説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】従来よりも生産性及び膜厚分布に優れた成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜装置100は、密閉空間K1を形成するチャンバー部4と、密閉空間K1の中心部に配置され、成膜材料T1,T2が固定されたカソード部13と、密閉空間K1の外周部に被成膜物11が成膜材料T1,T2と対向配置するように被成膜物11を保持する被成膜物保持部8,10と、被成膜物11がカソード部13を中心にして回転するように被成膜物保持部8,10を回転させる回転駆動部9と、カソード部13を被成膜物11の回転軸に沿って移動させるカソード駆動部23と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置等の成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜装置の一形態であるマグネトロンスパッタリング装置の従来例について図6を用いて説明する。図6はマグネトロンスパッタリング装置の従来例を説明するための模式的断面図である。図6(a)はマグネトロンスパッタリング装置の模式的縦断面図であり、図6(b)はマグネトロンスパッタリング装置における基板保持ステージを見たときの模式的横断面図である。
【0003】
図6に示すマグネトロンスパッタリング装置200は一般的に普及している、所謂、平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置である。
【0004】
マグネトロンスパッタリング装置200は、円板状のチャンバー底部201,円筒状のチャンバー側壁部202,及び円板状のチャンバー蓋部203によって密閉空間K6を形成するチャンバー204を備えている。
【0005】
密閉空間K6には被成膜物である基板205を保持する回転テーブル206が配置されている。
回転テーブル206はチャンバー204の外部に配置されてチャンバー底部201に固定されたモータ等の回転駆動部207によって回転する。
【0006】
チャンバー蓋部203にはカソード208が固定されている。
カソード208には、基板205に対向配置されたターゲット209、及びターゲット209の基板対向面に磁界を発生させる磁石210が固定されている。
【0007】
チャンバー204の密閉空間K6を所定の真空度まで減圧した後、密閉空間K6にプロセスガスを導入しつつ、カソード208に所定の電圧を印加し、回転テーブル206を所定の回転数で回転させることにより、基板205の表面にターゲット209の構成材料からなる膜が成膜される。
【0008】
しかしながら、従来の平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置200では、回転テーブル206に保持された基板205の回転速度が回転テーブル206の回転中心から径方向に向かうに従って速くなるため、基板205に成膜される膜の膜厚分布が悪く、その改善が望まれていた。
【0009】
そこで、従来の平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置よりも膜厚分布を改善可能とするドラム型の成膜装置が例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−176821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、特許文献1に開示されているようなドラム型の成膜装置であるドラム型のマグネトロンスパッタリング装置について図7を用いて説明する。図7はドラム型のマグネトロンスパッタリング装置を説明するための模式的断面図である。図7(a)はドラム型のマグネトロンスパッタリング装置の模式的縦断面図であり、図7(b)はマグネトロンスパッタリング装置におけるカソードと基板(基板保持ドラム)との位置関係を示す模式的横断面図である。
【0012】
マグネトロンスパッタリング装置300は、円板状のチャンバー底部301,円筒状のチャンバー側壁部302,及び円板状のチャンバー蓋部303によって密閉空間K7を形成するチャンバー304を備えている。
【0013】
密閉空間K7には被成膜物である基板305を保持する回転ドラム306が配置されている。
回転ドラム306はチャンバー304の外部に配置されてチャンバー底部301に固定されたモータ等の回転駆動部307によって回転する。
【0014】
