説明

懸濁液の加熱・撹拌装置および加熱・撹拌方法

【課題】メンテナンスが容易であり、懸濁液成分の固着が極端に少なく、加熱効果も撹拌効果も長期間維持することができる懸濁液加熱・撹拌装置および加熱・撹拌方法の提供
【解決手段】懸濁液槽3と、懸濁液4中に蒸気を吹き込む蒸気吹き込み手段8とを有し、吹き込んだ蒸気によって懸濁液を加熱するとともに、蒸気の気泡9の上昇流によって懸濁液を回流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁液の加熱・撹拌装置および加熱・撹拌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間鍛造用の線材およびバーインコイルは、熱間圧延後に巻き取られ、コイルの状態で、酸洗処理および焼鈍が実施される場合が多い。以下、コイルの状態の線材およびバーインコイルを「線材コイル」という。線材コイルは、焼鈍時にその自重により線材同士が溶着するという問題があり、また、酸洗処理後の水洗が十分でないと中間在庫時には錆が発生するという問題もある。焼鈍時の溶着防止および中間在庫時の発錆軽減を目的として、酸洗処理後の線材コイルを水洗した後に、消石灰を分散した懸濁液に浸漬し、さらに乾燥することが行われている。
【0003】
図1に示すように、線材コイル1は、フック2につり下げられた状態で、消石灰懸濁液槽3を満たす消石灰懸濁液4に浸漬される。図2に示すように、従来、消石灰懸濁液槽3には、蒸気管などの加熱装置5と、プロペラ式などの撹拌装置6が装備されている。加熱装置5は、消石灰の線材への付着量を確保するとともに、付着した消石灰の乾燥を容易にするためのものであり、撹拌装置6は、消石灰懸濁液の分散を維持するためのものである。加熱装置5としては、パネルヒータを用いられることがあり、撹拌装置6としては、ポンプ式のものが用いられることがある。特許文献1にはプロペラ式の撹拌装置が、特許文献2にはポンプ式の撹拌装置がそれぞれ示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−269843号公報
【特許文献2】特開平11−104476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸気管またはパネルヒータを用いて熱交換によって加熱する従来の加熱装置を用いて、一定温度まで消石灰懸濁液を加熱するときには、通常、目標の液温よりも高い温度に設定される。しかし、過熱気味に加熱することは懸濁液からの消石灰の凝集を助長し、加熱装置の熱交換器表面に消石灰が堆積する。長期間設備を使用すると、消石灰の堆積厚さが更に増し、熱伝導効率が悪くなるので、定期的に堆積した石灰石を除去しなければならない。
【0006】
一方、プロペラ式の撹拌装置においても、その使用時にプロペラに消石灰が固着し、また、消石灰懸濁液の流路7内に消石灰が固着して狭幅化が生じる。このような現象は、特に、撹拌装置の液面付近、滞留している部分において顕著となる。これは、撹拌対象が懸濁液であるがために凝集が生じることによるものであると考えられる。撹拌効率の低下を防止するためには、プロペラおよび流路に固着した消石灰を定期的に除去する必要がある。ポンプ式の撹拌装置においても、流路内に消石灰が固着し、上記と同じ問題が生じる。
【0007】
実際、パネルヒータによる加熱装置と、プロペラ式の撹拌装置とを設置した消石灰懸濁液槽を半年間操業すると、パネルヒータには約5mm、プロペラには1〜2mmの厚さの消石灰が固着する。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するべく、懸濁液の加熱および撹拌に関し、簡単な構造でありながら、懸濁液成分の固着が極端に少なく、加熱効果も撹拌効果も長期間維持することができる、懸濁液の加熱・撹拌装置およびその装置を用いた加熱・撹拌方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく、鋭意研究を重ねた結果、懸濁液の凝集は設備表面があるから起こるものであり、従来のように熱交換を基本とする加熱方法ではなく、不定形の蒸気を液中で噴出させることにより懸濁液を加熱すれば、長期間使用しても加熱効果を低下させることがほとんどないことが判明した。また、消石灰懸濁液中の蒸気の噴出位置を適切な位置とすることで、気泡の上昇によって消石灰懸濁液中に回流が生じ、消石灰懸濁液の撹拌が十分に行われることが判明した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、下記の懸濁液の加熱・撹拌装置および加熱・撹拌方法を要旨とする。
【0011】
(1)懸濁液槽と、懸濁液中に蒸気を吹き込む蒸気吹き込み手段とを有する懸濁液の加熱・撹拌装置であって、吹き込んだ蒸気によって懸濁液を加熱するとともに、回流させる懸濁液加熱・撹拌装置。
【0012】
(2)懸濁液が、消石灰懸濁液である上記(1)の懸濁液加熱・撹拌装置。
【0013】
(3)懸濁液槽の底部から蒸気を吹き込む上記(1)または(2)のいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置。
【0014】
(4)懸濁液槽の長手方向の一方の側壁付近から蒸気を吹き込む上記(1)〜(3)のいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置。
