説明

感熱孔版印刷装置

【課題】サーマルヘッド温度やインキ温度などに左右されること無く、常時安定した印刷画像を得ることが可能で、全ての環境において好適な印刷物を提供することができる感熱孔版印刷装置を実現する。
【解決手段】本発明の印刷装置では、少なくともサーマルヘッド10の温度情報を検出する検出手段41を備え、複数の温度情報をもとにサーマルヘッド10への投入エネルギーの変化量を適応的に変化させて製版を行う。そして或る温度情報の場合のサーマルヘッド10への投入エネルギー変化量は、温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きくなるように設定する。これにより高温〜低温のいかなる環境下でも印刷用紙上へ適正な量のインキを供給することが可能となり、裏移りや印刷用紙の巻き上がり等の問題を解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱孔版印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔性の支持円筒体である多孔性支持板の周面に樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンを複数層巻装した構成の回転自在な印刷ドラム(版胴とも言う)を備え、熱可塑性樹脂フィルムと、和紙繊維または合成繊維あるいは和紙と合成繊維を混抄したもの等からなる多孔質支持体とを貼り合わせてなるラミネート構造の感熱性孔版印刷原紙を用いて、該感熱性孔版印刷原紙の熱可塑性樹脂フィルム面をサーマルヘッドの発熱体(または発熱抵抗体)に接触させて加熱穿孔製版した後に、製版済みの感熱性孔版印刷原紙(以下、マスタと言う)を前記印刷ドラムの外周面に巻装し、印刷ドラム内部に設けられたインキ供給手段により印刷ドラムの開口部を介して印刷ドラム上のマスタにインキを供給した後、給紙部から印刷ドラムに向けて給紙された印刷用紙を、プレスローラや圧胴等の押圧手段で印刷ドラム上のマスタに対して相対的に押圧することにより、マスタ穿孔部よりインキを滲出させて印刷用紙に転写させることで印刷画像を形成するデジタル式の感熱孔版印刷装置が知られている。
【0003】
このようなデジタル式の感熱孔版印刷装置では、一般にスキャナー等によって読み込まれた画像データ信号を基に、製版部のプロッタユニット内に配置されたサーマルヘッドの画像データに対応する所定の発熱体(または発熱抵抗体)が発熱することにより、プラテンローラとサーマルヘッドに挟まれた感熱性孔版印刷原紙に具備された熱可塑性樹脂を溶融穿孔させる。この時、サーマルヘッドへ印加するエネルギーは、環境温度、主走査方向の印字率、隣接ドットの発熱状況などに応じて、最適な穿孔状態となるように通電パルス時間を可変することや、印加電圧を可変することで調整されている。
【0004】
また、上記の制御に加え、特許文献1(特許第2756219号公報)では、インキの温度変化による粘性の変化を考慮してインキの温度に応じて穿孔用エネルギーを調整することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2756219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1には、インキの温度変化による粘性の変化を考慮してインキの温度に応じて穿孔用エネルギーを調整することが記載されているが、具体的な制御方法については述べられていなかったため、穿孔用エネルギーの調整を検出温度情報に対して比例的に行おうとしたとき、インキの粘性が高い低温時に対応した穿孔状態とした場合に、高温時にインキの通過性が良くなりすぎ、過剰なインキが紙へ転移されて裏移りや巻き上がりや、印刷用紙の波うちによる排紙揃えの劣化を引き起こしてしまったり、また、逆に高温時のインキの粘性に合わせた穿孔状態とした場合には、低温時にインキの転移不足によるベタ埋まりの劣化を引き起こしてしまうような問題点はある程度解消されるものの、上記の比例的な穿孔用エネルギーの調整だけでは、調整不足もしくは調整過多になる領域が出てしまうことが多かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、サーマルヘッド温度やインキ温度などに左右されること無く、常時安定した印刷画像を得ることが可能で、ユーザーに対して全ての環境において好適な印刷物を提供することができる感熱孔版印刷装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では以下のような技術的手段を採っている。
本発明の第1の手段は、サーマルヘッドにより感熱性孔版印刷原紙に穿孔を施して製版する製版手段と、インキが滲出する開口部を有する回転自在な印刷ドラムと、該印刷ドラムの内周面にインキを供給するインキ供給手段と、前記印刷ドラムの外周面に対して接離自在に設けられた押圧手段と、前記印刷ドラムと前記押圧手段との間の印刷部に印刷用紙を給紙する給紙手段とを備え、前記製版手段で前記感熱性孔版印刷原紙に穿孔を施して製版し、該製版済みの感熱性孔版原紙(以下、マスタと言う)を前記印刷ドラムの外周面に巻装した後、前記インキ供給手段で前記印刷ドラムの開口部を介して前記マスタにインキを供給し、前記給紙手段により前記印刷部に印刷用紙を給紙して該印刷用紙を前記押圧手段により前記印刷ドラムに対して相対的に押し付けることにより、前記マスタの穿孔部から滲出したインキを前記印刷用紙に転写させて該印刷用紙上に印刷画像を形成する感熱孔版印刷装置において、少なくとも前記サーマルヘッドの温度情報を検出する検出手段を備え、複数の温度情報をもとに前記サーマルヘッドへの投入エネルギーの変化量を適応的に変化させて製版を行うことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
本発明の第2の手段は、第1の手段の感熱孔版印刷装置において、或る温度情報の場合の前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量は、前記温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きいことを特徴とする(請求項2)。
