説明

慣性駆動アクチュエータ

【課題】複数の移動体を備えた構成で、移動体の制御用の配線を減らした慣性駆動アクチュエータを提供する。
【解決手段】第1の移動体105aと、第2の移動体105bと、第1の移動体105aに配置された第1の電磁石104aと、第2の移動体105bに配置された第2の電磁石104bと、第1の移動体105aと第2の移動体105bとに対向して配置された磁性部材106と、第1の電磁石104aを構成する第1のコイル103aと、第2の電磁石104bを構成する第2のコイル103bとに電流を供給する駆動回路101と、駆動回路101を介さず、第1のコイル103aと第2のコイル103bとを電気的に接続させる第1の接続手段とを備え、磁力にて、複数の移動体105a、bの摩擦を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性駆動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図21は、従来の慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。図21において、圧電素子2の一端は固定部材1に固定され、他端は振動基板3の一端に固定されている。振動基板3上には圧電素子2の振動方向に移動可能な移動体4が配置されている。
【0003】
移動体4は、吸着部4aとコイル5と突起7とで形成される。突起7は、吸着部4aの振動基板3と対向する面と反対側に設けられる。また、突起7にはコイル5が形成されている。
【0004】
駆動回路20は、圧電素子2とコイル5とにそれぞれ接続される。ここで、固定基板1または振動基板3は、磁性体(例えば鉄、磁性を持つステンレス)からなっており、吸着部4aもまた磁性体である。吸着部4aの底面は振動基板3に接触している。
【0005】
コイル5に電流を印加すると磁界が発生し、発生した磁界は磁性体である移動体4を通り吸着部4aにも磁界を生じる。吸着部4aに発生した磁界によって、磁性体である振動基板3または固定部材1に対し磁気吸着力が発生し、移動体4と振動基板3とが密着し、その間に摩擦力が発生するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−177974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電磁石にて摩擦力を制御する慣性駆動アクチュエータでは、通常1つの移動体4に対し、往復で2本の配線が必要となる。例えば、2つの移動体を使用した場合には、往復で4本の配線が必要となる。移動体4を複数備える構成の場合、制御用の配線を省線化することが望ましい。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、配線数を低減した慣性駆動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1の移動体と、第2の移動体と、第1の移動体に配置された第1の電磁石と、第2の移動体に配置された第2の電磁石と、第1の移動体と第2の移動体とに対向して配置された磁性部材と、第1の電磁石を構成する第1のコイルと、第2の電磁石を構成する第2のコイルとに電流を供給する駆動回路と、駆動回路を介さず、第1のコイルと第2のコイルとを電気的に接続させる第1の接続手段とを備え、磁力にて複数の移動体の摩擦を制御することを特徴とする慣性駆動アクチュエータを提供する。
【0010】
本発明の好ましい別の態様にあっては、磁性部材は、移動体と対向する方向に分極された永久磁石であり、かつ、駆動回路から電流を第1のコイルと第2のコイルとに供給した際、第1の電磁石が発生する磁界の向きに対して、第2の電磁石が発生する磁界の向きが逆向きになるように、第1のコイルと第2のコイルとが形成されていることが望ましい。
【0011】
本発明の好ましい別の態様にあっては、第1のコイル、第2のコイルを介さずに、第1の接続手段と駆動回路とを電気的に接続する第2の接続手段を更に備えることが望ましい。
【0012】
本発明の好ましい別の態様にあっては、第1のコイルと第2のコイルとを同一線材で形成し、第1の接続手段とすることが望ましい。
【0013】
本発明の好ましい別の態様にあっては、第1の接続手段は、第1のコイルと第2のコイルとを電気的に中継する中継部材によって構成されることが望ましい。
【0014】
本発明の好ましい別の態様にあっては、慣性駆動アクチュエータは、さらに滑落防止機構を有することが望ましい。
【0015】
本発明の好ましい別の態様にあっては、移動体は絶縁部材を介して磁性部材に配置することが望ましい。
【0016】
本発明の好ましい別の態様にあっては、移動体は絶縁層を介して磁性部材に配置することが望ましい。
【0017】
本発明の好ましい別の態様にあっては、移動体にコイル芯が形成され、コイル芯にコイル線を巻くことによって電磁石が形成されることが望ましい。
【0018】
