説明

手書き筆跡入力システム

【課題】 従来の手書き筆跡入力システムに於いては、電子ペンに超音波信号と電磁波信号を発信するためのそれぞれの発信回路を有していたため、電力の消費が大きくなってしまい、連続使用時間が短くなってしまうなどの欠点があった。
【解決手段】 電子ペンのLC共振回路がその共振周波数の電磁波信号及び超音波信号を同時に発信すると共に、信号受信部に於いて、電磁波信号を受信したことを検出する受信回路が超音波信号を受信したことを検出する受信回路の少なくとも一つで兼用されていることで、手書き筆跡入力システムの消費電力を低減することが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも電磁波信号と超音波信号を発信する電子ペンと、前記電磁波信号と前記超音波信号を受信し、その到達時間差から電子ペンの位置座標を計算する手段とを備えた手書き筆跡入力システムであって、前記電子ペンが超音波信号と電磁波信号を共通の発信回路で同一の周波数で発信し、信号受信部で電磁波信号が超音波信号と共通の受信回路で受信されることで、構成を簡素化した手書き筆跡入力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線信号もしくは超音波信号を用いた電子ペンの位置検出技術が知られている。例えば、特開昭62−175821号公報(特許文献1参照)及び米国特許第4,814,552号明細書(特許文献2参照)などに、電子ペンから超音波信号、もしくは赤外線信号と超音波信号を発し、それらの信号を受信部で受信して、超音波信号の飛行時間を元に電子ペンの位置座標を計算する技術が開示されている。
【0003】
これらの位置検出技術を利用した手書き筆跡入力システムは、例えば以下のようなものである。筆記者は、電子ペンを用いて文字や図形を筆記する。このとき、電子ペンは例えばボールペンを内蔵し、紙のような被記録媒体を被筆記面として、被記録媒体上に筆跡が記録されるようにしてもよいし、電子ペンは例えばスタイラスを内蔵し、液晶ディスプレイの表面を含む任意の面を被筆記面としてもよい。少なくとも電子ペンのペン先が被筆記面と接触している間、電子ペンから赤外線信号と超音波信号が発信され、受信部が電子ペンから発信された赤外線信号と超音波信号とを受信して、赤外線信号の到達時刻と超音波信号の到達時刻の差から超音波信号の飛行時間を測定し、座標演算部が超音波信号の飛行時間から電子ペンの位置座標データを演算する。
【0004】
位置座標データから筆跡データへの変換は、位置座標データに、筆記者が筆記した筆跡であることに由来する運筆データといった特徴を表現する情報を付加したり、それらの特徴に基づいて個別の位置座標データに修正を加えたりする処理を指し、例えば、以下のような処理のうちの任意のものを含む。位置座標データにそれを受信した時刻に関する情報を付加する。位置座標データの取得間隔に基づいて、筆記速度を計算したり、一連の位置座標の集合を、筆記された順序及び速度を情報として含む一つのストロークデータと識別したりする。一つのストロークデータを構成する連続する位置座標データを、滑らかな線を描くように修正する。また、ストロークデータの外接矩形の抽出及び統合や筆記位置の制限などの条件に基づいて、ストロークデータを、やはり筆記された順序などの情報を含む文字グループデータにグループ分けする、などである。
手書き筆跡入力システムによって入力された筆跡データは、例えば電子機器の画面上に表示されたり、文字識別処理などを通じてコードデータ化して利用されたり、筆跡形状、運筆速度、止め、はね、はらいといった筆記特性を含む筆記者の文字の特徴の抽出、署名認証などの任意の目的に使用されたりする。また、手書き筆跡入力システム全体に電源を供給するような構成であれば、屋外での使用も可能になり大幅に利用用途が増える。また、筆跡データをワープロなどで使う文字データに変換する文字識別変換ソフトと組み合わせて使用することで、文字データと同時に、自筆による文字、絵や記号なども容易に入力することができる入力手段として注目されている。
