手摺
【課題】親指以外の指先が掛かり易いと共に親指以外の指先に力を入れ易く、子供、お年寄りや成人、男女等の体格差に関わらず握り易い手摺を提供する。
【解決手段】本発明の手摺5は、幅広の断面を有し、把持する際の親指F1側となる一側面側から小指F2側となる他側面側に向けて上面7が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みH1を一側面側の上下方向の厚みH2よりも小さくしてあり、一側面9、及び他側面側の下面13に長手方向に沿って凹み21、25を設けたことを特徴とする手摺。
【解決手段】本発明の手摺5は、幅広の断面を有し、把持する際の親指F1側となる一側面側から小指F2側となる他側面側に向けて上面7が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みH1を一側面側の上下方向の厚みH2よりも小さくしてあり、一側面9、及び他側面側の下面13に長手方向に沿って凹み21、25を設けたことを特徴とする手摺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、把持する際の親指側となる一側面と小指側となる他側面側の下面の各々に長手方向に沿って凹みを設けた手摺が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3378985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の手摺は、上面が略水平になっていると共に一側面側の上下方向の厚みと他側面側の上下方向の厚みとが略同じであるから、手摺を握るときに他側面側の下面の凹みに親指以外の指先が掛かり難く、又は、親指以外の指先が掛かっている場合でも指先に力が入り難いという問題があった。特に、他側面側の厚みが厚いと、手の小さい子供等が手摺を握り難いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の目的は、親指以外の指先が掛かり易いと共に親指以外の指先に力を入れ易く、子供、お年寄りや成人、男女等の体格差に関わらず握り易い手摺を提供することである。
【0006】
請求項1に記載の発明は、幅広の断面を有し、把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて上面が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みを一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあり、一側面、及び他側面側の下面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、他側面側の上面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、手摺の幅方向中央から一側面側及び他側面側の何れか一方側にずれた位置に支柱が取付てあることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、手摺の上面の傾斜角度が20度〜45度であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、手摺の上面の幅が55mm〜65mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、上面が把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしているので、手摺を把持するときに、一側面の凹みに親指を添えて傾斜した上面に沿って手の平を置くことで、他側面側に親指以外の指をまわして他側面側の下面の凹みに親指以外の指先を掛け易く、また、下面の凹みに掛けた親指以外の指先に力を入れ易い。
下面の凹みに掛けた親指以外の指先に力を入れ易いから、例えば、登り傾斜面に手摺が設けてある場合に、容易に体を手摺に引寄せて傾斜面を登ることができる。
他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあるので、子供等の手が小さい人が手摺を握る(把持する)ときにも、下面の凹みに親指以外の指を掛け易く、体格差に関わらず容易に握ることができる。
人が手摺を握る場合には、上面が略水平であると手首を曲げて握ることになるが、本発明では、上面が一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜しているので、手首の曲げを小さくでき、手首に掛かる負担を軽減できる。
親指を一側面の凹みに添えるようにして置くことで、親指の指先が進路側を向くので、進路の方向を感じることができ、視覚障害者の歩行や暗闇での道標となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の作用効果を奏すると共に、上面の凹みに人指し指を置くことで、進む方向感を感じさせることができる。
手の小さい子供等が手摺を握る場合には、上面の凹みに親指や手の平の親指の付け根を置くことで、手の平全体を手摺の他側面側に寄せて、親指や手の平の親指の付け根と下面の凹みに掛けている親指以外の指とで手摺の他側面側を握ることができ、更に握り易い。この場合に、上面に置いた手の平を滑らすようにして或いは凹みを目印として親指や手の平の親指の付け根を上面の凹みに置くことにより、他側面側に配置した手の平を手摺の上面に安定に保持することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の作用効果を奏すると共に手摺に掛けている親指や親指以外の指が、支柱や支柱に手摺を固定している金具にぶつかり難い。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3の何れか一項に記載の作用効果を奏すると共に、手首を屈折させる筋(尺側手根伸筋)の負担を少なくでき、手掌で笠木を下向きに押し易いことから手摺を歩行補助として上から手摺に体重を預ける形での活用がし易く、身長が低い人でも手首を大きく屈曲させることがないので握り易い。また、歩行の際につまずいたりして重心をくずしたときに、手掌を素早く鉤握り(親指及び親指以外の指を手摺の下面にして手摺を包み込むようにした握りかた)に変えて体を支え易い。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4の何れか一項に記載の作用効果を奏すると共に、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで、最も握力を発揮し易いので、歩行の際につまづいたりして重心をくずしたときに、手掌を素早く鉤握りに変えて体を支え易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して本発明の第1実施の形態を説明する。図1は第1実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図であり、図2は図1に示す手摺を子供が使用する例を示す断面図であり、図3は図1に示す手摺の他の使用例であり手摺を切断して示す斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態に手摺5は、支柱3、3間に架設してあり、この手摺5は、アルミニウム合金製であり、全体として断面が幅広に形成されている。手摺5の外周は、上面7、把持する際の親指側となる一側面9、小指側となる他側面11及び下面13から構成されている。
