説明

成形面加工用パンチ工具、マイクロレンズアレイ用成形型の製造方法、マイクロレンズアレイ用成形型及びマイクロレンズアレイ

【課題】レンズ面が平滑なマイクロレンズアレイを製造するにあたって、その成形型の加工時間を短縮し、加工コストの低減、を達成できるパンチ工具を提供する。
【解決手段】押圧面の表面粗さRaが0.15μm未満であるパンチ工具1。このパンチ工具1は、載置台12の上に固定された板状の型母材30の表面にレンズ成形面を形成するために、押圧手段13により上下動させて、その押圧面を転写させる成形型の製造装置11に適用でき、成形面の平滑な成形型を短時間、かつ、低コストで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形面加工用パンチ工具、マイクロレンズアレイ用成形型の製造方法、マイクロレンズアレイ用成形型及びマイクロレンズアレイに係り、特に、押圧面を従来よりも平滑にした成形面加工用パンチ工具、それを用いたマイクロレンズアレイ用成形型の製造方法、該方法により製造された成形型及びその成形型を用いて得られたマイクロレンズアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラのイメージセンサー、液晶プロジェクター、光通信用のレーザープロジェクターなどに用いられるマイクロレンズは、通常、マイクロレンズアレイと呼ばれる、マイクロレンズが碁盤目状等に複数個整列した形状のもの、が用いられる。
【0003】
このマイクロレンズアレイは、上型としてマイクロレンズに対応する凹状のレンズ成形面が形成された成形型を用い、成形用のガラス素材を上型及び下型とで挟み込んでプレスして、1度の成形操作で複数個のマイクロレンズを成形して得られる。
【0004】
このマイクロレンズアレイの製造においては、上型のマイクロレンズに対応する凹状のレンズ成形面が、得られるマイクロレンズアレイの表面に転写される。したがって、レンズ面の平滑さは成形型の形状に依存することになる。
【0005】
従来、この成形型のレンズ成形面を形成するには、板状の型母材表面に、ポンチと呼ばれるパンチ工具を強く押し込み、そのパンチ工具の押圧面を転写することで実現していた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
上記のような製造方法により成形型を製造しているため、成形型のレンズ成形面の表面粗さは、このパンチ工具の押圧面の表面粗さに依存する。さらに、その成形型を使用してマイクロレンズを成形する際には、レンズ面の平滑さは成形型のレンズ成形面の表面粗さに依存する。したがって、得られるマイクロレンズアレイのレンズ面の平滑さは、パンチ工具の表面粗さによって決まってしまっていた。
【0007】
また、マイクロレンズアレイにおいては、その一個のレンズ(マイクロレンズ)の径が小さいため、成形型のレンズ成形面をパンチ工具で形成した後に平滑にする操作(研磨等)が困難で、得られるマイクロレンズの平滑さには限界があった。
【0008】
これに対して、成形型の成形面を集束イオンビームで加工して、成形面を平滑にする技術が知られており、この技術によっては成形面を非常に平滑な面に加工できる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−179824号公報
【特許文献2】特許第3767016号公報
【特許文献3】特許第4088689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3記載のように成形型の成形面全体を集束イオンビームで加工すると、その加工面積の大きさに伴って加工時間、加工コストが大幅に嵩んでしまうこととなる。
【0011】
そこで、本発明は、このような点を解決するためになされたもので、レンズ面が平滑なマイクロレンズアレイを製造するにあたって、その成形型の加工時間の短縮と加工コストの低減とを達成できるパンチ工具、そのパンチ工具を用いた成形型の製造方法、その製造方法により得られた成形型、さらに、この成形型を用いて得られたマイクロレンズアレイの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、成形型を加工するパンチ工具の押圧面の表面粗さを小さくすることで、成形型の加工時間の短縮と加工コストの低減とを達成しつつ、かつ、得られるマイクロレンズ表面の平滑さも改善できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具は、押圧面の表面粗さRaが0.15μm未満であることを特徴とする。ここで、表面粗さRaを小さくするために、パンチ工具の素材として超硬合金を用い、その押圧面を研磨加工により形成した後、集束イオンビームで処理することが好ましい。
