説明

成形型

【課題】作業性および精度を向上させると共に、適用範囲を拡大する。
【解決手段】原料微粉を被成形微粉として、加圧成形した後、焼結させて形成したスリーブおよびコアを備えた熱間加圧成形用の型であり、原料微粉として、炭化チタンの微粉、炭化バナジウムの微粉、炭化クロムの微粉、炭化ジルコニウムの微粉、炭化ニオブの微粉、炭化モリブデンの微粉、炭化ハフニウムの微粉、炭化タンタルの微粉、炭化タングステンの微粉および炭化珪素の微粉の中から1種選択し、或いは2種以上を選択して混合し、スリーブおよびコアの被成形微粉の配合を各々個別に調製することにより、コアの熱膨張係数をスリーブの熱膨張係数より大きくすると共に、両熱膨張係数の値およびその差を所望の値に調製して、冷間時のスリーブとコアとの間のクリアランスを大きく確保すると共に、熱間時にスリーブとコアを密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間加圧成形用の型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化タングステン(WC)を主成分とし、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の非硬質金属をバインダーとした超硬合金は、耐熱性、耐酸化性に優れているばかりでなく、高硬度であることから、鏡面加工性にも優れており、緻密で平滑性の高い鏡面を要求される物品、例えば、ガラスレンズを成形するのに用いる型の素材として広く利用されていた。
ところで、ガラスレンズの成形型は、筒状のスリーブと、該スリーブ上下の開口に嵌設する一対のコアを備え、成形時は、スリーブとコアとにより成立するキャビティに原料ガラスの粒塊を投入し、これを500℃以上に加熱および加圧し、粒塊を軟化変形させて、所望の形状に成形する。
レンズ表裏の光学曲面は、上下コアの成形面に設けられた凹凸により成形されるが、スリーブ中のコアが傾いたり偏ると、レンズの光軸が適切に位置決めされずに不良となるため、スリーブとコアとの間のクリアランスは極力小さく抑えられており、このためスリーブとコアとの嵌合作業は容易でなく、また冷間時のクリアランスを幾ら小さくしたところで、加熱によりスリーブおよびコアが共に膨張し、熱間時にはクリアランスが大きくなって、同上の不良が発生した。
【0003】
そこで、上記問題点を解決すべく、
第一成形部を有し、第一熱膨張係数を有する第一金型コアと、前記第一成形部に対面 する第二成形部を有し、第一熱膨張係数を有する第二金型コアと、第二熱膨張係数を有 し、前記第一金型コアおよび前記第二金型コアと同軸的に組み立てられる二つの内部ス リーブと、第一内径および第二内径を有する外部スリーブと、を備え、前記第一金型コ アと前記第二金型コアとの間に金型キャビティが形成されるように、前記第一金型コア および前記第二金型コアが前記第一内径を有する前記外部スリーブ内に同軸的に組み立 てられ、前記二つの内部スリーブが第二内径を有する前記外部スリーブ内に同軸的に組 み立てられ、前記外部スリーブが第三熱膨張係数を有し、前記第一および第二熱膨張係 数が個々に前記第三熱膨張係数より大きい、光学レンズ成形装置(下記特許文献1を参 照)が発明された。
この光学レンズ成形装置は、金型コアに内部スリーブを密嵌すること、並びに金型コアおよび内部スリーブの熱膨張係数を外部スリーブの熱膨張係数より大きくすることで、金型コアの傾斜および偏りを防止できるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4064976号公報(特許請求の範囲、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、技術の進歩により、特異な分野の光学ガラス製品に要求される精度は更に高まり、例えばレンズにあっては、その表裏面だけではなく、側面についてもより緻密で平滑な鏡面が求められるところ、上記特許文献1のものでは、熱膨張係数を適切に設定するためには