説明

慢性弁膜症治療に使用されるためのレボシメンダン

本発明は、動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法に関する。レボシメンダンは、慢性弁膜症を患うイヌにおいて、有意に死亡率を低減させ、有意に生活の質を改善することが示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣医学の分野に関連する。とりわけ本発明は、動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療方法に関する。その方法は、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【背景技術】
【0002】
慢性弁膜症(CVD)は、粘液腫変性弁膜症とも呼ばれ、イヌに一般的な心疾患である。慢性弁膜症は、進行性変性および房室弁の変形、最も一般的には、結果として早期僧帽弁不全となる僧帽弁の変形を特徴とする。これは、つぎに僧帽弁の不適切な閉鎖が血液を左心房へと逆流させる僧帽弁逆流を原因とする収縮期心雑音の発生を導く。病に冒されたイヌは、最終的に左房室体積の過負荷、肺水腫、心房拡張および上室性不整脈を発症する。
【0003】
CVDのイヌは、利尿薬、ACE阻害剤およびジゴキシンなどの標準的治療で良好な生活の質を見せ得るが、長期予後は良くない。イヌは不整脈により突然死亡するかもしれないし、または利尿薬治療の失敗による深刻な生活の質の悪化後に安楽死の決定がなされる。外科的処置による僧帽弁再建は、動物には容易に通用しない。よって、CVDを患う動物の死の危険を低減させる改善した獣医学的治療が必要とされている。
【0004】
[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−エナンチオマーであるレボシメンダンは、現在、急性非代償性の深刻な心不全のヒト患者の短期治療用に、静脈内輸液として24時間以上の間使用される強心薬である。この薬物は、筋フィラメントのカルシウムへの感受性を増大させることにより、心筋層の収縮力を増加させる。レボシメンダンおよびその製造方法は米国特許第5,569,657号明細書に記載されている。
【発明の概要】
【0005】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、慢性弁膜症を患う動物、特にイヌにおいて有意に死亡率を低減させ、生存を延長し、生活の質を改善することができることが今見出された。レボシメンダンは、イヌにおける長期経口治療方式において有効かつ安全であり、特に慢性弁膜症の獣医学的治療に適している。
【0006】
よって本発明は、動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0007】
本発明はまた、慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける死亡率を低減させる方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用を提供する。
【0009】
本発明はまた、慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける死亡率の低減用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用を提供する。
【0010】
本発明はまた、慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける生活の質の改善用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】慢性弁膜症を患うイヌの死亡率に対する、5ヵ月間1日2回経口で与えられた0.05mg/kgのレボシメンダン(実線)またはプラセボ(破線)の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語「慢性弁膜症」または「CVD」は、本明細書中においては、逆流を引き起こす心臓の一以上の弁、特に僧帽弁および/または三尖弁の異常に関与する疾患を意味する。よって、「慢性弁膜症」は、たとえば慢性変性弁膜症、粘膜腫房室弁変性、粘膜腫僧帽弁膜症、慢性弁繊維症、僧帽弁形成異常、僧帽弁逆流、三尖弁逆流、僧帽弁膜症、僧帽弁脱および心内膜症を包含する。
【0013】
用語「生活の質を改善する」は、本明細書中においては、CVDを患う動物の全般的な健康を改善し、このような改善が該動物の飼い主にも明らかであることを意味する。この用語は、食欲喪失、運動不耐性、日中の咳、夜間の咳および夜間の情動不安などのCVDの一つまたはいくつかの症状の低減を包含する。
【0014】
用語「mg/kgのレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩」は、別段の示唆がなければ、治療される対象の体重1キログラムあたりのレボシメンダンまたはその許容され得る塩のミリグラムを意味する。
【0015】
用語「動物」は、本明細書中においては、ヒト以外の哺乳類などのヒト以外の動物を意味する。種々のヒト以外の哺乳類が、本発明により治療され得る。本発明の1つの好ましい実施態様によると、治療される哺乳類は、犬類(canine)、猫類(feline)、齧歯類、鼠類、馬類(equine)、牛類または羊類の種である。本発明のもう1つの実施態様によると、治療される哺乳類は、イヌ(dog)、ネコ(cat)またはウマ(horse)である。本発明の特に好ましい実施態様によると、治療される哺乳類は、イヌである。
【0016】
用語「治療すること(treating)」、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」は、予防治療(たとえば予防薬)および待機治療を包含する。
【0017】
