説明

手術室内で医療用装置に医薬コーティングを適用するキット

【課題】 個々の患者用の医療措置を臨床サイトにおいて直接カスタマイズするキットを提供する。
【解決手段】 個々の患者用の医療措置を臨床サイトにおいて直接カスタマイズするキットは、所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、ステント、およびカテーテルを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用装置塗布方法に関し、さらに詳しくは水性ラテックスポリマーエマルジョンを用いて複雑な形状または構造を有する医療用装置を浸漬塗布する方法に関する。また、本発明は、手術室において現場で、患者に使用する直前に医療用装置を塗布し、患者に最近塗布された医療用装置を用いて治療介入を患者に対して行う医療用装置塗布方法に関する。本発明は、さらに、複雑な構成または形状を有する医療用装置に水系ラテックスポリマーエマルジョンを用いて、手術室において現場で、患者に使用する直前に浸漬塗布し、患者に最近塗布された医療用装置を用いて治療介入を患者に対して行う医療用装置塗布方法に関する。なお、本願は米国特許出願第10/349,457号(2,003年1月22日出願)の一部継続出願に対応する出願である。米国特許出願第10/349,457号明細書の内容は本明細書において参照されることにより、本発明の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
ステントは一般に開いた管状構造を有するが、体腔の機能を回復する医療処置においてますます重要になっている。ステントは、現在では、心臓への十分な血流を回復する血管形成術のような管腔通過処置に普通に使用されている。しかしながら、ステントは異物反応を刺激して血栓症または再狭窄を生じることがある。これらの合併症を避けるため、種々のポリマーステントコーティングおよび組成物が文献に提案されているが、いずれもこれらまたは他の合併症の発症を低減するため、あるいは血栓溶解剤のような治療化合物を管腔に送達することにより血栓症または再狭窄を予防するためである。例えば、ヘパリンのような血栓溶解剤を含有するポリマーを塗布したステントが文献に提案されている。
【0003】
ステントは典型的には、ポリマーまたはポリマーと製薬/治療剤または医薬を用いて単純にステントを浸漬または噴霧塗布することにより、塗布される。これらの方法は、ワイヤまたはリボンから作製された開放構造をもつ初期のステントのデザインに対しては受け入れられるものであった。比較的に塗布重量が低い(約4%のポリマー)浸漬塗布は余分なコーティング架橋のような問題を生じることなくそのようなステントをうまく塗布することができた。この架橋は開放構造のより少ないより現代的なステントを塗布する際には特に問題となる。開放空間(スロット)の架橋(bridging)は望ましくないが、その理由は、架橋によりステントの機械的性能、例えば血管の管腔内に配置する際の拡張を妨げるからである。架橋部は拡張時に破壊され、隣接する血流力学環境に流動障害を生じることにより血小板の沈着を活性化するサイトを提供するか、または架橋膜片が分離してさらなる合併症を引き起こすことがある。開放スロットが架橋されても、上皮細胞の移動が阻止されることがあり、それによってステントの上皮細胞による被包が困難になることがある。この架橋の問題は多数の曲面を備えるステントのような、複雑な形状またはデザインの医療用装置では特に重大である。
【0004】
同様に、噴霧塗布は、噴霧工程中に著しい量の噴霧損失があり、かつ装置に導入しようと思う製薬剤の多くは非常に高価である点で、問題がある。加えて、ある場合には、コーティングと医薬とを多量に塗布したステントを提供することが望ましい。高濃度コーティング(ポリマー約15%に医薬を追加)は医薬の高負荷装入を達成する好ましい手段である。多重浸漬塗布が文献に、より厚いコーティングをステント上に形成する手段として記載されている。しかしながら、製薬剤の組成と層分散が該製薬剤の徐放性に影響する。加えて、低濃度溶液から多重浸漬コートを適用するとしばしば限界負荷レベルに到達する効果が生じるが、これは溶液濃度とステント上に堆積された、製薬剤を含むまたは含まない、コーティングの量とが平衡状態に達するからである。したがって、新しい改善されたステント塗布技術に対する需要が引き続き存在する。
【0005】
複雑なデザインや形状をもつステントおよび他の埋め込み式の医療用装置に関連する他の潜在的な問題は、有機系溶剤の使用である。現在、ポリマーコーティングは1種以上のポリマーを1種以上の溶剤に溶解した溶液から適用している。これらの溶剤は浸漬を繰り返して所望量のコーティングを形成することができないが、これは溶剤が前回の浸漬の際に適用されたコーティングを再溶解してしまうからである。したがって、スピンまたは噴霧塗布技術が用いられている。しかしながら、上述のように、このタイプの塗布方法は著しい量の材料の損失を生じることがある。
【0006】
有機溶剤を用いる噴霧塗布は一般に1種または複数種の溶剤中に1種または複数種のポリマーおよび1種または複数種の治療剤を溶解することを含む。ポリマー(複数種のポリマー)および治療剤(複数種の治療剤)は同時にまたは異なる時に溶解してもよい。例えば、治療剤(複数の治療剤)の貯蔵寿命が短いので、塗布直前に治療剤(複数種の治療剤)を添加するとよい。ある治療剤は有機溶剤に溶解してもよいが、他のものは有機溶剤に溶解してはならない。例えば、パラマイシンはポリ(ビニリデンフルオライド)−コ−ヘキサフルオロプロピレンと混合し、メチルエチルケトン(MEK)とジメチルアセタミド(DMAC)の混合物に溶解してステント上のコーティングとして用いて再狭窄を防止または実質的に低減してもよい。水系治療剤は有機溶剤には溶解できないことがあるが、非常に微細な粉末の形状の治療剤を有機溶剤ポリマーエマルジョン中に分散させることが可能であることがある。したがって、全てのクラスの治療剤が埋め込み式の医療用装置上への局所送達適用に使用するのに利用可能ではないであろう。
【0007】