また、本発明の第3の手段は、第1または第2の手段の感熱孔版印刷装置において、前記インキの温度情報を検出する検出手段を備え、前記サーマルヘッドへ投入するエネルギーは、該サーマルヘッドの温度情報と、前記インキの温度情報により決定されることを特徴とする(請求項3)。
【0010】
本発明の第4の手段は、第1乃至第3のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、使用するマスタやインキなどのメディアの情報を少なくとも一つ記憶する手段を備えたことを特徴とする(請求項4)。
また、本発明の第5の手段は、第1乃至第4のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ設定できることを特徴とする(請求項5)。
【0011】
本発明の第6の手段は、第1乃至第4のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ自動的に検知できることを特徴とする(請求項6)。
また、本発明の第7の手段は、第1乃至第6のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が自動的に設定されることを特徴とする(請求項7)。
【0012】
本発明の第8の手段は、第1乃至第3のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、各温度条件下でのサーマルヘッドへ印加するエネルギーを結んだ結果が、使用可能温度条件範囲の中で変化点を持つ直線で表され、その変化点を境に直線の勾配が変化することを特徴とする(請求項8)。
【0013】
本発明の第9の手段は、第8の手段の感熱孔版印刷装置において、前記温度情報に基づいて決定される、或る任意の温度tでのエネルギーEtは、
h<tのとき、
Et=K×t+S+α(t−h) [1]
h≧tのとき、
Et=K×t+S [2]
(但し、α:エネルギーダウン係数
h:変化点温度
t:任意の温度
K:変化点温度までのエネルギー勾配
S:式[2]において、t=0のときの値)
によって決定されることを特徴とする(請求項9)。
【0014】
本発明の第10の手段は、第1乃至第9のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、前記温度情報に基づいて決定される投入エネルギーの各温度間の変化量が変わる、制御量変化点を設定できることを特徴とする(請求項10)。
また、第11の手段は、第1乃至第10のいずれか一つの手段の感熱孔版印刷装置において、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が任意に設定されることを特徴とする(請求項11)。
【発明の効果】
【0015】
第1の手段の感熱孔版印刷装置では、検出された温度情報に応じてサーマルヘッドの発熱抵抗体へ投入(印加)するエネルギーを可変することにより、マスタの穿孔の大きさを制御でき、高温、常温、低温等のいかなる環境下でも印刷用紙上へ適正な量のインキを供給することが可能となるので、インキ温度が高温で粘性が低い時においても過剰なインキが供給されず、裏移りや印刷用紙の巻き上がりを抑制し、排紙揃えを向上させることができる。
【0016】
第2の手段の感熱孔版印刷装置では、第1の手段の構成および効果に加え、或る温度情報の場合のサーマルヘッドへの投入エネルギー変化量は、温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きいことにより、インキ温度が低温で粘性が高い時においても十分なインキ転移量を得ることができ、ベタ埋まりを劣化させることがなくなり、全ての環境下においても良好な印刷画像を得ることが可能となる。
【0017】
第3の手段の感熱孔版印刷装置では、第1または第2の手段の構成および効果に加え、サーマルヘッドとインキの温度からサーマルヘッドへ投入するエネルギーを決定する構成にしているので、インキ温度の変化に伴う印刷用紙へのインキ転移量の変動を抑制することができるようになるので、全ての環境下において好適な印刷画像を得ることが可能となる。
【0018】
第4の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第3のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、使用するマスタやインキなどのメディアの情報を少なくとも一つ記憶する手段を備えたことにより、使用するメディアに応じたエネルギー条件を導き出すことが可能となる。
【0019】
第5の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第4のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ設定できるような構成にしているので、特注インキや特注マスタなどを使用する場合においても適正なエネルギー量となるように制御することが可能となる。
【0020】
第6の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第4のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ自動的に検知できる構成にしているので、ユーザーにとっては一々設定する煩わしさが無くなり、また、間違いなく適正なエネルギー量となるように制御することが可能となる。さらに、ローカルエリアネットワーク(LAN)などで接続され、遠隔地に設置されている場合にも、一々設置場所まで確認のために出向く必要が無くなる。また、確認時には認識用のICタグなどが必要であったが、それも不要となる。

【0021】
本発明の第7の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第6のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が自動的に設定されるので、いかなる温度や、メディアの種類においても適正な投入エネルギーが選択されることになる。
【0022】
