説明

慢性閉塞性肺疾患の処置のための吸入型ホスホマイシン/トブラマイシン

本発明は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDの患者の処置における、ホスホマイシンおよびトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。また、かかる使用のための製剤およびCOPDのヒトの処置方法も提供する。第1の態様として、本発明は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがある慢性閉塞性肺疾患(COPD)のヒトの処置のための方法を提供する。上記方法は、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を、吸入によって上記ヒトに投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有し、急性増悪を起こしている、または起こすリスクがある患者の処置のためのホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含む吸入型組成物、およびその処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、進行性で可逆性が不充分な気流(airflow)閉塞および気道(airway)の炎症を特徴とする喫煙関連の病状であり、先進国では、最も一般的な死亡原因の第4位である。COPDは、2020年には、世界的規模で、主要な死亡原因の第3位になると予測されており、これは、4つの最も一般的な死亡原因のうちで死亡率が増大している唯一のものである。2008年、米国では、推定1000万人の患者が慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断された。SDI COPD Claims Analysis,May 2009。Murrayら,1997 Lancet 349:1269−76。およそ700万人の米国人患者がCOPDの処置を受けている。Manninoら;The Epidemiology and Economics of COPD,Proc Am Thorac Soc 2007。米国において、2002年では、COPDの直接費はおよそ180億ドルであった。Statistics from National Center for Health Statistics,National Health Interview Survey:Research for the 1995−2004 redesign,Hyattsville,Maryland:U.S.Department of Health and Human Services,CDC,NCHS.Vital and Health Stat 2(126),1999。
【0003】
COPDの臨床経過は、さまざまな刺激、例えば、病原体への曝露、吸入刺激物(例えば、煙草の煙)、アレルゲンまたは汚染物質によって誘発され得る断続的な急性増悪を伴う慢性的な障害を特徴とする。「急性増悪」は、患者のCOPD症状の上記患者の通常の状態からの悪化であって、日ごとの変化が通常を超えており、発生が急性であるものをいう。Rabeら,2007 Am J Res Crit Care Med、176:532−555を参照のこと。COPDの急性増悪は、COPDの患者の健康と生活の質に大きな影響を及ぼす。Bathoorn,E,Int J Chron Obstruct Pulmon Dis.2008 3(2):217−229。COPDの急性増悪は、上記疾患の付随する相当な社会経済的費用の枢要な要因である。2002年のCOPDの直接費およそ73%(130億ドル)は、COPDの急性増悪に関連する入院によるものであった。閉塞性肺疾患の負荷(Burden of Obstructive Lung Disease)(BOLD)イニシアチブの調査者は、米国におけるCOPD医療費の累積的減額は、20年間で年間の平均が440億ドルより多いとすると、2020年までに8800億ドルになると推定している。Leeら,2006 ATS Proceedings,3:A598。また、多くの試験で、増悪の既往は将来のCOPDでの入院についての独立したリスクファクターであることが示されている。Garcia−Aymerichら,2003,Thorax,58:100−105。米国では、COPD保健医療支出のおおよそ70%が入院に費やされている。McGhanら,2007,Chest,132(6):1748−1755。したがって、新たな薬物療法によってCOPDの保健費用および経済的費用が著しく削減するためには、COPDの急性増悪に取り組まなければならない。
【0004】
パルス実験において、Bayer社により、経口モキシフロキサシンの効果が、予測ベースラインFEV=70%およびFEV/FVC比<0.7ならびに過去12ヶ月間において2回以上のCOPDの急性増悪を有する1157名の患者において試験された。患者を、経口モキシフロキサシン400mgを毎日5日間にわたり8週間毎または適合(matched)プラセボを合計48週間にわたって無作為化した。その主要エンドポイントは、急性増悪の回数の減少とされた。モキシフロキサシンでの処置は、安定なベースライン状態において粘液膿性または膿性の痰が出る患者の亜群で、増悪についてのオッズにおいて45%の相対減少と関連していた。Sethiら,2010 Resp Res,11:10。
【0005】
MPexによるフェーズ2試験では、レポフロキサシンのエーロゾル製剤であるMP−376が、COPDにおける急性増悪の予防について評価された。この試験は、2010年4月に終了し、おおよそ300名の患者が登録され、MP−376を5日間、28日毎の投与または適合プラセボで6ヶ月間にわたって無作為化された。http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00739648 2010年8月。登録患者は、中等度から重度のCOPDを有し、前年に2回以上の急性増悪の既往歴を有する患者である。試験結果は未だ報告されていない。
【0006】
Paringenix Inc.に対する特許文献1は、O−脱硫酸化ヘパリンを静脈内投与することを含む、COPDの急性増悪を処置および予防するための方法に関するものである。
【0007】
Gilead Sciences,Inc.に対する特許文献2には、エーロゾル適用による送達のためのホスホマイシン+トブラマイシン併用製剤が開示されている。有効量のホスホマイシンおよびトブラマイシンを含むホスホマイシン/トブラマイシン併用製剤は、感受性細菌の阻害能を有する。ホスホマイシンとトブラマイシンは、再構成させるとpHが4.5〜8.0となるような液剤に、またはドライパウダーとして製剤化される。また、ジェット式もしくは超音波ネブライザ(または同等物)あるいはドライパウダー吸入器によって生成される空気力学的質量中央径(mass medium aerodynamic diameter)(主に、1〜5ミクロン)を有するエーロゾルとして送達される製剤による気道(respiratory tract)感染の処置のための方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0054374号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/110022号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
第1の態様として、本発明は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがある慢性閉塞性肺疾患(COPD)のヒトの処置のための方法を提供する。上記方法は、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を、吸入によって上記ヒトに投与することを含む。
【0010】
別の態様として、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための方法を提供する。上記方法は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む。
【0011】
別の態様として、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の1つ以上の症状の処置のための方法を提供する。上記方法は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む。
【0012】
別の態様として、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、重症度または持続期間を低減させるための方法を提供する。上記方法は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む。
【0013】
別の態様として、本発明は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンおよびトブラマイシンならびに必要に応じて、1種類以上の薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤および/または希釈剤からなるエーロゾル製剤を投与することにより、ヒトの気道における細菌感染の処置方法であって、上記製剤がネブライザ、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したものであり、その改善(the improvement)が、慢性閉塞性肺疾患のヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、方法を提供する。
【0014】
別の態様として、本発明は、COPDのヒトの肺炎症を低減させる方法を提供する。上記方法は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む。
【0015】
一実施形態において、本発明の方法では、4重量部のホスホマイシンと1重量部のトブラマイシンを含むエーロゾル製剤を用いる。
【0016】
別の態様において、本発明は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトを処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の1つ以上の症状を処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。
【0019】
別の態様において、本発明は、COPDのヒトの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。
【0020】
別の態様において、本発明は、ヒトの気道における細菌感染を処置するための、ネブライザ、ドライパウダー吸入器または定量吸入器よる投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンおよびトブラマイシンならびに必要に応じて、1種類以上の薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤および/または希釈剤からなる、生理学的に許容され得る溶液の状態のエーロゾル製剤の使用であって、
その改善が、
慢性閉塞性肺疾患のヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させること
を含む使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1:2%のムチンの存在下で評価した、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC 27853に対する9:1のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化(time−kill)曲線。記号:△薬物なし対照、▲ホスホマイシン(14.4μg/mL)、●トブラマイシン(1.6μg/mL)、■ホスホマイシン(14.4μg/mL)+トブラマイシン(1.6μg/mL)、および−−−殺菌線。
【図2】図2:2%のムチンの存在下で評価した、緑膿菌ATCC 27853に対する4:1のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化曲線。記号:△薬物なし対照、▲ホスホマイシン(12.8μg/mL)、●トブラマイシン(3.2μg/mL)、■ホスホマイシン(12.8μg/mL)+トブラマイシン(3.2μg/mL)、および−−−殺菌線。
【図3】図3:2%のムチンの存在下で評価した、緑膿菌ATCC 27853に対する7:3のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化曲線。記号:△薬物なし対照、▲ホスホマイシン(11.2μg/mL)、●トブラマイシン(4.8μg/mL)、■ホスホマイシン(11.2μg/mL)+トブラマイシン(4.8μg/mL)、および−−−殺菌線。
【図4】図4:2%のムチンの存在下で評価した緑膿菌に対するホスホマイシンの時間−死滅化曲線。記号:(▲)薬物なし対照、(□)4μg/mL、(■)8μg/mL、(○)16μg/mL、(●)32μg/mL、(−−−)殺菌線。
【図5】図5: 2%のムチンの存在下で評価した緑膿菌に対するトブラマイシンの時間−死滅化曲線。記号:(▲)薬物なし対照、(□)0.5μg/mL、(■)1μg/mL、(○)2μg/mL、(●)4μg/mL、(−−−)殺菌線。
【図6】図6:2%のムチンの存在下で評価した緑膿菌に対するFTIの時間−死滅化曲線。記号:(□)薬物なし対照、(▲)4μg/mL FTI、(●)8μg/mL FTI、(■)16μg/mL FTI、(Δ)32μg/mL FTI、(−−−)殺菌線.FTI濃度は、4:1の比の個々の成分の濃度の和を反映している(例えば、8μg/mL FTI=6.4μg/mLのホスホマイシン+1.6μg/mLのトブラマイシン)。
【図7】図7:緑膿菌のタンパク質合成に対するFTI、ホスホマイシン、およびトブラマイシンの効果。記号:(◆)8μg/mL FTI(6.4μg/mLのホスホマイシン+1.6μg/mLのトブラマイシン)、(■)6.4μg/mLのホスホマイシン、(▲)1.6μg/mLのトブラマイシン。
【図8】図8:緑膿菌の細胞壁合成に対するFTI、ホスホマイシン、およびトブラマイシンの効果。記号:(◆)8μg/mL FTI(6.4μg/mLのホスホマイシン+1.6μg/mLのトブラマイシン)、(■)6.4μg/mLのホスホマイシン、(▲)1.6μg/mLのトブラマイシン。
【図9】図9: トブラマイシンの細菌内取込みに対するホスホマイシンの効果。
【図10】図10: 0.1、1、2.5、5および10mg/kgの抗生物質FTIの気管内投与(毎日2回で3日間投与した)後のラット肺内の緑膿菌 C177 CFUの低減。平均および標準偏差を示す。P<0.05,**P<0.01。
【図11】図11:0.1、0.5、1および2.5mg/kgのトブラマイシンの気管内投与後のラット肺内の緑膿菌(C177株)CFU の低減。
【図12】図12:1、2.5、5および10mg/kgのホスホマイシンの気管内投与後のラット肺内の緑膿菌(C177株)CFU の低減。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる場合:
「FTI」は、吸入による投与に適した、ホスホマイシンとトブラマイシンのエーロゾル製剤をいう。
【0023】
「9:1のホスホマイシン:トブラマイシン」および「9:1のFos:Tob」は、同義的であり、トブラマイシン塩基に対してホスホマイシン酸を9:1の重量比で含む液状医薬製剤またはドライパウダー医薬製剤を意味する。
【0024】
「4:1のホスホマイシン:トブラマイシン」および「4:1のFos:Tob」は、同義的であり、トブラマイシン塩基に対してホスホマイシン酸を4:1の重量比で、ホスホマイシンの量がトブラマイシンの量の4倍(重量で)となるように含む液状医薬製剤またはドライパウダー医薬製剤を意味する。
【0025】
「7:3のホスホマイシン:トブラマイシン」または「7:3のFos:Tob」は、同義的であり、トブラマイシン塩基に対してホスホマイシン酸を7:3の重量比で含む液状医薬製剤またはドライパウダー医薬製剤を意味する。
【0026】
「5:5のホスホマイシン:トブラマイシン」または「5:5のFos:Tob」は、同義的であり、トブラマイシン塩基に対してホスホマイシン酸を50:50の重量比で含む液状医薬製剤またはドライパウダー医薬製剤を意味する。
【0027】
「COPD」は、GOLD(背景を参照のこと)によって定義されるような慢性閉塞性肺疾患をいい、本明細書における処置対象であり、択一的な表現「慢性閉塞性呼吸器疾患」(CORD)、「慢性閉塞性気道疾患」(COAD)、「慢性閉塞肺疾患」(COLD)、および「慢性気道制限」(CAL)で知られる同じ疾患を包含する。
【0028】
「急性増悪(複数可)」および「COPDのヒトの急性増悪」は、同義的であり、患者のCOPD症状の上記患者の通常の状態からの悪化であって、日ごとの変化が通常を超えており、発生が急性であるものをいう。
【0029】
「COPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪」は、COPD患者の慢性気管支炎症状の上記患者の通常の状態からの悪化であって、日ごとの変化が通常を超えており、発生が急性であるものをいう。慢性気管支炎症状としては、呼吸困難、過度な咳、痰が出る、膿性痰、痰の色の変化、胸部絞扼感、運動耐容の低減、および倦怠感が挙げられる。
【0030】
「COPDの患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪」は、慢性の肺症状に併発した細菌感染が推定される臨床診断をいう。この用語は、FDA Center for Drug Evaluation and Research(CDER)in the Guidance for Industry on “Acute Bacterial Exacerbations of Chronic Bronchitis in Patients with COPD:Developing Antimicrobial Drugs for Treatment,”2008年8月,Clinical Antimicrobial Division,Revision 1に定義されている。FDA Guidanceによれば、COPDの患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪は、痰または気管支洗浄被検物からの病原性細菌の分離と関連している気管支の炎症と説明され得る。急性増悪では、COPDの患者の気道において慢性的な細菌コロニー形成が存在し得るため、細菌の役割は複雑である。また潜在性の細菌感染も持続性炎症に寄与することがあり得る。
【0031】
「頻繁な増悪発生者(frequent exacerbator)」は、COPDに苦しんでいる、またはその処置を受けており、12ヶ月間の間に少なくとも2回、より典型的には3回以上の急性増悪が起こるヒトをいう。
【0032】
「FEV」は、1秒間の努力呼気量をいい、患者の呼吸器の状態の典型的な客観的尺度である。
【0033】
「FEV/FVC」は、FEV/努力肺活量をいう。
【0034】
「最小阻害濃度(MIC)」は、35℃で18〜20時間のインキュベーション後、明白な増殖が抑制される抗生物質(複数可)の最低濃度を意味する。
【0035】
「最小殺菌濃度(MBC)」は、=3 Log10の細菌死滅化がもたらされる抗生物質の最低濃度を意味する。
【0036】
「時間依存性死滅化(time−dependent killing)」は、必須の薬力学的パラメータが時間であり、薬物濃度は上記MICより上のままであり、上記MICより高い薬物濃度でも細菌の死滅化はなんら速くならない、または程度が大きくならないような抗生物質をいう。
【0037】
「濃度依存性死滅化」は、必須の薬力学的パラメータが薬物濃度であり、達成される薬物濃度が高いほど、細菌死滅化の速度と程度が大きくなるような抗生物質をいう。
【0038】
「静菌性」は、 上記抗生物質が細菌の増殖を抑止することにより作用することを意味する。
【0039】
「殺菌性」は、 上記抗生物質が細菌を死滅させることにより作用することを意味する。
【0040】
COPDの急性増悪
COPDは、Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)により、「充分に可逆性でない気流の制限を特徴とする疾患状態。上記気流の制限は、通常、進行性であるとともに、有害な粒子またはガス状物に対する肺の異常な炎症応答と関連している」と定義されている。RA Pauwelsら,2001 Am J Respir Crit Care Med 163:1256−1276。気流の制限は、肺活量測定によって測定したときの呼息気流の遅滞であり、1秒間の努力呼気量(FEV)は持続的に低い。予測FEVパーセントを用いて、患者は4つの重症度に分類される。気流の制限のGOLD定義は、70%未満のFEV/FVC比である(同上)。
【0041】
以前は、COPDは、COPDを示す従来のベン図の3つの疾患実体:慢性気管支炎、気腫および喘息が重複する交わりの部分を特徴とするものとされていた。慢性気管支炎は、臨床的には、少なくとも続く2年間の間の少なくとも3ヶ月間ほとんど毎日、過度な咳および痰が出ることと定義される。気腫は、肺組織の破壊および気腔の拡張に起因する慢性の呼吸困難(息切れ)、ならびに呼息気流の制限を特徴とする。気管支拡張症は、気道における感染、炎症および組織損傷のサイクルによって引き起こされる呼吸器経路(respiratory passage)の異常な伸長および拡張である。喘息は、気道が刺激に応答して非常に大きく非常に容易に収縮し易くなる肺気道の炎症性疾患である。喘息はCOPDとは、喘息では肺機能の低下が可逆性である点で異なる。COPDのGOLD定義では慢性気管支炎と気腫を区別していないが、喘息とCOPDは同時に存在することがあり得るが、喘息では気流の制限がたいてい可逆性であることにより、気流の制限がたいてい不可逆性であるCOPDとは異なる治療的アプローチが享受されると注記されている。Mannimo,Hospital Physician Oct 2001 22−31。
