説明

成形装置及び成形方法

【課題】成形の形状精度や離型性の低下を抑えることができる成型装置及び成型方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形装置および成形方法であって、熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による熱硬化性樹脂の硬化が進行し、粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、熱硬化性樹脂が第1の状態から第2の状態に移行する間、熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品の製造には、成形により作る方法がある。成形には、成形型を備えた成形装置が使用される。例えばレンズの製造には、樹脂やガラス素材を成形材料として使用し、成形型で成形することによってレンズ形状を有する成形物を得る方法がある。
【0003】
成形型は、上型と、下型を備えている。上型及び下型にはそれぞれ、互いに対向する面に成形面が形成されている。成形装置は、下型及び上型の両方の成形面によって、成形材料を挟み込んで加圧し、各成形面の形状を成形材料に転写する。こうして、光学部品の特性に応じた所定の形状を有する成形物を得る。
【0004】
近年、プラスチック製のレンズの成形には、リフロー炉における高温加熱に曝されても光学特性が劣化しない特性、所謂、耐リフロー性が良好なレンズが開発されている。このようなレンズの材料としては熱硬化性樹脂が使用されている。熱硬化性樹脂を使用してレンズを成形する方法としては、低粘度の熱硬化性樹脂を成形型に供給し、成形型で成形された熱硬化性樹脂を加熱により硬化させる方法がある。
【0005】
熱硬化性樹脂を使用して光学素子を成形する方法としては、特許文献1に示すものがある。特許文献1には、上型と下型のキャビティ内に板状のインサート部材が配された型を使用し、インサート部材に液体状の樹脂を注入するための流路が形成されている。特許文献1は、インサート部材を上型と下型とで挟みながら成形することによって、樹脂が漏れ出ることを防ぎ、バリの発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−162182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レンズの成形装置は、生産効率の向上を図るために、1回の成形工程で複数の成形物を同時に成形する構成が採用される。しかし、成形装置は、複数の成形物を同時に成形する構成の場合、成形型のサイズが大きくなり、熱硬化性樹脂を加熱する成形型の加熱温度が不均一になる。すると、熱硬化性樹脂を硬化させる際に、成形型における温度分布の違いに起因して部分的に樹脂の収縮する量が変化するため、硬化状態のバラツキが生じて成形の形状精度が低下することがある。また、熱硬化性樹脂は加熱時における熱収縮の量が金属に比べて大きいため、主に金属で構成される成形型では熱硬化性樹脂の熱収縮の応じた加圧をすることができず、成形不良となることがある。
【0008】
一方、熱硬化性樹脂は、加熱されて硬化するまでの過程における初期段階で、一旦粘度が低下する性質を有する。低粘度状態の熱硬化性樹脂は加圧されると成形型の隙間に流れ込み、硬化したレンズにバリが発生し、レンズの形状が劣化することがある。また、バリによって成形型からレンズを取り出すことが困難になることがある。
【0009】
特許文献1に記載された成形方法は、インサート部材を交換する作業が必要であるため、成形にかかるコストが増大してしまう。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、成形の形状精度や離型性の低下を抑えることができる成形装置及び成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の成形装置は、熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形装置であって、
前記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行する間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う制御部を備える。
本発明の成形方法は、成形装置によって熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形方法であって、
記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行している間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形の形状精度や離型性の低下を抑えることができる成形装置及び成形方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】成形装置に備えられた成形型の構成を示す模式的な断面図である。
【図2】成形型によって樹脂を成形するときの状態を説明する断面図である。
【図3】成形型におけるセンサの配置を説明する模式的な平面図である。