【0014】
本発明のマイクロレンズアレイ用成形型の製造方法は、型母材の表面に、押圧面の表面粗さRaが0.15μm未満である成形面加工用パンチ工具の押圧面を接触、押圧して凹状の成形面を形成する押圧工程と、前記押圧工程を繰り返して、複数の凹状の成形面を整列して形成する成形面形成工程と、を有することを特徴とする。本発明の製造方法によれば、パンチ工具による押圧工程を繰り返し行って、複数のマイクロレンズ成形面を整列して形成する成形面形成工程を行うことで、成形型の加工時間の短縮と加工コストの低減を図ることができる。
【0015】
また、本発明のマイクロレンズアレイ用成形型は、対向面に成形面の形成された上型と下型の間に成形用のガラス素材を挟み込み、プレスによりマイクロレンズアレイを成形するマイクロレンズアレイ用成形型であって、一方の成形面が上記本発明のパンチ工具の押圧により形成された複数の凹状の成形面を有することを特徴とする。
【0016】
そして、本発明のマイクロレンズアレイは、成形用のガラス素材に、本発明のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面を転写させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形面加工用パンチ工具によれば、平滑な成形面を有する成形型を簡便に製造でき、特に、マイクロレンズアレイ用成形型のように、パンチ工具により繰り返し成形面を形成する場合、このパンチ工具で押圧するだけで所定の表面粗さの成形面が得られるため、従来のように成形面を形成した後、成形面を平滑にするための後処理の必要がなく、成形型の加工時間の短縮と加工コストの低減に極めて有効である。
【0018】
また、このパンチ工具により得られたマイクロレンズアレイ用成形型は、従来にないレンズ面の平滑なマイクロレンズアレイを容易に製造できる。平滑なレンズ面を有するマイクロレンズアレイは、その特性が高く、かつ、安定したものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の成形面加工用パンチ工具の側面図である。
【図2】本発明の成形面加工用パンチ工具の製造方法を説明する図である。
【図3】マイクロレンズアレイ用成形型を製造する装置の概略構成を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。
【0021】
ここで、図1は本発明の一実施形態であるマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具の概略構成を示した側面図である。
【0022】
この図1に示したマイクロレンズアレイ用成形型の成形面を形成するためのパンチ工具1は、円柱状の本体の先端(下端)にマイクロレンズの成形面を形成するための押圧面1aを有してなり、この構成自体は従来のパンチ工具と同様である。なお、押圧面1aは、これがマイクロレンズの成形型において凹状の成形面を形成し、得られた成形面は成形用のガラス素材に転写され凸状のマイクロレンズが形成される。そのため、押圧面1aの形状とマイクロレンズの形状は略同一の形状を有しており、本発明においては、球面又は非球面からなる凸状の曲面形状となる。
【0023】
本発明のパンチ工具1においては、その押圧面1aの表面粗さRaが0.15μm未満と、従来のパンチ工具の押圧面1aよりも平滑である点に特徴を有し、その表面粗さRaは0.04μm以下が好ましく、0.01μm以下がより好ましい。なお、ここで用いられるパンチ工具の素材としては、超硬合金、単結晶ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(CBN)等の公知の素材が挙げられる。
【0024】
従来、この押圧面は研磨加工したのみでパンチ工具としていたが、その場合、押圧面の表面粗さRaは0.15μm以上となっていた。成形型の加工にあたっては、このパンチ工具の押圧面を転写して加工されるため、押圧面の表面粗さがそのまま成形面に反映され、成形面の表面粗さはパンチ工具の表面粗さに依存していた。そして、成形面の表面粗さはレンズ面の平滑性に直接影響を与えるため、得られるマイクロレンズアレイのレンズ面の平滑性には限界があった。
【0025】
本発明においては、パンチ工具の押圧面1aの表面粗さが0.15μm未満と従来よりも平滑な押圧面を有するため、パンチ工具1を用いて得られるマイクロレンズ用成形型のレンズ成形面も平滑となる。そして、このようにして得られたマイクロレンズ用成形型を用いて成形されるマイクロレンズアレイは、そのレンズ面が従来よりも平滑となる。
【0026】