【0042】
COPDの一般的な症状としては、呼吸困難、痰、咳込み、上気道症状(風邪および喉の痛みなど)、喘鳴、胸部絞扼感、倦怠感、体液貯留、ならびに急性錯乱が挙げられる。COPDの急性増悪は、典型的には、COPD患者のベースライン、典型的または日ごとの状態からの顕著な変化がみられる。したがって、急性増悪は、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、急性錯乱、ならびにこれらの症状の任意の2つ以上の組合せで顕性となり得る。
【0043】
最も頻繁に症状発現を有する患者では、急性増悪は、疾患進行の大きな決定因子であり得る。COPDの急性増悪は、死亡率の独立した予測因子であることが示されており、死亡のリスクは増悪の頻度と相関している。Soler−Cataluna,2005 Thorax,60:925−931。急性増悪は、肺機能の低下を加速することがあり得、COPD患者におけるFEV低下のおよそ25%を占める。Seemungalら,2000 Am J Res Crit Care Med 161:1608−1613。症状および肺機能は、急性増悪後、ベースラインまで回復するのに数週間かかり得る(同上)。中等度から重度の患者では、持続的に高い全身性炎症のため、22%が50日以内に再発事象を有した。Perera et la.,2007 Eur Res J 29:527。試験の一例では、1年あたり>2.92回の増悪を有する中等度から重度のCOPDの患者では、1年あたり<2.92回の増悪を有する患者と比べて、1年間で25%より大きいFEVの低下が起こった。Donaldsonら,2002,Thorax 57:847−852。
【0044】
最近のデータにより、持続性の気道の細菌感染は、患者のおおよそ30%においてCOPDの最も早期の段階で発生していることが示されている。Monsoら,1999 European Respir J 13:338−42。これは、粘膜線毛クリアランスおよび上皮バリアなどの先天的肺防御に対する喫煙関連損傷によって助長され得る。Curtisら,2007 PATS 4:512−521。さらに、頻繁な増悪に感受性である患者は、誘発痰ならびに潜在性気管支感染において有意に高い炎症マーカーレベルを有するようである。試験の一例では、増悪頻度は、潜在性気管支感染に有意に関連している(p=0.023)ことがわかり、一方、安定状態での細菌負荷量は、痰中IL−8レベルと有意に相関している(P=0.02)ことがわかった。Patelら,2002,Thorax 57:759−764。したがって、現在、抗感染薬物療法により、頻繁な増悪発生者においてCOPDの急性増悪が低減され得ると考えられている。
【0045】
急性増悪の一般的な原因としては、炎症、特に慢性の炎症、感染、例えば、慢性または持続性の感染、汚染およびアレルゲンが挙げられる。病原体誘発因子のうち、24%はウイルス性、30%は細菌性、25%はウイルス性と細菌性の両方であると考えられている。Papi 2006 Amer J Respir Crit Care Med 173:114−121。COPDの患者における急性増悪と関連しているウイルス病原体としては、ライノウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、コロナウイルス、アデノウイルス、および呼吸器合胞体ウイルスが挙げられる。
【0046】
SethiおよびMurphy 2008 NEJM 359(22):2355−2365において、COPDの急性増悪の典型的な原因である細菌種が概説された。その知見によれば、Haemophilus influenzae(グラム陰性)は、増悪の20〜30%において存在しており;Streptococcus pneumoniae(グラム陽性)およびMoraxella catarrhalis(グラム陰性)はそれぞれ、増悪の10〜15%において存在しており、緑膿菌(グラム陰性)は増悪の5〜10%において存在している(同上)。Chlamydophila pneumoniae(グラム陰性)およびMycoplasma pneumoniaeは、上記増悪の1〜5%に寄与している(同上)。さらに、Legionella pneumoniae(グラム陰性)は別の病因因子であり得る(同上)。一因であり得る(が頻度は低い)他の細菌種としては、Haemophilus haemolyticus(グラム陰性)、Haemophilus parainfluenzae(グラム陰性)、エンテロバクター種(Enterobacter species)(グラム陰性)およびStaphylococus aureus(グラム陽性)が挙げられる。
【0047】
2008年8月、FDAは、COPDの患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪(ABECB−COPD)の処置のための抗菌薬製剤に対するプログラム開発および臨床試験設計ための企業向けの手引きを発表した。FDA Center for Drug Evaluation and Research(CDER)in the Guidance for Industry on “Acute Bacterial Exacerbations of Chronic Bronchitis in Patients with COPD:Developing Antimicrobial Drugs for Treatment,”2008年8月,Clinical Antimicrobial Division,Revision 1。この手引きによれば、COPDの患者における急性増悪と最も一般的に関連している病原体は、S.pneumoniae、H.influenzae、およびM.catarrhalisであり、そのため、ABECB−COPDの臨床試験の目的は、これらの種と関連していると推定されるABECB−COPDの臨床コースに対する抗菌療法の効果を実証することであるべきである。
【0048】
安定なCOPDにおける細菌感染の速度は、気流閉塞の悪化に伴って増大する。持続性の細菌感染の最も高い速度は、中等度から重度のCOPDを有し、1年あたり≧2.6回の増悪が起こる安定な患者において確認された。Patelら,2002 Thorax 57:759−764。細菌感染は、炎症刺激をもたらして、1)安定な疾患状態のあいだの宿主の炎症応答を調節不全にすること、および2)急性増悪のための炎症誘発因子として機能することの両方によってCOPDの病因および進行に関与する。
【0049】
安定なCOPD患者の下気道内の細菌病原体は疾患の初期段階において感染の急性症状を引き起こさないが、多くの試験によって、その存在が、COPDに特徴的な炎症応答および免疫応答と関連していることが示されている。この理由のため、下気道における細菌病原体の存在により潜在性気管支感染として特性評価されることがあり得る。Monso,2004 Arch Bronconeumol 40(12):543−6。年齢、喫煙パックイヤーまたは肺活量測定に差のない感染患者と非感染患者(n=26)を比較する試験の一例において、BALによる細菌病原体の回収は、好中球、IL−8およびプロテイナーゼMMP−9の有意な上昇と関連していた。Sethiら,2006,Am J Res Crit Care Med 173:991−998。また、COPDにおける持続性の気管支感染の証拠は、組織学的試験および放射線学的試験でも得られている。将来的に重要な組織学的試験の一例では、重度のCOPDの患者の小気道内にBおよびTリンパ球で構成されたリンパ系濾胞(lymphoid follicle)の存在が示され、これは、持続性の細菌感染に対する後天的免疫応答を示唆する。Hoggら,2004、NEJM 350:2645−53。また、中等度から重度のCOPDの患者は気管支拡張症の有病率が高いこと(最近の試験で、患者(n=54)の50%に存在すると示された。Patelら,2004 Am J Res Crit Care Med 170:400−407参照)は、慢性の持続性の感染率が高いことを示唆する。実際、潜在的病原体が50%を超える患者において特定され、緑膿菌は17.9%に存在していた。
【0050】
潜在性であり得るが、安定なCOPDにおける下気道の細菌感染は無害ではないようである。多くの試験により、安定なCOPDにおける細菌感染は、COPDの進行に対して重大な影響を有し、これは、すべての症例において炎症促進効果と関連していることが示唆されている。中等度から重度のCOPDの安定な患者(n=30)の最近の試験において、痰中細菌負荷量がIL−8レベルの増大と有意に関連しており、FEVの低下を加速させることが示された。Wilkinsonら,2003 Am J Res Crit Care Med 167:1090−1095。この試験での逐次標本抽出により、その試験コースにわたって、上記感染病原体が変化した患者では、同じ細菌病原体に感染した患者と比べて有意に大きなFEVの低下が示され、これは、潜在性気管支感染が、炎症作用の増強をもたらす動的プロセスであることを示唆する。
【0051】
上記のある試験では、増悪の頻度が潜在性気管支感染と有意に関連しており(p=0.023)、上記安定状態における細菌負荷量が痰中IL−8レベルと有意に相関している(P=0.02)ことがわかった。Patelら,2002 Thorax 57:759−764。また、上記安定状態における分類不可能なH.influenzaeでの感染との関連性も見出され、増悪の間の全体症状および膿性痰は増大するとともに、増悪後のピークフローの回復までの時間が長くなる。このような結果が意味するのは、潜在性気管支感染が、慢性気道炎症に対する外因性刺激としての機能を果たすことにより急性増悪の重要な原因となり得るということである。増悪の実際の誘発因子にもかかわらず、この試験は、特定の細菌病原体(この場合、分類不可能なH.influenzae)による潜在性感染がより重度の細菌性増悪の素因となり得ることを示唆する(同上)。
【0052】
また、慢性炎症は、COPDの病因と進行において中心的な役割を果たしている。研究により、慢性気道炎症応答−ならびに筋肉疲労および他の重要なCOPDの共肺外疾病状態(extrapulmonary co−morbidiity)の一因であるかもしれない独立した全身性炎症応答の特性評価が補助された。Creutzbergら,2000 Am J Res Crit Care Med 161:745−752。喘息およびCOPDは、ともに炎症性疾患であると認識されているが、COPDと喘息の気道炎症プロフィールは根本的に異なっている。喘息は、典型的には、好酸球の粘膜浸潤、Th2リンパ球の増加および肥満細胞の活性化を特徴とする。COPDでは、主に、好中球、マクロファージ、およびTh1細胞とTc1細胞の両方がみられ、後者のものほど相対的に数が多い。Barnesら,2003 Eur Res J 22:672−688。炎症メディエータは、COPDにおいて対応するパターンを示し、好中球化学誘引物質(LTB、IL−8およびTNF−αなど)が顕著である。急性増悪は、このような炎症メディエータにおけるさらなる増大、ならびに関連する肺胞内マクロファージにおけるNF−κBの活性化の増大と関連している。Aaronら,2001 Amer J Respir Crit Care Med 163:349−55およびCaramoriら,2003 Thorax 58:348−351。病態生理学的帰結としては、粘液の過剰分泌、および好中球脱顆粒の増大に副次的な粘膜の浮腫、ならびに気管支の緊張の直接的な(主にLTB関連の)増大が挙げられる。Nadelら,2000,Chest,17:386S−95SおよびGompertzら,2001,ERJ,17:1112−9。総合すると、このような変化により、急性増悪に特徴的な気流の制限の悪化および動的過膨張がもたらされる。O’Donnellら,2006,Thorax、61:354−61。
【0053】
急性増悪傾向の環境が生じることに加え、炎症性カスケードにより、肺組織に対する損傷の原因であると思われる炎症因子が誘導される。このような有害因子のほとんどは好中球によって放出されるもの、例えば、セリンプロテイナーゼ、エラスターゼおよびプロテイナーゼ3であり、これらはすべて、気腫を引き起こすことが知られている。増悪の間のこのような因子のレベル増大は組織損傷の加速期間に対応するようである。最近の試験により、好中球による気道炎症は、増悪の原因が病原性誘発因子の結果であるかどうかに関係なく、すべてのCOPD増悪において劇的に誘発されることが示唆されている。A.Papiら,2006 Am J Resp Crit Care Med 173:1114−1121。
【0054】
COPDの急性増悪が年に最低2回、または一般的には3回起こるCOPD患者を「頻繁な増悪発生者」と称する。米国における100万人を超える患者(患者のほとんどは増悪を有する)は、頻繁な増悪発生者の基準を満たしている(qualify)であろう。Anzeutoら,2009 Am J Res Crit Care Med 179:A1527。持続性の細菌感染は、頻繁な増悪を起こすCOPD患者において有意な因子であり得る。ウイルス感染と細菌感染の併発は、より重症であり、長期の入院が必要である。Hurstら,2005 European Respir J 26:846−852およびSeemungalら,2001 Amer J Respir Crit Care Med 164:1618−1623。
【0055】
頻繁な増悪発生者の具体的なCOPD表現型は、少なくとも一部において、1年あたり≧2.6回の増悪を起こすCOPD患者は、単により重度の、基礎をなすCOPDを有しないことを示す研究のため、次第に重要になってきている。Peraraら 2007 Eur Res J 29:527−534。頻繁な増悪発生者が共通して有するようであることは、気道炎症の増大である:中等度から重度のCOPDの患者(n=57)臨床試験の一例において、1年あたり3回以上の増悪を有する患者は、1年あたり2回以下の増悪を有する患者よりも、定常状態における有意に高いレベルの痰中IL−6およびIL−8の誘導を有することが示された;これらの炎症マーカーとベースライン肺機能との間に相関はみとめられなかった。Bhowmikら,2000 Thorax 55:114−120)。
【0056】
急性増悪は、その誘発因子に関係なく、典型的には、気管支拡張の増進、全身性コルチコステロイドおよび/または経口抗生物質により処置される。現在使用されている治療剤、例えば、吸入型コルチコステロイド、長時間作用性β作動薬および長時間作用性ムスカリン性拮抗薬では、長期試験において増悪の20〜25%の減少が示されている。増悪を有する患者の推定60〜88%は抗生物質で処置される。Adelphi COPD DSP VII 2008およびAdamsら,2000 Chest 117:1345−1352。残念ながら、COPDの増悪の処置のために選択される単独の抗生物質は存在しておらず、長期効果は、特に、抗生物質耐性の有病割合における関心事である。
【0057】
抗生物質および全身性コルチコステロイドでの中等度から重度のCOPD患者の急性増悪の処置は、特に、膿性痰が存在する場合に有益であることが証明されている。最近のCochraineレビューでは、死亡率および中等度から重度の増悪の処置での処置の成績不良の低減、ならびに増悪持続期間の低減の可能性が見出された。Ramら,2006,Cochrane Database Syst Rev,2:CD004403。抗生物質の地域規模での試験では、特に軽度の増悪において使用した場合、有益性は示されなかった。Allegraら,Pulm Pharmacol Ther 2001 14:49−55。しかしながら、このメタ解析には含めなかったアモキシリン/クラブレート(clavulate)のプラセボ比較対照試験では、プラセボと比べてより良好な症状の解消が示され、疾患の重症度が高いほど、より大きな有益性が見られた。Allegraら,Pulm Pharmacol Ther 2001(上掲))。
【0058】
おおよそ19,000名の中等度のCOPDのオランダ人患者のレトロスペクティブ観察的試験において、経口抗生物質およびコルチコステロイドでの急性増悪の処置を経口コルチコステロイド単独と比較した。この試験では、上記併用療法により、コルチコステロイド単独での処置と比べて、次の増悪までの期間が有意に増大し、死亡率が低減された。BM Roedeら,2008 Thorax 63(11):968−973。この2つの群での2回目の増悪と3回目の増悪との間の期間の比較は、240日に対して127日であった(p<0.001)。また、次の増悪までの抗生物質への曝露は、その後の急性増悪のリスクの低下と関連していた。
【0059】
急性増悪に対する経口抗生物質療法コースは短い方が望ましいであろう。5日間より長い抗生物質のコースを5日間より短いコースと比較した試験の最近のメタ解析により、有効性に差はないことがわかった。El Moussaouiら,2008 Thorax 63:415−422。
【0060】
増悪の頻度、重症度および持続期間を低減することは、COPDの患者の処置における枢要なまだ満たされていない要求である。COPDの患者における頻繁な急性増悪の全体的な影響が、より急速な生活の質の低減、罹患率、死亡率、および保健医療費の一因となっている。現在、急性増悪に苦しんでいる、または急性増悪に感受性であるCOPDの患者、特に、頻繁な増悪発生者である中等度から重度のCOPD患者は、抗生物質の処置の恩恵、特に、短期間の断続的なコースを伴う抗生物質レジメンにおいて恩恵を受けると考えられている。このストラテジー(潜在的は、基礎の気道炎症およびその後の急性増悪のリスクが低減される)は、下気道に潜在的に感染している細菌病原体ならびに急性増悪を誘発し得る任意の新たな細菌病原体(または病原体の株)の両方を標的とするものである。
【0061】
抗生物質療法は、COPDに特徴的な炎症カスケードに対する上流の刺激物を標的とし、それにより、潜在的に余分な炎症経路の落とし穴(pitfall of redundant inflammatory pathway)が回避され得るため、抗生物質では、抗炎症剤、特に吸入型コルチコステロイドと比べて、COPDの処置においてさらなる利点がもたらされ得る。さらに、抗生物質では、病原体に対する適切な宿主媒介性の免疫応答を無力にしない。吸入型コルチコステロイドは、急性増悪の発生数を低減させることが示されているが(長時間作用性β作動薬とともに、またはなしで)、肺炎リスクの増大とも関連している。Calverleyら,2007、NEJM、356:775−89を参照のこと。
【0062】
処置方法および使用
一般的に、本発明は、COPDのヒトの処置方法を提供する。「処置すること」および「処置」は、本明細書で用いる場合、上記障害もしくは病状または上記障害もしくは病状の1つ以上の症状の逆転、緩和、進行の抑止、または抑制をいう。本発明の具体的な実施形態では、「処置すること」は、ヒトにおいてCOPDの急性増悪を処置すること、COPDの急性増悪の頻度、持続期間もしくは重症度を低減させること、COPDの急性増悪の1つ以上の症状を処置すること、COPDの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、持続期間もしくは重症度を低減させること、COPDの急性増悪の発生数を抑制すること、またはCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の発生数を抑制することをいう。頻度、持続期間または重症度の低減は、本発明の方法による処置を受けていない同じヒトにおける急性増悪または症状の頻度、持続期間または重症度に対して相対的なものである。急性増悪または急性増悪の1つ以上の症状の頻度、持続期間または重症度の低減は、COPD患者の処置の経験を有する当業者である臨床医による臨床的観察結果によって測定されてもよく、処置を受けている患者による主観的な自己評価によって測定されてもよい。当業者である臨床医による臨床的観察結果としては、肺機能の客観的な測定値(FEVまたはFEV/FVCなど)、ならびに上記患者が自身の最も安定な状態を維持するのに必要とされる介入の頻度、ならびに上記患者が自身の最も安定な状態を維持するのに必要とされる入院頻度および入院期間の長さが挙げられ得る。
【0063】
典型的には、患者による主観的な自己評価は、業界で認められたおよび/またはFDAで認められた患者報告アウトカム(PRO)ツールを用いて収集される。かかるツールは、上記患者が特定の症状または他の主観的な生活の質の尺度を評価することを可能にするものであり得る。患者報告アウトカムツールの一例は、Exacerbations from Pulmonary Disease Tool(EXACT−PRO)であり、これは、COPDの患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪における臨床応答を評価するために、United BioSource Corporationが、製薬企業スポンサーコンソーシアムとともに上記FDAと協議して現在開発しているものである。
【0064】
急性増悪の症状としては、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、急性錯乱、ならびにこれらの症状の任意の2つ以上の組合せが挙げられる。COPD患者の病状の悪化が急性増悪であると特定するのに、上記の症状のすべてが必要とされるわけではない。急性増悪は、これらの症状のサブセットの形態で顕性となることがあり得る。したがって、本発明者らは、急性増悪の上記の症状のサブセットのみが存在する本発明の方法の実施を想定する。
【0065】
本発明の方法および使用において、上記「COPDのヒト」は、COPDに苦しんでいるか、またはCOPDに対する処置を受けており、COPDの急性増悪を起こしているか、またはCOPDの急性増悪を起こすリスクがあるかのいずれかであるヒトである。一実施形態において、上記「COPDのヒト」は、過去24ヶ月間に少なくとも1回のCOPDの急性増悪を起こしたヒトである。具体的な一実施形態では、上記「COPDのヒト」は、過去12ヶ月間に少なくとも1回のCOPDの急性増悪を起こしたヒトである。一実施形態において、上記「COPDのヒト」は頻繁な増悪発生者である。
