説明

成形体

【課題】各種基材に対して低温の加熱で高い接着性を発揮する一方で、指触粘着性の低い樹脂層を有し、自動車のシャーシ等の板状部材に形成された開口を閉塞するためのホールプラグ構造として有用な積層体を提供する。
【解決手段】エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(グラフトモノマー)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有する樹脂部材(I)と、金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)とを含む成形体であって、該樹脂部材(I)が、融点50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有することを特徴とする成形体。樹脂部材(I)がホールプラグ用シールリング、金属部材及び/又は樹脂部材(II)がホールプラグにより開口を塞ぐ板状部材となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基材に対して低温の加熱で高い接着性を発揮する一方で、指触粘着性の低い樹脂部材を有する成形体に係り、特に、自動車のシャーシ等の板状部材に形成された開口を閉塞するためのホールプラグ構造に有用な成形体に関する。
本発明はまた、各種基材に対して低温の加熱で高い接着性を発揮する一方で、指触粘着性の低いホールプラグ用シールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のシャーシ等の板状部材には、電着塗装などの塗装工程の液切れ性確保あるいは組付け工程に使用するための複数の開口が形成されている。
これらの開口部は上記使用目的を達成した後は不要となるが、この開口がそのまま製品に残ると、走行時の雨水や泥水、あるいは静止時のゴミや埃の進入により部材の腐食を招き、故障や寿命低下の原因となる。
【0003】
このため、これらの開口を閉塞するためにホールプラグが使われる。
板状部材とホールプラグの構造について、図1を参照して説明する。図1はホールプラグの構造と使用方法の一例を示す断面図であり、ホールプラグ10(図1(b))はシャーシ等の板状部材1の開口2を塞ぐためのものである(図1(d))。このホールプラグ10は、ホールプラグ本体3と、この本体3に係合するシールリング4とを有している(図1(b))。本体3は、一般に、6−ナイロンやポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチック製であり、開口2よりも大径の基部5と、基部5に突設され、かつ開口2よりも小径の突出部6とを有している(図1(a))。シールリング4はこの本体3と板状部材1との融着を図るためのものである。(なお、本発明において「融着」には、溶剤を用いた「接着」の概念を包含するものとする。)即ち、主にエンジニアリングプラスチックで構成されるホールプラグ本体3は、シャーシなどの板状部材1の金属面あるいは金属表面に塗装された電着塗装面との融着性に乏しいことから、両者を融着させるための熱可塑性樹脂からなるシールリング4を、本体3と板状部材1との間に介挿させる。
【0004】
このようなホールプラグ10を用いて、板状部材1の開口2を塞ぐには、シールリング4を基部5の突出部6側と板状部材1との間に挟みつつ、突出部6を開口2に挿入して、図1(c)の状態とした後、開口2の近傍を加熱することによりシールリング4を溶融させる。シールリング4が溶融することにより、開口2と本体3の突出部6との間隙、並びに本体3の基部5と板状部材1の板面との間隙に、溶融樹脂が充填され、その後、これが固化することにより、図1(d)に示すように、板状部材1とホールプラグ本体3が固着され、かつ両者間が封止される。図1(d)において、4Aは固化した封止層を示す。
【0005】
従来、このシールリングに用いる熱可塑性樹脂としては、特許文献1には、エチレン及び酢酸ビニルのコポリマーあるいはエチレン−アクリレートコポリマーが記載され、また、特許文献2には、不飽和カルボン酸をグラフトしたポリオレフィン樹脂の使用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−526185号公報
【特許文献2】特開平2−293278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記シールリングには、
(1)シャーシ等の製造工程に設けられている塗装後の焼付け工程など、比較的低温の条件で溶融して接着性を発揮する。
(2)長期使用時においても剥離などの不具合が生じない接着強度とその耐久性を有する。
(3)生産自動化に対応するべく、夏場などの高温環境下においても、シールリング同士の互着(相互融着)やスタッキングが生じることがない。即ち指触粘着性が低い。
などの性能が要求される。
【0008】
しかしながら、従来において、シールリングに用いられる熱可塑性樹脂材料として、上記(1)〜(3)の性能を満足する樹脂の配合設計についての検討はなされておらず、その改善が望まれている。すなわち、シールリングに用いる熱可塑性樹脂として、特許文献1に記載されたエチレン及び酢酸ビニルのコポリマーやエチレン−アクリレートコポリマーを用いた場合も、特許文献2に記載された不飽和カルボン酸をグラフトしたポリオレフィン樹脂を用いた場合も、低温条件での接着性、長期使用時における剥離性、指触粘着性の点で十分な材料は得られていなかった。
【0009】
