手振れ補正ユニット
【課題】可動磁石型のボイスコイルモータを備え、ロック動作とアンロック動作の切換えを円滑に行うことができる手振れ補正ユニットを提供する。
【解決手段】固定部材と、補正レンズを支持する可動部材と、可動部材を、光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータとを備えた手振れ補正ユニットであって、
係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、固定部材に設けられた空芯コイルと、空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、係止部材に設けられた可動磁石と、可動磁石の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする手振れ補正ユニット。
【解決手段】固定部材と、補正レンズを支持する可動部材と、可動部材を、光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータとを備えた手振れ補正ユニットであって、
係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、固定部材に設けられた空芯コイルと、空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、係止部材に設けられた可動磁石と、可動磁石の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする手振れ補正ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に加わる振れに起因する像振れを防止するために、手振れ補正レンズを移動させる可動磁石型駆動手段を備えた手振れ補正ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の撮像用光学機器では、撮影レンズの長焦点化及び高倍率ズーム化に伴い、高画質の写真を撮影するために、カメラボディーや交換レンズに手振れ防止機構を搭載することが一般的になっている。
【0003】
写真撮影における手振れを解析すると、腕の震え(10Hz付近の周波数)と体の揺れ(数Hz付近の周波数)、レリーズ時のシャッター衝撃及び手の揺れに起因して、光軸と直交する方向(縦横)の平行ぶれとピッチ、ヨー及びロールの回転ぶれに分類される。特に結像する画像に対して大きく影響するピッチ及びヨーの回転ぶれを補償することが重要である。
【0004】
この手振れを防止する方式として、撮像センサ(CCD、CMOS等)を駆動するセンサシフト方式や、撮影光学系を駆動するレンズシフト方式が一般的に用いられている。撮像センサを駆動して結像位置を移動させ手ぶれを補正するセンサシフト方式は、既存レンズを使用でき、高い精度で手振れを補正することができる。撮像レンズの一部を光軸に対して垂直な方向に駆動して結像位置を移動させるレンズシフト方式はレンズごとに最適化を図ることができ、被写体を観察中にもファインダー上で手振れ防止機能を視認できるという利点がある。
【0005】
特許文献1(特許第4133990号)は、磁気的中立線が補正レンズの光軸を中心とする円周のほぼ半径方向に向くように駆動磁石を配置することにより、補正レンズ等の可動部を並進運動させるだけでなく、回転運動させることも可能にしたアクチュエータを有する手振れ補正装置を開示しており、移動枠の制御を行わないときに、移動枠を固定板に対して係止するための手動用係止部材が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の係止機構は、手動操作で移動枠の係止とその解除を切り替えるものであるため、操作性が悪く改善が望まれている。
【0006】
特許文献2(特許第4336698号)は、撮像用レンズをその光軸に直交する平面内で並進移動させ、像振れを防止するためのアクチュエータであって、固定部と、前記撮像用レンズが取り付けられた可動部と、この可動部を、前記固定部に対して平行な平面上で移動できるように支持する可動部支持手段と、前記可動部を前記固定部に対して移動させるための駆動手段と、第1位置と第2位置の間で移動可能に設けられた係止用部材と、この係止用部材が前記第2位置へ移動されるように前記係止用部材を付勢する付勢手段と、この付勢手段による付勢力に抗して前記係止用部材を前記第1位置に保持する保持手段と、前記可動部が所定の解除位置に移動されると前記保持手段に作用して、前記係止用部材の保持を解除させる保持解除手段と、前記係止用部材が前記付勢手段の付勢力により前記第2位置へ移動されると、この移動に伴って前記可動部を所定の係止位置に移動させる可動部係動手段と、前記可動部が前記係止位置に移動されると、前記可動部と係合して前記可動部を係止する係合受け部とを有するアクチュエータを開示している。特許文献2は、このような構成により、ロックリング等の部材を駆動するためのアクチュエータを設けることなく可動部を係止することができると記載している。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された手振れ防止装置は、ロックリングを駆動するためのアクチュエータを省略することはできるが、ロックレバー及びロックリング(係止用回転板)の他に、強制回転用板ばね等の付勢手段を必要とし、これらのロックレバー及びロックリングも複雑な形状になるといった問題を有している。
【0008】
特許文献3(特開2009-116033号)は、像ブレ補正を行う光学部品を保持し、移動可能な保持部材と、前記像ブレ補正の非作動時に前記保持部材をロックするロック部材と、前記ロック部材に備えられた位置検出用パターンを付勢し、前記ロック部材の移動に伴って前記位置検出用パターンの上を摺動する導電性の接触端子と、前記接触端子と電気的に接続され、前記位置検出用パターンに対する前記接触端子の相対的位置に基づいて、前記保持部材に対する前記ロック部材の相対的位置を検出する検出回路とを含む像ブレ補正装置を開示している。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載のアクチュエータは、前記ロック部材に、前記ロック部材を回動させるためのボイスコイルモータの一部を構成する回動コイルを備えているので、コイルの端末(始端及び終端)の取り回しが複雑化し、コイルの断線が発生し易くなるといった問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4133990号公報
【特許文献2】特許第4336698号公報
【特許文献3】特開2009-116033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、係止部材駆動用の可動磁石型ボイスコイルモータを備え、かつロック及びアンロックの切り替えを円滑に行うことができる手振れ補正ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、固定部材に設けられた空芯コイルと、係止部材に設けられた永久磁石とで可動磁石型のボイスコイルモータを構成し、可動範囲の両端に強磁性体からなる規制部材を設けることによって、コイルの断線等の問題の発生がなく、前記可動部材のロック及びアンロックをスムーズに確実に行うことができることを見出し本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の手振れ補正ユニットは、
レンズ鏡筒内に固設される非磁性体からなる固定部材と、
光軸方向から見て前記固定部材に対向するように配置され、補正レンズを支持するリング状の可動部材と、
前記可動部材を、前記補正レンズの光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、
前記可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、
前記補正用ボイスコイルモータの移動方向及び移動量を制御する制御手段と、
前記可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、
前記係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータと
を備えた手振れ補正ユニットであって、
前記係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた空芯コイルと、前記空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、前記係止部材に設けられた磁気発生手段と、前記磁気発生手段の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする。
【0014】
前記可動部材は、前記係止部材を回転させたときに前記係止ピンを受取り、前記可動部材をロックするための係止溝を有し、前記係止溝は前記係止ピンの移動方向に沿って入口側よりも奥側が広がった形状を有するのが好ましい。
【0015】
前記係止用ボイスコイルモータは、前記磁気発生手段の可動範囲に亘って前記固定部材に設けられた磁気シールド部材を備えるのが好ましい。
【0016】
前記磁界発生手段は、成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に磁化された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、前記各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されているのが好ましい。
【0017】
前記補正用ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた複数個の長円形状の偏平な空芯コイル、及び前記可動部材の、前記空芯コイルに対応する位置に設けられた複数個の磁気回路部によって構成され、
前記空芯コイルは、前記固定部材の前記光軸方向と直交する面内で、前記光軸を中心とする円周上に、90〜120°の角度間隔で、長手方向が接線方向と一致するように配置され、
前記磁気回路部は、前記可動部材に固定された強磁性体からなる平板状ヨークと、このヨークに固着されかつ異極性の一対の磁極が前記各空芯コイルと対向するように固設された複数個の平板状の永久磁石とを含み、
前記永久磁石は、前記光軸方向と直交する面内で一対の異極性の磁極が光軸に向くように設置されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補正レンズをロックするためのボイスコイルモータを可動磁石型として構成するため断線が防止され、しかもロック動作とアンロック動作の切り替えをスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の手振れ補正ユニットを搭載したデジタルカメラの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の手振れ補正ユニットを示す分解斜視図である。
【図3】図2をA方向から見た分解斜視図である。
【図4】図2のB-B断面図である。
【図5】図2の手振れ補正ユニットの可動枠を示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図6】図2の手振れ補正ユニットの固定枠Aを示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図7】図2の手振れ補正ユニットの固定枠Bを示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図8】図2の手振れ補正ユニットの係止可動枠を示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図9】補正用ボイスコイルモータの推力発生機構を示す模式図である。