、金型コアの素材は炭化タングステン、内部スリーブの素材はステンレス鋼とする組合わせが良い旨示されているが、レンズ側面を成形する外部スリーブについての例示はなく、また被成形素材の熱膨張係数、成形体のサイズにより、設定すべき熱膨張係数および各部材の熱膨張係数の差は異なるため、様々な種類の被成形素材、成形体のサイズに対応して広く適用できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、原料微粉を被成形微粉として、加圧成形した後、焼結させて形成したスリーブおよびコアを備えた熱間加圧成形用の型であり、原料微粉として、炭化チタンの微粉、炭化バナジウムの微粉、炭化クロムの微粉、炭化ジルコニウムの微粉、炭化ニオブの微粉、炭化モリブデンの微粉、炭化ハフニウムの微粉、炭化タンタルの微粉、炭化タングステンの微粉および炭化珪素の微粉の中から1種選択し、或いは2種以上を選択して混合し、スリーブおよびコアの被成形微粉の配合を各々個別に調製することにより、コアの熱膨張係数をスリーブの熱膨張係数より大きくすると共に、両熱膨張係数の値およびその差を所望の値に調製して、冷間時のスリーブとコアとの間のクリアランスを大きく確保すると共に、熱間時にスリーブとコアを密着させる様にして、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
要するに本発明は、原料微粉を被成形微粉として、加圧成形した後、焼結させてスリーブおよびコアを形成したので、成形体の表裏面および側面の成形面を共に、耐熱性、耐酸化性および鏡面加工性に優れたものとすることが出来て、表裏面だけではなく、側面にもピンホール等の欠点のない良質の成形体を得ることが出来る。
又、スリーブおよびコアは、原料微粉として、炭化チタンの微粉、炭化バナジウムの微粉、炭化クロムの微粉、炭化ジルコニウムの微粉、炭化ニオブの微粉、炭化モリブデンの微粉、炭化ハフニウムの微粉、炭化タンタルの微粉、炭化タングステンの微粉および炭化珪素の微粉の中から1種選択し、或いは、2種以上を選択して混合し、スリーブおよびコアの被成形微粉の配合を各々個別に調製することにより、コアの熱膨張係数をスリーブの熱膨張係数より大きくしたので、つまり、加熱によるコアの膨張量はスリーブの膨張量より大きいため、冷間時のスリーブとコアとの間のクリアランスを大きく確保しても、熱間時にスリーブとコアが密着することから、コアを正確に位置決めして精密な成形を行い、良品を歩留り良く得ることが出来る。
又、クリアランスを無理に小さくする必要がなく、適宜設定してコア嵌合作業の容易化を図ることが出来る。
又、成形時に昇温し、適宜降温後に型から成形体を取出すとの作業特性からして、スリーブおよびコアの熱膨張係数は、被成形素材の熱膨張係数を考慮した上で設定されなければならず、更には、冷間時のクリアランスは、成形体のサイズ(つまり、成形型のサイズ)の大小によっては、それ程大きな変更を必要としないが、例えば成形型の大きなもの程、膨張量がより多くなるから、スリーブとコアの両熱膨張係数の差を小さくする必要があるが、スリーブおよびコアの配合調製により、スリーブとコアの熱膨張係数の値およびその差を適宜調製し、様々な種類の被成形素材および成形体サイズに対応して、適用可能範囲を広げることが出来る。
【0008】
スリーブとコアの両方又は一方は、選択した原料微粉と同種元素の微粉に、炭化チタンの微粉と炭化タンタルの微粉の両方又は一方を混合し焼結させて固溶体と成し、これを粉砕し、得られた微粉を焼結助剤として原料微粉に配合して被成形微粉としたものであり、焼結助剤の配合比率の増減により、熱膨張係数を調製する様にしたので、熱膨張係数の設定可能範囲を更に拡張して、適用可能範囲を更に広げることが出来る。
又、炭化チタンにより、原料微粉が焼結し易くなり、焼結による緻密化が促進されると共に、炭化タンタルにて成形型の耐酸化性が向上する。
【0009】