手摺5は、一側面側の下部を支柱3に固定してあり、支柱から他側面側に突設して設けてある。手摺5全体の幅L1は、58.5mmである。
支柱3から他側面11までの距離L2は、35mmである。
他側面11の上下方向の厚みH1が一側面9の上下方向の厚みH2よりも小さくなっており、H1は約20mmであり、H2は約37mmである。
上面7は、一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜角度αで傾斜している。傾斜角度αは、約32度である。
傾斜角度αは、好ましくは20度〜45度である。20度より小さいと、尺側手根伸筋の負担が急激に大きくなるからであり、45度を越えると、手掌で笠木を下向きに押し難くなり、手摺を歩行補助として上から手摺に体重を預ける形での活用が困難になると共に、身長が低い人が手摺を握った場合に手首を大きく掌側に屈曲させることになり握り難くなるからである。また、傾斜角度αが45度を越えると、歩行の際につまずいたりして重心をくずしたときに、手掌を鉤握りに変えることが極端に困難になるからである。
上面の幅Wは、手の平を乗せる大きさであり、幅Wは約59mmである。幅Wは、好ましくは55mm〜65mmである。この範囲であれば、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで最も握力を発揮し易いためである。幅Wが55mmよりも小さくなると笠木を握る握力が急激に低下し、上面の幅Wが65mmよりも大きくなると、手掌が広がって親指に力を入れた別の握り方をするために別の筋負担が増えるので、不適切だからである。
上面7の一側面側は、半径R1の円弧で形成された凸15となっており、R1は約12mmである。
上面7の他側面側には、半径R3の円弧で形成された凹み17が形成されており、R3は約41mmである。
上面7の凸15と凹み17との間は半径R2の円弧で形成された凸19となっており、R2は約35mmである。
上面7は、上述したR1の円弧と、R2の円弧と、R3の円弧とを繋いで形成されている。
一側面9には、半径R5の円弧で形成された凹み21が形成されており、凹み21は手の親指F1を配置するもので、R5は約6mmである。この凹み21は隣接する凸15の円弧に連続している。
他側面11は半径R4の円弧で形成された凸23になっており、R4は約11mmである。
下面13には、半径R6の円弧で形成された凹み25が形成されており、凹み25には手の親指以外の指F2(人指し指、中指、薬指、小指の少なくとも一つ)が位置し、R6は約26mmである。
【0017】
次に、第1実施の形態に手摺1の作用及び効果について説明する。
図1に二点鎖線で人の手を示すように、人が手摺1の横に立って、手摺5を握るときには、斜め下に腕を伸ばして、手の平を手摺5の上面7に載せ、親指F1を一側面9の凹み21に添えて、親指以外の指F2を他側面11に当てて、下面13の凹み25に親指以外の指F2の指先を掛ける。
【0018】
第1実施の形態によれば、手摺5を握るときには、手摺1の横に立っている人が斜め上方から手摺5を握るときに、一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜した上面7に沿って手の平を置くことができ、一側面9の凹み21に親指F1を添えたときに他側面11に親指以外の指F2を当てて下面13の凹み25に指先を掛け易く、また、下面13の凹み25に掛けた親指以外の指F2の指先に力を入れ易い(効果1)。
下面13の凹み25に掛けた親指以外の指F2の指先に力を入れ易いから、例えば、登り傾斜面に沿って手摺1を設けてある場合に、体を手摺1に引寄せて容易に傾斜面を登ることができ、また、バランスを崩したり転倒しそうになっても、親指以外の指F2の指先に力を入れて体重を支え易い(効果2)。
他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあるので、子供等の手が小さい人が手摺5を握るときにも、下面13の凹み25に親指以外の指F2を掛け易く、体格差にかかわらず容易に把持することができる(効果3)。
手摺の横に立っている人が手摺5を握る場合には、上面が略水平であると手首を曲げて握ることになるが、本実施の形態では、上面7は一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜しているので、手首の曲げを小さくでき、手首に掛かる負担を軽減できる(効果4)。
図1に示すように、親指F1は、一側面9の凹み21に添えるようにして置くことで、親指F1の指先が進路方向を向くので、進路方向を感じることができ、視覚障害者の歩行や暗闇での道標となる(効果5)。
手摺5は、他側面側の下面13に凹み25を形成し且つ他側面側の上面7に凹み17を形成しているので、手の小さい子供等が手摺5を把持する場合には、図2に示すように、上面7の凹み17に親指F1や手の平の親指の付け根をおいて、手の平全体を手摺5の他側面側に寄せることで、手の平の親指の付け根と下面13の凹み25に掛けている親指以外の指F2とで手摺5の他側面側を容易に握ることができる。このような握り方をする場合、上面7に凹み17を設けることにより、上面7に置いた手の平を滑らすようにして或いは凹み17を目印として親指F1や手の平の親指の付け根を凹み17に置くことにより他側面側に配置した手の平を上面13に安定に保持することができる(効果6)。
また、図3に示すように、上面7の凹み17に人指し指F2を置くと、人指し指の指先が進む方向を向くので、このような握り方でも進む方向感を感じさせることができる(効果7)。
手摺5は、断面が幅広で一側面側の下部を支柱3に固定してあり、支柱3から他側面側に突設して設けてあるので、手摺5握っている手を手摺5に添って滑らせて進んでも、下面13の凹み25に掛けている親指以外の指先が支柱3や支柱3に手摺5を固定している金具にぶつからないで済む(効果8)。
【0019】
