説明

成形用ドープ

【課題】耐熱性及び力学的性質の優れたポリアミド成形体、特に繊維、フィルム、パルプ状粒子を製造する際に有用な成形用原液となり得る成形用ドープを提供する。
【解決手段】下記式(I)
【化1】


及び下記式(II)
【化2】


で表される繰り返し単位から主としてなり、上記式(I)および(II)の繰り返し単位の共重合モル比率(II)/(I)が
1≦(II)/(I)≦100
の範囲にあるポリマー及び溶媒を含み、ポリマーの濃度が5重量%以上である成形用ドープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び力学的性質の優れたポリアミド成形体、特に繊維、フィルム、パルプ状粒子を製造する際に有用な成形用原液となり得て、好ましくは光学異方性を示す新規な成形用ドープに関する。
【背景技術】
【0002】
Twaron、Kevlerに代表されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、Zylonに代表されるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)は耐熱性、機械的特性の優れた繊維、その他の成形品の原料として有用であることが知られている。
【0003】
公知の成型方法としてPPTAの場合は有機溶媒中で重合して得たポリマーを抽出後、硫酸中に高濃度にポリマーを溶解させることで光学異方性を有するドープを調整し、これを用いることが知られている(例えば特許文献1参照)。同様にPBOではポリリン酸中でポリマーを重合することで光学異方性を有するドープを与え、これを成型に使用することが知られている(特許文献2参照)。
更に成型するだけで、分子配向性を有する高弾性率の耐熱性成型物となるようなドープが必要とされるようになった。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−137509号公報
【特許文献2】特開平5−112639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性及び力学的性質の優れたポリアミド成形体、特に繊維、フィルム、パルプ状粒子を製造する際に有用な成形用原液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(I)及び(II)であらわす繰り返し単位ならなるポリアミドと適当な溶媒系との組み合わせにおいて上記の目的を達するに有用な成形用原液を得ることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は
1.下記式(I)
【化1】

及び下記式(II)
【化2】

で表される繰り返し単位から主としてなり、上記式(I)および(II)の繰り返し単位の共重合モル比率(II)/(I)が
0.1≦(II)/(I)≦100
の範囲にあるポリマー及び溶媒を含み、ポリマーの濃度が5重量%以上である成形用ドープ。
2.光学異方性を示すことを特徴とする上記に記載の成形用ドープ。
3.前記ポリマーが少なくとも1.0の固有粘度を有していることを特徴とする上記に記載の成型用ドープ。
4.溶媒が硫酸またはメタンスルホン酸であることを特徴とする上記に記載の成形用ドープ。
5.ポリマー濃度が10重量%以上であることを特徴とする上記に記載の成形用ドープ、により構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドープは、成形するだけで、分子配向性を有する高弾性率の耐熱性成形物となる。特に本発明のドープから紡糸した繊維は耐熱性繊維として、高強度・弾性繊維としてロープ、ベルト、絶縁布、熱硬化性又は熱可塑性樹脂の補強材、更には防護衣料等の分野に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
(ポリマー)
本発明の成形用ドープは構成単位が下記式(I)及び式(II)
【化3】

【化4】

で表される繰り返し単位から主としてなるポリマー、及び溶媒を含み、ポリマーの濃度が5重量%以上である。
【0010】
本発明の成形用ドープは光学異方性を示すことが好ましい。ここで光学異方性とは、例えば2枚のガラス板間でドープを挟み、顕微鏡によりクロスニコル下で光学異方性が観察される状態である。
【0011】
ドープにおけるポリマーの濃度は5重量%以上である。これより低濃度であるとドープに光学異方性が発現しないばかりか、極端に成形性が悪くなるため優れた物性を有する成形物を得ることができない。ドープにおけるポリマーの濃度は好ましくは7重量%以上であり、より好ましくは10〜30重量%である。
【0012】
本発明の成形用ドープの共重合モル比率(II)/(I)は0.1≦(II)/(I)≦100の範囲である。好ましいは共重合モル比率(II)/(I)は0.15〜95であり、より好ましくは0.2〜80である。
ポリマーは少なくとも1.0の固有粘度を有していることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。
【0013】
(製造方法)
本発明の成形用ドープを構成するポリマーは、下記式(A)および(B)
【化5】