【0005】
超音波信号の飛行時間を測る方法として前記手書き筆跡入力システムは、赤外線と超音波の空気中の伝達速度が違うことを利用して、受信部への到達時間差から超音波信号の飛行時間を計算している。この方法は、空気中で赤外線と超音波の伝達速度が大きく異なる為、超音波信号の飛行時間を計算する際に、計算上の誤差が少なくなり、電子ペンの位置を精度良く計算できるが、電子ペンや受信機には、超音波信号以外に赤外線信号の送受信を行う機構が必要である為、回路構成が複雑になり、消費電力も多くなる。
また、超音波信号の飛行時間を測る方法として、受信機に超音波受信部を3つ以上使う方法がある。これは、電子ペンから発信された超音波信号だけで、各超音波受信部に到達した時間差から超音波信号の発信した時刻を計算することができる。しかし、到達時間差が小さい為、計測誤差が大きくなり、電子ペンの位置座標の精度が悪くなってしまう。
【0006】
また、下記特許文献3には、振動ペンの振動パルス発生回路に電磁波送信用のアンテナを設け、ペン先を振動させると同時にこのアンテナから電磁波を放射し、受信機は、振動伝達板から位置座標を特定するための振動波とともに、振動を開始した時刻を知らせるための電磁波を受信し、電磁波と振動波の到達時間差から振動ペンの位置座標を計算する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−175821号公報
【特許文献2】米国特許第4,814,552号
【特許文献3】特開平9−73358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献3に記載の座標入力装置においては、振動ペンが受信機に振動を開始した時刻を知らせる方法は、ペン先を振動させたときに生じる電磁波である為、ペンに電磁波を放射する専用の回路が必要なく、赤外線信号を使った場合と比較して、ペンの構成を簡素化でき、さらにペンの消費電力も低減できる。しかし、信号受信部に於いては、電磁波と振動波をそれぞれ異なる回路によって処理するため超音波信号と赤外線信号を両方使ったシステムと比較して、受信機の内部回路などの構成は変らない。
また、振動センサへの外来ノイズは電磁波遮断材によってある程度抑えてはいるが、開口部方向の外来ノイズは抑えきれない。外来ノイズが混入しても、振動波を発信した時刻を知らせるためのスタート信号を誤って生成してしまうことを防止するために、受信機は電磁波の受信の繰り返しに合わせてロックするPLL機構を備えているが、ロックをするまでには少なくとも数回、電磁波を受信してしまうと考えられる。つまり、書き始めの数個の座標については、外来ノイズを受信してしまい、電磁波の誤検出による振動ペンの位置座標の精度低下を招く可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも、電磁波発信部と超音波発信部とを有し、前記電磁波発信部と前記超音波発信部から電磁波信号及び超音波信号を発信させる信号発信部と、筆記部と、該筆記部が筆記状態であるか否かを判別するスイッチとから成る電子ペン、並びに、少なくとも、前記電磁波信号を受信できる機能を有する一つ以上の電磁波受信部と、前記超音波信号を受信できる機能を有する二つ以上の超音波受信部と、前記電磁波信号及び前記超音波信号を受信したことを検出する受信回路とを有する信号受信部、並びに、前記電磁波信号と前記超音波信号の到達時間差から前記電子ペンと前記超音波受信部との距離を計算し、該距離を用いて前記電子ペンの位置座標データを計算する座標演算部、並びに、前記電子ペンの位置座標データを筆跡データに変換する機能を有する変換処理部とから成る手書き筆跡入力システムであって、前記電子ペンの前記超音波発信部は、少なくともコイルとピエゾ素子を有すると共に、前記コイルのインダクタンスと前記ピエゾ素子のキャパシタンスによって構成されるLC共振回路を有し、該LC共振回路の発振により、前記LC共振回路の共振周波数の電磁波信号及び超音波信号が同時に発信されると共に、前記信号受信部に於いて、前記電磁波信号を受信したことを検出する受信回路が前記超音波信号を受信したことを検出する受信回路の少なくとも一つで兼用されていることを特徴とする手書き筆跡入力システムを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の手書き筆跡入力システムにおいては、電子ペンの超音波発信部にLC共振回路を使用することで、電子ペンに電磁波を放射する専用の回路が必要なく、電子ペンを簡素化でき、消費電力を低減できる。