説明

成型品の品質検査用試料作成方法

【課題】成型品の材料分析のための試料を成型品を破壊することなく確実に得ることができる成型品の品質検査用試料作成方法を提供する。
【解決手段】例えばラックマウントタイプのUPS(無停電電源装置)に組み付けられるフロントパネル1は一方の端部上方に長方形の窓状の開口部2を備えている。このフロントパネル1を樹脂成型するときに、開口部2に試料3をフロントパネル1と一体に成型できるように試料3用の型を、フロントパネル1の金型の開口部2内に当る位置に開口部2の縁に連接して形成する。試料3を化学分析用試料として用いるためにフロントパネル1から分離する場合は、試料3と開口部2の縁との連接部4を切り離し、試料3に付いて残る不要部分5を除去して円柱状の試料3を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の品質検査のために、製品を構成する成型品の含有化学物質を分析するための試料を、成型品を破壊することなく確実に得ることができる成型品の品質検査用試料作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば欧州WEEE&RoHS規制等のように、製品に含まれる有害化学物質に対する規制とリサイクル網の確立が全世界的に広がってきている。そして、そのような潮流に対処すべく、製品を構成する部品や材料に含まれる化学物質の管理が必要となってきている。
【0003】
この化学物質の管理態様としては、通常、樹脂成型品の場合は、製品本体に材料表示等が行われている。また、樹脂成型品の含有化学物質である鉛(Pb)や、カドミウム(Cd)等の分析においては、一般にエネルギー分散型蛍光X線分析装置が用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、そのような製品を構成する部品や材料に含まれる化学物質の管理を必要とする部品や材料のグリーン(環境に優しい、環境問題意識が高い)調達の態様としては、部品や材料の供給業者に対して、部品や材料に含まれる化学物質の調査を行う場合が多い。
【0005】
ところが、調査に対する供給業者からの回答がなかったり、回答があってもその回答の信憑性に疑問があったりすることがある。このように、グリーン調達に対して不熱心または非協力的な供給業者は特に海外の場合に多い。
【0006】
そこで、グリーン調達を厳格に行おうとする場合には、部品や材料を調達した会社が自社で、その調達した部品や材料の含有化学物質の分析を行う必要が生じる。
一般に、分析調査は、調査(検査)する対象品を数量的ロット又は時間的ロットに分け、そのロット毎に予め定められた一定数を無作為に抜き取って検査する。
【0007】
調達品の場合も同様であり、その調査(検査)が厳格さを要求されるものであるほど検査対象となる部品や材料の上記の抜き取りも厳格に行われる。
そして、その検査では、上述したように、樹脂成型品の含有化学物質の分析には一般にエネルギー分散型蛍光X線分析装置が用いられるが、この装置は非破壊では精度よく分析することが出来ない。
【0008】
すなわち、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて精度良く分析するためには樹脂成型品と同一の一定量以上の試料が必要であり、結果として樹脂成型品を一部破壊して分析用の試料を得ることになる。
【0009】
たとえ一部でも破壊された樹脂成型品は製品として使用するに耐えないから破棄される。すなわち、調達された部品や材料が、抜き取られた数だけ無駄になってしまうことになり、不経済であるという問題があった。
【0010】
しかしながら、上記問題の解決策、すなわち成型品の材料分析のための試料を成型品を破壊することなく確実に得ることを提案した先行技術はいまもって見出すことが出来ない。
【0011】
本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、成型品の材料分析のための試料を成型品を破壊することなく確実に得ることができる成型品の品質検査用試料作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の成型品の品質検査用試料作成方法は、試料が成型品と同じ材料であることを確実とするための成型品の品質検査用試料作成方法であって、成型品用の金型の一部に試料用の型を彫り、成型品と試料とを同じ材料を用い同じ金型で同時に成型することを特徴とする。
【0013】
上記試料用の型は、例えば、上記成型品が開口部を有するとき該開口部内に当る位置に開口部の縁に連接して形成されることを特徴とする。
また、上記試料用の型は、例えば、上記成型品の金型の上記成型品を成型する部位と連接して形成されることを特徴とする。
【0014】
また、上記試料用の型には、例えば、材料表示又は製品情報又は図面番号が刻印されることを特徴とする。
また、この成型品の品質検査用試料作成方法において、上記成型品は、例えば、成型後の上記成型品から分離される又は上記金型から同時に取り出される上記試料を保持可能な複数の爪を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記いずれかの品質検査用試料作成方法により成型品または品質検査用試料を得ることを特徴とする。
また、上記いずれかの品質検査用試料作成方法に用いられる成型用金型を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成型品と同一材料で同時に成型した試料を成型品の一部として成型品に添付できるので、成型品の材料分析のための試料を成型品を破壊することなく確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0018】