【図10】図9のD-D断面図である。
【図11】係止部を模式的に示す(a)平面図、及び(b)G-G断面図である。
【図12】係止用ボイスコイルモータの一例を模式的に示す断面図である。
【図13】図12をH方向から見た、(a)一対の係止用磁石の位置関係を示す正面図、 (b)係止用磁石、係止コイル及び配線基板の位置関係を示す正面図、並びに(c)係止用バックヨーク、係止用磁石、係止用吸引ヨーク及び磁気シールド板の位置関係を示す正面図である。
【図14】磁気回路部を半径方向に移動させたときのホール素子で検出する光軸方向の磁束密度を示すグラフである。
【図15】本発明の手振れ補正ユニットの制御回路を示すブロック図である。
【図16】補正レンズの位置検出回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施の形態1>
[1]デジタルカメラ
本発明の手振れ補正ユニットを備えたデジタル一眼レフカメラ(以下単に「カメラ」という)の一例を図1に示す。カメラ100は、ボディー110と、レンズ鏡筒114とを備えており、前記ボディー110は、レンズ鏡筒114によって結像した被写体の光学像を、光学フィルタ112を介して検出するCCD等の固体撮像素子111を含み、前記レンズ鏡筒114は、収差補正効果を得るために負のレンズ群と正のレンズ群を交互に組合せた複数のレンズ群(第1レンズ群115a、第2レンズ群115b、第3レンズ群115c及び第4レンズ群115d)、及び絞り部(図示せず)を有する。本発明の手振れ補正ユニット10は、前記レンズ鏡筒114の第3レンズ群115cに設けられている。
【0021】
本発明の手振れ補正ユニット10は、手振れ補正手段としてレンズシフト方式を採用したものなので、ファインダー上で被写体を観察中にも手振れ防止機能を視認することができる。このレンズシフト方式では、手振れ補正レンズ群を光軸と直交方向に変位させることによって光軸を補正するので、できるだけ小さなレンズシフト量で撮影者の手振れを補正できるようにすることが重要である。従って、これらの条件を満足するようなレンズ群を補正レンズ群として選定すればよく、本実施の形態では第3レンズ群115cを手ぶれ補正レンズ群(以下「補正レンズ11」と言う。)として示している。
【0022】
手振れ補正は、ボディー110の内部に設けられた振れ量検出部5によって検出された手振れ量(角加速度)を、制御回路6に入力し、手振れ量に応じた駆動電流を駆動回路7に供給し、入射光軸を偏移させて手振れの少ない画像が得られるように補正レンズ11の位置を制御することにより行う。前記振れ量検出部5は、縦方向の手振れ量と横方向の手振れ量を検出することができる検出器、例えば2つのジャイロセンサからなる。手振れ補正ユニット10では、補正光学系の光軸に対する倒れ(傾き)を防止するために、手振れ補正ユニットの駆動部(補正用ボイスコイルモータ)を補正光学系の重心を通り光軸に垂直な面に置くのが好ましい。
【0023】
[2]手振れ補正ユニット
(1)全体構成
図2〜図4は手振れ補正ユニットの一例を示す。手振れ補正ユニット10は、補正レンズ11を有する可動部材1と、可動部材1をレンズ鏡筒120(図1参照)内に保持するための固定部材2と、可動部材1を光軸に対して垂直な面内で駆動する可動磁石型補正用ボイスコイルモータ(以下単に「補正用VCM」という。)3と、非撮像時に補正レンズ11を光軸と一致する位置に静止しておく係止機構部4とを備えている。
【0024】
(2)可動部材及び固定部材
可動部材1は、補正レンズ11と、その補正レンズ11の外周縁を保持しかつフランジ部121を有する非磁性体からなるリング状の可動枠12(図5を参照)とを含む。固定部材2は、図6に示すように、可動枠12の一部を受容しかつフランジ部210を有する非磁性体からなるリング状の固定枠A21と、配線基板22を含む。前記配線基板はフレキシブル配線基板(FPC)であるのが好ましい。可動部材1は、光軸方向(Z軸方向)に対して垂直な平面(XY平面)において任意の方向に移動可能な状態で、非磁性体からなるリング状の固定部材2に支持されている。可動部材1と固定部材2とは、例えばそれらの間に介装する複数の転動体13を含む支持手段により支持されるのが好ましい。このような方法によって支持することにより、可動部材1と固定部材2との間の摺動(摩擦)抵抗が低減され、微小な手振れを精度良く補正することが可能となる。
【0025】
(a)可動枠
可動枠12は、図5(b)に示すように、補正レンズ11を支持するリング部120及びフランジ部121を有する。フランジ部121には、円周方向に沿って等角度間隔(120°)に磁気回路保持部123a,123b,123cが形成されるとともに、各磁気回路保持部123a,123b,123cの中間には、鋼球の一部が挿入可能な第2収容部122a,122b,122cが形成されている。図5(a)に示すように、フランジ部121の、固定枠A21と対向する面とは反対側の面には、前記第2収容部122a,122b,122cに対応する位置に、円板状の吸引用バックヨーク126a,126b,126c及び第2吸引磁石125a,125b,125cを保持する保持孔124a,124b,124cが形成されている。また磁気回路保持部123a,123b,123cの反対側には、後述の係止ピンを受取り、可動枠12を所定位置でロックしておくための係止溝128a,128b,128cを有する係止部127a,127b,127cが形成されている。
【0026】
(b)固定枠A
固定枠A21は、図6(a)に示すように、可動枠12のリング部120が差し込まれるリング部210と、可動枠12と対向する面に鋼球の一部を受取る第1収容部212a,212b,212cが形成されたフランジ部211を有する。図6(b)に示すように、固定枠A21のフランジ部211の可動枠12と対向する面と反対側の面には、円柱状の第1吸引磁石214a,214b,214cを保持する保持孔213a,213b,213cが形成されている。
【0027】
(c)固定枠B
固定枠B41は、図7(a)に示すように、第4レンズ群(図示せず)を案内するためのリング部410と、固定部412a,412b,412cが形成されたフランジ部411とを有する。図7(b)に示すように、フランジ部411の可動枠12と対向する側には、磁気シールド板414(図3参照)を保持する保持孔413が形成されている。
【0028】
(d)係止可動枠
後述の係止機構部を形成する部材である係止可動枠42は、図8(a)に示すように、固定枠B41との緩衝を防止し、円周方向に沿って回動できるようにするための円弧溝420a,420b,420cを円周方向に沿って等角度間隔に有するとともに、係止用バックヨーク423及び係止用磁石424a,424bを保持する保持孔422を有する保持部421を有する。図8(b)に示すように係止可動枠42の可動枠12と対向する側には、前述した係止孔128a,128b,128cに嵌合される係止ピン425a,425b,425cが形成されている。
【0029】
(e)支持手段
本実施の形態では、転動体13(図2参照)として例えば鋼球等の強磁性体からなる球体を使用し、転動体13を機械的かつ磁気的に保持できる構造としている。すなわち固定枠A21のフランジ部211(可動枠12と対向する側)に円周方向に沿って所定角度間隔(例えば120°)で鋼球の一部を受容するリング状の第1収容部212a,212b,212cを形成するとともに、この収容部の背面側にZ軸方向に磁化した円柱状の第1吸引磁石214a,214b,214cが埋設されている。可動枠12のフランジ部121(固定枠A21と対向する側)に、鋼球の一部を受容するリング状の第2収容部122a,122b,122cを形成するとともに、この収容部の背面側に軸方向に磁化した円柱状の第2吸引磁石125a,125b,125c及び吸引用バックヨーク126a,126b,126cが埋設されている。従って、複数(3個)の鋼球が固定枠Aと可動枠とで挟持されるので、可動枠12が固定枠A21に対してZ軸に対して垂直な平面内で任意方向に移動することができる。しかも鋼球はZ軸方向に磁気的に吸引・保持されるので、鋼球の非所望な動きを抑制することができる。
【0030】
(3)補正用ボイスコイルモータ
補正レンズ11を駆動する補正用VCM3は可動磁石型とすることにより、モータの運動により配線を引き回すことがなく、コイルの断線を防止することができる。この可動磁石型補正用VCM3は、図2〜図4に示すように、固定部材2側に固設された偏平コイル310a,310b,310cを含むコイル部31と、可動部材1側に固設された永久磁石321a,321b,321c及びヨーク320a,320b,320cを含む磁気回路部32とを有する。各永久磁石321a,321b,321cは、円周方向の長さが半径方向の幅よりも大であってかつ偏平コイルの円周方向の有効長さと一致し、さらに一対の異極性の磁極が半径方向に沿ってならぶように設置されている。各永久磁石321a,321b,321cをこのように設置することで、光軸と垂直な平面で半径方向の推力が発生し、各推力を合成することにより光軸と垂直な平面で任意の方向に補正レンズ11を駆動させることが可能となる。本実施の形態においては、3つの偏平コイルを等角度間隔(120°)で基準円に外接するように配置して補正用VCM3を構成しているが、本発明においては、角度間隔が少なくとも90°となるように配置するのが好ましい。例えば3つの偏平コイルの2つを90°の角度間隔で配置し、残りの1つを前記2つの偏平コイルから135°の角度間隔で配置して補正用VCM3を構成しても良い。また、偏平コイルを4つ以上設けても良い。
【0031】
(a)コイル部
コイル部31を構成する偏平コイル310a,310b,310cは、光軸方向から見て長円形状(レーストラック状)に巻回された偏平な空芯コイルであり、配線基板22を介して固定部材2の一方の面、すなわち可動枠12と対向する側の面に設置された複数の偏平コイル310a,310b,310cからなる。各偏平コイル310a,310b,310cは、円周方向に沿って等角度間隔(120°間隔)で固定枠A21に固設されている。各偏平コイル310a,310b,310c又は各永久磁石321a,321b,321cの近傍には位置検出手段として、例えば後述の磁界検出素子(ホール素子等)が設けられている。本例では、配線基板22の偏平コイル310a,310b,310cが設置されている面とは反対側の面で、コイルの空芯部に対応する位置にホール素子610a,610b,610c (図3参照)が設置されている。
【0032】
(b)磁気回路部
磁気回路部32は、可動枠12のフランジ部121の複数個所(本実施の形態では3個所)に形成された磁気回路保持部123a,123b,123cに固設され、前記複数(本実施の形態では3個)の偏平コイル310a,310b,310cと対向する位置に設けられた複数の(偏平コイルと同数の)永久磁石321a,321b,321cと、前記永久磁石321a,321b,321cの偏平コイル310a,310b,310cと反対側の面に設けられた平板状のヨーク320a,320b,320cとを含む。磁気回路部32によって発生した、偏平コイル310a,310b,310cと鎖交する磁界により補正レンズ11を駆動することができる。これらの永久磁石321a,321b,321cはいずれも厚さ方向(光軸方向)に磁化され、偏平コイル310a,310b,310cと対向する側の面に極性の異なる一対の磁極が存在し、かつ磁極の境界(磁化中立線)が可動部材1の中心軸(光軸と一致)を中心とする円の接線方向を向くように磁化されている。従って永久磁石321a,321b,321cから発生する磁束と鎖交して推力の発生に寄与するコイルの有効導体部は、コイルの直線部(図9にハッチングで示した部分)となるように構成されている。これらの永久磁石321a,321b,321cは、低い駆動電流で大きな推力を得るために、図9における長さLmがコイル幅W1よりも大であり、特にLm/W1が1.5〜2.0の範囲にあるのが好ましい。
【0033】
