説明

成形金型、成形金型の再生方法、及び樹脂製品の製造方法

【課題】樹脂成形用の成形金型において、成形金型を再生して繰り返し成形できるようにすること。
【解決手段】離型膜25と共有結合する中間膜24と、金型母材を構成する転写面加工層22や本体部分21との間に、エッチング液に対する耐性を有し10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜23を設けるので、離型膜25を中間膜24とともにエッチング液によって除去する際に、転写面加工層22等をエッチング液から保護することができる。これにより、離型膜25の付着性を下地の中間膜24によって高めたタイプの成形金型40においても、中間膜24と離型膜25とを一旦除去して再度形成する成形金型の再生が可能になる。ここで、保護膜23が10nm以上100nm以下と、比較的薄いので、転写面加工層22等における母材転写面22aの形状が保たれ転写精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形用の成形金型、その再生方法、及びこれを用いた樹脂製品の製造方法に関し、特に、樹脂製の光学素子を射出成形等するための成形金型等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の樹脂成形用の金型として、金型母材と離型膜の両方と強く結合する膜を金型母材と離型膜の間に挿入することで、離型膜を金型に強固に結合させ、離型膜の剥離を防いでいるものがある(特許文献1参照)。具体的には、金型母材の上に剥離防止用の二酸化ケイ素膜を被覆し、その上にフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤からなる離型膜を被覆している。
【0003】
なお、ガラス成形用の金型に関するものであるが、金型母材と離型膜との間に耐エッチング層を挿入することで、離型膜が剥離した金型を低コストに再生する方法がある(特許文献2参照)。具体的には、金型母材の上に耐エッチング層である窒化クロム膜等を形成し、その上にエッチング液に溶ける窒化チタン層を形成し、その上にチタン、アルミニウム等の複窒化物からなる離型膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−184117号公報
【特許文献2】特開2006−111496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の金型では、二酸化ケイ素膜を離型膜の下地にすることで樹脂成形を多量に行うことができ離型膜の塗布回数を減らすことができる。しかしながら、さらに多量に樹脂成形を繰り返すと、下地の二酸化ケイ素膜が部分的に剥離することがある。特に、樹脂の接着力が強く二酸化ケイ素膜に強い応力がかかる場合等において、二酸化ケイ素膜の耐久性が低くなる傾向がある。
【0006】
なお、特許文献2の金型は、離型膜が剥離しても再生できるが、例えば複窒化物膜は樹脂との相性が悪く十分な離型性が得られないので、樹脂成形用の成形金型として用いることができない。
【0007】
そこで、本発明は、樹脂成形用の成形金型において、成形金型を再生して繰り返し成形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る成形金型は、樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、金型母材の母材転写面上に当該母材転写面を被覆するように形成されエッチング液に対する耐性を有し10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜と、保護膜上に形成される中間膜と、中間膜上に形成され中間膜と共有結合する離型膜とを有する。
【0009】
上記成形金型では、離型膜と共有結合する中間膜と、転写面の土台となる金型母材との間に、エッチング液に対する耐性を有し10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜を設けるので、離型膜を中間膜とともにエッチング液によって除去する際に、金型母材をエッチング液から保護することができる。これにより、離型膜の付着性を下地の中間膜によって高めたタイプの成形金型においても、中間膜と離型膜とを一旦除去して再度形成する成形金型の再生が可能になる。ここで、保護膜が10nm以上100nm以下と、比較的薄いので、金型母材における母材転写面の形状が保たれ転写精度を高めることができる。なお、保護膜の膜厚は、金型母材を確実に保護する観点からは、中間膜の膜厚よりも大きくすることが望ましい。
【0010】
また、本発明の具体的な態様又は側面では、上記成形金型において、母材転写面は、微細形状を有する光学面に対応する微細形状を有する。この場合、離型時の応力によって中間膜の剥離が生じやすくなるといえるが、成形金型の再生によって同一金型母材を利用した成形回数を飛躍的に増やすことができる。
【0011】
本発明の別の側面では、母材転写面に形成される微細形状が、ナノメータオーダーのサイズを有する。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、金型母材の表面が、無電解ニッケルメッキによって形成されたメッキ層で形成されている。この場合、金型母材の表面に所望の形状を有する高精度の母材転写面を形成することができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、離型膜が、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で形成されている。この場合、樹脂成形品が転写面に残ることを効果的に防止して、樹脂成形品の歩留まりを高め、成形金型の耐久性を高めることができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、中間膜が、二酸化珪素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1つで形成されている。この場合、シランカップリング剤等である離型膜との結合性を高め、シランカップリング剤等である離型膜の付着力を高めることができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、中間膜が、気相法によって成膜される。この場合、一般に膜厚を精度よく制御することができるので、中間膜のエッチングを適正なものとでき、保護膜までダメージを与える過剰なエッチングの可能性を低減できる。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、中間膜が、液相法によって成膜される。この場合、一般に膜のつきまわりを良くして保護膜上の全面に均一な膜を被覆することできるので、微細形状を有する転写面の成形に適する成形金型を提供することができる。