【0066】
一実施形態において、本発明は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトの処置方法を提供する。一実施形態において、本発明は、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される1つ以上の症状によって顕性となるCOPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトの処置方法を提供する。
【0067】
一実施形態において、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の頻度、持続期間および/または重症度を低減させるための方法を提供する。一実施形態において、本発明は、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される1つ以上の症状によって顕性となるCOPDの急性増悪の頻度、持続期間および/または重症度を低減させる方法を提供する。
【0068】
別の実施形態では、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の処置方法を提供する。具体的な一実施形態では、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の処置方法であって、上記症状が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される方法を提供する。
【0069】
別の実施形態では、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の任意の1つ以上の症状の頻度、持続期間および/または重症度を低減させるための方法であって、上記症状が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される方法を提供する。
【0070】
一実施形態において、本発明は、吸入によってヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンおよびトブラマイシンからなる、生理学的に許容され得る溶液の状態のエーロゾル製剤を投与することにより、ヒトの気道における細菌感染の処置方法であって、上記製剤がネブライザ、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したものであり、その改善が、COPDのヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む方法を提供する。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約9部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約4部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約3部のトブラマイシンに対して約7部のホスホマイシンである。
【0071】
別の実施形態では、本発明は、COPDのヒトの肺炎症を低減させる方法を提供する。上記方法は、吸入によって上記ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約9部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約4部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約3部のトブラマイシンに対して約7部のホスホマイシンである。本発明の方法による肺炎症の低減は、気道組織の破壊が低減される、ならびに肺機能が改善される、ならびにCOPDの患者の急性増悪(またはその症状)の頻度、持続期間および重症度が低減されるという効果を有するものであり得る。
【0072】
別の実施形態では、本発明は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトを処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。別の実施形態では、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。具体的な一実施形態では、COPDの急性増悪が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される1つ以上の症状によって顕性となり、上記方法は、上記症状の1つ以上の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む。
【0073】
一実施形態において、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状を処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。別の実施形態では、本発明は、ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用を提供する。具体的な一実施形態では、上記1つ以上の症状が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱、またはその任意のサブセットから選択される。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約9部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約1部のトブラマイシンに対して約4部のホスホマイシンである。一実施形態において、上記重量比は、約3部のトブラマイシンに対して約7部のホスホマイシンである。
【0074】
本発明の方法および使用はすべて、吸入によってヒトに、有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与する工程を含むものである。
【0075】
ホスホマイシン
【0076】
【化1】

は、広域スペクトルホスホン酸系抗生物質である。Kahan,F.M.ら,1974 Ann NY Acad Sci 253:364−386,およびWoodruffら,1977 Chemother 23(1):1−22。ホスホマイシンは、グラム陰性菌(例えば、サイトロバクター種(Citrobacter spp)、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロバクター種、Klebsiella pneumoniae、緑膿菌、サルモネラ種(Salmonella spp)、赤痢菌種(Shigella spp)、およびSerratia marcescens)ならびにグラム陽性菌(例えば、バンコマイシン耐性腸球菌、メチシリン耐性S.aureus(MRSA)、メチシリン感受性S.aureus(MSSA)、およびS.pneumoniae)に対して殺菌活性を有する。Greenwoodら,1992 Infection 20(4):S305−S309;Grimm,1979 Infect 7(4):256−259;Marcheseら,2003 Int J Antimicrob Agents 22(2):53−59;およびSchulin,2002 J Antimicrob Chemother 49:403−406;およびPerriら,2002 Diagn Microbiol Infect Dis 42:269−271。ホスホマイシンは、大腸菌、Proteus種、サルモネラ種、赤痢菌種、およびS.marcescensに対して最も大きな活性を有し、これらの種は、一般的に、ホスホマイシン濃度=64μg/mLで阻害される(ForsgrenおよびWalder,1983“Antimicrobial activity of fosfomycin in vitro” J Antimicrob Chemother 11(5):467−471)。ホスホマイシンは、特に、トブラマイシンと比べた場合(Schulin(上掲))、緑膿菌(ForsgrenおよびWalder(上掲))に対して中等度に活性である。
【0077】
ホスホマイシンは殺菌性であるが、大腸菌およびS.aureusに対して時間依存性死滅化を示す(Grifら,2001 J Antimicrob Chemother 48:209−217)。死滅化の速度および度合は、ホスホマイシンがその標的生物体と接触している時間の長さに依存する(Craig,1998 Clin Infect Dis 26(1):1−12;Muellerら,2004 Antimicrob Agents Chemother 48(2):369−377)。上記ホスホマイシン濃度を増大させても、死滅化活性(killing activity)の速度または度合の対応する増大はもたらされない。緑膿菌感染は濃度依存性死滅化活性を示す抗生物質で処置することが好ましいため、この特長は意義を有する(CraigおよびMuellerら(上掲))。
【0078】
ホスホマイシンは、種々の体組織内および体液中に広く分布するが、血漿タンパク質にはたいして結合しない。そのため、ホスホマイシンは、感染部位に充分な濃度で達した場合、抗菌効果の奏功に利用可能となる。
【0079】
ホスホマイシンは、細菌細胞壁でのペプチドグリカン生合成の最初の段階を阻害する。FM Kahanら,1974 Ann NY Acad Sci 235:364−386およびHB Woodruffら,1977 Chemotherapy 23(Suppl 1):1−22。ホスホマイシンは、高い変異頻度を有し、インビトロで細菌の耐性をもたらす。JL Martinezら,2000 Antimicrob Agent Chemother 44:1771−1777およびNilssonら,2003 Antimicrob Agents Chemother 47(9):2850−2858。ホスホマイシン耐性が生じる場合、これは、典型的には、染色体にコードされた輸送系の一方または両方における遺伝子の変異のため、およびあまり一般的でないが修飾酵素によるものである。Arcaら,1997 J Antimicrob Chemother 40:393−399;およびNilssonら,2003(上掲)。
【0080】
ホスホマイシンは、ホスホマイシン二ナトリウム、ホスホマイシントロメタモールおよびホスホマイシンカルシウムとして市販されている。ホスホマイシンカルシウムおよびホスホマイシントロメタモールはどちらも経口製剤であるが、ホスホマイシン二ナトリウムは静脈内製剤である。米国では、経口ホスホマイシントロメタモールのみが非複雑性(uncomplicated)尿路感染症の処置に承認されている。肺に直接送達可能なエーロゾル製剤はまだ市販されていない。
【0081】
本発明の方法では、任意の形態のホスホマイシンが使用され得、ホスホマイシンの具体的な形態の選択は、充分に当業者の自由裁量の範囲内である。現在、ホスホマイシン二ナトリウムは、噴霧療法のための液剤としての投与、または定量吸入器もしくはドライパウダー吸入器からのドライパウダー吸入による投与のために設計されるエーロゾル製剤の調製に好ましい形態である。
【0082】
トブラマイシン
【0083】
【化2】

は、アミノグリコシド系抗生物質であり、グラム陰性好気性バチルス属、例えば、緑膿菌、大腸菌、Acinetobacter種、サイトロバクター種(Citrobacter spp)、エンテロバクター種、K.pneumoniae、Proteus種、サルモネラ種、S.marcescens、および赤痢菌種に対して活性である(Vakulenkoら,2003 Clin Microbiol Rev 16(3):430−450)。特に、トブラマイシンは、緑膿菌に対して高度に活性である。感受性緑膿菌のトブラマイシンMICは、典型的には2μg/mL未満である(Shawarら,1999 Antimicrob Agents Chemother 43(12):2877−2880;Spenckerら,2002 Clin Microbiol Infect 9:370−379;およびVan Eldere,2003 J Antimicrob Chemother 51:347−352)。ほとんどのグラム陽性菌は、S.aureusおよびS.epidermidisを除いて、トブラマイシンに対して耐性である(Vakulenkoら(上掲))。
【0084】
トブラマイシンは、迅速殺菌性であり、細菌タンパク質の合成を阻害することにより作用する。トブラマイシンは、リボソームと相互作用して殺菌効果を生じる前に、細胞膜を通過しなければならない。トブラマイシンは濃度依存性死滅化を示す。上記トブラマイシン濃度を増加させると、細菌死滅化の速度と程度の両方が増大する。したがって、治療の好成績を得るためには、感染部位においてその標的生物体のMICよりも5〜10倍大きいピークトブラマイシンレベルがもたらされるのに充分大きな用量を投与することが必要である。緑膿菌感染症は、濃度依存性の死滅化活性を示す抗生物質で処置することが好ましい(Ansorgら,1990 Chemother 36:222−229)。
【0085】
トブラマイシンは、通常、あまり重篤でないグラム陰性菌感染症を処置するために投与される(Vakulenkoら(上掲))。しかしながら、これは、尿路および腹部の重度の感染症、ならびに心内膜炎および菌血症(同上)を処置するために、他の類型の抗生物質と併用されることがあり得る。細胞壁阻害抗生物質と併用したトブラマイシンの非経口投与は、CF患者において呼吸器の感染症、特に、緑膿菌によって引き起こされるものを処置するために使用されている。
【0086】
トブラマイシンは経口による吸収が不充分であり、非経口で投与しなければならない。トブラマイシンは、静脈内製剤およびエーロゾル製剤のどちらにおいても利用可能である。非経口投与後、トブラマイシンは、主に細胞外液中に分布する。トブラマイシンは、糸球体(glomular)濾過によって速やかに排出される(血漿半減期は1〜2時間となる)。Tanら,2003 Am J Respir Crit Care Med 167(6):819−823。トブラマイシンの呼吸器分泌物中への浸透は非常に不充分であり、その活性は、痰に結合することによってさらに低減される(Kuhn,2001 Chest 120:94S−98S)。トブラマイシンのエーロゾル剤投与では、静脈内投与と比べて有意に高い痰中レベル=1000μg/mLがもたらされる(Gellerら,2002 Chest 122:219−226)が、痰との結合は、依然として大きな問題である。COPD患者の気道は、一般的に痰で閉塞されている。いくつかの類型の抗生物質(アミノグリコシドおよびβ−ラクタムなど)の有効性は、痰中への浸透が不充分なため低減され、このような抗生物質の活性は、痰成分との結合によってさらに低減される。Huntら,1995 Antimicrob Agents Chemother 39(1):34−39;Kuhn,2001 Chest 120:94S−98S;Ramphalら,1988 J Antimicrob Chemother 22:483−490;およびMendelmanら,1985 Am Rev Respir Dis 132(4):761−765を参照のこと。
【0087】
トブラマイシンに対する細菌の耐性は、反復的および長期間の抗生物質の単独療法により、次第に一般的になってきている。Conwayら,2003 Am J Respir Med 2(4):321−332;Van Eldere,2003 J Antimicrob Chemother 51:347−352;Mirakhurら,2003 J Cyst fibros 2(1):19−24;Pittら,2005 Thorax 58(9):794−796;Schulin,2002 J Antimicrob Chemother 49:403−406)。CF患者には緑膿菌株のコロニーが形成されており、これは、トブラマイシン ゲンタマイシン、セフタジジム、ピペラシリン、およびシプロフロキサシンに対して広範に耐性である。したがって、既存の抗生物質療法は、薬物耐性のため、緑膿菌呼吸器感染症の処置には有効でなくなりつつある。
【0088】
米国において、CF患者の処置のために最も広く使用されているエーロゾル化抗生物質はトブラマイシン吸入液剤(TIS)であり、これは、CF患者の肺機能および他の臨床パラメータにおいてかなりの改善をもたらすことが示されている。TISは、米国では利用可能となって10年を超えるが、一部の臨床医は、長期曝露によって耐性がさらに促進され、静脈内アミノグリコシド療法の有効性が減弱し得ることを恐れて、呼吸器感染症の患者の長期抑制療法にエーロゾル化トブラマイシンを使用したがらない。処置発現性耐性のリスクを低減させるため、CF患者でのTIS処置は、28日間の薬物の後、28日間の薬物なしの交互のコースに制限されている。また、アミノグリコシドは、腎毒性作用および耳毒性作用を有し、静脈内投与した場合は血清濃度の常套的なモニタリングが必要とされる。アミノグリコシド毒性は累積性であり、そのため、任意の経路の反復投与は、一生涯、この薬剤に曝露される懸念が生じる。
【0089】
毒性に関する懸念の結果、ホスホマイシンとトブラマイシンが併用され、トブラマイシンが、ホスホマイシンと併用したときに有効である最小量で存在し、かつドライパウダー吸入薬または噴霧療法液剤によって効率的に投与され得る液状製剤またはドライパウダー製剤を提供することが有益である。
【0090】
トブラマイシンは、塩基または硫酸塩として市販されている。いずれの形態も、本発明の方法および製剤における使用に適している。好都合には、トブラマイシン塩基はドライパウダーとして市販されており、これは、そのままドライパウダー吸入製剤に使用してもよく、薬学的に許容され得る希釈剤で再構成させて噴霧療法のための液剤製剤(solution formulation)にしてもよい。トブラマイシン塩基およびトブラマイシン硫酸塩はどちらも、本発明の方法、治療的使用および製剤における使用に好ましい形態である。
【0091】
製剤
本発明の方法および使用において使用されるエーロゾル製剤は、ホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むものである。現在、ホスホマイシンとトブラマイシンをFTIにて併用すると他の慣用的な抗生物質と比べて一定の利点がもたらされると考えられている。FTIは、重要なCOPD呼吸器系病原体、例えば、緑膿菌(例えば、多剤耐性緑膿菌)S.aureus、H.influenzae、M.catarrhalis、および腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に対して活性である。FTIは、迅速殺菌性であり、トブラマイシンと同等の活性を有する。さらに、FTIは抗生物質耐性の発現を低減させることが示されている。FTIの主成分であるホスホマイシンは、非経口投与した場合、非常に都合のよい安全性プロフィールを有する。トブラマイシンは、重量基準でFTIの30%〜10%、好ましくは20%を構成するため、トブラマイシンによる累積的毒性作用も低減され得る。
【0092】
FTIの主成分であるホスホマイシンは、細菌細胞壁でのペプチドグリカン生合成の最初の段階を、酵素ホスホエノールピルビン酸(UDP−N−アセチルグルコサミンエノールピルバル−トランスフェラーゼ)に不可逆的に結合することにより阻害する。副成分であるトブラマイシンは、翻訳エラーを引き起こすこと、およびトランスロケーションを阻害することにより、タンパク質の生合成を抑制する。このような作用機序に基づき、FTIの向上した活性はトブラマイシンの取込みの増大によるものであることを示唆する証拠が示されている:(i)主成分であるホスホマイシンが静菌性であるにすぎず、時間依存的様式で死滅させた(killed)という事実にもかかわらず、時間−死滅化曲線は、FTIおよびトブラマイシンはどちらも殺菌性であり、濃度依存的様式で死滅させたことを実証する(ii)高分子の生合成試験では、FTIおよびトブラマイシンがタンパク質合成を濃度依存的様式で阻害することが示された(iii)FTIは、殺菌性の死滅化(bactericidal killing)に相当する濃度(8μg/ml)および時間枠内(2〜4時間)でタンパク質合成を、細胞壁の生合成よりも速く、より大きな度合で阻害した(iv)10μg/mLのホスホマイシンを添加すると、ホスホマイシンなし対照と比べてH−トブラマイシン取込みの170%増大がもたらされた。トブラマイシンの内膜を通過するエネルギー依存性輸送を助長するタンパク質(複数可)の厳密な実体は、現在のところ、わかっていない。
【0093】
A. 成分比
上記エーロゾル製剤は、約7〜約9重量部のホスホマイシンと約1〜約3重量部のトブラマイシンの組合せ物を含むものである。より具体的には、上記組合せ物における成分比は約9:1、約4:1または約7:3である。一実施形態において、上記エーロゾル製剤は、ホスホマイシンとトブラマイシン以外の抗生物質薬剤を含まないものである。一実施形態において、上記エーロゾル製剤は、ホスホマイシン、トブラマイシン以外の活性薬剤を含まずそして必要に応じて食塩水(高張食塩水など)を含む液状製剤または液剤製剤である。一実施形態において、エーロゾル製剤は、ホスホマイシンとトブラマイシン以外の活性薬剤を含まないドライパウダーである。
【0094】
重量比で約9:1、約4:1および約7:3(ホスホマイシン:トブラマイシン(「Fos:Tob」))のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を、インビトロ抗菌活性、死滅化速度および耐性頻度について評価した。このデータは、Gilead Sciences Inc.,(以前はCorus Pharma)に対するPCT出願公開番号WO2005/11022およびDL MacLeodら,“Antibacterial activities of fosfomycin/tob−ramycin combination:a novel inhaled antibiotic for bronchiectasis,”2009 J Antimicrob Chemother 64(4)829−836(以下、本明細書において“MacLeod,2009 JAC”)Advance Access(2009年8月13日発行)に公開された。また、一部の特定のデータを、以下の実施例にも繰り返して示す。