次に、本発明のパンチ工具1の製造方法について図2を参照しながら説明するが、以下、パンチ工具の素材として超硬合金を用いた場合を例に説明する。
【0027】
パンチ工具1の製造にあたっては、まず、パンチ工具を製造するための円柱状の素材を用意する(図2(a))。
【0028】
用意した円柱状素材の一端を研磨加工して先端を押圧面形状へと粗加工するが、この研磨加工は従来公知の方法が用いられ、まずは大雑把な押圧面形状へと切削、研磨しながら、徐々に所望の形状へと段階的に研磨加工するのが一般的である。
【0029】
例えば、初めに円柱状の素材の一端を、ダイヤモンド等の砥石により円錐形状に加工し(図2(b))、次いで、円錐形状の先端部分の輪郭が押圧面形状となるように微細加工装置等により加工し、押圧面形状の輪郭が形成できた後、その表面を滑らかにするため、ダイヤモンドペースト等の研磨材により磨き仕上げをする(図2(c))。ここで図2(c)の押圧面先端形状を拡大図として示した。
【0030】
従来のパンチ工具は、上記研磨操作(図2(a)〜(c))によって得られ、ここで加工を終了し製品としている。しかし、本発明においては、それに加えて、以下で説明する集束イオンビーム加工法による押圧面の表面加工を施す。この集束イオンビーム加工によって、パンチ工具1の押圧面1aの表面粗さRaを0.15μm未満のものとし、本発明のパンチ工具が得られる(図2(d))。
【0031】
ここで使用する集束イオンビーム加工は、例えば、パンチ工具として、タングステンカーバイド99質量%以上の化学成分で、相対密度99%以上、且つ粒径0.8μm以下の素材を用いる場合、集束イオンビーム装置により、電圧30keV以下、電流187pA以下、デュエルタイム200μs以下、ビーム径35nm以下の条件で、加工することで表面粗さRaが0.15μm未満の押圧面が得られ、条件によっては表面粗さRaが1nm以下の非常に平滑な加工ができる。なお、測定領域は、押圧面の全面であってもよく一部であってもよいが、その場合は、頂点を含む面頂部とするとよい。
【0032】
この押圧面1aの表面粗さRaは、JIS B0601−2001に基づいて算出される。すなわち、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【数1】

(式中、Raは算術平均粗さであり、Lは基準長さ、Z(x)は任意の位置xにおける輪郭曲線の高さ、を示す。)
【0033】
本発明においては、上記式に基づいて表面粗さを算出する。具体的には、まず、株式会社キーエンス製等の3次元形状測定装置により、パンチ工具の押圧面1aの3次元プロファイルを取得し、その得られた3次元プロファイルの近似球成分を引いて2D平面データとする。次いで、得られた2D平面データの特定のエリア(例えば、5μm×5μm)における高さの平均を算出する。
【0034】
集束イオンビームによる加工では、タングステンカーバイドからなる素材の相対密度が高く、また、タングステンカーバイド粒度が小さいほど、加工後の表面粗さが小さくなる傾向にあるので、可能な限り相対密度が高く、且つタングステンカーバイド粒度の小さい材料を用意することが望ましい。
【0035】
本発明では、集束イオンビーム装置として、10から2000nm程度のイオンビーム径を有するものが用いられる。この場合、イオンビーム径を大きくすると、加工時間は短くなるが、角部がだれる等の問題が生じ、形状精度を出すことが困難となる。他方、イオンビーム径を小さくすると、形状精度のよい加工ができる。しかしながら、加工速度が遅くなり、目的形状までに多くの時間を費やすこととなる。また、加工時間が長いと、加工中にビーム照射位置のずれ、ステージの移動等のために加工位置が変わり、形状精度を悪くする。以上のことから、本発明では、加工目的、加工効率等を考慮して適当なイオンビーム径が適宜選択される。
【0036】
同様に、電圧、デュエルタイム、及び電流についても、加工目的、加工効率等を考慮して設定される。電圧は、30keV以下にすることが望ましい。それ以上高い電圧を印加すると、素材内にイオンが多数侵入し、表面粗さを悪くし、また、イオン照射位置以外の箇所が多く加工されるため、形状精度を保つことが困難となる。他方、電圧を低くすると、イオンの素材内への侵入が少なくなり、表面粗さが良好となる。また、電圧を低くすると、加工速度が遅くなり、イオン照射位置以外の加工される箇所が小さくなるため、形状精度を出しやすい。しかしながら、電圧を低くしすぎると加工ができなくなる。一般に、イオンビーム加工においては、2〜5keV程度までは加工が可能である。
【0037】
デュエルタイム、及び電流は、長いほど、及び大きいほど、1スキャンでの高さに対しての加工量が多くなる。高さ方向の形状精度を合わせるためには、200μs以下及び187pA以下が望ましい。
