説明

成形品の製造方法及び製造装置

【課題】高精度な成形品を繰り返し安定して製造する成形品の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】成形型及びこの成形型内に供給した熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、この加熱された成形型及び熱可塑性素材を加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造方法において、上記熱可塑性素材を収容した状態の上記成形型の高さ(型セット高さH)が基準高さH0に到達するまでの成形時間tの変化(ズレ時間Δt)に応じて、上記加熱手段の温度(温度、或いは、温度変更のタイミング)を調整して上記成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型及びこの成形型内に供給したガラス、プラスチック等の熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、この加熱された成形型及び熱可塑性素材を加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性素材の成形品を製造する場合には、熱可塑性素材を収容する成形型の成形面精度が、製造される成形品の精度に影響する。さらに、成形型の老朽化(酸化・劣化)、熱可塑性素材の体積・組成のばらつき、ヒータ等の製造装置構成物の経時変化等(酸化・劣化・磨耗)により、同一の条件設定のままで、初期の有効面の転写精度を繰り返し維持し続けるのが困難になってくる。一方、転写精度を維持するために温度或いは圧力を高めに設定すると、熱可塑性素材に焼き付き、割れ等の発生の危険性が増し、歩留りが得にくくなってしまう。
【0003】
そこで、加熱・成形という連続する工程の流れにおいて、前工程である加熱工程における一定時間内のガラス(熱可塑性素材)の変形量に応じて、続く成形工程における温度、圧力或いは時間のいずれかの条件を調整することにより、成形工程後の変形品質を安定させる成形方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−58837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の成形方法は、加熱工程での変形量のばらつきを次工程である成形工程で補正しようとするものであり、成形工程における実質上の条件変動を補正するものではなかった。さらに、成形時間で調整した場合は温度分布及び粘度分布のばらつきを発生させ、成形転写精度を不安定にしていた。
【0005】
そのため、成形工程における上述のような条件変動の要因となる成形型の老朽化、熱可塑性素材の体積・組成のばらつき、製造装置構成物の経時変化等によって、同一条件で高精度な転写を維持することができなくなった時に、上述のような調整を行ったとしても、実質的に成形品を繰り返し安定して高精度に製造することはできなかった。
【0006】
本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、高精度な成形品を繰り返し安定して製造する成形品の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の成形品の製造方法は、成形型及びこの成形型内に供給した熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、この加熱された成形型及び熱可塑性素材を成形工程における加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造方法において、上記熱可塑性素材を収容した状態の上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの成形時間の変化に応じて、上記加熱手段の温度(温度、或いは、温度変更のタイミング)を調整して上記成形時間を適正な基準成形時間に収束させるようにする。
【0008】
また、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、段階的に予め設定された調整温度幅から選択するようにするとよい。
【0009】
また、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、関数式により調整温度幅を決定するようにしてもよい。
【0010】
また、上記加熱手段の温度を成形過程において切り替えて上記熱可塑性素材を成形する方法において、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、上記加熱手段の温度を切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで、上記成形時間を適正な基準成形時間に収束させるようにしてもよい。この場合の多くは、段階的に温度低下方向に切り替えが行われる。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の成形品の製造装置は、成形型及びこの成形型内に供給した熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、この加熱された成形型及び熱可塑性素材を加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造装置において、上記熱可塑性素材及びこの熱可塑性素材を収容した成形型を保温する加熱手段と、上記熱可塑性素材を収容した状態の上記成形型の高さを測定する高さ測定手段と、上記測定した成形型の高さが基準高さに到達するまでの成形時間に応じて、上記加熱手段の温度(温度、或いは、温度変更のタイミング)を調整して上記成形時間を適正な基準成形時間に収束させる制御手段とを備える構成とする。