原料微粉を高硬度で且つヤング率が高い炭化タングステンとしたので、優れた硬度および靱性を得ることが出来、焼結助剤の組成を炭化タングステン30〜70重量%、炭化チタン20〜40重量%、炭化タンタル10〜30重量%としたので、緻密であるだけでなく、高温下での硬度、靱性および耐酸化性を成形型にバランス良く兼備させることが出来る。
【0010】
被成形微粉は、原料微粉を50〜95重量%とし、焼結助剤を5〜50重量%としたので、高密度で気孔がなく、高硬度にして高靱性、耐酸化性に優れ、これら特性を全て高次元で兼備させることが出来て、ガラスレンズ成形用の型として、極めて好適である。
【0011】
例えば、炭化タングステン等の微粉に有機系の結合剤を加えて、加圧成形をすると、幾ら強大な圧を加えて成形したところで、成形圧が加えられているときには、押圧されて、緻密化している微粉は、成形圧から解放された途端、微粉どうし反発しあって、最も緻密化された状態から幾分膨らんでしまうことから、必ず成形体中に気孔が形成され、これを減圧下で焼結させても、焼結体に気孔が残存してしまうが、本発明は、成形後の焼結にて得られた一次焼結体に更に熱を加えて、僅かながらも軟化をさせ、かかる状態下で再加圧することから、焼結前の微粉どうしの間で生じた反発力は再加圧時にはなく、一次焼結体は再加圧により素直に変形し、再加圧前の状態に戻ろうとする力は働かないため、一次焼結体の中に残存する極微小の気孔を圧潰でき、気孔中の気体を放出させ、二次焼結体(成形型)の緻密度を極めて高いものとすることが出来る。
従って、表面研磨により、成形型に鏡面加工を施しても、鏡面に気孔が出現せず、極めて緻密で平滑性の高い鏡面に仕上げることが出来る。
又、成形圧力を従前方法より低くしても良いため、製造設備に過大な負担がかからず、設備の維持管理に要する手間やコストの低減を図ることが出来る。
【0012】
焼結体理論密度と、一次焼結体密度の比を1:0.96以上として、一次焼結体中に残存する気孔の量を低く抑えたので、二次焼結時に残存気孔をより完全に近く圧潰でき、成形型の緻密度が更に高まり、鏡面加工性が更に良好となる。
【0013】
原料微粉を平均粒径0.2〜2.0μmの微粉としたので、被成形微粉の成形、並びに一次焼結および二次焼結による緻密化を促進させて、緻密度をより一層高くすることが出来る。
【0014】
焼結助剤を平均粒径0.2〜2.0μmの微粉としたので、原料微粉の粒径設定同様、緻密化を促進でき、更には、原料微粉と焼結助剤をより均一に混合でき、品質がより安定する等その実用的効果甚だ大である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の成形型について詳細に説明する。
本発明の成形型は、ガラスレンズ等の製造に用いる熱間加圧成形用のものであり、原料微粉を被成形微粉として、加圧成形した後、焼結させて形成したスリーブおよびコアを備えている。
原料微粉は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の非硬質金属から成る結合相を含まず、硬質炭化物のみ(不可避不純物を除く)で構成されている。
硬質炭化物としては、炭化チタン(TiC)、炭化バナジウム(VC)、炭化クロム(Cr32 )、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化モリブデン(Mo2 C)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化タンタル(TaC)、炭化タングステン(WC)、炭化珪素(SiC)が適切であり、これらの原料微粉の中から1種選択し、或いは、2種以上を選択して混合し、被成形微粉としている。
【0016】
スリーブおよびコアの配合は、各々個別に調製されて異なり、例えば、スリーブの配合を炭化珪素100重量%、コアを炭化タングステン100重量%とした場合、スリーブの熱膨張係数は4.4×10-6/℃、コアの熱膨張係数は4.7×10-6/℃となり、かかる組合わせにより、直径15mmのレンズ成形用の型を作製する場合、冷間時(約30℃)のクリアランスを3μmに設定すると、熱間時(約600℃)には、コアがより多く膨張して、クリアランスは0.3μmとなる。