本発明の好ましい別の態様にあっては、3つ以上の移動体を有する慣性アクチュエータにおいて、そのうちの少なくとも2つ以上の電磁石が第1の接続手段により接続されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、配線数を低減した慣性駆動アクチュエータを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】第2の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図3】第3の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図4】第4の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図5】第5の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図6】第6の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図7】第7の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図8】第8の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図9】第9の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図10】第10の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図11】第11の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図12】第12の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図13】第13の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図14】第14の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図15】第15の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【図16】慣性駆動アクチュエータの動作を説明する図である。
【図17】慣性駆動アクチュエータの動作を説明する図である。
【図18】慣性駆動アクチュエータの移動体の動きの制御を説明する図である。
【図19】慣性駆動アクチュエータの移動体の動きの制御を説明する図である。
【図20】慣性駆動アクチュエータの移動体の動きの制御を説明する図である。
【図21】従来のアクチュエータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の慣性駆動アクチュエータの構成による作用効果を説明する。なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えても、本発明の範囲を超えない。従って、以下で説明する本発明の例示的な実施形態は、権利請求された発明に対して、一般性を失わせることなく、また、何ら限定をすることもなく、述べられたものである。
(第1実施形態)
【0022】
図1は、第1の実施形態にかかる慣性駆動アクチュエータ100の構成を示す図である。以下、実施形態を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1において、第1の移動体105aと、第2の移動体105bと、磁性部材106は導電性を有し、中継部材に相当する。第1の接続手段は、第1のコイル線103aと、第1の移動体105aと、磁性部材106と、第2の移動体105bと、第2のコイル線103bとで構成されている。
移動体105a、105bにコイル芯が形成され、コイル芯にコイル線を巻くことによって電磁石が形成されている。
【0024】
ここで、各移動体105a、105bと磁性部材106とは、接触により電気的に接続されている。また、磁性部材106は、各移動体105a、105bと対向する方向に磁化された磁石を使用する。なお、以下の実施形態において、磁性部材106が「磁石であり、導電性を有する部材」の場合は、左下がりの斜線を図内に付している。また、磁性部材106が、単なる磁石である場合は、斜線を付していない。さらに、磁性部材106が「導電性を有する部材」の場合は、右下がりの斜線を図内に付している。
また、第1のコイル線103a、第2のコイル線103bは、それぞれ発生する磁界の向きが逆になるように、第1の電磁石104a、第2の電磁石104bに巻かれている。
【0025】
駆動制御の詳細に関しては、図16〜図20を用いて詳述する。本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bでも、その制御の配線をコイル線103a、103bの2本で行うことが可能となる。さらに、移動体105a、105b間に配線が存在しない。このため、アクチュエータ100全体として、電気的な回路として接続していても、移動体105a、105bは、相互に独立して動くことが可能となる。このため、耐久性の向上、各移動体105a、105bの動きを妨げないなどの効果がある。
なお、以下のすべての実施形態において、本実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