また、電子ペンからは同一の周波数の電磁波と超音波を発信できるので、信号受信部に於いて、アンプやフィルタ回路部、コンパレータなどによって構成される受信回路部内の共通化する事ができ、信号受信部の構成を簡素化できる。したがって、本発明の手書き筆跡入力システムは消費電力が少なく、屋外など、電源のない所で使用する場合、長時間使用できる。
【0011】
また、本発明の手書き筆跡入力システムは、受信した電磁波信号と超音波信号をフィルタリングすることによって、特定の周波数成分の信号を通過させる事ができる。つまり、電磁波受信部が使用環境の外来ノイズを受信してしまっても、フィルタ回路部で電子ペンから放射された信号と外来ノイズとを正確に識別する事ができる為、外来ノイズに由来する誤検出を起こりにくくすることができる。
【0012】
電子ペンは、通常の筆記具として使用するペンと同等の大きさ、重さを有していることが理想的である。つまり、手書き筆跡入力システムにおいて、電子ペンはなるべく少ない部品構成とした方が、ペンとしての使い勝手に優れる設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に従って、本発明に係る手書き筆跡入力システムの好ましい実施の形態について詳説する。
図1は、本実施の形態になる手書き筆跡入力システムの一例を示す斜視図である。同図において、受信機2は二つの超音波受信部と一つの電磁波受信部と受信回路を有する信号受信部、電子ペンの位置座標データを計算する座標演算部、位置座標データを筆跡データに変換する変換処理部の構成要素から成る。また、受信機2は適宜の通信インタフェース5を介してコンピュータ6と接続されており、受信機2の変換処理部から電子ペン1の筆跡データをコンピュータ6に送信すると、コンピュータ6は搭載したディスプレイに筆跡を表示したり、文字認識処理したり、記憶装置に保存したりする。
【0014】
図2の電子ペンのブロック図を用いて、電子ペン1の構造について説明する。電子ペン1の基本的な構成は、超音波発生素子10により超音波信号を発信させることのできる超音波発信部11、超音波発生素子10の発振に合わせて電磁波信号を放射する機能を有する電磁波発信部12、超音波信号、電磁波信号を一定の間隔で発信できるように制御する信号発信部13、ペン先の筆記部3が被記録媒体4に接触しながら文字や図を描いたときの筆記状態と非筆記状態に対応してオン・オフするペンスイッチ14、及び携帯性、筆記のしやすさを考慮して、無線方式で使用できるようにするために電子ペン全体に電源を供給する電池15から成る。本実施の形態では、筆記部3は被記録媒体上4に直接軌跡を残すことが可能な機能を設けたが、例えば筆記部3はスタイラスを内蔵し、ディスプレイの表面などを含む任意の面を被筆記媒体としてもよい。
【0015】
また、図3に電子ペン内部の超音波発信部11及び電磁波発信部12の回路図を示す。超音波発信部11は、コイル16、昇圧用トランジスタ17、ダイオード18、抵抗19、20及び超音波発生素子であるピエゾ素子10から構成されており、電磁波発信部12の内部の電磁波信号を放射する機能を有する送信用アンテナ21に接続している。
【0016】