【化6】

(式中XはOH、ハロゲン原子またはORで表される基であり、Rは炭素数6〜20の1価の芳香族基を表す。)
で表されるジカルボン酸化合物と下記式(C)
【化7】

で表される芳香族ジアミン、およびその塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩とから得られる。
【0014】
ジカルボン酸化合物としてはX=Clのテレフタル酸クロリド及び1,4−フェニレンジアクリル酸ジクロリドまたはX=OHのテレフタル酸及び1,4−フェニレンジアクリル酸の組み合わせが好ましく挙げられる。得られるポリマーの性質を改良する目的で他のジカルボン酸類を共重合することもできる。具体的にはイソフタル酸クロリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロリド、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0015】
芳香族ジアミンとして、得られるポリマーの性質を改良する目的で上記式(C)で表される芳香族ジアミンの他にm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミンを共重合することもできる。
【0016】
重合に使用する溶媒としては特に限定はされないが、上記のような原料モノマーを溶解し、かつそれらと実質的に非反応性であり、好ましくは固有粘度が少なくとも1.0以上、より好ましくは1.2以上のポリマーを得ることが可能なものであれば如何なる溶媒も使用できる。例えばN,N,N’,N’−テトラメチル尿素(TMU)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド(DEAc)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(DMPr)、N,N−ジメチルブチルアミド(NMBA)、N,N−ジメチルイソブチルアミド(NMIb)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン(NCP)、N−エチル−2−ピロリジノン(NEP)、N−メチルカプロラクタム(NMC)、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン(NARP)、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2(NMPD)、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン等のアミド系溶媒、p−クロロフェノール、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾ−ル、2,4−ジクロロフェノール等のフェノール系溶媒もしくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0017】
これらの中でも好ましい溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)である。
この場合、原料及び/または重合ポリマー成分の溶解性を向上するために重合前、途中あるいは終了時に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム等が挙げられる。
【0018】
ポリマーの製造は、前記モノマー(A)、(B)及び(C)を溶媒中で通常のポリアミドの溶液重合法と同様に行ない反応せしめることで達成される。例えばカルボン酸成分としてハロゲン化物(X=Cl,Br等)を用いてアミド化する場合、反応温度は80℃以下、好ましくは60℃以下とする。またカルボン酸成分として遊離カルボン酸(X=OH)を用い、亜リン酸エステル触媒下に重合する場合、反応温度は90℃〜130℃とすることで高重合度のポリマーを得ることができる。
【0019】
また本発明ではトリアルキルシリルクロリドをポリマー高重合度化促進の目的で使用することも可能である。また、一般に用いられる酸クロリドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき遊離酸を捕捉するために脂肪族アミンや芳香族アミン、第4級アンモニウム及びその塩等を併用できる。
【0020】
なお、ここで得られたポリマーは一般に上記溶媒に高濃度で溶解しがたいため(通常では1〜2重量%程度が限界)、目的とする光学異方性を示す新規成形用ドープを得るためには重合後にポリマーを単離し硫酸またはメタンスルホン酸、好ましくは濃度98重量%以上の濃硫酸またはメタンスルホン酸あるいは発煙硫酸に溶解することが好ましい。ドープが光学異方性を示すためには、ポリマーが高濃度で溶解していることが必要であり、上述の通り5重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であることがより好ましい。
【0021】
上述の如き成形用ドープは、成形性に優れ、湿式法あるいはドライジェット湿式法により繊維、フィルム、パルプ状粒子等に成形することができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお実施例中、固有粘度(ηinh)は濃硫酸を用いて、ポリマー濃度0.5g/dlで30℃において測定した値である。
【0023】
[参考例1:1,4−フェニレンジアクリル酸ジクロリドの合成]
窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ中に1,4−フェニレンジアクリル酸100重量部を加え、窒素雰囲気下に無水クロロホルム1000重量部に分散させる。系を外部冷却下に乾燥窒素気流を流し、排気はアルカリトラップを通じて行いながらオキサリルクロライド150重量部を滴下ロートで攪拌しながら2時間かけて徐々に滴下した。更に脱水ジメチルホルムアミド数滴滴下し、室温で24時間撹拌、次いで60℃まで昇温して更に6時間攪拌反応した。その後クロロホルムと過剰のオキサリルクロライドを減圧蒸留によって留去した。得られた残渣を脱水ベンゼン/ヘキサン(体積比1/1)混合溶媒より2回再結晶を行うことで無色結晶を得た。