【図4】成形装置の構成を説明するブロック図である。
【図5】熱硬化性樹脂の加熱時の温度の変化に対する粘度の変化を説明するグラフである。
【図6】成形を行う際において、時間の変化に対する温度、圧力及び上型位置の変化を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最初に、成形装置に備えられる成形型の構成を説明する。
【0015】
図1は、成形装置に備えられた成形型の構成を示す模式的な断面図である。図2は、図1の成形型によって樹脂を成形するときの状態を説明する断面図である。ここでは、一例として、熱硬化性樹脂を使用して成形されるレンズを成形する成形装置及び成形方法を説明する。
【0016】
成形装置は、成形型1を備える。成形型1は、上型2と、下型3とを備える。成形型1は、上型2と下型3で挟み込むことによって熱硬化性樹脂をプレス成形する。なお、以下の説明では、図1に示す成形型1の上側を鉛直方向に対して上方とし、下側を鉛直方向に対して下方とする。
【0017】
上型2は、型部材21と、駆動板23と、上型コア25と、スペーサ27と、複数のセンサ29と、を備える。同様に、下型3は、上型2と同様に、型部材31と、駆動板33と、下型コア35と、スペーサ37と、複数のセンサ39と、を備える。
【0018】
型部材21,31と、上型コア25、下型コア35は、高い熱伝導性を有する例えば金属によって構成されている。
【0019】
型部材21と型部材31は、互いに向かう合う面を型面とする。この型面とは反対側の面が駆動板23,33に支持されている。駆動板23,33は、後述する駆動部によって鉛直方向に移動可能に構成されている。
【0020】
型部材21,31はそれぞれ、型面からその反対側の面に貫通する複数の孔が形成されている。型部材21は、複数の孔のそれぞれに上型コア25が収められている。型部材31は、型部材21と同様に、複数の孔のそれぞれに下型コア35が収められている。上型コア25及び下型コア35はそれぞれ、略円柱形状の部材である。
【0021】
図2に示すように、上型コア25及び下型コア35はそれぞれ、孔から型面から端部が突出し、突出する端部に成形面25a,35aが形成されている。成形面25a,35aは、互いに対向するように形成されている。成形面25a,35aは、成形によって最終的に得られる成形物の表面形状を反転させた形状を有する。成形型1は、成形面25a,35aの間で熱硬化性樹脂Mを挟み込み、成形面25a,35aの形状を熱硬化性樹脂Mに転写する。成形面25aは、凸状の曲面を含み、この曲面が熱硬化性樹脂Mに凹状のレンズ面を形成する。成形面35aは、凹状の曲面を含み、この曲面が熱硬化性樹脂Mに凸状のレンズ面を形成する。なお、成形面25a,35aの形状は特に限定されない。
【0022】
スペーサ27は、上型コア25と駆動板23との間に設けられている。また、スペーサ37は、下型コア35と駆動板33との間に設けられている。
【0023】
複数の上型コア25は、スペーサ27を介して駆動板23に連結されている。また、複数の下型コア35はそれぞれ、スペーサ37を介して駆動板33に連結されている。
【0024】
スペーサ27、37は、金型加工で生じた上型コア25、下型コア35の高さに応じて形成され、この高さのばらつきを考慮して金型を組み立てたときに両方のコア25、35の成形面25a,35aの位置をそろえるために設けられる。
【0025】
上型コア25とスペーサ27は、駆動板23にネジによって固定されている。下型コア35とスペーサ37は、駆動板33にネジによって固定されている。
【0026】
上型コア25及び下型コア35は、駆動板23及び駆動板33の鉛直方向に移動させることで、それぞれ型部材21、31と一体に移動する。駆動板23及び駆動板33の少なくとも一方を移動させることで、成形面25a,35aの間隔を変えることができる。型部材21が成形終了位置になった時点で、型部材21と型部材31との間には隙間が設けられる。
【0027】
型部材21と型部材31は、駆動板23,33に固定されている。このため、駆動板23,33の位置を制御することで、駆動板23,33と一体に移動する。また、型部材21と型部材31は、両方の型面の間に常に隙間が設けられるように配置されている。つまり、上型コア25の成形面25aと、下型コア35の成形面35aとの間隔が狭まって熱硬化性樹脂がこれら成形面25a,35aに挟まれて押圧されるとき、型部材21と型部材31の互いの型面は接触することなく、離間している。
【0028】
複数のセンサ29,39は、熱硬化性樹脂を加熱する際に、成形面25a,35aの温度を測定する。センサ29,39は、例えば、熱電対である。センサ29は、型部材21の内部に複数設けられている。型部材21における成形面25aと反対側の面に複数の穴が形成され、これら複数の穴のそれぞれに、センサ29が挿入されている。これらの穴は、型部材21の成形面25a付近まで延びており、挿入されたセンサ29の先端が、成形面25aの近傍に位置する。同様に、センサ39は、型部材31の内部に複数設けられている。型部材31における成形面35aと反対側の面に複数の穴が形成され、これら複数の穴のそれぞれに、センサ39が挿入されている。これらの穴は、型部材31の成形面35a付近まで延びており、挿入されたセンサ39の先端が、成形面35aの近傍に位置する。
