説明

成形型の製造方法

【課題】成形面を構成する樹脂層の形状精度が高い成形型の製造方法を提供すること。
【解決手段】この成形型は、基部10と、基部10の表面上に形成された樹脂層20とを備える。基部10は樹脂層20と比べて剛性が高い。基部10の表面上に、厚さ(Tb)が1mm以上の樹脂層20がライニング等によって形成される。次いで、形成された樹脂層20のうち成形面に対応する部分の厚さがTbからTaになるまで、その部分の表面部がエンドミル加工等の切削加工によって仕上げられる。これにより、成形面P1が完成する。成形面P1の形状精度として、切削加工によって得られる形状精度と同等の高い精度が得られる。また、樹脂層が形成される基部の剛性が高いので、樹脂層のみから構成される成形型と比べて、樹脂層が変形し難くなり、成形面の形状精度がより一層高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体を成形する際に使用される成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ウレタン成形体等の成形体が成形型を使用して製造される際、通常、以下の工程が順に実行される。先ず、成形型の成形面により画定される成形空間に成形体の前駆体であるスラリー等が注入される。「成形面」とは成形空間に注入された成形体の前駆体であるスラリー、ペースト等が実際に接触する面である。次いで、係るスラリー等が固化(及び乾燥)されて、成形空間内に成形体が形成される。そして、成形体から成形型が取り除かれることにより(離型されて)、成形体が得られる。
【0003】
係る離型の際、成形型の成形面に成形体が粘着することがある。係る成形体の粘着の発生を抑制する(即ち、離型性を向上する)ため、成形型の成形面にフッ素樹脂層を設ける技術が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
例えば、特許文献1では、成形型の成形面にニッケル等を含む下地メッキ層が形成され、その下地メッキ層の上にフッ素樹脂層(厚さが50μ以下)がコーティングにより形成されることが記載されている。特許文献1では、これらの処理により、成形型の成形面では、下地メッキ層によって硬度が確保されるとともに、フッ素樹脂層によって良好な離型性が得られる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−264225号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、上記文献に記載の成形型では、コーティングされたフッ素樹脂層の表面そのものが「成形面」となる。一般に、コーティングによって形成された層の表面の形状精度(表面粗さ、平面度、平行度等)は低い。従って、上記文献に記載の成形型の成形面の形状精度も低い。
【0007】
本発明は、係る問題に対処するためになされたものであり、その目的は、成形面を構成する樹脂層の形状精度が高い成形型の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明に係る製造方法によって得られる成形型は、基部と、前記基部の上に形成されるとともに表面が成形面を構成する樹脂層とを備える。前記基部は、前記樹脂層と比べて剛性が高い。なお、「剛性」とは、材料のヤング率E[N/m]と、厚み方向に関する断面2次モーメントI[m]の積EIのことを指す。例えば、前記樹脂層の材料はフッ素化合物であり、前記基部の材料は金属である。
【0009】
本発明に係る成形型の製造方法では、先ず、前記基部の(表面の)上に厚さが1mm以上の樹脂層が形成される。係る樹脂層は基部の表面を被覆するように形成される。樹脂層の形成は、例えば、ライニング、コーティング、塗装(塗付)、樹脂板の貼付等によってなされ得る。樹脂層の厚さを十分に確保する上では、特に、ライニング、又は樹脂板の貼付を採用することが好適である。
【0010】
次いで、前記形成された樹脂層の表面に切削加工を加えることによって前記成形面が形成(完成)される。前記切削加工として、例えば、エンドミル加工、平研加工等が上げられる。その後に種々の仕上げ加工が追加されても良い。なお、樹脂層の表面の全てが成形面として使用されても、樹脂層の表面の一部のみが成形面として使用されてもよい。成形面として使用される樹脂層の表面は全て切削加工によって形成(完成)される。
【0011】
