説明

打ち抜き金型及びその研削方法

【課題】長時間繰り返される打ち抜き加工において、ダイの貫通孔における側圧付与部の内壁に対する抜き片の食い付きが、良好に維持される打ち抜き金型及びその研削方法を提供する。
【解決手段】側圧付与部及びテーパー状孔部を備える貫通孔を有する打ち抜き金型のダイを一対の半割型で形成した。その一対の半割型のそれぞれにおいて、側圧付与予定部3の内壁3bを、上下方向の研削痕44のみが形成された仕上げ研削面とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンチとダイとにより金属板を抜き加工する打ち抜き金型に係り、特にはダイに形成された貫通孔の内壁の耐摩耗性が向上すると共に、貫通孔の開口縁に欠けが発生し難い打ち抜き金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄板状の金属板に孔を穿設するために、パンチとダイとよりなる打ち抜き金型が用いられている。例えば、図7に示すように、打ち抜き金型により、金属板30に長円孔31が打ち抜かれる。この打ち抜きに際し、図8に示すように、金属板30が、ダイホルダー35に固定されたダイ34のワーク載置面34a上に載置される。そして、金属板30は、ストリッパー36で押さえ付けて固定されると共に、パンチ33により長円孔31が打ち抜かれる。ダイ34に形成された貫通孔38は、上部の側圧付与部39と下部のテーパー状孔部40とを備えている。この側圧付与部39に抜き片32が蓄積される。そして、所定数以上の抜き片32が打ち抜かれた時、最下部の抜き片32が、図9に示すように下方に落下してダイ34から排出される。
【0003】
このように、打ち抜かれた抜き片32は、排出されるまでダイ34の貫通孔38に蓄積される。ところが、抜き片32は、側圧付与部39の内壁に対する食い付き力が不足すると、ダイ34の上方へ飛び出すことがある。この「カス上がり」とも称される抜き片32の上方への飛び出しを防止するために種々提案がなされている。
【0004】
特許文献1に開示されている「打ち抜き加工機」では、ポンチ端面に付着した潤滑剤により、抜き片がダイの貫通孔から上方へ引き抜かれることを防止する。この引き抜き防止のために、ポンチ端面に、臨界表面張力50dyn/cm以下の物質からなる被覆を施している。この被覆により、ポンチ端面に潤滑剤が付着しないようになっている。
【0005】
特許文献2に開示されている「カス上がり防止金型及びその加工方法」は、リードフレームを製作するための打ち抜き金型である。この金型においては、ダイ内面の局部に砥石を押し付けることにより溝を加工している。そして、その溝周辺の隆起により、ダイ内面は、凹凸形状を有する粗さに仕上げられる。この凹凸形状により、ダイ内面に対する抜き片の食い付きが良くなって、カス上がりが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−238358号公報
【特許文献2】特開平09−314247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図8に示すように、パンチ33の先端に刃部33aが形成されると共に、その内側が凹部33bとなっているような場合には、潤滑剤の付着によるカス上がりは起き難い。このため、このパンチ33においては、特許文献1の表面張力に係る処理は不要である。
【0008】
抜き片の食い付きを良くするための特許文献2の凹凸形状部分は磨耗し易い。従って、定期的な溝加工が必要となるので、メンテナンスコストが嵩むことになる。
一般的に行われる打ち抜き加工として、図8、9を用いて説明した金型は、ダイ34の側圧付与部39の内壁の寸法精度と面粗度とを所定範囲に仕上げている。これにより、側圧付与部39の内壁に対する抜き片32の食い付きを良くしている。このため、図10及び図11に示すように、冶具研削盤のように精密研削が可能な研削盤を用いて、側圧付与部39の内壁を研削している。この研削は、回転する砥石41をワーク載置面34aに沿う方向の矢印42方向に移動させて行われる。
【0009】
この側圧付与部39に対する研削においては、図12に示すように、砥石41の移動方向に沿って筋状の研削痕43が出現する。この研削痕43が、パンチ33の抜き方向37において連続する凹凸形状となるため、凹凸の凸形状部分は、抜き片32の外周部の圧接移動により磨耗され易い。そして、磨耗した側圧付与部39は内径が大きくなる。この結果、側圧付与部39の内壁に対する抜き片32の食い付きが悪くなるので、抜き片32のパンチ33側への飛び出しが起きる。
【0010】