【0029】
図3は、成形型におけるセンサの配置を説明する模式的な平面図である。なお、図3では、型部材21における上型コア25と、複数のセンサ29との配置を示しているが、型部材31における下型コア35と、複数のセンサ39との配置もこれと同様である。
【0030】
図3に示すように上型コア25は、型部材21の型面を平面視したときに、該型面の中心に対して放射状に複数配置されている。複数の上型コア25は、型面の中心を円の中心として同心円状に並べられた上型コア25同士が1つのグループをなし、型面の中心からの径が異なる同心円状に複数のグループを有する。
【0031】
複数のセンサ29は、型面の中心から該型面の周縁へ径方向に等間隔で配置されている。図3の例では、型面の中心から4つの径方向に向かってセンサ29が等間隔で配置されている。複数のセンサ29によって、型面全体の加熱温度を測定することができる。複数のセンサ29で検出された温度の値は、後述する制御部50に出力される。
【0032】
次に、成形装置の構成を説明する。
【0033】
図4は、成形装置の構成を説明するブロック図である。以下の説明では、図1に示す成形型の構成を適宜参照するものとする。
【0034】
成形装置は、図1に示す成形型1と、成形型1の位置を変える駆動部51と、加熱部52と、変位計53と、圧力検出部54と、温度検出部55と、制御部50とを備えている。制御部50は、駆動部51、加熱部52、変位計53、圧力検出部54、温度検出部55を統括的に制御する。
【0035】
駆動部51は、駆動板23,33を移動させる。駆動部51は、駆動板23,33を所望の量だけ移動させることができる。駆動部51は、駆動板23及び33の位置を精密に制御可能であり、例えばサーボモータである。また、駆動部51は、駆動板23,33を移動させるときの速度を変えることができる。
【0036】
加熱部52は、型部材21,31の周辺に配置された赤外ランプや、高周波誘導加熱を行なう高周波用コイルである。なお、加熱部52は、型部材21,31の型面に均一な熱を供給することが可能であれば、特にその構成は限定されない。
【0037】
変位計53は、成形型1の上型2及び下型3の位置を検出する。変位計53は、検出した上型2及び下型3の位置に関する情報を検出信号として制御部50に出力する。変位計53は、駆動板23を駆動する図示しない軸に取り付けられている。変位計53は、熱による影響を排除するために、成形室の外に配置されている。変位計53は、該変位計53が取り付けられた軸の駆動する位置を変位計53の測定値とする。この測定値は、型部材21の位置(型部材21、31の隙間)に予め対応して設定された値である。つまり、変位計53の測定値に基づいて、型部材21の位置と、型部材21、31の隙間の長さを間接的に検出することができる。
【0038】
圧力検出部54は、上型2及び下型3によって熱硬化性樹脂にかかる圧力を検出する。圧力検出部54は、例えばロードセルである。圧力検出部54は、検出した圧力の値を含む情報を検出信号として制御部50に出力する。
【0039】
温度検出部55は、上型2及び下型3のそれぞれの内部に設けられた上述した複数のセンサ29、39を備える。温度検出部55は、これらセンサ29、39によって上型2及び下型3の型面の温度を検出し、検出した温度の値を含む情報を検出信号として制御部50に出力する。
【0040】
制御部50は、変位計53、圧力検出部54、温度検出部55のそれぞれから出力される検出信号に基づいて、熱硬化性樹脂を成形するときに、温度、圧力、及び成形型の位置を制御する。
【0041】
具体的には、制御部50は、温度検出部55の複数のセンサ29、39から出力された検出信号に基づいて、上型2及び下型3の両方の型面における温度分布を検出する。そして、制御部50は、温度分布にばらつきがある場合には、加熱部52による加熱を継続することによって、上型2及び下型3の両方の型面の温度が一定となるように制御する。
【0042】
制御部50は、変位計53で測定された検出値に基づいて、上型2及び下型3の位置を特定する。制御部50は、上型2及び下型3の現在の位置を特定したうえで、上型2及び下型3が所望の位置となるように、駆動部51によって上型2及び下型3の位置をフィードバック制御する。制御部50は、上型2及び下型3の位置のフィードバック制御では、駆動部51を使用して、駆動板23及び33の位置を精密に制御する。
【0043】
制御部50は、圧力検出部54から出力された検出信号に基づいて、熱硬化性樹脂Mの熱硬化時の収縮・膨張に応じて熱硬化性樹脂Mにかかる圧力のフィードバック制御を行う。制御部50は、圧力のフィードバック制御では、駆動部51と変位計53を使用して、熱硬化性樹脂Mにかかる圧力が目標の圧力になるように、成形型1を制御する。
【0044】
次に、熱硬化性樹脂の温度と粘度との関係を説明する。
【0045】
図5は、熱硬化性樹脂の加熱時の温度の変化に対する粘度の変化を説明するグラフである。ここでは、硬化性樹脂の一例として、エポキシ系の樹脂を用いた場合例に説明する。なお、他の熱硬化性樹脂の温度と粘度も、ここで説明する熱硬化性樹脂と同等の関係がある。
