説明

成膜装置

【課題】成膜基板の温度分布を改善し、成膜品質を向上させることのできる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板1の成膜面にマスク4を密着させて成膜する工程において、基板1の非成膜面側に背面冷却部材3を密着させて基板1の温度制御を行う。基板1の中央部が蒸発源に対向し、周辺部より高温になる場合は、背面冷却部材3の中央部に基板1との接触面積の大きい凸部3aを設けることで、背面冷却部材3の冷却効率に分布をもたせて、基板1の温度分布を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板温度分布を改善して高精度の成膜を可能とする成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄型表示パネルに用いる有機EL素子は、液晶素子と共に年々その需要が増大し、パネルの大型化・高性能化、高精度化や、歩留まり、スループット等生産性の向上を図るべく成膜装置及び成膜方法の検討が行われている。
【0003】
一般的に有機EL素子は、蛍光性有機化合物を含む薄膜を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有する。そして、前記薄膜に電子及び正孔(ホール)を注入して再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光、燐光)を利用して発光させる。この有機EL素子の特徴は、10V以下の低電圧で100〜100000cd/m程度の高輝度の面発光が可能であり、また、蛍光物質の種類を選択することにより青色から赤色までの発光が可能なことである。
【0004】
有機薄膜の形成方法については、低分子(モノマー)有機EL材料は主にマスク成膜法を用いた真空蒸着法で成膜され、さらに、電極形成についてはスパッタ法あるいは真空蒸着法で引き続き成膜されている。
【0005】
しかし、従来の成膜装置で用いられるマスクユニットを用いて薄膜形成を行う場合、成膜速度を上げるために蒸発源への投入パワーを増加させると、基板は蒸着成膜時に蒸着熱とともに蒸発源からの放射熱およびマスクから接触熱を受熱して、基板温度が上昇する。
【0006】
この基板温度を下げるために、従来は、基板と冷却部材の間に、例えば柔らかな熱伝導部材を入れて冷却効率を上げている。また、輻射熱を吸収させる手段として、例えばヘリウム冷凍機のクライオ面を用いて、基板冷却を促進させている(特許文献1参照)。
【0007】
また、マスク遮蔽部と成膜部との温度差による破損を防止するために基板温度分布を改善する方法が知られている。これは、基板のマスク遮蔽部の温度が低いことを改善するためにマスク表面の放射率を0.2以上にしてマスク温度を上昇させている。さらに、マスク両表面に表面粗さRaが3〜10μの凹凸を形成し、放射率を向上させてマスク温度を上昇させている。また、マスクとトレイ間は部分接触と断熱材で断熱させて、トレイへの熱の逃げを抑えてマスク温度を制御している(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2005−285576号公報
【特許文献2】特開2005−054244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、成膜中の基板には蒸発源の位置、数に対応して高温部が生じており、さらにその供給熱量が増加するにつれてその温度分布も増大する。
【0010】
例えば、図9に示すように、蒸着熱源が中央1箇所の場合は、基板101の中央部の温度が高くなり周辺部は低くなる。
【0011】
また、デバイス高精度化を目的として、例えば、3種の材料を同時に蒸着する場合は、蒸着熱源が3箇所に増加し、図10に示すように、基板201には3箇所の高温部を持った温度分布が生じ、これにより温度分布が増大していた。
【0012】
基板温度分布の増大に対しては、特許文献1及び特許文献2に記載の対策では対応できず、そのため、マスクとの位置ずれ、熱変形によるゆがみ等により、着膜の位置精度や線幅精度が悪化していた。
【0013】
本発明は、成膜時の基板温度分布を改善することにより高精度成膜を可能とする成膜装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の成膜装置は、蒸発源から発生する成膜材料の蒸気を、マスクを介して基板に蒸着させる成膜装置において、前記基板の成膜面と反対側の非成膜面に接触して前記基板を冷却する背面冷却部材と、前記背面冷却部材を冷却する冷却手段と、前記背面冷却部材の前記基板に対する接触面に、前記蒸発源による熱源位置に対応するように冷却効率の分布をもたせるための冷却効率制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
基板の面内温度分布をできるだけ小さく抑えるためには、特に、真空中の基板温度については背面冷却部材との接触による冷却が効果大である。そこで、基板の高温個所を、背面冷却部材によって基板背面から部分的に効率よく冷却するための冷却効率制御手段を設けることにより、基板温度分布を改善する。
【0016】
基板の温度分布を改善し、基板の熱変形を抑制することで、着膜の位置精度や線幅精度を向上させる。これにより、高品質な有機EL素子等を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1(a)は、第1の実施形態を示す。図示しない蒸発源から発生する成膜材料の蒸気を蒸着させる基板1は、その成膜面と、反対側の非成膜面と、をマグネット2により、それぞれ背面冷却部材3とマスク4に密着される。平板四角枠状のフレームと一体化したマスク4は、トレイ5に取り付けられ、その上に基板1と背面冷却部材3を載包し、マグネット2によりマスク成膜のためのユニットとして構成される。マグネット2は、磁力によりマスク4を基板1に引き寄せて密着させる。