加えて、有機溶剤は潜在的に引火性または可燃性であるため取り扱いが難しいことがある。
【0008】
したがって、医療用装置の安全で、効率がよく、経済的な塗布を広範囲のポリマーおよび治療薬、剤および/または化合物に対して可能にする塗布方法に対する需要が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、簡単に上述したように、医療用装置の塗布に伴う欠点を、浸漬塗布方法においてポリマーおよび治療薬、剤および/または化合物の水性ラテックスエマルジョンを用いることによって克服することである。
【0010】
さらに、当技術分野において周知であるように、ポリマー類および治療用医薬、剤および/または化合物を塗布した医療用装置を製造し、操作し、および使用する方法は非常に時間がかかり、労働集約的であり、コスト高である。
【0011】
ポリマー類および治療用医薬、剤および/または化合物を塗布した医療用装置を製造し、操作し、および使用する公知の方法の一例は、ステントおよびステント送達システム(SDS)、例えば、カテーテルに関する方法で見出すことができる。図3は全体を50で示す、医薬を塗布したステントおよび関連するSDSを製造し、操作し、使用する、現在公知の方法をもっともよく図示している。図示されているように、公知の方法50は多数の精緻な別々の工程を含み、全体として労働集約的であり、時間を要し、コスト高である。
【0012】
ステント製造工程52は別個の送達装置(カテーテル)の製造工程53と平行して行われる。ステント製造工程52の後続工程はステント塗布工程54である。ステント塗布工程54は通常ステントをポリマーおよび治療用医薬、剤および/または化合物で塗布することからなる。ステント塗布工程54は全体方法50において重要な工程であることが周知である。ステントが塗布された後、カテーテルとステントの双方がステントをカテーテル上に載置56するための単一の場所に一緒にもたらされてSDSを創出する。搭載工程56の後、SDSは包装58され、包装されたSDSは滅菌60される。滅菌60後、SDSは顧客に輸送62される。顧客またはエンドユーザー、すなわち、病院、カテーテル装着試験室、診療室への輸送62は、状況によって、特にSDSが患者に実際に使用される前の待機および貯蔵時間の要因がある場合、通常数日から数週間かかることがある。この場合、患者に実際に使用されるのはカテーテル装着64であり、それによりSDSが患者に使用され、医薬を塗布したステント治療が必要とされる患者の体の部位まで、ステントが血管内を送達される。
【0013】
従って、現行の方法50に関連する公知の欠点に対して取り組んだ方法はこれまでにない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一態様に従うと、本発明は医療用装置の塗布方法を対象とする。本発明の方法は、水性ラテックスポリマーエマルジョンを調製する工程、上記水性ラテックスポリマーエマルジョン中に医療用装置を浸漬する工程、上記医療用装置上の前記水性ラテックスポリマーエマルジョンを乾燥して上記医療用装置上にコーティングを形成する工程、および上記水性ラテックスポリマーエマルジョンが所定の厚みに到達するまで上記浸漬工程および乾燥工程を繰り返す工程を備える。
【0015】
一態様に従うと、本発明は医療用装置の塗布方法を対象とする。本発明の方法は、水性ラテックスポリマーエマルジョンを調製する工程、所定の疾患を治療するために上記水性ラテックスポリマーエマルジョンに治療用量の少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物を添加する工程、上記少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物を含む上記水性ラテックスポリマーエマルジョン中に前記医療用装置を浸漬する工程、上記医療用装置上の前記少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物を含む前記水性ラテックスポリマーエマルジョンを乾燥して上記医療用装置上にコーティングを形成する工程、および上記少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物を含む前記水性ラテックスポリマーエマルジョンが所定の厚みに到達するまで上記浸漬工程および乾燥工程を繰り返す工程を備える。
【0016】
治療薬、剤および/または化合物を含んでいても含んでいなくてもよい水性ラテックスポリマーエマルジョン中に医療用装置を浸漬塗布する本発明に従う方法は、単純または複雑な形状またはデザインをもつ医療用装置の安全で、効率のよい、経済的な塗布方法である。この浸漬方法は任意の数の生体適合性のポリマーから水性ラテックスポリマーエマルジョンを調製し、特定の疾患を治療することが所望であれば医薬、剤および/または化合物をこのポリマーエマルジョンに添加し、医療用装置をこの任意の医薬、剤および/または化合物を含むエマルジョンに浸漬し、このポリマーエマルジョンを上記医療用装置上で乾燥することで上記医療装置上にコーティングを形成し、所望の厚みが達成されるまで上記浸漬工程および乾燥工程を繰り返すことを含む。上記医薬、剤および/または化合物は上記エマルジョンに固体または溶液のいずれとして添加してもよい。上記医療用装置は水を蒸発させることにより、または扇風機のような乾燥装置を使用して、あるいは真空乾燥/凍結乾燥を使用して乾燥させてもよい。
【0017】
本発明に従う方法は無駄を最小限に抑える。医療用装置を噴霧塗布すると、過噴霧現象により無駄が生じる。この無駄は、特に医薬、剤および/または化合物を用いている場合は、著しい材料および金銭の損失を招く。所望のコーティング厚は水性ラテックスポリマーエマルジョンを用いる浸漬塗布方法を用いることによっても達成できる。有機系溶剤のポリマーエマルジョンでは、浸漬を繰り返すと、以前に塗布した層が溶解されてしまう。本発明の水性ラテックスポリマーエマルジョンは以前の浸漬工程の際に塗布された材料を溶解せずに多重浸漬することが可能であるため、所望の重量または厚みのコーティングが形成できる。加えて、複雑な形状またはデザインをもつ医療用装置はより効率よく塗布することができるが、これは、水性ラテックスポリマーエマルジョンは医療用装置の構造部材間の隙間に架橋することが実質的によりありそうにないからである。
