説明

成形型

【課題】 電気接触部の筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることができる成形型を提供する。
【解決手段】 アウターハウジング16の内面とインナーハウジング15の外面との間に挿入される筒部21、及び筒部21の内側に形成され、端子収容部15aの相手方端子が挿入される開口を覆う壁部2aを有する第1型2と、アウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に形成された防水被覆を形成するための空間5を有する第2型3とを備え、第1型2の壁部2aは、開口に対向する位置に電気接触部13aの筒心に挿入される位置決め用の突起4が形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタのアウターハウジング内の電線及びアウターハウジングの一端から露出されている多芯ケーブルの外周に樹脂の防水被覆を成形する成形型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等には多くのコネクタが使用されており、このコネクタの1つとして、車載用CCDカメラユニット等の車載用電子機器や電気機器等の機器への電源や制御ケーブルの接続等に用いられる防水コネクタが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このコネクタは、インナーハウジングとアウターハウジングとの間、アウターハウジング内の電線及びアウターハウジングの一端から露出されている前記多芯ケーブルの外周に樹脂の防水被覆が成形されている。
【0003】
前記文献のコネクタの製造手順は、まず、多芯ケーブルの各電線の導体に端子を加締めて接続し、各端子の筒状の電気接触部をインナーハウジングの複数の端子収容部の所定の端子収容部にそれぞれ挿入し、インナーハウジングの外側にアウターハウジングを装着した後、防水被覆を成形する型にセットし、例えばホットメルト樹脂を注入して防水被覆を成形するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−327570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、成形型内に形成されたキャビティにホットメルト樹脂を注入するとき、アウターハウジング内の電線及びアウターハウジングの一端から露出する多芯ケーブルの周囲に樹脂が注入されるが、電気接触部が端子収容部内にずれて収容されていたり、外力により電線を介して筒状の電気接触部の筒心の向きや位置がずれたりすることがある。このような場合、電気接触部の筒心の向きや位置がずれたままコネクタが形成されてしまうと、電気接触部の筒心の向きや位置のばらつきが生ずる。その結果、コネクタを相手方コネクタに接続する際、コネクタの挿入力やコネクタから離脱させる際の離脱力が大きくなるという問題がある。特に、複数の電気接触部の位置がずれると、それだけ、挿入力及び離脱力が必要になるからコネクタの脱着操作がやりずらくなる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電気接触部の筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、多芯ケーブルの各電線がそれぞれ接続された複数の端子の筒状の電気接触部が収容された複数の端子収容部を有するインナーハウジングの外周に装着されたアウターハウジング内の前記電線及び前記アウターハウジングの一端から露出されている前記多芯ケーブルの外周に樹脂の防水被覆を成形する型であって、この型は、前記アウターハウジングの内面と前記インナーハウジングの外面との間に挿入される筒部、及びこの筒部の内側に形成され、前記端子収容部の相手方端子が挿入される開口を覆う壁部を有する第1型と、前記アウターハウジング内の前記電線及び前記アウターハウジングの一端から露出されている前記多芯ケーブルの外周に形成された空間を有する第2型とを備え、前記第1型の前記壁部は、前記開口に対向する位置に前記電気接触部の筒心に挿入される位置決め用の突起が形成されてなることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、第1型の壁部には、開口に対向する位置に電気接触部の筒心に挿入される位置決め用の突起が形成されていることから、第1型をインナーハウジングに装着したときに、突起が端子収容部内の電気接触部の筒心に挿入されて電気接触部の位置決めが行われる。その結果、電気接触部がずれて収容されたのを修正でき、しかも、外力がかかってもずれないから、電気接触部の筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることができる。
【0009】
また、前記インナーハウジングには、前記樹脂の前記端子収容部側への流入を防止する流入防止部が設けられることが好ましい。これによれば、防水被覆を成形する際に樹脂が端子収容部へ流入することが防止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気接触部の筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本実施形態の成形型を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1は本発明に係る一実施形態の成形型の断面図を示す。なお、図1では第1型を断面図で、半割の第2型の一方を取り外した状態で示している。また、防水被覆を形成する対象のコネクタを装着した状態を示している。図2は本発明に係る一実施形態の第1型の図で、(a)は斜視図、(b)は断面図を示す。図3は本発明に係る一実施形態の第2型の斜視図を示す。図4は本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタの斜視図を示す。図5は本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられる端子の斜視図を示す。図6は本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられるインナーハウジングの斜視図を示す。図7は本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられるアウターハウジングの斜視図を示す。
【0013】
本実施形態の成形型は、図1に示すように、多芯ケーブル11の各電線12がそれぞれ接続された複数の端子13の筒状の電気接触部13aが収容されている複数の端子収容部15aを有するインナーハウジング15の外周に装着されたアウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に樹脂の防水被覆17(図9参照。)を成形するものである。成形型1を用いて成形された防水被覆17を有するコネクタの一例が図4に示す防水コネクタ10である。
【0014】
防水コネクタ10は、図4に示すように、多芯ケーブル11の一端に設けられているもので、多芯ケーブル11の各電線12にそれぞれ電気的に接続される図5に示す端子13と、これら端子13を収容するインナーハウジング15と、インナーハウジング15の外周に装着されるアウターハウジング16と、防水被覆17とからなる。
【0015】
多芯ケーブル11は、複数本(例えば4本)の絶縁被覆付導体である電線12の周囲を絶縁性の外部被覆で覆って1本のケーブルにしたものである。多芯ケーブル11としては、複数の電線12又は導体を有するものであれば、その形状は特に限定されない。多芯ケーブル11の各電線12の導体にそれぞれ端子13が接続されている。端子13は、図5に示すように、電線12の導体を加締めて電気的に接続する断面略U字状の接続部13bと、接続部13bに連接され、相手方端子のピン状の電気接触部(図示せず)等が挿入されて電気的に接続される筒状の電気接触部13aと、電気接触部13aの接続部側の外周に平板状に突出されているランス部13cとを備えている。電気接触部13aの形状は、相手方端子のピン状の電気接触部等が挿入されて電気的に接続されるならば特に限定されず、例えば、円筒状に形成されている。電気接触部13aは、略中央部から先端部にかけて漸次縮径されていると共に、縮径面が略半円状に2つに分割されて、分割された2つの分割片が板ばねとして作用し、相手方端子の電気接触部等と付勢力によって確実に電気的に接続されるように形成されている。端子13の電気接触部13aがインナーハウジング15の複数の端子収容部15aの所定の箇所に収容されている。
【0016】
