説明

懸濁物の分離装置

【課題】
微細気泡発生過程において懸濁物の凝集を破壊せず、浮上分離性を悪化させない、微細気泡を利用した液中懸濁物の浮上分離装置を提供することにある。
【解決手段】
分離装置において、浮上分離槽の外部に独立した液体循環系を有する微細気泡発生部及び発生した微細気泡と液体とを遠心分離する機能を有する微細気泡発生槽を配し、処理槽から排出される処理液の一部を該微細気泡発生槽の液体循環系に追加供給し、追加分の遠心分離液が処理槽に送液されることで遠心分離液中の微細気泡が浮上分離槽中の懸濁物を浮上分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細気泡による浮上分離法を用いた、液体中の懸濁物の分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性汚泥処理工程や水質浄化においては、加圧条件下で液体中に空気を溶解させ、常圧に減圧することで溶解した空気を微細気泡として発生させ、この微細気泡を液中の懸濁物である固形物粒子や油粒子に付着させて浮上分離する加圧浮上分離装置が知られている。
【0003】
微細気泡を用いた浮上分離における微細気泡の発生法の1つとして、特許文献1に示すように、ベンチュリ等を用いキャビテーションを利用した方法がある。キャビテーションを利用した一つの方法は、ポンプ等による加圧条件下で気液混合流体を機械的攪拌等の手段を用いて気体の表面積を増加させて確実に溶解させ、気体の溶解した加圧液がノズルまたはバルブを通過する時に減圧し、キャビテーションが発生することで溶解していた気体が析出し、微細気泡が発生する方法であり、本発明中では加圧溶解法と定義する。また、ベンチュリを用いる方法では、気液混合流体がベンチュリの絞り部から末広部を通過する過程で流れ方向に圧力差が生じ、衝撃派を生じさせ微細気泡を発生させる。
【0004】
また、特許文献2に示すように、気液界面のせん断を利用する方法では、高速の噴流により発生する乱流領域で気液混合流体をせん断し微細気泡を生成するものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−299904号公報
【0006】
【特許文献2】特開2000−447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、キャビテーションや気液界面のせん断を利用する方法では、溶解時や気泡発生時に、気体と液体に対し流体あるいは機械的な力を与えている。このため、微細気泡は生成するが、分離対象となる液体中の懸濁物も同時に微細化する。
【0008】
気泡と付着し浮上分離に適した懸濁物の大きさは、気泡より大きいか同程度と考えている。従って、良好な分離性能を得るためには、懸濁物の微細化防止と気泡の微細化と、相反する状態を両立することが必要となる。
【0009】
本発明の目的は、微細気泡発生過程において懸濁物の凝集を破壊せず、浮上分離性を悪化させない、微細気泡を利用した液中懸濁物の浮上分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の懸濁物分離装置の特徴とするところは、浮上分離処理槽に連続して供給する被処理液中に微細気泡を供給することにより、被処理液に含まれる懸濁物を液中から浮上分離する分離装置において、処理槽外部に独立した液体循環系を有する微細気泡発生部及び発生した微細気泡と液体とを遠心分離する機能を有する微細気泡発生槽を配し、処理槽から排出される処理液の一部を該微細気泡発生槽の液体循環系に追加供給し、追加分の遠心分離液が処理槽に送液されることで遠心分離液中の微細気泡が浮上分離処理槽中の懸濁物を浮上分離することにある。
【0011】
本発明による微細気泡は、該微細気泡発生槽の独立した液体循環系の中で発生するため、被処理液に流体あるいは機械的な力が働かないため、被処理液中の懸濁物の凝集を破壊しない。従って、微細気泡は凝集した懸濁物に付着することになるので、付着性が向上し、浮上分離性が向上する。また、浮上分離処理槽に供給される遠心分離液量は少量で且微細気泡量が多いため、浮上分離処理槽中の流速が低くなり、分離槽が小型化できる。また、微細気泡量が多い分離液を連続して供給するため、さらに浮上分離性が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば浮上分離性が良い小型の液中懸濁物の分離装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1に示した本発明の一実施例について説明する。
【0014】