従って、本発明は、上記(1)〜(3)の性能を満足する成形体及びホールプラグ用シールリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定性状のエチレン−α−オレフィン共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトさせた変性エチレン系重合体を用いることにより、上記の要求性能を満たすことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(以下、このモノマーを「グラフトモノマー」と称す。)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有する樹脂部材(I)と、金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)とを含む成形体であって、該樹脂部材(I)が、融点50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有することを特徴とする成形体。
【0013】
[2] [1]において、前記樹脂部材(I)を構成する樹脂が更にエチレン系共重合体(b)を含有することを特徴とする成形体。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、前記樹脂部材(I)からなる層と、前記金属部材及び/又は前記樹脂部材(II)からなる層とを少なくとも有する積層体であることを特徴とする成形体。
【0015】
[4] [3]において、ホールプラグ本体と、開口部を有する板状部材と、該ホールプラグと該板状部材との間に設けられたホールプラグ用シールリングとを有する成形体であって、該ホールプラグ用シールリングが前記樹脂部材(I)からなる層であり、該板状部材が前記金属部材及び/又は前記樹脂部材(II)からなる層であることを特徴とする成形体。
【0016】
[5] エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(以下、このモノマーを「グラフトモノマー」と称す。)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有し、融点が50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有する樹脂部材(I)からなることを特徴とするホールプラグ用シールリング。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形体に含まれる樹脂部材(I)及び本発明のホールプラグ用シールリングを構成する樹脂部材(I)は、例えば120℃以下というような比較的低い温度で溶融して金属やその塗装材料に対して高い接着性を示すと共に、その接着性の耐久性にも優れる。一方で、指触粘着性は低く(以下、この性能を「低指触粘着性」と称す。)、樹脂部材(I)同士の互着の問題もない。
【0018】
このため、本発明の成形体及びホールプラグ用シールリングによれば、高い接着強度で長期耐久性に優れたホールプラグ構造を、高い生産性のもとに実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ホールプラグの構造と使用方法の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の成形体及びホールプラグ用シールリングの実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の成形体は、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(以下、このモノマーを「グラフトモノマー」と称す。)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有する樹脂部材(I)と、金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)とを含む成形体であって、該樹脂部材(I)が、融点50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のホールプラグ用シールリングは、このような樹脂部材(I)からなることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る樹脂部材(I)(以下、「本発明の樹脂部材(I)」と称す。)を構成する樹脂は、上述の変性エチレン系共重合体(a)を含有し、好ましくは、更に、この変性エチレン系共重合体(a)とは異なるエチレン系共重合体(b)及び/又は熱可塑性エラストマー(c)を含有するものである。
ここで、「エチレン系共重合体」とは、当該共重合体を構成する全構成単位中の50モル%以上がエチレン由来の構成単位である共重合体をさす。また、本発明においてエチレン系共重合体(b)は、変性エチレン系共重合体(a)以外のエチレン系共重合体を意味するものとする。
【0024】
なお、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、変性エチレン系共重合体(a)、エチレン系共重合体(b)及び熱可塑性エラストマー(c)以外に、通常の樹脂組成物に常用されている各種添加剤、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防錆材、顔料などの1種又は2種以上を添加して用いてもよい。
【0025】
また、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、変性エチレン系共重合体(a)、エチレン系共重合体(b)及び熱可塑性エラストマー(c)以外の一般的な熱可塑性樹脂組成物に常用されている樹脂成分が配合されていてもよく、かかる樹脂成分としては、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、石油樹脂などが挙げられる。
【0026】
[変性エチレン系共重合体(a)]
まず、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の必須成分である変性エチレン系共重合体(a)について説明する。