【0095】
以前に報告されたチェッカーボード相乗作用試験(PCT出願公開番号WO2005/11022)では、ホスホマイシンとトブラマイシン間の相互作用が、培養液微量希釈チェッカーボード法によって測定された(同上)。FICI=0.5を相乗作用、0.5<FICI≦4を相互作用なし、およびFICI>4を拮抗作用と規定した。最も低いFICIを薬物相互作用の最終解釈に使用した。試験した27種類の菌株:S.aureus,n=4;緑膿菌,n=17;大腸菌,n=5;およびH.influenzae,n=1のいずれでも、ホスホマイシンとトブラマイシンの間に拮抗作用は見られなかった(同上)。上記組合せ物は、27種類の菌株中25種(93%)が相互作用なし、1種類の緑膿菌株と1種類の大腸菌株が相乗作用性に分類された(同上)。したがって、チェッカーボード相乗作用試験では、上記組合せ物の相乗作用特性は実証されなかったが、これは、以下の実施例に報告するように、時間−死滅化試験では明白である。
【0096】
最小阻害濃度試験および時間−死滅化試験により、ホスホマイシンとトブラマイシンの3つの組合せ物はすべて、一般的な呼吸器系病原体に対して活性であることが実証された。上記7:3および4:1のFos:Tobの組合せ物では、9:1の組合せ物と比べて卓越した殺菌活性が示された。長期毒性の理由で、トブラマイシンに対する長期曝露を低減させることが望ましい。したがって、好ましい一実施形態において、上記製剤は、約4重量部のホスホマイシンと約1重量部のトブラマイシンの組合せ物を含むものである。
【0097】
B. エーロゾル製剤および送達デバイス
本発明によるエーロゾル製剤は医薬組成物である。一態様において、本発明は、ホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物、ならびに必要に応じて、1種類以上の薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤もしくはキャリアまたはその組合せ物を含むエーロゾル製剤を提供する。上記薬学的に許容され得る賦形剤(複数可)、希釈剤(複数可)またはキャリア(複数可)は、上記エーロゾル製剤のその他の成分と適合性であり、そのレシピエントに対して有害でないという意味で許容され得るものでなければならない。一般的に、医薬製剤に使用される薬学的に許容され得る賦形剤(複数可)、希釈剤(複数可)またはキャリア(複数可)は、「無毒性」であり(エーロゾル製剤で送達される量での消費が安全であるとみなされることを意味する)、「不活性」である(その活性成分(ホスホマイシンおよびトブラマイシン)と検知可能な反応を行なわない、または上記活性成分の治療活性に対して望ましくない作用をもたらさないことを意味する)。薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤およびキャリアは、当上記技術分野において慣用的であり、所望の投与経路に基づいて、慣用的な手法を用いて選択され得る。Remington’s,Pharmaceutical Sciences,Lippincott Williams & Wilkins;第21版(2005年5月1日)を参照のこと。好ましくは、上記薬学的に許容され得る賦形剤(複数可)、希釈剤(複数可)またはキャリア(複数可)は、上記FDAによって一般に安全と認められたもの(GRAS)である。
【0098】
吸入による肺の気管支内腔への局所送達のためのドライパウダー組成物は、賦形剤やキャリアなしで製剤化され得、代わりに、吸入に好適な粒径を有するドライパウダー形態の活性成分のみを含むように製剤化され得る。また、ドライパウダー組成物は、上記活性成分ミックスおよび適当な粉末基剤(キャリア/希釈剤/賦形剤物質)、例えば、単糖類、二糖類または多糖類(例えば、ラクトースまたはデンプン)を含むものであってもよい。ラクトースは、ドライパウダー製剤に一般的に使用される賦形剤である。ラクトースなどの固形賦形剤が使用される場合、一般的に、上記賦形剤の粒径は、吸入器内での上記製剤の分散が補助されるように、上記活性成分よりもずっと大きい。より新規なドライパウダー賦形剤が、現在、当上記技術分野において研究中であり、ドライパウダーホスホマイシン/トブラマイシン併用製剤のための最適な製剤化がもたらされ得る。かかる賦形剤の例としては、修飾ロイシン、例えば限定されないが、トリ−ロイシンおよびN−アセチルロイシンが挙げられる。一実施形態において、上記ドライパウダー製剤は、微粉化ホスホマイシン二ナトリウムを含むホスホマイシン成分と、pH調整したトブラマイシン塩基またはトブラマイシン硫酸塩およびN−アセチルロイシンの噴霧乾燥した溶液を含むトブラマイシン成分とを含むブレンド組成物を含むものである。
【0099】
ドライパウダー製剤の一例は、約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシン(ここで、その成分比は上記のとおりである)を含むドライパウダー製剤である。一実施形態において、上記製剤は、約10〜約160mgのホスホマイシンと約2.5〜約40mgのトブラマイシン(ここで、その成分比は上記のとおりである)を含むものである。具体的な一好ましい実施形態では、上記製剤は、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比が4:1(活性な医薬形態でのw/w)である約10〜約160mgのホスホマイシンと約2.5〜約40mgのトブラマイシンを含むものである。具体的な一好ましい実施形態では、上記製剤は、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比が4:1(活性な医薬形態でのw/w)である約10〜約40mgのホスホマイシンと約2.5〜約10mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、上記ドライパウダー製剤は、10mgのホスホマイシンと2.5mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、上記ドライパウダー製剤は、20mgのホスホマイシンと5mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、上記製剤は、40mgのホスホマイシンと10mgのトブラマイシンを含むものである。これらの製剤の例において、ホスホマイシンおよびトブラマイシンはともに、吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有する。また、上記製剤は、25%(製剤の全質量に対するw/w)の医薬等級賦形剤(約20〜約300μmの粒径を有するラクトース一水和物など)を含んでいてもよい。
【0100】
一実施形態において、上記組成物は、吸入および肺の気管支内腔への送達に適した吸入用医薬組成物である。典型的には、かかる組成物は、ネブライザ、加圧式定量吸入器(MDI)、ソフトミスト吸入器、またはドライパウダー吸入器(DPI)を用いて送達するための粒子を含むエーロゾルの形態である。本発明の方法で使用されるエーロゾル製剤は、ネブライザ、ソフトミスト吸入器もしくはMDIによる投与に適した液状物(例えば、液剤)であり得るか、またはMDIもしくはDPIによる投与に適したドライパウダーであり得る。
【0101】
気道に医薬を投与するために使用されるエーロゾルは、典型的には多分散系である、すなわち、それは多くの異なる大きさの粒子で構成されている。その粒径分布は、典型的には、空気力学的質量中央径(MMAD)と幾何標準偏差(GSD)によって示される。上記気管支内腔への最適な薬物送達のためには、そのMMADは、約1〜約10μm、好ましくは約1〜約5μmの範囲であり、そのGSDは、3未満、好ましくは約2未満である。10μmより上のMMADを有するエーロゾルは、一般的に、吸入した場合、大きすぎて肺に到達することができない。約3より大きいGSDを有するエーロゾルは、上記医薬の多くの割合が口腔に送達されるため、肺送達に好ましくない。粉末製剤においてこのような粒径を達成するため、上記活性成分の粒子は、微粉化または噴霧乾燥などの慣用的な手法を用いてサイズリダクションされ得る。所望の画分が、空気分級(air classification)または篩い分け(sieving)によって分取され得る。好ましくは、上記粒子は結晶性である。液状製剤では、その粒径は、ネブライザ、ソフトミスト吸入器またはMDIの具体的な型を選択することによって決定される。
【0102】
エーロゾルの粒径分布は、当上記技術分野でよく知られたデバイスを用いて測定される。例えば、多段階Andersonカスケード式インパクターまたは他の適当な方法、例えば、US Pharmacopoeia Chapter 601に、定量吸入器およびドライパウダー吸入器から放出されるエーロゾル用の特性評価デバイスとして具体的に示されたもの。
【0103】
ドライパウダー吸入器の非限定的な例としては、レザーバー型複数回用量(multi−dose)吸入器、前計量複数回用量吸入器、カプセル系吸入器および単回用量使い捨て吸入器が挙げられる。レザーバー型吸入器は、多数回分の用量(例えば、60回分)が1つの容器に内包される。吸入前、上記患者が吸入器を作動させると、その吸入器内に1回分の用量の医薬がレザーバーから計量され、吸入の準備がなされる。レザーバー型DPIの例としては、限定されないが、Turbohaler(登録商標)(AstraZeneca製)およびClickHaler(登録商標)(Vectura製)が挙げられる。
【0104】
前計量複数回用量吸入器では、個々の各用量が個別の容器内で製造されており、吸入前にその吸入器を作動させると、新たな用量の薬物がその容器から放出され、吸入の準備がなされる。複数回用量DPI吸入器の例としては、限定されないが、Diskus(登録商標)(GSK製)、Gyrohaler(登録商標)(Vectura製)、およびProhaler(登録商標)(Valois製)が挙げられる。吸入の間、上記患者の吸気流によってデバイスから口腔内への粉末の排出が加速される。カプセル吸入器では、製剤は、カプセル内に存在し、その吸入器外に保存される。上記患者はカプセルをその吸入器内に押し込み、その吸入器を作動させ(そのカプセルに穿刺する)、次いで吸入する。例としては、Rotohaler(商標)(GlaxoSmithKline)、Spinhaler(商標)(Novartis)、HandiHaler(商標)(IB)、TurboSpin(商標)(PH&T)が挙げられる。単回用量使い捨て吸入器では、上記患者は、その吸入器を作動させて吸入の準備をし、吸入し、次いで、その吸入器とパッケージを廃棄する。例としては、Twincer(商標)(U Groningen)、OneDose(商標)(GFE)、Manta Inhaler(商標)(Manta Devices)が挙げられる。
【0105】
一般的に、ドライパウダー吸入器では、上記賦形剤−薬物凝集塊の分散が引き起こされる粉末路に特徴的な乱流が使用され、活性成分の粒子を肺内に沈着させる。しかしながら、特定のドライパウダー吸入器では、所望の吸入可能な大きさの粒子を生成させるサイクロン分散チャンバが使用される。サイクロン分散チャンバでは、上記薬物をコイン形状の分散チャンバ(dispersion chamber)に、その空気路(air path)と薬物が円形の外側壁に沿って移動するようにタンジェンシャルに進入させる。上記薬物製剤がこの円形壁に沿って移動するにつれてそれははずむように進み(bounce)、凝集塊が衝突力によってばらばらに分解される。上記空気路は、上記チャンバの中心に向かって渦巻き形に進み、垂直に排出される。充分に小さい空気力学的サイズを有する粒子が、上記空気路に従ってチャンバから排出され得る。実際には、上記分散チャンバは、小型ジェットミルと同様の動作をする。上記製剤の具体的事項によっては、その製剤がAPI粒子との衝突によって分散されるのを補助するために大型のラクトース粒子が添加され得る。
【0106】
上記Twincer(商標)単回用量使い捨て吸入器は、「空気分級機」と称されるコイン形状のサイクロン分散チャンバを用いて作動させているようである。Rijksuniversiteit Groningenに対する米国特許出願公開公報番号2006/0237010を参照のこと。フローニンゲン(Groningen)大学により発表された論文には、この技術を用いて、60mg用量の純粋な微粉化コリスチンスルホメタン酸塩(colistin sulfomethate)が吸入用ドライパウダーとして有効に送達され得ると記載されている。
【0107】
好ましい実施形態において、上記エーロゾル製剤は、ドライパウダーとしてドライパウダー吸入器を用いて送達され、このとき、その吸入器から放出される粒子は約1μm〜約5μmの範囲のMMADおよび約2未満のGSDを有する。
【0108】
本発明による組成物の送達における使用のための好適なドライパウダー吸入器およびドライパウダー分散デバイスの例としては、限定されないが、US7520278;US7322354;US7246617;US7231920;US7219665;US7207330;US6880555;US5,522,385;US6845772;US6637431;US6329034;US5,458,135;US4,805,811;および米国特許出願公開公報番号2006/0237010に開示されたものが挙げられる。
【0109】
一実施形態において、本発明による医薬製剤は、Diskus(登録商標)型デバイスでの送達のために製剤化された吸入用ドライパウダーである。上記Diskus(登録商標)デバイスは、その長さ方向に間隔を空けて複数の凹部を有する基材シートで形成された細長い細片と、これを気密的だが剥離可能に密封している蓋シートとを備えていて複数の容器が画定されており、各容器はその内部に、所定量の活性成分を単独あるいは1種類以上のキャリアもしくは賦形剤(例えば、ラクトース)および/または他の治療活性薬剤との混合状態のいずれかで含む吸入用製剤を有する。好ましくは、上記細片は、ロール状に巻かれるように充分に柔軟性である。上記蓋シートおよび基材シートは、好ましくは、互いを密封しない先端部分を有し、その先端部分の少なくとも1つは、巻き上げ手段に取り付けられるように構成されている。また、好ましくは、上記基材および蓋シート間の気密的密封部は幅全体に延在させる。吸入用の用量を準備するため、上記蓋シートは上記基材シートから、好ましくは、上記基材シートの第1端から長手方向に剥離するのがよい。
【0110】
一実施形態において、本発明による医薬製剤は、単回用量使い捨て吸入器、特に、上記Twincer(商標)吸入器を用いて送達するために製剤化された吸入用ドライパウダーである。上記Twincer(商標)吸入器は、1つ以上の凹部と、これを気密的だが剥離可能に密封している蓋シートとを有するホイル積層ブリスターを備えていて複数の容器が画定されている。各容器はその内部に、所定量の活性成分(複数可)を単独あるいは1種類以上のキャリアまたは賦形剤(例えば、ラクトース)との混合状態のいずれかで含む吸入用製剤を有する。上記蓋シートは、好ましくは、上記吸入器の本体から突出するように構成された先端部分を有する。上記患者が上記デバイスを作動させると、それにより上記エーロゾル製剤が、1)そのパッケージの外側上包が除かれ、2)そのホイルタブが引かれて覆いが外れて薬物がブリスター内に入り、そして3)上記薬物が上記ブリスターから吸入されることにより投与され得る。
【0111】
別の実施形態では、本発明による医薬組成物は、ドライパウダーとして定量吸入器を用いて送達される。定量吸入器およびデバイスの非限定的な例としては、US5,261,538;US5,544,647;US5,622,163;US4,955,371;US3,565,070;US3,361306ならびにUS6,116,234およびUS7108159に開示されたものが挙げられる。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、その放出される粒子が約1μm〜約5μmの範囲のMMADおよび約2未満のGSDを有するドライパウダーとして、定量吸入器を用いて送達される。
【0112】
また、本発明による方法および使用は、吸入による送達に適した液状エーロゾル製剤を用いてなされ得る。吸入による肺または気管支内腔への送達のための液状エーロゾル製剤は、例えば、加圧式パック、例えば、定量吸入器(適当な液状化噴射剤の使用を伴う)、ソフトミスト吸入器、またはネブライザから送達される水性の液剤もしくは懸濁剤またはエーロゾル剤として製剤化され得る。吸入に適したかかるエーロゾル剤組成物は、懸濁剤または液剤のいずれかであり得、一般的に、上記活性成分を、薬学的に許容され得るキャリアまたは希釈剤(例えば、水、食塩水、もしくはエタノール)および必要に応じて1種類以上の治療活性薬剤と一緒に含む。
【0113】
加圧式定量吸入器での送達のためにエーロゾル製剤は、典型的には、さらに薬学的に許容され得る噴射剤を含む。かかる噴射剤の例としては、フルオロカーボンまたは水素含有クロロフルオロカーボンまたはその混合物、特に、ヒドロフルオロアルカン、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、特に、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3,−ヘプタフルオロ−n−プロパンまたはその混合物が挙げられる。上記エーロゾル剤組成物は、賦形剤を含有しないものであってもよく、必要に応じて、当上記技術分野でよく知られたさらなる製剤用賦形剤(界面活性剤(例えば、オレイン酸またはレシチン)および共溶媒(例えば、エタノール)など)を含むものであってもよい。加圧製剤は、一般的に、弁(例えば、計量弁(metering valve))で密閉され、マウスピースを備えたアクチュエーターに嵌合されるキャニスター(例えば、アルミニウム製キャニスター)内に保持される。
【0114】
別の実施形態では、上記エーロゾル製剤は、液状物として定量吸入器を用いて送達される。定量吸入器およびデバイスの非限定的な例としては、US6,253,762、US6,413,497、US7,601,336、US7,481,995、US6,743,413、およびUS7,105,152に開示されたものが挙げられる。
【0115】
具体的な一実施形態では、上記エーロゾル製剤は定量吸入器を用いて送達され、そこでは、その放出される粒子が約1μm〜約5μmの範囲のMMADおよび約2未満のGSDを有する。
【0116】
一実施形態において、上記エーロゾル製剤は、ジェット式ネブライザ、または超音波ネブライザ、例えば、スタティック式および振動式多孔板ネブライザでのエーロゾル適用に適したものである。噴霧療法のための液状エーロゾル製剤は、固形粒子製剤を可溶化または再構成させることにより作製してもよく、水性のビヒクルを用いて、酸またはアルカリ、緩衝塩(buffer salt)および張度調整剤などの薬剤の添加を伴って製剤化してもよい。上記製剤は、処理手法(濾過など)、または末端処理(オートクレーブ内での加熱もしくはガンマ線照射など)によって滅菌され得る。また、上記製剤を非滅菌形態で提示してもよい。
【0117】
一実施形態において、ホスホマイシン+トブラマイシンの液状エーロゾル製剤は、1〜5mLの液剤あたり約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシン(ここで、その成分比は上記のとおりである)を含むものである。一実施形態において、上記製剤は、約10〜約160mgのホスホマイシンと約2.5〜約40mgのトブラマイシンを含むものである。特に好ましい一実施形態では、上記製剤は、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比が4:1(活性な医薬形態でのw/w)である約10〜約160mgのホスホマイシンと約2.5〜約40mgのトブラマイシンを含むものである。上記液剤は、典型的には、滅菌水または少なくとも25mMの塩化物濃度を有する滅菌食塩水を用いて調製される。一実施形態において、噴霧療法のための液状製剤は、4mLの溶液中に溶解または懸濁された10mgのホスホマイシンと2.5mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、噴霧療法のための液状製剤は、4mLの溶液中に溶解または懸濁された20mgのホスホマイシンと5mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、噴霧療法のための液状製剤は、4mLの溶液中に溶解または懸濁された40mgのホスホマイシンと10mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、噴霧療法のための液状製剤は、4mLの溶液中に溶解または懸濁された80mgのホスホマイシンと20mgのトブラマイシンを含むものである。一実施形態において、上記液状製剤は、4mLの溶液中に溶解または懸濁された160mgのホスホマイシンと40mgのトブラマイシンを含むものである。別の実施形態では、上記液状製剤は、2mLの溶液中に溶解または懸濁された160mgのホスホマイシンと40mgのトブラマイシンを含むものである。
【0118】