【0018】
本発明の方法は安全に実施できる。水系エマルジョンは使用するのがより安全であるが、これは着火や爆発の機会が少ないからである。加えて、廃棄の観点からも本発明はより安全である。有機系溶剤ポリマーエマルジョンの廃棄は厳格な環境ガイドラインに従ってなされる必要があるが、水系ポリマーエマルジョンは廃棄がずっと容易である。
【0019】
本発明は、また、患者に医療用装置を使用する直前に臨床サイトで医療用装置のカスタマイズした塗装方法を対象とする。本発明はまた、患者に医療用装置を使用する直前に直接臨床サイトで塗布された医療用装置のコーティングおよび医薬の装填量を個々の患者に合わせてカスタマイズするキットを対象とする。本発明の一実施形態において、キットは下記成分:水系ラテックスポリマーエマルジョン;所定の症状の治療のための治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物;ステント、およびカテーテルを備える。
【0020】
本発明の上記およびその他の特長並びに利点は、添付の図面に示したような本発明の好適な実施の形態の、以下のより詳細な説明から明らかであろう。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、医療用装置の安全で、効率がよく、経済的な塗布を広範囲のポリマーおよび治療薬、剤および/または化合物に対して可能にする塗布方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
医薬/医薬の組合せの局所送達を利用して広範囲の疾患を任意の数の医療用装置を用いて処置することができる。例えば、白内障手術後に視力回復のために置かれた眼球内レンズはしばしば第2の白内障を形成するという危険を生じる。後者は往々にしてレンズ表面における細胞の過成長の結果であり、上記装置を医薬または複数種の医薬と併用することにより最小限に抑えることができる。組織の内方成長またはタンパク性物質の装置内、上および周囲への蓄積によりしばしば作動しなくなる他の医療用装置、例えば脳水腫用シャント、透析グラフト、人工肛門バッグ取付装置、耳ドレナージ管、ペースメーカー用リード線、および埋め込み式の除細動器も装置−医薬併用アプローチから利益を得ることができる。組織または器官の構造および機能を改善するのに役立つ装置も適切な剤または複数種の剤と併用すると利益を得ることができる。例えば、埋め込み式装置の安定性を向上させるために整形外科装置の骨同化(osteointegration)の改善は同装置を骨形態形成タンパク質のような剤と併用することによって達成できる可能性がある。同様に、他の外科装置、縫合糸、ステープル、吻合装置、脊椎ディスク、骨ピン、縫合固定子(suture anchors)、止血材料、クランプ、スクリュー、プレート、クリップ、血管インプラント、組織接着剤およびシーラント、組織用足場、種々のタイプの手当て用品、骨代替物、管内装置、および血管サポートもこの医薬−装置併用アプローチを用いて患者の利益を向上させることができよう。本質的には、任意のタイプの医療用装置をある仕方で医薬または医薬の組合せを用いて塗布してもよく、それにより装置または製薬剤の単独使用よりも治療が向上する。
【0023】
種々の医療用装置に加えて、これらの装置上のコーティングを用いて治療および製薬剤を送達してもよく、治療および製薬剤としては、ビンカアルカロイド類(すなわち、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビン)のような天然製品、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン類(すなわち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質類(ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシンおよびイダルビシン)、アントラサイクリン類、ミトキサントロン類、ブレオマイシン類、プリカマイシン類(ミトラマイシン)およびマイトマイシン、酵素類(L−アスパラギン酸を全身代謝し、自己のアスパラギンを合成する能力を持たない細胞を破滅させるL−アスパラギナーゼ)を含む抗増殖/抗細胞分裂剤類;G(GP)IIb/IIIa阻害剤のような抗血小板剤およびビトロネクチン受容体拮抗剤類;ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミドおよび類縁体、メルファラン、クロランブシル)、エチレンイミン類およびメチルメラミン類(ヘキサメチルメラミンおよびチオテパ)、アルキルスルホネート類−ブスルファン、ニトロソ尿素類(カルムスチン(BCNU)および類縁体、ストレプトゾシン)、トラゼン類−ダカルバジニン(DTIC)のような抗増殖/抗細胞分裂剤類;葉酸類縁体(メトトレキセート)、ピリミジン類縁体類(フルオロウラシル、フロクスウリジンおよびシタラビン)、プリン類縁体類および関連阻害剤類(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチンおよび2−クロロデオキシアデノシン{クラドリビン})のような抗増殖/抗細胞分裂抗対謝剤類;白金配位錯体類(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、マイトテイン、アミノグルテチミド;ホルモン類(すなわち、エストロゲン);抗凝集剤類(ヘパリン、合成ヘパリン塩類その他のトロンビン阻害剤類);線維素溶解剤類(例えば、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼ)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;抗移動剤;抗分泌剤(ブレベルジン);副腎皮質ステロイド類(コルチゾール、コルチゾン、フロドロコーチゾン、プレドニソン、プレドニソロン、6α−メチルプレドニソロン、トリアムシノロン、ベタメタゾンおよびデクサメタゾン)、非ステロイド剤類(サリチル酸誘導体、すなわち、アスピリン);抗炎症剤パラ−アミノフェノール誘導体、すなわちアセトミノフェン;インドールおよびインデン酢酸類(インドメタシン、スリンダックおよびエトダラック)、ヘテロアリール酢酸類(トルメチン、ジクロフェナックおよびケトロラック)、アリールプロピオン酸類(イブプロフェンおよび誘導体類)、アントラニリン酸類(メフェナミン酸およびメクロフェナミン酸)、エノール酸類(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾンおよびオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物類(オーラノフィン、オーロチオグルコース、金ナトリウムチオリンゴ酸);免疫抑制剤類(シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノレート、モフェチル);血管形成剤類:血管上皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF);アンジオテンシン受容体ブロッカー類;一酸化窒素供与体類;アンチセンス・オリゴヌクレオチド類およびそれらの組合せ;細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、および成長因子受容体信号トランスダクションカイネース阻害剤類;リテノイド類;サイクリン/CDK阻害剤;HMGコエンザイムレダクターゼ阻害剤(スタチン類);およびプロテアーゼ阻害剤類が挙げられる。
【0024】
本発明は、治療薬、剤および/または化合物を含んでいてもよいまたは含んでいなくてもよい水性ラテックス(天然ゴム、合成ゴムおよびエマルジョン重合により調製されたビニルポリマー類の安定な水性分散物を含む)ポリマーエマルジョン中に医療用装置を浸漬塗布する方法を対象とする。浸漬塗布方法を用いると、噴霧塗布方法に比べて無駄が抑えられる。また、水性ラテックスポリマーエマルジョンを使用することにより、所望のコーティング厚が達成されるまで浸漬塗布工程を繰り返すことができる。換言すると、コーティングの重量および厚みをより大幅に制御することができる。加えて、複雑な形状または構造をもつ医療用装置、例えばステントをより効率的に塗布することができるが、その理由は、水性ラテックスポリマーエマルジョンは上述のような医療用装置の構造部材間の隙間に架橋することが実質的によりありそうにないからである。
【0025】
図1を参照すると、医療用装置を塗布する方法のフロー・チャート100が示されている。浸漬方法は水性ラテックスポリマーエマルジョンを調製し102、所望により、医薬、剤および/または化合物を治療用量でこのポリマーエマルジョンに添加し104、医療用装置をこのポリマーエマルジョン中に浸漬し106、このポリマーエマルジョンを上記医療用装置上で乾燥し108、コーティングが所望の厚みであるか否かを決定し110、かつ工程106から110を所望のコーティング厚が達成されるまで繰り返すことを含む。典型的には、コーティング厚は約4マイクロメータ〜約100マイクロメータの範囲内であり、好ましくは約4マイクロメータ〜約15マイクロメータである。
【0026】
本発明に従えば、任意の数の生体適合性ポリマーを使用することができるが、例示的な水性ラテックスポリマーエマルジョンは2種類のモノマー、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとから形成される。これらのモノマーは大気圧でそれぞれ気体である。従って、重合反応器は重合工程の間、これらのモノマーが液状または液相にある約550psi〜約1800psiの範囲内の圧力に加圧される。液体状態のこれらのモノマーは水に同時添加してもよく、異なる時に添加してもよい。これらのモノマーは水に所定の重量比で添加される。モノマー対水比は約5:95〜約35:65の範囲内であり、好ましくは25:75である。
【0027】
重合は、本質的に、反応性中間体またはモノマー類からの反復構造単位を含む、通常高分子量の化合物の形成である。任意の開始剤を用いて重合工程を開始することができる。これは水系ポリマーであるため、任意の数の水溶性開始剤を使用することができ、この水溶性開始剤としては過酸化水素または部分的水溶性過酸化物およびアゾ化合物が挙げられる。この例示的な実施の形態においては、過硫酸アンモニウムが水とモノマーの混合物に開始剤として添加される。水系開始剤は重合反応器により制御された昇温温度で水に溶解することで作用してフリーラジカルを形成する。次いでこのフリーラジカルがモノマー分子と反応し、新しいフリーラジカルを創出することにより重合を開始し、次いでこの新しいフリーラジカルがモノマーまたはモノマー類が消費されるまで重合工程を継続する。
【0028】
界面活性剤は分子を懸濁状態に維持し、エマルジョンの構成成分が凝集するのを阻止する。本質的に、界面活性剤は乳化剤として作用する。界面活性剤を使用しないで重合工程実施することが可能である。界面活性剤を使用しないときは、ポリマー鎖の末端の開始剤残基が安定化剤として作用してポリマーのフロッキュレーション、すなわち凝集を阻止する。界面活性剤を使用するときは、任意の数の化合物を使用することができる。この例示的実施の形態においては、フッ素化モノマー類との相溶性があるので、フッ素化界面活性剤類、フルオラッド(Fluorad)FC−26およびゾニル(Zonyl)TBSが使用される。これら界面活性剤は、水性媒質内に重合開始用の場所として作用する、ミセルまたは界面活性剤に富む領域を形成することで作用する。ポリマー粒子が成長するにつれて、界面活性剤はポリマー粒子の外側に移動し、疎水性(水に対する親和性を欠く)端部はポリマーに付着し、親水性(水に対する強い親和性)端部は水性媒質または水中に延びている。この作用はポリマー粒子を安定化使用とするため、ポリマー粒子が衝突および凝集するのを阻止している。
【0029】