【0027】
この変性エチレン系共重合体(a)は、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(グラフトモノマー)をグラフトさせてなるものである。
以下、このグラフト変性前のエチレン系共重合体を、「エチレン系共重合体(a’)」と称す。
【0028】
<エチレン系共重合体(a’)>
エチレン系共重合体(a’)は、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体である。
エチレン系共重合体(a’)に共重合成分としてのα−オレフィンが導入されていることにより、結晶性を制御し柔軟性を付与できるほか、分子の絡み合い増加による耐衝撃性や耐切り裂き性向上という効果が奏されるが、このα−オレフィンの炭素数が過度に大きいと、重合時にエチレンとの反応性の差が大きくなり生産性やランダム重合性を低下させる。α−オレフィンの炭素数が8以下であることにより、生産性に大きな影響を与えることなく、上記特性を与えるという効果が奏され、好ましい。このα−オレフィンは、直鎖状であってもよく、分岐鎖を有するものであってもよいが、製造コストの点から好ましくは直鎖状のものであり、また、このα−オレフィンの炭素数は特に3以上、6以下であることが好ましい。
【0029】
エチレン系共重合体(a’)を構成するエチレン由来の構成単位とα−オレフィン由来の構成単位との割合は、後述するエチレン系共重合体(a’)の好適な密度、MFR及びMw/Mnを満たす範囲において任意であるが、通常、エチレン系共重合体(a’)を構成する全構成単位中を占めるエチレン由来の構成単位が50モル%以上であり、その上限は通常98モル%以下である。
【0030】
このようなエチレン系共重合体(a’)は、チグラーナッタ触媒、クロム触媒、バナジウム触媒、メタロセン触媒などを用いて製造されたものから選ぶことができる。
【0031】
本発明において、エチレン系共重合体(a’)の密度は通常0.860g/cm以上、好ましくは0.880g/cm以上で、通常0.910g/cm未満、好ましくは905g/cm以下である。エチレン系共重合体(a’)の密度が上記下限以上であることにより、良好な低指触粘着性を得ることができ、また、密度が上記上限未満であることにより、良好な低温接着性を得ることができる。
【0032】
エチレン系共重合体(a’)の密度は、JIS−K7112における水中置換法により測定することができる。後述のエチレン系共重合体(b)の密度についても同様である。
【0033】
また、本発明において、エチレン系共重合体(a’)のMFRは通常0.1g/10分以上、好ましくは0.5g/10分以上で、通常50g/10分以下、好ましくは30g/10分以下である。MFRが上記下限以上で上記上限以下であることにより、高い接着強度を得ることができる。
【0034】
ここで、エチレン系共重合体(a’)のMFRは、JIS−K6922に従い、温度190℃、荷重21.2Nで測定した値である。後述の変性エチレン系共重合体(a)のMFR、並びに樹脂部材(I)を構成する樹脂のMFRについても同様である。
【0035】
また、エチレン系共重合体(a’)のMw/Mnは、通常1.0以上で、4.0以下、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下である。Mw/Mnが前記範囲内であることにより、高い接着強度を得ることができるが、Mw/Mnが前記上限値を超えると、接着強度が悪化する。
【0036】
ここで、エチレン系共重合体(a’)の分子量分布Mw/Mn(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により、以下の装置及び条件で測定された値である。
【0037】
装置 : Waters社製「GPCV2000」
検出器 : RI
移動相 : o−ジクロロベンゼン
カラム : TSKgel GMH6−HT (30cm×4)
カラム温度: 135℃
較正試料 : 単分散ポリスチレン
較正法 : ポリエチレン換算(汎用較正曲線)
【0038】
なお、このエチレン系共重合体(a’)の重量平均分子量(Mw)は通常20000以上、好ましくは30000以上で、通常250000以下、好ましくは200000以下である。エチレン系共重合体(a’)の重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることにより、高い接着強度を得ることができる。
【0039】
<不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体>
上記エチレン系共重合体(a’)にグラフト重合される不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体としては、通常炭素数3以上、好ましくは4以上で、通常10以下のものが好ましく、具体的には、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸或いはこれらの無水物やエステル等が挙げられる。
【0040】
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0041】
これらの中でも、マレイン酸、マレイン酸無水物或いはこれらを主成分とする混合物が好ましく、特に、マレイン酸無水物が安価で入手容易であり、エチレン系共重合体(a’)にグラフトして高い接着性を発揮することから好ましい。
【0042】