チャンバー側壁部302にはカソード308が固定されている。
カソード308には、基板305に対向配置されたターゲット309、及びターゲット309の基板対向面に磁界を発生させる磁石310が固定されている。
【0015】
チャンバー304の密閉空間K7を所定の真空度まで減圧した後、密閉空間K7にプロセスガスを導入しつつ、カソード308に所定の電圧を印加し、回転ドラム306を所定の回転数で回転させることにより、基板305の表面にターゲット309の構成材料からなる膜が成膜される。
【0016】
しかしながら、上述したドラム型のマグネトロンスパッタリング装置300は、前述の平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置200に対して膜厚分布の精度が優れるものの、生産性に対して十分とはいえず、さらなる改善が望まれている。
例えば、基板305のサイズを60mm×10mmとし、チャンバー側壁部302の内径を400mmとすると、基板保持ドラム306の直径は300mm程度となるので、基板保持ドラム306に保持できる基板305の数は12程度である。
【0017】
また、上述したドラム型のマグネトロンスパッタリング装置300は、回転ドラム306に保持された基板305の回転速度が基板305面内及び基板305間で一定なので、前述の平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置200よりも成膜された膜の膜厚分布は改善されるものの、その膜厚分布はターゲット309の中心部で最も厚く、ターゲット309の中心部から回転ドラム306の回転軸と平行な方向に向かうに従って薄くなる傾向となるため、膜厚分布に対してもさらなる改善が望まれる。
【0018】
そこで、本発明は、従来よりも生産性及び膜厚分布に優れた成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、本発明は次の成膜装置及び成膜方法を提供する。
1)密閉空間(K1)を形成するチャンバー部(4)と、前記密閉空間の中心部に配置され、成膜材料(T1,T2)が固定されたカソード部(13)と、前記密閉空間の外周部に被成膜物(11)が前記成膜材料と対向配置するように前記被成膜物を保持する被成膜物保持部(8,10)と、前記被成膜物が前記カソード部を中心にして回転するように前記被成膜物保持部を回転させる回転駆動部(9)と、前記カソード部を前記被成膜物の回転軸に沿って移動させるカソード駆動部(23)と、を備えていることを特徴とする成膜装置(100)。
2)前記密閉空間を減圧する減圧部(7)をさらに備え、前記カソード部は、前記減圧部に対して前記成膜材料が固定されている領域よりも離れた位置に配置されて所定のガス(Ga,Gb)を前記密閉空間内に導入するガス導入部(27,28)を備えていることを特徴とする1)記載の成膜装置(100)。
3)前記カソード部は、前記基板と前記成膜材料との間に配置される膜厚補正板(25)を備えていることを特徴とする1)記載の成膜装置。
4)チャンバー部(4)により形成される密閉空間(K1)の中心部に配置されて成膜材料(T1,T2)が固定されたカソード部(13)に対して、前記密閉空間の外周部に被成膜物(11)を対向配置する対向配置ステップと、前記対向配置ステップの後に、前記密閉空間を所定の真空度まで減圧する減圧ステップと、前記減圧ステップの後に、前記密閉空間に所定のガス(Ga,Gb)を導入し、前記カソード部と前記被成膜物とを相対的に回転させ、かつ前記カソード部と前記被成膜物とをその回転軸に沿って相対的に移動させつつ、前記カソード部に所定の電圧を印加して、前記成膜材料を前記被成膜物に成膜する成膜ステップと、を有する成膜方法。
5)前記成膜ステップにおいて、前記カソード部に固定された膜厚補正板(25)で、前記被成膜物に成膜される前記成膜材料の膜厚分布を調整することを特徴とする4)記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る成膜装置及び成膜方法によれば、従来よりも生産性及び膜厚分布に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の成膜装置及び成膜方法の実施例を説明するための模式的断面図である。
【図2】実施例の成膜装置及び成膜方法におけるカソードを説明するための模式的断面図である。
【図3】実施例の成膜装置及び成膜方法におけるプロセスガス導入部及びプロセスガスの流動経路を説明するための模式的断面図である。
【図4】実施例の成膜装置及び成膜方法における膜厚分布補正板による効果を説明するための膜厚分布図である。