第8、第9の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第3のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、各温度条件下でのサーマルヘッドへ印加するエネルギーを結んだ結果が、使用可能温度条件範囲の中で変化点を持つ直線で表され、その変化点を境に直線の勾配が変化することを特徴とし、前記温度情報に基づいて決定される、或る任意の温度tでのエネルギーEtは、前記の式[1]または式[2]によって決定されるので、使用するマスタやインキなどのメディアの情報を考慮した形で、適正な投入エネルギーが設定できる上、簡易にエネルギーを設定できるようになるので、色々なエネルギーを可変させるパラメータの変化に対し、容易にエネルギーを変更できるようにすることが可能となる。
【0023】
第10の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第9のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、温度情報に基づいて決定される投入エネルギーの各温度間の変化量が変わる、制御量変化点を設定できる構成にしたので、使用するマスタやインキなどのメディアの情報や、顧客の要望に応じて多種多様のエネルギーを設定することができ、多様なエネルギー条件へも対応した製版システムを容易に提供することができるようになる。
【0024】
第11の手段の感熱孔版印刷装置では、第1乃至第10のいずれか一つの手段の構成および効果に加え、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が任意に設定されるようにしているので、紙質や顧客の要望などに合わせたエネルギーの変更など、細かな変更が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の構成、動作および作用を、図面を参照して詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態であるデジタル式の感熱孔版印刷装置(以下、印刷装置と言う)の全体構成とその動作について説明する。
図1において、符号50は、印刷装置の骨組みをなす装置本体フレームを示している。この装置本体フレーム50の上部にある符号80で示す部分は原稿読取装置を構成し、その下方の符号1で示す部分は装置本体フレーム50内に装備されサーマルヘッドにより感熱性孔版印刷原紙(マスタ)に穿孔を施して製版する製版手段である製版装置、その左側に符号100で示す部分は多孔性の版胴とも呼ばれる印刷ドラム101が配置された印刷ドラム装置、その左の符号70で示す部分は使用済みのマスタを排版する排版装置、製版装置1の下方の符号110で示す部分は印刷用紙の給紙手段である給紙装置、印刷ドラム101の下方の符号120で示す部分は押圧手段であるプレスローラ103により印刷用紙を印刷ドラム101上のマスタに押し付けてマスタから印刷用紙にインキを転写して印刷する印刷部、装置本体フレーム50の左下方の符号130で示す部分は印刷後の印刷用紙を排紙する排紙装置をそれぞれ示している。
【0026】
この印刷装置の全体構成および基本的な動作について、図1に示す印刷装置の全体構成、図2に示す制御系のブロック図、および図3に示す操作パネル90を参照して以下に説明する。なお、図2に示すブロック図は、主に画像読取部と製版部の制御系を示したものであり、印刷部、給紙部、排紙部、排版部等の制御系の図示は省略している。
【0027】
先ず、原稿読取装置80の上部に配置された原稿載置台(図示せず)に、印刷すべき画像をもった原稿60を載置し、操作パネル90の製版スタートキー91を押す。この製版スタートキー91の押下に伴い、先ず排版工程が実行される。すなわち、この状態においては、印刷ドラム装置100の印刷ドラム101の外周面に前回の印刷で使用された使用済みのマスタ12が装着されたまま残っている。
【0028】
印刷ドラム101が反時計回り方向に回転し、印刷ドラム101外周面の使用済みのマスタ12の後端部が排版装置70における排版剥離ローラ対71a,71bに近づくと、同ローラ対71a,71bは回転しつつ一方の排版剥離ローラ71bで使用済みのマスタ12の後端部をすくい上げ、排版剥離ローラ対71a,71bの左方に配設された排版コロ対73a,73bと排版剥離ローラ対71a,71bとの間に掛け渡された排版搬送ベルト対72a,72bで矢印Y1方向へ搬送されつつ排版ボックス74内へ排出され、使用済みのマスタ12が印刷ドラム101の外周面から引き剥がされ排版工程が終了する。この時、印刷ドラム101は反時計回り方向への回転を続けている。剥離排出された使用済みのマスタ12は、その後、圧縮板75により排版ボックス74の内部で圧縮される。
【0029】
排版工程と並行して、原稿読取装置80では原稿読み取りが行われる。すなわち、図示しない原稿載置台に載置された原稿60は、図示しない駆動伝達手段を介して原稿搬送ローラ用モータ89で駆動される分離・搬送ローラ81、前原稿搬送ローラ対82a,82bおよび後原稿搬送ローラ対83a,83bのそれぞれの回転により矢印Y2からY3方向に搬送されつつ露光読み取りに供される。このときの原稿搬送ローラ用モータ89の駆動は原稿搬送ローラ用モータ駆動回路31で制御され、速度設定等は制御部2によって設定される。また、原稿載置台に載置された原稿60が多数枚あるときは、分離ブレード84の作用でその最下部の原稿のみが搬送される。原稿60の画像読み取りは、コンタクトガラス85上を搬送されつつ、蛍光灯86により照明された原稿60の表面からの反射光を、ミラー87で反射させレンズ88を通して、電荷結合素子(CCD)等の光電変換素子からなる画像センサ5に入射させることにより行われる。その画像が読み取られた原稿60は原稿トレイ80A上に排出される。
【0030】
原稿60の光学情報は画像センサ5で光電変換され、そのアナログの電気信号はアナログ/デジタル(A/D)変換部6に入力されデジタルの画像信号に変換される。このデジタルの画像信号は画像処理部7で画像処理を施されて画像データとして一旦画像メモリに蓄積され、こうして得られた画像データは、マイクロコンピュータからなる制御部2の指令によりサーマルヘッド駆動回路33に入力される。また、サーマルヘッド駆動回路33は、制御部2により設定された印加エネルギーデータと、画像処理部7から入力された画像データに応じてサーマルヘッド10を駆動する。