【0015】
(5)蒸気吹き込み手段が、複数の蒸気噴出口を有する上記(1)〜(4)のいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置。
【0016】
(6)蒸気吹き込み手段が、軟質材料で構成されている上記(1)〜(5)のいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置。
【0017】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置を用いて、懸濁液中に蒸気を吹き込むことにより、懸濁液を加熱するとともに、回流させることを特徴とする懸濁液の加熱・撹拌方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、メンテナンスが容易な簡単な構造であり、懸濁液成分の固着が極端に少なく、加熱効果も撹拌効果も長期間維持することができるので、懸濁液の加熱・撹拌、特に消石灰懸濁液の加熱・撹拌に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】線材コイルを消石灰懸濁液に浸漬する状態を示す図
【図2】従来の消石灰懸濁液の加熱・撹拌方法を示す図
【図3】本発明による懸濁液の加熱・撹拌状態の例を示す図 (a)懸濁液槽の正面から見た図 (b)懸濁液槽の側面から見た図
【図4】本発明による懸濁液の加熱・撹拌状態の他の例を示す図 (a)懸濁液槽の正面から見た図 (b)懸濁液槽の側面から見た図
【図5】図4に示す吹き込み手段を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図3(a)および(b)に示すように、本発明の懸濁液加熱・撹拌装置10は、懸濁液槽3と、懸濁液4中に蒸気を吹き込む蒸気吹き込み手段8とを有し、吹き込んだ蒸気によって懸濁液4を加熱するとともに、回流させる。具体的には、蒸気吹き込み手段8の噴出口8aから吹き込まれた蒸気の気泡9が上昇することにより、上方に向かう懸濁液4の流れが生じ、気泡が生じていない箇所では逆に下方に向かう懸濁液4の流れが生じるため、図3(b)の矢印で示すように、懸濁液4が回流することになる。また、懸濁液4は、蒸気が吹き込まれることにより直接的に加熱される。このように、懸濁液は、加熱されると共に回流させられるため、懸濁液の温度のバラツキが小さく、また懸濁液の分散状態も維持することが可能となる。
【0021】
懸濁液としては、例えば消石灰の懸濁液の他、シリカやアルミナ系の粉末を懸濁したもの、ガラス質や無機系化合物の粉末などを懸濁したものなどが挙げられる。
【0022】
本発明の懸濁液加熱・撹拌装置10は、例えば、線材コイル1の焼鈍時に線材同士の溶着を防止するために線材表面に付着させる消石灰の懸濁液の加熱・撹拌に有用である。この場合、例えば、図3(a)および(b)に示すように、線材コイル1をつり下げたフック2を懸濁液槽3上から下降させ、加熱するとともに撹拌した状態にある消石灰の懸濁液4中に、線材コイル1を浸漬し、所定時間保持することにより、線材コイル1に均一に消石灰を付着させることができる。
【0023】
蒸気の吹き込み位置については、制約はないが、図3(a)および(b)に示すように、特に、懸濁液槽3の底部から蒸気を吹き込むのが好ましい。これは、懸濁液4中の吹き込み位置(具体的には噴出口の位置)が深いと、蒸気の気泡9の上昇速度が上がりやすく、撹拌効率がよくなる。また、懸濁液4中の吹き込み位置が深いと、蒸気が懸濁液と接触する時間も長くなり、加熱効率がよくなる。
【0024】
また、図3(a)および(b)に示すように、蒸気の吹き込み位置は、懸濁液槽3の長手方向(図3(a)の横方向)の一方の側壁3a付近の位置とすることが好ましい。蒸気の吹き込み位置を中央付近とすることも可能ではあるが、気泡9による発生した上昇する流れが水面に達した後、広がる方向の自由度が大きいと、撹拌力が小さくなる。図3(b)に示すように、懸濁液槽3の長手方向の一方の側壁3a付近から蒸気を吹き込めば、気泡9は側壁3aに沿って上昇し、水面に達した後は、他方の側面に向かって流れが生じるため、より大きな撹拌力が得られる。
【0025】
蒸気吹き込み手段8の配設位置には、特に制約はないが、懸濁液4に浸漬する線材コイル1などの被浸漬体と接触しないことが必要である。この理由からも、懸濁液槽3の側面付近で、かつ底面付近に配管するのが好ましい。蒸気吹き込み手段8の配管の材質は、特に制約がないが、例えば、金属、ゴム、テフロン(登録商標)、塩化ビニルなどの軟質樹脂など、ある程度の耐熱性と耐久性を備える材料を用いることができる。中でも、耐熱性ゴム、テフロン(登録商標)、軟質樹脂などの軟質材料からなる管を用いるのが好ましい。
【0026】
軟質材料からなる管は、蒸気が管を流通する時に発生する振動、噴出口から吹き出る時に微振動などが発生するため、その振動、またはこれにより生じる管の伸縮により、懸濁液の金属管などの硬質材料の場合と比較して懸濁液の固着がより少なくなる。このため、軟質材料からなる管を用いれば、実質的に懸濁液の除去作業が不要となる。無論、金属管などの硬質材料を用いた場合でも蒸気の噴出口が閉塞するという事態までは生じないため、従来の方法と比較すれば、長期間、高い加熱効率と撹拌効率を維持できる。しかし、更に長い時間を考えれば、蒸気の噴出口が徐々に狭くなる。