これに対して、従来技術において説明したように、図21において、電磁石を移動体4に配置した従来の慣性駆動アクチュエータは、1つの移動体4に対し、2本の配線が駆動回路20へ接続されていた。よって、2つの移動体4を配置した場合、4本の配線が駆動回路20へ接続されることとなる。本実施形態では、例えば2つの移動体の場合に、従来では4本必要であった配線を、2本または3本へ配線数を低減して省線化できる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、例えば2つの移動体の電磁石を電気的に接続させて、配線を減らした慣性駆動アクチュエータを提供できる。その際、2つの移動体には共通の電流を印加する。ここで、2つの電磁石104a、104bには、逆の極性を示すようにコイル線が巻かれている。これにより、2つの移動体104a、104bの摩擦の状態を、同一の電流により分離できる。この結果、移動体105a、105bを独立に制御することが可能となる。
【0028】
このように、本実施形態では、慣性駆動アクチュエータは、複数の移動体の電磁石を電気的に接続させて配線を減らして、各移動体の摩擦の状態を制御することが可能となる。したがって、複数の移動体を備える構成でも、簡略な配線にでき、慣性駆動アクチュエータの大型化を抑止できるという効果を奏する。
更には、移動体105aと移動体105bを個別に作製することが可能となる。
【0029】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ150の構成を示している。図2において、磁性部材106は導電性を有し、中継部材に相当する。第1の接続手段は、第1のコイル線103aと、磁性部材106と、第2のコイル線103bとで構成される。
【0030】
また、磁性部材106は、第1の移動体105a、第2の移動体105bと対向する方向に磁化された磁石を使用する。また、第1のコイル線103a、第2のコイル線103bは、それぞれ発生磁界が逆になるように、第1の電磁石104a、第2の電磁石104bに巻かれている。第2の実施形態は、第1の実施形態と異なり、コイル103a、103bと磁性部材106とを直接接続している。
【0031】
本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bであっても、駆動制御の配線を、第1、第2のコイル線103a、103bの2本で行うことが可能となる。さらに、第1の実施形態では、移動体105a、105bと磁性部材106との接触状態で電気抵抗が変化していた。本実施形態では、第1、第2のコイル103a、103bと磁性部材106とを直接接続している。このため、移動体105a、105bと、磁性部材106との電気抵抗を減らすことができる。
更には、移動体105aと移動体105bを個別に作製することが可能となる。
【0032】
(第3実施形態)
図3は、第3の実施形態の構成を説明する図である。図3において、第1の移動体105aと、第2の移動体105bと、磁性部材106とは導電性を有している。また、第1、第2の移動体105a、105bと磁性部材106、その間の第1の配線107a、第2の配線107bは、中継部材に相当する。
【0033】
第1の接続手段は、第1のコイル線103aと、第1の移動体105aと、第1の配線107aと、磁性部材106と、第2の配線107bと、第2の移動体105bと、第2のコイル線103bとで構成される。また、磁性部材106は第1、第2の移動体105a、105bと対向する方向に磁化された磁石を使用する。また、第1、第2のコイル線103a、103bは、それぞれ発生する磁界の向きが逆になるように、第1、第2の電磁石104a、104bに巻かれている。
【0034】
本実施形態によれば、2つの移動体104a、104bであっても、その制御の配線をコイル線103a、103bの2本で行うことが可能となる。さらに、コイル線103a、103bの代わりに、新たに配線107a、107bを設けて、移動体105a、105bと磁性部材106とを接続する。これにより、移動体105a、105b間の電気抵抗値を下げることができる。また、繰り返し動作による配線の劣化、断線を防止することができる。更には、移動体105aと移動体105bを個別に作製することが可能となる。
【0035】
(第4実施形態)
図4は、第4の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ250の構成を示す図である。図4において、第1の移動体105a、第2の移動体105bは、それぞれ導電性を有している。また、第1の移動体105aと第2の移動体105bとは、配線111で電気的に接続されている。
【0036】
配線111は、第1のコイル103aと第2のコイル103bとを電気的に中継する中継部材に相当する。第1の接続手段は、第1のコイル線103aと、第1の移動体105aと、配線111と、第2の移動体105bと、コイル線103bとで構成される。また、磁性部材106は第1、第2の移動体105a、105bと対向する方向に磁化された磁石を使用する。第1のコイル線103a、第2の103bは、発生する磁界の向きが逆方向になるように、それぞれ第1の磁石104a、第2の磁石104bに巻かれている。
【0037】