インナーハウジング15は、例えば、絶縁性樹脂により射出成形により成形される。インナーハウジング15は、図4及び図6に示すように、略円柱状に形成されている。インナーハウジング15には、図4及び図6に示すように、軸方向に延びる円形の端子収容部15aが例えば間隔をあけて直線状に3つ設けられ、3つの端子収容部15aが2列設けられている。すなわち、端子収容部15aは合計6つ設けられている。これら端子収容部15aの一端側は、全て開口されて、相手方端子のピン状の電気接触部等が挿入される開口部15bとして形成されている。端子収容部15aの他端側は、端子が挿入される端子収容部15aのみが開口されて挿入開口部(図示せず)として形成されている。図示例の防水コネクタ10は、6つの端子収容部15aのうち4つに電気接触部13aが収容され、残りの2つの端子収容部15aには電気接触部13aが収容されないタイプのものである。挿入開口部から端子の電気接触部13aが端子収容部15aに挿入されて電気接触部13aが端子収容部15aに収容される。また、挿入開口部の外周の所定の箇所には、端子収容部15aに挿入した端子13のランス部13cが嵌合して端子(電気接触部13a)の回り止め及び後述する開閉部材15h、15iによって電気接触部13aの軸方向の移動を防止する図8に示す係合部15nが設けられている。
【0017】
また、インナーハウジング15の他端の外周には、フランジ部15cが設けられている。フランジ部15cの外周には、径方向外方に突出する突部15dと径方向内方に窪んだ凹部15eが設けられている。また、インナーハウジング15の他端面には、防水被覆17を成形する際に樹脂の端子収容部15a側への流入を防止する流入防止部材15fが設けられている。
【0018】
流入防止部材15fは、インナーハウジング15の他端面であって2列の端子収容部15aの間の位置から軸方向に延びる固定壁部15gと、固定壁部15gに薄肉ヒンジ(図示せず)を介して連結され、固定壁部15gの両面を開閉可能にする一対の開閉部材15h、15iとを備えている。開閉部材15h、15iの薄肉ヒンジと反対側の端部には、開閉部材15h、15iを閉じたときに、固定壁部15gと係合して閉じた状態を保持する係止部15jが設けられている。開閉部材15h、15iを閉じることで、成形型1を用いて防水被覆を成形する際の樹脂の端子収容部15a側への流入が防止されるようになっている。また、固定壁部15gと開閉部材15h、15iとのそれぞれの対向面であって端子収容部15aと対応する箇所には、それぞれ半円状の収容溝15kが形成されている。収容溝15kは、端子13の接続部13b及び接続部13bから延びる電線12の一部を収容するものである。収容溝15kの径は、端子13の接続部13b及び電線12を押さえたりし得る寸法で形成されている。また、開閉部材15h、15iの外周には、軸方向に延びる係合溝15mが設けられている。インナーハウジング15の外周にアウターハウジング16が装着されている。
【0019】
アウターハウジング16は、図4及び図7に示すように、例えば、絶縁性樹脂により射出成形により略円筒状に形成されている。アウターハウジング16の外周には、防水コネクタ10を相手方コネクタ等に接続したときに相手方コネクタとの接続が簡単に外れないようにする弾性を有する係合部16aが設けられている。アウターハウジング16の一方の端部である後端部の開口部16bは、縮径されて、他方の端部である先端部の開口部16cより直径が小さく形成されている。また、アウターハウジング16の内の中央部より先端部側から後端部近傍までの内周面には、縮径された縮径面16dが設けられている。縮径面16dには、軸方向に延びる凹部16eが設けられている。
【0020】
また、アウターハウジング16内の後端部近傍には、図1に示すように、軸方向に延びる係合突部16fが設けられている。係合突部16fは、インナーハウジング15の開閉部材15h、15iの外周に設けられた係合溝15mに係合するものである。これにより、アウターハウジング16に対するインナーハウジング15の周方向の位置決めが行われると共に、インナーハウジング15の周方向の回転が防止されるようになっている。アウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に本実施形態の成形型1を用いて樹脂の防水被覆17が成形される。
【0021】
本実施形態の成形型1は、アウターハウジング16の内面とインナーハウジング15の外面との間に挿入される筒部、及び筒部の内側に形成され、端子収容部15aの相手方端子が挿入される開口を覆う壁部2aを有する第1型2と、アウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に形成された空間を有する第2型3とを備えている。
【0022】
第1型2は、図1及び図2に示すように、略中央部が閉塞された筒状に形成されている。第1型2の閉塞された壁部2aから一方の端部側の筒部がハウジング嵌合部21として形成されている。第1型2の他方の端部側の外周は、略正方形の隣接する2つの角部を切り欠いた6角形状の非円形部2bとして形成されている。ハウジング嵌合部21は、略円筒状で、内面がインナーハウジング嵌合部22に、外面がアウターハウジング嵌合部23として形成されている。
