説明

成型用金型とその使用方法

【課題】成型用部材に十分な圧縮応力を与えることが可能で、硬質脆性材料を成形用部材に使用しても高い引張り応力がかからずに長寿命化が可能な金型とその使用方法を得ること。
【解決手段】成形用部材1の周囲を囲むように与圧部材2を嵌合し、その周囲を囲むようにコレットチャック3を嵌合し、さらにその周囲を囲むようにケーシング4を嵌合した成形用金型である。与圧部材2には外周スリット2aと内周スリット2bとを周方向に沿って交互に等間隔で設けた。コレットチャック3には、その上端部又は下端部に雄ねじ部3aを形成する共に、外周に雄ねじ部3a側に向けて縮径するテーパー面3bを形成した。ケーシング4には、その内周にテーパー面3bと面合するテーパー面4a形成した。ケーシング4の上方又は下方に配置されたナット6を雄ねじ部3aに締結することによりコレットチャック3を縮径させ、成形用部材1に圧縮応力を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工、温間・熱間鍛造加工等に使用されるパンチやダイス等の成型用金型とその使用方法、並びに、その他高圧力での締結と同時に耐摩耗性が要求される装置等(例えばエンドミル等の回転工具の精密チャックなど)の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス加工、鍛造加工等の加圧によって金属素材を所定形状に成形する成形用金型においては、その加圧時に加わる高い内部圧力により金型に円周方向の引張応力が生じ、その値が材料強度を超すと破壊する。こうした金型の破壊及び変形を防止するために、例えば特許文献1には金型の外周に補強リングを嵌着して金型に圧縮応力を与えることが開示されている。しかしながら、このような構造にするだけでは、金型に効率的に十分な圧縮応力を与えて、十分な金型強度を得ることができなかった。
【0003】
また、特許文献2には、凸金型と凹金型を使用したプレスによる金属製の電極の製作方法が開示され、その実施例には、タングステンのような難塑性加工材料をプレスにより塑性加工する場合についての記載がある。
【0004】
このように難塑性加工材料を塑性加工する場合、金型、特に成形キャビティを有する成形用部材には、非常に高い圧力が加わる上、摩耗し易いので、耐摩耗性が要求される。そのため、一般的に超硬合金等の硬質脆性材料が使用されている。
【0005】
しかしながら、硬質脆性材料は、性質上、特に引張り応力に対する破壊強度が鋼などの延性材料に比べて低く、高い加工圧力に耐えることができない。そのため、ハイスや工具鋼等の比較的破壊強度が高い軟質延性材料を成形用部材に使用せざるを得ず、変形や摩耗が激しくなり、型寿命が短くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−138002号公報
【特許文献1】特開2003−59445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の成型用金型の欠点を克服するために、成型用部材に十分な圧縮応力を与えることが可能で、硬質脆性材料を成形用部材に使用しても高い引張り応力がかからずに硬質脆性材料を破壊させず、その高い耐摩耗性を活用できることにより、成形キャビティの長寿命化が可能な成型用金型とその使用方法を得ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ケーシング内に嵌合されたコレットチャックにより与圧部材を介して成形用部材に圧縮応力を与える構造を採用することで、上記課題を解決した。
【0008】
即ち、本発明は、内部に成形キャビティを有する円柱状の成形用部材の周囲を囲むようにリング状の与圧部材が嵌合され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャックが嵌合され、さらにその周囲を囲むようにリング状のケーシングが嵌合された成形用金型において、与圧部材には、上面から下面に貫通して径方向に形成され外周で開放する外周スリットと、上面から下面に貫通して径方向に形成され内周で開放する内周スリットとが周方向に沿って交互に設けられ、コレットチャックは、その上端部又は下端部に雄ねじ部を有する共に、外周に雄ねじ部側に向けて縮径するテーパー面を有し、ケーシングは、その内周にコレットチャック外周のテーパー面と面合するテーパー面を有し、ケーシングの上方又は下方に配置されたナットをコレットチャックの雄ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するように形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、ナットはワッシャを介してケーシングの上方又は下方に配置することが好ましい。
【0010】
そして、与圧部材の線熱膨張係数をA1、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ナットの線熱膨張係数をA4、ワッシャの線熱膨張係数をA5としたときに、A1>A2≒A3≒A4及びA5>A2≒A3≒A4の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0011】
