説明

慣性駆動アクチュエータ

【課題】簡単かつ低コストな構成でありながら、振動基板の意図しない振動を抑制し、効率の良い駆動を実現可能な慣性駆動アクチュエータを提供する。
【解決手段】慣性駆動アクチュエータは、振動基板3と、前記振動基板3を変位させる変位発生手段(圧電素子2)と、前記振動基板3上に配置され前記振動基板3の変位に対して慣性により前記振動基板3に対して移動する移動体4と、前記変位発生手段(圧電素子2)により前記振動基板3を往復運動させるための駆動手段と、前記振動基板3を介して移動体4と対向する位置に配置された磁界発生手段(永久磁石50)と、前記振動基板3に配置され前記磁界発生手段(永久磁石50)に吸着する磁気吸着手段(磁性電極51)と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を慣性駆動により移動させる慣性駆動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の慣性駆動アクチュエータの一例として、例えば、特許文献1には、固定部材1と、該固定部材1に設置され、第1の方向とその逆の第2の方向とに微小変位を発生する圧電素子2(変位発生手段)と、該圧電素子2の上記微小変位によって往復運動するとともに、その平面上に第1の電極31を有する振動基板3と、該振動基板3の上記平面上に配置され、上記第1の電極31と絶縁膜32(絶縁体層)を介して対向する平面に第2の電極41を有する移動体4と、上記第1の電極31と上記第2の電極41との間に電圧を印加して静電吸着力を作用させることによって、上記振動基板3と上記移動体4との間の摩擦力を制御する電位差発生手段(摩擦力制御手段)と、磁気吸着力により上記移動体4と上記振動基板3を摩擦結合させる永久磁石5及び被吸着部材6(摩擦力付与手段)と、を備えて構成された慣性駆動アクチュエータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−288828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここにおいて、特許文献1に記載されている慣性駆動アクチュエータにおいては、振動基板3に対する押圧(振動(駆動)方向に付勢するバイアスバネ7による押圧以外の振動基板3への押圧)を積極的に行うといった構成ではなかった。
【0005】
このため、特許文献1に記載のような振動基板3に対する積極的な押圧を行わない場合、圧電素子2(変位発生手段)の振動により、振動基板3が、圧電素子2(変位発生手段)の変位方向とは異なる意図しない方向(図1参照)へ振動を起こすおそれがあり、このような振動が引き起こされているような場合には、アクチュエータとしての性能が十分に引き出しきれていないおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、簡単かつ低コストな構成でありながら、振動基板の意図しない振動を抑制し、効率の良い駆動を実現可能な慣性駆動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る慣性駆動アクチュエータは、
振動基板と、
振動基板を変位させる変位発生手段と、
振動基板上に配置され、振動基板の変位に対して慣性により振動基板に対して移動する移動体と、
変位発生手段により振動基板を往復運動させるための駆動手段と、
振動基板を介して移動体と対向する位置に配置された磁界発生手段と、
振動基板に配置され磁界発生手段に吸着する磁気吸着手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明において、磁気吸着手段は、振動基板に設けられた磁性電極と、磁界発生手段とを吸着することを特徴とすることができる。
【0009】
本発明において、磁性電極を多層に配置することを特徴とすることができる。
【0010】
本発明において、磁性電極が複数配置される場合、そのうちの少なくとも1つを接地することを特徴とすることができる。
【0011】
本発明において、磁気吸着手段は、振動基板に設けられた磁性被膜と、磁界発生手段とを吸着することを特徴とすることができる。
【0012】
本発明において、磁気吸着手段は、磁性材料で構成された振動基板と、磁界発生手段とを吸着することができる。
【0013】
本発明において、磁界発生手段は、永久磁石であることを特徴とすることができる。
【0014】
本発明において、磁界発生手段は、電磁石であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、振動基板の意図しない振動を抑制し、効率の良い駆動を実現可能な慣性駆動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す斜視図、断面図及び側面図である。
【図2】同上実施例において、移動体を図1(C)における左方向へ移動させる際の慣性駆動アクチュエータの各部への印加波形を示す波形図である。
【図3】同上実施例において、移動体を図1(C)における右方向へ移動させる際の慣性駆動アクチュエータの各部への印加波形を示す波形図である。
【図4】同上実施例において、図1(C)における上下方向(z方向)への振動基板の振動を抑制するための構造を抜き出して示す断面図である。
【図5】同上実施例において、図1(C)における上下方向(z方向)への振動基板の振動を抑制するための構造の他の一例を抜き出して示す断面図である。
【図6】同上実施例において、図1(C)における上下方向(z方向)への振動基板の振動を抑制するための構造であって複数配設される磁性電極のうち少なくとも1つを接地(GND)させる構造例を抜き出して示す断面図である。
