説明

成長ホルモン液剤

本発明は、成長ホルモン、または内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質; ポリエチレン-ポリプロピレングリコール; クエン酸/リン酸緩衝剤; アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩または擬似アルカリ土類金属塩を含有する液剤に、また該液剤の調製方法に、関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成長ホルモン(GH)液剤に、また特に化学的物理的安定性を高めたヒト成長ホルモン(hGH)液剤に、関する。本発明の成長ホルモン(GH)液剤は室温で長期にわたり保存され得る。本発明はさらに、そうしたGH液剤の調製方法および提示形態に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト成長ホルモン(hGH)は別名ソマトロピン(INN)またはソマトトロピンともいうが、下垂体前葉のソマトトロピン細胞により産生、分泌されるタンパク質ホルモンである。ヒト成長ホルモンはタンパク質、糖質および脂質の代謝に対する作用を通じて小児期の体成長と成人期の代謝で重要な役割を果たす。
【0003】
ヒト成長ホルモンは191アミノ酸からなる単一ポリペプチド鎖であり(Bewly et al, 1972)、2つのジスルフィド結合をもつが、1つはCys-53とCys-165の結合であってホルモン分子中に大ループを形成し、もう1つはCys-182とCys-189の結合であってC末端近くに小ループを形成する。このアミノ酸配列を裏付けるDNA配列はMartial et al (1979)により報告された。精製hGHは凍結乾燥体では白色の非晶質粉末であり、水性緩衝剤にpH 6.5〜8.5の範囲で容易に溶解する(濃度>10mg/L)。
【0004】
hGHは溶液中ではほとんどがモノマーとして存在し、ダイマーやさらに高分子量のオリゴマーの割合は小さい。ある種の条件下では、ダイマー、トリマー、オリゴマーの割合を高めるように誘導することもできる。
【0005】
いくつかのhGH誘導体が知られており、それには主として天然型誘導体、変異体および代謝産物、生合成hGHの分解産物や、遺伝子工学で生成したhGH誘導体などが含まれる。天然型hGH誘導体の一例は、胎盤中に見られる成長ホルモン変異体GH-Vである。この遺伝子座の他の構成メンバーはChen et al (1989)により開示されている。
【0006】
メチオニルhGHは組み換えDNA技術で最初に作り出されたhGHである。この化合物は実はN末端に追加のメチオニン残基1個を有するhGH誘導体である(Goeddel et al, 1979)。
【0007】
下垂体と血流中には20-K-hGHという天然型hGH変異体が存在すると報告されている(Lewis et al, 1978; Lewis et al, 1980)。この化合物はメッセンジャーRNAの選択的スプライシングから生じ(DeNoto et al, 1981)、Glu-32からGlu-46までの15アミノ酸残基を欠くものの、hGHのすべてではないが、数多くの生物学的特性を共有する。
【0008】
20-K-hGHは下垂体で作られ、血液中に分泌される。成人と小児の成長ホルモン産生量のそれぞれ約5%、25%を占める。22kD成長ホルモンと同じ成長促進活性をもつし、また脂質分解活性は22kDと同等以上と報告されている。22kD体と同等のアフィニティーで成長ホルモン受容体に結合するし、また乳腺刺激(プロラクチン様)活性はその1/10である。20-K-hGHは22kDと異なり、抗インスリン活性は弱い。
【0009】
多数のhGH誘導体はタンパク質分解修飾に由来する。主要なhGH代謝経路はタンパク質分解が関与する。hGHの残基130〜150付近の領域はタンパク質分解作用をきわめて受けやすく、またこの領域にニックまたは欠失を有する数種のhGH誘導体がすでに開示されている(Thorlacius-Ussing, 1987)。この領域はhGHの大ループ内にあり、そこでのペプチド結合の切断は、Cys-53とCys-165の間のジスルフィド結合で結ばれた2本の分子鎖を生成させる結果となる。これらの2本鎖体は生活性の増大を示すものが多い報告されている(Singh et al, 1974)。多数のhGH誘導体が酵素の使用により人工的に作製されてきた。hGHを様々な部位で修飾するためにトリプシンやスブチリシンなどの酵素が使用されてきた(Lewis et al, 1977; Graff et al, 1982)。そうした誘導体の1つは2本鎖型のタンパク質同化タンパク質(2-CAP)といい、トリプシンを使用したタンパク質分解の制御により形成された(Becker et al, 1989)。2-CAPは、hGHの成長促進活性がほぼ維持される一方で糖質代謝への作用はほぼなくしていて、インタクトhGH分子とは非常に異なる生物学的特性を有することが判明した。
【0010】
タンパク質中のアスパラギンおよびグルタミン残基は然るべき条件の下で脱アミド反応を受けやすい。下垂体hGHはこの種の反応を受けてAsn-152がアスパラギン酸に、またそれほどではないがGln-137がグルタミン酸に、それぞれ変換されるという結果になりやすいことが判明している(Lewis et al, 1981)。脱アミド化hGHは酵素スブチリシンによるタンパク質分解の受けやすさに変化をきたすことが判明しており、これは脱アミド化がhGHのタンパク質分解切断を導くという点で生理学的重要性を有する可能性のあることを示唆する。生合成hGHはある種の保存条件下で分解し、結果として別のアスパラギン残基(Asp-149)で脱アミドを起こすことが知られている。これが主要な脱アミド部位であるが、Asn-152の脱アミドもまた見られる(Becker et al, 1988)。生合成hGHではGln-137の脱アミドは報告されていない。
【0011】
タンパク質中のメチオニン残基は酸化を、主にスルホキシドへの酸化を、受けやすい。下垂体由来hGHと生合成hGHはどちらもMet-14とMet-125でスルホキシド化を受ける(Becker et al, 1988)。Met-170の酸化もまた下垂体由来hGH では報告されているが、生合成hGHでは報告されていない。脱アミド化hGHとMet-14スルホキシドhGHのどちらも完全な生物活性を示すことが判明している。
【0012】
切断型hGHは酵素の作用で、または遺伝子組み換えにより、作製された。トリプシン作用の制御により生成される2-CAPはhGHのN末端の最初の8残基を除去してある。他の切断型hGHは好適な宿主中で発現前の遺伝子を修飾することで作製された。最初の13残基が除去されていて、ポリペプチド鎖が切断を受けないという独特の生物学的特性(Gertler et al, 1986)を有する誘導体となっている。
【0013】
hGHは当初、死体下垂体から得られたが、それらの製剤は電気泳動的に一様ではなかったし、また純度50%程度の製剤で治療した患者の血清には、不活性成分が抗原であると見られる抗体が現れた。組み換えDNA技術により、多数の異なるシステムでhGHを無制限に生産することが可能になった。培地からのhGHの精製は、低濃度の不純物タンパク質しか存在しないため、容易になっている。実際、実験室規模でのhGH精製は逆相HPLCカラムによる単一精製ステップで済む(Hsiung et al, 1989)。
【0014】