【図5】実施例の成膜装置及び成膜方法においてカソードを移動させることによる効果を説明するための膜厚分布図である。
【図6】一般的な平行平板型のマグネトロンスパッタリング装置を説明するための模式的断面図である。
【図7】一般的なドラム型のマグネトロンスパッタリング装置を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図5を用いて説明する。
【0023】
<実施例>
実施例では、本発明の成膜装置及び成膜方法の一形態として、マグネトロンスパッタリング装置及びその成膜方法を例に挙げて説明する。
図1(a)は実施例のマグネトロンスパッタリング装置の模式的縦断面図である。図1(b)は実施例のマグネトロンスパッタリング装置におけるカソード部と被成膜物である基板との位置関係を示す模式的横断面図である。
図2(a)は実施例のマグネトロンスパッタリング装置におけるカソード部をチャンバー側壁部側から見たときの模式的平面図である。図2(b)は同カソード部の模式的横断面図である。
図3(a)は実施例のマグネトロンスパッタリング装置におけるプロセスガス導入部及びプロセスガスの流れを説明するための模式的縦断面図である。図3(b)はカソード部をチャンバー蓋部側から見たときの模式的平面図である。
【0024】
図1及び図3に示すように、マグネトロンスパッタリング装置100は、主として、円板状のチャンバー底部1,円筒状のチャンバー側壁部2,及び円板状のチャンバー蓋部3によって密閉空間K1を形成するチャンバー4を備えている。
【0025】
チャンバー底部1には、開閉バルブ6を介して、密閉空間K1を高真空度に減圧する高真空ポンプ等の減圧部7が固定されている。
【0026】
密閉空間K1には回転テーブル8が配置されている。
回転テーブル8はチャンバー4の外部に配置されてチャンバー底部1に固定されたモータ等の回転駆動部9によって回転する。
また、回転テーブル8の一面側の外周部にはその周方向に沿って複数の基板ホルダー10が着脱自在に保持されている。
複数の基板ホルダー10には被成膜物である基板11がそれぞれ着脱自在に保持されている。
即ち、マグネトロンスパッタリング装置100では、密閉空間K1の外周部に複数の基板11が配置される。
【0027】
また、密閉空間K1の中心部にはカソード部13が配置されている。
【0028】
図2に示すように、カソード部13には、2つのカソード14,15が絶縁板16を介して対向配置されている。
【0029】
一方のカソード14には、ターゲット(成膜材料)T1が固定されたバッキンプレートB1が着脱自在に保持されている。ターゲットT1と基板11とは互いに向き合うように配置されている。
また、一方のカソード14は極性が互いに逆向きの永久磁石17,18を有し、永久磁石17と永久磁石18とによってターゲットT1の表面上にまで及ぶ磁界が形成されている。
【0030】
他方のカソード15には、ターゲット(成膜材料)T2が固定されたバッキンプレートB2が着脱自在に保持されている。ターゲットT2と基板11とは互いに向き合うように配置されている。
また、他方のカソード15は極性が互いに逆向きの永久磁石19,20を有し、永久磁石19と永久磁石20とによってターゲットT2の表面上にまで及ぶ磁界が形成されている。
【0031】
ターゲットT1,T2、バッキンプレートB1,B2、及び永久磁石17〜20の材料及び形状は仕様及び製造条件等に応じてそれぞれ適宜設計されるものである。
【0032】
図1及び図3に示すように、カソード部13は駆動軸部22に固定されている。
また、カソード部13は、チャンバー4の外部に配置されてチャンバー蓋部3に固定されたパルスモータ等の昇降駆動部23によって駆動軸部22と共に移動(昇降)する。
【0033】
スパッタリングの際にカソード14,15(図2参照)を冷却するための冷却水は外部から駆動軸部22の内部を通ってカソード部13に供給され、カソード14,15の熱を吸収して温まった冷却水は再び駆動軸部22の内部を通って外部に排出される。
【0034】
カソード部13の原点位置は、ターゲットT1,T2の中心{図1(a)においてターゲットT1,T2の上下方向(昇降方向)の中心}と基板11の中心{図1(a)において基板10の上下方向(上記昇降方向と同じ方向)の中心}とが一致する位置であることが望ましい。
そして、カソード部13は、昇降駆動部23によって駆動されて、原点位置を中心にして駆動軸部22と共に、チャンバー底部1に接近する方向(チャンバー蓋部3から離れる方向)及びチャンバー底部1から離れる方向(チャンバー蓋部3に接近する方向)に移動(昇降)する。