永久磁石321a,321b,321cとしては、単一の永久磁石(ブロック状永久磁石)に1回の着磁作業で、図10に示すような一対の磁極(N極及びS極)を形成したものを使用しても良いし、厚さ方向に磁化した一対のブロック状永久磁石(単極磁石)を準備し、これらの磁石を磁化方向が異なるように固定したものを使用しても良い。1回の着磁作業で一対の磁極を形成する場合、保磁力が20 KOe以下の着磁性のよい永久磁石を用いて着磁するのが好ましい。これらの永久磁石は、N極からS極に反転する部分における磁界変化が直線的であるため、正確な位置検出を行うことができる。
【0034】
(4)係止機構部
係止機構部4は、固定枠B41及び可動枠12を所定位置に保持(係止)しておく係止可動枠42に設けられ、係止可動枠42を回動させるための係止用ボイスコイルモータ(以下単に「係止用VCM」という。)40を備えている。係止用VCM40は、配線基板43を介して固定枠B41に固定された係止コイル415(偏平な空芯コイル)、係止用吸引ヨーク416及び固定枠B41の係止コイル415と反対側の面に固定された磁気シールド板414と、係止可動枠42に設けられ、厚さ方向に磁化された係止用磁石424a,424b及び係止用バックヨーク423を備えている。係止コイル415に駆動電流を供給することにより、係止用バックヨーク423付係止用磁石424a,424bを所定方向に回転させて係止可動枠42を可動枠12に嵌合させ、補正レンズ11をその中心が鏡筒の光軸と一致する位置で固定することができる。係止機構部4は、無通電で補正レンズ11を固定(光軸と同軸状態)した状態に保持することができる。なお、係止可動枠42の回転範囲は、固定枠Bに磁性ピン等の規制部材(図示せず)を設けることにより、設定することができる。前記配線基板43はフレキシブル配線基板(FPC)であるのが好ましい。
【0035】
図11は、可動枠12に設けられた係止溝128aを有する係止部127a、及び係止可動枠42に設けられた係止ピン425aを示す。なお図11は、係止部127a,127b,127c、係止溝128a,128b,128c及び係止ピン425a,425b,425cによって構成される3箇所の係止構造のうち1箇所のみを示すが、他の箇所も同じ形状を有しているのでそれらの説明は省略する。可動枠12の、係止可動枠42と対向する側の係止部127aに、係止可動枠42が回動したときに係止可動枠42の係止ピン425aが挿入されるように係止溝128aが設けられている。この係止溝128aは、係止可動枠42の係止ピン425aが挿入される側が開いた形状を有し、係止ピン425aが差し込まれる入口の幅(h1)よりも、奥側の幅(h2)の方が広く形成されている。溝の長さ(la)は、係止ピン425aの直径の2倍程度であり、かつ、h2>h1となるように設定されている。係止溝128aがこのような形状を有することにより、係止ピン425aが押し込まれるとき(手ぶれ補正ユニットがロック状態になるとき)に、スムーズに係止溝128aに入り込み、多少の振動等によって容易には外れないので、確実なロック動作を保証することができる。
【0036】
係止用VCM40は、図12及び図13に示すように、配線基板43を介して固定枠B41(固定側部材)に固定された係止コイル415(偏平な空芯コイル)と、係止可動枠42(可動側部材)に固定された磁界発生手段、すなわち厚さ方向に磁化されて異極性の磁極がコイルと対向する係止用磁石424a,424b及び係止用ヨーク423とを備えた可動磁石型である。固定枠B41の配線基板43に対向する側の面には、係止コイル415の空芯部に相当する位置に係止用吸引ヨーク416が固定されるとともに、固定枠B41の背面側には強磁性体からなる磁気シールド板414が設けられている。さらに固定枠B41には、係止用磁石424a,424bの回動範囲を規制するために係止用磁石424a,424bの回動範囲の両端に規制部材417a,417bが設けられている。この規制部材は、永久磁石を磁気的に吸引できるようにするために鉄鋼材料等の強磁性体からなる。
【0037】
厚さ方向(光軸方向)に磁化された一対の直方体状の係止用磁石424a,424bは光軸と直角な平面内で異極性の磁極(N、S)が円周方向に沿って隣接するように保持枠421に固定されている。これらの係止用磁石424a,424bは、公知の永久磁石材料で形成することが可能であるが、VCM40の小型化を図るためにNd-Fe-B系異方性焼結磁石に代表される希土類磁石を使用するのが好ましい。またNd-Fe-B系異方性焼結磁石は、配向磁界が成形方向(プレス方向)と直角な磁界中成形(直角磁界成形)又は配向磁界が成形方向(プレス方向)と平行な磁界中成形(平行磁界成形)の手法で成形されるが、本発明では、係止用磁石(磁界発生手段)は、磁石粉末が成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に着磁された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されているのが好ましい。
【0038】
例えば、図13(a)に示すように、光軸と直角な平面において、直方体状の各係止用磁石424a,424bを、光軸を中心とする円周上に角度γの間隔を置いて、各係止用磁石424a,424bの長辺が前記円の接線方向に一致するように配置する。前記角度γは、15〜25°であるのが好ましく、係止用磁石424a及び係止用磁石424bが、お互いに接するように設定するのが好ましい。このように係止用磁石424a,424bを配置することにより、係止用磁石424a,424bが規制部材417a,417bと接した状態のとき、すなわち手ぶれ補正ユニットがロック状態又はアンロック状態のときに係止用VCM40の推力が最大となるので、確実なロック動作を行うことができるとともに、ロック状態(アンロック状態)からアンロック状態(ロック状態)への切り替えをスムーズに行うことができる。
【0039】
係止用コイル415は、図13(b)に示すように、光軸方向視で推力の発生に寄与する有効巻線部が係止用磁石424a,424の約1/3〜約1/2の投影面積を有するのが好ましい。係止用バックヨーク423は、図13(c)に示すように、係止用磁石424a,424から発生する磁束をコイル側に有効に集束するために、光軸方向視で係止用磁石424a,424が収まるような大きさの投影面積を有するのが好ましい。また磁気シールド板414は、磁気シールド効果を確保するために、少なくとも係止用磁石424a,424の移動範囲全体の投影部分を覆うような形状で、できるだけ広範囲にシールドできるような形状であるのが好ましい。
【0040】
直方体状の永久磁石(直角磁界成形品)は、成形の際に配向状態の乱れが生じにくいので、高い磁気特性(例えば残留磁束密度が1.45〜1.51 Tでかつ最大エネルギー積が405〜437 kJ/m3(51〜55 MGoe)を有することが可能となる。従って、このように直方体状の永久磁石を係止用磁石として使用することにより、係止力(可動範囲の端部における保持力)が増大し、非撮像時において無通電で補正レンズをレンズ鏡筒の中心に確実に保持することができる。また直方体状の永久磁石は、特別な形状を有する成形用金型を使用せずに製造できるので、複雑な形状(円弧状等)の永久磁石よりもコスト面で有利であるとともに、特殊な構造の着磁装置を使用せずに、空芯コイルにより、フル着磁が可能となり、磁気特性の高い永久磁石が得られるといった利点も有する。
【0041】
係止コイル415に駆動電流を供給して、係止用磁石424a,424bを光軸と垂直な面内で所定方向に回転させて係止可動枠42の係止ピン425a,425b,425cを可動枠12の係止溝128a,128b,128cに嵌合させる(保持する)ことにより、補正レンズ11をその中心が鏡筒の光軸と一致する位置に固定することができる。なお、係止可動枠42の回転範囲の終端で、係止用磁石424a,424bが強磁性体からなる規制部材417a,417bに吸引されることにより、係止コイル415に供給する駆動電流を止めてもロック状態(又はアンロック状態)を保持することができる、いわゆる自己保持形のVCMとすることができる。この自己保持形の係止用VCM40において、規制部材417a,417bの材質、寸法及び数量等を変更することにより、保持力を調整することができる。
【0042】
上記のロック機構部においては、図12に示すように係止用VCM40の固定枠B41側の中心に係止用吸引ヨーク416を設けることにより、係止可動枠42の浮き上がりが抑制されるとともに、上記の保持力を増大することができる。さらに、固定枠B41の規制部材417a,417bで挟まれた領域の背面に、強磁性体からなる磁気シールド板414を設けることにより、係止用磁石424a,424bから発生する磁界が補正ユニットの内部に閉じ込められるので、漏洩磁束が低減されて、手振れ補正ユニットの周囲に設けられた部材への悪影響を防止することができる。
【0043】
(5)位置検出手段
本発明においては、図10に示すように、補正用VCM3の磁気回路部32の磁力により、補正レンズ11を含む可動枠12(図示せず)の位置情報を検出してその検出信号を電圧として出力する位置検出手段(レンズ位置検出部61)が固定部材2の配線基板22に設置されている。本実施の形態では、配線基板22の偏平コイル310aが設置されている第1の面221とは反対側の第2の面222の、各偏平コイル310aの空芯部に対応する位置にホール素子610aが設置されている。磁気回路部32を半径方向に移動させたときのホール素子610aで検出する光軸方向の磁束密度は、例えば図14に示すような正弦波状となるので、補正レンズ11の最大移動量(1 mm程度)よりも狭い範囲においては磁束密度が線形的に変化する。
【0044】
ここで例えば図10に二点差線で示すように、ホール素子610dを永久磁石321aの表面に近接させて配線基板22の第1の面221に設置する配置すると、可動枠の移動量に対するホール素子610dの出力の直線性が低下する。これに対して、実施の形態のように、ホール素子610aを図10に実線で示すように、配線基板22の第2の面222に設置することにより、ホール素子610aと永久磁石321aとの間隔が広がり、磁束密度分布の非線形性が緩和されて、出力電圧はほぼ直線的に変化する。そのため高精度で可動部(永久磁石)の位置情報を検出することができる。ただしホール素子610aと永久磁石321aとの間隔が過大になると、ホール素子の出力電圧が低下するので、電源電圧を高くすること等が必要となり、またノイズも増加する。そこで、例えばホール素子としてGaAsからなる素子、及び永久磁石としてNdFeB系焼結磁石((BH)max=45〜50 MGOe)を用いた場合、それらの間隔は1.3〜2.0 mmであるのが好ましい。
【0045】
また配線基板22の第2の面222にホール素子610aを設置することにより、コイル端末を引き出して配線基板22に半田付けするためのスペースを広く確保することができる。従って、従来のように、半田付けスペースを確保するためにコイルの内径を大きくする必要がなく、コイルサイズの大型化を防止できる。ただし、このようにホール素子610aを配置すると、永久磁石321aから遠ざかるため、ホール素子610aの出力電圧が減少するので、従来と同程度の感度を確保するためには、出力電圧の増幅度を高めるとともに、さらにノイズフィルタを付加してノイズを除去できるようにした回路構成を採用するのが好ましい。
【0046】
磁界検出素子としては、上記の通り、ホール素子のような磁束密度に比例したアナログ信号電圧を出力する(リニア出力)形式の磁気センサを使用することができる。ホール素子は、通常はGaAs、InSb、InAs等のIII-V族化合物からなるN型半導体の薄膜(厚さ数μm)で形成され、その出力電圧は材料の電子移動度やホール係数に依存する。高精度の位置制御を可能とするために、ホール係数の温度係数が小さい(約-0.06%/℃)GaAsで形成されたホール素子を使用するのが好ましい。化合物系以外でも、Siからなるホール素子とオペアンプ等の信号処理回路とを一体化したホールICを使用することもできるが、Siからなるホール素子は感度が低いので、ホール素子及びオペアンプのオフセット電圧を低減し、かつ温度補償機能をもつ回路構成とすることが必要である。なお磁界検出素子としては、ホール素子以外にも、磁気抵抗効果を利用したMR素子、磁気インピーダンス効果を利用したMI素子等も使用できるが、分解能に加えてコストなどの実用性も考慮すると、ホール素子のように10μT程度の分解能を有する磁界検出素子が好適である。