遺伝子組み換えヒト成長ホルモン(rhGH)はSerono International S.A.がSEROSTIM(商標)として生産しており、同製品はAIDS患者の体重減少と消耗の治療に関してFDAの迅速承認を受けている。SAIZEN(商標)は小児GH分泌不全、少女ターナー症候群、それに小児慢性腎不全を適応症とするrhGH製剤である。Genentech, Inc. (South San Francisco, CA)が生産しているPROTROPIN(商標)は天然型hGHとは構造がやや異なり、N末端に追加のメチオニン残基を1個もつ。rhGHは一般に、hGHと追加の添加物たとえばグリシンやマンニトールを凍結乾燥体として含むバイアルで販売されている。希釈液が付属するので、患者は製品を所望濃度に還元してから自己投与することができる。rhGHはまた、周知の他の剤形たとえばPFS(プレフィルドシリンジ)製剤として販売することもできる。
【0015】
hGHを治療薬として調製、市販するには、安定製剤としなければならない。安定製剤は適正な保存期間にわたり活性を維持し、また患者による自己投与に適するものである。
【0016】
hGHは種々のやり式で製剤化されてきた。たとえば米国特許第5,096,885号明細書は、hGHに加えてグリシン、マンニトール、緩衝剤および任意に非イオン性界面活性剤を含み、hGH:グリシンのモル比を1:50とする、安定した、製薬上許容しうるhGH製剤を開示している。
【0017】
国際公開第WO 93/19776号パンフレットはGH注射製剤を開示しているが、該製剤は緩衝剤としてクエン酸塩を、また任意に成長因子たとえばインスリン様成長因子または上皮成長因子、アミノ酸たとえばグリシンまたはアラニン、マンニトールなどの糖アルコール、グリセロールおよび/または防腐剤たとえばベンジルアルコールを含む。
【0018】
国際公開第WO 94/101398号パンフレットは、hGH、緩衝剤、非イオン性界面活性剤を、また任意にマンニトール、中性塩および/または防腐剤を含むGH製剤を開示している。
【0019】
欧州特許第0131864号明細書は分子量8500 Da超のタンパク質の水溶液を開示しているが、該溶液は線状ポリオキシアルキレン鎖を含む界面活性剤を安定剤として添加することにより該タンパク質の界面吸着、変性および沈殿を防ぐようにしてある。
【0020】
欧州特許第0211601号明細書は成長促進ホルモンとブロックコポリマーとの水性混合液を含む成長促進製剤を開示しているが、該コポリマーはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン単位を含み、平均分子量約1,100〜40,000であり、投与時に成長促進ホルモンの流動性と生物活性を維持する働きをする。
【0021】
国際公開第WO 97/29767号パンフレットは成長ホルモン、クエン酸三ナトリウム二水和物、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ベンジルアルコール、Pluronic(商標) F-68を含みpHが5.6である液剤を開示している。
【0022】
米国特許第5,567,677号明細書はヒト成長ホルモン、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、グリシン、マンニトール、任意成分のベンジルアルコールを含む液剤を開示している。
【0023】
hGH製剤は傾向として特に溶液中で不安定である。hGHの脱アミド化体またはスルホキシル化体などの化学分解種が生じるし、また物理的不安定性からはダイマー以上の高分子量の凝集体が生じよう(Becker et al, 1988; Becker et al, 1987; Pearlman and Nguyen 1989)。
【0024】
hGHは溶液中で不安定であることから、hGH製剤は一般に凍結乾燥体とされるため、使用前に還元しなければならない。還元は通常、製薬上許容しうる希釈剤たとえば滅菌注射用水、滅菌生理食塩水または適当な、生理学的に許容しうる滅菌希釈剤を添加して行う。
【0025】
還元hGH溶液は化学的、物理的な分解反応を抑える意味で4℃で保存するのが好ましい。そうした保存は14日間を限度とするが、その間にも若干の分解は起ころう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
液剤の形をとるhGH製剤、特に長期間にわたり沈殿、凝集または他の粒状物質の形成を伴うことなくhGHの安定性を維持するような液剤があれば、特に有利であろう。
【0027】
従って、望ましくない粒状物質の形成を招くことなく長期間の保存がきく成長ホルモン液剤を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0028】
発明の概要
本発明の第1の態様は、次の成分を含む液剤に関する:
a) 成長ホルモン、または内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質;
b) アルカリ金属塩;
c) アルカリ土類金属塩または擬似アルカリ土類金属塩; および
d) クエン酸/リン酸緩衝剤。
【0029】
本発明の第2の態様は本発明の液剤を調製する方法に関する。
第3の態様で、本発明は還元されて前述のような新液剤となる凍結乾燥製剤に関する。
第3の態様で、本発明は本発明の製剤の、成長ホルモンの単回投与または反復投与への使用に関する。
本発明の第4の態様は本発明の液剤の提示形態に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明によれば、成長ホルモンの液剤中の化学的物理的安定性は特定の無機塩を選択することで高められることが判明した。従って、得られる溶液は長期間たとえば約1〜52週間または1〜16週間または1〜4週間にわたる、好ましくは室温での、保存が可能となろう。
【0031】
さらに、成長ホルモンの液剤中の、長期間にわたる安定性の向上は、請求項1に記載の組成物で図れることも判明した。
【0032】
従って、本発明は次の成分を含む液剤に関する:
a) 成長ホルモン、または内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質;
b) アルカリ金属塩;
c) アルカリ土類金属塩または擬似アルカリ土類金属塩; および
d) クエン酸/リン酸緩衝剤。
【0033】
一実施形態では本発明の液剤は反復投与に使用してもよいが、その場合には該製剤は、室温で1週間以上にわたり、保存してもよいことになろう。
【0034】
本発明に従って製剤化される成長ホルモンは製剤の使用目的に応じて任意の種たとえばウシ、ブタ、イヌまたはネコに由来してよい。内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質はたとえば成長ホルモン放出ホルモンである。
【0035】
本発明では、次の物質を製剤化するのが好ましい:
a) ヒト成長ホルモン;
b) hGH受容体に対する作動活性を有する(a)の断片;
c) (a)または(b)に対し少なくとも70%の配列同一性を有する(a)または(b)の変異体;
d) (a)または(b)をコードする天然型DNA配列の相補体と、中程度にストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズし、またhGH受容体に対する作動活性を有する、(a)または(b)の変異体;
e) hGH受容体に対する作動活性を有する(a)、(b)、(c)または(d)の塩または官能性誘導体。
【0036】