また、研削痕43をホーニング加工等によって取り除き、側圧付与部39の内壁を、より凹凸の少ない面とすることも行われる。これにより、所定の寸法精度と面粗度とが得られるので、磨耗量を低減することができると共に、側圧付与部39の内壁に対する抜き片32の食い付きを維持できる。しかし、加工コストが嵩む問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、長時間繰り返される打ち抜き加工において、ダイの貫通孔における側圧付与部の内壁に対する抜き片の食い付きが、良好に維持される打ち抜き金型及びその研削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するために請求項1に記載の打ち抜き金型の発明は、パンチと、そのパンチの挿通を許容する貫通孔が形成された一対の半割型よりなるダイとにより金属板を抜き加工する打ち抜き金型において、前記貫通孔に備えられ、抜き加工された抜き片を蓄積するための側圧付与部の内壁に、前記パンチの抜き方向に沿う方向のみの研削痕が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成によれば、ダイの貫通孔における側圧付与部の内壁を、パンチの抜き方向に沿う方向のみの研削痕が形成された研削仕上げ面とした。このため、パンチの抜き方向に直交する方向の研削痕が形成された場合と異なり、側圧付与部の内壁の磨耗が進み難い。このため、側圧付与部の内壁に対する抜き片の食い付き力を長時間維持することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の打ち抜き金型において、前記貫通孔は、前記側圧付与部と共に、前記抜き片を排出するためのテーパー状孔部を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項3に記載の打ち抜き金型の研削方法の発明は、請求項1に記載の打ち抜き金型の研削方法であって、前記一対の半割型のそれぞれの貫通孔予定部の内壁を、前記パンチの抜き方向に直交する方向の回転軸を有すると共に、回転しながら前記抜き方向に沿って移動する円盤状の砥石の外周面により仕上げ研削することを特徴とするものである。
【0016】
上記構成によれば、パンチの抜き方向に直交する方向の回転軸を有すると共に、回転しながら抜き方向に沿って移動する円盤状の砥石により、一対の半割型のそれぞれの貫通孔予定部の内壁を研削仕上げするようにした。このため、貫通孔予定部の内壁には、パンチの抜き方向に沿う方向のみの研削痕が形成される。従って、一対の半割型を用いてダイを形成した時、そのダイの側圧付与部の内壁における磨耗の進行を遅らせることができる。また、ホーニング加工による側圧付与部の内壁の仕上げを省くことができるので、加工コスト削減が可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の打ち抜き金型の研削方法において、前記半割型は、水平移動可能及び回動可能な加工テーブル上に固定されると共に、前記砥石と半割型の内壁とが非接触状態にある時、前記加工テーブルの水平移動及び回動と共に移動されて、前記砥石による研削位置がずらされることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダイの貫通孔における側圧付与部の内壁を、パンチの抜き方向に沿う方向のみの研削痕が形成された研削仕上げ面としたので、パンチの抜き方向に直交する方向の研削痕が形成された場合と異なり、側圧付与部の内壁の磨耗が進み難い。従って、側圧付与部の内壁に対する抜き片の食い付き力を長時間維持することが可能な打ち抜き金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態における一対の半割型よりなる打ち抜き金型を示す斜視図。
【図2】半割型を示す斜視図。
【図3】図1におけるA−A矢視断面図。
【図4】半割型の研削の態様を示す一部断面図。
【図5】(a)〜(c)の順に姿勢を変える半割型に対する研削の態様を示す平面図。
【図6】貫通孔予定部における研削軌跡を示す正面図。
【図7】打ち抜かれたワークを示す平面図。
【図8】従来技術の打ち抜き型によりワークが打ち抜かれる寸前の態様を示す断面図。
【図9】上記打ち抜き型によりワークが打ち抜かれた態様を示す断面図。
【図10】従来技術のダイの側圧付与部の研削の態様を示す平面図。
【図11】図10のB−B矢視断面図。
【図12】研削面を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜6を用いて説明する。なお、従来技術と同一の構成については、その説明において用いた同一の符号を用いるものとする。
【0021】