不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による前述のエチレン系共重合体(a’)のグラフト変性方法は限定されず、エチレン系共重合体(a’)、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、及びラジカル開始剤を、押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて溶融状態で混練する溶融法;エチレン系共重合体(a’)、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、及びラジカル開始剤を、適当な溶媒に溶解して行う溶液法;エチレン系共重合体(a’)の粒子を懸濁させた状態で、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体、及びラジカル開始剤を作用させるスラリー法、あるいはいわゆる気相グラフト法などが挙げられる。
【0043】
グラフト変性に用いられるラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエートなどの有機過酸化物の1種又は2種以上が挙げられる。
【0044】
エチレン系共重合体(a’)にグラフトさせる上記不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体(グラフトモノマー)の量、即ち、エチレン系共重合体(a’)にグラフトモノマーである上記不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトしてなる変性エチレン系共重合体(a)中のグラフトモノマー由来の構成単位の割合(以下「付加量」と称す。)は、この変性エチレン系共重合体(a)を含む樹脂部材(I)に含まれるグラフトモノマー由来の成分の含有量(以下「グラフトモノマー量」と称す。)が、通常0.03重量%以上、好ましくは0.05重量%以上で、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下となるような量とする。付加量及びグラフトモノマー量が上記下限未満では接着強度が劣り、上記上限超過では熱安定性に劣る。
【0045】
この付加量及びグラフトモノマー量は赤外線吸収スペクトル法を用い、樹脂中のカルボン酸またはその誘導体特有の吸収を測定することにより求めることができる。
【0046】
また、エチレン系共重合体(a’)に上記不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体をグラフトしてなる変性エチレン系共重合体(a)のMFRは通常0.6g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上で、通常30g/10分以下、好ましくは25g/10分以下である。変性エチレン系共重合体(a)のMFRが上記範囲内であることにより、高い接着強度を得ることができる。
なお、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂は、変性エチレン系共重合体(a)を10重量%以上、特に20重量%以上含有することが好ましい。
【0047】
[エチレン系共重合体(b)]
次に、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂に好ましく含有されるエチレン系共重合体(b)について説明する。
【0048】
このエチレン系共重合体(b)としては特に制限はないが、次のようなものが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
・エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとのエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)
・高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b2)
・エチレン単独重合体(b3)
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)
【0049】
以下、各エチレン系共重合体(b)について説明する。
【0050】
<高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b1)>
高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b1)としては、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンの1種又は2種以上を用いて、チグラーナッタ触媒、クロム触媒、バナジウム触媒、メタロセン触媒などの触媒の存在下に行う触媒法により製造されたものが挙げられ、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)の共重合成分であるα−オレフィンとしては通常炭素数3以上で、通常炭素数8以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。このα−オレフィンは直鎖状であってもよく、分岐鎖を有するものであってもよいが、製造コストの点から好ましくは直鎖状のものである。
【0051】
エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)を構成するエチレン由来の構成単位とα−オレフィン由来の構成単位との割合は、後述のエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)の好適な密度及び融点を満たす範囲において任意であるが、通常、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)を構成する全構成単位を占めるエチレン由来の構成単位が50モル%以上であり、その上限は通常98モル%以下である。
【0052】
エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)は、これを変性エチレン系共重合体(a)に配合して、後述の本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の好適な物性を満たし得るものであればよく、その物性等には特に制限はないが、密度は通常0.860g/cm以上で、通常0.910g/cm未満、好ましくは0.905g/cm以下、より好ましくは0.900g/cm以下であり、DSC(示差走査熱量計)で測定される融点が通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは58℃以上で、通常110℃以下、好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0053】
エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)が上記密度及び融点を満たすことにより、本発明の樹脂部材(I)の低温接着性及び低指触粘着性がより一層好ましいものとなる。
【0054】
なお、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)のDSCによる融点の測定装置及び条件は以下の通りである。後述のエチレン系共重合体(b2)の融点や、熱可塑性エラストマー(c)の融点、樹脂の融点においても同様である。
【0055】
装置 : セイコーアイ(株)製「DSC6220」
検出器 : DSC
昇降温速度 : 一次昇温 40℃から170℃まで 100℃/分
冷却 170℃から−10℃まで −10℃/分
二次昇温 −10℃から170℃ 10℃/分
融点算出 : 二次昇温におけるピークトップ温度を融点とする。
【0056】
上記エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0057】
<高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b2)>
高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b2)は、チューブラーあるいはベッセル反応機など既存の設備で製造されたものから選ぶことができ、その物性等は、これを変性エチレン系共重合体(a)に配合して、後述の本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の好適な物性を満たし得るものであればよく、特に制限はないが、密度は通常0.910g/cm以上、好ましくは0.913g/cm以上、より好ましくは0.915g/cm以上で、通常0.930g/cm以下、好ましくは0.928g/cm以下、より好ましくは0.925g/cm以下であり、DSCで測定される融点が通常90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上で、通常125℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下である。
【0058】
高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b2)が上記密度及び融点を満たすことにより、本発明の樹脂部材(I)の低温接着性及び低指触粘着性がより一層好ましいものとなる。
【0059】
上記高圧法で製造された低密度ポリエチレン(b2)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0060】
<エチレン単独重合体(b3)>
エチレン単独重合体(b3)の物性は、これを変性エチレン系共重合体(a)に配合して、後述の本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の好適な物性を満たし得るものであればよく、特に制限はない。
【0061】
上記エチレン単独重合体(b3)は、1種を単独で用いても良く、分子量、分岐度、製造する触媒や製造方法等の異なる2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0062】
<エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)は、チューブラーあるいはベッセル反応機など既存の設備で製造されたものから選ぶことができ、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)を構成するエチレン由来の構成単位と酢酸ビニル由来の構成単位との割合は、通常、エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)を構成する全構成単位中を占めるエチレン由来の構成単位が50モル%以上、好ましくは60モル%以上であり、その上限は通常90モル%以下、好ましくは85モル%以下である。
【0063】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)の物性は、これを変性エチレン系共重合体(a)に配合して、後述の本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の好適な物性を満たし得るものであればよく、特に制限はない。
【0064】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(b4)は、1種を単独で用いても良く、分子量や共重合比等の異なる2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0065】
[熱可塑性エラストマー(c)]
次に、本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂が含有し得る熱可塑性エラストマー(c)について説明する。
【0066】
熱可塑性エラストマー(c)は、共重合体を構成する全構成単位中の50モル%未満がエチレン由来の構成単位であるエチレン共重合エラストマー(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体など)、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン及び/又はプロピレンを成分とする三元/四元共重合体、SBSなどのスチレン系二元/三元共重合体、同水添体、ポリイソブチレン、ブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムなど既存の設備で製造されたものから選ぶことができる。その物性としては、これを変性エチレン系共重合体(a)に配合して、後述の本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂の好適な物性を満たし得るものであればよく、特に制限はないが、密度は通常0.86g/cm以上であり、通常0.90g/cm以下、好ましくは0.89g/cm以下、より好ましくは0.88g/cm以下であり、DSCで測定される融点が通常20℃以上、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上で、通常125℃以下、好ましくは115℃以下、より好ましくは110℃以下である。
【0067】
熱可塑性エラストマー(c)が上記密度及び融点を満たすことにより、本発明の樹脂部材(I)の低温接着性及び低指触粘着性がより一層好ましいものとなる。
【0068】
上記熱可塑性エラストマー(c)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用しても良い。
【0069】
[樹脂部材(I)を構成する樹脂]
本発明の樹脂部材(I)を構成する樹脂は、変性エチレン系共重合体(a)を主成分とし、必要に応じてエチレン系共重合体(b)及び/又は熱可塑性エラストマー(c)、更には前述の各種樹脂用添加剤並びに変性エチレン系共重合体(a)、エチレン系共重合体(b)及び熱可塑性エラストマー(c)以外の樹脂成分を配合してなるものであるが、この樹脂組成物は、MFRが通常0.5g/10分以上、好ましくは1g/10分以上、より好ましくは3g/10分以上で、通常30g/10分以下、好ましくは27g/10分以下、より好ましくは25g/10分以下で、前述の如く樹脂部材(I)中の変性エチレン系共重合体(a)にグラフトされた前記不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体に由来する構成単位の含有量(グラフトモノマー量)が通常0.03重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上で、通常は2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下である。
【0070】
この樹脂部材(I)を構成する樹脂のMFRが上記範囲であることにより、高い接着強度を得ることができる。
【0071】
また、グラフトモノマー量が上記下限以上であることにより十分な接着強度が得られるようになり、上記上限以下であることにより熱安定性に優れるものになる。
【0072】
この樹脂組成物中のエチレン系共重合体(b)及び/又は熱可塑性エラストマー(c)の配合量は上述の物性を得ることができる範囲において任意であり、用いるエチレン系共重合体(b)及び/又は熱可塑性エラストマー(c)の種類や変性エチレン系共重合体(a)の物性、その他に応じて適宜決定されるが、通常変性エチレン系共重合体(a)による低温接着性と低指触粘着性を有効に得る上で、変性エチレン系共重合体(a)に対して、樹脂部材(I)中のエチレン系共重合体(b)及び熱可塑性エラストマー(c)の合計量が90重量%以下、特に80重量%以下とすることが好ましい。なお、エチレン系共重合体(b)と熱可塑性エラストマー(c)を共に用いる場合、その配合比率は任意である。
【0073】
また、樹脂部材(I)を構成する樹脂は、DSCにより測定される融点が通常50℃以上、好ましくは60℃以上で、通常110℃以下、好ましくは105℃以下である。ここで樹脂部材(I)を構成する樹脂の融点とは、DSCにより示される融点のうち最大ピーク高さを示す。融点が前記範囲未満では指触粘着性に劣り、前記範囲を超えると接着強度が劣る。融点が上記下限以上であることにより、低指触粘着性に優れたものとなり、上記上限以下であることにより低温接着性に優れたものとなる。ここで、DSCの測定条件は前記した条件と同様である。
【0074】
樹脂部材(I)を構成する樹脂の融点について、さらに詳しく説明する。
樹脂部材(I)を構成する樹脂が、変性エチレン系共重合体(a)とエチレン系共重合体(b)を含有する場合、その融点は、通常それぞれに由来する複数のピークが検出される。その場合、樹脂部材(I)を構成する樹脂の融点とは、これらの中で最大のピーク高さをもつピークのトップ温度を意味する。
すなわち、変性エチレン系共重合体(a)に由来する融点が該温度範囲を満たしていても、より高いピーク高さを有するエチレン系共重合体(b)が該温度範囲を満たさなければ本発明の目的とする性能は得られない、逆に変性エチレン系共重合体(a)が該温度範囲を満たしていなくとも、より高いピーク高さを有するエチレン系共重合体(b)が該温度範囲を満たしていれば本出願の目的とする性能が得られる。
【0075】
本発明の樹脂部材(I)を構成する上記樹脂は、変性エチレン系共重合体(a)に、必要に応じて配合されるエチレン系共重合体(b)及び/又は熱可塑性エラストマー(c)、その他の添加剤や樹脂成分を常法に従って溶融混練することにより調製することができる。
【0076】
[金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)]