図1において、浮上分離槽100には懸濁物を含んだ被処理液2を浮上分離槽100内へ送液する供給管2Pと、被処理液2中の懸濁物を分離除去した後の処理液4を浮上分離槽の外に排出する処理液排出管16と、浮上分離した懸濁物を液面から浮上物排出管18に移送するスキマ17と、浮上した微細気泡が壊れて発生する気体を回収する気体回収管19とが設けてある。この気体回収管19は後述する処理液排出管16の上部にも接続されている。また、浮上分離槽100の下方側には被処理液中に気泡を供給するための気泡供給配管(以後外管と称する)20が設けてある。
【0015】
被処理液2は、供給管2Pに設けた液攪拌効果の小さい方式、例えばプランジャ式等の定量供給ポンプ15により送液され、供給管2Pより浮上分離槽100内の被処理液又は処理液中に静かに吐出2'される。なお、図示していないが、浮上分離槽100内には供給管2Pから供給される被処理液2の量を制御するために液面検知手段が設けてある。この液面検知手段の検出結果に基づいて定量供給ポンプ15、循環ポンプ10や各種流量調整バルブ等が制御される。
【0016】
浮上分離槽100内の処理液又は被処理液中には、微細気泡発生槽200から外管20を介して微細気泡の混入された処理液が供給される。なお、微細気泡発生槽200は上方から下方に行くに従って断面半径が小さくなる円錐形状をしている。また微細気泡発生の上部の略中央部に外管20が設けてある。
【0017】
浮上した被処理液中の懸濁物は、回転するスキマ17により掻き寄せられ、浮上物排出管18を通過して浮上分離処理槽100の外に排出される。
【0018】
被処理液2から懸濁物が除去された処理液4は、浮上分離槽100の下方に設けられている処理液取り込み口に接続されている処理液排出管16に送られる。処理液排出管16の下方には大気泡排出管(以下、中央管と称する)21が設けてあり、その中央管21は微細気泡発生槽200に接続されている。また、処理液排出管16に送られた処理液の1部は、流量調節バルブ12で一定流量とした追加分離液として追加分離液配管5Pを介して微細気泡発生槽200に送られる。残りの処理液4は処理液排出管16の上部よりオーバーフロー分をオーバーフロー回収配管3Pにより、あるいは図示しないポンプにより排出される。このオーバーフロー回収配管3Pの設置高さは、浮上物排出管18の設置高さより低い位置に設けてある。
【0019】
微細気泡発生槽200の上部側には、微細気泡発生部11から微細気泡を含有した液体(気液混相流)を微細気泡発生槽200の壁面に沿って(円断面の接線方向に)噴出することで旋回流を発生させるサイクロン構造となっている。また、微細気泡発生部11には、微細気泡1を噴出により生成するノズル26(図2参照)またはバルブを設けてある。また、微細気泡発生槽200の下部側には、旋回流により遠心力が働くことにより、比重の大きい微細気泡の含有比率の小さい遠心分離液6の排出流量を調整する流量調節バルブ13と、流量調整バルブ13に接続された遠心分離液配管6Pが設けてある。遠心分離液配管6Pと追加処理液配管5P及び気体回収管19は合体して循環ポンプ10に接続されている。気体回収配管19は供給量調整用のバルブ14を介して前記各配管に接続されている。循環ポンプ10は、遠心分離液6と追加処理液5と微細気泡1となる気体7を吸引・混合・加圧しながら微細気泡発生部11まで送液する。微細気泡発生槽200の上部側には先に述べた比重の小さい微細気泡の含有比率の大きい遠心分離液6を浮上分離処理槽100へ送液する外管20と、遠心分離液6内の粗大気泡を処理液排出管16に排出する中央管21とが設けてある。図に示すように中央管21は外管20内に位置するように、外管20の途中から外管20内に挿入された一部が2重管の構造となっている。
【0020】
本実施例においては、微細気泡の生成方法の一例として、キャビテーション法を用いた一方法である加圧溶解法について述べるが、別方式による微細気泡生成法で微細気泡を発生させて、サイクロン構造の微細気泡発生槽200に導入することも可能である。微細気泡の生成操作と気泡径の分級操作について図2で説明する。図2は微細気泡発生槽の拡大図である。
【0021】
図2において、微細気泡発生槽200は、微細気泡発生部11から水平方向に微細気泡発生槽200内の円形断面の接線方向に向かって気液混合液体を吐出することにより、旋回流を生じさせ、微細気泡発生槽200の下方側から液体を排出する構成(サイクロン構造)としている。このサイクロン構造により遠心分離した比重の大きい微細気泡の含有比率の小さい分離液は、サイクロン構造の円錐壁面に沿って下降する流れ24となる。下降流24は、流量調整バルブ13により調節され、微細気泡の含有比率の小さい遠心分離液6となる。遠心分離液6を供給する遠心分離液配管6Pと、追加分離液5を供給する追加液配管5Pと回収気体を供給する気体回収管19が合体され循環ポンプ10に接続されている。循環ポンプ10では、吸引した遠心分離液6と追加分離液5と微細気泡となる気体7をポンプ内部の羽根車で攪拌、混合、加圧することで気体を液体中に溶解させ吐出ノズル26まで送液する。気体が溶解した加圧液体は、吐出ノズル26から微細気泡発生部11内に噴射し減圧することで、キャビテーションが発生し微細気泡1Sが発生する。