【0019】
トレイ5は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ステンレススティール(SUS)、鉄(Fe)またはこれらの合金等の、比較的熱伝導性が良好で機械加工が容易な材料を用いることが望ましい。
【0020】
トレイ5の中央に配置される基板1は、300×400mm角、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板である。マスク4は、基板1に形成したいパターンに対応して、各種のパターン開口部が設けられた厚さ0.01〜0.2mmで100mm角の金属板製のパターン形成用のマスクである。マスク4は、基板1に密着するように、トレイ5に装着されたマグネット2の磁力により引き上げられるので、例えばインバーやNiで作製される。
【0021】
蒸発源による熱源位置(蒸着熱源)が基板1の中央部に対応する1箇所である成膜装置において、図1(b)、(c)に示すように、背面冷却部材3には、基板1に対する接触面の中央部に、200×100mm、高さ0.5mmの凸部3aを形成する。
【0022】
凸部3aは、蒸着熱源に対応するように背面冷却部材3の冷却効率に分布をもたせるための冷却効率制御手段であり、例えば、部材の組立や研削により形成される。背面冷却部材3には図示しない冷却管(冷却手段)が配置されている。
【0023】
このように、凸部3aによって、背面冷却部材3の面内方向に接触面積の分布をもたせることにより、基板1の中央部の冷却効率を高めて、基板温度を均一にする。
【0024】
比較のために、冷却効率に分布をもたせるための凸部の無い背面冷却部材を用いて成膜したところ、基板の中央部が高温になり、周辺部との温度差が10〜15℃あった。
【0025】
一方、本実施形態による背面冷却部材3を取り付けた基板1では、上記温度差が2.5℃となり、温度分布が改善した。そして、基板温度分布に起因する、中央部と周辺部のパターンのずれは、±2μm以下に位置精度が改善した。
【0026】
これは、蒸着源の位置に対応した背面冷却部材の中央部に凸加工を施し、図2に示すように、中央部の熱の流れを増加させて冷却を促進し、基板の中央部と周辺部との温度差を低減することができたためである。
【0027】
なお、凸部形状は制約なく、図3に示すように、ピン形状の凸部である凸ピン部13aを背面冷却部材13の中央部に複数配置した構成でもよい。
【0028】
蒸発源を3箇所に分布させた成膜装置においては、3箇所の熱源位置に対応して3ヶ所の高温部が存在する。このため、図4に示すように、基板に対する接触面の中央部3箇所に50×50mm、高さ0.5mmの凸部23aを研削形成した背面冷却部材23を用いた。
【0029】
背面冷却部材23には図示しない冷却管が配置されている。図1の装置と同様に、基板温度が改善し、成膜位置精度を向上させることができた。
【0030】
本実施形態によれば、基板の裏面に密着して配設された背面冷却部材の接触面に、凸形状を分布配置して接触面積に粗密差をつけることで、基板の冷却状況に差ができ基板温度分布を小さくすることができる。これによって基板変形が小さくなり、成膜時にパターン形成用のマスクとのずれが改善されるため、着膜の位置精度や線幅精度が向上する。
【0031】
図5は、第2の実施形態を示す。これは、蒸着熱源が中央部1箇所である成膜装置において、背面冷却部材33と基板の中央部との接触面積を増やすために、背面冷却部材33の中央部に表面処理を施したものである。例えば、背面冷却部材33の中央部に、200×100mmのエリア部分33aの表面粗さRaを2μm以下に仕上げた表面処理面を設ける。その他の部分はRaが2μmよりも大きくなるようにすることで、冷却効率の面内方向の分布をもたせている。背面冷却部材33には冷却管(冷却手段)が配置されている。
【0032】
このように構成された背面冷却部材を取り付けた成膜装置により蒸着成膜した結果、基板の温度分布が第1の実施形態と同様に改善し、基板温度分布に起因する中央部と周辺部のパターン位置ずれが低減された。
【0033】
これは、背面冷却部材の中央部に、例えば研磨により表面粗さを小さく表面処理したエリアを設けることで、表面粗さに分布をもたせて冷却効率に差をつけ、従来中央部が高く、周辺部が低くなっていた基板温度分布を小さくできたことによる。
【0034】
さらに、蒸着熱源が3箇所である成膜装置においても、本実施形態による背面冷却部材は、基板接触面の中央部3箇所に同様の研磨仕上げを行うことにより、第1の実施形態と同様に基板温度を改善し、成膜位置精度を向上させることができた。
【0035】
本実施形態によれば、基板の裏面に密着する背面冷却部材の接触面において部分的に表面粗さを変えて基板の冷却状況に差をつくることで、基板温度分布を小さく改善することができる。その結果、基板変形が小さくなり、成膜時にパターン形成用のマスクとのずれが改善されるため、着膜の位置精度や線幅精度が向上する。
【0036】
図6及び図7は、第3の実施形態を示す。蒸着熱源が中央部1箇所である成膜装置において、背面冷却部材43の基板接触面の中央部には、200×100mmの部分に熱伝導率が高い厚さ1mmの銅板43a貼り付け、周辺には熱伝導率が低い厚さ1mmのセラミック板43bを貼り付けた。このように、熱伝導率の異なる異種材料を接合することにより、背面冷却部材43の冷却効率に分布を持たせている。なお、背面冷却部材43には図示しない冷却管が配置されている。