本発明ではヒト成長ホルモンを含む製剤が好ましい。
【0037】
用語「ヒト成長ホルモン」または「hGH」は本発明では、前述のような天然型および合成型の誘導体を含むものとするが、その非限定的な例は20kDと22kDの両ヒト成長ホルモン、GH-V、および[背景技術]で詳述したような他の成長ホルモン遺伝子座メンバーである。
【0038】
hGHは天然型hGHでもよいが、遺伝子組み換えhGHであるのが好ましい。遺伝子組み換えGHは任意好適の原核または真核宿主で発現させてよい。たとえばE. coliはhGHの発現に特に好適な宿主である。遺伝子組み換え成長ホルモンの発現には酵母、昆虫または哺乳動物細胞もまた好適である。hGHはヒトまたは動物細胞たとえばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で発現させるのが好ましい。
【0039】
用語「hGH」または「成長ホルモン」は本発明では、成長ホルモンの生物活性を保持する、すなわち成長ホルモン受容体に対して作動物質として働く官能性の誘導体、断片、変異体、類似体、または塩をも包含する。言い換えると、それらは成長ホルモン受容体に結合して受容体のシグナル活性を開始させることができる。
【0040】
用語「官能性誘導体」または「化学的誘導体」は本発明では、N末端またはC末端基の残基上の側鎖として存在する官能基から、技術上周知の手段によって、作られる誘導体を網羅し、またそれらが引き続き製薬上許容しうるし、また開示のようなhGHの生物活性すなわちhGH受容体に結合して受容体のシグナル活性を開始させる能力を破壊せず、また該誘導体を含有する組成物に毒性を付与しない限りで、本発明に包含される。誘導体はhGHの生物活性を保持し、引き続き製薬上許容しうる限りで、化合物の構成部分たとえば糖鎖またはリン酸基でもよい。
【0041】
誘導体はたとえばカルボキシル基の脂肪族エステル; アンモニアとの、または一級または二級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド; アシル基(たとえばアルカノイル基またはカルボン酸アロイル基)により形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体; またはアシル基により形成される(たとえばセリル残基またはトレオニル残基の)遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体を含んでもよい。そうした誘導体はまた、たとえば抗原部位をマスクし該分子の体液中の滞留時間を伸ばすようなポリエチレングリコール側鎖を含んでもよい。
【0042】
成長ホルモンは誘導体化または錯化剤で錯体化すると長持ちすることがある。そこで、本発明の好ましい実施形態はPEG化ヒト成長ホルモンに関する。持続的活性を示すようにした遺伝子組み換え成長ホルモンもまた本発明の範囲内のhGH誘導体の例である。
【0043】
好ましくは、本発明の製剤は分子鎖間ジスルフィド結合を介し結び付いたジスルフィドダイマー、共有結合の不可逆的非ジスルフィドダイマー、非共有結合ダイマー、およびそれらの混合体からなる群より選択されるダイマーのヒト成長ホルモンを含む。
【0044】
用語「塩」は本発明では、hGH分子またはその類似体のカルボキシル基塩とアミノ基酸付加塩の両方をいう。カルボキシル基塩は技術上周知の手段で形成してよいし、また例として無機塩たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄または亜鉛塩、および有機塩たとえばトリエタノールアミン、アルギニンまたはリシン、ピペリジン、プロカインなどのようなアミン塩がある。酸付加塩の例は無機酸たとえば塩酸または硫酸との塩、および有機酸たとえば酢酸またはシュウ酸との塩などである。もちろん、そうした塩はいずれも本発明に関連するhGHの生物活性すなわちhGH受容体に結合し受容体シグナル伝達を開始させる能力を保持しなければならない。
【0045】
さらなる好ましい実施形態では、本発明はヒト成長ホルモンの断片に関する。
【0046】
成長ホルモンの「断片」は本発明では該分子のうち、所期の生物活性を保持する任意の部分すなわち該分子よりも短いペプチドをいう。そうした断片はhGH分子のいずれかの末端からアミノ酸を除去し、残った部分についてhGH受容体作動物質としての性質の有無を試験すれば、容易に得られる。ポリペプチドのN末端またはC末端から一度に1個のアミノ酸を除去するためのプロテアーゼは周知であり、また所期の生物活性を保持する断片の決定も型どおりの試験で済む。
【0047】
本発明のhGH断片は、hGHの所期活性すなわちhGH受容体に結合し該受容体を介したシグナル伝達に影響を及ぼさない限りで、内部欠失を有するのが好ましい。本発明の好ましい断片はグルタミン酸(Glu)32〜グルタミン酸46の15アミノ酸を欠く。
【0048】
hGH断片はC末端またはN末端をさらに切断してもよい。本発明では、ヒト成長ホルモンN末端の最初の8残基または13残基を欠く切断型hGHもまた好ましい。
【0049】
hGHの短いC末端断片がhGHの生物活性を保持することはすでに開示されている。米国特許第5,869,452号明細書を参照。従って、本発明ではhGHのC末端断片を使用するのが好ましい。hGHのアミノ酸残基177〜191 (LRIVQCRSVEGSCGF)を少なくとも含むhGH 177-191は本発明には特に好ましい。さらにこのペプチドの誘導体たとえば米国特許第6,335,319号明細書または国際公開第WO 99/12969号パンフレットで開示されているようなペプチド変異体たとえば環状ペプチドなどもまた好ましい。
【0050】
また、そうしたhGH受容体作動物質活性を有するポリペプチドは、hGH、類似体、変異体、官能性誘導体またはその断片のいずれであれ、該hGHポリペプチドに隣接する追加のアミノ酸残基を含むことができる。それによって得られる分子がコアポリペプチドのhGH受容体作動物質活性を保持する限り、そうした隣接残基が該コアペプチドの基本的かつ新規な特性すなわちその受容体作動特性を有するかどうかは、型どおりの試験で判定することができる。
【0051】
本発明では好ましいそうしたGH変異体の例は、ヒト成長ホルモンのN末端に追加のメチオニン残基を1個有するメチオニルヒト成長ホルモン(Met-hGH)である。
【0052】
本発明では好ましいhGHの変異体は、ヒト成長ホルモンのN末端に追加のメチオニン残基を1個有するメチオニルhGHを含む。さらなる好ましい変異体はGlu32〜Glu46の15アミノ酸残基を欠くヒト成長ホルモンである。
【0053】
ヒト成長ホルモンの「変異体」は本発明では、該タンパク質の全体またはその断片に実質的に類似した分子をいう。変異体は突然変異タンパク質ともいう。変異体はたとえば選択的プライシングによって作られる変異体アイソフォームのhGHでもよい。変異体ポリペプチドはまた、技術上周知の方法による変異体ペプチド直接化学合成で調製するのが好都合の場合もある。もちろん、変異体ヒト成長ホルモンは少なくともhGHと類似するhGH受容体結合およびシグナル伝達開始活性を有するであろうし、従ってhGHと類似する活性を有すると見込まれるであろう。
【0054】
ヒト成長ホルモンのアミノ酸配列変異体は、合成ヒト成長ホルモン誘導体をコードするDNA内の突然変異により作ることができる。そうした変異体の例には該アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入または置換なども含まれる。欠失、挿入および置換の任意の組み合わせにより、所期活性を有する最終構造を得るようにしてもよい。当然、変異体ペプチドをコードするDNA内の突然変異はリーディングフレームを変更してはならない。