本実施形態によれば、2つの移動体であっても、その制御の配線をコイル線103a、103bの2本で行うことが可能となる。さらにコイル線103a、103bではなく、新たに配線111を使用する。これにより、移動体105a、105b間の電気抵抗値を下げることができる。また、配線111の材料を他の配線と代えることができるので、例えば径を太くすることもできる。この結果、繰り返し動作による配線の劣化、断線を防止することができる。更には、移動体105aと移動体105bを個別に作製することが可能となる。
なお、中継部材は、本実施形態において示した構成以外の構成でも構わない。例えば、アクチュエータのフレーム、レンズ鏡枠など、導電性の物であれば良い。
【0038】
(第5実施形態)
図5は、第5の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ300の構成を説明する図である。本実施形態は、第1の実施形態の構成に対して、第2の接続手段を用い、第1の接続手段と駆動回路101とを電気的に接続している。本実施形態では、磁性部材106と駆動回路101とを第2の接続手段である配線108で接続している。第2の接続手段である配線108は、駆動回路101と第1の接続手段とのいずれの部分とを接続しても構わない。
【0039】
本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bであっても、その制御の配線を3本で行うことが可能となる。さらに、電磁石104aと電磁石104bの電流を分離することが可能となる。
【0040】
(第6実施形態)
図6は、第6の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ350の構成を説明する図である。第6の実施形態では、第3の実施形態の構成に対して、第2の接続手段を用い、第1の接続手段と駆動回路101とを電気的に接続している。ここでは、磁性部材106と駆動回路101とを第2の接続手段である配線108で接続している。第2の接続手段は、駆動回路101と第1の接続手段とのいずれの部分とを接続しても構わない。
【0041】
本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bの場合でも、その駆動制御を3本の配線で行うことが可能となる。さらに、電磁石104aと電磁石104bの電流を分離することが可能となる。
【0042】
(第7実施形態)
図7は、第7の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ400の構成を説明する図である。第7の実施形態は、基本的に第5の実施形態と同様に構成されるが、第5の実施形態とは磁性部材106bが異なる。磁性部材106bは、磁石ではなく、導電性のある磁性部材である。
【0043】
本実施形態によれば、2つの移動体104a、104bの場合でも、その駆動制御を3本の配線で行うことが可能となる。さらに、電磁石104aと電磁石104bの電流を分離することが可能となる。
【0044】
(第8実施形態)
図8は、第8の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ450の構成を説明する図である。第8の実施形態は、基本的に第6の実施形態と同様に構成されるが、第6の実施形態とは、磁性部材106bが異なる。磁性部材106bは、磁石ではなく、導電性のある磁性部材である。
【0045】
本実施形態によれば、移動体105a、105bが2つの場合でも、その駆動制御を3本の配線で行うことが可能となる。さらに、電磁石104aと電磁石104bの電流を分離することが可能となる。
【0046】
(第9実施形態)
図9は、第9の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ500の構成を説明する図である。図において、移動体105a、105b、磁性部材106は導電性を有している。
ここでは、第1の接続手段は、コイル線103と、移動体105aと、磁性部材106と、配線108と、駆動回路101を接続する構成となる。また、移動体105bと磁性部材106とは絶縁層109により絶縁されている。さらに、磁性部材106は、各移動体105と対向する方向に磁化された磁石を使用する。電磁石104aと電磁石104bとは、発生する磁界の向きが逆になるようにコイル線103が巻かれている。
本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bであっても、その駆動制御を2本の配線で行うことが可能となる。さらに、移動体105a、105bの配線による拘束を2本から1本にできる。
【0047】
なお、第2の接続手段は、第1の接続手段と駆動回路101とを接続する機能を有している。このため、本実施形態では、第2の接続手段は使用していないこととなる。また、コイル線103を共有しているので中継部材も使用していない。
【0048】
(第10実施形態)
図10は、第10の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ550の構成を説明する図である。第10の実施形態は、3群の移動体で、4本の配線となる構成である。
【0049】
各移動体105a、105b、105c、磁性部材106bは導電性を有している。各移動体105a、105b、105cと、磁性部材106bが中継部材に相当する。
