説明

成形金型、製造方法、及びスペーサ

【課題】入れ子のシフト偏芯及びチルト偏芯を調整することができ、簡易に正確な位置決めを行うことができる成形金型を提供すること。
【解決手段】スペーサ81,82の型板61に当接される表面S31,S32に設けられた第1支持領域AR1での肉厚Aと第2支持領域での肉厚Bとが異なることにより、第1支持領域AR1と第2支持領域AR2との高低差を利用した角度αの角度傾斜又はくさび角を形成することができる。そのため、当該スペーサ81,82を型本体63と型板61との間に挟むことにより、型本体63のシフトの調整をしつつ、チルトの調整もすることができる。このようにシフト及びチルトの偏芯調整が可能となるため、例えば光学素子等の高精度な成形品、具体的には、偏芯誤差感度がDVDの約5倍にもなるBD用ピックアップレンズを安定して成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形に用いられる成形金型等に関し、特に、型板に複数の入れ子状の型本体を配置し、各型本体を型板に対してそれぞれ位置調整できるようにする際に好適な成形金型、これを用いた光学素子の製造方法、並びに、これに組み込まれるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
成形金型として、入れ子を保持するとともに、入れ子を当接させる内壁面を移動させることにより、入れ子の位置を調節するものがある(特許文献1参照)。この金型では、直角に延びる壁面の内側に直交する2つの内壁面を設けている。各内壁面は、壁面に螺合するネジ軸によって壁面からの距離を調節可能にして、型板に対する入れ子の偏芯を解消するようにしている。そして、調整後は入れ子押さえによって入れ子を両内壁面に押さえ付けることにより、入れ子を型板に対して固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−96580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献のような成形金型では、入れ子の軸に垂直な方向に関するシフト偏芯の調整は可能であるが、チルト偏芯の調整が困難であるという問題がある。例えばNAの高いレンズにおいては、NAの低いレンズに比べてチルトによる誤差感度が約2〜4倍にもなり、シフト偏芯の調整のみでは十分な精度のレンズを成形できない。また、上記のようなネジ軸によって入れ子を当接させる内壁面を移動させる調節方法では、入れ子の安定した正確な位置決めが困難であり、偏芯にばらつきが生じ得る。
【0005】
そこで、本発明は、入れ子のシフト偏芯及びチルト偏芯を調整することができ、簡易に正確な位置決めを行うことができる成形金型及びかかる成形金型を用いた光学素子の製造方法、並びに、かかる成形金型に組み込まれるスペーサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る成形金型は、転写面を有する入れ子状の型本体と、型本体を収容する凹所を有する型板と、型本体及び型板のうち一方の部材に分離可能に固定されて、型本体と型板との間に挟まれるように配置されるスペーサと、を備え、スペーサの型本体及び型板に当接される少なくとも一方の面は、第1支持領域と第2支持領域とを有し、第1支持領域での肉厚と第2支持領域での肉厚とが異なる。
【0007】
上記成形金型では、スペーサの型本体及び型板に当接される少なくとも一方の面に設けられた第1支持領域での肉厚と第2支持領域での肉厚とが異なることにより、第1支持領域と第2支持領域との高低差を利用した角度傾斜又はくさび角を形成することができる。そのため、当該スペーサを型本体と型板との間に挟むことにより、型本体のシフトの調整をしつつ、チルトの調整もすることができる。このようにシフト及びチルトの偏芯調整が可能となるため、例えば光学素子等の高精度な成形品、具体的には、偏芯誤差感度がDVD(Digital Versatile Disc)の約5倍にもなるBD(Blu-ray Disc)用ピックアップレンズを、安定して成形することができる。
【0008】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記成形金型において、スペーサは、型本体及び型板のうち一方の部材に固定される際に当該一方の部材に密着する裏面と、型本体を型板に組み付ける際に型本体及び型板のうち他方の部材に当接する表面とを有し、表面は、第1及び第2支持領域を有する。この場合、第1及び第2支持領域が設けられていない裏面を型板及び型本体のうち一方の部材に密着させることにより、スペーサを安定して固定することができる。また、第1及び第2支持領域が設けられている表面を型板及び型本体のうち他方の部材に当接させることにより、型本体を型板に対してわずかに傾斜させて固定することができる。