患者は、噴霧化された液剤のpH、重量オスモル濃度、およびイオン含量に対して感受性であり得る。したがって、これらのパラメータは、ホスホマイシン+トブラマイシンと適合性となるように、および患者に対して耐容性となるように調整されるべきである。ホスホマイシン+トブラマイシンの最も好ましい液剤または懸濁剤は、pH4.5〜8.0で>30mMの塩化物濃度、および1600mOsm/kg未満、好ましくは約800〜約1000mOsm/kgの重量オスモル濃度を含むものである。上記液剤のpHは、一般的な酸(例えば、塩酸もしくは硫酸)または塩基(例えば、水酸化ナトリウム)での滴定、あるいはバッファーの使用のいずれかによって調節され得る。一般的に使用されるバッファーとしては、クエン酸バッファー、酢酸バッファー、およびリン酸バッファーが挙げられる。バッファー強度は2mM〜50mMの範囲であり得る。ホスホマイシンが不純物である開環グリコール生成物(「ホスホマイシン不純物A」)に加水分解される速度は、ホスホマイシンがプロトン化される(protenated)につれて増大するため;すなわち、その溶液がより酸性になるにつれて、ホスホマイシンは速やかにホスホマイシン不純物Aに分解され、その効力が減少するため、好ましいpH範囲は7〜8である。
【0119】
かかる製剤は、市販のネブライザ、またはその製剤を気道内への沈着に適した粒子または液滴に分けることができる他のアトマイザを用いて投与され得る。本発明の組成物のエーロゾル送達に使用され得るネブライザの非限定的な例としては、空気式ジェット式ネブライザ、換気型(vented)もしくは呼吸促進型ジェット式ネブライザ、または超音波ネブライザ、例えば、スタティック式または振動式多孔板ネブライザが挙げられる。
【0120】
ジェット式ネブライザは、高速流の空気を用いて水柱(column of water)中に噴出させ、液滴を生成させるものである。吸入に適さない粒子は、壁面または空気力学的バッフルに衝突する。換気型または呼吸促進型ネブライザは、上記患者が吸入中のそのネブライザの排出速度を増大させるために、吸入された空気を一次液滴生成エリアに通すこと以外は、ジェット式ネブライザと本質的に同様の動作をする。
【0121】
超音波ネブライザでは、圧電クリスタルの振動によって薬物レザーバー内に表面不安定を生じさせ、これにより液滴の形成を引き起こす。多孔板ネブライザでは、超音波エネルギーによって生じる圧力場により液状物がメッシュ孔に通され、ここで、レイリー分解によって液滴に分割される。上記超音波エネルギーは、圧電クリスタルによって駆動される振動式のホーンもしくはプレートによって、または上記メッシュ自体が振動することによって供給され得る。アトマイザの非限定的な例としては、任意のシングル型もしくはツイン型流体アトマイザまたは適切な大きさの液滴を生成させるノズルが挙げられる。シングル型流体アトマイザは、液状物を1つ以上の穴に通し、ここで上記液状物の噴流が液滴に分割されることにより動作する。ツイン型流体アトマイザは、ガス状物と液状物の両方を1つ以上の穴に通すこと、または液状物の噴流を別の液状物もしくはガス状物の噴流に衝突させることのいずれかにより動作する。
【0122】
上記エーロゾル製剤をエーロゾル化させるネブライザの選択は、上記活性成分(複数可)の投与において重要である。異なるネブライザは、その設計および操作原理に基づいて異なる効率を有し、上記製剤の物理的および化学的特性に対して感受性である。例えば、異なる表面張力を有する2つの製剤は異なる粒径分布を有し得る。さらに、pH、重量オスモル濃度および浸透イオン量などの製剤の特性は、上記薬物療法の耐容性に影響を及ぼすことがあり得、そのため、好ましい実施形態は、このような特性の特定の範囲に適合するものである。
【0123】
具体的な実施形態において、噴霧療法のための製剤は気管支内腔に、約1μm〜約5μmのMMADおよび2未満のGSDを有するエーロゾルとして、適切なネブライザを用いて送達される。最適に有効にするため、ならびに上気道および全身性の副作用を回避するため、上記エーロゾルは、約5μmより大きいMMADを有するべきでなく、約2より大きいGSDを有するべきでない。エーロゾルが約5μmより大きいMMADまたは約2より大きいGSDを有する場合、その用量の多くの割合が上気道に沈着され得、下気道の炎症および気管支収縮の部位に送達される薬物の量が減少する。上記エーロゾルのMMADが約1μmより小さいと、多くの割合の粒子が、吸入空気中に懸濁されたままとなり得、その結果、呼息の間に呼出されることになり得る。
【0124】
上記に具体的に挙げた成分に加えて、本発明の製剤に、対象の製剤の型を考慮した当上記技術分野において慣用的な他の薬剤を含めてもよいことを理解されたい。
【0125】
C. 投与
上記エーロゾル製剤は、単位用量あたりに所定量の活性成分(ホスホマイシンおよびトブラマイシン)を含む単位投薬形態で、または例えば、吸入器によって計量される組成物の場合のようなバルク形態で提示され得る。上記エーロゾル製剤のための好ましい単位投薬製剤は、有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物、またはその適切な分割量(fraction)を含むものである。
【0126】
各単位用量に含めるホスホマイシンおよびトブラマイシンの厳密な量は、当上記技術分野における慣用的な知識を用いて、いくつかの要素、例えば、処置対象の病状、投与経路、上記化合物のバイオアベイラビリティ、処置対象の種、ならびに上記患者の年齢、体重および病状に基づいて最適化され得る。単位投薬組成物は、上記活性成分の1ヶ月分、1週間分もしくは毎日の用量、またはその下位用量もしくは適切な分割量を含むものであり得る。単位用量は、具体的な病状の処置のために毎日1回以上で投与してもよい。
【0127】
典型的には、上記製剤中のホスホマイシンおよびトブラマイシンの具体的な量は、1回あたりの用量基準で、ホスホマイシンが1〜200mgおよびトブラマイシンが0.1〜86mgの範囲である(ここで、その成分比は上記のとおりである)。より具体的には、上記製剤中のホスホマイシンおよびトブラマイシンの量は、1回あたりの用量基準で、ホスホマイシンが10〜160mgおよびトブラマイシンが2.5〜40mgの範囲である。一実施形態において、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約20〜約160mgのホスホマイシンと約5〜約40mgのトブラマイシンを含む(ここで、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比は、約7〜約9重量部のホスホマイシンおよび約1〜約3重量部のトブラマイシンである)。一実施形態において、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比が活性な医薬形態で約1重量部に対して約4重量部である約20〜約160mgのホスホマイシンと約5〜約40mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約10〜約20mgのホスホマイシンと約2.5〜約5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約10mgのホスホマイシンと約2.5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約20mgのホスホマイシンと約5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約40mgのホスホマイシンと約10mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約80mgのホスホマイシンと約20mgのトブラマイシンを含む。別の具体的な実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約160mgのホスホマイシンと約40mgのトブラマイシンを含む。
【0128】
本明細書に記載の方法は、有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を、吸入によってCOPDのヒトに投与することにより行なわれる。用語「有効量」は、本明細書で用いる場合、投与対象の被験体において、例えば、研究者または臨床医が求めている細胞培養物、組織、系の生物学的または医学的応答が誘発されるのに充分なホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物の量である。一実施形態において、上記有効量は、かかる組成物を吸入によって投与したとき、予測した生理学的応答または所望の生物学的効果が得られるように、処置対象の被験体の気道および肺の分泌物中および組織内、あるいはまた、上記被験体の血流中に所望の薬物レベルがもたらされるのに必要とされる量である。例えば、ヒトのCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための上記組合せ物の有効量は、投与対象のヒトにおいて、記載の効果を有するのに充分な量である。一実施形態において、有効量は、COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるヒトのCOPDを処置するのに充分な上記組合せ物の量である。別の実施形態では、上記組合せ物の上記量は、投与対象の被験体において、ヒトのCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間が低減されるのに充分な量である。
【0129】
有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物は、各成分を別々に送達した場合に治療効果に必要とされるよりも少ない各成分を含むものであり得る。したがって、有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物は、治療量以下の用量の一方または両方の成分を含むものであり得る。上記組合せ物の厳密な有効量は、いくつかの要素、例えば限定されないが、処置対象の被験体の種、年齢および体重、処置を必要とする厳密な病状およびその重症度、投与される化合物のバイオアベイラビリティ、効力、および他の特性、その製剤の性質、投与経路、ならびに上記送達デバイスに依存し、最終的には、担当医師が判断する。
【0130】
一実施形態において、有効量の上記製剤は、約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシンを含むものである(ここで、その成分比は上記のとおりである)。患者に対する具体的な用量の選択は、当業者である担当医師または臨床医により、いくつかの要素(例えば、上記のもの)に基づいて決定される。具体的な一実施形態では、上記製剤中のホスホマイシンおよびトブラマイシンの量は、1回あたりの用量基準で、ホスホマイシンが約10〜約160mgおよびトブラマイシンが約2.5〜約40mgの範囲である(ここで、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比は、約7〜約9重量部のホスホマイシンおよび約1〜約3重量部のトブラマイシンである)。一実施形態において、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、トブラマイシンに対するホスホマイシンの比が活性な医薬形態で約4:1のFos:Tob(重量で)である約10〜約160mgのホスホマイシンと約2.5〜約40mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約10〜約20mgのホスホマイシンと約2.5〜約5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約10mgのホスホマイシンと約2.5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約20mgのホスホマイシンと約5mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、有効量の上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約40mgのホスホマイシンと約10mgのトブラマイシンを含む。具体的な一実施形態では、有効量の上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約80mgのホスホマイシンと約20mgのトブラマイシンを含む。別の具体的な実施形態では、有効量の上記製剤は、1回あたりの用量基準で、約160mgのホスホマイシンと約40mgのトブラマイシンを含む。
【0131】
有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの上記組合せ物の送達は、単回投薬量、または指定された期間(24時間など)にわたって同時にもしくは時間的に別々に送達され得る複数回単位用量の送達を伴うものであり得る。典型的には、上記エーロゾル製剤は、1日4回、3回または2回、あるいは1日(24時間に)1回で投与される。一実施形態において、有効量の上記組合せ物を含む上記エーロゾル製剤は、1日(すなわち、24時間の期間にわたって)2回投与される。具体的な一実施形態では、有効量の上記組合せ物を含む上記エーロゾル製剤は、1日(すなわち、24時間の期間にわたって)2回で、連続して数日間、特に7〜14日間、より特別には7日間投与される。
【0132】
本発明によるエーロゾル製剤は、吸入による投与のために設計されたものである。吸入型抗生物質は、比較的高い薬物濃度を感染部位に、最小限の全身性吸収で送達することができ、したがって、IV曝露と関連する副作用のリスクが低減されるため、静脈内療法と比べて利点をもたらす。
【0133】
上記エーロゾル製剤の肺用量は、上記エーロゾル製剤中の各成分薬物の選択用量および上記送達デバイスの効率に応じて異なる。ネブライザの効率は、ドライパウダー吸入器と定量吸入器で異なることが充分に確立されている。さらに、上記効率は、種々のネブライザ間、ドライパウダー吸入器間および定量吸入器間でも異なり得ることが充分に確立されている。一実施形態において、本発明の方法および使用に適当なFTIの肺用量は、1回の用量あたり、約10mgのホスホマイシンおよび2.5mgのトブラマイシンである。
【0134】
D. エーロゾル製剤の調製
上記製剤は、製薬技術分野において慣用的な方法を用いて調製され得る。定量吸入器に使用され得るものなどのバルク組成物を除き、医薬組成物を調製するための方法は、上記活性成分を、1種類以上のキャリア(複数可)、希釈剤(複数可)および/または賦形剤(複数可)ならびに必要に応じて、1以上の補助成分と合わせた状態にする工程を含む。一般に、上記エーロゾル製剤は、上記活性成分を、1種類以上の液状のキャリア、希釈剤もしくは賦形剤または微細にした固形のキャリア、希釈剤もしくは賦形剤、または両方と均一かつ充分に合わせた状態にし、次いで、必要であれば、生成物を適切に改良して吸入のための所望の粒状特性を得ることにより調製される。
【0135】
一実施形態において、本発明は、ホスホマイシンおよびトブラマイシンならびに必要に応じて、薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤または希釈剤からなるエーロゾル製剤を調製するための方法であって、
a) 吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有するホスホマイシンとトブラマイシンの粒状混合物を調製すること;または
b) ホスホマイシンとトブラマイシンの一方もしくは両方を、
個々に、もしくは1種類以上の薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤および/またはキャリア
と一緒にのいずれかで混合すること;または
c) ホスホマイシンとトブラマイシンを薬学的に許容され得る溶液に可溶化もしくは懸濁させること
を含む方法を提供する。
【実施例】
【0136】
実施例
実施例1:最小阻害濃度(MIC)試験
3つのMIC試験を以下に報告する。これらの試験のうち2つに関する以下のデータは、Gilead Sciences,Inc.(以前はCorus Pharma)に対するPCT出願公開公報番号WO2005/110022およびMacLeod,2009 JACにおいて以前に公開された。
【0137】
A. 9:1のFos:Tob、7:3のFos:Tobおよび5:5のFos:Tob
呼吸器感染症を引き起こすグラム陽性菌およびグラム陰性菌の代表的な種に対する抗生物質および抗生物質の組合せ物の有効性をMICアッセイにおいて評価した。緑膿菌株は、嚢胞性線維症患者から収集した肺の痰試料、血液培養物、気道の病原菌(respiratory tract infection)、および皮膚または軟部組織の病原菌から分離した。H.influenzae、M.catarrhalis、およびS.aureusは、気道の病原菌から分離した。大腸菌 ATCC 25922、緑膿菌ATCC 27853、およびS.aureus ATCC 29213を品質管理菌株として使用した。
【0138】
方法A:ホスホマイシン単独、トブラマイシン単独、またはホスホマイシン+トブラマイシンの組合せ物のMICを、寒天プレート希釈法により、NCCLSガイドライン(NCCLS,2003)に従って測定した。細菌株を、5%の脱線維素ヒツジ血液を含むTrypic Soy Agarプレート(PML Microbiologicals,Wilsonville,Or.)(以下、本明細書において血液寒天プレートという)上に画線し、35℃で一晩インキュベートした。この一夜培養物からの2〜3個の細菌コロニーを3mLの滅菌したノーマルセーライン(normal saline)中に接種し、手短にボルテックスし、0.5 McFarland基準(NCCLS,2003)に調整した。
【0139】
この細菌懸濁物を、滅菌したノーマルセーライン中で1:40に希釈し、接種材料として供した。Mueller−Hinton寒天プレート(以下、本明細書においてMHAという)を、16gのアガロース(Becton−Dickinson,Sparks,MD)、22gのMueller−Hintonブロス粉末(Becton−Dickinson,Sparks,MD)を合わせ、蒸留水で1Lに調整することにより調製した。この寒天をオートクレーブ処理によって滅菌し、55℃まで冷却し、25μg/mLのグルコース−6−リン酸(Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo.)を補充した。25mLの冷却寒天を50mL容コニカルチューブ内にアリコートに分け、濃度が0.06μg/mL〜512μg/mLの範囲となるように適切な濃度の抗生物質を補充した。上記寒天と抗生物質を静かに混合した後、この懸濁物を、滅菌した100mmペトリ皿に注入し、室温で固化させた。この抗生物質寒天プレートに、およそ2×10CFU/スポットを48点接種器(Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo.)を用いて接種した。MICは、35℃で18〜20時間のインキュベーション後、明白な増殖が抑制される抗生物質(複数可)の最低濃度と定義した。大きな緑膿菌集団に対する具体的な抗生物質または抗生物質の組合せ物の活性を、MIC50値とMIC90値を計算することにより調べた。上記MIC50値は、緑膿菌株の50%が阻害される抗生物質(複数可)の濃度と定義した。上記MIC90値は、緑膿菌株の90%が阻害される抗生物質(複数可)の濃度と定義した(WiedemannおよびGrimm,1996)。
【0140】
方法B:ホスホマイシン単独、トブラマイシン単独、またはホスホマイシン+トブラマイシンの組合せ物のMICを、緑膿菌株について、抗生物質の活性に対するムチンの効果を評価するためにブタ胃粘素の存在下で求めた。方法は、オートクレーブ処理の前にMHAに2%(重量/容量)のブタ胃粘素(Sigma Chemical Co.,St.Louis、Mo)を添加したこと以外は、上記の方法Aに記載のものと同一とした。
【0141】
方法C:アミカシン、アルベカシン、ジベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン(netilimicin)、ネオマイシン、ストレプトマイシン、およびトブラマイシン単独のMICを、緑膿菌ATCC 27853について、上記ブロス微量希釈法によりNCCLS基準(NCCLS,2003)に従って求めた。大腸菌 ATCC 25922およびS.aureus ATCC 29213を品質管理菌株として使用した。細菌株を血液寒天プレート上に画線し、35℃で18時間インキュベートした。この一夜培養物からの2〜3個の細菌コロニーを3mLの滅菌したノーマルセーライン中に接種し、手短にボルテックスし、0.5 McFarland基準(NCCLS,2003)に調整した。この細菌懸濁物を、カチオン調整したMueller−Hintonブロス(以下、本明細書においてCAMHBという)中で1:100に希釈した。50マイクロリットルの細菌接種材料(およそ2×10CFU/mL)を、0.125μg/mL〜128μg/mLの濃度範囲の抗生物質の2倍希釈物を補充した50μlのCAMHB(Remel,Lenexa,Kanas)を含む96ウェルプレートの個々のウェル内にピペッティングした。そのMICは、35℃で18〜24時間のインキュベーション後、明白な増殖が抑制される抗生物質(複数可)の最低濃度と定義した。
【0142】
気道感染症を引き起こす一連のグラム陰性菌およびグラム陽性菌の代表的な種に対するホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに組合せ物でのインビトロ効力を表1に示す。
【0143】
表1.グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対するホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに組合せ物のMIC値
【0144】
【表1】

このデータは、ホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物が、COPDの病因に重要であるものを含む広域スペクトルのグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して抗菌活性を有することを示す。
【0145】
表2は、嚢胞性線維症患者の肺の痰試料から分離した100種類の緑膿菌株についての、ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに組合せ物のMIC50値とMIC90値を示す。
【0146】
表2.