【0017】
本発明のさらに別の側面では、保護膜が、アルミナ、炭化珪素、クロム、及び酸化クロムのうち少なくとも1つで形成される。この場合、二酸化珪素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化亜鉛等である中間膜に比較して保護膜に対するエッチング選択性を持たせることができ、エッチングに際して保護膜を確実に残すことができる。
【0018】
本発明に係る成形金型の再生方法は、樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、金型母材の母材転写面上に当該母材転写面を被覆するように形成される保護膜と、保護膜上に形成される中間膜と、中間膜上に形成され中間膜と共有結合する離型膜とを有する成形金型の再生方法であって、エッチング液に浸漬し、中間膜と離型膜を除去することによって、エッチング液に対する耐性を有する保護膜を露出させる工程と、保護膜の上に、新しい中間膜を成膜する工程と、新しい中間膜上に、新しい離型膜を成膜する工程とを備える。
【0019】
上記再生方法では、離型膜を中間膜とともにエッチング液によって除去する際に、保護膜によって金型母材をエッチング液から保護することができる。これにより、離型膜の付着性を下地の中間膜によって高めたタイプの成形金型においても、中間膜と離型膜とを一旦除去して再度形成する成形金型の再生が可能になり、同一金型母材を利用した成形回数を増やすことができる。
【0020】
本発明に係る樹脂製品の製造方法は、樹脂成形用の成形金型を用いた樹脂製品の製造方法であって、成形金型が、樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、離型膜と共有結合する中間膜との間に、エッチング液に対する耐性を有し、10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜を有し、樹脂製品が、保護膜の表面形状に略一致する被転写面を有する。
【0021】
上記製造方法では、離型膜の付着性を下地の中間膜によって高めるとともに、中間膜と離型膜とを一旦除去して再度形成するタイプの成形金型によって樹脂製品を製造することができ、高精度で安価な樹脂製品を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)は、第1実施形態に係る光学素子用の成形金型の構造を説明する部分側断面図であり、(B)は、(A)の金型によって射出成形されるレンズの拡大側面図である。
【図2】コア部の先端構造の一例を概念的に説明する拡大断面図である。
【図3】コア部の先端構造の変形例を概念的に説明する拡大断面図である。
【図4】(A)〜(D)は、成形金型すなわちコア部51,61の再生方法について説明する図である。
【図5】(A)は、第1実施形態に係る成形金型すなわちマスター成形型の側方断面図であり、(B)は、製品としてのウエハレンズを示す側方断面図であり、(C)は、サブマスター成形型の側方断面図である。
【図6】(A)〜(D)は、マスター成形型等を用いたウエハレンズの製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る成形金型、その再生方法、及び樹脂製品の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1(A)に示すように、本実施形態の成形金型40は、固定金型41と可動金型42とで構成され、両金型41,42は、パーティングラインPLを境として開閉可能になっている。固定金型41と可動金型42とに挟まれた型空間であるキャビティCVは、樹脂製品すなわち樹脂成形品である光学素子としてのレンズOL(図1(B)参照)の形状に対応するものとなっている。レンズOLは、光学的機能を有する光学的機能部としての中心部OLaと、中心部OLaから外径方向に延在する環状のフランジ部OLbとを備える。このレンズOLは、光ピックアップ装置用の対物レンズ、携帯電話の撮像レンズ等である。
【0025】
固定金型41は、コア部51と、型板53と、取付板54とを備える。ここで、コア部51は、キャビティCVを形成するため、可動金型42のコア部61に対向して配置される。型板53は、コア部51を周囲から保持する型部材であり、取付板54は、型板53やコア部51を背後から一体的に支持する型部材である。
【0026】
コア部51の先端部51aには、キャビティCVを画成するため、光学面形成面56aとフランジ形成面56bとが設けられている。光学面形成面56aは、比較的浅い凹面であり、レンズOLを構成する中心部OLaの一方の光学面Saを成形する転写面である。フランジ形成面56bは、環状の平面であり、レンズOLを構成するフランジ部OLbの一方のフランジ面F1を成形する転写面である。
【0027】
その他、型板53には、コア部51を挿入させることで内部に支持する円柱状の貫通孔57aが形成されている。また、型板53は、パーティングラインPLを形成する端面53aを有する。
【0028】
可動金型42は、コア部61と、型板63と、取付板64とを備える。可動金型42は、軸AXに沿って移動可能になっており、固定金型41に対して開閉動作する。可動金型42において、コア部61は、キャビティCVを形成するため、固定金型41のコア部51に対向して配置される。型板63は、コア部61を周囲から保持する型部材であり、取付板64は、型板63やコア部61を背後から一体的に支持する型部材である。