【0023】
インナーハウジング嵌合部22は、略中央部から先端部側が直径が大きな第1内面22aと略中央部から非円形部2b側が直径が小さな第2内面22bとの2段に形成されている。第1内面22aの直径は、インナーハウジング15のフランジ部15cの外周に嵌合し得る寸法で、例えば、インナーハウジング15のフランジ部15cの外周の直径より若干大きな寸法で形成されている。また、第1内面22aには、フランジ部15cの突部15dと係合する係合溝22cがその軸方向に延びて設けられていると共に、凹部15eと係合する係合突部22dが設けられている。第2内面22bの直径は、インナーハウジング15の外周に嵌合し得る寸法で、例えば、インナーハウジング15の外周の直径より若干大きな寸法で形成されている。第2内面22bの軸方向の長さは、インナーハウジング15のフランジ部15cまでの軸方向の長さより長い寸法で形成されている。
【0024】
これにより、インナーハウジング15は、インナーハウジング嵌合部22の第1内面22aを介して第2内面22b内に挿入されると共に、インナーハウジング15のフランジ部15cが第1内面22a内に突部15dが係合溝22cに係合されつつ挿入されて、インナーハウジング15のフランジ部15cがインナーハウジング嵌合部22の第1内面22aと第2内面22bとの間の壁部に当接した状態でインナーハウジング15がインナーハウジング嵌合部22の第2内面22b内に嵌合されるようになっている。すなわち、ハウジング嵌合部21の内面とインナーハウジング15の外面とが嵌合されるようになっている。このとき、インナーハウジング15の端子収容部15aの6つの開口部15bが壁部2aによって覆われる。
【0025】
これら6つの開口部15bに対向する壁部2aの6つの位置には、第1型2をインナーハウジング15に嵌合して装着したときに、開口部15bを介して端子収容部15a内に挿入される突起4がそれぞれ設けられている。突起4は、端子収容部15a内に挿入されている端子の電気接触部13aの筒心に挿入されて、電気接触部13aの位置決めを行うものである。突起4は、電気接触部13aの位置決めを行えるならばその形状は特に限定されず、例えば、先端部が漸次縮径されて尖った断面円形の棒状に形成されている。また、突起4は、電気接触部13aが収容されている端子収容部15aの開口部15bにのみ対応する箇所に設けてもよいが、コネクタによって電気接触部13aが収容されている端子収容部15aの位置や個数が変わることがあるので、端子収容部15aに対応する壁部2aの6箇所全てに設けることが好ましい。
【0026】
アウターハウジング嵌合部23は、略中央部から先端部側が直径が小さな第1外面23aと略中央部から壁部2a側が直径が大きな第2外面23bとの2段に形成されている。第1外面23aの直径は、アウターハウジング16の縮径面16dに嵌合し得る寸法で、例えば、アウターハウジング16の縮径面16dの内径より若干小さな寸法で形成されている。第1外面23aの軸方向の長さは、ハウジング嵌合部21の先端部がアウターハウジング16の後端部の開口部を形成する壁部16gの内面に当接するときに第1外面23aと第2外面23bとの間の壁部がアウターハウジング16内の縮径面16dの端部に当接する寸法で形成されている。第2外面23bの直径は、アウターハウジング16の内面に嵌合し得る寸法で、例えば、アウターハウジング16の内面の直径より若干小さな寸法で形成されている。これにより、ハウジング嵌合部21をアウターハウジング16内に挿入して、ハウジング嵌合部21の先端部がアウターハウジング16の後端部の開口部を形成する壁部16gの内面に当接すると共にアウターハウジング嵌合部23の第1外面23aと第2外面23bとの間の壁部がアウターハウジング16内の縮径面16dの端部に当接した状態で、第1外面23aがアウターハウジング16の縮径面16d内に嵌合されると共に、第2外面23bがアウターハウジング16内に嵌合されるようになっている。すなわち、ハウジング嵌合部21の外面とアウターハウジング16の内面とが嵌合されるようになっている。また、インナーハウジング15がハウジング嵌合部21内のインナーハウジング嵌合部22に嵌合された状態で、ハウジング嵌合部21をアウターハウジング16内に嵌合することにより、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間にはハウジング嵌合部21が挿入されたように位置され、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間隔が一定の状態に保持される。
【0027】