【0038】
上記方法により製造されたパンチ工具は、90質量%以上のタングステンカーバイド(WC)と、10質量%以下のバインダー元素及び/又は粒成長抑制元素とから構成される超硬合金からなることが好ましく、99質量%以上のタングステンカーバイド(WC)と、1質量%以下のバインダー元素及び/又は粒成長抑制元素とから構成される超硬合金からなることがより好ましい。このような超硬合金を集束イオンビーム加工することで、押圧面の表面粗さRaが0.15μm未満を実現できる。
【0039】
次に、このパンチ工具を用いた成形型の製造方法について説明する。図3は、パンチ工具を用いたマイクロレンズアレイ用成形型の製造装置の側面図である。ここで、パンチ工具としては上記した本発明のパンチ工具1を使用するが、その他の構成は従来の製造装置と同様である。
【0040】
この図3に示したマイクロレンズアレイ用成形型の製造装置11は、板状の型母材30を載置する載置台12と、板状の型母材30の表面にレンズ成形面を形成するためのパンチ工具1と、板状の型母材30の表面にパンチ工具1の押圧面1aを転写させる押圧手段13と、から構成されている。
【0041】
載置台12は、板状の型母材30を水平に安定して固定できればよく、図示していない駆動手段により、XY方向(水平面方向)に移動可能としている。このXY方向への移動によって板状の型母材30の所望の位置にマイクロレンズの成形面を形成可能としている。
【0042】
押圧手段13は、上記したパンチ工具1の押圧面1aを下方に向けて固定し、このパンチ工具1を上下動させるものである。この上下動により、板状の型母材30の表面に対して上方からパンチ工具1の押圧面1aを接触させ、押圧してマイクロレンズの成形面30aを形成する(押圧工程)。この成形面は、押圧により型母材30を塑性変形させ、パンチ工具1の押圧面1aの形状が転写されてなり、その成形面の表面粗さはパンチ工具1の表面粗さに影響を受ける。
【0043】
次に、この押圧工程を繰り返し行い、複数のマイクロレンズの成形面30aを形成する(成形面形成工程)。図3には、成形面形成工程で一部マイクロレンズ成形面30aを形成した図を示しているが、ここで型母材30のみ成形面形状がわかるように断面図として表している。
【0044】
そして、押圧工程を繰り返すにあたっては、載置台12をXY方向に移動させながら位置調整を行い、所定の位置に押圧手段13によりマイクロレンズアレイ用の成形型が形成される。このとき、位置調整は、載置台12と押圧手段13との相対的な位置関係により定まるため、例えば、載置台12をY方向に動かし、押圧手段13を上下方向に加え、X方向に動かせるようにして、成形面を形成してもよい。
【0045】
このようにして複数のマイクロレンズの成形面30aを形成する成形面形成工程を経ることで、マイクロレンズアレイ用の成形型が得られる。このとき、マイクロレンズの成形面30aは、凹状の成形面が碁盤目状又は千鳥配置等のように規則的に整列して設けられ、その一つが成形するマイクロレンズ一つの大きさ(パンチ工具の押圧面)に対応した円形状の開口部として形成される。
【0046】
このとき、凹状の成形面30aの開口部の大きさ(パンチ工具の押圧面1aの径)は、その直径が30〜1000μmであり、その凹状の成形面間のピッチは30〜5000μmであって、凹状の成形面の(直径/ピッチ)で表される比は、0.1〜1であり、好ましくは0.2〜0.9である。なお、開口部のピッチとは、隣り合う凹状の成形面の開口部の中心間の距離に相当する。
【0047】
また、ここで用いる型母材30の素材としては、ステンレス、コバール(Kovar)、低熱膨張超耐熱合金(例えば、日立金属株式会社製、商品名:HRA929)等が挙げられ、その形状は平板状のものである。また、成形面を形成する前の母材表面は、その表面粗さが小さいほど好ましいものであるが、パンチ工具1の押圧による塑性変形により加工がなされるため多少粗くてもよく、その加工前の表面粗さRaは0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.15μm以下がさらに好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
【0048】
このようにして得られたマイクロレンズアレイ用成形型は、成形面が平面である平板状の成形型と一組で使用し、成形にあたって、これら成形型の成形面を対向するように上型と下型として配置する。そして、この上型及び下型間に成形用のガラス素材を挟み込み、プレスする公知の方法により、ガラス素材にマイクロレンズの成形面を転写させて、マイクロレンズアレイを成形できる。
【0049】