次に、本発明の他の実施の形態を説明するが、以下に説明する他の実施の形態において、上述した第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付けてその部分の詳細な説明を省略する。
図4は第2実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。この第2実施の形態では、上面17に凹み17がなく、上面全体がR7の凸になっている点が第1実施の形態と異なる。R7は、約56mmである。尚、L1は約57mmであり、L2は約37mmである。
この第2実施の形態によれば、上述した第1実施の形態における(効果1)〜(効果5及び(効果8)と同様な効果を得ることができる。
【0020】
図5は、第3実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。この第3実施の形態では、手摺5は木製であり、手摺5の下部では一側面側と他側面側との略中間を支柱3の先端に固定していること、及び支柱3を挟む一側面側と他側面側とに各々下方に突設した脚部27a、27bを設けてあることが上述した第2実施の形態と異なる。尚、下面13の凹み25の湾曲R6を約7mmとしてあり、上述した第2実施の形態よりも小さくしている。尚、L1は約56mmであり、L2は約23mmである。
この第3実施の形態によれば、第2実施の形態と同様な効果を得ることができると共に、支柱3を挟む一側面側と他側面側とに各々下方に突設した脚部27a、27bを設けているので、手摺5を把持している手を手摺5に添って滑らせて進んでも、指先が支柱3や支柱3に手摺5を固定している金具にぶつからないで済む。
【0021】
本発明について、評価実験を行ったのでその内容及び結果を図6〜図15を参照して説明する。
(評価実験1)
評価実験1の実験方法は、図6に示す丸型、千鳥形、千鳥くぼみ型、きのこ型の4種類の型の手摺を作成し、被験者に下記課題A〜Eについて、実際に手摺を握って歩行してもらい、その時の使用感をアンケート調査した。そのアンケート結果を図7〜9に示した。
被験者は、10、20、30、40代の健常者16であり、その内、男性8名、女性8名であった。
課題A(開眼ケンケン)は、片足で手摺を使って歩行する。
課題B(連続運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って歩行する。
課題C(閉眼歩行)は、目をつぶり、手摺を使ってつたい歩きする。
課題D(閉眼運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、目をつぶり、手摺を使ってつたい歩きする。
課題E(手袋運搬)は、軍手を二枚重ねた手袋をして、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って歩きする。
【0022】
各課題A〜Eの歩行をした後、図7の左側に示す質問(Q1−1、Q1−2、Q2−1、Q2−2、Q3−1、Q4−1、Q4−2)についてアンケートを行った。アンケートは、Q1−1では、非常に体重を掛け易い、かなり体重を掛け易い、やや体重を掛け易い、どちらともいえない、やや体重を掛け難い、かなり体重を掛け難い、非常に体重を掛け難い、の7段評価に答えてもらい、各種の手摺毎にその回答の平均値をプロットしたものを図7の右側に示した。
また、アンケートでは、手摺の使い易さについて、100点満点中何点かを記載してもらったので、その総合評価点の平均値を標準偏差と共に図8に示した。
上述のアンケートの回答において、Q1−1について、非常に体重を掛け易い7点、かなり体重を掛け易い6点、やや体重を掛け易い5点、どちらともいえない4点、やや体重を掛け難い3点、かなり体重を掛け難い2点、非常に体重を掛け難い1点として数値化し、各種の手摺毎にその回答の平均値を、図9のレーダチャート(くもの巣グラフ)に示した。
【0023】
図8から明らかなように、100点満点で評価した総合評価では、千鳥型及び千鳥くぼみ型は平均点が約78点であり、丸型及びきのこ型の約40〜50点に比較して、高い評価を得ることができた。
また、図9に示すレーダチャートから明らかなように、千鳥型及び千鳥くぼみ型では、上述した各課題に対して高い得点をバランス良く得ることができた。千鳥くぼみ型は、千鳥型を基に、特に力の弱い人や手が小さい人への配慮を加えてものであるが、それにも関わらず、千鳥型に劣らない評価を健常な成人男女から受けた。更に、上記課題のQ1−2及びQ2−1では千鳥型よりも千鳥くぼみ型の方が評価が高かった。
従って、丸型、千鳥形、千鳥くぼみ型、きのこ型の4種類の型の手摺の中では、千鳥くぼみ型が最も優れていた。
【0024】
(評価実験2)
評価実験2の実験方法は、図6に示す丸型と、千鳥形と、図10に示す千鳥くぼみ型(大)と、千鳥くぼみ型(中)と、千鳥くぼみ型(小)の5種類の型の手摺を作成し、被験者に下記課題A〜Cについて、実際に手摺を握って階段を歩行してもらい、そのときの使用感をアンケート調査した。そのアンケート調査の結果を図7〜9に示した。
被験者は、60、70、80代の高齢者14であり、そのうち、男性8名、女性6名であった。被験者を高齢者としたのは、手の筋力が若年層に比べて弱いからである。また、若年者は握力がある為、笠木の大きさ(大、中、小)による握り易さ(力の入れ易さ)の評価を得難いのであるが、高齢者は笠木の大きさ(大、中、小)によって力を入れ難いという、微妙な評価がし易いためである。
【0025】
課題A−1(立上がり)は、椅子に座った状態からの手摺を使って立ち上がる。
課題A−2(上がり運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って階段を上がる。
課題A−3(側方体重移動)は、手摺を片手で持ち、手摺と反対方向へ体重を預ける。
課題A−4(下り運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って階段を下る。
課題B(軍手二重重ね)は、軍手を二枚重ねた手袋をして、上記課題Aを繰り返す。
課題C(閉眼運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、目をつぶり、手摺を使ったつたい歩きする。
各課題A〜Cの行った後、図11の左側に示す質問(Q1−1、Q1−2等)のアンケートを行った。アンケートは、Q1−1では、非常に体重を掛け易い、かなり体重を掛け易い、やや体重を掛け易い、どちらとも言えない、やや体重を掛け難い、かなり体重を掛け難い、非常に体重を掛け難い、の7段評価に答えてもらい、各種の手摺毎にその回答の平均値をプロットしたものを図11の右側に示した。
また、アンケートでは、手摺の使い易さについて、100点満点中何点かを記載してもらったので、その平均値と標準偏差とを計算した結果を図12に示した。