【0012】
また、上記制御手段は、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、段階的に予め設定された調整温度幅から選択する構成とするとよい。
【0013】
また、上記制御手段は、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、関数式により調整温度幅を決定する構成としてもよい。
【0014】
また、上記制御手段は、上記加熱手段の温度を成形過程において切り替えて上記熱可塑性素材を成形する方法において、上記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、上記加熱手段の温度を切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで、上記成形時間を適正な基準成形時間に収束させる構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、熱可塑性素材を収容した状態の成形型の高さが基準高さに到達するまでの成形時間に応じて、加熱手段の温度を調整して成形時間を適正な基準成形時間に収束させている。そのため、熱可塑性素材の圧力及び変形量を一定に保持すると共に成形時間を適正な基準成形時間に収束させることで、成形型や製造装置構成物の経時変化等による熱可塑性素材の実温度のズレを解消し、熱可塑性素材の温度、粘度及びこれらの分布を実質的に安定化させることができる。したがって、本発明によれば、成形品を高精度に繰り返し安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る熱可塑性素材の製造方法及び製造装置について、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る成形品の製造装置の成形工程における時間変化を示す説明図である。
【0017】
同図において、熱可塑性素材1は、成形型2に収容され、加熱工程を経て加熱軟化した状態である。成形型2は、上型3、下型4、これら上型3及び下型4の外周面に当接するスリーブ5、このスリーブ5と下型4との間に介在する外径枠6から構成されている。以下、成形型2及びこの成形型2に収容された熱可塑性素材1を併せて型セット7と呼ぶ。
【0018】
型セット7は、加熱手段としてのヒータ8a,9aがそれぞれ4本嵌入された保温プレート上8及び保温プレート下9により、一定の圧力で成形されている。保温プレート上8は、図示しない駆動手段により駆動される軸10に固定されて加圧・昇降可能となっている。また、保温プレート上8の高さ位置は、装置天板11上に配置された高さ測定手段としての高さ測定部12により測定されている。
【0019】
高さ測定部12、加熱手段としての保温プレート上8及び保温プレート下9(ヒータ8a及びヒータ9a)は、制御手段としての制御部13に接続されている。この制御部13は、入力された制御プログラム13aに基づくシーケンス制御等により、高さ測定部12から高さ検出信号14を受信すると共に、保温プレート上8及び保温プレート下9に温度制御信号15を送信している。
【0020】
制御部13は、詳しくは後述するが、高さ測定部12により測定された型セット7の高さが基準高さに到達することを高さ検出信号14により判断し、熱可塑性素材1の成形時間が一定になるように、必要に応じて温度制御信号15によって保温プレート上8及び保温プレート下9のプレート温度を制御している。
【0021】
なお、同図の左側に示す熱可塑性素材1は、成形によって変形し、同図中の右側に示す熱可塑性素材1´へと成形される。これに伴い型セット7(保温プレート上8)の高さは小さくなる(変位D)。そして、型セット7の高さが基準高さに到達したことをもって制御部13が成形工程の完了を捉える。
【0022】
図2は、上記成形工程における成形時間と型セット高さとの関係を示す特性図である。
図3は、上記成形工程における制御を示すフローチャートである。
図4は、上記成形工程におけるズレ時間と調整温度幅との関係の例を示す図表である。
【0023】
図2に示す高さ変化曲線P1,P2,P3を例に説明する。高さ変化曲線P1,P2,P3は、上述のように、成形時間が経過すると熱可塑性素材1が圧力を加えられて変形して、型セット高さHは小さくなり、成形工程が終了となる基準高さH0に到達する。この基準高さH0に到達するまでに要する高さ変化曲線P1の成形時間tを適正な基準成形時間t0として制御部13に初期設定しておく。
【0024】
そして、図3に示すように、基準高さH0到達までの基準成形時間t0からの超過又は短縮したズレ時間Δtを測定する(S1)。この時間測定は、高さ測定部12からの高さ検出信号14を制御部13において検知し、基準高さH0に到達するまでの時間を制御部13に設けたタイマ機能により測定することができる。
【0025】
ここで、基準成形時間t0からのズレ時間Δtに応じて段階的に設定された図4の例に示す調整温度幅Tを基に、制御部13によって温度を調整する条件であるか否かを判断する(S2)。本実施形態では、ズレ時間Δtが±5秒の範囲内であれば調整温度幅Tが0℃であり、温度調整をしないと判断する。
【0026】
一方、図2に示す高さ変化曲線P2のように基準高さH0に到達するまでの成形時間tが基準成形時間t0よりも長くなり、そのズレ時間Δtが+5秒を超える場合、及び、高さ変化曲線P3のように基準高さH0に到達するまでの成形時間tが基準成形時間t0よりも短くなり、そのズレ時間Δtが−5秒を超える場合には、制御部13によって成形温度の調整温度幅Tを選択する(S3)。
【0027】