本発明により、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、慢性弁膜症(CVD)の治療に有効な量で動物に投与される。本発明の1つの実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、動物における慢性弁膜症の一以上の症状を和らげる(ameliorate)のに有効な量で投与される。本発明のさらなる実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、慢性弁膜症(CVD)を患う動物における死亡率を低減させるのに有効な量で投与される。本発明のさらなる実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、慢性弁膜症(CVD)を患う動物における生活の質を改善するのに有効な量で投与される。
【0018】
本発明の1つの実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、心筋の収縮性が維持された動物、特にイヌにおける慢性弁膜症を治療するために使用される。
【0019】
本発明の1つの実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、心筋の収縮性が維持された動物、特にイヌにおける慢性弁膜症が原因となる死亡率を低減させるために使用される。
【0020】
慢性弁膜症(CVD)は、身体的検査、心エコー検査および放射線学などの公知の方法によって診断することができる。弁領域での明らかな収縮期雑音が、慢性弁膜症の典型的な特徴である。
【0021】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の動物への投与は、たとえば経口、非経口、経粘膜または経皮経路によって可能である。慢性弁膜症の長期治療には、経口投与が特に好ましい。
【0022】
概して、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、齢、体重、健康状態および動物の種に応じて約0.005〜約0.3mg/kgの適当な範囲の日用量、たとえば0.01〜0.2mg/kgで、動物に経口投与することができる。本発明の1つの特に好ましい実施態様によると、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、約0.03〜約0.15mg/kgの範囲の日用量、たとえば約0.07〜0.12mg/kgで、動物、特にイヌに経口投与される。
【0023】
静脈内投与が望ましい場合、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、約0.01〜5μg/kg/分、より典型的には約0.02〜3μg/kg/分の注入速度を用い、静脈内注入により投与することができる。
【0024】
本発明の活性成分は、治療される動物の健康状態に応じて、毎日もしくは1日に数回、またはたとえば毎週もしくは隔週など定期的に投与されてもよい。通常、該活性成分が経口で投与される場合は、たとえば1日に2回などの毎日の投与が好ましい。
【0025】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、単独でもしくは他の慢性弁膜症の治療に適した治療剤と共に投与されてもよい。
【0026】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩は、当該技術分野において実務者に周知の原理を用いて投与形態に製剤化される。それは、それ自体で、または好ましくは適当な薬学的賦形剤と共に、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、乳剤、懸濁剤または溶液剤の形態で患者に投与され、製剤中の活性化合物の含有量は約0.1〜約100重量%である。組成物にとって適切な成分を選択することは、当業者にとって日常業務である。この技術分野で通常使用される適切な担体、溶剤、ゲル化成分、分散化成分、抗酸化剤、着色剤、甘味料、香料、湿潤剤、放出制御成分および他の成分もまた、使用してよいことは明らかである。
【0027】
錠剤での経口投与に適切な担体および賦形剤には、たとえばラクトース、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウムおよびタルクなどがある。カプセル剤での経口投与に有用な担体および賦形剤には、ラクトース、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクなどがある。制御放出経口組成物には、放出制御成分を使用することができる。典型的な放出制御成分には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギニン酸、またはそれらの混合物などの親水性ゲル形成ポリマー;硬化大豆油、硬化ヒマシ油などの植物性固形油、またはヒマシ油(商用名Cutina HRとして売られている)、綿実油(商用名SterotexまたはLubritabとして売られている)またはそれらの混合物などの植物性油脂;たとえばトリステアリン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル(商用名Compritolとして売られている)およびグリセリルパルミトステアリン酸エステルなどの飽和脂肪酸のトリグリセリドまたはその混合物などの脂肪酸エステルなどがある。
【0028】
錠剤は、活性成分を担体および賦形剤と混合し、粉末の混合物を錠剤に圧縮することで調製することができる。カプセル剤は、活性成分と担体および賦形剤を混合し、粉末の混合物をたとえば硬質ゼラチンカプセルなどのカプセル中に納めることで調製することができる。典型的には、イヌの慢性弁膜症の治療用の錠剤またはカプセル剤は、約0.1〜2mg、より典型的には0.2〜1mgのレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を含む。