次に、本発明の成形体を構成する金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)について説明する。
【0077】
この金属部材としては特に制限はないが、一般的には、前述のシャーシ等の板状部材を構成する部材であり、ステンレス鋼、冷間圧延鋼板及び各種メッキ鋼板、アルミニウム材等よりなる部材が挙げられる。
【0078】
また、樹脂部材(I)以外の樹脂部材(II)としては、このような金属部材に重ねて使用される材料が挙げられ、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等より選択される樹脂よりなる部材が挙げられる。
【0079】
[ホールプラグ構造]
本発明の成形体は、より具体的には、本発明の樹脂部材(I)がホールプラグ用シールリングを構成し、上記金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)がシャーシ等の板状部材の基材又はその上に施された塗装層を構成し、これらの積層体により、ホールプラグ構造を形成したものが挙げられ、本発明の樹脂部材(I)の低指触粘着性、低温接着性、高接着強度、更にはその接着性の耐久性により、シーリング効果に優れたホールプラグ構造を提供することができる。
なお、このホールプラグ構造の形状については、代表的には図1に示すものが挙げられるが、何ら図1に示すものに限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0081】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における各種の物性ないし特性の評価方法は以下の通りである。
【0082】
<分子量及び分子量分布>
GPCにより以下の装置及び条件で測定した。
装置 : Waters社製「GPCV2000」
検出器 : RI
移動相 : o−ジクロロベンゼン
カラム : TSKgel GMH6−HT (30cm×4)
カラム温度: 135℃
較正試料 : 単分散ポリスチレン
較正法 : ポリエチレン換算(汎用較正曲線)
【0083】
<融点>
DSCにより以下の装置及び条件で測定した。
装置 : セイコーアイ(株)製「DSC6220」
検出器 : DSC
昇降温速度 : 一次昇温 40℃から170℃まで 100℃/分
冷却 170℃から−10℃まで −10℃/分
二次昇温 −10℃から170℃ 10℃/分
融点算出 : 二次昇温におけるピークトップ温度を融点とした。
【0084】
<MFR>
JIS−K6922に従い、温度190℃、荷重21.2Nで測定した。
【0085】
<密度>
JIS−K7112に従い、水中置換法で測定した。
【0086】
<付加量,グラフトモノマー量>
赤外線吸収スペクトル法を用い、樹脂中のカルボン酸又はその誘導体の特性吸収から求めた。
装置 : 日本分光(株)FT/IR610
カルボニル特性吸収 : 1900〜1600cm-1(C=O伸縮振動帯)
【0087】
<接着強度>
圧縮成形機を用い、200℃、6分、10MPa加圧の条件により、樹脂のプレスシート(200×100×2mm)を作成した。得られた樹脂シートを被着用基材に重ね、各試験温度にて8分予熱した後、2分間、1MPa加圧の条件で加熱接着を行った。
被着用基材としては、自動車車体や部品に多く使われている冷間圧延鋼板(「被着用基材1」と称す。)とアミノ基処理されたガラスフィラー30重量%を含む66ナイロン複合材(「被着用基材2」と称す。)を用いた。サイズはそれぞれ、被着用基材1が150×70×0.8mm、被着用基材2が70×70×2mmであり、被着用基材1及び被着用基材2の試験温度(予熱時を含む)は何れも115℃とした。
【0088】
なお、これらの被着用基材1,2は、石油ベンジンにより表面を清掃した後、接着試験に供した。
得られた加熱接着試料の樹脂シート面に、樹脂シートの層が分断される深さまで10mm幅で切り込みを入れた後、該10mm幅分の加熱接着試料について、引張試験機を用い、90゜剥離法、10mm/分の条件で、樹脂シートと被着用基材1又は被着用基材2との接着強度を測定した。
【0089】
<指触粘着性>
上記接着強度の測定において作成した樹脂シートを35℃のオーブンで12時間保ち、取り出した直後のシートについて指触粘着の有無を判断(シート表面を指で擦り、指への粘着性の有無を確認)した。
【0090】
[変性エチレン系共重合体]
実施例及び比較例で用いた変性エチレン系共重合体を以下の方法で製造した。
【0091】
<製造例1:変性エチレン系共重合体(a−1)の製造>
エチレン−1−ヘキセン共重合体(MFR=16g/10分、密度=0.90g/cm、Mw/Mn=2.2、Mw=51000)に、無水マレイン酸を1.3重量%、2,5−ジメチル−2,5−t−ブチルパーオキシヘキサンを0.065重量%、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.1重量%添加し、ヘンシェルミキサーで予備混合した後、二軸混練機に供給し、樹脂温度260℃で溶融混練することで、MFRが8g/10分、付加量1.0重量%の無水マレイン酸グラフト変性エチレン−1−ヘキセン共重合体(変性エチレン系共重合体(a−1))を得た。
【0092】
<製造例2:変性エチレン系共重合体(a−2)の製造>
エチレン−1−ブテン共重合体(MFR=3g/10分、密度=0.88g/cm、Mw/Mn=2.3、Mw=83000)に、無水マレイン酸を0.6重量%、ジ−t−ブチル−パーオキシt−ジイソプロピルベンゼンを0.03重量%添加し、ヘンシェルミキサーで予備混合した後、単軸混練機に供給し、樹脂温度240℃で溶融混練することで、MFRが1.6g/10分、付加量0.4重量%の無水マレイン酸グラフト変性エチレン−1−ブテン共重合体(変性エチレン系共重合体(a−2))を得た。
【0093】