【0047】
永久磁石321aの磁極境界321d(図10に破線で示す)がホール素子610aの中央に位置する場合は、永久磁石321aの光軸方向の磁界はゼロなので、ホール素子610aの出力電圧はほぼゼロとなる。永久磁石321aが図10の矢印E方向又はF方向に移動すると、ホール素子610aから移動距離に比例した電圧が出力される。この出力電圧に基づいてホール素子610aの移動距離が算出されて補正レンズ11の移動量が求められる。
【0048】
(6)磁気回路形成用材料
上記の各補正用VCM3を構成する永久磁石321a,321b,321cとしては、公知の永久磁石(例えば希土類磁石)を使用することができるが、コイルに供給する駆動電流(直流電流)を低減しかつ高推力を得るために、RFeB系永久磁石(RはYを含む希土類元素から選ばれた少なくとも一種で、Ndを必ず含む) を使用するのが好ましく、特に45 MGOe以上の最大エネルギー積を有するNd-Fe-B系異方性焼結磁石を使用するのが好ましい。
【0049】
上記の各ヨーク320a,320b,320cは磁路となる部材であり、強磁性体、例えばSS材等の鉄鋼材料で形成することができる。
【0050】
[3]手振れ補正動作
手振れ補正動作は、例えば図15に示す制御アルゴリズムで実行する。ジャイロセンサを含む振れ量検出部5で検出した手振れ量(例えば、カメラ本体の揺れの角速度)は、振れ量演算部62で手振れ角度に変換され、レンズ位置情報(レンズ位置情報検出部61)とシャッター及びモードスイッチ情報(シャッタースイッチ/モードスイッチ64)とから撮影モード判別部63で判別した撮影モードの情報とともに、補正量演算部65で手振れ補正量(補正レンズ11の移動量)を算出して電圧信号としてVCM駆動回路7へ出力する。この補正量に応じて補正レンズ11(図2参照)を駆動することにより、手振れにより変動した入射光軸(図1のZ'軸方向)をZ軸方向に偏移し、画像のずれが補正されて、手振れが抑制された光学像を得ることができる。
【0051】
(1)補正用VCMの動作
図9は、配線基板22に設けられた偏平コイル310a,310b,310cと、可動枠(図示せず)に設けられたヨーク320a,320b,320c及び永久磁石321a,321b,321cからなる磁気回路部32との関係を模式的に示す。補正用VCM3の偏平コイル310a,310b,310cの1つ又は2つ以上に給電すると、フレミングの左手則により、各磁気回路部32には、光軸方向と垂直な平面(XY平面)において、半径方向の推力Fa1、Fb1、Fc1が発生する。各偏平コイルのうち永久磁石の磁束と鎖交する部分(図9にハッチングで示した部分)の巻線が推力に寄与する有効導体部である。各コイルに供給する電流を調整することにより、光軸に対して垂直な平面において、任意の方向に推力を発生させることができる。
【0052】
例えば3つの偏平コイルに極性及び大きさが同じ電流を印加すると、各磁気回路部に発生する推力(Fa1、Fb1、Fc1)の向きと大きさは同一となり、X方向の推力(Fx)とY方向の推力(Fy)はゼロとなり、可動枠は停止した状態となる。
【0053】
3つのコイルのうち1つのコイルの通電パターンを他のコイルの通電パターンと異なるようにする(例えば、扁平コイル310a及び310bに印加する電流Ia及びIbを、Ia=Ib=-I1、扁平コイル310cに印加する電流IcをIc=I1)と、扁平コイル310cによって構成される補正用VCMのみ推力の方向が反対方向になり、その結果X方向の推力Fxは、
Fx=Fa1・cosθ1+Fb1+Fc1・cosθ2、
Y方向の推力Fyは、
Fy=Fa1・sinθ1+Fc1・sinθ2、
となる。従って、可動枠をX方向及びY方向にそれぞれFx及びFyの推力で移動させることができる。
【0054】
上記の通り、図9に示すような磁極配置を有することにより、各コイルに供給する電流の極性及び/又は大きさを変えて推力を調整することができ、補正レンズを光軸と垂直な面内で任意の方向に移動できる。その結果、手振れ補正動作を有効に行うことができる。
【0055】
これに対して、例えば特許文献1に記載の従来のVCMは、永久磁石の磁化中立線が半径方向であるため、偏平コイルを矩形状に形成しなければならず(特許文献1の図5(b)を参照)、本発明で構成する偏平コイルよりも有効導体部の面積が極めて小さい(本発明で構成する補正用VCMの約1/4以下)。すなわち本発明においては、永久磁石から発生する磁束のうち推力に寄与する磁束量が、前記従来技術の場合よりも増大するので、コイルに供給する電流が同じでも大きな推力を得ることができる。これにより、補正レンズの口径が増大 (可動部材の重量が増加)した場合でも、補正レンズを速やかに移動することができ、手振れ補正ユニットの適用範囲を拡大することができる。すなわち、バッテリーの消費量が少なくなるとともに、大口径のレンズを備えた開放F値が大きな交換レンズにも適用できるので、ファインダーが見易く、また暗い場面でも絞りを閉じて遅いシャッター速度での撮影が可能となるといった利点を有する。
【0056】
(2)位置検出動作
図16に示すように、レンズ鏡筒114の内部には、補正レンズ11を駆動する補正用VCM3とともに、補正レンズ11の位置を検出するホール素子610a,610b,610cが配設されている。各ホール素子610a,610b,610cは、補正レンズ11の位置を電圧信号として出力する位置信号処理回路611a,611b,611cを介してAD変換器(ADC)612a,612b,612cに接続されている。ここで、ホール素子610a,610b,610cの感度中心が磁極境界(極性が反転する位置)に位置する場合、ホール素子610a,610b,610cからの出力電圧はゼロとなるが、ホール素子がX方向及び/又はY方向に駆動されると、磁束密度に比例して出力電圧が変化するので、この出力電圧を位置信号として出力する。
【0057】
ホール素子610a,610b,610cよって検出された位置信号(永久磁石を含む可動部材の移動量)は、オペアンプを含む信号処理回路によって所定の倍率に増幅され、この信号処理回路からの位置信号(ホール素子よって検出された可動部材の位置を示す信号)と、コイル位置指令信号(手ぶれ補正量に応じて補正レンズ11を移動させるべき位置を示す信号)との差に比例した電流を駆動用コイルに流し、信号処理回路からの出力とコイル位置指令信号とに差がなくなると、コイルへの駆動電流が止まり補正用VCMの推力はゼロになる。
【符号の説明】
【0058】
100:カメラ、
110:ボディー、111:固体撮像素子、112:光学フィルタ、
114:レンズ鏡筒、115a:第1レンズ群、115b:第2レンズ群、115c:第3レンズ群、115d:第4レンズ群、
10:手振れ補正ユニット、
1:可動部材、11:補正レンズ、
12:可動枠、120:リング部、121:フランジ部、122a,122b,122c:第2収容部、123a,123b,123c:磁気回路保持部、124a,124b,124c:保持溝、125a,125b,125c:第2吸引磁石、126a,126b,126c:吸引用バックヨーク、127a,127b,127c:係止部、128a,128b,128c:係止溝、
13:転動体、
2:固定部材、
21:固定枠A、210:リング部、211:フランジ部、212a,212b,212c:第1収容部、213a,213b,213c:保持孔、214a,214b,214c:第1吸引磁石、
22:配線基板、221:第1の面、222:第2の面、
3:補正用ボイスコイルモータ(補正用VCM)、
31:コイル部、310a,310b,310c:偏平コイル、
32:磁気回路部、320a,320b,320c:ヨーク、321a,321b,321c:永久磁石、321d:磁極境界、
4:係止機構部、
40:係止用ボイスコイルモータ(係止用VCM)、
41:固定枠B、410:リング部、411:フランジ部、412a,412b,412c:固定部、413:保持溝、414:磁気シールド板、415:係止コイル、416:係止用吸引ヨーク、417a,417b:規制部材、
42:係止可動枠、420a,420b,420c:円弧溝、421:保持部、422:保持孔、423:係止用バックヨーク、424a,424b:係止用磁石、425a,425b,425c:係止ピン
43:配線基板、
5:振れ量検出部、
6:制御回路、
61:レンズ位置検出部、62:振れ量演算部、63:撮影モード判別部、64:シャッタースイッチ/モードスイッチ、65:補正量演算部、610a,610b,610c:ホール素子、611a,611b,611c:位置信号処理回路、612a,612b,612c:AD変換器、
7:VCM駆動回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に加わる振れに起因する像振れを防止するために、手振れ補正レンズを移動させる可動磁石型駆動手段を備えた手振れ補正ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等の撮像用光学機器では、撮影レンズの長焦点化及び高倍率ズーム化に伴い、高画質の写真を撮影するために、カメラボディーや交換レンズに手振れ防止機構を搭載することが一般的になっている。
【0003】
写真撮影における手振れを解析すると、腕の震え(10Hz付近の周波数)と体の揺れ(数Hz付近の周波数)、レリーズ時のシャッター衝撃及び手の揺れに起因して、光軸と直交する方向(縦横)の平行ぶれとピッチ、ヨー及びロールの回転ぶれに分類される。特に結像する画像に対して大きく影響するピッチ及びヨーの回転ぶれを補償することが重要である。
【0004】
この手振れを防止する方式として、撮像センサ(CCD、CMOS等)を駆動するセンサシフト方式や、撮影光学系を駆動するレンズシフト方式が一般的に用いられている。撮像センサを駆動して結像位置を移動させ手ぶれを補正するセンサシフト方式は、既存レンズを使用でき、高い精度で手振れを補正することができる。撮像レンズの一部を光軸に対して垂直な方向に駆動して結像位置を移動させるレンズシフト方式はレンズごとに最適化を図ることができ、被写体を観察中にもファインダー上で手振れ防止機能を視認できるという利点がある。
【0005】
特許文献1(特許第4133990号)は、磁気的中立線が補正レンズの光軸を中心とする円周のほぼ半径方向に向くように駆動磁石を配置することにより、補正レンズ等の可動部を並進運動させるだけでなく、回転運動させることも可能にしたアクチュエータを有する手振れ補正装置を開示しており、移動枠の制御を行わないときに、移動枠を固定板に対して係止するための手動用係止部材が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の係止機構は、手動操作で移動枠の係止とその解除を切り替えるものであるため、操作性が悪く改善が望まれている。
【0006】