少なくとも、電子ペン1の筆記部3が被記録媒体4に接触して筆記状態でいる期間、ペンスイッチ14がオンになり、電磁波信号と超音波信号を発信するために2つの工程が行われる。第1の工程は、超音波発信部11の内部の昇圧用トランジスタ17をオンにし、コイル16を昇圧させる工程である。第2の工程は、第1の工程の昇圧用トランジスタ17をオフにし、コイル16に逆起電力を発生させ、この逆起電力によって、コイル16とピエゾ素子10に自己発振を起こし、ピエゾ素子10より超音波を発信させると同時に、送信用アンテナ21から電磁波を放射する工程である。次に、一定の時間後、例えば自己発振を2周期した後、再び第1の工程を繰り返すことで、コイル16とピエゾ素子10に自己発振を止める事ができ、超音波と電磁波の発信を止めることができる。上記3つの工程を実施して電磁波信号と超音波信号を発信する。
【0017】
超音波発信部11の内部のピエゾ素子10は、例えばPVDF(Polyvinylidene Fluoride)を用いる圧電素子であり、電圧を力に、または力を電圧に変換できる素子である。ピエゾ素子は、PVDFで作ったピエゾフィルムの表面及び裏面に電極を敷設したものであり、コンデンサを形成するのでキャパシタンス(静電容量)Cを持つ。従って、コイル12とピエゾ素子10によって形成した回路は、コイル12のインダクタンス(誘導係数)L及びピエゾ素子10のキャパシタンスCによって数式1のように定まる共振周波数fを持つ直列のLC共振回路になり、前記第2の工程を実施すると、共振周波数fの自己発振が励起される。
【0018】
【数1】



【0019】
一方、ピエゾ素子10の形状は円筒形であることが多い。これは、筆記者が電子ペン1をどの向きに持って使用しても、電子ペン1のピエゾ素子10は被記録媒体4上のどの方向にも一様に超音波信号を発信することが好ましいためである。この構成によって、円筒形のピエゾ素子10自身も共振周波数を持つ。このとき超音波発信部11のLC共振回路の共振周波数fは、回路の構成を調整し、ピエゾ素子10の共振周波数と可能な限り近くすることが好ましい。ピエゾ素子10の共振周波数は、ピエゾフィルムの特性、及び円筒の直径などによって定まり、超音波は周波数が低いほど距離による減衰が小さいこと、一方で周波数が高いほど座標分解能が高くなることなどを考慮して、共振周波数を決定する。電子ペンを使った手書き筆跡入力システムの場合、数十kHz程度がよく、80kHz付近は好ましく用いられる。
【0020】
前記第2の工程で、ピエゾ素子10が自己発振をしたとき、電磁波発信部12の内部の送信用アンテナ21からはピエゾ素子10の自己発振に伴い、同一の周波数の電磁波が同時に放射される。例えば、ピエゾ素子10から発信される超音波の周波数が80kHzの場合、送信用アンテナ21から放射される電磁波も80kHzで放射される。送信用アンテナ21は、電子ペン1の筐体が金属でなければ、電子ペン1の内部に導線のアンテナを設置してもよいし、電子ペン1の超音波発信部11の回路パターンとして実装したり、コイル16とピエゾ素子10を接続する回路パターンもしくは導電性ワイアによって代用して電磁波信号を発信させたてもよい。この場合、超音波発信部11が、電磁波発信部12を兼ねることになる。また、電子ペン1の筐体が金属である場合は、一部を非金属にしてその内部に送信用アンテナ21を設置するとよい。
【0021】
電子ペン1から発信された超音波信号と電磁波信号は、受信機2の超音波受信部と電磁波受信部でそれぞれ受信する。電子ペン1から超音波受信部または、電磁波受信部までは、電磁波は約3×10m/sの光速で飛行し、一方で超音波は約3.5×10m/sの音速で飛行するため、超音波信号の超音波発信部から超音波受信部までの到達時間に対して、電磁波信号の電磁波発信部から電磁波受信部までの到達時間は無視できるほど小さい。このため、測定した電磁波信号と超音波信号の到達時間の差は、電子ペンから超音波受信部までの超音波信号の到達時間として計算することができる。
【0022】
次に、図4の受信機の内部のブロック図を用いて、受信機2の構造について説明する。受信機2は、電磁波受信部30と、超音波受信部31、32と、アンプ33、37、フィルタ回路部35、コンパレータ39、からなる受信回路52と、アンプ34、38、フィルタ回路部36、コンパレータ40からなる受信回路53を有する信号受信部42と、CPU43、タイマ44、フラッシュメモリ45、RAM46から成る座標演算部47と、CPU48、RAM49からなる変換処理部50、受信機2の全体に電源を供給することができる電池51から構成されている。受信回路は、超音波受信部31、32が同時に超音波信号を受信しても処理ができるように、超音波受信部の数だけ設置した方が良い。本実施の形態では、座標演算部47と変換処理部50は、機能で分けて説明しているが、座標演算部47と変換処理部50のCPUやRAMは共通であっても良い。