【0055】
遺伝子レベルでは、これらの変異体はペプチド分子をコードするDNA内のヌクレオチドの(Adelman et al, 1983で例示されているような)部位特異的突然変異誘発を生じさせ、以って変異体をコードするDNAを作製し、該DNAを遺伝子組み換え細胞培養で発現させるという方法で作り出すことができる。該変異体は一般に、非変異体ペプチドと少なくとも同質の生物活性を示す。
【0056】
ヒト成長ホルモンの「類似体」は本発明では、該分子の全体またはその活性断片に実質的に類似した非天然型の分子をいう。本発明に有用であるヒト成長ホルモンの類似体はGH活性を示すであろう。
【0057】
本発明に従ってヒト成長ホルモンに導入しうる置換のタイプは種々の生物種の相同タンパク質の間のアミノ酸変化の頻度の分析に基づこう。本発明では、そうした分析に基づいて、保存的アミノ酸置換を次の5群のうちの1群内の交換と定義する:
I 小さな、脂肪族の無極性または弱極性残基:
Ala, Ser, Thr, Pro, Gly
II 極性、負荷電の残基とそのアミド:
Asp, Asn, Glu, Gln
III 極性、正荷電の残基:
His, Arg, Lys
IV 大きな、脂肪族の無極性残基:
Met, Leu, Ile, Val, Cys
V 大きな芳香族残基:
Phe, Try, Trp
【0058】
上記群内では、次の置換が「きわめて保存的」とみなされる:
Asp/Glu
His/Arg/Lys
Phe/Tyr/Trp
Met/Leu/Ile/Val
【0059】
半保存的アミノ酸置換は前記群I〜VのうちのI、IIおよびIII を含む超群Aと前記IVおよびVを含む超群Bへと集約される2群間の交換と定義される。置換は遺伝子にコードされたアミノ酸に、さらには天然に存在するアミノ酸に、限定されない。エピトープをペプチド合成で作るときは、所期アミノ酸を直接使用してもよい。あるいは、遺伝子にコードされたアミノ酸を、特定の側鎖または末端残基と反応しうる有機誘導体化剤と反応させて修飾してもよい。
【0060】
システイニル残基は最も一般的にはα-ハロ酢酸(および対応するアミン)たとえばクロロ酢酸またはクロロアセトアミドと反応させて、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を与える。システイニル残基はまた、ブロモトリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミダゾイル)プロピオン酸、リン酸クロロアセチル、N-アルキルマレイミド、二硫化3-ニトロ-2-ピリジル、二硫化メチル-2-ピリジル、p-クロロメルクリ安息香酸、2-クロロメルクリ-4-ニトロフェノールまたはクロロ-7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応により誘導体化する。
【0061】
ジエチルプロカルボナートはヒスチジル側鎖に対して比較的特異的であるため、ヒスチジル残基の誘導体化にはこの試薬をpH 5.5で用いる。臭化パラブロモフェナシルもまた有用であるが、反応は0.1M カコジル酸ナトリウムpH 6.0中で行うのが好ましい。
【0062】
リシニルおよびアミノ末端残基は無水コハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの試薬による誘導体化はリシニル残基の電荷を反転させる効果がある。含αアミノ酸残基を誘導体化するための好適な試薬としては他に、メチルピコリンイミダートなどのようなイミドエステル; リン酸ピリドキサル; ピリドキサル; クロロホウ水素化物; トリニトロベンゼンスルホン酸; O-メチルイソウレア; 2,4-ペンタンジオン; およびグリオキシル酸とのトランスアミナーゼ触媒反応などがある。
【0063】
アルギニル残基は1種または数種の通常試薬たとえばフェニルグリオキサル、2,3-ブタンジオンおよびニンヒドリンとの反応により修飾する。アルギニン残基の誘導体化では、反応をアルカリ性条件下で行わなければならない。これはグアニジン官能基のpKaが高いためである。さらに、これらの試薬はリシンの官能基およびアルギニンのε-アミノ基と反応させてもよい。
【0064】
チロシル残基自体の特異的修飾は広く研究されてきたが、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によるチロシル残基へのスペクトルラベルの導入に特に関心が向けられている。最も一般的には、O-アセチルチロシル化学種とε-ニトロ誘導体を形成するためにN-アセチルイミダゾールとテトラニトロメタンがそれぞれ使用される。
【0065】
カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミル)はカルボジイミド(R'N-C-N-R')たとえば1-シクロヘキシル-3-[2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミドまたは1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドとの反応により選択的に修飾する。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基はアンモニウムイオンとの反応によりアスパラギニルおよびグルタミニル残基へと変換される。
【0066】
グルタミニルおよびアスパラギニル残基はしばしば、対応するグルタミルおよびアスパルチル残基へと脱アミド化される。あるいは、これらの残基は弱酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基はどちらの形態も本発明の範囲内である。
【0067】
本発明に使用するhGH類似体の獲得のために使用することができるタンパク質へのアミノ酸置換の導入例は米国特許RE33,653; 第4,959,314号; 4,588,585号;および4,737,462号(以上Mark et al)の各明細書;米国特許第5,116,943号(Koths et al)明細書;米国特許第4,965,195号(Namen et al)明細書; および米国特許第5,017,691号(Lee et al)明細書で開示されているような任意の周知の方法ステップを含み、また米国特許第4,904,584号(Shaw et al)明細書で開示されているリシン置換タンパク質を含む。さらなる成長ホルモン変異体はたとえば米国特許第6,143,523号(Cunningham et al)明細書などで開示されている。
【0068】
本発明に使用されるような、ヒト成長ホルモン受容体に結合しシグナル伝達を開始させる物質の例には、たとえば米国特許第5,851,992号; 5,849,704号; 5,849,700号; 5,849,535号; 5,843,453号; 5,834,598号; 5,688,666号; 5,654,010号; 5,635,604号; 5,633,352号; 5,597,709号; および5,534,617号の各明細書で開示されているものなど、文献ですでに周知となっている成長ホルモン類似体および擬似体がすべて含まれる。
【0069】