このような構成にすることで、先ず、室温時にナットを締めることにより、コレットチャックにより、与圧部材を介して、その圧縮応力が成形用部材へ付与される。次に、温度を上げるに従い、線熱膨張係数の高い(ヤング率も高いほうが望ましい)与圧部材が熱応力(熱歪)を発生し、ケーシングのヤング率が高いほど(好ましくは200GPa以上)、その熱応力は成形用部材に高い圧縮応力として作用する。さらに、ワッシャの線熱膨張係数を高くすることにより、温度上昇時のナットの緩みを防止するか、又は、更にコレットチャックを締める方向に、そのワッシャの熱歪が作用し、今まで発生させることができなかった高い圧縮応力を成形用部材へ作用させることが可能となる。
【0012】
即ち、成形用部材への総圧縮応力は、「常温でのコレットチャックの締め力」+「温度上昇時の与圧部材の熱応力」+「ワッシャの膨張によるコレットチャックの更なる締め付け又は緩み防止」となる。
【0013】
また、特に与圧部材から受けるケーシングに対する引張り応力を緩和させるため、適度なヤング率を有する材料(好ましくは300GPa以下)を、コレットチャックに適用することにより、ケーシングに対する引張り応力を緩和し、ケーシングの破壊を防止することができる。
【0014】
そして、上述のとおり各部材の線膨張係数が、A1>A2≒A3≒A4となるようにすることにより、使用温度が高くなるに従い成型用部材に圧縮応力が働き、プレス等の加工圧力により金型全体に引張り応力が働いても、塑性加工により発生する引張り応力に対してそれを相殺して破壊しないようにする十分な圧縮応力を成形用部材に与えることができる。そのため、全体としては成形用部材には引張り降伏強度以下の引張り応力もしくは圧縮応力が働き、成形用部材に硬質脆性材料を用いても金型の破壊に至らず、耐摩耗性が向上し型寿命を飛躍的に向上させることができる。
【0015】
また、ナットをワッシャを介して締結する場合において、上述のとおり、各部材の線熱膨張係数がA5>A2≒A3≒A4となるように材料を選択することにより、温度が高くなるに従いワッシャが膨張し、ナットがコレットチャックを引っ張る方向に応力が作用し、コレットチャックがさらに締められ、与圧部材を介して成形用部材に圧縮応力を与える。また、常温でもナットを締めることにより、ワッシャ、ケーシング、コレットチャック及び与圧部材を介して成形用部材に大きな圧縮応力を与えることができる。
【0016】
ここで、与圧部材を単にリング状に形成した場合、加工温度が上昇するに従い熱膨張により内径も大きくなり、成形用部材を圧縮する力が働かなくなるが、本発明では、上述のとおり、与圧部材に外周スリットと内周スリットとを周方向に沿って交互に設けているので、加工温度が上昇するに従い、ケーシングによる拘束力と与圧部材の内外周のスリットとの相乗効果により、与圧部材周方向への熱膨張が内外周のスリットによるクッション効果により抑制され、与圧部材外周並びに内周の径が拡張するのではなく、成形用部材を圧縮する方向、つまり、半径方向へ熱応力(熱歪)を伝達する効果を発揮するので、成形用部材に圧縮応力を与えることができるようになる。この場合、圧縮応力を成形用部材に均等に与えるために、外周スリットと内周スリットとは周方向に沿って交互に等間隔に設けることが好ましい。
【0017】
また、与圧部材を周方向に複数に分割し、それぞれの分割片を互いに接触することなく配置することによっても同様の効果を奏する。即ち、各分割片同士は膨張しても接触せず、成形用部材に圧縮応力を与えるだけである。この場合、圧縮応力を成形用部材に均等に与えるために、与圧部材は周方向に均等に分割することが好ましい。
【0018】
本発明においては、ナットを使用する代わりにボルトを使用することができる。この場合は、ケーシングに、その内周の上端部又は下端部に雌ねじ部を形成すると共に、内周に雌ねじ部側に向けて拡径するテーパー面を形成し、更にコレットチャックの外周にケーシング内周のテーパー面と面合するテーパー面を形成し、コレットチャックの上方又は下方に配置されたボルトをケーシングの雌ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するようにする。また、与圧部材の線熱膨張係数をA1、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ボルトの線熱膨張係数をA6、ワッシャの線熱膨張係数をA5としたとき、上述のナットを使用した場合と同じ理由から、A1>A2≒A3≒A6及びA5>A2≒A3≒A6の関係を満たすようにすることが好ましい。このように、ボルトを使用した場合も、ナットを使用した場合と同様の作用効果を奏する。
【0019】