より具体的には、まず、マイクロレンズアレイ用成形型として平板状の下型の上にガラス素材を載置する。次に、この下型と、上型として上記のようにマイクロレンズの成形面が形成されたマイクロレンズアレイ用成形型を成形温度まで加熱し、ガラス素材も同温度にまで加熱して軟化させる。このときの加熱温度は、ガラス素材が軟化する温度とすればよく、用いるガラス素材によって異なるが、一般に、500〜1100℃程度である。また、このとき、ガラスの粘度を1×10〜1×10[dPa・s]とすればよく、成形操作を円滑に行うために1×10〜1×10[dPa・s]とするのが好ましい。
【0050】
十分に加熱して軟化状態となったガラス素材の上方から上型を下降させ、下型と上型でガラス素材を挟んでプレスする。プレス圧力により開口部のガラスは、凹状の成形面に押し上げられ、上型の凹状の成形面形状がガラス素材に転写されマイクロレンズを形成する。このとき、プレス圧力は0.1〜100MPa、プレス時間は10〜600秒が好ましい。また、この成形は高温に加熱した状態で実施され、成形型の酸化による劣化を防止するため、例えば、1×10−2Pa以下の真空条件下や窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気とするのが好ましい。
【0051】
プレス後は、上型を上昇させ、成形したガラス素材を冷却して固化し、マイクロレンズアレイを得る。このようにして、凸状のマイクロレンズの複数個が整列したマイクロレンズアレイが得られる。なお、上型、下型の材料の熱膨張係数とガラス素材の熱膨張係数とが略等しい場合、上型および下型と一体的に冷却して固化し、その後、上型および下型とを離型してマイクロレンズアレイを得てもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0053】
(実施例1)
[パンチ工具の製造]
超硬合金(冨士ダイス株式会社製、商品名:FUJILLOY;粒度1μm)製で、φ4mm×高さ20mmの円柱形状の一端側を、ダイヤモンド砥石にて円錐形状になるように研磨加工した。
【0054】
次いで、研磨加工した円錐状の先端部を、ナノ切削加工装置(株式会社ソディックエフ・ティ製、商品名:AZ150)及びPCDラジアルエンドミル工具(株式会社ソディックエフ・ティ製)を用いて、(a)荒粗加工、(b)中仕上げ、(c)仕上げ加工、と段階的に研磨加工を行った。ここで、(a)荒加工では押圧面の大体の輪郭とし、(b)中仕上げでは等高線加工(切込量 0.5μm)を行い、(c)仕上げ加工では平行平面加工(ピッチ 1.0μm)を行った。そして、得られた先端部形状に対して、さらにダイヤモンドペースト(1000番;粒度 0.25μm)により磨き仕上げを行い、押圧面である先端形状の径が50μm、曲率半径25μmの半球状のパンチ工具を得た。なお、ここで得られた押圧面の表面粗さRaを、面頂部を中心に5μm×5μmの領域で測定した結果、0.15μmであった。ここで、測定装置として、株式会社キーエンス製の形状測定レーザマイクロスコープ、VK−9700/9710を用い、また、倍率150倍、開口数(N.A.)0.95の対物レンズを用いて測定した。
【0055】
上記研磨加工に加え、さらに、電圧20keV、電流150pA、デュエルタイム150μs、ビーム径10nmの条件で集束イオンビームにより押圧面表面を加工処理したところ、上記と同様の測定条件において、押圧面の表面粗さRaが0.005μm、であるパンチ工具を得た。
【0056】
[マイクロレンズアレイ用成形型の製造]
このパンチ工具を、成形型の製造装置(株式会社ソディックエフ・ティ製、商品名:AZ150)に取付け、20mm×20mm×5mmの型母材の表面にパンチ工具を押圧して押圧面を転写加工した。この押圧面の転写加工を繰り返し、マイクロレンズの成形面がピッチ120μmで碁盤目状に50×50個整列したマイクロレンズアレイ用の成形型を得た。この成形型の成形面はパンチ工具の押圧面がそのまま転写されており、その表面粗さRaは0.005μmと非常に平滑なものであった。
【0057】
なお、この成形型は、ステンレス鋼(ウッデホルム株式会社製、商品名:STAVAX;熱膨張係数αは115×10−7(at 300℃))で形成され、その表面をIr−Reでコートしてなり、その押圧加工前の表面粗さRaは0.2μmであった。
【0058】
[マイクロレンズアレイの製造]
得られたマイクロレンズアレイ用の成形型を上型とし、表面に凹凸のない平板状の成形型を下型として、マイクロレンズアレイの成形面が下側を向くように対向して配置し、以下の操作によりマイクロレンズアレイを成形した。
【0059】