評価実験1と同様に、アンケートの回答に1点〜7点の点数を付け、各種の手摺毎にその回答の平均値を、図13のレーダチャートに示した。
【0026】
図12から明らかなように、100点満点で評価した総合評価では、千鳥くぼみ型(中)は平均点が約98点であり、千鳥くぼみ型(小)は平均点が約76点であり、丸型及千鳥型、千鳥くぼみ型(大)が約60〜65点であることから、これらの中では千鳥くぼみ型(中)及び千鳥くぼみ型(小)が、丸型、千鳥型、千鳥くぼみ型(大)よりも評価が高かった。
また、図13に示すレーダチャートから明らかなように、丸型や千鳥型や千鳥くぼみ型(大)は課題によって評価に偏りがある、千鳥くぼみ型(小)や千鳥くぼみ型(中)は共に課題による偏りが小さい。
従って、図12の総合評価と図13に示すレーダチャートの結果を考慮すると、千鳥くぼみ型(中)がこれらの中で優れていた。
【0027】
(評価実験3)
評価実験3の実験方法は、第1実施の形態に係る手摺について、傾斜角度αを、0度、10度、20度、30度、40度、50度に種々変えたときの被験者の尺側手根伸筋の筋電図を測定した。評価実験3では、被験者4名について行った。その結果を図14に示す。
【0028】
図14から明らかなように、手摺の角度αが20度より小さいと尺側手根伸筋の負担が急激に大きくなることが解かる。手摺の角度αが40度を越えると、尺側手根伸筋の負担はそれほど多くなかったが、40度を越えると手首の角度が大きくなり過ぎて手掌で手摺を下向きに押し難くなる。40度と50度との間の数値に対しては具体的に測定していないが、角度が大きくなり過ぎると手摺を下向きに押し難くなることを考慮すると45度以下が好ましい。
従って、この評価実験3から、手摺の傾斜角度αは、20度〜45度が最適の範囲であった。
【0029】
(評価実験4)
評価実験4の実験方法は、第1実施の形態に係る手摺について、傾斜角度αを30度とし、上面の幅Wを45mm、50mm、55mm、60mm、65mm、70mm、75mmに種々変えたときの被験者の握力を測定した。評価実験4では、被験者4名について行った。その結果を図15に示す。
【0030】
図15から明らかなように、何れの被験者も上面の幅Wが55mmよりも小さいと握力が低下し、4人の被験者のうち3人は上面の幅Wが60mmの握力が最大であった。また、これら3人の被験者においては、65mmを越えると握力が急激に低下した。尚、70〜75mmにおいては、握力が55mmのときより高くなっているが、これは手掌が広がって親指に力を入れた別の握り方をするためである。しかし、このような親指に力を入れた別の握り方をすると別の筋負担が増えるので、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りかたとしては不適切である。
この図15から、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで、最も握力を発揮し易い範囲は55mm〜65mmであることがわかる。
【0031】
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、手摺1は屋内に設置される階段や廊下等の通路に設置されるものであっても良く、壁から通路側に突設したブラケットに固定するものであっても良い。
第1及び第2実施の形態の手摺5は木製であっても良いし、第3実施の形態の手摺をアルミニウム合金等の金属にしても良いし、手摺5の材質は限定されない。
厚みH1、H2や、半径R1〜R6等の各数値や位置は、適宜好ましい範囲を設定でき、上述した実施の形態に限定されない。
図2に示す手摺の握り方は、子供等の手の小さい人が行うことに限らず、大人が同様に手摺5の上面7に親指F1や手の平の親指の付け根を置き、下面3の凹み25に親指以外の指F2を掛けて手摺5を握っても良い(鉤握り)。尚、子供よりも手の大きな大人がこのような鉤握りをする場合には、親指F1や手の平の親指の付け根は上面7に配置すれば良く、上面7の凹み17に配置することに限らない。鉤握りの場合には、下面3の凹み25に掛けている親指以外の指F2に力を入れて手摺5を引寄せ易い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図2】図1に示す手摺を子供が使用する例を示す断面図である。
【図3】図1に示す手摺の他の使用例であり手摺を切断して示す斜視図である。
【図4】第2実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図5】第3実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図6】評価実験1で用いた手摺の断面図である。
【図7】評価実験1におけるアンケートの内容とその結果をグラフで示した図である。
【図8】評価実験1における総合評価のグラフである。
【図9】評価実験1のアンケート結果を手摺ごとにレーダチャート化した図である。
【図10】評価実験2で追加して用いた手摺の断面図である。
【図11】評価実験2におけるアンケートの内容とその結果をグラフで示した図である。
【図12】評価実験2における総合評価のグラフである。
【図13】評価実験2のアンケート結果を手摺ごとにレーダチャート化した図である。
【図14】評価実験3における手摺角度と尺側手根伸筋の筋電図との関係を示すグラフである。
【図15】評価実験4における手摺の握り幅と握力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
5 手摺
7 上面
9 一側面
11 他側面
13 下面
17 凹み(上面の凹み)
21 凹み(一側面の凹み)
25 凹み(下面の凹み)
【技術分野】
【0001】
本発明は、手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、把持する際の親指側となる一側面と小指側となる他側面側の下面の各々に長手方向に沿って凹みを設けた手摺が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3378985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の手摺は、上面が略水平になっていると共に一側面側の上下方向の厚みと他側面側の上下方向の厚みとが略同じであるから、手摺を握るときに他側面側の下面の凹みに親指以外の指先が掛かり難く、又は、親指以外の指先が掛かっている場合でも指先に力が入り難いという問題があった。特に、他側面側の厚みが厚いと、手の小さい子供等が手摺を握り難いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の目的は、親指以外の指先が掛かり易いと共に親指以外の指先に力を入れ易く、子供、お年寄りや成人、男女等の体格差に関わらず握り易い手摺を提供することである。