なお、画像処理部7を介してサーマルヘッド駆動回路33に入力される画像信号は、CCDからなる画像センサ5で読み取ったものに限らず、その他の画像センサで読み取ったものや、あるいは装置外部のパーソナルコンピュータ等から送信される画像信号であっても構わない。
【0031】
一方、この画像読み取り動作と並行して、デジタル信号化された画像情報(画像データ信号)に基づき製版および給版工程が行われる。すなわち、製版前のマスタ(感熱性孔版印刷原紙)12は、製版装置1の所定部位にマスタ12を繰り出し可能にセットされ、芯管12aの周りにロール状に巻かれて形成されたマスタロール12Aから引き出され、サーマルヘッド10にマスタ12を介して押圧しているプラテンローラ14、および一対のテンションローラ15a,15bの回転によりマスタ搬送方向である副走査方向Yの下流側に搬送される。このように搬送されるマスタ12に対して、サーマルヘッド10における副走査方向Yと直交する主走査方向にライン状に並んだ複数(多数)個の微小な発熱体(または発熱抵抗体)9が、サーマルヘッド駆動回路33から送られてくるデータ信号に応じて各々選択的に発熱し、発熱した発熱体9に保護膜層(図示せず)を介して接触しているマスタ12の熱可塑性樹脂フィルム部分が加熱溶融穿孔される。このように、画像データに応じたマスタ12の位置選択的な溶融穿孔により、画像データに応じた穿孔パターンがマスタ12に書き込まれる。
【0032】
プラテンローラ14は、タイミングベルトおよびギヤ等の回転伝達部材(図示せず)を介してマスタ送り用モータ11に連結されていて、マスタ送り用モータ11により回転される。マスタ送り用モータ11は、例えばステッピングモータ等からなり、マスタ送りモータ駆動回路32によりその駆動が制御されている。マスタ送り用モータ11の回転駆動力は、ギヤ等の回転伝達部材(図示せず)を介して、テンションローラ対15a,15bおよび電磁クラッチ(図示せず)を介して上下一対の搬送ローラ17a,17bに伝達されるようになっている。
【0033】
画像情報が書き込まれた製版済みのマスタ12の先端は、ガイド板16上を案内されつつ搬送ローラ対17a,17bにより印刷ドラム101の外周部側へ向かって送り出され、給版ガイド板18により進行方向を下方へ変えられ、図示する給版位置状態にある印刷ドラム101の拡開したマスタクランパ102(二点鎖線で示す)へ向かって垂れ下がる。このとき印刷ドラム101は、排版工程により使用済みのマスタ12を既に除去されている。
そして、製版済みのマスタ12の先端が、一定のタイミングでマスタクランパ102によりクランプされると、印刷ドラム101は図中A方向(時計回り方向)に回転しつつ外周面に製版済みのマスタ12を徐々に巻き付けていく。製版済みのマスタ12の後端部はカッタ13により一定の長さに切断される。
【0034】
1版分の製版済みのマスタ12が印刷ドラム101の外周面に巻装されると製版および給版工程が終了し、印刷工程が開始される。先ず、給紙台51上に積載された印刷用紙62のうちの最上位の1枚が、給紙コロ111および分離コロ対112a,112bによりレジストローラ対113a,113bに向けて矢印Y4方向に送り出され、さらにレジストローラ対113a,113bにより印刷ドラム101の回転と同期した所定のタイミングで印刷部120に送られる。送り出された印刷用紙62が、印刷ドラム101と押圧手段であるプレスローラ103との間にくると、印刷ドラム101の外周面下方に離間していたプレスローラ103が図示しない接離手段で上方に移動されることにより、印刷ドラム101の外周面に巻装された製版済みのマスタ12に押圧される。こうして、印刷ドラム101の多孔部および製版済みのマスタ12の穿孔パターン部(共に図示せず)からインキが滲み出し、この滲み出たインキが印刷用紙62の表面に転移されて、印刷画像が形成される。
【0035】
この時、印刷ドラム101の内周面側では、インキ供給管104からインキローラ105とドクターローラ106との間に形成されたインキ溜まり107にインキが供給され、印刷ドラム101の回転方向と同一方向に、かつ、印刷ドラム101の回転速度と同期して回転しながら内周面に転接するインキローラ105により、インキが印刷ドラム101の内周側に供給される。インキ供給管104、インキローラ105およびドクターローラ106は、印刷ドラム101上の製版済みのマスタ12にインキを供給するインキ供給手段を構成する。
【0036】
印刷部120において印刷画像が形成された印刷用紙62は、排紙装置130における排紙剥離爪(またはエアーナイフ)114により印刷ドラム101から剥がされ、吸着用ファン118により吸引されつつ、吸着排紙入口ローラ115および吸着排紙出口ローラ116に掛け渡された多孔性の搬送ベルト117の反時計回り方向の回転により、矢印Y5のように排紙台52へ向かって搬送され、排紙台52上に順次排出積載される。このようにしていわゆる版付け印刷が終了する。
【0037】
次に、操作パネル90のテンキー93で印刷枚数をセットし、印刷スタートキー92を押すと上記版付け印刷と同様の工程で、給紙、印刷および排紙の各工程がセットした印刷枚数分繰り返して行われ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0038】
次に操作パネル90、マスタ12および製版装置1周りの構成について補足説明をする。
図1に示した印刷装置で現在使用されているマスタ12としては、例えば熱可塑性樹脂フィルムと、和紙繊維とか合成繊維あるいは和紙繊維および合成繊維を混抄したもの等からなる多孔質支持体とを貼り合わせたラミネート構造のものが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)系のものが用いられる。また、マスタ12の厚みは、例えば20〜60μmの範囲のものであり、そのうちの熱可塑性樹脂フィルムの厚みとしては、0.5〜5.0μmの範囲のものである。
【0039】