第2型3は、アウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に形成された空間であるキャビティ5を有するものであり、キャビティ5に注入された樹脂によって防水被覆17が成形される。樹脂としては、キャビティ5に注入されて成形処理されて防水被覆17を成形するものであれば特に限定されず、ゴム系、オレフィン系、EVA系、アクリル系等の熱可塑性樹脂等が用いられるが、これに限定されるものではない。防水被覆17の成形方法としては、液状の樹脂をキャビティ5内に注入して成形処理して防水被覆17を成形するいわゆるホットメルト成形等が用いられるが、他の方法を用いてもよい。キャビティ5は、アウターハウジング16内の電線12及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に形成されるが、この部分を含むのであれば特に限定されず、例えば、アウターハウジング16内の電線12を含むアウターハウジング16とインナーハウジング15の間とアウターハウジング16内、及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周にキャビティ5を形成するようにしてもよい。
【0028】
第2型3は、第1型2の外周、この第1型2が嵌合されたアウターハウジング16の外周及び多芯ケーブル11の一部の外周を覆うもので、半割にした一対の第2A型31、第2B型32からなる。第2A型31及び第2B型32の互いに対向する型面には、第1型2の外周、アウターハウジング16の外周及び多芯ケーブル11の外周に密接すると共に、キャビティ5をそれぞれ半分ずつ形成する型凹部31a、32aが形成されている。また、第2A型31及び第2B型32には、キャビティ5内に樹脂を注入する注入孔33を形成する注入孔形成凹部31b、32bが設けられている。
【0029】
次に、本実施形態の成形型1を用いて防水被覆17を成形する場合、すなわち防水コネクタ10を製造する場合について説明する。
【0030】
まず、多芯ケーブル11の端部から4本の電線12をそれぞれ露出させ、これら電線の導体を露出する。露出させた導体を端子13の接続部13bで加締めて各4本の導体に4つの端子13を電気的に接続させる。4つの端子13の電気接触部13aをインナーハウジング15の他端の挿入開口部から端子収容部15aのうちの任意の4つの端子収容部15aにそれぞれ挿入して収容させる。このとき、インナーハウジング15の流入防止部材15fの一対の開閉部材15h、15iは開いた状態である。電気接触部13aを収容した後、一対の開閉部材15h、15iを閉じて流入防止部材15f内に端子13の接続部13b及び接続部13bから延びる電線12の一部を一対の開閉部材15h、15iで押さえる。このように一対の開閉部材15h、15iを閉じることにより、端子13のランス部13cがインナーハウジング15の係合部15nに係合して各端子13の周方向の回り及び軸方向の移動が防止される。なお、インナーハウジング15に端子13等を固定する際には、端子13の電気接触部13aを端子収容部15aに挿入させる前に多芯ケーブル11の外周上にアウターハウジング16を位置させておく。すなわち、多芯ケーブル11の端部をアウターハウジング16の後端部の開口よりアウターハウジング16内に挿通させて貫通させ多芯ケーブル11の外側にアウターハウジング16を位置させておく。
【0031】
次に、インナーハウジング15をこの一端側から第1型2のインナーハウジング嵌合部22の第1内面22aを介して第2内面22b内に挿入して、第1型2の装着を行う。このとき、フランジ部15cの突部15dと係合溝22cとが係合すると共に凹部15eと係合突部22dとが係合した状態でフランジ部15cが第1内面22a内を摺動する。この挿入は、インナーハウジング15のフランジ部15cがインナーハウジング嵌合部22の第1内面22aと第2内面22bとの間の壁部に当接するまで行われる。これにより、インナーハウジング15が図8に示すように第1型2のインナーハウジング嵌合部22(第2内面22b)内にインナーハウジング嵌合部22内をその周方向に回転することなく嵌合されて、第1型2がインナーハウジング15に装着される。このとき、多芯ケーブル11の端部から露出された電線12の一部は、図8(a)及び(d)に示すように、露出された状態となり、電線12の外周に後述するように防水被覆17の成形処理が行われて(図9参照。)、電線12が多芯ケーブル11と共に防水被覆17によって固定される。
【0032】
