説明

成形品取出機

【課題】繊維補強プラスチック成形体を昇降軸に固定するための硬化した接着剤の剥離を有効に抑制できる成形品取出機を提供する。
【解決手段】昇降軸8の軸線方向と直交する方向に対向する一対の側壁11,12上に、それぞれ繊維強化プラスチック成形体13,14が接着剤を介して固定する。繊維強化プラスチック成形体13,14の繊維強化部FSを構成する複数の経糸F2が昇降軸8の軸線方向(D0)に延び且つ該軸線方向と直交する方向(D2)に並び、複数の緯糸F1が軸線方向(D0)と交差する方向(D2)に延び且つ軸線方向に並ぶように昇降軸8の側壁11,12の表面上に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降軸を備えた成形品取出機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2009−269100号公報(特許文献1)には、図4,図5には先端に成形品把持ヘッドを備えた金属製の昇降軸を有するトラバース型の成形品取出機の一例が開示されている。この公報に示された昇降軸は、角筒状の成形品により構成されている。昇降軸は、上下方向に移動するため、昇降用モータへの負荷はかなり大きなものとなっている。そこで出願人は、昇降軸の軽量化を図るために、アルミニューム製の昇降軸を採用し且つさらに軽量化できる構造とした上で、繊維補強プラスチック成形体を昇降軸に接着剤で固定することにより、軽量化により発生する機械的強度の低下を補う構造を考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−269100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら昇降軸の金属材料と、硬化した接着剤と繊維補強プラスチック成形体の熱膨張係数は、大きく異なるために、状況によっては、硬化した接着剤が部分的に剥離し、繊維補強プラスチック成形体の効果を十分に発揮できない可能性があることが判った。
【0005】
本発明の目的は、繊維補強プラスチック成形体を昇降軸に固定するための硬化した接着剤の剥離を有効に抑制できる成形品取出機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が対象とする成形品取出機は、先端に成形品把持ヘッドが取り付けられる金属製の昇降軸を備えており、昇降軸の軸線方向と直交する方向に対向する一対の側壁上には、それぞれ繊維強化プラスチック成形体が接着剤を介して固定されている。繊維強化プラスチック成形体は、複数の経糸と複数の緯糸により構成された繊維強化部に熱硬化性樹脂を含浸して硬化してなるものである。本発明においては、繊維強化プラスチック成形体の繊維強化部を構成する複数の経糸が昇降軸の軸線方向に延び且つ該軸線方向と直交する方向に並び、複数の緯糸が軸線方向と交差する方向に延び且つ軸線方向に並ぶように昇降軸の側壁の表面上に配置されている。なお「複数の経糸が昇降軸の軸線方向に延び」とは、経糸が概ね軸線方向に向かっていればよく、経糸が軸線と完全に平行になる場合だけに限定されるものではない。また「緯糸が軸線方向と交差する方向に延び」とは、緯糸が経糸と完全に直交する場合に限定されるものではない。繊維強化部に使用する繊維は、カーボン、ガラス等の種々の強化繊維を用いることができる。
【0007】
本発明のように、繊維強化部を構成する経糸と緯糸が延びる方向を昇降軸の軸線方向に対して特定の関係になるように繊維強化プラスチック成形体を昇降軸の一対の側壁に固定すると、昇降軸の金属材料の熱膨張係数と、硬化した接着剤の熱膨張係数と繊維補強プラスチック成形体の熱膨張係数の差により、硬化した接着剤内に生じるストレスを緩和して、硬化した接着剤の剥離を抑制することができる。硬化した接着剤は、昇降軸の軸線方向の長さが幅方向の長さよりも長いため、硬化した接着剤の熱膨張による累積した延びは、軸線方向の累積延び量のほうが幅方向の累積延び量よりも大きくなる。そして硬化した接着剤と繊維強化プラスチック成形体中の硬化した熱硬化性樹脂の熱膨張係数は他の材料の熱膨張係数と比べて近いため、硬化した接着剤の軸線方向への延びに対して、熱硬化性樹脂の軸線方向への延びも生じ、緯糸が熱硬化性樹脂の延びと一緒に軸線方向に僅か動くため、硬化した接着剤との間に生じるストレスが緩和されているものと推測される。その結果、本発明によれば、硬化した接着剤の剥離を抑制できるものと考えられる。
【0008】