【0006】
請求項1に記載の発明は、幅広の断面を有し、把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて上面が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みを一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあり、一側面、及び他側面側の下面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、他側面側の上面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、手摺の幅方向中央から一側面側及び他側面側の何れか一方側にずれた位置に支柱が取付てあることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、手摺の上面の傾斜角度が20度〜45度であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、手摺の上面の幅が55mm〜65mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、上面が把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしているので、手摺を把持するときに、一側面の凹みに親指を添えて傾斜した上面に沿って手の平を置くことで、他側面側に親指以外の指をまわして他側面側の下面の凹みに親指以外の指先を掛け易く、また、下面の凹みに掛けた親指以外の指先に力を入れ易い。
下面の凹みに掛けた親指以外の指先に力を入れ易いから、例えば、登り傾斜面に手摺が設けてある場合に、容易に体を手摺に引寄せて傾斜面を登ることができる。
他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあるので、子供等の手が小さい人が手摺を握る(把持する)ときにも、下面の凹みに親指以外の指を掛け易く、体格差に関わらず容易に握ることができる。
人が手摺を握る場合には、上面が略水平であると手首を曲げて握ることになるが、本発明では、上面が一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜しているので、手首の曲げを小さくでき、手首に掛かる負担を軽減できる。
親指を一側面の凹みに添えるようにして置くことで、親指の指先が進路側を向くので、進路の方向を感じることができ、視覚障害者の歩行や暗闇での道標となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の作用効果を奏すると共に、上面の凹みに人指し指を置くことで、進む方向感を感じさせることができる。
手の小さい子供等が手摺を握る場合には、上面の凹みに親指や手の平の親指の付け根を置くことで、手の平全体を手摺の他側面側に寄せて、親指や手の平の親指の付け根と下面の凹みに掛けている親指以外の指とで手摺の他側面側を握ることができ、更に握り易い。この場合に、上面に置いた手の平を滑らすようにして或いは凹みを目印として親指や手の平の親指の付け根を上面の凹みに置くことにより、他側面側に配置した手の平を手摺の上面に安定に保持することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の作用効果を奏すると共に手摺に掛けている親指や親指以外の指が、支柱や支柱に手摺を固定している金具にぶつかり難い。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3の何れか一項に記載の作用効果を奏すると共に、手首を屈折させる筋(尺側手根伸筋)の負担を少なくでき、手掌で笠木を下向きに押し易いことから手摺を歩行補助として上から手摺に体重を預ける形での活用がし易く、身長が低い人でも手首を大きく屈曲させることがないので握り易い。また、歩行の際につまずいたりして重心をくずしたときに、手掌を素早く鉤握り(親指及び親指以外の指を手摺の下面にして手摺を包み込むようにした握りかた)に変えて体を支え易い。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4の何れか一項に記載の作用効果を奏すると共に、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで、最も握力を発揮し易いので、歩行の際につまづいたりして重心をくずしたときに、手掌を素早く鉤握りに変えて体を支え易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して本発明の第1実施の形態を説明する。図1は第1実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図であり、図2は図1に示す手摺を子供が使用する例を示す断面図であり、図3は図1に示す手摺の他の使用例であり手摺を切断して示す斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態に手摺5は、支柱3、3間に架設してあり、この手摺5は、アルミニウム合金製であり、全体として断面が幅広に形成されている。手摺5の外周は、上面7、把持する際の親指側となる一側面9、小指側となる他側面11及び下面13から構成されている。
手摺5は、一側面側の下部を支柱3に固定してあり、支柱から他側面側に突設して設けてある。手摺5全体の幅L1は、58.5mmである。
支柱3から他側面11までの距離L2は、35mmである。
他側面11の上下方向の厚みH1が一側面9の上下方向の厚みH2よりも小さくなっており、H1は約20mmであり、H2は約37mmである。
上面7は、一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜角度αで傾斜している。傾斜角度αは、約32度である。
傾斜角度αは、好ましくは20度〜45度である。20度より小さいと、尺側手根伸筋の負担が急激に大きくなるからであり、45度を越えると、手掌で笠木を下向きに押し難くなり、手摺を歩行補助として上から手摺に体重を預ける形での活用が困難になると共に、身長が低い人が手摺を握った場合に手首を大きく掌側に屈曲させることになり握り難くなるからである。また、傾斜角度αが45度を越えると、歩行の際につまずいたりして重心をくずしたときに、手掌を鉤握りに変えることが極端に困難になるからである。