【0046】
加熱する前、熱硬化性樹脂の温度は常温(ここでは25℃とした。)である。加熱を始めると、熱硬化性樹脂の粘度は低下する。そして、ある温度を境界として、一旦低下した粘度が急激に高くなる。ここでは、グラフ中に点線で示す温度付近(約75℃〜約80℃)を境界として熱硬化性樹脂の粘度が高くなる。
【0047】
ここで、熱硬化性樹脂は、加熱による過程において、加熱の温度の変化とともに、その粘度の状態が変化する。具体的には、熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂の粘度が低いことによって流動性を維持している第1の状態と、加熱による熱硬化性樹脂の硬化が進行し、粘度が第1の状態に戻らない第2の状態とのうちいずれかの状態にある。
【0048】
第1の状態では、加熱を中止した場合に、熱硬化性樹脂の粘度が常温時の状態に戻るため、所謂、可逆的な状態である。一方で、第2の状態では、加熱を中止しても、熱硬化性樹脂の粘度は常温時のように低くならず、高い粘度の状態(すなわち、流動性が低い又は流動性がない状態)が維持される、所謂、不可逆的な状態である。このように、熱硬化性樹脂は、第1の状態から第2の状態に変化する時点を境界として、粘度が著しく変わり、また、流動性が変化する。熱硬化性樹脂は、第2の状態のときに顕著に硬化が進むため、第2の状態のときに成形されることにより成形後の形状が決定される。
【0049】
成形装置、及びこの成形装置を用いた成形方法では、上述した熱硬化性樹脂の第1の状態及び第2の状態、及び、2つの状態の境界を基準として熱硬化性樹脂の成形を制御する。
【0050】
次に、上述した成形装置を使用して、熱硬化性樹脂を目標の成形物に成形するときの制御を説明する。
【0051】
熱硬化性樹脂を成形する際には、上述した制御部50によって制御が行われる。以下の説明では、図5に示す熱硬化性樹脂を用いる。
【0052】
最初に、上型2と下型3との間に熱硬化性樹脂を供給する。熱硬化性樹脂は、下型3の下型コア35の成形面35a上に表面張力によって保持される。
【0053】
熱硬化性樹脂は、成形初期において常温である。熱硬化性樹脂は、常温ではある程度の粘度を有していますので、成形面35a上から流れ出ていくことはない。しかし、熱硬化性樹脂は、加熱の過程において硬化する前に、粘度が水程度の粘度まで低くなり、流れて成形型1の隙間に流れていくことが考えられる。このため、熱硬化性樹脂の加熱前に上型2の上型コア25の成形面25aを樹脂に0.1mm程度接触させることで、上下型に対する熱硬化性樹脂の表面張力によって流動を抑制させる。
【0054】
成形を開始する時点では、上型2及び下型3の温度は常温(ここでは約25℃)である。この例では、上型2を移動させることで、上型2と下型3との間隔を調整する。上型2の位置は、成形完了時点の上型2と下型3との間隔よりも1mm広くなる位置を基準位置としてこの位置をゼロとしたとき、その基準位置から下型2に近づく側の位置を正とし、下型から離れる側の位置を負とする。成形を開始する時点では、上型2の位置は、上述のように熱硬化性樹脂に接触させるため+0.1(mm)とする。成形を開始する時点では、上型2から樹脂にかかる圧力がほぼゼロとなるように上型2の位置を設定する。
【0055】
図6に示すように、上型位置が移動を始める時点T1から、上型位置が最終的に成形を行う位置に到達した時点T2までの期間をAとし、時点T2以降の期間をBとする。熱硬化性樹脂の粘度が低いことによって流動性を維持している第1の状態と、加熱による熱硬化性樹脂の硬化が進行し、粘度が第1の状態に戻らない第2の状態との境界の時点をTbとする。
【0056】
次に、加熱の温度を上昇させ、所定の温度付近(ここでは、約90℃)で温度を一定にする。
【0057】
制御部50は、時間Tbの前後において、上型2及び下型3による加熱の温度が一定になるように、加熱部52を制御する。こうすることで、加熱の温度は、熱硬化性樹脂が硬化する温度付近で一定に保たれる。
【0058】
また、制御部50は、加熱の温度を一定に維持している期間に、所定の時点(T1)で上型2を下型3側へ向かって移動させる。所定の時点(T1)とは、成形型1の温度分布が±3℃以下になる時間である。この温度分布は、上型2の型面の半径方向に間隔をおいて配置された温度検出部55である複数のセンサ29、39によって温度を測定し、それら測定点の温度の分布が目標とする加熱温度を基準としてどのような分布に存在するか測定されたものである。なお、成形型1の温度分布の範囲は、±3℃以下に限定されず、成形型1の大きさや熱硬化性樹脂の特性を考慮して変更可能である。
【0059】
上型2を下型3側へ向かって移動させる際の移動の速度は、低い速度(約0.01mm/s以下)に設定される。この上型2の移動は、熱硬化性樹脂が第1の状態から第2の状態に移行する時間Tbまで行う。制御部50は、熱硬化性樹脂が第1の状態から第2の状態に移行した時間Tb付近で、上型2の位置が最終的に成形を行う位置となるように、駆動部51を制御する。上型2の位置が最終的に成形を行う位置に近づくと、上型2から受ける圧力の増加に伴って熱硬化性樹脂にかかる圧力が増加する。このように、熱硬化性樹脂の粘度がある程度高くなってから圧力をかけることで、熱硬化性樹脂の収縮による変形に追従しつつ、安定して圧力を加えることで、熱硬化性樹脂に成形面を転写することができ、成形不良が生じることを防ぐことができる。