【0009】
本発明の別の態様では、スペーサは、第1支持領域及び第2支持領域の少なくともいずれか一方に局所的に形成された支持層を有する。この場合、支持層の形成により第1支持領域での肉厚と第2支持領域での肉厚とを異なるものとし、両支持領域での肉厚の差すなわち高低差を比較的容易に調整することができる。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、第1支持領域及び第2支持領域の少なくともいずれか一方は、スペーサの周辺側に偏在する。この場合、第1支持領域及び第2支持領域の少なくともいずれか一方をスペーサの周辺側に偏在させることにより、第1支持領域及び第2支持領域に対向する型本体又は型板を安定して支持することができる。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、スペーサは、四角形の板状体である。この場合、スペーサが四角形の板状体であるため、均一な厚みにする加工がしやすく、より高精度なスペーサを得ることができる。
【0012】
本発明に係る光学素子の製造方法は、上述の成形金型を用いて、射出成形を行う。
【0013】
上記製造方法では、本発明の成形金型を用いて射出成形を行うため、上記した本発明の成形金型における型本体のシフト及びチルトの調整の結果として、可動金型と固定金型との間で高精度で安定した調芯が可能になる。これにより、例えば光学素子等の高精度の成形品を安定して得ることができる。
【0014】
本発明に係るスペーサは、成形金型の型本体と型板との間に挿入可能な板状のスペーサであって、型本体及び型板に当接される少なくとも一方の面は、第1支持領域と第2支持領域とを有し、第1支持領域での肉厚と第2支持領域での肉厚とが異なる。なお、肉厚とは、上記一方の面に垂直な方向の厚みを意味する。
【0015】
上記スペーサによれば、型本体及び型板に当接される少なくとも一方の面に設けられた第1支持領域での肉厚と第2支持領域での肉厚とが異なることにより、第1支持領域と第2支持領域との高低差を利用した角度傾斜又はくさび角を形成することができる。そのため、型本体のシフトの調整をしつつ、チルトの調整もすることができる。このようにシフト及びチルトの偏芯調整が可能となるため、例えば光学素子等の高精度な成形品を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の成形金型を組み込んだ成形装置を説明する正面図である。
【図2】(A)は、図1に示す固定金型の一部の端面構造を説明する図であり、(B)は、固定金型の一部の側方断面の構造を説明する図である。
【図3】(A)〜(D)は、スペーサの平面図、GG矢視断面図、HH矢視断面図,及び側面図である。
【図4】(A)〜(D)は、各スペーサの作製工程を説明する図である。
【図5】(A)〜(D)は、第2実施形態のスペーサの平面図、GG矢視断面図、HH矢視断面図、及び側面図である。
【図6】(A)〜(D)は、第3実施形態のスペーサの平面図、GG矢視断面図、HH矢視断面図、及び側面図である。
【図7】(A)、(B)は、各スペーサの作製工程の変形例を説明する図である。
【図8】(A)〜(C)は、各スペーサの作製工程の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態である成形金型等について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の成形金型を組み込んだ成形装置を説明する正面図である。図示の成形装置100は、射出成形によって樹脂成形品を実際に作製する本体としての射出成形機10と、射出成形機10を構成する各部の動作を統括的に制御する制御装置30とを備える。
【0019】
射出成形機10は、固定盤11と、可動盤12と、型締め盤13と、開閉駆動装置15と、射出装置16とを備える。射出成形機10は、固定盤11と可動盤12との間に固定金型41と可動金型42とを挟持して両金型41,42を型締めすることにより成形を可能にする。
【0020】
固定盤11は、支持フレーム14の中央に固定されている。固定盤11は、固定金型41を着脱可能に支持している。なお、固定盤11は、タイバーを介して型締め盤13に固定されており、成形時の型締めの圧力に耐え得るようになっている。
【0021】
可動盤12は、リニアガイド15aによって固定盤11に対して進退移動可能に支持されている。可動盤12は、可動金型42を着脱可能に支持している。なお、可動盤12には、エジェクタ45が組み込まれている。このエジェクタ45は、離型時に可動金型42から分離すべき樹脂成形品を可動金型42内から固定金型41側に押し出すためのものである。
【0022】