なお、マスタ12としては、上記した物に限らず、マスタ12の多孔質支持体の厚さを薄くしたマスタであってもよく、例えば合成繊維ベースマスタでもよいし、また、合成樹脂フィルムに溶融した樹脂を塗布して合成樹脂フィルムに樹脂膜を一体的に形成したようなマスタ、あるいは実質的に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタも使用することができる。
【0040】
操作パネル90は、原稿読取装置80の上部の一側部に配設されている。操作パネル90には、図3に示すように、製版スタートキー91、テンキー93、印刷スタートキー92、試し刷りキー94、エンターキー95、モードクリアキー96、ブザー97、操作・表示部98および印刷枚数表示器99等が配置されている。
【0041】
製版スタートキー91は、原稿の画像の読み取りから排版、製版、給版、給紙、版付け印刷、排紙工程に至るまでの一連の工程(動作)を起動するための動作起動手段としての機能を、テンキー93は、印刷枚数等を入力・設定する機能を、印刷スタートキー92は、テンキー93で入力・設定された印刷枚数分の印刷動作の起動等を行う機能を、試し刷りキー94は、試し刷り印刷動作を起動する機能を、それぞれ有する。試し刷りキー94は、1回押すと1枚通紙されて試し刷り印刷され、押し続けるとその枚数分通紙されて試し刷り印刷される。
【0042】
エンターキー95は、各種設定時に数値等を確定・設定する機能を、モードクリアキー96は、各種モード設定状態を消去・クリアする機能を有し、それぞれそれらの機能を発揮させたい場合等に押下される。
ブザー97は、装置各部の機能や動作に異常が発生した際に警告音を発したり、製版工程、版付け工程、印刷工程等の終了時に告知音を発する機能を有する。
【0043】
操作・表示部98は、液晶表示パネルとマトリックス状に配列された透明電極とを組み合わせた液晶タッチパネル等からなり、操作の状態や制御部2からの各種制御情報、警告等のメッセージあるいは選択されている機能等の表示をしたり、その機能を選択・設定するための操作内容を随時表示したりする表示部としての機能を有するとともに、表示された選択項目や設定項目等を指でタッチして選択・設定するための操作部としての機能も有している。
【0044】
以上、本発明に係る感熱孔版印刷装置の基本的な構成及び動作を説明したが、以上の構成の印刷装置では、画像データ信号を基に、製版装置1のサーマルヘッド10の画像データに対応する所定の発熱体9が発熱することにより、プラテンローラ14とサーマルヘッド10に挟まれたマスタ12の熱可塑性樹脂を溶融穿孔させるが、この時、サーマルヘッド10へ印加するエネルギーは、環境温度、主走査方向の印字率、隣接ドットの発熱状況などに応じて、最適な穿孔状態となるように通電パルス時間を可変することや、印加電圧を可変することで調整されている。
【0045】
しかしながら、穿孔用エネルギーの調整を検出温度情報に対して比例的に行おうとしたとき、インキの粘性が高い低温時に対応した穿孔状態とした場合に、高温時にインキの通過性が良くなりすぎ、過剰なインキが紙へ転移されて裏移りや巻き上がりや、印刷用紙の波うちによる排紙揃えの劣化を引き起こしてしまったり、また、逆に高温時のインキの粘性に合わせた穿孔状態とした場合には、低温時にインキの転移不足によるベタ埋まりの劣化を引き起こしてしまうような問題点はある程度解消されるものの、上記の比例的な穿孔用エネルギーの調整だけでは、調整不足もしくは調整過多になる領域が出てしまうことが多かった。
【0046】
ここで、上記の点について図6を参照して説明する。図6に太線で示す曲線は、インキ温度と印刷ドット面積の関係(同一穿孔状態時でインキ温度を可変させた時の印刷用紙上へ広がったインキの面積の推移)を示している。印刷ドット面積は、インキ温度が低い場合には小さく、インキ温度が高い場合には大きくなるが、その関係は比例的ではなく、或る温度を境に変化量が変化する特徴をもっている。従って、インキ温度の変化に対する理想的な投入エネルギーの推移は印刷ドット面積の推移が図6の太線で示す曲線であるならば、サーマルヘッド10への投入エネルギーも図6の太線で示す曲線と同じ推移となるように制御する必要がある。すなわち、印刷ドット面積が小さい時はエネルギーは高く、大きい時はエネルギーは低くなる。
【0047】
以下に上記のように制御しなければならない理由と本件での知見について述べる。
印刷用紙へ転移するインキの面積(印刷ドット面積)とインキ温度の関係は比例関係になく、或る温度(インキの特性により違う)を境に印刷用紙へ転移するインキの面積の増加量が増す。
このような場合、インキ温度が低温時のとき(転移するインキの面積が小さいとき)とインキ温度が高温時のとき(転移するインキの面積が大きいとき)のそれぞれに対応した投入エネルギーを、低温−高温間で比例的に変化(減少)させていった場合、図6に示すように、曲線の下側の領域aでは、実際には印刷ドット面積がそれほど大きくならないのにエネルギーの減少率の方が大きくなり、所謂「エネルギー不足」になり、画像のかすれやベタ埋まりの劣化が生じてしまう。逆に温度Pと高温時それぞれに対応した投入エネルギーを、温度P−高温間で比例的に変化(減少)させた場合、温度Pから低温の間の図6の曲線の上側の領域bでは、実際に必要なエネルギーよりも過多なエネルギーを与えてしまうことで、穿孔分離性の確保が難しくなったり、サーマルヘッドの発熱抵抗体の早期劣化の可能性が高くなるといった問題が生じる。
【0048】
そこで本発明は、上記の問題を解決し、サーマルヘッド温度やインキ温度などに左右されること無く、常時安定した印刷画像を得ることが可能で、ユーザーに対して全ての環境において好適な印刷物を提供することができるようにするものである。
【0049】
より具体的には、本発明の印刷装置では、少なくともサーマルヘッド10の温度情報を検出する検出手段を備え、複数の温度情報をもとにサーマルヘッド10への投入エネルギーの変化量を適応的に変化させて製版を行う。このように検出された温度情報に応じてサーマルヘッド10の発熱体9へ投入(印加)するエネルギーを可変することにより、マスタ12の穿孔の大きさを制御でき、高温、常温、低温等のいかなる環境下でも印刷用紙上へ適正な量のインキを供給することが可能となるので、インキ温度が高温で粘性が低い時においても過剰なインキが供給されず、裏移りや印刷用紙の巻き上がりを抑制し、排紙揃えを向上させることができる。