【0037】
このように構成された背面冷却部材を取り付けた成膜装置により蒸着成膜した結果、基板の温度は中央部と周辺部の温度分布が第1の実施形態と同様に改善し、基板温度分布に起因する中央部と周辺部のパターン位置ずれが改善した。
【0038】
これは、接触面中央部に熱伝導率が良い部材を、そして周辺には熱伝導率が悪い部材を貼り付けた背面冷却部材を使用することで、従来中央部が高く、周辺部が低くなっていた基板温度分布を小さくできたことによる。
【0039】
また、図7に示すように、中央部の銅板53aと周辺部のセラミック板53bを背面冷却部材53の内部に配置しても、同様の効果がある。
【0040】
さらに、蒸着熱源が3箇所である成膜装置においても、本実施形態による背面冷却部材は、基板接触面の中央部3箇所に同様の構造をとることで、第1の実施形態と同様に基板温度が改善し、成膜位置精度を向上させることができた。
【0041】
本実施形態によれば、基板の裏面に密着する背面冷却部材に、部分的に熱伝導率の異なる異種材料を接合することで基板の冷却効率に差をつけ、基板温度分布を改善することができる。その結果、基板変形が小さくなり、成膜時にパターン形成用のマスクとのずれが改善されるため、着膜の位置精度や線幅精度が向上する。
【0042】
図8は、第4の実施形態を示す。これは、蒸着熱源が中央部1箇所である成膜装置において、背面冷却部材63の中央部と周辺部に2系統の冷却管63a、63bを加工した。そして、中央部には20℃、周辺部には25℃の冷媒を使用して、冷却能力の異なる2系統の配管を有する冷却手段によって背面冷却部材63を冷却した。
【0043】
このように冷却効率に分布をもつ背面冷却部材を取り付けた成膜装置により蒸着成膜した結果、基板の温度分布が第1の実施形態と同様に改善し、パターン位置精度が向上した。これは、背面冷却部材に2系統の冷却管を加工して、接触面中央部の冷媒温度を周辺部の冷媒温度に比べて低く制御した背面冷却部材を使用することで、従来中央部が高く、周辺部が低くなっていた基板温度分布を小さくできたことによる。
【0044】
さらに、蒸着熱源が3箇所である成膜装置においても、本実施形態による背面冷却部材は、基板接触面の中央部3箇所に同様の冷却管を加工することで、第1の実施形態と同様に基板温度が改善し、成膜位置精度を向上させることができた。
【0045】
本実施形態によれば、基板の裏面に密着する背面冷却部材の冷却管の配置や冷却条件を変えて基板の冷却状況に差をつけることで、基板温度分布を小さく改善することができる。その結果、基板変形が小さくなり、成膜時にパターン形成用のマスクとのずれが改善されるため、着膜の位置精度や線幅精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1の実施形態による成膜装置を示すもので、(a)はその主要部を示す模式断面図、(b)、(c)は背面冷却部材のみを示す断面図と底面図である。
【図2】図1の背面冷却部材における熱の流れを示す図である。
【図3】一変形例を示す図である。
【図4】別の変形例を示す図である。
【図5】第2の実施形態による背面冷却部材を示すもので、(a)はその断面図、(b)は底面図である。
【図6】第3の実施形態による背面冷却部材を示すもので、(a)はその断面図、(b)は底面図である。
【図7】一変形例を示す図である。
【図8】第4の実施形態による背面冷却部材を示すもので、(a)はその断面図、(b)は底面図である。
【図9】蒸着熱源が中央1箇所である場合の基板の温度分布を示す図である。
【図10】蒸着熱源が3箇所である場合の基板の温度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基板
2 マグネット
3、13、23、33、43、53、63 背面冷却部材
4 マスク
5 トレイ
3a、23a 凸部
13a 凸ピン部
43a、53a 銅板
63a、63b 冷却管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発源から発生する成膜材料の蒸気を、マスクを介して基板に蒸着させる成膜装置において、
前記基板の成膜面と反対側の非成膜面に接触して前記基板を冷却する背面冷却部材と、
前記背面冷却部材を冷却する冷却手段と、
前記背面冷却部材の前記基板に対する接触面に、前記蒸発源による熱源位置に対応するように冷却効率の分布をもたせるための冷却効率制御手段と、を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記冷却効率制御手段は、前記基板に対する前記背面冷却部材の接触面積に分布をもたせるために、前記背面冷却部材に形成された凸部を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記冷却効率制御手段は、前記背面冷却部材の表面粗さに分布をもたせるために、前記背面冷却部材に設けられた表面処理面であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記冷却効率制御手段は、前記背面冷却部材の熱伝導率に分布をもたせるために、前記背面冷却部材に接合された異種材料であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記冷却効率制御手段は、前記冷却手段の冷却能力に分布をもたせるために、前記背面冷却部材に設けられた冷却管であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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