型締め盤13は、支持フレーム14の端部に固定されている。型締め盤13は、型締めに際して、開閉駆動装置15の動力伝達部15dを介して可動盤12をその背後から支持する。
【0023】
開閉駆動装置15は、リニアガイド15aと、動力伝達部15dと、アクチュエータ15eとを備える。リニアガイド15aは、可動盤12を支持しつつ、固定盤11に対する進退方向に関して可動盤12の滑らかな往復移動を可能にしている。動力伝達部15dは、アクチュエータ15eからの駆動力を受けて伸縮する。これにより、型締め盤13に対して可動盤12が近接したり離間したり自在に進退移動し、結果的に、可動盤12と固定盤11とを互いに近接又は離間させることができ、固定金型41と可動金型42との型締め又は離間を行うことができる。
【0024】
なお、制御装置30は、金型41,42用の型温度制御部、開閉駆動装置15用の開閉制御部、射出成形機10用の射出制御部、エジェクタ45用のエジェクタ制御部等を有している。
【0025】
図2(A)及び2(B)に示すように、固定金型41は、固定盤11(図1参照)に取り付けられた支持用の基板である型板61と、この型板61に収納されて支持される入れ子状の型本体63とを備える。型板61は、四角柱状の凹所である収納穴61aを有し、型本体63を着脱可能に固定するための第1及び第2固定装置64,65を備えている。一方、型本体63は、型板61の収納穴61aに収納される四角柱状の部材であり、2つの隣接する側面S11,S12に板状の部材であるスペーサ81,82をそれぞれ分離可能に取り付けた構造を有する。
【0026】
型板61において、収納穴61aの隣接する2つの平坦な内面P21,P22は、型本体63に設けた隣接する側面S11,S12をスペーサ81,82を介してそれぞれ支持する支持面となっている。ここで、詳しくは後述するが、スペーサ81,82の型本体63側の表面S31,S32には、型本体63を支持する第1支持領域AR1と第2支持領域AR2とが設けられている。第1及び第2支持領域AR1,AR2での肉厚は異なっており、その高低差を利用してスペーサ81,82には角度傾斜又はくさび角が形成されている。スペーサ81,82の第1支持領域AR1の当接部分S41及び第2支持領域AR2の当接部分S42と、収納穴61aの内面P21,P22とは、後述する締付力によって互いに密着している。
【0027】
この収納穴61aにおいて、内面P21に対向する内面P23側に設けられた第1固定装置64は、押さえ板64aと、ネジ部材64bと、案内部材64cとを備える。押さえ板64aは、型本体63の側面S13に当接してこの側面S13を内面P21側に付勢する。これにより、型本体63の側面S11と型板61の内面P21との間にスペーサ81が挟まれて適当な締付力で押圧され型本体63のAB方向に関する位置決めと紙面に垂直な軸まわりのθ回転の調整とをしつつ固定が可能になる。なお、案内部材64cは、押さえ板64aの滑らかな移動を案内するためのものである。
【0028】
収納穴61aの内面P24側に設けられた第2固定装置65は、押さえ板65aと、ネジ部材65bと、案内部材65cとを備える。押さえ板65aは、型本体63の側面S14に当接してこの側面S14を内面P22側に付勢する。これにより、型本体63の側面S12と型板61の内面P22との間にスペーサ82が挟まれて適当な締付力で押圧され型本体63のCD方向に関する位置決めと紙面に垂直な軸まわりのθ回転の調整とをしつつ固定が可能になる。なお、案内部材65cは、押さえ板65aの滑らかな移動を案内するためのものである。
【0029】
型本体63は、上述の側面S11,S12,S13,S14の両端に一対の端面63a,63bを有する四角柱又は直方体である。前側の端面63aは、図1に示す可動金型42に対する型合わせ面となっており、中央側に型空間を形成する転写面TSを有する。この端面63aに対して、各側面S11,S12,S13,S14は垂直に延びている。一方、後側の端面63bは、前側の端面63aに対して平行に配置されており、型板61の収納穴61aの底面P51に当接した状態で固定される。固定金型41に対して可動金型42を閉じ合わせる型締め時には、端面63aに大きな負荷が働かないようにしているが、端面63aに多少の負荷が作用しても、この底面P51によって、型本体63のEF方向への移動が阻止される。
【0030】
以下、スペーサ81,82について詳しく説明する。図3に示すように、各スペーサ81,82は、全体として所定の厚みを有する四角形の板状体の基材81a,82aで形成されている。上述のように、各スペーサ81,82は、型本体63側の一方の面である表面S31,S32に、型本体63を支持する第1支持領域AR1と第2支持領域AR2とをそれぞれ有する。表面S31,S32のうち第1及び第2支持領域AR1,AR2以外の領域は、型本体63を支持しない非支持領域AR3となっている。
【0031】