【0029】
コア部61の先端部61aには、キャビティCVを画成するため、光学面形成面66aとフランジ形成面66bとが設けられている。光学面形成面66aは、比較的深い凹面であり、レンズOLを構成する中心部OLaの他方の光学面Sbを成形する転写面である。フランジ形成面66bは、環状の平面であり、レンズOLを構成するフランジ部OLbの他方のフランジ面F2を成形する転写面である。
【0030】
その他、型板63には、コア部61を挿入させることで内部に支持する円柱状の貫通孔67aが形成されている。また、型板63は、パーティングラインPLを形成する端面63aを有する。
【0031】
図2は、コア部51の先端部51aに形成される構造の一例を概念的に説明する拡大断面図である。先端部51aは、本体部分21上に、転写面加工層22と、保護膜23と、中間膜24と、離型膜25とを順次積層した構造を有する。
【0032】
本体部分21は、例えばステンレス鋼、低炭素鋼等の材料で形成され、その端面は、光学面形成面56a等に対応する形状となっている。なお、本体部分21は、セラミックや超硬金属で形成することもできる。
【0033】
転写面加工層22は、例えば無電解ニッケルめっき法を用いて形成されるニッケルリンめっき層であり、数10μm〜数mm程度の厚みを有する。転写面加工層22は、本体部分21とともに金型母材を構成し、転写面である光学面形成面56a及びフランジ形成面56bの土台として機能する。転写面加工層22は、被削加工性を良くするため、本体部分21を被覆するように設けられており、その表面である母材転写面22aは、高精度の光学転写面に加工されている。なお、転写面加工層22は省略することができ、この場合、本体部分21の端面を精密に加工して、母材転写面22aとする。
【0034】
保護膜23は、例えばクロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、アルミナ(Al)、炭化珪素(SiC)等の材料で形成され、10nm以上100nm以下の膜厚を有する。保護膜23は、転写面加工層22を後述する剥離用のエッチング液から保護するため、本体部分21を被覆するように設けられている。このため、保護膜23の材料は、化学的な耐久性が強く保護膜23の膜厚を薄くしても転写面加工層22等を守ることができるものという基準で選択される。保護膜23の厚みについては、一定の下限以上とすることにより、エッチング液に対する耐性を確保することができ、一定の上限以下とすることにより、転写面加工層22に形成された母材転写面22aが保護膜23によって変形したり歪むことを防止でき、光学面形成面56aにおける光学転写面の再現性を確保できるようにしている。保護膜23は、下地の転写面加工層22と強く結合することが求められるので、例えばスパッタリング、真空蒸着等の物理蒸着法又は物理気相成長法(気相法の一種)によって成膜される。特にスパッタリングは、成膜時間がかかる方法であるが、密着性や膜のつきまわりがよく、保護膜23の被覆に適した成膜方法である。なお、図示の母材転写面22aや光学面形成面56aのように平滑で凹凸が少ない場合は、保護膜23を真空蒸着で被覆してもよい。真空蒸着は、膜の密着性等の観点でCVDに劣るが、成膜時間すなわち被覆時間を短くできる。
【0035】
中間膜24は、例えば二酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化バナジウム(V)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の材料で形成され、通常は保護膜23よりも薄く、例えば100nm以下の膜厚を有する。中間膜24は、後述する離型膜25を保護膜23上に安定して強固に支持するためのものであり、離型膜25を中間膜24等に強固に結合させ、離型膜25の剥離を防止する役割を有する。このため、中間膜24の材料は、離型膜25の組成に対応して表面に水酸基を有する金属酸化物膜とすることが望ましい。離型膜25の厚みについては、一定の上限以下とすることにより、転写面加工層22に形成された母材転写面22aが保護膜23によって変形したり歪むことを防止でき、光学面形成面56aにおける光学転写面の再現性を確保できるようにしている。また、中間膜24は、エッチング液によって除去されるべきものであり、その膜厚を一定の上限以下とすることにより、エッチングに必要な時間を短くして、金型再生を迅速なものとできるようにしている。中間膜24は、膜厚を精度よく制御することにより過剰なエッチングによって保護膜23にダメージを与えられる可能性を低減するという観点から、例えばCVD等の気相法(化学気相成長法の一種)によって成膜される。CVD等の気相法によって形成された中間膜24は、エッチング液に浸漬された場合、通常は形状や場所によらず一様にエッチングされるので、中間膜24の成膜方法は、膜のつきまわり性の良さが求められる。特にCVDは、スパッタリングと比べて、密着力は弱いが、膜のつきまわりが優れているので、中間膜24の被覆に適した成膜方法である。なお、図示の母材転写面22aや光学面形成面56aのように平滑で凹凸が少ない場合は、中間膜24を真空蒸着で被覆してもよい。真空蒸着は、膜のつきまわりの観点でCVDに劣るが、成膜時間すなわち被覆時間を短くできる。また、中間膜24は、特開2009−184117号公報に開示された液相析出法によって形成することもできる。液相析出法は、一般に膜厚の制御が容易でないので、図示の母材転写面22aのように平滑で凹凸が少ない場合は、中間膜24をエッチングによって適確に除去する観点でCVDに劣ると考えられる。
【0036】
離型膜25は、中間膜24と共有結合するシランカップリング剤等の材料で形成され、通常は中間膜24上に5nm程度の単層膜を形成する。離型膜25を形成するシランカップリング剤としては、フルオロアルキル基を有するものが一般的に使用される。フッ素の持つ小さな表面自由エネルギーがコア部51の端面と樹脂製品すなわち樹脂成形品との密着力を低減する機能を発現するためである。フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤としては例えば下記のようなものが一般的である。