【0147】
【表2】

この試験により、ムチンの非存在下では、トブラマイシンが最も活性な抗生物質であることが実証された。ホスホマイシンとトブラマイシンを併用すると、ホスホマイシン単独と比べてMIC50値とMIC90値の有意な減少がもたらされた。ムチン結合モデル(+ムチン)では、上記ホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物は、トブラマイシン単独と同等のMIC50値とMIC90値を有した。
【0148】
上記のデータは、Gilead Sciences Inc.(以前はCorus Pharma)に対するPCT出願公開公報番号WO2005/110022において公開したデータのサブセットである。
【0149】
B. 4:1のFos:Tobの公開済MIC試験
以前に公開した試験では感受性試験を行ない、緑膿菌ならびに他のグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対するFTIの抗菌活性を、個々の抗生物質成分ホスホマイシンおよびトブラマイシンとの比較において評価した。MacLeod,2009 JAC。MICは、寒天プレート希釈法およびブロス微量希釈法により、NCCLS Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacterial That Grow Aerobically,第6版、Approved Standard M7−A6,2003およびNCCLS Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing,第14版、Approved Standard M100−S13 2003に従って測定した(また、2%のムチンを組み込んで、痰との結合の抗菌活性に対する効果をモデル設計した変形型感受性アッセイを用いて、活性を評価した。ムチン中の抗生物質についての活性の時間−死滅化曲線を以下に報告する)。上記MICは、35℃で18〜24時間のインキュベーション後、明白な増殖が抑制される抗生物質の最低濃度と定義した。FTIのMIC値を両方の薬物の濃度で表示した(例は、8mg/LのFTI MIC=6.4mg/Lのホスホマイシン+1.6mg/Lのトブラマイシン)。バンコマイシンおよびシプロフロキサシンのMICは、S.aureus分離菌についてのみ測定した。
【0150】
表3に、臨床分離菌の50%(MIC50)および90%(MIC90)がFTI、ホスホマイシンまたはトブラマイシンによって阻害されたMICをまとめる。
【0151】
表3.グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対するホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに組合せ物のMIC値
【0152】
【表3】

MICは、ブロス微量希釈法によって測定した。他のMICはすべて、寒天希釈法によって測定した。
ND=調べた分離菌の数が少なかったため測定せず。
【0153】
MacLeod,2009 JAC.
MacLeod,2009 JACには以下のことが報告されている:
FTIは、16種類の無作為のS.aureus株に対して高い活性を有し、S.pneumoniae、S.pyogenes、およびE.faecalisに対して中程度の活性を有した。16種類のS.aureus株のうち12種類はMRSAに分類された。S.aureusについてのFTIのMIC50値(2mg/L)は、バンコマイシン(1mg/L)のものとほぼ同一であり、シプロフロキサシンのもの(>4mg/L)より卓越していた。また、FTIは、単独リネゾリド耐性(C059)およびグリコペプチド中間体S.aureus(GISA)(C060)分離菌に対して活性であり、MICは、それぞれ2mg/Lおよび1mg/Lであった。
【0154】
調べたグラム陰性生物体のうち、FTIは、大腸菌(0.5mg/L)、H.influenzae(0.5mg/L)、Klebsiella種(1mg/L)ならびに緑膿菌(非CF,4mg/L;およびCF,8mg/L)株に対して最も低いMIC50を有する。また、FTIは、M.catarrhalis株に対して高い活性を有するが、S.maltophiliaおよびB.cepacia complexに対しては活性が不充分である。トブラマイシン耐性および高ホスホマイシンMIC(=128mg/L)の菌株に対しては、FTIは、最も活性な単独抗生物質成分のものと同等のMICを有した。トブラマイシンのMIC50値およびMIC90値は、CF緑膿菌株(2および16mg/L)ならびに非CF緑膿菌株(1および128mg/L)に対して最も低かった。ホスホマイシンは、S.aureus、H.influenzae、大腸菌およびKlebsiella種に対して強力な活性を有する。緑膿菌およびS.maltophiliaに対しては、中程度の活性が示され、B.cepacia complexに対しては不充分な活性が示された。
【0155】
C. 4:1のFos:Tobでの最小阻害濃度(MIC)試験
COPDにおそらく、または潜在的に関与している種の範囲を示すために選択した最近の1332種類の臨床分離菌に対するインビトロ感受性データを得た。その試験は、Clinical Microbiology Institute(CMI){9725 SW Commerce Circle,Wilsonville、OR 97070}によるClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)の標準法に従って行なった。
【0156】
ブロス微量希釈試験および寒天希釈試験は、その試験を実施した時点で最新版のNCCLS/CLSIドキュメントM7−A7に従って行なった。MICトレイは、CMIにおいて、カチオン調整Mueller−Hintonブロス(CAMHB,DIFCOロット番号7306781)を用いて作製されたものであった。その培地は、連鎖球菌属の試験用に溶解ウマ血液(Hemostatロット番号H0318)を補充するか、またはH.influenzaeの試験用にヘモフィルス試験培地(HTM)として構成した。ホスホマイシンまたはFTIを含有する培地にはすべて、25μg/mlのグルコース−6−リン酸を補充した。CLSI基準には、「承認されるMIC感受性試験方法は寒天希釈である。ブロス希釈は行なわないのがよい」と明示されている。これは、一般的に、寒天希釈法とブロス微量希釈法との相関性が不充分なためである。この試験ではブロス微量希釈を行なったが、FTIとホスホマイシンまたはトブラマイシンとの比較はすべて、上記寒天希釈の結果に基づいて行なった。
【0157】
寒天希釈プレートは、必要に応じて5%ヒツジ血液(Hema Resourcesロット番号0911−100140−04)を補充するか、またはHTM寒天として構成したBBL脱水Mueller−Hinton寒天培地(ロット番号8134155)を用いて調製した。上記ブロス培地の場合と同様、ホスホマイシンまたはFTIを含有する寒天希釈培地にはすべて、25μg/mlのグルコース−6−リン酸を補充した。
【0158】
FTIは、トブラマイシンに対してホスホマイシンが4:1の固定比で試験し、256/64μg/mlから0.12/0.03μg/mlまでの範囲にわたって試験した。ホスホマイシン単独は、256μg/mlから0.12μg/mlまでの範囲にわたって試験した。トブラマイシン単独は、32μg/mlから0.015μg/mlまでの範囲にわたって試験した。
【0159】
ブロス微量希釈試験パネルおよび寒天希釈プレートは、CMIにおいて調製されたものであった。ホスホマイシン粉末(ロット番号077K1668)、トブラマイシン(ロット番号068K1232)、オキサシリン(ロット番号018K0610)ペニシリン(ロット番号095K0625)およびアンピシリン(ロット番号106K0689)はSigma社から購入した。上記オキサシリン、ペニシリン、およびアンピシリンは、それぞれ、S.aureus、S.pneumoniae、およびH.influenzaeの表現型分類に使用した。
【0160】
この試験において寒天希釈手法と微量ブロス希釈手法との間に違いがみられるかどうかを調べるため、すべての菌株を、両方の方法によってパラレルで試験した。その結果を、MIC/MIC回帰プロット、およびブロス微量希釈でのMICマイナス寒天希釈でのMICを示す棒グラフを用いて解析した。
【0161】
以下の品質管理菌株:大腸菌 ATCC 25922、S.aureus ATCC 29213、E.faecalis ATCC 29212、緑膿菌ATCC 27853、S.pneumoniae ATCC 49619、H.influenzae ATCC 49247、H.influenzae ATCC 10211を、試験進行の際に毎日試験した。試験した全濃度範囲において「オン・スケール(on−scale)」品質管理を確実にするため、トレイ作製の時点で、さらなる組織内(in−house)品質管理菌株を使用した。
【0162】
COPDと関連している細菌因子に対するFTIの抗菌活性を表3にまとめる。この表には、MIC50とMIC90を示す。FTIは、COPDの患者の肺に見られるすべての細菌種に対して良好なインビトロ活性を示す。
【0163】
表4.グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対するホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに組合せ物のMIC値
【0164】
【表4】

提示したデータは、上記微量ブロス法ではなく上記寒天希釈法を用いて収集したMICを示す。FTIブロス微量希釈でのMICを寒天希釈でのMICと比較した場合、一般的には、この2つの方法間に>95%の一致がみられた。ホスホマイシンでのブロス微量希釈と寒天希釈間の一致の割合は、さらに低く74.6%であった(データ提示せず)。
【0165】
実施例2: 最小殺菌濃度(MBC)/MIC
A. 9:1のFos:Tob、4:1のFos:Tobおよび7:3のFos:TobのMBC/MIC値
ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独のMBCを、緑膿菌ATCC 27853、大腸菌 ATCC 25922、およびS.aureus ATCC 29213について、上記ブロス微量希釈法によりNCCLS基準(NCCLS,1999)に従って測定した。このデータは、Gilead Sciences Inc.(以前はCorus Pharma)に対するPCT出願公開公報番号WO2005/110022において以前に公開された。細菌株を血液寒天プレート上に画線し、35℃で18〜24時間インキュベートした。この一夜培養物からの2〜3個の細菌コロニーを3mLの滅菌したノーマルセーライン中に接種し、手短にボルテックスし、0.5 McFarland基準(NCCLS,2003)に調整した。50マイクロリットルの細菌接種材料(およそ2×10CFU/mL)を、0.125μg/mL〜128μg/mLの濃度範囲の抗生物質の2倍希釈物を補充した50μlのCAMHB(Remel,Lenexa,Kanas)を含む96ウェルプレートの個々のウェル内にピペッティングした。プレートを35℃で18〜24時間インキュベートし、MICを、実施例1の方法Cに記載のようにして測定した。増殖を示さない(MIC以上の)ウェルの内容物をピペッター(pipetor)で混合し、二連の10μl試料を血液寒天プレート上に塗布した。培養プレートを35℃で18〜24時間インキュベートし、各プレートの細菌コロニー数を手作業で数えた。最終の接種材料サイズ、1回または二重サンプリング、ピペッティングエラー、および試料応答のポアソン分布を考慮したNCCLS法(NCCLS,1999)により、棄却値(rejection value)を決定した。例えば、上記最終接種材料が5×10CFU/mLであり、二連の試料を評価した場合、合計25個より少ないコロニーを有する最低希釈度をMBCとみなした。上記MBCは、NCCLS基準(NCCLS,1999)に記載のとおり、元の接種材料のCFU/mLの=3 Log10の減少と定義した。MBC/MIC比は、上記MBCを上記MICで除算することにより計算した。
【0166】
表5は、緑膿菌ATCC 27853、大腸菌 ATCC 25922、およびS.aureus ATCC 29213についての、ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに9:1、4:1、および7:3の組合せ物のMBC/MIC値を示す。緑膿菌では、9:1、4:1、および7:3の組合せ物のMBC/MIC値はトブラマイシン単独と同一であった。この知見は、大腸菌またはS.aureusでは観察されなかった。
【0167】
表5.ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独ならびに9:1、4:1、および7:3のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物のMBC/MIC値
【0168】
【表5】

B. 4:1のFos:Tobに対する臨床菌株のMBC/MIC範囲
MacLeod,2009 JACにはまた、FTIのMBCをトブラマイシンおよびホスホマイシンと比較したと報告されている。MBCは、CLSI(以前はNCCLS)ガイドラインに従って求めた。上記MBCは、元の接種材料のcfu/mLの=3 Log10の減少と定義した。MBC/MIC比は、上記MBC(mg/L)を上記MIC(mg/L)で除算することにより計算した。結果を表6に報告する。
【0169】
表6
【0170】
【表6】

同上
MacLeod,2009 JACには以下のことが報告されている:
FTIおよびトブラマイシンは、S.aureus(100%)、S.pneumoniae(100%)、緑膿菌(100%)、大腸菌(100%)、Klebsiella種(100%)ならびにH.influenzae(それぞれ、83%および100%)株に対して殺菌性であった。ホスホマイシンは、S.aureus(80%)、S.pneumoniae(86%)、緑膿菌(78%)、大腸菌(90%)、Klebsiella種(100%)およびH.influenzae(83%)株に対して殺菌性であった。FTIおよびトブラマイシンはMBC/MIC比=8を有し、これは、どちらの抗生物質も、細菌の増殖阻害によってではなく、細菌を死滅させることにより奏功することを示唆する。
【0171】
実施例3:ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独と比較したFTIの時間死滅化試験
A. 9:1のFos:Tob、4:1のFos:Tobおよび7:3のFos:Tobの時間−死滅化曲線
時間−死滅化実験は、抗生物質の活性に対するムチンおよびタンパク質結合の影響を評価するため、2%のブタ胃粘素の存在下で行なった。この試験は、Gilead Sciences,Inc.(以前はCorus Pharma)に対するPCT出願公開公報番号WO2005/110022において以前に報告された。2〜3個の細菌コロニーを10mLのCAMHB中に接種し、振盪水浴(250rpm)内で35℃にて18〜24時間インキュベートした。この一夜培養物からの1:40希釈物を10mLの新たなCAMHB中で作製し、振盪水浴(250rpm)内で35℃にて1〜2時間インキュベートした。得られた培養物を0.5 McFarland基準(NCCLS,2003)に調整した。複数の抗生物質を比較したときの細菌接種材料サイズのばらつきを少なくするため、2%(重量/容量)のブタ胃粘素を含むCAMHBの1つのマスターチューブに、細菌接種材料(およそ5×10CFU/mL)の1:200希釈物を接種し、25μg/mLのグルコース−6−リン酸を補充し、手短にボルテックスした。次いで、10ミリリットルのアリコートを50mL容コニカルチューブ内にピペッティングした。ホスホマイシン単独、トブラマイシン単独、およびホスホマイシン+トブラマイシンの組合せ物を培養培地に、緑膿菌ATCC 27853に対するホスホマイシン(fosfofomycin)MIC(4μg/mL)の1、2、4、および8倍に相当する濃度で添加した。また、ホスホマイシン+トブラマイシンの死滅化活性を個々の成分の死滅化活性と比較した。例えば、16μg/mLの9:1のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物を、12.8μg/mLのホスホマイシン単独および3.2μg/mLのトブラマイシン単独の死滅化活性と比較した。各実験において、薬物なし対照を実施した。培養物は、抗生物質とともに振盪(250rpm)水浴内で35℃にて24時間インキュベートした。細菌死滅化は、滅菌したノーマルセーラインで培養物の10倍連続希釈物を作製し、100μlのアリコートを血液寒天プレート上に塗布することにより、0、1、2、4、6、および24時間目に測定した。培養プレートを35℃で18〜24時間インキュベートし、コロニー数を手作業で数えた。コロニー計数法の検出限界は1 Log10とした。時間に対して培養物のCFU/mLのLog10数をプロットすることにより時間−死滅化曲線を作成した。元の接種材料を=3 Log10CFU/mL低減させた抗生物質濃度を殺菌性とみなし、元の接種材料を=2 Log10CFU/mL低減させた濃度を静菌性と規定した(NCCLS,1999)。相乗作用は、最も活性な単独抗生物質と比較して抗生物質の組合せ物で=2 Log10CFU/mLの細菌コロニー計数の減少と規定した(NCCLS,1999)。
【0172】
図1は、9:1のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化曲線を示し、ホスホマイシンおよびトブラマイシン(tobramyicn)単独の静菌的死滅化と比べて、緑膿菌ATCC 27853の迅速な殺菌的死滅化を実証する。
【0173】
図2は、4:1のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化曲線を示し、緑膿菌ATCC 27853の迅速な殺菌的死滅化を実証する。4×MICでは、FTI(12.8μg/mLのホスホマイシン+3.2μg/mLのトブラマイシン)は緑膿菌に対して迅速殺菌性であり、個々の成分濃度のホスホマイシン(12.8μg/mL)またはトブラマイシン(3.2μg/mL)と比べて卓越した活性が実証され、ここで上記個々の成分濃度のホスホマイシンまたはトブラマイシンでは静菌活性が示された(図2)。24時間の時点で、FTIは、緑膿菌ATCC 27853に対して殺菌性を維持していた(研究室で常套的に使用される血液培養分離菌)が、ホスホマイシンまたはトブラマイシンいずれかの単独に曝露されている間に再増殖が観察された。
【0174】