【0023】
超音波受信部31、32は、電子ペン1の超音波発信部11の内部のピエゾ素子10と同様のもので構成されており、超音波発信部11から発信された超音波信号を受信するものである。電子ペン1が発信する超音波信号を遮られることなく受信できるように、受信機2に開口部を設けて配設する。
電磁波受信部30は、受信用のアンテナが配設されており、電子ペン1の電磁波発信部12から放射された電磁波信号を受信するものである。また、受信用のアンテナを使わずに、超音波受信部31または32の回路に外来ノイズ防止用のシールドをしていない場合の回路上の配線や超音波受信用のピエゾ素子自体からも電子ペンからの電磁波信号を受信することも可能である。
【0024】
電磁波受信部30と超音波受信部31、32とが独立している場合、電磁波受信部30で受信した電磁波信号はアンプ33で信号を増幅させて、フィルタ回路部35に送られる。外来ノイズを受信した場合でも、外来ノイズの部分を遮断できるようにフィルタ回路部35は、電子ペン1が発信する電磁波信号及び超音波信号と同じ周波数帯域の信号を通過させるフィルタが好ましい。例えば、電子ペンの共振周波数が80kHzの場合、80kHzの周波数をピークとする帯域通過フィルタを設計するとよい。その後、アンプ37で再び信号を増幅することによって、立ち上がりをより急峻にし、信号の先頭を正確に識別できるようにする。その後、コンパレータ39で特定の閾値以上の信号を受信したときを検出し、座標演算部47のCPU43は、コンパレータ39が信号を検出したとき、タイマ44より現在の時間を読み込み、この時間を電磁波信号の到達時間としてRAM46に保存する。本実施の形態では受信回路52で電磁波信号の信号処理を行ったが、受信回路53を介して信号処理を行っても良い。
【0025】
次に電子ペン1から発信された超音波信号を二つの超音波受信部31、32で受信して、電磁波信号と同様にアンプ33、34で信号を増幅させ、フィルタ回路部35、36で外来ノイズを除去した後、アンプ37、38にて再び信号を増幅させてコンパレータ39、40で特定の閾値以上の信号の受信を検出し、座標演算部47のCPU43は、コンパレータ39、40が信号を検出したとき、タイマ44より現在の時間を読み込み、この時間を超音波の到達時間としてRAM46に保存する。
【0026】
座標演算部47のCPU43は、RAM46に保存している電磁波受信部30における電磁波信号の到達時間と、二つの超音波受信部31、32における超音波信号の到達時間の到達時間差及び音速を用いて電子ペン1から超音波受信部までの距離を計算する。電子ペン1の位置座標は、電子ペン1と二つの超音波受信部31、32の位置を頂点とする三角形を想定して、三辺測量法の理論を用いて計算する。CPU43は、計算された電子ペン1の位置座標データを変換処理部50のRAM49に保存する。
【0027】
超音波は音響の振動であり、電磁波は電磁界振動であるので、物理的には異なる現象ではあるが、各受信部で受信した後は、電磁波、超音波ともに同一の周波数をもつ波形として計測を行うことができる。電磁波信号を超音波受信部で受信した場合、座標演算部47の電磁波信号と超音波信号の区別は、CPU43は一定期間コンパレータの検出がないときは、最初に来た信号の検出は、電磁波信号を受信したときの波形と判断する。一定期間とは、電子ペンが位置座標を知らせるために一定の周期で電磁波信号と超音波信号を発信する間隔である。例えば筆記領域の被記録媒体4が略A4サイズで、電子ペン1の信号発信部13が、超音波信号を100回/秒発信する場合には、発信の間隔は10m秒であり、超音波信号の最長飛行時間は約1m秒である。つまり、前の信号から9m秒以上離れている場合、最初に受信した信号を電磁波信号と判断する。