CF(CHSiCl
CF(CHSiCl
CF(CF(CHSiCl
CF(CF(CH2)SiCl
CF(CFCHCHSi(OCH
CF(CF(CHSi(CH)Cl
CF(CHSi(OCH
CF(CHSi(CH)(OHCH
CF(CF(CHSi(OCH
CF(CF(CHSi(OCH
これらの物質は、フッ素系の有機溶剤で希釈して使用される。シランカップリング剤を有機溶剤で希釈することによって得た溶液を準備し、この溶液にコア部51を浸漬させゆっくり引き上げたり(ディップコートしたり)、この溶液の液滴をコア部51の端面に滴下して高速回転させて塗り広げる(スピンコートする)ことによって、コア部51の端面すなわち中間膜24の表面にシランカップリング剤の薄膜を形成する。その後一定の湿度下で加温することによって加水分解させる。このとき、シランカップリング剤のクロロ基(−Cl)やメトキシ基(−OCH)はシラノール(Si−OH)となる。このシラノールが即座に中間膜24表面のヒドロキシ基(−OH)と脱水縮合反応することで、中間膜24の表面層とシランカップリング剤とが共有結合によって結合する。以上のようにして、中間膜24を薄く被覆するようにして、この中間膜24と共有結合したシランカップリング剤の離型膜25を形成することができる。
【0037】
図3は、コア部51の先端部51aに形成される構造の変形例を概念的に説明する拡大断面図である。この場合も、先端部51aは、本体部分21上に、転写面加工層22と、保護膜23と、中間膜24と、離型膜25とを順次積層した構造を有する。ただし、転写面加工層22の表面は、ナノメータオーダーのサイズを有する微細形状を設けた母材転写面122aに加工されている。母材転写面122aの微細形状は、保護膜23の表面に再現又は転写され、中間膜24や離型膜25の表面にも再現又は転写されている。結果的に、コア部61の端面である光学面形成面56aには、ナノメータオーダーの微細形状FSが形成されている。なお、微細形状FSは、図面に誇張して示す鋸歯状のブレーズタイプに限らず、矩形状の段差タイプ等、様々なものとできる。
【0038】
図3に示すようなコア部51の場合、転写面加工層22を設けることで、ナノメートルオーダーの構造を設けることが容易になる。また、保護膜23は、密着性や膜のつきまわりが良いスパッタリングで形成することが望ましい。中間膜24は、微細形状の影の部分にも回り込ませやすい液相析出法によって形成することで、全面に均一な膜を被覆することができる。また、中間膜24は、膜のつきまわりが比較的良好なCVDによって形成することもできる。
【0039】
なお、可動金型42のコア部61も、図2、3に示すようなコア部51と同様の構造を有するものとできる。つまり、詳細な説明を省略するが、コア部61の先端部61aは、本体部分21上に、転写面加工層22と、保護膜23と、中間膜24と、離型膜25とを順次積層した構造を有する。
【0040】
以下、図1の成形金型40を用いた樹脂製品の製造方法について説明する。なお、図示を省略しているが、成形金型40は、射出成形機に組み込まれて使用されるものであり、固定金型41は、射出成形機の固定盤に固定され、可動金型42は、射出成形機の可動盤に固定される。
【0041】
まず、金型温度調節機(不図示)により、両金型41,42を成形に適する温度まで加熱する。次に、可動金型42を支持する可動盤を固定金型41を支持する固定盤に近接させて、固定金型41と可動金型42とが接触する型当たり位置まで移動させて型閉じを行うとともに、固定金型41と可動金型42とを必要な圧力で締め付ける型締めを行う。次に、射出装置(不図示)を動作させて、型締めされた固定金型41と可動金型42との間のキャビティCV中に、必要な圧力で溶融樹脂を注入する射出を行わせる。この際、上記金型温度調節機により、固定金型41と可動金型42とが適度に加熱されており、上記射出装置から供給される溶融樹脂が緩やかに冷却される。溶融樹脂が冷却されて十分硬化した段階で、可動金型42を後退させる型開きを行うことにより、固定金型41と可動金型42とが離間する。この結果、両型41,42間から樹脂成形品としてのレンズOLを取り出すことができる。
【0042】
なお、上記のような射出成形を多数回繰り返すと、両金型41,42のコア部51,61の端面の離型膜25が部分的に除去される。よって、定期的にコア部51,61の端面に対して、シランカップリング剤の再付着処理を行う。これにより、中間膜24を十分に被覆する保護膜23を再生することができる。
【0043】
以下、図4(A)〜4(D)を参照して成形金型40の再生方法について説明する。なお、成形金型40を用いた射出成形をさらに多数回繰り返すと、両金型41,42のコア部51,61の端面の中間膜24が離型膜25とともに部分的に除去される。この場合、シランカップリング剤の再付着処理では、成形金型40を再生することができないので、中間膜24と離型膜25とを再形成することで、コア部51,61を略初期状態に再生することができる。
【0044】
図4(A)に示すように、射出成形を多数回繰り返すと、コア部51,61の端面において、中間膜24等が剥離した欠損部DFが形成される。このまま、コア部51,61の使用を継続すると、樹脂成形品が焼きつくので、コア部51,61に対して再生処理を行う。
【0045】
具体的には、まず、図4(B)に示すように、中間膜24と離型膜25とをエッチングによって除去する。エッチング液の成分は、中間膜24や保護膜23の組成に応じて選択するが、例えばフッ酸、塩酸、硝酸、過酸化水素水等を含むものを使用することで、中間膜24のみを選択的に迅速に除去することができ、保護膜23に与えるダメージを少なくすることができる。
【0046】