また、昇降駆動部23の駆動制御により、カソード部13を、その移動範囲内において連続的又は断続的に移動させたり、任意の速度で移動させたりすることができる。
【0035】
即ち、マグネトロンスパッタリング装置100は、密閉空間K1の外周部に配置された複数の基板11が密閉空間K1の中心部に配置されたカソード部13を中心に回転し、カソード部13が基板11の回転軸に沿って移動(昇降)するものである。
【0036】
また、図1に示すように、カソード部13には、ターゲットT1の中央部{図1(a)におけるターゲットT1の上下方向(昇降方向)の中心部}を部分的に覆うように膜厚補正板25が固定されている。
なお、図1では一方のターゲットT1側のみに膜厚補正板25が配置されているが、他方のターゲットT2側にも膜厚補正板25を配置してもよいことはいうまでもない。
膜厚補正板25の形状及び配置位置は成膜される膜の膜厚分布及び成膜効率等に応じて適宜設計されるものである。
【0037】
また、図3に示すように、カソード部12には、プロセスガスGa,Gbをチャンバー4内(密閉空間K1)に導入するためのプロセスガス導入部27,28が設けられている。
【0038】
ターゲットT1を用いて成膜するときに用いられるプロセスガスGaは、外部から駆動軸部22の内部を通ってプロセスガス導入部27に供給され、さらにチャンバー4内のターゲットT1の表面及びその近傍の領域を主に通って減圧部7により外部に排出される。
【0039】
ターゲットT2を用いて成膜するときに用いられるプロセスガスGbは、外部から駆動軸部22の内部を通ってプロセスガス導入部28に供給され、さらにチャンバー4内のターゲットT2の表面及びその近傍の領域を主に通って減圧部7により外部に排出される。
【0040】
プロセスガスGa,Gbの材料及び流量は仕様及び製造条件等に応じてそれぞれ適宜設計されるものである。
【0041】
次に、上述したマグネトロンスパッタリング装置100を用いた成膜方法について同じく図1〜図3を用いて説明する。ここでは、説明をわかりやすくするために、ターゲットT1のみを用いて成膜する場合について説明する。
【0042】
まず、チャンバー蓋部3を上方に移動させて、チャンバー4を解放する。
次に、予め被成膜物である基板11がそれぞれ保持された複数の基板ホルダー10を回転テーブル8に保持する。
その後、チャンバー蓋部3を下方に移動させて密閉空間K1を形成する。
このとき、基板11とターゲットT1(T2)とは互いに対向して配置される。
【0043】
次に、減圧部7を作動させた後、開閉バルブ6を開状態にしてチャンバー4内部(密閉空間K1)を所定の真空度に達するまで減圧する。
その後、ガス導入部27からプロセスガスGaをチャンバー4内部(密閉空間K1)に供給する。
また、回転駆動部9を作動させて回転テーブル8を所定の回転数で回転させる。
また、外部からカソード部13に冷却水を供給してカソード部13(カソード14)を冷却する。
また、昇降駆動部23を作動させてカソード部13を膜厚補正板25及びプロセスガス導入部27,28と共に上下動(昇降)させる。
【0044】
次に、カソード14に所定の電圧を印加することにより、ターゲットT1の構成材料が複数の基板11の各表面にそれぞれ成膜される。
【0045】
所定の膜厚又は所定の時間に達したら、カソード14への電圧の印加を停止する。
その後、プロセスガスGaのチャンバー4内部(密閉空間K1)への供給を停止する。
また、カソード部13の上下動(昇降)を停止する。
また、回転テーブル8の回転を停止する。
また、カソード部13(カソード14)の冷却を停止する。
【0046】
次に、開閉バルブ6を閉状態にしてチャンバー4内部(密閉空間K1)を大気圧にした後、チャンバー蓋部3を上方に移動させ、基板11がそれぞれ保持されている複数の基板ホルダー10を回転テーブル8から取り外す。
その後、複数の基板ホルダー10から基板11をそれぞれ取り外す。
【0047】
上述した手順により、ターゲットT1の構成材料を含む膜を複数の基板11の表面に一度に成膜することができる。
【0048】
ターゲットT2のみを用いて成膜する場合についても、上述した手順と同様の手順で行うことができる。
また、これらを組み合わせて、2つのターゲットT1,T2を用いて一度に成膜することもできる。
【0049】
ここで、カソード部13に膜厚補正板25を付けた場合と付けない場合における基板11に成膜された膜の膜厚分布について図4を用いて説明する。図4は、カソード部13を原点位置に固定した状態で基板11(回転テーブル8)を回転させたときの膜厚分布である。