上面の幅Wは、手の平を乗せる大きさであり、幅Wは約59mmである。幅Wは、好ましくは55mm〜65mmである。この範囲であれば、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで最も握力を発揮し易いためである。幅Wが55mmよりも小さくなると笠木を握る握力が急激に低下し、上面の幅Wが65mmよりも大きくなると、手掌が広がって親指に力を入れた別の握り方をするために別の筋負担が増えるので、不適切だからである。
上面7の一側面側は、半径R1の円弧で形成された凸15となっており、R1は約12mmである。
上面7の他側面側には、半径R3の円弧で形成された凹み17が形成されており、R3は約41mmである。
上面7の凸15と凹み17との間は半径R2の円弧で形成された凸19となっており、R2は約35mmである。
上面7は、上述したR1の円弧と、R2の円弧と、R3の円弧とを繋いで形成されている。
一側面9には、半径R5の円弧で形成された凹み21が形成されており、凹み21は手の親指F1を配置するもので、R5は約6mmである。この凹み21は隣接する凸15の円弧に連続している。
他側面11は半径R4の円弧で形成された凸23になっており、R4は約11mmである。
下面13には、半径R6の円弧で形成された凹み25が形成されており、凹み25には手の親指以外の指F2(人指し指、中指、薬指、小指の少なくとも一つ)が位置し、R6は約26mmである。
【0017】
次に、第1実施の形態に手摺1の作用及び効果について説明する。
図1に二点鎖線で人の手を示すように、人が手摺1の横に立って、手摺5を握るときには、斜め下に腕を伸ばして、手の平を手摺5の上面7に載せ、親指F1を一側面9の凹み21に添えて、親指以外の指F2を他側面11に当てて、下面13の凹み25に親指以外の指F2の指先を掛ける。
【0018】
第1実施の形態によれば、手摺5を握るときには、手摺1の横に立っている人が斜め上方から手摺5を握るときに、一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜した上面7に沿って手の平を置くことができ、一側面9の凹み21に親指F1を添えたときに他側面11に親指以外の指F2を当てて下面13の凹み25に指先を掛け易く、また、下面13の凹み25に掛けた親指以外の指F2の指先に力を入れ易い(効果1)。
下面13の凹み25に掛けた親指以外の指F2の指先に力を入れ易いから、例えば、登り傾斜面に沿って手摺1を設けてある場合に、体を手摺1に引寄せて容易に傾斜面を登ることができ、また、バランスを崩したり転倒しそうになっても、親指以外の指F2の指先に力を入れて体重を支え易い(効果2)。
他側面側の上下方向の厚みが一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあるので、子供等の手が小さい人が手摺5を握るときにも、下面13の凹み25に親指以外の指F2を掛け易く、体格差にかかわらず容易に把持することができる(効果3)。
手摺の横に立っている人が手摺5を握る場合には、上面が略水平であると手首を曲げて握ることになるが、本実施の形態では、上面7は一側面側から他側面側に向けて下方に傾斜しているので、手首の曲げを小さくでき、手首に掛かる負担を軽減できる(効果4)。
図1に示すように、親指F1は、一側面9の凹み21に添えるようにして置くことで、親指F1の指先が進路方向を向くので、進路方向を感じることができ、視覚障害者の歩行や暗闇での道標となる(効果5)。
手摺5は、他側面側の下面13に凹み25を形成し且つ他側面側の上面7に凹み17を形成しているので、手の小さい子供等が手摺5を把持する場合には、図2に示すように、上面7の凹み17に親指F1や手の平の親指の付け根をおいて、手の平全体を手摺5の他側面側に寄せることで、手の平の親指の付け根と下面13の凹み25に掛けている親指以外の指F2とで手摺5の他側面側を容易に握ることができる。このような握り方をする場合、上面7に凹み17を設けることにより、上面7に置いた手の平を滑らすようにして或いは凹み17を目印として親指F1や手の平の親指の付け根を凹み17に置くことにより他側面側に配置した手の平を上面13に安定に保持することができる(効果6)。
また、図3に示すように、上面7の凹み17に人指し指F2を置くと、人指し指の指先が進む方向を向くので、このような握り方でも進む方向感を感じさせることができる(効果7)。
手摺5は、断面が幅広で一側面側の下部を支柱3に固定してあり、支柱3から他側面側に突設して設けてあるので、手摺5握っている手を手摺5に添って滑らせて進んでも、下面13の凹み25に掛けている親指以外の指先が支柱3や支柱3に手摺5を固定している金具にぶつからないで済む(効果8)。
【0019】
次に、本発明の他の実施の形態を説明するが、以下に説明する他の実施の形態において、上述した第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付けてその部分の詳細な説明を省略する。
図4は第2実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。この第2実施の形態では、上面17に凹み17がなく、上面全体がR7の凸になっている点が第1実施の形態と異なる。R7は、約56mmである。尚、L1は約57mmであり、L2は約37mmである。
この第2実施の形態によれば、上述した第1実施の形態における(効果1)〜(効果5及び(効果8)と同様な効果を得ることができる。
【0020】
図5は、第3実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。この第3実施の形態では、手摺5は木製であり、手摺5の下部では一側面側と他側面側との略中間を支柱3の先端に固定していること、及び支柱3を挟む一側面側と他側面側とに各々下方に突設した脚部27a、27bを設けてあることが上述した第2実施の形態と異なる。尚、下面13の凹み25の湾曲R6を約7mmとしてあり、上述した第2実施の形態よりも小さくしている。尚、L1は約56mmであり、L2は約23mmである。
この第3実施の形態によれば、第2実施の形態と同様な効果を得ることができると共に、支柱3を挟む一側面側と他側面側とに各々下方に突設した脚部27a、27bを設けているので、手摺5を把持している手を手摺5に添って滑らせて進んでも、指先が支柱3や支柱3に手摺5を固定している金具にぶつからないで済む。
【0021】
本発明について、評価実験を行ったのでその内容及び結果を図6〜図15を参照して説明する。
(評価実験1)
評価実験1の実験方法は、図6に示す丸型、千鳥形、千鳥くぼみ型、きのこ型の4種類の型の手摺を作成し、被験者に下記課題A〜Eについて、実際に手摺を握って歩行してもらい、その時の使用感をアンケート調査した。そのアンケート結果を図7〜9に示した。