好ましくは、hGH変異体または類似体はコア配列をもつが、そのコア配列は天然配列またはその生物活性断片のそれと同じであり、該天然アミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、またその生物活性を保持する。さらに好ましくは、そうした配列は該天然配列に対して少なくとも80%の同一性を、少なくとも90%の同一性を、あるいは最も好ましくは少なくとも95%の同一性を、有する。
【0070】
「同一性」は複数のポリペプチド配列間の、または複数のポリヌクレオチド配列間の、配列比較によって決定される関係をいう。一般に同一性は、2ポリヌクレオチド配列または2ポリペプチド配列の、それぞれの比較対象配列区間における厳密なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応をいう。
【0071】
厳密な対応が存在しない配列では「%同一性」を求めてもよい。一般に、比較対象の2配列について配列間の相関が最大となるように配列アラインメントを行う。これには片方または両方の配列に「ギャップ」を挿入してアラインメントの度合いを高める操作を含めてもよい。%同一性は各比較対象配列の全長にわたって(いわゆる大域アラインメントで)求めてよいし(これは同程度の長さの配列に特に適する)、もっと短い特定区間にわたって(いわゆる局所アラインメントで)求めてもよい(これは不等長の配列に、より適する)。
【0072】
複数配列の同一性および相同性を比較する方法は技術上周知である。従って、Wisconsin Sequence Analysis Package, version 9.1 (Devereux J et al, 1984)プログラムパッケージに収められたBESTFITやGAPなどのプログラムを使用して、2ポリヌクレオチド間の%同一性を、また2ポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を、求めてもよい。BESTFITはSmith and Watermanの「局所相同性」アルゴリズムを使用し、2配列間の最良単一類似性領域を探し出す。配列間の同一性および/または相同性を求めるための他のプログラムもまた技術上周知であり、たとえばNCBIのウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.govからアクセス可能なBLASTファミリーのプログラム(Altschul S F et al, 1990; Altschul S F et al, 1997)や、FASTA(Pearson W R, 1990; Pearson 1988)などがある。
【0073】
本発明の変異体または突然変異タンパク質中の好ましい変化は「保存的」アミノ酸置換と呼ばれる変化である。成長ホルモンポリペプチドまたはタンパク質の保存的アミノ酸置換は、実質的に類似の物理化学的性質を有する同一群内のアミノ酸の同義置換を含んでもよい。同義置換では該分子の生物学的機能は保存されよう(Grantham, 1974)。前記配列にその機能を変えることなくアミノ酸の挿入または欠失を導入しうることもまた、特にそうした挿入または欠失が少数の、たとえば30個未満の、好ましくは10個未満のアミノ酸に絡み、かつ機能的な高次構造にとってきわめて重要なアミノ酸(たとえばシステイン残基)を除去または置換しない場合には、明らかである。そうした欠失および/または挿入によって作り出されるタンパク質および突然変異タンパク質は本発明の範囲内である。
【0074】
本発明の類似体または変異体は次の手順に従って決定してもよい。天然型配列のDNAは技術上周知であり、また文献にも求められる(Martial et al, 1979)。天然型DNAまたはRNAの相補体と高度にまたは中程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする任意のDNAまたはRNAなどの核酸によりコードされるポリペプチドは、それが天然型配列の生物活性を維持する限りで、やはり本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0075】
ストリンジェンシー条件は、ハイブリダイゼーション温度、1価陽イオンのモル濃度およびハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの百分率の関数である。与えられた任意の条件群に関するストリンジェンシーの度合いを求めるには、まずMeinkoth et al. (1984)の式を使用して、DNA-DNAハイブリッドの融解温度Tmとして表される100%同一性のハイブリッドの安定性を求める:
Tm=81.5℃+16.6(logM)+0.41(%GC)-0.61(%form)-500/L
【0076】
式中、Mは1価陽イオンのモル濃度であり、%GCはDNA中のGおよびC塩基の百分率であり、%フォーム(form)はハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの百分率であり、またLは塩基対単位のハイブリッドの長さである。100%同一性のハイブリッドに関する計算値からTmが1℃低下するたびに、許容ミスマッチ量は1%増加する。従って、指定の塩およびホルムアミド濃度での任意のハイブリダイゼーション試験に使用するTmがMeinkothの式による100%同一性のハイブリッドに関する計算値を10℃下回れば、最大10%程度のミスマッチを伴うハイブリダイゼーションが起ころう。
【0077】
本発明では、高度にストリンジェントな条件は約15%までの配列不一致を見込む条件であり、また中程度にストリンジェントな条件は約20%までの配列不一致を見込む条件である。高度にストリンジェントな(ハイブリッドのTm計算値を12〜15℃下回る)条件と中程度にストリンジェントな(ハイブリッドのTm計算値を15〜20℃下回る温度)条件の例は、非限定的に、ハイブリッドのTm計算値を下回る適当な温度での2×SSC(標準食塩クエン酸緩衝剤)+0.5% SDSによる洗浄を使用する。条件のストリンジェンシーの決め手は主に洗浄条件であり、使用するハイブリダイゼーション条件が比較的安定しないハイブリッドと安定したハイブリッドの同時形成を許容する条件である場合には特にそうである。比較的安定しないハイブリッドは次に、さらに高度にストリンジェントな洗浄条件で除去される。前記の高度にストリンジェントな〜中程度にストリンジェントな洗浄条件との併用が可能な一般的なハイブリダイゼーション条件は、6×SSC(または6×SSPE)、6×Denhardt試薬、0.5% SDS、100μg/mL変性・断片化サケ精子DNAからなる溶液中での、Tmを約20〜25℃下回る温度によるハイブリダイゼーションである。混合プローブを使用する場合には、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用するのが好ましい(Ausubel, 1987-1998)。
【0078】
本発明はヒト成長ホルモン誘導体を作製するための遺伝子組み換え法を提供するものの、そうした誘導体は技術上周知の通常のタンパク質合成法で作製してもよい。
【0079】
本発明の製剤は、非イオン性界面活性剤であるポリマー、ポリエチレン-ポリプロピレングリコールを含む。界面活性剤は本発明ではtensioactiveまたはtensioactive agentともいう。さらに別の好ましい実施形態では、該製剤はポリエチレン-ポリプロピレングリコールを0.5〜5 mg/mLまたは1〜2 mg/mLの範囲の、または1.5 mg/mLの、濃度で含む。
【0080】
