要により加熱下に行われる。
【0010】
メトフルトリンは、常温で液状を呈し有機溶剤に一般に容易に溶解するが、当該有機溶剤に溶解したメトフルトリンと木粉等の蚊取線香基材と混合して本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香を構成する。
蚊取線香中の有効成分含量は、各種感染症媒介蚊に対する殺虫効力ならびに経済性等を考慮して0.005〜0.03質量%、好ましくは0.01〜0.02質量%に設定される。
【0011】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香は、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(効力増強剤A)を、0.08〜0.5質量%含有し、かつ効力増強剤の含有量が有効成分の含有量に比し、8倍量以上であることを特徴とする。
【0012】
従来、種々製剤において、ピペロニルブトキサイド、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(効力増強剤A)、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ[2,2,2]−オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、オクタクロロジプロピルエーテルなどのピレスロイド用共力剤を混用することがしばしば行われてきた。
すなわち、上記ピレスロイド用共力剤は、例えば液剤や粉剤等に用いた場合、それ自体では生物活性を示さないが、ピレスロイドと混用した場合、ピレスロイドの効力を増強することが知られている。共力剤のメカニズムについては多くの報告があり、例えば、昆虫体内で自らが代謝分解を受けてピレスロイドの酸化的解毒代謝を阻害したり、あるいはピレスロイドの皮膚への浸透を促進し、神経系作用点への到達を容易にすることによって、ピレスロイドの殺虫効力を高めることなどが知られている。しかしながら、かかる共力剤の作用機構は当然のことながら昆虫の種類に大きく依存し、共力剤による共力効果は通常10〜20%程度にとどまるのが一般的である。
【0013】
これに対し、本発明者らは、特許文献1や特許文献2で開示したように、蚊取線香の有効成分として、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート、及び(S)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル (1R)−トランス−クリサンテマートを用い、これらに効力増強剤Aをその有効成分量に対して数倍〜5.0倍量配合することによって、ネッタイシマカやネッタイイエカ等に卓効を示すことを見出した。この事実は、従来ピレスロイド製剤に使用されている共力剤のメカニズム、即ち上述した昆虫生理学的機構だけでは説明できず、別の原因として、ある物質が有効成分の揮散率上昇に寄与し有効成分の気中濃度を高めたことや、揮散した有効成分の拡散をある物質が助長したことなど、物理的な作用も貢献しているものと考えられた。
【0014】
次に、本発明者らは、特許文献1や特許文献2で得られた知見を、前述の新規ピレスロイド系殺虫成分メトフルトリンに適用することを試み、メトフルトリンの実用濃度に対して効力増強剤Aを1.0〜5.0倍量配合した蚊取線香を調製し、ネッタイシマカやネッタイイエカに対する殺虫効力を調べたが、予想に反して満足のいく殺虫効力を得ることができなかった。
【0015】
そこで、本発明者らは、有効成分がメトフルトリンの場合、効力増強剤Aの必要量についてはメトフルトリンとの量的比率だけではなく、その絶対量も重要であると考え、0.08〜0.5質量%で、かつ、メトフルトリンに対して8倍量以上に設定し、種々鋭意試験を実施した。
その結果、メトフルトリンと効力増強剤Aの組み合わせは、特許文献1や特許文献2とは異なる配合範囲で顕著な効力増強効果を示すことが明らかとなり、本発明を完成するに至った。尚、効力増強剤Aにはその立体構造に基づくExo型とEndo型が存在するが、Exo型比率が30%以上で、Endo型比率が70%以下であるものが効力増強効果の点でより好適である。
【0016】
本発明の実施形態として、効力増強剤の補助剤として、効力増強剤Aに加えて更にアルキルベンゼンスルホン酸の低級アルキルアミン塩を配合してもよい。ここで、アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基はC8〜C14程度、一方、アルキルアミン塩の低級アルキル基はC〜C4程度がよく、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸イソプロピルアミン塩やドデシルベンゼンスルホン酸エチルアミン塩を代表例としてあげることができる。
アルキルベンゼンスルホン酸の低級アルキルアミン塩の効力増強剤Aに対する比率は、0.2〜1.0倍量の範囲が適当である。
【0017】
蚊取線香基材としては、支燃剤や粘結剤があり、前者には、木粉、除虫菊抽出粕粉、柑橘類の表皮粉、ココナッツシェル粉末等の植物性粉末や、木炭粉、素灰等の炭素粉末があげられる。また、後者の粘結剤としては、タブ粉、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を例示できる。
【0018】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香には、必要により、色素、防腐剤、安定剤等が含有されてもよい。色素としては、例えばマラカイトグリーン等の有機染料があげられ、防腐剤としては、例えばソルビン酸、デヒドロ酢酸、p−ヒドロキシ安息香酸等の酸、あるいはそれらの塩等が代表的である。また、安定剤としては、2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール(BHT)や2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリーブチルフェノール)等があげられるがこれらに限定されない。
【0019】
更に、本発明の趣旨を妨げない限りにおいて、他の殺虫、防虫成分、例えばピレトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート等の従来のピレスロイド系殺虫剤、殺菌剤、抗菌剤、忌避剤、あるいは芳香剤、消臭剤等を混合し、効力のすぐれた多目的組成物を得ることもできる。
【0020】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香を調製するにあたっては、何ら特別の技術を必要とせず、公知の製造方法を採用できる。例えば、プレミックス粉(有効成分や効力増強剤等を支燃剤の一部に含有させたもの)と残部の蚊取線香基材を混合したものに水を加えて混練し、続いて、押出機、打抜機によって成型後、乾燥して蚊取線香を製すればよい。また、蚊取線香基材のみを用いて成型後、これに有効成分等を含む液剤をスプレーあるいは塗布するようにしても構わない。
【0021】
本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香は、ネッタイシマカ、ネッタイイエカ、ハマダラカ類、ヒトスジシマカ、アカイエカ等の感染症媒介蚊類に特異的に卓効を示すが、もちろん、他種の蚊やハエ、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等の衛生害虫等の種々の害虫にも有効であり、その実用性は極めて高い。
【0022】
次に、各実施例に基づいて本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香の具体的意義を明らかにすると共に、比較実験例によって本発明の技術的な位置付けを明らかにする。
【実施例1】
【0023】
メトフルトリン(0.015部)及び効力増強剤A(0.2部)を、除虫菊抽出粕粉、木粉、澱粉等の蚊取線香基材99.785部に均一に混合後、色素と防腐剤を含む水を加え、公知の方法によって本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香を得た。
【実施例2】
【0024】
メトフルトリン(0.02部)、効力増強剤A(0.16部)、ドデシルベンゼンスルホン酸イソプロピルアミン塩0.08部、及び2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール0.1部を、ココナッツシェル粉末、木粉、タブ粉、澱粉等の蚊取線香基材99.64部に均一に混合後、防腐剤を含む水を加え、公知の方法によって本発明の感染症媒介蚊防除用蚊取線香を得た。
【実施例3】
【0025】
[25m3の部屋におけるd−アレスリンとの対比実地効力試験]
タイ国のデング熱が発症した各地からネッタイシマカを採集し、累代飼育後実地効力試験に供した。閉めきった25m3の部屋に供試ネッタイシマカの雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試蚊取線香(実施例1に準じて調製)を置いた。2時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したネッタイシマカ雌成虫を数え、KT50値を求めたところ表1のとおりであった。
【0026】
【表1】