特許文献2(特許第4336698号)は、撮像用レンズをその光軸に直交する平面内で並進移動させ、像振れを防止するためのアクチュエータであって、固定部と、前記撮像用レンズが取り付けられた可動部と、この可動部を、前記固定部に対して平行な平面上で移動できるように支持する可動部支持手段と、前記可動部を前記固定部に対して移動させるための駆動手段と、第1位置と第2位置の間で移動可能に設けられた係止用部材と、この係止用部材が前記第2位置へ移動されるように前記係止用部材を付勢する付勢手段と、この付勢手段による付勢力に抗して前記係止用部材を前記第1位置に保持する保持手段と、前記可動部が所定の解除位置に移動されると前記保持手段に作用して、前記係止用部材の保持を解除させる保持解除手段と、前記係止用部材が前記付勢手段の付勢力により前記第2位置へ移動されると、この移動に伴って前記可動部を所定の係止位置に移動させる可動部係動手段と、前記可動部が前記係止位置に移動されると、前記可動部と係合して前記可動部を係止する係合受け部とを有するアクチュエータを開示している。特許文献2は、このような構成により、ロックリング等の部材を駆動するためのアクチュエータを設けることなく可動部を係止することができると記載している。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された手振れ防止装置は、ロックリングを駆動するためのアクチュエータを省略することはできるが、ロックレバー及びロックリング(係止用回転板)の他に、強制回転用板ばね等の付勢手段を必要とし、これらのロックレバー及びロックリングも複雑な形状になるといった問題を有している。
【0008】
特許文献3(特開2009-116033号)は、像ブレ補正を行う光学部品を保持し、移動可能な保持部材と、前記像ブレ補正の非作動時に前記保持部材をロックするロック部材と、前記ロック部材に備えられた位置検出用パターンを付勢し、前記ロック部材の移動に伴って前記位置検出用パターンの上を摺動する導電性の接触端子と、前記接触端子と電気的に接続され、前記位置検出用パターンに対する前記接触端子の相対的位置に基づいて、前記保持部材に対する前記ロック部材の相対的位置を検出する検出回路とを含む像ブレ補正装置を開示している。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載のアクチュエータは、前記ロック部材に、前記ロック部材を回動させるためのボイスコイルモータの一部を構成する回動コイルを備えているので、コイルの端末(始端及び終端)の取り回しが複雑化し、コイルの断線が発生し易くなるといった問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4133990号公報
【特許文献2】特許第4336698号公報
【特許文献3】特開2009-116033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、係止部材駆動用の可動磁石型ボイスコイルモータを備え、かつロック及びアンロックの切り替えを円滑に行うことができる手振れ補正ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、固定部材に設けられた空芯コイルと、係止部材に設けられた永久磁石とで可動磁石型のボイスコイルモータを構成し、可動範囲の両端に強磁性体からなる規制部材を設けることによって、コイルの断線等の問題の発生がなく、前記可動部材のロック及びアンロックをスムーズに確実に行うことができることを見出し本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の手振れ補正ユニットは、
レンズ鏡筒内に固設される非磁性体からなる固定部材と、
光軸方向から見て前記固定部材に対向するように配置され、補正レンズを支持するリング状の可動部材と、
前記可動部材を、前記補正レンズの光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、
前記可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、
前記補正用ボイスコイルモータの移動方向及び移動量を制御する制御手段と、
前記可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、
前記係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータと
を備えた手振れ補正ユニットであって、
前記係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた空芯コイルと、前記空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、前記係止部材に設けられた磁気発生手段と、前記磁気発生手段の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする。
【0014】
前記可動部材は、前記係止部材を回転させたときに前記係止ピンを受取り、前記可動部材をロックするための係止溝を有し、前記係止溝は前記係止ピンの移動方向に沿って入口側よりも奥側が広がった形状を有するのが好ましい。
【0015】
前記係止用ボイスコイルモータは、前記磁気発生手段の可動範囲に亘って前記固定部材に設けられた磁気シールド部材を備えるのが好ましい。
【0016】
前記磁界発生手段は、成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に磁化された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、前記各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されているのが好ましい。
【0017】
前記補正用ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた複数個の長円形状の偏平な空芯コイル、及び前記可動部材の、前記空芯コイルに対応する位置に設けられた複数個の磁気回路部によって構成され、
前記空芯コイルは、前記固定部材の前記光軸方向と直交する面内で、前記光軸を中心とする円周上に、90〜120°の角度間隔で、長手方向が接線方向と一致するように配置され、
前記磁気回路部は、前記可動部材に固定された強磁性体からなる平板状ヨークと、このヨークに固着されかつ異極性の一対の磁極が前記各空芯コイルと対向するように固設された複数個の平板状の永久磁石とを含み、
前記永久磁石は、前記光軸方向と直交する面内で一対の異極性の磁極が光軸に向くように設置されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、補正レンズをロックするためのボイスコイルモータを可動磁石型として構成するため断線が防止され、しかもロック動作とアンロック動作の切り替えをスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の手振れ補正ユニットを搭載したデジタルカメラの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の手振れ補正ユニットを示す分解斜視図である。
【図3】図2をA方向から見た分解斜視図である。
【図4】図2のB-B断面図である。
【図5】図2の手振れ補正ユニットの可動枠を示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図6】図2の手振れ補正ユニットの固定枠Aを示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図7】図2の手振れ補正ユニットの固定枠Bを示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図8】図2の手振れ補正ユニットの係止可動枠を示す、(a) C方向、及び(b)その背面側から見た斜視図である。
【図9】補正用ボイスコイルモータの推力発生機構を示す模式図である。
【図10】図9のD-D断面図である。
【図11】係止部を模式的に示す(a)平面図、及び(b)G-G断面図である。
【図12】係止用ボイスコイルモータの一例を模式的に示す断面図である。
【図13】図12をH方向から見た、(a)一対の係止用磁石の位置関係を示す正面図、 (b)係止用磁石、係止コイル及び配線基板の位置関係を示す正面図、並びに(c)係止用バックヨーク、係止用磁石、係止用吸引ヨーク及び磁気シールド板の位置関係を示す正面図である。
【図14】磁気回路部を半径方向に移動させたときのホール素子で検出する光軸方向の磁束密度を示すグラフである。
【図15】本発明の手振れ補正ユニットの制御回路を示すブロック図である。
【図16】補正レンズの位置検出回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施の形態1>
[1]デジタルカメラ
本発明の手振れ補正ユニットを備えたデジタル一眼レフカメラ(以下単に「カメラ」という)の一例を図1に示す。カメラ100は、ボディー110と、レンズ鏡筒114とを備えており、前記ボディー110は、レンズ鏡筒114によって結像した被写体の光学像を、光学フィルタ112を介して検出するCCD等の固体撮像素子111を含み、前記レンズ鏡筒114は、収差補正効果を得るために負のレンズ群と正のレンズ群を交互に組合せた複数のレンズ群(第1レンズ群115a、第2レンズ群115b、第3レンズ群115c及び第4レンズ群115d)、及び絞り部(図示せず)を有する。本発明の手振れ補正ユニット10は、前記レンズ鏡筒114の第3レンズ群115cに設けられている。
【0021】
本発明の手振れ補正ユニット10は、手振れ補正手段としてレンズシフト方式を採用したものなので、ファインダー上で被写体を観察中にも手振れ防止機能を視認することができる。このレンズシフト方式では、手振れ補正レンズ群を光軸と直交方向に変位させることによって光軸を補正するので、できるだけ小さなレンズシフト量で撮影者の手振れを補正できるようにすることが重要である。従って、これらの条件を満足するようなレンズ群を補正レンズ群として選定すればよく、本実施の形態では第3レンズ群115cを手ぶれ補正レンズ群(以下「補正レンズ11」と言う。)として示している。
【0022】
手振れ補正は、ボディー110の内部に設けられた振れ量検出部5によって検出された手振れ量(角加速度)を、制御回路6に入力し、手振れ量に応じた駆動電流を駆動回路7に供給し、入射光軸を偏移させて手振れの少ない画像が得られるように補正レンズ11の位置を制御することにより行う。前記振れ量検出部5は、縦方向の手振れ量と横方向の手振れ量を検出することができる検出器、例えば2つのジャイロセンサからなる。手振れ補正ユニット10では、補正光学系の光軸に対する倒れ(傾き)を防止するために、手振れ補正ユニットの駆動部(補正用ボイスコイルモータ)を補正光学系の重心を通り光軸に垂直な面に置くのが好ましい。
【0023】
[2]手振れ補正ユニット
(1)全体構成
図2〜図4は手振れ補正ユニットの一例を示す。手振れ補正ユニット10は、補正レンズ11を有する可動部材1と、可動部材1をレンズ鏡筒120(図1参照)内に保持するための固定部材2と、可動部材1を光軸に対して垂直な面内で駆動する可動磁石型補正用ボイスコイルモータ(以下単に「補正用VCM」という。)3と、非撮像時に補正レンズ11を光軸と一致する位置に静止しておく係止機構部4とを備えている。
【0024】
(2)可動部材及び固定部材
可動部材1は、補正レンズ11と、その補正レンズ11の外周縁を保持しかつフランジ部121を有する非磁性体からなるリング状の可動枠12(図5を参照)とを含む。固定部材2は、図6に示すように、可動枠12の一部を受容しかつフランジ部210を有する非磁性体からなるリング状の固定枠A21と、配線基板22を含む。前記配線基板はフレキシブル配線基板(FPC)であるのが好ましい。可動部材1は、光軸方向(Z軸方向)に対して垂直な平面(XY平面)において任意の方向に移動可能な状態で、非磁性体からなるリング状の固定部材2に支持されている。可動部材1と固定部材2とは、例えばそれらの間に介装する複数の転動体13を含む支持手段により支持されるのが好ましい。このような方法によって支持することにより、可動部材1と固定部材2との間の摺動(摩擦)抵抗が低減され、微小な手振れを精度良く補正することが可能となる。
【0025】
(a)可動枠