図2及び図3に示すように、第1支持領域AR1は、スペーサ81,82の表面S31,S32の周辺のうち長手方向の一方の辺側に偏在しており、AB方向又はCD方向に平行に延びている。第1支持領域AR1には、薄く一様な無機材料膜によって支持層SLが局所的に形成されている。第1支持領域AR1の支持層SLは、上述したように当接部分S41によって図2に示す型板61の内面P21の上方寄りすなわち開口側に当接して型板61を支持する。第2支持領域AR2は、スペーサ81,82の表面S31,S32の周辺のうち長手方向の他方の辺に偏在しており、AB方向又はCD方向に平行に延びている。第2支持領域AR2は、第1支持領域AR1と異なり、支持層SLが設けられていない。すなわち、第2支持領域AR2の当接部分S42は、スペーサ81,82の基材81a,82a自体であり、当接部分S42によって図2に示す型板61の内面P21の下方寄りすなわち底側に当接して型板61を支持する。第1支持領域AR1が支持層SLを有し、第2支持領域AR2が支持層SLを有しないことから、図3(C)及び3(D)に示すように、第1支持領域AR1での肉厚A(基材81a,82aの厚みと支持層SLの厚みとを加算したものであり、図面では支持層の厚みが誇張して表現されている)と第2支持領域AR2での肉厚B(基材81a,82aの厚み)とは異なるものとなっている。これにより、第1及び第2支持領域AR1,AR2の高低差を利用した微小な角度傾斜又はくさび角(図面では角度αとして誇張して表現している)が形成される。その結果、スペーサ81,82を図2に示すように組み付けた状態において、スペーサ81,82の表面S31,S32の当接部分S41,S42が型板61側に密着することで、型本体63の側面S11を型板61の内面P21から紙面に垂直な軸のまわりに角度αだけ傾けた状態で固定させることができる。具体的には、角度αの大きさは、例えば肉厚Aと肉厚Bとの差が0.5μmの場合に0.00286度、10μmの場合に0.0573度となる。なお、スペーサ81,82によって形成されている傾斜の角度αは、図3(D)に示すように、基材81a,82aの幅Cと、第1支持領域AR1の肉厚Aと第2支持領域AR2の肉厚Bとの差A−Bとによって決まる。また、各スペーサ81,82によって形成される傾斜の角度αは個別に調整される。つまり、2方向から傾きを調整することができる。
【0032】
図3に示すように、スペーサ81,82のうち表面S31,S32の反対側の面である裏面S33,S34は、表面S31,S32のように支持層SLは設けられておらず、基材81a,82a自体の平面となっている。スペーサ81,82を図2に示すように組み付けた状態において、スペーサ81,82の裏面S33,S34全体は、型本体63の側面S11,S12に当接しており、型本体63側に密着している。
【0033】
図3に示すように、スペーサ81,82には、基材81a,82aを一部除去するように穿孔することによって、ネジ止め用の一対の締結孔85a,85bが形成されている。各締結孔85a,85bには、ボルトBOが通されており、このボルトBOを型本体63に形成されたねじ穴63cに適度のトルクでねじ込むことにより、ボルトBOのヘッド部HDによってスペーサ81,82の基材81a,82aを締め付けることができる。つまり、ボルトBOの締め付けによって、スペーサ81,82を型本体63の側面S11,S12に所望の付勢力で安定させて固定することができる。なお、各締結孔85a,85bには、締付け用の座85eが形成されている。これらの座85eは、締結孔85a,85bの内径を表面S31,S32側で大きくすることによって段差状に形成される。これらの座85eにより、ヘッド部HD上端を表面S31,S32よりも奥側に配置することができる。
【0034】
以上をまとめると、図2に示すように、型本体63を型板61に固定した場合、スペーサ81を介して型本体63の側面S11が型板61の内面P21に対して角度αだけ傾斜した状態となり、スペーサ82を介して型本体63の側面S12が型板61の内面P22に対して角度αだけ傾斜した状態となる。さらに、スペーサ81,82は、ボルトBOを緩めることによって交換可能であり、様々な厚さ及び傾斜のスペーサ81,82を予め用意するとともに、スペーサ81,82の厚さ及び傾斜を増減して適切なものに変更することができる。これにより、型板61に対する型本体63の位置及び傾斜の調整が可能となり、可動金型42に対する固定金型41側の型本体63の調芯が可能になる。厚み及び傾斜が異なる多数のスペーサを集めたスペーサ・セットを予め準備しておき、このスペーサ・セットの中から選択して型本体63に対して適切なスペーサ81,82に付け替えることで、その厚み及び傾斜を自在に調節することができる。このようなスペーサ・セットを構成するスペーサ81,82の厚み及び傾斜の変化を細かくすることで、型本体63のシフト及びチルトの調芯精度を向上させることができる。各スペーサ81,82には、その厚みや傾斜を示す記号や数値を予め刻設しておくことができる。このように、スペーサ81,82を利用して型本体63の位置決め等を可能にすることで、型本体63の交換時の調芯を確実で高精度にすることができる。さらに、型本体63の長期間の使用によって再調芯が必要になった場合も、このような再調芯の作業を簡易で確実なもとできる。