次に、図4(C)に示すように、コア部51,61の端面に露出した保護膜23上にこの保護膜23を被覆する中間膜24を成膜する。再被覆用の中間膜24は、元の中間膜24と同様のものであり、二酸化珪素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化亜鉛等の材料で形成され、例えば100nm以下の膜厚を有するものとする。再被覆用の中間膜24は、元の中間膜24と同様に形成される。つまり、中間膜24は、CVD等の気相法(化学気相成長法の一種)によって成膜される。中間膜24は、真空蒸着によって成膜することもできる。さらに、中間膜24は、液相析出法によって形成することもできる。
【0047】
その後、図4(D)に示すように、コア部51,61の端面を被覆する中間膜24にこの中間膜24を被覆する離型膜25を成膜する。再被覆用の離型膜25は、元の離型膜25と同様のものであり、シランカップリング剤等の材料で形成される。再被覆用の離型膜25は、元の離型膜25と同様に形成される。具体的には、シランカップリング剤の溶液をコア部51の端面に薄く塗布し、加熱等の処理を施すことによってシランカップリング剤を加水分解させ、中間膜24の表面にシランカップリング剤を共有結合させることで、中間膜24上に離型膜25を形成することができる。
【0048】
以下、具体的な実施例について説明する。
【0049】
〔実施例1〕
まず、本体部分21を準備し、無電解ニッケルめっき法によってニッケルリンめっき層としての転写面加工層22を成膜し、切削加工により所望の形状を有する母材転写面22aを形成した。次に、コア部51,61の表面を洗浄後、スッパッタリングにより、コア部51,61の端面にクロム膜を約40nmの膜厚で被覆させて保護膜23を形成した。このクロム膜の上に、CVDにより二酸化ケイ素を約20nmの膜厚で被覆させて中間膜24を形成した。この二酸化ケイ素膜の上にシランカップリング剤を塗布して加熱等の処理を施すことによって離型膜25を形成した。この場合、シランカップリング剤として、オプツールDSX(商標名)を使用する。このときオプツールDSXは単分子層を形成するので、離型膜25の膜厚は約5nmである。以上のように処理することで、コア部51,61の表面すなわち光学面形成面56a,66aにおいて樹脂との離型性が良いオプツール膜を被覆させることができる。このオプツール膜製の離型膜25は、その下地のSiO膜製の中間膜24と共有結合するため、離型膜25は、コア部51,61の下地と強固に結合している。さらに、母材転写面22a上に被覆された保護膜23、中間膜24、及び離型膜25の合計膜厚は、約65nmと薄いので、コア部51,61の最表面すなわち光学面形成面56a,66aの形状は、母材転写面22aの形状を精度良く再現したものとなっている。
【0050】
オプツール膜製の離型膜25や、その下のSiO膜製の中間膜24は、成形を繰り返すと劣化し、離型性が悪くなった。そこで、このように劣化したコア部51,61を以下のような処理によって再生した。具体的には、中間膜24等の除去に使用するエッチング液として、ガラスコートの除去液を用いた。このエッチング液の主成分は、1水素2フッ化アンモニウムと過酸化水素水とである。このエッチング液にコア部51,61の適所を10分間浸漬する。浸漬後のコア部51,61の表面を組成分析した結果、酸化クロムのみが検出される。これは、エッチング液によってオプツール膜の離型膜25とSiO膜の中間膜24とが除去され、剥き出しになったクロム膜の酸化皮膜を検出していることを意味している。したがって、上記のようなエッチング処理は、クロム膜で止まっており、クロム製の保護膜23が保護膜としての役割を果たしていることが分かった。この剥き出しになったクロム製の保護膜23の上に、新しく二酸化ケイ素膜、オプツール膜の順に被覆することで、中間膜24と離型膜25とを順次形成した。以上の再生処理により、コア部51,61は再び離型性を有するようになり、元のように精密な形状を有する樹脂成形品を製造できた。つまり、加工や研磨を行うことなく金型としてのコア部51,61を再生することができた。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、本体部分21を準備し、無電解ニッケルめっき法によって転写面加工層22を成膜し、この表面に母材転写面22aを形成した。次に、コア部51,61の表面を洗浄後、スッパッタリングにより、コア部51,61の端面に炭化珪素膜を約40nmの膜厚で被覆させて保護膜23を形成した。この保護膜23上に、CVDにより二酸化ケイ素を約20nmの膜厚で被覆させて中間膜24を形成した。この中間膜24上にシランカップリング剤(具体的にはオプツールDSX(商標名))を塗布して加熱等の処理を施すことによって約5nmの膜厚を有する離型膜25を形成した。以上のように処理することで、コア部51,61の表面すなわち光学面形成面56a,66aにおいて、樹脂との離型性が良いシランカップリング剤による被覆が可能になる。この離型膜25は、その下地のSiO製の中間膜24と共有結合し、コア部51,61の下地と強固に結合している。さらに、母材転写面22a上に被覆された保護膜23、中間膜24、及び離型膜25の合計膜厚は、約65nmと薄いので、コア部51,61の最表面すなわち光学面形成面56a,66aの形状は、母材転写面22aの形状を精度良く再現したものとなっている。
【0052】
シランカップリング剤製の離型膜25や、その下のSiO製の中間膜24は、成形を繰り返すと劣化し、離型性が悪くなった。そこで、このように劣化したコア部51,61を以下のような処理によって再生した。具体的には、中間膜24等の除去に使用するエッチング液として、ガラスコートの除去液を用いた。このエッチング液にコア部51,61の適所を10分間浸漬する。浸漬後のコア部51,61の表面を組成分析した結果、炭化珪素のみが検出される。つまり、上記のようなエッチング処理は、炭化珪素膜で止まっており、炭化珪素製の保護膜23が保護膜としての役割を果たしていることが分かった。この剥き出しになった炭化珪素製の保護膜23の上に、新しく二酸化ケイ素膜、シランカップリング剤製の膜の順に被覆することで、中間膜24と離型膜25とを順次形成した。以上の再生処理により、コア部51,61は再び離型性を有するようになり、元のように精密な形状を有する樹脂成形品を製造できた。つまり、加工や研磨を行うことなく金型としてのコア部51,61を再生することができた。