【0050】
また、上記の構成に加え、或る温度情報の場合のサーマルヘッド10への投入エネルギー変化量は、温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きくなるように設定する。より具体的には、温度情報と投入エネルギー量との関係を、図4に示すような関係となるように構成し、温度情報が低い場合には、温度変化dTに対する投入エネルギーの変化量dEは少ないが、温度情報が高い場合には温度変化dTに対する投入エネルギーの変化量dEが多くなるように設定する(dE/dT<dE/dT)。これにより、インキ温度が低温で粘性が高い時においても十分なインキ転移量を得ることができ、ベタ埋まりを劣化させることがなくなり、全ての環境下においても良好な印刷画像を得ることが可能となる。
【0051】
さらに本発明の印刷装置では、上記の構成に加えて、サーマルヘッド10とインキの温度からサーマルヘッド10へ投入するエネルギーを決定する構成にするとよく、これにより、インキ温度の変化に伴う印刷用紙へのインキ転移量の変動を抑制することができるようになるので、全ての環境下において好適な印刷画像を得ることが可能となる。
【0052】
さらに本発明の印刷装置では、使用するマスタやインキなどのメディアの情報を少なくとも一つ記憶する手段(例えば制御部2のメモリ23)を備えることにより、使用するメディアに応じたエネルギー条件を導き出すことが可能となる。
また、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を操作パネル90などから少なくとも一つ設定できるような構成にすることにより、特注インキや特注マスタなどを使用する場合においても適正なエネルギー量となるように制御することが可能となる。
さらには、使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ自動的に検知できる構成にすることにより、ユーザーにとっては一々設定する煩わしさが無くなり、また、間違いなく適正なエネルギー量となるように制御することが可能となる。さらに、ローカルエリアネットワーク(LAN)などで接続され、遠隔地に設置されている場合にも、一々設置場所まで確認のために出向く必要が無くなる。また、確認時には認識用のICタグなどが必要であったが、それも不要となる。
【0053】
さらに本発明の印刷装置では、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、サーマルヘッド10への投入エネルギー変化量を制御部2で自動的に設定する構成とすることにより、いかなる温度や、メディアの種類においても適正な投入エネルギーが選択されることになる。
【0054】
さらに本発明の印刷装置では、各温度条件下でのサーマルヘッド10へ印加するエネルギーを結んだ結果が、使用可能な温度条件範囲の中で変化点を持つ直線で表され、その変化点を境に直線の勾配が変化するような場合には(図4参照)、温度情報に基づいて決定される、或る任意の温度tでのエネルギーEtは、
h<tのとき、
Et=K×t+S+α(t−h) [1]
h≧tのとき、
Et=K×t+S [2]
(但し、α:エネルギーダウン係数
h:変化点温度
t:任意の温度
K:変化点温度までのエネルギー勾配
S:式[2]において、t=0のときの値)
によって決定することができ、これにより、使用するマスタやインキなどのメディアの情報を考慮した形で、適正な投入エネルギーが設定できる上、簡易にエネルギーを設定できるようになるので、色々なエネルギーを可変させるパラメータの変化に対し、容易にエネルギーを変更できるようにすることが可能となる。
【0055】
さらに本発明の印刷装置では、以上の構成に加え、温度情報に基づいて決定される投入エネルギーの各温度間の変化量が変わる、制御量変化点を任意に設定できる構成にすることができ、これにより、使用するマスタやインキなどのメディアの情報や、顧客の要望に応じて多種多様のエネルギーを設定することができ、多様なエネルギー条件へも対応した製版システムを容易に提供することができるようになる。
また、使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、サーマルヘッド10への投入エネルギー変化量が任意に設定されるようにすることにより、紙質や顧客の要望などに合わせたエネルギーの変更など、細かな変更が可能となる。
【0056】
次に、上記のような構成を備えた制御系の構成について図2を参照して補足する。図2に示すように、制御部2はマイクロコンピュータからなり、中央処理装置であるCPU21と、入・出力(I/O)インターフェース22と、リードオンリーメモリ(ROM)やランダムアクセスメモリ(RAM)からなるメモリ23等で構成され、メモリ23に記憶されている制御プログラムや制御データ、各種入力・設定情報に応じて原稿読取部や製版部等を制御する。なお、本発明は、特に製版部のサーマルヘッド10の制御に特徴を有するので、印刷部、給紙部、排紙部、排版部等の制御系の図示は省略している。
【0057】
制御部2には、サーマルヘッド10もしくはサーマルヘッド近傍に設けられサーマルヘッド10の温度を検知する図示しない温度センサや、印刷ドラム内のインキ溜まり107もしくはインキたまりの近傍に設けられインキの温度を検知する図示しない温度センサからの温度情報41が入力されるとともに、検知された温度情報によるエネルギー制御の有無情報42、使用するインキやマスタなどのメディア情報43、制御量変化点情報44、投入エネルギー変化量情報45などが操作パネル90等から入力されるか、あるいは制御部2内のメモリ23から読み出され、これらの情報が制御部2のCPU21に入力されると、サーマルヘッド駆動回路33には、制御部2から得られた条件に合うように設定された印加エネルギー設定情報が入力される。
【0058】