【0035】
以下、スペーサ81,82の作製方法について説明する。まず、図4(A)に示すように、スペーサ81の元となる板材92を準備する。この板材92は、目標の板厚よりも大きな板厚を有している平板である。板材92は、ステンレス鋼(例えばSUS420)、炭素鋼(例えばS45C)、超鋼合金等で形成される。このうち、炭素鋼は、比較的柔らかく目標の形状にする加工が容易である。また、超鋼合金は、硬度が高いので加工があまり容易でないが、徐々に切削することで厚みを精密に制御することができる。次に、図4(B)に示すように、切削や研削を含む機械加工によって、板材92の表面層92aを除去して所望の厚みの基材81a,82aを形成する。この基材81a,82aの厚みは、図2等に示すスペーサ81,82の第2支持領域AR2での肉厚Bとなる。肉厚Bは、例えば0.5μm単位で調整される。基材81a,82aは、平坦度の高い表面92cと裏面92dとを有し、スペーサ81,82の表面S31,S32と裏面S33,S34とにそれぞれ対応する。次に、型板61の内面P21に当接すべき支持層SLを形成する。まず、図4(C)に示すように、基材81a,82aの表面92c上にマスクMを被せて所望の厚みDに無機材料膜93を成膜する。マスクMは、支持層SLが形成されるべき領域が露出するようなパターンとなっている。成膜後、マスクMを取り除くと、図4(D)に示すように、表面92c上に所定のパターンの支持層SLが形成される。ここで、無機材料膜93を形成するための成膜材料としては、例えば金属、金属化合物、炭素薄膜等を用いることができる。成膜材料の金属として、例えばチタン、クロム等を用いることができる。また、成膜材料の金属化合物として、例えば窒化チタン等を用いることができる。さらに、成膜材料の炭素薄膜として、例えばダイヤモンド・ライク・カーボン等を用いることができる。以上の成膜は、真空蒸着、スパッタリング等のPVD法によって行うこともできるが、CVD法によって行うこともできる。無機材料膜93の膜厚の制御は、例えばPVD法やCVD法による成膜時において、成膜時間の調整によって行う。ただし、単位時間当たりの成膜量を変えることによっても、無機材料膜93の膜厚を調整することができる。
【0036】
なお、図2に示すネジ止め用の一対の締結孔85a,85bは、支持層SLを形成する前若しくは後に、機械加工によって、基材81a,82aを一部除去するように穿孔して形成する。また、以上の説明では、簡単のため、1つの入れ子状の型本体63を型板61に対して配置した形態で説明を行っている。つまり、図示を省略しているが、実際の型板61は、2つ以上の収納穴61aを有しており、収納穴61aに対応する個数の型本体63をスペーサ81,82や固定装置64,65を利用してそれぞれ調芯可能に固定する。
【0037】
また、以上では、第1及び第2支持領域AR1,AR2を有するスペーサ81,82によって、型本体63の型板61に対する相対的な位置決めを簡易確実に達成することができる固定金型41について説明したが、可動金型42も、上記固定金型41と同様の構造とすることができる。これにより、可動金型42においても、上記スペーサ81,82によって型本体の型板に対する相対的な位置決めを簡易確実に達成することができる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本実施形態のスペーサ81,82によれば、スペーサ81,82の型板61に当接される表面S31,S32に設けられた第1支持領域AR1での肉厚Aと第2支持領域での肉厚Bとが異なることにより、第1支持領域AR1と第2支持領域AR2との高低差を利用した角度αの角度傾斜又はくさび角を形成することができる。そのため、当該スペーサ81,82を型本体63と型板61との間に挟むことにより、型本体63のシフトの調整をしつつ、チルトの調整もすることができる。このようにシフト及びチルトの偏芯調整が可能となるため、例えば光学素子等の高精度な成形品、具体的には、偏芯誤差感度がDVDの約5倍にもなるBD用ピックアップレンズを安定して成形することができる。
【0039】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係るスペーサについて説明する。なお、第2実施形態に係るスペーサは、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0040】