<製造例3:変性エチレン系共重合体(a−3)の製造>
エチレン−1−ブテン共重合体(MFR=2g/10分、密度=0.92g/cm、Mw/Mn=4.2、Mw=101000)に、無水マレイン酸を1.0重量%、ジ−t−ブチルパーオキシドを0.05重量%、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01重量%、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリルを0.02重量%添加し、ヘンシェルミキサーで予備混合した後、単軸混練機に供給し、樹脂温度230℃で溶融混練することで、MFRが0.56g/10分、付加量0.8重量%の無水マレイン酸グラフト変性エチレン−1−ブテン共重合体(変性エチレン系共重合体(a−3))を得た。
【0094】
[エチレン系共重合体]
変性エチレン系共重合体に配合するエチレン系共重合体として、以下の表1に示す樹脂を用いた。なお、何れも市販品であり、変性は行っていない。
【0095】
【表1】

【0096】
[実施例1〜8、比較例1〜7]
変性エチレン系共重合体とエチレン系共重合体とを表2に示す割合で配合してなる樹脂成分100重量部に対して、酸化防止剤であるテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.05重量部と、トリ(2,4−ジーt−ブチルフェニル)フォスファイト0.05重量部とを加え、単軸混練機を用いて、樹脂温度210℃で溶融混練することで樹脂試料を得た。得られた樹脂試料のMFR、グラフトモノマー量及びDSC測定で得られる融点と、接着強度及び指触粘着性の評価結果を表2に記した。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、本発明の要件を満たす実施例1〜8においては、低指触粘着性において優れている上に、冷間圧延鋼板及び66ナイロン複合材に対し、低温加熱で良好な接着強度が得られたが、特許文献1に記載されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(比較例3,4)、特許文献2に記載された樹脂(比較例1,2)及び本発明の要件を満たさない樹脂組成物(比較例5,6)においては明らかに低い接着強度であった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の成形体に含まれる樹脂部材(I)及び本発明のホールプラグ用シールリングを構成する樹脂部材(I)は、指触粘着性に優れ、かつ120℃以下という低温での加熱接着条件においても各種基材に対して良好な接着強度が得られることから、汎用部品の熱接着工程においては加熱炉を小型化できるほか、自動車シャーシなどの熱容量が大きく加熱炉での昇温速度が遅い部品への熱接着が容易となる。また、66ナイロンなどのアミノ基を持った基材へも低温で高い接着強度が得られることから、下塗り工程であるカチオン電着塗装面への接着にも利用できる。
このような特長を生かして、本発明は各種のホールプラグ構造に有効に適用される。
【符号の説明】
【0100】
1 板状部材
2 開口
3 ホールプラグ本体
4 シールリング
5 基部
6 突出部
10 ホールプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(以下、このモノマーを「グラフトモノマー」と称す。)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有する樹脂部材(I)と、金属部材及び/又は該樹脂部材(I)以外の他の樹脂部材(II)とを含む成形体であって、該樹脂部材(I)が、融点50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有することを特徴とする成形体。
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂部材(I)を構成する樹脂が更にエチレン系共重合体(b)を含有することを特徴とする成形体。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記樹脂部材(I)からなる層と、前記金属部材及び/又は前記樹脂部材(II)からなる層とを少なくとも有する積層体であることを特徴とする成形体。
【請求項4】
請求項3において、ホールプラグ本体と、開口部を有する板状部材と、該ホールプラグと該板状部材との間に設けられたホールプラグ用シールリングとを有する成形体であって、該ホールプラグ用シールリングが前記樹脂部材(I)からなる層であり、該板状部材が前記金属部材及び/又は前記樹脂部材(II)からなる層であることを特徴とする成形体。
【請求項5】
エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの共重合体であって、Mw/Mnが4.0以下であるエチレン系共重合体に、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の少なくとも1種のモノマー(以下、このモノマーを「グラフトモノマー」と称す。)をグラフトさせてなる変性エチレン系共重合体(a)を含有し、融点が50〜110℃で、前記グラフトモノマー由来の成分を0.03〜2重量%含有する樹脂部材(I)からなることを特徴とするホールプラグ用シールリング。

【図1】
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【公開番号】特開2012−20418(P2012−20418A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158012(P2010−158012)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】