【0060】
制御部50は、上型2の位置が最終的に成形を行う位置に近づいたときに、上型2及び下型3による加熱の温度を上昇させ、最終的に熱硬化性樹脂を硬化するための温度となるように、加熱部52を制御する。そして、制御部50は、期間Bでは、加熱の温度、上型2の位置、及び熱硬化性樹脂にかかる圧力を一定にする制御を行う。
【0061】
以上のように、制御部50は、期間Aにおける少なくとも時点Tbをまたいだ期間、つまり、熱硬化性樹脂が第1の状態から第2の状態に移行する間、熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う。
【0062】
温度制御は、加熱部を温度検出部のセンサ29、39の出力に基づいて、型面における加熱温度のばらつきがなくなるように、熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に維持する制御である。
【0063】
圧力制御は、駆動部を圧力検出部の出力に基づいて制御して熱硬化性樹脂にかかる圧力を、成形に必要な値、つまり、熱硬化性樹脂が完全に硬化するときにかかる圧力まで大きく制御である。
【0064】
こうすることで、熱硬化性樹脂の加熱の温度にムラが生じることを防止でき、また、熱硬化性樹脂の流動に起因するバリなどが発生することを防止できる。よって、成形の形状精度や離型性の低下を抑えることができる。
【0065】
なお、図6の制御の例では、上型の位置のみを移動させたが、上型と下型の両方や、下型のみを移動させてもよい。
【0066】
本明細書は次の事項を開示する。
(1)熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形装置であって、
前記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行する間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う制御部を備える成形装置。
(2)(1)に記載の成形装置であって、
前記熱硬化性樹脂を一対の型で挟み込むことによって前記成形物を成形する成形型と、
前記一対の型同士を近づける位置と遠ざける位置に変位させる駆動部と、
前記一対の型を加熱する加熱部と、
加熱された前記熱硬化性樹脂の温度を検出する温度検出部と、
前記熱硬化性樹脂を挟み込むときに該熱硬化性樹脂にかかる前記一対の型の圧力を検出する圧力検出部と、を備える成形装置。
(3)(2)に記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記温度制御では、前記加熱部を前記温度検出部の出力に基づいて制御して前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に維持する成形装置
(4)(2)又は(3)に記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記圧力制御では、前記駆動部を前記圧力検出部の出力に基づいて制御して前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を成形に必要な値まで大きくする成形装置。
(5)(2)から(4)のいずれか1つに記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記熱硬化性樹脂が前記第2の状態に移行する前に、前記一対の型のそれぞれの位置を前記駆動部によって制御し、前記熱硬化性樹脂を前記一対の型の間で表面張力によって保持する成形装置。
(6)成形装置によって熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形方法であって、
記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行している間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う成形方法。
(7)(6)に記載の成形方法であって、
前記成形装置は、前記熱硬化性樹脂を一対の型で挟み込むことによって前記成形物を成形する成形型と、
前記一対の型同士を近づける位置と遠ざける位置に変位させる駆動部と、
前記一対の型を加熱する加熱部と、
加熱された前記熱硬化性樹脂の温度を検出する温度検出部と、
前記熱硬化性樹脂を挟み込むときに該熱硬化性樹脂にかかる前記一対の型の圧力を検出する圧力検出部と、を備える成形方法。
(8)(7)に記載の成形方法であって、
前記温度制御では、前記加熱部を前記制御部によって前記温度検出部の出力に基づき制御することによって、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に維持する成形方法。
(9)(7)又は(8)に記載の成形方法であって、
前記圧力制御では、前記駆動部を前記制御部によって前記圧力検出部の出力に基づき制御することによって前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を成形に必要な値まで大きくする成形方法。