【0050】
第1の接続手段は、各コイル線103a、103b、103cと、各移動体105a、105b、105cと、磁性部材106bとで構成される。第2の接続手段である配線108は、磁性部材106bと駆動回路101とを接続する。また、磁性部材106bは、磁石ではなく導電性のある磁性部材である。
本実施形態によれば、3つの移動体105a、105b、105cの場合でも、その駆動制御を4本での配線で行うことが可能となる。さらに、電磁石104a、電磁石104b、電磁石104cの電流を分離することが可能となり、3群の移動体を独立制御できる。
【0051】
(第11実施形態)
図11は、第11の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ600の構成を説明する図である。第11の実施形態は、3群の移動体で、3本の配線となる構成である。
【0052】
本実施形態は、第9の実施形態の構成と、第10の実施形態の構成とを組合わせた構成を有している。3つの移動体105a、105b、105cのうちの2つの移動体105b、105cは、第9の実施形態と同様に構成されおり、1本の配線で制御されている。また、磁性部材106は、各移動体105a、105b、105cと対向する方向に磁化された磁石を使用する。
【0053】
本実施形態によれば、3つの移動体105a、105b、105cの場合でも、その駆動制御を3本の配線で行うことが可能となる。さらに、電磁石104aと、電磁石104b、104cとの電流を分離することが可能となる。
また、本実施形態では、電磁石104b、104cに巻くコイルは、磁界の向きが逆向きとなるように巻いている。なお、電磁石104aに関しては、コイルを巻く方向は問わない。
【0054】
(第12実施形態)
図12は、第12の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ650の構成を説明する図である。第12の実施形態は、滑落防止機構106Uをさらに備える構成である。
【0055】
移動体105a1、105b1を、磁性部材106Lと滑落防止機構106Uとで挟み込むような形で配置する。その際、滑落防止機構106Uは、磁性体であることが望ましいが、磁性体でなくても問題ない。
【0056】
本実施形態では、端子102aと端子102bとが、共通のコイル線103を使用し、電磁石104a、104bを介して接続される。電磁石104a、104bは、移動体105a2、105b2を介して磁性部材106Lに接続される。さらに、電磁石104a、104bは、移動体105a1、105b1を介して滑落防止機構106Uに接続される。
【0057】
第1の接続手段として、電磁石104aと電磁石104bは、共通のコイル線103を使用している。磁性部材106Lは移動体105a2、105b2と対向する方向に磁化された磁石を使用する。また、電磁石104aと電磁石104bとは、異なる方向に磁界が発生するようにコイル線103が巻きつけられている。
【0058】
電磁石104aと電磁石104bとは同一電流を流すと、逆の極性となる。このため、どちらか一方の移動体105a2、105b2は磁石に吸着して摩擦増加となり、他方は反発して摩擦低下となる。このようにして、各移動体105a2、105b2の摩擦を制御する。
【0059】
本実施形態によれば、2つの移動体105a、105bであっても、その駆動制御を2本の配線で行うことが可能となる。さらに、滑落防止機構106Uを備えたので、反発時に移動体105a、105bが磁性部材106Lより滑落することを防止できる。
【0060】
(第13実施形態)
図13(a)は、第13の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ700の構成を説明する側面図である。図13(b)は、第13の実施形態の構成を説明する断面図である。第13の実施形態は、滑落防止機構を、移動体105a、105bに配置した構成である。
【0061】
第1の接続手段として、電磁石104aと電磁石104bは、共通のコイル線103を使用している。電磁石104は、移動体105a、105bを介して磁性部材106に接続される。
本実施形態では、移動体105a、105bが磁性部材106を掴む形状をしており、移動体105a、105bが反発しても、磁性部材106から滑落することはない。
【0062】
(第14実施形態)
図14(a)は、第14の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ750の構成を説明する側面図である。図14(b)は、第14の実施形態の構成を説明する断面図である。第14の実施形態は、滑落防止機構を、磁性部材106c内に配置する構成である。
【0063】
第1の接続手段として、電磁石104aと電磁石104bは、共通のコイル線103を使用している。電磁石104a、104bは、移動体105a、105bと磁性部材106cとに接続される。
【0064】
本実施形態の磁性部材106cは、移動体105a、105b(不図示)を包む構造である。磁性部材106cの内部に移動体105が移動する空間が形成されている。したがって、移動体105a、105bが反発しても、磁性部材106cから移動体105が滑落することはない。