【0053】
〔実施例3〕
実施例1と同様に、本体部分21を準備し、無電解ニッケルめっき法によって転写面加工層22を成膜し、この表面に母材転写面22aを形成した。次に、コア部51,61の表面を洗浄後、スッパッタリングにより、コア部51,61の端面にアルミナを約40nmの膜厚で被覆させて保護膜23を形成した。この保護膜23上に、CVDにより二酸化ケイ素を約20nmの膜厚で被覆させて中間膜24を形成した。この中間膜24上にシランカップリング剤(具体的にはオプツールDSX(商標名))を塗布して加熱等の処理を施すことによって約5nmの膜厚を有する離型膜25を形成した。以上のように処理することで、コア部51,61の表面すなわち光学面形成面56a,66aにおいて、樹脂との離型性が良いシランカップリング剤による被覆が可能になる。この離型膜25は、その下地のSiO製の中間膜24と共有結合し、コア部51,61の下地と強固に結合している。さらに、母材転写面22a上に被覆された保護膜23、中間膜24、及び離型膜25の合計膜厚は、約65nmと薄いので、コア部51,61の最表面すなわち光学面形成面56a,66aの形状は、母材転写面22aの形状を精度良く再現したものとなっている。
【0054】
シランカップリング剤製の離型膜25や、その下のSiO製の中間膜24は、成形を繰り返すと劣化し、離型性が悪くなった。そこで、このように劣化したコア部51,61を以下のような処理によって再生した。具体的には、中間膜24等の除去に使用するエッチング液として、ガラスコートの除去液を用いた。このエッチング液にコア部51,61の適所を10分間浸漬する。浸漬後のコア部51,61の表面を組成分析した結果、アルミナのみが検出される。つまり、上記のようなエッチング処理は、アルミナ膜で止まっており、アルミナ製の保護膜23が保護膜としての役割を果たしていることが分かった。この剥き出しになったアルミナ製の保護膜23の上に、新しく二酸化ケイ素膜、シランカップリング剤製の膜の順に被覆することで、中間膜24と離型膜25とを順次形成した。以上の再生処理により、コア部51,61は再び離型性を有するようになり、元のように精密な形状を有する樹脂成形品を製造できた。つまり、加工や研磨を行うことなく金型としてのコア部51,61を再生することができた。
【0055】
〔実施例4〕
実施例1と同様に、本体部分21を準備し、無電解ニッケルめっき法によって転写面加工層22を成膜し、この表面に母材転写面22aを形成した。次に、コア部51,61の表面を洗浄後、スッパッタリングにより、コア部51,61の端面に酸化クロムを約40nmの膜厚で被覆させて保護膜23を形成した。この保護膜23上に、CVDにより二酸化ケイ素を約20nmの膜厚で被覆させて中間膜24を形成した。この中間膜24上にシランカップリング剤(具体的にはオプツールDSX(商標名))を塗布して加熱等の処理を施すことによって約5nmの膜厚を有する離型膜25を形成した。以上のように処理することで、コア部51,61の表面すなわち光学面形成面56a,66aにおいて、樹脂との離型性が良いシランカップリング剤による被覆が可能になる。この離型膜25は、その下地のSiO製の中間膜24と共有結合し、コア部51,61の下地と強固に結合している。さらに、母材転写面22a上に被覆された保護膜23、中間膜24、及び離型膜25の合計膜厚は、約65nmと薄いので、コア部51,61の最表面すなわち光学面形成面56a,66aの形状は、母材転写面22aの形状を精度良く再現したものとなっている。
【0056】
シランカップリング剤製の離型膜25や、その下のSiO製の中間膜24は、成形を繰り返すと劣化し、離型性が悪くなった。そこで、このように劣化したコア部51,61を以下のような処理によって再生した。具体的には、中間膜24等の除去に使用するエッチング液として、ガラスコートの除去液を用いた。このエッチング液にコア部51,61の適所を10分間浸漬する。浸漬後のコア部51,61の表面を組成分析した結果、酸化クロムのみが検出される。つまり、上記のようなエッチング処理は、酸化クロム膜で止まっており、酸化クロム製の保護膜23が保護膜としての役割を果たしていることが分かった。この剥き出しになった酸化クロム製の保護膜23の上に、新しく二酸化ケイ素膜、シランカップリング剤製の膜の順に被覆することで、中間膜24と離型膜25とを順次形成した。以上の再生処理により、コア部51,61は再び離型性を有するようになり、元のように精密な形状を有する樹脂成形品を製造できた。つまり、加工や研磨を行うことなく金型としてのコア部51,61を再生することができた。
【0057】
〔実施例5〕
実施例1と同様に、本体部分21を準備し、無電解ニッケルめっき法によって転写面加工層22を成膜し、この表面に母材転写面22aを形成した。次に、コア部51,61の表面を洗浄後、スッパッタリングにより、コア部51,61の端面にクロムを約40nmの膜厚で被覆させて保護膜23を形成した。この保護膜23上に、CVDにより酸化チタンを約20nmの膜厚で被覆させて中間膜24を形成した。この中間膜24上にシランカップリング剤(具体的にはオプツールDSX(商標名))を塗布して加熱等の処理を施すことによって約5nmの膜厚を有する離型膜25を形成した。以上のように処理することで、コア部51,61の表面すなわち光学面形成面56a,66aにおいて、樹脂との離型性が良いシランカップリング剤による被覆が可能になる。この離型膜25は、その下地の酸化チタン製の中間膜24と共有結合し、コア部51,61の下地と強固に結合している。さらに、母材転写面22a上に被覆された保護膜23、中間膜24、及び離型膜25の合計膜厚は、約65nmと薄いので、コア部51,61の最表面すなわち光学面形成面56a,66aの形状は、母材転写面22aの形状を精度良く再現したものとなっている。
【0058】