被験者は、10、20、30、40代の健常者16であり、その内、男性8名、女性8名であった。
課題A(開眼ケンケン)は、片足で手摺を使って歩行する。
課題B(連続運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って歩行する。
課題C(閉眼歩行)は、目をつぶり、手摺を使ってつたい歩きする。
課題D(閉眼運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、目をつぶり、手摺を使ってつたい歩きする。
課題E(手袋運搬)は、軍手を二枚重ねた手袋をして、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って歩きする。
【0022】
各課題A〜Eの歩行をした後、図7の左側に示す質問(Q1−1、Q1−2、Q2−1、Q2−2、Q3−1、Q4−1、Q4−2)についてアンケートを行った。アンケートは、Q1−1では、非常に体重を掛け易い、かなり体重を掛け易い、やや体重を掛け易い、どちらともいえない、やや体重を掛け難い、かなり体重を掛け難い、非常に体重を掛け難い、の7段評価に答えてもらい、各種の手摺毎にその回答の平均値をプロットしたものを図7の右側に示した。
また、アンケートでは、手摺の使い易さについて、100点満点中何点かを記載してもらったので、その総合評価点の平均値を標準偏差と共に図8に示した。
上述のアンケートの回答において、Q1−1について、非常に体重を掛け易い7点、かなり体重を掛け易い6点、やや体重を掛け易い5点、どちらともいえない4点、やや体重を掛け難い3点、かなり体重を掛け難い2点、非常に体重を掛け難い1点として数値化し、各種の手摺毎にその回答の平均値を、図9のレーダチャート(くもの巣グラフ)に示した。
【0023】
図8から明らかなように、100点満点で評価した総合評価では、千鳥型及び千鳥くぼみ型は平均点が約78点であり、丸型及びきのこ型の約40〜50点に比較して、高い評価を得ることができた。
また、図9に示すレーダチャートから明らかなように、千鳥型及び千鳥くぼみ型では、上述した各課題に対して高い得点をバランス良く得ることができた。千鳥くぼみ型は、千鳥型を基に、特に力の弱い人や手が小さい人への配慮を加えてものであるが、それにも関わらず、千鳥型に劣らない評価を健常な成人男女から受けた。更に、上記課題のQ1−2及びQ2−1では千鳥型よりも千鳥くぼみ型の方が評価が高かった。
従って、丸型、千鳥形、千鳥くぼみ型、きのこ型の4種類の型の手摺の中では、千鳥くぼみ型が最も優れていた。
【0024】
(評価実験2)
評価実験2の実験方法は、図6に示す丸型と、千鳥形と、図10に示す千鳥くぼみ型(大)と、千鳥くぼみ型(中)と、千鳥くぼみ型(小)の5種類の型の手摺を作成し、被験者に下記課題A〜Cについて、実際に手摺を握って階段を歩行してもらい、そのときの使用感をアンケート調査した。そのアンケート調査の結果を図7〜9に示した。
被験者は、60、70、80代の高齢者14であり、そのうち、男性8名、女性6名であった。被験者を高齢者としたのは、手の筋力が若年層に比べて弱いからである。また、若年者は握力がある為、笠木の大きさ(大、中、小)による握り易さ(力の入れ易さ)の評価を得難いのであるが、高齢者は笠木の大きさ(大、中、小)によって力を入れ難いという、微妙な評価がし易いためである。
【0025】
課題A−1(立上がり)は、椅子に座った状態からの手摺を使って立ち上がる。
課題A−2(上がり運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って階段を上がる。
課題A−3(側方体重移動)は、手摺を片手で持ち、手摺と反対方向へ体重を預ける。
課題A−4(下り運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、手摺を使って階段を下る。
課題B(軍手二重重ね)は、軍手を二枚重ねた手袋をして、上記課題Aを繰り返す。
課題C(閉眼運搬)は、片手に水(約10リットル)の入ったポリタンクを持ち、目をつぶり、手摺を使ったつたい歩きする。
各課題A〜Cの行った後、図11の左側に示す質問(Q1−1、Q1−2等)のアンケートを行った。アンケートは、Q1−1では、非常に体重を掛け易い、かなり体重を掛け易い、やや体重を掛け易い、どちらとも言えない、やや体重を掛け難い、かなり体重を掛け難い、非常に体重を掛け難い、の7段評価に答えてもらい、各種の手摺毎にその回答の平均値をプロットしたものを図11の右側に示した。
また、アンケートでは、手摺の使い易さについて、100点満点中何点かを記載してもらったので、その平均値と標準偏差とを計算した結果を図12に示した。
評価実験1と同様に、アンケートの回答に1点〜7点の点数を付け、各種の手摺毎にその回答の平均値を、図13のレーダチャートに示した。
【0026】
図12から明らかなように、100点満点で評価した総合評価では、千鳥くぼみ型(中)は平均点が約98点であり、千鳥くぼみ型(小)は平均点が約76点であり、丸型及千鳥型、千鳥くぼみ型(大)が約60〜65点であることから、これらの中では千鳥くぼみ型(中)及び千鳥くぼみ型(小)が、丸型、千鳥型、千鳥くぼみ型(大)よりも評価が高かった。
また、図13に示すレーダチャートから明らかなように、丸型や千鳥型や千鳥くぼみ型(大)は課題によって評価に偏りがある、千鳥くぼみ型(小)や千鳥くぼみ型(中)は共に課題による偏りが小さい。
従って、図12の総合評価と図13に示すレーダチャートの結果を考慮すると、千鳥くぼみ型(中)がこれらの中で優れていた。
【0027】
(評価実験3)
評価実験3の実験方法は、第1実施の形態に係る手摺について、傾斜角度αを、0度、10度、20度、30度、40度、50度に種々変えたときの被験者の尺側手根伸筋の筋電図を測定した。評価実験3では、被験者4名について行った。その結果を図14に示す。
【0028】
図14から明らかなように、手摺の角度αが20度より小さいと尺側手根伸筋の負担が急激に大きくなることが解かる。手摺の角度αが40度を越えると、尺側手根伸筋の負担はそれほど多くなかったが、40度を越えると手首の角度が大きくなり過ぎて手掌で手摺を下向きに押し難くなる。40度と50度との間の数値に対しては具体的に測定していないが、角度が大きくなり過ぎると手摺を下向きに押し難くなることを考慮すると45度以下が好ましい。
従って、この評価実験3から、手摺の傾斜角度αは、20度〜45度が最適の範囲であった。
【0029】
(評価実験4)
評価実験4の実験方法は、第1実施の形態に係る手摺について、傾斜角度αを30度とし、上面の幅Wを45mm、50mm、55mm、60mm、65mm、70mm、75mmに種々変えたときの被験者の握力を測定した。評価実験4では、被験者4名について行った。その結果を図15に示す。