これによれば、成形型の樹脂層の成形面が、切削加工によって完成される。従って、上記文献に記載した成形型(コーティングによって形成されたフッ素樹脂層の表面そのものが「成形面」となる成形型)と異なり、成形面の形状精度として、加工によって得られる形状精度と同等の高い精度が得られる。即ち、成形面として使用される樹脂層の表面の形状精度が高い成形型が得られる。この結果、成形面が十分に細長い(アスペクト比が十分に大きい)貫通孔の内壁面等である場合のように、上記文献に記載の成形型では実現が困難な形状を有する成形面が採用された場合においても、成形面全体としての形状精度を高くすることができる。
【0012】
加えて、上記成形型によれば、樹脂層が、樹脂層より剛性が高い基部の表面に形成されている。従って、樹脂層のみから構成される成形型と比べて、樹脂層が変形し難くなり、樹脂層の成形面の形状精度をより一層高めることができる。更には、「1mm以上」と十分に厚く形成された樹脂層の表面が加工されて成形面が形成される。従って、比較的大きい加工代(加工によって除去される部分の厚さ)が確保され得る。この結果、平面のみからなる成形面のみならず、十分に細長い(アスペクト比が十分に大きい)貫通孔の内壁面からなる成形面や、上記文献に記載の成形型では実現が困難な種々の角部形状を有する成形面も実現することができる。
【0013】
具体的には、前記加工によって形成された成形面の十点平均粗さ(RzJIS)は10μm以下であることが好適である。加えて、前記加工によって形成された成形面に対する水の接触角が60°以上であることが好適である。これにより、良好な離型性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る成形型の製造方法によって得られた成形型の斜視図である。
【図2】図1に示した成形型を2−2線に沿って切断して得られる断面の図である。
【図3】図1に示した成形型を製造する際の図2に対応する第1工程図である。
【図4】図1に示した成形型を製造する際の図2に対応する第2工程図である。
【図5】図1に示した成形型を製造する際の図2に対応する第3工程図である。
【図6】図1に示した成形型を製造する際の図2に対応する第4工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る製造方法によって製造される成形型は、例えば、セラミック原料粉末、分散媒、ゲル化剤、分散剤を含むスラリーの成形用原料からスラリーを作製し、これを注入して成形体を製造するための成形型に適用され得る。成形型の一部が本発明に係る成形型の構成を備えていればよいが、成形型の全体が本発明に係る成形型の構成を備えていることが好ましい。成形型が上型及び下型等のように複数の部分に分割されている場合、少なくとも1つの部分が本発明に係る成形型の構成を備えていればよい。
【0016】
(構成)
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る成形型の製造方法によって得られた成形型の一例を示す。図1の2−2断面図である図2に示すように、この成形型は、基部10と、基部10の全表面上に形成された(全表面を覆う)樹脂層20とを備える。本例では、樹脂層20のうちで基部10に形成された円筒貫通孔の内壁面上に形成された部分(即ち、基部10全体を覆う樹脂層20の一部)の表面(即ち、円筒内壁面)P1が、「成形面」として使用される。「成形面」とは、成形体を成形するための成形空間を画定する面であり、且つ、成形空間に注入された成形体の前駆体であるスラリー、ペースト等が実際に接触する面である。即ち、この成形型を用いることによって、円筒状の成形体が得られる。
【0017】
基部10は、例えば、アルミニウム系合金、ステンレス系、チタン、鉄系などの金属から構成される。基部10は、樹脂層20と比べて剛性が高い。即ち、基部10は、樹脂層20の変形を抑制する支持基板としての機能を発揮し得る。
【0018】
樹脂層20は、フッ素樹脂(フッ素系化合物)、シリコン樹脂(シリコン系化合物)、PVAなどの離型性の高い材料から構成される。フッ素系化合物としては、PTFE、PFA、ETFE、FEP、PVDF、PCTFE等が挙げられる。
【0019】
樹脂層20のうち成形面P1に対応する部分(即ち、中空円筒状の部分)の厚さTa(図2を参照)は0.1〜1mmである。後述するように、この成形面P1は機械加工によって完成されている。成形面P1(即ち、円筒内壁面)の十点平均粗さ(RzJIS)は、20μm以下(より好ましくは10μm以下)である。また、成形面P1に対する水の接触角は60°以上(より好ましくは85°以上)であることが好ましい。これにより、良好な離型性を得ることができる。成形面P1を構成する材料には、添加剤やプライマーが含まれないことが好ましい。なお、樹脂層20の内部(成形面を構成しない部分)には、添加剤やプライマーが含まれていてもよい。
【0020】
(製造方法)