上述のような本発明の成型用金型においては、成形用部材に硬質脆性材料を使用して、タングステンのような難塑性加工材の塑性加工など高い引張り応力が働くような環境下であっても、与圧部材が成形用部材の引張り降伏応力を下回る引張応力もしくは圧縮応力を維持するような圧縮応力を作用させるので、硬質脆性材料からなる成形用部材に高い加工圧力が加わっても、金型の破壊に至らず、耐摩耗性が向上し型寿命を飛躍的に向上させることができる。
【0020】
この成形用部材に硬質脆性材料のハイスを用いると靭性が高いので、高い引張応力がかかる使用状況下でも金型が破壊することはない。同様に成形用部材に超硬合金を用いると硬度と靭性を兼ね備えているので、摩耗しにくく、引張応力がかかる使用状況下でも金型が破壊することはない。同様に成形用部材にサーメットを用いると超硬合金より靭性は劣るが、硬度が高いので耐摩耗性が超硬合金より大きい。更に、成形用部材にセラミックスを用いると、サーメットより靭性は劣るが、硬度が高いので耐摩耗性がサーメットより高い。また、成形用部材にダイヤモンドを用いると、硬度が天然鉱物中最も高いので耐摩耗性が高く成形物の表面が滑らかな状態となる。
【0021】
本発明の成型用金型を使用する場合、使用温度が室温より高ければ高い程、与圧部材が熱膨張し成形用部材に、より高い圧縮応力を与えるので、常温より高温の条件での成形に適している。因みに、後述する図9に示すような従来の成型用金型(超硬合金の2重焼き嵌め品)では、使用温度400℃でせいぜい0.4GPa程度の圧縮応力しか成形用部材にかからなかったが、本発明の成型用金型では、約2GPa以上の圧縮応力が成形用部材に作用する。
【0022】
このように高温で使用するほど成形用部材に、より大きな圧縮応力が働くので、タングステンのような難塑性変形材料の成形体を得る場合等、高温でのプレス等の塑性加工に適している。
【発明の効果】
【0023】
本発明の成型用金型を用いると、タングステン等、難塑性加工材料の塑性加工のように、成形用部材に高い引張応力がかかる環境下においても、成形用部材には全体として高い圧縮応力が働き、成形用部材が硬質脆性材料であっても成形用部材は破壊せず、金型の寿命が飛躍的に向上する。特に、成形用部材が硬質脆性材料の場合は、耐摩耗性が向上し金型の寿命は更に延びる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る成型用金型の第1実施形態を示す分解斜視図、図2はその組み立て状態を示す断面斜視図、図3は、成形用金型の構成部材である与圧部材の平面図である。
【0025】
同図に示す成型用金型は、成型用部材1と、与圧部材2と、コレットチャック3と、ケーシング4と、ワッシャ5と、ナット6と、シム7とからなる。
【0026】
成形用部材1は、その内部上方に成型キャビティ1aを有し、その周囲を囲むようにリング状の与圧部材2が嵌合される。与圧部材2には、図3に示すように外周スリット2aと内周スリット2bとが周方向に沿って交互に等間隔で設けられている。外周スリット2aは、与圧部材2の上面から下面に貫通して径方向に形成されており外周のみで開放している。一方、内周スリット2bは、与圧部材2の上面から下面に貫通して径方向に形成されており内周のみで開放している。
【0027】
これらの成形用部材1と与圧部材2はシム7上に載置され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャック3が嵌合される。コレットチャック3の下部には雄ねじ部3aが形成され、外周には雄ねじ部3a側に向けて(図面では下方に向けて)縮径するテーパー面3bが形成されている。このテーパー面3bは、コレットチャック3の上端から中程にかけて形成されている。
【0028】
そして、コレットチャック3の周囲にはリング状のケーシング4が嵌合される。このケーシング4の内周には、コレットチャック3外周のテーパー面3bと面合するテーパー面4aが形成されている。即ち、テーパー面4aはテーパー面3bと同様に下方に向けて縮径するように形成されている。
【0029】
ケーシング4の下方にはワッシャ5が配置され、その下方からナット6をコレットチャック3の雄ねじ部3aに締結する。これによって、コレットチャック3が下方に引っ張られ、そのテーパー面3bがケーシング4のテーパー面4aに沿って下方にスライドすることで、コレットチャック3が縮径し、与圧部材2を介して成形用部材1に圧縮応力が与えられる。
【0030】
また、与圧部材2の線熱膨張係数をA1、コレットチャック3の線熱膨張係数をA2、ケーシング4の線熱膨張係数をA3、ナット6の線熱膨張係数をA4、ワッシャ5の線熱膨張係数をA5としたときに、A1>A2≒A3≒A4及びA5>A2≒A3≒A4の関係を満たすようにしており、これによって、上述のとおり、使用温度が高くなるにつれて、成形用部材1に、より高い圧縮応力を作用させることができる。
【0031】
(第2実施形態)
図4は、本発明に係る成型用金型の第2実施形態を示す断面斜視図である。同図に示す成形用金型は、第1実施形態の成形用金型のワッシャを省略したものである。その他の構成は第1実施形態と同じであり、同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