また、次の検出が電子ペンの電磁波信号と同じ周期の場合、例えば電子ペンの共振周波数が80kHzの場合、12.5μ秒後の検出は、同じ電磁波信号だと判断する。電磁波信号の周期以降の検出の場合、超音波信号を受信したときの信号検出だと判断して、その時の時刻を保存する。以降は電磁波信号と超音波信号を繰返して受信していると判断しても良い。例えば、前述のように、電子ペン1の発信を2周期とする場合、80kHzの超音波の波長は約4.4mmであるから、電子ペン1と超音波受信部31または32との最短検出可能距離は約10mmとなる。
【0028】
図5は、フィルタリング後の計測波形の概念図である。フィルタ回路部35で適切に外来ノイズを遮断できるので、ノイズの少ない電磁波信号と超音波信号を計測できる。つまり、この計測波形のaの部分が電磁波信号で得られた波形であり、bの部分は超音波信号から得られた波形である。また、cの時間が電磁波信号と超音波信号の到達時間差である。
【0029】
変換処理部50のCPU48は、RAM49に保存してある電子ペン1の位置座標データを座標の取得間隔に基づいて一連の集合体のストロークデータとして認識する。このストロークデータを構成する連続した位置座標データを繋げて滑らかな線を描くように修正し、筆跡データとしてコンピュータ6に送信する。本実施の形態では、コンピュータ6に接続した状態で筆記を行ったが、受信機2から通信インタフェース5とコンピュータ6を切り離して、受信機2は電池51の電力を使って、屋外などのコンピュータのないところでも使用できる。この場合、変換処理部50のRAM49には、位置座標データを残しても良いし、筆跡データに変換したものを残しても良い。受信機2を再度コンピュータ6に接続した際に、変換処理部50のCPU48は、RAM49にあるデータをコンンピュータ6に送信する。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
以下、実施例及び比較例により、本発明を説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲において、種々の変形例を含むものである。
実施例1において、図1のように配置をした手書き筆跡入力システムを使用した。ただし、電子ペン1の超音波発信部11の共振周波数は80kHzに設定し、信号発信部13の超音波信号及び電磁波信号の発信間隔は100回/秒となるように設定し、電磁波発信部12の送信用アンテナ21を設けた。また、信号受信部42での電磁波信号の受信は、受信用アンテナを使用し、フィルタ回路部35は、80kHzをピークとする帯域通過フィルタとした。受信機2とコンピュータ6は切り離し、受信機2は内部電池51の電力を使って使用した。
電子ペン1は二つの超音波受信部から均等に約200mmの位置に固定して設置し、約2秒間、電子ペンを静止した筆記状態にして、受信機2で位置座標の計測をおこなった。この動作を20回繰り返したときの座標演算部47で生成された位置座標データを評価した。このようにした結果、20回とも正確に電子ペンの位置座標を検出することができた。
【0031】
(実施例2)
図1のように配置した手書き筆跡入力システムを使用した。ただし、実施例2において、電子ペン1の電磁波発信部12の送信用アンテナ21は設けず、超音波発信部11の回路パターンから電磁波信号を発信させた。また、信号受信部42では電磁波受信部30を独立して設けず、超音波受信部31で超音波信号と電磁波信号を受信させた。
上記の実施例2のシステムを用いて、実施例1と同じテストを行った。その結果、20回とも正確に電子ペンの位置座標を検出することができ、実施例1と同等の結果を得る事が確認できた。
【0032】
(比較例)
電子ペンの超音波信号を発信したときの時刻を受信機に知らせるために赤外線を用いた。つまり、電子ペンには超音波信号の発信部だけでなく、赤外線信号の発信部を設け、受信機においても赤外線信号の受信部と受信した赤外線信号の到達時間を計測する回路を新たに設けることによって、電子ペンから発信された赤外線信号と超音波信号の到達時間差から超音波信号の飛行時間を計算して、電子ペンの位置座標を計算した。