図1(a) は、実施例1に係わるフロントパネルが組みつけられるラックマウントタイプのUPS(無停電電源装置)の外観斜視図であり、同図(b) は、そのフロントパネルの前面を示す斜視図である。
【0019】
同図(a) に示すように、本例のフロントパネル1は、一方の端部(図1に示す例では右端部)上方に長方形の窓状の開口部2を備える設計となっている。
このフロントパネル1のように、樹脂成型品が開口部を有するときは、その開口部に試料を成型品と一体に成型できるように、試料用の型を成型品の開口部内に当る位置に開口部の縁に連接して形成するようにする。
【0020】
図2(a) は、成型品の開口部内に成型品と一体に成型された試料の例を示す図であり、同図(b) はその破線で囲んで示す開口部に形成された試料を示す拡大図である。
このように、フロントパネル1の開口部2の中の適宜な位置(図2に示す例では開口部2の中央)に、試料3が開口部2の縁に連接して形成されるように、このフロントパネル1の成型に際しては、予めフロントパネル1用の金型の開口部の位置に試料3の型を彫るようにする。
【0021】
この試料3を化学分析用試料として用いるためにフロントパネル1から分離する場合は、試料3と開口部2の縁との連接部4を切り離し、試料3に付いて残る不要部分5を除去することにより、円柱状の試料3を得ることができる。
【0022】
勿論、試料3の成型位置は成型品の開口部と限るものではない。例えば、上記試料3用の型は、フロントパネル1のような成型品で開口部が無い場合は、図3(a),(b) に示すように、成型品12に試料3を例えば外部にぶら下げる形であってもよい。
【0023】
すなわち、試料3は、連接部により成型品12の金型の成型品12を成型する部位と連接する位置に相当する金型の位置に彫ればよい。
この場合も、成型後に、成型品12から連接部4を切り離し、試料3に付いて残る不要部分5を除去することにより、円柱状の試料3を得ることができる。
【0024】
以上のように、成型品と試料とを連接して形成すれば、切り離しが容易な検査用試料を得られる。また、成型品と試料とを同時に形成するので、グリーン調達に反する材料を用いて成型品を作るといった不正を低減できる。試料を開口部に設けたり、ぶら下げる形にしたりすると、梱包が複雑にならないメリットもある。また、金型で試料を形成するので、所定形状の試料を精度よく得られる。
【0025】
また、試料3用の型には、例えば、材料表示又は製品情報、又は成型品を特定できる図面番号等が刻印されていることが望ましい。そうすると、例えば試料3が成型品から分離されて成型品に添付されている場合に、その試料3が成型品と同一の試料であるか否かを即座に確認することができる。
【実施例2】
【0026】
上記の図2および図3に示すように成型品と同時一体に成型された試料3は、成型品から分離せずに、そのまま調達会社に納入されるようにしてもよく、また、成型品から分離して、取り外しが容易な形態で成型品に添付して調達会社に納入されるようにしてもよい。
【0027】
図4(a) は、実施例2としての成型品への試料3の添付位置の例を示す図であり、同図(b),(c) は、その添付位置に試料3が保持される形態を2例示す図である。
なお、図4(a) には成型品の例として、図1及び図2にも示したフロントパネル1を示しており、図4(b),(c) は、それぞれ上に平面図を示し、下に上のA−A´断面矢視図、又はB−B´断面矢視図を示している。
【0028】
図4(a) に示すように、成型後のフロントパネル1から分離された又は同時に独立して取り出された試料3は、フロントパネル1の裏面6の、製品(UPS)の内部部品等に干渉しない位置に相当する適宜の位置に添付される。
【0029】
この試料3は、フロントパネル1の裏面に、取り外しが容易な形態で保持されており、成型品であるフロントパネル1と共に調達会社に納入される。
これに対応して、成型品であるフロントパネル1には、図4(b),(c) に示すように、試料3を保持可能な、複数の爪7又は8を形成されている。
【0030】
図4(b) に示す例では、円柱状の試料3を保持するためにフロントパネル1の裏面6に設けられている爪7は、試料3に対して等角度の位置となる3ヶ所に設けられ、それぞれ試料3の縁部に係合して、試料3を取り外し可能に保持している。
【0031】
また、 図4(c) に示す例では、試料3には、爪が引っ掛かる凹部9が対角の2ヶ所に形成されており、この凹部9に、上記の爪7よりもやや短めの爪8が、それぞれ係合して、試料3を取り外し可能に保持している。
【0032】
上記の爪7又は8により保持されている試料3は、いずれの保持形態の場合も、フロントパネル1の振動では保持位置から脱落しないが、いずれか1個の爪を外側に煽るだけで、容易に保持位置から取り出すことができる。
【実施例3】
【0033】
図5は、実施例3としての円環状の試料を保持する場合の例を示しており、上に平面図、下にそのC−C´断面矢視図を示している。
このように、試料が円環状である場合は、図5に示すように、爪の鉤が外側を向く形状の2個の爪11を背中合わせに、円環の内側から試料10に係合させることができる。
【0034】
この場合は、爪11は2個だけでよく、爪11が2個だけでも、図4(c) の場合のように試料が爪から脱落しないようにするために爪が係合する凹部を試料に設ける必要がないので面倒がない。
【0035】