【0017】
又、スリーブの配合を炭化タングステン95重量%、炭化チタン5重量%とし、コアを炭化タングステン50重量%、炭化チタン30重量%、炭化タンタル20重量%とすれば、スリーブの熱膨張係数は4.9×10-6/℃、コアの熱膨張係数は7.0×10-6/℃となり、かかる組合わせにより、直径2mmのレンズ成形用の型を作製する場合、冷間時(約30℃)のクリアランスを3μmに設定すると、熱間時(約600℃)には、クリアランスは0.48μmとなる。
【0018】
この様に、スリーブおよびコアの配合を相違させることにより、コアの熱膨張係数をスリーブの熱膨張係数より大きくすると共に、両熱膨張係数の値およびその差を所望の値に調製するのである。
【0019】
又、焼結をより促進させるために、スリーブとコアの両方又は一方の原料微粉に焼結助剤を配合して被成形微粉としても良い。
焼結助剤は、原料微粉として選択したものと同種元素の微粉(つまり、原料微粉を炭化タングステンとした場合は、炭化タングステンの微粉であり、また原料微粉を炭化ニオブとした場合は、炭化ニオブの微粉である。)に、炭化チタンの微粉と炭化タンタルの微粉の両方又は一方を混合し焼結させて固溶体と成し、これを粉砕し微粉化したものであり、かかる焼結助剤の配合比率の増減により、熱膨張係数を調製することが可能であり、熱膨張係数の調製可能範囲が更に広がる。
【0020】
尚、炭化チタンの微粉や炭化タンタルの微粉そのもの単体を焼結助剤として原料微粉に配合して被成形微粉としないのは、炭化物の微粉は、極微量の酸素を含有し、例えば、炭化タングステンの微粉に炭化チタンの微粉の単体と、炭化タンタルの微粉の単体を混合し、その混合微粉を焼結させると、焼結中に炭化チタンや炭化タンタルに含有の酸素が炭化物と反応し、COガスが発生して、焼結体(固溶体)中の気孔の原因となるが、固溶体形成時に幾ら気孔が発生したところで、後に粉砕し、微粉化するため支障がなく、一度焼結済みの焼結助剤が原料微粉と共に焼結されるときには、焼結助剤中に原料微粉と反応することができる状態の酸素は殆どなく、この様なことから、一次焼結体における気孔発生を抑制することができるためである。
【0021】
本発明の成形型は、種々の被成形素材に適用可能なものであるが、以下、特にガラスレンズ等の光学ガラス製品の成形用型として好適である本発明品について説明する。
【0022】
ガラスレンズ成形用の型は、被成形材料と接する面が平滑性の高い鏡面でなければならないため、表面研磨により、鏡面加工を施すが、良好な鏡面に仕上げるためには、緻密で気孔を包含しないことが必要であり、また500〜700℃にてガラス成形を行うため、高温下で、高硬度であること、耐酸化性に優れていること、更には、成形圧に耐えねばならないため、靱性に優れ抗折力が高いことが必要である。
【0023】
従って、先ず原料微粉としては、高温下での硬度が高く、またヤング率が高く靱性の高い焼結体を得られる炭化タングステンを選択し、また焼結助剤としては、炭化タングステンの微粉に、これを焼結し易くして緻密化を促進する炭化チタンの微粉と、耐酸化性を向上させる炭化タンタルの微粉を混合したものが良い。
【0024】
焼結助剤の組成としては、炭化チタンが20重量%未満の場合、焼結性の向上が認められず、40重量%超過の場合、靱性が低下し焼結体が脆くなり、また炭化タンタルが10重量%未満の場合、耐酸化性の向上が認められず、30重量%超過の場合、やはり靱性が低下し焼結体が脆くなるため、焼結助剤の組成は、炭化タングステン30〜70重量%、炭化チタン20〜40重量%、炭化タンタル10〜30重量%の範囲が良い。
【0025】
そして、原料微粉と焼結助剤の配合としては、段落[0024]に記載の焼結助剤が5重量%未満の場合、焼結性および耐酸化性の向上が弱く、光学ガラス製品成形用の型として不十分であり、50重量%超過の場合、熱膨張係数が過大となり、光学ガラス製品成形用の型として不適切であるため、炭化タングステン50〜95重量%、焼結助剤5〜50重量%の範囲が良い。