繊維強化部を、側壁の表面と対向する位置に複数の緯糸のみからなる緯糸層を備えている構成とすると、膨張・収縮に伴って緯糸がより動き易くなり、硬化した接着剤との間に生じるストレスがさらに緩和される。なお繊維強化部は平織りにより構成されていても、程度の差はあるものの本発明の効果は得られる。
【0009】
なお昇降軸が、アルミニュームの押し出し成形により形成されている場合には、一対の側壁の表面は、粗面処理が施されているのが好ましい。このようにすると昇降軸の側壁と硬化した接着剤との間の接合強度を高めることができる。
【0010】
繊維強化プラスチック成形体が、平行に延びる一対の長辺を有している場合には、昇降軸の一対の側壁には、軸線方向に直線的に延び、一対の長辺の1つと接触することにより繊維強化プラスチック成形体の位置決めをする位置決め用段部を形成するのが好ましい。この場合、一対の側壁に設ける位置決め用段部は、昇降軸の軸線を含み且つ一対の側壁の間を延びる仮想平面に対して面対称の位置に設ける。このようにすると繊維強化プラスチック成形体の一辺を位置決め用段部に当接させるだけで、繊維強化プラスチック成形体をを完全に対向した位置関係に置くことができる。したがって繊維強化プラスチック成形体の固定作業が容易になる。
【0011】
理想的には接着剤のみにより繊維強化プラスチック成形体を昇降軸に固定するのが好ましい。しかしより信頼性を高めるためには、接着剤による固定に加えてビスやネジ等による固定を併用するのが好ましい。そこでこの場合には、繊維強化プラスチック成形体に、その外周部に沿って所定の間隔を開けて複数の貫通孔を形成する。そして複数の貫通孔を貫通する複数の頭部付きビスまたはネジを、その頭部を強化プラスチック成形体に押しつけるようにして側壁に対して固定する。この貫通孔の寸法は、昇降軸、硬化した接着剤及び強化プラスチック成形体の線膨張係数の差により、硬化した接着剤が側面または強化プラスチック成形体から剥離するのを抑制できる程度に、ビスまたはネジの頭部を除いた部分の最大直径寸法よりも大きくする。このようにするとビスまたはネジの存在により繊維強化プラスチック成形体の完全な剥離を防止できる。また前述のように貫通孔の寸法を大きくしているので、膨張・収縮に伴う繊維強化プラスチック成形体の動きが大きく拘束されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の成形品取出機の全体構成を示す図である。
【図2】(A)乃至(C)は、昇降軸の左側面図、右側面図及び斜視図である。
【図3】昇降軸の底面図である。
【図4】(A)及び(B)は、繊維強化部の構成を模式的に示す模式図である。
【図5】ビスを用いた固定構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面を参照して本発明の成形品取出機の実施の形態の一例について説明する。図1は、本実施の形態の成形品取出機1の全体構成を示す図である。成形品取出機1は、図示されていない成形機の固定プラテンに基部が支持され、成形機の幅方向(W)に延びる片持ビーム構造の横行軸2と、該横行軸2に支持されて、たとえばサーボモータなどの電動モータからなる駆動源により幅方向(矢印W)に進退する第1の走行体3と、この第1の走行体に設けられて成形機の長手方向(矢印L)にのびる引抜き軸4と、該引抜き軸4に支持されて、たとえばサーボモータなどの電動モータからなる駆動源により長手方向(矢印L)に進退する第2の走行体5と、この第2の走行体5に支持されて、たとえばサーボモータなどの電動モータまたはエアーシリンダー装置からなる駆動源により昇降(矢印Z)する昇降ユニット6とを備えている。昇降ユニット6は、先端に成形品把持ヘッド7を備えた第1の昇降軸8と、先端にランナチャック9を備えた第2の昇降軸10とを備えている。成形品取出機1の動作は公知であるため説明は省略する。
【0014】
特に、本実施の形態では、成形品把持ヘッド7が先端に取り付けられる昇降軸8を軽量化して、しかも機械的強度を維持するために、以下の構造を採用している。図2(A)乃至(C)は、昇降軸の左側面図、右側面図及び斜視図である。図3は、昇降軸8の底面図である。昇降軸8は、アルミニュームまたはアルミニューム合金を用いて押し出し成形により形成されているため、中空構造を有している昇降軸8は、昇降軸8の軸線Xの軸線方向(D0方向)と直交する方向(D1方向)に対向する一対の側壁11及び12上には、それぞれ繊維強化プラスチック成形体13及び14が接着剤を介して固定されている。昇降軸8は一対の側壁11及び12の間に位置して両側壁11及び12を連結する一対の側壁15及び16を有している。昇降軸8は繊維強化プラスチック成形体13及び14と対応する細長い第1の空洞部17と、空洞部17よりも側壁15側に位置する断面積が小さな第2の空洞部18とを有している。