水、モノマー類、開始剤および界面活性剤類の組合せは全重合工程を通して常に撹拌される。任意の適当な手段を用いて重合反応器内でこの混合物を撹拌することができる。重合工程の持続時間は約2時間〜約20時間の範囲内である。重合工程または反応時間は、転化、開始剤濃度および温度の所望のレベルによるが、一般に約7時間である。重合反応は約75℃〜約110℃の範囲内の温度で行うことができる。反応時間の長さが最終的なポリマー中のモノマー類の比を決定している。
【0030】
ポリマーの純度を上げるには、重合反応器内に窒素ブランケットを用いる。できるだけ多くの酸素を除去して重合体に導入される酸素ができるだけ少なくなるようにするために、反応室にポンプで窒素を送る。重合反応器は約550psi〜約1800psiの圧力に加圧されていることを思い起こして、窒素ブランケットはこの圧力で使用してもよい。
【0031】
ひとたび所望の反応時間が達成されると、重合反応器の内容物を周囲温度まで冷却し、反応器の閉じたシステムを換気して大気圧にする。重合反応器を換気すると反応器および工程から窒素が除去され、かつモノマー残滓があれば除去される。モノマー残滓が存在するのはポリマーへの転換率100%を達成するのは困難であるからである。ひとたび換気が完全になされると、重合反応器は、医療用装置を塗布するのに用いることができる水性ラテックスポリマーエマルジョンを含んでいる。
【0032】
まさにこのポリ(ビニリデンフルオライド)/ヘキサフルオロプロピレン水性ラテックスポリマーエマルジョンまたは1種以上の治療薬、剤および/または化合物とポリマーエマルジョンとの混合物もしくは分散物中に医療用装置を浸漬することができる。任意の数の医薬、剤および/または化合物を治療用量でこのポリマーエマルジョンに混合または分散することができる。医薬、剤および/または化合物は固体または液体状態であってもよい。医薬、剤および/または化合物は水に溶解性であってもよく、例えばヘパリンであり、水に溶解性でなくてもよく、例えばラパマイシンであってもよい。これについては次に詳しく説明する。医薬、剤および/または化合物が水性ラテックスポリマーエマルジョンに溶解性でないならば、任意種数のよく知られた分散技術を用いることでポリマーエマルジョン中にそれらを分散させてもよい。
【0033】
上述のように、医療用装置を、医薬、剤および/または化合物を含むまたは含まない水性ラテックスポリマーエマルジョン中に浸漬する。次いで、医療用装置をポリマーエマルジョンから取り出し、水を蒸発させると、エマルジョンを形成する残りの粒子が医療用装置の表面上にコーティングを形成するが、装置の部分間の隙間には形成しない。上記のように、医療用装置の乾燥の際に扇風機、ヒーター、送風機等を用いて支援してもよい。ひとたび医療用装置が「乾燥」すると、コーティングの厚みを任意数の測定技術を用いて決定することができる。より厚いコーティングが望まれるならば、所望の厚みが達成されるまで医療用装置を繰り返し浸漬および乾燥してもよい。浸漬を継続しても、エマルジョンの水部分は医療用装置の表面で乾燥したポリマーを再溶解しない。換言すると、浸漬を繰り返しても粒子状物を水に再溶解させない。有機溶剤を使用するときは、上述のように、浸漬を繰り返すことはうまくゆかないので使用できない。
【0034】
本発明の浸漬方法はステントおよび/またはSDSを塗布するのに特に有用である。冠状血管のステンティングを用いて、バルーン血管形成術後の血管狭窄を有効に防止することができる。しかしながら、ステントが再狭窄過程の少なくとも一部分を阻止する限りにおいて、平滑筋細胞の増殖を阻止し、炎症を低減し、および凝着を低減し、あるいは平滑筋細胞の増殖を多数の機構により防止し、炎症を低減し、および凝着を低減する医薬、剤および/または化合物をステントと組合せると血管形成術後の再狭窄のもっとも有効な治療法を提供することができる。医薬、剤および/または化合物の全身的使用を同じまたは異なる種類の医薬、剤および/または化合物の局所送達と併用してもよい治療オプションを提供することができる。
【0035】
ステントからの医薬/医薬の組合せの局所送達には以下の利点がある。すなわち、ステントの足場形成作用による血管の反跳およびリモデリングの防止および新成内膜過形成または再狭窄の多重成分の防止、並びに炎症および血栓症の低減である。ステントを埋め込んだ冠状動脈へ医薬、剤および/または化合物をこのように局所投与することによっても追加の治療上の利益があるかもしれない。例えば、医薬、剤および/または化合物の高い組織中濃度が全身投与よりも局所送達を用いて達成することができる。加えて、全身投与ではなく局所送達を用いて、高い組織中濃度を維持しつつ全身的毒性の低減を達成することができる。また、全身投与ではなくステントからの局所送達を用いる際には、単一の処置で十分であるため、患者の薬剤服用遵守が改善される。併用医薬、剤および/または化合物療法の追加の利益は治療薬、剤および/または化合物のそれぞれの用量が低減し、それにより毒性を抑えられる一方、依然として再狭窄、炎症および血栓症の低減が達成されることである。局所ステント埋め込み療法はしたがって抗再狭窄、抗炎症、抗血栓症薬、剤および/または化合物の治療比(効率/毒性)を改善する手段である。
【0036】
本発明に従えば、経皮的管腔通過冠状血管形成術後に用いることができる多数の異なるステントを用いることができるが、説明を簡単にするために、本発明の例示的実施の形態においては、1つのステントを記載する。技術に習熟した者は任意の数の材料から構成された任意の数のステントを用いてもよいことが分かるであろう。加えて、上述のように、他の医療用装置を用いてもよい。
【0037】
ステントは管の内腔内部に残されて閉塞症を取り除く環状構造として普通に使用されている。通常、ステントは非拡張形態で内腔内に挿入され、次いで自動的に、または現場の第2の装置の助けで拡張される。典型的な拡張方法はカテーテルを搭載した血管形成バルーンを用いて行われ、このバルーンは狭窄を起こした血管内または体内通路内で膨張して血管壁の成分と関連した閉塞を剥ぎ取り、崩壊させて、拡大された内腔を得る。
【0038】