【図7】同上実施例において、図1(C)における上下方向(z方向)への振動基板の振動を抑制するための構造の他の一例を抜き出して示す断面図である。
【図8】同上実施例において、図1(C)における上下方向(z方向)への振動基板の振動を抑制するための構造の他の一例を抜き出して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る慣性駆動アクチュエータの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明に係る慣性駆動アクチュエータの実施例1の全体構成を概略的に示す図である。
まず、図1(A)から図1(C)を参照して、本発明の実施例1に係る慣性駆動アクチュエータの構成を説明する。なお、図1(A)は実施例1に係る慣性駆動アクチュエータの斜視図である。図1(B)は平面図であり、図1(C)は側面図である。
【0019】
図1(A)から図1(C)に示したように、実施例1に係る慣性駆動アクチュエータにおいては、圧電素子2の一端が固定部材1に固定され、他端は振動基板3の一端に固定されている。振動基板3上には、圧電素子2(変位発生手段)の振動方向(x方向)に移動可能な移動体4が配置されている。
【0020】
振動基板3、移動体4のそれぞれ対向する平面には、第1の電極31,第2の電極41が形成されており、これら第1の電極31と第2の電極41とは、第1の電極31上に形成された絶縁膜32を介して互いに対向して接触している。図示しない電位差発生手段によって、これら第1の電極31と第2の電極41の間に電位差を与えると、電極間に静電吸着力が作用するようになっている。
【0021】
また、振動基板3の移動体4が配置されている反対側には、磁界発生手段である永久磁石5が振動基板3の振動方向に延在して配置されている。移動体4には磁性を有する被吸着部材6が設置されているため、永久磁石5と移動体4の間には磁気吸着力が働くようになっている。
【0022】
永久磁石5と被吸着部材6を設けることにより、移動体4を停止させ、第1の電極31と第2の電極41間に静電吸着力が働いていなくても摩擦力があるために、停止の際も移動体4をその位置に保持しておくことが可能になる。また、永久磁石5と被吸着部材6は非接触であるため摩耗等の影響はなく、摩擦力を供給できるため安定した駆動が可能になる。
【0023】
なお、振動基板3の他端は、バイアスバネ7で上記圧電素子2側に向けて付勢されている。
【0024】
また、移動体4が圧電素子2の振動方向以外の方向に移動しないように、ガイド等を設けても構わない。
【0025】
次に、図2及び図3を参照して、このような構成の慣性駆動アクチュエータの動作を説明する。なおここで、図2は、移動体4を図1(B)及び(C)における紙面左方向に移動させる場合の駆動波形を示す波形図である。また、図3は、移動体4を同じく紙面右方向に移動させる場合の駆動波形を示す波形図である。
【0026】
ここで、図2を用いて駆動原理を説明する。図2に示された時点Aから時点Bまでの間で、図示しない駆動回路から圧電素子2への印加波形は急峻に立ち上がっており、圧電素子2が急激に左方向へ変位するのに伴い、振動基板3も急激に左方向へ移動する。このとき同時に図示しない電位差発生手段によって、振動基板3に設けられた第1の電極31への印加電圧と移動体4に設けられた第2の電極41への印加電圧には電位差が生じているため、静電吸着力が振動基板3と移動体4の間に作用し摩擦力が増大する。従って、振動基板3の変位とともに移動体4も左方向へ移動する。
【0027】
次に、図2中の時点Cから時点Dの間では、逆に圧電素子2への印加波形は急激な立ち下がりであり、圧電素子2が急激に縮むとともに振動基板3は急激に右方向へと移動する。このとき、振動基板3の第1の電極31への印加電圧と移動体4の第2の電極41への印加電圧は同電圧であるため、電極間に静電吸着力が発生しない。従って、移動体4の慣性により、上記永久磁石5と被吸着部材6が設置された上記移動体4との間に働く磁気吸着力による振動基板3と移動体4との間の摩擦力に打ち勝って、移動体4はその位置に留まる。
【0028】
これを繰り返すことにより、移動体4が振動基板3に対して左方向(x方向)へ移動することになる。
【0029】
また、移動体4を右方向に移動させる場合には、図3に示すように、圧電素子2を急激に縮める際に第1,第2の電極31,41間への電位差を与えれば良い。
【0030】
以上が、本実施例に係る慣性駆動アクチュエータの基本的な駆動原理である。圧電振動に同期させて摩擦を与えているため、摩擦が増加したときのみ移動体4は移動するため駆動効率が上がるとともに、圧電素子2の変位速度を往復で変化させることなく慣性駆動させることが可能であり駆動波形を簡略化できる。
【0031】
そして、移動体4を移動させている状態から停止させる際には、圧電素子2の駆動及び第1,第2の電極31,41間への電位差の供給を停止させれば、永久磁石5と被吸着部材6との磁気吸着力による振動基板3と移動体4との間の摩擦力により、移動体4を停止させ、その位置に保持しておくことができる。
【0032】
なお、本実施例では、永久磁石5を振動基板3の下側に配置しているが、振動基板3そのものが永久磁石で成り立っていてもかまわない。振動基板3が永久磁石であれば慣性駆動アクチュエータを構成する部品を減らすことができ、構成も簡単になる。
【0033】
また、移動体4に磁性を有する材料を用いれば、被吸着部材6を別途配置しなくても本実施例と同等の効果が得られるだけでなく構成が更に簡単になる。その場合、移動体4に用いる磁性体としては、鉄、ニッケル合金、ステンレスなどが典型的に使われる。
【0034】
慣性駆動アクチュエータのサイズは、典型的には長さ20mm×幅3mm×高さ3mm程度である。
【0035】