可動枠12は、図5(b)に示すように、補正レンズ11を支持するリング部120及びフランジ部121を有する。フランジ部121には、円周方向に沿って等角度間隔(120°)に磁気回路保持部123a,123b,123cが形成されるとともに、各磁気回路保持部123a,123b,123cの中間には、鋼球の一部が挿入可能な第2収容部122a,122b,122cが形成されている。図5(a)に示すように、フランジ部121の、固定枠A21と対向する面とは反対側の面には、前記第2収容部122a,122b,122cに対応する位置に、円板状の吸引用バックヨーク126a,126b,126c及び第2吸引磁石125a,125b,125cを保持する保持孔124a,124b,124cが形成されている。また磁気回路保持部123a,123b,123cの反対側には、後述の係止ピンを受取り、可動枠12を所定位置でロックしておくための係止溝128a,128b,128cを有する係止部127a,127b,127cが形成されている。
【0026】
(b)固定枠A
固定枠A21は、図6(a)に示すように、可動枠12のリング部120が差し込まれるリング部210と、可動枠12と対向する面に鋼球の一部を受取る第1収容部212a,212b,212cが形成されたフランジ部211を有する。図6(b)に示すように、固定枠A21のフランジ部211の可動枠12と対向する面と反対側の面には、円柱状の第1吸引磁石214a,214b,214cを保持する保持孔213a,213b,213cが形成されている。
【0027】
(c)固定枠B
固定枠B41は、図7(a)に示すように、第4レンズ群(図示せず)を案内するためのリング部410と、固定部412a,412b,412cが形成されたフランジ部411とを有する。図7(b)に示すように、フランジ部411の可動枠12と対向する側には、磁気シールド板414(図3参照)を保持する保持孔413が形成されている。
【0028】
(d)係止可動枠
後述の係止機構部を形成する部材である係止可動枠42は、図8(a)に示すように、固定枠B41との緩衝を防止し、円周方向に沿って回動できるようにするための円弧溝420a,420b,420cを円周方向に沿って等角度間隔に有するとともに、係止用バックヨーク423及び係止用磁石424a,424bを保持する保持孔422を有する保持部421を有する。図8(b)に示すように係止可動枠42の可動枠12と対向する側には、前述した係止孔128a,128b,128cに嵌合される係止ピン425a,425b,425cが形成されている。
【0029】
(e)支持手段
本実施の形態では、転動体13(図2参照)として例えば鋼球等の強磁性体からなる球体を使用し、転動体13を機械的かつ磁気的に保持できる構造としている。すなわち固定枠A21のフランジ部211(可動枠12と対向する側)に円周方向に沿って所定角度間隔(例えば120°)で鋼球の一部を受容するリング状の第1収容部212a,212b,212cを形成するとともに、この収容部の背面側にZ軸方向に磁化した円柱状の第1吸引磁石214a,214b,214cが埋設されている。可動枠12のフランジ部121(固定枠A21と対向する側)に、鋼球の一部を受容するリング状の第2収容部122a,122b,122cを形成するとともに、この収容部の背面側に軸方向に磁化した円柱状の第2吸引磁石125a,125b,125c及び吸引用バックヨーク126a,126b,126cが埋設されている。従って、複数(3個)の鋼球が固定枠Aと可動枠とで挟持されるので、可動枠12が固定枠A21に対してZ軸に対して垂直な平面内で任意方向に移動することができる。しかも鋼球はZ軸方向に磁気的に吸引・保持されるので、鋼球の非所望な動きを抑制することができる。
【0030】
(3)補正用ボイスコイルモータ
補正レンズ11を駆動する補正用VCM3は可動磁石型とすることにより、モータの運動により配線を引き回すことがなく、コイルの断線を防止することができる。この可動磁石型補正用VCM3は、図2〜図4に示すように、固定部材2側に固設された偏平コイル310a,310b,310cを含むコイル部31と、可動部材1側に固設された永久磁石321a,321b,321c及びヨーク320a,320b,320cを含む磁気回路部32とを有する。各永久磁石321a,321b,321cは、円周方向の長さが半径方向の幅よりも大であってかつ偏平コイルの円周方向の有効長さと一致し、さらに一対の異極性の磁極が半径方向に沿ってならぶように設置されている。各永久磁石321a,321b,321cをこのように設置することで、光軸と垂直な平面で半径方向の推力が発生し、各推力を合成することにより光軸と垂直な平面で任意の方向に補正レンズ11を駆動させることが可能となる。本実施の形態においては、3つの偏平コイルを等角度間隔(120°)で基準円に外接するように配置して補正用VCM3を構成しているが、本発明においては、角度間隔が少なくとも90°となるように配置するのが好ましい。例えば3つの偏平コイルの2つを90°の角度間隔で配置し、残りの1つを前記2つの偏平コイルから135°の角度間隔で配置して補正用VCM3を構成しても良い。また、偏平コイルを4つ以上設けても良い。
【0031】
(a)コイル部
コイル部31を構成する偏平コイル310a,310b,310cは、光軸方向から見て長円形状(レーストラック状)に巻回された偏平な空芯コイルであり、配線基板22を介して固定部材2の一方の面、すなわち可動枠12と対向する側の面に設置された複数の偏平コイル310a,310b,310cからなる。各偏平コイル310a,310b,310cは、円周方向に沿って等角度間隔(120°間隔)で固定枠A21に固設されている。各偏平コイル310a,310b,310c又は各永久磁石321a,321b,321cの近傍には位置検出手段として、例えば後述の磁界検出素子(ホール素子等)が設けられている。本例では、配線基板22の偏平コイル310a,310b,310cが設置されている面とは反対側の面で、コイルの空芯部に対応する位置にホール素子610a,610b,610c (図3参照)が設置されている。
【0032】
(b)磁気回路部
磁気回路部32は、可動枠12のフランジ部121の複数個所(本実施の形態では3個所)に形成された磁気回路保持部123a,123b,123cに固設され、前記複数(本実施の形態では3個)の偏平コイル310a,310b,310cと対向する位置に設けられた複数の(偏平コイルと同数の)永久磁石321a,321b,321cと、前記永久磁石321a,321b,321cの偏平コイル310a,310b,310cと反対側の面に設けられた平板状のヨーク320a,320b,320cとを含む。磁気回路部32によって発生した、偏平コイル310a,310b,310cと鎖交する磁界により補正レンズ11を駆動することができる。これらの永久磁石321a,321b,321cはいずれも厚さ方向(光軸方向)に磁化され、偏平コイル310a,310b,310cと対向する側の面に極性の異なる一対の磁極が存在し、かつ磁極の境界(磁化中立線)が可動部材1の中心軸(光軸と一致)を中心とする円の接線方向を向くように磁化されている。従って永久磁石321a,321b,321cから発生する磁束と鎖交して推力の発生に寄与するコイルの有効導体部は、コイルの直線部(図9にハッチングで示した部分)となるように構成されている。これらの永久磁石321a,321b,321cは、低い駆動電流で大きな推力を得るために、図9における長さLmがコイル幅W1よりも大であり、特にLm/W1が1.5〜2.0の範囲にあるのが好ましい。
【0033】
永久磁石321a,321b,321cとしては、単一の永久磁石(ブロック状永久磁石)に1回の着磁作業で、図10に示すような一対の磁極(N極及びS極)を形成したものを使用しても良いし、厚さ方向に磁化した一対のブロック状永久磁石(単極磁石)を準備し、これらの磁石を磁化方向が異なるように固定したものを使用しても良い。1回の着磁作業で一対の磁極を形成する場合、保磁力が20 KOe以下の着磁性のよい永久磁石を用いて着磁するのが好ましい。これらの永久磁石は、N極からS極に反転する部分における磁界変化が直線的であるため、正確な位置検出を行うことができる。
【0034】
(4)係止機構部
係止機構部4は、固定枠B41及び可動枠12を所定位置に保持(係止)しておく係止可動枠42に設けられ、係止可動枠42を回動させるための係止用ボイスコイルモータ(以下単に「係止用VCM」という。)40を備えている。係止用VCM40は、配線基板43を介して固定枠B41に固定された係止コイル415(偏平な空芯コイル)、係止用吸引ヨーク416及び固定枠B41の係止コイル415と反対側の面に固定された磁気シールド板414と、係止可動枠42に設けられ、厚さ方向に磁化された係止用磁石424a,424b及び係止用バックヨーク423を備えている。係止コイル415に駆動電流を供給することにより、係止用バックヨーク423付係止用磁石424a,424bを所定方向に回転させて係止可動枠42を可動枠12に嵌合させ、補正レンズ11をその中心が鏡筒の光軸と一致する位置で固定することができる。係止機構部4は、無通電で補正レンズ11を固定(光軸と同軸状態)した状態に保持することができる。なお、係止可動枠42の回転範囲は、固定枠Bに磁性ピン等の規制部材(図示せず)を設けることにより、設定することができる。前記配線基板43はフレキシブル配線基板(FPC)であるのが好ましい。
【0035】
図11は、可動枠12に設けられた係止溝128aを有する係止部127a、及び係止可動枠42に設けられた係止ピン425aを示す。なお図11は、係止部127a,127b,127c、係止溝128a,128b,128c及び係止ピン425a,425b,425cによって構成される3箇所の係止構造のうち1箇所のみを示すが、他の箇所も同じ形状を有しているのでそれらの説明は省略する。可動枠12の、係止可動枠42と対向する側の係止部127aに、係止可動枠42が回動したときに係止可動枠42の係止ピン425aが挿入されるように係止溝128aが設けられている。この係止溝128aは、係止可動枠42の係止ピン425aが挿入される側が開いた形状を有し、係止ピン425aが差し込まれる入口の幅(h1)よりも、奥側の幅(h2)の方が広く形成されている。溝の長さ(la)は、係止ピン425aの直径の2倍程度であり、かつ、h2>h1となるように設定されている。係止溝128aがこのような形状を有することにより、係止ピン425aが押し込まれるとき(手ぶれ補正ユニットがロック状態になるとき)に、スムーズに係止溝128aに入り込み、多少の振動等によって容易には外れないので、確実なロック動作を保証することができる。
【0036】
係止用VCM40は、図12及び図13に示すように、配線基板43を介して固定枠B41(固定側部材)に固定された係止コイル415(偏平な空芯コイル)と、係止可動枠42(可動側部材)に固定された磁界発生手段、すなわち厚さ方向に磁化されて異極性の磁極がコイルと対向する係止用磁石424a,424b及び係止用ヨーク423とを備えた可動磁石型である。固定枠B41の配線基板43に対向する側の面には、係止コイル415の空芯部に相当する位置に係止用吸引ヨーク416が固定されるとともに、固定枠B41の背面側には強磁性体からなる磁気シールド板414が設けられている。さらに固定枠B41には、係止用磁石424a,424bの回動範囲を規制するために係止用磁石424a,424bの回動範囲の両端に規制部材417a,417bが設けられている。この規制部材は、永久磁石を磁気的に吸引できるようにするために鉄鋼材料等の強磁性体からなる。
【0037】
厚さ方向(光軸方向)に磁化された一対の直方体状の係止用磁石424a,424bは光軸と直角な平面内で異極性の磁極(N、S)が円周方向に沿って隣接するように保持枠421に固定されている。これらの係止用磁石424a,424bは、公知の永久磁石材料で形成することが可能であるが、VCM40の小型化を図るためにNd-Fe-B系異方性焼結磁石に代表される希土類磁石を使用するのが好ましい。またNd-Fe-B系異方性焼結磁石は、配向磁界が成形方向(プレス方向)と直角な磁界中成形(直角磁界成形)又は配向磁界が成形方向(プレス方向)と平行な磁界中成形(平行磁界成形)の手法で成形されるが、本発明では、係止用磁石(磁界発生手段)は、磁石粉末が成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に着磁された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されているのが好ましい。