好ましい製剤では、界面活性剤はプルロニックポリオールたとえばF68である。Pluronic(商標) F68は本発明では大いに望ましい。
【0081】
GHを界面活性剤Pluronic(商標) F68 (BASF; Poloxamer 188ともいう)と調合すると、沈殿、凝集、または何らかの粒子状物質の生成という問題を防止する安定した製剤が得られた。
【0082】
Pluronic(商標) F68はエチレンオキシド(EO)とプロピレンオキシド(PO)のブロックコポリマーであり、POブロックを2個のEOブロックで挟んである。
【化1】

1. プロピレンオキシドをプロピレングリコールの2個のヒドロキシル基に付加して所期分子量の疎水性物質を作り出す;
2. エチレンオキシドを付加して該疎水性物質を親水基の間に挟みこむ。
Pluronic(商標) F68では、ポリオキシエチレン(親水性物質)の百分率は80%であり、また疎水性物質(ポリオキシプロピレン)の分子量は約1967 Daである。
Pluronic(商標) F68の一般特性は次のとおりである:
平均分子量: 8400
融点/流動点: 52℃
外観@20℃: 固体
粘度(Brookfield) cps: 1000 [25℃で液体、60℃でペースト、77℃で固体]
表面張力、dynes/cm 25℃;
濃度0.1%: 50.3
濃度0.01%: 51.2
濃度0.001%: 53.6
界面張力、dynes/cm 25℃ vs Nujol;
濃度0.1%: 19.8
濃度0.01%: 24.0
濃度0.001%: 26.0
Draves湿潤時間(秒) 25℃
濃度1.0%: >360
濃度0.1%: >360
泡高さ
Ross Miles法、0.1%、mm 50℃: 35
Ross Miles法、0.1%、mm 26℃: 40
Dynamic法、0.1%、mm 400mL/min: >600
水溶液中の曇点、℃
濃度1%: >100
濃度10%: >100
HLB(親水疎水比): 29
【0083】
本発明の製剤にはPluronic(商標) F68と類似の性状をもつ他のポリマーを使用してもよい。
【0084】
ポリエチレン-ポリプロピレングリコールは0.5〜5 mg/mLまたは1〜2 mg/mLの範囲の、または1.5 mg/mLの、濃度で使用してもよい。
【0085】
当業者には自明であろうが、ポリエチレン-ポリプロピレングリコールの他にさらに1つまたは複数の界面活性剤を使用してもよい。
【0086】
本発明の製剤はさらに安定剤を含む。安定剤は等張剤としても機能してよい。
【0087】
「等張剤」は、生理学的に許容される化合物であって、好適な等張性を製剤に付与して、該製剤と接触する細胞膜経由の正味流量の水を遮断するような化合物である。グリセリンなどのような化合物はそうした目的のために、既知濃度で使用される。他の好適な安定剤の非限定的な例はアミノ酸またはタンパク質(例: グリシンまたはアルブミン)、塩(例: 塩化ナトリウム)、糖(例: ブドウ糖、ショ糖、乳糖)などである。
【0088】
本発明への使用が好ましい安定剤または等張剤の例は非還元糖たとえばショ糖、トレハロース、ソルボース、メレジトースおよびラフィノース、それにマンニトール、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、ソルビトールおよびグリセロールなどである。
【0089】
好ましい実施形態では、安定剤または等張剤はショ糖である。
【0090】
さらなる好ましい実施形態では、製剤はショ糖を10 mg/mL〜100 mg/mLまたは20 mg/mL〜80 mg/mLの範囲の、または約60 mg/mLの、濃度で含む。
【0091】
本発明の製剤はNaCl、KCl、Na2SO4、Na2CO3などのアルカリ金属塩を含む。好ましい実施形態では、アルカリ金属塩はNaClまたはNa2SO4である。
【0092】
本発明の製剤はさらに、CaCl2、MgCl2、MgSO4、NH4CO3などのアルカリ土類金属塩を含む。好ましい実施形態では、アルカリ土類金属塩はMgCl2である。
【0093】
本発明の製剤はさらに、クエン酸/リン酸緩衝剤を含む。本発明の範囲内で使用してもよいクエン酸/リン酸緩衝剤はたとえばクエン酸ナトリウム/リン酸ナトリウム緩衝剤である。
【0094】
用語「緩衝剤」または「生理学的に許容しうる緩衝剤」は医薬または動物薬製剤に使用しても安全であることが判明していて、かつ該製剤のpHを所期範囲内に維持または調節する効果を有する化合物の溶液をいう。
【0095】
本発明の製剤はクエン酸/リン酸を1〜100 mMまたは5〜50 mMまたは10〜20 mMの濃度範囲で含むのが好ましい。
【0096】
本発明によれば、製剤のpHは好ましくは5〜7または5.5〜6.5の範囲内またはほぼ6である。なお好ましくはpHは5.5〜5.9である。
【0097】
本発明の製剤は液体であり、従って水性希釈剤を含む。
【0098】
用語「水性希釈剤」は水を含む液体溶媒である。水性溶媒系は水だけからなってよいし、水の他に1つまたは複数の混和性溶媒を含んでもよいし、また溶質たとえば糖、緩衝剤、塩または他の添加物を含んでもよい。
【0099】
製剤はまた1つまたは複数の非水性溶媒を含んでもよい。常用の非水性溶媒は短鎖有機アルコールたとえばメタノール、エタノール、プロパノール、短鎖ケトンたとえばアセトン、それに多価アルコールたとえばグリセロールである。
【0100】
本発明の製剤は好ましくは防腐剤をさらに含む。成長ホルモンが反復投与を意図する場合には、防腐剤の添加は特に好ましい。
【0101】
「防腐剤」は、製剤内での細菌の作用を実質的に抑制し、以って反復投与用製剤の生産を容易にすることを目的に製剤に添加することができる化合物である。防腐剤の例は塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム類の混合物)、および塩化ベンゼトニウムである。他タイプの防腐剤には芳香族アルコール類たとえばフェノール、ブチルアルコールおよびベンジルアルコール、アルキルパラベン類たとえばメチルパラベンまたはプロピルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールなどがある。
【0102】
防腐剤は本発明では静菌剤でもよい。用語「静菌剤」は抗菌物質として作用することを目的に製剤に添加される化合物または組成物をいう。本発明の防腐剤添加GH製剤は、商業目的の反復投与用(複数回用量)製品とするための保存効果に関する法定または規制ガイドラインに適合するのが好ましい。静菌剤の例はフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、アルキル(すなわちメチル、エチル、ブロピル、ブチルなど)パラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウムおよびチメロサールなどである。
【0103】
防腐剤の使用濃度は1〜10 mg/mLまたは2〜5 mg/mLまたは3 mg/mLであるのが好ましい。
【0104】
本発明の好ましい防腐剤はフェノールである。
【0105】
本発明は第2の態様で、本発明の製剤成分の水溶液を調製するステップを含む液剤の生産方法に関する。
【0106】
本発明はまた、所定量の製剤を滅菌容器に配置するステップを含む液剤の生産方法に関する。一般にそうした量はミリリットル台である。
【0107】