図2は本発明の一例示的実施の形態に従って使用することができる例示ステント200を示す。拡張可能な円筒状ステント200は血管、導管または内腔内に置かれて血管、導管または内腔を開いた状態に保持し、さらに詳しくは血管形成術後に動脈セグメントを再狭窄から保護するための有窓構造を備える。ステント200は円周方向に拡張され、拡張された形状に維持され、円周方向または半径方向に堅い。ステント200は軸線方向に柔軟であり、バンドにおいて曲げられたとき、ステント200には部品部分が外側に突出することがない。
【0039】
ステント200は一般に第1の端部および第2の端部とそれらの間に中間部とを備える。ステント200は縦軸を有し、複数の縦方向に配置されたバンド202を備え、各バンド202は縦軸に平行な線分に沿う一般に連続的な波を描いている。複数の円周方向に配置されたリンク204はバンド202を実質的に環状の構造に維持している。本質的には、それぞれ館に配置されたバンド202が複数の周期的位置において隣のバンド202に短い、円周方向に配置されたリンク204により結合されている。バンド202のそれぞれに関連する波は中間部においてはほぼ同じ基本的空間周波数を有し、バンド202はそれらバンドに関連する波が一般的に相互に位相が一致するように全体的に整列されている。図に示したように、それぞれ縦に配置されたバンド202は隣のバンド202に対するリンクが現れる前にほぼ2サイクル波打っている。
【0040】
ステント200は任意の数の方法を用いて作製することができる。例えば、中空または成形ステンレス鋼から作製され、レーザー、放電フライス、化学エッチングその他の手段により加工することができる。ステント200は非拡張形態で体内の所望の部位に挿入・配置される。一つの例示的実施の形態において、拡張は血管内でバルーンカテーテルにより行われ、ステント200の最終的直径は使用するバルーンカテーテルの直径の関数である。
【0041】
本発明に従うステント200は、例えば適当なニッケル・チタン合金またはステンレス鋼を始めとする形状記憶材料で実施してもよい。ステンレス鋼から形成した構造は所定の方法でステンレス鋼を形状決定することにより、例えばステンレス鋼を捩じってブレード付き形状にすることにより、自動拡張性にしてもよい。この実施の形態では、ステント200が成形された後、血管その他の組織内に挿入手段により挿入することが可能になるように十分小さいスペースを占めるように圧縮してもよく、その際挿入手段としては適当なカテーテルまたは可撓性ロッドが挙げられる。カテーテルから出現する際、ステント200は所望の形状に拡張するように形状を決定するもよく、その際拡張は自動的であるか、または圧力、温度または電気的刺激により引き金を引かれる。
【0042】
本発明は、また、上述の水系ラテックスポリマーエマルジョンおよび治療用量の、任意の数の医薬、剤および/または化合物を、臨床環境、すなわち、病院、手術室、臨床またはカテーテル試験検査室等において現場で、患者に治療用処置を施すために患者に使用する前に直接ステント200および/またはカテーテル300(図4)に適用する方法を含む。本明細書において定義されるように、「臨床サイト」という用語は病院、手術室、臨床またはカテーテル試験検査室等のような患者の治療のための任意の場所を意味し、これらの用語はすべて同じ意味を持ち、本明細書の目的に対して一貫して互換的に使用することができる。
【0043】
図4はカテーテル300に装荷されたステント200としてSDSを示す。図4に示すように、カテーテル300は遠位端310を有しその末端は遠位先端315となっている。カテーテル300は遠位先端315に延びている内部スリーブ320を有する。拡張可能部材330、例えば膨張可能バルーンが、カテーテル300の遠位端310において、内部スリーブ320に固定されている。当技術分野においてよく理解されているように、拡張可能部材330は、例えば液圧または気圧流体で膨張させることにより、拡張され、つぶれたまたは閉じた形状から開いた、または拡張された形状まで拡張可能である。ステント200は、図4にもっともよく示されているように、ステント200を拡張可能部材330と内部スリーブ320の上にかぶせて閉じることにより、カテーテル300の遠位端310に固定され、それにより、SDSを形成する。拡張可能部材330は任意的な特長であり、自己拡張材料からなるステント200用のSDSの一部を構成するものではない。
【0044】
ステント200は、それにより、患者のカテーテル装着および展開配備が望まれるまで、カテーテル300に固定される。ポリプロピレンのようなポリマー材料製の外装340をカテーテルの遠位端310のカバーとして用いられ、ステント200をカテーテルの遠位端310に固定するための保護の追加の形として機能している。カバー340はカテーテルの遠位端に移動可能に配置され、または遠位端310から移動可能に配置され、上述の両保護を提供するとともに、ステント200をその所望の位置に位置決めする際にステント200が妨げられずに展開されるようにしている。取外し可能カバー340もSDSの任意的特長であり、バルーンにより拡張可能なステントであるステント200については必要ではない。
【0045】
ステント200および送達装置(カテーテル(図4にSDSとして示す))は、臨床環境、すなわち、病院、手術室、臨床またはカテーテル装着試験室等において現場で、患者に治療処置を施すために患者に使用する直前に、上述の水性ラテックスポリマーエマルジョン並びに治療用量の任意数の医薬、剤および/または化合物で塗布することができる。
【0046】
ラパマイシンは著しく再狭窄を低減することが示された。ラパマイシンは、米国特許第3,929,992号公報明細書に記載されているようにストレプトマイセス・ヒグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)により産生された大環状トリエン抗生物質である。とりわけラパマイシンは血管の平滑筋細胞の増殖をインビボで阻害することが見いだされている。したがって、哺乳類における内膜性平滑筋細胞過形成、再狭窄、および血管閉塞、特に生物学的または機械的に媒介された障害の後、あるいは哺乳類をそのような血管障害を受け易くする条件下で処置する際に、ラパマイシンを使用してもよい。ラパマイシンは平滑筋細胞の増殖を阻害する作用をするが、血管壁の再内皮細胞化に影響を与えない。