【0038】
例えば、図13(a)に示すように、光軸と直角な平面において、直方体状の各係止用磁石424a,424bを、光軸を中心とする円周上に角度γの間隔を置いて、各係止用磁石424a,424bの長辺が前記円の接線方向に一致するように配置する。前記角度γは、15〜25°であるのが好ましく、係止用磁石424a及び係止用磁石424bが、お互いに接するように設定するのが好ましい。このように係止用磁石424a,424bを配置することにより、係止用磁石424a,424bが規制部材417a,417bと接した状態のとき、すなわち手ぶれ補正ユニットがロック状態又はアンロック状態のときに係止用VCM40の推力が最大となるので、確実なロック動作を行うことができるとともに、ロック状態(アンロック状態)からアンロック状態(ロック状態)への切り替えをスムーズに行うことができる。
【0039】
係止用コイル415は、図13(b)に示すように、光軸方向視で推力の発生に寄与する有効巻線部が係止用磁石424a,424の約1/3〜約1/2の投影面積を有するのが好ましい。係止用バックヨーク423は、図13(c)に示すように、係止用磁石424a,424から発生する磁束をコイル側に有効に集束するために、光軸方向視で係止用磁石424a,424が収まるような大きさの投影面積を有するのが好ましい。また磁気シールド板414は、磁気シールド効果を確保するために、少なくとも係止用磁石424a,424の移動範囲全体の投影部分を覆うような形状で、できるだけ広範囲にシールドできるような形状であるのが好ましい。
【0040】
直方体状の永久磁石(直角磁界成形品)は、成形の際に配向状態の乱れが生じにくいので、高い磁気特性(例えば残留磁束密度が1.45〜1.51 Tでかつ最大エネルギー積が405〜437 kJ/m3(51〜55 MGoe)を有することが可能となる。従って、このように直方体状の永久磁石を係止用磁石として使用することにより、係止力(可動範囲の端部における保持力)が増大し、非撮像時において無通電で補正レンズをレンズ鏡筒の中心に確実に保持することができる。また直方体状の永久磁石は、特別な形状を有する成形用金型を使用せずに製造できるので、複雑な形状(円弧状等)の永久磁石よりもコスト面で有利であるとともに、特殊な構造の着磁装置を使用せずに、空芯コイルにより、フル着磁が可能となり、磁気特性の高い永久磁石が得られるといった利点も有する。
【0041】
係止コイル415に駆動電流を供給して、係止用磁石424a,424bを光軸と垂直な面内で所定方向に回転させて係止可動枠42の係止ピン425a,425b,425cを可動枠12の係止溝128a,128b,128cに嵌合させる(保持する)ことにより、補正レンズ11をその中心が鏡筒の光軸と一致する位置に固定することができる。なお、係止可動枠42の回転範囲の終端で、係止用磁石424a,424bが強磁性体からなる規制部材417a,417bに吸引されることにより、係止コイル415に供給する駆動電流を止めてもロック状態(又はアンロック状態)を保持することができる、いわゆる自己保持形のVCMとすることができる。この自己保持形の係止用VCM40において、規制部材417a,417bの材質、寸法及び数量等を変更することにより、保持力を調整することができる。
【0042】
上記のロック機構部においては、図12に示すように係止用VCM40の固定枠B41側の中心に係止用吸引ヨーク416を設けることにより、係止可動枠42の浮き上がりが抑制されるとともに、上記の保持力を増大することができる。さらに、固定枠B41の規制部材417a,417bで挟まれた領域の背面に、強磁性体からなる磁気シールド板414を設けることにより、係止用磁石424a,424bから発生する磁界が補正ユニットの内部に閉じ込められるので、漏洩磁束が低減されて、手振れ補正ユニットの周囲に設けられた部材への悪影響を防止することができる。
【0043】
(5)位置検出手段
本発明においては、図10に示すように、補正用VCM3の磁気回路部32の磁力により、補正レンズ11を含む可動枠12(図示せず)の位置情報を検出してその検出信号を電圧として出力する位置検出手段(レンズ位置検出部61)が固定部材2の配線基板22に設置されている。本実施の形態では、配線基板22の偏平コイル310aが設置されている第1の面221とは反対側の第2の面222の、各偏平コイル310aの空芯部に対応する位置にホール素子610aが設置されている。磁気回路部32を半径方向に移動させたときのホール素子610aで検出する光軸方向の磁束密度は、例えば図14に示すような正弦波状となるので、補正レンズ11の最大移動量(1 mm程度)よりも狭い範囲においては磁束密度が線形的に変化する。
【0044】
ここで例えば図10に二点差線で示すように、ホール素子610dを永久磁石321aの表面に近接させて配線基板22の第1の面221に設置する配置すると、可動枠の移動量に対するホール素子610dの出力の直線性が低下する。これに対して、実施の形態のように、ホール素子610aを図10に実線で示すように、配線基板22の第2の面222に設置することにより、ホール素子610aと永久磁石321aとの間隔が広がり、磁束密度分布の非線形性が緩和されて、出力電圧はほぼ直線的に変化する。そのため高精度で可動部(永久磁石)の位置情報を検出することができる。ただしホール素子610aと永久磁石321aとの間隔が過大になると、ホール素子の出力電圧が低下するので、電源電圧を高くすること等が必要となり、またノイズも増加する。そこで、例えばホール素子としてGaAsからなる素子、及び永久磁石としてNdFeB系焼結磁石((BH)max=45〜50 MGOe)を用いた場合、それらの間隔は1.3〜2.0 mmであるのが好ましい。
【0045】
また配線基板22の第2の面222にホール素子610aを設置することにより、コイル端末を引き出して配線基板22に半田付けするためのスペースを広く確保することができる。従って、従来のように、半田付けスペースを確保するためにコイルの内径を大きくする必要がなく、コイルサイズの大型化を防止できる。ただし、このようにホール素子610aを配置すると、永久磁石321aから遠ざかるため、ホール素子610aの出力電圧が減少するので、従来と同程度の感度を確保するためには、出力電圧の増幅度を高めるとともに、さらにノイズフィルタを付加してノイズを除去できるようにした回路構成を採用するのが好ましい。
【0046】
磁界検出素子としては、上記の通り、ホール素子のような磁束密度に比例したアナログ信号電圧を出力する(リニア出力)形式の磁気センサを使用することができる。ホール素子は、通常はGaAs、InSb、InAs等のIII-V族化合物からなるN型半導体の薄膜(厚さ数μm)で形成され、その出力電圧は材料の電子移動度やホール係数に依存する。高精度の位置制御を可能とするために、ホール係数の温度係数が小さい(約-0.06%/℃)GaAsで形成されたホール素子を使用するのが好ましい。化合物系以外でも、Siからなるホール素子とオペアンプ等の信号処理回路とを一体化したホールICを使用することもできるが、Siからなるホール素子は感度が低いので、ホール素子及びオペアンプのオフセット電圧を低減し、かつ温度補償機能をもつ回路構成とすることが必要である。なお磁界検出素子としては、ホール素子以外にも、磁気抵抗効果を利用したMR素子、磁気インピーダンス効果を利用したMI素子等も使用できるが、分解能に加えてコストなどの実用性も考慮すると、ホール素子のように10μT程度の分解能を有する磁界検出素子が好適である。
【0047】
永久磁石321aの磁極境界321d(図10に破線で示す)がホール素子610aの中央に位置する場合は、永久磁石321aの光軸方向の磁界はゼロなので、ホール素子610aの出力電圧はほぼゼロとなる。永久磁石321aが図10の矢印E方向又はF方向に移動すると、ホール素子610aから移動距離に比例した電圧が出力される。この出力電圧に基づいてホール素子610aの移動距離が算出されて補正レンズ11の移動量が求められる。
【0048】
(6)磁気回路形成用材料
上記の各補正用VCM3を構成する永久磁石321a,321b,321cとしては、公知の永久磁石(例えば希土類磁石)を使用することができるが、コイルに供給する駆動電流(直流電流)を低減しかつ高推力を得るために、RFeB系永久磁石(RはYを含む希土類元素から選ばれた少なくとも一種で、Ndを必ず含む) を使用するのが好ましく、特に45 MGOe以上の最大エネルギー積を有するNd-Fe-B系異方性焼結磁石を使用するのが好ましい。
【0049】
上記の各ヨーク320a,320b,320cは磁路となる部材であり、強磁性体、例えばSS材等の鉄鋼材料で形成することができる。
【0050】
[3]手振れ補正動作
手振れ補正動作は、例えば図15に示す制御アルゴリズムで実行する。ジャイロセンサを含む振れ量検出部5で検出した手振れ量(例えば、カメラ本体の揺れの角速度)は、振れ量演算部62で手振れ角度に変換され、レンズ位置情報(レンズ位置情報検出部61)とシャッター及びモードスイッチ情報(シャッタースイッチ/モードスイッチ64)とから撮影モード判別部63で判別した撮影モードの情報とともに、補正量演算部65で手振れ補正量(補正レンズ11の移動量)を算出して電圧信号としてVCM駆動回路7へ出力する。この補正量に応じて補正レンズ11(図2参照)を駆動することにより、手振れにより変動した入射光軸(図1のZ'軸方向)をZ軸方向に偏移し、画像のずれが補正されて、手振れが抑制された光学像を得ることができる。
【0051】
(1)補正用VCMの動作
図9は、配線基板22に設けられた偏平コイル310a,310b,310cと、可動枠(図示せず)に設けられたヨーク320a,320b,320c及び永久磁石321a,321b,321cからなる磁気回路部32との関係を模式的に示す。補正用VCM3の偏平コイル310a,310b,310cの1つ又は2つ以上に給電すると、フレミングの左手則により、各磁気回路部32には、光軸方向と垂直な平面(XY平面)において、半径方向の推力Fa1、Fb1、Fc1が発生する。各偏平コイルのうち永久磁石の磁束と鎖交する部分(図9にハッチングで示した部分)の巻線が推力に寄与する有効導体部である。各コイルに供給する電流を調整することにより、光軸に対して垂直な平面において、任意の方向に推力を発生させることができる。
【0052】
例えば3つの偏平コイルに極性及び大きさが同じ電流を印加すると、各磁気回路部に発生する推力(Fa1、Fb1、Fc1)の向きと大きさは同一となり、X方向の推力(Fx)とY方向の推力(Fy)はゼロとなり、可動枠は停止した状態となる。
【0053】
3つのコイルのうち1つのコイルの通電パターンを他のコイルの通電パターンと異なるようにする(例えば、扁平コイル310a及び310bに印加する電流Ia及びIbを、Ia=Ib=-I1、扁平コイル310cに印加する電流IcをIc=I1)と、扁平コイル310cによって構成される補正用VCMのみ推力の方向が反対方向になり、その結果X方向の推力Fxは、
Fx=Fa1・cosθ1+Fb1+Fc1・cosθ2、
Y方向の推力Fyは、
Fy=Fa1・sinθ1+Fc1・sinθ2、
となる。従って、可動枠をX方向及びY方向にそれぞれFx及びFyの推力で移動させることができる。
【0054】
上記の通り、図9に示すような磁極配置を有することにより、各コイルに供給する電流の極性及び/又は大きさを変えて推力を調整することができ、補正レンズを光軸と垂直な面内で任意の方向に移動できる。その結果、手振れ補正動作を有効に行うことができる。
【0055】