図5に示すように、各スペーサ81,82は、第1及び第2支持領域AR1,AR2には、支持層SL1,SL2がそれぞれ局所的に形成されている。第1支持領域AR1の支持層SL1は、当接部分S41によって図2に示す型板61の内面P21の上方寄りすなわち開口側に当接して型板61を支持する。また、第1支持領域AR2の支持層SL2は、当接部分S42によって図2に示す型板61の内面P21の下方寄りすなわち底側に当接して型板61を支持する。図5(C)及び5(D)に示すように、第1支持領域AR1での肉厚A(基材81a,82aの厚みと支持層SL1の厚みとを加算したもの)と第2支持領域AR2での肉厚B(基材81a,82aの厚みと支持層SL2の厚みとを加算したもの)とは異なるものとなっている。これにより、第1及び第2支持領域AR1,AR2の高低差を利用した角度αの角度傾斜又はくさび角が形成される。その結果、スペーサ81,82を図2に示すように組み付けた状態において、スペーサ81,82の表面S31,S32の当接部分S41,S42が型板61側に密着することで、型本体63の側面S11を型板61の内面P21から角度αだけ傾けた状態で固定させることができる。
【0041】
以上説明した第2実施形態に係るスペーサによれば、第2支持領域AR2に支持層SL2を設けることにより、支持層SL2を設けない場合よりも型板61に当接する当接部分S42の面積が広くなる。これにより、第1支持領域AR1の支持層SL1とともに、型板61の内面P21を安定して支持することができる。
【0042】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態に係るスペーサについて説明する。なお、第3実施形態に係るスペーサは、第1実施形態を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0043】
図6に示すように、各スペーサ81,82は、全体として所定の厚みを有する楕円形の板状体の基材81a,82aで形成されている。図6(A)に示すように、第1支持領域AR1には、基材81a,82aの周辺形状に沿った楕円形の支持層SLが形成されている。第2支持領域AR2は、第1支持領域AR1と異なり、支持層SLが設けられていない。第1支持領域AR1が支持層SLを有し、第2支持領域AR2が支持層SLを有しないことから、図6(C)及び6(D)に示すように、第1支持領域AR1での肉厚A(基材81a,82aの厚みと支持層SLの厚みとを加算したもの)と第2支持領域AR2での肉厚B(基材81a,82aの厚み)とは異なるものとなっている。これにより、第1及び第2支持領域AR1,AR2の高低差を利用した角度αの角度傾斜又はくさび角が形成される。その結果、スペーサ81,82を図2に示すように組み付けた状態において、スペーサ81,82の表面S31,S32の当接部分S41,S42が型板61側に密着することで、型本体63の側面S11を型板61の内面P21から角度αだけ傾けた状態で固定させることができる。
【0044】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、スペーサ81,82の作製方法は、例示であり、他の方法によっても作製することができる。例えば、図7(A)に示すように、第1支持領域AR1を覆うようなパターンを有するマスクMを肉厚Aの基材81a,82aの表面92c上に被せ、マスクMが形成されていない、つまり露出した部分をエッチングする。これにより、図7(B)に示すように、第1支持領域AR1には、支持層SLに相当する凸部94が形成される。エッチングは、例えば反応性ガス等によるドライエッチングや液体によるウェットエッチングによって行うことができる。また、図8(A)に示すように、最初に肉厚Bの基材81a,82aの表面92c全体に無機材料膜93を成膜する。その後、図8(B)に示すように、この無機材料膜93上に第1支持領域AR1を覆うようなパターンを有するマスクMを被せて、露出した部分の無機材料膜93をエッチングする。これにより、図8(C)に示すように、第1支持領域AR1に支持層SLが形成される。なお、図7、図8において、エッチング後にマスクMが取り除かれる。
【0045】
また、以上で説明したスペーサ81,82は、型本体63側に固定する必要はなく、型板61側に固定することもできる。また、スペーサ81,82を型本体63や型板61にボルトBOで固定する代わりに、ピンや磁石その他の着脱自在な保持部材を用いることができる。
【0046】
また、上記実施形態で説明した固定装置64,65等は例示であり、例えば型本体63の角部に傾斜側面を設け、この側面と型板の内壁面との間に図2に示す第1及び第2固定装置64,65や楔状のブッシュを挿入することによって型本体63を付勢して固定することもできる。