【0015】
図3に示すように、一対の側壁11及び12には、第1の空洞部17と対向し且つ第2の空洞部18寄りの位置に、一対の位置決め用段部19及び20が形成されている。一対の側壁11及び12に設けた一対の位置決め用段部19及び20は、昇降軸8の軸線Xを含み且つ一対の側壁11及び12の間を延びる仮想平面PSに対して面対称の位置に設けられている。また一対の側壁11及び12には、第2の空洞部18を間に挟む位置に軸線方向に延びる一対の細長い凹溝21及び22が形成されている。この凹溝21及び22には、円柱状のレール部材23及び24が圧入嵌合されて固定されている。このレール部材23及び24は、昇降軸8が昇降する際に案内ガイドとして利用される。
【0016】
繊維強化プラスチック成形体13及び14は、平行に延びる一対の長辺を有する厚みの薄い板形状を呈している。本実施の形態では、昇降軸8の一対の側壁11及び12に設けられて軸線方向に直線的に延びる一対の位置決め用段部19及び20には、繊維強化プラスチック成形体13及び14の一対の長辺の1つを接触させて、繊維強化プラスチック成形体13及び14の位置決めをしている。このようにすると繊維強化プラスチック成形体13及び14の一辺を位置決め用段部19及び20に当接させるだけで、繊維強化プラスチック成形体19及び20をD1方向に完全に対向した位置関係に置くことができる。したがって繊維強化プラスチック成形体13及び14の固定作業が容易になる。
【0017】
繊維強化プラスチック成形体13及び14は、複数の経糸と複数の緯糸により構成された繊維強化部に熱硬化性樹脂を含浸して硬化してなるものである。本実施の形態では、特に繊維強化プラスチック成形体13及び14に炭素繊維強化プラスチック成形体を用いている。例えば、本実施の形態では、図4(A)に示すように、繊維強化部FSを、側壁11及び12の表面と対向する位置に複数の炭素繊維の緯糸F2のみからなる緯糸層L1を備え、側壁11及び12の表面と対向しない位置に複数の炭素繊維の経糸F1からなる経糸層L2を備えている。繊維強化部FSに含浸する樹脂としてエポキシ系の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0018】
本実施の形態では、繊維強化プラスチック成形体13及び14の繊維強化部FSを構成する複数の経糸F2が昇降軸8の軸線方向(D0方向)に延び且つ該軸線方向と直交する方向(Y方向)に並び、複数の緯糸F1が軸線方向(D0方向)と交差する方向(D2方向)に延び且つ軸線方向(D0方向)に並ぶように昇降軸8の側壁11及び12の表面上に配置されている。図4(A)の繊維強化部FSの構造では、複数の経糸F2と複数の横板F1とはほぼ直交している。
【0019】
本実施の形態のように、繊維強化部FSを構成する経糸F2と緯糸F1が延びる方向を昇降軸8の軸線方向に対して特定の関係になるように繊維強化プラスチック成形体13及び14を昇降軸8の一対の側壁11及び12に接着剤を用いて固定すると、昇降軸8の金属材料の熱膨張係数と、図示しない硬化した接着剤の熱膨張係数と繊維補強プラスチック成形体の熱膨張係数の差により、硬化した接着剤内に生じるストレスを緩和して、硬化した接着剤の剥離を抑制することができる。本実施の形態では、接着剤として例えばエポキシ系またはアクリル系の接着剤を用いている。本実施の形態では、一対の側壁11及び12の表面は、ブラッシングなどにより粗面処理が施されている。このようにすると昇降軸8の側壁11及び12と硬化した接着剤との間の接合強度を高めることができる。
【0020】
図4(A)に示すように、繊維強化部FSを、側壁の表面と対向する位置に複数の緯糸のみからなる緯糸層を備えている構成とすると、膨張・収縮に伴って緯糸がより動き易くなり、硬化した接着剤との間に生じるストレスがさらに緩和される。なお図4(B)に示すように、繊維強化部FS´は平織りにより構成されていてよい。平織りでも、程度の差はあるものの本発明の効果は得られる。
【0021】