図1〜3に示すように、本実施形態の打ち抜き金型のダイ1は、一対の半割型1a、1bを、それぞれの合接面5で合接した上で、ダイホルダー35の設置部35aに設置して用いられる。設置されたダイ1の平面視長円状の貫通孔38は、側圧付与部39とテーパー状孔部40とを備えている。
【0022】
半割型1aは、互いに平行な上面6aと下面7aとを有する直方体であり、半割型1bは、互いに平行な上面6bと下面7bとを有する直方体である。一対の半割型1a、1bのそれぞれは、長手方向の1側面側に、貫通孔予定部2としての側圧付与予定部3とテーパー状孔予定部4とを備える。それぞれの側圧付与予定部3が対向配置されて側圧付与部39となり、それぞれのテーパー状孔予定部4が対向配置されてテーパー状孔部40となる。また、下面7a、7bは、パンチ33の抜き方向37に直交する面である。
【0023】
そして、側圧付与予定部3の内壁3bには、抜き方向37に沿う方向のみの研削痕44が形成されている。この研削痕44は、図2の拡大図において理解を容易とするために筋状に描かれているが、実際は肉眼では視認不能な痕である。本実施形態における研削痕44が形成された面は、中心線の平均粗さ(Ra)が0.2a以下である。
【0024】
図4に示すように、研削加工においては、半割型1aは、水平移動可能且つ垂直な回動軸を中心に回動可能な加工テーブル10上のマグネットチャック11に固定されている。また、半割型1aに対する研削加工を施す砥石12は、上下方向に及び砥石12に対する前後方向に移動可能に図示しない機体に支持されている。このような構成により、三次元曲面を有する貫通孔38を形成するために、半割型1aの側圧付与予定部3及びテーパー状孔予定部4に対するコンタリング研削が施される。
【0025】
そして、半割型1aの内壁3b及びテーパー状孔予定部4の内壁4bに対する研削加工は、抜き方向37に直交する方向の回転軸12a(図5参照)を有すると共に、抜き方向37に沿って回転しながら移動する円盤状の砥石12の外周面によって行われる。即ち、図4に示すように、内壁3bを研削する位置にある砥石12の中心位置C1から、内壁4bを研削する位置にある砥石12の中心位置C2への移動は、抜き方向37を含む平面に沿っている。
【0026】
また、図5(a)に示すように、回転する砥石12は、紙面に垂直な方向の(抜き方向37を含む)平面に沿って移動し、側圧付与予定部3の端部内壁3a及びテーパー状孔予定部4の端部内壁4aを研削する。そして、砥石12による研削の1行程が終了した時、砥石12の先端部12bと端部内壁3a、4aとは非接触状態となる。この非接触状態において、半割型1aは、時計方向に回動すると共に水平方向に移動して、先端部12bによる次の研削行程の開始位置に位置合わせされる。
【0027】
このように、端部内壁3a及び端部内壁4aの研削と、半割型1aの回動等による研削位置の移動とが繰り返されて、半割型1aの一方の端部の内壁の研削が行われる。そして、図5(a)〜(c)に示すように、一方の端部から他方の端部へ研削行程の位置を変えながら、半割型1aに対する研削加工が行われる。即ち、図6に示すように、砥石12の先端部12bと端部内壁3a、4aとが非接触状態にある時に、先端部12bは、半割型1aの回動等により、相対的に横方向の進路S2を辿って次の研削開始位置へと移動する。そして、研削に際しては、砥石12の移動に伴い、先端部12bは、縦方向の進路S1を辿って移動する。従って、側圧付与予定部3の端部内壁3aを含む内壁3bには、図2に示したように、抜き方向37に沿う方向の研削痕44のみが形成される。
【0028】
この研削痕44の場合は、図12に示した研削痕43のように、パンチ33の抜き方向37において、凹凸形状が連続するために磨耗され易い従来技術の場合と異なり、抜き片32の外周部が圧接移動することによる磨耗量が少ない。従って、ダイ1の貫通孔38の一部を構成する側圧付与部39の内壁は、抜き片32の外周部が圧接状態で繰り返し通過しても磨耗し難くい。このため、本実施形態のダイ1は、従来技術のダイ34に比べて、抜き片32の側圧付与部39に対する食い付き状態を、良好に保つことができる時間を長くすることができる。即ち、打ち抜き金型の寿命を延ばすことができる。側圧付与部39の開口縁における欠けが発生し難くなるので、更に打ち抜き金型の寿命を延ばすことができる。
【0029】
なお、上記実施形態の研削加工では、半割型1aについて述べたが、半割型1bに対する研削加工も同様に行われる。
また、本実施形態においては、側圧付与予定部3とテーパー状孔予定部4とのそれぞれの内壁を1行程として連続して研削するようにしたが、側圧付与予定部3の内壁のみを、縦方向の進路S1を辿るように仕上げ研削するようにしてもよい。そして、テーパー状孔予定部4の内壁を、任意の方向に移動する砥石12により適宜粗さの仕上げ面となるように研削した場合、仕上げ研削に係る加工時間を短縮することができる。