この実施形態においては、ワッシャの熱膨張による圧縮応力を得ることはできないが、コレットチャック3による締め力等を調整することにより、第1実施形態と同様の圧縮応力を付与することができる。
【0033】
(第3実施形態)
図5は、本発明に係る成型用金型の第3実施形態を示す断面斜視図である。同図に示す成形用金型は、与圧部材2を周方向に均等に複数に分割し、それぞれの分割片を互いに接触することなく配置したものである。その他の構成は第1実施形態と同じであり、同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
この実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0035】
(第4実施形態)
図6は、本発明に係る成型用金型の第4実施形態を示す断面斜視図である。同図に示す成形用金型は、第3実施形態の成形用金型のワッシャを省略したものである。その他の構成は第3実施形態を同じであり、同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0036】
この実施形態においても、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0037】
(第5実施形態)
図7は、本発明に係る成型用金型の第5実施形態を示す断面斜視図である。上述の各実施形態では、コレットチャックを締めるためにナットを使用したが、本実施形態ではボルト8を使用している。なお、上述の各実施形態と同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
具体的には、ケーシング4の内周上端部に雌ねじ部4bを形成し、この雌ねじ部4bに六角穴を有するボルト8をワッシャ5を介してねじ込み締結する。また、ケーシング4の内周には、雌ねじ部4b側に向けて拡大するテーパー面4aが形成され、コレットチャック3の外周にはケーシング4のテーパー面4aと面合するテーパー面3bが形成されている。
【0039】
したがって、ケーシング4の雌ねじ部4bにボルト8をねじ込み締結することにより、コレットチャック3が下方に押圧され、そのテーパー面3bがケーシング4のテーパー面4aに沿って下方にスライドすることで、コレットチャック3が縮径し、与圧部材2を介して成形用部材1に圧縮応力が与えられる。
【0040】
また、与圧部材2の線熱膨張係数をA1、コレットチャック3の線熱膨張係数をA2、ケーシング4の線熱膨張係数をA3、ボルト8の線熱膨張係数をA6、ワッシャ5の線熱膨張係数をA5としたときに、A1>A2≒A3≒A6及びA5>A2≒A3≒A6の関係を満たすようにしており、これによって、上述のとおり、使用温度が高くなるにつれて、成形用部材1に、より高い圧縮応力を作用させることができる。
【実施例】
【0041】
以下、上記第1及び第3実施形態に係る成形用金型の具体的な実施例を示す。
【0042】
(第1実施例)
上記第1実施形態に係る成形用金型を用いて、図8に示すように、直径2.5mm、長さ3.0mmのMo製のチップを温間で鍛造してトーチ型のピンを製造することにより型寿命を評価した。また、比較のために、図9に示す従来の成形用金型も使用した。この従来の成形用金型は、成型用部材1の周囲を、単純に2つのリング状部材20,40で囲んだ2重焼き嵌め方式のもので、成形用部材1とリング状部材20の嵌め代を0.006mm、リング状部材20とリング状部材40の嵌め代を0.015mmとしたものである。なお、以下の説明では、リング状部材20,40をそれぞれ本発明における与圧部材2、ケーシング4に対応する部材と見なして説明する。
【0043】
本発明及び従来の成形用金型において、成形用部材としては、硬質脆性材料のハイス、超硬合金、サーメット、セラミックス、ダイヤモンドを用いた。具体的には、ハイスとしてはマトリックス系ハイス(日立金属(株)製YXR33、線熱膨張係数Tc=12.1×10−6/℃(20〜400℃))、超硬合金としてはWC−Co系超硬合金(日本タングステン(株)製G30、Tc=5.7×10−6 /℃(20〜400℃))とWC−Co系超微粒超硬合金(日本タングステン(株)製FN−10、Tc=5.1×10−6 /℃(20〜400℃))、サーメットとしてはCr−Mo−Ni−W鉄基複硼化物(東洋鋼板(株)製KH−V60、Tc=8.8×10−6/℃(20〜400℃))、セラミックスとしてはSi焼結体(日本タングステン(株)製NPN−3、Tc=3.6×10−6 /℃(20〜400℃))、ダイヤモンドとしてはCoをバインダーとした焼結ダイヤモンド(Tc=3.1×10−6 /℃(20〜400℃))を用いた。
【0044】