【0047】
ラパマイシンは、血管形成術により誘発された障害の間に放出される細胞分裂シグナルに応答して平滑筋増殖に拮抗することにより血管過形成を低減する。細胞周期のG1相における成長因子およびサイトカイン媒介平滑筋増殖の阻害はラパマイシンの作用の主要なメカニズムであると考えられている。しかしながら、ラパマイシンはまた全身投与するとT−細胞の増殖および分化を阻止することが知られている。これがラパマイシンの免疫抑制活性および移植拒絶反応阻止能力の基礎である。
【0048】
本明細書において使用されているように、ラパマイシンはラパマイシンとその全ての類縁体、誘導体およびFKBP12に結合する同種のもの、および他のイムノフィリン(immunophilins)類を含み、TORの阻害を含むラパマイシンと同じ薬理学的効果を有する。
【0049】
ラパマイシンの抗増殖効果は全身的使用により達成することができるが、化合物の局所送達によりよりすぐれた結果が達成される。本質的には、ラパマイシンはこの化合物の近傍の組織中で作用し、送達装置からの距離が増加するにつれて効果が低下する。この効果を利用するために、ラパマイシンを管腔壁と直接接触させることが望まれるであろう。そこで、好適な実施の形態においては、ラパマイシンをステントまたはその部分の表面上に導入する。本質的に、ラパマイシンは望ましくは図2に示すステント200内に導入し、その際ステント200は管腔壁と接触する。
【0050】
ラパマイシンは多くの方法によりステント上にまたはステントに添えて導入することができる。この例示的実施の形態において、ラパマイシンはポリマーマトリックス中に直接導入され、ステント200および/またはその上にステント200を装荷した、カテーテル300の遠位端310は、上述の方法を用いて浸漬塗布される。ラパマイシンは時間をかけてポリマーマトリックスから溶出し、周囲の組織内に入る。ラパマイシンは好ましくはステント上に少なくとも3日間ないし約6カ月まで、好ましくは7日間〜30日間残留する。
【0051】
上述のように、医療用装置の構造部材間の開放空間を横切る膜形成または架橋は浸漬塗布方法においては特に重大である。複雑な形状または構造は架橋し易い。例えば、ステントデザインに曲線があると膜の形成を促進し易い。ステントの解放空間における膜形成は問題を引き起こす可能性があり、これには組織の内方成長およびステントの拡張の際の塞栓(embolic)を引き起こす物質の放出の阻止が挙げられる。水は表面張力が高いので容易に架橋膜を形成しない。従って、本発明の水性ラテックスポリマーエマルジョンは浸漬塗布工程において架橋膜を形成することは著しくありそうにない。
【0052】
さらに、本発明に従う医療用装置塗布方法は、また、患者の治療の臨床サイトにおいて直接行われるカスタマイズ塗布方法に特に有用である。図5にもっともよく示されるように、本発明の方法は、全体を90で示され、未塗布の医療用装置、本例の場合はSDSの標準的製造工程92を含む。未塗布SDSの標準的製造工程92の後、SDSを顧客に対して直接臨床サイトに輸送94され、それにより医師や看護士が塗布厚および治療薬の装填量を先に概略を示した方法100を用いて医師や看護士の裁量に従ってカスタマイズする。塗布方法100は、SDSを用いた患者への介入、すなわち、カテーテル装着および医薬を塗布したステント200および/またはSDSを患者に対して治療として使用する直前に臨床サイトにおいて行われる。図5に概略を示す本発明の方法については、本発明に従う、水系ラテックスポリマーエマルジョンと、1種以上の治療薬、剤および/または化合物の混合物または分散物とは、使用前は、別個にまたは一緒に、滅菌形式で維持されるのが好ましい。任意数の治療用量の医薬、剤および/または化合物をこのポリマーエマルジョンに混合または分散させることができる。
【0053】
図5に示す患者に合わせてカスタマイズした塗布方法は、臨床サイトで患者に使用される直前に、例えば取外し可能なカバー340をカテーテル300から取り外すことによって、ステント200がカテーテル300から取り外され、分離されたステント200を図1に図示し、概略を上述した浸漬塗布方法により塗布することで、ステント200のみに使用することができる。さらに、カテーテル300のカバー340を撤退させ、コーティングをカテーテル300の遠位端310においてステント200に塗布液を、所望の塗膜厚さになるように、かつ医師の裁量による医薬装填量になるように、適用することにより、SDS自体を本発明に従う浸漬塗布方法で塗布することが可能である。医薬の装填は、任意の受容可能な方法により、例えばステントおよび/またはカテーテルの重量を本発明の浸漬塗布工程の前後で測定することにより、または滅菌医薬とポリマーの組み合わせを含有する(使い捨て)カプセルの重量を直接このカプセル内でステント200および/またはカテーテル300を浸漬塗布する直前直後に測定することにより、調節することが可能である。場合によっては、カテーテル300の遠位端310全体を浸漬塗布して、絵に先端315、遠位端310およびステント200を同じ塗布工程で浸漬塗布することも望ましい。さらに、医師が拡張可能な部材(バルーン)330をステント200なしに浸漬塗布して、この塗布されたバルーン330のみを用いて患者に治療措置を提供して、医薬および/または医薬とポリマーの組み合わせを措置すべき容器壁に送達するのも望ましい。
【0054】
本発明は、また、医療用装置およびその部品を含むシステムに、臨床環境で、すなわち、病院、手術室、臨床またはカテーテル装着試験室等の現場で、患者の治療措置のために患者に使用する直前に、上述の水系ラテックスポリマーエマルジョンと、治療用量の、任意数の医薬、剤および/または化合物とを含む塗布液を用いた塗布をカスタマイズするキットを対象とする。ラパマイシンは現場で患者に合わせてカスタマイズした本発明の塗布キットに特に有用な医薬の一つである。
【0055】