図3は、7:3のホスホマイシン:トブラマイシンの組合せ物についての時間−死滅化曲線を示し、緑膿菌ATCC 27853の迅速な殺菌的死滅化を実証する。16μg/mLの濃度では、上記組合せ物の死滅化活性は、ホスホマイシンおよびトブラマイシン単独よりも卓越していた。
【0175】
B. 緑膿菌(P.aeuriginosa)の時間依存性死滅化に対する濃度の評価
用量−応答時間−死滅化試験を行ない、緑膿菌に対する個々の各成分、ならびに上記FTI併用薬の抗菌活性をさらに評価した。各抗生物質が殺菌性であるか静菌性であるか、および時間依存性活性を発揮するのか濃度依存性活性を発揮するのかに関する関連性のある情報が提供されることに加え、この試験では、FTIの有効濃度をホスホマイシンまたはトブラマイシン単独と関連させてより充分に比較することが可能であった。
【0176】
すべての場合において、上記死滅化活性は2%のムチンの存在下で評価した。図4に、ホスホマイシン単独の時間−死滅化曲線を示す。ホスホマイシンは時間依存性死滅化を示し、緑膿菌に対して静菌性であった;上記ホスホマイシン濃度を増大させても、細菌死滅化の速度または度合に有意な増大はもたらされなかった(図4)。
【0177】
トブラマイシン単独についての時間−死滅化曲線を図5に示す。トブラマイシンは濃度依存性死滅化を示し、緑膿菌に対して迅速殺菌性であったが、24時間以内に再増殖が起こった(図5)。トブラマイシン濃度を増大させると、死滅化の速度と程度の両方が有意に増大した。
【0178】
4:1のFos:Tobについての時間−死滅化曲線を図6に示す。トブラマイシンと同様、FTIは濃度依存性死滅化を示し、緑膿菌に対して迅速殺菌性であった(図6)。トブラマイシンとは異なり、FTIの殺菌濃度では、24時間以内に再増殖は観察されなかった。FTIとトブラマイシンがともに濃度依存性死滅化を示すことは、主要作用機序がタンパク質合成の阻害であり得ることを示唆する。
【0179】
実施例4: タンパク質および細胞壁の合成に対する効果ならびに薬物の取込み
現在、FTIの主要作用機序は、ホスホマイシン媒介性のトブラマイシン取込み増強により、タンパク質合成の阻害がもたらされるようであると考えられている。
【0180】
タンパク質および細胞壁ペプチドグリカンの生合成を、それぞれ、トリチウム化した(H)アミノ酸(H−aa)(GE Healthcare Bio−Sciences Corp.;Picataway,NJ)およびN−アセチル−D−グルコサミン(H−NAG)(GE Healthcare Bio−Sciences)の取込みを測定することにより調べた。緑膿菌ATCC 27853の一夜培養物を、125mL容三角フラスコ内にて、50mLのCAMHB+2%のムチンで1:1000に希釈し、37℃、200rpmで1.5時間インキュベートした。2ミリリットルの対数増殖期初期の培養物(約2×10CFU/mL)を10μCiのH−aa(1.93GBq/ミリアトム炭素)または10μCiのH−NAG(296 GBq/mmol)で、37℃、200rpmにて1時間パルス処理した。次いで、FTI、ホスホマイシン、またはトブラマイシンを培養物に添加し、上記のようにしてさらに4時間までインキュベートした。種々の時点で、100μlのアリコート(三連)の培養物を取り出し、10%TCA(VWR)で高分子を沈殿させた。試料をガラス繊維フィルター(GFC)(PerkinElmer;Waltham,MA)上に収集し、35mLのノーマルセーラインで2回洗浄し、取り込まれていない同位体を除去した後、35mLの90%ETOH(VWR)で1回洗浄した。Wallac MicroBeta Trilux(PerkinElmer)を用いて1分間あたりのカウント(CPM)を測定した。
【0181】
薬物曝露の60分後および90分後、ホスホマイシン(6.4μg/mL)およびトブラマイシン(1.6μg/mL)で実証される緑膿菌のタンパク質合成阻害は、FTI(6.4〜1.6μg/mL)と比べて不充分である(図7)。以下に示す薬物取込み試験では、ホスホマイシンの存在下でのトブラマイシン取込みの増強が実証され、これは、60分および90分の時点でのFTIのタンパク質合成阻害の増強がトブラマイシン媒介性機序によって引き起こされることを示唆する。
【0182】
図7および8に示す時間−応答試験は、FTIが、主に、トブラマイシンの作用様式によるタンパク質合成阻害によって作用することを示唆している。FTI(6.4〜1.6μg/mL)は、6.4μg/mLのホスホマイシン(T1/2=145分)および1.6μg/mLのトブラマイシン(T1/2は測定せず[>180分])と比べて、108分までにタンパク質合成を50%(T1/2)迅速に阻害した。対照的に、FTI(6.4〜1.6μg/mL)では、細胞壁生合成(T1/2=152分)のより緩徐な阻害が引き起こされたが、ホスホマイシン(6.4μg/mL)でもトブラマイシン(1.6μg/mL)でも、180分以内に50%阻害に達しなかった。
【0183】
抗生物質の取込みは、H−トブラマイシン(540mCi/mmol,Moravek Biochemicals;Brea,CA)の取込みを測定することにより決定した。緑膿菌ATCC 27853の一夜培養物を栄養ブロス(NB)(Difco & BBL;Sparks,MD)中でOD625が0.013になるまで希釈し、OD625が約0.5に達するまで、振盪しながら(250rpm)37℃でインキュベートした。細胞を遠心分離(6000×g,室温,5分)によって収集し、NB中で1回洗浄し、予備加温NB中にOD625が0.25になるまで再懸濁させた。ホスホマイシンを0、0.05、0.1、1、10および100mg/Lで添加し、その培養物を振盪しながら(250rpm)37℃で3分間インキュベートした。H−トブラマイシン(2.3mg/L)を各チューブに添加し、培養物を振盪しながら(250rpm)37℃でさらに2分間インキュベートした。5ミリリットル容量を0.45μmニトロセルロース膜フィルター(Whatman Inc.,Florham Park,NJ)に通して濾過した。[H]−トブラマイシンの取込みを漸増濃度のホスホマイシンの存在下で測定した(図9)。10μg/mLのホスホマイシンの添加により、ホスホマイシンなし対照と比べて(H)−トブラマイシン取込みの170パーセントの増大がもたらされた。トブラマイシンのホスホマイシン媒介性取込み増強を担う分子機構は不明である。上記高分子の生合成および薬物取込み試験は、FTIが緑膿菌タンパク質合成を阻害する能力の増強はホスホマイシン媒介性の細菌細胞内トブラマイシン取込みの誘導に起因し得るという仮説を裏付けている。
【0184】
実施例5: 単一段階(single−step)変異頻度試験
A. S.aureusおよび緑膿菌に対するホスホマイシンおよびトブラマイシン単独と比較した4:1のFos:Tobについての単一段階変異頻度
抗生物質への単回曝露後の耐性の発現を、4種類の臨床菌株および1種類の参照菌株S.aureus(ATCC 29213)ならびに緑膿菌(ATCC 27853)を用いて調べた。対数増殖期後期の培養物(10〜1010cfu)を、4倍、8倍および16倍のMICの各抗生物質を含有するMueller−Hinton寒天(BBL,Sparks,MD USA)プレート上に塗布した。その培養プレートを35℃で48時間インキュベートし、各プレートのコロニー数を手作業で数えた。規定の抗生物質濃度で増殖している細菌数を接種材料中の細菌数で除算することにより耐性頻度を計算した。JL Martinezら,2000 Antimicrob Agent Chemother 44:1771−1777を参照のこと。代表的な自然変異体についてMIC値を計算し、親菌株のものと比較した。表7は、抗生物質耐性をもたらす単一段階の自然変異頻度を示す。
【0185】
表7: P.aeruginosa ATCC 27853 およびS.aureus ATCC 29213に対して抗生物質耐性の発現をもたらす自然変異頻度
【0186】
【表7】

FTIでの自然変異頻度はホスホマイシンおよびトブラマイシンよりも低い。
【0187】
抗生物質への単回曝露後の耐性の発現はFTIで最も低く、続いて、トブラマイシンとホスホマイシンであった(表5)。緑膿菌に対して、FTI(4×MIC)はトブラマイシンよりも2桁卓越していた。S.aureus(MSSA)に対しては、FTI(4×MIC)は、トブラマイシンよりも3桁少ない変異頻度を有し、ホスホマイシンよりも2桁少ない変異頻度を有した。
【0188】
B. 緑膿菌の単一段階変異頻度±ムチン
COPD患者の気道には、高レベルのムチン、炎症細胞由来のDNA、線維状アクチン(F−アクチン)、脂質およびペプチドを含有した高粘性分泌物である痰が含まれている。痰の生物物理学的特性の改変により、粘膜線毛(mucocilliary)クリアランスが障害されて気道閉塞がもたらされ、患者に細菌感染の素因をもたらす。さらに、CF患者の痰の顕微鏡解析により、緑膿菌が凝集塊または微小コロニーで増殖し、バイオフィルムの生成のため抗生物質に対する耐性の増大を示すことが実証されている。また、痰全体および個々の痰成分(例えば、ムチン、DNAおよびF−アクチンの束(bundle))が、静電結合によるカチオン性抗生物質およびペプチドの活性を低下させていることも示されている。ムチンに結合されると、抗生物質はその薬理学的効果を発揮できなくなる。これが細菌の耐性発現の一因となる。気道の痰の性質を組み込んだインビトロモデルにより、慢性呼吸器感染症のための抗生物質の開発に対するさらなる洞察が提供され得る。
【0189】
抗生物質への単回曝露後の耐性の発現を、4種類の臨床菌株および1種類の参照菌株S.aureusならびに緑膿菌を用いて調べた。対数増殖期後期の培養物(10〜1010cfu)を、4倍、8倍、16倍および32倍のMICの各抗生物質を含有するMueller−Hinton寒天(BBL,Sparks,MD USA)プレート±2%のムチン(2gのムチン/100mL培地)上に塗布した。その培養プレートを35℃で48時間インキュベートし、各プレートのコロニー数を手作業で数えた。規定の抗生物質濃度で増殖している細菌数を接種材料中の細菌数で除算することにより耐性頻度を計算した。JL Martinezら,2000 Antimicrob Agent Chemother 44:1771−1777を参照のこと。代表的な自然変異体についてMIC値を計算し、親菌株のものと比較した。
【0190】
表8.P.aeruginosaの変異頻度±ムチン
【0191】
【表8】

このデータは、正常気道の粘液およびCOPD痰の主成分であるムチンの存在下では、4:1のFos:Tobでの抗生物質耐性頻度は、トブラマイシンおよびホスホマイシン単独よりも25,000倍および1,700倍少ないことを実証する。
【0192】
実施例6: 炎症応答と関連している細菌のビルレンス因子に対するFTIの効果
細菌のビルレンス因子は、宿主組織に対して損傷を引き起こす細菌の産物または機構(例えば、接着、毒素、プロテアーゼ)である。COPDにおいて重要な細菌は、気道の慢性感染の確立、ならびに肺損傷および肺機能低下を引き起こす免疫応答および炎症応答の起始に決定的に重要な数多くのビルレンス因子を生成する。B.Hendersonら,“Bacterial Modulins:a Novel Class of Virulence Factors Which Cause Host Tissue Pathology by Inducing Cytokine Synthesis”1996 Microbiol.Rev.60(2):316−341;A.Clatworthyら,“Targeting Virulence:a new paradigm for antimicrobial therapy”2007 Nature Chem Bio 3(9):541−548;およびC.Caldwellら,“Pseudomonas aeruginosa Exotoxiin Pyocyanin Cases Cystic Fibrosis Airway Pathogenesis”2009年11月5日 Am J.Pathol(出版前)。かかるビルレンス因子の生成を抑止する治療法により、気道への細菌の感染能力が低減され、気道における炎症応答が低減され、肺機能の破壊が遅滞され得る。
【0193】
DNAマイクロアレイ解析
阻害濃度以下の抗生物質への緑膿菌の曝露
時間−死滅化実験を、変形したCLSI法に従って行なった。抗生物質は、単独および組合せ物で複数のMICにて、20g/LのPGMを含有するカチオン調整Mueller Hinton Broth(CAMHB)(Remel;Lenexa,KS,USA)中で評価した。細菌培養物とFTI(Fos:Tob 4:1;12.8μg/mLのホスホマイシンおよび3.2μg/mLのトブラマイシン)を、振盪水浴(200rpm)内で37℃にてインキュベートし、バイアビリティを、プレート計数法によって0、1、2、4、6および24時間目に評価した。各アッセイにおいて、薬物なし対照を実施した。FTIへの1時間の曝露後、RNAeasyキット(Qiagen,USA)により、およそ10 CFUの緑膿菌ATCC 27853から細菌の全RNAを単離した。RNAをRNAse不含のDNAaseで処理し、夾雑ゲノムDNAを除去した。RNAを、キットでさらに精製した。RNAの濃度および純度を分光測光法(260nm/280nmの比)により測定した。
【0194】
RNA標識/ハイブリダイゼーションおよび走査/画像解析
cDNAの合成、標識、ハイブリダイゼーションおよびマイクロアレイ解析は、ワシントン医科大学(Seattle,WA 98195)の微生物学科の発現アレイセンター(Center for Expression Arrays(CEA))において行なわれた。各転写物についての検出コール(detection call)における、存在、非存在、または境界(marginal)を、デフォルトパラメータを用いて調べた。FTI処理群について、未処理対照試料をベースラインとして使用し、Affymetrix GCOS v1.3を用いて比較発現解析を行なった。すべてのプローブセットをデフォルトターゲットシグナル強度500に対してグローバルスケーリング(globally scaling)することにより、転写物の絶対シグナル強度を正規化した。
【0195】
表9.FTI(16μg/mL)によって下方調節されるP.aeruginosaビルレンス遺伝子
【0196】
【表9】

このデータは、FTIにより、炎症応答の発生と関連していることがわかっている数多くの細菌ビルレンス因子の発現が阻害されることを実証する。
【0197】
実施例7: インビボ試験−ラット細菌性肺炎モデル
以下の実験および結果もまた、MacLeod,2009 JACに報告されている。
【0198】
動物は、実験動物の管理および使用のためのガイドラインに従って取り扱った。NRC(National Research Council)Guide for the Care and Use of Laboratory Animals.Washington,DC,USA:National Academy Press 1996を参照のこと。動物プロトコルはすべて、IRB/倫理委員会に承認されたものであった。雄Sprague−Dawleyラット(180〜200g)をCharles River Laboratories(Hollister,CA,USA)から取得し、使用前に5日間馴化させた。動物を換気式ケージ内に個々に収容し、Purina Lab Dietを随意に摂取させ、水分に自由にアクセス可能にした。
【0199】
抗生物質の有効性を、ラット細菌性肺炎モデルを用いて調べた。HA Cashら,1979 Am Rev Respir Dis 119:453−459を参照のこと。ラットをイソフルランで麻酔し、約10cfuの緑膿菌C177(2%寒天液中)を肺内に経口栄養針(oral gavage needle)によって注入した。その接種材料は、第1分岐部に堆積させ、吸息によって肺全体に分布させた。感染後、動物を18時間回復させた。各実験は、前処置(n=5〜7)、イソフルランを用いた食塩水対照、100μLの抗生物質液または食塩水からなるものとし、Microsprayer(商標)(Penn−Century In.,Philadelphia,PA,USA)を用いて気管内に注入した。抗生物質は、毎日2回で3日間気管内投与した。
【0200】
動物を、ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与によって安楽死させた。上記前処置対照群は感染後18時間目に収集し、上記食塩水群および処置群は、最後の抗生物質曝露の18時間後に収集した。肺を無菌的に取り出し、滅菌したノーマルセーライン中でホモジナイズし、生菌をコロニー計数法によって測定した。上記食塩水対照群と処置群間の統計的な差を、マンホイットニー順位和検定により、GraphPad Prism(登録商標)ソフトウェアパッケージバージョン3.03(GraphPad Software,Inc.,San Diego,CA,USA)を用いて評価した。
【0201】
0.1、1、2.5、5および10mg/kgの4:1のFos:Tobの気管内投与後のラット肺における緑膿菌株C177 CFUの低減を図10に報告する。0.1、0.5、1および2.5mg/kgのトブラマイシンの気管内投与後のラット肺における緑膿菌株C177 CFUの低減を図11に報告する。1、2.5、5および10mg/kgのホスホマイシンの気管内投与後のラット肺における緑膿菌株C177 CFUの低減を図12に報告する。
【0202】
抗生物質処置なしでは、cfu/肺は、感染後4日目および7日目で<1 Log10減少した。FTIの気管内投与では、用量の増大にともなって緑膿菌の死滅化の進行性増大が示された(図10)。その後の実験において、上記C177感染の完全な根絶が、5および12.5mg/kgの4:1のFos:Tobで見られた。トブラマイシンでは、2.5mg/kgで3−Log10の細菌死滅化が示された(図11)。3mg/kgより高いトブラマイシン用量の投与では、緑膿菌感染の完全な根絶がもたらされたが、0.5mg/kgの用量では細菌死滅化はもたらされなかった。10mg/kgのホスホマイシンの投与後、cfu/肺の低減は観察されなかった(図12)。
【0203】
5mg/kg用量の4:1のFos:Tob(図10)には1mg/kgしかトブラマイシンが含まれていないが、1mg/kgのトブラマイシン単独で達成されるよりも大きな死滅化が実証されている(図11)。このラットモデルでは、1mg/kgのトブラマイシンでは、肺内負荷量の約500倍の低減が達成されたが、1mg/kgのトブラマイシンを含む4:1のFos:Tobでは、肺内負荷量の約1400倍の低減が達成された。注目すべきことに、4:1のFos:Tob試験での初期肺内負荷量は、トブラマイシン試験での肺内負荷量よりも10倍大きかった。このデータにより、ムチン時間−死滅化実験で観察された4:1のFos:Tobの死滅化活性レベルの向上(図6)が裏付けられる。