【0030】
従って、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、ダイ1の貫通孔38の一部を構成する側圧付与部39の内壁を、パンチ33の抜き方向37に沿う方向の研削痕44のみが形成された仕上げ研削面であるようにした。このため、側圧付与部39に対して抜き片32の外周部が圧接状態で通過することによる磨耗量を減少させることができる。また、側圧付与部39の開口縁における欠けが発生し難くなる。従って、打ち抜き金型の寿命を延ばすことができる。
【0031】
(2)上記実施形態では、側圧付与部39の内壁を、パンチ33の抜き方向37に沿う方向の研削痕44のみが形成されるように研削すると共に、研削面における中心線の平均粗さ(Ra)が0.2a以下となるように精密研削した。このため、抜き方向37を横切る方向に形成された研削痕43をホーニング加工等により除去する場合と異なり、側圧付与部39内壁の仕上げ加工コストを低減することができる。
【0032】
(3)上記実施形態では、ダイ1を一対の半割型1a、1bにより構成した。そして、それぞれの半割型1a、1bにおける、側圧付与予定部3とテーパー状孔予定部4との内壁をコンタリング研削により仕上げるようにした。このため、任意の形状の三次元曲面を有する貫通孔38を備えたダイ1を、容易に形成することができる。
【0033】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 一対の半割型1a、1bの形状を対象形状としたが、非対称形状とすること。
【0034】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について、それらの効果と共に以下に記載する。
(イ)前記側圧付与部の内壁は、研削加工により仕上げされた中心線の平均粗さ(Ra)が0.2a以下である研削面であることを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き金型。このように構成した場合、ホーニング加工により研削痕を除去する必要がないので、加工工数を低減することができる。
(ロ)前記貫通孔は、コンタリング加工により研削された三次元曲面を有することを特徴とする請求項1又は(イ)に記載の打ち抜き金型。このように構成した場合、任意の形状の三次元曲面を有する貫通孔を備えたダイを容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1,34…ダイ、1a,1b…半割型、2…貫通孔予定部、3b,4b…内壁、10…加工テーブル、12…砥石、12a…回転軸、32…抜き片、33…パンチ、37…抜き方向、38…貫通孔、39…側圧付与部、40…テーパー状孔部、43,44…研削痕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチと、そのパンチの挿通を許容する貫通孔が形成された一対の半割型よりなるダイとにより金属板を抜き加工する打ち抜き金型において、前記貫通孔に備えられ、抜き加工された抜き片を蓄積するための側圧付与部の内壁に、前記パンチの抜き方向に沿う方向のみの研削痕が形成されていることを特徴とする打ち抜き金型。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記側圧付与部と共に、前記抜き片を排出するためのテーパー状孔部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の打ち抜き金型。
【請求項3】
請求項1に記載の打ち抜き金型の研削方法であって、前記一対の半割型のそれぞれの貫通孔予定部の内壁を、前記パンチの抜き方向に直交する方向の回転軸を有すると共に、回転しながら前記抜き方向に沿って移動する円盤状の砥石の外周面により仕上げ研削することを特徴とする打ち抜き金型の研削方法。
【請求項4】
前記半割型は、水平移動可能及び回動可能な加工テーブル上に固定されると共に、前記砥石と半割型の内壁とが非接触状態にある時、前記加工テーブルの水平移動及び回動と共に移動されて、前記砥石による研削位置がずらされることを特徴とする請求項3に記載の打ち抜き金型の研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−235320(P2011−235320A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109373(P2010−109373)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000150604)株式会社ナガセインテグレックス (35)
【Fターム(参考)】