尚、段落[0024]に記載の焼結助剤の組成範囲、本段落に記載の原料微粉と焼結助剤の配合範囲は、種々の試験により確認された値である。
【0026】
ところで、被成形微粉の粒径は、成形性および焼結性に影響し、被成形微粉の平均粒径が0.2μm未満の場合、微小過ぎて、例え有機系の結合剤を被成形微粉に添加しても、加圧による締まり具合が悪く緻密化不足となり、焼結体に残存し包含される気孔が多くなってしまい、平均粒径2.0μm超過の場合、加圧による緻密化不足に加え、焼結性が低下し、焼結による緻密化までも不足し、やはり気孔が多くなるため、原料微粉および焼結助剤の粒径は、平均粒径0.2〜2.0μmの範囲が良い。
尚、上記粒径は、ASTM B−330に規定の粒径測定方法に基づき測定して得た値である。
【0027】
以上の通り、本発明は、原料微粉の選択、焼結助剤の添加および組成、これらの配合による被成形微粉の調製、被成形微粉の粒径設定により、焼結体が有する特性(硬度、鏡面加工性、靱性、熱膨張係数、耐熱性、耐酸化性)を適切に設定し、熱間加圧成形用の型として、種々の被成形素材および成形体のサイズに広く対応可能としたものであるが、次の方法により、成形型の緻密度、鏡面加工性が更に向上し、適用可能範囲を更に広げると共に、光学ガラス製品成形用の型としてより好適なものとすることが可能である。
【0028】
その方法とは、上記の被成形微粉を加圧成形した後、一次焼結させ、得られた一次焼結体を、更にホットプレスにより、加圧しつつ二次焼結させ、二次焼結体(スリーブとコアの両方又は一方)を得る様にしたものである。
【0029】
この方法によれば、一次焼結体は、被成形微粉を加圧成形し焼結したものであるため、極微小の気孔の包含を避けることは出来ないが、この一次焼結体に対し、ホットプレスにより、更に加圧すると共に加熱処理を施すことによって、一次焼結体に残存する極微小の気孔が圧潰される。
【0030】
一次焼結体は、この時点で既に緻密に形成されたものであり、一次成形時の圧力、並びに、一次焼結時の焼結温度を適宜設定することによって、焼結体理論密度(d0 )と、一次焼結体密度(d1 )の比を1:0.96以上に調製したものがより良い。
つまり、
炭化タングステンの比重が15.60(a)、
炭化チタンが4.93(b)、
炭化タンタルが14.49(c)であるとすると、
例えば、被成形微粉の組成が、
炭化タングステン95重量%(X)、
炭化チタン3重量%(Y)、
炭化タンタル2重量%(Z)である場合、
最も緻密な焼結を想定した焼結体理論密度(d0 )は、
0 =100/[(X/a)+(Y/b)+(Z/c)]
=100/[(95/15.6)+(3/4.93)+(2/14.49)] =14.63となり、
上記例示の組成(X,Y,Z)のものであれば、一次焼結体をその密度(d1 )が14.04以上となる緻密なものとするのがより良い。
【0031】
この様に、一次焼結体をより緻密に形成し、ホットプレスによる二次焼結時に圧潰せねばならない気孔の数量を少なく抑えることによって、より高密度の二次焼結体(成形型)が得られるのである。
【0032】
次に実施例を示し、二次焼結体に関し、更に詳細に説明する。
先ず、下記割合にて、炭化タングステンの微粉と炭化チタンの微粉と炭化タンタルの微粉を混合し、焼結させて、三成分系(WC−TiC−TaC)の固溶体を作製し、これを粉砕し、微粉化して、平均粒径約1.0μmの焼結助剤を得た。
〈焼結助剤〉
・炭化タングステン 50重量%
・炭化チタン 30重量%
・炭化タンタル 20重量%
【0033】
次に、下記割合にて、平均粒径約1.0μmの炭化タングステンの微粉に段落[0032]に記載の焼結助剤を配合し、これをアセトンと共に、ボールミルに投入し、湿式混合後、得られたスラリーを篩通し、乾燥後、結合剤としてパラフィンを約1.5重量%(out)添加し、再度篩通して、被成形微粉とした。
〈被成形微粉〉
・炭化タングステン 90重量%
・焼結助剤 10重量%