本実施形態では、図4に示すように、ズレ時間Δtに対する調整温度幅Tを、ズレ時間Δtが+5〜+10秒で調整温度幅+1℃、+10〜+15秒で+2℃、+15〜+20秒で+4℃、−5〜−10秒で−1℃、−10〜−15秒で−3℃、−15〜−20秒で−5℃に設定している。なお、ズレ時間Δtが設定範囲を超える場合(ここでは+20秒又は−20秒を超える場合)には、制御部13により、熱可塑性素材1の成形を停止するか警告を発するようにするとよい。そのため、成形を継続することができるズレ時間Δtの範囲まで調整温度幅Tを設定しておくとよい。
【0028】
そして、調整温度幅Tを基に制御部13から温度制御信号15を送信し、保温プレート上8及び保温プレート下9の成形温度を調整する(S4)。なお、図4に示すようなズレ時間Δtに対する調整温度幅Tの決定方法は、実際の成形時間tが基準成形時間t0に近づくように、成形する熱可塑性素材1或いは成形型2の物性、形状等を基にしたシミュレーションにより、或いは、経験的に、決めることができる。
【0029】
また、一度の補正で修正するというより何度も繰り返しの補正で理想値に収束していくようにするとよい。
以上説明した第1実施形態では、熱可塑性素材1を収容した成形型2(型セット7)の高さが基準高さH0に到達するまでの成形時間tに応じて、加熱手段(保温プレート上8及び保温プレート下9)の温度を調整して成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させている。つまり、熱可塑性素材1の圧力及び変形量を一定に保持すると共に成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させることで、成形型2や製造装置構成物の経時変化等による熱可塑性素材1の実温度のズレを解消する。これによって、熱可塑性素材1の熱伝導による熱的分布が安定することになり、成形工程中の熱可塑性素材1の温度、粘度及びこれらの分布を実質的に安定化させることができる。したがって、本実施形態によれば、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0030】
また、本実施形態では、型セット7が基準高さH0に達するまでの基準成形時間t0からの超過又は短縮した時間(ズレ時間Δt)に基づいて、段階的に設定された加熱手段の温度の調整温度幅Tを選択しているため、制御部13による制御が簡略化する。したがって、本実施形態によれば、簡単な構成で、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0031】
図5は、上記第1実施形態の変形例に係る成形工程における成形時間と型セット高さとの関係を示す特性図である。
同図に示すように、本変形例においては、成形工程完了前の型セット高さを基準高さH0とし、この基準高さH0における高さ変化曲線P1の成形時間tを適正な基準成形時間t0として、上記実施形態に係る制御部13に初期設定している。そして、この基準成形時間t0を基にしたズレ時間Δtに応じて、制御部13により、調整温度幅Tを選択すると共に、温度制御信号15を送信して保温プレート上8及び保温プレート下9のプレート温度を調整する。
【0032】
ここで、本変形例のように成形工程の完了前の型セット高さを基準高さH0に設定する場合、上記実施形態よりもズレ時間Δtの絶対値が少なく計測されるため、設定した基準高さH0に応じたズレ時間Δtと調整温度幅Tとの関係を設定する必要がある。
【0033】
本変形例においても、熱可塑性素材1を収容した成形型2(型セット7)の高さが基準高さH0に到達するまでの時間に応じて、加熱手段(保温プレート上8及び保温プレート下9)の温度を調整して成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させている。つまり、熱可塑性素材1の圧力及び変形量を一定に保持すると共に成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させることで、成形型2や製造装置構成物の経時変化等による熱可塑性素材1の実温度のズレを解消する。これによって、熱可塑性素材1の熱伝導による熱的分布が安定することになり、成形工程中の熱可塑性素材1の温度、粘度及びこれらの分布を実質的に安定化させることができる。したがって、本実施形態によれば、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0034】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態に係る成形工程における制御を示すフローチャートである。
【0035】
図7は、上記成形工程におけるズレ時間と調整温度幅との関係の例を示すグラフである。
本実施形態では、ズレ時間Δtを関数式に入力して調整温度幅Tを出力する点を除いて、上記第1実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0036】
予め、上記第1実施形態及びその変形例と同様に、基準高さH0を決めて、この基準高さH0に到達するまでの適正な基準成形時間t0を図1に示す制御部13に初期設定しておく。
【0037】
そして、図6に示すように、基準高さH0に到達するまでのズレ時間Δtを測定する(S11)。
ここで、基準成形時間t0からのズレ時間Δtを基にして、例えば対応する温度変化率を係数化した関数式(調整温度幅T=0.1×ズレ時間Δt)により、成形温度の調整温度幅Tを決定する(S12)。
【0038】
この調整温度幅Tを基に制御部13から温度制御信号15を送信し、保温プレート上8及び保温プレート下9のプレート温度を調整する(S13)。なお、ズレ時間Δtに対する調整温度幅Tの関数式の決定方法は、実際の成形時間tが基準成形時間t0に近づくように、成形する熱可塑性素材1或いは成形型2の物性、形状等を基にしたシミュレーションにより、或いは、経験的に、決めることができる。また、関数式を2次関数、3次関数等にすることも有効である。