【0029】
注射または注入製剤などの静脈内投与に適切な製剤は、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩およびビヒクルの無菌等張溶液、好ましくは薬学的に許容され得る水溶液を含む。
【0030】
典型的には、静脈内注入溶液は、約0.001〜1、好ましくは約0.01〜0.1mg/mlのレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を含む。静脈内投与用の製剤は、使用前に水性ビヒクルで希釈される注入濃縮物の形態であってもよい。典型的には、このような注入濃縮物は、無水エタノールに溶解したレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を含む。
【0031】
レボシメンダンの塩は、公知の方法により調製されてよい。薬学的に許容され得る塩は、活性医薬として有用であり、しかしながら好ましい塩はアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩である。
【実施例】
【0032】
実施例1
二重盲式プラセボ対照試験が、レボシメンダンの長期有効性および安全性、ならびに慢性弁膜症(CVD)と診断されたイヌにおける長期生存に対するその効果を評価するために実施された。イヌは、無作為に、0.05mg/kgのレボシメンダン(n=40)またはプラセボ(n=40)のどちらかを経口で1日に2回5ヵ月間投与された。全てのイヌは、それらのバックグラウンド治療(ACE阻害剤、利尿薬、ベータ−ブロッカーおよび/またはジゴキシン)を受けることが許された。生活の質、CVDの症状、安全性および死亡率評価が、試験の間中、実施された。
【0033】
生活の質の改善は、複合的な(composite)飼い主が報告した症状スコア(ORSS)を用いて決定された。ORSSは、食欲、運動に対する不耐性、日中の咳、夜間の咳、および夜間の情動不安に対するスコアを合計して計算された複合変数である。飼い主が報告した症状スコアは、0(最良)〜18(最悪)の範囲とされた。
【0034】
レボシメンダン群(実線)およびプラセボ群(破線)のイヌの治療期間中の生存が、図1に示される。生存していたが、試験から離脱したまたは打ち切られたイヌは、丸で示される。標準的治療に経口レボシメンダンを追加することが、有意に慢性弁膜症(CVD)を患うイヌにおける死亡率を低減させ、生存を延長させたことが見てとれる。各治療群に対する、飼い主が報告した経時的な症状スコアの平均は、表1に要約される。基準評価(0ヵ月)と比較して、生活の質は、レボシメンダン群(群A)に対しては時を経て有意に改善したが、プラセボ群(群C)では改善しなかった。
【0035】
有意な安全性の懸念は、レボシメンダン群においては認められなかった。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩が、経口で投与される請求項1記載の方法。
【請求項3】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩が、日量0.03〜約0.15mg/kgで投与される請求項2記載の方法。
【請求項4】
慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける死亡率を低減させる方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項5】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩が、経口で投与される請求項4記載の方法。
【請求項6】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩が、日量0.03〜約0.15mg/kgで投与される請求項5記載の方法。
【請求項7】
慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける生活の質の改善方法であって、有効量のレボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩を、その治療を必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項8】
動物、特にイヌにおける慢性弁膜症(CVD)の治療用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用。
【請求項9】
慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける死亡率の低減用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用。
【請求項10】
慢性弁膜症(CVD)を患う動物、特にイヌにおける生活の質の改善用医薬の製造における、レボシメンダンまたはその薬学的に許容され得る塩の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−516659(P2010−516659A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545958(P2009−545958)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/FI2008/000004
【国際公開番号】WO2008/087248
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(300046083)オリオン コーポレーション (31)
【Fターム(参考)】