シランカップリング剤製の離型膜25や、その下の酸化チタン製の中間膜24は、成形を繰り返すと劣化し、離型性が悪くなった。そこで、このように劣化したコア部51,61を以下のような処理によって再生した。具体的には、中間膜24等の除去に使用するエッチング液として、ガラスコートの除去液を用いた。このエッチング液にコア部51,61の適所を10分間浸漬する。浸漬後のコア部51,61の表面を組成分析した結果、酸化クロムのみが検出される。つまり、上記のようなエッチング処理は、酸化クロム膜で止まっており、クロム製の保護膜23が保護膜としての役割を果たしていることが分かった。この剥き出しになったクロム製の保護膜23の上に、新しく酸化チタン膜、シランカップリング剤製の膜の順に被覆することで、中間膜24と離型膜25とを順次形成した。以上の再生処理により、コア部51,61は再び離型性を有するようになり、元のように精密な形状を有する樹脂成形品を製造できた。つまり、加工や研磨を行うことなく金型としてのコア部51,61を再生することができた。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る成形金型やその再生方法によれば、離型膜25と共有結合する中間膜24と、金型母材を構成する転写面加工層22や本体部分21との間に、エッチング液に対する耐性を有し10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜23を設けるので、離型膜25を中間膜24とともにエッチング液によって除去する際に、転写面加工層22等をエッチング液から保護することができる。これにより、離型膜25の付着性を下地の中間膜24によって高めたタイプの成形金型40においても、中間膜24と離型膜25とを一旦除去して再度形成する成形金型40の再生が可能になる。ここで、保護膜23が10nm以上100nm以下と、比較的薄いので、転写面加工層22等における母材転写面22aの形状が保たれ転写精度を高めることができる。
【0060】
〔第2実施形態〕
図5(A)に示す第2実施形態の成形金型441は、マスター成形型であり、図5(B)に示す樹脂製品としてのウエハレンズWLを成形又は製造するために用いられる。なお、ウエハレンズWLの製造にあたっては、成形用の型として、図5(A)の成形金型441のほかに、図5(C)に示すサブマスター成形型442も使用される。なお、サブマスター成形型442は、光学面形成面457aと、その他の面457bとを有する成型用の本体成形部446の裏面側に裏打ち材447を貼り付けて強度を増している。
【0061】
成形金型441の表面部441aには、光学面形成面456aと非光学面形成面456bとが形成されている。成形金型441の表面部441aの構造は、図2に示すものと同様となっており、本体部分21上に、転写面加工層22と、保護膜23と、中間膜24と、離型膜25とを順次積層した構造を有する。
【0062】
以下、図5(A)の成形金型441等を用いたウエハレンズWLの製造方法一例について説明する。まず、成形金型441を準備する(図6(A)参照)。成形金型441の製造方法は、図2に示すコア部51の製造方法と同様である。すなわち、成形金型441の母材をニッケルリンめっき層で被覆して転写面加工層22を形成し、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)等を気相法で成膜して保護膜23とする。その上に、二酸化珪素(SiO)、酸化チタン(TiO)を気相法で成膜して保護膜23よりも薄い中間膜24とする。この保護膜23は、シランカップリング剤等の材料で形成された離型膜25で被覆される。
【0063】
次に、成形金型441からサブマスター成形型442を作製する(図6(B)参照)。サブマスター成形型442は、樹脂製であり、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。ここで、成形金型441の光学面形成面456aと非光学面形成面456bとは、離型膜25で覆われており、サブマスター成形型442の離型を容易にすることができる。
【0064】
次に、ガラス基板GPを準備し、ガラス板GPと、サブマスター成形型442の表面部442aとの間に樹脂を充填して硬化させる(図6(C)参照)。より詳細には、サブマスター成形型442の凹部を形成する光学面形成面457aに樹脂REを充填し、その上方からガラス基板GPを押圧し、充填された樹脂REを硬化させる。なお、サブマスター成形型442に樹脂REを充填するのに代えて、ガラス基板GPに樹脂REを塗布し、樹脂REが塗布されたガラス基板GPをサブマスター成形型442に押圧することもできる。樹脂REの塗布には、スプレーコート,スピンコート等の手法を用いることができる。樹脂REの硬化には、例えばガラス板GPやサブマスター成形型442のいずれか又は双方の背後に配置した光源によって樹脂REに対する光照射を行う。樹脂REの硬化により、ガラス基板GP上には、レンズ部LPが形成される。
【0065】
その後、ガラス板GPと、サブマスター成形型442の光学面形成面457a等との間に充填された樹脂REが硬化した段階で、レンズ部LPを設けたガラス板GPをサブマスター成形型442から離型する(図6(D)参照)。これにより、ガラス基板GP上に硬化した樹脂REすなわちレンズ部LPを設けたウエハレンズWLが得られる。
【0066】
以上のようなウエハレンズWLの作製において、成形金型441の使用を多数回繰り返すと、成形金型441の表面の離型膜25が部分的に除去される。よって、定期的に成形金型441の表面に対して、シランカップリング剤の再付着処理を行う。これにより、中間膜24を十分に被覆する保護膜23を再生することができる。
【0067】
また、成形金型441を用いたウエハレンズWLの作製をさらに多数回繰り返すと、成形金型441の端面の中間膜24が離型膜25とともに部分的に除去される。この場合、シランカップリング剤の再付着処理では、成形金型40を再生することができないので、中間膜24と離型膜25とを再形成することで、コア部51,61を略初期状態に再生することができる。具体的な工程は、第1実施形態で説明した成形金型40のコア部51,61の再生と同様である(図4(A)〜4(D)参照)。
【0068】