図4において、横軸は図1(a)における基板11の上下方向の位置を示し、縦軸はその位置において基板に成膜された膜の膜厚を示す。横軸において、“0”は基板11の上下方向の中心位置を示し、“(+)40”は基板11の中心位置から上方向に40mm離れた位置を示し、“−40”は基板11の中心位置から下方向に40mm離れた位置を示す。
【0050】
カソード部13に膜厚補正板25を付けない場合の膜厚分布は、基板11の中心位置で最も厚く、中心位置から上方向及び下方向に向かうに従って薄くなる傾向を示す。
一方、カソード部13に膜厚補正板25を付けた場合の膜厚分布は、中心位置での膜厚が薄くなることによって、膜厚補正板25を付けない場合よりも向上する。
【0051】
次に、カソード部13が、原点位置に位置した場合、原点位置から上方向に40mm移動した場合(+40)、及び原点位置から下方向に40mm移動した場合(−40)における基板11に成膜された膜の膜厚分布について図5を用いて説明する。図5は、カソード部13に膜厚補正板25を付けた状態で基板11(回転テーブル8)を回転させたときの膜厚分布である。
図5は図4に対応するものであり、図5において、横軸は図1(a)における基板11の上下方向の位置を示し、縦軸はその位置において基板に成膜された膜の膜厚を示す。横軸において、“0”は基板11の上下方向の中心位置を示し、“(+)40”は基板11の中心位置から上方向に40mm離れた位置を示し、“−40”は基板11の中心位置から下方向に40mm離れた位置を示す。
【0052】
成膜中にカソード部13を、原点位置,上方向に40mm離れた位置,及び下方向に40mm離れた位置の3つの位置に移動させることにより、基板11に成膜される膜の膜厚分布は、図5に示す3つの膜厚分布を加算した分布となるので、各膜厚分布のむらが相殺されて図4に示す膜厚分布(“膜厚補正板あり”)よりもさらに良好な膜厚分布が得られる。
【0053】
さらに、複数の基板11のうちの一の基板11がターゲットT1の直上を通過する度に、一の基板11の中心{図1(a)において基板11の上下方向(上記昇降方向と同じ方向)の中心}とターゲットT1の中心{図1(a)においてターゲットT1の上下方向(昇降方向)の中心}との位置関係がそれぞれ異なるように、回転テーブル8の回転とカソード部13の昇降動作とを非同期にすることにより、さらに複数の膜厚分布の加算によって各むらが互いに相殺されるので、図5に示す3つの膜厚分布を加算した膜厚分布よりもさらに良好な膜厚分布が得られる。
【0054】
上述した成膜装置(マグネトロンスパッタリング装置)100及びその成膜方法によれば、カソード部13に対する基板11の回転速度が基板11面内及び基板11間で均一なので、基板11の回転方向(x方向)に対して良好な膜厚分布が得られる。
また、上述した成膜装置100及びその成膜方法によれば、カソード部13が基板11の回転軸と平行に上下動(昇降)することにより、基板11の回転軸と平行な方向(y方向)に対しても、ターゲットの形状に起因する膜厚分布むらが相殺されて良好な膜厚分布が得られる。
【0055】
また、カソード部13に膜厚補正板25を設けることにより、ターゲットの形状に起因する膜厚分布むらを膜厚補正板25で補正した上で、カソード部13が膜厚補正板25と共に基板11の回転軸と平行に上下動(昇降)することによって、基板11の回転軸と平行な方向(y方向)に対して、さらに良好な膜厚分布が得られる。
【0056】
また、上述した成膜装置(マグネトロンスパッタリング装置)100及びその成膜方法によれば、ターゲットT1,T2の一側(図3では上側)に配置されたプロセスガス導入部27,28からプロセスガスGa,Gbをチャンバー4内に導入し、チャンバー4内に導入されたプロセスガスGa,GbはターゲットT1,T2の表面及びその近傍の領域をそれぞれ主に通って減圧部6により外部に排出される。従って、プロセスガスGa,Gbを必要とするターゲットT1,T2の表面及びその近傍の領域を主体にしてプロセスガスGa,Gbの流路が形成されるので、プロセスガスGa,Gbの使用効率が向上するので、従来よりもプロセスガスGa,Gbの使用量を低減することができる。
【0057】
また、上述した成膜装置(マグネトロンスパッタリング装置)100及びその成膜方法によれば、チャンバー4の中心部にカソード部13を配置し、内周部(密閉空間K1の外周部)に基板11を配置した構成を有するので、従来のドラム型の成膜装置(マグネトロンスパッタリング装置)よりもチャンバー4内の基板11の取り付け数を増やすことができる。