【0030】
図15から明らかなように、何れの被験者も上面の幅Wが55mmよりも小さいと握力が低下し、4人の被験者のうち3人は上面の幅Wが60mmの握力が最大であった。また、これら3人の被験者においては、65mmを越えると握力が急激に低下した。尚、70〜75mmにおいては、握力が55mmのときより高くなっているが、これは手掌が広がって親指に力を入れた別の握り方をするためである。しかし、このような親指に力を入れた別の握り方をすると別の筋負担が増えるので、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りかたとしては不適切である。
この図15から、親指以外の指の筋力を使った通常の自然な握りで、最も握力を発揮し易い範囲は55mm〜65mmであることがわかる。
【0031】
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、手摺1は屋内に設置される階段や廊下等の通路に設置されるものであっても良く、壁から通路側に突設したブラケットに固定するものであっても良い。
第1及び第2実施の形態の手摺5は木製であっても良いし、第3実施の形態の手摺をアルミニウム合金等の金属にしても良いし、手摺5の材質は限定されない。
厚みH1、H2や、半径R1〜R6等の各数値や位置は、適宜好ましい範囲を設定でき、上述した実施の形態に限定されない。
図2に示す手摺の握り方は、子供等の手の小さい人が行うことに限らず、大人が同様に手摺5の上面7に親指F1や手の平の親指の付け根を置き、下面3の凹み25に親指以外の指F2を掛けて手摺5を握っても良い(鉤握り)。尚、子供よりも手の大きな大人がこのような鉤握りをする場合には、親指F1や手の平の親指の付け根は上面7に配置すれば良く、上面7の凹み17に配置することに限らない。鉤握りの場合には、下面3の凹み25に掛けている親指以外の指F2に力を入れて手摺5を引寄せ易い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図2】図1に示す手摺を子供が使用する例を示す断面図である。
【図3】図1に示す手摺の他の使用例であり手摺を切断して示す斜視図である。
【図4】第2実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図5】第3実施の形態に係る手摺を使用例と共に示す断面図である。
【図6】評価実験1で用いた手摺の断面図である。
【図7】評価実験1におけるアンケートの内容とその結果をグラフで示した図である。
【図8】評価実験1における総合評価のグラフである。
【図9】評価実験1のアンケート結果を手摺ごとにレーダチャート化した図である。
【図10】評価実験2で追加して用いた手摺の断面図である。
【図11】評価実験2におけるアンケートの内容とその結果をグラフで示した図である。
【図12】評価実験2における総合評価のグラフである。
【図13】評価実験2のアンケート結果を手摺ごとにレーダチャート化した図である。
【図14】評価実験3における手摺角度と尺側手根伸筋の筋電図との関係を示すグラフである。
【図15】評価実験4における手摺の握り幅と握力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
5 手摺
7 上面
9 一側面
11 他側面
13 下面
17 凹み(上面の凹み)
21 凹み(一側面の凹み)
25 凹み(下面の凹み)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅広の断面を有し、把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて上面が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みを一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあり、一側面、及び他側面側の下面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする手摺。
【請求項2】
他側面側の上面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする請求項1に記載の手摺。
【請求項3】
手摺の幅方向中央から一側面側及び他側面側の何れか一方側にずれた位置に支柱が取付てあることを特徴とする請求項1又は2に記載の手摺。
【請求項4】
手摺の上面の傾斜角度が20度〜45度であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の手摺。
【請求項5】
手摺の上面の幅が55mm〜65mmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の手摺。
【請求項1】
幅広の断面を有し、把持する際の親指側となる一側面側から小指側となる他側面側に向けて上面が下方に傾斜し且つ他側面側の上下方向の厚みを一側面側の上下方向の厚みよりも小さくしてあり、一側面、及び他側面側の下面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする手摺。
【請求項2】
他側面側の上面に長手方向に沿って凹みを設けたことを特徴とする請求項1に記載の手摺。
【請求項3】
手摺の幅方向中央から一側面側及び他側面側の何れか一方側にずれた位置に支柱が取付てあることを特徴とする請求項1又は2に記載の手摺。
【請求項4】
手摺の上面の傾斜角度が20度〜45度であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の手摺。
【請求項5】
手摺の上面の幅が55mm〜65mmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の手摺。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−138515(P2009−138515A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49398(P2008−49398)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000175560)三協立山アルミ株式会社 (529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000175560)三協立山アルミ株式会社 (529)
【Fターム(参考)】
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