上記の比較例のシステムを用いて、実施例1と同じテストを行った。その結果、実施例1と同等の結果を得る事ができ、正確に位置座標を検出することができたことが確認できた。
【0033】
しかし、システム全体として実施例1、実施例2と比較例の手書き筆跡入力システムの連続使用可能時間を比較すると、実施例1、実施例2では約150時間程度連続使用できたが、比較例では90時間しか連続使用できなかった。これは、1つの位置座標データを得るために実施例1、実施例2は超音波信号を1回送受信する電力を消費する事に対して、比較例では超音波信号と赤外線信号を1回づつ送受信する電力を消費する必要があることから、システム全体の電力の消費量が大きくなったためである。よって、手書き筆跡入力システムの消費電力の面からも本発明は有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】電子ペンと受信機からなる手書き筆跡入力システムの斜視図
【図2】最良の形態における電子ペンのブロック図
【図3】電子ペン内部の超音波発信部及び電磁波発信部の回路図
【図4】最良の形態における受信機のブロック図
【図5】フィルタリング後の計測波形の概念図
【符号の説明】
【0035】
1 電子ペン
2 受信機
3 筆記部
4 被記録媒体
5 通信インタフェース
6 コンピュータ
10 超音波発生素子
11 超音波発信部
12 電磁波発信部
13 信号発信部
14 ペンスイッチ
15、51 電池
16 コイル
17 昇圧用トランジスタ
18 ダイオード
19、20 抵抗
21 送信用アンテナ
30 電磁波受信部
31、32 超音波受信部
33、34、37、38 アンプ
35、36 フィルタ回路
39、40 コンパレータ
42 信号受信部
43、48 CPU
44 タイマ
45 フラッシュメモリ
46、49 RAM
47 座標演算部
50 変換処理部
52、53 受信回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、電磁波発信部と超音波発信部とを有し、前記電磁波発信部と前記超音波発信部から電磁波信号及び超音波信号を発信させる信号発信部と、筆記部と、該筆記部が筆記状態であるか否かを判別するスイッチとから成る電子ペン、並びに、少なくとも、前記電磁波信号を受信できる機能を有する一つ以上の電磁波受信部と、前記超音波信号を受信できる機能を有する二つ以上の超音波受信部と、前記電磁波信号及び前記超音波信号を受信したことを検出する受信回路とを有する信号受信部、並びに、前記電磁波信号と前記超音波信号の到達時間差から前記電子ペンと前記超音波受信部との距離を計算し、該距離を用いて前記電子ペンの位置座標データを計算する座標演算部、並びに、前記電子ペンの位置座標データを筆跡データに変換する機能を有する変換処理部とから成る手書き筆跡入力システムであって、前記電子ペンの前記超音波発信部は、少なくともコイルとピエゾ素子を有すると共に、前記コイルのインダクタンスと前記ピエゾ素子のキャパシタンスによって構成されるLC共振回路を有し、該LC共振回路の発振により、前記LC共振回路の共振周波数の電磁波信号及び超音波信号が同時に発信されると共に、前記信号受信部に於いて、前記電磁波信号を受信したことを検出する受信回路が前記超音波信号を受信したことを検出する受信回路の少なくとも一つで兼用されていることを特徴とする手書き筆跡入力システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−32127(P2009−32127A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196754(P2007−196754)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】