例えば、基板11のサイズを60mm×10mmとし、チャンバー側壁部2の内径を400mmとすると、回転テーブル8に保持できる基板11の数は32程度である。
【0058】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0059】
例えば実施例では2つのターゲットT1,T2を例に挙げて説明したがこれに限定されるものではなく、ターゲットの数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0060】
また、実施例では膜厚補正板を用いる例を挙げて説明したがこれに限定されるものではない。高精度な膜厚分布を必要としない仕様では特に膜厚補正板を用いなくてもよい。膜厚補正板を用いない場合においても、カソード部13が基板11の回転軸と平行に上下動(昇降)することにより、基板11の回転軸と平行な方向(y方向)に対して、ターゲットの形状に起因する膜厚分布のむらが相殺されるので、従来よりも良好な膜厚分布が得られる。
【0061】
また、実施例では、被成膜物である基板がカソード部を中心にして回転するように回転テーブルを回転させ、カソード部を基板の回転軸に沿って上下動(昇降)させる構成及び手順としたが、これに限定されるものではない。
例えば、成膜のときに基板を回転させずに、カソード部を回転させながら、かつその回転軸に沿ってカソード部を上下動(昇降)させる構成及び手順としてもよい。
また、成膜のときにカソード部を上下動(昇降)させずに、基板を回転させながら、かつその回転軸に沿って回転テーブルを基板と共に上下動(昇降)させる構成及び手順としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1_チャンバー底部、 2_チャンバー側壁部、 3_チャンバー蓋部、 4_チャンバー、 6_開閉バルブ、 7_減圧部、 8_回転テーブル、 9_回転駆動部、 10_基板ホルダー、 11_基板、 13_カソード部、 14,15_カソード、 16_絶縁板、 17〜20_永久磁石、 22_駆動軸部、 23_昇降駆動部、 25_膜厚補正板、 27,28_プロセスガス導入部、 100_マグネトロンスパッタリング装置、 K1_密閉空間、 T1,T2_ターゲット、 B1,B2_バッキンプレート、 Ga,Gb_プロセスガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間を形成するチャンバー部と、
前記密閉空間の中心部に配置され、成膜材料が固定されたカソード部と、
前記密閉空間の外周部に被成膜物が前記成膜材料と対向配置するように前記被成膜物を保持する被成膜物保持部と、
前記被成膜物が前記カソード部を中心にして回転するように前記被成膜物保持部を回転させる回転駆動部と、
前記カソード部を前記被成膜物の回転軸に沿って移動させるカソード駆動部と、
を備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記密閉空間を減圧する減圧部をさらに備え、
前記カソード部は、前記減圧部に対して前記成膜材料が固定されている領域よりも離れた位置に配置されて所定のガスを前記密閉空間内に導入するガス導入部を備えていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記カソード部は、前記基板と前記成膜材料との間に配置される膜厚補正板を備えていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
チャンバー部により形成される密閉空間の中心部に配置されて成膜材料が固定されたカソード部に対して、前記密閉空間の外周部に被成膜物を対向配置する対向配置ステップと、
前記対向配置ステップの後に、前記密閉空間を所定の真空度まで減圧する減圧ステップと、
前記減圧ステップの後に、前記密閉空間に所定のガスを導入し、前記カソード部と前記被成膜物とを相対的に回転させ、かつ前記カソード部と前記被成膜物とをその回転軸に沿って相対的に移動させつつ、前記カソード部に所定の電圧を印加して、前記成膜材料を前記被成膜物に成膜する成膜ステップと、
を有する成膜方法。
【請求項5】
前記成膜ステップにおいて、前記カソード部に固定された膜厚補正板で、前記被成膜物に成膜される前記成膜材料の膜厚分布を調整することを特徴とする請求項4記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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