サーマルヘッド駆動回路33では、制御部2からの印加エネルギー設定の信号に基づき、電源40からの電力供給を受けて通電パルス(サーマルヘッド駆動信号)が生成されてサーマルヘッド10の個々の発熱体9に出力され、黒画素に対応した発熱体がジュール熱を発生し、マスタ12の熱可塑性樹脂が溶融穿孔される。
【0059】
また、制御部2からは上記以外に、解像度毎のマスタ送り量や搬送量の各種情報が各々の駆動回路に入力され、制御部2により設定された各解像度に対応した所定の送りピッチ設定の信号に基づき、マスタ送りモータ駆動回路32および原稿搬送ローラ用モータ駆動回路31を介してマスタ送り用モータ11および原稿搬送ローラ用モータ89が駆動され、さらにマスタ送り用モータ11および原稿搬送ローラ用モータ89によりプラテンローラ14および原稿搬送ローラ81〜83が回転駆動され、マスタ12および原稿が所定の送りピッチ速度で搬送され、解像度に有った原稿読取動作と製版動作が行われる。
【0060】
なお、本発明の印刷装置において、サーマルヘッド10の温度を検知する温度センサとしては、例えばサーミスタが用いられる。サーマルヘッド10の温度の検出箇所は、発熱抵抗体9の表面部分、例えば電極に囲まれた発熱抵抗体9の中央の表面部分に近い部位であることが望ましいが、現時点における技術では、その部分での検出は不可能に近いので、ここではサーマルヘッド10に搭載されている回路基板上であるサーマルヘッド基板27上でサーマルヘッド10本体の温度検出を行う。また、サーミスタの配置箇所はサーマルヘッド基板上に限らず、アルミ放熱板とも呼ばれるアルミ放熱支持体の内部に設けてもよい。
【0061】
インキの温度を検出する温度センサとしては、例えばサーミスタを用いることができる。インキ温度の検出箇所は、印刷部分に近い部位、例えば印刷ドラム101の内部のインキ供給部等であることが望ましく、より望ましくは、印刷ドラム内周面にインキを供給するインキローラ105上のインキ溜まり107におけるインキ温度を検出する方式である。
【0062】
これらの温度検出に用いられるサーミスタからの温度情報41は、前述したように制御部2に送信され、制御部2のCPU21に入力される。
サーミスタ37は、比較的小型かつ安価であり、サーマルヘッド10の温度やインキ温度の検出に関して所望する感度・信頼性を備えているので好ましいが、このような利点を望まなくてもよいのであれば、熱電対等の他の周知の温度検出手段でも構わない。
【実施例】
【0063】
次に本発明における印刷装置の制御動作の一実施例を以下に示す。
ここでは、インキ温度とサーマルヘッド温度を検出して製版条件を設定する場合の制御動作を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0064】
インキ温度制御を行う場合、ステップS1〜S6の間において、使用するインキやマスタなどのメディア情報や、制御量変化点(温度)、投入エネルギー変化量が、制御部2によりメモリ23に予め記憶された情報から読み出されて自動的(AUTO)に決定されるか、または操作パネル90からの手入力(MANUAL)により決定される。続いて、ステップS7にてインキ温度を検出し、ステップS8でサーマルヘッド温度を検出した後、検出されたインキ温度とサーマルヘッド温度の温度情報から設定されたエネルギー条件をベースに、サーマルヘッド駆動回路33を介してサーマルヘッド10に印加されるエネルギーの制御を施し、適正なエネルギー条件に調整した後(S9)、前述した製版工程を行い(S10)、続いて製版されたマスタ12を印刷ドラムに巻装して、前述した印刷工程を行う(S11)。
【0065】
なお、上記の実施例では、インキ温度を検出する形で記載しているが、インキ温度を検出しなくても、事前にサーマルヘッド温度とインキ温度との相関関係を把握しておくことで、サーマルヘッド10の温度情報をインキ温度情報の代用特性として扱い、適正なエネルギー条件に設定することも可能である。但しその場合には、実際にインキ温度を検出した場合に対して大まかな制御となり、再現性が若干落ちることがある。これは、印刷装置が稼動することで装置内部の温度が上昇し、それに伴いインキ温度も上昇する傾向にあることや、連続製版によりサーマルヘッド温度だけが上昇することがあるためである。
【0066】
また、サーマルヘッドの温度情報から設定されたエネルギー条件をベースに温度制御を行っているが、予めサーマルヘッド温度とインキ温度とで決定されるエネルギーデータ表を制御部2のメモリ23に記憶させておき、サーマルヘッド温度情報とインキ温度情報により投入エネルギーを選択するようにしてもよい。
【0067】
以上説明したように、本発明では感熱孔版印刷装置におけるサーマルヘッド10への投入エネルギーと、サーマルヘッド温度、インキ温度および印刷ドット面積の関係を明確にしたので、より印刷画像の安定化が図れるようになる。その関係は図4に示したように、或る温度情報の場合の投入エネルギー変化量は前記温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きくすれば良いということである。
【0068】
なお、投入エネルギーの調整は、画像信号に応じてサーマルヘッド10の個々の発熱体9に流す電流値、もしくは発熱体9に印加する電圧値の変化、およびサーマルヘッド10の発熱体9への通電パルス幅の変化により行うようにしてもよい。
また、サーマルヘッド10の発熱体9への通電パルス幅の変化により行う場合を具体的に説明すると、制御部2のCPU21は、温度センサ(例えばサーミスタ)からの温度情報の入力信号によりインキ温度とサーマルヘッド温度とを検知し、マスタ12に適正な大きさの「孔」を穿孔できる通電パルス幅を設定(計算もしくはメモリ23からのデータの読み込み)して、サーマルヘッド10への印加エネルギーを制御する。これにより適正なエネルギーが設定され、マスタ12に対して適正な穿孔を施すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の技術を感熱孔版印刷装置に適用することにより、サーマルヘッド温度やインキ温度などに左右されること無く、常時安定した印刷画像を得ることが可能となり、ユーザーに対して全ての環境において好適な印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態を示す感熱孔版印刷装置の全体構成図である。