以上の第2実施形態において、ガラス板GPの一面にのみレンズ部LPを設けることによってウエハレンズWLを完成しているが、成形金型441と同様の成形金型を用いてガラス板GPの両面にレンズ部LPを設けることもできる。また、レンズ部LPの個数や配列も用途等に応じて適宜変更することができる。
【0069】
以上の第2実施形態によっても、離型膜25を中間膜24とともにエッチング液によって除去する際に、転写面加工層22等をエッチング液から保護することができる。これにより、離型膜25の付着性を下地の中間膜24によって高めたタイプの成形金型441においても、中間膜24と離型膜25とを一旦除去して再度形成する成形金型441の再生が可能になる。
【0070】
なお、第2実施形態の成形金型441についても、詳細な説明は省略するが、上記第1実施形態の実施例1〜5と同様の結果を得た。
【0071】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記第1実施形態では、コア部51,61の先端部51a,61aにおいて、転写面加工層22と、保護膜23と、中間膜24と、離型膜25とを設けているが、固定金型41や可動金型42がコア部51,61を有しない一体型の金型である場合、固定金型41や可動金型42の端部において、図2等に示す転写面加工層22、保護膜23、中間膜24、離型膜25等を設けることができる。
【0072】
また、コア部51,61や成形金型441において、本体部分21と転写面加工層22との間に、追加的な膜や層を形成することもできる。
【0073】
また、固定金型41及び可動金型42で構成される射出成形金型に設けるキャビティCVの形状は、図示のものに限らず、様々な形状とすることができる。すなわち、コア部51,61等によって形成されるキャビティCVの形状は、単なる例示であり、レンズOLの用途等に応じて適宜変更することができる。また、成形金型441の表面部441aに形成する光学面形成面456aの形状も、図示のものに限らず、様々な形状とすることができる。
【符号の説明】
【0074】
21…本体部分、 2…転写面加工層、 2a…母材転写面、 3…保護膜、 4…中間膜、 25…離型膜、 40…成形金型、 41…固定金型、 42…可動金型、 51…コア部、 51a…先端部、 51a,61a…先端部、 53…型板、 54…取付板、 56a…光学面形成面、 56b…フランジ形成面、 57a…貫通孔、 61…コア部、 61a…先端部、 63…型板、 64…取付板、 66a…光学面形成面、 66b…フランジ形成面、 AX…軸、 CV…キャビティ、 FS…微細形状、 OL…レンズ、 OLa…中心部、 PL…パーティングライン、 Sa,Sb…光学面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、
前記金型母材の母材転写面上に当該母材転写面を被覆するように形成され、エッチング液に対する耐性を有し、10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜と、
前記保護膜上に形成される中間膜と、
中間膜上に形成され、前記中間膜と共有結合する離型膜とを有する成形金型。
【請求項2】
前記母材転写面は、微細形状を有する光学面に対応する微細形状を有することを特徴とする請求項1に記載の成形金型。
【請求項3】
前記母材転写面に形成される微細形状は、ナノメータオーダーのサイズを有することを特徴とする請求項2に記載の成形金型。
【請求項4】
前記金型母材の表面は、無電解ニッケルメッキによって形成されたメッキ層で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項5】
前記離型膜は、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項6】
前記中間膜は、二酸化珪素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、及び酸化亜鉛のうち少なくとも1つで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項7】
前記中間膜は、気相法によって成膜されることを特徴とする請求項6に記載の成形金型。
【請求項8】
前記中間膜は、液相法によって成膜されることを特徴とする請求項6に記載の成形金型。
【請求項9】
前記保護膜は、アルミナ、炭化珪素、クロム、及び酸化クロムのうち少なくとも1つで形成されることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項10】
樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、前記金型母材の母材転写面上に当該母材転写面を被覆するように形成される保護膜と、前記保護膜上に形成される中間膜と、中間膜上に形成され前記中間膜と共有結合する離型膜とを有する成形金型の再生方法であって、
エッチング液に浸漬し、中間膜と離型膜を除去することによって、エッチング液に対する耐性を有する前記保護膜を露出させる工程と、
前記保護膜の上に、新しい中間膜を成膜する工程と、
前記新しい中間膜上に、新しい離型膜を成膜する工程とを備えることを特徴とする成形金型の再生方法。
【請求項11】
樹脂成形用の成形金型を用いた樹脂製品の製造方法であって、
前記成形金型は、樹脂成形用の転写面の土台となる金型母材と、離型膜と共有結合する中間膜との間に、エッチング液に対する耐性を有し、10nm以上100nm以下の膜厚を有する保護膜を有し、
前記樹脂製品は、前記保護膜の表面形状に略一致する被転写面を有することを特徴とする樹脂製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−213005(P2011−213005A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84385(P2010−84385)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】