【0027】
蒸気吹き込み手段8の噴出口については、懸濁液槽3のサイズに合わせて必要な数を設ければよいが、例えば、図4および図5に示すように、複数の噴出口8b〜8eを有することが好ましい。噴出口の数が多いと気泡による懸濁液の流れを調整しやすくなるからである。また、蒸気吹き込み手段8の先端はキャップ8fなどにより密閉しているものが好ましい。複数の噴出口8b〜8eからの噴出蒸気量を調整しやすいからである。
【実施例1】
【0028】
下記の試験1、試験2または試験3の条件で、線材コイルの消石灰懸濁液槽(実機)内の加熱および撹拌を約1ヶ月間実施し、消石灰の設備表面への固着状況を確認した。いずれの試験でも、消石灰懸濁液の温度は90℃、蒸気圧力は5kg/cmとした。
【0029】
試験1:
蒸気吹き出し手段の配管として、内径30mm、長さ3mの鋼管に、図4および図5に示すように、内径10mmの噴出口を、500mm間隔で5個設けたものを用いた。
【0030】
試験2:
蒸気吹き出し手段の配管として、内径28mm、長さ3mのゴム管に、図4および図5に示すように、内径10mmの噴出口を、500mm間隔で5個設けたものを用いた。
【0031】
試験3:
蒸気吹き出し手段の配管として、内径28mm、長さ3mの塩化ビニル管に、図4および図5に示すように、内径10mmの噴出口を、500mm間隔で5個設けたものを用いた。
【0032】
試験1〜3のいずれにおいても、消石灰懸濁液の温度を容易に管理でき、また、懸濁液槽内のコーナー部などを除き、消石灰の固着はほとんど確認されなかった。よって、試験1〜3によれば、従来のものより簡便な装置構成でありながら、従来のものと同程度以上の加熱性能および撹拌性能を有していた。また、いずれも、単に管を消石灰懸濁液槽内に配設しただけの構成であるので、管自体に固着した消石灰の除去は従来のものより容易に行えるし、また、数m分の管を繋ぎ代えるだけで交換可能であるので、メンテナンスが従来のものより格段に容易である。
【0033】
特に、試験1について、使用開始から30日後に管を引き上げて表面を確認したところ、管の表面に消石灰が固着していた。噴出口を閉塞するものではなく、使用上全く問題がなかった。
【0034】
一方、試験2は、使用開始から38日後、試験3は使用開始から28日後に管を引き上げて表面を確認したが、管の表面には消石灰の固着がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、メンテナンスが容易な簡単な構造であり、懸濁液成分の固着が極端に少なく、加熱効果も撹拌効果も長期間維持することができるので、懸濁液の加熱・撹拌、特に消石灰懸濁液の加熱・撹拌に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0036】
1 線材コイル
2 フック
3 懸濁液槽(消石灰懸濁液槽)
3a 懸濁液槽の長手方向の一方の側壁
4 懸濁液(消石灰懸濁液)
5 加熱装置
6 撹拌装置
7 流路
8 蒸気吹き込み手段
8a、8b、8c、8d、8e 噴出口
8f キャップ
9 気泡
10 本発明の懸濁液加熱・撹拌装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液槽と、懸濁液中に蒸気を吹き込む蒸気吹き込み手段とを有する懸濁液の加熱・撹拌装置であって、吹き込んだ蒸気によって懸濁液を加熱するとともに、回流させることを特徴とする懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項2】
懸濁液が、消石灰懸濁液であることを特徴とする請求項1に記載の懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項3】
懸濁液槽の底部から蒸気を吹き込むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項4】
懸濁液槽の長手方向の一方の側壁付近から蒸気を吹き込むことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項5】
蒸気吹き込み手段が、複数の蒸気噴出口を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項6】
蒸気吹き込み手段が、軟質材料で構成されていることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の懸濁液加熱・撹拌装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかの懸濁液加熱・撹拌装置を用いて、懸濁液中に蒸気を吹き込むことにより、懸濁液を加熱するとともに、回流させることを特徴とする懸濁液の加熱・撹拌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5933(P2012−5933A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142487(P2010−142487)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】