この被成形微粉の各炭化物の含有比率は、炭化タングステン95重量%、炭化チタン3重量%、炭化タンタル2重量%となり、この被成形微粉による焼結体の理論密度は、段落[0030]に記載の通りである。
【0034】
次に、段落[0033]に記載の被成形微粉をプレス成形し、減圧下で焼結させ、一次焼結体1を得た。
又、一次焼結体1を作製した時の条件に比べ、成形圧力、焼結温度を少し高く設定し、一次焼結体2を作製し、以後同様にして、緻密度の異なる一次焼結体1〜8を作製し、かかる一次焼結体1〜8について、窒素置換雰囲気、1727℃、15MPa、60分の条件でホットプレス処理を行い、二次焼結体1〜8を得た。
【0035】
そして、一次焼結体1〜8、二次焼結体1〜8について、密度比、抗折力の測定、気孔有無の観察により、評価した。
その結果を下記の表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1中、一次焼結体および二次焼結体の密度比は、各焼結体の密度を固体比重測定装置(株式会社島津製作所製)により、アルキメデス法で測定し、得られた各焼結体の見掛けの密度を焼結体理論密度で除して、算出した値である。
尚、二次焼結体7および8にあっては、密度比が1.0を超過しているが、この値は正常に測定され、得られた値である。
つまり、二次焼結体中の各炭化物は実際には相互に溶融して固溶体となっているが、固溶体化したときの各炭化物の実際の密度は想定不可であるため、段落[0030]記載の算出方法では、便宜的に焼結体理論密度を各炭化物の溶融前の単体での密度に基づき算出する様に規定しているからであり、本算出方法にあっては、極限まで緻密になった焼結体の場合は、焼結体理論密度と実際の焼結体密度の比が1.0を超過することも有り得るのである。
【0038】
抗折力(N/mm2 )は、二次焼結体1〜8から寸法が厚×幅×長=4×8×24mmの試験片1〜8を作製し、オートグラフ(株式会社島津製作所製AG−5000A)により、支持部スパン20mm、3点曲げ試験、クロスヘッドスピード5mm/分の条件(CIS026B 超硬工具協会規格)で測定して得た値である。
【0039】
気孔は、表面研磨後の二次焼結体の表面を光学顕微鏡(オリンパス株式会社製GX51)により、100倍、400倍で観察し、気孔が認められないものを優とし、僅かながらも気孔が認められるものを不可として表した。
尚、電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5500)でも表面観察を行ったが、光学顕微鏡の場合と同様の結果であった。
【0040】
表1に示す通り、焼結体理論密度と、一次焼結体密度の比を1:0.96以上としたものでは、二次焼結体の表面、その研磨後の表面に気孔がなく、抗折力にも優れていることが確認された。
【0041】
以上の通り、焼結体理論密度と、一次焼結体密度の比を1:0.96以上にすることによって、緻密で気孔のない焼結体が得られ、この二次焼結体は、表面研磨により、良好な鏡面に仕上げることが可能である。
従って、この方法により得られた成形型は、被成形素材と接する面が平滑性の高い鏡面でなければならない光学ガラス製品成形用の型に好適である。
尚、表1中、一次焼結体の密度比が、0.96未満のものは、光学ガラス製品成形用の型としては、不十分な場合もあり得るが、十分な抗折力を有し、用途次第により、使用に耐え得るものであった。
【0042】
次に、更に実施例を示し、スリーブおよびコアの熱膨張係数の調製に関し説明する。
上記二次焼結体6の作製条件と同様の条件にて、下記表2に示す配合で試験体1〜4を作製し、抗折力および熱膨張係数を測定した。
尚、抗折力は、段落[0038]に記載の方法にて測定し、熱膨張係数は、株式会社リガク製の熱機械分析装置TMA8310を用い、昇温速度10℃/分、不活性ガス(Ar)中、標準試料サファイアの条件にて測定して得た値である。
【0043】
【表2】

【0044】