また、第1型2にインナーハウジング15を装着したとき、インナーハウジング15の端子収容部15aの6つの開口部15bを覆うように位置される壁部2aに設けられた6つの突起4が各端子収容部15a内に開口部15bを介して挿入される。突起4は、端子収容部15a内に挿入されている4つの全ての電気接触部13aの筒心に挿入されて、各電気接触部13aがそれぞれ位置決めされる。従って、第1型2にインナーハウジング15を装着した状態では、全ての電気接触部13aの位置決めが常に行われていることになり、この状態のまま後述するように防水被覆17の成形処理が行われる。
【0033】
第1型2を装着した後、ケーブル11の外周に位置させておいたアウターハウジング16をインナーハウジング15方向に移動させて、アウターハウジング16をインナーハウジング15の外周に装着する。この装着は、アウターハウジング16の先端部の開口部16b内にインナーハウジング15の後端部が挿入されるように行う。このとき、アウターハウジング16内にインナーハウジング15に装着されている第1型2のハウジング嵌合部21を挿入する。この挿入は、ハウジング嵌合部21の第1外面23aをアウターハウジング16の縮径面16d内に挿入して嵌合させつつ第1外面23aを縮径面16d内で摺動させ、この途中から第2外面23bをアウターハウジング16内に挿入して嵌合させつつ第2外面23bをアウターハウジング16内で摺動させて行い、ハウジング嵌合部21の先端部がアウターハウジング16内の壁部16gに当接すると共にアウターハウジング嵌合部23の第1外面23aと第2外面23bとの間の壁部がアウターハウジング16内の縮径面16dの端部に当接するまで行われる。これにより、インナーハウジング15の外周にアウターハウジング16が装着され、かつ、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間に第1型2が挿入されたような状態で位置されるので、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間隔が一定の状態に保持される。また、アウターハウジング16内にインナーハウジング15を装着するときに、アウターハウジング16内の係合突部16fをインナーハウジング15の閉じた開閉部材15h、15i(流入防止部材15f)の外周の係合溝15mに係合させる。このため、アウターハウジング16に対するインナーハウジング15の周方向の位置決めが行われると共に、インナーハウジング15の周方向の回転が防止される。
【0034】
アウターハウジング16を装着した後、アウターハウジング16の外周、第1型2の外周及び多芯ケーブル11の外周に一対の第2A型31、第2B型32をセットする。これにより、アウターハウジング16内の電線12を含むアウターハウジング16とインナーハウジング15の間とアウターハウジング16内、及びアウターハウジング16の一端から露出されている多芯ケーブル11の外周に図1に示すようにキャビティ5が形成される。キャビティ5に注入孔33を介して例えば熱可塑性樹脂を注入する。このとき、熱可塑性樹脂は、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間や多芯ケーブル11の端部から露出して流入防止部材15fによって押させられなかった電線の外周を含むアウターハウジング16の後端部内を閉塞すると共に、多芯ケーブル11の外周を覆うように注入される。すなわち、熱可塑性樹脂は、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間の空間とアウターハウジング16の後端部内の空間を埋めると共に、多芯ケーブル11の外周を覆うように注入される。また、キャビティ5に樹脂を注入したときに、インナーハウジング15の流入防止部材15fが樹脂の端子収容部15a側への流入を防止するために、樹脂が端子収容部15a内に流入することがない。
【0035】
そして、熱可塑性樹脂を成形処理することにより、図9に示すように防水被覆17が成形される。すなわち、防水被覆17は、アウターハウジング16の後端部内を閉塞すると共に多芯ケーブル11の外周を覆うように成形されて、後端部側からアウターハウジング16内への水の浸入が防止される。また、防水被覆17によって、アウターハウジング16内で露出されていた電線及び多芯ケーブル11が覆いかくされた状態で固定される。そして、一対の第2A型31、第2B型32及び第1型2を取り外すことにより、防水コネクタ10が得られる。
【0036】