【0047】
また、以上の実施形態では、直交する2方向に位置調整可能な例を示したが、1方向にのみ位置調整する成形金型にも、上記実施形態を適用することができる。
【0048】
また、スペーサ81,82、支持層SL等の形状や大きさは、例示であり、型板61及び型本体63を支持できるものでれば、四角形や楕円形以外の形状や大きさにしてもよい。
【0049】
また、スペーサ81,82において、第2支持領域AR2の肉厚Bが第1支持領域AR1の肉厚Aよりも大きくなるようにしてもよい。この場合、第1実施形態等のスペーサ81,82とは逆方向にチルトを調整することができる。
【0050】
また、型板61において、収納穴61aに設けた支持面として内面P21,P22は、互いに直交する必要はなく、適当な鋭角や鈍角で交わるものとすることができる。
【0051】
また、型本体63の形状は、四角柱又は直方体に限らず、円柱等とすることができる。
【符号の説明】
【0052】
10…射出成形機、 11…固定盤、 12…可動盤、 16…射出装置、 41…固定金型、 42…可動金型、 61…型板、 61a…収納穴、 63…型本体、 64…第1固定装置、 65…第2固定装置、 81,82…スペーサ、 81a,82a…基材、 85a,85b…締結孔、 93…無機材料膜、 100…成形装置、 AR1…第1支持領域、 AR2…第2支持領域、 AR3…非支持領域、 P21,P22,P23,P24…内面、 P51…底面、 S11,S12,S13,S14…側面、 S31,S32…表面、 S33,S34…裏面、 TS…転写面、 SL,SL1,SL2…支持層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写面を有する入れ子状の型本体と、
前記型本体を収容する凹所を有する型板と、
前記型本体及び前記型板のうち一方の部材に分離可能に固定されて、前記型本体と前記型板との間に挟まれるように配置されるスペーサと、
を備え、
前記スペーサの前記型本体及び前記型板に当接される少なくとも一方の面は、第1支持領域と第2支持領域とを有し、
前記第1支持領域での肉厚と前記第2支持領域での肉厚とが異なることを特徴とする成形金型。
【請求項2】
前記スペーサは、前記型本体及び前記型板のうち一方の部材に固定される際に当該一方の部材に密着する裏面と、前記型本体を前記型板に組み付ける際に前記型本体及び前記型板のうち他方の部材に当接する表面とを有し、
前記表面は、前記第1及び第2支持領域を有することを特徴とする請求項1に記載の成形金型。
【請求項3】
前記スペーサは、前記第1支持領域及び前記第2支持領域の少なくともいずれか一方に局所的に形成された支持層を有することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項4】
前記第1支持領域及び前記第2支持領域の少なくともいずれか一方は、前記スペーサの周辺側に偏在することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項5】
前記スペーサは、四角形の板状体であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の成形金型。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の成形金型を用いて、射出成形を行うことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
成形金型の型本体と型板との間に挿入可能な板状のスペーサであって、
前記型本体及び前記型板に当接される少なくとも一方の面は、第1支持領域と第2支持領域とを有し、
前記第1支持領域での肉厚と前記第2支持領域での肉厚とが異なることを特徴とするスペーサ。
【請求項8】
前記第1支持領域及び前記第2支持領域の少なくともいずれか一方に局所的に形成された支持層を有することを特徴とする請求項7に記載のスペーサ。
【請求項9】
前記第1支持領域及び前記第2支持領域の少なくともいずれか一方は、周辺側に偏在することを特徴とする請求項7及び請求項8のいずれか一項に記載のスペーサ。
【請求項10】
四角形の板状体であることを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載のスペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−207013(P2011−207013A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76288(P2010−76288)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】