直径20mm、高さ5mmの円筒状のガラス素材(旭硝子株式会社製、商品名:A−PHB17(B175)相当品;熱膨張係数αは114×10−7(at 300℃))を、下型の上に載置し、上下の成形型を540℃まで加熱し、ガラス素材も同温度にまで加熱して軟化させた。このときのガラスの粘度は1×10[dPa・s]程度であった。
【0060】
十分に加熱して軟化状態となったガラス素材の上方から上型を下降させ、下型と上型でガラス素材を挟んで、圧力0.4MPa、プレス時間60秒でプレスした。このとき、プレス雰囲気は1.0×10−3Paの真空条件とした。
【0061】
上型を上昇させ、プレスされたガラス素材50を冷却、固化させ、φ50μmの球面形状のマイクロレンズ(曲率半径25μm)が120μmピッチで碁盤目状に整列したマイクロレンズアレイを得た。
【0062】
得られたマイクロレンズアレイには、成形型の成形面形状が転写され、そのレンズ面の表面粗さRaは、上記パンチ工具と同様の測定装置および測定条件において、面頂部を中心に5μm×5μmの領域で測定した結果、0.005μmであった。
【0063】
以上のように、パンチ工具の押圧面の表面粗さを非常に平滑なものとすることで、そのパンチ工具を使用して得られる成形型の成形面がパンチ工具の表面粗さと同等の表面粗さとなり、さらに、その成形型を用いてガラス素材を成形すると、マイクロレンズのレンズ面の表面粗さが成形面の表面粗さと同等の表面粗さとして得られることがわかった。
【0064】
本発明のように、パンチ工具として従来得られなかった表面粗さとすることで、特性が高い水準で安定したマイクロレンズアレイが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のパンチ工具は、マイクロレンズアレイ用成形型の製造に適したものであるが、それに限られず成形品の成形面を平滑に形成する成形型を加工するのに有用である。
【符号の説明】
【0066】
1…パンチ工具、1a…押圧面、11…マイクロレンズアレイ用成形型の製造装置、12…載置台、13…押圧手段、30…型母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押圧面の表面粗さRaが0.15μm未満であることを特徴とするマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具。
【請求項2】
前記表面粗さRaが0.04μm以下である請求項1記載のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具。
【請求項3】
前記パンチ工具がタングステンカーバイドからなる超硬合金製であり、研磨加工した後、集束イオンビームで処理して前記押圧面を形成する請求項1又は2記載のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具。
【請求項4】
前記超硬合金が、90質量%以上のタングステンカーバイド、10質量%以下のバインダー元素及び/又は粒成長抑制元素、からなる請求項3記載のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具。
【請求項5】
前記押圧面の径が30〜1000μmのマイクロレンズ用である請求項1乃至4のいずれか1項記載のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面加工用パンチ工具。
【請求項6】
型母材の表面に、請求項1乃至5のいずれか1項記載の成形面加工用パンチ工具の押圧面を接触、押圧して凹状の成形面を形成する押圧工程と、
前記押圧工程を繰り返して、複数の凹状の成形面を整列して形成する成形面形成工程と、
を有することを特徴とするマイクロレンズアレイ用成形型の製造方法。
【請求項7】
対向面に成形面の形成された上型と下型の間に成形用のガラス素材を挟み込み、プレスによりマイクロレンズアレイを成形するマイクロレンズアレイ用成形型であって、一方の成形面が、請求項1乃至5のいずれか1項記載の成形面加工用パンチ工具により形成された複数の凹状の成形面を有することを特徴とするマイクロレンズアレイ用成形型。
【請求項8】
成形用のガラス素材に、請求項7記載のマイクロレンズアレイ用成形型の成形面を転写させてなることを特徴とするマイクロレンズアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−67544(P2013−67544A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209234(P2011−209234)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】