治療投与用のhGH液剤は、所期純度のhGHと安定剤を、生理学的に許容しうる添加物、緩衝剤または防腐剤と混ぜ合わせることにより調製してもよい(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th Edition, Osoll A. Ed. 1980)。許容しうる添加物は、採用される濃度および用量で患者に無害な添加物であり、例として緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、pHおよび等張性調節剤などを含む。
【0108】
成長ホルモン液剤はまた、必要なら1つまたは複数の他の安定化添加物を含んでもよい。追加の安定化添加物の例はグリシンまたはアラニンなどのようなアミノ酸、マンニトールまたは他の糖アルコール、またはグリセロールなどである。加えて、液剤はインスリン様成長因子(IGF)またはIGF結合タンパク質などのような他の成長因子を含んでもよい。
【0109】
本発明に従って調製される製剤では、hGHの安定性が高まるため、hGH製剤の、一般に使用されている製剤よりも高濃度の、かつ広範囲の、使用が可能になる。
【0110】
用語「安定性」は本発明の成長ホルモン製剤の物理的、化学的、高次構造的な(生物学的効果の維持を含めた)安定性をいう。タンパク質製剤の不安定性の原因は、タンパク質分子の化学的分解または凝集による高次構造の形成、本発明に包含されるGHポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を低下させるような脱グリコシル化やグリコシル化、脱アミド、酸化など任意の構造修飾に求められよう。
【0111】
Easyject(商標)などのような自己注射器は技術上周知であり、hGHの投与には特に有用である。本発明との関連では、技術上周知の特殊装置を使用する無針投与も可能である。
【0112】
本発明のさらなる態様は本発明の製剤を含有する医薬組成物に関する。本発明の範囲内に包摂される組成物は、本発明の少なくとも1つのヒト成長ホルモンまたはその誘導体、類似体または変異体を、その所期目的を実現するうえでの有効量含む諸々の組成物である。各成分の有効量については個人差があるものの、その至適範囲の決定は技術上周知である。一般的な日用量は約0.001〜0.1 mg/kg-体重である。hGH治療薬は、患者に投与する場合、同じ疾患に適用される他の治療薬と併用して投与してもよい。
【0113】
本発明の液剤は凍結乾燥標品の成長ホルモンを適当な希釈剤(注射用水など)で還元し該液剤が前記添加物を含むようにして液剤としてもよい。
【0114】
用語「投与する」または「投与」は本発明の製剤を、疾病または疾患治療のために該製剤を必要とする患者の体内に導入することを意味する。
【0115】
本発明の好ましい実施形態では、hGH投与の日用量は約0.1〜10 mgまたは約0.5〜6 mgである。一実施形態では、日用量は約約0.15〜0.3 mg-hGHであり、投与経路は好ましくは皮下注射である。さらなる実施形態では、1日約1mgの成長ホルモンを、必要とする患者に投与する。
【0116】
さらなる実施形態では、hGHをより多い第1用量とより少ない第2用量をこの順序で交互に投与する。好ましくは、第1用量は約1mg、第2用量は約0.5mgである。週用量は患者の必要に応じて約6mgまたは約5mgまたは約4.5mgとするのが好ましい。
【0117】
用語「患者」は疾病または疾患の治療を受ける哺乳動物をいう。患者の非限定的な例は人間、羊、豚、馬、牛、兎などである。
【0118】
本発明の製剤は種々の投与方法に適合する。たとえば次のような投与経路が可能である: 皮下・静脈内・筋肉内などの非経口、経口、腹腔内、エアゾル、経皮、くも膜下、または経直腸。
【0119】
本発明の好ましい投与経路は皮下および筋肉内である。
【0120】
本発明の組成物または製剤の適切な用量は当然、患者の年齢・健康状態・体重、もしあれば併用療法の種類、治療頻度、および期待される治療効果の内容などに左右されよう。しかし、当業者には余計な試験に俟つまでもなく理解し決定しうるであろうが、最も好ましい用量は個別患者に応じて決めることができる。これは一般に標準用量の調節たとえば低体重の患者には用量の低減という形をとる。
【0121】
1回の治療に要する総用量は反復(複数回用量)投与または単回(単回用量)投与する。
【0122】
「反復投与の使用」は単一バイアル、アンプルまたはカートリッジのGH製剤の、複数回たとえば2、3、4、5または6回以上の注射への使用を包含する。注射には間隔を、たとえば6、12、24、48または72時間の間隔を、設ける。
【0123】
本発明はさらに、本発明の製剤の単回用量投与への使用に関する。別の態様では、本発明は本発明の製剤の反復投与への使用に関する。
Seronoの代表的なhGH反復投与製剤(Saizen)は1.33、3.33または8 mgのhGHを含有する。
Lillyの代表的なhGH反復投与製剤(Humatrope)は6、12または24 mgのhGHを含有する。
Pfizerの代表的なhGH反復投与製剤(Genotropin)は5または12 mgのhGHを含有する。
Novo Nordiskの代表的なhGH反復投与製剤(Genotropin)は5、10または15 mgのhGHを含有する。
【0124】
以上のように、代表的な製剤ではバイアルのhGH量は1.33、3.33、5、6、8、10、12、15または24 mgである。
【0125】
組成物は単独で投与してもよいし、同じ疾患用の、または同じ疾患の他の症状用の、他の治療薬と一緒に、投与してもよい。
【0126】
本発明のhGH製剤はバイアルに分注してもよい。用語「バイアル」は固体状または液体状のGHを分注時の滅菌状態に維持するのに適した広義の容器をいう。本発明で使用されるバイアルの例はアンプル、カートリッジ、ブリスターパック、または注射器、ポンプ(浸透圧ポンプを含む)、カテーテル、経皮パッチ、経肺または経粘膜用噴霧器などによりGHを患者に送達するための他の好適な容器である。非経口、経肺、経粘膜または経皮製剤の包装に適した容器は技術上周知である。
【0127】
hGH製剤の安定性の向上は適正温度たとえば氷点下(例: -20℃)または氷点以上(2〜8℃)最も好ましくは+5℃、さらには室温たとえば+25℃の温度での長期保存を可能にする。
【0128】
in vivo投与に使用するhGH製剤は滅菌しなければならない。これはたとえば滅菌ろ過膜によるろ過で簡単に行えよう。
【0129】
治療用hGH液剤は一般に、滅菌アクセスポートを有する容器に、たとえば皮下注射針を刺し通すことができるストッパー付きの静注液バッグまたはバイアルに、配置される。
【0130】
従って、本発明のさらなる態様は、使用前の保存に適した容器に滅菌状態で密閉された本発明の液剤の提示形態に関する。
【0131】
本発明の製剤は小児GH分泌不全、AIDS患者の体重減少と消耗、少女ターナー症候群、および小児慢性腎不全の治療に使用してもよい。
【0132】
以上、本発明を特定の実施形態との関連で説明してきたが、さらなる変更形態が可能であることはいうまでもない。本願は、総じて本発明の原理に従う本発明の任意の変形、使用方法または改作を、本発明の属する技術分野における周知または慣例のやり方に沿うような本願開示からの逸脱を含めて、添付の特許請求の範囲に記載する本質的特徴と同様に、網羅するものである。
【0133】
引用した諸々の参考文献は学術論文およびアブストラクト、公開・未公開の米国および外国特許出願の明細書、交付済み米国または外国特許の明細書、または他の任意の参考文献を含めて、その全体が諸々のデータ、図表および本文ごと、参照により開示される。さらに、引用した参考文献内で引用されている参考文献の内容もその全体が参照により開示される。