【0065】
(第15実施形態)
図15は、第15の実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ800の構成を説明する図である。第15の実施形態は、滑落防止機構として、磁性部材106と移動体105a、105bとの間に、絶縁材料109を配置する構成である。絶縁材料109は、または、絶縁被膜としてもよい。
【0066】
第1の接続手段として、電磁石104aと電磁石104bは、共通のコイル線103を使用している。電磁石104a、104bは、移動体105a、105bと、絶縁材料109を介して磁性部材106に接続される。
【0067】
本実施形態では、絶縁材料109に応じて移動体105a、105bと磁性部材106との接触状態を調整することができる。また、移動体105a、105bと磁性部材106とは電気的に絶縁する構成とすることができる。
【0068】
図16、17は、上述した実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの動作原理を説明する図である。第1の接続手段として、電磁石104aと電磁石104bは、共通のコイル線103を使用している。また、電磁石104aは移動体105aに接合されており、電磁石104bは移動体105bに接合されている。
【0069】
また、磁性部材106は各移動体105a、105bと対向する方向に分極された磁石を使用する。図16、図17では、磁性部材106は、上側がN極、下側がS極に分極している。
【0070】
コイル線103は、駆動回路101の端子102b(プラス側)から、電磁石104b、電磁石104aを介して端子102a(マイナス側)に接続される。電磁石104aと電磁石104bとは、異なる方向に磁界が発生するようにコイル線103が巻きつけられている。
【0071】
図16に示す構成では、電流は、端子102b(プラス側)から端子102a(マイナス側)に向かって流れる。電磁石104bの移動体105b側はN極に、電磁石104aの移動体105a側はS極になる。
【0072】
これにより、移動体105bは、磁性部材106に反発して、摩擦力は小さくなる。移動体105aは、磁性部材106に吸着して摩擦力は大きくなる。移動体105aは、磁性部材106の動きに応じて移動させることが可能となる。
【0073】
図17では、電流は、端子102a(プラス側)から端子102b(マイナス側)に向かって流れる。電磁石104bの移動体105b側はS極に、電磁石104aの移動体105a側はN極になる。
【0074】
これにより、移動体105bは、磁性部材106に吸着して摩擦力が大きくなる。移動体105aは、磁性部材106に反発して、摩擦力は小さくなる。移動体105bは、磁性部材106の動きに応じて移動させることが可能となる。
このようにして、電流を流す向きで摩擦を制御し、所望の移動体105の動きを制御することができる。
【0075】
図18、図19、図20は、2つの移動体105a、105bの駆動原理を説明する図である。
図18(a)、19(a)、20(a)は、慣性駆動アクチュエータ850の構成を説明する図である。図18(b)は圧電素子110への印加電圧の時間変化を示す。図18(c)は端子102aの電圧の時間変化を示す。端子102bの電圧は、図示しないが、端子102aとは逆の極性であるか、またはGNDとなる。駆動回路101は、端子102a、102bの電圧を制御する。
なお、慣性駆動アクチュエータの構成は、図16、図17で示した例と同様である。ただし、磁性部材106は、圧電素子110を介して図示しない固定部材に接続される。
【0076】
圧電素子110は、印加電圧の増加に応じて伸び、磁性部材106は左(以下A方向)へ移動する。圧電素子110は印加電圧の減少に応じて縮み、磁性部材106は右(以下B方向)へ移動する。
【0077】
端子102aがマイナスのとき、移動体105aは磁性部材106に吸着し、移動体105bは磁性部材106に反発する。このとき、圧電素子110は伸長しており、吸着している移動体105aは、磁性部材106の動きに応じて、A方向へ移動する。端子102aがプラスのとき、移動体105bは磁性部材106に吸着し、移動体105aは磁性部材106に反発する。このとき、圧電素子110は縮んでおり、吸着している移動体105bは、磁性部材106の動きに応じて、B方向へ移動する。
この印加方法では、圧電素子110の1回の伸縮で、移動体105a、105bをそれぞれ左右に移動することができる。
【0078】
図19は、他の駆動制御を説明する図である。図19(a)は、慣性駆動アクチュエータ850の構成を示している。図19(b)は圧電素子110への印加電圧の時間変化を説明する図である。図19(c)は端子102aの電圧の時間変化を説明する図である。
【0079】
端子102aの電圧極性は、端子102bの電圧極性と逆の関係にある。そして、図19(c)のようにGND(レベル0)を介在させて段階的に印加電圧を変化させる。GNDのときには、各移動体105a、105bは、吸着も反発もしていない状態である。このとき、移動体105a、105bには摩擦力は発生しないで、磁性部材106に対しすべりが生じると同時に、慣性力により、その場所に留まろうとしている。
【0080】