与圧部材としては、本発明実施例では工具鋼のSKD−61(JIS規格、線熱膨張係数A1=12.54×10−6/℃(20〜400℃))を用い、比較例ではWC−Co系超硬合金(日本タングステン(株)製G30、Tc=5.7×10−6 /℃(20〜400℃))を用いた。コレットチャックとしては、超耐熱合金HRA929(日立金属(株)製、線熱膨張係数A2=5.5×10−6/℃(400℃の時)/≒5.9×10−6(室温時))を用いた。ケーシングとしては、WC−Co系超硬合金(日本タングステン(株)製G30、線熱膨張係数A3=5.7×10−6 /℃(20〜400℃))又はWC−Ni系超硬合金(日本タングステン(株)製NR−8、A3=5.7×10−6 /℃(20〜400℃))を用いた。ナットとしては、超耐熱合金HRA929(日立金属(株)製、線熱膨張係数A4=5.5×10−6/℃(400℃の時)/≒5.9×10−6(室温時))を用いた。ワッシャとしては、SKD−61(JIS規格、線熱膨張係数A5=12.54×10−6/℃(20〜400℃))を用いた。
【0045】
加工条件は、プレス機を用いた400℃の温間鍛造とし、成形用部材が破壊したか、もしくは、成形品のA部45度方向(図8参照)に対応する成形用部材の摩耗が0.04mmとなった時点でのショット数を寿命として評価した。
【0046】
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0047】
表1からわかるように、本発明の実施例によれば、耐摩耗性、耐破損性が高く長寿命な成形用金型を得ることができた。
【0048】
これに対して、従来の成形用金型では、加工時の加工圧力による金型へ作用する引張応力に耐用できず、短時間で破損し実用に必要な寿命が得られなかった。
【0049】
(第2実施例)
上記第3実施形態に係る成形用金型を用いて、上記第1実施例と同じ試験を行った。成形用金型の各部材にも第1実施例と同じものを用いた。
【0050】
試験結果を表2に示す。
【表2】

【0051】
表2からわかるように、本実施例においても、耐摩耗性、耐破損性が高く長寿命な成形用金型を得ることができた。
【0052】
(第3実施例)
第1実施例と同様の条件で、コレットチャックに直に貼り付け式等のヒーターを装着又は挿入したり、あるいは、金型全体を赤外線等で約200〜800℃に加熱することにより、温度を上げてプレスすると、難塑性加工物も加工し易くプレス速度を上げることができ、第1実施例より成形用部材に約1.2〜1.5倍の圧縮応力がかかり、W材のような難塑性加工物を塑性加工する際に高い加工圧力がかかっても、金型は破損せず、W材より加工のし易いMo材の加工の場合と同等の金型の寿命となった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る成型用金型の第1実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す成形用金型の組み立て状態を示す断面斜視図である。
【図3】成形用金型の構成部材である与圧部材の平面図である。
【図4】本発明に係る成型用金型の第2実施形態を示す断面斜視図である。
【図5】本発明に係る成型用金型の第3実施形態を示す断面斜視図である。
【図6】本発明に係る成型用金型の第4実施形態を示す断面斜視図である。
【図7】本発明に係る成型用金型の第5実施形態を示す断面斜視図である。
【図8】成形品の温間鍛造による形状変化を示す。
【図9】従来の成形用金型を示す断面斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
1 成型用部材
1a 成型キャビティ
2 与圧部材
2a 外周スリット
2b 内周スリット
3 コレットチャック
3a 雄ねじ部
3b テーパー面
4 ケーシング
4a テーパー面
4b 雌ねじ部
5 ワッシャ
6 ナット
7 シム
8 ボルト
20、40 リング状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に成形キャビティを有する円柱状の成形用部材の周囲を囲むようにリング状の与圧部材が嵌合され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャックが嵌合され、さらにその周囲を囲むようにリング状のケーシングが嵌合された成形用金型において、
与圧部材には、上面から下面に貫通して径方向に形成され外周で開放する外周スリットと、上面から下面に貫通して径方向に形成され内周で開放する内周スリットとが周方向に沿って交互に設けられ、
コレットチャックは、その上端部又は下端部に雄ねじ部を有する共に、外周に雄ねじ部側に向けて縮径するテーパー面を有し、
ケーシングは、その内周にコレットチャック外周のテーパー面と面合するテーパー面を有し、
ケーシングの上方又は下方に配置されたナットをコレットチャックの雄ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するように形成されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項2】
内部に成形キャビティを有する円柱状の成形用部材の周囲を囲むようにリング状の与圧部材が嵌合され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャックが嵌合され、さらにその周囲を囲むようにリング状のケーシングが嵌合された成形用金型において、