ところで、上記の構成においては、振動基板3は、それが載置されている固定部材1の方向に対して、積極的に押圧されることはなく、移動体4を移動させる際に、図1のz方向へ意図しない振動が発生するおそれがある。
【0036】
このため、本実施例では、振動基板3の意図しないz方向への振動を、磁気吸着手段(例えば、後述する磁性電極51、52など)と磁界発生手段(例えば、永久磁石50)を吸着させることにより、意図しない振動を抑えることができるように構成されている。
【0037】
詳細には、図4に示すように、本実施例においては、振動基板3に磁性材料の電極51を設ける。これにより、電極としての役割と磁気吸着手段としての役割を達成する。
【0038】
なお、図4の振動基板3や電極51は、図1の慣性駆動アクチュエータの第1の電極31などと一体的に構成することもできる また、永久磁石50は、永久磁石5と共通化することもできる。
【0039】
ここで、電極1枚の厚さには限度があるため、図5に示すように、磁性電極51、磁性電極52のごとく多層に配置し、吸着力を向上させることもできる。これにより面積の増加なく、より強い磁気吸着効果が得られる。
【0040】
ところで、図6に示したように、多数の電極(磁性電極51A,51B,52等参照)を配置することができるが、このように多数の電極を配置する構成とすると、その電極間には寄生容量が発生してしまう。
そのため、図6に示したように、少なくとも1枚(一の電極)は接地させることが望ましい。
【0041】
また、図7に示すように、振動基板3に磁性材料の磁性被膜61を設けた構成とすることもできる。
これにより、磁気吸着手段と共に、摩耗防止、腐食防止、表面状態の安定化などの効果が得られる。
なお、かかる構成とした場合には、図7に示したように、移動体4の下面(振動基板3の皮膜61との当接面)などに、絶縁皮膜を配設することが必要である。
【0042】
また、図8に示すように、振動基板3自身を磁性材料にて作製する構成とすることもできる。
これにより、電極、被膜以上の磁気吸着効果が得られると共に、振動基板3の強度を増すことができる。
なお、かかる構成とした場合には、図8に示したように、移動体4の下面などに、絶縁皮膜を配設することが必要である。
【0043】
ところで、永久磁石5や永久磁石50は、電磁石とすることもできる。
【0044】
以上で説明したように、本実施例に係る慣性駆動アクチュエータによれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、振動基板3の意図しない振動を抑制することができ、延いては効率の良い駆動を実現することができる。
【0045】
本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る慣性駆動アクチュエータは、簡単かつ低コストな構成でありながら、振動基板の意図しない振動を抑制し、効率の良い駆動を実現でき、駆動アクチュエータの技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0047】
1 固定部材(ガイド部材)
2 圧電素子(変位発生手段)
3 振動基板
4 移動体
5 永久磁石
7 バイアスバネ
31 第1の電極
41 第2の電極
50 永久磁石(磁界発生手段の一例)
51 磁性電極(磁気吸着手段の一例)
52 磁性電極(磁気吸着手段の一例)
61 磁性被膜(磁気吸着手段の一例)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動基板と、
前記振動基板を変位させる変位発生手段と、
前記振動基板上に配置され、前記振動基板の変位に対して慣性により前記振動基板に対して移動する移動体と、
前記変位発生手段により前記振動基板を往復運動させるための駆動手段と、
前記振動基板を介して前記移動体と対向する位置に配置された磁界発生手段と、
前記振動基板に配置され前記磁界発生手段に吸着する磁気吸着手段と、
を備えることを特徴とする慣性駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記磁気吸着手段は、前記振動基板に設けられた磁性電極と、前記磁界発生手段とを吸着することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項3】
前記磁性電極を多層に配置することを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項4】
前記磁性電極が複数配置される場合、そのうちの少なくとも1つを接地することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項5】
前記磁気吸着手段は、前記振動基板に設けられた磁性被膜と、前記磁界発生手段とを吸着することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項6】
前記磁気吸着手段は、磁性材料で構成された前記振動基板と、前記磁界発生手段とを吸着することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項7】
前記磁界発生手段は、永久磁石であることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項8】
前記磁界発生手段は、電磁石であることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139052(P2012−139052A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290410(P2010−290410)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】