これに対して、例えば特許文献1に記載の従来のVCMは、永久磁石の磁化中立線が半径方向であるため、偏平コイルを矩形状に形成しなければならず(特許文献1の図5(b)を参照)、本発明で構成する偏平コイルよりも有効導体部の面積が極めて小さい(本発明で構成する補正用VCMの約1/4以下)。すなわち本発明においては、永久磁石から発生する磁束のうち推力に寄与する磁束量が、前記従来技術の場合よりも増大するので、コイルに供給する電流が同じでも大きな推力を得ることができる。これにより、補正レンズの口径が増大 (可動部材の重量が増加)した場合でも、補正レンズを速やかに移動することができ、手振れ補正ユニットの適用範囲を拡大することができる。すなわち、バッテリーの消費量が少なくなるとともに、大口径のレンズを備えた開放F値が大きな交換レンズにも適用できるので、ファインダーが見易く、また暗い場面でも絞りを閉じて遅いシャッター速度での撮影が可能となるといった利点を有する。
【0056】
(2)位置検出動作
図16に示すように、レンズ鏡筒114の内部には、補正レンズ11を駆動する補正用VCM3とともに、補正レンズ11の位置を検出するホール素子610a,610b,610cが配設されている。各ホール素子610a,610b,610cは、補正レンズ11の位置を電圧信号として出力する位置信号処理回路611a,611b,611cを介してAD変換器(ADC)612a,612b,612cに接続されている。ここで、ホール素子610a,610b,610cの感度中心が磁極境界(極性が反転する位置)に位置する場合、ホール素子610a,610b,610cからの出力電圧はゼロとなるが、ホール素子がX方向及び/又はY方向に駆動されると、磁束密度に比例して出力電圧が変化するので、この出力電圧を位置信号として出力する。
【0057】
ホール素子610a,610b,610cよって検出された位置信号(永久磁石を含む可動部材の移動量)は、オペアンプを含む信号処理回路によって所定の倍率に増幅され、この信号処理回路からの位置信号(ホール素子よって検出された可動部材の位置を示す信号)と、コイル位置指令信号(手ぶれ補正量に応じて補正レンズ11を移動させるべき位置を示す信号)との差に比例した電流を駆動用コイルに流し、信号処理回路からの出力とコイル位置指令信号とに差がなくなると、コイルへの駆動電流が止まり補正用VCMの推力はゼロになる。
【符号の説明】
【0058】
100:カメラ、
110:ボディー、111:固体撮像素子、112:光学フィルタ、
114:レンズ鏡筒、115a:第1レンズ群、115b:第2レンズ群、115c:第3レンズ群、115d:第4レンズ群、
10:手振れ補正ユニット、
1:可動部材、11:補正レンズ、
12:可動枠、120:リング部、121:フランジ部、122a,122b,122c:第2収容部、123a,123b,123c:磁気回路保持部、124a,124b,124c:保持溝、125a,125b,125c:第2吸引磁石、126a,126b,126c:吸引用バックヨーク、127a,127b,127c:係止部、128a,128b,128c:係止溝、
13:転動体、
2:固定部材、
21:固定枠A、210:リング部、211:フランジ部、212a,212b,212c:第1収容部、213a,213b,213c:保持孔、214a,214b,214c:第1吸引磁石、
22:配線基板、221:第1の面、222:第2の面、
3:補正用ボイスコイルモータ(補正用VCM)、
31:コイル部、310a,310b,310c:偏平コイル、
32:磁気回路部、320a,320b,320c:ヨーク、321a,321b,321c:永久磁石、321d:磁極境界、
4:係止機構部、
40:係止用ボイスコイルモータ(係止用VCM)、
41:固定枠B、410:リング部、411:フランジ部、412a,412b,412c:固定部、413:保持溝、414:磁気シールド板、415:係止コイル、416:係止用吸引ヨーク、417a,417b:規制部材、
42:係止可動枠、420a,420b,420c:円弧溝、421:保持部、422:保持孔、423:係止用バックヨーク、424a,424b:係止用磁石、425a,425b,425c:係止ピン
43:配線基板、
5:振れ量検出部、
6:制御回路、
61:レンズ位置検出部、62:振れ量演算部、63:撮影モード判別部、64:シャッタースイッチ/モードスイッチ、65:補正量演算部、610a,610b,610c:ホール素子、611a,611b,611c:位置信号処理回路、612a,612b,612c:AD変換器、
7:VCM駆動回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒内に固設される非磁性体からなる固定部材と、
光軸方向から見て前記固定部材に対向するように配置され、補正レンズを支持するリング状の可動部材と、
前記可動部材を、前記補正レンズの光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、
前記可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、
前記補正用ボイスコイルモータの移動方向及び移動量を制御する制御手段と、
前記可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、
前記係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータと
を備えた手振れ補正ユニットであって、
前記係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた空芯コイルと、前記空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、前記係止部材に設けられた磁界発生手段と、前記磁界発生手段の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記可動部材は、前記係止部材を回転させたときに前記係止ピンを受取り、前記可動部材をロックするための係止溝を有し、前記係止溝は前記係止ピンの移動方向に沿って入口側よりも奥側が広がった形状を有することを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記係止用ボイスコイルモータは、前記磁界発生手段の可動範囲に亘って前記固定部材に設けられた磁気シールド部材を備えることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記磁界発生手段は、成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に磁化された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、前記各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されていることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記補正用ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた複数個の長円形状の偏平な空芯コイル、及び前記可動部材の、前記空芯コイルに対応する位置に設けられた複数個の磁気回路部によって構成され、
前記空芯コイルは、前記固定部材の前記光軸方向と直交する面内で、前記光軸を中心とする円周上に、90〜120°の角度間隔で、長手方向が接線方向と一致するように配置され、
前記磁気回路部は、前記可動部材に固定された強磁性体からなる平板状ヨークと、このヨークに固着されかつ異極性の一対の磁極が前記各空芯コイルと対向するように固設された複数個の平板状の永久磁石とを含み、
前記永久磁石は、前記光軸方向と直交する面内で一対の異極性の磁極が光軸に向くように設置されていることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項1】
レンズ鏡筒内に固設される非磁性体からなる固定部材と、
光軸方向から見て前記固定部材に対向するように配置され、補正レンズを支持するリング状の可動部材と、
前記可動部材を、前記補正レンズの光軸と直交する平面内で移動可能に支持する支持手段と、
前記可動部材を、光軸と直交する平面内で移動させる複数の補正用ボイスコイルモータと、
前記補正用ボイスコイルモータの移動方向及び移動量を制御する制御手段と、
前記可動部材をロックするための係止ピンが設けられた係止部材と、
前記係止部材を駆動する係止用可動磁石型ボイスコイルモータと
を備えた手振れ補正ユニットであって、
前記係止用可動磁石型ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた空芯コイルと、前記空芯コイルの空芯部に設けられた吸引ヨークと、前記係止部材に設けられた磁界発生手段と、前記磁界発生手段の可動範囲の両端に設けられた強磁性体からなる規制部材とを含むことを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記可動部材は、前記係止部材を回転させたときに前記係止ピンを受取り、前記可動部材をロックするための係止溝を有し、前記係止溝は前記係止ピンの移動方向に沿って入口側よりも奥側が広がった形状を有することを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記係止用ボイスコイルモータは、前記磁界発生手段の可動範囲に亘って前記固定部材に設けられた磁気シールド部材を備えることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記磁界発生手段は、成形方向と直角な磁界中で圧縮成形されかつ成形方向と同方向に磁化された一対の直方体状のNd-Fe-B系異方性焼結磁石からなるとともに、前記各焼結磁石は光軸方向から見て異極性の磁極が隣接するようにほぼ扇形状に配置されていることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の手振れ補正ユニットにおいて、前記補正用ボイスコイルモータは、前記固定部材に設けられた複数個の長円形状の偏平な空芯コイル、及び前記可動部材の、前記空芯コイルに対応する位置に設けられた複数個の磁気回路部によって構成され、
前記空芯コイルは、前記固定部材の前記光軸方向と直交する面内で、前記光軸を中心とする円周上に、90〜120°の角度間隔で、長手方向が接線方向と一致するように配置され、
前記磁気回路部は、前記可動部材に固定された強磁性体からなる平板状ヨークと、このヨークに固着されかつ異極性の一対の磁極が前記各空芯コイルと対向するように固設された複数個の平板状の永久磁石とを含み、
前記永久磁石は、前記光軸方向と直交する面内で一対の異極性の磁極が光軸に向くように設置されていることを特徴とする手振れ補正ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−242680(P2011−242680A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116286(P2010−116286)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(592159999)株式会社ケンコー・トキナー (9)
【出願人】(505056742)ピーエス特機株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(592159999)株式会社ケンコー・トキナー (9)
【出願人】(505056742)ピーエス特機株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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