・P地区: Uttaradit 地区
・Q地区: Songkla 地区
【0027】
試験の結果、メトフルトリンを0.005〜0.03質量%含有し、しかも、効力増強剤Aを0.08〜0.5質量%で、かつ、有効成分量に対して8倍量以上配合した本発明の蚊取線香は、同濃度のメトフルトリン単独線香に較べて、KT50値の指標で示されるノックダウン効果が約1.5倍以上増強した(この点は、例えばメトフルトリン0.02質量%の場合において、効力増強剤Aを配合していない場合と、8倍量配合していない場合とのKT50値が113/77≒1.5であることからも明らかである。)。特に、ピレスロイド系殺虫成分に対する感受性が低下し、d−アレスリン0.5%線香では全く効果が認められないP地区採集コロニーやBSコロニーに対しては、本発明の蚊取線香のみ、KT50値が100分以下の実用的なノックダウン効果を示し、感染症媒介蚊のネッタイシマカ防除に極めて有効であることが認められた。
また、効力増強剤Aのメトフルトリンに対する配合量が2〜4倍量の線香は、同濃度のメトフルトリン単独線香に較べて効力増強効果が乏しく、有効成分が4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレートの特許文献1や、有効成分が(S)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル (1R)−トランス−クリサンテマートの特許文献2のケースと全く異なる傾向を示した。
【実施例4】
【0028】
[25m3の部屋における他のピレスロイドとの対比実地効力試験]
有効成分として、メトフルトリン及び、アルコール部分が共にベンジル誘導体であるトランスフルトリン[2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)−シクロプロパンカルボキシレート]、ペルメトリン[3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)−シクロプロパンカルボキシレート]、及びフェノトリン[3−フェノキシベンジル 2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)−シクロプロパンカルボキシレート]、を含有する蚊取線香を調製し、ネッタイシマカの替わりにアカイエカを用いて実施例3と同様の実験を行った。即ち、閉めきった25m3の部屋に供試アカイエカの雌成虫100匹を放った後、部屋の中央に点火した供試蚊取線香を置いた。2時間暴露させ、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めたところ表2のとおりであった。
【0029】
【表2】

【0030】
試験の結果、有効成分がメトフルトリンの場合、実施例3のネッタイシマカと同様、アカイエカについても、効力増強剤Aを有効成分に対して8倍量配合することによってKT50値及び致死率の双方において明らかな効力増強効果が認められた。一方、トランスフルトリン、ペルメトリンやフェノトリンの場合、効力増強剤Aの配合量を2倍もしくは8倍にしても、効力増強効果は全く認められなかった。前記実験はアカイエカについて実施したが、実施例3の結果をも考慮するならば、効力増強剤Aの効果はネッタイシマカやネッタイイエカなどの他の感染症媒介蚊にも共通することが確認された。そして、効力増強剤Aの配合による効果は、決して化学構造式の共通性から類推し得る訳ではなく、メトフルトリンと効力増強剤Aとの組合せに着目した技術的価値、更には有用性が裏付けられることになる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、蚊取線香、特に感染症媒介蚊防除用蚊取線香の製造販売分野において、須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、メトフルトリン[4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)−シクロプロパンカルボキシレート]を0.005〜0.03質量%含有し、しかも、効力増強剤として、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドを0.08〜0.5質量%含有し、かつ効力増強剤の含有量が有効成分の含有量に比し、8倍量以上であることを特徴とする感染症媒介蚊防除用蚊取線香。
【請求項2】
メトフルトリンの含有量が、0.01〜0.02質量%であることを特徴とする請求項1記載の感染症媒介蚊防除用蚊取線香。

【公開番号】特開2010−100603(P2010−100603A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320346(P2008−320346)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】