与圧部材は、周方向に複数に分割され、それぞれが互いに接触することなく配置され、
コレットチャックは、その上端部又は下端部に雄ねじ部を有する共に、外周に雄ねじ部側に向けて縮径するテーパー面を有し、
ケーシングは、その内周にコレットチャック外周のテーパー面と面合するテーパー面を有し、
ケーシングの上方又は下方に配置されたナットをコレットチャックの雄ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するように形成されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項3】
与圧部材の線熱膨張係数をA1、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ナットの線熱膨張係数をA4としたときに、A1>A2≒A3≒A4の関係を満たす請求項1又は2に記載の成型用金型。
【請求項4】
ナットがワッシャを介してケーシングの上方又は下方に配置されおり、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ナットの線熱膨張係数をA4、ワッシャの線熱膨張係数をA5としたときに、A5>A2≒A3≒A4の関係を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の成型用金型。
【請求項5】
内部に成形キャビティを有する円柱状の成形用部材の周囲を囲むようにリング状の与圧部材が嵌合され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャックが嵌合され、さらにその周囲を囲むようにリング状のケーシングが嵌合された成形用金型において、
与圧部材には、上面から下面に貫通して径方向に形成され外周で開放する外周スリットと、上面から下面に貫通して径方向に形成され内周で開放する内周スリットとが周方向に沿って交互に設けられ、
ケーシングは、その内周の上端部又は下端部に雌ねじ部を有すると共に、内周に雌ねじ部側に向けて拡径するテーパー面を有し、
コレットチャックは、その外周にケーシング内周のテーパー面と面合するテーパー面を有し、
コレットチャックの上方又は下方に配置されたボルトをケーシングの雌ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するように形成されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項6】
内部に成形キャビティを有する円柱状の成形用部材の周囲を囲むようにリング状の与圧部材が嵌合され、その周囲を囲むようにリング状のコレットチャックが嵌合され、さらにその周囲を囲むようにリング状のケーシングが嵌合された成形用金型において、
与圧部材は、周方向に複数に分割され、それぞれが互いに接触することなく配置され、
ケーシングは、その内周の上端部又は下端部に雌ねじ部を有すると共に、内周に雌ねじ部側に向けて拡径するテーパー面を有し、
コレットチャックは、その外周にケーシング内周のテーパー面と面合するテーパー面を有し、
コレットチャックの上方又は下方に配置されたボルトをケーシングの雌ねじ部に締結することによりコレットチャックが縮径するように形成されていることを特徴とする成形用金型。
【請求項7】
与圧部材の線熱膨張係数をA1、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ボルトの線熱膨張係数をA6としたときに、A1>A2≒A3≒A6の関係を満たす請求項5又は6に記載の成型用金型。
【請求項8】
ボルトがワッシャを介してコレットチャックの上方又は下方に配置されおり、コレットチャックの線熱膨張係数をA2、ケーシングの線熱膨張係数をA3、ボルトの線熱膨張係数をA6、ワッシャの線熱膨張係数をA5としたときに、A5>A2≒A3≒A6の関係を満たす請求項5〜7のいずれかに記載の成型用金型。
【請求項9】
ケーシングのヤング率が200GPa以上である請求項1〜8のいずれかに記載の成型用金型。
【請求項10】
コレットチャックのヤング率が300GPa以下である請求項1〜9のいずれかに記載の成型用金型。
【請求項11】
成形用部材が硬質脆性材料からなる請求項1〜10のいずれかに記載の成型用金型。
【請求項12】
硬質脆性材料がハイス、超硬合金、サーメット、セラミックス又はダイヤモンドである請求項11に記載の成型用金型。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の成型用金型を室温より高い温度で使用することを特徴とする成用型金型の使用方法。
【請求項14】
金属を塑性加工する際に成型用金型を使用する請求項13に記載の成型用金型の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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