【0024】
[実施例1]
塩化カルシウム300重量部を窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ内にて窒素気流下250℃にて1時間乾燥した。フラスコ内の温度を室温まで戻した後、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)2000重量部を加えた。1,4−フェニレンジアミン108.140重量部をこれに溶解した後、溶液を外部冷却により−10℃に保ち、テレフタル酸クロリド172.600重量部、及び参考例1にて合成した1,4−フェニレンジアクリル酸ジクロリド38.265重量部を添加し、得られる重合体における式(II)/式(I)の値が仕込みモル比で約0.1765となるようにした。これを−10℃にて1時間、80℃で2時間反応せしめ、重合を完結した。重合終了時に系は黄色のスラリ状に変化したため、これを大量のイオン交換水に投入し生成した重合体を沈殿、ろ別採取した。更にエタノール、アセトンで洗浄後、80℃にて12時間かけて真空乾燥した。この重合体を濃硫酸に15重量%の濃度で溶解したところ非常に高粘度の溶液となった。得られた溶液を顕微鏡によりクロスニコル下で観察すると静置下55℃で光学異方性が観察された。なお、濃硫酸溶液で測定したηinhは5.7であった。
【0025】
[実施例2]
塩化カルシウム250重量部を窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ内にて窒素気流下250℃にて1時間乾燥した。フラスコ内の温度を室温まで戻した後、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)2500重量部を加えた。亜燐酸トリフェニル155.104重量部および1,4−フェニレンジアミン27.035重量部をこれに溶解した後、溶液を外部冷却により−10℃に保ち、テレフタル酸29.07331重量部、及び1,4−フェニレンジアクリル酸16.36567重量部を添加し、得られる重合体における式(II)/式(I)の値が仕込みモル比で約0.1765となるようにした。これを0℃〜室温にて1時間、室温〜100℃で2時間ついで100〜120℃で30分反応せしめ、重合を完結した。重合終了時に系は黄色のゲル状に変化したため、これを大量のイオン交換水に投入し生成した重合体を沈殿、ろ別採取した。更にエタノール、アセトンで洗浄後、80℃にて12時間かけて真空乾燥した。この重合体を濃硫酸に15重量%の濃度で溶解したところ非常に高粘度の溶液となった。得られた溶液を顕微鏡によりクロスニコル下で観察すると静置下45℃で光学異方性が観察された。なお、濃硫酸溶液で測定したηinhは7.8であった。
【0026】
[実施例3]
塩化カルシウム300重量部を窒素導入管と排出管を備えた三ツ口フラスコ内にて窒素気流下250℃にて1時間乾燥した。フラスコ内の温度を室温まで戻した後、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)2000重量部を加えた。1,4−フェニレンジアミン108.140重量部をこれに溶解した後、溶液を外部冷却により−10℃に保ち、テレフタル酸クロリド20.302重量部、及び参考例1にて合成した1,4−フェニレンジアクリル酸ジクロリド229.590重量部を添加し、得られる重合体における式(II)/式(I)の値が仕込みモル比で約9.0となるようにした。これを−10℃にて1時間、80℃で2時間反応せしめ、重合を完結した。重合終了時に系は黄色のスラリ状に変化したため、これを大量のイオン交換水に投入し生成した重合体を沈殿、ろ別採取した。更にエタノール、アセトンで洗浄後、80℃にて12時間かけて真空乾燥した。この重合体を濃硫酸に15重量%の濃度で溶解したところ非常に高粘度の溶液となった。得られた溶液を顕微鏡によりクロスニコル下で観察すると静置下43℃で光学異方性が観察された。なお、濃硫酸溶液で測定したηinhは2.1であった。
【0027】
[比較例1]
上記実施例1で得られた重合体を濃硫酸に溶解して濃度1重量%のドープとしたところ高粘度の溶液を得た。得られた溶液を顕微鏡によりクロスニコル下にて観察したが光学異方性は観察されなかった。
【0028】
[比較例2]
上記実施例2で得られた重合体を濃硫酸に溶解して濃度1重量%のドープとしたところ高粘度の溶液を得た。得られた溶液を顕微鏡によりクロスニコル下にて観察したが光学異方性は観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

及び下記式(II)
【化2】

で表される繰り返し単位から主としてなり、上記式(I)および(II)の繰り返し単位の共重合モル比率(II)/(I)が
1≦(II)/(I)≦100
の範囲にあるポリマー及び溶媒を含み、ポリマーの濃度が5重量%以上である成形用ドープ。
【請求項2】
光学異方性を示すことを特徴とする請求項1に記載の成形用ドープ。
【請求項3】
前記ポリマーが少なくとも1.0の固有粘度を有していることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の成型用ドープ。
【請求項4】
溶媒が硫酸またはメタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の成形用ドープ。
【請求項5】
ポリマー濃度が10重量%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の成形用ドープ。

【公開番号】特開2008−37999(P2008−37999A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213270(P2006−213270)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】