本発明のカスタマイズされたキットは下記の成分:水系ラテックスポリマーエマルジョン、ステント200、ステント送達システムまたはカテーテル300の1種以上を備える。本発明のキットは、医師や看護士が塗布液の量およびキットの1種以上の成分における医薬の装填量とをカスタマイズして、個々の患者の特定の治療上の需要に適合させることを可能にする。
【0056】
図示し説明したのは最も実際的かつ好適な実施の形態であると考えられるものであるけれども、ここに説明され図示された特定のデザインおよび方法からの逸脱も技術に習熟した者におのずと示唆され、本発明の精神および範囲を逸脱することなく使用することができることは明らかである。本発明は上記および図示された特定の構造に限定されず、本発明の範囲内に入る全ての変更と密接に関連している。
【0057】
本発明の好適な実施の形態の例は次の通りであるが、本発明はこれらの例示に限定されない。
(1)水系ラテックスポリマーエマルジョン、および
医療用装置
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
(2)前記医療用装置はステントを含む実施態様1に記載のキット。
(3)前記医療用装置はステント送達システムを含む実施態様1に記載のキット。
(4)前記医療用装置はカテーテルを含む実施態様1に記載のキット。
(5)水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、および
医療用装置
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
【0058】
(6)前記医療用装置はステントを含む実施態様5に記載のキット。
(7)前記医療用装置はステント送達システムを含む実施態様5に記載のキット。
(8)前記医療用装置はカテーテルを含む実施態様5に記載のキット。
(9)水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、および
ステント
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
(10)さらにカテーテルを含む実施態様9に記載のキット。
(11)水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、
ステント、および
カテーテル
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に従う医療用装置の塗布方法のフロー・チャートである。
【図2】拡張前のステント(終端は示さない)の長さ方向の説明図であり、ステントの外表面および特徴的な象眼パターンを示す。
【図3】従来技術のステント送達システムの製造、操作および使用方法のフロー・チャートである。
【図4】本発明に従う臨床サイトにおけるカスタマイズ塗布方法とともに使用するステント送達システムの部分的斜視図である。
【図5】本発明に従う、臨床サイトにおけるステント送達システムのカスタマイズ塗布方法を含む、ステント送達システムのような医療用装置の製造、操作および使用方法のフロー・チャートである。
【符号の説明】
【0060】
50 公知のステント製造、操作および使用方法
52 ステント製造
53 送達装置製造
54 ステント塗布
56 ステント搭載
58 包装
60 滅菌
62 輸送
90 医療用装置塗布方法
92 標準的製造
94 輸送
100 フロー・チャート
102 調製工程
104 添加工程
106 浸漬工程
108 乾燥工程
110 厚み決定工程
200 ステント
202 バンド
204 リンク
300 カテーテル
310 遠位端
315 遠位先端
320 内部スリーブ
330 拡張可能部材(バルーン)
340 (取外し可能)カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系ラテックスポリマーエマルジョン、および
医療用装置
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
【請求項2】
前記医療用装置はステントを含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記医療用装置はステント送達システムを含む請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記医療用装置はカテーテルを含む請求項1に記載のキット。
【請求項5】
水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、および
医療用装置
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
【請求項6】
前記医療用装置はステントを含む請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記医療用装置はステント送達システムを含む請求項5に記載のキット。
【請求項8】
前記医療用装置はカテーテルを含む請求項5に記載のキット。
【請求項9】
水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、および
ステント
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。
【請求項10】
さらにカテーテルを含む請求項9に記載のキット。
【請求項11】
水系ラテックスポリマーエマルジョン、
所定の症状を治療するための、治療用量の、少なくとも1種の医薬、剤および/または化合物、
ステント、および
カテーテル
を備える個々の患者用の医療措置をカスタマイズするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−51364(P2006−51364A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−232176(P2005−232176)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(597041828)コーディス・コーポレイション (206)
【氏名又は名称原語表記】Cordis Corporation
【Fターム(参考)】