(10)(7)から(9)のいずれか1つに記載の成形方法であって、
前記熱硬化性樹脂が前記第2の状態に移行する前に、前記一対の型のそれぞれの位置を制御し、前記熱硬化性樹脂を前記一対の型の間で表面張力によって保持する成形方法。
【符号の説明】
【0067】
1 成形型
2 上型
3 下型
21、31 型部材
23、33 駆動板
25 上型コア
35 下型コア
50 制御部
51 駆動部
52 加熱部
53 変位計
54 圧力検出部
55 温度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形装置であって、
前記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行する間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う制御部を備える成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成形装置であって、
前記熱硬化性樹脂を一対の型で挟み込むことによって前記成形物を成形する成形型と、
前記一対の型同士を近づける位置と遠ざける位置に変位させる駆動部と、
前記一対の型を加熱する加熱部と、
加熱された前記熱硬化性樹脂の温度を検出する温度検出部と、
前記熱硬化性樹脂を挟み込むときに該熱硬化性樹脂にかかる前記一対の型の圧力を検出する圧力検出部と、を備える成形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記温度制御では、前記加熱部を前記温度検出部の出力に基づいて制御して前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に維持する成形装置
【請求項4】
請求項2又は3に記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記圧力制御では、前記駆動部を前記圧力検出部の出力に基づいて制御して前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を成形に必要な値まで大きくする成形装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の成形装置であって、
前記制御部は、前記熱硬化性樹脂が前記第2の状態に移行する前に、前記一対の型のそれぞれの位置を前記駆動部によって制御し、前記熱硬化性樹脂を前記一対の型の間で表面張力によって保持する成形装置。
【請求項6】
成形装置によって熱硬化性樹脂を使用して成形物を成形する成形方法であって、
記熱硬化性樹脂が流動性を維持している該熱硬化性樹脂の粘度の状態を第1の状態とし、加熱による前記熱硬化性樹脂の硬化が進行し、前記粘度が前記第1の状態に戻らない状態を第2の状態とし、
前記熱硬化性樹脂が前記第1の状態から前記第2の状態に移行している間、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に制御する温度制御と、前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を徐々に高くする圧力制御と、を行う成形方法。
【請求項7】
請求項6に記載の成形方法であって、
前記成形装置は、前記熱硬化性樹脂を一対の型で挟み込むことによって前記成形物を成形する成形型と、
前記一対の型同士を近づける位置と遠ざける位置に変位させる駆動部と、
前記一対の型を加熱する加熱部と、
加熱された前記熱硬化性樹脂の温度を検出する温度検出部と、
前記熱硬化性樹脂を挟み込むときに該熱硬化性樹脂にかかる前記一対の型の圧力を検出する圧力検出部と、を備える成形方法。
【請求項8】
請求項7に記載の成形方法であって、
前記温度制御では、前記加熱部を前記制御部によって前記温度検出部の出力に基づき制御することによって、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度を一定に維持する成形方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の成形方法であって、
前記圧力制御では、前記駆動部を前記制御部によって前記圧力検出部の出力に基づき制御することによって前記熱硬化性樹脂にかかる圧力を成形に必要な値まで大きくする成形方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載の成形方法であって、
前記熱硬化性樹脂が前記第2の状態に移行する前に、前記一対の型のそれぞれの位置を制御し、前記熱硬化性樹脂を前記一対の型の間で表面張力によって保持する成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−6398(P2013−6398A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142298(P2011−142298)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】