【0039】
以上説明した第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、熱可塑性素材1を収容した成形型2(型セット7)の高さが基準高さH0に到達するまでの時間に応じて、加熱手段の温度を調整して成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させている。つまり、熱可塑性素材1の圧力及び変形量を一定に保持すると共に成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させることで、成形型2や製造装置構成物の経時変化等による熱可塑性素材1の実温度のズレを解消する。これによって、熱可塑性素材1の熱伝導による熱的分布が安定することになり、成形工程中の熱可塑性素材1の温度、粘度及びこれらの分布を実質的に安定化させることができる。したがって、本実施形態によれば、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0040】
また、本実施形態では、型セット7の高さが基準高さH0に到達するまでの、予め設定した基準成形時間t0からの超過又は短縮した時間を基にして、関数式(調整温度幅T=0.1×ズレ時間Δt)により成形温度の調整温度幅Tを決定している。そのため、より正確に熱可塑性素材1の成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させることができる。したがって、本実施形態によれば、より高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0041】
<第3実施形態>
図8は、本発明の第3実施形態に係る成形工程における制御を示すフローチャートである。
【0042】
図9は、上記成形工程における温度切り替えを説明するための説明図である。
本実施形態では、図9の上段のグラフに示すように、成形過程において第1の温度PT1(成形時間t1)から第2の温度PT2(成形時間t2)へとプレート温度PTを切り替えて成形する(ただし、PT1>PT2)。そして、詳しくは後述するが、本実施の形態ではプレート温度PT1,PT2自体を変更するのではなく、プレート温度PTを切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで成形時間tを直接調整して、成形時間tを予め設定した適正な基準成形時間t0に収束させている。この点を除いては、上記第1及び第2実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0043】
予め、上記第1及び第2実施形態と同様に、型セット高さHが基準高さH0に到達するまでの適正な基準成形時間t0を制御部13に設定しておく。
そして、図8に示すように、基準高さH0到達までの基準成形時間t0からのズレ時間Δtを測定する(S21)。なお、図9の中段のグラフでは、ズレ時間Δtがプラス(+)の値である場合を示している。
【0044】
ここで、基準成形時間t0からのズレ時間Δtに基づいて、第1の温度PT1(成形時間t1)から第2の温度PT2(成形時間t2)へとプレート温度PTを切り替えるタイミングの調整時間αを、制御部13により決定する(S22)。このタイミングの調整時間αの決定方法は、実際の成形時間tが基準成形時間t0に近づくように、成形する熱可塑性素材1或いは成形型2の物性、形状等を基にしたシミュレーションにより、或いは、経験的に、決めることができる。
【0045】
そして、図9の下段のグラフに示すように、第1の温度PT1(成形時間t1)から第2の温度PT2(成形時間t2)への切り替えタイミングを、調整時間αに従い調整する(S23)。これにより、第1の温度PT1で成形する時間はt1+αとなり、第2の温度PT2で成形する時間はt2−αとなる。こうすることによって、高温側の温度PT1である時間が調整時間αだけ長くなり、低温側の温度PT2である時間が調整温度αだけ短くなるので、結果、低粘度である時間が長くなることによって、変形速度を早めることができる。そうして、ズレ時間Δtを短縮していく。
【0046】
以上説明した第3実施形態においては、熱可塑性素材1を収容した成形型2(型セット7)の高さが基準高さH0に到達するまでの時間に応じて、加熱手段のプレート温度PT1からPT2への切り替えタイミングを調整している。つまり、熱可塑性素材1の圧力及び変形量を一定に保持すると共に成形時間を適正な基準成形時間t0に収束させることで、成形型2や製造装置構成物の経時変化等による熱可塑性素材1の実温度のズレを解消する。これによって、熱可塑性素材1の熱伝導による熱的分布が安定することになり、成形工程中の熱可塑性素材1の温度、粘度及びこれらの分布を実質的に安定化させることができる。したがって、本実施形態によれば、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ズレ時間Δtを基にして、プレート温度PTを切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで(タイミング調整時間α)、上記ズレ時間Δtを直接調整している。そのため、プレート温度PTを成形過程において切り替えて熱可塑性素材1を成形する場合に、各段階でのプレート温度PT1,PT2の値自体を変更する必要がなく、制御部13による制御が簡略化する。したがって、本実施形態によれば、簡単な構成で、高精度な成形品を繰り返し安定して製造することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、プレート温度PT1,PT2の値自体は変更せずに、プレート温度PT1からプレート温度PT2への切り替えタイミングを変更する例を説明したが、切り替えタイミングを変更せずに各段階でのプレート温度PT1,PT2の値自体を変更しても、切り替えタイミングを変更して更に各段階でのプレート温度PT1,PT2の値自体を変更しても、本発明の効果を得ることは可能である。