端子102aがマイナスのとき、移動体105aは、磁性部材106に吸着し、↓A方向へ移動する。また、端子102aがGNDのとき、移動体105aは、その場所に保持される。次の圧電素子110の伸長時、端子102aはプラスになり、移動体105bが磁性部材106に対して吸着し、A方向へ移動する。本実施形態では、2つの移動体105a、105bを同じ方向へ動かす動作を説明している。
【0081】
図20は、さらに別の駆動制御を説明する図である。図20(a)は、慣性駆動アクチュエータ850の構成を説明する図である。図20(b)は圧電素子110への印加電圧の時間変化を説明する図である。図20(c)は端子102aの電圧の時間変化を説明する図である。
【0082】
端子102aの電圧は、図20(c)のように、マイナス電圧とGND電圧をを交互に発生させる。端子102aがマイナスのとき、移動体105aは磁性部材106に吸着し、移動体105bは磁性部材106に反発する。吸着している移動体105aは、磁性部材106の動きに応じて、A方向へ移動する。この駆動方法では、移動体105aだけをA方向へ移動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明にかかる慣性駆動アクチュエータは、複数の移動体を有する慣性駆動アクチュエータに有用であり、特に、小径化な慣性駆動アクチュエータに適している。
【符号の説明】
【0084】
1 固定部材
2、110 圧電素子
3 振動基板
4、105a、105b 移動体
4a 吸着部
5、103a、103b コイル線
7 突起
20、101 駆動回路
102a、102b 端子
104a、104b 電磁石
105a、105b、105c 移動体
106 磁性部材
107、108、111 配線
109 絶縁膜
100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850 慣性駆動アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の移動体と、
第2の移動体と、
前記第1の移動体に配置された第1の電磁石と、
前記第2の移動体に配置された第2の電磁石と、
前記第1の移動体と前記第2の移動体とに対向して配置された磁性部材と、
前記第1の電磁石を構成する第1のコイルと、前記第2の電磁石を構成する第2のコイルとに電流を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を介さず、前記第1のコイルと前記第2のコイルとを電気的に接続させる第1の接続手段とを備え、
磁力にて複数の前記移動体の摩擦を制御することを特徴とする慣性駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記磁性部材は、前記移動体と対向する方向に分極された永久磁石であり、かつ、前記駆動回路から電流を前記第1のコイルと前記第2のコイルとに供給した際、前記第1の電磁石が発生する磁界の向きに対して、前記第2の電磁石が発生する磁界の向きが逆向きになるように、前記第1のコイルと前記第2のコイルとが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1のコイル、前記第2のコイルを介さずに、前記第1の接続手段と前記駆動回路とを電気的に接続する第2の接続手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1の接続手段として、前記第1のコイルと前記第2のコイルとを同一線材で形成することを特徴とする請求項2または3に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1の接続手段は、前記第1のコイルと前記第2のコイルとを電気的に中継する中継部材によって構成されることを特徴とする請求項2または3に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項6】
前記慣性駆動アクチュエータは、さらに滑落防止機構を有することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項7】
前記移動体は絶縁部材を介して前記磁性部材に配置することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項8】
前記移動体は絶縁層を介して前記磁性部材に配置することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項9】
前記移動体にコイル芯が形成され、前記コイル芯にコイル線を巻くことによって電磁石が形成されることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項10】
3つ以上の移動体を有する慣性アクチュエータにおいて、そのうちの少なくとも2つ以上の電磁石が前記第1の接続手段により接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の慣性駆動アクチュエータ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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