勿論、試料10が円環状である場合も、図4(b),(c) に示した爪7又は8によって保持することが可能である。
【実施例4】
【0036】
図6(a),(b) は、実施例4としての試料が直方体の場合の保持の仕方を2例示す図である。なお、図6(a),(b) は、それぞれ上に平面図を示し、下に上のD−D´断面矢視図、又はE−E´断面矢視図を示している。
【0037】
同図(a) には、保持用の爪12を、直方体の試料13の各辺に対応する4ヶ所に設ける例を示している。
また、同図(b) には、保持用の爪14を、試料13の対向する2辺に対応する2ヶ所に設ける。そして、試料13には、爪14が引っ掛かる凹部15を設ける。
【0038】
図4(c) の場合も同様であるが、試料に凹部を設けると、爪は2箇設けるだけでよく、爪の高さを試料の凹部の分だけ低くでき、成型品の空間の狭い場所に試料を保持できる利点がある。
【0039】
また、試料の凹部の分と、爪が少ない分と、その爪の高さが低い分だけ、使用材料が少なくなるという利点もある。
試料を開口部2に設ける、もしくは、ぶら下げる形で納入すると、試料が外れてしまう恐れがある。しかしながら、実施例2〜4のように試料を添付すると、試料が外れる恐れを防止できる。また、試料を検査部門で取り外さずに、検査部門よりも人件費が低い成型品の供給業者側で取り外すので、コストを小さくできる。
【実施例5】
【0040】
ところで、上記の実施例1〜4においては、成型品と同時に試料を作成する方法とその後の試料を成型品に添付する方法を述べたが、次に、試料そのものの大きさについて説明する。
【0041】
例えば、試料の分析には、一般的なエネルギー分散型蛍光X線分析装置(例えば、島津製作所製:EDX−700HS)を使用するものとする。そして、試料の形状に拘わりなく同装置で共通に分析の作業ができるように、試料の大きさは、或る範囲内に設定されていることが望ましい。
【0042】
例えば、試料の形状が図4又は図5に示したような円柱状または円環状の場合は、試料の大きさは、径が5〜20mm、厚さが1〜5mmであることが望ましい。
また、試料の形状が図6に示したような直方体の場合は、試料の大きさは、縦横が5〜20mm角、厚さが1〜5mmであることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a) は実施例1に係わるフロントパネルが組みつけられるラックマウントタイプのUPS(無停電電源装置)の外観斜視図、(b) はそのフロントパネルの前面を示す斜視図である。
【図2】(a) は成型品の開口部内に成型品と一体に成型された試料の例を示す斜視図、(b) はその破線で囲んで示す開口部に形成された試料を示す拡大図である。
【図3】(a) は成型品の外部に成型品と一体にぶら下げる形で成型された試料の例を示す斜視図、(b) はその正面図である。
【図4】(a) は実施例2としての成型品への試料の添付位置の例を示す図、(b),(c) はその添付位置に試料が保持される形態を2例示す図である。
【図5】実施例3としての円環状の試料を保持する場合の例を示す図である。
【図6】(a),(b) は実施例4としての試料が直方体の場合の保持の仕方を2例示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 開口付きフロントパネル
2 窓状開口部
3 試料
4 連接部
5 不要部分
6 裏面
7、8 爪
9 凹部
10 試料
11 爪
12 開口無しフロントパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が成型品と同じ材料であることを確実とするための成型品の品質検査用試料作成方法であって、
成型品用の金型の一部に試料用の型を彫り、
成型品と試料とを同じ材料を用い同じ金型で同時に成型する、
ことを特徴とする成型品の品質検査用試料作成方法。
【請求項2】
前記試料用の型は、前記成型品が開口部を有するとき該開口部内に当る位置に開口部の縁に連接して形成される、ことを特徴とする請求項1記載の成型品の品質検査用試料作成方法。
【請求項3】
前記試料用の型は、前記成型品の金型の前記成型品を成型する部位と連接して形成される、ことを特徴とする請求項1記載の成型品の品質検査用試料作成方法。
【請求項4】
前記試料用の型には、材料表示又は製品情報又は図面番号が刻印される、ことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の成型品の品質検査用試料作成方法。
【請求項5】
前記成型品は、成型後の前記成型品から分離される又は前記金型から同時に取り出される前記試料を保持可能な複数の爪を備える、ことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の成型品の品質検査用試料作成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの品質検査用試料作成方法により得られる成型品または品質検査用試料。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの品質検査用試料作成方法に用いられる成型用金型。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−171089(P2007−171089A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371868(P2005−371868)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】