【0049】
また、本実施形態では、プレート温度PTを2段階に設定した場合の例を説明したが、3段階以上に設定する場合にも、各段階の成形時間を同様に調整すれば、結果として上記成形時間を調整することができる。
【0050】
また、本発明の成形工程における適正な基準成形時間に収束させる手段は、上記第1〜第3実施形態で説明したものに限定されず、例えば、成形温度を連続的に下げながら成形する場合には、温度を一定(直線状)に下げるのではなく、曲線状に下げるようにすることでも、成形時間の調整は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係る成形品の製造装置の加熱工程における時間変化を示す説明図である。
【図2】上記成形工程における成形時間と型セット高さとの関係を示す特性図である。
【図3】上記成形工程における制御を示すフローチャートである。
【図4】上記成形工程におけるズレ時間と調整温度幅との関係の例を示す図表である。
【図5】上記第1実施形態の変形例に係る成形工程における成形時間と型セット高さとの関係を示す特性図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る成形工程における制御を示すフローチャートである。
【図7】上記成形工程におけるズレ時間と調整温度幅との関係の例を示すグラフである。
【図8】本発明の第3実施形態に係る成形工程における制御を示すフローチャートである。
【図9】上記成形工程における温度切り替えを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 熱可塑性素材
2 成形型
3 上型
4 下型
5 スリーブ
6 外径枠
7 型セット
8 保温プレート上
8a ヒータ
9 保温プレート下
9a ヒータ
10 軸
11 装置天板
12 高さ測定部
13 制御部
13a 制御プログラム
14 高さ検出信号
15 温度制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型及び該成形型内に供給した熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、該加熱された成形型及び熱可塑性素材を加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造方法において、
前記熱可塑性素材を収容した状態の前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの成形時間の変化に応じて、前記加熱手段の温度を調整して前記成形時間を適正な基準成形時間に収束させることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、段階的に予め設定された調整温度幅から選択することを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、関数式により調整温度幅を決定することを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記加熱手段の温度を成形過程において切り替えて前記熱可塑性素材を成形する方法において、
前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、前記加熱手段の温度を切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで、前記成形時間を適正な基準成形時間に収束させることを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
成形型及び該成形型内に供給した熱可塑性素材を加熱工程において加熱し、該加熱された成形型及び熱可塑性素材を加熱手段によって保温しつつ押圧成形して成形品を製造する成形品の製造装置において、
前記熱可塑性素材及び該熱可塑性素材を収容した成形型を保温する加熱手段と、
前記熱可塑性素材を収容した状態の前記成形型の高さを測定する高さ測定手段と、
前記測定した成形型の高さが基準高さに到達するまでの成形時間に応じて、前記加熱手段の温度を調整して前記成形時間を適正な基準成形時間に収束させる制御手段と
を備えることを特徴とする成形品の製造装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、段階的に予め設定された調整温度幅から選択することを特徴とする請求項5記載の成形品の製造装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、関数式により調整温度幅を決定することを特徴とする請求項5記載の成形品の製造装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記加熱手段の温度を成形過程において切り替えて前記熱可塑性素材を成形する方法において、前記成形型の高さが基準高さに到達するまでの、予め設定した基準成形時間からの超過又は短縮した時間を基にして、前記加熱手段の温度を切り替えるタイミングを遅くする又は早くすることで、前記成形時間を適正な基準成形時間に収束させることを特徴とする請求項5記載の成形品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−169067(P2008−169067A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2801(P2007−2801)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】