この様に、焼結助剤の配合比率の増減により、熱膨張係数を調製することが可能であることから、例えば、スリーブを試験体2とし、コアを試験体3とすれば、スリーブの熱膨張係数は5.0×10-6/℃、コアの熱膨張係数は5.9×10-6/℃となり、かかる組合わせにより、直径3mmのレンズ成形用の型を作製する場合、冷間時(約30℃)のクリアランスを2μmに設定すると、熱間時(約600℃)には、クリアランスは0.38μmとなる。
【0045】
又、スリーブを試験体1とし、コアを試験体2とすれば、スリーブの熱膨張係数は4.9×10-6/℃、コアの熱膨張係数は5.0×10-6/℃となり、かかる組合わせにより、直径30mmのレンズ成形用の型を作製する場合、冷間時のクリアランスを2μmに設定すると、熱間時には、クリアランスは0.2μmとなる。
【0046】
以上の通り、本発明の成形型は、原料微粉と焼結助剤の配合によっても、熱膨張係数の調製が可能であり、成形体が如何なるサイズであっても、冷間時のクリアランスを適切に設定して、作業性を良好に維持したまま、熱間時にスリーブとコア密着させることが可能であり、光学ガラス製品成形用の型として特に好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料微粉を被成形微粉として、加圧成形した後、焼結させて形成したスリーブおよびコアを備えた熱間加圧成形用の型であり、スリーブおよびコアは、原料微粉として、炭化チタンの微粉、炭化バナジウムの微粉、炭化クロムの微粉、炭化ジルコニウムの微粉、炭化ニオブの微粉、炭化モリブデンの微粉、炭化ハフニウムの微粉、炭化タンタルの微粉、炭化タングステンの微粉および炭化珪素の微粉の中から1種選択し、或いは、2種以上を選択して混合し、スリーブおよびコアの被成形微粉の配合を各々個別に調製することにより、コアの熱膨張係数をスリーブの熱膨張係数より大きくすると共に、両熱膨張係数の値およびその差を所望の値に調製する様にしたことを特徴とする成形型。
【請求項2】
スリーブとコアの両方又は一方は、選択した原料微粉と同種元素の微粉に、炭化チタンの微粉と炭化タンタルの微粉の両方又は一方を混合し焼結させて固溶体と成し、これを粉砕し、得られた微粉を焼結助剤として原料微粉に配合して被成形微粉としたものであり、焼結助剤の配合比率の増減により、熱膨張係数を調製する様にしたことを特徴とする請求項1記載の成形型。
【請求項3】
原料微粉を炭化タングステンとし、焼結助剤の組成を炭化タングステン30〜70重量%、炭化チタン20〜40重量%、炭化タンタル10〜30重量%としたことを特徴とする請求項2記載の成形型。
【請求項4】
被成形微粉は、原料微粉を50〜95重量%とし、焼結助剤を5〜50重量%としたことを特徴とする請求項3記載の成形型。
【請求項5】
スリーブとコアの両方又は一方は、加圧成形後の焼結を一次焼結とし、得られた一次焼結体を、更にホットプレスにより、加圧しつつ二次焼結させて形成したことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の成形型。
【請求項6】
焼結体中の各炭化物の比重と各炭化物の含有比率とから算出される焼結体理論密度と、一次焼結体密度の比を1:0.96以上に調製したことを特徴とする請求項5記載の成形型。
【請求項7】
原料微粉を平均粒径0.2〜2.0μmの微粉としたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の成形型。
【請求項8】
焼結助剤を平均粒径0.2〜2.0μmの微粉としたことを特徴とする請求項2、3、4、5、6又は7記載の成形型。

【公開番号】特開2010−235364(P2010−235364A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83896(P2009−83896)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(302001240)日本特殊合金株式会社 (5)
【Fターム(参考)】