【0022】
また、吐出ノズル26から吐出する時の加圧溶解操作において、未溶解の気体は径の大きい気泡1Bとなり、吐出ノズル26から微細気泡1Sと混合状態で噴射される。噴射した気泡と液体は微細気泡発生部11よりサイクロン構造の微細気泡発生槽200内に噴出される。微細気泡発生槽200内には、この気液混合液体の噴出により旋回流22が発生する。この旋回流22により、気液混合液体に遠心力が働くことで、微細気泡を多く含んだ比重の小さい分離液9は、微細気泡発生槽200内の中央23に集まり上昇流25となる。そのうちでも径の大きい気泡1Bを多く含む液体の比重が小さいためより中央側に集まり、径の小さな気泡1Sを含む液体はその周辺部に集まる。なお、微細気泡をほとんど含まない比重の大きな分離液は、微細気泡発生槽200の壁面に沿って流れる下降流24となる。
【0023】
前述のように、上昇流25に集まる気泡は、微細気泡発生槽200の中央部側に径の大きい気泡1Bから外周方向に径の小さい微細気泡1Sが集まる分布となる。そして、中央部に分布する径の大きい気泡1Bは中央管21を通過し処理液排出管16に送出され、処理液排出管16上部に集まり、未使用気体として気体回収管19により回収される。径の小さい微細気泡1Sを多く含む分離液は外管20を通過して浮上分離槽100に送液される。微細気泡1Sは浮上分離槽100内を上昇し、被処理液2の懸濁物に付着して浮上分離を行う。分離に使用された微細気泡は、浮上分離槽100の上部から気体回収管19により回収され再利用される。
【0024】
本発明による微細気泡による浮上分離は、浮上分離処理槽100内に、連続して被処理液2と微細気泡1を投入し、連続して処理液4及び懸濁物である浮上物を排出する連続処理法である。
【0025】
連続処理法の運転動作は、最初に図示しない清水供給部から微細気泡発生槽200に清水あるいは処理液4を充満させ、浮上分離槽100には所定量(処理液排水管16に設けてあるオーバーフロー回収配管3Pの高さまで)の清水あるいは処理液4を供給しておく。そして、微細気泡発生の操作は被処理液2の送液の前にスタートさせ、浮上分離槽100内にの液中に微細気泡1を充満させておく。この状態で被処理液2の送液を行うと、連続して処理液4と懸濁物である浮上物が浮上分離槽100から排出される。
【0026】
微細気泡による浮上分離において、微細気泡と懸濁物粒子間の接触付着の形態は通常2つ考えられる。1つは、凝集した懸濁物内部に微細気泡を含有するもので、凝集が大きい場合に相当する。2つは、懸濁物粒子と気泡との付着であり、固体と気体2相間の界面張力と界面に作用する分子間力により付着力が発生する。
【0027】
対象とする液中に存在する懸濁物質の濃度、凝集状態及び粒子径と、微細気泡の濃度及び気泡直径は、懸濁物質と微細気泡の付着性に大きな影響を及ぼす。
【0028】
本発明では、微細気泡発生時に用いる液体は処理液4であるため、被処理液2に流体あるいは機械的な力を及ぼさず液中に存在する懸濁物質の凝集状態を破壊しないため、微細気泡の付着性が良好である。
【0029】
また、微細気泡発生槽200内での気泡の分級操作により、浮上分離に適した微細気泡1Sを選択することと、その選択した微細気泡1Sを含む液量が循環ポンプ10での加圧液8の量に比べて少量となることから、浮上分離槽100内に生じている流動への影響が小さいため、微細気泡の付着性と浮上分離性が向上し、浮上分離処理槽100を小型化できる。
【0030】
連続処理において、被処理液に含まれる懸濁物質の濃度、凝集状態及び粒子径に対し、排出する処理液4に含まれる懸濁物質の濃度を目標値まで低減するために必要な微細気泡の量と浮上分離槽100の容量と形状を最適に設計することが必要である。
【0031】
本実施例で説明している微細気泡発生方法では、気体と液体を循環ポンプ10に吸い込み、ポンプ内の羽根車で攪拌しながら加圧して溶解させ、吐出ノズルから噴射し減圧することでマイクロバブルを生成するものである。但し、ベンチュリを用いる方法や気液せん断を使用する方法で気泡を発生させて、使用する液体を循環する加圧液8とすることで置き換え可能である。
【0032】