【0134】
本発明の理解は、以上の説明を踏まえ以下の実施例を参照することでさらに容易になろう。以下の実施例は例示的な臨床研究の概要に関連し、本発明の限定ではなく説明を目的とする。
【実施例】
【0135】
次の2つの製剤についてその安定性を評価した。
【表1】

【0136】
製剤AおよびBの化学的安定性を、40℃で長期間たとえば3週間保存後に、評価した。
hGHの安定性の決定にはRP-HPLC(逆相HPLC)を使用した。それにより、ヒト成長ホルモンの主ピークの変化の度合いから無変化のインタクト成長ホルモン量を割り出した。言い換えると、成長ホルモンの主ピークの変化から変化の度合いを推測し、無変化r-hGHの、時間0での対応ピークに対する百分率として計算した。
【0137】
結果:
製剤A:
・ サンプルを40℃で1か月間保存した後のr-hGHの主ピークは時間0の対応ピークの62%である(すなわち40℃で1か月間保存後の無変化のr-hGH量は当初の62%である)。
・ 室温(25℃)で1か月間保存した後のr-hGHの主ピークは時間0の対応ピークの91%である(すなわち25℃で1か月間保存後の無変化のr-hGH量は当初の91%である)。
製剤B:
40℃で3週間保存した後のr-hGHの主ピークは時間0の対応ピークの69%である(すなわち40℃で3週間保存後の無変化のr-hGH量は当初の69%である)。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 成長ホルモン、または内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質;
b) アルカリ金属塩;
c) アルカリ土類金属塩または擬似アルカリ土類金属塩; および
d) クエン酸/リン酸緩衝剤
を含む液体製剤。
【請求項2】
前記成長ホルモンがヒト成長ホルモンである請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記内因性hGHの放出を刺激するまたは活性を強化する物質が成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)である請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩がNaCl、KCl、Na2SO4、Na2CO3からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩がNaClまたはNa2SO4である請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属塩がCaCl2、MgCl2、MgSO4、NH4CO3からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
前記アルカリ土類金属塩がMgCl2である請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記緩衝剤がクエン酸ナトリウム/リン酸ナトリウム緩衝剤である請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記緩衝剤の濃度が1〜100 mMまたは5〜50 mMまたは10〜20 mMである請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
界面活性剤をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
前記界面活性剤がポリエチレン-ポリプロピレングリコールである請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
前記界面活性剤がPluronic(商標)F68である請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
前記ポリエチレン-ポリプロピレングリコールを0.5〜5 mg/mLまたは1〜2 mg/mLまたは1.5 mg/mLの濃度で含む請求項10または11に記載の製剤。
【請求項14】
安定剤をさらに含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
前記安定剤がショ糖である請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
ショ糖を10mg/mL〜100mg/mLまたは20mg/mL〜80mg/mLまたは約60mg/mLの濃度で含む請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
pHが5〜7または5.5〜6.5または約6である請求項1〜16のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項18】
前記pHが5.5〜5.8の範囲内である請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
防腐剤をさらに含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項20】
前記防腐剤を1〜10 mg/mLまたは2〜5 mg/mLまたは3 mg/mLの濃度で含む請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
前記防腐剤がフェノールである請求項19または20に記載の製剤。
【請求項22】
前記製剤がpHが5.8であり、かつr-hGH、クエン酸ナトリウム/リン酸ナトリウム、Na2SO4、MgCl2、フェノール、Pluronic(商標) F68、および任意に注射用水からなる、請求項1〜21のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項23】
製剤はpHが5.8であり、かつr-hGH、クエン酸ナトリウム/リン酸ナトリウム、NaCl、MgCl2、フェノール、Pluronic(商標) F68、および随意に注射用水からなる、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか1項に記載の製剤を含有する医薬組成物。
【請求項25】
使用前保存に適した容器内に滅菌状態で密閉された、請求項1〜23のいずれか1項に記載の液体製剤の提示形態。
【請求項26】
小児GH分泌不全、AIDS患者の体重減少と消耗、少女ターナー症候群、および小児慢性腎不全の治療薬の調製への、請求項1〜23のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項27】
治療薬は単回投与用である請求項26に記載の製剤の使用。
【請求項28】
治療薬は反復投与用である請求項26に記載の製剤の使用。

【公表番号】特表2007−532515(P2007−532515A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506768(P2007−506768)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/051448
【国際公開番号】WO2005/105148
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(504104899)アレス トレーディング ソシエテ アノニム (59)
【Fターム(参考)】