次に、本発明に係る上記成形型の製造方法について、図2に対応する図3〜図6を参照しながら説明する。図3に示すように、先ず、基部10が公知の手法の1つを利用して作製される。次いで、図4に示すように、基部10の全表面(円筒貫通孔の内壁面を含む)に、周知の手法の1つを利用してプライマー処理がなされる。
【0021】
次に、図5に示すように、プライマー処理がなされた基部10の全表面(円筒貫通孔の内壁面を含む)に樹脂層20が形成される。樹脂層20の形成は、例えば、ライニング、コーティング、塗装(塗付)、樹脂板の貼付等によってなされる。形成される樹脂層20の厚さTb(図5を参照)は1〜3mmである。
【0022】
次に、図6に示すように、樹脂層20のうち基部10の円筒貫通孔の内壁に対応する部分の厚さがTbからTaになるまで、その部分の表面部が機械加工によって仕上げられる。この機械加工としては、例えば、エンドミル加工等が挙げられる。この機械加工によって、成形型の成形面P1(円筒内壁面)が完成する。このとき、剛性の高い基部10を加工の基準として扱って上記加工が施され得るため、樹脂層のみからなる場合と比べて加工精度が高まる。これにより、成形面P1の形状精度が高くなる。
【0023】
(作用・効果)
本発明の実施形態に係る成形型の製造方法によれば、成形型の樹脂層20の成形面P1(円筒内壁面)が、機械加工によって完成される。従って、成形面P1の形状精度として、機械加工によって得られる形状精度と同等の高い精度が得られる。即ち、樹脂層20の成形面P1の形状精度が高い成形型が得られる。
【0024】
加えて、この成形型では、樹脂層20が、樹脂層20より剛性が高い基部10の表面に形成されている。従って、樹脂層のみから構成される成形型と比べて、樹脂層が変形し難くなり、樹脂層20の成形面の形状精度をより一層高めることができる。更には、厚さTbが1〜3mm(即ち、1mm以上)と十分に厚く形成された樹脂層20の表面部分が機械加工されて成形面P1が形成される。従って、比較的大きい加工代(加工によって除去される部分の厚さ、具体的には、Tb−Ta)が確保され得る。この結果、例えば、成形面P1が十分に細長い(アスペクト比が十分に大きい)貫通孔の内壁面である場合においても、成形面P1全体としての形状精度を高くすることができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「成形面」が円筒内壁面であるが、前記基部の表面の上に形成された樹脂層の表面であって且つ機械加工によって仕上げられた表面である限りにおいて、「成形面」の形状はどのような形状であってもよい。
【0026】
また、上記実施形態では、基部の表面に形成された樹脂層の表面の一部(円筒内壁面)のみが成形面として使用されているが、基部の表面に形成された樹脂層の表面の全てが成形面として使用されてもよい。何れにしろ、成形面として使用される樹脂層の表面の全域が、加工によって仕上げられる(完成される)。
【符号の説明】
【0027】
10…基部、20…樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部の上に形成されるとともに表面が成形面を構成する樹脂層とを備え、前記基部が前記樹脂層と比べて剛性が高い成形型の製造方法であって、
前記基部の上に厚さが1mm以上の樹脂層を形成する形成工程と、
前記形成された樹脂層の表面に切削加工を加えることにより前記成形面を形成する加工工程と、
を含む、成形型の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形型の製造方法において、
前記加工によって形成された成形面の十点平均粗さ(RzJIS)が20μm以下である、成形型の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の成形型の製造方法において、
前記加工によって形成された成形面に対する水の接触角が60°以上である、成形型の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の成形型の製造方法において、
前記樹脂層の材料がフッ素化合物である、成形型の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の成形型の製造方法において、
前記基部の材料が金属である、成形型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196848(P2012−196848A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61908(P2011−61908)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】