発明者らが行った加圧溶解法による微細気泡による分離実験によると、循環ポンプ10の加圧力を0.4〜0.7(MPa)と経済的な範囲に設定した場合、気体の溶解量は理論溶解量の50(%)程度であり、生成した微細気泡1は分級されて浮上分離に使用される。浮上分離に必要な微細気泡量は、浮上分離槽100に供給する被処理液2の懸濁物濃度、供給流量、分離槽容量、分離槽形状及び目標とする処理液4の懸濁物濃度から求められる。
【0033】
分離装置設計の一例として、懸濁物濃度が10,000(ppm)の被処理液を1(m3/h)で分離装置に供給し、懸濁物濃度が10(ppm)の処理液を排出する場合、処理槽容量は2(m3)、微細気泡の供給量は0.35(Nm3/h)、加圧液8の循環量は3.8(m3/h)となる。
【0034】
分離装置は、常に目標とする処理液の懸濁物濃度を達成するため、被処理液2の懸濁物濃度と供給量を想定する最大値に対応できる設計とすることが必要である。そのため、上記した浮上分離に必要な微細気泡1Sの量に対し気体の溶解量から加圧液8の量が求められ、加圧液8の量は分級比から微細気泡含有量少の遠心分離液6と追加分離液5に分割され、追加分離液5量と同量の微細気泡含有量大の遠心分離液9は2重管により分割される。浮上分離槽100に供給される液量は、遠心分離液9を2重管の外管20で分割した量となるため、小流量である。
【0035】
被処理液2の量に対する循環する加圧液8の量は、被処理液2の懸濁物の濃度、種類、凝集状態により異なる。通常加圧液8の量は、低濃度の場合は数倍、高濃度の場合は10倍程度必要である。このように、循環する加圧液8の量が大きくなるため、本発明の様に、浮上分離槽100の処理液の一部を追加分離液5として供給する方法では、循環する加圧液8の量を供給する場合に比べ浮上分離槽100内の流速は低くなる。また、被処理液2の懸濁物の凝集も破壊しない。このため、浮上分離槽100の容量及び形状の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態になる液中懸濁物分離装置を示す図である。
【図2】図1に示した微細気泡発生槽の微細気泡生成と微細気泡径の分級操作を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1…微細気泡、2…被処理液、2P…被処理液配管、3P…オーバーフロー回収配管、4…処理液、5P…追加分処理液配管、6P…遠心分離液配管、10…循環ポンプ、11…微細気泡発生部、16…処理液排出管、17…スキマ、18…浮上物排出管、19…気体回収管、20…気泡供給配管(外管)、21…大気泡排出配管(中央管)、100…浮上分離槽、200…微細気泡発生槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮上分離槽に供給された被処理液中に微細気泡を供給し、前記被処理液に含まれる懸濁物を前記微細気泡に付着させて浮上分離する懸濁物の分離装置において、
前記浮上分離槽の下方側に、前記浮上分離槽内に微細気泡の混入した液体を供給するための微細気泡発生槽を設け、前記微細気泡発生槽の内部は、上方側の径が大きく下方側の径の小さい円錐形状をしており、その上方の側面部に攪拌混合加圧するポンプから気体を混合した液体を供給し微細気泡を発生させる微細気泡発生部が設けられ、前記微細気泡発生部から前記微細気泡発生槽内部の円形断面の接線方向に気泡の混入した液体を吐出することで旋回流を発生させる構成としたことを特徴とする懸濁物の分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の懸濁物の分離装置において、
前記微細気泡発生槽の上部に前記浮上分離槽に微細気泡の混入した液体を供給する供給配管と、大きな気泡を排出するための気泡排出管が前記浮上分離槽の横に前記浮上分離槽に連通するように配設された処理液排出管に接続した構成とことを特徴とする懸濁物の分離装置。
【請求項3】
請求項2に記載の懸濁物の分離装置において、
前記微細気泡発生槽の下部に流量調整バルブ介して供給される遠心分離液と前記処理液排出管から供給される処理液と、前記浮上分離槽及び前記処理液排出管の上部から供給される気体を前記ポンプに供給して、前記ポンプにて攪拌混合加圧した液体を生成することを特徴とする懸濁物の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−116390(P2006−116390A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305029(P2004−305029)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000233077)株式会社 日立インダストリイズ (97)
【Fターム(参考)】