【図2】図1に示す感熱孔版印刷装置の製版関係部の制御系の一例を示すブロック図である。
【図3】図1に示す感熱孔版印刷装置の操作パネルの一例を示す要部平面図である。
【図4】本発明における温度情報と投入エネルギー量の関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施例を示す図であって、インキ温度とサーマルヘッド温度を検出して製版条件を設定する場合の制御動作を示すフローチャートである。
【図6】インキ温度と印刷ドット面積及びエネルギー量の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 製版装置(製版手段)
2 制御部(マイクロコンピュータ)
5 画像センサ
6 A/D変換部
7 画像処理部
9 発熱体(発熱抵抗体)
10 サーマルヘッド
12 マスタ(感熱性孔版印刷原紙)
14 プラテンローラ
21 中央処理装置(CPU)
22 I/Oインターフェース
23 メモリ(ROM,RAM)
31 原稿搬送ローラ用モータ駆動回路
32 マスタ送りモータ駆動回路
33 サーマルヘッド駆動回路
40 電源
41 温度情報
42 制御有無情報
43 メディア情報
44 制御量変化点情報
45 投入エネルギー変化量情報
62 印刷用紙
90 操作パネル
98 操作・表示部
100 印刷ドラム装置
101 印刷ドラム(版胴)
103 プレスローラ(押圧手段)
104 インキ供給管
105 インキローラ
106 ドクターローラ
107 インキ溜まり
110 給紙装置(給紙手段)
120 印刷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルヘッドにより感熱性孔版印刷原紙に穿孔を施して製版する製版手段と、インキが滲出する開口部を有する回転自在な印刷ドラムと、該印刷ドラムの内周面にインキを供給するインキ供給手段と、前記印刷ドラムの外周面に対して接離自在に設けられた押圧手段と、前記印刷ドラムと前記押圧手段との間の印刷部に印刷用紙を給紙する給紙手段とを備え、前記製版手段で前記感熱性孔版印刷原紙に穿孔を施して製版し、該製版済みの感熱性孔版原紙(以下、マスタと言う)を前記印刷ドラムの外周面に巻装した後、前記インキ供給手段で前記印刷ドラムの開口部を介して前記マスタにインキを供給し、前記給紙手段により前記印刷部に印刷用紙を給紙して該印刷用紙を前記押圧手段により前記印刷ドラムに対して相対的に押し付けることにより、前記マスタの穿孔部から滲出したインキを前記印刷用紙に転写させて該印刷用紙上に印刷画像を形成する感熱孔版印刷装置において、
少なくとも前記サーマルヘッドの温度情報を検出する検出手段を備え、複数の温度情報をもとに前記サーマルヘッドへの投入エネルギーの変化量を適応的に変化させて製版を行うことを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の感熱孔版印刷装置において、
或る温度情報の場合の前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量は、前記温度情報よりも相対的に低い温度の場合の投入エネルギー変化量に比べて等しいか、もしくは大きいことを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の感熱孔版印刷装置において、
前記インキの温度情報を検出する検出手段を備え、前記サーマルヘッドへ投入するエネルギーは、該サーマルヘッドの温度情報と、前記インキの温度情報により決定されることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
使用するマスタやインキなどのメディアの情報を少なくとも一つ記憶する手段を備えたことを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ設定できることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
使用するマスタやインキなどのメディアの種別を少なくとも一つ自動的に検知できることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が自動的に設定されることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
各温度条件下でのサーマルヘッドへ印加するエネルギーを結んだ結果が、使用可能温度条件範囲の中で変化点を持つ直線で表され、その変化点を境に直線の勾配が変化することを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項9】
請求項8記載の感熱孔版印刷装置において、
前記温度情報に基づいて決定される、或る任意の温度tでのエネルギーEtは、
h<tのとき、
Et=K×t+S+α(t−h) [1]
h≧tのとき、
Et=K×t+S [2]
(但し、α:エネルギーダウン係数
h:変化点温度
t:任意の温度
K:変化点温度までのエネルギー勾配
S:式[2]において、t=0のときの値)
によって決定されることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
前記温度情報に基づいて決定される投入エネルギーの各温度間の変化量が変わる、制御量変化点を設定できることを特徴とする感熱孔版印刷装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一つに記載の感熱孔版印刷装置において、
使用するマスタやインキなどのメディアの少なくとも一つ以上の情報により、前記サーマルヘッドへの投入エネルギー変化量が任意に設定されることを特徴とする感熱孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−142686(P2006−142686A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337036(P2004−337036)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】