【0204】
実施例8: FTIの痰中薬物濃度
気道に送達された薬物の量を評価するため、薬物濃度を、CFまたは気管支拡張症の患者吐出痰において測定した。投薬および患者の型の両方からの痰についての薬物動態データを表7に示す。患者の型および投薬に関するホスホマイシンおよびトブラマイシンの範囲は、それぞれ、1751〜2974μg/gおよび326〜881μg/gであった。
【0205】
表10.FTIのエーロゾル適用後の痰中薬物濃度
【0206】
【表10】

このデータは、エーロゾル適用によって達成されるFTIの薬物濃度レベルが極めて高く、COPDにおいて重要な細菌病原体を死滅化させるのに充分であることを実証する。
【0207】
実施例9: ヒトにおける安全性および有効性を評価するための試験設計
FDA Guidance:Acute Bacterial Exacerbations of Chronic Bronchitis in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Diease:Developing Antimicrobial Drugs for Treatmentは、具体的に、この適応症における増悪の処置のための抗菌薬の開発に取り組むものである。COPD患者における急性増悪の予防のための臨床プログラムでは、この手引きからの任意の適用可能な臨床開発要件が、増悪の予防よりも処置という当上記手引きの目的を考慮して検討される。
【0208】
再発性急性増悪歴を有するCOPD患者における臨床試験は、増悪の頻度、持続期間または重症度を低減させることに焦点を当てており、また、FEVの変化、生活の質、および保健医療の利用が評価される。その臨床開発経路は、急性増悪の低減のために現在実施されている他の試験と同様の治験の設計に従うものである。
【0209】
フェーズ2試験案は、中等度から重度のCOPDを有し(すなわち、予測ベースラインFEV=70%)、>40歳であり、ここ12ヶ月間の間に最低2回の急性増悪を有した患者においてFTIの安全性と有効性を評価するための、多施設無作為化二重盲検プラセボ比較対照試験である。フェーズ2試験は、2つのFTIアーム(arm) −1)Fos:Tobが40mg:10mgおよび2)Fos:Tobが20mg:5mg;トブラマイシン10mgアームおよび適合(matching)プラセボを含む。全アームにおいて、薬物は、DPIによって1日2回で7日間を28日期間ごとに合計少なくとも6ヶ月間で投与する。試験の各アームには約150名の患者が必要であると予測される。
【0210】
その主要エンドポイントは、処置が必要である最初の急性増悪までの時間であり、急性増悪の発生は、プロトコルに明示された規定を用いて臨床試験者によって決定される。COPDに関する上記FDAの手引き案には、その規定は「臨床的意義がある」ものでなければならず、呼吸困難の悪化、痰容量の増大、膿性痰の増大、処置の変更が必要とされる症状悪化、または緊急処置もしくは入院が必要とされる症状悪化などの基準を含むと記載されている。重要な二次エンドポイントは、両方の型の処置(例えば、経口抗生物質、入院)によって評価したときの急性増悪の回数、重症度および持続期間ならびに臨床的評価;2回目の増悪までの時間;およびベースラインからの予測FEV%変化を含む。上記のFDA Guidanceでは、患者報告アウトカム(PRO)主要エンドポイントの使用が推奨されている。潜在的なPRO手段の一例であるExacerbations from Pulmonary Disease Tool(EXACT−PRO)は、COPDの患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪の臨床応答の評価のために現在開発中である。予測FEV%のベースラインからの変化に加え、他の安全性エンドポイント、例えば、スクリーニング時から試験終了までのMICの変化もまた評価される。
【0211】
上記フェーズ2試験の結果に基づき、次いで、より有効な用量のFTI(同等の安全性と仮定)が、2つの12ヶ月間のフェーズ3試験において評価され、この場合も、フェーズ3治験におけるFTIのトブラマイシン成分の用量におけるトブラマイシンアームおよび適合プラセボアームが含まれる。この試験の主要エンドポイントは、急性増悪の回数、重症度および持続期間である。この試験は、理想的には、トブラマイシンと比べてFTIの卓越した効力を、より強く実証するものである。
【0212】
実施例10: ドライパウダー吸入のためのホスホマイシン/トブラマイシンエーロゾル製剤
A. 4:1のホスホマイシン/トブラマイシン吸入パウダー
吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有するホスホマイシン二ナトリウム(8.4346g,6.3175gの遊離酸)を混合容器に添加し、手で回転させる。吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有する94.2%のトブラマイシン塩基(8.3587g)とホスホマイシン二ナトリウム(16.7260g,15.7559gの遊離酸)を混合容器に添加する。次いで、その混合容器を、22rpmに設定したTurbula(登録商標)振盪混合機内に5分間入れる。さらなるホスホマイシン二ナトリウム(16.1600g,15.227gの遊離酸)をその混合容器に添加し、次いで、22rpmに設定したTurbula(登録商標)振盪混合機内に15分間入れる。ホスホマイシン/トブラマイシン比は4:1であると計算された。
【0213】
B. 25%(w/w)のラクトース吸入パウダーを含む4:1のホスホマイシン/トブラマイシン
ラクトース一水和物(10.6250g)を混合容器に添加し、手で回転させた。吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有する94.2%のトブラマイシン塩基(5.3125g)をその混合容器に添加する。次いで、その混合容器を、22rpmに設定したTurbula(登録商標)振盪混合機内に10分間入れる。吸入に適した粒径(典型的には、1〜5ミクロン)を有するホスホマイシン二ナトリウム(26.5625g,25.0219gの遊離酸)をその混合容器に添加し、次いで、22rpmに設定したTurbula(登録商標)振盪混合機内に15分間入れる。ホスホマイシン/トブラマイシン比は4:1であると計算された。
【0214】
実施例11: 噴霧療法のためのホスホマイシン/トブラマイシンエーロゾル製剤
A. 9:1のホスホマイシン/トブラマイシン液剤
ホスホマイシン二ナトリウム(18.057g,13.99gの遊離塩基)を250mLの水に溶解させる。得られた溶液に、1.56gの97.5%のトブラマイシン塩基を添加する。3.98mLの4.5N HClの添加によって、溶液のpHをおよそ7.6に調整する。この溶液を水で総量500mLに希釈し、0.2μm Nalge Nunc 167−0020膜フィルターに通して濾過する。その最終pHはおよそ7.8であり、重量オスモル濃度はおよそ540mOsmol/kgであり、ホスホマイシン/トブラマイシン比は9:1であると計算され、塩化物濃度はおよそ36mMである。
【0215】
B. 4:1のホスホマイシン/トブラマイシン液剤
8:2の比のホスホマイシン/トブラマイシン溶液を調製した。3.1680gのホスホマイシン二ナトリウム(2.4013gの遊離塩基)を50mlの水に溶解させた。0.6154gの97.5%のトブラマイシン塩基(0.6000gの純粋なトブラマイシン塩基)をホスホマイシン溶液に溶解させた。0.910mLの6M HClの添加によってpHを調整した。この溶液を水で100mLに希釈した。その溶液の最終pHは7.65であり、重量オスモル濃度は477mOsmol/kgであり、塩化物濃度は54.6mMであった。最終ホスホマイシン/トブラマイシン比は4:1であると計算された。
【0216】
C. 7:3のホスホマイシン/トブラマイシン液剤
上記の9:1液剤で記載の手順を使用し、7:3の比のホスホマイシン/トブラマイシン溶液を調製した;17.466gのホスホマイシン二ナトリウム(13.239gの遊離塩基)を水に溶解させ、この溶液に5.819gの97.5%のトブラマイシン塩基(5.674gの純粋なトブラマイシン塩基)を添加し、合わせた溶液のpHを、10.66mLの4.5N HClの添加によって調整する。その溶液の最終pHはおよそ7.7であり、重量オスモル濃度はおよそ560mOsmol/kgであり、ホスホマイシン/トブラマイシン比は7:3であり、塩化物濃度はおよそ96mMである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトを処置するための方法であって、吸入によって該ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
ヒトにおいてCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための方法であって、吸入によって該ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む、方法。
【請求項3】
COPDの前記急性増悪が呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱から選択される1つ以上の症状によって顕性となり、該症状の1つ以上の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性細菌性増悪である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記製剤が約1重量部のトブラマイシンに対して約4重量部のホスホマイシンを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記製剤が薬学的に許容され得る溶液の状態であり、ネブライザによる投与に適したものである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記製剤が、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したドライパウダーである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記製剤が、約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシンからなる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状を処置するための方法であって、吸入によって該ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む、方法。
【請求項11】
ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、重症度または持続期間の低減方法であって、吸入によって該ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記1つ以上の症状が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱から選択される、請求項10〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪である、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性細菌性増悪である、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記製剤が約1重量部のトブラマイシンに対して約4重量部のホスホマイシンを含む、請求項10〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記製剤が薬学的に許容され得る溶液の状態であり、ネブライザによる投与に適したものである、請求項10〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記製剤が、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したドライパウダーである、請求項10〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記製剤が、約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシンからなる、請求項10〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
COPDのヒトの肺炎症を処置するための方法であって、吸入によって該ヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンである有効量のホスホマイシンとトブラマイシンの組合せ物を含むエーロゾル製剤を投与することを含む、方法。
【請求項20】
吸入によってヒトに、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンおよびトブラマイシン、ならびに必要に応じて1種類以上の薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤および/または希釈剤からなるエーロゾル製剤を投与することにより、該ヒトの気道における細菌感染の処置方法であって、該製剤がネブライザ、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したものであり、
その改善が、
COPDのヒトの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、
方法。
【請求項21】
前記改善が、COPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記改善が、COPDのヒトの慢性気管支炎の急性細菌性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項20〜21に記載の方法。
【請求項23】
COPDの急性増悪を起こしている、または起こすリスクがあるCOPDのヒトを処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用。
【請求項24】
ヒトにおいてCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用。
【請求項25】
COPDの急性増悪が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱から選択される1つ以上の症状によって顕性となり、前記方法が、該症状の1つ以上の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項23または24に記載の使用。
【請求項26】
ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状を処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用。
【請求項27】
ヒトのCOPDの急性増悪の1つ以上の症状の頻度、重症度または持続期間を低減させるための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用。
【請求項28】
前記1つ以上の症状が、呼吸困難の悪化、痰が出る回数の増加、膿性痰の増大、痰の色の変化、咳が出る回数の増加、風邪および喉の痛みなどの上気道症状、喘鳴の増大、胸部絞扼感、運動耐容の低減、倦怠感、体液貯留、および急性錯乱から選択される、請求項26または27に記載の使用。
【請求項29】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪である、請求項23〜28のいずれかに記載の使用。
【請求項30】
前記急性増悪がCOPDのヒトの慢性気管支炎の急性細菌性増悪である、請求項23〜29のいずれかに記載の使用。
【請求項31】
COPDのヒトの肺炎症を処置するための、吸入による投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンとトブラマイシンを含むエーロゾル製剤の使用。
【請求項32】
前記製剤が約1重量部のトブラマイシンに対して約4重量部のホスホマイシンを含む、請求項23〜31のいずれかに記載の使用。
【請求項33】
前記製剤が薬学的に許容され得る溶液の状態であり、ネブライザによる投与に適したものである、請求項23〜32のいずれかに記載の使用。
【請求項34】
前記製剤が、ドライパウダー吸入器または定量吸入器による投与に適したドライパウダーである、請求項23〜32のいずれかに記載の使用。
【請求項35】
前記製剤が、約1〜約200mgのホスホマイシンと約0.1〜約86mgのトブラマイシンからなる、請求項23〜34のいずれかに記載の使用。
【請求項36】
ヒトの気道における細菌感染を処置するための、ネブライザ、ドライパウダー吸入器または定量吸入器よる投与に適した医薬の製造における、ホスホマイシンとトブラマイシンの重量比が約1〜約3重量部のトブラマイシンに対して約7〜約9重量部のホスホマイシンであるホスホマイシンおよびトブラマイシンならびに必要に応じて、1種類以上の薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤および/または希釈剤からなる、生理学的に許容され得る溶液の状態のエーロゾル製剤の使用であって、
その改善が、
ヒトにおいてCOPDの急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、使用。
【請求項37】
前記改善が、COPDのヒトの慢性気管支炎の急性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記改善が、COPDのヒトの慢性気管支炎の急性細菌性増悪の頻度、重症度または持続期間を低減させることを含む、請求項36〜37に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−512193(P2013−512193A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539948(P2012−539948)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/056256
【国際公開番号】WO2011/066107
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(500029420)ギリアード サイエンシーズ, インコーポレイテッド (141)
【Fターム(参考)】