このように、第1型2の壁部2aに複数の突起4を設けたことで、第1型2をインナーハウジング15に装着したときに、各突起4が端子収容部15a内の4つの全ての筒状の電気接触部13aの筒心に挿入されて電気接触部13aの位置決めが行われる。この状態のまま、第2型3内に樹脂が注入されて防水被覆17が成形されてアウターハウジング16内の電線及び多芯ケーブル11が防水被覆17によって固定されるので、電気接触部13aがずれて収容されたのを修正でき、しかも、防水被覆17を成形する際に外力がかかっても電気接触部13aがずれないから、4つの電気接触部13aの筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることができる。従って、防水コネクタ10を相手方のコネクタ等に接続する際に、電気接触部13aの筒心の向きや位置のばらつきが少ないので、コネクタの脱着操作を容易に行える。特に、複数の端子収容部15a内に電気接触部13aが収容されている場合には、全ての電気接触部13aの筒心の向きや位置のばらつきを少なくすることができるので、複数の電気接触部13aを備えたコネクタ10を製造するのに本実施形態の成形型1は特に有用なものとなる。
【0037】
また、防水被覆17が成形される際には、アウターハウジング16の内面とインナーハウジング15の外面との間に第1型2が挿入されたように位置されているために、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間隔が一定の状態に保持されるので、アウターハウジング16とインナーハウジング15との間隔のばらつきを少なくすることができる。このため、コネクタの脱着操作を一層容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る一実施形態の成形型の断面図を示す。
【図2】本発明に係る一実施形態の第1型の図で、(a)は斜視図、(b)は断面図を示す。
【図3】本発明に係る一実施形態の第2型の斜視図を示す
【図4】本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタの斜視図を示す。
【図5】本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられる端子の斜視図を示す。
【図6】本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられるインナーハウジングの斜視図を示す。
【図7】本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタに用いられるアウターハウジングの斜視図を示す。
【図8】本発明に係る一実施形態の成形型を用いて防水被覆を有するコネクタを形成する際にインナーハウジングに第1型を装着した状態を示す図で、(a)は断面図、(b)は(a)図中のA−A線矢視図、(c)は(a)図中のB部分の拡大図、(d)は断面図、(e)は(d)図中のC部分の拡大図を示す。
【図9】本発明に係る一実施形態の成形型の断面図を示す。
【符号の説明】
【0039】
1 成形型
2 第1型
2a 壁部
3 第2型
4 突起
5 キャビティ(空間)
10 防水コネクタ
11 多芯ケーブル
12 電線
13 端子
13a 電気接触部
15 インナーハウジング
15a 端子収容部
15f 流入防止部材
16 アウターハウジング
17 防水被覆
21 ハウジング嵌合部(筒部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多芯ケーブルの各電線がそれぞれ接続された複数の端子の筒状の電気接触部が収容された複数の端子収容部を有するインナーハウジングの外周に装着されたアウターハウジング内の前記電線及び前記アウターハウジングの一端から露出されている前記多芯ケーブルの外周に樹脂の防水被覆を成形する型であって、
この型は、前記アウターハウジングの内面と前記インナーハウジングの外面との間に挿入される筒部、及びこの筒部の内側に形成され、前記端子収容部の相手方端子が挿入される開口を覆う壁部を有する第1型と、前記アウターハウジング内の前記電線及び前記アウターハウジングの一端から露出されている前記多芯ケーブルの外周に形成された空間を有する第2型とを備え、
前記第1型の前記壁部は、前記開口に対向する位置に前記電気接触部の筒心に挿入される位置決め用の突起が形成されてなることを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記インナーハウジングには、前記樹脂の前記端子収容部側への流入を防止する流入防止部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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