理想的には接着剤のみにより繊維強化プラスチック成形体13及び14を昇降軸8に固定するのが好ましい。しかしより信頼性を高めるために、本実施の形態では、接着剤による固定に加えてビス25による固定を併用している。そこで本実施の形態では、図5に示すように、繊維強化プラスチック成形体13及び14に、その外周部に沿って所定の間隔を開けて複数の貫通孔Hを形成する。そして複数の貫通孔Hを貫通する複数の頭部付きビス25を、その頭部25Aを強化プラスチック成形体13及び14に押しつけるようにして側壁11及び12に対して固定する。この貫通孔Hの寸法は、昇降軸8、硬化した接着剤及び強化プラスチック成形体13及び14の線膨張係数の差により、硬化した接着剤26が側壁11及び12または強化プラスチック成形体13及び14から剥離するのを抑制できる程度に、ビス2の頭部25Aを除いた部分25Bの最大直径寸法よりも大きくする。このようにするとビス25の存在により繊維強化プラスチック成形体13及び14の完全な剥離を防止できる。また貫通孔Hの寸法を大きくしているので、膨張・収縮に伴う繊維強化プラスチック成形体13及び14の動きが大きく拘束されることはない。
【0022】
上記実施の形態では、ビス25を用いたが、ビスに代えてネジを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、繊維補強プラスチック成形体を昇降軸に固定するための硬化した接着剤の剥離を有効に抑制できる。
【符号の説明】
【0024】
1 成形品取出機
2 横行軸
3 第1の走行体
4 引抜き軸
5 第2の走行体
6 昇降ユニット
7 成形品把持ヘッド
8 第1の昇降軸
9 ランナチャック
10 第2の昇降軸
11,12 側壁
13,14 繊維強化プラスチック成形体
19,20 位置決め用段部
25 ビス
F1 経糸
F2 緯糸
FS 繊維強化部
H 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に成形品把持ヘッドが取り付けられる金属製の昇降軸を備え、
前記昇降軸の軸線方向と直交する方向に対向する一対の側壁上に、それぞれ繊維強化プラスチック成形体が接着剤を介して固定され、
前記繊維強化プラスチック成形体が、複数の経糸と複数の緯糸により構成された繊維強化部に熱硬化性樹脂を含浸して硬化してなるものである成形品取出機であって、
前記複数の経糸が前記昇降軸の前記軸線方向に延び且つ該軸線方向と直交する方向に並び、前記複数の緯糸が前記軸線方向と交差する方向に延び且つ前記軸線方向に並ぶように前記側壁の前記表面上に配置されていることを特徴とする成形品取出機。
【請求項2】
前記繊維強化部は、前記側壁の前記表面と対向する位置に前記複数の緯糸のみからなる緯糸層を備えている請求項1に記載の成形品取出機。
【請求項3】
前記繊維強化部は平織りにより構成されている請求項1に記載の成形品取出機。
【請求項4】
前記昇降軸は、アルミニュームの押し出し成形により形成されており、
前記一対の側壁の表面は、粗面処理が施されている請求項1,2または3に記載の成形品取出機。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチック成形体は、平行に延びる一対の長辺を有しており、
前記一対の側壁には、前記軸線方向に直線的に延び、前記一対の長辺の1つと接触することにより前記繊維強化プラスチック成形体の位置決めをする位置決め用段部が、前記昇降軸の軸線を含み且つ前記一対の側壁の間を延びる仮想平面に対して面対称の位置に設けられている請求項1に記載の成形品取出機。
【請求項6】
前記強化プラスチック成形体には、その外周部に沿って所定の間隔を開けて複数の貫通孔が形成されており、
前記複数の貫通孔を貫通する複数の頭部付きビスまたはネジが、前記頭部を前記強化プラスチック成形体に押しつけるようにして前記側壁に対して固定されており、
前記貫通孔の寸法は、前記昇降軸、硬化した前記接着剤及び前記強化プラスチック成形体の熱膨張係数の差により、硬化した前記接着剤が前記側面または前記強化プラスチック成形体から剥離するのを抑制できる程度に、前記ビスまたはネジの前記頭部を除いた部分の最大直径寸法よりも大きく定められていることを特徴とする請求項1に記載の成形品取出機。
【請求項7】
前記繊維強化プラスチック成形体が、炭素繊維強化プラスチック成形体である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成形品取出機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10321(P2013−10321A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145672(P2011−145672)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000138473)株式会社ユーシン精機 (117)
【Fターム(参考)】